特許第6869232号(P6869232)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6869232ミクロフィブリル化セルロースおよび両性ポリマーを含むフィルムを製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6869232
(24)【登録日】2021年4月15日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】ミクロフィブリル化セルロースおよび両性ポリマーを含むフィルムを製造する方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 11/18 20060101AFI20210426BHJP
   D21H 15/02 20060101ALI20210426BHJP
   D21H 17/32 20060101ALI20210426BHJP
   B32B 23/02 20060101ALI20210426BHJP
   B32B 23/08 20060101ALI20210426BHJP
   B32B 23/10 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   D21H11/18
   D21H15/02
   D21H17/32
   B32B23/02
   B32B23/08
   B32B23/10
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-514322(P2018-514322)
(86)(22)【出願日】2016年9月16日
(65)【公表番号】特表2018-527483(P2018-527483A)
(43)【公表日】2018年9月20日
(86)【国際出願番号】IB2016055531
(87)【国際公開番号】WO2017046754
(87)【国際公開日】20170323
【審査請求日】2019年6月14日
(31)【優先権主張番号】1551195-9
(32)【優先日】2015年9月17日
(33)【優先権主張国】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】501239516
【氏名又は名称】ストラ エンソ オーワイジェイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヘイスカネン、イスト
(72)【発明者】
【氏名】バックフォルク、カイ
【審査官】 川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/192634(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 11/18
B32B 23/02
B32B 23/08
B32B 23/10
D21H 15/02
D21H 17/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維質ウェブからフィルムを製造する方法であって、
ミクロフィブリル化セルロースを含む繊維質懸濁液であって、前記懸濁液のミクロフィブリル化セルロースの含量が全乾燥固形分に対して60〜99.9重量%の範囲内である繊維質懸濁液を提供するステップ、
前記懸濁液に両性ポリマーを添加し、前記ミクロフィブリル化セルロースおよび前記両性ポリマーの混合物を提供するステップであって、前記両性ポリマーが両性グアーガムであるステップ
基材に前記混合物を与えて繊維質ウェブを形成するステップであって、前記混合物における両性ポリマーの含量が全乾燥固形分に対して0.1〜20kg/メトリックトンの範囲内であるステップ、
前記繊維質ウェブを脱水し、40g/m未満の坪量を有し、かつ700〜1000kg/mの範囲内の密度を有するフィルムを形成するステップ
を含む、上記方法。
【請求項2】
前記フィルムの製造が抄紙機によって行われ、そこで、前記基材が多孔質ワイヤであり、その上で前記混合物が繊維質ウェブを形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抄紙機の製造速度が、20〜1200m/分の範囲内である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記基材が、紙、板紙、ポリマー、または金属基材である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ミクロフィブリル化セルロースおよび前記グアーガムを含む前記ウェブ中の前記グアーガムの含量が、全乾燥固形分に対して0.1〜20kg/メトリックトンの範囲内である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
ミクロフィブリル化セルロースが、90SR゜超、または93SR゜超、または95SR゜超のショッパーリーグラー値(SR゜)を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法によって得られた、ミクロフィブリル化セルロースおよび両性ポリマーを含むフィルムであって、40g/m未満の坪量および700〜1000kg/mの範囲内の密度を有するフィルム。
【請求項8】
請求項7に記載のフィルム、ならびに、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレートおよびポリ乳酸のいずれか1種のような熱可塑性ポリマーを含む、積層体。
【請求項9】
前記ポリエチレンが、高密度ポリエチレンおよび低密度ポリエチレンのいずれか1種である、請求項8に記載の積層体。
【請求項10】
前記フィルムまたは前記積層体が、紙製品または板製品のいずれか1種の表面に適用された、請求項7に記載のフィルムまたは請求項8もしくは9に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ繊維質ウェブからフィルムを製造する際に、両性ポリマーを添加剤として使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抄紙機上でミクロフィブリル化セルロース(MFC)を含むウェブからフィルムを製造することは要求が高い。脱水速度が遅いため、抄紙機のワイヤから材料を解放する際に問題がある。また、脱水が強すぎるとウェブにピンホールが発生し、フィルムの品質が低下するおそれがある。別の重要な変動要素は、ウェブの形成であり、それは次にウェブの特性に影響を与える。
【0003】
PE、PET等のプラスチック支持体にNFCを塗布することにより、独立した膜(free standing films)等のMFC膜やNFC膜を形成するための種々の製造方法が提案されている(WO13060934A2参照)。
【0004】
JP10095803Aは、基材として作用する紙に細菌ナノセルロース(BNC)を噴霧する方法を開示している。同様の方法、すなわち、紙または板紙基材を使用することが研究され、従来技術においてかなり頻繁に報告されている。
【0005】
US2012298319Aは、多孔質基材上に直接的に供給物を塗布することによってMFCフィルムを製造する方法を教示し、それによってMFCを脱水し、濾過することができる。
【0006】
WO12107642A1は、MFCの吸湿特性に関する問題に対処しており、それはフィルムを調製する際に有機溶媒を使用することによって解決された。
【0007】
したがって、ミクロフィブリル化セルロースを含む湿潤ウェブからフィルムを形成するときに、脱水、保持および網目構造の特性を制御し改善することができる方法が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示の目的は、先行技術の方法の欠点の少なくともいくつかを除去または緩和する、ミクロフィブリル化セルロースを含む薄膜の改良された製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、添付の独立請求項によって定義される。実施形態は、添付の従属請求項および以下の詳細な説明に記載される。
【0010】
第一の態様によれば、以下の方法が提供される:
繊維質ウェブからフィルムを製造する方法であって、
ミクロフィブリル化セルロースを含む繊維質懸濁液であって、前記懸濁液のミクロフィブリル化セルロースの含量が全乾燥固形分に対して60〜99.9重量%の範囲内である繊維質懸濁液を提供するステップ、
前記懸濁液に両性ポリマーを添加し、前記ミクロフィブリル化セルロースおよび前記両性ポリマーの混合物を提供するステップ、
基材に前記混合物を与えて繊維質ウェブを形成するステップであって、前記混合物における両性ポリマーの含量が全乾燥固形分に対して0.1〜20kg/メトリックトンの範囲内であるステップ、
前記繊維質ウェブを脱水し、40g/m未満の坪量を有し、かつ700〜1600kg/mの範囲内の密度を有するフィルムを形成するステップ
を含む、上記方法。
【0011】
両性とは、ポリマーがカチオン性およびアニオン性(帯電性)の基の両方を含有することを意味する。電荷のレベルは、置換度、pH、および例えば電解質の種類および濃度によって決定される。
【0012】
ミクロフィブリル化セルロースと両性ポリマーとの混合物を提供することによって、このタイプのプロセスに通常関連する欠点を伴わずに、薄く緻密なフィルムを製造する方法が提供される。これは、主な課題、すなわち、大量のミクロフィブリル化セルロースを含む懸濁液の脱水についての課題を克服することができることを意味する。
【0013】
一実施形態によれば、フィルムの製造は、繊維質ウェブが形成される多孔質ワイヤを基材とする抄紙機(paper making machine)で行われる。一実施形態によれば、前記抄紙機の製造速度は、20〜1200m/分の範囲内であってもよい。
【0014】
したがって、本発明の方法により、以前に非常に困難であると考えられていた、高い製造速度でワイヤ上に湿潤ウェブおよび/またはフィルムを形成し、ワイヤから形成されたフィルムを得ることが可能である。高い製造速度では、速い脱水を行うことが重要であるが、これは減圧吸引によって促進され得るものであり、ここで、繊維質懸濁液への両性ポリマーの添加により、ミクロフィブリル化セルロースを含むフィルムを、非常に容易にワイヤーの下側/後側で減圧処理することができる。
【0015】
第1の態様の一実施形態によれば、好ましくは、繊維質ウェブは、好ましくは懸濁液をキャスティングすることにより、混合物を基材上に添加することによって形成される。基材は、紙または板紙基材であってもよく、こうしてMFCフィルムで被覆された板紙または紙基材を形成する。基材は、ポリマーまたは金属基材であってもよい。次いで、キャストされた繊維質ウェブを任意の従来の方法で乾燥させ、その後、基材から剥がすことができる。その後、剥離された繊維質ウェブは、乾燥装置に送られて、乾燥したフィルムを生成する。
【0016】
第1の態様の一実施形態によれば、両性ポリマーは、両性多糖類および両性親水コロイドを含む群から選択され得る。
【0017】
両性多糖または両性親水コロイドは、両性グアーガムであってもよい。
【0018】
したがって、両性ポリマーまたは親水コロイドポリマーは、バイオベースのポリマーであってもよい。MFC懸濁液への両性グアーガムの添加は、抄紙ワイヤへの接着性を低下させ、またフィルムのバリア特性を改善することが示されている。
【0019】
一実施形態によれば、ミクロフィブリル化セルロースおよびグアーガムを含むウェブ中の両性グアーガムの量は、全乾燥固形分を基準にして0.1〜20kg/メトリックトンの範囲内である。
【0020】
別の実施形態によれば、両性ポリマーは両性タンパク質であってもよい。
【0021】
さらに一実施形態によれば、両性ポリマーは両性デンプンであってもよい。
【0022】
第1の態様の一実施形態によれば、ミクロフィブリル化セルロースは、90SR°を超える、または93SR°を超える、または95SR°を超えるショッパーリーグラー値(Schopper Riegler value)(SR°)を有する。
【0023】
これは、両性ポリマーを含むフィルムにポリエチレンを適用できることを意味する。
【0024】
第2の態様によれば、第1の態様による方法によって得られたミクロフィブリル化セルロースおよび両性ポリマーを含むフィルムが提供され、前記フィルムは40g/m未満の坪量および700〜1600kg/mの範囲内の密度を有する。
【0025】
第3の態様によれば、第2の態様によるフィルムと、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレートおよびポリ乳酸のいずれかのような熱可塑性ポリマーとを含む積層体が提供される。
【0026】
この積層構造は、さらに優れたバリア特性を提供することができる。
【0027】
第3の態様の一実施形態によれば、ポリエチレンは、高密度ポリエチレンおよび低密度ポリエチレンのいずれかであってもよい。
【0028】
第4の実施形態によれば、第2の態様によるフィルムまたは第3の態様による積層体が提供され、前記フィルムまたは前記積層体は、紙製品および板(ボード)のいずれかの表面に適用される。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の方法によれば、基材上に繊維質懸濁液を提供し、このウェブを脱水してフィルムを形成することによって、フィルムが形成される。
【0030】
一実施形態によれば、ミクロフィブリル化セルロースを含む懸濁液が前記フィルムを形成するために提供される。
【0031】
繊維質懸濁液の繊維含量は、一実施形態によれば、全乾燥固形分を基準にして60〜99.9重量%の範囲内であってもよい。別の実施形態によれば、繊維含量は、全乾燥固形分を基準にして70〜95重量%、または全乾燥固形分を基準にして75〜90重量%の範囲内であってもよい。
【0032】
一実施形態によれば、繊維含量(繊維質内容物)は、ミクロフィブリル化セルロースのみによって形成される。
【0033】
ミクロフィブリル化セルロース(MFC)は、この特許出願の文脈において、100nm未満の少なくとも1つの寸法を有するナノスケールセルロース粒子繊維またはフィブリルを意味するものとする。MFCは、部分的または完全にフィブリル化されたセルロースまたはリグノセルロース繊維を含む。遊離されたフィブリルは、100nm未満の直径を有するが、実際のフィブリルの直径または粒度分布および/またはアスペクト比(長さ/幅)は、供給源および製造方法に依存する。最も小さいフィブリルは基本フィブリル(elementary fibril)と呼ばれ、約2〜4nmの直径を有する(例えば、Chinga−Carrasco,G.,セルロース繊維、ナノフィブリルおよびミクロフィブリル:植物生理学および繊維技術の点からのMFC成分の形態学的配列(Cellulose fibres,nanofibrils and microfibrils,:The morphological sequence of MFC components from a plant physiology and fibre technology point of view)、Nanoscale research letters 2011、6:417参照)一方、ミクロフィブリルとしても定義されている基本フィブリルの凝集形態(Fengel,D.,細胞壁多糖類の超構造的挙動(Ultrastructural behavior of cell wall polysaccharides)、Tappi J.,1970年3月,Vol.53,No.3参照)は、例えば拡張精製プロセスまたは圧力降下分解(disintegration)プロセスを使用することによって、MFCの製造時に得られる主な製品である。供給源および製造プロセスに応じて、フィブリルの長さは、約1〜10マイクロメートル超まで変動し得る。粗いMFCグレードは、主要な部分のフィブリル化繊維、すなわち気管(tracheid)からの突出フィブリル(セルロース繊維)、および気管から遊離されたある量のフィブリル(セルロース繊維)を含む場合がある。
【0034】
セルロースミクロフィブリル、フィブリル化セルロース、ナノフィブリル化セルロース、フィブリル凝集体、ナノスケールセルロースフィブリル、セルロースナノファイバー、セルロースナノフィブリル、セルロースミクロファイバー、セルロースフィブリル、ミクロフィブリル状セルロース、ミクロフィブリル凝集体およびセルロースミクロフィブリル凝集体のような様々なMFCの頭字語が存在する。MFCは、水中に分散されたときに、大きな表面積または低い固形分(1〜5重量%)でゲル状材料を形成する能力などの様々な物理的または物理化学的特性により特徴付けることもできる。セルロース繊維は、好ましくは、形成されたMFCの最終比表面積(BET法で凍結乾燥した材料について測定)が約1〜約200m/g、より好ましくは50〜200m/gである程度にフィブリル化される。
【0035】
MFCを製造するには、一回または複数回パス精製、予備加水分解の後に精製もしくは高せん断分解、またはフィブリルの遊離などの様々な方法が存在する。MFCの製造にエネルギー効率と持続可能性をもたらすためには、通常、1つまたは複数の前処理ステップが必要である。したがって、供給されるパルプのセルロース繊維は、例えば繊維を加水分解または膨潤させるか、またはヘミセルロースまたはリグニンの量を減少させるために、酵素的または化学的に前処理されてもよい。セルロース繊維は、フィブリル化前に化学的に変性されてもよく、セルロース分子は、元のセルロースに見られるもの以外の官能基(またはそれより多くの官能基)を含む。そのような基には、とりわけ、カルボキシメチル(CMC)、アルデヒドおよび/もしくはカルボキシル基(例えば「TEMPO」のようなN−オキシル媒介酸化により得られるセルロース)、または第四級アンモニウム(カチオン性セルロース)が含まれる。上記の方法の1つで変性または酸化された後、繊維をMFCまたはナノフィブリル状サイズまたはNFCに分解することがより容易である。
【0036】
ナノフィブリル状セルロースは、いくつかのヘミセルロースを含むことができる。その量は植物源に依存する。前処理された繊維、例えば、加水分解されたセルロース原料、前もって膨潤されたセルロース原料または酸化されたセルロース原料の物理的分解は、精製機、粉砕機、ホモジナイザー、コロイド化機、摩擦粉砕機、超音波ソニケーター、ミクロ流動化機、マクロ流動化機または流動化機型ホモジナイザー等の流動化機などの適切な装置を用いて実施する。MFC製造方法に応じて、生成物はまた、微粉、またはナノ結晶セルロース、または例えば木材繊維または抄紙プロセスに存在する他の化学物質を含む場合がある。生成物はまた、効率的にフィブリル化されていない様々な量のミクロンサイズの繊維粒子を含む場合がある。
MFCは、木材セルロース繊維、硬材または軟材繊維の両方から製造される。それはまた、微生物源、小麦ストローパルプ、竹、バガス、または他の非木材繊維源のような農業繊維から作ることができる。それは、好ましくは、未使用の繊維からのパルプを含むパルプ(例えば、機械的パルプ、化学的パルプおよび/または熱機械的パルプ)から製造される。それはまた、破損した紙や再生紙から形成され得る。
【0037】
上述のMFCの定義には、幅が5〜30nmであり、高いアスペクト比を有し、アスペクト比が通常50を超え、結晶性および非晶質領域の両方を有する複数の基本フィブリルを含むセルロースナノ繊維材料を規定する、セルロースナノフィブリル(CNF)について新たに提案されたTAPPI標準W13021が含まれるが、これに限定されない。
【0038】
一実施形態によれば、MFCは、90を超えるショッパーリーグラー値(SR°)を有していてよい。別の実施形態によれば、MFCは、93を超えるショッパーリーグラー値(SR°)を有していてよい。さらに別の実施形態によれば、MFCは、95を超えるショッパーリーグラー値(SR°)を有していてよい。ショッパーリーグラー値は、EN ISO 5267−1で定義されている標準的な方法で得ることができる。この高いSR値は、追加の化学物質の有無にかかわらず、再パルプ化湿潤ウェブについて測定され、したがって、繊維はフィルム中に固結しておらず、例えば角質化を始めていない。
【0039】
この種のウェブの乾燥固形分は、分解しSRを測定する前に50%(w/w)未満である。ショッパーリーグラー値を測定するには、湿潤ウェブのコンシステンシー(consistency)が比較的低いワイヤ部分の直後にサンプルを取ることが望ましい。当業者であれば、保持剤または脱水剤などの抄紙用化学物質がSR値に影響を及ぼすことを理解している。
【0040】
本明細書で特定されたSR値は、MFC材料自体の特性を反映する一つの指標として理解されるべきものであるが、これに限定されない。しかし、MFCのサンプリングポイントもSR値の測定に影響する場合がある。例えば、完成紙料は、分画または未分画(フラクション化されたもの又は未だフラクション化されていないもの)の懸濁液のいずれかであり得、これらは異なるSR値を有し得る。したがって、本明細書に示される特定のSR値は、粗フラクションと微細フラクションの混合物、または所望のSR値を提供するMFCグレードを含む単一フラクションのいずれかである。
【0041】
別の実施形態によれば、繊維含量(繊維質内容物)は、異なるタイプの繊維の混合物、例えば、ミクロフィブリル化セルロースと、短繊維、微細繊維、長繊維などの少量の他の種類の繊維との混合物によって形成される。少量は、懸濁液中の全繊維含量の約10%を意味し、すなわち繊維含量(繊維内容物)の主要部分はミクロフィブリル化セルロースである。
【0042】
繊維質懸濁液はまた、充填剤、顔料、保持剤、架橋剤、光学染料、蛍光増白剤、消泡剤などの他の添加剤を含んでもよい。
【0043】
両性ポリマーを繊維質懸濁液に添加または混合して混合物を形成する。両性ポリマーは、乾燥添加剤としてまたは懸濁液として添加することができる。
【0044】
一実施形態によれば、混合物中の両性ポリマーの量は、全乾燥固形分を基準にして0.1〜20kg両性ポリマー/メトリックトンの範囲内であってよい。別の実施形態によれば、混合物中の両性ポリマーの量は、全乾燥固形分を基準にして0.1〜10kg両性ポリマー/メトリックトンの範囲内であってもよい。
【0045】
両性ポリマーまたは高分子電解質は、両性多糖類であってもよい。
【0046】
一実施形態によれば、両性ポリマーはグアーガムであり、これはまた両性親水コロイドでもある。
【0047】
別の実施形態によれば、両性ポリマーは、スクレログルカン、アルギン酸塩、カラギーナン、ペクチン、キサンタン、ヘミセルロースおよび両性グルコマンナン(例えばガラクトグルコマンナン)などのような両性親水コロイドのいずれか1つのいずれかであってよい。親水コロイドのグレードは、工業的および高純度の両方であってよい。
【0048】
両性の特性は、天然由来であってもよいし、または、例えば多価金属塩もしくは高分子電解質を吸着することによる化学的変性で得ることができる。
【0049】
別の実施形態によれば、両性ポリマーは、ポリマーまたはデンプンであってよい。
【0050】
一実施形態によれば、懸濁液に添加されるグアーガムの量は、全乾燥固形分に基づいて0.1〜20kg/メトリックトンの範囲内である。一実施形態によれば、混合物中のグアーガムの量は、全乾燥固形分に基づいて0.1〜10kgグアーガム/メトリックトンの範囲内であり得る。
【0051】
次いで、ミクロフィブリル化セルロースおよび両性ポリマーの混合物を基材上に供給して、湿潤ウェブを形成する。
【0052】
基材は、抄紙機の多孔質ワイヤであってもよい。
【0053】
抄紙機は、紙、板紙、ティッシュまたは類似の製品の製造に使用される当業者に知られている任意の従来のタイプの機械であってもよい。
【0054】
一実施形態によれば、抄紙機の製造速度は、30〜1200m/分の範囲内であってよい。
【0055】
基材は、ウェブがその上に形成される紙または板紙基材であってよい。基材は、ポリマーまたは金属基材であってもよい。
【0056】
湿潤ウェブが基材上に置かれた後、湿潤ウェブは脱水されてフィルムを形成する。
【0057】
一実施形態によれば、脱水は、減圧、熱風、ホットカレンダーなどによって行うことができる。
【0058】
一実施形態によれば、湿潤ウェブは減圧によって脱水され、すなわち、ウェブが基材上に置かれたときに水および他の液体がウェブから吸引される。これは、両性グアーガムのような両性ポリマーがウェブ中に存在することによって促進され、それにより高い製造速度を可能にする。
【0059】
一実施形態によれば、フィルムの坪量は10〜40g/mの範囲内である。別の実施形態によれば、フィルムの坪量は、12〜35g/mの範囲内である。
【0060】
一実施形態によれば、フィルムの密度は700〜1600g/mの範囲内である。 別の一実施形態によれば、フィルムの密度は700〜1400g/mの範囲内である。さらに別の一実施形態によれば、フィルムの密度は700〜1200g/mの範囲内である。一実施形態によれば、フィルムの密度は800〜920g/mの範囲内である。
【0061】
フィルムの密度は、いくつかの要因によって変化し得る。それらの1つはフィラー含量である。フィラーの含量が10〜20%の範囲内である場合、フィルムの密度は、その範囲の高いほう、すなわち約1400〜1600kg/mであり得る。
【0062】
一実施形態によれば、30gsmの坪量および50%の相対湿度を有するフィルムの場合、そのフィルムは、ASTM D−3985標準に従って測定するとき30cc/m/24h未満、または10cc/m/24h未満、または5cc/m/24h未満の酸素透過率(OTR)を有していてよい。
【0063】
一実施形態によれば、ミクロフィブリル化セルロースおよび両性ポリマーを含むフィルムは、熱可塑性ポリマーに対してまたは熱可塑性ポリマーと共に積層されてもよい。熱可塑性ポリマーは、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ乳酸(PLA)のいずれであってもよい。ポリエチレンは、高密度ポリエチレン(HDPE)および低密度ポリエチレン(LDPE)のいずれであってもよく、またはそれらの様々な組み合わせであってもよい。熱可塑性ポリマーとして例えばPLAを使用することにより、生成物は生分解性材料から完全に形成され得る。
【0064】
フィルムまたはラミネートは、食品容器、紙シート、板紙、もしくは板(ボード)のような他の紙製品、またはバリアフィルムによって保護される必要がある他の構造物にも適用することができる。
【実施例】
【0065】
3つの異なる試験、すなわちカチオンポリマーの添加に関する2つの試験および本発明による両性ポリマーの添加による1つの試験を行った。
【0066】
試験1
全乾燥固形分を基準にして500g/トンの量のカチオン性ポリアクリルアミド(C−PAM)を、全繊維含量に基づいて100重量%のMFCを含む繊維質懸濁液に加えた。その後、繊維質ウェブを形成する多孔質ワイヤに懸濁液を導き、その後、脱水してフィルムを形成した。このフィルムの坪量は30gsmであった。
【0067】
カチオン性ポリマーを添加すると、繊維質ウェブがワイヤに粘着するため、形成されたウェブを乾燥させることができず、バリア特性を有するフィルムを製造することができなかった。
【0068】
試験2
全乾燥固形分を基準にして375g/トンの量のカチオン性ポリアクリルアミド(C−PAM)を、全繊維含量を基準にして100重量%のMFCを含む繊維質懸濁液に添加した。その後、繊維質ウェブを形成する多孔質ワイヤに懸濁液を導き、次いで、脱水してフィルムを形成した。このフィルムの坪量は30gsmであった。
【0069】
カチオン性ポリマーのこのより低い使用量では、繊維質ウェブはワイヤに粘着していなかった。しかし、懸濁液の保持は、脱水後に89.9%のレベルで非常に貧弱であった。また、フィルムのOTR値の形でバリア特性を測定することは、それは測定するには高すぎるので可能ではなかった。
【0070】
試験3
全乾燥固形分を基準にして1kg/トンの量のグアーガムを、全繊維含量を基準にして100重量%のMFCを含む繊維質懸濁液に添加した。その後、繊維質ウェブを形成する多孔質ワイヤに懸濁液を導き、次いで、脱水してフィルムを形成した。このフィルムの坪量は30gsmであった。
【0071】
グアーガムを含む繊維質ウェブはワイヤに粘着していないので、試験中の走行性は非常に良好であった。乾燥後のワイヤ上の懸濁液の保持もまた98.7%のレベルに改善され、形成されたフィルムは、ASTM D−3985に従って測定して8cc/m/24hのOTR値を有する非常に良好なバリア特性を示した。
【0072】
本発明の上記の詳細な説明を考慮して、当業者には他の改変および変形が明らかになるであろう。しかしながら、本発明の本質および範囲から逸脱することなく、そのような他の改変および変形を行うことができることは明らかなはずである。
本発明に包含され得る諸態様は、以下のとおりである。
[態様1]
繊維質ウェブからフィルムを製造する方法であって、
ミクロフィブリル化セルロースを含む繊維質懸濁液であって、前記懸濁液のミクロフィブリル化セルロースの含量が全乾燥固形分に対して60〜99.9重量%の範囲内である繊維質懸濁液を提供するステップ、
前記懸濁液に両性ポリマーを添加し、前記ミクロフィブリル化セルロースおよび前記両性ポリマーの混合物を提供するステップ、
基材に前記混合物を与えて繊維質ウェブを形成するステップであって、前記混合物における両性ポリマーの含量が全乾燥固形分に対して0.1〜20kg/メトリックトンの範囲内であるステップ、
前記繊維質ウェブを脱水し、40g/m未満の坪量を有し、かつ700〜1000kg/mの範囲内の密度を有するフィルムを形成するステップ
を含む、上記方法。
[態様2]
前記フィルムの製造が抄紙機によって行われ、そこで、前記基材が多孔質ワイヤであり、その上で前記混合物が繊維質ウェブを形成する、上記態様1に記載の方法。
[態様3]
前記抄紙機の製造速度が、20〜1200m/分の範囲内である、上記態様2に記載の方法。
[態様4]
前記基材が、紙、板紙、ポリマー、または金属基材である、上記態様1に記載の方法。
[態様5]
前記両性ポリマーが、両性多糖類および両性親水コロイドを含む群から選択される、上記態様1〜4のいずれか1項に記載の方法。
[態様6]
前記両性多糖類または両性親水コロイドが、両性グアーガムである、上記態様1〜5のいずれか1項に記載の方法。
[態様7]
前記ミクロフィブリル化セルロースおよび前記グアーガムを含む前記ウェブ中の前記グアーガムの含量が、全乾燥固形分に対して0.1〜20kg/メトリックトンの範囲内である、上記態様6に記載の方法。
[態様8]
両性ポリマーが両性タンパク質である、上記態様1〜5のいずれか1項に記載の方法。
[態様9]
両性ポリマーが両性デンプンである、上記態様1〜5のいずれか1項に記載の方法。
[態様10]
ミクロフィブリル化セルロースが、90SR゜超、または93SR゜超、または95SR゜超のショッパーリーグラー値(SR゜)を有する、上記態様1〜9のいずれか1項に記載の方法。
[態様11]
上記態様1〜10のいずれか1項に記載の方法によって得られた、ミクロフィブリル化セルロースおよび両性ポリマーを含むフィルムであって、40g/m未満の坪量および700〜1000kg/mの範囲内の密度を有するフィルム。
[態様12]
上記態様11に記載のフィルム、ならびに、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレートおよびポリ乳酸のいずれか1種のような熱可塑性ポリマーを含む、積層体。
[態様13]
前記ポリエチレンが、高密度ポリエチレンおよび低密度ポリエチレンのいずれか1種である、上記態様12に記載の積層体。
[態様14]
前記フィルムまたは前記積層体が、紙製品または板製品のいずれか1種の表面に適用された、上記態様11に記載のフィルムまたは上記態様12もしくは13に記載の積層体。