(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
スマートフォン等の携帯通信機の基地局などで用いられる高周波フィルタは、高性能化又は小型化のために、高い誘電率の誘電体を用いた誘電体共振器を有する場合が少なくない。誘電体共振器は、誘電体を特定の大きさと形状にすることにより、それらと誘電率によって定まる所望の周波数で共振させることができる。
【0003】
誘電体共振器としては、人工誘電体を用いたもの(人工誘電体共振器)が提案されている。人工誘電体は、多数の導体の集合から成るものである。この人工誘電体は、電界を印加したとき導体において電荷が移動して(分極電流が流れて)分極することで誘電体として振る舞い、その電荷の多さと移動距離の大きさにより、導体の大きさや形状に応じて高い等価的な誘電率を得ることが出来る。その結果、人工誘電体共振器は、小型化が実現できる。なお、人工誘電体は、各導体の保持のため、何らかの母材中にそれらが配置される。母材は、低い誘電体損(tanδ)のものが用いられる。
【0004】
例えば、特許文献1には、複数個の導体片(金属ストリップ)を長手方向に配列した第1系列のもの及び第2系列のものを有し、第1系列の導体片と第2系列の導体片とは互いに間隙を跨ぐように厚さ方向に近接して配置されている人工誘電体とそれを用いた人工誘電体共振器が開示されている。
【0005】
また、非特許文献1には、導体片の長手方向の中央部分の幅を狭めてダンベル形状とした人工誘電体とそれを用いた人工誘電体共振器が開示されている。人工誘電体は、一般に、磁界に反応して流れる誘導電流より損失が生じることになる。ダンベル形状の人工誘電体は、導体片の面積を狭め隣接する導体片間の距離を長くすることで磁界への導体片の影響を小さくし、それにより磁界の集中を抑制できる。そうすることによって誘導電流の最大値を下げ、それにより、誘導電流による損失を低減させることが可能である。その結果、人工誘電体共振器のQ値を高くすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係る人工誘電体の単位セルを示すもので、(a)が正面図、(b)が右側面図、(c)が背面図、(d)がA−A線で切断した断面図である。
【
図2】同上の人工誘電体の複数の単位セルの位置関係を示す右側面図である。
【
図3】同上の人工誘電体の人工誘電体共振器の一例を示す正面図である。
【
図4】同上の人工誘電体の人工誘電体共振器であって
図3に示したものの中で一列を成す複数の単位セルを示す右側面図であり、(a)は例えば右端の一列のもの、(b)は例えば右端から2番目の一列のものである。
【
図5】同上の人工誘電体の人工誘電体共振器の
図3に示す例との比較のための人工誘電体共振器を示す正面図である。
【
図6】同上の人工誘電体の人工誘電体共振器の
図3に示す例との比較のための人工誘電体共振器を示すものであって、(a)が単位セルの正面図、(b)が複数の単位セルの位置関係を示す右側面図、(c)が
図5に示したものの中で例えば右端の一列を成す複数の単位セルを示す右側面図であり、(d)が
図5に示したものの中で例えば右端から2番目の一列を成す複数の単位セルを示す右側面図である。
【
図7】同上の人工誘電体の人工誘電体共振器の磁界の様子を示す図である。
【
図8】同上の人工誘電体の人工誘電体共振器の他の例を示す正面図である。
【
図9】同上の人工誘電体の人工誘電体共振器の
図8に示す例との比較のための比較例である。
【
図10】同上の人工誘電体の人工誘電体共振器の
図8に示す例との比較のための別の比較例である。
【
図11】同上の人工誘電体の人工誘電体共振器の
図8、
図9、
図10に示す例における無負荷Q値の特性を示すグラフである。
【
図12】同上の人工誘電体の単位セルの他の変形例を示すもので、(a)が背面図、(b)が右側面図、(c)が複数の単位セルの位置関係を示す右側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。本発明の実施形態に係る人工誘電体1は、単位セル2を複数個含むものである。単位セル2は、
図1(a)、(b)、(c)、(d)に示すように、線路導体3と容量電極導体4と接続導体5とを有する。
【0016】
線路導体3は、平面上に形成された細長いものである。一般には、線路導体3は、薄板状の金属ストリップであり、そのアスペクト比が大きい(長手方向に長い)ものである。線路導体3の金属ストリップは、通常、多層構造の母材6(例えば、樹脂多層基板やLTCC(低温同時焼成セラミック)基板などの積層基板)(
図1(a)〜(d)では図示せず)中の一つの金属層(例えば、銅の層)の1個のパターンとして形成される。
【0017】
線路導体3の幅w2は、後述する容量電極導体4の幅w1よりも狭くしている。後述する接続導体5との接続等のために、線路導体3の両端部近傍の幅を少し広くすることも可能である。
【0018】
容量電極導体4は、線路導体3の両端部(
図1(a)〜(d)においては上端部と下端部)において厚さ方向(
図1(b)においては左右方向)の両側に配置されている。つまり、単位セル2は、計4個の容量電極導体4を有している。
【0019】
また、容量電極導体4は、
図2に示すように、他の単位セル2の容量電極導体4と厚さ方向に対向するように配置され得る。それにより、容量電極導体4は、他の単位セル2の容量電極導体4との間に、容量電極導体4のサイズ及びそれらの間の距離に応じて、大きな容量値を生じさせることができる。容量電極導体4は、通常、薄板状の金属ストリップである。容量電極導体4の金属ストリップは、母材6中の線路導体3の金属ストリップの金属層とは異なる層の金属層(例えば、銅の層)の1個のパターンとして形成される。なお、容量電極導体4は、少なくとも1個が他の単位セル2の容量電極導体4と対向しており、人工誘電体1における単位セル2の位置によっては、4個の容量電極導体4の全てについて他の単位セル2の容量電極導体4に対向しているものも有るし、1個だけが他の単位セル2の容量電極導体4に対向しているものも有り得る(後述する
図4(a)、(b)参照)。
【0020】
接続導体5は、線路導体3と容量電極導体4とを接続する導体である。接続導体5は、通常、多層構造の母材6において所定径のビアホールを容量電極導体4の中心部から線路導体3の間に形成しておき、導体(例えば、銅などの金属)を埋め込むことによって、容量電極導体4の形成前の工程又はその形成と同じ工程で形成される。
【0021】
以上説明した構成の単位セル2は、様々な配列が可能であり、それにより様々な特性の人工誘電体1を形成することが可能である。例えば、
図3及び
図4(a)、(b)に示すように配列することが可能である。
図3及び
図4(a)、(b)に示す人工誘電体1は、20列であり、それぞれの列において、単位セル2の容量電極導体4が他の単位セル2の容量電極導体4と、
図2に示したように厚さ方向に対向するようにして、一列に配列している。各一列において厚さ方向に6個の単位セル2が、容量電極導体4の位置において、重なっている。なお、
図3及び
図4(a)、(b)においては、人工誘電体1の両端部に配置される単位セル2は、線路導体3の途中で切れた形状であり、上側のものを符号2’、下側のものを符号2’’で示している。
【0022】
人工誘電体1は、印加された電界によって単位セル2の中の電荷が移動し、線路導体3の一方の端部に配置された容量電極導体4に正の電荷又は負の電荷、線路導体3の他方の端部に配置された容量電極導体4に負の電荷又は正の電荷が集まる。この状態が、単位セル2が分極を起こした状態であり、これら集まった正の電荷と負の電荷は、単位セル2内で電気双極子を構成する。電気双極子における電荷の量と分極距離とを乗じて得られる双極子モーメントが大きいほど、高い誘電率を得ることが出来る。単位セル2の容量電極導体4は、他の単位セル2の容量電極導体4との間に大きな容量値を生じさせることができるので、多くの電荷が集まり、双極子モーメントが大きくなり、高い(人工誘電体の中においても高い)誘電率が得られる。
【0023】
人工誘電体1は、それが形成されていない母材6の部材を含めて、人工誘電体共振器7を形成することができる。
【0024】
図3のように直線状に単位セル2を配列した人工誘電体1は、その直線の方向に印加された電界に対して高い誘電率を示す。それにより、
図3に示す人工誘電体共振器7は、電磁界の電界成分が単位セル2を配列した直線方向のモードで共振するようにすると、高い誘電率での共振モードとすることができる。なお、環状など他の形状に単位セル2を配列した人工誘電体1(及び人工誘電体共振器7)の場合でも、同様にして高い誘電率での共振モードとすることができる。
【0025】
上記の単位セル2を配列した人工誘電体1は、以下に説明するように、損失を低減することができる。
【0026】
人工誘電体1は、単位セル2の線路導体3と他の単位セル2の線路導体3との間の厚さ方向の距離を大きくすることができる(
図2及び
図4(a)、(b)参照)。そうすると、単位セル2の線路導体3と他の単位セル2の線路導体3との間は水平方向又は水平方向に近い磁界が通り易くなり、単位セル2の影響による磁界の集中が抑制される。また、線路導体3の幅w2が狭いのでその平面(表面及び裏面)に垂直な又は垂直に近い磁界に対しても単位セル2の影響による磁界の集中が抑制される。このように磁界の集中が抑制されることにより、磁界に反応して流れる誘導電流の最大値が下がり、誘導電流による損失を低減させることができる。その結果、人工誘電体共振器7のQ値を高くすることができる。
【0027】
また、下記の表1は、人工誘電体共振器7と
図5で示す比較のための人工誘電体共振器10について、シミュレーションを行った結果の共振周波数、誘電体損(tanδ)を0.001にしたときの無負荷Qの値及び共振周波数の平方根で割って規格化した無負荷Qの値、誘電体損を0にしたときの無負荷Qの値及び規格化した無負荷Qの値、を示すものである。人工誘電体共振器10は、
図6(a)で示す単位セル9を
図6(b)、(c)、(d)で示すようにして複数個配列した人工誘電体8により形成されている。単位セル9は、薄板状の金属ストリップである。人工誘電体共振器10は、特許文献1に開示されたものとは、直線状、環状の違いを除いて、同様の構造である。なお、
図5においては、人工誘電体8の両端部に配置される単位セル9は途中で切れた形状であり、上側のものを符号9’、下側のものを符号9’’で示している。
【0029】
表1より、人工誘電体共振器7の無負荷Qの値(及び規格化した無負荷Qの値)は、人工誘電体共振器10のものより明らかに高く、しかも、誘電体損を0とした時にその差が広がっている。このことより、単位セル2を複数個配列した人工誘電体1により形成された人工誘電体共振器7では、磁界に反応して流れる誘導電流による損失が低減されていることが確認できる。
【0030】
なお、シミュレーションの条件は、単位セル2の長さhhが5.8mm、容量電極導体4の長さh1と幅w1がともに0.8mm、線路導体3の幅w2が0.3mm、各金属層(線路導体3など)の厚さtが18μm、線路導体3と容量電極導体4の間の距離d1が127μm、接続導体5の直径が0.2mmである(
図1参照)。単位セル2の容量電極導体4と他の単位セル2の容量電極導体4の間の距離d2が127μmである(
図2参照)。単位セル2の1列と隣接する1列との平面上の距離ssが0.2mm、母材6の長さHと幅Wがそれぞれ20mm、30mmである(
図3参照)。母材6の比誘電率が2.19である。また、比較の人工誘電体共振器10の人工誘電体8の単位セル9の長さhhが2.3mmであり、その他については、人工誘電体共振器7と同じ符号のものは上記と同じ値である。
【0031】
次に、人工誘電体共振器における人工誘電体1での損失の更なる低減について説明する。
【0032】
図3のように直線状に単位セル2を配列した人工誘電体1を用いた人工誘電体共振器7は、詳細には、共振モードがTMモードであり、単位セル2の配列方向に沿う電界を周回するように磁界が存在する(
図7参照)。また、人工誘電体1の中央付近に電界が集中する。従って、単位セル2の平面(表面又は裏面)における垂直な磁界成分は人工誘電体1の縁部に近づくほど増加する傾向になり、磁界の方向は斜めになる。なお、
図7は、人工誘電体1において単位セル2の配列方向に垂直な断面で、線路導体3のみが存在する部分を切断した右半分における磁界の様子をシミュレーションによって示した図である。ただし、ここでは、磁界の様子の傾向が分かり易いように、線路導体3の幅w2が容量電極導体の幅w1と等しくなるように拡げて0.8mmとしたもの(後述する単位セル2Aと同様なもの)を用いており、単位セル2の配列が8列のもの(従って図示は4列)を用いている。
図7中の直線の線分は、各単位セル2の線路導体3を示している。また、矢印の大きさは、磁界の大きさを示している。
【0033】
図8に示す人工誘電体共振器7Aの人工誘電体1は、その縁部近傍領域1a(詳細には、両側の縁部近傍の5列)に
図1に示した形状の単位セル2を用いている。一方、人工誘電体共振器7Aの人工誘電体1の中央部近傍領域1b(詳細には、中央部近傍の10列)では、単位セル2を変形して線路導体3の幅w2を広げて容量電極導体4の幅w1と等しくした単位セル2Aを用いている。なお、人工誘電体共振器7A(及び後述する7B、7C)における単位セル2又は単位セル2Aの線路導体3は、
図3で示したものよりも長くしている。また、
図8(及び
図9、
図10)においては、人工誘電体1の両端部に配置される単位セル2(又は2A)は、線路導体3の途中で切れた形状であり、上側のものを符号2’(又は2A’)、下側のものを符号2’’(又は2A’’)で示している。
【0034】
人工誘電体共振器7Aの人工誘電体1の縁部近傍領域1aは、共振モードにおいて磁界のエネルギーが大きい(電界のエネルギーと比べて大きい)領域である。ここでは、上述した人工誘電体共振器7と同様にして、磁界の集中を抑制することにより、磁界に反応して流れる誘導電流の最大値(詳細には、最も縁部の線路導体3に流れる周回電流の値)を下げ、誘導電流による損失を低減させることができる。
【0035】
人工誘電体共振器7Aの人工誘電体1の中央部近傍領域1bは、共振モードにおいて電界のエネルギーが大きい(磁界のエネルギーと比べて大きい)領域である。従って、中央部近傍領域1bでは、縁部近傍領域7Aaに比べて、周回電流による損失は大きくはない。その一方、線路導体3の幅が狭いほど、誘電体として振る舞う上での電荷の移動に伴う分極電流による損失が大きくなる。線路導体3の幅が広いほど等価的な抵抗値が下がって損失が減少するので、人工誘電体共振器7Aの人工誘電体1の中央部近傍領域1bの単位セル2Aは、縁部近傍領域1aの単位セル2よりも線路導体3の幅を広くしている。
【0036】
図9に示す人工誘電体共振器7Bは、人工誘電体共振器7Aとの比較のために、
図8に示した人工誘電体共振器7Aの人工誘電体1の縁部近傍領域1aの単位セル2を全て単位セル2Aに置き換えたものである。
図10に示す人工誘電体共振器7Bは、同じく比較のために、
図8に示した人工誘電体共振器7Aの人工誘電体1の中央部近傍領域1bの単位セル2Aを全て単位セル2に置き換えたものである。
【0037】
図11は、上記の人工誘電体共振器7Bから人工誘電体共振器7Aへ、人工誘電体共振器7Aから人工誘電体共振器7Cへ、段階的に単位セル2Aと単位セル2を置き換えていったときの規格化した無負荷Qの値のシミュレーションによる特性グラフである。縦軸は、規格化された無負荷Qの値であり、横軸は、0が人工誘電体共振器7Bのときであり、0.5が人工誘電体共振器7Aのときであり、1が人工誘電体共振器7Cときである。
図11より、人工誘電体共振器7Aは、人工誘電体1の損失が最も低減されていることが分かる。人工誘電体共振器7Aの人工誘電体1における単位セル2又は単位セル2Aの具体的な寸法や数などは、人工誘電体共振器7Aが用いられる条件に合わせて、適宜最適化を行うのが好ましい。また、人工誘電体共振器7B又は人工誘電体共振器7Cも、適宜最適化を行い、その特性が求められる基準内であれば、使用可能である。
【0038】
なお、シミュレーションの条件は、上述した人工誘電体共振器7についての場合と多くは同じであるが、単位セル2(及び2A)の長さhhが10.8mm、単位セル2の線路導体3の幅w2が0.4mmである。
【0039】
以上、本発明の実施形態に係る人工誘電体について説明したが、本発明は、上述の実施形態に記載したものに限られることなく、特許請求の範囲に記載する事項の範囲内でのさまざまな設計変更が可能である。例えば、母材6の中の金属層の数を少なくするなどの理由により、単位セル2を変形して、
図12に示すように、容量電極導体4が線路導体3の一方の端部のみにおいて厚さ方向に片側のみに配置されるようにすることも可能である。この場合、各層間の距離は一定になり、また、容量電極導体4は、他の単位セル2の線路導体3と厚さ方向に対向することになる。その他、容量電極導体4の数は種々に変更可能である。