【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1)公開日(発行日) 平成28年8月1日 公開方法 平成28年度土木学会全国大会 第71回年次学術講演会 講演概要集を収録したDVDを公益社団法人土木学会により配布 2)公開日 平成28年9月7日 公開場所 平成28年度土木学会全国大会 第71回年次学術講演会 国立大学法人東北大学 川内北キャンパス A棟A403教室(仙台市青葉区川内41)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
周知の通り、山岳トンネルの標準工法では、覆工が一次支保工と二次覆工に分類される。
【0003】
一次支保工は、トンネル掘削時の周辺地山の安定性を確保することを主目的に施工される構造体であり、一般に、吹付けコンクリート、鋼製支保工及びロックボルトで構成される。
【0004】
また、一次支保工の吹付けコンクリートは、トンネル壁面にコンクリートを面的に密着して設けられる支保部材であり、掘削に伴って生じる地山の変形や外力による圧縮やせん断等に抵抗して支保効果を発揮し、地山を安定化させるためのものである(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、一次支保工の吹付けコンクリートは地山に面的に密着して支保効果を発揮する一方で、これが支保部材としての設計において、過剰な部材仕様の要因になるケースがある。
【0007】
例えば、一般的な山岳トンネルは、下半とインバートの接合部(トンネル脚部)で曲率が小さくなり、地圧が作用すると脚部に応力が卓越してコンクリート構造体に大きな曲げモーメントが発生する。これは、吹付けコンクリートが地山に面的に密着しているが故に生じる現象であり、このために大きな曲げモーメントに対応した支保工の設計が必要になる。
【0008】
また、トンネルのルート選定上、地形との関係から、トンネル横断面において覆工に左右非対称な地圧(偏圧)が作用し、トンネルの変形状態に影響を及ぼすことが多々ある。この偏圧による変状の特徴としては、左右不均等な荷重がトンネル覆工に作用することからトンネル内の左右で異なった変形が現れる。
【0009】
そして、偏圧が作用する場合、一次支保工(吹付けコンクリート)に発生する軸応力は、トンネルの左右で異なった応力状態となり、応力の高いところと低いところの応力分布が生じる。一次支保工の設計では、最大応力、すなわち高い応力状態に応じて一次支保工の厚さや強度特性を設定することになり、部分的に見れば不経済な設計となる。
【0010】
上記事情に鑑み、本発明は、従来と比較し、一次支保工に発生する応力を減らし、一次支保工の吹付けコンクリートの必要な吹付け厚さや強度特性の低減を図り、合理的な支保設計を可能にするトンネルの支保構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0012】
本発明のトンネルの支保構造は、地山の掘削面に積層するように配設される一次吹付けコンクリートを有する一次支保工を備えてなるトンネルの支保構造であって、前記地山側と前記一次支保工の一次吹付けコンクリートの間の少なくとも一部に、前記地山側と前記一次支保工の一次吹付けコンクリートの間の摩擦抵抗力を低下させる滑り促進層を設けて構成され、トンネルの下半とインバートを接合する接合部付近であって、
トンネル脚部付近の側壁部および前記インバートの前記地山
側に吹付けた仮吹付けコンクリートと、前記一次吹付けコンクリートと
、の
間に前記滑り促進層が設けられていることを特徴とする。
また、前記滑り促進層が、砂袋または吹付けポリウレタンで構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のトンネルの支保構造においては、従来と比較し、一次支保工に発生する応力を軽減(分散)させることが可能になる。また、一次支保工の吹付けコンクリートの吹付け厚さや強度特性を軽減させた合理的な支保設計が可能になる。さらに、変状対策のための極端に重い支保の選定を回避することが可能になる。
【0015】
よって、本発明のトンネルの支保構造によれば、合理的で経済性に優れたトンネルの支保構造、一次支保工を実現することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、
図1から
図5を参照し、本発明の一実施形態に係るトンネルの支保構造について説明する。
【0018】
本実施形態のトンネルの支保構造は、地山と一次支保工(吹付けコンクリート)の材料境界面における付着特性を制御することにより、一次支保工に生じる軸応力を平準化させるように構成されている。
【0019】
具体的に、本実施形態のトンネルの支保構造において、地山側と一次支保工の吹付けコンクリートの境界面における付着力を制御する手法(付着力を低減させる方法/構造)としては、地山側と一次支保工の間の摩擦抵抗力を低下させ、地山側と一次支保工との間での滑りを促進する材料を設置する手法を採用する。
【0020】
なお、地山側と一次支保工の間の摩擦抵抗力を低下させ、地山側と一次支保工との間での滑りを促進する材料を設置する手法は、地山と一次支保工の間の少なくとも一部を分断/絶縁する材料を設置する手法、表面処理によって地山側と一次支保工の間の少なくとも一部の滑りを促進する手法、地山側と一次支保工の間に滑り促進層を設ける手法と言い換えることができる。また、表面処理によって地山側と一次支保工の間の少なくとも一部の滑りを促進する手法には、地山側や一次支保工の表面、境界面の摩擦抵抗力を低下させるように、前記表面、境界面を直接的・機械的に処理する手法も含まれる。
【0021】
すなわち、本実施形態における「付着力を低減させる方法/構造」は、地山と一次支保工の材料境界面において、法線方向の剛性とせん断方向の剛性に関する物性などの制御が可能であるという要件を満足すればよい。
【0022】
より具体的に、本実施形態のトンネルの支保構造Aでは、例えば
図1(a)、
図1(b)に示すように、地山Gの掘削面G1に仮吹付けコンクリート1を吹付けた後、一次吹付けコンクリート2、鋼製支保工3の一次支保工を施工する。
【0023】
このとき、仮吹付けコンクリート1の表面に予め砂袋5やポリウレタン6、シート材などの滑り促進材7を設置し、一次吹付けコンクリート2と仮吹付けコンクリート1(地山G)の間に滑り促進材(滑り促進層)7を介在させるようにする。なお、滑り促進材7は、一次吹付けコンクリート2に対し地山G側に設けられていればよく、必ずしも仮吹付けコンクリート1を設け、この仮吹付けコンクリート1の表面に滑り促進材7を設けなくてもよい。また、ポリウレタン6は、例えば、吹付けによって設けることができ、その厚さが4〜10mm程度となるように設けることが好ましい。
【0024】
ここで、地山G側と一次支保工2、3の材料境界面における法線方向の剛性とせん断方向の剛性に関する物性が地山Gの変形や支保部材に生じる応力に及ぼす効果を解析によって検討した結果について説明する。
【0025】
はじめに、本解析では、円形トンネルと道路トンネルの断面を想定した場合の付着特性の与える影響を調べることを目的とし、有限差分法を用いて一次支保工2、3を一層のSolid要素とし、地山Gと支保の間に付着特性を表現するInterface要素を用いて解析を行った。
【0026】
図2は解析モデルを示している。この
図2に示す通り、円形トンネルは直径20mの円形断面とした。道路トンネルは
図3に示す断面とした。なお、Interface要素は法線方向が圧縮のみ応力を伝達し、せん断方向に最大摩擦力以上ですべり(slip)を表現できる点に特徴がある。
【0027】
次に、解析条件について説明する。
本解析で用いたトンネル、一次支保工の仕様及び初期地圧などの解析入力値を表1に示す。
【0029】
なお、解析領域の設定においては、トンネル掘削の影響の及ばない点に留意し十分に広い領域を設定した。初期地圧は、偏圧が作用する状態を想定して、水平方向の地圧が鉛直方向の地圧の0.5倍となるように設定した。
【0030】
そして、本解析では、地山Gと一次支保工2、3の間のせん断応力が伝達する場合(no-slip状態)と伝達しない場合(full-slip状態)の解析を実施した。また、no-slip状態とfull-slip状態の付着特性を下記のCase1、Case2、Case3の3条件で比較した。
1)Case1:トンネル全周をno-slip状態とする。
2)Case2:トンネル全周をfull-slip状態とする。
3)Case3:S.L.(スプリングライン)を境に上半no-slip状態、下半full-slip状態とする。
【0031】
解析結果について説明する。
まず、円形トンネルの解析結果として、一次支保工に発生する軸応力分布を
図4に示す。
この
図4から、全周no-slip状態の結果では、初期地圧の異方性の影響を受け、トンネルの側壁部で天端部よりも大きな軸応力が発生することが確認された。この一方で、すべりを考慮した全周full-slip状態の結果では、せん断応力が伝達しなかったことにより、トンネルの側壁部と天端部でほぼ同等の軸応力となり、一次支保工に生じる軸応力を平準化させ、初期地圧の異方性の影響が軽減されることが確認された。
【0032】
これは、初期応力や掘削解放率が同じ条件でも、材料境界面の付着特性が異なれば一次支保工に生じる応力は大きく変化することになり、付着特性が一次支保工に生じる応力の制御において重要な物性であることを示している。
【0033】
次に、支保工に作用する地圧(σR)の分布を
図5に示す。
【0034】
(円形断面における付着特性の影響)
図5(a)は、円形トンネルのno-slip状態の作用荷重分布を示している。
この図から、側圧係数k=0.5の条件であるため、側壁部分の作用荷重が天端に比べて相対的に大きくなることが確認された。
【0035】
図5(b)は、full-slip状態の作用荷重分布を示している。
この図から、no-slip状態とは異なり、トンネル全周にわたって一様な分布荷重となることが確認された。
【0036】
これにより、
図4に示した一次支保工に生じる軸応力と同様、支保工背面をslipさせることで、支保に作用する荷重が平準化されることが確認された。
【0037】
(道路トンネルにおけるトンネル形状の影響(no-slip状態))
no-slip状態におけるトンネル形状の影響を明らかにするため、
図5(a)と
図5(c)を比較した。
【0038】
トンネル上半(S.L.上)では、トンネルに作用する荷重に大きな差は認められなかった。一方で、トンネル下半(S.L.下)では、脚部付近の作用荷重が大きく増大し、インバート中央付近では逆に作用荷重が小さくなることが確認された。
【0039】
これにより、トンネル形状が変わることで、隅角部に作用荷重が集中し、その周辺の作用荷重が小さくなることが確認された。
【0040】
(道路トンネルにおけるトンネル形状の影響(full-slip状態))
full-slip状態におけるトンネル形状の影響を明らかにするため、
図5(b)と
図5(e)を比較した。
【0041】
前述の(道路トンネルにおけるトンネル形状の影響(no-slip状態))の結果と同じように、トンネル上半部は形状の影響は小さく、下半部の隅角部に作用荷重が増大、インバート部で作用荷重が小さくなることが確認された。しかし、no-Slip状態の結果ほど作用荷重の増大は認められなかった。
図5(b)でみられた作用荷重の平準化の働きが作用したものと考えられる。
【0042】
(道路トンネルにおける部分的な付着特性(
図5(c)、(d)、(e)の比較))
上記の結果から、トンネル上半部の作用荷重はトンネル形状の影響を受けにくいことが確認された。これを受け、道路トンネルのS.L.下のみをfull-slip状態にし、上半部はno-slip状態とした場合を確認することとした。
【0043】
これにより、
図5(d)に示すように、全周full-slip状態の結果に比べて作用荷重部の平準化効果は小さいが、脚部に作用する荷重はno-slip状態に比べ小さくなることが確認された。
【0044】
以上の結果から、トンネル形状が変われば支保の作用荷重の「集中と分散」が起こることが確認された。また、支保工背面の付着特性を変化させることで、言い換えれば、地山側と一次支保工の間に滑り促進層を設けることで、トンネル支保工に作用する荷重を「平準化」させることができ、このように付着特性を変えることで「トンネル作用荷重の制御」が可能であることが実証された。
【0045】
したがって、本実施形態のトンネルの支保構造Aにおいては、従来と比較し、一次支保工2、3に発生する応力を軽減(分散)させることが可能になる。また、一次支保工2、3の吹付けコンクリート2の吹付け厚さや強度特性を軽減させた合理的な支保設計が可能になる。さらに、変状対策のための極端に重い支保の選定を回避することが可能になる。
【0046】
よって、本実施形態のトンネルの支保構造Aによれば、合理的で経済性に優れたトンネルの支保構造A、一次支保工2、3を実現することが可能になる。
【0047】
以上、本発明に係るトンネルの支保構造の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。