(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
水平方向に沿って配置される大径の第1円筒部材の外周面に形成された開口部と小径の第2円筒部材との間に開先が設けられ、溶接トーチを前記開先に沿う溶接方向に沿って移動し、前記開先に挿入されたチップから突出するワイヤの先端部にアークを形成し、前記ワイヤの先端部が溶接進行方向と反対方向にて溶接方向に交差する方向に反復オシレートさせて溶接を行う開先溶接装置において、
前記開先における現在の前記ワイヤの先端部の溶接位置に基づいてオシレート移動角度を算出すると共に、鉛直方向に対する前記第2円筒部材の取付角度および前記開先における現在の前記ワイヤの先端部の溶接位置に基づいて溶接部に作用する溶接部重力寄与度を算出し、前記オシレート移動角度と前記溶接部重力寄与度に基づいてオシレート移動速度を設定する、
ことを特徴とする開先溶接装置の制御装置。
前記制御装置は、予め設定された基準位置からの現在の前記ワイヤの先端部の溶接位置までの角度に基づいて前記オシレート移動角度を算出する第1算出部と、鉛直方向に沿う鉛直線に対する前記第1円筒部材の中心と現在の前記ワイヤの先端部の溶接位置とを結ぶ溶接位置線の角度に基づいて前記溶接部重力寄与度を算出する第2算出部と、前記オシレート移動角度と前記溶接部重力寄与度に基づいてオシレート移動速度を設定する第3算出部とを備えることを特徴とする請求項1に記載の開先溶接装置の制御装置。
前記反復オシレートは、溶接方向に交差する方向に移動する第1ルートと、前記第1ルートと逆方向の第2ルートが設けられると共に、前記第1ルートと前記第2ルートが前記ワイヤの回動中心位置で2分割され、前記オシレート移動角度は、前記第1ルートと前記第2ルートが2分割された少なくとも4つのルートで個別に設定されることを特徴とする請求項4に記載の開先溶接装置の制御装置。
前記オシレート移動速度は、リング形状をなす前記開先を周方向に4つ以上に分割された領域にて設定されることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の開先溶接装置の制御装置。
前記開先における現在の前記ワイヤの先端部の溶接位置を検出する第1検出センサと、鉛直方向に対する前記第2円筒部材の取付角度を検出する第2検出センサとが設けられ、前記第1検出センサと前記第2検出センサの検出結果に基づいて前記オシレート移動速度を設定することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の開先溶接装置の制御装置。
水平方向に沿って配置される大径の第1円筒部材の外周面に形成された開口部と小径の第2円筒部材との間に開先が設けられ、溶接トーチを前記開先に沿う溶接方向に沿って移動し、前記開先に挿入されたチップから突出するワイヤの先端部にアークを形成し、前記ワイヤの先端部が溶接進行方向と反対方向にて溶接方向に交差する方向に反復オシレートさせて溶接を行う開先溶接装置において、
リング形状をなす前記開先を周方向に分割された複数領域を設定する工程と、
前記開先における現在の前記ワイヤの先端部の溶接位置に基づいてオシレート移動角度を算出する工程と、
鉛直方向に対する前記第2円筒部材の取付角度および前記開先における現在の前記ワイヤの先端部の溶接位置に基づいて溶接部に作用する溶接部重力寄与度を算出する工程と、
前記オシレート移動角度と前記溶接部重力寄与度に基づいて前記複数領域におけるオシレート移動速度を設定する工程と、
設定されたオシレート移動速度に基づいて前記ワイヤの先端部を反復オシレートさせて前記複数領域における前記開先を連続して溶接する工程と、
を有することを特徴とする開先溶接方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したガスシールド溶接により容器の外周部に複数の管台を溶接する場合、溶接部が容器の曲面形状をなす外周面であり、管台を全周にわたって溶接するとき、溶接方向が水平方向に対して傾斜状態となる位置がある。また、容器の外周部に固定される管台は、水平方向に沿って配置された容器に対して、上部だけでなく側部などにも固定されるため、取付角度の異なる複数の管台が発生する。そのため、容器に対して管台を全周にわたって溶接するとき、溶接方向が随時変化してしまう。すると、溶接方向が水平方向に対して傾斜する方向に変化すると、溶接金属が重力方向に垂れ落ちてしまう領域があり、溶接品質が低下してしまうという問題がある。
【0005】
本発明は上述した課題を解決するものであり、溶接方向が水平方向に対して傾斜する方向に変化しても、融合不良の発生を抑制して適正な溶接継手を形成可能とする開先溶接装置の制御装置及び開先溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための本発明の開先溶接装置の制御装置は、水平方向に沿って配置される大径の第1円筒部材の外周面に形成された開口部と小径の第2円筒部材との間に開先が設けられ、溶接トーチを前記開先に沿う溶接方向に沿って移動し、前記開先に挿入されたチップから突出するワイヤの先端部にアークを形成し、前記ワイヤの先端部が溶接進行方向と反対方向にて溶接方向に交差する方向に反復オシレートさせて溶接を行う開先溶接装置において、前記開先における現在の前記ワイヤの先端部の溶接位置に基づいてオシレート移動角度を算出すると共に、鉛直方向に対する前記第2円筒部材の取付角度に基づいて溶接部に作用する溶接部重力寄与度を算出し、前記オシレート移動角度と前記溶接部重力寄与度に基づいてオシレート移動速度を設定する、ことを特徴とするものである。
【0007】
従って、溶接トーチを第1円筒部材の開口部と第2円筒部材との間に開先に沿って溶接するとき、開先における現在の溶接位置と第2円筒部材の取付角度に基づいて溶接部重力寄与度を加味してオシレート移動速度を設定している。そのため、溶接トーチがリング状をなす開先に沿って全周溶接するとき、溶接位置における重力寄与度を考慮したオシレート移動速度でワイヤの先端部をオシレートすることとなり、溶接方向が水平方向に対して傾斜する方向に変化しても、融合不良の発生を抑制して適正な溶接継手を形成することができる。
【0008】
本発明の開先溶接装置の制御装置では、前記制御装置は、予め設定された基準位置からの現在の前記ワイヤの先端部の溶接位置までの角度に基づいて前記オシレート移動角度を算出する第1算出部と、鉛直方向に沿う鉛直線に対する前記第1円筒部材の中心と現在の前記ワイヤの先端部の溶接位置とを結ぶ溶接位置線の角度に基づいて前記溶接部重力寄与度を算出する第2算出部と、前記オシレート移動角度と前記溶接部重力寄与度に基づいてオシレート移動速度を設定する第3算出部とを備えることを特徴としている。
【0009】
従って、第1算出部は、基準位置からの現在の溶接位置までの角度に基づいてオシレート移動角度を算出し、第2算出部は、鉛直線に対する第1配管の中心と現在の溶接位置とを結ぶ溶接位置線の角度に基づいて溶接部重力寄与度を算出し、第3算出部は、オシレート移動角度と溶接部重力寄与度に基づいてオシレート移動速度を設定する。そのため、現在のワイヤに姿勢に応じた最適なオシレート移動速度を迅速に設定することができる。
【0010】
本発明の開先溶接装置の制御装置では、前記溶接部重力寄与度は、前記鉛直線に対する前記溶接位置線の角度が大きくなるほど増加する係数であることを特徴としている。
【0011】
従って、溶接部重力寄与度を鉛直線に対する溶接位置線の角度が大きくなるほど増加する係数とすることで、溶接部重力寄与度を容易に求めることができる。
【0012】
本発明の開先溶接装置の制御装置では、前記反復オシレートは、前記ワイヤの先端が溶接進行方向と反対方向に円弧状軌跡を描くように反復するオシレートを行うものであり、前記オシレート移動角度は、前記第1円筒部材の軸方向に直交して径方向に沿う水平線に対する前記円弧状軌跡における始点と終点を結ぶオシレート線の角度であることを特徴としている。
【0013】
従って、反復オシレートは、円弧状軌跡を描くように反復するオシレートを行うものであり、オシレート移動角度を、第1円筒部材の軸方向に直交して径方向に沿う水平線に対する円弧状軌跡における始点と終点を結ぶオシレート線の角度とすることから、最適なオシレート移動速度を迅速に設定することができる。
【0014】
本発明の開先溶接装置の制御装置では、前記反復オシレートは、溶接方向に交差する方向に移動する第1ルートと、前記第1ルートと逆方向の第2ルートが設けられると共に、前記第1ルートと前記第2ルートが前記ワイヤの回動中心位置で2分割され、前記オシレート移動角度は、前記第1ルートと前記第2ルートが2分割された少なくとも4つのルートで個別に設定されることを特徴としている。
【0015】
従って、反復オシレートを少なくとも4分割とし、各ルートで最適なオシレート移動角度を設定することとなり、各ルートで適正に開先溶接を行うことができる。
【0016】
本発明の開先溶接装置の制御装置では、前記オシレート移動速度は、リング形状をなす前記開先を周方向に4つ以上に分割された領域にて設定されることを特徴としている。
【0017】
従って、オシレート移動速度を開先の周方向に複数分割された領域ごとに設定することで、ワイヤの溶接姿勢に応じた最適なオシレート移動速度を設定することができる。
【0018】
本発明の開先溶接装置の制御装置では、前記開先における現在の前記ワイヤの先端部の溶接位置を検出する第1検出センサと、鉛直方向に対する前記第2円筒部材の取付角度を検出する第2検出センサとが設けられ、前記第1検出センサと前記第2検出センサの検出結果に基づいて前記オシレート移動速度を設定することを特徴としている。
【0019】
従って、第1検出センサが検出した開先における現在の溶接位置と、第2検出センサが検出した鉛直方向に対する第2円筒部材の取付角度に基づいてオシレート移動速度を設定することで、事前に各種のデータを入力する必要がなくなって、オンラインで容易に開先溶接を実施することができる。
【0020】
また、本発明の開先溶接方法は、水平方向に沿って配置される大径の第1円筒部材の外周面に形成された開口部と小径の第2円筒部材との間に開先が設けられ、溶接トーチを前記開先に沿う溶接方向に沿って移動し、前記開先に挿入されたチップから突出するワイヤの先端部にアークを形成し、前記ワイヤの先端部が溶接進行方向と反対方向にて溶接方向に交差する方向に反復オシレートさせて溶接を行う開先溶接装置において、リング形状をなす前記開先を周方向に分割された複数領域を設定する工程と、前記開先における現在の前記ワイヤの先端部の溶接位置に基づいてオシレート移動角度を算出する工程と、鉛直方向に対する前記第2円筒部材の取付角度に基づいて溶接部に作用する溶接部重力寄与度を算出する工程と、前記オシレート移動角度と前記溶接部重力寄与度に基づいて前記複数領域におけるオシレート移動速度を設定する工程と、設定されたオシレート移動速度に基づいて前記ワイヤの先端部を反復オシレートさせて前記複数領域における前記開先を連続して溶接する工程と、を有することを特徴とするものである。
【0021】
従って、溶接トーチがリング状をなす開先に沿って全周溶接するとき、溶接位置における重力寄与度を考慮したオシレート移動速度でワイヤの先端部をオシレートすることとなり、溶接方向が水平方向に対して傾斜する方向に変化しても、融合不良の発生を抑制して適正な溶接継手を形成することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の開先溶接装置の制御装置及び開先溶接方法によれば、開先における現在の溶接位置に基づいてオシレート移動角度を算出すると共に、鉛直方向に対する第2円筒部材の取付角度に基づいて溶接部に作用する溶接部重力寄与度を算出し、オシレート移動角度と溶接部重力寄与度に基づいてオシレート移動速度を設定するので、溶接方向が水平方向に対して傾斜する方向に変化しても、融合不良の発生を抑制して適正な溶接継手を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る開先溶接装置の制御装置及び開先溶接方法の好適な実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含むものである。
【0025】
まず、本実施形態の開先溶接装置に適用される溶接トーチについて説明する。
図10は、開先溶接装置における溶接トーチを表す斜視図、
図11は、溶接トーチの要部正面図、
図12は、溶接トーチにおけるワイヤの回動角度を表す説明図である。
【0026】
本実施形態の開先溶接装置において、
図10に示すように、溶接トーチ10は、溶接トーチ本体11の下端部に設けられた偏平型のシールドノズル12の内部にチップ回動軸13が鉛直方向に沿って配設され、チップ回動軸13の先端部にチップ14が螺着されている。このチップ14は、鉛直方向に対して所定角度(例えば、5度から20度)だけ屈曲したワイヤ導出孔15が形成され、ワイヤ導出孔15の先端部からワイヤ16が導出されている。
【0027】
チップ回動軸13は、基端部が溶接トーチ本体11を貫通し、この溶接トーチ本体11の上端部に配設された歯車17,18を介して駆動モータ(例えば、ステッピングモータ)19に連結されている。シールドノズル12は、内部に複数のシールドガス供給管20が配設されてシールドガス入口21に接続されると共に、複数の給水管22、排水管23が配設されて冷却水入口24、冷却水出口25に接続されている。
【0028】
そのため、
図11及び
図12に示すように、部材(例えば、容器)101と部材(例えば、管台)102との開先103内にシールドノズル12を配置し、チップ14の先端部から屈曲して突出したワイヤ16と開先103との間にアークを発生させると共に、シールドノズル12からシールドガスを噴出させ、溶接進行方向Mにシールドノズル12を移動させながら溶接を行う。このとき、駆動モータ19の駆動回転力により歯車17,18を介してチップ回動軸13を回動させ、チップ14から突出したワイヤ16の先端部を円弧方向Rに沿って反復オシレートさせる。この反復オシレートは、回動領域R1,R2が左右対称になるようにワイヤ16の先端部を反復オシレートさせる。
【0029】
本実施形態の開先溶接装置は、大径の第1円筒部材としての容器の外周部に小径の第2円筒部材としての複数の管台を溶接により固定するために用いられる。
図2は、複数の管台が固定された容器の断面図、
図3は、管台と容器の溶接部を表す断面図、
図4は、管台と容器の溶接部を表す管台側からの正面図である。
【0030】
図2に示すように、容器110は、所定の外径を有する円筒形状をなす容器であり、図示しないが、長手方向(軸方向)における各端部が閉塞されている。この容器110は、外周部に複数の管台111,112,113,114,115,116,117,118,119が溶接により固定されている。各管台111,112,113,114,115,116,117,118,119は、容器110に対して所定の配管を連結するために用いられるものであり、取付位置は、周方向に所定間隔を空けて設定されると共に、軸方向にずれて設定される。
【0031】
図3及び
図4に示すように、容器110は、管台112を取付ける位置に管台112の外径とほぼ同径の開口部121が形成されると共に、開口部121の全周に外周面側に拡径する開先面122が形成されている。管台112は、基端部が容器110の開口部121内に位置するように位置決めされ、仮溶接(点溶接など)により仮溶接部123が形成されることで、容器110の外周部に仮固定される。この状態で、管台112に開先溶接装置を装着し、溶接トーチ10(
図10参照)を管台112の外周部に沿って移動する。すると、溶接トーチ10が容器110における開口部121の(開先面122と管台112の外周面との間に設けられた開先124に沿って溶接を行い、開先124に溶接部(ビード)125を形成することで、容器110に管台112が固定される。
【0032】
ところで、
図2に示すように、管台111は、容器110の鉛直方向の上部に固定されるが、管台112は、容器110の鉛直方向に対して所定の角度をもった位置で固定される。即ち、
図3及び
図4に示すように、管台112は、容器110の中心を通る鉛直線L1に対して、中心線O1が所定の角度(以下、取付角度)θ1をもって傾斜している。また、溶接トーチ10(
図10参照)は、リング形状をなす開先124に沿って移動しながら溶接を行うことから、溶接位置が連続して移動し、容器110の中心を通る鉛直線L2に対する溶接位置線W1の角度θ2が連続して変化する。このとき、溶接位置が移動することから、鉛直線L1に対する容器110の中心と溶接位置とを結ぶ溶接位置線W2の角度(以下、溶接角度)θ1も連続して変化する。
【0033】
本実施形態の開先溶接装置における溶接トーチ10は、開先124に挿入されたチップ14から突出するワイヤ16の先端部にアークを形成し、このワイヤ16の先端部が溶接進行方向Mと反対方向に円弧状軌跡を描くように反復オシレートさせて溶接を行うものである。そのため、溶接位置が鉛直方向の上部から下部に移動するとき、溶融金属が重力の影響により垂れ落ち、この溶接金属がアークより溶接方向の前方側に移動してしまい、流下した溶融金属が邪魔となってアークの熱が直接母材にと届かず、溶込み量が少なくなって融合不良を発生するおそれがある。
【0034】
そこで、本実施形態の開先溶接装置の制御装置及び開先溶接方法は、容器110に対する管台112の取付位置が所定の傾斜角度をもっていても、また、溶接位置が連続して移動して溶接角度が連続して変化しても、ワイヤ16の先端部を適正に反復オシレートさせて高品質な溶接を行うものである。
【0035】
図1は、本実施形態の開先溶接装置の制御装置を表す概略構成図である。
【0036】
本実施形態の開先溶接装置の制御装置にて、制御装置30は、開先124における現在のワイヤ16の先端部の溶接角度(溶接位置)θ2に基づいてオシレート回動角度(オシレート移動角度)αを算出すると共に、鉛直方向に対する管台112の取付角度θ1に基づいて溶接部125に作用する溶接部重力寄与度βを算出し、オシレート回動角度αと溶接部重力寄与度βに基づいてオシレート回動速度(オシレート移動速度)Vを設定する。
【0037】
オシレート回動速度Vは、下記数式1により算出する。
【数1】
【0038】
具体的に、制御装置30は、予め設定された鉛直線(基準位置)L2からの現在のワイヤ16の先端部の溶接位置線(溶接位置)W1までの角度θ2に基づいてオシレート回動角度αを算出するα算出部(第1算出部)31と、鉛直線L1に対する容器110の中心と現在のワイヤ16の先端部の溶接位置とを結ぶ中心線(溶接位置線)O1の角度θ1に基づいて溶接部重力寄与度βを算出するβ算出部(第2算出部)32と、オシレート回動角度αと溶接部重力寄与度βに基づいてオシレート回動速度Vを設定するワイヤ回動速度算出部(第3算出部)33とを備えている。
【0039】
この場合、開先124における現在のワイヤ16の先端部の溶接位置を検出する第1検出センサとして、駆動モータ19にエンコーダ41が設けられている。そのため、開先124における現在の溶接位置に基づいて鉛直線L2と溶接位置線W1とのなす角度θ2が算出できる。また、鉛直線L1に対する管台112の取付角度θ1を検出する第2検出センサとして、溶接トーチ10に管台角度検出器(水準器など)42が設けられている。制御装置30は、エンコーダ41と管台角度検出器42の検出結果に基づいてオシレート回動速度Vを設定し、駆動モータ19をフィードバック制御する。
【0040】
なお、鉛直線L1に対する管台112の取付角度θ1は、予めわかっていることから、エンコーダ41により検出した現在の溶接位置だけをオンラインで検出し、制御装置30がオシレート回動速度Vを設定してもよい。
【0041】
以下、制御装置30により具体的な処理内容について詳細に説明する。
図5は、溶接方向が容器の軸方向であるときのワイヤ回動角度を表す概略図、
図6は、溶接方向が容器の軸方向に対して傾斜する方向であるときのワイヤ回動角度を表す概略図、
図7は、溶接方向が容器の軸方向に直交する方向であるときのワイヤ回動角度を表す概略図、
図8は、管台取付角度に対する溶接部重力寄与度を表すグラフ、
図9は、本実施形態の開先溶接方法を表す概略図である。
【0042】
溶接トーチ10は、リング形状をなす開先124に沿って溶接を行うとき、管台112の外周部側を時計回り方向に沿って360度回転する。このとき、溶接トーチ10は、
図9に示すように、時計回り方向に開先124に沿って移動して溶接するため、各溶接位置a,b,c,d,e,f,g,hにて、その溶接方向(姿勢)が相違することとなり、リング形状をなす開先124を周方向に8つ以上に分割した周方向領域A,B,C,D,E,F,G,Hを設定し、各周方向領域A,B,C,D,E,F,G,Hごとにオシレート回動速度Vを設定する。
【0043】
また、ワイヤ16の反復オシレートは、溶接進行方向Mに交差する方向に移動する第1ルートと、第1ルートと逆方向の第2ルートが設けられると共に、第1ルートと第2ルートがワイヤ16の回動中心位置で2分割される。即ち、ワイヤ16の反復オシレートは、開先124における幅方向の中心から管台112側にオシレートするルートP
1と、開先124における管台112に沿うルートP
2と、開先124における管台112側から幅方向の中心にオシレートするルートP
3と、開先124における幅方向の中心から容器110側にオシレートするルートP
4と、開先124における容器110に沿うルートP
5と、開先124における容器110側から幅方向の中心にオシレートするルートP
6とを有し、この各ルートP
1,P
2,P
3,P
4,P
5,P
6を繰り返し移動することで開先溶接を実施する。なお、4つのルートP
1,P
3,P
4,P
6は、ワイヤ16を回動してオシレートする領域であるが、2つルートP
2,P
5は、ワイヤ16の回動を停止する領域である。
【0044】
そして、
図5及び
図9に示すように、反復オシレートは、ワイヤ16の先端が溶接進行方向Mと反対方向に円弧状軌跡を描くように反復するオシレートを行うものであり、溶接トーチ10が開先124における溶接位置aを含む周方向領域Aを溶接するとき、オシレート回動角度α
1は、
水平線L3と、円弧状軌跡における始点と終点を結ぶオシレート線N1とのなす角度である。
【0045】
また、
図6及び
図9に示すように、溶接トーチ10が開先124における溶接位置bを含む周方向領域Bを溶接するとき、オシレート回動角度α
2は、
水平線L3と、円弧状軌跡における始点と終点を結ぶオシレート線N2とのなす角度である。更に、
図7及び
図9に示すように、溶接トーチ10が開先124における溶接位置cを含む周方向領域Cを溶接するとき、オシレート回動角度α
3は、
水平線L3と、円弧状軌跡における始点と終点を結ぶオシレート線N3とのなす角度である。なお、詳細な説明はしないが、溶接トーチ10が開先124における溶接位置d,e,f,g,hを含む周方向領域D,E,F,G,Hを溶接するときも、オシレート回動角度は、同様の角度となる。
【0046】
一方、溶接部重力寄与度βは、鉛直方向に対する管台112の取付角度θ1に基づいて溶接部125に作用する重力の寄与度であり、例えば、
図8に示すように、鉛直線L2に対する溶接位置線W1の角度が大きくなるほどに増加する係数である。ここで、溶接部重力寄与度βは、管台112の取付角度θ1が0度のときに最小(例えば、0.1)となり、管台112の取付角度θ1が90度のときに最大(1.0)なる。なお、
図8に示すマップ(グラフ)は、溶接トーチ10が管台11の外周部を時計回り方向に移動して溶接するとき、管台112の取付角度θ1が1度から90度で増加するときの溶接部重力寄与度βの一例である。また、管台112の取付角度θ1に対する溶接位置線W1の重力寄与度は、比例的に増加するものとしたが、これを2次曲線としてもよい。
【0047】
ここで、本実施形態の開先溶接方法について詳細に説明する。
【0048】
本実施形態の開先溶接方法は、リング形状をなす開先124を周方向に分割された複数の周方向領域A,B,C,D,E,F,G,Hを設定する工程と、開先124における現在のワイヤ16の先端部の溶接位置(溶接角度θ2)に基づいてオシレート回動角度αを算出する工程と、鉛直方向に対する管台112の取付角度θ1に基づいて溶接部125に作用する溶接部重力寄与度βを算出する工程と、オシレート回動角度αと溶接部重力寄与度βに基づいて各周方向領域A,B,C,D,E,F,G,Hにおけるオシレート回動速度Vを設定する工程と、設定されたオシレート回動速度Vに基づいてワイヤ16の先端部を反復オシレートさせて各周方向領域A,B,C,D,E,F,G,Hにおける開先124を連続して溶接する工程とを有する。
【0049】
まず、開先124におけるワイヤ16の先端部の溶接角度θ2に基づいたオシレート回動角度αを算出する。ここで、基準オシレート回動角度は、溶接トーチ10が移動しながら開先溶接を実施するとき、水平方向に沿う水平線と、ワイヤ16の先端がオシレートした円弧状軌跡における始点と終点を結ぶオシレート線とのなす角度に規定している。そして、本実施形態にて、例えば,基準オシレート回動角度は,溶接金属への重力の影響が比較的単純で溶接金属の形状が良好になりやすい周方向領域C,Gを選択している。但し、基準オシレート回動角度は、この規定方法に限るものではなく、他の周方向領域A,B,D,E,F,Hの位置、つまり、鉛直線とオシレート線とのなす角度であってもよく、更に、鉛直線ではなく傾斜する所定の線としてもよい。
【0050】
図9に示すように、溶接トーチ10が開先124における周方向領域Aを移動して溶接するとき、ワイヤ16は、ルートP
1,P
2,P
3,P
4,P
5,P
6を通って移動し、このときのオシレート回動角度α
1は、各ルートP
1,P
3,P
4,P
6で基準オシレート回動角度と同様の角度となる。溶接トーチ10が開先124における周方向領域Bを移動して溶接するとき、オシレート回動角度α
2は、基準オシレート回動角度に対してルートP
1,P
3で小さくなり、ルートP
4,P
6で大きくなる。溶接トーチ10が開先124における周方向領域Cを移動して溶接するとき、オシレート回動角度α
3は、各ルートP
1,P
3,P
4,P
6で基準オシレート回動角度に対して小さい角度となる。溶接トーチ10が開先124における周方向領域Dを移動して溶接するとき、オシレート回動角度α
4は、基準オシレート回動角度に対してルートP
1,P
3で大きくなり、ルートP
4,P
6で小さくなる。
【0051】
また、溶接トーチ10が開先124における周方向領域Eを移動して溶接するとき、ワイヤ16は、ルートP
1,P
2,P
3,P
4,P
5,P
6を通って移動し、このときのオシレート回動角度α
5は、各ルートP
1,P
3,P
4,P
6で基準オシレート回動角度と同様の角度となる。溶接トーチ10が開先124における周方向領域Fを移動して溶接するとき、オシレート回動角度α
6は、基準オシレート回動角度に対してルートP
1,P
3で小さくなり、ルートP
4,P
6で大きくなる。溶接トーチ10が開先124における周方向領域Gを移動して溶接するとき、オシレート回動角度α
7は、各ルートP
1,P
3,P
4,P
6で基準オシレート回動角度に対して小さい角度となる。溶接トーチ10が開先124における周方向領域Hを移動して溶接するとき、オシレート回動角度α
8は、基準オシレート回動角度に対してルートP
1,P
3で大きくなり、ルートP
4,P
6で小さくなる。
【0052】
即ち、周方向領域A,Eでは、全てのオシレート回動角度α
1,α
5が基準オシレート回動角度と同様となり、周方向領域C,では、全てのオシレート回動角度α
3,α
7が基準オシレート回動角度より小さくて同様となり、周方向領域B,D,F,Hでは、基準オシレート回動角度と異なり、溶接進行方向Mの左右両側でオシレート回動角度α
1,α
3,α
5,α
7が異なるものとなる。
【0053】
次に、管台112の取付角度θ1に基づいて溶接部125に作用する溶接部重力寄与度βを算出する。この場合、
図8に示すように、予め設定されたマップ(グラフ)を用いて取付角度θ1から溶接部重力寄与度βを求める。
【0054】
そして、オシレート回動角度αと溶接部重力寄与度βを前述した数式1に代入して、各周方向領域A,B,C,D,E,F,G,Hにおけるオシレート回動速度Vを設定する。本実施形態では、周方向領域A,B,C,D,E,F,G,Hが8個の分割されていることから、数式1のnは、各周方向領域A,B,C,D,E,F,G,Hに対応した1〜8で表されるが、nは、分割数に応じて異なるものとなる。制御装置30は、周方向領域A,B,C,D,E,F,G,Hごとに設定されたオシレート回動速度Vに基づいてワイヤ16の先端部を反復オシレートさせて各周方向領域A,B,C,D,E,F,G,Hにおける開先124を連続して溶接する。
【0055】
図9及び
図10に示すように、シールドノズル12を開先124内配置し、チップ14の先端部から屈曲して突出したワイヤ16と開先103との間にアークを発生させると共に、シールドノズル12からシールドガスを噴出させ、溶接進行方向Mに移動させながら溶接を行う。このとき、駆動モータ19によりチップ回動軸13を介してチップ14から突出したワイヤ16の先端部をルートP
1,P
2,P
3,P
4,P
5,P
6に沿って反復オシレートさせる。
【0056】
このとき、例えば、周方向領域Aにて、
図9に実線で表すルートP
1,P
6は、ワイヤ16の回動方向が鉛直方向の上向きとなり、
図9に点線で表すルートP
3,P
4は、ワイヤ16の回動方向が鉛直方向の下向きとなる。そのため、反復オシレートの過程で、重力に逆らうルートP
1,P
6におけるワイヤ16の回動方向での溶接は、溶融金属がアーク点より下方(回動方向の後方)へ流れるため、アークの熱を直接母材へ付加することができ、十分な溶込みを確保することができる。一方、反復オシレートの過程で、重力に沿ったルートP
3,P
4におけるワイヤ16の回動方向での溶接は、溶融金属がアーク点より下方(回動方向の前方)へ流れるため、この溶融金属が邪魔となってアークの熱を直接母材へ付加することが困難となり、十分な溶込みを確保することができない。
【0057】
そこで、本実施形態では、開先124における溶接位置(溶接角度θ2)と管台112の取付角度θ1に基づいて各周方向領域A,B,C,D,E,F,G,Hにおける最適なオシレート回動速度Vを設定し、設定された最適なオシレート回動速度Vに基づいて開先124の溶接を実施する。
【0058】
そのため、反復オシレートの過程で、重力に逆らうルートP
1,P
6におけるワイヤ16の回動方向での溶接は、オシレート回動速度Vを遅くし、重力に沿ったルートP
3,P
4におけるワイヤ16の回動方向での溶接は、オシレート回動速度Vを速くする。即ち、重力に逆らうルートP
1,P
6におけるオシレート回動速度Vより、重力に沿ったルートP
3,P
4におけるオシレート回動速度Vを速くする。すると、重力に沿ったルートP
3,P
4におけるワイヤ16の回動方向での溶接時、溶融金属がアーク点より下方(回動方向の前方)へ流れることが抑制され、溶融金属が邪魔となることもなく、アークの熱を直接母材へ付加することができ、十分な溶込みを確保することができる。
【0059】
なお、ここでは、周方向領域Aにおけるオシレート回動速度Vを用いた開先溶接について説明したが、他の周方向領域B,C,D,E,F,G,Hにおけるオシレート回動速度Vを用いた開先溶接についても同様である。
【0060】
このように本実施形態の開先溶接装置の制御装置にあっては、水平方向に沿って配置される容器110の外周面に形成された開口部121と管台112との間に開先124が設けられ、溶接トーチ10を開先124に沿う溶接方向に沿って移動し、開先124に挿入されたチップ14から突出するワイヤ16の先端部にアークを形成し、ワイヤ16の先端部が溶接進行方向Mと反対方向にて溶接方向に交差する方向に反復オシレートさせて溶接を行う開先溶接装置において、開先124における現在のワイヤ16の先端部の溶接角度θ2に基づいてオシレート回動角度αを算出すると共に、鉛直方向に対する管台112の取付角度θ1に基づいて溶接部125に作用する溶接部重力寄与度βを算出し、オシレート移動角度αと溶接部重力寄与度βに基づいてオシレート回動速度Vを設定する。
【0061】
従って、溶接トーチ10を容器110の開口部121と管台112との間に開先124に沿って溶接するとき、開先124における現在の溶接角度θ2と管台112の取付角度θ1に基づいて溶接部重力寄与度βを加味してオシレート回動速度Vを設定している。そのため、溶接トーチ10がリング状をなす開先124に沿って全周溶接するとき、溶接位置における溶接部重力寄与度βを考慮したオシレート回動速度Vでワイヤ16の先端部をオシレートすることとなり、溶接方向が水平方向に対して傾斜する方向に変化しても、融合不良の発生を抑制して適正な溶接継手を形成することができる。
【0062】
本実施形態の開先溶接装置の制御装置では、予め設定された基準位置からの現在のワイヤ16の先端部の溶接位置までの角度θ2に基づいてオシレート回動角度αを算出する第1算出部31と、鉛直線に対する容器110の中心と現在の溶接位置とを結ぶ溶接位置線W1の角度θ1に基づいて溶接部重力寄与度βを算出する第2算出部32と、オシレート回動角度αと溶接部重力寄与度βに基づいてオシレート回動速度Vを設定する第3算出部33とを備えている。従って、現在のワイヤ16に姿勢に応じた最適なオシレート回動速度Vを迅速に設定することができる。
【0063】
本実施形態の開先溶接装置の制御装置では、溶接部重力寄与度βは、鉛直線に対する溶接位置線の角度が大きくなるほど増加する係数である。従って、溶接部重力寄与度βを容易に求めることができる。
【0064】
本実施形態の開先溶接装置の制御装置では、反復オシレートは、ワイヤ16の先端が溶接進行方向と反対方向に円弧状軌跡を描くように反復するオシレートを行うものであり、オシレート回動角度αは、
水平線に対する円弧状軌跡における始点と終点を結ぶオシレート線の角度である。従って、最適なオシレート回動速度Vを迅速に設定することができる。
【0065】
本実施形態の開先溶接装置の制御装置では、反復オシレートは、溶接方向に交差する方向に移動する第1ルートと、第1ルートと逆方向の第2ルートが設けられると共に、第1ルートと第2ルートがワイヤ16の回動中心位置で2分割され、オシレート回動角度Vは、少なくとも4つのルートで個別に設定されている。従って、反復オシレートを少なくとも4分割とし、各ルートで最適なオシレート回動角度Vを設定することとなり、各ルートで適正に開先溶接を行うことができる。
【0066】
本実施形態の開先溶接装置の制御装置では、オシレート回動速度Vは、リング形状をなす開先124を周方向に4つ以上に分割された領域にて設定される。従って、ワイヤ16の溶接姿勢に応じた最適なオシレート回動速度Vを設定することができる。
【0067】
本実施形態の開先溶接装置の制御装置では、開先124における現在の溶接角度θ2を検出する第1検出センサ41と、鉛直方向に対する管台112の取付角度θ1を検出する第2検出センサ42とを設け、第1検出センサ41と第2検出センサ42の検出結果に基づいてオシレート回動速度Vを設定している。従って、事前に各種のデータを入力する必要がなくなって、オンラインで容易に開先溶接を実施することができる。
【0068】
また、本実施形態の開先溶接方法にあっては、開先124を周方向に分割された複数領域を設定する工程と、開先124における現在の溶接角度θ2に基づいてオシレート回動角度αを算出する工程と、鉛直方向に対する管台112の取付角度θ1に基づいて溶接部125に作用する溶接部重力寄与度βを算出する工程と、オシレート回動角度αと溶接部重力寄与度βに基づいて複数領域におけるオシレート回動速度Vを設定する工程と、設定されたオシレート回動速度Vに基づいてワイヤ16の先端部を反復オシレートさせて複数領域における開先124を連続して溶接する工程とを有する。
【0069】
従って、溶接トーチ10がリング状をなす開先124に沿って全周溶接するとき、溶接位置における溶接部重力寄与度βを考慮したオシレート回動速度Vでワイヤ16の先端部をオシレートすることとなり、溶接方向が水平方向に対して傾斜する方向に変化しても、融合不良の発生を抑制して適正な溶接継手を形成することができる。
【0070】
なお、上述した実施形態では、反復オシレートがワイヤ16の先端が円弧状軌跡を描くように反復するオシレートを行うものとしたが、ワイヤ16の先端が直線状軌跡を描くように反復するオシレートを行うものとしてもよい。
【0071】
また、上述した実施形態では、リング形状をなす開先124を周方向に8に分割した各領域でオシレート回動速度Vを設定したが、この分割数は適宜設定すればよいものである。