(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0007】
本明細書に記載される実施態様は一般に電気化学エネルギー生成及び貯蔵の分野のレドックス・フロー電池に関する。レドックス・フロー電池は二酸化炭素をベースとするレドックス対を含む陰極、陽極、及び陰極と陽極の間にあるイオン伝導セパレーターを含む。陰極はまた電池充電(即ち、エネルギー貯蔵)サイクル中の炭素質種(例えば、ギ酸、シュウ酸又はそれらの塩)への二酸化炭素の還元、及び同装置中の電池放電(即ち、エネルギー生成)サイクル中の上記炭素質種の酸化を可能にする二機能性触媒を含む。陽極は陽極平衡電位マイナス陰極平衡電位と定義される、平衡電池セル電圧が、正の値であるように選ばれる種々のレドックス対を利用し得る。陽極の幾つかの例として、臭素−臭化物、塩素−塩化物、バナジウム (V)−バナジウム(IV)、二クロム酸塩 (VII)−クロム (III)、セリウム (IV) −セリウム (III)、酸素−水(又は水酸化物)が挙げられる。イオン伝導セパレーターは陰極にある反応体(“陰極反応体”)を陽極にある反応体(“陽極反応体”)から物理的に分離し、イオンを陽極と陰極の間で伝導するのに利用することができ、イオン伝導セパレーターは或る実施態様では陽イオン伝導セパレーター、例えば、プロトン交換膜、又はプロトン伝導セラミック膜及びその他の実施態様では陰イオン伝導セパレーター、例えば、陰イオン交換膜であってもよく、又は細孔中に液体アルカリ性電解質もしくは液体酸性電解質を含む多孔性材料であってもよい。
レドックス・フロー電池の陰極で、二酸化炭素及びその炭素質誘導体(例えば、ギ酸又はギ酸塩、シュウ酸又はシュウ酸塩、一酸化炭素)を含む反応体が電気化学触媒酸化還元反応に使用される。レドックス・フロー電池充電サイクル(即ち、エネルギー貯蔵)はカソードとして運転し、炭素質種を生成する陰極で二酸化炭素の電気化学還元を伴なう。電池放電サイクル(即ち、エネルギー生成)中に、炭素質種が同一の陰極表面で酸化され、これが今電池アノードとして運転し、二酸化炭素を生成する。或る実施態様において、陰極が当業者に知られている高表面積多孔性電極、例えば、ガス拡散電極、触媒被覆膜、及びトリクルベッド電極のカテゴリーから選ばれる。或る実施態様において、二酸化炭素が連続ガス流又は2相ガス−液体電解質流の分散液(以下、“二酸化炭素含有反応体流”と称される)として陰極に送出される。
【0008】
レドックス・フロー電池は或るクリーンエネルギー技術、特に間欠的エネルギー生成サイクル(ピーク対オフピーク)を有するこれらの技術の大規模採用の挑戦に取り組むことを助け得る有効なエネルギー貯蔵装置を提供すると予想される。従来技術のレドックス・フロー電池と違って、本実施態様のレドックス・フロー電池は陰極で二酸化炭素及びその炭素質誘導体を反応体として利用する。また従来技術で教示されていないように、本実施態様のレドックス・フロー電池は同装置中の同一の電極表面で二酸化炭素及びその炭素質誘導体を伴なう可逆的酸化還元反応を利用し、これは充電モード及び放電モードのそれぞれのレドックス・フロー電池の運転に必須の特徴である。
一酸化炭素、炭化水素(例えば、メタン、エタン、エチレン)、アルコール(例えば、メタノール)、並びに有機酸及びそれらの塩(例えば、ギ酸及びギ酸塩、シュウ酸及びシュウ酸塩)を含む、種々の炭素質誘導体が二酸化炭素の電気化学的還元により生成し得る。生成される炭素質誘導体は主として利用されるカソード触媒及びその他の条件、例えば、電極電位、温度、圧力及び電解質組成の関数である。例えば、インジウム、スズ、鉛、カドミウム及び窒素ドーピングされたカーボンナノチューブによる二酸化炭素の還元を用いる実験は、pH条件に応じてギ酸塩又はギ酸を生成することがわかり、銀、金及び亜鉛材料を使用する実験は一酸化炭素を生成することがわかり、また銅を使用する実験は主として炭化水素を生成するとわかった。従って、レドックス・フロー電池の異なる実施態様は異なる触媒材料を使用してギ酸、シュウ酸、一酸化炭素及び炭化水素を含む、二酸化炭素の異なる炭素質誘導体を生成し得る。
【0009】
今、
図1(a)及び(b)を参照して、第一の実施態様によれば、CO
2 −ギ酸レドックス・フロー電池10がCO
2-ギ酸レドックス対及びCO
2-ギ酸二機能性触媒層を備えた陰極12、臭化物−臭素二機能性触媒層を有する陽極14、及びプロトンを伝導する陰極12と陽極14の間にあるイオン伝導セパレーター16(本明細書中“プロトン伝導セパレーター”16と称される)を含む。
図2(a)及び(b) を参照して、第二の実施態様によれば、CO
2-ギ酸塩レドックス・フロー電池10が提供され、これはCO
2 −ギ酸塩レドックス対及びCO
2-ギ酸塩(ギ酸ナトリウム又はギ酸カリウム)二機能性触媒層を含む陰極12、陽イオン伝導セパレーター16及び臭化物−臭素二機能性触媒層を含む陽極14を有する。
図3を参照して、陰極12が電流コレクター/フィーダー支持体18(その上に二機能性触媒層が取り付けられている)を含む。第一の実施態様及び第二の実施態様の両方における二機能性触層はCO
2 還元触媒部位20、ギ酸(又はギ酸塩)酸化触媒部位22、イオノマー24、及び疎水性薬剤26(全てが触媒担体28に適用されている)を含む。CO
2 還元触媒部位20及びギ酸(又はギ酸塩)酸化触媒部位22は、触媒デザインに応じて、同じばら材料の一部であってもよく、又はそうでなくてもよい。陰極12は当業者に知られている高表面積多孔性電極、例えば、ガス拡散電極、触媒被覆膜、トリクルベッド電極又は金属有機フレームワーク (MOF)をベースとする電極の群から選ばれた型のものであってもよい。陰極12構造は二機能性電気触媒活性を与え、それにより同電極上の二酸化炭素の有効な還元及びギ酸(又はギ酸塩)の酸化を促進する。CO
2 還元触媒部位20は二酸化炭素還元について最も活性であり、またギ酸(又はギ酸塩)酸化触媒部位22はギ酸(又はギ酸陰イオン)酸化について最も活性である。還元触媒部位20及び酸化触媒部位22における二機能性触媒は同じ材料の異なる結晶学的様相、形態学上異なる部位(例えば、端部部位対テラス)、並びに金属及び/又は酸化物の2成分、3成分又は4成分の組み合わせであってもよい。二機能性活性を有する触媒の例として、パラジウム、パラジウム合金、オスミウム、オスミウム合金、パラジウム−スズ、パラジウム−スズ−インジウム、パラジウム−鉛−スズ、パラジウム−鉛−スズ−インジウム、パラジウム−スズ−オスミウム、パラジウム−オスミウムが挙げられるが、これらに限定されない。当業者に知られている二機能性活性を有するその他の触媒がまた使用し得る。
【0010】
電流コレクター/フィーダー支持体18は電池が放電又は充電されるのかにそれぞれ応じて、電流コレクター又はフィーダーとしてまた作用する高表面積支持体、例えば、種々のカーボンの布、フェルト及び繊維材料、有機ポリマーネットワーク、金属メッシュ(例えば、ニッケル、鋼、銅、チタン)及び金属有機フレームワークを含み得る。イオノマー24は電気化学反応を持続するのに必要なイオン伝導ネットワークを与え、プロトン又は水酸化物イオン伝導性ポリマーもしくはイオン伝導性セラミック材料又は液体電解質を含み得る。必要により、陰極触媒層はまた疎水性薬剤26(例えば、
図3に示される、ポリテトラフルオロエチレン)を含んでもよい。触媒担体28はカーボン粒子、カーボンナノチューブ、グラファイト、金属酸化物(例えば、酸化イリジウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン)、及び/又は金属粒子(例えば、ニッケル、白金、金)及び/又は上記の全部又は一部の組み合わせを含み得る。全てのこれらの成分間の相互作用効果がレドックス・フロー電池の性能及びその運転エネルギー効率に有意な影響を有し得る。例えば、当業者は触媒担体が種々の効果、例えば、電気相互作用効果及び主要中間体の表面拡散効果のために電気触媒特性に強い影響を有し得ることを認めるであろう。
第一の実施態様に戻って参照して、プロトン伝導セパレーター16はプロトン交換膜、例えば、固体ポリマー電解質膜又はプロトン伝導セラミック膜を含む。プロトン伝導セパレーター16として適しているプロトン伝導膜は典型的には膜の型及びそのイオン伝導度に殆ど応じて、約140 ℃までの最高運転温度を有する。プロトン伝導セパレーター16としての使用に適したプロトン伝導セラミック膜は600 〜700 ℃程度に高い最高運転温度を有し得る。一層高い運転温度の一つの利点は電極プロセスの速度論が極めて速く、それ故、電極の速度論関連の損失が低減されることである。これは充電モード(即ち、二酸化炭素還元)又は放電モード(即ち、ギ酸酸化)における緩慢な速度を問題とし得る二酸化炭素陰極に有利であり得る。電極速度論的損失の軽減はレドックス・フロー電池10の充放電効率を増大する一つの方法である。
【0011】
陽極14は二機能性(即ち、臭化物酸化及び臭素還元)触媒層と相互作用する臭化物−臭素レドックス対を与える。この触媒層は高表面積カーボン(例えば、グラファイトフェルト、カーボン紙)であってもよく、それはまた触媒としての金属、例えば、白金、パラジウム、金を含み得る。
このレドックス・フロー電池10は
図1(a)に示されるような電池充電モード及び
図1(b)に示されるような電池放電モードで運転し得る。電池充電モードでは、二酸化炭素含有ガス流(“還元反応供給流”)がCO
2 源(示されていない)から陰極12に供給され、この場合、それが第一の実施態様(
図1(a))において酸性pH条件下でギ酸に還元される。酸性pH条件は液体酸電解質を使用することにより、かつ/又は酸性イオノマー(例えば、ナフィロン(登録商標))を陽極触媒層に混入することにより達成し得る。次いでギ酸がギ酸貯蔵部位(示されていない)に流される(“還元反応生成物流”)。電池放電モード(即ち、エネルギー生成)では、ギ酸含有流からのギ酸がギ酸貯蔵部位から陰極 12に供給され(“酸化反応供給流”)、陰極12で酸化されてCO
2 流を生成する。次いでCO
2 流(“酸化反応生成物流“)がCO
2 貯蔵部位に流される。CO
2 は、例えば、圧縮CO
2 として貯蔵でき、又は多様な高表面積吸着剤、例えば、ゼオライト、金属−有機フレームワークに吸着でき、こうしてそれが電池充電モードで再使用し得る。こうして、CO
2 をベースとするレドックス対が還元段階と酸化段階の間で往復させられる。
図1(a)に示される電池充電モードを参照して、アルカリ金属/アルカリ土類金属−臭化物塩(例えば、NaBr、KBr) 又は臭化水素酸 (HBr)を含む流れ(“酸化反応供給流”)が貯蔵部位(示されていない)から陽極14に供給され、その中に含まれる臭化物陰イオンが陽極14で酸化されて臭素流を生成する。次いで臭素流(“酸化反応生成物流”)が臭素貯蔵部位(示されていない)に流される。
図1(b)に示されるような電池放電モード(即ち、エネルギー生成)を参照して、臭素含有流(“還元反応供給流”)が臭素貯蔵部位から陽極14に供給され、その中に含まれる臭素が陽極14で還元されてアルカリ金属/アルカリ土類金属−臭化物塩含有流(“還元反応生成物流”)中の臭化物陰イオンを生成する。こうして、陽極14で、臭化物−臭素レドックス対が酸化段階と還元段階の間で往復させられる。臭素は当業界で知られているような様式で、臭化物と錯塩(Br
3-) を生成して溶液中に都合良く維持し得る。
レドックス・フロー電池10の第一の実施態様と関連する酸性条件下の電気化学反応並びに298 K におけるそれぞれの標準電極電位及びセル電位は以下のとおりである。
【0012】
(-) CO
2 + 2e
- + 2H
+ ⇔ HCOOH E
o298K,(-) = -0.20 V
SHE
(+) Br
2 + 2e
- ⇔ 2Br
- E
o298K,(+) = 1.09 V
SHE
セル: Br
2 + HCOOH ⇔ CO
2 + 2H
+ + 2Br
- ΔE
o298K = E
o298K, (+) - E
o298K,(-) = 1.29 V
先の式により記載された二酸化炭素/ギ酸−臭化物/臭素レドックス・フロー電池の理論的比エネルギー密度は、298Kで反応体(臭素及びギ酸)1kg当り547 Whである。平衡(又は可逆的)セル電位はネルンスト式に従ってHCOOH 、H
+ 、Br
- 及びBr
2 の濃度、CO
2 の分圧及び温度により求められる。平衡電位の実用的妥当性はそれが電池の開路セル電圧に近似することである。それ故、エネルギー生成(即ち、電池放電)中に、実際の(運転)セル電圧は常に開路電圧より低く、一方、電池エネルギー貯蔵(即ち、電池充電)中に絶対値で運転セル電圧は常に開路セル電圧より高いであろう。
レドックス・フロー電池10の充放電運転エネルギー効率は充電に消費される電気エネルギー(又は電力)により割られた放電中に生成される電気エネルギー(又は電力)と定義される。充放電エネルギー効率は陰極及び陽極の電荷移動及び物質移動過電位並びに電池における抵抗電圧降下を含む多くの因子に依存する。
セル反応が可逆性に近い程、充放電効率が高い。これは二機能性陰極触媒(例えば、二酸化炭素還元及びギ酸(又はギ酸陰イオン)酸化)により殆ど決められる。何とならば、充電工程又は放電工程のいずれかにおける、陰極の電気化学反応の速度が、陽極の速度論(例えば、Br
2/Br
- レドックス対について)よりもかなり緩慢であるからである。加えて、その他の変数、例えば、温度、圧力、流体力学、電流密度分布及びセルデザインの工学的最適化が電池充放電エネルギー効率に有意な効果を有し得る。
【0013】
第二の実施態様のレドックス・フロー電池10は第一の実施態様と同様の様式で運転する。主たる相違は、
図2(a)に示されるような電池充電モードで、二酸化炭素含有ガス流が陰極12に供給され、アルカリ性pH条件下でギ酸陰イオンに還元されることである。アルカリ性pH条件は液体アルカリ性電解質、例えば、重炭酸塩溶液及び炭酸塩溶液、水酸化物溶液により、かつ/又は陰極触媒層に混入された陰イオンのイオノマーにより確実にし得る。
図2(b)により示されるような電池放電モード(即ち、エネルギー生成)では、ギ酸陰イオンが陰極12で二酸化炭素に酸化される。
両方の実施態様において、電池に供給される二酸化炭素含有流はセメント及び鋼製造、化石燃料電力プラント、アンモニアプラント等を含む種々の工業源から得られる。二酸化炭素含有流は単相ガス流又は二相液体−ガス流(例えば、酸電解質溶液/ガス又はアルカリ性電解質溶液/ガス)のいずれかとしてレドックス・フロー電池10に供給し得る。単相又は二相供給原料の選択はまた電池の陰極デザインに依存する。例えば、触媒被覆膜又はガス拡散電極が使用される場合には、単相ガスCO
2 流が可能である。しかしながら、トリクルベッド陰極が使用される場合には、液体電解質及びCO
2 ガス相を含む二相供給原料モードが必要になる。二酸化炭素含有流は、その流れ中に存在するその他の化学成分が陰極の触媒活性を経時失活し、又は電池のその他の成分を汚染する場合に、レドックス・フロー電池への供給の前に精製し得る。電池充電のためのエネルギーは通常及び代替のクリーンエネルギー(例えば、ソーラー、風力、地熱、バイオガス)源を含む種々の源から供給し得る。こうして、実際には、生成されたギ酸(又はギ酸塩)が負荷レベリングのためのエネルギー貯蔵媒体(例えば、間欠的生成によるソーラーもしくは風力又はその他の代替エネルギー源のオフピーク貯蔵のための)として使用し得る。こうして、レドックス・フロー電池はカーボン中性エネルギー貯蔵及び生成ユニットとして機能する潜在性を有する。
第三の実施態様によれば、
図4(a)及び(b) を参照して、レドックス・フロー電池10が既に記載された二酸化炭素−ギ酸陰極及びバナジウム(IV)/(V)陽極を含む。この場合の298 K における標準セル電位は1.2 V である。電極及び全レドックス・フロー電池10における反応は以下のとおりである。
【0014】
(-) CO
2 + 2e
-+ 2H
+ ⇔HCOO E
o298K,(-) = -0.20 V
SHE
(+) VO
2+ + 2H
+ + e
-⇔VO
2+ + H
2O E
o298K,(+) = 1.0 V
SHE
セル: 2VO
2+ + 2H
+ + HCOOH ⇔CO
2 + 2VO
2+ + 2H
2O
ΔE
o298K = E
o298K, (+) - E
o298K,(-) = 1.20 V
レドックス・フロー電池10のその他の実施態様はCO
2-ギ酸及びCO
2-ギ酸塩以外の異なるレドックス対を利用することができ、例えば、陰極12がCO
2-シュウ酸レドックス対を含むことができる。以下に、二酸化炭素−シュウ酸レドックス対陰極12及び臭素−臭化物陽極14を備えたレドックス・フロー電池10の電極反応が提示される。
(-) 2CO
2 + 2e
-+ 2H
+⇔H
2C
2O
4 E
o298K,(-) = -0.48 V
SHE
(+) Br
2 + 2e
-⇔2Br
- E
o298K,(+) = 1.09 V
SHE
セル: Br
2 + H
2C
2O
4⇔CO
2 + 2H
+ + 2Br
- ΔE
o298K = E
o298K, (+) - E
o298K,(-) = 1.57 V
レドックス・フロー電池10のその他の実施態様において、その他のレドックス対、例えば、1.56 Vのセル標準電位を有する塩素−塩化物、ヨウ素−ヨウ化物、1.56 Vのセル標準電位を有する二クロム酸塩−クロム(III) 、1.9 V の標準セル電位を有するセリウム(IV)−セリウム (III) 又は1.49 Vの標準セル電位を有する二機能性酸素電極(酸素還元−酸素発生)が陽極での反応体として使用し得る。
別の実施態様(“第四の実施態様”)によれば、
図5(a)及び(b) を参照して、レドックス・フロー電池10(また、“再充電可能な燃料セル”と称される)が二機能性酸素電極14を陽極として含み、酸性又はアルカリ性媒体中で運転し得る。第一の実施態様及び第二の実施態様で使用される二酸化炭素−ギ酸(又はギ酸塩)レドックス対に代えて、レドックス・フロー電池の第四の実施態様は二機能性触媒物質の選択に応じて二酸化炭素−シュウ酸レドックス対又は二酸化炭素−シュウ酸塩レドックス対を備えている陰極12を含む。酸媒体中で、シュウ酸が生成され、一方、アルカリ性媒体中でシュウ酸塩が生成される。シュウ酸塩はシュウ酸リチウム、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸カリウム、及びシュウ酸セシウムのいずれか一種であってもよい。陰イオン交換膜16が陰極12及び陽極14を分離し、陰極12から陽極14へのギ酸塩クロスオーバーを最小にするのに使用されてもよい。
図5(a)、(b) は二機能性酸素電極14によりアルカリ性条件下で運転されるレドックス・フロー電池10を示し、この場合、水が
図5(a)に示されるようなエネルギー貯蔵モードで酸素に酸化され、酸素(例えば、空気流中)が
図5(b)に示されるようなエネルギー生成モードで水酸化物に還元される。二機能性酸素電極は文献に提示され、また当業者に知られている多種の材料、例えば、白金、銀、ニッケル、二酸化マンガン、ペロブスカイト、酸化イリジウム、酸化ルテニウム、有機金属化合物等から選ばれる。
先に注目されたように、レドックス・フロー電池10の実施態様は間欠的電力生成源を含む電気グリッドで負荷レベリングを与えるのに使用し得る。レドックス・フロー電池10のその他の適用がまた利用し得る。例えば、レドックス・フロー電池10は火星空間ミッションでエネルギー貯蔵及び生成に使用し得る。火星大気は約95体積%の二酸化炭素を含む。それ故、レドックス・フロー電池10は火星からの二酸化炭素を利用し、太陽エネルギーを電池充電サイクルに使用してエネルギー貯蔵及び生成に使用し得る。
【実施例】
【0015】
1.支持体上の機械的付着によるCO
2 レドックス・フロー電池用の陰極として作用するPd-Sn 二機能性触媒層の調製
カーボン支持Pdナノ粒子 (即ち、Pd/C) 、カーボン支持Snナノ粒子 (即ち、Sn/C) 、イオノマー (例えば、ナフィオン(登録商標)、デュポン社) 、イソプロパノール、水及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含む触媒層前駆体インクを室温での混合及び音波処理により調製する。ナフィオン(登録商標)及びPTFEをそれぞれ低級アルコール中の5質量%の溶液及び30質量%の水性懸濁液として用意する。インク配合物中のイソプロパノールの役割はインク懸濁液中の成分の均一な分散を確実にすることである。PTFEの添加は部分的疎水性を触媒層に付与し、これは触媒表面での有効なCO
2 ガス吸着に必要である。触媒層中のナフィオン(登録商標)は液体電解質が電池陰極中に使用されない場合にCO
2 還元反応及びギ酸酸化反応の両方を可能にするのに必要なイオン伝導ネットワークを供給するバインダー及び固体ポリマー電解質の両方として作用する。
次に、インク懸濁液を特別な機械的方法、例えば、噴霧もしくは塗布又は転写により支持体に適用する。触媒付着のための支持体の選択は多様であり、それはプロトン交換ポリマー膜 (例えば、デュポン製のナフィオン(登録商標)117)、プロトン伝導セラミック膜、陰イオン交換膜、炭素繊維紙 (テフロン(登録商標)加工有り、又はなし) 、グラファイトフェルト、金属メッシュ (例えば、Ni、Ti、Cu等)を含み得る。触媒接着を増進するために、支持体がインク噴霧の前に前処理工程を受け得る。前処理は当業者に公知の化学的かつ/又は電気化学的洗浄工程を含み得る。前処理の例は90℃で1時間にわたっての1 M 硝酸中のグラファイトフェルトの洗浄を伴なう。インク適用後に、その上に付着された触媒インクを有する支持体を熱処理により硬化して触媒の付着を増進する。支持体が膜(ポリマー又はセラミック)である場合には、得られる触媒層構成を触媒被覆膜と称する。触媒層の最終の組成は調製方法の関数として変化し得る。触媒被覆ポリマー膜に典型的な組成は以下のとおりであり得る:15質量%のイオノマー(例えば、ナフィオン)、15質量%のPTFE、並びに合計70質量%のPd/C及びSn/C。触媒層の組成は先に示された数に何ら限定されないことが理解される。
【0016】
2.陰極としてのPd-Sn 触媒被覆ポリマー膜及びBr
2/Br
- 陽極を備えたCO
2 レドックス・フロー再充電可能な電池の組立及び運転
電池の完全ガス拡散陰極を構築するために、実施例1に記載されたように付着されたPd-Sn 触媒層(CL)で一面で被覆されたプロトン交換ポリマー膜 (例えば、ナフィオン(登録商標)117 又はゴア・プリメアシリーズ5510) を、テフロン(登録商標)加工炭素繊維ガス拡散層 (GDL)と接触させる。多くの型のGDL が当業者に利用できる。この実施例において、カーボン粒子、例えば、シグラセット25BCを含む微孔性層 (MPL)で一面で被覆されているシグラセット25BCが記載される。GDL のテフロン(登録商標)加工及びMPL の存在が反応部位へのCO
2 ガス物質移動を改良するのに必要である。MPL はそれぞれ、Pd-Sn 触媒とガス拡散層の間にはさまれる。
陽極につき、同プロトン交換膜の未被覆面を前処理されたグラファイトフェルトと接触させる。前処理工程の役割は臭化物電極との一層良好な接触及び相互作用のためにグラファイト繊維を親水性にすることである。適用し得る前処理工程は1時間にわたっての1 M NaOH 中のグラファイトフェルトの沸騰、続いて洗浄溶液のpHが中性になるまでの反復洗浄続いて乾燥を伴なう。単一セル電池を構築するために、プロトン交換膜を間にはさむ陰極及び陽極を二つのガスケット付き電流コレクターエンドプレートの間で圧縮する。典型的なセル圧縮圧力は15psi (1.1 kg/cm
2)〜120psi(8.4 kg/cm
2)である。異なる電流コレクターエンドプレートデザインが当業者に知られており、この適用のために選ばれる。エンドプレートの構築の典型的な材料はステンレス鋼である。
【0017】
一旦組み立てられると、単一セルレドックス電池をそれぞれ圧力及び温度コントローラー、電解質供給のためのポンプ、CO
2 ガスのためのタンク及びコンプレッサー及び保湿器、ギ酸 (又はギ酸塩溶液) 貯蔵及び臭素/臭化物溶液貯蔵のためのガス/液体凝縮機及びタンクを含む全プロセス流セットアップに挿入し、連結する。充電のために、電池をクリーンエネルギー源、例えば、ソーラー、風力源、地熱源、潮力源等と連結し得る。しかしながら、実験研究のために厳密には、電池をプログラミングされた充電放電サイクルのためのコンピュータ制御ポテンシオスタットに連結する。初期の電池充電のために、4 M NaBr溶液を使用して陽極に供給し、一方、CO
2 流を陰極に供給する。充電中に、臭化物溶液を連続的に循環し、Br
2 濃度をその中で連続的に増大する。Br
2 の殆どを臭化物溶液に溶解し、多臭化物を生成し、こうしてBr
2 ガスの漏出を実際に排除する。陰極で、生成されたギ酸が貯蔵タンク中で連続的に蓄積され、一方、消費されないCO
2 がギ酸流から分離され、電池中で循環されて新しいCO
2 供給原料に加わる。
電池放電中に、反応が反転される。Br
2-含有溶液が陽極にポンプ輸送され、一方、ギ酸溶液が陰極にポンプ輸送される。電気エネルギーがギ酸の酸化及びBr
2 の還元により生成される。再度、閉じた電解質循環ループが陽極で行なわれ、一方、今、臭化物の濃度が減少するBr
2 濃度を犠牲にして次第に増大している。陰極で、ギ酸がCO
2 を生成して消費され、これがまた電池中で集められ、貯蔵され、循環される。
【0018】
3.グラファイトフェルト上のPd-Sn 二機能性触媒の無電界付着及び2相CO
2 ガス/液体流によるレドックス・フロー電池運転
Pd-Sn 触媒を種々の支持体、例えば、膜(ポリマー又はセラミック)、炭素繊維紙、グラファイトフェルト、金属メッシュ上の無電界付着により調製する。例えば、グラファイトフェルト支持体について考慮のこと。最初にグラファイトフェルトを60℃で15分間にわたって5質量%のHNO
3中で前処理する。その後に、グラファイトフェルトを70℃の温度で15分間にわたって4 M HClに溶解された0.1 M PdCl
2 及び0.4 M SnCl
2溶液中で浸漬する。次の工程は支持体を70℃で30分間にわたって2 M シュウ酸、1 M HCl 及び2x10
-3 Mチオ尿素を含む還元剤溶液中に浸漬することである。最後の二つの工程、即ち、PdCl
2-SnCl
2 溶液中の浸漬続いて還元剤溶液中の浸漬をそれぞれ0.5 〜20 mg cm
-2の範囲のグラファイトフェルト上のPd及びSn配合量の望ましいレベルに達するように数回連続して繰り返す。付着後の洗浄及びクリーニング後に、無電界付着により製造されたPd-Sn 付着グラファイトフェルトをプロトン(又は陽イオン)交換膜及びBr
2/Br
- レドックス対のための陽極として作用する別のグラファイトフェルトと一緒に電池中に組み立てる。電池運転のためのセットアップは、この場合に陰極に水性の酸性又はアルカリ性電解質中に分散されたCO
2 ガスの2相の流れを供給する以外は、実施例2に記載されたものと同様である。2相のガス/液体分散液は多孔性グラファイトフェルト陰極中を流れるので、それはフロー−スルー電極構成と称される。液体の電解質の例として、硫酸溶液、メタンスルホン酸溶液、イオン性液体、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム溶液、炭酸ナトリウム又は炭酸カリウム溶液が挙げられるが、これらに限定されない。
【0019】
4.電池陰極調製のためのPd-Sn 二機能性触媒の電着
Pd-Sn 触媒層を多様な導電性支持体の上に電着することができる。ここで、一面に付着された微孔質層を有する部分テフロン(登録商標)加工炭素繊維支持体、SGL グループにより製造されたシグラセットGDL 25BC を使用してその方法を例示する。最初にGDL 支持体を60℃で5分間にわたって5質量%のHNO
3 中で洗浄する。次にそれを30℃で48時間にわたって6x10
-3 M PdCl
2、0.3 M SnCl
2及び4 M HClを含むシプレイ型溶液中で前処理する。この前処理の役割は電着方法のための核形成部位を与えることである。次の段階は25容量%のトリトンX102ノニオン表面活性剤と0.01 M PdCl
2及び0.01 M SnCl
2 を含む75容量%の水相とを含む溶液を使用するシグラセットGDL 上の電着である。GDL を多孔白金化チタン対電極と面する、一面を有する電着セルに入れ、その一面はその上にMPL 被覆物を有する。典型的な付着温度は120分間にわたって20 A m
-2 の電流密度で、60℃である。シグラセットGDL 上のPd及びSnの目標配合量はいずれの場所でも0.5 to 20 mg cm
-2 である。電着媒体中の表面活性剤の存在はGDL の湿潤及びPd-Sn 触媒の改良された分散を与える。全てのこれらは高活性電池触媒を生成するのに有益である。電着工程が完結された後に、GDL を充分に洗浄し、クリーニングして痕跡量の表面活性剤を電極から除去する。クリーニング工程後に、電着されたGDL は実施例2及び3に記載された条件と同様の電池セットアップに直ぐに使用される。
本発明が幾つかの実施態様の記載により説明され、例示の実施態様が詳しく記載されたが、特許請求の範囲をこのような詳細に限定し、又は何らかに制限することは本件出願人の意図ではない。付加的な利点及び特許請求の範囲内の変更は当業者に直ぐに明らかであろう。それ故、本発明は特別な詳細、代表的な装置及び方法、並びに示され、記載された例示の実施例に限定されないが、その代わりに特許請求の範囲により特定される。