特許第6869061号(P6869061)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6869061
(24)【登録日】2021年4月15日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】塗工装置および塗工方法
(51)【国際特許分類】
   B05C 11/10 20060101AFI20210426BHJP
   B05C 5/02 20060101ALI20210426BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20210426BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   B05C11/10
   B05C5/02
   B05D7/00 A
   B05D3/00 D
   B05D7/00 K
【請求項の数】8
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-52020(P2017-52020)
(22)【出願日】2017年3月17日
(65)【公開番号】特開2018-153746(P2018-153746A)
(43)【公開日】2018年10月4日
【審査請求日】2019年12月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】高木 善則
(72)【発明者】
【氏名】大森 雅文
【審査官】 清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−130907(JP,A)
【文献】 特開2016−039102(JP,A)
【文献】 特開2011−206641(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/019711(WO,A1)
【文献】 特開2004−195348(JP,A)
【文献】 特開2016−138684(JP,A)
【文献】 特開2014−229370(JP,A)
【文献】 特表2016−523690(JP,A)
【文献】 特開平09−108605(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 5/00−21/00
B05D 1/00−7/26
H01M 4/86−4/98
8/02−8/0297
8/10−8/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺帯状であって、複数の塗膜を長手方向に形成すべき複数の被塗工領域を、前記長手方向に沿って有する基材を、前記長手方向に搬送する搬送部と、
光を照射して被塗工領域を検出する検出部と、
前記検出部よりも、搬送方向の下流側に配置され、前記検出部が検出する被塗工領域に対して、塗工液を塗工する塗工部と、
を備え、
前記検出部は、
前記搬送方向の下流側となる、被塗工領域の開始端を検出し、
前記塗工部は、
前記検出部が前記被塗工領域の開始端を検出するタイミングに応じて、塗工液の塗工を開始し、
前記塗工部による塗工位置と、前記検出部の光照射位置との距離は、前記搬送方向に連続する2つの被塗工領域の開始端の間の距離よりも、短く、
前記基材に、予め複数の第1触媒層が形成されており、
前記検出部は、前記第1触媒層と重なる領域を、前記被塗工領域として検出し、
前記検出部は、光の照射角度が調整可能である、
塗工装置。
【請求項2】
長尺帯状であって、複数の塗膜を長手方向に形成すべき複数の被塗工領域を、前記長手方向に沿って有する基材を、前記長手方向に搬送する搬送部と、
光を照射して被塗工領域を検出する検出部と、
前記検出部よりも、搬送方向の下流側に配置され、前記検出部が検出する被塗工領域に対して、塗工液を塗工する塗工部と、
を備え、
前記検出部は、
前記搬送方向の下流側となる、被塗工領域の開始端を検出し、
前記塗工部は、
前記検出部が前記被塗工領域の開始端を検出するタイミングに応じて、塗工液の塗工を開始し、
前記塗工部による塗工位置と、前記検出部の光照射位置との距離は、前記搬送方向に連続する2つの被塗工領域の開始端の間の距離よりも、短く、
前記基材に、予め複数の第1触媒層が形成されており、
前記検出部は、前記第1触媒層と重なる領域を、前記被塗工領域として検出し、
前記検出部は、前記基材の幅方向に沿った複数の位置で、被塗工領域を検出する、
塗工装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の塗工装置において、
前記搬送部は、外周面で前記基材を保持しつつ回転するローラを有し、
前記検出部は、
前記ローラの外周面で保持される前記基材に対して光を照射し、
前記塗工部は、
前記ローラの外周面で保持される前記基材に対して、塗工液を塗工する、
塗工装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1つに記載の塗工装置において、
前記塗工部と、前記検出部との間に設けられた検出部用カバー、
を備える塗工装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1つに記載の塗工装置において、
前記検出部は、
前記被塗工領域で反射した反射光を受光することで、前記被塗工領域を検出し、
前記塗工部は、
前記検出部の前記反射光による前記被塗工領域の検出時間と同じ時間、塗工液を塗工する、
塗工装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1つに記載の塗工装置において、
前記検出部は、ファイバーセンサを含む、
塗工装置。
【請求項7】
a)長尺帯状であって、複数の塗膜を長手方向に形成すべき複数の被塗工領域を、前記長手方向に沿って有する基材を、前記長手方向に搬送する工程と、
b)光を照射して被塗工領域を検出部で検出する工程と、
c)前記検出部よりも、搬送方向の下流側において、前記検出部が検出する被塗工領域に対して、塗工部で塗工液を塗工する工程と、
を備え、
前記工程b)では、
前記搬送方向の下流側となる、被塗工領域の開始端を検出し、
前記工程c)では、
前記工程b)で前記被塗工領域の開始端が検出されるタイミングに応じて、塗工液の塗工を開始し、
前記塗工部による塗工位置と、前記検出部の光照射位置との距離は、前記搬送方向に連続する2つの被塗工領域の開始端の間の距離よりも、短く、
前記基材に、予め複数の第1触媒層が形成されており、
前記検出部は、前記第1触媒層と重なる領域を、前記被塗工領域として検出し、
前記工程b)において照射される光の照射角度を調整する工程をさらに備える、
塗工方法。
【請求項8】
a)長尺帯状であって、複数の塗膜を長手方向に形成すべき複数の被塗工領域を、前記長手方向に沿って有する基材を、前記長手方向に搬送する工程と、
b)光を照射して被塗工領域を検出部で検出する工程と、
c)前記検出部よりも、搬送方向の下流側において、前記検出部が検出する被塗工領域に対して、塗工部で塗工液を塗工する工程と、
を備え、
前記工程b)では、
前記搬送方向の下流側となる、被塗工領域の開始端を検出し、
前記工程c)では、
前記工程b)で前記被塗工領域の開始端が検出されるタイミングに応じて、塗工液の塗工を開始し、
前記塗工部による塗工位置と、前記検出部の光照射位置との距離は、前記搬送方向に連続する2つの被塗工領域の開始端の間の距離よりも、短く、
前記基材に、予め複数の第1触媒層が形成されており、
前記検出部は、前記第1触媒層と重なる領域を、前記被塗工領域として検出し、
前記工程b)では、前記基材の幅方向に沿った複数の位置で、被塗工領域を検出する、
塗工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材に塗工液を塗工する塗工装置および塗工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車や携帯電話などの駆動電源として、燃料電池が注目されている。燃料電池は、燃料に含まれる水素と空気中の酸素との電気化学反応によって電力を作り出す発電システムである。燃料電池は、他の電池と比べて、発電効率が高く環境への負荷が小さいという特長を有する。
【0003】
燃料電池には、電解質としてイオン交換膜(電解質膜)を用いた固体高分子形燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)がある。固体高分子形燃料電池は、常温での動作および小型軽量化が可能であるため、自動車または携帯機器への適用が期待されている。固体高分子形燃料電池は、一般的には複数のセルが積層された構造を有する。1つのセルは、膜・電極接合体(MEA:Membrane-Electrode-Assembly)の両側を一対のセパレータで挟み込むことにより構成される。膜・電極接合体は、電解質の薄膜(高分子電解質膜)の両面に触媒層を形成した膜・触媒層接合体(CCM:Catalyst-coated Membrane)の両側に、さらにガス拡散層を配置して構成される。高分子電解質膜を挟んで両側に配置された触媒層とガス拡散層とで、一対の電極層が構成される。一対の電極層の一方はアノード電極であり、他方がカソード電極である。アノード電極に水素を含む燃料ガスが接触するとともに、カソード電極に空気が接触すると、電気化学反応によって電力が作り出される。
【0004】
上記の膜・触媒層接合体は、電解質膜の表面に、白金(Pt)を含む触媒粒子をアルコールなどの溶媒中に分散させた触媒材料を塗工し、その触媒材料を乾燥させることによって作成される。固体高分子形燃料電池の触媒材料の塗工に際しては、高価な白金触媒のロスを無くすために、電解質膜の表面に触媒材料を間欠的に塗工する間欠塗工が行われる。この間欠塗工の際、塗工位置に対して精度よく触媒材料を塗工することが求められる。
【0005】
特許文献1には、間欠塗工する際に、触媒材料の塗工位置がずれないようにする間欠塗工位置ずれ防止装置が開示されている。例えば、バルブを開閉して触媒材料をノズルから吐出させて、塗工を行う場合、バルブ開閉用の信号が発信されてから実際に塗工が開始又は停止されるまでに、遅れ時間が発生することがある。被塗工体を移動させつつ、塗工する場合、この遅れ時間の間も、被塗工体が移動するため、塗工位置を検出しても、塗工がずれることがある。そこで、特許文献1では、被塗工体を移動させるローラに設けたパルスジェネレータから発せられる被塗工体の移動距離に比例したパルス信号をカウントする。そして、そのパルス数から、予め設定された、遅れ時間に相当するパルス数を減算して、バルブ開閉用の信号を発するタイミングを算出する。これにより、遅れ時間を考慮して、バルブの開閉を制御でき、触媒材料の塗工位置がずれないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−111658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の装置は、適切なタイミングを得るために被塗工体をある程度搬送させる必要があるため、被塗工体には、触媒材料が塗工されない領域ができ、その部分の被塗工体が無駄となるおそれがある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、基材を無駄にすることなく、被塗工領域に対して精度よく塗工液を塗工する塗工装置および塗工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本願の第1発明は、塗工装置であって、長尺帯状であって、複数の塗膜を長手方向に形成すべき複数の被塗工領域を、前記長手方向に沿って有する基材を、前記長手方向に搬送する搬送部と、光を照射して被塗工領域を検出する検出部と、前記検出部よりも、搬送方向の下流側に配置され、前記検出部が検出する被塗工領域に対して、塗工液を塗工する塗工部と、を備え、前記検出部は、前記搬送方向の下流側となる、被塗工領域の開始端を検出し、前記塗工部は、前記検出部が前記被塗工領域の開始端を検出するタイミングに応じて、塗工液の塗工を開始し、前記塗工部による塗工位置と、前記検出部の光照射位置との距離は、前記搬送方向に連続する2つの被塗工領域の開始端の間の距離よりも、短く、前記基材に、予め複数の第1触媒層が形成されており、前記検出部は、前記第1触媒層と重なる領域を、前記被塗工領域として検出し、前記検出部は、光の照射角度が調整可能である
本願の第2発明は、長尺帯状であって、複数の塗膜を長手方向に形成すべき複数の被塗工領域を、前記長手方向に沿って有する基材を、前記長手方向に搬送する搬送部と、光を照射して被塗工領域を検出する検出部と、前記検出部よりも、搬送方向の下流側に配置され、前記検出部が検出する被塗工領域に対して、塗工液を塗工する塗工部と、を備え、前記検出部は、前記搬送方向の下流側となる、被塗工領域の開始端を検出し、前記塗工部は、前記検出部が前記被塗工領域の開始端を検出するタイミングに応じて、塗工液の塗工を開始し、前記塗工部による塗工位置と、前記検出部の光照射位置との距離は、前記搬送方向に連続する2つの被塗工領域の開始端の間の距離よりも、短く、前記基材に、予め複数の第1触媒層が形成されており、前記検出部は、前記第1触媒層と重なる領域を、前記被塗工領域として検出し、前記検出部は、前記基材の幅方向に沿った複数の位置で、被塗工領域を検出する。
【0010】
本願の第発明は、第1発明または第2発明の塗工装置であって、前記搬送部は、外周面で前記基材を保持しつつ回転するローラを有し、前記検出部は、前記ローラの外周面で保持される前記基材に対して光を照射し、前記塗工部は、前記ローラの外周面で保持される前記基材に対して、塗工液を塗工する。
【0013】
本願の第発明は、第1発明から第発明のいずれかの塗工装置であって、前記塗工部と、前記検出部との間に設けられた検出部用カバー、を備える。
【0014】
本願の第発明は、第1発明から第発明のいずれかの塗工装置であって、前記検出部は、前記被塗工領域で反射した反射光を受光することで、前記被塗工領域を検出し、前記塗工部は、前記検出部前記反射光による前記被塗工領域の検出時間と同じ時間、塗工液を塗工する。
【0015】
本願の第発明は、第1発明から第発明までのいずれかの塗工装置であって、前記検出部は、ファイバーセンサを含む。
【0016】
本願の第発明は、塗工方法であって、a)長尺帯状であって、複数の塗膜を長手方向に形成すべき複数の被塗工領域を、前記長手方向に沿って有する基材を、前記長手方向に搬送する工程と、b)光を照射して被塗工領域を検出部で検出する工程と、c)前記検出部よりも、搬送方向の下流側において、前記検出部が検出する被塗工領域に対して、塗工部で塗工液を塗工する工程と、を備え、前記工程b)では、前記搬送方向の下流側となる、被塗工領域の開始端を検出し、前記工程c)では、前記工程b)で前記被塗工領域の開始端が検出されるタイミングに応じて、塗工液の塗工を開始し、前記塗工部による塗工位置と、前記検出部の光照射位置との距離は、前記搬送方向に連続する2つの被塗工領域の開始端の間の距離よりも、短く、前記基材に、予め複数の第1触媒層が形成されており、前記検出部は、前記第1触媒層と重なる領域を、前記被塗工領域として検出し、前記工程b)において照射される光の照射角度を調整する工程をさらに備える
本願の第8発明は、塗工方法であって、a)長尺帯状であって、複数の塗膜を長手方向に形成すべき複数の被塗工領域を、前記長手方向に沿って有する基材を、前記長手方向に搬送する工程と、b)光を照射して被塗工領域を検出部で検出する工程と、c)前記検出部よりも、搬送方向の下流側において、前記検出部が検出する被塗工領域に対して、塗工部で塗工液を塗工する工程と、を備え、前記工程b)では、前記搬送方向の下流側となる、被塗工領域の開始端を検出し、前記工程c)では、前記工程b)で前記被塗工領域の開始端が検出されるタイミングに応じて、塗工液の塗工を開始し、前記塗工部による塗工位置と、前記検出部の光照射位置との距離は、前記搬送方向に連続する2つの被塗工領域の開始端の間の距離よりも、短く、前記基材に、予め複数の第1触媒層が形成されており、前記検出部は、前記第1触媒層と重なる領域を、前記被塗工領域として検出し、前記工程b)では、前記基材の幅方向に沿った複数の位置で、被塗工領域を検出する。
【発明の効果】
【0017】
本願の第1発明〜第8発明によれば、塗工位置と、光の照射位置とは近接する。このため、検出部が被塗工領域を検出する直後に塗工を開始することで、検出された被塗工領域に対して、塗工液を塗工できる。つまり、塗工位置を検出するためだけに、基材を搬送させる必要がない。その結果、被塗工領域に塗工液が塗工されないまま、基材が搬送されて、基材に無駄な領域が形成されることを防止できる。
【0018】
特に、第1発明および第7発明によれば、被塗工領域の反射率に応じて、光の照射角度を調整することで、より精度よく被塗工領域を検出できる。
【0019】
特に、第2発明および第8発明によれば、被塗工領域の検出精度が向上する。
【0020】
特に、第発明によれば、検出部を、塗工液から保護できる。
【0021】
特に、第発明によれば、塗工時間を、検出部による検出に合わせることで、塗工処理が容易となる。
【0022】
特に、第発明によれば、スペースを十分に確保できない場合でも、設置が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態に係る塗工装置の構成を示した図である。
図2】吸着ローラ付近の拡大図である。
図3】角度調節機構の平面図である。
図4図3のIV―IV線における断面図である。
図5】透明な第1電極層に対するファイバーセンサの最適な照射角度を説明するための図である。
図6】制御部と、製造装置内の各部との接続を示したブロック図である。
図7】ノズルと、ファイバーセンサとの配置関係を説明するための図である。
図8】第1電極層の検出タイミングと、触媒材料の塗布タイミングとを説明するためのタイムチャートである。
図9】塗工部による塗工時の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。以下では、本発明の「塗工装置」を、固体高分子形燃料電池用の膜・触媒層接合体を製造する膜・触媒層接合体の製造装置として説明する。
【0025】
<1.膜・触媒層接合体の製造装置の構成について>
図1は、本発明の実施形態に係る膜・触媒層接合体の製造装置1の構成を示した図である。この製造装置1は、固体高分子形燃料電池用の膜・電極接合体(MEA:Membrane-Electrode-Assembly)の製造過程に用いられる装置である。製造装置1は、長尺帯状の基材である電解質膜の表面に触媒層を形成して、膜・触媒層接合体(CCM:Catalyst-coated Membrane)を製造する。
【0026】
膜・触媒層接合体の製造装置1は、吸着ローラ10、電解質膜供給部20、塗工部30、触媒層検知部40、乾燥炉50、接合体回収部60および制御部70を備えている。
【0027】
吸着ローラ10は、基材である電解質膜90を吸着保持しつつ回転するローラである。吸着ローラ10は、複数の吸着孔を有する円筒状の外周面を有する。吸着ローラ10の直径は、例えば、200mm〜1600mmとされる。吸着ローラ10には、モータ等の駆動源を有する回転駆動部が接続される。その回転駆動部を動作させると、吸着ローラ10は、水平に延びる軸心周りに回転する。吸着ローラ10は、本発明の「搬送部」の一例である。
【0028】
吸着ローラ10の材料には、例えば、多孔質カーボンまたは多孔質セラミックス等の多孔質材料が用いられる。多孔質セラミックスの具体例としては、アルミナ(Al)または炭化ケイ素(SiC)の焼結体を挙げることができる。多孔質の吸着ローラ10における気孔径は、例えば5μm以下とされ、気孔率は、例えば15%〜50%とされる。
【0029】
なお、吸着ローラ10の材料に、多孔質材料に代えて、金属を用いてもよい。金属の具体例としては、SUS等のステンレスまたは鉄を挙げることができる。吸着ローラ10の材料に金属を用いる場合には、吸着ローラ10の外周面に、微小な吸着孔を、加工により形成すればよい。吸着孔の直径は、吸着痕の発生を防止するために、2mm以下とすることが好ましい。
【0030】
吸着ローラ10の端面には、不図示の吸引口が設けられている。吸引口は、吸引機構(例えば、排気ポンプ)に接続される。吸引機構を動作させると、吸着ローラ10の吸引口に負圧が生じる。そして、吸着ローラ10内の気孔を介して、吸着ローラ10の外周面に設けられた複数の吸着孔にも、負圧が発生する。電解質膜90は、当該負圧によって、吸着ローラ10の外周面に吸着保持されつつ、吸着ローラ10の回転によって円弧状に搬送される。
【0031】
電解質膜供給部20は、積層基材92を、吸着ローラ10へ供給する。積層基材92は、電解質膜90および第1支持フィルム91の2層で構成される。電解質膜供給部20は、その積層基材92を吸着ローラ10へ供給する際、電解質膜90から第1支持フィルム91を剥離する。そして、電解質膜90を吸着ローラ10へ供給するとともに、第1支持フィルム91を回収する。
【0032】
電解質膜90には、例えば、フッ素系または炭化水素系の高分子電解質膜が用いられる。電解質膜90の具体例としては、パーフルオロカーボンスルホン酸を含む高分子電解質膜(例えば、米国DuPont社製のNafion(登録商標)、旭硝子(株)製のFlemion(登録商標)、旭化成(株)製のAciplex(登録商標)、ゴア(Gore)社製のGoreselect(登録商標))を挙げることができる。電解質膜90の膜厚は、例えば、5μm〜30μmとされる。電解質膜90は、大気中の湿気によって膨潤する一方、湿度が低くなると収縮する。すなわち、電解質膜90は、大気中の湿度に応じて変形しやすい性質を有する。
【0033】
第1支持フィルム91は、電解質膜90の変形を抑制するためのフィルムである。第1支持フィルム91の材料には、電解質膜90よりも機械的強度が高く、形状保持機能に優れた樹脂が用いられる。第1支持フィルム91の具体例としては、PEN(ポリエチレンナフタレート)またはPET(ポリエチレンテレフタレート)のフィルムを挙げることができる。第1支持フィルム91の膜厚は、例えば25μm〜100μmとされる。
【0034】
電解質膜供給部20は、積層基材供給ローラ21、複数の積層基材搬入ローラ22、剥離ローラ23、複数の第1支持フィルム搬出ローラ24および第1支持フィルム回収ローラ25を有する。積層基材供給ローラ21、複数の積層基材搬入ローラ22、剥離ローラ23、複数の第1支持フィルム搬出ローラ24および第1支持フィルム回収ローラ25は、いずれも、吸着ローラ10と平行に配置される。
【0035】
積層基材供給ローラ21には、第1支持フィルム91が内側となるように、積層基材92が巻き付けられている。本実施形態では、電解質膜90の、第1支持フィルム91とは反対側の面(以下、「第1面」と称する)に、予め触媒層(以下、「第1触媒層9A」と称する)が形成されている。第1触媒層9Aは、製造装置1とは別の装置において、電解質膜90の第1面に触媒材料が間欠塗工され、その触媒材料が乾燥されることによって形成される。
【0036】
積層基材供給ローラ21は、図示を省略したモータの動力により回転する。積層基材供給ローラ21が回転すると、積層基材92は、積層基材供給ローラ21から繰り出される。繰り出された積層基材92は、複数の積層基材搬入ローラ22により案内されつつ、所定の搬入経路に沿って、剥離ローラ23まで搬送される。
【0037】
図2は、吸着ローラ10付近の拡大図である。
【0038】
剥離ローラ23は、電解質膜90から第1支持フィルム91を剥離するためのローラである。剥離ローラ23は、吸着ローラ10よりも径の小さい円筒状の外周面を有する。剥離ローラ23の少なくとも外周面は、弾性体により形成される。剥離ローラ23は、図示を省略したエアシリンダによって、吸着ローラ10側へ加圧されている。
【0039】
複数の積層基材搬入ローラ22により搬入される積層基材92は、吸着ローラ10と剥離ローラ23との間へ導入される。なお、吸着ローラ10の回転方向の上流側において、多孔質基材99が吸着ローラ10に供給される。そして、多孔質基材99は、吸着ローラ10の外周面に吸着保持されつつ、吸着ローラ10の回転によって、円弧状に搬送される。吸着ローラ10と剥離ローラ23との間へ導入された積層基材92の電解質膜90の第1面は、第1触媒層9Aとともに、吸着ローラ10に保持された多孔質基材99の表面に接触する。また、積層基材92の第1支持フィルム91は、剥離ローラ23の外周面に接触する。なお、図2では、理解容易のため、吸着ローラ10および多孔質基材99が、間隔を空けて図示されているとともに、多孔質基材99および電解質膜90も、間隔を空けて図示されている。なお、図1においては多孔質基材99に関する図示を省略している。
【0040】
この状態で、積層基材92は、剥離ローラ23から受ける圧力で、吸着ローラ10側へ押し付けられる。吸着ローラ10に保持された多孔質基材99の表面には、吸着ローラ10からの吸引力によって、負圧が生じる。電解質膜90は、当該負圧によって、多孔質基材99の表面に吸着される。そして、電解質膜90は、多孔質基材99とともに吸着ローラ10に保持されつつ、吸着ローラ10の回転によって、円弧状に搬送される。一方、第1支持フィルム91は、電解質膜90から剥離される。その結果、吸着ローラ10に保持される、電解質膜90の第1面とは反対側の面(以下、「第2面」と称する)は露出する。
【0041】
このように、本実施形態では、吸着ローラ10の外周面と電解質膜90との間に、多孔質基材99を介在させる。このため、吸着ローラ10の外周面と、電解質膜90の第1面に形成された第1触媒層9Aとは、直接接触しない。したがって、第1触媒層9Aの一部が吸着ローラ10の外周面に付着したり、吸着ローラ10の外周面から電解質膜90へ異物が転載されたりすることを、防止できる。
【0042】
なお、多孔質基材99は、後述の接合体回収部60よりも、吸着ローラ10の回転方向の下流側で、吸着ローラ10から離れて、回収される。
【0043】
電解質膜90から剥離した第1支持フィルム91は、複数の第1支持フィルム搬出ローラ24側へ搬送される。第1支持フィルム91は、複数の第1支持フィルム搬出ローラ24により案内されつつ、所定の搬出経路に沿って、第1支持フィルム回収ローラ25まで搬送される。第1支持フィルム回収ローラ25は、図示を省略したモータの動力により回転する。これにより、第1支持フィルム91が、第1支持フィルム回収ローラ25に巻き取られる。
【0044】
塗工部30は、吸着ローラ10の周囲において、電解質膜90の第2面に、塗工液である触媒材料を塗工する機構である。触媒材料には、例えば、白金(Pt)を含む触媒粒子をアルコールなどの溶媒中に分散させた触媒材料が用いられる。塗工部30は、ノズル31、開閉弁32および触媒材料供給源33を有する。
【0045】
ノズル31は、吸着ローラ10による電解質膜90の搬送方向において、剥離ローラ23よりも下流側に設けられている。ノズル31は、吸着ローラ10の外周面に対向する吐出口311を有する。吐出口311は、吸着ローラ10の外周面に沿って、吸着ローラ10の幅方向に延びるスリット状の開口である。ノズル31は、吐出口311の先端に触媒材料の液溜まりを形成する。そして、吸着ローラ10の外周面で搬送される電解質膜90の第2面の被塗工領域に、液溜まりを接触させる。これにより、電解質膜90の第2面の被塗工領域に、触媒材料が塗工され、触媒材料のウェット膜9Bが形成される。このウェット膜9Bは、後述の乾燥炉50により乾燥されることで、触媒層(以下、「第2触媒層9C」と称す)となる。
【0046】
なお、被塗工領域は、ノズル31よりも、搬送方向の上流側に配置される触媒層検知部40によって検出される。この被塗工領域は、電解質膜90の第1面に形成された第1触媒層9Aと重なる領域である。つまり、第1触媒層9Aと、第2触媒層9Cとは、重なり合う位置に形成される。換言すれば、触媒層検知部40は、複数の塗膜である複数のウェット膜9Bを長手方向に形成すべき複数の被塗膜領域を検出する。
【0047】
開閉弁32は、ノズル31による触媒材料の吐出動作を、実行させ、または停止させる。開閉弁32は、ノズル31と、触媒材料供給源33とをつなぐ給液配管の途中に設けられる。開閉弁32を開放すると、触媒材料供給源33から、ノズル31に触媒材料が供給される。そうすると、吐出口311の先端に、触媒材料の液溜まりが形成される。これにより、ノズル31による吐出動作が実行可能となる。一方で、開閉弁32を閉鎖すると、ノズル31への触媒材料の供給が停止する。これにより、吐出口311先端での液溜まりの形成が停止され、ノズル31による触媒材料の吐出動作が停止される。
【0048】
なお、触媒材料中の触媒粒子には、高分子形燃料電池のアノードまたはカソードにおいて燃料電池反応を起こす材料が用いられる。具体的には、白金(Pt)、白金合金、白金化合物等の粒子を、触媒粒子として用いることができる。白金合金の例としては、例えば、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、イリジウム(Ir)、鉄(Fe)等からなる群から選択される少なくとも1種の金属と白金との合金を挙げることができる。一般的には、カソード用の触媒材料には白金が用いられ、アノード用の触媒材料には白金合金が用いられる。ノズル31から吐出される触媒材料は、カソード用であってもアノード用であってもよい。ただし、電解質膜90の第1面に形成される第1触媒層9Aと、電解質膜90の第2面に形成される第2触媒層9Cには、互いに逆極性の触媒材料が用いられる。
【0049】
触媒層検知部40は、吸着ローラ10の外周面に対向する位置であって、塗工部30よりも、吸着ローラ10の回転方向の上流側に配置されている。触媒層検知部40は、電解質膜90の第2面において、塗工部30が触媒材料を塗工すべき被塗工領域を検出する。前記のように、被塗工領域は、第1触媒層9Aと重なる領域である。触媒層検知部40は、吸着ローラ10により搬送される電解質膜90の第2面側から、電解質膜90の第1面に形成された第1触媒層9Aを検出することで、被塗工領域を検出する。
【0050】
触媒層検知部40はファイバーセンサ41を有する。ファイバーセンサ41は、図示を省略した光ファイバーを介して、光学計測装置に接続されている。光学計測装置は、光源および受光部を有する。光学計測装置の光源から発せられた光は、光ファイバーを介してファイバーセンサ41に伝送される。ファイバーセンサ41は、光ファイバー内を伝送された光を、電解質膜90の第2面に向けて照射する。ファイバーセンサ41は、その反射光を受光し、受光した光を、光ファイバーを経由して光学計測装置の受光部へ入射する。そして、光学計測装置において、入射された光に基づいて、対象物の存在が検出される。
【0051】
本実施形態では、電解質膜90は透明である。第1触媒層9Aは、黒色など、吸光係数の高い色であるとする。この場合、ファイバーセンサ41から照射された光は、電解質膜90を透過する。そして、光の照射先に第1触媒層9Aが存在すると、電解質膜90を透過した光の多くは第1触媒層9Aで吸収される。一方、光の照射先に第1触媒層9Aが存在しないと、電解質膜90を透過した光は、吸収されることなく、他の部位(例えば、吸着ローラ10の外周面)で反射する。つまり、光の照射先に第1触媒層9Aが存在するか否かで、ファイバーセンサ41が受光する反射光の光量が変わる。触媒層検知部40は、この光量の違いから、第1触媒層9Aの存在を検出する。
【0052】
このように、触媒層検知部40は、電解質膜90の第1面に形成された第1触媒層9Aを、電解質膜90の第2面側から検出できる。光の照射にファイバーセンサ41を用いることで、スペースを十分に確保できない場合でも、触媒層検知部40の設置が可能である。
【0053】
ファイバーセンサ41は、塗工部30のノズル31に対して近接配置されている。このため、触媒層検知部40が被塗工領域を検出する直後に塗工を開始することで、検出された被塗工領域に対して、触媒材料を塗工できる。つまり、塗工位置を検出するためだけに、電解質膜90を搬送させる必要がない。その結果、電解質膜90に、ウェット膜9Bが形成されない領域が生じることを防止できる。触媒層検知部40による被塗工領域の検出タイミングと、塗工部30による塗工開始タイミングとの関係については、後述する。
【0054】
なお、ファイバーセンサ41と、ノズル31との間には、センサカバー(検出部用カバー)41Aが設けられている。ファイバーセンサ41は、ノズル31に近接配置されている。このセンサカバー41は、ノズル31からの触媒材料が、ファイバーセンサ41に付着することを防止する。
【0055】
触媒層検知部40は、ファイバーセンサ41の照射角度を調節する角度調節機構42を有する。図3は、角度調節機構42の平面図である。図4は、図3のIV―IV線における断面図である。
【0056】
図3に示すように、本実施形態では、触媒層検知部40は、2つのファイバーセンサ41を有する。2つのファイバーセンサ41は、吸着ローラ10の幅方向に沿って、距離を開けて配置されている。つまり、触媒層検知部40は、吸着ローラ10の幅方向における2点で、被塗工領域を検出する。これにより、ファイバーセンサ41が1つの場合よりも、触媒層検知部40による被塗工領域の検出精度は向上する。
【0057】
角度調節機構42は、一対の固定ブラケット421を有する。一対の固定ブラケット421は、吸着ローラ10の外周面の外側に、吸着ローラ10の幅方向の長さよりも広い間隔で、対向配置されている。一対の固定ブラケット421の間には、センサカバー41Aと、回転軸422とが設けられている。
【0058】
回転軸422は、円柱形状であって、吸着ローラ10の幅方向に延びる。回転軸422は、一対の固定ブラケット421により回転自在に支持されている。回転軸422における、吸着ローラ10の外周面に対向する位置には、2つのファイバーセンサ41を固定する固定部材423が設けられている。固定部材423は、回転軸422とともに回転する。
【0059】
一対の固定ブラケット421に対して回転自在な回転軸422は、割りカラー424により締結されることで、固定ブラケット421に固定される。割りカラー424と、固定ブラケット421とは、ボルト421Aで固定される。
【0060】
割りカラー424は、軸方向に円柱形状の空洞を有する円筒状である。割りカラー424は、円周部分の一部に切り欠き424Aを有しており、軸方向からの平面視で、C字形状となっている。割りカラー424の空洞の径は、回転軸422の径よりも小さい。そして、割りカラー424は、切り欠き424Aが広げられた状態で、回転軸422が挿入可能となっている。空洞に回転軸422を挿入した状態で、ボルト424Bで切り欠き424Aを狭めるように締結することで、回転軸422は割りカラー424に固定される。
【0061】
このように構成された角度調節機構42において、ボルト421Aおよびボルト424Bを緩めることで(または取り外すことで)、回転軸422は、一対の固定ブラケット421に対して回転する。回転軸422が回転すると、固定部材423に固定された2つのファイバーセンサ41も回転する。これにより、2つのファイバーセンサ41の照射角度を調整できる。調整後、ボルト421Aおよびボルト424Bを締めて、固定ブラケット421に固定することで、2つのファイバーセンサ41は、所望の照射角度を維持した状態となる。
【0062】
この角度調節機構42により、第1触媒層9Aに応じて、ファイバーセンサ41の照射角度を調整することで、より確実に被塗工領域を検出できる。例えば、前記のように、第1触媒層9Aが黒色などである場合には、光の照射先に第1触媒層9Aが存在する場合と、存在しない場合とで、反射光の光量の変化が大きく、第1触媒層9Aを検出できる。
【0063】
これに対し、第1触媒層9Aが、電解質膜90と同じ透明である場合、反射光の光量の変化が小さく、第1触媒層9Aを検出することが難しい。例えば、第1触媒層9Aに対するファイバーセンサ41の照射角度を垂直とした場合、反射光の散乱量は少ない。その結果、照射位置によらず、ファイバーセンサ41が受光する反射光の光量は多く、全体的に反射光量の変化は小さい。
【0064】
そこで、図5のパターン(A)で示すように、照射光が第1触媒層9Aの端部を交差するように、ファイバーセンサ41の照射角度を調整する。図5は、透明な第1触媒層9Aに対するファイバーセンサ41の最適な照射角度を説明するための図である。図5において、実線矢印は、照射光を示し、破線矢印は、反射光を示す。図5のパターン(A)と、パターン(B)と、パターン(C)とでは、反射状態が異なる。この場合、反射光の散乱量の違いから、パターン(B)、パターン(A)、パターン(C)の順に、ファイバーセンサ41が受光する反射光の光量は多くなる。この反射光の光量の違いから、触媒層検知部40は被塗工領域を検出できる。このように、ファイバーセンサ41の照射角度を調整することで、被塗工領域の検知精度を向上させることができる。
【0065】
図1に戻る。乾燥炉50は、電解質膜90の第2面に形成されたウェット膜9Bを乾燥させる部位である。乾燥炉50は、吸着ローラ10による電解質膜90の搬送方向において、塗工部30よりも下流側に配置されている。また、乾燥炉50は、吸着ローラ10の外周面に沿って、円弧状に設けられている。乾燥炉50は、吸着ローラ10の周囲において、電解質膜90の第2面に、加熱された気体(熱風)を吹き付ける。そうすると、電解質膜90の第2面に形成されたウェット膜9Bが加熱され、触媒材料中の溶剤が気化する。これにより、ウェット膜9Bが乾燥して、電解質膜90の第2面に第2触媒層9Cが形成される。その結果、電解質膜90、第1触媒層9Aおよび第2触媒層9Cで構成される膜・触媒層接合体95が得られる。
【0066】
接合体回収部60は、膜・触媒層接合体95に第2支持フィルム93を貼り付けて、膜・触媒層接合体95を回収する部位である。接合体回収部60は、第2支持フィルム供給ローラ61、複数の第2支持フィルム搬入ローラ62、ラミネートローラ63、複数の接合体搬出ローラ64および接合体回収ローラ65を有する。第2支持フィルム供給ローラ61、複数の第2支持フィルム搬入ローラ62、ラミネートローラ63、複数の接合体搬出ローラ64および接合体回収ローラ65は、いずれも、吸着ローラ10と平行に配置される。
【0067】
第2支持フィルム供給ローラ61には、第2支持フィルム93が巻き付けられている。第2支持フィルム供給ローラ61は、図示を省略したモータの動力により回転する。第2支持フィルム供給ローラ61が回転すると、第2支持フィルム93は、第2支持フィルム供給ローラ61から繰り出される。繰り出された第2支持フィルム93は、複数の第2支持フィルム搬入ローラ62により案内されつつ、所定の搬入経路に沿って、ラミネートローラ63まで搬送される。
【0068】
第2支持フィルム93の材料には、電解質膜90よりも機械的強度が高く、形状保持機能に優れた樹脂が用いられる。第2支持フィルム93の具体例としては、PEN(ポリエチレンナフタレート)またはPET(ポリエチレンテレフタレート)のフィルムを挙げることができる。第2支持フィルム93の膜厚は、例えば25μm〜100μmとされる。第2支持フィルム93は、第1支持フィルム91と同じものであってもよい。また、第1支持フィルム回収ローラ25に巻き取られた第1支持フィルム91を、第2支持フィルム93として第2支持フィルム供給ローラ61から繰り出すようにしてもよい。
【0069】
ラミネートローラ63は、膜・触媒層接合体95に第2支持フィルム93を貼り付けるためのローラである。ラミネートローラ63の材料には、例えば、耐熱性の高いゴムが用いられる。ラミネートローラ63は、吸着ローラ10よりも径の小さい円筒状の外周面を有する。ラミネートローラ63は、吸着ローラ10の回転方向において、乾燥炉50よりも下流側において、吸着ローラ10に隣接配置されている。また、ラミネートローラ63は、図示を省略したエアシリンダによって、吸着ローラ10側へ加圧されている。
【0070】
複数の第2支持フィルム搬入ローラ62により搬入される第2支持フィルム93は、吸着ローラ10の周囲において搬送される膜・触媒層接合体95とラミネートローラ63との間へ導入される。このとき、第2支持フィルム93は、ラミネートローラ63からの圧力により、膜・触媒層接合体95に押し付けられるとともに、ラミネートローラ63の熱により加熱される。その結果、電解質膜90の第2面に、第2支持フィルム93が貼り付けられる。電解質膜90の第2面に形成された第2触媒層9Cは、電解質膜90と第2支持フィルム93との間に挟まれる。
【0071】
吸着ローラ10とラミネートローラ63との間を通過した第2支持フィルム93付きの膜・触媒層接合体95は、吸着ローラ10から離れる方向へ搬送される。これにより、多孔質基材99から膜・触媒層接合体95が剥離される。
【0072】
また、本実施形態では、ラミネートローラ63の近傍に、押圧ローラ632が配置されている。押圧ローラ632は、吸着ローラ10とラミネートローラ63との間の隙間よりも、膜・触媒層接合体95の搬送方向下流側において、ラミネートローラ63に隣接配置されている。また、押圧ローラ632は、図示を省略したエアシリンダによって、ラミネートローラ63側へ加圧されている。多孔質基材99から離れた第2支持フィルム93付きの膜・触媒層接合体95は、続いて、ラミネートローラ63と押圧ローラ632との間を通過する。これにより、電解質膜90の第2面に対する第2支持フィルム93の密着性が向上する。
【0073】
その後、第2支持フィルム93付きの膜・触媒層接合体95は、複数の接合体搬出ローラ64により案内されつつ、所定の搬出経路に沿って、接合体回収ローラ65まで搬送される。接合体回収ローラ65は、図示を省略したモータの動力により回転する。これにより、第2支持フィルム93付きの膜・触媒層接合体95が、第2支持フィルム93が外側となるように、接合体回収ローラ65に巻き取られる。
【0074】
制御部70は、製造装置1内の各部を動作制御するための手段である。図6は、制御部70と、製造装置1内の各部との接続を示したブロック図である。図6中に概念的に示したように、制御部70は、CPU等の演算処理部71、RAM等のメモリ72およびハードディスクドライブ等の記憶部73を有するコンピュータにより構成される。記憶部73内には、膜・触媒層接合体の製造処理を実行するためのコンピュータプログラムPが、インストールされている。
【0075】
また、図6に示すように、制御部70は、上述した吸着ローラ10の回転駆動部、吸着ローラ10の吸引機構、積層基材供給ローラ21のモータ、剥離ローラ23のエアシリンダ、第1支持フィルム回収ローラ25のモータ、塗工部30の開閉弁32、触媒層検知部40の光学計測装置の光源および受光部、乾燥炉50、第2支持フィルム供給ローラ61のモータ、ラミネートローラ63のエアシリンダ、ラミネートローラ63のヒータ631、押圧ローラ632のエアシリンダ、ならびに、接合体回収ローラ65のモータと、それぞれ通信可能に接続されている。
【0076】
制御部70は、記憶部73に記憶されたコンピュータプログラムPおよびデータをメモリ72に一時的に読み出し、当該コンピュータプログラムPに基づいて、演算処理部71が演算処理を行うことにより、上記の各部を動作制御する。これにより、製造装置1における膜・触媒層接合体の製造処理が進行する。
【0077】
<2.被塗工領域の検出および塗工について>
<2.1.ノズル31とファイバーセンサ41との配置について>
図7は、ノズル31と、ファイバーセンサ41との配置関係を説明するための図である。図7は、吸着ローラ10に保持される電解質膜90を、第2面側から視た図である。以下の説明では、搬送方向の下流側となる、第1触媒層9Aの一端を「開始端」と称する。また、搬送方向の上流側となる、第1触媒層9Aの他端を「終端」と称する。
【0078】
ノズル31による触媒材料の塗工位置と、ファイバーセンサ41による光の照射位置との間の距離を、d1で表す。また、搬送方向の下流側となる、一の第1触媒層9Aの開始端と、一の第1触媒層9Aに搬送方向に隣接する第1触媒層9Aの開始端との間の距離を、d2で表す。この場合において、ノズル31と、ファイバーセンサ41とは、d1<d2の関係を満して配置される。
【0079】
<2.2.触媒材料の塗工タイミングについて>
図8は、第1触媒層9Aの検出タイミングと、触媒材料の塗工タイミングとを説明するためのタイムチャートである。
【0080】
図8に示すタイミングA1は、触媒層検知部40が、第1触媒層9Aの開始端を検出するタイミングである。図8に示すタイミングA2は、触媒層検知部40が、第1触媒層9Aの終端を検出するタイミングである。そして、タイミングA1からタイミングA2までの時間を、T1で表す。
【0081】
図8に示すタイミングBは、塗工部30が触媒材料の塗工を開始するタイミングである。塗工部30は、タイミングA1から、時間T2(<T1)経過後に、触媒材料の塗工を開始する。時間T2は、図7に示す距離d1と、吸着ローラ10の回転速度とから算出される。つまり、時間T2は、搬送される電解質膜90に形成される第1触媒層9Aの開始端が、光の照射位置を通過してから、塗工位置に到達するまでの時間である。
【0082】
そして、塗工部30は、時間T1の間、塗工し続ける。時間T1は、前記の通り、触媒層検知部40が、第1触媒層9Aの開始端を検出してから、終端を検出するまでの時間である。換言すれば、時間T1は、被塗工領域の搬送方向の移動時間である。この時間T1の間、塗工し続けることで、一の被塗工領域の開始端から終端まで全体にわたって、触媒材料が塗工される。このように、触媒層検知部40による塗装工領域の検出時間(時間T1)と同じ時間、塗工することで、塗工部30による塗工処理が容易となる。
【0083】
なお、塗工部30は、タイミングA1から、吸着ローラ10の駆動パルスから換算した、吸着ローラ10の移動距離が距離d1となったときに、塗工を開始してもよい。
【0084】
このように、ノズル31と、ファイバーセンサ41とを近接配置し、被塗工領域の検出直後に塗工を開始することで、検出された被塗工領域に対して、触媒材料を塗工できる。つまり、塗工位置を検出するためだけに、電解質膜90を搬送させる必要がない。その結果、ウェット膜9Bが形成されない状態で電解質膜90が搬送されて、電解質膜90に無駄な領域が形成されることを防止できる。
【0085】
<3.塗工部30による塗工時の動作について>
図9は、塗工部30による塗工時の流れを示すフローチャートである。
【0086】
吸着ローラ10で電解質膜90を支持しつつ回転して、電解質膜90を、予め定められた搬送速度により、搬送方向に向かって搬送する(ステップS1)。次に、電解質膜90の搬送を継続しつつ、触媒層検知部40のファイバーセンサ41から光を照射する(ステップS2)。触媒層検知部40は、反射光を受光することで、第1触媒層9Aを検出する(ステップS3)。具体的には、触媒層検知部40は、第1触媒層9Aの開始端を検出する。
【0087】
第1触媒層9Aの開始端を検出すると、塗工部30は、開閉弁32を開放して(ステップS4)、触媒材料の塗工を開始して、ウェット膜9Bを形成する(ステップS5)。ステップS5では、塗工部30は、ステップS3で、触媒層検知部40が、第1触媒層9Aの開始端を検出してから、時間T2経過後に、触媒材料の塗工を開始する。そして、時間T1の間、触媒材料を塗工し続ける。これにより、電解質膜90の第2面において、第1触媒層9Aと重なる被塗工領域に、電子材料を塗工して、ウェット膜9Bを形成できる。
【0088】
塗工処理を終了する場合(ステップS6でYES)、本処理は終了する。塗工処理を終了しない場合(ステップS6でNO)、ステップS2の処理を実行する。なお、塗工処理を終了する場合とは、例えば、製造装置1による製造を停止する場合、電解質膜90の搬送を停止する場合などである。
【0089】
以上、本発明の主たる実施形態について説明したが、製造装置1の細部の構成については、本願の各図と相違していてもよい。
【0090】
例えば、上記の実施形態の膜・触媒層接合体の製造装置1は、電解質膜90に第1触媒層9Aが形成された第1面と反対側の第2面に対して、触媒材料を塗工する構成であるが、これに限定されない。例えば、膜・触媒層接合体の製造装置は、第1触媒層9Aに触媒材料を重ね塗りする構成であってもよい。詳しくは、第1触媒層9Aは、電解質膜90の第2面に形成される。触媒層検知部40は、電解質膜90の第2面に形成された第1触媒層9Aを、被塗工領域として検知する。そして、塗工部30は、その第2面の被塗工領域に対して、触媒材料を塗工する。
【0091】
また、電解質膜90に枠体が形成されていて、膜・触媒層接合体の製造装置は、その枠体内に、触媒材料を塗工する構成であってもよい。この場合、触媒層検知部40は、電解質膜90の枠体の内側を、被塗工領域として検知する。そして、塗工部30は、その枠体の内側に対して、触媒材料を塗工する。
【符号の説明】
【0092】
1 膜・触媒層接合体の製造装置
9A 第1触媒層
9B ウェット膜
9C 第2触媒層
10 吸着ローラ
30 塗工部
31 ノズル
40 触媒層検知部
41 ファイバーセンサ
41A センサカバー(検出部用カバー)
42 角度調節機構
50 乾燥炉
70 制御部
71 演算処理部
72 メモリ
73 記憶部
90 電解質膜
91 第1支持フィルム
92 積層基材
93 第2支持フィルム
95 膜・触媒層接合体
311 吐出口
421 固定ブラケット
422 回転軸
423 固定部材
424 割りカラー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9