(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C:0.2%以下、Si:0.1〜2%、Mn:0.1〜2%、S:0.005%以下、Ni:7〜20%、Cr:15〜20%、Al:0.02〜0.15%、N:0.1%以下、O:0.0001〜0.005%、Mg:0.0001〜0.005%、Ca:0.0001〜0.005%、Mo:5%以下、Cu:2%以下、残部がFe及び不可避的不純物からなり、非金属介在物はMgO、CaO−Al2O3系酸化物、MgO・Al2O3の1種または2種以上を含み、圧延方向に平行に分散して並ぶ非金属介在物が、長さが500μm以上に亘って連続して並び、その一連の中で、幅5μm以上、深さ1μm以上、かつ長さ10μm以上の窪みが少なくとも1つ含まれる形態を持つ非金属介在物が、鋼板表面1m2の表面積あたり20個以下であることを特徴とするステンレス鋼板。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、本発明のステンレス鋼板の化学成分限定理由を示す。なお、以下の説明においては、「%」は「mass%」(「質量%」)を意味する。
(C:0.2%以下)
Cはオーステナイト相安定化元素であるが、多量に存在すると、CrおよびMo等と結合して炭化物を形成し、母材に含まれる固溶CrおよびMo量を低下させ、耐食性を劣化させる。そのため、C含有量は0.2%以下とした。なお、好ましくは0.18%以下であり、より好ましくは0.15%以下である。
【0015】
(Si:0.1%〜2%)
Siは本願発明で、とても重要な元素である。Siは脱酸に有効な元素であり、酸素濃度を0.005%以下に制御するためには、0.1%は必要である。さらに、CaO−SiO
2−MgO−Al
2O
3−F系スラグ中のCaOやMgOを還元し、溶鋼中にCaやMgをそれぞれ0.0001%以上供給する役割もある。これにより、介在物を無害なMgO、CaO−Al
2O
3系に維持する効果がある。その観点からも0.1%は必要である。一方、2%を超えて含有すると、スラグ中のCaOやMgOを還元しすぎてしまい、Ca、Mgを0.005%超供給してしまう。その結果Caは、CaO単体の介在物を形成させてしまい、製品に表面欠陥を発生させてしまう。また、Mgはスラブ中にMg気泡を形成して表面欠陥をもたらす危険がある。そのため、Si含有量は、0.1%〜2%と規定した。好ましくは0.15〜1.5%である。
【0016】
(Mn:0.1 %〜2%)
Mnは脱酸に有効な元素である。Mn含有量が、0.1%未満では、その効果が十分に得られず、逆に、2%を超えて存在すると、σ相の生成を促進し、脆化を招く。そのため、Mn含有量は0.1%〜2%と規定した。
【0017】
(S:0.005%以下)
Sは熱間加工性を阻害する元素であるため、極力低下させるべきであり、S含有量は0.005%以下とした。好ましくは0.003%以下である。さらに好ましくは0.002%以下である。
【0018】
(Ni:7%〜20%)
Niは塩化物を含む溶液環境における耐孔食性、耐隙間腐食性ならびに耐応力腐食割れ性を改善する効果を有しているが、過剰に添加することは、コスト上昇につながるため好ましくない。そこで、Ni含有量は7%〜20%と規定した。
【0019】
(Cr:15%〜20%)
Crは、耐食性を確保するために必要不可欠な不動態皮膜を、鋼板表面に形成させる元素であり、耐酸性、耐孔食性、耐隙間腐食性ならびに耐応力腐食割れ性を改善するための母材の構成成分として、最も重量な元素である、しかしながら、Cr含有量が15%未満では、十分な耐食性が得られない。逆に、含有量が20%を超えると、σ相を生成し脆化を招く。以上の理由から、Cr含有量は15%〜20%と規定した。
【0020】
(Al:0.02%〜0.15%)
Alは脱酸に非常な有効な元素であり、Alを主体とする脱酸を施すことにより、酸素濃度を低下し、清浄度を向上させることができるため、0.02%以上必要である。さらにCaO−SiO
2−MgO−Al
2O
3−F系スラグ中のCaOやMgOを還元し、溶鋼中にCaやMgをそれぞれ0.0001%以上供給し、介在物を無害なMgO、CaO−Al
2O
3系に制御する効果がある。そして、疵をもたらすMgO・Al
2O
3介在物を回避するためにも、0.02%以上必要である。一方、0.15%を超えて添加すると、溶鋼中にCaやMgを過剰に供給してしまう。過剰なCaは表面品質に悪影響を及ぼすCaO介在物の生成を助長する。過剰なMgはスラブ表面にMg気泡を形成させ、スラブの内質を低下させたりする傾向がある。さらに、0.15%超えて添加すると、溶接用途にて溶接ビード部の品質を低下させる。そのため、Al含有量は、0.02%〜0.15%とした。好ましくは0.04%〜0.13%である。より好ましくは、0.05%〜0.12%である。
【0021】
(N:0.1%以下)
Nは、侵入型元素であり、鋼の硬さ及び耐食性を向上させる元素である。しかし、N含有量が過剰になると、Crと共に窒化物を形成し、加工性に悪影響を及ぼす。したがって、N含有量を0.1%以下と規定した。
【0022】
(Mg:0.0001%〜0.005%)
Mgは鋼中の非金属介在物の組成を、表面品質に悪影響の無い酸化物系MgOに制御するために有効な元素である。その効果は、含有量が0.0001%未満では得られず、逆に、0.005%を超えて含有させると、スラブ中にMg気泡を形成するため、最終製品に表面欠陥をもたらす。そのため、Mg含有量は、0.0001%〜0.005%と規定した。好ましくは、0.0002〜0.004%である。より好ましくは、0.0003〜0.003%である。溶鋼中に効果的にMgを添加させるには、下記(1)式で示す反応を利用することが好ましい。
3(MgO)+2
Al=(Al
2O
3)+3
Mg …(1)
括弧内はスラグ中成分を示し、下線は溶鋼中成分を示す。上記の範囲にMgを制御するには、スラグ組成をCaO:50〜70%、SiO
2:3〜20%、MgO:3〜15%、Al
2O
3:15%未満に制御すればよい。
【0023】
(Ca:0.0001%〜0.005%)
Caは鋼中の非金属介在物の組成を、クラスターを形成せず、表面品質に悪影響の無いCaO−Al
2O
3系酸化物に制御するために有効な元素である。その効果は、含有量が0.0001%未満では得られず、逆に、0.005%を超えて含有させると、CaO単体の介在物が形成し、最終製品に表面欠陥をもたらす。そのためCa含有量は、0.0001%〜0.005%と規定した。好ましくは、0.0002〜0.004%である。より好ましくは、0.0003〜0.003%である。溶鋼中に効果的にCaを添加させるには、下記(2)式で示す反応を利用することが好ましい。
3(CaO)+2
Al=(Al
2O
3)+3
Ca …(2)
上記の範囲にCaを制御するには、スラグ組成をCaO:50〜70%、SiO
2:3〜20%、MgO:3〜15%、Al
2O
3:15%未満に制御すればよい。
【0024】
(O:0.0001%〜0.005%)
Oは、鋼中に0.005%を超えて存在すると、介在物の量が多くなり、長さが500μm以上連続しており、その一連の中で、幅5μm以上、深さ1μm以上かつ長さ10μm以上の窪みが少なくとも1つ含まれる形態を持つ非金属介在物の個数が鋼板表面1m
2の表面積あたり20個を超えて多くなってしまう。さらに、脱硫を阻害し、溶鋼中S濃度が0.005%を超えてしまう。逆に0.0001%未満と低くなると、Alがスラグ中のMgOやCaOを還元する能力を高めすぎてしまう。つまり、上記の(1)および(2)式の反応が進行しすぎてしまうことにより、溶鋼中のMgやCaがそれぞれ、0.005%を超えて高くなってしまう。そのため、O含有量は、0.0001%〜0.005%と規定した。
【0025】
(Mo:5%以下、Cu:2%以下)
特に限定はしないが、Mo、Cuの一方または両方を含有しても構わない。Moは耐食性を高める元素であり、5%以下の範囲で含有しても良い。Cuは耐酸性に有効な他、軟質化にも有効であり、2%以下の範囲で含有しても良い。
【0026】
(非金属介在物)
まず、本発明では、圧延方向に平行に分散して並ぶ非金属介在物が、長さが500μm以上に亘って連続して並び、その一連の中で、幅5μm以上、深さ1μm以上かつ長さ10μm以上の窪みが少なくとも1つ含まれる形態を持つ非金属介在物の個数が鋼板表面1m
2の表面積あたり20個以下であると規定する。
【0027】
本発明では、圧延後のステンレス鋼板の表面性状を観察するので、鋼板に含まれる非金属介在物は、圧延によって微細に破壊され、介在物粒子は圧延方向に沿って分散することとなる。この状態を模式的に
図1に示す。
図1(a)はステンレス鋼板平面図であり、(b)は対応する側断面図である。図に示すように、介在物粒子は、圧延方向に平行に直線状に並ぶ。ここで、「圧延方向に平行に分散して並ぶ非金属介在物」とは、隣接する介在物粒子の間隔が200μm以下である形態を定義するものであり、「長さが500μm以上に亘る」とは、図のように一連の介在物粒子の連続して並ぶ領域全体の長さが500μm以上ということであり、「幅5μm以上、深さ1μm以上かつ長さ10μm以上の窪み」とは、個々の介在物粒子の中のこれらの幅・深さ・長さを全て満たす介在物による窪みを言う。例えば、図に示すような長さ20μm、幅5μm、深さ2μmの窪みである(
図1(b)は深さ方向の縮尺は変えてある)。また、鋼板表面1m
2の表面積あたり20個以下と定めた理由は、上記したサイズは、いずれも肉眼で識別できる最小の数値であるからである。また、鋼板1m
2からは10cm×10cmの鋼板製品100枚得られ、そのうちの20枚以下に平均して1個ずつの疵が含まれることとなり、すなわち歩留まりが80%以上となることを意味する。
【0028】
本発明では、非金属介在物組成は、MgO、MgO・Al
2O
3、CaO−Al
2O
3系酸化物の1種または2種以上を含み、MgO・Al
2O
3を個数比率で50%以下であることを好ましい態様としている。以下、非金属介在物の個数比率限定の根拠を示す。
【0029】
(非金属介在物組成は、MgO、MgO・Al
2O
3、CaO−Al
2O
3系酸化物の1種または2種以上を含み、MgO・Al
2O
3を個数比率で50%以下)
本発明に係るステンレス鋼は、鋼のSi、Al、Mg、Caの含有量に従い、MgO、MgO・Al
2O
3、CaO−Al
2O
3系酸化物のうち1種または2種以上含む。これらの介在物が問題ない理由は、まず、MgOは圧延工程で延びないため表面疵を形成しない。CaO−Al
2O
3系酸化物は圧延工程で延びるが、深さ1μmを超えて深くならない。そのため、いずれも表面疵を形成しない。つまり、長さが500μm以上に亘って連続して並び、その一連の中で、幅5μm以上、深さ1μm以上かつ長さ10μm以上の窪みが少なくとも1つ含まれる形態を持つ非金属介在物の個数が鋼板表面1m
2の表面積あたり20個以下となるためである。MgO・Al
2O
3は表面欠陥を引き起こす介在物であるので、極力少ない方が好ましい。ただし、その含有量が個数割合で50%以下であれば、表面疵が少なくて済む。つまり、長さが500μm以上に亘って連続して並び、その一連の中で、幅5μm以上、深さ1μm以上かつ長さ10μm以上の窪みが少なくとも1つ含まれる形態を持つ非金属介在物の個数が鋼板表面1m
2の表面積あたり20個以下となる。
【0030】
(MgO・Al
2O
3の構成成分比がMgO:10〜40%、Al
2O
3:60〜90%)
MgO・Al
2O
3は比較的広い固溶体を持つ化合物である。上記の範囲で固溶体となり、クラスターを形成し難くし、個数比率が50個数%以下であれば疵の原因になり難くなるので、このように定めた。
【0031】
(CaO−Al
2O
3系酸化物の成分比がCaO:30〜70%、Al
2O
3:30%〜70%)
基本的には、CaO−Al
2O
3系酸化物の融点を1300℃程度以下に保つために、上記範囲に設定した。なお、CaOが70%を超えるとCaO介在物が共存し、Al
2O
3が70%超では純粋な有害であり疵となるAl
2O
3介在物が共存する。以上から、CaO:30〜70%、Al
2O
3:30%〜70%とした。また、CaO−Al
2O
3系酸化物はSiO
2を5%以下、MgOを10%以下含んでも構わない。これは、CaO−Al
2O
3系酸化物は、SiO
2を5%以下、MgOを10%以下含んでも、圧延工程で延びるが、深さ1μmを超えて深くならないためである。
【0032】
CaOおよびAl
2O
3介在物は、最も避けるべき介在物である。この理由を説明する。
(CaO)
CaO介在物は、水溶性のため、湿式研磨の際に溶解し、深さ1μmを超えるピットを発生させるため、避けるべき介在物である。
【0033】
(Al
2O
3)
Al
2O
3介在物は、クラスター状の介在物を形成し、長さ500μmを越える介在物となるため、避けるべき介在物である。
【0034】
(製造方法)
本願発明では、ステンレス鋼の製造方法も提案する。まず、原料を溶解し、Ni:7〜20%、Cr:15〜20%を含有するステンレス溶鋼を溶製し、次いで、AODおよび/またはVODにおいて脱炭した後に、石灰、蛍石、フェロシリコン合金および/またはAlを投入しCaO:50〜70%、SiO
2:3〜20%、MgO:3〜15%、Al
2O
3:15%未満からなるCaO−SiO
2−MgO−Al
2O
3−F系スラグを用いて溶鋼を精錬する。その後、取鍋に出鋼して、温度調整ならびに成分調整を行い、連続鋳造機によりスラブを製造する。製造したスラブは、表面を研削し、1200℃で加熱して熱間圧延を実施し、厚み6mmの熱帯を製造し、焼鈍、酸洗を行い、表面のスケールを除去する。最終的に冷間圧延を施し、板厚1mmの薄板を製造する方法である。これにより、非金属介在物は、MgO、MgO・Al
2O
3、CaO−Al
2O
3系酸化物の1種または2種以上に制御できる。その結果、長さが500μm以上連続しており、その一連の中で、幅5μm以上、深さ1μm以上かつ長さ10μm以上の窪みが少なくとも1つ含まれる形態を持つ非金属介在物の個数が鋼板表面1m
2の表面積あたり20個以下であるステンレス鋼板を得ることができる。
【0035】
本発明に係るステンレス鋼板の製造方法では、上述のようにスラグの組成に特徴を有している。以下、本発明で規定するスラグ組成の根拠を説明する。
(CaO:50〜70%、SiO
2:3〜20%)
スラグ中のCaO濃度およびSiO
2濃度は、脱酸および脱硫を効率よく行い、かつ介在物制御を行うための元素である。CaO濃度が70%を越えると、スラグ中CaOの活量が高くなり、(2)式の反応が進行しすぎる。そのため、溶鋼中に還元されるCa濃度が0.005%を超えて高くなり、CaO単体の非金属介在物が生成し、ノズル内に付着して、最終製品に表面欠陥をもたらす。そのため、上限を70%とした。一方、CaO濃度が50%未満だと、脱酸、脱硫が進まずに、本発明におけるS濃度、O濃度の範囲に制御することができなくなる。そのため、下限を50%とした。また、SiO
2濃度は最適な流動性を確保するため、3〜20%と規定した。
【0036】
(MgO:3〜15%)
スラグ中のMgOは、溶鋼中に含まれるMg濃度を請求項に記載される濃度範囲に制御するために、重要な元素であるとともに、非金属介在物を本発明に好ましい組成に制御するためにも重要な元素である。そこで、下限を3%とした。一方、MgO濃度が15%を超えると、(1)式の反応が進行しすぎてしまい、溶鋼中のMg濃度が高くなり、スラブ中にMg気泡を形成するため、最終製品に表面欠陥をもたらす。そこで、MgO濃度の上限を15%とした。スラグ中のMgOは、AOD精錬、あるいはVOD精錬する際に使用されるドロマイトレンガ、またはマグクロレンガがスラグ中に溶け出すことで、所定の範囲となる。あるいは、所定の範囲に制御するため、ドロマイトレンガ、またはマグクロレンガの廃レンガを添加してもよい。
【0037】
(Al
2O
3:15%未満)
スラグ中のAl
2O
3は、高いとMgO・Al
2O
3が50個数%を超えて生成させる。また、Al
2O
3介在物も形成してしまうため、スラグ中のAl
2O
3濃度は極力下げる必要がある。そのため、上限を15%(未満)とした。
【実施例】
【0038】
次に実施例を提示して、本発明の構成および作用効果をより、明らかにするが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。容量60トンの電気炉により、フェロニッケル、純ニッケル、フェロクロム、鉄屑、ステンレス屑、Fe−Ni合金屑などを原料として、溶解した。一部の鋼種ではFeMoあるいはCuも原料として添加した。その後、AODおよび/またはVODにおいてCを除去するための酸素吹精(酸化精錬)を行い、石灰石および蛍石を投入し、CaO−SiO
2−Al
2O
3−MgO−F系スラグを生成させ、さらに、FeSi合金および/またはAlを投入し、Cr還元を行い、次いで脱酸した。その後、さらにAr撹拌して脱硫を進めた。AOD、VODではマグクロレンガをライニングした。その後、取鍋に出鋼して、温度調整ならびに成分調整を行い、連続鋳造機によりスラブを製造した。
【0039】
製造したスラブは、表面を研削し、1200℃で加熱して熱間圧延を実施し、厚み6mmの熱帯を製造した。その後、焼鈍、酸洗を行い、表面のスケールを除去した。最終的に冷間圧延を施し、板厚1mmの薄板を製造した。
【0040】
得られたステンレス鋼の化学成分、AODもしくはVOD精錬終了時のスラグ組成を表1に、非金属介在物組成、介在物の形態および品質評価を表2に示す。ここで、実施例の4はVOD精錬、実施例の5および比較例の10はAODに引続きVODで精錬した。なお、表中の―は、無添加のため、分析限界以下であったことを示す。[ ]で示す数値は、本発明の範囲外であることを示す。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
なお、分析および評価は下記の(1)〜(4)の通りに行った。
(1)合金の化学成分およびスラグ組成:蛍光X線分析装置を用いて定量分析を行い、合金の酸素濃度は不活性ガスインパルス融解赤外線吸収法で定量分析を行った。
(2)非金属介在物組成:鋳込み開始直後、タンディッシュにて採取したサンプルを鏡面研磨し、SEM−EDSを用いて、サイズ5μm以上の介在物を20点ランダムに測定した。
(3)スピネル介在物の個数比率:上記(2)の測定の結果から個数比率を評価した。
(4)品質評価:板厚1mmの冷延板を採取して、10cm×10cmの正方形に切断し鏡面研磨した。次に、疵の有無を検査した。すなわち長さが500μm以上に亘って連続して並び、その一連の中で、幅5μm以上、深さ1μm以上かつ長さ10μm以上の窪みが少なくとも1つ含まれる形態を持つ非金属介在物の個数を、総面積1m
2の評価面積において測定した。
【0044】
実施例の1〜7は、本発明の範囲を満足していたために、研磨後の表面にて、疵は表面積1m
2あたり20個以下であり、良好な表面性状を得ることが出来た。なお、実施例6は、MgO・Al
2O
3の個数割合が55%とわずかに50%を超えていたため、表面積1m
2あたり疵が19個と範囲内ではあるが、多い傾向が見られた。また、実施例7は、CaO−Al
2O
3系介在物中のSiO
2濃度が23.2%と5%を超えていたため、延びやすい性質となり、長さ500μmを超える介在物が増え、表面積1m
2あたり疵が18個と範囲内ではあるが多い傾向がみられた。
【0045】
一方、比較例は本願発明の範囲を逸脱したため、表面欠陥が発生した。以下に、各例について説明する。
比較例8はAl濃度が0.001%と低く、MgおよびCa濃度が1ppm以下となってしまい、介在物中SiO
2濃度も23.3%と高くなった。さらに、脱酸や脱硫が進まず、S濃度が0.0068%と高くなってしまった。その結果、熱間加工性が低下による表面欠陥や介在物起因の疵が多数発生した。
比較例9は、Al濃度が0.014%と0.02%未満のため、溶鋼中Mgと相まってMgO・Al
2O
3介在物が多く形成してしまった。その結果スピネル比率が100%と50%を超えてしまい、疵が多数発生した。
比較例10は、Al濃度が0.185%と0.15%を超えて高かったため、酸素濃度が低くなりすぎ、Ca濃度が0.0062%と高くなった。その結果、CaO単体の非金属介在物を生成し、疵が多数発生した。
比較例11は、添加したAlが歩留らず、酸化物となり、スラグ中Al
2O
3濃度が25.5%と高くなった。また、溶鋼中Mg濃度およびCa濃度が低くかったため、Al
2O
3単体の非金属介在物が生成し、疵が多数発生した。
比較例12は、溶鋼中のMg濃度が0.0097%と高くなったため、スラブ中にMg気泡を形成し、スラブの段階で屑化となってしまった。
比較例13は、Si濃度が2.21%と2%を超えて高かったため、Ca濃度が0.0084%と高くなった。その結果、CaO単体の非金属介在物を生成し、疵が多数発生した。