特許第6869228号(P6869228)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6869228液体中の脆弱物の形状を保持する方法およびデバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6869228
(24)【登録日】2021年4月15日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】液体中の脆弱物の形状を保持する方法およびデバイス
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20210426BHJP
   C12N 5/07 20100101ALN20210426BHJP
【FI】
   C12M1/00 C
   !C12N5/07
【請求項の数】2
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-509161(P2018-509161)
(86)(22)【出願日】2017年3月23日
(86)【国際出願番号】JP2017011628
(87)【国際公開番号】WO2017170097
(87)【国際公開日】20171005
【審査請求日】2019年9月10日
(31)【優先権主張番号】特願2016-63992(P2016-63992)
(32)【優先日】2016年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】竹内 涼平
(72)【発明者】
【氏名】菊地 実記
(72)【発明者】
【氏名】野口 枝莉
(72)【発明者】
【氏名】頼 紘一郎
【審査官】 小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−192467(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/137426(WO,A1)
【文献】 特開平08−023968(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/079746(WO,A1)
【文献】 大藪淑美 ほか,ゲル化温度が向上したゼラチンによる細胞シートの保護,日本再生医療学会雑誌,2016年 2月 1日,第15巻, Vol.64,p.307,全文
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00− 3/10
C12N 1/00− 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体中のシート状細胞培養物の形状を保持するためのデバイスであって、シート状細胞培養物を収容するための容器、および温度変化により融解および凝固する封止材を含み、さらに前記容器の蓋を含んでもよく、凝固した状態の前記封止材が、前記容器および/または前記蓋に固定されており、シート状細胞培養物を収容するための容器が、封止材を固定することができる溝部を有し、該溝部の内側の高さが外側の高さより低い、前記デバイス。
【請求項2】
シート状細胞培養物を収容するための容器の縁部に固着可能な環状部材であって、温度変化により融解および凝固する封止材を載置することができる環状の溝部を有し、該環状の溝部の内側の高さが外側の高さより低い、前記環状部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体中の脆弱物の形状を保持する方法ならびにそのためのデバイスおよび部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の心臓病に対する治療の革新的進歩にかかわらず、重症心不全に対する治療体系は未だ確立されていない。心不全の治療法としては、βブロッカーやACE阻害剤による内科治療が行われるが、これらの治療が奏功しないほど重症化した心不全には、補助人工心臓や心臓移植などの置換型治療、つまり外科治療が行われる。
【0003】
このような外科治療の対象となる重症心不全には、進行した弁膜症や高度の心筋虚血に起因するもの、急性心筋梗塞やその合併症、急性心筋炎、虚血性心筋症(ICM)、拡張型心筋症(DCM)などによる慢性心不全やその急性憎悪など、多種多様の原因がある。
これらの原因と重症度に応じて弁形成術や置換術、冠動脈バイパス術、左室形成術、機械的補助循環などが適用される。
【0004】
この中で、ICMやDCMによる高度の左室機能低下から心不全を来たしたものについては、心臓移植や人工心臓による置換型治療のみが有効な治療法とされてきた。しかしながら、これら重症心不全患者に対する置換型治療は、慢性的なドナー不足、継続的な免疫抑制の必要性、合併症の発症など解決すべき問題が多く、すべての重症心不全に対する普遍的な治療法とは言い難い。
【0005】
その一方、最近、重症心不全治療の解決策として新しい再生医療の展開が不可欠と考えられている。
重症心筋梗塞等においては、心筋細胞が機能不全に陥り、さらに線維芽細胞の増殖、間質の線維化が進行し心不全を呈するようになる。心不全の進行に伴い、心筋細胞は傷害されてアポトーシスに陥るが、心筋細胞は殆ど細胞分裂をおこさないため、心筋細胞数は減少し心機能の低下もさらに進む。
このような重症心不全患者に対する心機能回復には細胞移植法が有用とされ、既に自己骨格筋芽細胞による臨床応用が開始されている。
【0006】
近年、その一例として、組織工学を応用した温度応答性培養皿を用いることによって、成体の心筋以外の部分に由来する細胞を含む心臓に適用可能な三次元に構成された細胞培養物と、その製造方法が提供された(特許文献1)。
【0007】
このようなシート状の細胞培養物は、容器内の液体中に保持された状態で保管され、使用時には、かかる容器を使用される場所へ移送する必要がある。シート状の構造物を安定的に移送すべく、種々の方法や器具が開発されている(特許文献2および3)。
【0008】
また、このような細胞培養物は絶対的な物理的強度が低く、液面の揺れなどによって、皺、破れ、破損などが生じ易いことから、その形状が液体中で保持されるようにする必要がある。液面の揺れを抑える手段として、シート状構造物を保持した液体に、これと液液界面を形成する別の液体を加えて蓋をする方法が開発されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2007−528755号公報
【特許文献2】特開2003−70460号公報
【特許文献3】特許第4749155号公報
【特許文献4】特開2013−192467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような中、本発明者は、液体中のシート状構造物などの脆弱物の形状を保持する手段を開発するにあたり、液体が収容された容器に蓋をした際に、液面と蓋との間に空気が入ると、液体の揺れを適切に抑えることができないこと、また、上記のように液体を別の液体で覆った状態にあっては、この別の液体が揺れた場合に、結果的に液体中の脆弱物が揺動するなどの問題に直面した。したがって、本発明の目的は、そのような問題を解決し、液体中の脆弱物の形状を保持するための方法、デバイス、および部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を進める中で、脆弱物を保持した液体の揺れを抑えるためには、液面を固体で覆わなければならないことに着眼した。そして、さらに研究を進めた結果、融解した状態の封止材で液面を覆い、当該封止材を凝固させることにより、液面を適切に固体で覆うことができることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち本発明は、以下の[1]〜[7]に関する。
[1]容器内の液体中の脆弱物の形状を保持する方法であって、温度変化により融解および凝固する封止材を融解させて前記液体の液面を覆うこと、および該液面を覆う封止材を凝固させることを含む、前記方法。
[2]脆弱物が、シート状骨格筋芽細胞培養物である、[1]に記載の方法。
[3]封止材の融点が0℃〜45℃であり、凝固点が0℃〜45℃である、[1]または[2]に記載の方法。
[4]封止材が、脂肪酸エステル、ゼラチン、多糖類および高分子化合物からなる群から選択される少なくとも1つを含む、[1]〜[3]のいずれか一つに記載の方法。
[5]液体中の脆弱物の形状を保持するためのデバイスであって、脆弱物を収容するための容器、および温度変化により融解および凝固する封止材を含み、さらに前記容器の蓋を含んでもよく、凝固した状態の前記封止材が、前記容器および/または前記蓋に固定されている、前記デバイス。
[6]脆弱物を収容するための容器が、封止材を固定することができる溝部を有し、該溝部の内側の高さが外側の高さより低い、[5]に記載のデバイス。
[7]脆弱物を収容するための容器の縁部に固着可能な環状部材であって、温度変化により融解および凝固する封止材を載置することができる環状の溝部を有し、該環状の溝部の内側の高さが外側の高さより低い、前記環状部材。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、温度変化により融解および凝固する封止材を用いることにより、液体の液面を効果的に覆うことができる。さらに、封止材を液面上で凝固させることで、液体の揺れを効果的に抑えることができる。さらに、液体が外気に触れないため、液体中の脆弱物の汚染を防ぐことができる。
とくに、本発明により、脆弱物を収容した容器を動かした際の揺動による脆弱物の皺、破れ、破損、変形などを防止することができ、物理的に安定させることができる。
さらに、本発明によると、液体中の脆弱物の形状を保持することができる、安価で簡便な方法、デバイス、および部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の第1実施態様に係るデバイス1を示す、断面斜視図である。
図2図2は、本発明の第2実施態様に係るデバイス1Aを示す、断面斜視図である。
図3図3A図3Cは、図2のデバイスの変形例を概略的に示す、断面図である。
図4図4は、本発明の第3実施態様に係る部材を示す、断面斜視図である。
図5図5A図5Dは、図4の部材の変形例を概略的に示す、断面図である。
図6図6は、シャーレの側面に固定されたゲル化した状態のゼラチンを示す。
図7図7は、蓋の内面に固定されたゲル化した状態のゼラチンを示す。
図8図8は、シャーレ内の水を覆ったゲル化した状態のゼラチンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一側面は、容器内の液体中の脆弱物の形状を保持する方法であって、温度変化により融解および凝固する封止材を融解させて前記液体の液面を覆うこと、および該液面を覆う封止材を凝固させることを含む、前記方法に関する。
【0016】
本明細書における脆弱物とは、物理的強度が低く、液体の揺れなどによって、破れ、破損、変形などが生じ得る物体をいう。かかる物体としては、薄肉部を有する物体、帯形状を有する物体、シート形状を有する物体などが挙げられる。かかるシート形状を有する物体としては、とくに限定されないが、シート状構造物、例えば、シート状細胞培養物などの、生体由来材料からなる平膜上の膜組織や、プラスチック、紙、織布、不織布、金属、高分子、脂質といった種々の材質のフィルム等が含まれる。これらのうち、液体中で難分解性のもの、液体中で難崩壊性のものなどが好ましい。シート状構造物は、多角形や円形などであってもよく、幅、厚み、直径などは一様であってもなくてもよい。本発明におけるシート状構造物は、1枚のみを単層の状態で使用してもよいし、2枚以上を重ねた積層の状態で使用してもよい。後者の場合、積層の各層は互いに連結していても、連結していなくてもよく、連結している場合は、重なり合っている部分が全て連結していても、部分的に連結していてもよい。
【0017】
本明細書において、シート状細胞培養物とは、細胞が互いに連結してシート状になったものをいい、典型的には1の細胞層からなるものであるが、2以上の細胞層から構成されるものも含む。細胞同士は、直接および/または介在物質を介して、互いに連結していてもよい。介在物質としては、細胞同士を少なくとも物理的(機械的)に連結し得る物質であればとくに限定されないが、例えば、細胞外マトリックスなどが挙げられる。介在物質は、好ましくは細胞由来のもの、とくに、細胞培養物を構成する細胞に由来するものである。細胞は少なくとも物理的(機械的)に連結されるが、さらに機能的、例えば、化学的、電気的に連結されてもよい。
【0018】
本明細書におけるシート状細胞培養物は、上記の構造を形成し得る任意の細胞から構成される。かかる細胞の例としては、限定されずに、接着細胞(付着性細胞)を含む。接着細胞は、例えば、接着性の体細胞(例えば、心筋細胞、線維芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、肝細胞、膵細胞、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞、滑膜細胞、軟骨細胞など)および幹細胞(例えば、筋芽細胞、心臓幹細胞などの組織幹細胞、胚性幹細胞、iPS(induced pluripotent stem)細胞などの多能性幹細胞、間葉系幹細胞等)などを含む。体細胞は、幹細胞、特にiPS細胞から分化させたものであってもよい。シート状細胞培養物を形成し得る細胞の非限定例としては、例えば、筋芽細胞(例えば、骨格筋芽細胞など)、間葉系幹細胞(例えば、骨髄、脂肪組織、末梢血、皮膚、毛根、筋組織、子宮内膜、胎盤、臍帯血由来のものなど)、心筋細胞、線維芽細胞、心臓幹細胞、胚性幹細胞、iPS細胞、滑膜細胞、軟骨細胞、上皮細胞(例えば、口腔粘膜上皮細胞、網膜色素上皮細胞、鼻粘膜上皮細胞など)、内皮細胞(例えば、血管内皮細胞など)、肝細胞(例えば、肝実質細胞など)、膵細胞(例えば、膵島細胞など)、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞等が挙げられる。本明細書においては、単層の細胞培養物を形成するもの、例えば、筋芽細胞などが好ましく、とくに好ましくは骨格筋芽細胞である。
【0019】
細胞は、細胞培養物による治療が可能な任意の生物に由来し得る。かかる生物には、とくに限定されないが、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジなどが含まれる。また、シート状細胞培養物の形成に用いる細胞は1種類のみであってもよいが、2種類以上の細胞を用いることもできる。本発明の好ましい態様において、細胞培養物を形成する細胞が2種類以上ある場合、最も多い細胞の比率(純度)は、細胞培養物製造終了時において、例えば骨格筋芽細胞の場合、65%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上である。
【0020】
本発明におけるシート状細胞培養物は、スキャフォールド(細胞培養時の足場)に細胞を播種し、培養することによって得られるシート形状の培養組織などでもよいが、好ましくは、細胞培養物を構成する細胞由来の物質のみからなり、それら以外の物質を含まない。
シート状細胞培養物は、任意の既知の手法によって製造されたものであってよい。
【0021】
本発明の一態様において、シート状細胞培養物は、シート状骨格筋芽細胞培養物である。これは、シート状骨格筋芽細胞培養物は、その一部をつかむと自重で破断するほど脆弱であるがゆえに、従来単体で移送することができないばかりか、一度折り重なると元の形状に戻すことが極めて困難なため、液中でシート形状を維持することに大きな意義があるからである。
【0022】
本明細書において、容器内の液体は、少なくとも1種の成分から構成され、その成分としてはとくに限定されないが、例えば、水、水溶液、非水溶液、懸濁液、乳液などの液体から構成される。
本明細書における液または液体とは、全体として流動性を有する流体であればよく、細胞足場などの固形物質や気泡などその他非液体成分を含んでもよい。
【0023】
容器内の液体を構成する成分は、脆弱物に与える影響が少ないものであればとくに限定されない。脆弱物が生体由来材料からなる膜である場合、容器内の液体を構成する成分は、生物学的安定性や長期保存可能性の観点から、生体適合性のもの、すなわち、生体組織や細胞に対して炎症反応、免疫反応、中毒反応などの望まない作用を起こさないか、少なくともかかる作用が小さいものが好ましく、例えば、水、生理食塩水、生理緩衝液(例えば、HBSS、PBS、EBSS、Hepes、重炭酸ナトリウム等)、培地(例えば、DMEM、MEM、F12、DMEM/F12、DME、RPMI1640、MCDB、L15、SkBM、RITC80−7、IMDM等)、糖液(スクロース溶液、Ficoll−paque(登録商標)PLUS等)、海水、血清含有溶液、レノグラフィン(登録商標)溶液、メトリザミド溶液、メグルミン溶液、グリセリン、エチレングリコール、アンモニア、ベンゼン、トルエン、アセトン、エチルアルコール、ベンゾール、オイル、ミネラルオイル、動物脂、植物油、オリーブ油、コロイド溶液、流動パラフィン、テレピン油、アマニ油、ヒマシ油などが挙げられる。
【0024】
脆弱物がシート状細胞培養物である場合、容器内の液体を構成する成分は、細胞を安定して保存することができ、細胞生存に必要な最低限の酸素や栄養等を含み、細胞を浸透圧等により破壊しないものが好ましく、例えば、生理食塩水、生理緩衝液(例えば、HBSS、PBS、EBSS、Hepes、重炭酸ナトリウム等)、培地(例えば、DMEM、MEM、F12、DMEM/F12、DME、RPMI1640、MCDB、L15、SkBM、RITC80−7、IMDM等)、糖液(スクロース溶液、Ficoll−paque PLUS(登録商標)等)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
容器内の液体の量は、脆弱物を保持できる程度であって、形成される液嵩が、脆弱物が揺動しない程度の高さであればとくに限定されない。例えば、直径約10mmのシート状骨格筋芽細胞培養物に対しては、液嵩が0.1mm〜11mm、直径約20mmのシート状骨格筋芽細胞培養物に対しては、液嵩が0.1mm〜16mmとなるように調節される。また、液面を覆う封止材を冷却する観点から、液体の容量は、1ml〜100mlとするのが好ましい。液体の比重は、脆弱物の比重より小さくなるように設定するのが好ましい。これにより脆弱物が液面に浮いて封止材と接触することを避けることができる。また、液体の比重は、脆弱物の比重と同等に設定することがより好ましい。これにより、容器が傾いた場合であっても液中で脆弱物の移動が起こらず、その形状をさらに安定的に保持することができる。
【0026】
本明細書において、温度変化とは、封止材を加熱、冷却することによる封止材自体の温度変化をいい、融解とは、加熱などにより封止材の一部または全部が液化することをいい、凝固とは、液化された封止材の一部または全部が固化または半固化することをいう。また、封止材が、温度変化によりゾル状態からゲル状態へ変化する成分で構成される場合は、融解とは、封止材がゲル溶解することを意味し、凝固とは、封止材がゲル化することを意味する。したがって、本明細書において「融点」という語は「ゲル溶解温度」と同義に用いられ、同様に「凝固点」という語は「ゲル化温度」と同義に用いられる。
【0027】
本明細書において、封止材とは、1種単独の成分から構成されていても、2種以上の成分から構成されていてもよく、加熱により融解し、融解した状態で液面を覆い、さらに冷却により凝固することによって液面上に封止蓋をすることができる材料をいう。封止材を構成する成分は、それ自体が酸化や加水分解に対して安定的であることが好ましいが、封止材に、酸化防止剤や耐候剤、紫外線吸収剤または加水分解防止剤などの当該分野において公知の各種安定剤を含有させることにより、酸化や加水分解に対する安定性を発揮させてもよい。これにより、液体に接する封止材の酸化や加水分解が抑制され、液面上で凝固された封止材の性質が維持された状態で液体が外気に触れないため、液体中の脆弱物の長期保存が可能になる。
【0028】
脆弱物が細胞からなるか、または細胞を含む場合、封止材を構成する成分は生体適合性のもの、すなわち、生体組織や細胞に対して望ましくない免疫反応、炎症反応、中毒反応などを引き起こさないか、またはかかる反応が最小限であるものが好ましい。またこの場合、封止材自体が、細胞に悪影響を及ぼさない温度範囲の温度変化により融解および凝固することが好ましく、脆弱物の搬送、保存および長期的な保存に好適な封止材は、その温度変化の温度範囲および生体適合性の観点から、当業者であれば適切な成分を選択することができる。
【0029】
封止材の融点は、とくに限定されないが、例えば、0℃〜45℃、好ましくは10℃〜30℃、とくに好ましくは15℃〜25℃であり、凝固点は、0℃〜45℃、好ましくは10℃〜30℃、とくに好ましくは15℃〜25℃である。封止材を室温で凝固させる観点から、凝固点が30℃〜37℃であるのが好ましい。また、液体中の脆弱物が細胞を含む場合、融解した封止材の熱による細胞への影響を小さくする観点から、融点が0℃〜37℃であるのが好ましい。
【0030】
封止材の量は、液面全面を被覆できる程度の量が好ましく、液面を覆った状態で厚みが1mm〜20mm、好ましくは1mm〜10mm、とくに好ましくは3mm〜5mmとなるように調節される。
封止材としては、例えば、脂肪酸エステル(蝋(凝固点、35℃〜50℃)、動物性油脂(凝固点25℃〜50℃)、植物性油脂等)、ゼラチン(ゲル化温度、15℃〜30℃)、多糖類、高分子化合物などが挙げられ、多糖類および高分子化合物としては、例えば、ペクチン(ゲル化温度25℃〜45℃)、寒天(ゲル化温度25℃〜45℃)、カラギーナン(ゲル化温度25℃〜60℃)、セルロース(ゲル化温度30℃〜40℃)、ジェランガム(ゲル化温度30℃〜40℃)、メチルセルロース(ゲル化温度30〜55℃)、キサンタンガム+ローカストビーンガム(ゲル化温度35〜60℃)、カードラン(ゲル化温度30〜60℃)、高分子化合物(疎水性相互作用を利用してゾル−ゲルに変化するもの。例:テレキーレックPEG、ポリエチレン等)などが挙げられる。本発明において、これら封止材を1種単独で使用しても、2種以上併用してもよい。当業者は、用途に合わせて、適切な封止材を選択することができる。
【0031】
本発明において、封止材は、脆弱物を保持した液体の上部に位置されるものであるところ、かかる位置関係が実現できるものであれば、封止材の比重はとくに限定されない。好ましくは、封止材の比重は容器内の液体の比重よりも小さく、また、脆弱物の比重より小さい。
【0032】
本明細書において、封止材を融解させる工程はとくに限定されないが、封止材に直接的に熱を加えて融解させてもよいし、間接的に熱を加えて融解させてもよい。例えば、封止材に温風を当てて融解させてもよいし、容器に封止材を固定した状態で、容器に熱を加えることで、封止材を融解させてもよい。
【0033】
本明細書において、融解した状態の封止材で液面を覆う工程はとくに限定されないが、シート状骨格筋芽細胞培養物のような脆弱物を用いる場合には、かかる封止材をピペットなどにより穏やかに滴下することが好ましく、これにより脆弱な構造に損傷を与えるリスクを回避できる。また、封止材を容器の内側面に沿って滴下してもよく、これにより、封止材を液面に緩やかに滴下することができる。液面は、全面を覆ってもよいし、一部を覆ってもよい。
【0034】
本明細書において、液面を覆う封止材を凝固させる工程はとくに限定されないが、封止材自体を冷却して凝固させてもよいし、容器を冷却することで封止材を間接的に冷却して凝固させてもよい。また、かかる冷却は、冷却装置によるものでも、容器内の液体によるものでも、室温に置かれることによる自然冷却であってもよい。液面を覆った封止材を凝固させると、封止材の半径方向外側は容器の内側面に固定されるため、液面が揺れにくくなる。
【0035】
このように、例えば、脆弱物を保持している容器内の液体に、融解した状態の封止材で蓋をして凝固させるだけで、容器を動かしても液体内の脆弱物の形状が崩れ難くなる。すなわち、液面と固化した封止材との間に気体が存在しなければ、液体は非圧縮性であるので液体の移動は生じず、脆弱物を変形させる力は加わらない。ここで、脆弱物を保持しているとは、脆弱物が容器内の液体中で浮いているか、または容器の底に沈んでいる状態をさす。そして、容器によって液嵩が異なる場合であっても、融解した状態の封止材で液嵩に応じて適切に液面を覆うことができる。
【0036】
本発明の一態様において、本発明の方法は、封止材を凝固させた後に、さらに封止材を除去する工程を含んでもよい。これにより、脆弱物を液中から取り出して、使用することができる。また、封止材を除去する工程は、封止材を融解させる工程を含んでもよい。これにより、封止材を簡単に除去することができる。さらにまた、封止材を除去する工程は、封止材を融解させる工程の後に、さらに容器内に液体を加える工程を含んでもよい。これにより、容器内の液体の液嵩が増し、融解した状態の封止材を容器から押し出すことで、封止材を簡単に除去することができる。
【0037】
本発明の一態様において、脆弱物を保持している液体は、脆弱物を形成するための液体を除去した後に、脆弱物を保存するために加えたものである。こうすることにより、脆弱物を手や器具により機械的に取り出して、別の容器に移し替えるなどの作業を行う必要がなく、例えば、脆弱なシート状細胞培養物に対してとくに有利である。すなわち、脆弱なシート状細胞培養物を培養溶液が充填された培養容器で形成した後、培養溶液を除去し、保存用の液体、次いで封止材を注ぎ入れることで、シート状細胞培養物はその形成から移送を経て移植に至るまで、液体以外のものによる無用の接触を回避することができ、損傷や汚染のリスクが極めて低い。
【0038】
本発明の別の側面は、液体中の脆弱物の形状を保持するためのデバイスであって、脆弱物を収容するための容器、および温度変化により融解および凝固する封止材を含み、さらに前記容器の蓋を含んでもよく、凝固した状態の前記封止材が、前記容器および/または前記蓋に固定されている、前記デバイスに関する。
【0039】
本明細書において、容器は、内部に脆弱物、液体、封止材などを収容でき、液体が漏出しないものであればとくに限定されず、市販の容器を含む任意のものを用いることができる。容器の材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ナイロン6,6、ポリビニルアルコール、セルロース、シリコン、ポリスチレン、ガラス、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、金属(例えば、鉄、ステンレス、アルミニウム、銅、真鍮)等が挙げられるがこれに限定されない。また、容器は、脆弱物の形状を維持するための少なくとも1つの平坦な底面を有することが好ましく、例えば、シャーレ、細胞培養皿、細胞培養ボトルなどが挙げられるがこれに限定されない。
【0040】
本明細書において、容器の蓋は、容器に被せることで容器の上面を覆って密閉するものであってもよく、例えば市販の蓋を含む任意のものを用いることができる。また、容器の蓋は、容器の内径より小さな直径を有し、液体の液面に載置させることができる円盤形状の落し蓋であってもよい。蓋の材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ナイロン6,6、ポリビニルアルコール、セルロース、シリコン、ポリスチレン、ガラス、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、金属(例えば、鉄、ステンレス、アルミニウム、銅、真鍮)等が挙げられるがこれに限定されない。
【0041】
本発明のデバイスは、容器および封止材を含み、さらに蓋を含んでいてもよい。容器は、脆弱物や液体を収容していてもいなくてもよい。凝固した状態の封止材は、容器に固定されていても、蓋に固定されていても、容器および蓋の両方に固定されていてもよい。本発明のデバイスを使用する場合は、容器に液体および脆弱物を入れ、容器および/または蓋に固定されている封止材を融解させて液面を覆い、液体の上面を覆った封止材を凝固させる。これにより、液面に固体の蓋をすることができ、さらに、液面と蓋との間に空気が入らないため、容器の輸送中に振動が発生した場合であっても、容器内の液体が波打ったり揺動したりして、脆弱物が揺動することがなく、また、液体が外気に触れることがない。したがって、液体中の脆弱物の形状を保持して変形を防止しつつ、長期保存することができる。
【0042】
以下、本発明を、添付の図面を参照しつつ好適な実施態様に基づいて詳細に説明する。
〔第1実施態様〕
まず、本発明の第1実施態様に係るデバイス1について説明する。図1は、本発明の第1実施態様に係るデバイス1を示す、断面斜視図である。なお、本願における各図において、説明を容易とするため、各部材の大きさは、適宜強調されており、図示の各部材は、実際の大きさを示すものではない。
【0043】
図1に示されるように、本発明の第1実施態様に係るデバイス1は、容器2および封止材3を含む。容器2は、開口を有する円形のシャーレであり、封止材3は、容器2の内側面の形状に合わせて環状に成形されており、容器2の上側内側面に固定されている。デバイス1を使用する場合は、容器2に液体および脆弱物を入れて加熱し、容器2に固定された封止材3を融解させる。融解した状態の封止材3は液面を覆い、液面を覆った封止材3を凝固させることで、液面に封止材で蓋をすることができる。
【0044】
本実施態様において、封止材3は、容器2の上側に固定されているため、封止材3が融解した際に、容器2の下側に収容されている液体を上方から覆うことができる。また、封止材3は、容器2の内側面に固定されているため、融解した状態の封止材3を容器2の内側面に沿って緩やかに滴下することができる。さらに、封止材3の形状が環状であるため、封止材3を容器2の周方向に沿って均一に滴下することができる。
【0045】
本実施態様において、封止材3は、容器2の上側に固定されているが、これに限定されず、容器2の下側、例えば、底面に固定されていてもよい。封止材3の形状は、容器2の形状に合わせて適宜選択することができ、例えば、容器2の開口全体を覆う円板形状に成形してもよい。かかる円板形状の封止材3を使用することで、融解した状態の封止材3を液体の上方から液面全面に滴下することができる。また、封止材3は、容器2ではなく、容器2の蓋(図示せず)の内面に固定してもよい。この場合は、融解した状態の封止材3が、蓋および容器2の内面ならびに液面を覆うため、蓋と容器2とが封止材3によって固定されて密閉状態が高まり、脆弱物を長期保存することができる。したがって、蓋の内面に傾斜を付けて、融解した状態の封止材が容器2の内側面に誘導されるようにしてもよい。以上のように、封止材3は、容器2に固定されていても、蓋に固定されていても、容器2および蓋の両方に固定されていても、所期の目的を果たすことができる。
【0046】
以上のように、本発明の第1実施態様に係るデバイス1は、容器内の液体の液面を適切に覆うことができ、さらに液面と封止材との間に空気が入らないため、容器の輸送中に振動が発生した場合であっても、容器内の液体が波打ったり揺動したりして、脆弱物が揺動することがなく、また、液体が外気に触れることがない。したがって、液体中の脆弱物の形状を保持して変形を防止しつつ、長期保存することができる。
【0047】
〔第2実施態様〕
次に、本発明の第2実施態様に係るデバイス1Aについて説明する。図2は、本発明の第2実施態様に係るデバイス1Aを示す、断面斜視図である。なお、以下の説明では、第1実施態様に係るデバイス1の構成と同じ部分については、同じ符号を付してそれらの説明は省略する。
【0048】
図2に示されるように、本発明の第2実施態様に係るデバイス1Aは、容器2Aおよび封止材3を含む。容器2Aの開口縁部には、容器2Aの蓋(図示せず)が嵌合する環状の溝部4が形成されており、封止材3は溝部4内に固定されている。デバイス1Aを使用する場合は、容器2Aに液体および脆弱物を入れ、容器2Aの溝部4に蓋を載置して加熱する。封止材3が融解すると、蓋が溝部4内に入り込み、封止材3が溝部4から押し出される。押し出された封止材3は、容器2Aの側面に沿って滴下されて液面を覆う。その後、液面上および溝部4内の封止材3を凝固させる。これにより、封止材3によって液面を覆うこと、および、容器に蓋を固定することが同時に達成され、容器の密閉状態が高まる。
【0049】
本実施態様において、溝部4の形状は環状であるが、これに限定されず、蓋の形状に合わせて、適宜選択することができる。容器2Aが、開口を有する円形シャーレであり、蓋が、円形シャーレの開口および外側面を覆う円形の蓋である場合、溝部4の形状を環状にすることで蓋の嵌合が容易になる。また、溝部4の容積は、容器2Aと蓋とを固定し、液面を覆うことができる量の封止材3を収容できるように、適宜選択することができる。
以上のように、本発明の第2実施態様に係るデバイス1Aは、容器内の液体の液面を適切に覆うことができ、さらに液面と封止材との間に空気が入らないため、容器の輸送中に振動が発生した場合であっても、容器内の液体が波打ったり揺動したりして、脆弱物が揺動することがなく、また、液体が外気に触れることがない。したがって、液体中の脆弱物の形状を保持して変形を防止しつつ、長期保存することができる。
【0050】
図3A図3Cは、図2のデバイスの変形例を概略的に示す、断面図である。なお、以下の説明では、第2実施態様に係るデバイスの構成と同じ部分については、同じ符号を付してそれらの説明は省略する。
第1変形例
図3Aに示されるように、本発明の第1変形例に係るデバイス1Aは、容器2Aの溝部4内、容器2Aの内側面および蓋5に封止材3が固定されている。本発明のデバイス1Aを使用する場合は、容器2Aに液体および脆弱物を入れ、容器2Aの溝部4に蓋5を載置して加熱する。融解された容器2Aの内側面の封止材3は、容器2Aの半径方向外側から液面に滴下され、蓋5の封止材3は、容器2Aの半径方向内側から液面に滴下され、容器2Aの溝部4内の封止材3は、溝部4と蓋5との隙間に入り込む。これにより、液面全面が迅速に覆われると共に、容器2Aと蓋5とが固定される。
【0051】
本変形例において、封止材3は、容器2Aの内側面、溝部4および蓋5に固定されているが、封止材3を、容器2Aの内側面、溝部4および蓋5の少なくとも1つに固定してもよい。例えば、封止材3を蓋5のみに固定した場合であっても、封止材3の量を調節して、融解した封止材3が蓋5の内側面に沿って容器2Aの溝部4を満たし、さらに溝部4から溢れ出た封止材3が液面全体を覆うようすることによって、所期の目的が達成される。したがって、容器2Aの蓋5の内面は、容器2Aの側面に向かって傾斜するように形成し、封止材3が容器2Aの溝部4や内側面に向かって流れるようにしてもよい。
【0052】
第2変形例
図3Bに示されるように、本発明の第2変形例に係るデバイス1Bは、容器2Bの縁部に容器2Bの蓋5が嵌合する溝部4Bを有し、溝部4Bの内側42が容器2Bの内側面に沿うように形成されている。また、溝部4Bの内側42の高さは、外側41の高さより低い。本発明のデバイス1Bを使用する場合は、溝部4Bの内側42の高さより大きな高さを有する封止材3Bを溝部4B内に固定する。そして、容器2Bに液体Lおよび脆弱物を入れて加熱する。封止材3Bが溝部4B内で融解すると、溝部4Bの内側42の高さより上側の封止材3Bが、容器2Bの内側面に沿って滴下されて、液体Lの液面を覆う(図3C)。液面を覆った封止材3Bを凝固させると、封止材3Bの半径方向外側は容器2Bの内側面に固定されるため、液面が揺れにくくなる。また、封止材3Bの下側は溝部4B内に留まるため、蓋5を溝部4B内に固定することができる。
【0053】
本変形例において、溝部4Bの内側42の高さは、外側41の高さより低く設定されているが、これは溝部4B全体であっても、一部であってもよい。例えば、溝部4Bの一部に、溝部4B内と容器2Bの内側面とを連通する貫通孔を設けることで、溝部4Bの内側42の高さが外側41の高さより低くなるようにしてもよい。
【0054】
このように、本変形例のデバイス1Bは、溝部4Bに蓋5を嵌合させなくても、融解した状態の封止材4Bを溝部4Bから容器2B内に誘導することができる。したがって、本発明のデバイスは、蓋を含んでいてもいなくてもよい。
【0055】
また、蓋が上記のような円盤形状の落し蓋である場合は、落し蓋の少なくとも1つの面に封止材を固定した状態で液面に載置して、封止材を融解、凝固させてもよい。これにより、落し蓋の側面と容器の内側面とを封止材で固定して、液面を固体で蓋をすることができる上に、封止材の容量を少なくすることができる。また、落し蓋の材質として、固化した状態の封止材よりも硬い材質を使用することにより、液面を保持する力を強化し、例えば容器を大きく傾けた場合であっても液体の揺動を確実に抑えるようにしてもよい。
【0056】
落し蓋を除去する際には、封止材を壊すか溶融して除去すればよいが、取り扱いの便をよくするために、落し蓋に、例えば、切り欠き、開口部、つまみ部などを設けて、除去を容易にしてもよい。また、例えば開口部を開閉可能とし、落し蓋と容器とを固定しているときは開口部を閉鎖して液体中の脆弱物を長期保存し、落し蓋を除去するときは開口部を開放して空気の通り道を作ることで、封止材を溶融することなく落し蓋を簡単に除去できるようにしてもよい。
【0057】
以上のように、本発明の変形例に係るデバイス1Aおよび1Bは、容器内の液体の液面を適切に覆うことができ、さらに液面と封止材との間に空気が入らないため、容器の輸送中に振動が発生した場合であっても、容器内の液体が波打ったり揺動したりして、脆弱物が揺動することがなく、また、液体が外気に触れることがない。したがって、液体中の脆弱物の形状を保持して変形を防止しつつ、長期保存することができる。
【0058】
本発明の別の側面は、脆弱物を収容するための容器の縁部に固着可能な環状部材であって、温度変化により融解および凝固する封止材を載置することができる環状の溝部を有し、該環状の溝部の内側の高さが外側の高さより低い、前記環状部材に関する。
【0059】
〔第3実施態様〕
本発明の第3実施態様に係る部材について説明する。図4は、本発明の第3実施態様に係る部材を示す、断面斜視図である。なお、以下の説明では、第1実施態様および第2実施態様に係るデバイスの構成と同じ部分については、同じ符号を付してそれらの説明は省略する。
【0060】
図4に示されるように、本発明の第3実施態様に係る部材6は、脆弱物を収容するための容器(図示せず)の縁部に固着可能な環状部材である。部材6には、容器の蓋(図示せず)が嵌合する溝部4が形成されており、封止材3は溝部4内に固定されている。さらに、部材6には、容器の縁部に固着可能な嵌合部7が形成されており、本実施態様において、嵌合部7および溝部4は環状溝である。
【0061】
部材6を使用する場合は、液体および脆弱物を収容した容器の縁部に部材6の嵌合部7を嵌合させて、部材6を容器に固着し、部材6の溝部4に蓋を載置して加熱する。封止材3が融解すると、蓋が溝部4内に入り込んで封止材3が押し出され、部材6の内側面に沿って液面を覆う。液面を覆った封止材3は、容器内の液体によって冷却されて凝固する。これにより、容器と蓋とが固定され、さらに容器内の液体が封止材3で密閉される。また、封止材3は、部材6の内側面に沿って液面に滴下されるため、封止材3が容器に付着し難い。したがって、部材6を容器から取り外すだけで、封止材3を液面から簡単に除去することができる。また、この際に凝固した状態の封止材3に穴を開けて空気の通り道を作ることで、より簡単に封止材3を除去することもできる。また、かかる空気の通り道を部材6に設けて開閉可能とすることで、封止材3に穴を開けることなく簡単に除去することもできる。このように、部材6は着脱自在であり、市販の容器や蓋に簡単に取り付け、および取り外し可能であり、凝固した封止材3を液面から簡単に除去することができる。
【0062】
部材6の材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ナイロン6,6、ポリビニルアルコール、セルロース、シリコン、ポリスチレン、ガラス、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、金属(例えば、鉄、ステンレス、アルミニウム、銅、真鍮)等が挙げられるがこれに限定されない。部材6の固着および取り外しを簡単にする観点から、部材6は可撓性を有するのが好ましい。
【0063】
以上のように、本発明の実施態様3に係る部材6は、容器内の液体の液面を適切に覆うことができ、さらに液面と封止材との間に空気が入らないため、容器の輸送中に振動が発生した場合であっても、容器内の液体が波打ったり揺動したりして、脆弱物が揺動することがなく、また、液体が外気に触れることがない。したがって、液体中の脆弱物の形状を保持して変形を防止しつつ、長期保存することができる。
【0064】
図5A図5Dは、図4の部材の変形例を概略的に示す、断面図である。なお、以下の説明では、第1および第2実施態様に係るデバイスならびに第3実施態様に係る部材の構成と同じ部分については、同じ符号を付してそれらの説明は省略する。
【0065】
第1変形例
図5Aに示されるように、本発明の第1変形例に係る部材6Aにおいて、封止材3は、溝部4内および部材6の内側面に固定されている。嵌合部7Aは環状溝ではなく、部材6Aの基部61の下面から下方に突出する環状壁である。嵌合部7Aは、容器2の内側面に嵌合部7Aの外側面が密着するように形成されている。また、嵌合部7Aの長さは、勘合部7Aの下端が、容器2内に収容される液体Lに浸漬するように設定されている。加熱すると、融解した状態の封止材3は、封止材3の内側面に沿って液面に到達し、液面の中心方向に流れていくため、封止材3の半径方向外側は部材6の内側面に固定される(図5B)。したがって、部材6Aを容器から取り外すだけで、封止材3を液面から簡単に除去することができる。
【0066】
第2変形例
図5Cに示されるように、本発明の第2変形例に係る部材6Cにおいて、溝部4Cには封止材が固定されていない。本変形例において、溝部4Cは環状の溝ではなく、部材6Cの基部61の上面から上方に突出する環状壁である。本変形例において、溝部4Cの内側42の高さは、溝部4Cの外側41の高さより低く、基部61からは突出していない。本発明の部材6Cを使用する場合は、部材6Cを容器(図示せず)に固着し、環状の封止材3Cを溝部4Cに載置して加熱する。本変形例において、封止材3Cは、部材6Cの溝部4Cに載置可能な環状の封止材3C’と、部材6Cの内側面に設置可能な環状の封止材3C’’とが一体成型されたものである。封止材6Cは、部材6Cの溝部4Cおよび内側面において融解し、嵌合部7Cの内側面に沿って滴下される。
【0067】
このように、本発明の部材6には、封止材3を後から取り付けてもよい。また、溝部4Cの内側42が基部61から突出していないため、封止材3の高さを溝部4Cの内側42および外側41の高さに合わせて厳密に設定する必要がない。本変形例において、嵌合部7Cの長さは、容器2の内側面の高さと略同一になるように設定されている。こうすることにより、容器2の内側面を嵌合部7Cによって完全に覆うことができ、図5Cに示されるように、容器2内の液嵩が低い場合であっても、封止材3を部材6Cの内側面に沿って液面に誘導することができる。
【0068】
また、本変形例において、部材6Cを使用する場合、部材6Cを容器に固着し、環状の封止材3Cを溝部4Cに載置した後に、蓋(図示せず)を溝部4C上に載置してもよい。この状態で封止材3Cを融解させると、蓋の下端は、融解し始めた封止材3C’中に沈み込み、溝部4C上に到達する。蓋の下端が溝部4C上に到達すると、封止材3C’の蓋より外側の部分は行き場所を失い、蓋と溝部4Cの外側41との間に留まる。この状態で封止材を凝固させると、蓋と溝部4Cの外側41との間に留まる封止材によって、蓋と溝部4Cとが固定される。
【0069】
本変形例のように、溝部4Cが蓋が入り込む環状の溝ではない構成は、上記図3A図3Cの溝部4、4Bに適用してもよい。この場合、蓋の形状は、例えば溝部4、4B、4Cの外側の直径より小さな直径を有する円盤形状としてもよく、これにより蓋を溝部に嵌合させる必要がなくなり、単に蓋を溝部に載置することで所期の目的を果たすことができる。
【0070】
第3変形例
図5Dに示されるように、本発明の部材6の第3変形例に係る部材6Dにおいて、溝部4Dには封止材が固定されていない。嵌合部7Dは、部材6Dの基部61の下面から下方に突出しており、嵌合部7Dの長さは、容器2の側面の高さより長くなるように設定されている。これにより、容器2の内側面を嵌合部7Dによって完全に覆うことができる。本変形例において、溝部4Dは、部材6Dの基部61の上面から上方に突出する2つの環状壁である。当該2つの環状壁の内、内側の環状壁42の高さは、外側の環状壁41の高さより低い。封止材3Dの高さは、内側の環状壁42の高さより高く、また、外側の環状壁41の高さより低く設定されている。
【0071】
部材6Dを使用する場合は、液体および脆弱物を収容した容器の縁部に部材6Dを固着し、環状の封止材3Dを溝部4Dに載置して加熱する。本変形例において、封止材3Dは、部材6Dの溝部4Dに載置可能な環状の封止材3D’と、部材6Dの内側面に設置可能な環状の封止材3D’’とが一体成型されたものである。封止材3Dが融解すると、内側の環状壁42の高さより上側の封止材3D’および封止材3D’’が、部材6Dの内側面に沿って液面に滴下される。封止材3D’の下側は、溝部4D内に留まるため、溝部4Dに嵌合する蓋を適切に固定することができる。
【0072】
このように、封止材3の形状は、部材6の形状に合わせて自由に設定可能である。例えば、環状の封止材に替えて、円板状に形成された封止材を使用してもよい。かかる封止材を融解させることで、封止材の外側を液面の半径方向外側に滴下すると同時に、封止材の内側を液面の半径方向内側に滴下することもできる。
また、嵌合部7Dの長さは、容器の高さや容器内の液面の高さに合わせて適宜設定可能である。嵌合部7Dの長さは、とくに限定されないが、例えば、16mm〜25mm、好ましくは16mm〜22mm、より好ましくは16mm〜19mmとすることできる。
【0073】
以上のように、本発明の変形例に係る部材6A、6Cおよび6Dは、容器内の液体の液面を適切に覆うことができ、さらに液面と封止材との間に空気が入らないため、容器の輸送中に振動が発生した場合であっても、容器内の液体が波打ったり揺動したりして、脆弱物が揺動することがなく、また、液体が外気に触れることがない。したがって、液体中の脆弱物の形状を保持して変形を防止しつつ、長期保存することができる。
【0074】
以上、本発明の実施態様1〜3に係るデバイスおよび部材について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は、上記の実施態様1〜3に係るデバイスおよび部材、ならびにこれらの変形例を好適に組み合わせて、異なる形状や構成を有するデバイスおよび部材を設計することができる。例えば、本発明のデバイス1の溝部4、4B、封止材3、および、部材6の溝部4C、4D、封止材3C、3Dなどの形状を自由に組み合わせて、異なる形状や構成を有するデバイス1および部材6を設計することができる。
本発明においては、各構成は、同様の機能を発揮し得る任意のものと置換することができ、あるいは、任意の構成を付加することもできる。
【実施例】
【0075】
本発明を以下の例を参照してより詳細に説明するが、これは本発明の特定の具体例を示すものであり、本発明はこれらに限定されるものではない。
例1
直径10cmのシャーレ(Nunc(登録商標))の側面およびシャーレの蓋の内面に、溶解した状態のゼラチンをコートし、1時間冷蔵してゲル化させた。図6は、シャーレの側面に固定されたゲル化した状態のゼラチンを、図7は、蓋の内面に固定されたゲル化した状態のゼラチンを示す。次に、シャーレ内に水を入れて蓋をした後、ゼラチンが溶解するまで約40℃で加温した。溶解した状態のゼラチンがシャーレ内の水を覆った後、再び1時間冷蔵してゲル化させた。図8に示されるように、ゲル化した状態のゼラチンがシャーレ内の水を覆い、シャーレ内の水が波打ったり揺動したりしないことが確認できた。
【符号の説明】
【0076】
1、1A、1B デバイス
2、2A、2B 容器
3、3B、3C、3D 封止材
4、4B、4C、4D 溝部
5 蓋
6、6A,6C、6D 部材
7、7A、7C、7D 嵌合部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8