特許第6869254号(P6869254)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6869254
(24)【登録日】2021年4月15日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】代替バインダーを含む超硬合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 29/08 20060101AFI20210426BHJP
   C22C 1/05 20060101ALI20210426BHJP
   C22C 1/04 20060101ALI20210426BHJP
   B22F 7/00 20060101ALI20210426BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   C22C29/08
   C22C1/05 G
   C22C1/04 B
   C22C1/04 D
   C22C1/04 E
   B22F7/00 G
   B22F3/24 102A
【請求項の数】12
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-545170(P2018-545170)
(86)(22)【出願日】2017年2月28日
(65)【公表番号】特表2019-516007(P2019-516007A)
(43)【公表日】2019年6月13日
(86)【国際出願番号】EP2017054552
(87)【国際公開番号】WO2017148885
(87)【国際公開日】20170908
【審査請求日】2020年1月8日
(31)【優先権主張番号】16157830.7
(32)【優先日】2016年2月29日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507226695
【氏名又は名称】サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ノルグレン, スサン
(72)【発明者】
【氏名】ホルムストレーム, エーリク
(72)【発明者】
【氏名】リンデル, ダーヴィド
【審査官】 中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−328529(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102796933(CN,A)
【文献】 特開2009−074173(JP,A)
【文献】 特表2015−503034(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0063930(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/04
C22C 1/05
C22C 29/00−29/18
B22F 1/00− 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
WCとガンマ相とバインダー相とを含む超硬合金基材を含む切削工具であって、前記基材には、ガンマ相が枯渇したバインダー相富化表面ゾーンが設けられており、前記基材の微細構造中にはグラファイト及びイータ相が存在せず、前記バインダー相が高エントロピー合金であり、高エントロピー合金がCo、Cr、Cu、W、Fe、Ni、Mo及びMnから選択される4以上の元素を含み、各元素の量が高エントロピー合金の総量の5から35at%である、超硬合金基材を含む切削工具。
【請求項2】
前記高エントロピー合金中の前記元素の少なくとも一つが、Cr、Fe、Ni及びCoから選択される、請求項に記載の超硬合金基材を含む切削工具。
【請求項3】
前記高エントロピー合金中の前記元素の少なくとも二つが、Cr、Fe、Ni及びCoから選択される、請求項1又は2に記載の超硬合金基材を含む切削工具。
【請求項4】
前記高エントロピー合金がCo、Cr、Fe及びNiを含む、請求項1からのいずれか一項に記載の超硬合金基材を含む切削工具。
【請求項5】
前記高エントロピー合金がCo、Cu、Cr、Fe及びNiを含む、請求項1からのいずれか一項に記載の超硬合金基材を含む切削工具。
【請求項6】
前記表面ゾーンの厚さが2から100μmである、請求項1からのいずれか一項に記載の超硬合金基材を含む切削工具。
【請求項7】
前記ガンマ相が、(W,M)C及び/又は(W,M)(C,N)を含み、ここでMはTi、Ta、Nb、Hf、Zr及びVの一又は複数である、請求項1からのいずれか一項に記載の超硬合金基材を含む切削工具。
【請求項8】
ガンマ相の量が3から25vol%である、請求項1からのいずれか一項に記載の超硬合金基材を含む切削工具。
【請求項9】
前記基材にはコーティングが施される、請求項1からのいずれか一項に記載の超硬合金基材を含む切削工具。
【請求項10】
超硬合金基材を含む請求項1から9のいずれか一項に記載の切削工具の作製方法であって、
−WCと、少なくとも一つの立方晶炭化物と、Ta、Ti、Nb、Cr、Hf、V及びZrの少なくとも一つの窒化物又は炭窒化物を含む硬質の構成成分を形成する粉末を提供する工程、
−高エントロピー合金のバインダー相を形成する粉末を提供する工程、
−ミリング液を提供する工程、
−前記粉末を超硬合金基材へと粉砕、乾燥、加圧成形及び焼結する工程
を含む切削工具作製方法。
【請求項11】
前記超硬合金基材中の炭素含有量を調節するためにカーボンブラック、W又はWCのいずれかを加える、請求項10に記載の切削工具作製方法。
【請求項12】
前記超硬合金基材上に耐摩耗コーティングを堆積させる、請求項10又は11に記載の切削工具作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バインダー相が高エントロピー合金である超硬合金基材を含む切削工具と,そのような切削工具の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コバルトバインダーを含むWCに基づく超硬合金は、40年代から既知である。超硬合金中のバインダー金属として知られる他の金属には鉄及びニッケルがあるが、コバルトが最も多く使用されている。
【0003】
コバルトが環境及び健康に与える影響のために、その代替物を見つけようとする試みが行われている。しかしながら、物質の特性に悪影響を与えずにコバルトを置き換える又はコバルトの量を制限することは容易でない。切削工具の場合、基材特性は工具の全体的な性能にとって重要であり、組成のわずかな変更も性能に有害な影響を有し得る。
【0004】
切削工具に使用される基材の一種は、傾斜焼結基材である。このことは、このような基材がガンマ相が枯渇したバインダー富化表面ゾーンを含むことを意味するが、バルクはガンマ相を含んでいる。このような基材のバインダー相を置き換えると、傾斜ゾーンは、Coがバインダー相であるときと同じ安定性で形成されない。表面ゾーンがまったく形成されないことがあったり、表面ゾーンが大きくなり過ぎることがあったりする。
【0005】
したがって、本発明の一の目的は、代替バインダー相を有するガンマ相が枯渇したバインダー富化表面ゾーンを有する超硬合金を得ることである。
【0006】
本発明の更なる目的は、従来の原材料を用いて、即ち超純粋な原材料を使用する必要なく、即ち高エントロピー合金を形成するための元素の炭化物又は金属粉末を使用して、代替バインダー相を有する超硬合金を製造可能にすることである。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、WC、ガンマ相及びバインダー相を含む超硬合金基材を含む切削工具に関する。この基材には、ガンマ相が枯渇したバインダー相富化表面ゾーンが設けられ、グラファイト及びイータ相が前記基材の微細構造中に存在しない。更に、バインダー相は高エントロピー合金である。
【0008】
高エントロピー合金(HEA)は、少なくとも4つの金属元素を含み、各元素の量が5から35at%で、即ち支配的な元素がない合金である。
【0009】
本発明の一実施形態では、高エントロピー合金中の元素の少なくとも一つは、Cr、Fe、Ni及びCoから選択される。
【0010】
本発明の別の実施形態では、高エントロピー合金中の元素の少なくとも二つは、Cr、Fe、Ni及びCoから選択される。
【0011】
本発明の一実施形態では、高エントロピー合金中の元素は、W、Co、Cr、Cu、Fe、Ni、Ti、Al、V、Zr、Mo及びMnから、好ましくはCo、Cr、Cu、W、Fe、Ni、Mo及びMnから選択される。
【0012】
本発明の一実施形態では、高エントロピー合金は、Co、Cr、Fe及びNiを含む。
【0013】
本発明の一実施形態では、高エントロピー合金は、Co、Cr、Cu、Fe及びNiを含む。
【0014】
本発明の一実施形態では、バインダー相の平均量は、焼結インサート全体の、適切には3から30at%、好ましくは4から25at%である。
【0015】
先行技術の材料の場合、バインダー相、即ち通常コバルトの量を記載するための最も一般的な方法は、重量によるものである。しかしながら、上述した高エントロピー合金中の元素はモル重量の大きな変動を有するため、重量画分を求めることは困難である。したがって、Coを置き換えるときの高エントロピー合金のバインダー相の適量は、重量画分ではなく、バインダー相の原子画分の対応する量を求めることにより決定することができる。
【0016】
場合によっては、高エントロピー合金バインダー相は、焼結の間にバインダー相へと溶解する他の元素を、より少なく又はより多く含むことができる。このような元素の正確な量は、特定の高エントロピー合金への特定の元素の溶解度により決定される。このような元素の例は、他の原材料から生じる酸素、炭素及び窒素である。
【0017】
超硬合金は大量のWCを含み、タングステンもバインダー相に溶解するであろう。バインダー相に溶解する正確な量のタングステンは、特定の高エントロピー合金へのタングステンの可溶度に依存する。バインダー上のタングステンの量がバインダーの5at%を上回り、即ちタングステンが高エントロピー合金を構成する少なくとも4つの元素の一つとなることがあったり、バインダー相中のタングステンの量が極めて少なくなったりすることがある。
【0018】
立方晶炭化物及び炭窒化物の固溶体であるガンマ相は、焼結の間に立方晶炭化物又は炭窒化物及びWCから形成され、(W,M)C又は(W,M)(C,N)と記載される(ここで、MはTi、Ta、Nb、Hf、Zr及びVの一又は複数である)。
【0019】
高エントロピー合金のために選択された特定の元素によって、ガンマ相は、ガンマ相中におけるその可溶度に応じて高エントロピー合金の元素の一又は複数も含むことができる。
【0020】
表面ゾーンのガンマ相は枯渇しており、このことは、ガンマ相が存在しないか又は痕跡量しか存在しないことを意味している。
【0021】
バルク、即ち表面ゾーン外のエリアでは、ガンマ相の量は、適切には3から25vol%、好ましくは5から15vol%である。これは、様々な方法で測定することができるが、一つの方法は、基材の断面のLight Optical Microscopeイメージャ又はScanning Electron Microscope(SEM)顕微鏡写真の画像分析を行ってガンマ相の平均画分を計算することである。
【0022】
ガンマ相が枯渇したバインダー相富化表面ゾーンの厚さは、適切には2から100μm、好ましくは3から70μm、更に好ましくは8から35μmである。厚さは、基材の断面のSEM又はLOM画像上での測定により決定される。このような測定は、真の値を得るために、基材表面が適度に平坦であるエリア、即ち縁部又は先端などに近くないエリアで実施されるべきである。表面ゾーンとバルクの間の境界は、ガンマ相の有無によって決定され、SEM又はLOM画像において基材の断面を見ると通常極めて明確である。
【0023】
バインダー相の富化は、焼結プロセスの結果であり、表面ゾーンにおけるバインダー相含有量がバルク中よりも高いことを意味する。好ましくは、表面ゾーンのバインダー相含有量は、バルクのバインダー相含有量の1.2−2.0倍である。表面ゾーンのバインダー相含有量の測定は、好ましくは表面ゾーンの中央で行われ、中央とは、本明細書では、表面から、表面ゾーンの厚み全体の約50%の深さを意味する。
【0024】
立方相が枯渇した表面ゾーンを得るために、グラファイト及びイータ相が微細構造中に存在しないような炭素含有量を有することが必要である。本明細書において、イータ相はMC及びM12Cを意味し、ここでMはW及びバインダー相金属の一又は複数から選択される。
【0025】
炭素が過剰であると微細構造にグラファイトの沈殿が生じ、炭素が不足するとイータ相が形成されることが当技術分野においてよく知られている。グラファイト及びイータ相の両方が回避され得る範囲は、通常、位相図に基づいて決定される。コバルトがバインダー金属である場合、このような位相図は周知である。
【0026】
高エントロピー合金といった代替バインダー相の場合、各特定のバインダー相の組成の位相図を予測することは容易でなく、即ちグラファイト及びイータ相が存在しない炭素含有量の範囲は、バインダー相の量及び組成に応じて変動するであろう。したがって、各特定バインダー相の組成について最適な炭素含有量を見出すことは、当業者に委ねられる。
【0027】
超硬合金中の炭素含有量を変更する方法が当技術分野において既知である。例えば、炭素の増加が望ましい場合、カーボンブラックを追加することにより変更が行われる。或いは、炭素の低減が望ましい場合、W、又はWCが追加される。
【0028】
本発明の一実施形態では、M及び/又はMといった炭化物が存在してよい(ここで、MはW、Co、Cr、Cu、Fe、Ni、Ti、Al、V、Zr、Mo及びMnの一又は複数である)。
【0029】
本発明の一実施形態では、超硬合金基材にはコーティングが施される。
【0030】
本発明の一実施形態では、超硬合金基材には耐摩耗CVD(化学蒸着)又はPVD(物理蒸着)コーティングが施される。
【0031】
本発明の一実施形態では、超硬合金基材には、耐摩耗PVDコーティングが施され、これは適切には、Al、Si及び周期表の4、5及び6族から選択される元素の一又は複数の、窒化物、酸化物、炭化物又はこれらの混合物である。
【0032】
本発明のまた別の実施形態では、超硬合金基材には、耐摩耗CVDコーティングが施される。
【0033】
本発明のまた別の実施形態では、超硬合金基材には、複数層を含む耐摩耗CVDコーティングが施され、これは適切には、少なくとも炭窒化物層及びAl層、好ましくは少なくとも一つのTi(C,N)層、α− Al及び外側のTiN層である。
【0034】
本明細書において、切削工具とは、インサート、エンドミル又はドリルを意味する。本発明の一実施形態では、切削工具は、インサート、好ましくは旋削インサートである。
【0035】
本発明はまた、上述のような超硬合金基材を含む切削工具を作製する方法に関する。この方法は、
−WC、少なくとも一つの立方晶炭化物、並びにTa、Ti、Nb、Cr、Hf、V及びZrの少なくとも一つの窒化物又は炭窒化物を含む硬質の構成成分を形成する粉末を提供する工程、
−高エントロピー合金のバインダー相を形成する粉末を提供する工程、
−ミリング液を提供する工程、
−前記粉末を超硬合金へと粉砕、乾燥、加圧成形及び焼結する工程
を含む。
【0036】
高エントロピー合金のバインダー相を形成する原材料は、純粋な金属、二つ以上の金属からなる合金又はその炭化物、窒化物又は炭窒化物として加えることができる。原材料は、バインダー相が、焼結後に、各々の量が5から35at%である少なくとも4つの金属元素を含むような量で加えなければならない。
【0037】
硬質の構成成分を形成する粉末は、WC、少なくとも一つの立方晶炭化物、並びにTa、Ti、Nb、Cr、Hf、V及びZrの少なくとも一つの窒化物又は炭窒化物を含む。例えば(M,W)C(MはTa、Ti、Nb、Cr、Hf、V及びZrの一又は複数)のような混合炭化物も加えることができる。ガンマ相が枯渇したバインダー相富化表面ゾーンを得るために、窒化物及び炭窒化物成分が加えられる。
【0038】
本発明の一実施形態では、硬質の構成成分を形成する粉末の少なくとも一部は、再生超硬合金スクラップから作製された、元素W、C及びCo、並びにTa、Ti、Nb、Cr、Zr、Hf及びMoの少なくとも一又は複数を含む粉末部分として加えられる。
【0039】
超硬合金中の炭素含有量の変更は、炭素の増加が望ましい場合はカーボンブラックを追加することにより行うことができる。或いは、炭素の低減が望ましい場合、W、又はWCが追加される。
【0040】
従来の超硬合金製造においてミリング液として一般的に使用されるいずれかの液体を使用することができる。ミリング液は、好ましくは水、アルコール又は有機溶媒であり、更に好ましくは水又は水とアルコールの混合物であり、最も好ましくは水とエタノールの混合物である。スラリーの特性は、加えられるミリング液の量に応じて決まる。スラリーの乾燥はエネルギーを要するので、液体の量は、費用節減のために最小化されるべきである。しかしながら、ポンピング可能なスラリーを達成し、システムのつまりを回避するために、十分な液体を加える必要がある。また、当技術分野において一般に知られる他の化合物、例えば分散剤、pH調節剤等も、スラリーに加えることができる。
【0041】
有機結合剤も、続く噴霧乾燥作業の間の粒状化を容易にするために、更には続く加圧成形作業及び焼結作業のいずれかのための加圧成形剤として機能するために、任意選択的にスラリーに加えられる。有機バインダーは、当技術分野で一般に使用されるいずれかのバインダーとすることができる。有機バインダーは、例えば、パラフィン、ポリエチレングリコール(PEG)、長鎖脂肪酸等とすることができる。有機バインダーの量は、適切には、乾燥粉末の総体積に基づいて15から25vol%であり、有機バインダーの量は、乾燥粉末の総体積に含まれない。
【0042】
硬質の構成成分を形成する粉末と、高エントロピー合金、及び可能であれば有機バインダーを含むバインダー相を形成する粉末と含むスラリーは、適切には、ボールミル又はアトライタミルにおける粉砕工程によって混合される。粉砕は、適切には、まず、金属バインダー粉末、第1及び第2の粉末画分、及び可能であれば有機バインダーを含むスラリーを形成することにより行われる。次いでこのスラリーを、適切にはボールミル又はアトライタミルにおいて粉砕し、均一なスラリーブレンドを得る。
【0043】
有機液体及び可能であれば有機バインダーと混合された粉末化材料を含むスラリーは、高温ガス流、例えば窒素流により小液滴が直ちに乾燥する乾燥タワーの適切なノズルを通して噴霧され、凝集顆粒を形成する。小規模な実験については、他の乾燥法、例えばパンでの乾燥も使用できる。
【0044】
その後、一軸加圧成形、多軸加圧成形等といった加圧成形作業により、乾燥した粉末/顆粒から素地が形成される。
【0045】
本発明により作製された粉末/顆粒から形成された素地は、その後いずれかの従来の焼結方法、例えば、真空焼結、焼結HIP、スパークプラズマ焼結、ガス圧焼結(GPS)等によって焼結される。
【0046】
焼結温度は、特定の高エントロピー合金の融点を上回る温度、好ましくは特定の高エントロピー合金の融点を40から100℃上回る温度でなければならない。
【0047】
本発明の一実施形態では、焼結温度は1350から1550℃である。
【0048】
本発明の一実施形態では、焼結工程は、別個の工程として又は第1の焼結工程に組み込まれた、ガス圧焼結工程を含む。ガス圧工程は、好ましくは2から200Barの加圧下で実施される。
【0049】
本発明の一実施形態では、超硬合金基材にはコーティングが施される。
【0050】
本発明の一実施形態では、上記に従って作製された超硬合金基材に、CVD又はPVD技術を用いて耐摩耗コーティングが施される。
【0051】
本発明の一実施形態では、MTCVDによって堆積される第1のTiCN層及びCVDによって堆積される第2のα−Al層を含むCVDコーティングが堆積される。可能であれば、摩耗検出のための最も外側の色層、例えばTiN層を堆積させることもできる。
【0052】
コーティングには、ブラッシング、ブラスチングなどの付加的な処理を行うこともできる。
【0053】
本発明は、上述の方法によって作製される超硬合金切削工具も開示する。
【実施例】
【0054】
実施例1
高エントロピー合金を形成する原材料を構成する原材料粉末(0.76wt%のTiC、0.50wt%のNbC、2.9wt%のTaC、1.52wt%のTi(C,N)、0.02wt%のカーボンブラック及び残りのWC,平均粒径(FSSS)4μm)から、超硬合金を調製した。高エントロピー合金を形成する元素、即ちCo、Cr、Fe及びNiは、0.99wt%のCo、2.02wt%のCr、4.85wt%のFe0.4Ni0.4Co0.2として加えられる。各原材料の量は、乾燥粉末の総重量に基づいている。高エントロピー合金の一部となる各元素の量は、異なる元素間の原子比率が1:1:1:1であるCoCrFeNiのバインダー相を目的として計算される。
【0055】
粉末を、ミリング液(水/エタノール)及び乾燥粉末の総重量に基づいて計算して2wt%の有機バインダー(PEG)と一緒に粉砕した。次いで、形成されたスラリーをパンで乾燥させ、次に乾燥した粉末を加圧成形作業に供して素地を形成した。
【0056】
次いで素地を1470℃の温度で1時間、真空中において焼結した。次いで、焼結片を、第2の焼結工程である、1520℃の温度及び80Barの圧力でのガス圧焼結に1時間供した。
【0057】
表1には、上述と同じ組成を有するが炭素含有量の異なる複数の異なる超硬合金が示されている。すべての超硬合金は上述のように作製したが、望ましい炭素含有量を得るために、炭素又は金属Wを用いて炭素含有量を調節した。
【0058】
焼結体を光学顕微鏡(LOM)で調べ、傾斜ゾーン(存在すれば)を測定した。表1の炭素含有量は、原材料に基づく計算値である。結果を表1に示す。
【0059】
実施例2
高エントロピー合金バインダー相を形成する原材料(0.77wt%のTiC、0.51wt%のNbC、2.95wt%のTaC、1.55wt%のTi(C,N)及び0.08wt%のカーボンブラックと、残りのWC、平均粒径4μm)から、実施例1の記載と同じようにして超硬合金を調製した。高エントロピー合金を形成する元素、即ちCo、Cr、Cu、Fe及びNiは、0.77wt%のCo、1.6wt%のCr、3.85wt%のFe0.4Ni0.4Co0.2、1.68wt%のCuとして加えられる。高エントロピー合金の一部となる各元素の量は、異なる元素間の原子比率が1:1:1:1:1であるCoCrCuFeNiのバインダー相を目的として計算される。
【0060】
実施例1と同じようにして試料を作製した。表2には、第1の焼結工程後の結果が示されており、表2には、第2の焼結工程、即ちガス圧工程後の結果が示されている。
【0061】
表1及び2に見ることがでるように、炭素がイータ相及びグラファイトが存在しないような量であるとき、傾斜が形成される。
【0062】
実施例3 PDの沈降
実施例1(試料3)により作製された、ジオメトリCNMG 120408−PMジオメトリを有するインサートを、乾燥条件下での旋削作業において試験した。参照として、本明細書において比較例1と呼ぶ、本発明1と同じジオメトリを有する業務用のGC4325を使用した。両方のインサートに同じコーティングを施した。
【0063】
被削材はSS2541−03(Alで酸化)で硬度275−335 HBであり、条件は以下の通りであった。
Vc 98−150m/分
f 0.7mm/rev
2mm
測定された品質:縁部の沈降(μm)
【0064】
結果を表3に示す。