【実施例】
【0021】
本発明の実施の形態につき、以下の実施例を用いて具体的に説明する。
(実施例1)
樹脂材料の射出成形を行う射出成形機10を成形機の一例として例示し、イジェクタピン11に作用する荷重を監視して保守作業あるいは点検作業の要否を判断する保守管理システム1及び保守管理方法について、
図1〜
図5を用いて説明する。
【0022】
保守管理システム1は、
図1及び
図2のごとく、分割構造の金型(型)22、26を相互に当接させる型締めにより形成されるキャビティ(内部空間)に、原材料である樹脂材料を射出して所定形状に加工する射出成形機10を保守・管理するためのシステムである。この保守管理システム1は、金型22に穿設された孔228に進退可能に収容された内挿部材の一例であるイジェクタピン11に作用する荷重を計測するロードセル(計測手段)110と、ロードセル110が計測した荷重データを処理することで保守作業あるいは点検作業の要否を判断する判断手段として機能する保守ユニット170と、を備えている。
【0023】
保守管理システム1では、
図1及び
図2のごとく、保守ユニット170が射出成形機10に組込あるいは付設されていると共に、射出成形機10が備える駆動モータ181、182等を駆動する制御ユニット180と保守ユニット170とが通信可能に接続されている。保守ユニット170は、ロードセルアンプ171を介してロードセル110による計測データを取得して保守作業等の要否を判断し、その判断結果を制御ユニット180に出力する。保守ユニット170による保守作業等の要否の判断結果は、制御ユニット180の制御によって射出成形機10に設けられた表示ユニット108により表示されて報知される。
以下、この内容について詳しく説明する。
【0024】
射出成形機10は、
図1のごとく、可動側の金型22を保持する可動プラテン21と、固定側の金型26を保持する固定プラテン25と、を備えている。可動プラテン21を固定プラテン25に向けて前進させることで可動側の金型22を固定側の金型26に当接させて型締めできる。また、固定プラテン25から離れる側に可動プラテン21を後退させれば金型22、26を離隔して型開きでき、成形品5(
図3)の取り出しが可能になる。
【0025】
固定プラテン25は、射出成形機10の骨格構造をなす図示しないフレーム(枠体)に固定され、可動プラテン21に対面する側の表面に金型26を保持している。また、固定プラテン25の背面側には、原材料である樹脂材料を射出する射出ユニット31が設けられている。例えば射出ユニット31が射出する溶融状態のPP(ポリプロピレン)は、固定プラテン25及び金型26を貫通する射出孔319を経由して型締めされた金型22、26のキャビティ(内部空間)に射出される。
【0026】
射出ユニット31は、
図1のごとく、粒状の樹脂材料を保持するホッパー310と、溶融状態の樹脂材料を射出するノズルを先端側に設けたシリンダ315と、を備えている。円筒状のシリンダ315には、樹脂材料を先端のノズルに向けて送り出す棒状の回転スクリュ317が内挿配置されていると共に、面ヒータ318が外周に配設されている。ホッパー310からシリンダ315に供給された樹脂材料は、面ヒータ318の熱で溶融し、回転スクリュ317により混錬されてノズルに向けて送出される。射出ユニット31は、制御信号である射出信号を制御ユニット180から入力されたとき、樹脂材料を射出する。なお、
図2では、射出ユニット31の図示を省略している。
【0027】
可動プラテン21は、
図1及び
図2のごとく、第1の駆動モータ181の出力軸がギア係合するボールネジを含む進退機構(図示略)を介して射出成形機10のフレーム(図示略)に支持されている。可動プラテン21は、この進退機構による進退駆動により直線的に移動して固定プラテン25との間隙を拡縮でき、これにより型締め、型開きが実現される。
【0028】
第1の駆動モータ181(
図2)は、可動プラテン21を進退駆動するための動力を発生する動力源である。例えばステッピングモータである本例の駆動モータ181は、制御ユニット180が出力する制御信号(パルス信号)に応じて1ステップずつ回転し、可動プラテン21の進退位置を高精度に制御可能である。
【0029】
可動プラテン21及び金型22には、内挿部材の一例をなすイジェクタピン11を進退可能に収容するための孔218、228が穿設されている。そして、可動プラテン21には、イジェクタピン11を軸方向に進退させる駆動機構が設けられている。イジェクタピン11が前進すると金型22の成形面220から突出し、これにより金型22に保持された成形品5を押し出して離型できる。
【0030】
イジェクタピン11の駆動機構は、
図1のごとく、複数のイジェクタピン11を軸方向に一斉に進退させる板状のイジェクタプレート111と、イジェクタプレート111の裏面(金型22の反対側の面)に当接する柱状のイジェクタロッド119と、を含んで構成されている。この駆動機構では、イジェクタプレート111の前進に応じてイジェクタピン11を軸方向に一斉に押し出しできる。なお、イジェクタピン11は、後端側がイジェクタプレート111に連結されているため、イジェクタプレート11の後退に応じて一斉に引き戻し可能である。
【0031】
イジェクタロッド119は、軸方向に前進してイジェクタプレート111を金型22に向かって押し出す。イジェクタロッド119は、例えばその外周面に設けたラックギアと、第2の駆動モータ182(
図2)によって回転駆動されるピニオンギアと、を螺合させたラックアンドピニオンなどの図示しないギア機構により駆動される。なお、イジェクタロッド119の駆動方法としては、上記のギア機構による方法のほか、油圧等により駆動する方法等がある。
【0032】
金型22側に当るイジェクタプレート111の表面には、イジェクタピン11と並列してリターンロッド16が当接している。軸状のリターンロッド16は、金型22を貫通して突出可能であり、型締めしたとき金型26に当接するように配置されている。また、このリターンロッド16にはコイル状の付勢スプリング160が外挿配置され、この付勢スプリング160は金型22とは反対側にイジェクタプレート111を付勢する。
【0033】
イジェクタロッド119が前進駆動されていない状態では、付勢スプリング160に付勢されたイジェクタプレート111が金型22から遠ざかる側に押し付けられて位置し、これにより、イジェクタピン11が成形面220と略面一をなすように金型22に格納される。上記のリターンロッド16は、イジェクタピン11のかじり等によりイジェクタプレート111が十分に戻り切れない状況で有効に機能する。型締めの際、リターンロッド16が金型26に当接し、これによりイジェクタプレート111を確実に押し戻すことが可能となっている。
【0034】
イジェクタピン11の後端面とイジェクタプレート111との間には背の低い円柱状のロードセル110が介設されている。ロードセル110は、歪ゲージを利用する荷重センサであり、円柱状の軸方向に作用する荷重の大きさに応じて電気信号(電圧信号)を出力する。本例では、イジェクタピン11に対して軸方向が一致するようにロードセル110が配設されている。このロードセル110によれば、イジェクタピン11を突出駆動する際に軸方向に作用する荷重や、成形時にイジェクタピン11の先端面に作用する荷重等の計測が可能である。
【0035】
イジェクタプレート111には、ロードセル110の出力信号を増幅するロードセルアンプ171(
図2参照。)が取り付けられ、ロードセル110から延設された信号線が電気的に接続されている。なお、
図1では、ロードセルアンプ171の図示を省略している。ロードセルアンプ171は、信号線を介してロードセル110が入力する信号をTTLレベルに増幅する。ロードセルアンプ171は、イジェクタピン11の本数分の入出力チャンネルを有し、イジェクタピン11毎のロードセル110の出力信号を並列して取り込みしてそれぞれ増幅し、並列して出力可能である。
【0036】
ここで、ロードセル110が出力する信号は極めて微弱であるため、髪の毛よりも細い信号線で伝達する必要がある。上記のようにロードセルアンプ171をイジェクタプレート111に固定すれば、ロードセル110から引き出す信号線を短くできると共に、イジェクタプレート111の進退等に応じてロードセル110の信号線の引き回し経路が変動する状況を回避できる。
【0037】
このように可動部であるイジェクタプレート111にロードセルアンプ171を設ける構成を採用すれば、ロードセル110の微細な信号線の断線等のトラブル発生を未然に抑制でき、電気的な信頼性を向上できる。なお、ロードセルアンプ171でTTLレベルに増幅された信号については、断線等のおそれが少ない比較的太い線径の信号線を利用して保守ユニット170に入力できる。
【0038】
上記のごとく射出成形機10には、装置の全体動作を統括する制御ユニット180のほか、金型22、26の状態を監視する保守ユニット170が設けられている(
図2参照。)。制御ユニット180と保守ユニット170とは、例えばシリアル通信を実行可能な通信線により接続され、データのやり取りが可能である。
【0039】
制御ユニット180は、可動プラテン21の進退動作、射出ユニット31の射出動作、イジェクタピン11の突出動作等を制御する手段である。
保守ユニット170は、イジェクタピン11の軸方向の荷重の計測値を表す信号をロードセルアンプ171から取り込みし、保守作業や点検作業の要否や異常の有無等を判断するためのユニットである。
【0040】
さらに、射出成形機10には、指先等によるタッチ操作を可能とした表示ユニット108が設けられている。表示ユニット108には、成形加工の設定値等の入力画面や、動作状態の表示画面や、保守情報の表示画面等が表示される。射出成形機10では、指先等で表示ユニット108の画面に触れるタッチ操作により設定値等の入力操作や表示画面の切換操作等が可能になっている。
【0041】
次に、射出成形機10による成形加工の流れについて、制御ユニット180による制御動作に沿って簡単に説明する。
制御ユニット180は、
図1に例示する型開きの状態から初回の射出成形を実行するに当たり、第1の駆動モータ181を制御して可動プラテン21を前進駆動し、可動側の金型22を相手方の金型26に当接させる型締め状態を設定する(
図3)。
【0042】
このような型締め状態に移行した後(
図3)、制御ユニット180は、前記射出信号を射出ユニット31に入力し樹脂材料(PP)を射出させる。射出された樹脂材料は、型締めされた金型22、26のキャビティ内に充填されて所定形状を形成する。なお、制御ユニット180による射出信号は、射出ユニット31のほか、保守ユニット170にも入力される。保守ユニット170側では、樹脂材料の射出のタイミングの把握が可能となっている。
【0043】
樹脂材料の硬化時間が経過した後、制御ユニット180は、
図4のように第1の駆動モータ181の回転制御により可動プラテン21を所定の一方向に後退させて型開きを実行する。この型開きによれば、可動側の金型22に保持された状態の成形品5を金型26から離型できる。さらに、制御ユニット180は、第2の駆動モータ182の回転制御によりイジェクタプレート111を前進駆動し、
図5のようにイジェクタピン11を金型22の成形面220から突出させる。これにより金型22に保持された成形品5をイジェクタピン11により押し出すことができ、金型22から離型できる。
【0044】
なお、イジェクタピン11による押し出し動作では、成形品5を”ツンツン”と繰返し押し出すよう、数回に亘ってイジェクタピン11が突出駆動される。このように複数回に亘って比較的弱い力で成形品5を押し出せば、成形品5の離型を徐々に進めることができ、離型の際の成形品5の傷付き等を未然に回避できる。なお、制御ユニット180は、イジェクタプレート111の前進駆動に先だって、保守ユニット170に対してイジェクタ信号を出力する。これにより保守ユニット170側で、成形品5の押し出し動作の実行タイミングの把握が可能になっている。複数回に亘るイジェクタピン11の突出駆動では、イジェクタ信号が毎回出力される。
【0045】
次に、上記のような射出成形機10による成形加工の際、保守ユニット170が実行する保守作業や点検作業の要否や異常の有無の判断方法について説明する。
保守ユニット170は、成形加工の際、イジェクタピン11の軸方向に作用する荷重を監視することで保守作業の要否等を判断する。保守ユニット170による判断は、以下の各タイミングで実行可能である。
(1)型締めした金型22、26のキャビティに樹脂材料を射出するとき。
(2)イジェクタピン11の突出動作により成形品5を離型するとき。
(3)イジェクタピン11を空で突出させる空打ちを実行するとき。
【0046】
上記の各タイミングにおける保守作業の要否等の判断方法について順番に説明する。
(1)射出するときのタイミングでの判断
保守ユニット170は、制御ユニット180が出力する上記の射出信号をトリガーとして、ロードセルアンプ171が出力する信号を例えば1000Hz周期で取得して逐次デジタル値に変換し、例えば5秒間に亘る時系列の荷重データをイジェクタピン11毎について生成する。
【0047】
保守ユニット170は、イジェクタピン11毎の荷重データについて、荷重のピーク値を特定すると共に、射出信号の受信後、ピーク値に到達するまでに要した到達時間を特定する。例えば樹脂材料が発生するガスに由来するヤニや樹脂材料の残滓等が成形面220、孔228の内部、イジェクタピン11等に付着すると、イジェクタピン11の動きが悪くなって摺動抵抗が大きくなる。このような場合、キャビティに樹脂材料を射出したときにイジェクタピン11に作用する荷重の立ち上がりが緩慢になると共に、そのピーク値が小さくなる傾向にある。例えばピーク値及び到達時間に関する閾値処理を実行すれば、上記のようにイジェクタピン11の動きが悪くなった状況を検知できる。例えばピーク値が所定値よりも小さく、かつ、到達時間が所定時間よりも長い場合に、保守作業を要すると判断することができる。なお、判断の方法は適宜変更でき、例えばピーク値が所定よりも小さいか、あるいは到達時間が所定時間よりも長い場合に、保守作業を要すると判断することも良く、ピーク値及び到達時間のうちのいずれか一方のみを判断の対象としても良い。
【0048】
(2)イジェクタピン11が成形品を押し出すタイミングでの判断
保守ユニット170は、制御ユニット180のイジェクタ信号をトリガーとして、ロードセルアンプ171が出力する信号を例えば1000Hz周期で取得して逐次デジタル値に変換し、例えば5秒間に亘る時系列の荷重データをイジェクタピン11毎に生成する。
【0049】
保守ユニット170は、イジェクタピン11毎の荷重データについて、荷重のピーク値を特定する。例えば成形面220、孔218、228の内部、イジェクタピン11等に汚れが付着していたり、孔218、228に収容されたイジェクタピン11に折れや焼き付きやかじり等の異常の兆候が有れば、イジェクタピン11の動きが悪化して摺動抵抗が大きくなる。このような場合には、イジェクタピン11を軸方向に突出させる際のピーク値が大きくなる。
【0050】
例えばこのピーク値に関する閾値処理を実行すれば、金型22の汚れのほか、イジェクタピン11の折れや焼き付きやかじり等が生じたことを検知できる。例えば、この荷重について2段階の閾値を設定することも良い。例えば、大きい方の閾値を超えた場合にはイジェクタピン11の折れやかじり等の異常が発生している可能性が高く点検作業を要すると判断する一方、大きい方の閾値以下であるが小さい方の閾値を超える場合には、金型22の汚れによりイジェクタピン11の動きが悪くなっており保守作業を要する状況であると判断すると良い。
【0051】
(3)イジェクタピン11を空打ちするタイミングでの判断
保守ユニット170は、イジェクタピン11の空打ちを実行するタイミングで制御ユニット180が出力するイジェクタ信号をトリガーとして、ロードセルアンプ171が出力する信号を例えば1000Hz周期で取得して逐次デジタル値に変換し、例えば3秒間に亘る時系列の荷重データをイジェクタピン11毎に生成する。なお、イジェクタピン11毎の荷重データの取扱いについては、判断のための閾値の大きさの違いはあるものの上記の(2)のタイミングでの判断の場合とほぼ同様である。
【0052】
上記の(1)〜(3)の全てのタイミングにおいて保守ユニット170による判断を実行しても良いが、少なくともいずれかひとつ以上のタイミングで判断を実行すれば良い。あるいは、成形の際、いずれか一部のタイミングで毎回判断を実行する一方、保守作業が必要等の判断がなされたときに、他のタイミングでも判断を実行することも良い。
【0053】
保守ユニット170による判断結果は、制御ユニット180に入力される。制御ユニット180は、保守作業を要する旨の情報を入力されたとき、保守作業を要する旨の表示画面を表示ユニット108に表示させる。また、異常の兆候が現れた旨の情報を入力されたときには、制御ユニット180は、直ちに点検作業を実施するように促す注意喚起画面(図示略)を表示ユニット108に表示させると共に、射出成形機10の運転を中断する。
【0054】
以上のように構成された本例の射出成形機10の保守管理システム1では、イジェクタピン11に作用する荷重を監視することにより、金型22、26の汚れやイジェクタピン11の摺動状態を反映した適切なタイミングで、保守作業が必要である旨の情報を表示可能である。また、イジェクタピン11のかじり等の異常が生じたときには、加工作業を中断して直ちに点検作業を実施するように促す情報を表示できる。
【0055】
例えば所定の成形回数を実施したとき、あるいは運転時間が所定時間に到達したときに保守作業を実施する場合には、安全マージンを考慮してその所定回数や所定時間を小さく設定する必要がある。それ故、この場合では、保守作業の回数が多くなり、保守管理コストが上昇する可能性がある。一方、本例の射出成形機10では、金型22、26の汚れ等に起因して実際にイジェクタピン11の摺動状態が悪化したときに保守作業を実施できる。それ故、金型22、26がほとんど汚れておらず、実際には保守の必要のない早いタイミングでの保守作業の実施を未然に回避でき、保守コストの低減を図ることができる。
【0056】
イジェクタピン11のかじり等の異常は突然、発生する可能性があるが、上記のように所定間隔で保守作業を実施するスケジュールの場合には、次の保守作業を実施するまでの間、その異常を発見できず症状が重症化するおそれがある。一方、イジェクタピン11に作用する荷重を監視していれば、かじり等の異常の兆候を早いタイミングで検知できる。異常の兆候を検知したときに直ちに点検作業と適切な処置を実施すれば、異常の芽を摘むような早期の対応が可能となり、症状の重症化によるメンテナンスコストの上昇を未然に回避できる。
【0057】
なお、本例では、成形品5を加工する射出成形機10を例示したが、射出成形機10としては、金型を入れ替える反転盤を備える多色成形機であっても良い。また、原材料である金属材料から所定形状を打ち抜いたり、金属材料を所定形状に塑性変形させるプレス加工に用いられるプレス成形機等の装置であっても良い。
【0058】
上記の「(3)イジェクタピン11を空打ちするタイミングでの判断」において、イジェクタピン11の空打ちの際の荷重データを取得する構成を例示した。このような荷重データをイジェクタピン11毎に取得すれば、各イジェクタピン11について摺動抵抗を把握できる。例えば、イジェクタピン11を1本ずつ或いはグループ単位で個別駆動できる構成を採用している場合には、各イジェクタピン11の摺動抵抗を考慮し、成形品5に作用する押し出し力を均等に近づけるように各イジェクタピン11の駆動力を異ならせることも良い。
【0059】
本例の保守管理システム1では、保守作業あるいは点検作業の要否を判断する判断手段として機能する保守ユニット170を射出成形機10に組込あるいは付設している。これに代えて、判断手段としての機能を有する装置を、例えばインターネット等の公衆回線を介して接続された遠隔地に設けることも良い。この遠隔地の装置に対して、ロードセルアンプ171の出力等を送信すれば、保守作業の要否等を遠隔地で判断できる。なお、インターネットに接続し情報を送信するためのWiFiやBluetooth(登録商標)やLTEなどの通信機能を、ロードセル110、ロードセルアンプ171、制御ユニット180、保守ユニット170のいずれかに持たせても良く、別の通信ユニットを射出成形機10に組込あるいは付設等しても良い。
【0060】
時系列の荷重データについてフーリエ変換や離散コサイン変換等を施し、時間領域のデータを周波数領域のデータに変換することも良い。例えば孔218、228に汚れ等が付着してイジェクタピン11の摺動抵抗が大きくなり動きが悪くなったときには、樹脂材料の射出時や、成形品5の押し出し時等の荷重の時間的な変化が緩慢になって荷重変化の周波数が低めにシフトする可能性が高い。あるいは、イジェクタピン11にかじりが生じてロックしている状況では、例えばイジェクタプレート111で駆動した際、荷重が急激に立ち上がり高い周波数が発生する可能性が高い。そこで、時系列の荷重データを周波数領域に変換したデータについて、閾値処理や統計処理等を施した結果に基づいて保守作業や点検作業の要否を判断することも良い。
【0061】
(実施例2)
本例は、アンダーカット形状を有する成形品を加工する射出成形機10の保守管理システムに関する例である。この内容について、
図6、
図7を参照して説明する。
図6の射出成形機10は、可動側の金型22が型開きする際の移動方向(所定の一方向)に対して直交する方向に進退するスライドコア(型部品)292を設けた成形機である。この射出成形機10では、金型22、26が離隔した同図(a)の状態では、一対のスライドコア292が前記直交する方向に離隔した状態にある。
【0062】
スライドコア292は、固定プラテン25側に設けられた内挿部材の一例であるアンギュラピン291により駆動される。アンギュラピン291は、金型22の移動方向に対して斜めをなすように設けられている。一方、スライドコア292は、このアンギュラピン291を収容するための孔290を有している。この孔290の内周面は、金型22の移動方向に対して斜行する傾斜面290Nで構成されている。
【0063】
図6(b)のように型締めすると、孔290にアンギュラピン291が挿入され、傾斜面290Nに対するアンギュラピン291の干渉により、一対のスライドコア292が近づくように変位する。各スライドコア292の相互に対面する前面がアンダーカット形状を成形するアンダーカット成形面292Sをなし、金型22、26と、スライドコア292の組み合わせによりキャビティを形成できる。
【0064】
可動プラテン21が型開きの方向に移動すると、
図6(c)のように、スライドコア292の孔290からのアンギュラピン291の引き抜きが生じる。このとき、傾斜面290Nに対するアンギュラピン291の干渉により、スライドコア292が成形品5から離れる方向に移動する。このように金型22の型開きと共に一対のスライドコア292を離隔でき、これにより成形品5の離型が可能となる。その後、
図6(d)のようにイジェクタプレート111を前進させて金型22を押し出せば、型を構成する軸11Pを成形品5から引き抜きでき、成形品5を完全に離型できる。
【0065】
この射出成形機10では、固定プラテン25とアンギュラピン291との間にロードセル110が介設されている。このロードセル110によればアンギュラピン291の軸方向に作用する荷重を計測できる。この荷重は、金型22、26の汚れに起因して大きくなる可能性があるスライドコア292の摺動抵抗やアンギュラピン291自体の摺動抵抗等を反映したものである。この荷重を監視すれば、保守作業の要否や異常の有無を確実性高く判断できる。
【0066】
図7の射出成形機10は、内周面にアンダーカット形状を有する成形品5を成形する成形機の例である。この射出成形機10は、アンダーカット成形面295Sを設けた型部品でもあるスライドピン295を備えている。内挿部材の一例をなすこのスライドピン295は、後端側がスライド機構296を介してイジェクタプレート111に連結されていると共に、可動側の金型22に穿孔された孔297に進退可能に収容されている。スライド機構296は、イジェクタプレート111に沿って進退可能な基部296Bを含み、この基部296Bに対して、図示しないロードセルを介在してスライドピン295の後端が連結されている。
【0067】
スライドピン295は、金型22に対するイジェクタプレート111の進退と共に孔297を進退する。この孔297の内周面の一部は、金型22の移動方向に対して斜行する傾斜面297Nとなっており、スライドピン295が孔297を進退する際、この傾斜面297Nに対してスライドピン295の軸部が干渉する。この干渉に応じてスライド機構296に支持されたスライドピン295の後端がイジェクタプレート111の表面に沿うように変位し、これによりスライドピン295の軸方向の角度(姿勢角度)が変化する。
【0068】
図7(a)〜(c)のようにイジェクタプレート111が後退した状態では、スライドピン295が金型22に対して直立して金型22と一体をなしている。同図(b)のように型締めした状態で樹脂材料をキャビティに射出すれば、スライドピン295のアンダーカット成形面295Sによるアンダーカット形状を含む成形品5を成形できる。
【0069】
成形品5を取り出す際には、まず、
図7(c)のように可動プラテン21を駆動して可動側の金型22を固定側の金型26から離隔する。そうすると一体をなす金型22及びスライドピン295により保持された成形品5を金型26から離型できる。
【0070】
このように型開きした状態で、
図7(d)のようにイジェクタプレート111を前進させると、イジェクタピン11とスライドピン295により成形品5を押し出して金型22から離型できる。上記のようにスライドピン295は、スライド機構296を介してイジェクタプレート111に連結されていると共に、上記の傾斜面297Nを含む孔297に進退可能に収容されている。このスライドピン295は、イジェクタプレート111により押し出されて孔297を前進するに応じて、孔297の傾斜面297Nに干渉して姿勢角度が変化する。これによりスライドピン295の成形面295Sが成形品5の内周面から離れる方向に後退し(
図7(d)参照。)、これにより、アンダーカット形状の離型が可能となる。
【0071】
この射出成形機10では、スライド機構296により進退可能に支持された基部296Bとスライドピン295の後端との間にロードセルが介設されている。金型22等の汚れに応じてスライド機構296の基部296Bの動きが悪くなれば、基部296Bとスライドピン295との間の前記直交する方向に作用する荷重が大きくなる。
【0072】
なお、スライドピン295の軸方向に作用する荷重を計測できるよう、スライドピン295の軸部分の中間的な位置にロードセルを介設しても良い。金型22等の汚れに応じてスライドピン295をキャビティに向けて突き出すために要する力が大きくなり、これによりスライドピン295の軸方向に作用する荷重が大きくなる。
なお、その他の構成及び作用効果については、実施例1と同様である。
【0073】
以上、実施例のごとく本発明の具体例を詳細に説明したが、これらの具体例は、特許請求の範囲に包含される技術の一例を開示しているにすぎない。言うまでもなく、具体例の構成や数値等によって、特許請求の範囲が限定的に解釈されるべきではない。特許請求の範囲は、公知技術や当業者の知識等を利用して前記具体例を多様に変形、変更あるいは適宜組み合わせた技術を包含している。