特許第6868913号(P6868913)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6868913マイクロニードルパッチ用のベース組成物及びこのベース組成物を含むマイクロニードルパッチ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6868913
(24)【登録日】2021年4月15日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】マイクロニードルパッチ用のベース組成物及びこのベース組成物を含むマイクロニードルパッチ
(51)【国際特許分類】
   C08L 1/26 20060101AFI20210426BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20210426BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20210426BHJP
   A61K 8/81 20060101ALI20210426BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20210426BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20210426BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20210426BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20210426BHJP
   C08L 39/06 20060101ALI20210426BHJP
   C08L 31/04 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   C08L1/26
   A61K8/02
   A61K8/73
   A61K8/81
   A61Q19/00
   A61K47/32
   A61K47/38
   A61K9/70
   C08L39/06
   C08L31/04 B
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-228368(P2019-228368)
(22)【出願日】2019年12月18日
(65)【公開番号】特開2021-17543(P2021-17543A)
(43)【公開日】2021年2月15日
【審査請求日】2019年12月18日
(31)【優先権主張番号】108125602
(32)【優先日】2019年7月19日
(33)【優先権主張国】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】519452046
【氏名又は名称】怡定興科技股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(72)【発明者】
【氏名】劉 大佼
(72)【発明者】
【氏名】葉 修鋒
(72)【発明者】
【氏名】林 玉晟
(72)【発明者】
【氏名】陳 允萱
(72)【発明者】
【氏名】林 宏星
【審査官】 岸 智之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−172160(JP,A)
【文献】 特開2000−297102(JP,A)
【文献】 特表2010−525109(JP,A)
【文献】 特開平05−221854(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/26
A61K 8/02
A61K 8/73
A61K 8/81
A61K 9/70
A61K 47/32
A61K 47/38
A61Q 19/00
C08L 31/04
C08L 39/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ヒドロキシプロピルメチルセルロースと、第2ヒドロキシプロピルメチルセルロースと、ポリビニルピロリドン/酢酸ビニル共重合体と、水とを含むベース溶液であって
上記ベース溶液の総重量基準で、上記第1ヒドロキシプロピルメチルセルロース及び上記第2ヒドロキシプロピルメチルセルロースの総量が、0.1重量%以上3重量%以下であり、上記第1ヒドロキシプロピルメチルセルロースの上記第2ヒドロキシプロピルメチルセルロースに対する重量比が、1:0.1以上1:1.2以下であり、上記ポリビニルピロリドン/酢酸ビニル共重合体の量が、0.25重量%以上2重量%以下であり、
上記第1ヒドロキシプロピルメチルセルロースの粘度が、400センチポアズ以上10,000センチポアズ以下であり、上記第2ヒドロキシプロピルメチルセルロースの粘度が、1センチポアズ以上100センチポアズ以下であり、上記ベース溶液の粘度が、1センチポアズ以上200,000センチポアズ以下であり、上記ベース溶液の表面張力が、25dyne/cm以上50dyne/cm以下であり、
上記ベース溶液の固形分が、0.35重量%以上60重量%以下であるベース溶液
【請求項2】
上記第1ヒドロキシプロピルメチルセルロース及び上記第2ヒドロキシプロピルメチルセルロースの総量が、0.2重量%以上2.5重量%以下である請求項1に記載のベース溶液
【請求項3】
上記第1ヒドロキシプロピルメチルセルロースの上記第2ヒドロキシプロピルメチルセルロースに対する重量比が、1:0.2以上1:1以下である請求項1又は請求項2に記載のベース溶液
【請求項4】
上記第1ヒドロキシプロピルメチルセルロースの粘度が、1,000センチポアズ以上8,000センチポアズ以下であり、上記第2ヒドロキシプロピルメチルセルロースの粘度が、2センチポアズ以上50センチポアズ以下である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のベース溶液
【請求項5】
上記ベース溶液が、上記第1ヒドロキシプロピルメチルセルロースと、上記第2ヒドロキシプロピルメチルセルロースと、上記ポリビニルピロリドン/酢酸ビニル共重合体と、水とからなる請求項1から請求項のいずれか1項に記載のベース溶液
【請求項6】
複数のマイクロニードル構造を備えるマイクロニードルパッチであって、各マイクロニードル構造が、ベース及びこのベースに形成される針先を有し、上記ベースが、請求項1から請求項のいずれか1項に記載のベース溶液から作られるマイクロニードルパッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベース組成物及びマイクロニードルパッチに関し、より詳しくは、化粧、医療、ワクチン及び監視分野に利用可能なベース組成物及びマイクロニードルパッチに関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロニードルパッチは、近年積極的に開発が進んでいる無痛の注射システムである。マイクロニードルパッチの基材は、複数のミクロンレベルのマイクロニードル構造により覆われている。これらのマイクロニードル構造は、皮膚の角質層を穿孔することができ、かつ表皮の下の神経系統に達しないため、痛みを伴うことなく表皮に有効成分を送り、放出することができる。マイクロニードルパッチを使用して有効成分を投与することで、経口投与又は皮下注射に存在する多くの問題を解決するだけでなく、マイクロニードルパッチは、脂溶性及び水溶性のいずれの成分の放出にも使用できるため、各種有効成分を直接表皮に送り、その後マイクロニードルパッチのマイクロニードル構造を通じ、各種有効成分を放出できる。
【0003】
従来のマクロニードルパッチは、固体マイクロニードルパッチ、コーティング型マイクロニードルパッチ、中空型マイクロニードルパッチ及び溶解性マイクロニードルパッチに分類できる。
【0004】
固体マイクロニードルパッチは、金属、セラミック又はシリコン等の材料から実質的に製造される。固体マイクロニードルパッチは、十分な機械強度を有するが、破損したマクロニードルが体内に残ると副作用が生じる可能性がある。従って、固体マイクロニードルパッチは現在あまり使われていない。コーティング型マクロニードルパッチ、中空型マイクロニードルパッチ及び溶解性マイクロニードルパッチの多くは、高分子材料から作られる。上記各種マイクロニードルパッチのマイクロニードルの原材料として、造膜性及び機械強度のどちらにも優れるポリビニルアルコール(PVA)が通常使用される。しかし、PVAには製造、使用及び保管のプロセスで多くの問題がある。
【0005】
具体的には、マイクロニードルパッチの作製における乾燥及び離型工程において、乾燥度合いが十分でないと、スムーズに離型ができない。一方で、一定の度合いまで乾燥が行われると、マイクロニードルが離型中に破損する傾向がある。これは、乾燥後のマイクロニードルのベースが硬脆であることに起因し、これにより使用時にマイクロニードルパッチが破損し、皮膚接着性が不足しやすくなる。そのため、マイクロニードルパッチの針先すべてを確実に皮膚の角質層に穿孔させることが難しい。特に、吸湿性が過多なPVA製のマイクロニードルパッチには、保管が難しい、保管期間が短い等、さらにいくつものデメリットがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】中国特許出願公開明細書第107412943号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記に基づき、本発明の目的は、従来のマイクロニードルパッチを製造、使用及び保管するプロセスに存在する上述の問題を解決するため、優位性のあるマイクロニードルパッチを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明は、第1ヒドロキシプロピルメチルセルロース(第1HPMC)と、第2ヒドロキシプロピルメチルセルロース(第2HPMC)と、ポリビニルピロリドン/酢酸ビニル共重合体(PVP/VA)とを含むマイクロニードルパッチ用のベース組成物を提供する。第1HPMCの粘度は、第2HPMCの粘度より大きい。ベース組成物全体の総重量基準で、第1HPMC及び第2HPMCの総量は、0.1重量パーセント(重量%)以上3重量%以下であり、第1HPMCの第2HPMCに対する重量比は、1:0.1以上1:1.2以下であり、PVP/VAの量は、0.25重量%以上2重量%以下である。
【0009】
適量の第1HPMC、第2HPMC及びPVP/VAを組み合わせて使用することで、ベース組成物から作られるベースを有するマイクロニードルパッチは、製造、使用及び保管の段階で次の効果を有する。
【0010】
(1)製造段階では、上記マイクロニードルパッチのベースを所望の通り必要限度まで乾燥し、スムーズに離型し、離型中に起こるベースの破損を防ぐことができる。
【0011】
(2)使用段階では、マイクロニードルパッチのベースが、ベースが破損しやすいという過去の問題を克服するための十分な支えを提供できるだけでなく、良好な柔軟性、平坦性、可撓性及び皮膚接着性を有することで、マイクロニードルパッチの各針先が確実に皮膚の角質層を穿孔できる。
【0012】
(3)保管段階では、マイクロニードルパッチのベースの吸湿性が小さいので、保管が難しいという問題を克服でき、保管期間を長期化できる。
【0013】
本発明によれば、上記第1HPMC、第2HPMC及びPVP/VAは、溶解性又は膨潤性材料である。より具体的には、これら2つのHPMC及びPVP/VAは、生体適合性材料又は生分解性材料であってよい。
【0014】
本発明によれば、上記第1HPMC及び第2HPMCの粘度は、第1HPMC又は第2HPMCをそれぞれ水に溶かして配合した2%の水溶液中で、温度20℃で計測される。この計測条件は、本書内において、単に@20℃、2%水溶液と示されることがある。
【0015】
20℃、2%水溶液で計測する第1HPMCの粘度は、好ましくは400センチポアズ(cP)以上10,000cP以下であり、より好ましくは1,000cP以上8,000cP以下であり、さらに好ましくは1,500cP以上6,000cP以下であり、さらに好ましくは2,000cP以上5,000以下であり、さらに好ましくは3,000cP以上4,500cP以下である。20℃、2%水溶液で計測する第2HPMCの粘度は、好ましくは1cP以上100cP以下であり、より好ましくは2cP以上50cP以下であり、さらに好ましくは2cP以上30cP以下であり、さらに好ましくは3cP以上20cP以下である。
【0016】
ベース組成物全体の総重量基準で、第1HPMC及び第2HPMCの総量は、好ましくは0.2重量%以上2.5重量%以下であり、より好ましくは0.2重量%以上2重量%以下であり、さらに好ましくは0.5重量%以上1.5重量%以下である。
【0017】
第1HPMCの第2HPMCに対する重量比は、好ましくは1:0.2以上1:1.1以下であり、より好ましくは1:0.2以上1:0.8以下であり、さらに好ましくは1:0.3以上1:0.7以下である。
【0018】
ベース組成物全体の総重量基準で、PVP/VAの量は、好ましくは0.3重量%以上2重量%以下であり、より好ましくは0.5重量%以上2重量%以下である。
【0019】
本発明によると、ベース組成物は、第1HPMC、第2HPMC及びPVP/VAを溶剤(例えば水)に溶かすことで形成される混合物でよい。なお、この溶剤は本書中でベース溶液ともいう。
【0020】
実施形態の一つによると、ベース溶液は、第1HPMC、第2HPMC、PVP/VA及び水からなる。
【0021】
ベース組成物の固形分は、好ましくは0.35重量%以上60重量%以下であり、これはベース組成物に40重量%以上99.65重量%以下の水が含有していることを示している。
【0022】
ベース組成物の固形分は、より好ましくは0.5重量%以上30重量%以下であり、さらに好ましくは1重量%以上30重量%以下であり、さらに好ましくは1.5重量%以上30重量%以下であり、さらに好ましくは1.75重量%以上4重量%以下である。ベース組成物の固形分を調整することで、マイクロニードルパッチのベースに存在する不要な空隙構造を回避できる。さらに、マイクロニードルパッチのベースが極端に柔らかい問題や、限度を超えた外力による変形を実質的に克服することができる。
【0023】
ベース組成物の粘度は、剪断速度1s−1、25℃で測定される。ベース組成物の粘度は、好ましくは1cP以上200,000cP以下であり、より好ましくは1cP以上100,000cP以下であり、さらに好ましくは100cP以上500cP以下である。
【0024】
ベース組成物のpHは、好ましくは4以上8以下の範囲内であり、より好ましくは4以上7以下の範囲内である。
【0025】
ベース組成物の表面張力は、好ましくは60dyne/cm以下であり、より好ましくは25dyne/cm以上50dyne/cm以下であり、さらに好ましくは40dyne/cm以上45dyne/cm以下である。ベース組成物の表面張力が大きすぎると、マイクロニードルパッチのベースにムラ、気泡又は凸凹表面等の欠陥が生じ、製造されたマイクロニードルパッチのベースの構造的欠陥につながる。
【0026】
本発明によると、マイクロニードルパッチの製造の際に本発明のベース組成物が選択された場合、上記マイクロニードルパッチを次の方法で製造してよいが、製造方法はこれに限定されない。具体的には、ポリジメチルシロキサン(PDMS)の型の複数の針穴を針先組成物で塗工するか、ポリジメチルシロキサン(PDMS)の型の複数の針穴に針先組成物を流し込み、次に針先組成物を真空状態にするか、遠心分離を行うことで、針先組成物内の気泡を除去し、針先組成物を針穴に埋め、PDMSのマスタ型に均一に広げることができる。湿式膜の厚みは、塗工ギャップ、塗工厚さ又は針先組成物の量を変更することで調整でき、乾式膜の厚みは、乾燥工程の条件を変更することでさらに調整することができる。マイクロニードルパッチの針先を作製後、様々なニーズに基づき設計可能な中間層、及びベースを上述の方法で製造することができ、マイクロニードルパッチが完成する。
【0027】
マイクロニードルパッチを作製する上で、ベース組成物及び/又は針先組成物は、好ましくは、例えば、ブレード又はスロットダイ塗工、ブレード塗工、スライド塗工、浸漬塗布、インクジェット印刷又はノズル印刷等の方法でマスタ型の針穴に流し込んでよいが、方法はこれに限定されない。
【0028】
真空状態にして気泡を除去し組成物を埋める工程において、真空度は、0.001トル以上90トル以下でよい。他の実施形態では、遠心分離を行うことで気泡を除去し組成物を埋める工程において、遠心分離の回転速度は、毎分100回転(rpm)以上10,000rpm以下に設定してよい。
【0029】
マイクロニードルパッチを作製する際、好ましくは、ベース組成物をフリーズドライで乾燥するか、室温で乾燥し、マイクロニードルパッチのベースを製造できる。乾燥工程の温度は、好ましくは−80℃以上160℃以下で調整してよく、乾燥工程の相対湿度は40%以上75%以下で調整してよい。乾燥工程の温度は、より好ましくは−20℃以上100℃以下で調整してよい。
【0030】
本発明は、複数のマイクロニードル構造からなるマイクロニードルパッチをさらに提供し、各マイクロニードル構造がベース及びベースに形成される針先を有し、ベースが上述のベース組成物から作られる。
【0031】
マイクロニードルパッチの各マイクロニードル構造は、円錐形状、ピラミッド形状又は尖塔形状であってよいが、それらに限定されない。
【0032】
マイクロニードルパッチの各マイクロニードル構造の長さは、1,500μm未満であってよいが、より好ましくは1,000μm未満であり、さらに好ましくは200μm以上950μm以下であってよい。
【0033】
マイクロニードルパッチの各マイクロニードル構造の針先の半径は、15μm未満であってよいが、より好ましくは11μm未満であり、さらに好ましくは5μm以上10μm以下であってよい。また、マイクロニードルパッチの針先角度は、30°未満であってよい。
【0034】
マイクロニードルパッチの各マイクロニードル構造の密度は、100ニードル/cm以上1,000ニードル/cm以下の範囲内であってよいが、より好ましくは150ニードル/cm以上750ニードル/cm以下の範囲内であってよい。
【0035】
マイクロニードルパッチの機械強度は、好ましくは0.045N/ニードル以上であってよいが、より好ましくは0.058N/ニードル以上であってよい。
【0036】
本発明の他の目的、メリット、新規性のある特色は、添付の図面と関連づけられる次の詳細な説明から、更に明らかにになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0037】
マイクロニードルパッチを製造するための数種のベース組成物を以下に例示し、本発明の実施例とする。本明細書に開示された内容によれば、当業者が本発明のメリット及び効果に容易に想到することができる。本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく本発明を実行又は利用するために、様々な修正及び変更を加えることができる。
【0038】
[試薬の説明]
1.第1ヒドロキシプロピルメチルセルロース(第1HPMC)
(1)65SH−400、粘度:400cP、信越化学工業より購入
(2)65SH−1500、粘度:1,500cP(@20℃、2%水溶液)、信越化学工業より購入
(3)90SH−4000、粘度:4,000cP(@20℃、2%水溶液)、信越化学工業より購入
(4)90SH−4000SR、粘度:4,000cP(@20℃、2%水溶液)、信越化学工業より購入
(5)65SH−4000、粘度:4,000cP(@20℃、2%水溶液)、信越化学工業より購入
(6)60SH−4000、粘度:4,000cP(@20℃、2%水溶液)、信越化学工業より購入
(7)60SH−10000、粘度:10,000cP(@20℃、2%水溶液)、信越化学工業より購入
2.第2ヒドロキシプロピルメチルセルロース(第2HPMC)
(1)ファーマコート603、粘度:3cP(@20℃、2%水溶液)、信越化学工業より購入
(2)SB−4、粘度:4cP(@20℃、2%水溶液)、信越化学工業より購入
(3)ファーマコート645、粘度:4.5cP(@20℃、2%水溶液)、信越化学工業より購入
(4)ファーマコート606、粘度:6cP(@20℃、2%水溶液)、信越化学工業より購入
(5)ファーマコート615、粘度:15cP(@20℃、2%水溶液)、信越化学工業より購入
(6)メトローズ65SH−50、粘度:50cP(@20℃、2%水溶液)、信越化学工業より購入
(7)メトローズ60SH−50、粘度:50cP(@20℃、2%水溶液)、信越化学工業より購入
3.ポリビニルアルコール、日本合成化学工業より購入
4.ポリビニルピロリドン/酢酸ビニル共重合体、製品名:Kollidon(登録商標)、BASF社より購入
5.トレハロース、製品名:TREHA(登録商標)、株式会社林原より購入
6.カルボキシメチルセルロース(CMC)、シグマ・アルドリッチ社より購入
7.β−シクロデキストリン(β−CD)、製品名:β−シクロデキストリン、Yiyang Industrial社より購入
【0039】
[ベース溶液の調製]
実施例及び比較例の各ベース溶液は、以下の表1に示す構成に基づく上述の試薬を水と混合することで得られた。
【表1】
【0040】
上記の表において、実施例1〜実施例4の第1HPMC及び第2HPMCは、上記に例示されたいずれの試薬でもよい。具体的には、第1HPMCは、60SH−4000、第2HPMCは、ファーマコート645であってよいが、第1HPMC及び第2HPMCの組み合わせによらず、選択された第1HPMCの粘度が、選択された第2HPMCの粘度よりも大きいものとする。一方、比較例7〜比較例9の第1HPMCも、上記に例示されたいずれの試薬でもよい。具体的には、上記第1HPMCは、60SH−4000である。比較例2、比較例4及び比較例7〜比較例9の第2HPMCも、上記に例示されたいずれの試薬でもよい。具体的には、第2HPMCは、ファーマコート645である。
【0041】
各実施例及び比較例におけるベース溶液の固形分、粘度及び表面張力を以下の表2に示す。各ベース溶液の粘度は、粘度計(機器モデル:MCR302、アントンパール社から購入)を使って、25℃、剪断速度1s−1で計測する。各ベース溶液の表面張力は、FACE自動表面張力計(機器モデル:CBVP−A3)を使って、ウィルヘルミープレート法により25℃で計測する。
【0042】
比較例1のベース溶液の粘度が大きすぎたため、ベース溶液の表面張力が計測不能であった。また、比較例6のベース溶液内に裸眼で晶析した結晶が観察されたため、ベース溶液の粘度及び表面張力についても追って計測しなかった。
【0043】
[マイクロニードルパッチの作製]
製造プロセスにおいて、上述の各実施例及び比較例のベース溶液を用い、マイクロニードルパッチを以下の方法で作製した。
【0044】
まず、PDMSマスタ型の多くの針穴を、ブレード又はスロットダイ塗工を用い、塗工ギャップ1,000μm、塗工速度3m/分で塗工した。針先溶液は、銅ペプチドとポリ(メチルビニルエーテル−alt−無水マレイン酸)の20重量%水溶液であった。つまり針先溶液には80重量%の水及び20重量%の銅ペプチドとポリ(メチルビニルエーテル−alt−無水マレイン酸)の混合物を含有した。25℃、剪断速度1s−1で計測された針先溶液の粘度は40cPで、表面張力は30dyne/cmであった。次に、針先溶液で塗工したPDMSマスタ型を20トルの圧力の真空オーブンに置いた後、真空状態にし、針先溶液をマスタ型の針穴に充填した。マスタ型の針穴の密度は289穴/cm、穴の配列は1.5cm×1.5cm、穴の形状はピラミッド型、穴の深さは約600μm、穴の最大幅は約300μmであった。その後、針先組成物の溶液を30℃、相対湿度30%以上50%以下で1時間乾燥させることで、針先溶液を乾燥させ、針先を形成した。
【0045】
その後、上記実施例及び比較例のベース溶液をそれぞれ選択し、ブレード又はスロットダイ塗工を使い、塗工ギャップ1,600μm、かつ塗工速度3m/分にてPDMSマスタ型の多くの穴を充填した。次に、ベース溶液で塗工したPDMSマスタ型を35トルの圧力の真空オーブンに置いた後、真空状態にし、ベース溶液をマスタ型の針穴に充填した。そしてベース溶液を30℃、相対湿度45%以上75%以下で1時間乾燥させることで、ベース溶液を乾燥させ、水分含有量20%未満のベースを形成した。そして、ベース及びベース上に形成された針先を有するマイクロニードル構造からPDMSマスタ型を離型することができ、マイクロニードルパッチの製造が完了した。
【0046】
実施例及び比較例のマイクロニードルパッチに、変位量10mm、速度66mm/分、毎秒受ける圧縮応力値500を同時に設定して、万能材料試験器(機器モデル3343、インストロン社より購入)を用い、圧縮試験を実施し、マイクロニードルパッチの機械強度を計測した。
【0047】
比較例4のベース溶液を用いてマイクロニードルパッチの作製をする際、離型中にマイクロニードルパッチの変形が発生したため、マイクロニードルパッチの機械強度を続けて計測することができなかった。比較例5のベース溶液を用いてマイクロニードルパッチの作製をする際も、ベースが脆弱でマイクロニードルパッチが離型中に破損したため、マイクロニードルパッチの機械強度を続けて計測することができなかった。従って、実施例1〜実施例4、比較例1〜比較例3、及び比較例6〜比較例9のベース溶液を使用して製造したマイクロニードルパッチの機械強度だけを、以下の表2に記載した。
【表2】
【0048】
[試験例1:離型評価]
本試験例は、ベース及びベース上に形成された針先を有するマイクロニードル構造がPDMSマスタ型から離型される状況を観察する目的で実施された。マイクロニードルパッチを製造する段階で、ベースの構造を損傷することなくPDMSマスタ型からマイクロニードル構造をスムーズに離型できた場合、以下の表3に「○」を記載した。PDMSマスタ型からマイクロニードル構造をスムーズに離型できなかった場合、又はベースが脆弱で離型中に破損又は損傷した場合、以下の表3に「×」と記載した。
【0049】
[試験例2:マイクロニードルパッチの性質評価]
本試験例では、マイクロニードルパッチの製造の完了後、5名による目視観察及び実体験により、各マイクロニードルパッチの柔軟性及び皮膚接着性を評価した。また、同5名による観察結果及び感覚反応も、以下の表3に記載した。
【0050】
また、マイクロニードルパッチの平坦性の評価において、離型後のマイクロニードルパッチから余分な端材を切り取った後、離型後のマイクロニードルパッチを平坦な大理石の台に平たく広げ、この大理石台に設置したカメラで撮影し、マイクロニードルパッチが大理石台上で平坦かどうかを観察した。マイクロニードルパッチが大理石台上で平坦であり、マイクロニードル構造がゆがんでいない、又は部分的にゆがんでいないと観察された場合、マイクロニードルパッチの平坦性を良とし、以下の表3に「○」と記載した。それに対して、マイクロニードルパッチを大理石台上で平坦にできず、ゆがんでいる、又は部分的にゆがんでいると観察された場合、マイクロニードルパッチの平坦性を否とし、以下の表3に「×」と記載した。
【0051】
さらに、マイクロニードルパッチの可撓性の評価において、マイクロニードルパッチを曲率半径7.5mmに曲げ、破損又は変形するか観察した。曲げた後、マイクロニードルパッチが破損又は変形しなかった場合、マイクロニードルパッチの可撓性を良とし、以下の表3に「○」と記載した。それに対して、曲げた後、マイクロニードルパッチが破損又は変形した場合、マイクロニードルパッチの可撓性を否とし、以下の表3に「×」と記載した。
【0052】
マイクロニードルパッチを常温25℃、及び相対湿度60%の環境下に5日間晒した後、マイクロニードルパッチの機械強度が元の90%を維持するかどうか確認し、以下の表3に耐湿性の評価を記載した。機械強度は上述の通りに計測した。マイクロニードルパッチを上述の環境下に5日間晒した後、マイクロニードルパッチの機械強度が元の90%を維持した場合、マイクロニードルパッチの耐湿性を良とし、以下の表3に「○」と記載した。それに対して、マイクロニードルパッチを上述の環境下に5日間晒した後、マイクロニードルパッチの機械強度が元の90%未満であった場合、マイクロニードルパッチの耐湿性を否とし、以下の表3に「×」と記載した。
【表3】
【0053】
比較例1のベース溶液の安定性が比較的乏しいため、表面乾燥及びムラの問題が発生する傾向があり、離型が困難であった。また、比較例1のベース溶液を使用することで、マイクロニードルパッチのベースの吸湿性が比較的大きく、マイクロニードルパッチの長期の保存ができなくなり、実用における使用に困難が伴う。さらに、比較例1では、マイクロニードルパッチのベースは予想通りの柔軟性を有さず、平坦性が不十分であったため、比較例1で製造されたマイクロニードルパッチは依然、使用には好ましくない。
【0054】
比較例2及び比較例3の実験結果については、PVAがHPMC又はPVP/VAに置換されても、マイクロニードルパッチのベースの吸湿性が効果的に改善しなかったため、マイクロニードルパッチの長期保存に失敗した。また、比較例3では、離型プロセス中に外力がさらに必要となった他、マイクロニードルパッチのベース構造が柔らかすぎ、かつ容易に変形したため、マイクロニードルパッチの柔軟性及び平坦性が否となった。
【0055】
比較例4及び比較例5については、HPMC又はPVP/VAをCMCと組み合わせて使用した場合、比較例4及び比較例5のベース溶液を使用することで、吸湿性が大きすぎる問題を克服できた。しかし、比較例4のベース溶液の造膜性は否であった。比較例4及び比較例5のベース溶液を使用して作製したベースは、外部からの引張力なしでは離型できず、残念ながら、比較例4のマイクロニードルパッチは離型プロセス中に変形し、さらに、比較例5のマイクロニードルパッチは、引き抜き工程中に破損した。これらの問題により、マイクロニードルパッチの品質が大幅に低下した。また、比較例4及び比較例5のベース溶液を使って製造したマイクロニードルパッチのベースがどちらも硬すぎたため、比較例4及び比較例5のマイクロニードルパッチの柔軟性、平坦性、可撓性及び皮膚接着性は、使用に適切でなかった。
【0056】
同様に、1つのHPMCとβ−CDとを組み合わせて調合した比較例6のベース溶液を使って、吸湿性が大きすぎる問題を克服できたとしても、比較例5に記載した通り、比較例6には硬質構造及び脆弱性の問題も存在するため、柔軟性が否となった。さらに、比較例6のベース溶液内に結晶が晶析したため、比較例6から製造されたマイクロニードルパッチが構造的なムラの欠陥を有するという結果も生じた。
【0057】
また、1つのHPMCとPVP/VAとを組み合わせて比較例7のベース溶液を調合した場合、製造プロセスでそのベース溶液をスムーズに離型することができた。しかし、加圧により構造がゆがむ問題、及びベースが極端に柔らかいという問題が発生する傾向があった。一方、比較例7に記載した通り、粘度の異なる2つのHPMCのみを混合し、比較例8のベース溶液として調合した場合、加圧により構造がゆがむ問題、及びマイクロニードルが柔らかいという問題が発生する傾向があった。その結果、比較例7又は比較例8のベース溶液によらず、比較例7及び比較例8から製造されたマイクロニードルは、どちらも所望の柔軟性及び平坦性を得ることができなかった。特に、比較例7のベース溶液を使用して製造されたマイクロニードルパッチには、吸湿性が大きすぎ長期保管ができないという問題があった。
【0058】
さらに、異なる粘度を有する2つのHPMCにPVP/VAをさらに追加し、比較例9のベース組成物の溶液を調合した場合、PVP/VA含有量が大きすぎるために、そこから製造したベースは硬く、外力に耐えることができず破損する傾向にあった。従って、2つのHPMC及びPVP/VAを混合してベース溶液を調合しても、マイクロニードルパッチの柔軟性、可撓性及び皮膚接着性は改善しなかった。
【0059】
これに対し実施例1〜実施例4では、第1HPMC、第2HPMC及びPVP/VAの適量を混合することでベース溶液を調合し、マイクロニードルパッチのベースは脆弱性により破損することなく、外力に耐えることができ、そこから製造したマイクロニードルパッチは大きな機械強度を保つことができた。さらに、実施例1〜実施例4のマイクロニードルパッチのベースは、柔軟性、平坦性、可撓性及び皮膚接着性に優れ、耐湿性にも優れている。
【0060】
上記の試験結果に基づき、適量の第1HPMC、第2HPMC及びPVP/VAを組み合わせて使用することで、作製中にマイクロニードルパッチをスムーズに離型することができ、硬い構造、脆弱性及び破損の傾向という問題がなくなり、マイクロニードルパッチのベースに所望の柔軟性、平坦性、可撓性、皮膚接着性及び耐湿性を持たせることができる。従って、製造段階において、ベース溶液から製造するベースを破損する傾向なくスムーズに離型できる一方で、使用段階において、十分な支持及び良好な柔軟性、平坦性、可撓性及び皮膚接着性を提供することができ、マイクロニードルパッチの保管期間を延ばすことができる。
【0061】
以上の説明において、構造及び特色の詳細と一緒に本発明の多数の特性及び利点を示したが、開示は単に例示的なものである。当業者は、特に、形状、サイズ及び部品の配列に関して、発明の主旨の範囲内かつ添付の特許請求の範囲に示される用語の広義の一般的意味によって示される全範囲内で、様々な変更を詳細に加えることができる。