特許第6869088号(P6869088)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6869088絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6869088
(24)【登録日】2021年4月15日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20210426BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20210426BHJP
   C08L 23/16 20060101ALI20210426BHJP
   H01M 50/10 20210101ALI20210426BHJP
【FI】
   B32B27/32 E
   B65D65/40 D
   C08L23/16
   H01M2/02 K
【請求項の数】6
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2017-84559(P2017-84559)
(22)【出願日】2017年4月21日
(65)【公開番号】特開2018-176690(P2018-176690A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2020年4月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】592184876
【氏名又は名称】フタムラ化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079050
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 憲秋
(74)【代理人】
【識別番号】100202979
【弁理士】
【氏名又は名称】鬼頭 優希
(74)【代理人】
【識別番号】100201879
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】岡本 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】緩詰 宏
(72)【発明者】
【氏名】石黒 和也
【審査官】 河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−076510(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/047717(WO,A1)
【文献】 特開2014−170720(JP,A)
【文献】 特開2017−059388(JP,A)
【文献】 特開2011−025432(JP,A)
【文献】 特開平09−076431(JP,A)
【文献】 特開2009−061705(JP,A)
【文献】 特開2007−152727(JP,A)
【文献】 特開2003−251761(JP,A)
【文献】 特開平09−165482(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00− 43/00
B65D 65/00− 65/46
C08L 1/00−101/14
C08F 6/00−246/00
301/00
H01M 2/00− 2/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層部(10)と、前記基材層部の第1面部側にシーラント層部(21)を備えてなる絞り成型用のポリプロピレン系シーラントフィルム(1)であって、
前記基材層部(10)は、プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)を主体とするとともに、次のa1、a2、及びa3を充足し、
(a1):前記プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)のキシレン可溶分についてゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による測定において、重量平均分子量が100000〜600000であり、
(a2):前記プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)のJIS K 7210−1(2014)に準拠した測定のメルトフローレート(MFR)(230℃、2.16kg荷重)が1〜10g/10minであり、
(a3):前記プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)のキシレン可溶分についてのエチレンコンテントが10〜70重量%であり、
前記シーラント層部(21)は、プロピレン−エチレンランダム共重合体(B)を主体とするとともに、次のb1、b2、及びb3を充足している
(b1):前記プロピレン−エチレンランダム共重合体(B)のJIS K 7121(2012)に準拠した測定の示差走査熱量測定(DSC)の融点が145〜160℃であり、
(b2):前記プロピレン−エチレンランダム共重合体(B)のJIS K 7122(2012)に準拠した測定の示差走査熱量測定(DSC)の融解熱量が60〜100mJ/mgであり、
(b3):前記プロピレン−エチレンランダム共重合体(B)のエチレンコンテントが1〜5重量%である、
ことを特徴とする絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルム。
【請求項2】
前記基材層部の前記第1面部側と反対となる第2面部側に、前記シーラント層部(21)と同組成のラミネート層部(22)がさらに備えられる請求項1に記載の絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルム。
【請求項3】
JIS K 7136(2000)に準拠した測定における前記ポリプロピレン系シーラントフィルムのヘーズ値(H0)と、前記規格に準拠した測定における前記ポリプロピレン系シーラントフィルムを500%伸長した後のヘーズ値(H1)とのヘーズ値の差(DH)が10%以下である請求項1または2に記載の絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルム。
【請求項4】
下記の熱膨張試験(I)に基づいて測定した前記ポリプロピレン系シーラントフィルムの熱膨張率(TE)が15%以下である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルム。
熱膨張試験(I):前記ポリプロピレン系シーラントフィルムを8mm×4mmの大きさの試験片に裁断後、TMA装置に固定し、前記試験片に0.0322Nの荷重を加えて当初の試験片の長さ(L0)を読み取る。昇温速度5℃/minで140℃まで加熱後、140℃に到達後2分間温度を維持し、2分経過した時点で140℃加熱後の試験片の長さ(L1)を読み取る。そして、次の式(i)より熱膨張率(TE)を算出する。
【数1】
【請求項5】
前記ポリプロピレン系シーラントフィルムの前記シーラント層部同士をヒートシールする際のヒートシール開始温度が145〜160℃である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルム。
【請求項6】
前記ポリプロピレン系シーラントフィルムが、リチウムイオン電池の包装材である請求項1ないし5のいずれか1項に記載の絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、物品の包装にあっては、自動包装機により、フィルムと物品が供給され充填、包装、封止は連続して行われる。このような包装用フィルムに要求される性能は、フィルムの供給や加工、さらには流通時に十分な耐久性や強度である。特に、フィルムは包装袋の形態に加工されて流通される。この包装袋とした際に耐破袋性と称される適切なフィルムの強度が必要となる。一般的に耐破袋性を向上させる場合、延伸ポリプロピレンフィルム、延伸ポリエステルフィルム、延伸ポリアミドフィルム等の基材フィルムと、無延伸シーラントフィルムが積層される。さらに、耐破袋性を付与する場合、無延伸シーラントフィルムに熱可塑性エラストマーを添加したポリプロピレン系フィルムが開示されている(特許文献1参照)。
【0003】
シーラントフィルムには、上記の製袋品形成目的の他に絞り成型の材料としての用途がある。シーラントフィルムに他のフィルムが積層されて積層フィルムに加工された後、積層フィルムは順次金型へ供給され、所定の形状が形成される。そして、ここに食品をはじめとする物品がフィルムの内側に収容、充填、そして封止される。例えば、ハム、ソーセージ等の包装形態が代表例である。絞り成型の加工から把握されるように、金型の型面に沿ってフィルムに変形力が加わる。そのため、フィルムの延展量(伸張量)の多い箇所では白化が生じやすくなる。このような白化は商品の見栄えやボイド(気泡)を起点とした穴あきによる内容物の漏洩等に影響するため好ましくない。
【0004】
加えて、絞り成型用のシーラントフィルムの加工性を生かして、シーラントフィルムを用いた積層フィルムには、リチウムイオン電池等の電池用の包装材の用途がある。具体的には、基材層、接着層、化成処理層、アルミニウム、化成処理層、接着層、ヒートシール層からなり、ヒートシール層がランダムポリプロピレンとホモポリプロピレンの混合樹脂である電池用の包装材料がある(特許文献2参照)。また、基材層、接着層、バリア層、接着樹脂層、シーラント層から構成されていて、シーラント層が低流動性のポリプロピレン層と高流動性のポリプロピレン層とした電池用の包装材料がある(特許文献3参照)。
【0005】
前述の特許文献の電池用の包装材料等にあっては、フィルム同士の接合、すなわちヒートシールによる融着面にはポリプロピレンフィルムが使用される。特に電池用を勘案すると、幅広い温度域での耐久性が求められる。また、電解液等の内容物の漏洩を防ぐための気密性確保のための強固な密着性も必要である。そうすると、既存の一般的な包装用のシーラントフィルムでは性能不足が否めない。
【0006】
このため、包装材を構成する部材のうち、シーラント層のフィルムには、より高い性能が求められる。そこで、汎用の包装用途から電池用等の幅広く網羅した性能を有するシーラントが求められるに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−309985号公報
【特許文献2】特開2002−245980号公報
【特許文献3】特開2003−7261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記状況に鑑み提案されたものであり、フィルムに対する加工時の外観の良さを維持し、さらには良好な温度耐性を備え、一般包装用から電池用等の極めて広範囲の用途に対応できる絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、第1の発明は、基材層部と、前記基材層部の第1面部側にシーラント層部を備えてなる絞り成型用のポリプロピレン系シーラントフィルムであって、前記基材層部は、プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)を主体とするとともに、次のa1、a2、及びa3を充足し、(a1):前記プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)のキシレン可溶分についてゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による測定において、重量平均分子量が100000〜600000であり、(a2):前記プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)のJIS K 7210−1(2014)に準拠した測定のメルトフローレート(MFR)(230℃、2.16kg荷重)が1〜10g/10minであり、(a3):前記プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)のキシレン可溶分についてのエチレンコンテントが10〜70重量%であり、前記シーラント層部は、プロピレン−エチレンランダム共重合体(B)を主体とするとともに、次のb1、b2、及びb3を充足している、(b1):前記プロピレン−エチレンランダム共重合体(B)のJIS K 7121(2012)に準拠した測定の示差走査熱量測定(DSC)の融点が145〜160℃であり、(b2):前記プロピレン−エチレンランダム共重合体(B)のJIS K 7122(2012)に準拠した測定の示差走査熱量測定(DSC)の融解熱量が60〜100mJ/mgであり、(b3):前記プロピレン−エチレンランダム共重合体(B)のエチレンコンテントが1〜5重量%である、ことを特徴とする絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムに係る。
【0010】
第2の発明は、前記基材層部の前記第1面部側と反対となる第2面部側に、前記シーラント層部と同組成のラミネート層部がさらに備えられる第1の発明に記載の絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムに係る。
【0011】
第3の発明は、JIS K 7136(2000)に準拠した測定における前記ポリプロピレン系シーラントフィルムのヘーズ値(H0)と、前記規格に準拠した測定における前記ポリプロピレン系シーラントフィルムを500%伸長した後のヘーズ値(H1)とのヘーズ値の差(DH)が10%以下である第1または2の発明に記載の絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムに係る。
【0012】
第4の発明は、下記の熱膨張試験(I)に基づいて測定した前記ポリプロピレン系シーラントフィルムの熱膨張率(TE)が15%以下である第1ないし3のいずれか1の発明に記載の絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムに係る。
【0013】
熱膨張試験(I)は、前記ポリプロピレン系シーラントフィルムを8mm×4mmの大きさの試験片に裁断後、TMA装置に固定し、前記試験片に0.0322Nの荷重を加えて当初の試験片の長さ(L0)を読み取る。昇温速度5℃/minで140℃まで加熱後、140℃に到達後2分間温度を維持し、2分経過した時点で140℃加熱後の試験片の長さ(L1)を読み取る。そして、次の式(i)より熱膨張率(TE)を算出する。
【0014】
【数1】
【0015】
第5の発明は、前記ポリプロピレン系シーラントフィルムの前記シーラント層部同士をヒートシールする際のヒートシール開始温度が145〜160℃である第1ないし4のいずれか1の発明に記載の絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムに係る。
【0016】
第6の発明は、前記ポリプロピレン系シーラントフィルムが、リチウムイオン電池の包装材である第1ないし5のいずれか1の発明に記載の絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムに係る。
【発明の効果】
【0017】
第1の発明に係る絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムによると、基材層部と、前記基材層部の第1面部側にシーラント層部を備えてなる絞り成型用のポリプロピレン系シーラントフィルムであって、前記基材層部は、プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)を主体とするとともに、次のa1、a2、及びa3を充足し、(a1):前記プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)のキシレン可溶分についてゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による測定において、重量平均分子量が100000〜600000であり、(a2):前記プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)のJIS K 7210−1(2014)に準拠した測定のメルトフローレート(MFR)(230℃、2.16kg荷重)が1〜10g/10minであり、(a3):前記プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)のキシレン可溶分についてのエチレンコンテントが10〜70重量%であり、前記シーラント層部は、プロピレン−エチレンランダム共重合体(B)を主体とするとともに、次のb1、b2、及びb3を充足している、(b1):前記プロピレン−エチレンランダム共重合体(B)のJIS K 7121(2012)に準拠した測定の示差走査熱量測定(DSC)の融点が145〜160℃であり、(b2):前記プロピレン−エチレンランダム共重合体(B)のJIS K 7122(2012)に準拠した測定の示差走査熱量測定(DSC)の融解熱量が60〜100mJ/mgであり、(b3):前記プロピレン−エチレンランダム共重合体(B)のエチレンコンテントが1〜5重量%であるため、フィルムに対する加工時の外観の良さを維持し、さらには良好な温度耐性を備え、広範囲の用途に対応できる。
【0018】
第2の発明に係る絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムによると、第1の発明において、前記基材層部の前記第1面部側と反対となる第2面部側に、前記シーラント層部と同組成のラミネート層部がさらに備えられるため、用途、目的に応じて使い分けに応じた活用が可能である。
【0019】
第3の発明に係る絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムによると、第1また2の発明において、JIS K 7136(2000)に準拠した測定における前記ポリプロピレン系シーラントフィルムのヘーズ値(H0)と、前記規格に準拠した測定における前記ポリプロピレン系シーラントフィルムを500%伸長した後のヘーズ値(H1)とのヘーズ値の差(DH)が10%以下であるため、伸張に伴う見栄えの変化は少なく、絞り成型時、型面の曲げ箇所の影響は低減される。
【0020】
第4の発明に係る絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムによると、第1ないいし3のいずれかの発明において、熱膨張試験(I)に基づいて測定した前記ポリプロピレン系シーラントフィルムの熱膨張率(TE)が15%以下であるため、高温における成型体や包装体の形状保持に好適であり、熱安定性は向上し種々の製品への展開に有利に働く。
【0021】
第5の発明に係る絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムによると、第1ないいし4のいずれかの発明において、前記ポリプロピレン系シーラントフィルムの前記シーラント層部同士をヒートシールする際のヒートシール開始温度が145〜160℃であるため、絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムを用いた包装体の性能面と生産効率面との均衡が保たれる。
【0022】
第6の発明に係る絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムによると、第1ないいし5のいずれかの発明において、前記ポリプロピレン系シーラントフィルムが、リチウムイオン電池の包装材であるため、高温下での温度耐性、絞り成型の加工による耐白化性を備え、また封止も良好であり、内部の電解液等の漏洩対策に効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】第1実施形態の絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムの断面模式図である。
図2】第2実施形態の絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムの断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1の概略断面模式図は第1実施形態の絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルム1を示す。同シーラントフィルム1は、基材層部10と、当該基材層部10の第1面部11側にシーラント層部21を備える2層構造(第1実施形態)である。第1実施形態では、基材層部10に他のフィルムが備えられて包装対象に対応した複合フィルム(図示せず)が形成され、絞り成型の金型内に供される。シーラント層部21は、当該シーラントフィルム1等の包装対象、被覆対象等と接触するとともに、シーラント層部21は相互でヒートシールにより融着して、同部位にて封止される。
【0025】
図2の概略断面模式図は第2実施形態の絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルム2を示す。同シーラントフィルム2は、第1実施形態と同様に基材層部10と、当該基材層部10の第1面部11側にシーラント層部21を備える。さらに、基材層部10の第1面部11側と反対となる第2面部12側に、ラミネート層部22が備えられる。ラミネート層部22はシーラント層部21と同組成である。従って、シーラントフィルム2は両表面が共通の3層構造(第2実施形態)である。いずれの形態の構造を採用するのかは、絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムの用途、目的、他の積層するフィルムの種類等に応じて選択される。
【0026】
図1の第1実施形態の絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルム1にあっては、基材層部10の第2面部12側にさらに他のフィルム(ポリエステルフィルム、ポリアミドフィルム)、アルミニウム箔等の別部材が積層される。また、図2の第2実施形態の絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルム2にあっては、ラミネート層22の表面部24にさらに他のフィルム(ポリエステルフィルム、ポリアミドフィルム)、アルミニウム箔等の別部材が積層される。
【0027】
複合フィルムを対象とする絞り成型とは、凹状型面を形成した金型(キャビティー:メス型)内にフィルムが供給される。ここに、キャビティーと対応する型面を形成した金型(コア:オス型)が押圧する。そして、金型内に供給されたフィルムに型面が転写される(冷間延伸)。このように、複合フィルムに所定の形状が付与されるため、単純な袋形状よりも電池のセル等の内容物の形状により適合した包装体や容器の形状に仕上げられる。
【0028】
絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルム1及び2の製造に際し、基材層部10及びシーラント層部21の2層、またはラミネート層部22、基材層部10、及びシーラント層部21の3層を形成する溶融樹脂はTダイ等から吐出されるとともにロール間を通じて製膜される。本発明のシーラントフィルム1及び2は実質的に無延伸による製膜である。延伸が抑制されるため、フィルムの配向性が低下して白化や強度低下は生じにくくなる。むろん、製膜時に不可抗力の延伸が加わる場合もある。
【0029】
次に、絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルム1及び2を構成する各層の樹脂組成について説明する。基材層部10は、プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)を主体の成分とし、次の(a1)、(a2)、及び(a3)を充足する。
【0030】
(a1)として、基材層部10のプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)のキシレン可溶分が分離される。このキシレン可溶分についてゲル浸透クロマトグラフィー(GPC:Gel Permeation Chromatography)の測定により、同可溶分中の樹脂成分の重量平均分子量が求められる。この重量平均分子量は100000ないし600000の範囲内である。キシレン可溶分とは、キシレン中へ溶解するプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)に含有されるエラストマー成分と考えられる。そこで、キシレン可溶分の重量平均分子量から、エラストマー成分の内容を推定することができる。
【0031】
プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)の性質上、キシレン可溶分の重量平均分子量が100000を下回る場合、良好なヒートシール性能が生じにくくなり、耐衝撃性の低下が生じやすい。重量平均分子量600000を超過する場合、出来上がる絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムの延伸前後のヘーズ値が悪化する。つまり、フィルムは白化して見栄えが劣り易く好ましくない。そこで、重量平均分子量600000は上限である。従って、プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)の性質を規定する点から前記の重量平均分子量の範囲になる。
【0032】
(a2)として、プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)のJIS K 7210−1(2014)のA法に準拠した測定のメルトフローレート(MFR)(230℃、2.16kg荷重)は1ないし10g/10minである。メルトフローレートの値が1g/10min未満では、樹脂の流動性が乏しい。そのため、絞り成型時の離型性が低下する。メルトフローレートの値が10g/10minを上回る場合には流動性過剰となる。また、軟化の影響から出来上がったフィルムの耐衝撃性の低下が生じ易い。そのため、後出の実施例の傾向から、前記の条件によるメルトフローレートは1ないし10g/10minの範囲である。
【0033】
(a3)として、プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)のキシレン可溶分についてのエチレンコンテントは10ないし70重量%の範囲である。エチレンコンテントは、キシレン可溶分の樹脂成分に占めるエチレン骨格の割合を相対化した指標である。例えば、赤外線(IR)スペクトルのエチレン単位に由来する吸光度とプロピレン単位に由来する吸光度に基づいて算出することができる。キシレン可溶分に含有される樹脂成分のエチレンコンテントを考慮することにより、フィルムの外観、耐熱性等の把握に役立つ。
【0034】
キシレン可溶分中のエチレンコンテントが10重量%を下回る場合、良好なヒートシール性能が生じにくくなり、耐衝撃性の低下が生じやすい。キシレン可溶分中のエチレンコンテントが70重量%を上回る場合、フィルムの耐熱性が低下する。従って、キシレン可溶分についてのエチレンコンテントは前記の範囲である。
【0035】
シーラント層部21及び同組成のラミネート層部22は、プロピレン−エチレンランダム共重合体(B)を主体の成分とし、次の(b1)、(b2)、及び(b3)を充足する。
【0036】
(b1)として、プロピレン−エチレンランダム共重合体(B)のJIS K 7121(2012)に準拠した測定の示差走査熱量測定(DSC)の融点は145ないし160℃である。シーラント層部21及びラミネート層部22において、同測定の融点が145℃を下回る場合、低融点となることからシーラント層部21及びラミネート層部22の耐熱性が低下する。逆に同測定の融点が160℃を上回る場合、ヒートシール適性が低下しフィルム同士で封止しにくくなる。そこで、双方の均衡から前記の融点の範囲が導き出される。
【0037】
(b2)として、プロピレン−エチレンランダム共重合体(B)のJIS K 7122(2012)に準拠した測定の示差走査熱量測定(DSC)の融解熱量は60ないし100mJ/mgである。同測定の融解熱量が60mJ/mgを下回る場合、シーラント層部21及びラミネート層部22の耐熱性が低下する。逆に、同測定の融解熱量が100mJ/mgを上回る場合、ヒートシール適性が低下しフィルム同士で封止しにくくなる。そこで、双方の均衡から前記の融点の範囲が導き出される。
【0038】
(b1)の融点及び(b2)の融解熱量は共に樹脂の熱物性に関する指標である。前述のとおり、樹脂の物性は同様の挙動を示す。そうすると、一方の指標でも問題無いようにも思われる。しかしながら、後出の実施例から明らかなように、(b2)の融解熱量が規定の範囲内であっても、(b1)の融点が範囲外となる例についてはヒートシール開始温度が上昇する。それゆえ、一方のみの指標では不良例を有効に排除することができない。よって、両指標の組み合わせが有効であり必要である。
【0039】
(b3)として、プロピレン−エチレンランダム共重合体(B)のエチレンコンテントは、1ないし5重量%の範囲である。エチレンコンテントが1重量%未満の同樹脂(B)では、ヒートシール適性が低下しフィルム同士で封止しにくくなる。また、エチレンコンテントが5重量%を上回る場合には耐熱性が低下する。そこで、双方の均衡から前記のエチレンコンテントの範囲が導き出される。
【0040】
本発明の絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルム1及び2を構成する各層には、アンチブロッキング剤、スリップ剤、帯電防止剤、酸化防止剤、中和剤、着色剤等の添加剤を必要に応じて添加される。
【0041】
前掲図1の第1実施形態の絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルム1及び図2の第2実施形態の絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルム2の外観上の良否判断に際し、白化の光学的指標が加えられる。特に、絞り成型用途であるため、曲げ箇所の伸びによる変化の把握が重要である。一般に、フィルムに伸長等の変形圧力が加わると、その部位で白化が進み外観上の見栄えが悪くなりやすい。そこで、JIS K 7136(2000)に準拠したヘーズ値が測定される。
【0042】
はじめに前記の規格に従ってシーラントフィルム1または2のヘーズ値(H0)が測定される。次に同シーラントフィルム1または2は当初長さから500%(5倍長)に伸長される。そして、伸長後のシーラントフィルム1または2のヘーズ値(H1)も測定される。伸長後のヘーズ値(H1)と伸長前のヘーズ値(H0)とのヘーズ値の差(DH)が求められる(式(ii)参照)。
【0043】
【数2】
【0044】
伸長の前後のヘーズ値の差(DH)の好ましい値は10%以下である。伸長の前後においてヘーズ値の差(DH)は少ないほど望ましい。そのため、最適な下限はほぼ0である。ヘーズ値の差が10%を超える場合、白化の差異が大きくなり好ましくない。よって、ヘーズ値の差(DH)は10%以下である。なお、式中の差は絶対値の表記である。このことから、伸張に伴う白化の変化は少なくなり、絞り成型時、型面の曲げ箇所の影響は低減される。
【0045】
前掲図1の第1実施形態の絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルム1及び図2の第2実施形態の絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルム2の耐熱性の良否判断に際し、次の熱膨張試験(I)に基づいて測定した同ポリプロピレン系のシーラントフィルム1または2の熱膨張率(TE)は15%以下である。熱膨張率(TE)が小さいほど温度変化によるフィルムの熱変形が少なく、成型体や包装体の形状保持に好適であり、熱安定性は向上し種々の製品への展開に有利に働く。
【0046】
そこで、絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムの熱安定性の評価に際し、例えば、JIS K 0129(2005)やJIS K 7197(1991,2012)等の規格に準拠して熱機械分析装置(TMA装置)による加熱下においてフィルムの変形量(引張量)が計測される。本願においては、前掲の規格を前提にしながらもシーラントフィルム1または2の特性に鑑み適宜変更しつつ熱膨張試験(I)のとおりTMA装置による測定を採用することとした。
【0047】
熱膨張試験(I)において、絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルム1または2は8mm×4mmの大きさの試験片に裁断される。試験片は長さ方向を引張方向としてTMA装置のプローブに固定される。試験片に0.0322Nの荷重(引張方向側)が加えられ当初時点の試験片の長さ(L0)が読み取られる。試験片は同装置の昇温速度5℃/minの設定で140℃まで加熱され、140℃に到達後、2分間そのまま温度は維持される。2分経過した時点で140℃加熱後の試験片の長さ(L1)が読み取られる。一連の加熱中、試験片には0.0322Nの荷重は引張方向に加えられている。加熱前後の試験片の長さ(L0)と(L1)は次の式(i)に代入され、当初の試験片の長さと変化量との関係から熱膨張率(TE)(%)は算出される。
【0048】
【数3】
【0049】
熱膨張試験(I)の温度条件(140℃までの加熱)から把握されるように、常温からフィルムの軟化付近までの極めて広い温度域が対象である。この温度域は一般的な包装資材の使用環境を十分に網羅する。併せて、同温度域は後記するリチウムイオン電池の使用条件にも対応する温度域である。
【0050】
絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルム1及び2において、そのシーラント層部21同士をヒートシールする際のヒートシール開始温度は145ないし160℃の範囲である。ヒートシール開始温度が低いほど、速く熱融着が進み好ましいようにも思われる。しかしながら、ヒートシール開始温度が145を下回る低温度側では、当該絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムを用いた包装体を過酷条件に置いた際、そのヒートシール部位の脆弱化が問題視される。特に過酷条件を加味したヒートシールの強靭さが求められるためである。そのため、前記の熱膨張試験(I)の温度条件よりも高い温度である。
【0051】
ヒートシール開始温度が160℃を超過する場合、耐熱性においては問題がない。しかし、フィルムの性能上必要ではなく、ヒートシール時の熱量が過剰となり生産上好ましくない。そこで、絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムを用いた包装体の性能面と生産効率面との均衡から145ないし160℃の範囲が適切である。
【0052】
これまで説明してきた絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムは、絞り成型により仕上げられる一般的な樹脂加工品に加え、リチウムイオン電池の包装材の用途に適する。リチウムイオン電池では、種類いかんによるものの電解液が用いられる。電解液は腐食性が高く外部に漏洩すると電子基板や機器の故障原因となる。そのため、電池の包装材には耐久性、封止の強靭さ等が求められる。このような点を勘案すると、本発明の絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムは、高温下での温度耐性、絞り成型加工時の変形に対する耐白化性を備えており、成型品の耐破袋性と電解液の漏洩防止に極めて有効である。特に、温度条件やヒートシール条件から広範囲の温度条件に対応でき、しかも封止も良好である。よって、内部の電解液等の漏洩対策に効果的であり、電池用として最適といえる。
【0053】
むろん、本発明の絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムは、リチウムイオン電池に加えて各種の電池の包装材としても活用される。さらに、電池以外の温度耐性が求められ強固な密封や封止が必要な製品、部材の包装材としても活用される。
【実施例】
【0054】
[絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルム作製(製膜)]
実施例1ないし9及び比較例1ないし10の絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムの作製は、表1ないし表4に示した樹脂種(次述参照)とその配合割合(重量%)に基づく。実施例1ないし4及び比較例1ないし6は図2の第2実施形態として開示の「ラミネート層部,基材層部,シーラント層部」の3層構造とした。なお、第2実施形態を採用した各例のフィルムにおいて、ラミネート層部及びシーラント層部は同一樹脂組成とした。次に、実施例5ないし9及び比較例7ないし10は図1の第1実施形態として開示の「基材層部,シーラント層部」の2層構造とした。
【0055】
第2実施形態にあっては、ラミネート層部、基材層部、及びシーラント層部に対応する原料樹脂(次述参照)のペレット等を押出機に供給し、供給原料を溶融、混練して一度に三層共押出Tダイフィルム成形機により製膜した。第1実施形態にあっては、基材層部及びシーラント層部に対応する原料樹脂のペレット等を押出機に供給し、供給原料を溶融、混練して一度に二層共押出Tダイフィルム成形機により製膜した。実施例及び比較例の各フィルムは無延伸の製膜とした。ただし、製膜時の吐出、ロールによる圧延等の不可抗力による延伸の作用が加わることもある。
【0056】
[使用原料]
各実施例1ないし9並びに比較例1ないし10の絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムにおける層部を構成する樹脂原料として、次の樹脂「AP1」ないし「AP5」の5種類のプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)と、樹脂「BP1」ないし「BP5」の5種類のプロピレン−エチレンランダム共重合体(B)の中から選択して使用した。併せて、プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)の「AP1」ないし「AP5」の重量平均分子量、メルトフローレート、及びエチレンコンテントの物性、並びにプロピレン−エチレンランダム共重合体(B)の「BP1」ないし「BP5」の融点、融解熱量、エチレンコンテントの物性を示す。各項目の分析、測定の詳細は後述する。
【0057】
プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)の樹脂種
(AP1)
キシレン可溶分の重量平均分子量:409000
メルトフローレート:3.5g/10min
キシレン可溶分のエチレンコンテント:48重量%
(AP2)
キシレン可溶分の重量平均分子量:396000
メルトフローレート:3g/10min
キシレン可溶分のエチレンコンテント:41重量%
(AP3)
キシレン可溶分の重量平均分子量:670000
メルトフローレート:8.5g/10min
キシレン可溶分のエチレンコンテント:50重量%
(AP4)
キシレン可溶分の重量平均分子量:1880000
メルトフローレート:8g/10min
キシレン可溶分のエチレンコンテント:73重量%
(AP5)
キシレン可溶分の重量平均分子量:1010000
メルトフローレート:2.5g/10min
キシレン可溶分のエチレンコンテント:60重量%
【0058】
プロピレン−エチレンランダム共重合体(B)の樹脂種
(BP1)
DSCの融点:151℃
DSCの融解熱量:74mJ/mg
エチレンコンテント:3.1重量%
(BP2)
DSCの融点:153℃
DSCの融解熱量:64mJ/mg
エチレンコンテント:3.6重量%
(BP3)
DSCの融点:149℃
DSCの融解熱量:89mJ/mg
エチレンコンテント:2.9重量%
(BP4)
DSCの融点:165℃
DSCの融解熱量:74mJ/mg
エチレンコンテント:0重量%
(BP5)
DSCの融点:132℃
DSCの融解熱量:49mJ/mg
エチレンコンテント:3.0重量%
【0059】
[樹脂の物性測定]
〈重量平均分子量〉
キシレン可溶分の重量平均分子量は、JIS K 7252−1(2008)に準拠した。測定に際し、Agilent社製,PL−GPC220、カラムにAgilent Plgel Olexisの2本を使用し、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した。溶離液にo−ジクロロベンゼンを使用し流速1.0mL/minとした。同GPCの検出結果より重量平均分子量を算出した。
【0060】
〈メルトフローレート〉
メルトフローレートの測定は、JIS K 7210−1(2014)のA法に準拠し、230℃、2.16kg荷重の条件とした。
【0061】
〈エチレンコンテント〉
AP1ないしAP5のそれぞれ5ないし6gをキシレン中で還流溶解し、冷却後に遠心分離してキシレン可溶分液を分取した。キシレン可溶分液をさらに濃縮し、ここにメタノールを添加して析出、沈殿した。この析出物を濾過して回収し、乾燥した。こうして、AP1ないしAP5の樹脂に対応するキシレン可溶分の試料を得た。BP1ないしBP5はキシレン溶解を省略した。
【0062】
エチレンコンテントの測定に際し、社団法人日本分析学会 高分子分析懇談会編集 高分子分析ハンドブック(2013年5月10日,第3刷) 412〜413ページに記載のエチレン含有量の定量方法(IR法)に従い各樹脂試料のエチレンコンテントを測定した(単位:重量%)。AP1ないしAP5については、前述の処理を経たキシレン可溶分の試料のエチレンコンテントを求めた。BP1ないしBP5については樹脂自体のエチレンコンテントを求めた。
【0063】
〈融点及び融解熱量〉
融点は、JIS K 7121(2012)の示差走査熱量測定(DSC)の測定に準拠し、セイコーインスツル株式会社製,DSC6200を使用して測定した(単位:℃)。
融解熱量は、JIS K 7122(2012)の示差走査熱量測定(DSC)の測定に準拠し、同上DSC6200を使用して測定した(単位:mJ/mg)。
【0064】
[フィルムの物性測定]
〈厚さ〉
絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムの全体の厚さは、JIS K 7130(1999)に準拠し、厚さ測定器(株式会社東洋精機製作所製)を用い測定して全層厚さ(μm)を求めた。第2実施形態の3層構造を採用した例において、「ラミネート層部、基材層部、及びシーラント層部」の厚さ比はいずれも「1:6:1」とした。また、第1実施形態の2層構造を採用した例において、「基材層部及びシーラント層部」の厚さ比はいずれも「6:1」とした。厚さ比は各層の樹脂の吐出量により設定した。
【0065】
〈ヘーズ値〉
ヘーズの測定は、JIS K 7136(2000)に準拠し、ヘーズメーター(日本電色工業株式会社製,NDH−4000)を使用した(単位%)。
【0066】
実施例及び比較例の絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムを50mm×100mm(フィルムの幅方向×長さ方向)の長方形の試験片(ヘーズ測定用)に裁断した。はじめにこの試験片の状態で前記の規格に準拠してヘーズ値を測定した。これが伸長前のヘーズ値(H0)である。次に、試験片の長尺方向を引張試験機のチャックに固定した。引張速度200mm/minにより、同試験片を500%の長さ(当初の5倍の長さ)になるまで引張した。当該伸張後、伸張を終えた試験片も前記の規格に準拠してヘーズ値を測定した。これが伸長後のヘーズ値(H1)である。
【0067】
そこで、伸張の前後のヘーズ値の差(DH)について、前出の式(ii)の「DH=|H1−H0|」より求めた。伸張前後のフィルムの状態の影響を考慮して絶対値の表記とした。ヘーズ値の差(DH)が小さいほど好ましい。
【0068】
〈熱膨張率〉
実施例及び比較例の絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムの性能評価に際し、熱による変形のし難さを熱安定性能の良否指標とした。そこで、熱機械分析装置(TMA装置)による加熱下においてフィルムの変形量(引張量)を計測することにした。TMA測定の装置にティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製,熱機械測定装置(型番:Q400)を使用した。
【0069】
実施例及び比較例の絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムを4mm×8mm(フィルムの幅方向×長さ方向)の長方形の試験片(熱膨張率測定用)に裁断した。長さ方向を引張方向として前出のTMA装置のプローブに試験片を固定した。試験片に対し0.0322Nの荷重(引張方向側)を加え、まずこの時点で試験片の長さ(L0)を読み取った。同装置の昇温速度5℃/minの設定で試験片を常温から140℃まで加熱し、140℃に到達後、2分間そのまま温度を維持した。2分経過した時点で140℃加熱後の試験片の長さ(L1)を読み取った。一連の加熱中、試験片には0.0322Nの荷重を引張方向に加え続けた。そして、加熱前後の試験片の長さ(L0)と(L1)を前出の式(i)に代入して、当初の試験片の長さと変化量との関係から熱膨張率(TE)(%)を算出した。熱膨張率(TE)の値は低いほど熱変形し難く好ましい。
【0070】
〈ヒートシール開始温度〉
実施例及び比較例の絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムについては、JIS Z 1713(2009)に準拠してヒートシール開始温度を測定した。このとき、フィルムを50mm×250mm(フィルムの幅方向×長さ方向)の長方形の試験片(ヒートシール用)に裁断した。2枚の試験片のヒートシール層部同士を重ね、株式会社東洋精機製作所製,熱傾斜試験機(ヒートシール試験機)を使用し、ヒートシール圧力を0.34MPa、ヒートシール時間を1秒とした。そして、5℃ずつ温度を傾斜(昇温)する条件にてヒートシールした。このとき、ヒートシーラーの熱板と試験片フィルムの間に融着防止用のPETフィルム(厚さ12μm)を挟んだ。ヒートシールにより融着した試験片を180°に開き、株式会社東洋精機製作所製,引張試験機(ストログラフE−L)により未シール部分をチャックに挟み、シール部分を剥離した。そして、ヒートシール強度が3Nに到達した時点の温度を求めた。
【0071】
実施例1ないし9及び比較例1ないし10の絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムの構造及び組成、並びに各種物性は表1ないし4のとおりである。表の上から順に、基材層部の組成であるプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)の樹脂種、シーラント層部(表1及び3はラミネート層部も含む)の樹脂種、フィルムの全体厚さ(μm)、層比(表1及び3はラミネート層部:基材層部:シーラント層部であり、表2及び4は基材層部:シーラント層部である。)、ヘーズ値の差(DH)(%)、熱膨張率(TE)(%)、ヒートシール開始温度(℃)を示す。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
【表3】
【0075】
【表4】
【0076】
[結果・考察]
〈層構造〉
実施例及び比較例を通じて第2実施形態の3層構造(ラミネート層部:基材層部:シーラント層部)及び第1実施形態の2層構造(基材層部:シーラント層部)のいずれの構造の絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムも作製できた。従って、用途、目的に応じて使い分けに応じた活用が可能である。
【0077】
〈キシレン可溶分の重量平均分子量〉
(a1)プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)の樹脂としてAP3、AP4、またはAP5を使用した比較例1,2,3,8,9,10によると、伸張前後のヘーズ値の差(DH)が大きくなった。これに対しAP1またはAP2を使用した実施例ではヘーズ値の差は小さい。この結果から良否を区分すると、重量平均分子量600000が上限となる。なお、下限については、プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)の性質上、重量平均分子量100000と想定する。よって、(a1)のキシレン可溶分の重量平均分子量は100000ないし600000、より好ましくは100000ないし500000の範囲となる。
【0078】
〈メルトフローレート〉
(a2)プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)のメルトフローレートいずれも1ないし10g/10minを満たす。ゆえに前記のメルトフローレートの範囲は好ましい範囲と考える。
【0079】
〈キシレン可溶分のエチレンコンテント〉
(a3)プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)のキシレン可溶分のエチレンコンテントについて、AP4を使用した比較例2,10によると、伸張前後のヘーズ値の差(DH)がかなり大きくなった。これに対しAP1またはAP2を使用した実施例ではヘーズ値の差は小さい。そこで、調達可能な樹脂種とヘーズ値との均衡から当該キシレン可溶分のエチレンコンテントを10ないし70重量%の範囲とした。
【0080】
従って、絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムを形成する上で、その基材層部に用いるプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)には、a1、a2、及びa3に規定する全ての要件の充足が必要である。
【0081】
〈融点〉
(b1)プロピレン−エチレンランダム共重合体(B)の示差走査熱量測定(DSC)の融点について、BP4(融点165℃)を使用した比較例4,7,8ではヒートシール開始温度の上昇が顕著であった。BP5(融点132℃)を使用した比較例5では熱膨張率が大きくなった。このように、フィルムの物性は融点により大きく変動する。また、高融点と低融点の樹脂を混合して融点を制御した比較例6であっても、ヒートシール開始温度が上昇する点を解消できなかった。従って、プロピレン−エチレンランダム共重合体(B)の融点は樹脂自体の融点とすることが望まれる。これらを踏まえ、融点の範囲は良好な物性から145ないし160℃である。
【0082】
〈融解熱量〉
(b2)プロピレン−エチレンランダム共重合体(B)の示差走査熱量測定(DSC)の融解熱量について、BP5(49mJ/mg)を使用した比較例5では熱膨張率が大きくなった。これに対し、BP3(89mJ/mg)を使用した実施例3,7,8,9によると、いずれも良好な物性であった。そこで、良好であったBP2(64mJ/mg)付近を下限値(60mJ/mg)とした。上限についてはBP3の結果と樹脂性能を踏まえ、100mJ/mgを上限とした。
【0083】
融点と融解熱量はともに熱物性の指標であり、樹脂の挙動は共通するようにも思われる。ところが、BP4に着目すると融解熱量は範囲内である。しかし、融点は範囲外である。BP4を使用した比較例4,7,8ではヒートシール開始温度の上昇が問題となった。これに対し、融解熱量は同値であり融点が範囲内のBP1を使用した実施例では、BP4使用時の問題は生じなかった。このように、物性指標の差がフィルムの性能面に明らかに影響を与えている。このことから、フィルム物性を把握するためにも、融点と融解熱量の両指標を規定することに意義がある。
【0084】
〈エチレンコンテント〉
(b3)プロピレン−エチレンランダム共重合体(B)のエチレンコンテントについて、同値が0重量%のBP4を使用した比較例4,7,8ではヒートシール開始温度の上昇が問題となった。BP1ないし3のエチレンコンテントに至ると所望の物性は好転する。そこで、現実的な範囲として1ないし5重量%、好ましくは2ないし4重量%の範囲を規定した。
【0085】
従って、絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムを形成する上で、そのシーラント層部(ラミネート層部)に用いるプロピレン−エチレンランダム共重合体(B)には、b1、b2、及びb3に規定する全ての要件の充足が必要である。
【0086】
〈ヘーズ値差(DH)〉
2層構造と3層構造では層を構成する樹脂の相違から層数に応じて差の数値は大きくなる。ただし、総じて実施例のヘーズ値差は小さい。フィルムのヘーズ値が10%を上回る場合、フィルムの曇り具合が目立つ。そこで、フィルムの外観面の点から伸張前後のヘーズ値差を極力少なくするべく、伸張前後の好ましいヘーズ値差は10%以下、より好ましくは5%以下と導き出した。特に、絞り成型時、型面の曲げ箇所の影響を低減できるといえる。
【0087】
〈熱膨張率(TE)〉
絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムは、汎用の包装用途のみならず、リチウムイオン電池の包装材用途も想定している。従って、過酷な使用条件に対応するべく、常温から高温までの幅広い温度条件下での形状変形が少ないほどよい。この点、実施例側の変化量の抑制を確認した。そこで、各例に均衡から15%以下、好ましくは14%以下と規定した。
【0088】
〈ヒートシール開始温度〉
ヒートシール開始温度はフィルムの温度耐性、使用条件等と密接に関連する。ヒートシール開始温度が低ければ同フィルムから形成される包装体が高温下に曝露された際に封止部位が脆弱化する。逆に、ヒートシール開始温度が極端に高ければ、ヒートシールの効率が低下することに加え、積層される他のフィルム等への影響も生じる。そこで、フィルムの性能を加味しながら良否を検討した。実施例についてはヒートシール開始温度を適度に抑制した。この結果から、145ないし160℃、より好ましくは150ないし160℃と規定した。
【産業上の利用可能性】
【0089】
以上のとおり、本発明に規定した要素を含む絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムは、ヘーズや変形に対し好適な物性を備える。特に、温度変化の耐性、ヒートシール条件に優れており、絞り成型用のシーラントフィルムとして、一般包装材から電池用包装材の広範な用途にも対応できる。
【符号の説明】
【0090】
1,2 絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルム(シーラントフィルム)
10 基材層部
11 第1面部
12 第2面部
21 シーラント層部
22 ラミネート層部
24 表面部
図1
図2