【実施例】
【0054】
[絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルム作製(製膜)]
実施例1ないし9及び比較例1ないし10の絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムの作製は、表1ないし表4に示した樹脂種(次述参照)とその配合割合(重量%)に基づく。実施例1ないし4及び比較例1ないし6は
図2の第2実施形態として開示の「ラミネート層部,基材層部,シーラント層部」の3層構造とした。なお、第2実施形態を採用した各例のフィルムにおいて、ラミネート層部及びシーラント層部は同一樹脂組成とした。次に、実施例5ないし9及び比較例7ないし10は
図1の第1実施形態として開示の「基材層部,シーラント層部」の2層構造とした。
【0055】
第2実施形態にあっては、ラミネート層部、基材層部、及びシーラント層部に対応する原料樹脂(次述参照)のペレット等を押出機に供給し、供給原料を溶融、混練して一度に三層共押出Tダイフィルム成形機により製膜した。第1実施形態にあっては、基材層部及びシーラント層部に対応する原料樹脂のペレット等を押出機に供給し、供給原料を溶融、混練して一度に二層共押出Tダイフィルム成形機により製膜した。実施例及び比較例の各フィルムは無延伸の製膜とした。ただし、製膜時の吐出、ロールによる圧延等の不可抗力による延伸の作用が加わることもある。
【0056】
[使用原料]
各実施例1ないし9並びに比較例1ないし10の絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムにおける層部を構成する樹脂原料として、次の樹脂「AP1」ないし「AP5」の5種類のプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)と、樹脂「BP1」ないし「BP5」の5種類のプロピレン−エチレンランダム共重合体(B)の中から選択して使用した。併せて、プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)の「AP1」ないし「AP5」の重量平均分子量、メルトフローレート、及びエチレンコンテントの物性、並びにプロピレン−エチレンランダム共重合体(B)の「BP1」ないし「BP5」の融点、融解熱量、エチレンコンテントの物性を示す。各項目の分析、測定の詳細は後述する。
【0057】
プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)の樹脂種
(AP1)
キシレン可溶分の重量平均分子量:409000
メルトフローレート:3.5g/10min
キシレン可溶分のエチレンコンテント:48重量%
(AP2)
キシレン可溶分の重量平均分子量:396000
メルトフローレート:3g/10min
キシレン可溶分のエチレンコンテント:41重量%
(AP3)
キシレン可溶分の重量平均分子量:670000
メルトフローレート:8.5g/10min
キシレン可溶分のエチレンコンテント:50重量%
(AP4)
キシレン可溶分の重量平均分子量:1880000
メルトフローレート:8g/10min
キシレン可溶分のエチレンコンテント:73重量%
(AP5)
キシレン可溶分の重量平均分子量:1010000
メルトフローレート:2.5g/10min
キシレン可溶分のエチレンコンテント:60重量%
【0058】
プロピレン−エチレンランダム共重合体(B)の樹脂種
(BP1)
DSCの融点:151℃
DSCの融解熱量:74mJ/mg
エチレンコンテント:3.1重量%
(BP2)
DSCの融点:153℃
DSCの融解熱量:64mJ/mg
エチレンコンテント:3.6重量%
(BP3)
DSCの融点:149℃
DSCの融解熱量:89mJ/mg
エチレンコンテント:2.9重量%
(BP4)
DSCの融点:165℃
DSCの融解熱量:74mJ/mg
エチレンコンテント:0重量%
(BP5)
DSCの融点:132℃
DSCの融解熱量:49mJ/mg
エチレンコンテント:3.0重量%
【0059】
[樹脂の物性測定]
〈重量平均分子量〉
キシレン可溶分の重量平均分子量は、JIS K 7252−1(2008)に準拠した。測定に際し、Agilent社製,PL−GPC220、カラムにAgilent Plgel Olexisの2本を使用し、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した。溶離液にo−ジクロロベンゼンを使用し流速1.0mL/minとした。同GPCの検出結果より重量平均分子量を算出した。
【0060】
〈メルトフローレート〉
メルトフローレートの測定は、JIS K 7210−1(2014)のA法に準拠し、230℃、2.16kg荷重の条件とした。
【0061】
〈エチレンコンテント〉
AP1ないしAP5のそれぞれ5ないし6gをキシレン中で還流溶解し、冷却後に遠心分離してキシレン可溶分液を分取した。キシレン可溶分液をさらに濃縮し、ここにメタノールを添加して析出、沈殿した。この析出物を濾過して回収し、乾燥した。こうして、AP1ないしAP5の樹脂に対応するキシレン可溶分の試料を得た。BP1ないしBP5はキシレン溶解を省略した。
【0062】
エチレンコンテントの測定に際し、社団法人日本分析学会 高分子分析懇談会編集 高分子分析ハンドブック(2013年5月10日,第3刷) 412〜413ページに記載のエチレン含有量の定量方法(IR法)に従い各樹脂試料のエチレンコンテントを測定した(単位:重量%)。AP1ないしAP5については、前述の処理を経たキシレン可溶分の試料のエチレンコンテントを求めた。BP1ないしBP5については樹脂自体のエチレンコンテントを求めた。
【0063】
〈融点及び融解熱量〉
融点は、JIS K 7121(2012)の示差走査熱量測定(DSC)の測定に準拠し、セイコーインスツル株式会社製,DSC6200を使用して測定した(単位:℃)。
融解熱量は、JIS K 7122(2012)の示差走査熱量測定(DSC)の測定に準拠し、同上DSC6200を使用して測定した(単位:mJ/mg)。
【0064】
[フィルムの物性測定]
〈厚さ〉
絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムの全体の厚さは、JIS K 7130(1999)に準拠し、厚さ測定器(株式会社東洋精機製作所製)を用い測定して全層厚さ(μm)を求めた。第2実施形態の3層構造を採用した例において、「ラミネート層部、基材層部、及びシーラント層部」の厚さ比はいずれも「1:6:1」とした。また、第1実施形態の2層構造を採用した例において、「基材層部及びシーラント層部」の厚さ比はいずれも「6:1」とした。厚さ比は各層の樹脂の吐出量により設定した。
【0065】
〈ヘーズ値〉
ヘーズの測定は、JIS K 7136(2000)に準拠し、ヘーズメーター(日本電色工業株式会社製,NDH−4000)を使用した(単位%)。
【0066】
実施例及び比較例の絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムを50mm×100mm(フィルムの幅方向×長さ方向)の長方形の試験片(ヘーズ測定用)に裁断した。はじめにこの試験片の状態で前記の規格に準拠してヘーズ値を測定した。これが伸長前のヘーズ値(H
0)である。次に、試験片の長尺方向を引張試験機のチャックに固定した。引張速度200mm/minにより、同試験片を500%の長さ(当初の5倍の長さ)になるまで引張した。当該伸張後、伸張を終えた試験片も前記の規格に準拠してヘーズ値を測定した。これが伸長後のヘーズ値(H
1)である。
【0067】
そこで、伸張の前後のヘーズ値の差(D
H)について、前出の式(ii)の「D
H=|H
1−H
0|」より求めた。伸張前後のフィルムの状態の影響を考慮して絶対値の表記とした。ヘーズ値の差(D
H)が小さいほど好ましい。
【0068】
〈熱膨張率〉
実施例及び比較例の絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムの性能評価に際し、熱による変形のし難さを熱安定性能の良否指標とした。そこで、熱機械分析装置(TMA装置)による加熱下においてフィルムの変形量(引張量)を計測することにした。TMA測定の装置にティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製,熱機械測定装置(型番:Q400)を使用した。
【0069】
実施例及び比較例の絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムを4mm×8mm(フィルムの幅方向×長さ方向)の長方形の試験片(熱膨張率測定用)に裁断した。長さ方向を引張方向として前出のTMA装置のプローブに試験片を固定した。試験片に対し0.0322Nの荷重(引張方向側)を加え、まずこの時点で試験片の長さ(L
0)を読み取った。同装置の昇温速度5℃/minの設定で試験片を常温から140℃まで加熱し、140℃に到達後、2分間そのまま温度を維持した。2分経過した時点で140℃加熱後の試験片の長さ(L
1)を読み取った。一連の加熱中、試験片には0.0322Nの荷重を引張方向に加え続けた。そして、加熱前後の試験片の長さ(L
0)と(L
1)を前出の式(i)に代入して、当初の試験片の長さと変化量との関係から熱膨張率(T
E)(%)を算出した。熱膨張率(T
E)の値は低いほど熱変形し難く好ましい。
【0070】
〈ヒートシール開始温度〉
実施例及び比較例の絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムについては、JIS Z 1713(2009)に準拠してヒートシール開始温度を測定した。このとき、フィルムを50mm×250mm(フィルムの幅方向×長さ方向)の長方形の試験片(ヒートシール用)に裁断した。2枚の試験片のヒートシール層部同士を重ね、株式会社東洋精機製作所製,熱傾斜試験機(ヒートシール試験機)を使用し、ヒートシール圧力を0.34MPa、ヒートシール時間を1秒とした。そして、5℃ずつ温度を傾斜(昇温)する条件にてヒートシールした。このとき、ヒートシーラーの熱板と試験片フィルムの間に融着防止用のPETフィルム(厚さ12μm)を挟んだ。ヒートシールにより融着した試験片を180°に開き、株式会社東洋精機製作所製,引張試験機(ストログラフE−L)により未シール部分をチャックに挟み、シール部分を剥離した。そして、ヒートシール強度が3Nに到達した時点の温度を求めた。
【0071】
実施例1ないし9及び比較例1ないし10の絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムの構造及び組成、並びに各種物性は表1ないし4のとおりである。表の上から順に、基材層部の組成であるプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)の樹脂種、シーラント層部(表1及び3はラミネート層部も含む)の樹脂種、フィルムの全体厚さ(μm)、層比(表1及び3はラミネート層部:基材層部:シーラント層部であり、表2及び4は基材層部:シーラント層部である。)、ヘーズ値の差(D
H)(%)、熱膨張率(T
E)(%)、ヒートシール開始温度(℃)を示す。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
【表3】
【0075】
【表4】
【0076】
[結果・考察]
〈層構造〉
実施例及び比較例を通じて第2実施形態の3層構造(ラミネート層部:基材層部:シーラント層部)及び第1実施形態の2層構造(基材層部:シーラント層部)のいずれの構造の絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムも作製できた。従って、用途、目的に応じて使い分けに応じた活用が可能である。
【0077】
〈キシレン可溶分の重量平均分子量〉
(a1)プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)の樹脂としてAP3、AP4、またはAP5を使用した比較例1,2,3,8,9,10によると、伸張前後のヘーズ値の差(D
H)が大きくなった。これに対しAP1またはAP2を使用した実施例ではヘーズ値の差は小さい。この結果から良否を区分すると、重量平均分子量600000が上限となる。なお、下限については、プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)の性質上、重量平均分子量100000と想定する。よって、(a1)のキシレン可溶分の重量平均分子量は100000ないし600000、より好ましくは100000ないし500000の範囲となる。
【0078】
〈メルトフローレート〉
(a2)プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)のメルトフローレートいずれも1ないし10g/10minを満たす。ゆえに前記のメルトフローレートの範囲は好ましい範囲と考える。
【0079】
〈キシレン可溶分のエチレンコンテント〉
(a3)プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)のキシレン可溶分のエチレンコンテントについて、AP4を使用した比較例2,10によると、伸張前後のヘーズ値の差(D
H)がかなり大きくなった。これに対しAP1またはAP2を使用した実施例ではヘーズ値の差は小さい。そこで、調達可能な樹脂種とヘーズ値との均衡から当該キシレン可溶分のエチレンコンテントを10ないし70重量%の範囲とした。
【0080】
従って、絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムを形成する上で、その基材層部に用いるプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)には、a1、a2、及びa3に規定する全ての要件の充足が必要である。
【0081】
〈融点〉
(b1)プロピレン−エチレンランダム共重合体(B)の示差走査熱量測定(DSC)の融点について、BP4(融点165℃)を使用した比較例4,7,8ではヒートシール開始温度の上昇が顕著であった。BP5(融点132℃)を使用した比較例5では熱膨張率が大きくなった。このように、フィルムの物性は融点により大きく変動する。また、高融点と低融点の樹脂を混合して融点を制御した比較例6であっても、ヒートシール開始温度が上昇する点を解消できなかった。従って、プロピレン−エチレンランダム共重合体(B)の融点は樹脂自体の融点とすることが望まれる。これらを踏まえ、融点の範囲は良好な物性から145ないし160℃である。
【0082】
〈融解熱量〉
(b2)プロピレン−エチレンランダム共重合体(B)の示差走査熱量測定(DSC)の融解熱量について、BP5(49mJ/mg)を使用した比較例5では熱膨張率が大きくなった。これに対し、BP3(89mJ/mg)を使用した実施例3,7,8,9によると、いずれも良好な物性であった。そこで、良好であったBP2(64mJ/mg)付近を下限値(60mJ/mg)とした。上限についてはBP3の結果と樹脂性能を踏まえ、100mJ/mgを上限とした。
【0083】
融点と融解熱量はともに熱物性の指標であり、樹脂の挙動は共通するようにも思われる。ところが、BP4に着目すると融解熱量は範囲内である。しかし、融点は範囲外である。BP4を使用した比較例4,7,8ではヒートシール開始温度の上昇が問題となった。これに対し、融解熱量は同値であり融点が範囲内のBP1を使用した実施例では、BP4使用時の問題は生じなかった。このように、物性指標の差がフィルムの性能面に明らかに影響を与えている。このことから、フィルム物性を把握するためにも、融点と融解熱量の両指標を規定することに意義がある。
【0084】
〈エチレンコンテント〉
(b3)プロピレン−エチレンランダム共重合体(B)のエチレンコンテントについて、同値が0重量%のBP4を使用した比較例4,7,8ではヒートシール開始温度の上昇が問題となった。BP1ないし3のエチレンコンテントに至ると所望の物性は好転する。そこで、現実的な範囲として1ないし5重量%、好ましくは2ないし4重量%の範囲を規定した。
【0085】
従って、絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムを形成する上で、そのシーラント層部(ラミネート層部)に用いるプロピレン−エチレンランダム共重合体(B)には、b1、b2、及びb3に規定する全ての要件の充足が必要である。
【0086】
〈ヘーズ値差(D
H)〉
2層構造と3層構造では層を構成する樹脂の相違から層数に応じて差の数値は大きくなる。ただし、総じて実施例のヘーズ値差は小さい。フィルムのヘーズ値が10%を上回る場合、フィルムの曇り具合が目立つ。そこで、フィルムの外観面の点から伸張前後のヘーズ値差を極力少なくするべく、伸張前後の好ましいヘーズ値差は10%以下、より好ましくは5%以下と導き出した。特に、絞り成型時、型面の曲げ箇所の影響を低減できるといえる。
【0087】
〈熱膨張率(T
E)〉
絞り成型用ポリプロピレン系シーラントフィルムは、汎用の包装用途のみならず、リチウムイオン電池の包装材用途も想定している。従って、過酷な使用条件に対応するべく、常温から高温までの幅広い温度条件下での形状変形が少ないほどよい。この点、実施例側の変化量の抑制を確認した。そこで、各例に均衡から15%以下、好ましくは14%以下と規定した。
【0088】
〈ヒートシール開始温度〉
ヒートシール開始温度はフィルムの温度耐性、使用条件等と密接に関連する。ヒートシール開始温度が低ければ同フィルムから形成される包装体が高温下に曝露された際に封止部位が脆弱化する。逆に、ヒートシール開始温度が極端に高ければ、ヒートシールの効率が低下することに加え、積層される他のフィルム等への影響も生じる。そこで、フィルムの性能を加味しながら良否を検討した。実施例についてはヒートシール開始温度を適度に抑制した。この結果から、145ないし160℃、より好ましくは150ないし160℃と規定した。