(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、この発明の実施形態について詳しく説明する。
図1〜
図3に示す架線1は、線路上空に架設される架空電車線(電車線路)である。架線1は、支持点間の距離(径間)が所定の長さになるように、所定の間隔をあけて支持構造物によって支持点で支持されている。架線1は、電車又は電気機関車などの電気車(鉄道車両)が走行する線路上空に架設されている。架線1は、電気車の集電装置のすり板が接触するトロリ線と、このトロリ線を支持する補助ちょう架線と、この補助ちょう架線を介してトロリ線を支持するちょう架線などを備えている。がいし(碍子)2は、電気導体を絶縁して支持する部材である。がいし2は、架線1とばねバランサ4との間を電気的に絶縁するとともに、架線1と張力変化低減装置14との間を電気的に絶縁する。電柱3は、電車線路の構成物を支持する部材である。電柱3は、ばねバランサ4を支持しており、電気車が走行する線路に沿って基礎部分が固定されている。
【0017】
図1〜
図5に示すばねバランサ4は、架線1の張力Tを一定に保持する装置である。ばねバランサ4は、
図5に示す筒部5〜8と、ばね9〜11と、
図1及び
図3に示す装着部12,13などを備えている。ばねバランサ4は、例えば、架線1の温度伸縮、クリープ伸び、摩耗による弾性伸びなどのような架線1の伸縮をばね9〜11のばね力(弾性力)を利用して吸収し、架線1の張力Tを一定に保持するばね式テンションバランサである。
図1及び
図2に示すばねバランサ4は、架線1の温度変化などによる弛度及び張力変化を常に一定に保持するために、この架線1の張力Tを自動的に調整する自動張力調整装置として機能する。
【0018】
図5に示す筒部5〜8は、架線1の伸縮動作に連動して進退動作する部材である。筒部5は、架線1側に連結された状態でばね9に挿入されており、この筒部5の外周面にばね9の一端部を受けるばね受部5aなどを備えている。筒部6は、筒部5を中心線方向に進退自在に収容した状態でばね10に挿入されており、このばね10の一端部を受けるばね受部6aと、ばね9の一端部を受けるばね受部6bなどを備えている。筒部7は、筒部6を中心線方向に進退自在に収容した状態でばね11に挿入されており、このばね11を受けるばね受部7aと、ばね10を受けるばね受部7bなどを備えている。筒部8は、筒部7を中心線方向に進退自在に収容しており、ばね11の一端部を受けるばね受部8aなど備えている。
【0019】
ばね9〜11は、架線1に張力Tを付与する部材である。ばね9〜11は、圧縮状態で常時使用される圧縮コイルばねであり、架線1にばね力を常時作用させている。ばね9〜11は、小径のばね9から大径のばね11までばね定数が段階的に小さくなるように設定されている。ばね9は、筒部5側のばね受部5aと筒部6側のばね受部6bとの間に挟み込まれることによってばね力を発生する。ばね10は、筒部6側のばね受部6aと筒部7側のばね受部7bとの間に挟み込まれることによってばね力を発生する。ばね11は、筒部7側のばね受部7aと筒部8側のばね受部8aとの間に挟み込まれることによってばね力を発生する。
【0020】
図1〜
図3に示す装着部12,13は、筒部8を電柱3に着脱自在に装着する手段である。装着部12は、筒部8の後端部と電柱3の外周部とを連結するようにこの電柱3に着脱自在に取り付けられる固定バンドを備えている。装着部13は、
図1及び
図3に示すように、筒部8の先端部寄りの底部と電柱3の外周部とを連結する連結軸と、この連結軸の両端部を電柱3及び筒部8に着脱自在に取り付ける固定バンドなどを備えている。
【0021】
図1〜
図4、
図6及び
図7に示す張力変化低減装置14は、ばねバランサ4によって架線1に張力Tを付与するときに、この架線1に発生する張力変化を低減する。ここで、張力変化とは、ばねバランサ4によって架線1の張力Tを標準張力T
Sに設定した場合に、架線1の伸縮によって張力Tが変動したときに許容される変動範囲である。張力変化低減装置14は、
図9に示すように、架線1の伸縮によってこの架線1の張力Tが変化したときに、この架線1に付加張力を作用させてこの架線1の張力Tを所定範囲内にする。
【0022】
ここで、
図9に示す縦軸は、架線1の張力T(kgf)であり、横軸は架線1の変位(mm)である。標準張力T
sは、ばねバランサ4によって設定された架線1の標準的な張力値である。上限張力T
maxは、架線1の張力Tが増加したときに許容される張力Tの上限値である。下限張力T
minは、架線1の張力Tが低下したときに許容される張力Tの下限値である。上限しきい値T
th1は、張力変化低減装置14が張力Tを低下させるための制御動作を開始するときの架線1の張力値である。下限しきい値T
th2は、張力変化低減装置14が張力Tを増加させるための制御動作を開始するときの架線1の張力値である。
図9に示す張力特性図は、標準張力T
Sが5500kgfであり、上限張力T
maxが5775kgf(標準張力T
Sの+5%)であり、下限張力T
minが5225kgf(標準張力T
Sの-5%)であり、上限しきい値T
th1が5725kgfであり、下限しきい値T
th2が5275kgfであり、標準長が±320mmである場合の特性図である。
図9に示す太実線(実施例)は、この実施形態に係る張力変化低減装置14による張力変化率が±5%の範囲内の場合の張力特性である。細実線(従来例)は、従来のばね式テンションバランサによる張力変化率が±9%の範囲内の場合の張力特性である。二点鎖線は、標準張力T
Sの値を示し、太点線は上限張力T
max及び下限張力T
minの値を示し、細点線は上限しきい値T
th1及び下限しきい値T
th2の値を示す。
【0023】
図1〜
図4に示す張力変化低減装置14は、ばねバランサ4が付与する架線1の張力Tの変動を上限張力T
maxと下限張力T
minとの間に低減する。張力変化低減装置14は、例えば、
図9に示すように、従来のばねバランサによる架線1の張力変化率が標準張力T
Sの±9%の範囲内であるときに、この架線1の張力変化率を標準張力T
Sの±5%の範囲内まで低減する。張力変化低減装置14は、架線1及びばねバランサ4の構造を改変することなく、このばねバランサ4の外部に着脱自在に装着されている。張力変化低減装置14は、
図1〜
図5に示す連結部15A,15Bと、張力測定部16と、付加張力作用部17A,17Bと、
図1、
図2及び
図8に示す制御部21などを備えている。
【0024】
図1〜
図5に示す連結部15Aは、がいし2と張力測定部16とを連結する手段である。連結部15Aは、がいし2と張力測定部16とを着脱自在にピン結合する。連結部15Bは、張力測定部16とばねバランサ4とを連結する手段である。連結部15Bは、ばねバランサ4の筒部5の先端部とがいし2とを着脱自在にピン結合する。連結部15Bは、アーム部15a,15bなどを備えている。アーム部15a,15bは、付加張力作用部17A,17Bから付加張力が伝達される部分である。アーム部15aは、連結部15Bの一方の縁部から突出しており、アーム部15bは連結部15Bの他方の縁部から突出している。
【0025】
張力測定部16は、架線1の張力Tを測定する手段である。張力測定部16は、外観が円筒状の部材であり、連結部15Aと連結部15Bとの間に着脱自在に装着されている。張力測定部16は、ばねバランサ4と架線1との間で、このばねバランサ4の外部からこの架線1の張力Tを測定する。張力測定部16は、架線1の張力Tによって発生する機械的変位を電気信号に変換して出力する機械電気変換部として機能する。張力測定部16は、例えば、架線1に作用する張力Tによって発生する歪みを電気抵抗値の変化として検出することによって、この架線1に作用する張力Tを検出するロードセルである。張力測定部16は、例えば、所定の大きさの荷重を常時作用させて使用する引張圧縮両用型ロードセルである。張力測定部16は、架線1の張力Tに応じた電気信号(張力測定信号)を制御部21に出力する。
【0026】
付加張力作用部17A,17Bは、架線1に付加張力を作用させる手段である。
図1、
図2及び
図4に示すように、付加張力作用部17Aはばねバランサ4の一方の側面側に配置されており、付加張力作用部17Bはばねバランサ4の他方の側面側に配置されている。付加張力作用部17A,17Bは、
図1及び
図2に示すように、ばねバランサ4と架線1との間に、このばねバランサ4の外部からこの架線1に付加張力を作用させる。付加張力作用部17A,17Bは、
図1〜
図4、
図6及び
図7に示すように、いずれも同一構造であり、駆動力発生部18A,18Bと、動作変換部19A,19Bと、シリンダ機構部20A,20Bなどを備えている。
【0027】
図1〜
図4、
図6及び
図7に示す駆動力発生部18A,18Bは、連結部15Bを駆動するための駆動力を発生する手段である。駆動力発生部18A,18Bは、制御部21が出力する押圧力発生信号(駆動電流)に基づいて連結部15Bを押圧するための押圧力を発生するとともに、制御部21が出力する引張力発生信号(駆動電流)に基づいて連結部15Bを引っ張るための引張力を発生する。駆動力発生部18A,18Bは、制御部21が出力する押圧力停止信号及び引張力停止信号に基づいて動作を停止する。駆動力発生部18A,18Bは、例えば、制御部21が出力する駆動電流に基づいて正転及び逆転する電動モータと、この電動モータの出力を減速させる減速機と、電動モータ停止中にこの電動モータに制動力を作用させるブレーキ機構などを備えている。
【0028】
動作変換部19A,19Bは、駆動力発生部18Aの回転運動を直線運動に変換する手段である。動作変換部19Aは、例えば、駆動力発生部18Aの減速機の出力軸からの回転力を受けて回転するウォームと、このウォームと噛み合うウォームホイールと、このウォームホイールの回転運動に連動して直線運動するねじ軸19aなどを備えている。動作変換部19Aは、駆動力発生部18Aの回転動作に応じてねじ軸19aを進退動作させる。動作変換部19Aは、駆動力発生部18Aが正転したときにはねじ軸19aを前進させ、駆動力発生部18Aが逆転したときにはねじ軸19aを後退させる。
【0029】
シリンダ機構部20A,20Bは、架線1に押圧力又は引張力を付加張力として作用させる手段である。シリンダ機構部20A,20Bは、押圧力又は引張力を連結部15Bに作用させることによって、この連結部15Bを進退動作させる。シリンダ機構部20A,20Bは、
図4、
図6及び
図7に示すシリンダ20aと、ピストン20bと、ピストンロッド20cなどを備えている。シリンダ機構部20Aは、
図9に示す架線1の張力Tが上限しきい値T
th1を超えるときには、
図6(C)に示すようにシリンダ20aをピストン20bが押圧してこのシリンダ20aを通じてこの架線1に押圧力を作用させる。シリンダ機構部20A,20Bは、例えば、
図6(C)に示すように、架線1が収縮してこの架線1の張力Tが増加するときには連結部15Bを前進させて、この架線1の張力Tを低下させる押圧力を付加張力としてこの連結部15Bを通じてこの架線1に作用させる。一方、シリンダ機構部20A,20Bは、
図9に示す架線1の張力Tが下限しきい値T
th2を下回るときには、
図7(C)に示すようにシリンダ20aをピストン20bが引っ張りこのシリンダ20aを通じてこの架線1に引張力を作用させる。シリンダ機構部20A,20Bは、例えば、
図7(C)に示すように、架線1が伸びてこの架線1の張力Tが低下するときには連結部15Bを後退させて、この架線1の張力Tを増加させる引張力を付加張力としてこの連結部15Bを通じてこの架線1に作用させる。シリンダ機構部20A,20Bは、
図9に示す架線1の張力Tが上限張力T
maxと下限張力T
minとの間であるときには、
図6(A)及び
図7(A)に示すようにシリンダ20a内をピストン20bが移動しこの架線1に押圧力及び引張力を作用させない。シリンダ機構部20A,20Bは、例えば、
図6(A)及び
図7(A)に示すように、架線1の張力Tが上限張力T
maxと下限張力T
minとの間であるときには、ばねバランサ4のばね力のみがこの架線1に作用するように、連結部15Bを通じてこの架線1に付加張力を作用させない。シリンダ機構部20A,20Bは、シリンダ20aの動作範囲(ピストン20bのストローク)を調整可能な構造を備えている。
【0030】
図4、
図6及び
図7に示すシリンダ20aは、ピストン20bを移動自在に収容する部材である。シリンダ20aは、架線1の伸縮に応じて連結部15Bと一体となって進退可能であり、連結部15Bのアーム部15a,15bに着脱自在にピン結合されている。シリンダ20aは、
図4及び
図6(A)(B)に示すピストン20bの正面側が接触して押圧力が作用する押圧力作用面(シリンダ室側端面(内側先端面))20dと、
図4及び
図7(A)(B)に示すようにピストン20bの背面側が接触して引張力が作用する引張力作用面(ロッド室側端面(内側後端面))20eなどを備えている。シリンダ20aは、ピストン20bの進退動作に関わらず内部の空気圧が変動しないように、このシリンダ20aのロッド側室とシリンダ室側との間で空気が流通可能である。
【0031】
図4、
図6及び
図7に示すピストン20bは、シリンダ20a内で相対移動する部材である。ピストン20bは、
図6に示すように、架線1が収縮してこの架線1の張力Tが増加し、
図9に示すこの架線1の張力Tが上限しきい値T
th1に達したときには、
図6(C)に示すように押圧力作用面20dと接触する。ピストン20bは、押圧力作用面20dに押圧力を作用させて、連結部15Bを通じてこの架線1にこの押圧力を作用させる。一方、ピストン20bは、
図7に示すように、架線1が伸長してこの架線1の張力Tが低下し、
図9に示すこの架線1の張力Tが下限しきい値T
th2に達したときには、
図7(C)に示すように引張力作用面20eと接触する。ピストン20bは、引張力作用面20eに引張力を作用させて、連結部15Bを通じてこの架線1にこの引張力を作用させる。ピストン20bは、
図9に示す架線1の張力Tが下限しきい値T
th2と上限しきい値T
th1との間であるときには、
図6(A)及び
図7(A)に示すようにシリンダ20aの押圧力作用面20dと引張力作用面20eとの間を相対移動するため、連結部15Bを通じてこの架線1に押圧力及び引張力を作用させない。
図4、
図6及び
図7に示すピストンロッド20cは、ピストン20bと一体となって進退動作する部材である。ピストンロッド20cは、動作変換部19Aのねじ軸19aの進退動作と連動して進退動作するようにこのねじ軸19aと連結されている。
【0032】
図1、
図2及び
図8に示す制御部21は、張力変化低減装置14に関する種々の動作を制御する手段である。制御部21は、架線1に発生する張力変化が低減するように、張力測定部16の測定結果に基づいて付加張力作用部17A,17Bを動作制御する。制御部21は、
図9に示す架線1の張力Tが上限しきい値T
th1を超えるときには、
図6(C)に示すようにこの架線1の張力Tを低下させる付加張力がこの架線1に作用するように付加張力作用部17A,17Bを制御する。制御部21は、架線1の張力Tを低下させる押圧力が付加張力としてこの架線1に作用するように、駆動力発生部18A,18Bを正転動作させるための押圧力発生信号をこの駆動力発生部18A,18Bに出力する。一方、制御部21は、
図9に示す架線1の張力Tが下限しきい値T
th2を下回るときには、
図7(C)に示すようにこの架線1の張力Tを増加させる付加張力がこの架線1に作用するように付加張力作用部17A,17Bを制御する。制御部21は、架線1の張力Tを増加させる引張力が付加張力としてこの架線1に作用するように、駆動力発生部18A,18Bを逆転動作させるための引張力発生信号をこの駆動力発生部18A,18Bに出力する。制御部21は、
図9に示す架線1の張力Tが上限張力T
maxと下限張力T
minとの間であるときには、
図6(A)及び
図7(A)に示すように付加張力作用部17A,17Bが付加張力を架線1に作用させないように、駆動力発生部18A,18Bに押圧力発生信号及び引張力発生信号を出力しない。制御部21には、
図1〜
図3に示すように、張力測定部16及び付加張力作用部17A,17Bの駆動力発生部18A,18Bが電気的に接続されている。制御部21は、上限張力T
max、下限張力T
min、上限しきい値T
th1及び下限しきい値T
th2が変更されたときには、変更後の上限張力T
max、下限張力T
min、上限しきい値T
th1及び下限しきい値T
th2に基づいて、架線1の張力変化を低減するための張力変化低減処理を実行する。制御部21は、
図1〜
図3制御盤内に収容された状態で電柱3に着脱自在に固定バンドによって取り付けられている。
【0033】
図1〜
図4に示す装着部22は、付加張力作用部17A,17Bをばねバランサ4に着脱自在に装着する手段である。装着部22は、付加張力作用部17A,17Bの動作変換部19A,19Bとばねバランサ4の筒部8とを連結するようにこの筒部8に着脱自在に取り付けられる固定バンドなどを備えている。
【0034】
次に、この発明の実施形態に係る架空線の張力変化低減装置の動作を説明する。
以下では、
図1〜
図3及び
図8に示す制御部21の動作を中心に説明する。
図10に示すステップ(以下、Sという)100において、架線1の張力Tが上限しきい値T
th1を超えるか否かを制御部21が判断する。制御部21に電源が供給されると、一連の張力変化低減処理を制御部21が開始する。例えば、
図6に示すように、気温が低下して架線1が収縮すると、ばね9のばね力に抗して筒部5が前進して、架線1の張力Tが増加する。張力測定部16が出力する張力測定信号に基づいて、
図9に示す架線1の張力Tが上限しきい値T
th1を超えるか否かを制御部21が判断する。架線1の張力Tが上限しきい値T
th1を超えていると制御部21が判断したときにはS110に進み、架線1の張力Tが上限しきい値T
th1以下であると制御部21が判断したときにはS120に進む。
【0035】
S110において、押圧力発生信号を付加張力作用部17A,17Bに制御部21が出力する。
図6(B)に示すように、駆動力発生部18A,18Bの電動モータに押圧力発生信号を制御部21が出力すると、この電動モータが正転動作して動作変換部19A,19Bのねじ軸19aが前進する。このため、ピストンロッド20cも前進してシリンダ20a内をピストン20bが前進し、
図6(C)に示すように押圧力作用面20dにピストン20bの前面が接触してシリンダ20aに押圧力が作用する。その結果、シリンダ20aを通じて連結部15Bに押圧力が作用して、この押圧力によってばねバランサ4のばね9がさらに圧縮されて、このばねバランサ4の筒部5がばね9のばね力に抗して前進する。このため、連結部15B及びがいし2を通じて架線1に押圧力が付加張力として作用し、架線1の張力Tが徐々に低下する。
【0036】
S120において、架線1の張力Tが上限張力T
max以下であるか否かを制御部21が判断する。張力測定部16が出力する張力測定信号に基づいて、架線1の張力Tが上限張力T
max以下になったか否かを制御部21が判断する。架線1の張力Tが上限張力T
max以下になったと制御部21が判断したときにはS130に進む。一方、架線1の張力Tが上限張力T
maxを超えていると制御部21が判断したときにはS110に戻り、S110以降の処理を制御部21が繰り返す。
【0037】
S130において、押圧力停止信号を付加張力作用部17A,17Bに制御部21が出力する。駆動力発生部18A,18Bの電動モータに押圧力停止信号を制御部21が出力すると、この電動モータが正転動作を停止して動作変換部19A,19Bのねじ軸19aが動作を停止しピストン20bも動作を停止する。この状態から架線1がさらに収縮して架線1の張力Tがさらに低下すると、
図6(A)に示すようにシリンダ20aが前進してこのシリンダ20aの押圧力作用面20dからピストン20bの前面が離間する。その結果、シリンダ20aにピストン20bから押圧力が作用せず、連結部15Bを通じて架線1にも押圧力が作用せず、ばねバランサ4が発生するばね力のみが架線1に張力Tとして作用する。
【0038】
S140において、架線1の張力Tが下限しきい値T
th2を下回るか否かを制御部21が判断する。例えば、
図7に示すように、気温が上昇して架線1が伸長すると、ばね9のばね力によって筒部5が後退して、架線1の張力Tが低下する。張力測定部16が出力する張力測定信号に基づいて、
図9に示す架線1の張力Tが下限しきい値T
th2を下回るか否かを制御部21が判断する。架線1の張力Tが下限しきい値T
th2を下回ると制御部21が判断したときにはS150に進み、架線1の張力Tが下限しきい値T
th2以上であると制御部21が判断したときにはS100に戻り、S100以降の処理を制御部21が繰り返す。
【0039】
S150において、引張力発生信号を付加張力作用部17A,17Bに制御部21が出力する。駆動力発生部18A,18Bの電動モータに引張力発生信号を制御部21が出力すると、
図7(B)に示すようにこの電動モータが逆転動作して動作変換部19A,19Bのねじ軸19aが後退する。このため、ピストンロッド20cも後退してシリンダ20a内をピストン20bが後退し、
図7(C)に示すように引張力作用面20eにピストン20bの背面が接触してシリンダ20aに引張力が作用する。その結果、シリンダ20aを通じて連結部15Bに引張力が作用して、この引張力によってばねバランサ4のばね9が伸び、このばねバランサ4の筒部5が引張力を受けて後退する。このため、連結部15B及びがいし2を通じて架線1に引張力が付加張力として作用し、架線1の張力Tが徐々に増加する。
【0040】
S160において、架線1の張力Tが下限張力T
min以上であるか否かを制御部21が判断する。張力測定部16が出力する張力測定信号に基づいて、
図9に示す架線1の張力Tが下限張力T
min以上になったか否かを制御部21が判断する。架線1の張力Tが下限張力T
min以上になったと制御部21が判断したときにはS170に進む。一方、架線1の張力Tが下限張力T
minを下回ると制御部21が判断したときにはS150に戻り、S150以降の処理を制御部21が繰り返す。
【0041】
S170において、引張力停止信号を付加張力作用部17A,17Bに制御部21が出力する。駆動力発生部18A,18Bの電動モータに引張力停止信号を制御部21が出力すると、この電動モータが逆転動作を停止して動作変換部19A,19Bのねじ軸19aが動作を停止しピストン20bも動作を停止する。この状態から架線1がさらに伸長して架線1の張力Tがさらに増加すると、
図7(A)に示すようにシリンダ20aが後退してこのシリンダ20aの引張力作用面20eからピストン20bの背面が離間する。その結果、シリンダ20aにピストン20bから引張力が作用せず、連結部15Bを通じて架線1にも引張力が作用せず、ばねバランサ4が発生するばね力のみが架線1に張力Tとして作用する。
【0042】
S180において、張力変化低減処理を終了するか否かを制御部21が判断する。例えば、張力変化低減処理の停止が制御部21に指令されて制御部21が判断したときには、一連の張力変化低減処理を制御部21が終了する。一方、張力変化低減処理の停止が制御部21に指令されていないと制御部21が判断したときにはS100に戻り、S100以降の処理を制御部21が繰り返す。
【0043】
この発明の実施形態に係る架空線の張力変化低減装置には、以下に記載するような効果がある。
(1) この実施形態では、架線1に付加張力を付加張力作用部17A,17Bが作用させ、この架線1の張力Tを測定する張力測定部16の測定結果に基づいて、この架線1に発生する張力変化が低減するように、この付加張力作用部17A,17Bを制御部21が制御する。このため、架線1の張力Tをリアルタイムで測定して、この架線1の張力Tの大きさに応じて付加張力の大きさを変化させてこの架線1にこの付加張力を作用させることができる。その結果、架線1に発生する張力変化を簡単な構造によって高精度に低減することができる。
【0044】
(2) この実施形態では、ばねバランサ4と架線1との間に、このばねバランサ4の外部からこの架線1に付加張力作用部17A,17Bが付加張力を作用させる。このため、ばねバランサ4や架線1の構造を改変せずに、このばねバランサ4の外側に付加張力作用部17A,17Bを簡単に後付けすることができる。その結果、既存のばねバランサ4や架線1の移動や取り換え工事が不要になり、短時間で安価に付加張力作用部17A,17Bを付加することができる。
【0045】
(3) この実施形態では、ばねバランサ4と架線1との間で、このばねバランサ4の外部からこの架線1の張力Tを張力測定部16が測定する。このため、ばねバランサ4や架線1の構造を改変せずに、このばねバランサ4の外側に張力測定部16を簡単に後付けすることができる。その結果、既存のばねバランサ4や架線1の移動や取り換え工事が不要になり、短時間で安価に張力測定部16を付加することができる。
【0046】
(4) この実施形態では、架線1の張力Tが上限しきい値T
th1を超えるときには、この架線の張力Tを低下させる付加張力がこの架線に作用するように付加張力作用部17A,17Bを制御部21が制御する。また、この実施形態では、架線1の張力Tが下限しきい値T
th2を下回るときには、この架線1の張力Tを増加させる付加張力がこの架線1に作用するように付加張力作用部17A,17Bを制御部21が制御する。このため、架線1の張力Tが上限張力T
maxや下限張力T
minに達する前に、この架線1に付加張力を作用させて、この架線1に発生する張力変化を確実に低減することができる。例えば、
図9に示すように、従来のばね式テンションバランサ(従来例)に比べて、この実施形態(実施例)では架線1の張力変化率を標準張力T
Sの±9%の範囲内から±5%の範囲内に低減することができる。
【0047】
(5) この実施形態では、架線1に押圧力又は引張力を付加張力としてシリンダ機構部20A,20Bが作用させる。また、この実施形態では、架線1の張力Tが上限しきい値T
th1を超えるときには、シリンダ20aをピストン20bが押圧してこのシリンダ20aを通じてこの架線1に押圧力をシリンダ機構部20A,20Bが作用させる。さらに、この実施形態では、架線1の張力Tが下限しきい値T
th2を下回るときには、シリンダ20aをピストン20bが引っ張りこのシリンダ20aを通じてこの架線1に引張力をシリンダ機構部20A,20Bが作用させる。このため、簡単な構造のシリンダ機構部20A,20Bを利用して架線1に付加張力を簡単に付与することができる。その結果、例えば、付加張力作用部17A,17Bの駆動力発生部18A,18Bの電動モータによって、ばねバランサ4のばね力を支援することができる。例えば、既存のばねバランサは、架線1と張力Tとが釣り合った状態で設置されている。このため、既存のばねバランサの張力変化率が標準張力T
Sの±9%の範囲内から±5%の範囲内になるような荷重を、駆動力発生部18A,18Bの電動モータによって補助的に付加することによって、架線1に発生する張力変化を簡単に制御することができる。
【0048】
(5) この実施形態では、架線1の張力Tが上限しきい値T
th1と下限しきい値T
th2との間であるときには、シリンダ20a内をピストン20bが移動しこの架線1に押圧力及び引張力をシリンダ機構部20A,20Bが作用させない。このため、架線1の張力Tが上限しきい値T
th1と下限しきい値T
th2との間であるときには、シリンダ機構部20A,20Bを動作させず、ばねバランサ4のばね力を利用して架線1に張力Tを作用させることができる。その結果、例えば、付加張力作用部17A,17Bの駆動力発生部18A,18Bの電動モータに常に付加がかかるのを防ぐことができる。
【0049】
この発明は、以上説明した実施形態に限定するものではなく、以下に記載するように種々の変形又は変更が可能であり、これらもこの発明の範囲内である。
(1) この実施形態では、架空線として架線1のような架空電車線を例に挙げて説明したが、電線などの支持物に架設された電線路についても、この発明を適用することができる。また、この実施形態では、ばねバランサ4が4個の入れ子構造の筒部5〜8を備える場合を例に挙げて説明したが、4個以外に複数の筒部を備えるばねバランサについても、この発明を適用することができる。さらに、この実施形態では、付加張力作用部17A,17Bをばねバランサ4に装着部22によって装着する場合を例に挙げて説明したが、付加張力作用部17A,17Bを電柱3に着脱自在に装着することもできる。
【0050】
(2) この実施形態では、付加張力作用部17A,17Bが回転運動を直線運動に変換して押圧力及び引張力を架線1に作用させる場合を例に挙げて説明したが、このような機構に限定するものではない。例えば、油圧シリンダ又は空気圧シリンダのような流体圧シリンダよって押圧力及び引張力を架線1に作用させる場合についても、この発明を適用することができる。また、この実施形態では、張力変化率を標準張力T
Sの±5%の範囲内に低減する場合を例に挙げて説明したが、張力変化率を標準張力T
Sの±5%の範囲内に限定するものではなく、任意の張力変化率の範囲内に低減することもできる。