特許第6869101号(P6869101)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6869101接着剤層形成装置、半導体チップ製造ライン、及び積層体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6869101
(24)【登録日】2021年4月15日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】接着剤層形成装置、半導体チップ製造ライン、及び積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/02 20060101AFI20210426BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20210426BHJP
   B32B 37/00 20060101ALI20210426BHJP
   H01L 21/683 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   H01L21/02 B
   B32B15/08 N
   B32B37/00
   H01L21/68 N
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-95585(P2017-95585)
(22)【出願日】2017年5月12日
(65)【公開番号】特開2018-195614(P2018-195614A)
(43)【公開日】2018年12月6日
【審査請求日】2020年3月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】舩木 克典
(72)【発明者】
【氏名】辻 直子
【審査官】 小池 英敏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−305405(JP,A)
【文献】 特開2003−145029(JP,A)
【文献】 特開昭61−291032(JP,A)
【文献】 特許第4470017(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/02
B32B 15/08
B32B 37/00
H01L 21/683
H01L 21/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体ウェハの一方の面に塗布形成された塗膜中の溶媒を除去して接着剤層を形成する装置であって、前記半導体ウェハを載置する下部プレートと、前記下部プレートとで容積10リットル以下の閉空間を形成する上部カバーと、前記閉空間内を減圧する減圧手段と、を備えた接着剤層形成装置であって、
さらに、フックユニット及びボールユニットを有し且つ前記上部カバーを上下させて前記閉空間を開閉させる上下駆動ユニットを有し、前記上部カバーは、前記減圧手段及び前記閉空間内を常圧に戻す解圧手段に接続した分岐管に接続している、接着剤層形成装置。
【請求項2】
前記上部カバーの、前記閉空間の天井となる部分がドーム型である、請求項1に記載の接着剤層形成装置。
【請求項3】
前記上部カバーにおけるドーム型部が金属製であり、前記ドーム型部の厚さが2mm以下である、請求項2に記載の接着剤層形成装置。
【請求項4】
前記塗膜を加熱する加熱手段を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の接着剤層形成装置。
【請求項5】
前記上部カバーが周縁にフランジ部を有し、前記下部プレートが前記半導体ウェハを載置する載置台と、該載置台の周囲に前記フランジ部と接触して前記閉空間を形成する溝と、を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の接着剤層形成装置。
【請求項6】
前記下部プレートの内部の、前記閉空間と通気が遮断される位置に熱電対を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の接着剤層形成装置。
【請求項7】
前記上部カバーが、閉空間内を常圧に戻す際に閉空間内に流れ込むガスが、形成された接着剤層表面に直接吹き付けられるのを防ぐガス流入ガードを、ガスが流れ込む部分の内側に有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の接着剤層形成装置。
【請求項8】
前記フックユニットが、アームを介してジャッキに接続している、請求項1〜7のいずれか1項に記載の接着剤層形成装置。
【請求項9】
前記半導体ウェハの一方の面に接着成分及び溶媒を含む接着剤組成物を塗布して塗膜を形成する接着剤組成物塗布装置、請求項1〜8のいずれか1項に記載の接着剤層形成装置、及び形成された接着剤層を有する半導体ウェハを他の半導体ウェハと貼り合わせる装置、をこの順に有する半導体チップ製造ライン。
【請求項10】
半導体ウェハの少なくとも一方の面に接着剤層を有する積層体の製造方法であって、半導体ウェハの一方の面に、接着成分及び溶媒を含む接着剤組成物を塗布して塗膜を形成する工程、及び請求項1〜8のいずれか1項に記載の接着剤層形成装置を用いて前記塗膜中の溶媒を除去して接着剤層を形成する工程を含む、積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤層形成装置、半導体チップ製造ライン、及び積層体の製造方法に関する。より具体的には、半導体ウェハの少なくとも一方の面に接着剤層を形成する装置(接着剤層形成装置)、該接着剤層形成装置を有する半導体チップ製造ライン、及び、半導体ウェハの少なくとも一方の面に接着剤層を有する積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層半導体チップの作製には、シリコンウェハを積み重ね、接着剤により貼り合せることが行われる。特に、ウェハ・オン・ウェハ方式(WOW方式)においては、トランジスタ回路が形成されたシリコンウェハをチップの形に切り出すことなく、ウェハ単位で、接着剤を介して積層される。
【0003】
上記WOW方式では、貼り合わせ時に空気を噛み込むこと(泡かみ)が懸念されるため、通常減圧下(特に、真空下)で圧着・加熱が行われる(例えば、非特許文献1参照)。この際、接着剤中に溶媒が残っていると、溶媒が減圧下で気化して発泡し、泡かみと同様の現象が起こり、その結果ウェハの接着不良が起こることがあった。このため、塗布した接着剤の十分な溶媒の除去(脱溶媒)が必要とされ、通常、大気圧条件下で溶媒の沸点近くの温度(例えば140℃程度)に加熱したり、加熱時間を長くしたりすること等により脱溶媒が行われている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5693961号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】“パワーデバイス用複合ウェーハの精密実装技術の開発 研究開発成果等報告書”,[online],平成24年12月,公益財団法人新産業創造研究機構,[平成29年5月12日検索], インターネット<URL:http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/sapoin/portal/seika/2010/22152803010.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、大気圧条件下で溶媒の沸点近くの温度に加熱する方法は、この際に接着剤中の接着成分が硬化しないようにする必要があるため、硬化温度が大気圧条件下での溶媒の沸点よりも高い接着剤を選択する、大気圧条件下での沸点が低い溶剤を選択する、あるいはこのような問題を生じない硬化様式の接着剤を選択する等の必要性があり、使用する接着剤や溶媒の選択肢が限定されるという問題があった。一方、加熱時間を長くすることは製造プロセスに係る時間(タクトタイム)が長くなることを意味する。
【0007】
この問題の解決のために真空乾燥器を用いることが考えられる。しかしながら、市販の真空乾燥器の多くは概ね立方体のチャンバー形状をしており、ウェハサイズが大きくなるにつれて、乾燥器全体が大きくなる(例えば、非特許文献1参照)。真空乾燥器が大きい場合、真空乾燥器内を減圧する時間及び常圧に戻す時間が長くなる、減圧下での真空乾燥器内の均一な温度コントロールが困難となる等の問題があった。このため、結果として市販の真空乾燥器の使用によりタクトタイムを短くする効果は顕著には現れないという問題があった。
【0008】
従って、本発明の目的は、半導体ウェハの一方の面に接着剤層を有する積層体であって、減圧下でのウェハ接着時に接着剤層が発泡しにくい積層体を、接着成分の硬化(すなわち接着剤の硬化)が起こりにくく且つタクトタイムを短くしながら製造する方法、及び該方法に用いる接着剤層形成装置を提供することにある。また、本発明の他の目的は、上記接着剤層形成装置を有する半導体チップ製造ラインを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、特定容積以下の閉空間にて、減圧下、接着剤組成物を塗布して形成された塗膜を脱溶媒して接着剤層を形成することにより、減圧下でのウェハ接着時に接着剤層が発泡しにくい接着剤層を有する半導体ウェハを、接着剤の硬化が起こりにくく且つタクトタイムを短くしながら製造することができることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。
【0010】
すなわち、本発明は、半導体ウェハの一方の面に塗布形成された塗膜中の溶媒を除去して接着剤層を形成する装置であって、前記半導体ウェハを載置する下部プレートと、前記下部プレートとで容積10リットル以下の閉空間を形成する上部カバーと、前記閉空間内を減圧する減圧手段と、を備えた接着剤層形成装置を提供する。
【0011】
前記接着剤層形成装置において、前記上部カバーの、前記閉空間の天井となる部分がドーム型であることが好ましい。
【0012】
前記接着剤層形成装置において、前記上部カバーにおけるドーム型部が金属製であり、前記ドーム型部の厚さが2mm以下であることが好ましい。
【0013】
前記接着剤層形成装置は、前記塗膜を加熱する加熱手段を有することが好ましい。
【0014】
前記接着剤層形成装置において、前記上部カバーが周縁にフランジ部を有し、前記下部プレートが前記半導体ウェハを載置する載置台と、該載置台の周囲に前記フランジ部と接触して前記閉空間を形成する溝と、を有することが好ましい。
【0015】
前記接着剤層形成装置は、前記下部プレートの内部の、前記閉空間と通気が遮断される位置に熱電対を有することが好ましい。
【0016】
前記接着剤層形成装置は、さらに、フックユニット及びボールユニットを有し且つ前記上部カバーを上下させて前記閉空間を開閉させる上下駆動ユニットを有し、前記上部カバーは、前記減圧手段及び前記閉空間内を常圧に戻す解圧手段に接続した分岐管に接続していることが好ましい。
【0017】
前記接着剤層形成装置において、前記上部カバーが、閉空間内を常圧に戻す際に閉空間内に流れ込むガスが形成された接着剤層表面に直接吹き付けられるのを防ぐガス流入ガードを、ガスが流れ込む部分の内側に有することが好ましい。
【0018】
前記接着剤層形成装置において、前記フックユニットが、アームを介してジャッキに接続していることが好ましい。
【0019】
また、本発明は、前記半導体ウェハの一方の面に接着成分及び溶媒を含む接着剤組成物を塗布して塗膜を形成する接着剤組成物塗布装置、前記の接着剤層形成装置、及び形成された接着剤層を有する半導体ウェハを他の半導体ウェハと貼り合わせる装置、をこの順に有する半導体チップ製造ラインを提供する。
【0020】
また、本発明は、半導体ウェハの少なくとも一方の面に接着剤層を有する積層体の製造方法であって、半導体ウェハの一方の面に、接着成分及び溶媒を含む接着剤組成物を塗布して塗膜を形成する工程、及び容積10リットル以下の閉空間で減圧下前記塗膜中の溶媒を除去して接着剤層を形成する工程を含む、積層体の製造方法を提供する。
【0021】
また、本発明は、半導体ウェハの少なくとも一方の面に接着剤層を有する積層体の製造方法であって、半導体ウェハの一方の面に、接着成分及び溶媒を含む接着剤組成物を塗布して塗膜を形成する工程、及び前記の接着剤層形成装置を用いて前記塗膜中の溶媒を除去して接着剤層を形成する工程を含む、積層体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の接着剤層形成装置及び本発明の製造方法によれば、上記構成を有するため、半導体ウェハの一方の面に接着剤層を有する積層体であって、減圧下でのウェハ接着時に接着剤層が発泡しにくい積層体を、接着剤の硬化を起こりにくくし且つタクトタイムを短くしながら製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の接着剤層形成装置の一例を示す概略図(正面断面図)である。
図2】(a)はドーム型部2a及びフランジ部2bで構成される上部カバー2の上面図であり、(b)は(a)におけるb−b’断面の断面正面図である。
図3】(a)は下部プレート1の上面図であり、(b)は(a)におけるb−b’断面の断面正面図(b)である。
図4】上下駆動ユニット4のフックユニット4bとジャッキ6aとがアーム6bを介して接続している一例を示す概略図である。
図5】(a)は上下駆動ユニット4がアーム6bと接続した状態の正面図であり、(b)は(a)におけるb−b’断面の断面側面図、(c)は(a)におけるc−c’断面の断面上面図である。
図6】本発明の接着剤層形成装置を用いて接着剤層を形成する過程を示す概略図である。
図7】下部プレート1の下側に加熱プレート8を設ける態様を示す概略図である。
図8】ガス流入ガード2dの拡大図(斜視図)である。
図9】(a)は搬送手段により半導体ウェハを接着剤組成物塗布装置から本発明の接着剤層形成装置に搬送する前後の態様を示す概略図(上面図)であり、(b)は搬送手段により半導体ウェハを本発明の接着剤層形成装置から半導体ウェハ積層装置に搬送する前後の態様を示す概略図(上面図)である。
図10】(a)はピックアップ治具の上面図であり、(b)は左側側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[接着剤層形成装置]
本発明の接着剤層形成装置は、半導体ウェハの一方の面に塗布形成された塗膜中の溶媒(溶剤)を除去して接着剤層を形成する装置(接着剤層形成装置)である。本発明の接着剤層形成装置は、半導体ウェハを載置する下部プレートと、上記下部プレートとで容積10リットル以下の閉空間を形成する上部カバーと、前記閉空間内を減圧する減圧手段と、を備える。
【0025】
図1は、本発明の接着剤層形成装置の一例を示す概略図(正面断面図)である。図1に示す本発明の接着剤層形成装置は、板状の下部プレート1と、上部カバー2とを有する。上部カバー2を下方に移動させて下部プレート1上に接触させることにより、上部カバー2と下部プレート1とで容積10リットル以下の閉空間を形成することができる。また、閉空間の形成及び開放は上部カバー2の上下動により行うため、開閉扉の設置が不要となる。
【0026】
上部カバー2と下部プレート1とで形成される閉空間の容積は、上述のように10リットル以下(例えば、0.1〜10リットル)であり、好ましくは8リットル以下(例えば、0.1〜8リットル)、より好ましくは7リットル以下(例えば、0.1〜7リットル)である。
【0027】
上部カバー2は、上記閉空間の天井となる部分がドーム型(椀型)であり、ドーム型であるドーム型部2a及びフランジ部2bを有する。図2に、ドーム型部2a及びフランジ部2bから構成される上部カバー2の上面図(a)、及び上面図(a)におけるb−b’断面の断面正面図(b)を示す。図2に示すように、上部カバー2は、上方から見て中央に円形であるドーム型部2aがあり、ドーム型部2aの円の中心には、閉空間内部を吸引して減圧するための孔2cが設けられており、ドーム型部2aの周縁に、円周に沿ってフランジ部2bが設けられている。上部カバー2はドーム型であるが、本明細書において、「ドーム型」とは、上方から見たときの中心部(孔2c)から外側に向かって、断面の水平面に対する角度が徐々に大きくなっていき、断面正面から見たとき(例えば図2(b))の上記円の中心部が緩やかな凸形状になっている形状をいい、半球状や半楕円球状のものも含まれる。上部カバー2がドーム型であることにより、上部カバー2と下部プレート1とで閉空間を形成した際に、閉空間内には厚さ1mm弱の半導体ウェハを設置するに十分な空間を有し、且つ内容積を極小化した閉空間を形成できる。なお、本発明の接着剤層形成装置は、上部カバー2はドーム型のものには限定されず、上記の特定容積以下の閉空間を形成できるものであれば他の形状であってもよい。
【0028】
図2(b)に示すように、ドーム型部2aは、ドーム型の縁付近(フランジ部2b付近)r1と、ドーム型の底部付近(孔2c付近)r2とで異なる曲率を有し、底部付近r2の曲率半径は縁付近r1の曲率半径よりも大きい。縁付近r1の曲率半径はR=20〜40が好ましい。底部付近r2の曲率半径はR=250〜400が好ましい。また、ドーム型内部の底部からドーム型の縁までの高さhは、塗膜の脱溶媒を行いやすい観点から、50〜120mmが好ましい。ドーム型内部の縁表面の直径w1は、半導体ウェハの大きさよりも少し大きい程度が好ましく、例えば100〜500mmである。フランジ部2bの、内側の縁を円周とする円の直径と外側の縁を円周とする円の直径の差(フランジ部2bの幅)w2は、5〜30mmが好ましい。フランジ部2bの厚さtは、3〜20mmが好ましい。ドーム型部2aの厚さは、軽量化の観点から、5mm以下が好ましく、より好ましくは2mm以下である。
【0029】
上部カバー2のドーム型部2aを構成する材料は、金属、樹脂、ガラス等が挙げられるが、軽量化、閉空間の減圧に対する強度の観点から、金属が好ましく、特に好ましくはSUSである。即ち、ドーム型部2aは、金属製が好ましく、特に好ましくはSUS製である。
【0030】
本発明の接着剤層形成装置は、上部カバー2のドーム型部2aが薄い金属板が曲面加工されたものであっても、閉空間が減圧下において大気圧との差による凹みを防止することができ、また、このようなドーム型部2aを用いることにより上部カバー2が軽量化され、上部カバー2の上下に必要な動力及び機構も最小限とすることができる。
【0031】
図1に示す本発明の接着剤層形成装置において、下部プレート1は、上面から見て四角形状であり、塗膜が形成された半導体ウェハを載置するための載置台1aを中央に有する。また、下部プレート1は、載置台1aの周囲に上部カバー2のフランジ部2b(特に、フランジ部2bの底部)と接触して閉空間を形成する溝1bを有する。図3に、下部プレート1の上面図(a)、及び上面図(a)におけるb−b’断面の断面正面図(b)を示す。載置台1aは円状に、他の部分よりも高くなるように設けられており、溝1bは載置台1aの周囲に、リング状に設けられている。上部カバー2がフランジ部2bを、下部プレート1が溝1bをそれぞれ有することにより、閉空間を形成する際には上部カバー2と下部プレート1とはフランジ部2bと溝1bとで接触するため、上部カバー2と下部プレート1との密着性が向上し、減圧下で閉空間に空気が浸入しにくくなる。なお、本発明の接着剤層形成装置では、下部プレート1は溝1bを有していなくてもよいし、また、上部カバー2はフランジ部2bを有していなくてもよい。本発明の接着剤層形成装置は図示しない加熱手段を有する。そして、下部プレート1の内部には、形成される閉空間と通気が遮断される位置に熱電対1cが埋め込まれている。従って、下部プレート1には、熱電対1cを設置するための穴が設けられる。熱電対1cを用いた場合、半導体ウェハにより近い温度を測定することができる。
【0032】
図3に示す下部プレート1において、塗膜が形成された半導体ウェハの大きさに依存するが、下部プレート1の幅w3及び長さw4は、それぞれ、例えば200〜600mmである。載置台1aの直径w5は、閉空間の容積を極小とし、且つ半導体ウェハの載置及びピックアップを容易とする観点から半導体ウェハの大きさよりも少し小さい程度が好ましく、例えば80〜470mmである。溝1bの、内側の縁を円周とする円の直径w6は、w5よりも大きく且つ半導体ウェハに接触しない限り小さいことが好ましい。溝1bの、内側の縁を円周とする円の直径w6と外側の縁を円周とする円の直径の差(溝1bの幅)w7は、フランジ2bの幅w2よりも僅かに大きい程度が好ましく、例えば12〜60mmである。載置台1aの高さh2は、5〜20mmが好ましい。溝1bの深さh3は、1〜10mmが好ましい。
【0033】
下部プレート1を構成する材料は、金属、樹脂、ガラス等が挙げられるが、閉空間の減圧に対する強度、熱伝導性の観点から、金属が好ましく、特に好ましくはSUSである。即ち、下部プレート1は、金属製が好ましく、特に好ましくはSUS製である。
【0034】
また、フランジ部2bの底部と溝1bの表面とは、共ずり研磨等により一対の表面加工を行っている。これにより、真空用のグリース等のシール剤を用いなくてもフランジ部2bと溝1bとが隙間がなく接触でき、減圧下で閉空間に空気が浸入しにくくなる。また、上部カバー2を下部プレート1と接触させて閉空間を形成する際には、初期に軽く荷重をかけるだけでよく、上部カバー2の自重及び大気圧により上部カバー2のフランジ部2bが下部プレート1に密着するため、300mmHg以下の圧力を保つ事ができる。なお、さらなる減圧が必要な場合は、フランジ部2bの底部等にシリコーングリース等のシール剤を塗布してもよく、テフロンシート等のパッキングをセットすることもできる。
【0035】
図1に示す本発明の接着剤層形成装置において、上部カバー2は、チューブ分岐ユニット3に吊り下げられている。そして、上部カバー2の孔2cには、減圧手段及び常圧に戻す手段(解圧手段)に接続している分岐管3bに通じるパイプ3cが挿入されており、このパイプ3cを介して閉空間の減圧及び解圧が行われる。パイプ3cと上部カバー2とは、減圧時に閉空間内に空気が浸入しないように溶接されている。なお、孔2cは、図2に示すように上部カバー2のドーム型の中心部に設けられている必要は無く、上部カバー2のいずれの箇所に設けられていてもよいが、上部カバー2を吊り下げながら、上部カバー2を吊り下げているチューブ分岐ユニット3の内部を通じて減圧及び解圧を行える観点から、ドーム型の中心部が好ましい。
【0036】
チューブ分岐ユニット3は、ユニット本体3aの内部に分岐管3bを有する。ユニット本体3aは3つの雌ネジ部を有し、該雌ネジ部に雄ネジ部を有するチューブジョイント3d、3e、及び3f(例えばワンタッチジョイント)が螺合されており、分岐管3bの3つの末端はそれぞれチューブジョイント3d、3e、及び3fに接続している。そして、分岐管3bの一端はチューブジョイント3fを介してパイプ3cが接続しており、パイプ3cは、上部カバー2の孔2cに挿通されている。そして、分岐管3bの他の一端は、チューブジョイント3dを介して、図示しない減圧手段に繋がっているスパイラルチューブ5aに接続しており、また他の一端は、チューブジョイント3eを介して、図示しない解圧手段に繋がっているスパイラルチューブ5bに接続している。スパイラルチューブ5a及び5bを用いることにより、上部カバー2の自由な上下動が妨げられることなく上下動をスムーズに行うことができる。解圧手段は、例えば、塵埃侵入防止のためのエアフィルタを介して大気中に接続していてもよい。
【0037】
チューブ分岐ユニット3は、ボールユニット4aとフックユニット4bとを有する上下駆動ユニット4により上下に可動する。詳細には、ボールユニット4aの棒部の先端は雄ネジ部となっており、該雄ネジ部をチューブ分岐ユニット3のユニット本体3aの雌ネジ部に螺合して固定されており、フックユニット4bを持ち上げた際にはフックにボールユニット4aのボール部が引っかかることによってチューブ分岐ユニット3及び上部カバー2が持ち上がる(図1に示す状態)。一方、フックユニット4bを下ろした際には、上部カバー2が下部プレート1に接触しそれよりも上部カバー2が下降しなくなるまで、チューブ分枝ユニット3及び上部カバー2が下降し、フックに引っかかったボール部がフックから離れ、上部カバー2のフランジ部2bが自重のみで下部プレート1の溝1bに嵌まり込み、下部プレート1と上部カバー2とで閉空間が形成される。従って、上下駆動ユニット4を上下させることにより、上部カバー2を上下させることができ、これによって閉空間の開閉を操作することができる。なお、本発明の接着剤層形成装置は、未使用時は、図1に示すように上部カバー2が持ち上がった状態であってもよいが、通常はフランジ部2bが下部プレート1の溝1bに嵌まり込んだ状態とする。
【0038】
上下駆動ユニット4のフックユニット4bは、ジャッキに接続したアームと繋がっており、ジャッキによりアームを上下させることでフックユニット4bが上下し、上下駆動ユニット4が上下に駆動する。
【0039】
図4に示すように、上下駆動ユニット4のフックユニット4bとジャッキ6aとはアーム6bを介して接続している。ジャッキ6aによりアーム6bを上昇させると上下駆動ユニット4が上昇し、ジャッキ6aによりアーム6bを下降させると上下駆動ユニット4が下降する。なお、本発明の接着剤層形成装置において、上下駆動ユニット4は上下に駆動可能であれば特に限定されず、ジャッキ以外の手段によって上下に駆動可能となっていてもよい。
【0040】
図5に、上下駆動ユニット4がアーム6bと接続した状態の正面図(a)、(a)におけるb−b’断面の断面側面図(b)、及び(a)におけるc−c’断面の断面上面図(c)をそれぞれ示す。フックユニット4bには、フックユニット4bの中心付近に底部が曲面である窪み4cが形成されており、窪み4c中にボールユニット4aがフックユニット4bと固着することなく固定されている。また、窪み4cは、ボール部が前面に落ちないように前部にガードを有し、且つボールユニット4aがフックユニット4bから容易に着脱できるようにボール部の直径よりも細くボールユニットの棒部の断面直径よりも太い柱状の隙間を前部に有する。上下駆動ユニット4がこのような構造を有することにより、上部カバー2の上下動に際し、上部カバー2はボールユニット4aのボール部を支点として比較的自由な動きができる。そして、上部カバー2を下降させ下部プレート1に接触した後は、ボールユニット4aがフックユニット4bから離れ、上部カバー2のフランジ部2bが自重のみで下部プレート1の溝1bに嵌まり込み、閉空間が形成される。そして、塗膜の脱溶媒を行い、閉空間内の減圧を解除した後は、フックユニット4bによりボールユニット4aを引き上げるだけで閉空間が開き、接着剤層が形成された半導体ウェハを取り出すことができる。また、フックユニット4bの後部にはアーム6bが取り付けネジ6cにより固定されている。
【0041】
図6を用いて、本発明の接着剤層形成装置を用いて接着剤層を形成する過程を説明する。図6(a)は、上下駆動ユニット4によりチューブ分岐ユニット3及び上部カバー2が持ち上げられている状態であり、閉空間は形成されていない状態(図1に示す状態と同じ)である。この状態で、接着剤組成物を塗布して形成された塗膜7aを有する半導体ウェハ7bを下部プレート1の載置台1aに載せる(図6(b))。なお、載置台1aの載置面の面積は、半導体ウェハ7bの底面の面積よりもわずかに小さくなっている。
【0042】
次に、フックユニット4bを、上部カバー2のフランジ2bが下部プレート1の溝1bに接触し、その後ボールユニット4aのボール部がフックユニット4bのフックから離れるまで下降させ、閉空間が形成される(図6(c))。なお、形成された閉空間内には、塗膜7aが形成された半導体ウェハ7bが載置台1a上に載置されている。そして、パイプ3c、分岐管3b、及びスパイラルチューブ5aを通じて、図示しない減圧手段により孔2cから閉空間内を特定の圧力となるように減圧される。
【0043】
減圧後の上記閉空間内の圧力、即ち脱溶媒時の閉空間内の圧力は、特に限定されないが、0〜300mmHgが好ましく、より好ましくは0〜50mHg、さらに好ましくは0〜10mmHgである。上記圧力が300mmHg以下(好ましくは150mmHg、特に100mmHg以下)であると、塗膜中に高沸点(例えば、大気圧条件下で100℃を超える沸点)の溶媒が含まれる場合であっても、接着剤の硬化がより起こりにくい状態で効率よく脱溶媒が進行する。
【0044】
上記減圧状態で、図示しない加熱手段により塗膜7aが加熱され、塗膜7a中の溶媒が揮発して脱溶媒され、接着剤層7cが形成される(図6(d))。なお、閉空間内が十分に減圧され加熱しなくても脱溶媒が十分に進行する場合は加熱を行わなくてもよい。その後、パイプ3c、分岐管3b、及びスパイラルチューブ5bを通じて、図示しない解圧手段により孔2cから閉空間内を常圧に戻される。そして、フックユニット4aを持ち上げ、上部カバー2を上昇させ、接着剤層7cが形成された半導体ウェハ7bを移動可能な状態とする(図6(e))。なお、閉空間内を常圧に戻す際、孔2cから閉空間内に流れ込むガスが形成された接着剤層表面に直接吹き付けられるのを防ぐためのガス流入ガード2dが、ガスが流れ込む部分の内側(即ち、上部カバー2の孔2cが設けられている部分の、ドーム型部2aの内側)に、溶接により設けられている。
【0045】
上記脱溶媒時における塗膜の温度は、特に限定されないが、80℃以下(例えば10〜80℃)が好ましく、より好ましくは60℃以下である。上記温度が80℃以下であると、接着剤の硬化をより起こりにくくしながら効率的に脱溶媒を行うことができる。上記温度が10℃以上であると、塗膜中(接着剤組成物中)に高沸点の溶媒が含まれる場合であっても効率よく脱溶媒が進行する。なお、適宜上記加熱手段によって加熱して塗膜の温度を上記範囲内とすることができる。
【0046】
上記加熱手段は、塗膜を加熱することができる手段であれば特に限定されないが、図7に示すような下部プレート1の下側に加熱プレート8を設ける態様(即ち、加熱プレート8が加熱手段である態様)、下部プレート1内に加熱手段を埋め込む態様(即ち、下部プレート1が加熱手段でもある態様)等が挙げられる。このように、加熱手段は、下部プレート1と一体となっていてもよいし、下部プレート1とは分離していてもよい。
【0047】
図8に、ガス流入ガード2dの拡大図(斜視図)を示す。ガス流入ガード2dは、正方形の四つの角を三角形に折り曲げられた形状を有しており、この四つの角における三角形の先端をドーム型部2aの内部に溶接されている。なお、ガス流入ガード2dの形状は、特に限定されず、円形、楕円形、多角形のいずれあってもよい。また、折り曲げる角の形状も、三角形には限定されない。ガス流入ガード2dを設けることにより、解圧時に孔2cから閉空間内に流れ込むガスは、上部カバー2とガス流入ガード2dとで形成される、溶接点の間のスリット状の隙間から、下部プレート1の表面に対して平行なガス流として上部カバー2内壁面に沿って流れ込むようにして閉空間内に流入し、形成された接着剤層表面に直接吹き付けられるのを防ぐことができる。上記スリット状の隙間の高さ(ガス流入ガード2dの底面から上部カバー2内壁までの高さ)は、例えば0.5〜3mm程度、好ましくは0.7〜1.5mm程度である。
【0048】
なお、図1〜8を用いて本発明の接着剤層形成装置の一例を示したが、本発明の接着剤層形成装置はこのような装置に限定されるものではない。例えば、円盤状の半導体ウェハを用いた場合は図1〜8に示す接着剤層形成装置が好ましいが、四角形等の多角形状の半導体ウェハを用いる場合は、上部カバーとして上面から見た形状が当該多角形状である上部カバーを用い、下部プレートとしてこのような上部カバーの形状に対応する形状の載置台や溝を有する下部プレートを用いてもよい。
【0049】
本発明の接着剤層形成装置は、特定容積以下の閉空間を形成できる上部カバー及び下部プレートを有するという構成であるため、開閉扉を設ける必要が無く、半導体ウェハのセッティング、閉空間の形成、閉空間内の減圧、塗膜の脱溶媒、閉空間内の解圧、及び閉空間からの半導体ウェハの取り出しを簡単に行うことができ、タクトタイムを短くすることができる。また、本発明の接着剤層形成装置によれば、例えば沸点が146℃のポリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテートを溶媒として用いた接着剤組成物を用いた場合、減圧下では60℃以下で塗膜の脱溶媒を行うことができるため、脱溶媒時に接着成分が重合反応を開始しにくく、またタクトタイムを短くすることができ、且つ接着剤層中の残存溶媒の量も少なくすることができる。また、本発明の接着剤層形成装置は、簡素な構造であるため、半導体チップ製造ラインに容易に組み込むことができる。
【0050】
[半導体チップ製造ライン]
本発明の接着剤層形成装置を半導体チップ製造ラインに組み込むことで、本発明の半導体チップ製造ラインとすることができる。なお、本明細書において、本発明の接着剤層形成装置を有する半導体チップ製造ラインを、「本発明の半導体チップ製造ライン」と称する場合がある。
【0051】
本発明の半導体チップ製造ラインは、本発明の接着剤層形成装置の前に、半導体ウェハの一方の面に接着成分及び溶媒を含む接着剤組成物を塗布して塗膜を形成する装置(接着剤組成物塗布装置)を有することが好ましい。また、本発明の半導体チップ製造ラインは、本発明の接着剤層形成装置の後に、形成された接着剤層を有する半導体ウェハを他の半導体ウェハ等と貼り合わせる装置(半導体ウェハ積層装置)を有することが好ましい。即ち、本発明の半導体チップ製造ラインは、接着剤組成物塗布装置、本発明の接着剤層形成装置、及び半導体ウェハ積層装置をこの順に有することが好ましい。
【0052】
上記接着剤組成物塗布装置は、半導体ウェハの一方の面に接着成分及び溶媒を含む接着剤組成物を塗布して塗膜を形成する装置である。接着剤組成物塗布装置としては、公知乃至慣用のコーターを有する装置を用いることができ、中でもスピンコーターを有することが好ましい。
【0053】
半導体ウェハは、上記接着剤組成物塗布装置により表面に接着剤組成物を塗布して塗膜が形成された後、搬送手段によって本発明の接着剤層形成装置に搬送され、本発明の接着剤層形成装置により塗膜が脱溶媒され接着剤層が形成される。また、接着剤層が形成された半導体ウェハは、その後、搬送手段によって半導体ウェハ積層装置に搬送される。
【0054】
図9に、接着剤組成物塗布装置、本発明の接着剤層形成装置、及び半導体ウェハ積層装置をこの順に有する本発明の半導体チップ製造ラインに、搬送手段を組み込んだ一例の概略図(上面図)を示す。図9(a)は搬送手段により半導体ウェハを接着剤組成物塗布装置から本発明の接着剤層形成装置に搬送する前後の態様を示す概略図(上面図)であり、図9(b)は搬送手段により半導体ウェハを本発明の接着剤層形成装置から半導体ウェハ積層装置に搬送する前後の態様を示す概略図(上面図)である。なお、図中の矢印は可動方向を示し、破線で示す部分は搬送された後の状態を示す。
【0055】
図9(a)では、搬送手段9がアーム9aを伸ばして、接着剤組成物塗布装置11上にある塗膜が形成された半導体ウェハ10をピックアップした後、半導体ウェハ10が本発明の接着剤層形成装置12上に来るように回転し、そして本発明の接着剤層形成装置12上に半導体ウェハ10を載置する。その後、搬送手段9は、再び接着剤組成物塗布装置11上にある塗膜が形成された半導体ウェハ10をピックアップする位置へと戻る。
【0056】
図9(b)では、搬送手段13がアーム13aを伸ばして、本発明の接着剤層形成装置12上にある接着剤層が形成された半導体ウェハ14をピックアップした後、半導体ウェハ14が半導体ウェハ積層装置15上に来るように回転し、そして半導体ウェハ積層装置15上に半導体ウェハ14を載置する。その後、搬送手段13は、再び本発明の接着剤層形成装置12上にある接着剤層が形成された半導体ウェハ14をピックアップする位置へと戻る。
【0057】
搬送手段9が半導体ウェハ10をピックアップしその後載置する際、及び搬送手段13が半導体ウェハ14をピックアップしその後載置する際には、図10に示すピックアップ治具を用いることができる。図10(a)はピックアップ治具の上面図を示し、図10(b)は左側側面図を示す。なお、図10に記載の各数値は、各部分の距離(mm)を表し、直径300mmの円盤状の半導体ウェハの搬送に好ましい数値である。従って、搬送手段9及び13は、アームの先端に、図10に示すピックアップ治具(半導体ウェハが直径300mmの円盤状である場合は図中に示す距離のもの)を有することが好ましい。図10に記載の各部分の距離は、搬送する半導体ウェハのサイズによって適宜変更してもよい。また、半導体ウェハの搬送を手動で行う場合、図10に示すピックアップ治具であって握り部を有するものを使用することができる。
【0058】
本発明の接着剤層形成装置及び本発明の半導体チップ製造ラインは、メモリー、演算素子等の各種半導体素子を製造するための装置であるが、板状、ウェハ形状、又はディスク形状の基板に塗布された塗膜の形成にも使用することができる。
【0059】
[積層体の製造方法]
本発明の、半導体ウェハの少なくとも一方の面に接着剤層を有する積層体の製造方法は、半導体ウェハの一方の面に、接着成分及び溶媒を含む接着剤組成物を塗布して塗膜を形成する工程、及び容積10リットル以下の閉空間で減圧下上記塗膜中の溶媒を除去(脱溶媒)して接着剤層を形成する工程を含む。なお、本明細書において、上記積層体の製造方法を、単に「本発明の製造方法」と称する場合がある。
【0060】
上記半導体ウェハとしては、板状であり、シリコン、ガラス、プラスチックのいずれを用いたものであってもよい。
【0061】
半導体ウェハの一方の面に、接着成分及び溶媒を含む接着剤組成物を塗布して塗膜を形成する工程(「接着剤組成物塗布工程」と称する場合がある)で用いる接着剤組成物は、接着成分及び溶媒を含む。上記接着剤組成物中に含まれる接着成分としては、特に限定されず、公知乃至慣用の半導体ウェハの接着に用いられる接着成分が挙げられる。本発明の製造方法によれば、接着剤層形成工程で行う加熱溶剤除去過程において接着剤層の硬化を起こりにくくすることができるため、上記接着成分として、熱硬化性を有する接着成分(特に、低温(特に100℃以下)で硬化する接着成分)を用いることが可能になる。
【0062】
上記接着成分としては、例えば、ポリオルガノシルセスキオキサンであって、該ポリオルガノシルセスキオキサンを形成するシルセスキオキサン構成単位におけるケイ素原子上にエポキシ基を含有する基を有するポリオルガノシルセスキオキサン等を使用することができる。
【0063】
上記接着剤組成物中に含まれる溶媒としては、特に限定されず、公知乃至慣用の半導体ウェハの接着剤に用いられる有機溶媒が挙げられる。本発明の製造方法によれば接着剤層形成工程において接着剤の硬化を起こりにくくしながら、脱溶媒を促進しタクトタイムを短くすることができるため、上記溶媒としては、大気圧条件下での沸点が100℃を超える(例えば、100℃を超え200℃以下)の有機溶媒が好ましく、より好ましくは沸点が110〜170℃の有機溶媒である。このような有機溶媒としては、例えば、トルエン(沸点110℃)、ポリエチレングリコールメチルエーテルアセテート(沸点146℃)、シクロヘキサノン(沸点156℃)、メシチレン(沸点165℃)等が挙げられる。
【0064】
半導体ウェハの少なくとも一方の面に上記接着剤組成物を塗布する方法としては、公知乃至慣用のコーターを用いることができ、中でもスピンコーターが好ましい。
【0065】
上記容積10リットル以下の閉空間で減圧下前記溶媒を除去して接着剤層を形成する工程(「接着剤層形成工程」と称する場合がある)では、半導体ウェハに形成された塗膜を脱溶媒して接着剤層を形成する。上記接着剤層形成工程において、接着剤層の形成は、上記の本発明の接着剤層形成装置を用いて行うことが好ましい。
【0066】
上記閉空間の容積は、上述のように10リットル以下(例えば、0.1〜10リットル)であり、好ましくは8リットル以下(例えば、0.1〜8リットル)、より好ましくは7リットル以下(例えば、0.1〜7リットル)である。
【0067】
上記脱溶媒は、減圧下、必要に応じて加熱することにより行うことが好ましい。上記減圧下における圧力、即ち脱溶媒を行う際の上記閉空間内の圧力は、特に限定されないが、0〜300mmHgが好ましく、より好ましくは0〜150mmHg、さらに好ましくは0〜100mmHgである。上記圧力が上記範囲内であれば、接着剤の硬化がより起こりにくい状態で、高効率で脱溶媒(特に、沸点が上述の範囲内である有機溶媒の除去)を進行することができる。
【0068】
上記脱溶媒は、塗膜が80℃以下(好ましくは60℃以下)となる温度で0.5〜60分間(好ましくは2〜30分間)行うことが好ましい。
【0069】
上記減圧下での脱溶媒の完了後、上記閉空間内を常圧に戻すことにより、接着剤層が形成される。
【0070】
本発明の製造方法は、接着剤組成物塗布工程及び接着剤層形成工程以外の工程(その他の工程)を含んでいてもよい。上記その他の工程としては、接着剤層が形成された半導体ウェハを、他の半導体ウェハ等と積層する工程(半導体ウェハ積層工程)等が挙げられる。これにより、複層の半導体ウェハを有する積層半導体チップを製造することができる。
【実施例】
【0071】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0072】
実施例1
(接着剤層形成装置)
接着剤層形成装置として、図2に示す上部カバー(r1の曲率半径:R=32、r2の曲率半径:R=320、w1:320mm、w2:25mm、h:80mm)の孔の内側にガス流入ガード(底面積25cm2)を設置したもの、及び図3に示す下部プレート(w3:400mm、w4:400mm、w5:294mm、w6:310mm、w7:32.5mm、h2:15mm、h3:2mm)を用い、これらを図4に示すように組み立てたものを用いた。なお、加熱手段として、下部プレートの下側に加熱プレートを設けて使用した。
【0073】
(1)減圧到達時間
上記接着剤層形成装置を用い、上部カバーを下部プレートに接触(フランジ部が溝に接触)するまで下ろして閉空間(容積約6リットル)を形成し、スパイラルチューブ及び分岐管を通じて接続した減圧手段により上記閉空間内の減圧を開始し、減圧の開始から閉空間内の圧力が100mmHg以下に到達するまでの時間(減圧時間)を測定した。その結果、減圧時間は10秒であった。
【0074】
(2)リークの有無
閉空間内の圧力を100mmHg以下とし、この状態で減圧手段による減圧を停止し、1時間放置し、閉空間内の圧力変化を測定した。その結果、閉空間内の圧力変化は確認されず、リーク(閉空間内への空気の漏れ)が無いことを確認した。
【0075】
(3)解圧時間
スパイラルチューブ及び分岐管を通じて接続した解圧手段により上記閉空間内の解圧を開始し、閉空間内が常圧(大気圧)に戻る前での時間(解圧時間)を測定した。その結果、解圧時間は10秒であった。
【0076】
(4)接着剤層の形成
積層半導体作製に用いる接着剤(シルセスキオキサン構成単位としてケイ素原子上にエポキシ基を含有する基を有するものを含むポリオルガノシルセスキオキサン)を溶媒(ポリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート(沸点:146℃))に溶解し、接着剤組成物(溶媒濃度:67.9重量%)を作製した。得られた接着剤組成物を、直径300mmの円盤状の半導体ウェハの表面に塗布し塗膜を形成した。上記接着剤層形成装置を用い、表面温度50℃に加熱された下部プレートの載置台に半導体ウェハを載置し、上部カバーを下ろして閉空間を形成し、閉空間内の圧力が100mmHg以下になるまで減圧手段により減圧し、その状態で減圧開始から7分後(脱溶媒時間5分間)まで脱溶媒を行い、接着剤層を形成した。そして、形成された接着剤層をアセトンに溶解した溶液について、ガスクロマトグラフィーを用いて溶剤量を分析した。その結果、接着剤層中の残留溶媒の量は検出限界以下であった。
【0077】
比較例1
実施例1で用いた接着剤組成物を直径300mmの円盤状の半導体ウェハの表面に塗布して塗膜を形成し、これを実施例1で用いた下部プレートと同じ温度に設定したホットプレートに載置し、大気圧下で、実施例1の脱溶媒時間と同じ時間脱溶媒を行い、接着剤層を形成した。そして、形成された接着剤層について、実施例1と同様の条件でガスクロマトグラフィーを用いて溶剤量を分析した。その結果、接着剤層中の残留溶媒の量は0.5重量%であった。
【符号の説明】
【0078】
1 下部プレート
1a 載置台
1b 溝
1c 熱電対
2 上部カバー
2a ドーム型部
2b フランジ部
2c 孔
2d ガス流入ガード
3 チューブ分岐ユニット
3a ユニット本体
3b 分岐管
3c パイプ
3d チューブジョイント
3e チューブジョイント
3f チューブジョイント
4 上下駆動ユニット
4a ボールユニット
4b フックユニット
4c 窪み
5a 減圧手段に繋がっているスパイラルチューブ
5b 解圧手段に繋がっているスパイラルチューブ
6a ジャッキ
6b アーム
7a 塗膜
7b 半導体ウェハ
7c 接着剤層
8 加熱プレート
9 搬送手段
9a アーム
10 塗布層が塗布形成された半導体ウェハ
11 接着剤組成物塗布装置
12 本発明の接着剤層形成装置
13 搬送手段
13a アーム
14 接着剤層が形成された半導体ウェハ
15 半導体ウェハ積層装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10