(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6869124
(24)【登録日】2021年4月15日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】トロリ線延線作業用曲引き滑車装置
(51)【国際特許分類】
B60M 1/28 20060101AFI20210426BHJP
【FI】
B60M1/28 K
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-127048(P2017-127048)
(22)【出願日】2017年6月29日
(65)【公開番号】特開2019-10901(P2019-10901A)
(43)【公開日】2019年1月24日
【審査請求日】2020年6月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001890
【氏名又は名称】三和テッキ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】檜垣 貴規
【審査官】
今井 貞雄
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−212019(JP,A)
【文献】
実開昭58−092817(JP,U)
【文献】
実開昭57−116696(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60M 1/00−1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電車線路の上方に張り出す可動ブラケット等の支持物に取り付けられ、曲線引き金具を支持する支持金具に長さ調節可能な索条部材を介して支持される枠体と、この枠体に回転自在に軸支され、トロリ線を掛けて曲り区間の外側へ引き込みつつトロリ線を送り出す滑車と、この滑車を延線直交面内で取り囲む前記枠体の一部を開閉可能なゲート部材とを具備するトロリ線延線作業用曲引き滑車装置において、
前記ゲート部材は、基端部が前記枠体に延線直交方向に回転可能に枢支されるスライドガイドと、
前記スライドガイドから前記枠体の内側へ張出し、開放位置で前記滑車の外周溝への前記トロリ線の挿入を妨げず、閉鎖位置で滑車の外周溝に接近して、滑車の外周溝に挿入したトロリ線の逸脱を防止するストッパと、
閉鎖位置において先端部が前記枠体から離れた非ロック位置と、ばねにより押されつつ枠体に係合するロック位置との間を進退動可能に前記スライドガイドに支持され、ロック位置で自身の軸周りに所定角度回転すると進退動を阻止されるロックピンと、
前記ロックピンから起立し、ロック位置においてロックピンの回転により延線方向に倒伏する操作摘みとを具備することを特徴とするトロリ線延線作業用曲引き滑車装置。
【請求項2】
前記ストッパは、前記ばねを収容すると共に前記ロックピンが出入り可能に挿入され、側面にロックピンの軸方向の移動及び軸周りの回転をガイドするようにロックピンの側面から突出したガイドピンを受け入れる直角の長孔を備えたスライドガイドを具備することを特徴とする請求項1に記載のトロリ線延線作業用曲引き滑車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電車線路状上のトロリ線の張り替え工事などの延線作業において、曲線区間のトロリ線を曲線区間の外方向に引き込み止めつつトロリ線を送り出すためのトロリ線延線作業用曲引き滑車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図4,
図5に示すように、曲引き滑車装置21は、トロリ線の延線作業の際に、軌道の上方に張り出す可動ブラケット等の水平パイプに曲線引き金具を取り付けるための支持金具20に取り付けて使用する。従来、曲引き滑車装置21は、支持金具20のボルト20aに引っ掛けるフック部23を備えたターンバックル22及びターンバックル22の先端部に接続されるワイヤロープ24を介して支持され、張り替え用の新規トロリ線を掛けて延線に追従して送り出しつつ曲線区間の横荷重を支持する。曲引き滑車装置21は、滑車本体25と、ワイヤロープ24に連結して滑車軸25aを支持する枠体26と、この枠体26の一部をスライド開閉可能なロックピン28と、ロックピン28を閉鎖方向に押すばね29を収容すると共にロックピン28を軸線方向に移動可能に収容するスライドガイド27とを具備する。枠体26は、延線直交面内でスライドガイド27及びロックピン28と共に滑車本体25を取り囲んで閉鎖し、ロックピン28の軸線方向の移動により開閉可能である。ロックピン28は、軸部近傍から滑車本体25の半径方向に一体的に連続するスライドガイド27にばね29と共に挿入され、枠体26の開放位置と閉鎖位置との間を移動可能である。ロックピン28には、滑車軸方向に起立した操作摘み28aを備える。スライドガイド27は、ロックピン28の外側へ突出したガイドピン28bを受け入れてロックピン28の移動をガイドすると共に開放位置で保持する鈎状のガイド孔27aを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】見出せなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の曲引き滑車装置においては、トロリ線の曲線区間の延線時に横張力を緩めて、延線中のトロリ線を外周溝に挿入してから横張力を加えるが、外周溝に挿入する作業中に突然大きな横張力がかかると、トロリ線が滑車の外周溝から外れて、延線作業の中断を余儀なくされ、これを回避するために、慎重な作業を強いられ煩わしく、作業効率が悪い難点がある。また、ロックピンの操作摘みが滑車軸方向に突出するため、延線中のトロリ線などの架線に干渉し、これによって不用意にロックピンが移動して枠体が開放してしまう危険がある。
そこでこの出願に係る発明は、横張力を緩めてトロリ線を簡単に掛け入れてセットでき、確実に滑車の外周溝に挿入したトロリ線の逸脱を防止し、また延線作業中に操作摘みが架線に干渉せず、延線作業を円滑に進める曲引き滑車装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、この出願に係る発明においては、電車線路の上方に張り出す可動ブラケット等の支持物に取り付けられ、曲線引き金具を支持する支持金具に、ターンバックル22などにより長さ調節可能なワイヤロープ24等の索条部材を介して支持される枠体3と、この枠体3に回転自在に軸支され、トロリ線Tを掛けて曲り区間の外側へ引き込みつつトロリ線Tを送り出す滑車本体2と、この滑車本体2を延線直交面内で取り囲む枠体3の一部を開閉可能なゲート部材4とからトロリ線延線作業用曲引き滑車装置1を構成する。ゲート部材4は、基端部が枠体3に延線直交方向に回転可能に枢支されるスライドガイド10と、スライドガイド10から枠体3の内側へ張出し、開放位置で滑車本体2の外周溝2bへのトロリ線Tの挿入を妨げず、閉鎖位置で滑車本体2に接近して、滑車本体2の外周溝2bに挿入したトロリ線Tの逸脱を防止するストッパ11と、閉鎖位置において先端部が枠体3から離れた非ロック位置と、ばね13により押されつつ枠体3に係合するロック位置との間を進退動可能にスライドガイド10に支持され、ロック位置で自身の軸周りに所定角度回転すると進退動を阻止されるロックピン12と、ロックピン12から起立し、ロック位置においてロックピン12の回転により延線方向に倒伏する操作摘み14とを具備させた。
【発明の効果】
【0006】
この出願に係る発明の曲引き滑車装置によれば、ゲート部材を回転させて開けば枠体を大きく開放でき、容易にトロリ線を滑車に掛けることができ、ゲート部材を反転させて閉じれば、閉鎖位置においてストッパが滑車の外周溝に挿入したトロリ線を確実に外れ止めすることができ、トロリ線の逸脱による延線作業の中断を回避でき、作業効率を向上できる。閉鎖位置においてロックピンを回転させたロック位置では、軸方向への移動が阻止されて枠体を確実に閉鎖できるし、操作摘みが周囲の架線等に干渉し難く、不用意な開放による危険を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明に係る曲引き滑車装置の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図面を参照してこの発明の実施の形態を説明する。
図1ないし
図3において、曲引き滑車装置1は、軌道の上方に張り出す可動ブラケット等の水平パイプに曲線引き金具の基端を枢支する支持金具20のボルト20aに、
図4及び
図5に示すような従来のものと同様に、ターンバックル22及びワイヤロープ24を介して取り付けられる。曲引き滑車装置1は、滑車本体2と、滑車軸2aを架設する枠体3と、この枠体3を半径方向に開閉可能に蝶着されるゲート部材4とを具備する。
【0009】
枠体3は、滑車軸2aを支持すると共に滑車本体2を延線直交面内で取り囲む対向する一対のブラケット板5,6と、これらの一端部同士を結合するボルト7とを具備する。一方のブラケット板5は断面略L字状をなし、滑車軸2aを支持する長辺部5aと、ワイヤロープ24を係止する引手8が外側へ突出し、先端部中央に係合孔9を備える短辺部5bとを有する。他方のブラケット板6は、ブラケット板5の長辺部5aに延線直交方向に対向する幅狭の矩形状をなす。ブラケット板6の先端とブラケット板5の短辺部5bとの間には、ゲート部材4により開閉される開口が形成される。
【0010】
ゲート部材4は、基端部がブラケット板6の先端部の軸受け6aにコッタピン10aにより回転自在に軸支され、先端部へ延出する略四角筒状のスライドガイド10と、スライドガイド10の側面から内方へ張り出すストッパ11と、スライドガイド10に軸方向に出入り自在にかつ相対回転自在に挿入され抜け止めされるロックピン12とを具備する。
スライドガイド10は、長手方向に圧縮されたばね13を収容する。スライドガイド10の側面には軸方向及び周方向に直角に連続する鈎状の長孔10bが設けられている。
ストッパ11は、スライドガイド10の閉鎖位置において滑車本体2の外周溝2bに接近して外周溝2b内のトロリ線Tの逸脱を防止する。
ロックピン12は、ばね13によりスライドガイド10から押し出される方向に付勢され、スライドガイド10の閉鎖位置において先端部がブラケット板5の係合孔9に挿入される。ロックピン12は、スライドガイド10の長孔10bに挿入されるガイドピン12aが突設されており、スライドガイド10に対する軸方向及び回転方向の移動が長孔10bにガイドされる。ロックピン12の先端には、係合孔9において回転をガイドされるためのテーパ12bを備える。ロックピン12の側部には、直角に立ち上がって、ロックピン12と共に90°回転することにより延線方向に倒伏する操作摘み14が設けられている。
【0011】
この曲引き滑車装置1を用いて延線作業を行う場合、支持金具1のボルト20にフック部23を引っ掛けボルト20aを締め込んで、曲引き滑車装置1を支持金具20に取り付ける。
図2の破線で示すようにゲート部材4を開放位置に回転させて枠体3の開口を拡げておき、延線中のトロリ線Tを枠体3内に挿入し、滑車本体2に掛けてからゲート部材4を反転させて枠体3を閉鎖する。このとき、ゲート部材4の閉鎖位置でストッパ11が滑車本体2の外周溝2bに接近するので、トロリ線Tの外周溝2bからの逸脱が阻止され、滑車本体2からトロリ線Tが外れるのを防止する。ガイドピン12aが長孔10bによって移動をガイドされるので、ロックピン12が閉鎖位置でばね13により押されて軸方向に移動して枠体3の係合孔9に挿入され、ここで軸周りに90°回転させると軸方向の移動が阻止されロックピン12がロックされる。このロック位置でロックピン12と共に操作摘み14が回転して倒伏するので、架線等と干渉し難い。
【符号の説明】
【0012】
1 曲引き滑車装置
2 滑車本体
2a 滑車軸
2b 外周溝
3 枠体
4 ゲート部材
5 ブラケット板
5a 長辺部
5b 短辺部
6 ブラケット板
6a 軸受け
7 ボルト
8 引手
9 係合孔
10 スライドガイド
10a コッタピン
10b 長孔
11 ストッパ
12 ロックピン
12a ガイドピン
12b テーパ
13 ばね
14 操作摘み
22 ターンバックル
24 ワイヤロープ
20 支持金具
20a ボルト
T トロリ線