(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
質量%で、Ni:10.0〜30.0%、Al:7.50%以下かつ下記(1)式を満たす含有量、Mg:0〜0.30%、Cr:0〜0.20%、Co:0〜0.30%、P:0〜0.10%、B:0〜0.05%、Mn:0〜0.20%、Sn:0〜0.40%、Ti:0〜0.50%、Zr:0〜0.20%、Si:0〜0.50%、Fe:0〜0.30%、Zn:0〜1.00%であり、Mg、Cr、Co、P、B、Mn、Sn、Ti、Zr、Si、Fe、Znの総量が0〜1.0%であり、残部Cuおよび不可避的不純物からなる化学組成を有し、板面(圧延面)に平行な観察面において、長径5.0μm以上の粗大Ni−Al系析出物粒子の個数密度が5.0×103個/mm2以下であり、かつEBSD(電子線後方散乱回折法)により、結晶方位差15°以上の境界を結晶粒界とみなした場合の結晶粒内における、ステップサイズ0.5μmで測定したKAM値が1.50〜5.00°であり、板厚が0.015〜0.50mmである銅合金板材。
Ni/Al≦15.0 …(1)
ここで、(1)式の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量値が代入される。
質量%で、Ni:10.0〜30.0%、Al:7.50%以下かつ下記(1)式を満たす含有量、Mg:0〜0.30%、Cr:0〜0.20%、Co:0〜0.30%、P:0〜0.10%、B:0〜0.05%、Mn:0〜0.20%、Sn:0〜0.40%、Ti:0〜0.50%、Zr:0〜0.20%、Si:0〜0.50%、Fe:0〜0.30%、Zn:0〜1.00%であり、Mg、Cr、Co、P、B、Mn、Sn、Ti、Zr、Si、Fe、Znの総量が0〜1.0%であり、残部Cuおよび不可避的不純物からなる化学組成を有する鋳片を1000〜1150℃で2時間以上加熱保持する工程(鋳片加熱工程)、
950℃以上の温度域での圧延率:65%以上、最終パスの圧延温度:800℃以上の条件で熱間圧延を行う工程(熱間圧延工程)、
冷間圧延を行う工程(冷間圧延工程)、
材料の最高到達温度T1:950℃を超え1100℃以下、900℃からT1までの平均昇温速度:50℃/s以上、900℃以上T1以下の温度域での保持時間:30〜360秒の条件で溶体化処理を行う工程(溶体化処理工程)、
400〜650℃、0.1〜48時間の時効処理を行う工程(時効処理工程)、
圧延率30〜99%の冷間圧延を行う工程(仕上冷間圧延工程)、
材料の最高到達温度T2:400〜700℃、T2までの最大昇温速度:200℃/s以下、400〜700℃での保持時間:10〜300秒の条件で熱処理を行う工程(仕上熱処理工程)、
を上記の順に有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の銅合金板材の製造方法。
Ni/Al≦15.0 …(1)
ここで、(1)式の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量値が代入される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電子機器の小型化・高密度化に伴い、それに用いる導電部品にも小型化のニーズが高まっている。寸法精度の高い小型銅合金部品は、エッチング工程を経て作成されることが多い。なかでもエッチング加工した部品を樹脂でモールドして使用する場合が多くある。その際、エッチング後の表面プロファイルにおいて局所的に深く掘られて凹凸が大きくなっている部分があると、樹脂とエッチング面との間に空気が入り込んでボイドが形成され、樹脂の密着性が著しく低下する。樹脂密着性が低下すると、部品の不良率増大を招く要因となる。従って、樹脂モールドして使用されるようなエッチング部品に適用するためには、できるだけ凹凸の少ない(表面平滑性の良好な)エッチング面が得られる素材であることが重要となる。Cu−Ni−Al系銅合金の板材は優れた高強度特性を呈することから高強度導電ばね部材の素地として有用である。しかし、精密な樹脂モールド導電部品に対応できるような優れたエッチング性を有するCu−Ni−Al系銅合金板材は開発されていないのが現状である。
【0006】
また、Cu−Ni−Al系銅合金はNi含有量が高いため、銅合金のなかでも銅の色味が薄い金属外観を呈する。特に、Cu−Ni−Al系銅合金の強度向上に有効なNiの含有量を増やしていくと、次第に白色の金属外観を呈するようになる。Cu−Ni−Al系銅合金も、他の一般的な銅合金と同様、高湿環境に曝されると変色することがあるが、白色調の表面外観を重視する用途では美麗な白色調が損なわれないよう、耐変色性に優れることも重要となる。
【0007】
本発明は、エッチング性が顕著に改善され、かつ耐変色性にも優れるCu−Ni−Al系銅合金板材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らの研究によれば、以下のことがわかった。
(a)Cu−Ni−Al系銅合金板材においてエッチング面の表面平滑性を高めるためには、EBSD(電子線後方散乱回折法)により求まるKAM値が大きい組織状態とすること、および粗大なNi−Al系析出物粒子の存在量を低減することが極めて有効である。
(b)KAM値を高めるには、時効処理前に行われる溶体化処理において、高温域で急速加熱を行って再結晶粒の成長を極力抑えた組織状態としておき、その後、冷間圧延で十分に歪を導入することが効果的である。また、最終的に行う仕上熱処理において、昇温速度が過度にならないように加熱条件をコントロールすることでコットレル雰囲気の形成が促進され、その格子歪によってKAM値が上昇する。
(c)粗大なNi−Al系析出物粒子の存在量を低減するためには、溶体化処理において一般的なCu−Ni−Al系銅合金の溶体化処理温度(800〜900℃程度)よりも高温に加熱することが効果的である。ただし、その際、結晶粒の粗大化が起こると上述のKAM値向上が望めない。この点に関しては、上工程において、鋳片加熱を従来より高めの温度で行い、かつ熱間圧延を従来より高めの温度域で十分に行って鋳造時に生じた粗大Ni−Al系析出物を十分に分解しておくことにより、溶体化処理の高温保持時間を短縮化することが可能となり、結晶粒の粗大化は回避される。
(d)強度を向上させ、かつ白色調の金属外観を得るためには10質量%以上のNi含有量を確保することが効果的である。その場合、Al含有量を所定以下に制限すること、およびAl含有量に応じてNi含有量を所定以下にコントロールすることによって、優れた耐変色性を実現できる。
本発明は、このように「KAM値の上昇」と「粗大Ni−Al系析出物粒子の低減」を同時に実現できる製造技術、および「高強度」、「白色調」、「耐変色性」を同時に満たす組成範囲を見いだしたことによって完成したものである。
【0009】
本明細書では以下の発明を開示する。
[1]質量%で、Ni:10.0〜30.0%、Al:7.50%以下かつ下記(1)式を満たす含有量、Mg:0〜0.30%、Cr:0〜0.20%、Co:0〜0.30%、P:0〜0.10%、B:0〜0.05%、Mn:0〜0.20%、Sn:0〜0.40%、Ti:0〜0.50%、Zr:0〜0.20%、Si:0〜0.50%、Fe:0〜0.30%、Zn:0〜1.00%、残部Cuおよび不可避的不純物からなる化学組成を有し、板面(圧延面)に平行な観察面において、長径5.0μm以上の粗大Ni−Al系析出物粒子の個数密度が5.0×10
3個/mm
2以下であり、かつEBSD(電子線後方散乱回折法)により、結晶方位差15°以上の境界を結晶粒界とみなした場合の結晶粒内における、ステップサイズ0.5μmで測定したKAM値が1.50〜5.00°である銅合金板材。
Ni/Al≦15.00 …(1)
ここで、(1)式の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量値が代入される。
[2]下記(A)に定義する板厚方向の平均結晶粒径が10.0μm以下である、上記[1]に記載の銅合金板材。
(A)圧延方向に垂直な断面(C断面)を観察したSEM画像上に、板厚方向の直線を無作為に引き、その直線によって切断される結晶粒の平均切断長を板厚方向の平均結晶粒径とする。ただし、直線によって切断される結晶粒の総数が100個以上となるように、1つまたは複数の観察視野中に、同一結晶粒を重複して切断しない複数の直線を無作為に設定する。
[3]板面(圧延面)の圧延直角方向の最大高さ粗さRzが1.2μm以下である上記[1]または[2]に記載の銅合金板材。
[4]導電率が3.0〜20.0%IACSである上記[1]〜[3]のいずれかに記載の銅合金板材。
[5]圧延方向の引張強さが800MPa以上である上記[1]〜[4]のいずれかに記載の銅合金板材。
[6]板厚が0.015〜0.50mmである上記[1]〜[5]のいずれかに記載の銅合金板材。
[7]上記[1]〜[6]のいずれかに記載の銅合金板材を材料に用いた導電ばね部材。
[8]前記の化学組成を有する鋳片を1000〜1150℃で2時間以上加熱保持する工程(鋳片加熱工程)、
950℃以上の温度域での圧延率:65%以上、最終パスの圧延温度:800℃以上の条件で熱間圧延を行う工程(熱間圧延工程)、
冷間圧延を行う工程(冷間圧延工程)、
材料の最高到達温度T
1:950℃を超え1100℃以下、900℃からT
1までの平均昇温速度:50℃/s以上、900℃以上T
1以下の温度域での保持時間:30〜360秒の条件で溶体化処理を行う工程(溶体化処理工程)、
400〜650℃、0.1〜48時間の時効処理を行う工程(時効処理工程)、
圧延率30〜99%の冷間圧延を行う工程(仕上冷間圧延工程)、
材料の最高到達温度T
2:400〜700℃、T
2までの最大昇温速度:200℃/s以下、400〜700℃での保持時間:10〜300秒の条件で熱処理を行う工程(仕上熱処理工程)、
を上記の順に有する銅合金板材の製造方法。
[9]前記冷間圧延工程において、圧延率80〜98%の冷間圧延を行う、上記[8]に記載の銅合金板材の製造方法。
[10]前記仕上冷間圧延工程において、当該冷間圧延後の板厚を0.015〜0.50mmとする、上記[8]または[9]に記載の銅合金板材の製造方法。
【0010】
上記合金元素のうち、Mg、Cr、Co、P、B、Mn、Sn、Ti、Zr、Si、Fe、Zn任意添加元素である。Ni−Al系析出物粒子の長径は、観察画像平面上でその粒子を取り囲む最小円の直径として定まる。粗大Ni−Al系析出物粒子個数密度は以下のようにして求めることができる。
【0011】
〔粗大Ni−Al系析出物粒子個数密度の求め方〕
板面(圧延面)を電解研磨してCu素地のみを溶解させて、Ni−Al系析出物粒子を露出させた観察面を調製し、その観察面をSEMにより観察し、SEM画像上に観測される長径5.0μm以上のNi−Al系析出物粒子の総個数を観察総面積(mm
2)で除した値を、粗大Ni−Al系析出物粒子個数密度(個/mm
2)とする。観察総面積は、無作為に設定した重複しない複数の観察視野により合計0.1mm
2以上とする。観察視野から一部がはみ出しているNi−Al系析出物粒子は、観察視野内に現れている部分の長径が5.0μm以上であればカウント対象とする。粒子がNi−Al系析出物であるかどうかは、粒子中央部に照準を合わせて電子ビームを照射し、SEMに付属のEDX(エネルギー分散型X線分析)装置にてCu、Ni、Alの3元素で定量分析を行うことにより確認する。これら3元素に占める質量%で、Ni:15.0%以上、Al:7.5%以上の測定値となる粒子を「Ni−Al系析出物」と同定する。
【0012】
KAM(Kernel Average Misorientation)値は以下のようにして求めることができる。
【0013】
〔KAM値の求め方〕
板面(圧延面)をバフ研磨およびイオンミリングにより調製した観察面(圧延面からの除去深さが板厚の1/10)をFE−SEM(電界放出形走査電子顕微鏡)により観察し、50μm×50μmの測定領域について、EBSD(電子線後方散乱回折法)により測定ピッチ0.5μmにて方位差15°以上の境界を結晶粒界とみなした場合の結晶粒内におけるKAM値を測定する。この測定を無作為に選んだ重複しない5箇所の測定領域について行い、各測定領域で得られたKAM値の平均値を、当該板材についてのKAM値として採用する。
【0014】
上記各測定領域で定まるKAM値は、0.5μmピッチで配置された電子線照射スポットについて、隣接するスポット間の結晶方位差(以下これを「隣接スポット方位差」という。)をすべて測定し、15°未満である隣接スポット方位差の測定値のみを抽出して、それらの平均値を求めたものに相当する。すなわち、KAM値は結晶粒内の格子歪の量を表す指標であり、この値が大きいほど結晶格子の歪が大きい材料であると評価することができる。
【0015】
ある板厚t
0(mm)からある板厚t
1(mm)までの圧延率は、下記(2)式により求まる。
圧延率(%)=(t
0−t
1)/t
0×100 …(2)
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、Cu−Ni−Al系銅合金の板材において、エッチング加工面の表面平滑性および耐変色性に優れるものが実現できた。この板材は高強度を有し、かつ精密部品にエッチング加工した際の樹脂密着性に優れるので、高強度導電ばね部品や、精密な樹脂モールド導電部品の素材として極めて有用である。また、白色調の外観を望む部品用途に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
〔化学組成〕
本発明では、Cu−Ni−Al系銅合金を採用する。以下、合金成分に関する「%」は、特に断らない限り「質量%」を意味する。
【0018】
Niは、CuとともにCu−Ni−Al系銅合金のマトリックス(金属素地)を構成する主要な元素である。また、合金中のNiの一部はAlと結合して第2相(Ni−Al系析出相)の粒子を形成し、強度向上に寄与する。Ni含有量の増大に伴って、他の一般的な銅合金と比べ白色の金属外観を呈するようになる。ただし、他の銅合金と同様、高湿環境に曝されると金属表面に薄い酸化皮膜が形成され、外観として判る程度に変色することがある。その場合、美麗な白色外観が損なわれる。発明者らの検討によれば、Ni含有量を10.0%以上とした上でAl含有量を後述のように確保することによって、耐変色性を高く維持することができる。したがって、本発明では10.0%以上のCu−Ni−Al系銅合金を対象とする。15.0%以上のNi含有量とすることがより効果的である。一方、Ni含有量が多くなると熱間加工性が悪くなる。Ni含有量は30.0%以下に制限される。
【0019】
Alは、Ni−Al系析出物を形成する元素である。Al含有量が少なすぎると強度向上が不十分となる。また、Ni含有量の増加に伴ってAl含有量も増加させることによって、耐変色性を改善することができる。種々検討の結果、下記(1)式を満たすようにAlを含有させる必要がある。
Ni/Al≦15.00 …(1)
ここで、(1)式の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量値が代入される。
一方、Al含有量が過大になると熱間加工性が悪くなる。Al含有量は7.50%以下に制限される。
【0020】
その他の元素として、必要に応じてMg、Cr、Co、P、B、Mn、Sn、Ti、Zr、Si、Fe、Zn等を含有させることができる。これらの元素の含有量範囲は、Mg:0〜0.30%、Cr:0〜0.20%、Co:0〜0.30%、P:0〜0.10%、B:0〜0.05%、Mn:0〜0.20%、Sn:0〜0.40%、Ti:0〜0.50%、Zr:0〜0.20%、Si:0〜0.50%、Fe:0〜0.30%、Zn:0〜1.00%とすることが好ましい。
【0021】
Mg、Cr、Co、P、B、Mn、Sn、Ti、Zr、Si、Fe、Znの1種または2種以上を含有させる場合は、それらの合計含有量を0.01%以上とすることがより効果的である。ただし、多量に含有させると、熱間または冷間加工性に悪影響を与え、かつコスト的にも不利となる。これら任意添加元素の総量は1.0%以下とすることがより望ましく、0.50%以下としてもよい。また、Cu−Ni−Al系銅合金でSnを多量に添加すると、溶製時に重力偏析を生じやすくなる。縦型連続鋳造機を用いた連続鋳造あるいは半連続鋳造を行う場合は、Sn含有量を0〜0.20%以の範囲とすることがより好ましい。
【0022】
〔粗大Ni−Al系析出物粒子個数密度〕
Cu−Ni−Al系銅合金では、Ni−Al系析出物を微細析出させることを利用して高強度化を図る。通常、高強度化に寄与する微細なNi−Al系析出物粒子を時効析出させる前には、既に存在している粗大なNi−Al系析出物を固溶させる処理(溶体化処理)が行われる。Cu−Ni−Al系銅合金の場合、特許文献1〜9の実施例に見られるように850℃から900℃程度で溶体化処理を行うことが一般的である。微細Ni−Al系析出物を時効析出させて高強度化を図る上では、この程度の温度での溶体化で十分な効果が得られている。しかしながら、高精細エッチングに対応できる優れたエッチング性を付与するためには、粗大なNi−Al系析出物粒子の存在量を厳しく制限する必要があることがわかった。詳細な検討の結果、板面(圧延面)に平行な観察面において、長径5.0μm以上の粗大Ni−Al系析出物粒子の個数密度は5.0×10
3個/mm
2以下(当該粗大Ni−Al系析出物粒子が存在しない場合も含む)に制限される。粗大Ni−Al系析出物粒子個数密度が上記のように低減された組織状態は、例えば後述の製造工程に従い溶体化を入念に行うことによって実現することができる。
【0023】
〔KAM値〕
発明者らは、銅合金板材のKAM値が、エッチング面の表面平滑性に影響を及ぼすことを発見した。そのメカニズムについては現時点で未解明であるが、以下のように推察している。すなわち、KAM値は結晶粒内の転位密度と相関のあるパラメータである。KAM値が大きい場合には結晶粒内の平均的な転位密度が高く、しかも、転位密度の場所的なバラツキが小さいと考えられる。エッチングに関しては、転位密度の高いところが優先的にエッチング(腐食)されると考えられる。KAM値が高い材料では、材料内の全体が均一的に転位密度の高い状態となっているので、エッチングによる腐食が迅速に進行し、かつ局所的な腐食の進行が生じにくい。そのような腐食の進行形態が、凹凸の少ないエッチング面の形成に有利に作用するのではないかと推察される。
【0024】
詳細な検討の結果、Cu−Ni−Al系銅合金の場合、EBSD(電子線後方散乱回折法)により、結晶方位差15°以上の境界を結晶粒界とみなした場合の結晶粒内における、ステップサイズ0.5μmで測定したKAM値(上述)が1.50°以上であるときに、エッチング面の表面平滑性が顕著に改善されることがわかった。1.90°以上のKAM値に調整することがより好ましい。ただし、KAM値が十分に高くても、粗大Ni−Al系析出物粒子個数密度が前述のように低減されていなければ、優れたエッチング性改善効果を安定して得ることは難しい。KAM値の上限については特に規定しないが、例えば5.00°以下のKAM値に調整すればよい。4.00°以下の範囲内で調整してもよい。KAM値の高い組織状態は、例えば後述の製造工程に従い、溶体化処理条件、仕上冷間圧延条件、仕上熱処理条件を工夫することによって実現することができる。
【0025】
〔平均結晶粒径〕
圧延方向に垂直な断面(C断面)における板厚方向の平均結晶粒径が小さいことも、凹凸の少ないエッチング面の形成に有利となる。検討の結果、上述(A)で定義されるC断面の平均結晶粒径が10.0μm以下であることが好ましく、5.0μm以下であることがより好ましい。この平均結晶粒径は過度に微細化する必要はなく、例えば0.50μm以上の範囲で調整すればよい。当該平均結晶粒径は、主として溶体化処理条件によってコントロールすることができる。
【0026】
〔表面粗さ〕
板面(圧延面)の圧延直角方向の最大高さ粗さRzが1.2μm以下である板材であることが好ましい。このような表面粗さに調整してあると、表面平滑性に優れたエッチング面を大量生産ラインにおいて安定して実現するうえで、有利となる。
【0027】
〔導電性〕
通電部品や放熱部品に用いる場合、電気伝導性や熱伝導性の面からは、導電性は高い方が有利となる。一方、最近では導電部材を組み立てる際、はんだ付けに代わり、レーザー溶接を適用したいというニーズも増えてきた。溶接の場合、導電率が低いほど熱伝導性が低いので熱が逃げにくく、溶接施工が容易になる。溶接ニーズに応えるためには、導電率が20%IACS以下であることが有利となる。Cu−Ni−Al系銅合金が適用される導電ばね部材の用途では、溶接性を考慮すると、導電率が3.0〜20.0%IACSに調整されていることが好ましい。15.0%IACS以下の範囲内で調整してもよい。
【0028】
〔強度〕
導電ばね部材への適用を考慮すると、圧延方向の引張強さが800MPa以上であることが望ましい。1000MPaより高い引張強さであることがより好ましく、1100MPa以上の引張強さに調整することもできる。過剰な高強度化は、冷間圧延工程での負荷の増大を伴い、生産性低下を招く。圧延方向の引張強さが1400MPa以下となる範囲で強度レベルを調整することが好ましい。
【0029】
〔製造方法〕
以上説明した銅合金板材は、例えば以下のような製造工程により作ることができる。
溶解・鋳造→熱間圧延→冷間圧延→(中間焼鈍→冷間圧延)→溶体化処理→時効処理→仕上冷間圧延→仕上熱処理
なお、上記工程中には記載していないが、熱間圧延後には必要に応じて面削が行われ、各熱処理後には必要に応じて酸洗、研磨、あるいは更に脱脂が行われる。以下、各工程について説明する。
【0030】
〔溶解・鋳造〕
連続鋳造、半連続鋳造等により鋳片を製造すればよい。Sn含有量を上述のように制限すると重力偏析のリスクが回避され、他の一般的な銅合金と同様、縦型連続鋳造機を用いた鋳造が可能である。Siなどの酸化を防止するために、不活性ガス雰囲気または真空溶解炉で行うのがよい。
【0031】
〔鋳片加熱〕
鋳片を1000〜1150℃で2時間以上加熱保持する。この加熱は熱間圧延時の鋳片加熱工程を利用して実施することができる。一般的にCu−Ni−Al系銅合金の鋳片加熱は950℃以下の温度で行われており、諸特性が良好な高強度材を得る上で、それより高温で加熱する必要性は生じていなかった。しかし、本発明ではエッチング性を改善するために粗大Ni−Al系析出物粒子の存在量を厳しく制限する必要がある。粗大Ni−Al系析出物粒子の存在量を低減する手法として、まず鋳片の段階で上記の高温域に加熱し、鋳造組織中に存在するNi−Al系析出物をできるだけ固溶させておくことが有効となる。1150℃を超えると鋳造組織中の融点が低い部分が脆弱となり、熱間圧延で割れが生じる恐れがある。上記温度範囲での加熱時間が2時間を下回るとNi−Al系析出物の固溶化が不十分となる場合がある。経済性を考慮し、上記温度域での加熱時間は5時間以下の範囲で設定することが望ましい。
【0032】
〔熱間圧延〕
熱間圧延では、Cu−Ni−Al系銅合金の一般的な熱間圧延温度よりも高めの温度で十分な圧延率を稼ぐことが重要である。具体的には、950℃以上の温度域での圧延率を65%以上とし、最終パスの圧延温度を800℃以上とする。各圧延パスの温度は、その圧延パスでワークロールから出た直後の材料の表面温度によって表すことができる。「950℃以上の温度域での圧延率」は、熱間圧延前の板厚をt
0(mm)とし、圧延温度が950℃以上である最後の圧延パスによって得られた板厚をt
1(mm)として、これらを下記(2)式に代入することによって定まる。
圧延率(%)=(t
0−t
1)/t
0×100 …(2)
【0033】
上記の条件に従い高温で十分な圧延率を稼ぐことにより、鋳造組織に起因する粗大Ni−Al系析出物の分解が促進され、溶体化処理工程において高温での保持時間を短縮させることができる。トータルの熱間圧延率は例えば70〜97%とすればよい。熱間圧延終了後には、水冷などにより急冷することが好ましい。
【0034】
〔冷間圧延〕
溶体化処理の前に、冷間圧延を施し、板厚を調整しておく。必要に応じて「中間焼鈍→冷間圧延」の工程を1回または複数回加えてもよい。溶体化処理前に行う冷間圧延での圧延率(中間焼鈍を行う場合は最後の中間焼鈍後の冷間圧延での圧延率)は例えば80〜98%とすることができる。
【0035】
〔溶体化処理〕
溶体化処理はNi−Al系析出物を十分に固溶させること(溶体化)が主目的であるが、本発明では高いKAM値を実現するために結晶粒の粗大化を抑止しながら溶体化を行うことが極めて重要である。Ni−Al系析出物の固溶化に関しては、エッチング性を改善するために、一般的なCu−Ni−Al系銅合金の溶体化処理温度(800〜900℃程度)よりも高温に加熱する。具体的には、材料の最高到達温度T
1を950℃より高く1100℃以下の範囲とし、900℃以上T
1以下の温度域での保持時間(材料温度がその温度域にある時間)を30秒以上確保する必要がある。ただし、後述のように、この保持時間は360秒以下に制限される。
【0036】
一方、KAM値の向上に関しては、溶体化処理時の結晶粒粗大化を抑制することが非常に有効であることがわかった。発明者らの調査によれば、溶体化処理によって形成される再結晶粒をできるだけ微細化しておき、その後、冷間圧延で加工歪を付与した場合に、高いKAM値が得られることが確認された。Cu−Ni−Al系銅合金では、結晶粒界の面積が多い再結晶組織の状態で冷間圧延を施したときに、格子歪(転位)の蓄積効果が特に顕著に現れるものと推察される。
【0037】
上述のように溶体化処理を高めの温度で行う必要から、結晶粒の粗大化防止には工夫が必要となる。その1つが、「高温保持時間の短縮化」である。具体的には、900℃以上T
1以下の高温域での保持時間を360秒以下に制限すればよい。鋳片加熱および熱間圧延の工程で上述のようにNi−Al系析出物の固溶化を促進させているので、溶体化処理工程ではこのような短時間の加熱でも十分な溶体化を実現できるのである。さらにもう1つの工夫として、高温域での昇温速度を大きくすることが極めて有効である。具体的には、900℃からT
1までの平均昇温速度を50℃/s以上に制御する。急速昇温により急激に再結晶を起こさせると、多くのサイトで再結晶粒が同時多発的に発生し、粗大再結晶に成長しにくいものと推察される。高温域での昇温速度を高めるためには炉温を材料の最高到達温度T
1より高く設定することやファンの回転数を上げて炉内の対流を促進することが有効である。あまり炉温を上げすぎるとT
1が安定せず結晶粒径や特性のばらつきが生じる恐れがあり、ファンの回転数には設備上の制限もある。900℃からT
1までの平均昇温速度は100℃/s以下の範囲で設定することが現実的である。なお、実操業において、平均昇温速度は、板厚と炉内温度に応じて予め求めてある「在炉時間と材料温度の関係」に基づいて制御することができる。冷却速度は、一般的な連続焼鈍ラインで実現できる程度の急冷とすればよい。例えば、900℃から300℃までの平均冷却速度を100℃/s以上とすることが望ましい。
【0038】
〔時効処理〕
次いで時効処理を行い、強度に寄与する微細な析出物粒子を析出させる。時効処理条件は、目標とする強度および導電性に応じて、400〜650℃、0.1〜48時間の範囲で設定することができる。
【0039】
〔仕上冷間圧延〕
時効処理後に行う最終的な冷間圧延を本明細書では「仕上冷間圧延」と呼んでいる。仕上冷間圧延は強度、KAM値、および表面平滑性の向上に有効である。この工程に供する板材は、溶体化処理で結晶粒の粗大化を回避して得られた結晶粒界の多いマトリックス中に、時効処理で微細に析出させたNi−Al系析出物粒子が分布している組織状態を有する。このような組織状態の板材に対して、最終的な冷間圧延を施すと、結晶格子の歪が蓄積されやすい。多量に蓄積された歪は、後述の仕上熱処理を適正に行うことによって、最終的な板材においても高い格子歪として維持されると推察され、結果的にKAM値の高い板材を得ることができる。このような仕上冷間圧延の作用を十分に発揮させるために、仕上冷間圧延率は30%以上とすることが効果的であり40%以上とすることがより効果的である。仕上冷間圧延率は99%以下の範囲で設定すればよい。最終的な板厚は、例えば0.015〜0.50mm程度の範囲で設定することができる。
【0040】
仕上冷間圧延後には必要に応じてテンションレベラーによる形状矯正を行うことができる。テンションレベラーでの伸び率は例えば0.1〜1.5%の範囲とすればよい。
【0041】
〔仕上熱処理〕
仕上冷間圧により圧延歪が付与された板材に対して、最終的な熱処理を施し、KAM値の上昇を図る。この熱処理を本明細書では「仕上熱処理」と呼んでいる。仕上熱処理では材料の最高到達温度T
2を400〜700℃とし、400〜700℃での保持時間(材料温度がその温度域にある時間)を10〜300秒する。この温度域での保持により転位の再配列が起こり、溶質原子がコットレル雰囲気を形成して、結晶格子にひずみ場を形成する。この格子歪がKAM値の向上させる要因になると考えられる。ただし、そのKAM値上昇作用を得るためには昇温速度が大きくなりすぎないように制御することが重要である。昇温速度が過剰に大きくなると、昇温過程で転位の消滅が起こりやすくなり、KAM値が低下することがわかった。発明者らの検討によれば、T
2までの最大昇温速度を200℃/s以下とする必要があり、160℃/s以下とすることがより好ましい。最大昇温速度は、横軸に時間、縦軸に材料温度をとったグラフにおける温度T
2までの昇温曲線の最大勾配に相当する。
【0042】
板の形状(平坦性)を重視する場合は、この仕上熱処理を張力付与下で行うことが効果的である。その場合、少なくとも材料温度が最高到達温度T
2にあるときに、板の圧延方向に40〜60N/mm
2の張力が付与されるようにすればよい。
【実施例】
【0043】
表1に示す化学組成の銅合金を溶製し、縦型半連続鋳造機を用いて鋳造した。得られた鋳片を表2A、表2Bに示す温度、時間で加熱保持したのち抽出して、厚さ5〜15mmまで熱間圧延を施し、水冷した。トータルの熱間圧延率は90〜95%であり、950℃以上の温度域での圧延率、最終パスの圧延温度および熱間圧延後の仕上板厚は表2A、表2B中に示してある。熱間圧延で割れが生じた一部の例では、その時点で製造を中止した。熱間圧延後、表層の酸化層を機械研磨により除去(面削)し、表2A、表2Bに示す圧延率で冷間圧延を施して溶体化処理に供するための中間製品板材とした。各中間製品板材に溶体化処理、時効処理、仕上冷間圧延、および仕上熱処理を施し、表2A、表2Bに示す板厚の板材製品(供試材)を得た。
【0044】
溶体化処理は連続式の焼鈍炉を用いて表2A、表2Bに示す条件で行った。炉内の複数箇所に設置した放射温度計で通板中の材料の表面温度をモニターし、測温データに基づいて炉温および通板速度が安定している状態(定常状態)での時間−温度曲線を作成し、900℃からT
1までの平均昇温速度を求めた。仕上冷間圧延は表2A、表2Bに示す圧延率で行った。
時効処理は500℃で12時間保持する条件で行った。
仕上熱処理はカテナリー炉を連続通板したのち空冷する方法にて、圧延方向に50N/mm
2の張力が付与されるようにして、表2A、表2Bに示す条件で行った。炉内の複数箇所に設置した放射温度計で通板中の材料の表面温度をモニターし、測温データに基づいて炉温および通板速度が安定している状態(定常状態)での時間−温度曲線を作成し、その曲線の勾配から温度T
2までの最大昇温速度を求めた。
【0045】
表2A、表2Bにおいて、溶体化処理の「温度」は上述の最高到達温度T
1、「時間」は材料温度が900℃以上T
1以下の範囲にある時間、「≧900℃昇温速度」は900℃からT
1までの平均昇温速度をそれぞれ表示した。また、仕上熱処理の「温度」は上述の最高到達温度T
2、「時間」は材料温度が400〜700℃の範囲にある時間、「最大昇温速度」はT
2までの最大昇温速度をそれぞれ表示した。ただし、仕上熱処理で最高到達温度T
2が400℃未満であった例については「時間」の欄に最高到達温度T
2での保持時間を示した。
【0046】
各供試材について以下の調査を行った。
【0047】
(粗大Ni−Al系析出物粒子の個数密度)
前掲の「粗大Ni−Al系析出物粒子個数密度の求め方」に従い、板面(圧延面)を電解研磨した観察面をSEMにより観察し、長径5.0μm以上のNi−Al系析出物粒子の個数密度を求めた。観察面調製のための電解研磨液として蒸留水、リン酸、エタノール、2−プロパノールを10:5:5:1で混合した液を使用した。電解研磨は、BUEHLER社製の電解研磨装置(ELECTROPOLISHER POWER SUPPLUY、ELECTROPOLISHER CELL MODULE)を用いて、電圧15V、時間20秒の条件で行った。
【0048】
(KAM値)
前掲の「KAM値の求め方」に従い、圧延面からの除去深さが板厚の1/10である観察面について、EBSD分析システムを備えるFE−SEM(日本電子株式会社製;JSM−7001)を用いて測定した。電子線照射の加速電圧は15kV、照射電流は5×10
-8Aとした。EBSD解析ソフトウエアはTSLソリューションズ社製;OIM Analysisを使用した。
【0049】
(板厚方向の平均結晶粒径)
圧延方向に垂直な断面(C断面)をエッチングして結晶粒界を現出させた観察面をSEMで観察し、前記(A)に定義される板厚方向の平均結晶粒径を求めた。
【0050】
(板面の表面粗さ)
板面(圧延面)について、レーザー式表面粗さ計にて圧延直角方向の表面粗さを測定し、JIS B0601:2013に従う最大高さ粗さRzを求めた。
【0051】
(導電率)
JIS H0505に従って各供試材の導電率を測定した。リードフレーム用途を考慮して、3.0〜20.0%IACS以上のものを合格(導電性;適正)と判定した。
【0052】
(引張強さ)
各供試材から圧延方向(LD)の引張試験片(JIS 5号)を採取し、試験数n=3でJIS Z2241に準拠した引張試験行い、引張強さを測定した。n=3の平均値を当該供試材の成績値とした。導電ばね部材用途を考慮し、引張強さが800Pa以上のものを合格(高強度特性;良好)と判定した。
【0053】
(エッチング面の表面粗さ)
エッチング液として、塩化第二鉄42ボーメを用意した。供試材の片側表面を板厚が半減するまでエッチングした。得られたエッチング面について、レーザー式表面粗さ計にて圧延直角方向の表面粗さを測定し、JIS B0601:2013に従う最大高さ粗さRzを求めた。このエッチング試験によるRzが2.5μm以下であれば、従来のCu−Ni−Al系銅合金板材と比べ、エッチング面の表面平滑性は大きく改善されていると評価でき、高精細なエッチングに極めて有用である。したがって、ここでは上記Rzが2.5μm以下のものを合格(エッチング性;良好)と判定した。なお、上記Rzは2.1μm以下(エッチング性;優秀)であることがより好ましい。
【0054】
(耐変色性)
供試材から幅10mm×長さ65mmのサンプルを採取し、板面(圧延面)を番手1200(JIS R6010:2000に規定される粒度P1200)の研磨紙による乾式研磨仕上として、耐候性試験片を作製した。耐候性試験は、試験片を温度50℃、相対湿度95%の雰囲気中に24時間暴露する方法で行った。耐候性試験の前および後の試験片表面について、それぞれL
*a
*b
*を測定し、JIS Z8730:2009に規定されるL
*a
*b
*表示色による色差ΔE
*abを求めた。この色差ΔE
*abが5.0未満であるものは導電ばね部材として良好な耐変色性を有すると判断できる。したがって、色差ΔE
*abが5.0未満であるものを合格(耐変色性;良好)と判定した。なお、参考のため、無酸素銅(C1020)、70−30黄銅(C2600)、ネーバル黄銅(C4622)の各板材についても同条件で耐候性試験を実施した。その結果、色差ΔE
*abは、無酸素銅が11.0、70−30黄銅が10.5、ネーバル黄銅が10.7であった。
これらの結果を表3A、表3Bに示す。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2A】
【0057】
【表2B】
【0058】
【表3A】
【0059】
【表3B】
【0060】
化学組成および製造条件を上述の規定に従って厳密にコントロールすることによって得られた本発明例の板材はいずれも、粗大Ni−Al系析出物粒子の個数密度が低く、かつKAM値が高い組織状態を有し、エッチング面の表面平滑性に優れていた。また、圧延直角方向の表面粗さ、導電率、引張強さ、耐変色性の良好であった。
【0061】
これに対し、比較例No.31は鋳片加熱温度が低く、熱間圧延において950℃以上の温度域での圧延率が低いので粗大Ni−Al系析出物粒子が多くなり、エッチング性は改善されていない。No.32は溶体化処理温度が高いのでKAM値が低く、また板厚方向の結晶粒径も大きくなり、エッチング性は改善されていない。No.33は溶体化処理温度が低いので粗大Ni−Al系析出物粒子が多くなり、エッチング性は改善されていない。No.34は鋳片加熱温度が高いので熱間圧延で割れが生じ、その後の工程を中止した。No.35は鋳片加熱時間が短いので粗大Ni−Al系析出物粒子が多くなり、エッチング性は改善されていない。No.36は熱延最終パス温度が低いので粗大Ni−Al系析出物粒子が多くなった。また溶体化処理における高温域の昇温速度が遅いので仕上冷間圧延前の結晶粒が大きくなり、KAM値の上昇が不十分となった。そのため、エッチング性は改善されていない。No.37はNi含有量が過剰であるため熱間圧延で割れが生じ、その後の工程を中止した。No.38はNi含有量が低いので導電率が20.0%IACSを超え、また耐変色性にも劣った。No.39はAl含有量が過剰であるため熱間圧延で割れが生じ、その後の工程を中止した。No.40はNi/Al比が高い引張強さが低く、耐変色性にも劣った。No.41はSn含有量が過剰であることに起因して縦型の連続鋳造で重力偏析が生じたので熱間圧延で割れが発生し、その後の工程を中止した。No.42は溶体化処理時間が長いので仕上冷間圧延前の結晶粒が大きくなり、KAM値の上昇が不十分となった。そのため、エッチング性は改善されていない。No.43は溶体化処理時間が短いので粗大Ni−Al系析出物粒子が多くなり、エッチング性は改善されていない。No.44は仕上冷間圧延率が低いのでKAM値の上昇が不十分であり、エッチング性は改善されていない。また、圧延直角方向の表面粗さも悪かった。No.45は熱間圧延で高温域での圧延率が低く、仕上熱処理温度が高いので粗大Ni−Al系析出物粒子が多くなり、KAM値の上昇も不十分であった。そのため、エッチング性は改善されていない。No.46は仕上熱処理温度が低いのでKAM値の上昇が不十分であり、エッチング性は改善されていない。No.47は仕上熱処理時間が長いのでKAM値の上昇が不十分であり、エッチング性は改善されていない。No.48は仕上熱処理時間が短いのでKAM値の上昇が不十分であり、エッチング性は改善されていない。No.49は仕上熱処理での最大昇温速度が大きいのでKAM値の上昇が不十分であり、エッチング性は改善されていない。