【実施例】
【0028】
以下に、本発明の実施例について述べる。なお、本発明は、坩堝上蓋の外側表面温度の計測値に基づき、ドーパントガスの混合量を調整して、インゴットの電気抵抗率のばらつきを抑制することができればよく、以下の内容に制限されるものではない。
【0029】
(実施例1)
先ず、この実施例で使用した単結晶成長装置(本発明に係るSiC単結晶製造装置)について、
図5を用いながら簡単に説明する。結晶成長は、種結晶を用いた従来の昇華再結晶法と同様であり、黒鉛製坩堝3を構成する坩堝本体4bに装入したSiC結晶粉末2を昇華させ、種結晶として用いたSiC単結晶1上で再結晶化させることにより行われる。種結晶のSiC単結晶1は、黒鉛製坩堝3を構成する坩堝上蓋4aの内側面に取り付けられる。原料のSiC結晶粉末2は、黒鉛製坩堝3を構成する坩堝本体4bの下部に充填される。このような黒鉛製坩堝3は、二重石英管5の内部に入れられて、黒鉛の支持棒6により設置される。また、黒鉛製坩堝3の周囲には、断熱性向上のための黒鉛製フェルト(断熱材)7が設置されている。
【0030】
上記の二重石英管5は、真空排気装置11により高真空排気(10
-3Pa以下)することができ、かつ、内部雰囲気はガス配管9からガス流量調節計(マスフローコントローラー)10を通って導入されるArガスにより圧力制御することができる。各種ドーピングガス(この実施例の場合は窒素)も、ガス流量調節計10を通して導入することができる。また、二重石英管5の外周には、ワークコイル8が設置されており、高周波電流を流すことにより黒鉛製坩堝3を加熱して、SiC原料2及び種結晶1を所望の温度に加熱することができる。更には、成長途中の結晶表面の温度分布を下に凸型に調整するために、坩堝上蓋4aの外側表面を覆う黒鉛製フェルト(断熱材)7の中央部に抜熱孔(測温孔)12(直径22mm)が設けられており、この抜熱孔12を形成するフェルトの厚み方向に貫通した貫通孔には黒鉛製の円筒部材13が配設されている。そして、この円筒部材13を通過して検出される放射光により放射温度計14を用いて坩堝上蓋4aの外側表面温度を測定することができる。
【0031】
ここでは、坩堝上蓋4aの表面を覆うフェルト中央部の抜熱孔12に黒鉛製の円筒部材13が挿通されるようにし、
図2に示したように、円筒部材13の先端外周の一部に雄ネジ部を形成し、坩堝上蓋4aの外側表面に雌ネジ部を形成して、これらを螺合させて固定した。この黒鉛製円筒部材13の寸法は、内径が16mm、外径が22mmである。また、坩堝上蓋4aの表面を覆う黒鉛製フェルト7の厚みは10mmであって、黒鉛製の円筒部材13はこのフェルトを貫通してフェルトの上におよそ60mmの長さで突出させるようにした。そして、上記のとおり、この円筒部材13内を通過して検出される放射光を放射光温度計14で計測して、結晶成長中の温度をモニターした。
【0032】
次に、本発明の結晶成長装置を用いたSiC単結晶の製造について実施例を説明する。
先ず、種結晶として、口径150mmの(0001)面を有した4HポリタイプのSiC単結晶基板1を用意した。この種結晶のオフセット角度は{0001}面から4°の角度を有するものを使用した。次に、この種結晶1を黒鉛製坩堝3の坩堝上蓋4aの内側面に取り付けた。黒鉛製坩堝3の坩堝本体4bには、アチソン法により作製したSiC結晶粉末(SiC原料)2を充填した。次いで、SiC原料2を充填した黒鉛製坩堝3を坩堝上蓋4aで閉じ、黒鉛製フェルト7で被覆した後、黒鉛製支持棒6の上に載せて、二重石英管5の内部に設置した。そして、二重石英管5の内部を真空排気した後、ワークコイル8に電流を流して、坩堝上蓋4aの外側表面温度を2000℃まで上げた。その後、雰囲気ガスとして高純度Arガス(純度99.9995%)を流入させ、二重石英管5内の圧力は成長全体を通じて1.3kPaに保った。この圧力下において、坩堝上蓋4aの外側表面温度を2000℃から目標温度である2240℃まで上昇させ、その後、同温度となるよう設定した電流値パターンにて、事前製造試験(I)として約100時間結晶成長を続けて、口径約150mm、高さ約40mmのSiC単結晶インゴットを得た。
【0033】
この結晶成長時間中、成長開始時の窒素ガス流量を50sccmに保って成長を行った。得られたインゴットについて、種結晶位置から結晶成長方向に対する位置(高さ)を確認しながら、インゴットの全長からおよそ等間隔となるように4枚のSiC単結晶基板を切り出し、それらの電気抵抗率を測定して、インゴット高さに対する電気抵抗率の変化を調べた。次に、この事前製造試験(I)における成長時間に対するインゴット高さを確認するために、事前製造試験(II)として、一定時間の間隔で窒素ガスを導入することで得られるマーキング成長を行い、成長時間とインゴット高さとの関係を求めた。この二つの測定を元に、坩堝上蓋4aの外側表面温度に対する成長結晶表面の電気抵抗率変化の関係のグラフを作成し、両者の相関を示す検量線を求めた。結果は
図3に示すとおりである。
【0034】
次に、窒素ガス流量とインゴットの電気抵抗率との関係について調べるために、電流値の設定による坩堝上蓋4aの温度制御が比較的行い易い成長前半の時間帯(成長開始後30時間まで)において、坩堝上蓋4aの外側表面温度を目標温度である2400℃とし、窒素ガス流量を標準流量である50ccに対して±25ccの範囲で変化させてインゴットを製造して、窒素ガス流量を変化させたときのインゴットの電気抵抗率を求めて、同温度における「窒素ガス流量−電気抵抗率」の相関を示すグラフを作成し、検量線を求めた。結果は
図4に示すとおりである。
【0035】
これらの2つのグラフ(
図3、
図4)から得られた検量線を用いて、実製造の結晶成長を行った。ここで、SiC単結晶ウェハに最適な電気抵抗率が17.5mΩcmであることから、
図3のグラフで同電気抵抗率を示す温度である2240℃を成長温度に決定した。結晶成長時、坩堝上蓋4aの外側表面温度が2240℃に到達した時点から、坩堝上蓋4aの外側表面の温度変化をモニターしながら、温度変化に対して都度窒素ガス流量を細かく変更しながら成長終了時まで制御し、約100時間の結晶成長を行った。具体的には、事前に測定していた
図3の結果から、温度1℃変化に対する電気抵抗率変化率が「0.08mΩcm/℃」であり、また、これも事前の測定で得られた
図4の結果から、窒素ガス流量0.05sccm変化に対する電気抵抗率変化率が「0.01mΩcm/0.05sccm」であったことから、坩堝上蓋4aの外側表面の温度変化3℃に対する窒素ガス流量変化を「1.2sccm/℃」に設定して、放射光温度計14の温度データ(電流値)の出力に応じてマスフローコントローラー10を連動させて不活性ガスに混合するドーピングガス量(窒素ガス流量)の調整を行い、坩堝上蓋4aの外側表面温度が2240℃より下がった場合はドーピングガス量を減らし、それより上がった場合はドーピングガス量を増やすようにした。
【0036】
こうして得られた口径約150mm、高さ約42mmの窒素ドープされたSiC単結晶
インゴットについて、その全長からほぼ等間隔で厚さ1.0mmのSiC単結晶基板を35枚切り出した。このうち、種結晶側からの高さが5mm、10mm、15mm、20mm、25mm、30mm、35mm、及び40mmの位置から切り出された8枚のSiC単結晶基板について、渦電流を利用した電気抵抗率測定機(ナプソン製、NC-80MAP)により電気抵抗率を測定した(上記事前製造試験等における電気抵抗率の測定についてもこの測定機を使用した)。その際、各SiC単結晶基板の電気抵抗率は基板の直径方向に対して10mm間隔で測定を行い、平均値を算出した。その結果、
図6に示したように、種結晶側からの高さが5mm、10mm、15mm、20mm、25mm、30mm、35mm、及び40mmの位置におけるSiC単結晶基板の電気抵抗率(平均値)は、それぞれ17.6mΩcm、18.0mΩcm、18.3mΩcm、17.8mΩcm、18.1mΩcm、18.5mΩcm、17.9mΩcm、17.7mΩcm、であり、インゴットの高さ方向における電気抵抗率のばらつきが2.5%となり、3%以内と極めて小さい範囲内に収まっていることが確認できた。
【0037】
(比較例1)
坩堝上蓋の外側表面温度の変化に応じた窒素ガス流量の調整を一切行わずに、結晶成長の開始から終了まで窒素ガス流量を50sccmに保つようにした以外は実施例1と同様にして、約100時間の結晶成長を行った。
【0038】
こうして得られた口径約150mm、高さ約42mmの窒素ドープされたSiC単結晶
インゴットについて、実施例1と同様に、その全長からほぼ等間隔で厚さ1.0mmのSiC単結晶基板を35枚切り出し、種結晶側からの高さが5mm、10mm、15mm、20mm、25mm、30mm、35mm、及び40mmの位置から切り出された8枚のSiC単結晶基板について、それぞれの電気抵抗率の平均を算出した。その結果は
図6に示したとおりであり、種結晶側からの高さが5mm、10mm、15mm、20mm、25mm、30mm、35mm、及び40mmの位置におけるSiC単結晶基板の電気抵抗率(平均値)は、それぞれ17.5mΩcm、19.7mΩcm、20.2mΩcm、18.3mΩcm、17.9mΩcm、17.3mΩcm、16.5mΩcm、及び18.6mΩcmであり、インゴットの高さ方向における電気抵抗率のばらつきが10.1%と実施例1に比べて大きい値を示した。
【0039】
以上のように、本発明によれば、インゴット全体(全長)に亘って電気抵抗率のばらつきを抑えることができるようになる。特に、口径の大きなSiC単結晶インゴットを製造する場合でも電気抵抗率のばらつきを効果的に抑制することができて、工業的に極めて有用な発明であると言える。