特許第6869069号(P6869069)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6869069
(24)【登録日】2021年4月15日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】電磁式加振装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 7/02 20060101AFI20210426BHJP
【FI】
   G01M7/02 B
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-59654(P2017-59654)
(22)【出願日】2017年3月24日
(65)【公開番号】特開2018-163009(P2018-163009A)
(43)【公開日】2018年10月18日
【審査請求日】2020年1月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西田 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】五島 設喜
【審査官】 岡村 典子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−180032(JP,A)
【文献】 特開昭60−125280(JP,A)
【文献】 特開2005−091144(JP,A)
【文献】 特開平07−098262(JP,A)
【文献】 特開2013−029331(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 7/02
G01H 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉格納容器の隔壁によって仕切られたループ室内の底床に設置され、上下方向に延在する長尺の胴部と、この胴部の下端部に連結された複数の支持脚とを有する蒸気発生器を加振する電磁式加振装置であって、
前記胴部の上半分をなす上部胴を挟んで配置され、前記隔壁から延びる支持部に支持される一対の電磁コイルを備え、所定の加振波形を有する励磁電流の正半波成分を一方の前記電磁コイルに、該励磁電流の負半波成分を他方の前記電磁コイルにそれぞれ入力し、前記蒸気発生器を一対の前記電磁コイルの電磁力により交互に吸引して加振することを特徴とする電磁式加振装置。
【請求項2】
一対の前記電磁コイルは、前記上部胴を挟んで対向配置されることを特徴とする請求項1に記載の電磁式加振装置。
【請求項3】
前記加振波形の前記正半波成分と前記負半波成分とをそれぞれ生成する波形生成部を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の電磁式加振装置。
【請求項4】
前記加振波形を発振する発振部と、発振された前記加振波形の励磁電流を前記正半波成分と前記負半波成分とにそれぞれ整流する整流部と、を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の電磁式加振装置。
【請求項5】
前記整流部は半導体ダイオードであることを特徴とする請求項4に記載の電磁式加振装置。
【請求項6】
前記発振部と前記整流部との間に増幅部を備えたことを特徴とする請求項4または5に記載の電磁式加振装置。
【請求項7】
一対の前記電磁コイルの加振力をそれぞれ計測する加振力計測部と、測定された加振力に基づいて前記加振波形を制御する制御部と、を備えたことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の電磁式加振装置。
【請求項8】
一対の前記電磁コイルの磁束密度をそれぞれ計測する磁束密度計測部と、測定された磁束密度に基づいて前記加振波形を制御する制御部と、を備えたことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の電磁式加振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加振対象構造物に対して電磁力により加振を行う電磁式加振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、原子力設備などの各種プラント設備では、大型構造物が数多く設置されている。この種のプラント設備では、新設時や再稼働時に大型構造物(加振対象構造物)を加振して、その減衰比を測定することが要望されている。
【0003】
大型構造物を加振する手段として、従来、加振対象構造物に対向して電磁石を配置すると共に、この電磁石の励磁電流およびその周波数を制御することで、加振対象構造物の加振振幅を制御するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。電磁石を用いて加振する構成では、電磁石は、加振対象構造物に非接触の状態で配置されるため、加振点に電磁石を把持するための構造を要することがなく、さらには、加振点を比較的自由に変更できるため、装置構成が簡素化する利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実公平01−31945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記した従来の構成では、加振対象構造物に電磁力(吸引力)を作用させる電磁石が該加振対象構造物の片側に配置されており、電磁石は吸引力しか発揮することはできないため、所定波形(例えば正弦波などの任意波形)で加振したい場合、加振対象構造物には所定の初期吸引力(プリロード)を付加する必要があった。加振対象構造物に所定の初期吸引力を付加すると、加振対象構造物の振動特性に変化が生じるため、電磁石の励磁電流をオフセットすることが避けられなかった。また、励磁電流のオフセットを抑えるために、加振対象構造物に永久磁石等を設けることも想定されるが、この場合には装置構成が煩雑になる問題がある。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、簡単な装置構成で、励磁電流をオフセットさせることなく、加振対象構造物を加振することができる電磁式加振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る電磁式加振装置は、加振対象構造物を挟んで配置される一対の電磁コイルを備え、所定の加振波形の励磁電流の正半波成分を一方の電磁コイルに、該励磁電流の負半波成分を他方の電磁コイルにそれぞれ入力し、加振対象構造物を一対の電磁コイルの電磁力により交互に吸引することを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、一対の電磁コイルに励磁電流の正半波成分及び負半波成分をそれぞれ入力することにより、加振対象構造物を各電磁コイルの電磁力により交互に吸引することができるため、励磁電流をオフセットさせることなく、加振対象構造物を加振することができる。このため、加振対象構造物の振動特性の変化を抑制した適正な加振を行うことができる。
【0009】
この構成において、一対の電磁コイルは、加振対象構造物を挟んで対向配置されてもよい。この構成によれば、加振対象構造物を、所定の同一直線上の反対の向きにそれぞれ吸引することができ、簡単な装置構成で加振対象構造物をより適正に加振することができる。
【0010】
また、加振波形の正半波成分と負半波成分とをそれぞれ生成する波形生成部を備えてもよい。この構成によれば、波形生成部が加振波形の正半波成分及び負半波成分を任意に生成することができるため、加振状態に応じて、適宜、生成する正半波成分と負半波成分を変更及び修正することができる。
【0011】
また、加振波形を発振する発振部と、発振された加振波形の励磁電流を正半波成分と負半波成分とにそれぞれ整流する整流部と、を備えてもよい。この構成によれば、特殊な波形を発振することは不要であり、整流部によって、任意の加振波形を正半波成分と負半波成分とに整流して分離することができる。このため、加振装置の構成の簡素化を図ることができる。
【0012】
また、整流部は半導体ダイオードであってもよい。この構成によれば、加振装置の小型化及び簡素化を実現できる。
【0013】
また、発振部と整流部との間に増幅部を備えてもよい。この構成によれば、増幅器の台数を削減することができ、コストや機器の設置面積の低減を実現できる。
【0014】
また、一対の電磁コイルの加振力をそれぞれ計測する加振力計測部と、測定された加振力に基づいて加振波形を制御する制御部と、を備えてもよい。この構成よれば、制御部が発振部に、より正確な加振波形を発振させることができ、加振対象構造物をより適正に加振することができる。
【0015】
また、一対の電磁コイルの磁束密度をそれぞれ計測する磁束密度計測部と、測定された磁束密度に基づいて加振波形を制御する制御部と、を備えてもよい。この構成よれば、制御部が発振部に、より正確な加振波形を発振させることができ、加振対象構造物をより適正に加振することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、一対の電磁コイルに励磁電流の正半波成分及び負半波成分をそれぞれ入力することにより、加振対象構造物を各電磁コイルの電磁力により交互に吸引することができるため、励磁電流をオフセットさせることなく、加振対象構造物を加振することができる。このため、加振対象構造物の振動特性の変化を抑制した適正な加振を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、第1実施形態に係る電磁式加振装置が取り付けられた加振対象構造物の概略構成を示す側面図である。
図2図2は、第1実施形態に係る加振装置の機能構成を示すブロック図である。
図3図3は、第2実施形態に係る加振装置の機能構成を示すブロック図である。
図4図4は、第3実施形態に係る加振装置の機能構成を示すブロック図である。
図5図5は、第4実施形態に係る加振装置の機能構成を示すブロック図である。
図6図6は、第5実施形態に係る加振装置の機能構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0019】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る電磁式加振装置が取り付けられた加振対象構造物の概略構成を示す側面図である。本実施形態では、加振対象構造物として、図1に示すような蒸気発生器101を例示して説明する。蒸気発生器101は、加圧水型原子炉を有する原子力設備において原子炉から供給される高温高圧の一次冷却材と、蒸気タービンを可動させる二次冷却材とを熱交換する大型構造物である。
【0020】
蒸気発生器101は、図1に示すように、上下方向に長尺に延在され、かつ密閉された中空円筒形状をなす胴部102を有している。胴部102は、上半部に対して下半部が若干小径とされ、下半部をなす下部胴102a、上半部をなす上部胴102b、下部胴102aと上部胴102bとの間を繋ぐほぼ円錐台形状の円錐胴102c、および上部胴102bの上端に設けられた上部鏡102dで構成されている。また、蒸気発生器101は、下端部に水室鏡103が設けられている。蒸気発生器101は、下部胴102aの内部に、逆U字形状で上下方向に長尺とされた複数の伝熱管が設けられている。また、蒸気発生器101は、上部胴102bの内部に、給水を蒸気と熱水とに分離する気水分離器および分離された蒸気の湿分を除去して乾き蒸気に近い状態とする湿分分離器が設けられている。また、蒸気発生器101は、上部胴102bの下部に、外部から下部胴102a内に二次冷却水の給水を行う給水管111が接続される。また、蒸気発生器101は、上部鏡102dの上端に、蒸気を蒸気排管112が接続される。また、蒸気発生器101は、水室鏡103が胴部102の下部胴102aと管板104により分離されていると共に、内部が隔壁により2つの水室に区画されている。一方の水室は、伝熱管の一方の端部が管板を貫通して連通され、原子炉から一次冷却材が供給される冷却水配管113が接続される。他方の水室は、伝熱管の他方の端部が管板を貫通して連通され、原子炉に一次冷却材を戻す冷却水配管114が接続される。
【0021】
このような蒸気発生器101は、放射線管理区域内にある原子炉格納容器の内部に設置されている。原子炉格納容器は、コンクリートにより堅牢に形成されている。蒸気発生器101は、原子炉格納容器の内部においてコンクリート製の隔壁122によって仕切られたループ室121内に設置されている。蒸気発生器101は、水室鏡103がループ室121の底床123に対して複数(例えば、4本)の支持脚131で連結され、かつ上述した給水管111、蒸気排管112および冷却水配管113,114が接続されることで原子炉格納容器(ループ室121)の内部に支持されている。また、蒸気発生器101は、上部サポート132および下部サポート133を介して隔壁122に支持されている。
【0022】
上部サポート132は、蒸気発生器101の下部胴102aの上端部の周りを囲んで設けられた環状(例えば、八角形状)のリングフレーム132Aと、隔壁122からリングフレーム132Aに向けて水平方向に延在して設けられた支持サポート132Bと、を備える。リングフレーム132Aは、蒸気発生器101側(例えば、円錐胴102c)に対して吊り下げられて設けられている。
【0023】
また、下部サポート133は、蒸気発生器101の水室鏡103の周りを囲んで設けられた環状(例えば、八角形状)のリングフレーム133Aと、隔壁122からリングフレーム133Aに向けて水平方向に延在して設けられた支持サポート133Bと、を備える。リングフレーム133Aは、蒸気発生器101側(例えば、下部胴102aや管板104)に対して吊り下げられて設けられている。
【0024】
上部サポート132は、蒸気発生器101とリングフレーム132Aとの間、及び、リングフレーム132Aと支持サポート132Bとの間に、それぞれ間隔調整装置1を有する。同様に、下部サポート133は、蒸気発生器101とリングフレーム133Aとの間、及び、リングフレーム133Aと支持サポート133Bとの間に、それぞれ間隔調整装置1を有する。
【0025】
間隔調整装置1は、リングフレーム132A,133Aや支持サポート132B,133Bに取り付けられて、蒸気発生器101やリングフレーム132A,133Aに対して、予め所定の間隔をおいて設けられ、当該間隔により蒸気発生器101やリングフレーム132A,133Aの熱伸びの影響を抑制したり、蒸気発生器101やリングフレーム132A,133Aの振動の影響を抑制したりするものである。
【0026】
ところで、蒸気発生器101のような大型構造物は、新設時もしくは再稼働時に、蒸気発生器101を加振すると共に、その振動の減衰比を測定することが求められている。蒸気発生器101の胴部102は、磁性体材料である炭素鋼によって形成されている。このため、本実施形態では、加振対象構造物としての蒸気発生器101には、電磁力を用いて蒸気発生器101を加振する加振装置(電磁式加振装置)10と、その減衰比を計測する減衰比計測装置(不図示)とが設けられている。加振装置10は、図1に示すように、蒸気発生器101の胴部102を挟むように配置された第1電磁コイル11Aと第2電磁コイル11Bとを備える。これら第1電磁コイル11A及び第2電磁コイル11Bは、それぞれ導電性を有する線材(例えば銅金属の線材)から形成される。第1電磁コイル11A及び第2電磁コイル11Bは、それぞれ鉄などの磁性体材料からなる芯材(不図示)に巻き回され、該第1電磁コイル11A及び第2電磁コイル11Bに、それぞれ電流(励磁電流)が供給されることにより電磁力(吸引力)を発生する電磁石を構成する。
【0027】
第1電磁コイル11A及び第2電磁コイル11Bは、蒸気発生器101の上部(上部胴102b)に配置され、例えば、隔壁122に取り付けられたロボットアーム(支持部)140に支持される。第1電磁コイル11A及び第2電磁コイル11Bは、ロボットアーム140の可動範囲内において、蒸気発生器101に対して設置される位置を自由に変更することができる。このため、上部胴102bの周囲に設けられた配管や周辺機器を避けた位置に、第1電磁コイル11A及び第2電磁コイル11Bを自在に設置することができる。
【0028】
また、蒸気発生器101は、上述したように、水室鏡103がループ室121の底床123に、支持脚131により支持されており、蒸気発生器101と、上部サポート132および下部サポート133との間には、蒸気発生器101などの熱伸びの影響を考慮して、所定の間隔が設けられている。従って、本構成においては、加振装置10の第1電磁コイル11A及び第2電磁コイル11Bを、蒸気発生器101の支持脚131(支点)から離間した上部(上部胴102b)に配置することで、蒸気発生器101を効果的に加振することができる。
【0029】
次に、加振装置10の具体的構成について説明する。図2は、第1実施形態に係る加振装置の機能構成を示すブロック図である。図2に示すように、加振装置10は、第1電磁コイル11A及び第2電磁コイル11Bと、第1増幅器12A及び第2増幅器12Bと、デジタルシグナルプロセッサ(波形生成部)13と、を備える。デジタルシグナルプロセッサ13は、第1電磁コイル11Aと第2電磁コイル11Bとにそれぞれ入力される励磁電流の加振信号を生成する。本実施形態では、加振信号として、所定の加振波形(例えば正弦波)の正半波成分WAと負半波成分WBとがそれぞれ生成され、正半波成分WAが第1電磁コイル11Aに供給され、負半波成分WBが第2電磁コイル11Bに供給される。
【0030】
これら正半波成分WAと負半波成分WBとは同期しており、合成することによって、所定の加振波形(例えば正弦波)を形成する。本実施形態では、加振波形として正弦波を例示したがこれに限るものではなく、正半波成分WAと負半波成分WBとが同期している限り、任意の波形とすることができる。さらに、正半波成分WAと負半波成分WBの振幅は、必ずしも同一でなくても良く、一方の振幅が他方よりも大きく形成されていても良い。
【0031】
第1増幅器12A及び第2増幅器12Bは、デジタルシグナルプロセッサ13にて生成された加振信号(加振波形の正半波成分WA及び負半波成分WB)の形状に合わせて励磁電流を増幅して出力する。
【0032】
第1電磁コイル11A及び第2電磁コイル11Bは、入力された励磁電流によって発揮される電磁力を蒸気発生器101に作用させる。電磁力は、励磁電流の大きさが大きいほど大きくなるため、第1電磁コイル11Aは、正半波成分WAの振幅が大きい位相で電磁力(吸引力)を発生させる。同様に、第2電磁コイル11Bは、負半波成分WBの振幅が大きい位相で吸引力を発生させる。正半波成分WAと負半波成分WBとは同期しているため、第1電磁コイル11Aが蒸気発生器101を吸引している時には、第2電磁コイル11Bでは電磁力が発生しない。同様に、第2電磁コイル11Bが蒸気発生器101を吸引している時には、第1電磁コイル11Aでは電磁力が発生しない。このため、第1電磁コイル11Aと第2電磁コイル11Bとが蒸気発生器101を交互に吸引することにより、蒸気発生器101を加振することができる。
【0033】
また、第1電磁コイル11A及び第2電磁コイル11Bは、蒸気発生器101を挟んでお互いに対向して配置されている。このため、蒸気発生器101を、所定の同一直線上の反対の向きにそれぞれ吸引することができ、蒸気発生器101を適正に加振することができる。
【0034】
ここで、蒸気発生器101のような大型構造物を加振する場合、従来構成のように、蒸気発生器101の片側から電磁力により吸引して加振することもできる。しかし、電磁力(電磁石)は吸引力しか発生できないため、正弦波(もしくは任意波形)で加振したい場合、所定の初期吸引力(プリロード)を発生させた状態で、加振力を変動させる必要がある。
【0035】
一般的に、非線形性の強い大型構造物を加振する場合、初期吸引力を付与(入力)すると振動特性が変化してしまうため、初期吸引力を付与することなく加振する要望が高いが、従来の構成では、電磁石から吸引力しか発生できず、励磁電流のオフセットの発生は避けることができなかった。励磁電流をオフセットさせると、非線形性を示す構造物を加振する場合、据付状態から振動特性が変化してしまうことがあり望ましくない。例えば、ガタを有するサポート(構造物)等を加振する場合、地震時のガタ振動挙動を模擬したいのに、オフセット電流があると、常に吸引力が作用した状態となるため、ガタが詰まった状態でしか試験できない等の不具合が生じ得る。また、一般的に、磁性体は磁場をかけた際に、磁力を発生できる上限が決まっており(飽和磁場)、磁場を強くすればいくらでも吸引力を生じるわけではない。このため、加振に寄与しないオフセット成分を入力する構成では、吸引力の容量が、その分低減することになり、結果として最大加振力が制限されてしまう不具合も生じる。このため、加振する際に、励磁電流をオフセットさせない構成が好ましい。
【0036】
本実施形態によれば、加振装置10は、蒸気発生器101を挟むように配置された第1電磁コイル11Aと第2電磁コイル11Bとを備え、所定の加振波形を有する励磁電流の正半波成分WAを第1電磁コイル11Aに、励磁電流の負半波成分WBを第2電磁コイル11Bにそれぞれ入力し、蒸気発生器101を第1電磁コイル11A及び第2電磁コイル11Bが発揮する各電磁力により、交互に吸引して加振するため、従来のように、励磁電流をオフセットさせることなく、簡単な構成で蒸気発生器101を適正に加振することができる。
【0037】
また、本実施形態によれば、第1電磁コイル11A及び第2電磁コイル11Bは、蒸気発生器101を挟んでお互いに対向して配置されているため、蒸気発生器101を、所定の同一直線上の反対の向きにそれぞれ吸引することができ、蒸気発生器101をより適正に加振することができる。
【0038】
また、本実施形態によれば、加振装置10は、所定の加振波形(例えば正弦波)の正半波成分WAと負半波成分WBとをそれぞれ生成する波形生成部としてのデジタルシグナルプロセッサ13を備えるため、所望の正半波成分WAと負半波成分WBを生成することができ、加振状態に応じて、適宜、生成する正半波成分WAと負半波成分WBを変更及び修正することができる。
【0039】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態に係る加振装置20について説明する。図3は、第2実施形態に係る加振装置の機能構成を示すブロック図である。上記した第1実施形態では、加振装置10は、所定の加振波形の正半波成分WAと負半波成分WBとをそれぞれ生成するデジタルシグナルプロセッサ13を備えた構成としたが、本実施形態では、所定の加振波形を整流することにより、正半波成分WAと負半波成分WBとに分波する点で構成を異にしている。第1実施形態と同一の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0040】
加振装置20は、図3に示すように、第1電磁コイル11A及び第2電磁コイル11Bと、第1増幅器12A及び第2増幅器12Bと、第1整流素子21A及び第2整流素子21Bからなる整流部21と、ファンクションジェネレータ(発振部)22と、を備える。ファンクションジェネレータ22は、所定の形状(例えば正弦波)の加振波形Wを発振する。発振される加振波形Wは、連続する波形であれば、振幅や波長が変動する任意な波形であってもよい。
【0041】
整流部21は、ファンクションジェネレータ22から第1増幅器12Aへの流れ(矢印A方向)を許容し、反対の流れ(矢印B方向)を禁止する第1整流素子21Aと、第2増幅器12Bからファンクションジェネレータ22への流れ(矢印B方向)を許容し、反対の流れ(矢印A方向)を禁止する第2整流素子21Bと、を備える。第1整流素子21A及び第2整流素子21Bは、半導体ダイオードを備えて構成されている。
【0042】
ファンクションジェネレータ22から矢印A方向に出力された加振信号(加振波形)は、第1整流素子21Aを通過して整流され、第1増幅器12Aを介して、ファンクションジェネレータ22に戻される。また、ファンクションジェネレータ22から矢印B方向に出力された加振信号(加振波形W)は、第2整流素子21Bを通過して整流され、第2増幅器12Bを介して、ファンクションジェネレータ22に戻される。
【0043】
加振信号(加振波形W)は、第1整流素子21A及び第2整流素子21Bで整流されて、正半波成分WAと負半波成分WBとに分離される。第1増幅器12Aは、励磁電流の正半波成分WAを増幅して第1電磁コイル11Aに供給する。また、第2増幅器12Bは、励磁電流の負半波成分WBを増幅して第2電磁コイル11Bに供給する。
【0044】
本実施形態では、1つの加振波形Wを第1整流素子21A及び第2整流素子21Bにて分離するため、正半波成分WAと負半波成分WBとは同期している。このため、励磁電流の正半波成分WAを第1電磁コイル11Aに供給し、負半波成分WBを第2電磁コイル11Bに供給することにより、第1電磁コイル11A及び第2電磁コイル11Bは、入力された励磁電流によって発揮される電磁力を蒸気発生器101に交互に作用させる。このため、第1電磁コイル11Aと第2電磁コイル11Bとが蒸気発生器101を交互に吸引することにより、蒸気発生器101を加振することができる。
【0045】
本実施形態の加振装置20は、加振波形Wを発振するファンクションジェネレータ22と、発振された加振波形Wの励磁電流を正半波成分WAと負半波成分WBとにそれぞれ整流する第1整流素子21A及び第2整流素子21Bとを備えるため、特殊な波形出力は不要であり、第1整流素子21A及び第2整流素子21Bで任意の加振波形Wを正半波成分WAと負半波成分WBとに分離することができる。このため、加振装置20の構成の簡素化を図ることができる。
【0046】
また、本実施形態によれば、第1整流素子21A及び第2整流素子21Bとして、半導体ダイオードを用いているため、装置の小型化及び簡素化を実現できる。さらに、本実施形態では、加振波形Wを発振するファンクションジェネレータ22は、加振波形を含む加振条件を容易に変更できるため、実際に蒸気発生器101の周囲に加振装置20を配置した場合に、現場での加振条件の変更が容易であり、加振試験の迅速化に寄与することができる。
【0047】
なお、本実施形態では、整流部21の第1整流素子21A及び第2整流素子21Bとして、半導体ダイオードを用いた例を示しているが、加振波形Wを整流することができれば、他の構成を用いることもでき、例えば、水銀整流器やサイリスタを用いても良い。
【0048】
[第3実施形態]
次に、第3実施形態に係る加振装置30について説明する。図4は、第3実施形態に係る加振装置の機能構成を示すブロック図である。上記した第2実施形態では、加振装置20は、所定の加振波形Wを整流して、正半波成分WAと負半波成分WBとに分離した後に、増幅する構成としていたが、本実施形態では、増幅後に整流して、正半波成分WAと負半波成分WBとに分離する点で構成を異にしている。第1実施形態及び第2実施形態と同一の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0049】
加振装置30は、図4に示すように、第1電磁コイル11A及び第2電磁コイル11Bと、第1整流素子31A及び第2整流素子31Bからなる整流部31と、増幅器32と、ファンクションジェネレータ(発振部)22と、を備える。ファンクションジェネレータ22は、所定の加振波形Wを発振して増幅器(増幅部)32に出力する。
【0050】
増幅器32は、発振された所定の加振波形Wの励磁電流を増幅して整流部31に出力する。整流部31は、増幅器32から第1電磁コイル11Aへの流れ(矢印A方向)を許容し、反対の流れ(矢印B方向)を禁止する第1整流素子31Aと、第2電磁コイル11Bから増幅器32への流れ(矢印B方向)を許容し、反対の流れ(矢印A方向)を禁止する第2整流素子31Bと、を備える。第1整流素子31A及び第2整流素子31Bは、大電力用の整流素子であり、半導体ダイオードを備えて構成されている。
【0051】
ファンクションジェネレータ22から出力された加振波形Wの励磁電流は、増幅器32で増幅された後、矢印A方向に流れ、第1整流素子31Aを通過して整流され、第1電磁コイル11Aを介して、増幅器32に戻される。また、ファンクションジェネレータ22から出力された加振波形Wの励磁電流は、増幅器32で増幅された後、矢印B方向に流れ、第2整流素子31Bを通過して整流され、第2電磁コイル11Bを介して、増幅器32に戻される。
【0052】
加振波形Wを有する励磁電流は、第1整流素子31A及び第2整流素子31Bで整流されて、正半波成分WAと負半波成分WBとに分離される。励磁電流の正半波成分WAは、第1電磁コイル11Aに供給される。また、励磁電流の負半波成分WBは、第2電磁コイル11Bに供給される。
【0053】
本実施形態では、ファンクションジェネレータ22から出力された加振波形Wを増幅器32で増幅した後に、第1整流素子31A及び第2整流素子31Bにて分離するため、正半波成分WAと負半波成分WBとは同期している。このため、励磁電流の正半波成分WAを第1電磁コイル11Aに供給し、負半波成分WBを第2電磁コイル11Bに供給することにより、第1電磁コイル11A及び第2電磁コイル11Bは、入力された励磁電流によって発揮される電磁力を蒸気発生器101に交互に作用させる。このため、第1電磁コイル11Aと第2電磁コイル11Bとが蒸気発生器101を交互に吸引することにより、蒸気発生器101を加振することができる。
【0054】
本実施形態の加振装置30は、加振波形Wを発振するファンクションジェネレータ22と、第1整流素子31A及び第2整流素子31Bとの間に、増幅器32を備えているため、第1整流素子31A及び第2整流素子31Bは、増幅器32で増幅した後の励磁電流をそれぞれ整流して、正半波成分WAと負半波成分WBとに分離している。このため、実施形態2の構成と比較して、増幅器の台数を削減することができ、コストや機器の設置面積の低減を実現できる。また、本実施形態では、増幅器32で増幅した後の励磁電流を第1整流素子31A及び第2整流素子31Bにて整流するため、励磁電流の正半波成分WAと負半波成分WBとの周波数特性の向上を図ることができる。
【0055】
[第4実施形態]
次に、第4実施形態に係る加振装置40について説明する。図5は、第4実施形態に係る加振装置の機能構成を示すブロック図である。本実施形態では、各電磁コイルの加振力(電磁力)をそれぞれ計測し、測定された加振力に基づいて加振波形を制御する構成を備える点で第3実施形態と構成を異にする。第1〜第3実施形態と同一の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0056】
加振装置40は、図5に示すように、第1電磁コイル11A及び第2電磁コイル11Bと、第1整流素子31A及び第2整流素子31Bからなる整流部31と、増幅器32と、ファンクションジェネレータ(発振部)22と、第1ロードセル41A及び第2ロードセル41Bと、制御部42とを備える。
【0057】
第1ロードセル41Aは、第1電磁コイル11Aの基端側(蒸気発生器101から離れた側)に配置され、励磁電流の正半波成分WAが供給された際に第1電磁コイル11Aが発揮する電磁力(加振力)を計測する。同様に、第2ロードセル41Bは、第2電磁コイル11Bの基端側(蒸気発生器101から離れた側)に配置され、励磁電流の負半波成分WBが供給された際に第2電磁コイル11Bが発揮する電磁力(加振力)を計測する。本実施形態において、第1ロードセル41A及び第2ロードセル41Bは、加振力を計測する加振力計測部として機能する。
【0058】
第1ロードセル41A及び第2ロードセル41Bは、計測した電磁力(加振力)を制御部42に出力する。制御部42は、計測した電磁力(加振力)の大きさに基づいて、ファンクションジェネレータ22を制御する。具体的には、制御部42は、計測した電磁力(加振力)の最大値を所定の閾値と比較し、最大値が閾値よりも小さい場合には、加振波形Wの振幅を大きくするようにファンクションジェネレータ22を制御する。また、目標加振波形と入力(計測)した加振力の差分を計算し、1ステップごとに差分量を補償するようにファンクションジェネレータ22を制御してもよい。他にも、加振波形Wの周波数(波長)を制御してもよい。
【0059】
一般に、蒸気発生器101のような大型構造物を加振した際の振幅は比較的小さい(mmオーダー)ため、第1電磁コイル11A及び第2電磁コイル11Bが発揮する電磁力の距離依存性は基本的に問題にならない。しかし、本実施形態に係る加振装置40では、第1電磁コイル11A及び第2電磁コイル11Bと、第1電磁コイル11A及び第2電磁コイル11Bが蒸気発生器101に付与した加振力を測定する第1ロードセル41A及び第2ロードセル41Bと、測定した加振力に基づいて、加振波形Wを発振するファンクションジェネレータ22を制御する制御部42とを備えるため、より正確な加振波形Wを発振させることができ、蒸気発生器101を適正に加振することができる。
【0060】
本実施形態では、第1ロードセル41A及び第2ロードセル41Bと、測定した加振力に基づいて、加振波形Wを発振するファンクションジェネレータ22を制御する制御部42とを、第3実施形態の構成に付加した例を説明したが、これに限るものではなく、第1実施形態または第2実施形態の構成に付加してもよいことは勿論である。
【0061】
[第5実施形態]
次に、第5実施形態に係る加振装置50について説明する。図6は、第5実施形態に係る加振装置の機能構成を示すブロック図である。本実施形態では、各電磁コイルの磁束密度をそれぞれ計測し、測定された磁束密度に基づいて加振波形を制御する構成を備える点で第4実施形態と構成を異にする。第1〜第4実施形態と同一の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0062】
加振装置50は、図6に示すように、第1電磁コイル11A及び第2電磁コイル11Bと、第1整流素子31A及び第2整流素子31Bからなる整流部31と、増幅器32と、ファンクションジェネレータ(発振部)22と、第1ホール素子51A及び第2ホール素子51Bと、制御部52とを備える。
【0063】
第1ホール素子51Aは、第1電磁コイル11Aの先端側(蒸気発生器101側)に配置され、励磁電流の正半波成分WAが供給された際に第1電磁コイル11Aの磁束密度を計測する。同様に、第2ホール素子51Bは、第2電磁コイル11Bの先端側(蒸気発生器101側)に配置され、励磁電流の負半波成分WBが供給された際に第2電磁コイル11Bの磁束密度を計測する。本実施形態において、第1ホール素子51A及び第2ホール素子51Bは、磁束密度を計測する磁束密度計測部として機能する。
【0064】
第1ホール素子51A及び第2ホール素子51Bは、計測した磁束密度を制御部52に出力する。制御部52は、計測した磁束密度の大きさに基づいて、ファンクションジェネレータ22を制御する。具体的には、制御部52は、目標加振波形と入力(計測)した磁束密度の差分を計算し、1ステップごとに差分量を補償するようにファンクションジェネレータ22を制御する。他にも、加振波形Wの周波数(波長)を制御してもよい。
【0065】
本実施形態に係る加振装置50では、第1電磁コイル11A及び第2電磁コイル11Bと、第1電磁コイル11A及び第2電磁コイル11Bの磁束密度を測定する第1ホール素子51A及び第2ホール素子51Bと、測定した磁束密度に基づいて、加振波形Wを発振するファンクションジェネレータ22を制御する制御部52とを備えるため、より正確な加振波形Wを発振させることができ、蒸気発生器101を適正に加振することができる。
【0066】
本実施形態では、第1ホール素子51A及び第2ホール素子51Bと、測定した磁束密度に基づいて、加振波形Wを発振するファンクションジェネレータ22を制御する制御部52とを、第3実施形態の構成に付加した例を説明したが、これに限るものではなく、第1実施形態または第2実施形態の構成に付加してもよいことは勿論である。
【0067】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。本実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。本実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。上記した実施形態では、加振装置10〜50が配置される加振対象構造物として、蒸気発生器101を例示したが、これに限るものではなく、加圧水型原子炉を有する原子力設備における様々な構造物であってよいし、例えば、沸騰水型原子炉などの他の原子炉を有する原子力設備における構造物であってもよい。さらに、原子力設備に限らず、例えば、火力発電設備など他の設備に設置される大型構造物であってもよい。
【符号の説明】
【0068】
10、20、30、40、50 加振装置
11A 第1電磁コイル(電磁コイル)
11B 第2電磁コイル(電磁コイル)
12A 第1増幅器(増幅器)
12B 第2増幅器(増幅器)
13 デジタルシグナルプロセッサ(波形生成部)
21、31 整流部
21A、31A 第1整流素子
21B、31B 第2整流素子
22 ファンクションジェネレータ(発振部)
32 増幅器(増幅部)
41A 第1ロードセル(加振力計測部)
41B 第2ロードセル(加振力計測部)
42、52 制御部
51A 第1ホール素子(磁束密度計測部)
51B 第2ホール素子(磁束密度計測部)
101 蒸気発生器(加振対象構造物)
122 隔壁
131 支持脚
W 加振波形
WA 正半波成分
WB 負半波成分
図1
図2
図3
図4
図5
図6