(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。以下では、本発明の「塗工装置」を、固体高分子形燃料電池用の膜・触媒層接合体を製造する膜・触媒層接合体の製造装置として説明する。
【0025】
<1.膜・触媒層接合体の製造装置の構成について>
図1は、本発明の実施形態に係る膜・触媒層接合体の製造装置1の構成を示した図である。この製造装置1は、固体高分子形燃料電池用の膜・電極接合体(MEA:Membrane-Electrode-Assembly)の製造過程に用いられる装置である。製造装置1は、長尺帯状の基材である電解質膜の表面に触媒層を形成して、膜・触媒層接合体(CCM:Catalyst-coated Membrane)を製造する。
【0026】
膜・触媒層接合体の製造装置1は、吸着ローラ10、電解質膜供給部20、塗工部30、触媒層検知部40、乾燥炉50、接合体回収部60および制御部70を備えている。
【0027】
吸着ローラ10は、基材である電解質膜90を吸着保持しつつ回転するローラである。吸着ローラ10は、複数の吸着孔を有する円筒状の外周面を有する。吸着ローラ10の直径は、例えば、200mm〜1600mmとされる。吸着ローラ10には、モータ等の駆動源を有する回転駆動部が接続される。その回転駆動部を動作させると、吸着ローラ10は、水平に延びる軸心周りに回転する。吸着ローラ10は、本発明の「搬送部」の一例である。
【0028】
吸着ローラ10の材料には、例えば、多孔質カーボンまたは多孔質セラミックス等の多孔質材料が用いられる。多孔質セラミックスの具体例としては、アルミナ(Al
2O
3)または炭化ケイ素(SiC)の焼結体を挙げることができる。多孔質の吸着ローラ10における気孔径は、例えば5μm以下とされ、気孔率は、例えば15%〜50%とされる。
【0029】
なお、吸着ローラ10の材料に、多孔質材料に代えて、金属を用いてもよい。金属の具体例としては、SUS等のステンレスまたは鉄を挙げることができる。吸着ローラ10の材料に金属を用いる場合には、吸着ローラ10の外周面に、微小な吸着孔を、加工により形成すればよい。吸着孔の直径は、吸着痕の発生を防止するために、2mm以下とすることが好ましい。
【0030】
吸着ローラ10の端面には、不図示の吸引口が設けられている。吸引口は、吸引機構(例えば、排気ポンプ)に接続される。吸引機構を動作させると、吸着ローラ10の吸引口に負圧が生じる。そして、吸着ローラ10内の気孔を介して、吸着ローラ10の外周面に設けられた複数の吸着孔にも、負圧が発生する。電解質膜90は、当該負圧によって、吸着ローラ10の外周面に吸着保持されつつ、吸着ローラ10の回転によって円弧状に搬送される。
【0031】
電解質膜供給部20は、積層基材92を、吸着ローラ10へ供給する。積層基材92は、電解質膜90および第1支持フィルム91の2層で構成される。電解質膜供給部20は、その積層基材92を吸着ローラ10へ供給する際、電解質膜90から第1支持フィルム91を剥離する。そして、電解質膜90を吸着ローラ10へ供給するとともに、第1支持フィルム91を回収する。
【0032】
電解質膜90には、例えば、フッ素系または炭化水素系の高分子電解質膜が用いられる。電解質膜90の具体例としては、パーフルオロカーボンスルホン酸を含む高分子電解質膜(例えば、米国DuPont社製のNafion(登録商標)、旭硝子(株)製のFlemion(登録商標)、旭化成(株)製のAciplex(登録商標)、ゴア(Gore)社製のGoreselect(登録商標))を挙げることができる。電解質膜90の膜厚は、例えば、5μm〜30μmとされる。電解質膜90は、大気中の湿気によって膨潤する一方、湿度が低くなると収縮する。すなわち、電解質膜90は、大気中の湿度に応じて変形しやすい性質を有する。
【0033】
第1支持フィルム91は、電解質膜90の変形を抑制するためのフィルムである。第1支持フィルム91の材料には、電解質膜90よりも機械的強度が高く、形状保持機能に優れた樹脂が用いられる。第1支持フィルム91の具体例としては、PEN(ポリエチレンナフタレート)またはPET(ポリエチレンテレフタレート)のフィルムを挙げることができる。第1支持フィルム91の膜厚は、例えば25μm〜100μmとされる。
【0034】
電解質膜供給部20は、積層基材供給ローラ21、複数の積層基材搬入ローラ22、剥離ローラ23、複数の第1支持フィルム搬出ローラ24および第1支持フィルム回収ローラ25を有する。積層基材供給ローラ21、複数の積層基材搬入ローラ22、剥離ローラ23、複数の第1支持フィルム搬出ローラ24および第1支持フィルム回収ローラ25は、いずれも、吸着ローラ10と平行に配置される。
【0035】
積層基材供給ローラ21には、第1支持フィルム91が内側となるように、積層基材92が巻き付けられている。本実施形態では、電解質膜90の、第1支持フィルム91とは反対側の面(以下、「第1面」と称する)に、予め触媒層(以下、「第1触媒層9A」と称する)が形成されている。第1触媒層9Aは、製造装置1とは別の装置において、電解質膜90の第1面に触媒材料が間欠塗工され、その触媒材料が乾燥されることによって形成される。
【0036】
積層基材供給ローラ21は、図示を省略したモータの動力により回転する。積層基材供給ローラ21が回転すると、積層基材92は、積層基材供給ローラ21から繰り出される。繰り出された積層基材92は、複数の積層基材搬入ローラ22により案内されつつ、所定の搬入経路に沿って、剥離ローラ23まで搬送される。
【0037】
図2は、吸着ローラ10付近の拡大図である。
【0038】
剥離ローラ23は、電解質膜90から第1支持フィルム91を剥離するためのローラである。剥離ローラ23は、吸着ローラ10よりも径の小さい円筒状の外周面を有する。剥離ローラ23の少なくとも外周面は、弾性体により形成される。剥離ローラ23は、図示を省略したエアシリンダによって、吸着ローラ10側へ加圧されている。
【0039】
複数の積層基材搬入ローラ22により搬入される積層基材92は、吸着ローラ10と剥離ローラ23との間へ導入される。なお、吸着ローラ10の回転方向の上流側において、多孔質基材99が吸着ローラ10に供給される。そして、多孔質基材99は、吸着ローラ10の外周面に吸着保持されつつ、吸着ローラ10の回転によって、円弧状に搬送される。吸着ローラ10と剥離ローラ23との間へ導入された積層基材92の電解質膜90の第1面は、第1触媒層9Aとともに、吸着ローラ10に保持された多孔質基材99の表面に接触する。また、積層基材92の第1支持フィルム91は、剥離ローラ23の外周面に接触する。なお、
図2では、理解容易のため、吸着ローラ10および多孔質基材99が、間隔を空けて図示されているとともに、多孔質基材99および電解質膜90も、間隔を空けて図示されている。なお、
図1においては多孔質基材99に関する図示を省略している。
【0040】
この状態で、積層基材92は、剥離ローラ23から受ける圧力で、吸着ローラ10側へ押し付けられる。吸着ローラ10に保持された多孔質基材99の表面には、吸着ローラ10からの吸引力によって、負圧が生じる。電解質膜90は、当該負圧によって、多孔質基材99の表面に吸着される。そして、電解質膜90は、多孔質基材99とともに吸着ローラ10に保持されつつ、吸着ローラ10の回転によって、円弧状に搬送される。一方、第1支持フィルム91は、電解質膜90から剥離される。その結果、吸着ローラ10に保持される、電解質膜90の第1面とは反対側の面(以下、「第2面」と称する)は露出する。
【0041】
このように、本実施形態では、吸着ローラ10の外周面と電解質膜90との間に、多孔質基材99を介在させる。このため、吸着ローラ10の外周面と、電解質膜90の第1面に形成された第1触媒層9Aとは、直接接触しない。したがって、第1触媒層9Aの一部が吸着ローラ10の外周面に付着したり、吸着ローラ10の外周面から電解質膜90へ異物が転載されたりすることを、防止できる。
【0042】
なお、多孔質基材99は、後述の接合体回収部60よりも、吸着ローラ10の回転方向の下流側で、吸着ローラ10から離れて、回収される。
【0043】
電解質膜90から剥離した第1支持フィルム91は、複数の第1支持フィルム搬出ローラ24側へ搬送される。第1支持フィルム91は、複数の第1支持フィルム搬出ローラ24により案内されつつ、所定の搬出経路に沿って、第1支持フィルム回収ローラ25まで搬送される。第1支持フィルム回収ローラ25は、図示を省略したモータの動力により回転する。これにより、第1支持フィルム91が、第1支持フィルム回収ローラ25に巻き取られる。
【0044】
塗工部30は、吸着ローラ10の周囲において、電解質膜90の第2面に、塗工液である触媒材料を塗工する機構である。触媒材料には、例えば、白金(Pt)を含む触媒粒子をアルコールなどの溶媒中に分散させた触媒材料が用いられる。塗工部30は、ノズル31、開閉弁32および触媒材料供給源33を有する。
【0045】
ノズル31は、吸着ローラ10による電解質膜90の搬送方向において、剥離ローラ23よりも下流側に設けられている。ノズル31は、吸着ローラ10の外周面に対向する吐出口311を有する。吐出口311は、吸着ローラ10の外周面に沿って、吸着ローラ10の幅方向に延びるスリット状の開口である。ノズル31は、吐出口311の先端に触媒材料の液溜まりを形成する。そして、吸着ローラ10の外周面で搬送される電解質膜90の第2面の被塗工領域に、液溜まりを接触させる。これにより、電解質膜90の第2面の被塗工領域に、触媒材料が塗工され、触媒材料のウェット膜9Bが形成される。このウェット膜9Bは、後述の乾燥炉50により乾燥されることで、触媒層(以下、「第2触媒層9C」と称す)となる。
【0046】
なお、被塗工領域は、ノズル31よりも、搬送方向の上流側に配置される触媒層検知部40によって検出される。この被塗工領域は、電解質膜90の第1面に形成された第1触媒層9Aと重なる領域である。つまり、第1触媒層9Aと、第2触媒層9Cとは、重なり合う位置に形成される。換言すれば、触媒層検知部40は、複数の塗膜である複数のウェット膜9Bを長手方向に形成すべき複数の被塗膜領域を検出する。
【0047】
開閉弁32は、ノズル31による触媒材料の吐出動作を、実行させ、または停止させる。開閉弁32は、ノズル31と、触媒材料供給源33とをつなぐ給液配管の途中に設けられる。開閉弁32を開放すると、触媒材料供給源33から、ノズル31に触媒材料が供給される。そうすると、吐出口311の先端に、触媒材料の液溜まりが形成される。これにより、ノズル31による吐出動作が実行可能となる。一方で、開閉弁32を閉鎖すると、ノズル31への触媒材料の供給が停止する。これにより、吐出口311先端での液溜まりの形成が停止され、ノズル31による触媒材料の吐出動作が停止される。
【0048】
なお、触媒材料中の触媒粒子には、高分子形燃料電池のアノードまたはカソードにおいて燃料電池反応を起こす材料が用いられる。具体的には、白金(Pt)、白金合金、白金化合物等の粒子を、触媒粒子として用いることができる。白金合金の例としては、例えば、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、イリジウム(Ir)、鉄(Fe)等からなる群から選択される少なくとも1種の金属と白金との合金を挙げることができる。一般的には、カソード用の触媒材料には白金が用いられ、アノード用の触媒材料には白金合金が用いられる。ノズル31から吐出される触媒材料は、カソード用であってもアノード用であってもよい。ただし、電解質膜90の第1面に形成される第1触媒層9Aと、電解質膜90の第2面に形成される第2触媒層9Cには、互いに逆極性の触媒材料が用いられる。
【0049】
触媒層検知部40は、吸着ローラ10の外周面に対向する位置であって、塗工部30よりも、吸着ローラ10の回転方向の上流側に配置されている。触媒層検知部40は、電解質膜90の第2面において、塗工部30が触媒材料を塗工すべき被塗工領域を検出する。前記のように、被塗工領域は、第1触媒層9Aと重なる領域である。触媒層検知部40は、吸着ローラ10により搬送される電解質膜90の第2面側から、電解質膜90の第1面に形成された第1触媒層9Aを検出することで、被塗工領域を検出する。
【0050】
触媒層検知部40はファイバーセンサ41を有する。ファイバーセンサ41は、図示を省略した光ファイバーを介して、光学計測装置に接続されている。光学計測装置は、光源および受光部を有する。光学計測装置の光源から発せられた光は、光ファイバーを介してファイバーセンサ41に伝送される。ファイバーセンサ41は、光ファイバー内を伝送された光を、電解質膜90の第2面に向けて照射する。ファイバーセンサ41は、その反射光を受光し、受光した光を、光ファイバーを経由して光学計測装置の受光部へ入射する。そして、光学計測装置において、入射された光に基づいて、対象物の存在が検出される。
【0051】
本実施形態では、電解質膜90は透明である。第1触媒層9Aは、黒色など、吸光係数の高い色であるとする。この場合、ファイバーセンサ41から照射された光は、電解質膜90を透過する。そして、光の照射先に第1触媒層9Aが存在すると、電解質膜90を透過した光の多くは第1触媒層9Aで吸収される。一方、光の照射先に第1触媒層9Aが存在しないと、電解質膜90を透過した光は、吸収されることなく、他の部位(例えば、吸着ローラ10の外周面)で反射する。つまり、光の照射先に第1触媒層9Aが存在するか否かで、ファイバーセンサ41が受光する反射光の光量が変わる。触媒層検知部40は、この光量の違いから、第1触媒層9Aの存在を検出する。
【0052】
このように、触媒層検知部40は、電解質膜90の第1面に形成された第1触媒層9Aを、電解質膜90の第2面側から検出できる。光の照射にファイバーセンサ41を用いることで、スペースを十分に確保できない場合でも、触媒層検知部40の設置が可能である。
【0053】
ファイバーセンサ41は、塗工部30のノズル31に対して近接配置されている。このため、触媒層検知部40が被塗工領域を検出する直後に塗工を開始することで、検出された被塗工領域に対して、触媒材料を塗工できる。つまり、塗工位置を検出するためだけに、電解質膜90を搬送させる必要がない。その結果、電解質膜90に、ウェット膜9Bが形成されない領域が生じることを防止できる。触媒層検知部40による被塗工領域の検出タイミングと、塗工部30による塗工開始タイミングとの関係については、後述する。
【0054】
なお、ファイバーセンサ41と、ノズル31との間には、センサカバー(検出部用カバー)41Aが設けられている。ファイバーセンサ41は、ノズル31に近接配置されている。このセンサカバー41は、ノズル31からの触媒材料が、ファイバーセンサ41に付着することを防止する。
【0055】
触媒層検知部40は、ファイバーセンサ41の照射角度を調節する角度調節機構42を有する。
図3は、角度調節機構42の平面図である。
図4は、
図3のIV―IV線における断面図である。
【0056】
図3に示すように、本実施形態では、触媒層検知部40は、2つのファイバーセンサ41を有する。2つのファイバーセンサ41は、吸着ローラ10の幅方向に沿って、距離を開けて配置されている。つまり、触媒層検知部40は、吸着ローラ10の幅方向における2点で、被塗工領域を検出する。これにより、ファイバーセンサ41が1つの場合よりも、触媒層検知部40による被塗工領域の検出精度は向上する。
【0057】
角度調節機構42は、一対の固定ブラケット421を有する。一対の固定ブラケット421は、吸着ローラ10の外周面の外側に、吸着ローラ10の幅方向の長さよりも広い間隔で、対向配置されている。一対の固定ブラケット421の間には、センサカバー41Aと、回転軸422とが設けられている。
【0058】
回転軸422は、円柱形状であって、吸着ローラ10の幅方向に延びる。回転軸422は、一対の固定ブラケット421により回転自在に支持されている。回転軸422における、吸着ローラ10の外周面に対向する位置には、2つのファイバーセンサ41を固定する固定部材423が設けられている。固定部材423は、回転軸422とともに回転する。
【0059】
一対の固定ブラケット421に対して回転自在な回転軸422は、割りカラー424により締結されることで、固定ブラケット421に固定される。割りカラー424と、固定ブラケット421とは、ボルト421Aで固定される。
【0060】
割りカラー424は、軸方向に円柱形状の空洞を有する円筒状である。割りカラー424は、円周部分の一部に切り欠き424Aを有しており、軸方向からの平面視で、C字形状となっている。割りカラー424の空洞の径は、回転軸422の径よりも小さい。そして、割りカラー424は、切り欠き424Aが広げられた状態で、回転軸422が挿入可能となっている。空洞に回転軸422を挿入した状態で、ボルト424Bで切り欠き424Aを狭めるように締結することで、回転軸422は割りカラー424に固定される。
【0061】
このように構成された角度調節機構42において、ボルト421Aおよびボルト424Bを緩めることで(または取り外すことで)、回転軸422は、一対の固定ブラケット421に対して回転する。回転軸422が回転すると、固定部材423に固定された2つのファイバーセンサ41も回転する。これにより、2つのファイバーセンサ41の照射角度を調整できる。調整後、ボルト421Aおよびボルト424Bを締めて、固定ブラケット421に固定することで、2つのファイバーセンサ41は、所望の照射角度を維持した状態となる。
【0062】
この角度調節機構42により、第1触媒層9Aに応じて、ファイバーセンサ41の照射角度を調整することで、より確実に被塗工領域を検出できる。例えば、前記のように、第1触媒層9Aが黒色などである場合には、光の照射先に第1触媒層9Aが存在する場合と、存在しない場合とで、反射光の光量の変化が大きく、第1触媒層9Aを検出できる。
【0063】
これに対し、第1触媒層9Aが、電解質膜90と同じ透明である場合、反射光の光量の変化が小さく、第1触媒層9Aを検出することが難しい。例えば、第1触媒層9Aに対するファイバーセンサ41の照射角度を垂直とした場合、反射光の散乱量は少ない。その結果、照射位置によらず、ファイバーセンサ41が受光する反射光の光量は多く、全体的に反射光量の変化は小さい。
【0064】
そこで、
図5のパターン(A)で示すように、照射光が第1触媒層9Aの端部を交差するように、ファイバーセンサ41の照射角度を調整する。
図5は、透明な第1触媒層9Aに対するファイバーセンサ41の最適な照射角度を説明するための図である。
図5において、実線矢印は、照射光を示し、破線矢印は、反射光を示す。
図5のパターン(A)と、パターン(B)と、パターン(C)とでは、反射状態が異なる。この場合、反射光の散乱量の違いから、パターン(B)、パターン(A)、パターン(C)の順に、ファイバーセンサ41が受光する反射光の光量は多くなる。この反射光の光量の違いから、触媒層検知部40は被塗工領域を検出できる。このように、ファイバーセンサ41の照射角度を調整することで、被塗工領域の検知精度を向上させることができる。
【0065】
図1に戻る。乾燥炉50は、電解質膜90の第2面に形成されたウェット膜9Bを乾燥させる部位である。乾燥炉50は、吸着ローラ10による電解質膜90の搬送方向において、塗工部30よりも下流側に配置されている。また、乾燥炉50は、吸着ローラ10の外周面に沿って、円弧状に設けられている。乾燥炉50は、吸着ローラ10の周囲において、電解質膜90の第2面に、加熱された気体(熱風)を吹き付ける。そうすると、電解質膜90の第2面に形成されたウェット膜9Bが加熱され、触媒材料中の溶剤が気化する。これにより、ウェット膜9Bが乾燥して、電解質膜90の第2面に第2触媒層9Cが形成される。その結果、電解質膜90、第1触媒層9Aおよび第2触媒層9Cで構成される膜・触媒層接合体95が得られる。
【0066】
接合体回収部60は、膜・触媒層接合体95に第2支持フィルム93を貼り付けて、膜・触媒層接合体95を回収する部位である。接合体回収部60は、第2支持フィルム供給ローラ61、複数の第2支持フィルム搬入ローラ62、ラミネートローラ63、複数の接合体搬出ローラ64および接合体回収ローラ65を有する。第2支持フィルム供給ローラ61、複数の第2支持フィルム搬入ローラ62、ラミネートローラ63、複数の接合体搬出ローラ64および接合体回収ローラ65は、いずれも、吸着ローラ10と平行に配置される。
【0067】
第2支持フィルム供給ローラ61には、第2支持フィルム93が巻き付けられている。第2支持フィルム供給ローラ61は、図示を省略したモータの動力により回転する。第2支持フィルム供給ローラ61が回転すると、第2支持フィルム93は、第2支持フィルム供給ローラ61から繰り出される。繰り出された第2支持フィルム93は、複数の第2支持フィルム搬入ローラ62により案内されつつ、所定の搬入経路に沿って、ラミネートローラ63まで搬送される。
【0068】
第2支持フィルム93の材料には、電解質膜90よりも機械的強度が高く、形状保持機能に優れた樹脂が用いられる。第2支持フィルム93の具体例としては、PEN(ポリエチレンナフタレート)またはPET(ポリエチレンテレフタレート)のフィルムを挙げることができる。第2支持フィルム93の膜厚は、例えば25μm〜100μmとされる。第2支持フィルム93は、第1支持フィルム91と同じものであってもよい。また、第1支持フィルム回収ローラ25に巻き取られた第1支持フィルム91を、第2支持フィルム93として第2支持フィルム供給ローラ61から繰り出すようにしてもよい。
【0069】
ラミネートローラ63は、膜・触媒層接合体95に第2支持フィルム93を貼り付けるためのローラである。ラミネートローラ63の材料には、例えば、耐熱性の高いゴムが用いられる。ラミネートローラ63は、吸着ローラ10よりも径の小さい円筒状の外周面を有する。ラミネートローラ63は、吸着ローラ10の回転方向において、乾燥炉50よりも下流側において、吸着ローラ10に隣接配置されている。また、ラミネートローラ63は、図示を省略したエアシリンダによって、吸着ローラ10側へ加圧されている。
【0070】
複数の第2支持フィルム搬入ローラ62により搬入される第2支持フィルム93は、吸着ローラ10の周囲において搬送される膜・触媒層接合体95とラミネートローラ63との間へ導入される。このとき、第2支持フィルム93は、ラミネートローラ63からの圧力により、膜・触媒層接合体95に押し付けられるとともに、ラミネートローラ63の熱により加熱される。その結果、電解質膜90の第2面に、第2支持フィルム93が貼り付けられる。電解質膜90の第2面に形成された第2触媒層9Cは、電解質膜90と第2支持フィルム93との間に挟まれる。
【0071】
吸着ローラ10とラミネートローラ63との間を通過した第2支持フィルム93付きの膜・触媒層接合体95は、吸着ローラ10から離れる方向へ搬送される。これにより、多孔質基材99から膜・触媒層接合体95が剥離される。
【0072】
また、本実施形態では、ラミネートローラ63の近傍に、押圧ローラ632が配置されている。押圧ローラ632は、吸着ローラ10とラミネートローラ63との間の隙間よりも、膜・触媒層接合体95の搬送方向下流側において、ラミネートローラ63に隣接配置されている。また、押圧ローラ632は、図示を省略したエアシリンダによって、ラミネートローラ63側へ加圧されている。多孔質基材99から離れた第2支持フィルム93付きの膜・触媒層接合体95は、続いて、ラミネートローラ63と押圧ローラ632との間を通過する。これにより、電解質膜90の第2面に対する第2支持フィルム93の密着性が向上する。
【0073】
その後、第2支持フィルム93付きの膜・触媒層接合体95は、複数の接合体搬出ローラ64により案内されつつ、所定の搬出経路に沿って、接合体回収ローラ65まで搬送される。接合体回収ローラ65は、図示を省略したモータの動力により回転する。これにより、第2支持フィルム93付きの膜・触媒層接合体95が、第2支持フィルム93が外側となるように、接合体回収ローラ65に巻き取られる。
【0074】
制御部70は、製造装置1内の各部を動作制御するための手段である。
図6は、制御部70と、製造装置1内の各部との接続を示したブロック図である。
図6中に概念的に示したように、制御部70は、CPU等の演算処理部71、RAM等のメモリ72およびハードディスクドライブ等の記憶部73を有するコンピュータにより構成される。記憶部73内には、膜・触媒層接合体の製造処理を実行するためのコンピュータプログラムPが、インストールされている。
【0075】
また、
図6に示すように、制御部70は、上述した吸着ローラ10の回転駆動部、吸着ローラ10の吸引機構、積層基材供給ローラ21のモータ、剥離ローラ23のエアシリンダ、第1支持フィルム回収ローラ25のモータ、塗工部30の開閉弁32、触媒層検知部40の光学計測装置の光源および受光部、乾燥炉50、第2支持フィルム供給ローラ61のモータ、ラミネートローラ63のエアシリンダ、ラミネートローラ63のヒータ631、押圧ローラ632のエアシリンダ、ならびに、接合体回収ローラ65のモータと、それぞれ通信可能に接続されている。
【0076】
制御部70は、記憶部73に記憶されたコンピュータプログラムPおよびデータをメモリ72に一時的に読み出し、当該コンピュータプログラムPに基づいて、演算処理部71が演算処理を行うことにより、上記の各部を動作制御する。これにより、製造装置1における膜・触媒層接合体の製造処理が進行する。
【0077】
<2.被塗工領域の検出および塗工について>
<2.1.ノズル31とファイバーセンサ41との配置について>
図7は、ノズル31と、ファイバーセンサ41との配置関係を説明するための図である。
図7は、吸着ローラ10に保持される電解質膜90を、第2面側から視た図である。以下の説明では、搬送方向の下流側となる、第1触媒層9Aの一端を「開始端」と称する。また、搬送方向の上流側となる、第1触媒層9Aの他端を「終端」と称する。
【0078】
ノズル31による触媒材料の塗工位置と、ファイバーセンサ41による光の照射位置との間の距離を、d1で表す。また、搬送方向の下流側となる、一の第1触媒層9Aの開始端と、一の第1触媒層9Aに搬送方向に隣接する第1触媒層9Aの開始端との間の距離を、d2で表す。この場合において、ノズル31と、ファイバーセンサ41とは、d1<d2の関係を満して配置される。
【0079】
<2.2.触媒材料の塗工タイミングについて>
図8は、第1触媒層9Aの検出タイミングと、触媒材料の塗工タイミングとを説明するためのタイムチャートである。
【0080】
図8に示すタイミングA1は、触媒層検知部40が、第1触媒層9Aの開始端を検出するタイミングである。
図8に示すタイミングA2は、触媒層検知部40が、第1触媒層9Aの終端を検出するタイミングである。そして、タイミングA1からタイミングA2までの時間を、T1で表す。
【0081】
図8に示すタイミングBは、塗工部30が触媒材料の塗工を開始するタイミングである。塗工部30は、タイミングA1から、時間T2(<T1)経過後に、触媒材料の塗工を開始する。時間T2は、
図7に示す距離d1と、吸着ローラ10の回転速度とから算出される。つまり、時間T2は、搬送される電解質膜90に形成される第1触媒層9Aの開始端が、光の照射位置を通過してから、塗工位置に到達するまでの時間である。
【0082】
そして、塗工部30は、時間T1の間、塗工し続ける。時間T1は、前記の通り、触媒層検知部40が、第1触媒層9Aの開始端を検出してから、終端を検出するまでの時間である。換言すれば、時間T1は、被塗工領域の搬送方向の移動時間である。この時間T1の間、塗工し続けることで、一の被塗工領域の開始端から終端まで全体にわたって、触媒材料が塗工される。このように、触媒層検知部40による塗装工領域の検出時間(時間T1)と同じ時間、塗工することで、塗工部30による塗工処理が容易となる。
【0083】
なお、塗工部30は、タイミングA1から、吸着ローラ10の駆動パルスから換算した、吸着ローラ10の移動距離が距離d1となったときに、塗工を開始してもよい。
【0084】
このように、ノズル31と、ファイバーセンサ41とを近接配置し、被塗工領域の検出直後に塗工を開始することで、検出された被塗工領域に対して、触媒材料を塗工できる。つまり、塗工位置を検出するためだけに、電解質膜90を搬送させる必要がない。その結果、ウェット膜9Bが形成されない状態で電解質膜90が搬送されて、電解質膜90に無駄な領域が形成されることを防止できる。
【0085】
<3.塗工部30による塗工時の動作について>
図9は、塗工部30による塗工時の流れを示すフローチャートである。
【0086】
吸着ローラ10で電解質膜90を支持しつつ回転して、電解質膜90を、予め定められた搬送速度により、搬送方向に向かって搬送する(ステップS1)。次に、電解質膜90の搬送を継続しつつ、触媒層検知部40のファイバーセンサ41から光を照射する(ステップS2)。触媒層検知部40は、反射光を受光することで、第1触媒層9Aを検出する(ステップS3)。具体的には、触媒層検知部40は、第1触媒層9Aの開始端を検出する。
【0087】
第1触媒層9Aの開始端を検出すると、塗工部30は、開閉弁32を開放して(ステップS4)、触媒材料の塗工を開始して、ウェット膜9Bを形成する(ステップS5)。ステップS5では、塗工部30は、ステップS3で、触媒層検知部40が、第1触媒層9Aの開始端を検出してから、時間T2経過後に、触媒材料の塗工を開始する。そして、時間T1の間、触媒材料を塗工し続ける。これにより、電解質膜90の第2面において、第1触媒層9Aと重なる被塗工領域に、電子材料を塗工して、ウェット膜9Bを形成できる。
【0088】
塗工処理を終了する場合(ステップS6でYES)、本処理は終了する。塗工処理を終了しない場合(ステップS6でNO)、ステップS2の処理を実行する。なお、塗工処理を終了する場合とは、例えば、製造装置1による製造を停止する場合、電解質膜90の搬送を停止する場合などである。
【0089】
以上、本発明の主たる実施形態について説明したが、製造装置1の細部の構成については、本願の各図と相違していてもよい。
【0090】
例えば、上記の実施形態の膜・触媒層接合体の製造装置1は、電解質膜90に第1触媒層9Aが形成された第1面と反対側の第2面に対して、触媒材料を塗工する構成であるが、これに限定されない。例えば、膜・触媒層接合体の製造装置は、第1触媒層9Aに触媒材料を重ね塗りする構成であってもよい。詳しくは、第1触媒層9Aは、電解質膜90の第2面に形成される。触媒層検知部40は、電解質膜90の第2面に形成された第1触媒層9Aを、被塗工領域として検知する。そして、塗工部30は、その第2面の被塗工領域に対して、触媒材料を塗工する。
【0091】
また、電解質膜90に枠体が形成されていて、膜・触媒層接合体の製造装置は、その枠体内に、触媒材料を塗工する構成であってもよい。この場合、触媒層検知部40は、電解質膜90の枠体の内側を、被塗工領域として検知する。そして、塗工部30は、その枠体の内側に対して、触媒材料を塗工する。