特許第6869255号(P6869255)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6869255
(24)【登録日】2021年4月15日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】凍結医薬製剤およびその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/21 20060101AFI20210426BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20210426BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20210426BHJP
   A61P 1/18 20060101ALI20210426BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20210426BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20210426BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20210426BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20210426BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20210426BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20210426BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20210426BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20210426BHJP
   A61M 5/28 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   A61K38/21
   A61P9/00
   A61P9/10
   A61P1/18
   A61P13/12
   A61P29/00
   A61K47/26
   A61K47/10
   A61K47/02
   A61K47/12
   A61K47/20
   A61K9/08
   A61M5/28
【請求項の数】16
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2018-545331(P2018-545331)
(86)(22)【出願日】2017年2月28日
(65)【公表番号】特表2019-513123(P2019-513123A)
(43)【公表日】2019年5月23日
(86)【国際出願番号】FI2017050128
(87)【国際公開番号】WO2017149199
(87)【国際公開日】20170908
【審査請求日】2019年9月25日
(31)【優先権主張番号】20165153
(32)【優先日】2016年2月29日
(33)【優先権主張国】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】504459559
【氏名又は名称】ファロン ファーマシューティカルズ オサケ ユキチュア
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヤルカネン、マルック
(72)【発明者】
【氏名】マクシモウ、ミカエル
(72)【発明者】
【氏名】ピーッポ、イルセ
【審査官】 渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−543872(JP,A)
【文献】 特表2004−529917(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00
A61K 9/00
A61K 47/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性成分としてインターフェロンベータ−1aを2.0〜15μgと、バルク剤として二糖類と、非イオン性界面活性剤と、6.0〜7.5のpHを維持するための緩衝剤とを含み、二糖類がトレハロース・二水和物、またはトレハロース・二水和物とスクロースとの混合物であり、インターフェロンベータ−1aの生物活性が少なくとも150MIU/mgである、単回静脈内投与のための凍結乾燥形態の医薬製剤。
【請求項2】
酸化剤をさらに含む請求項1記載の製剤。
【請求項3】
二糖類がトレハロース・二水和物である請求項1または2記載の製剤。
【請求項4】
非イオン性界面活性剤がポリソルベートである請求項1〜のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項5】
緩衝剤として、リン酸二ナトリウム・二水和物、リン酸二水素ナトリウム・二水和物、クエン酸三ナトリウム・二水和物またはそれらの組み合わせを含む請求項記載のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項6】
抗酸化剤がメチオニンである請求項のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項7】
インターフェロンベータ−1aが組換えヒトインターフェロンベータ−1aである請求項1〜のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項8】
凍結乾燥製剤の残留水分含量が5重量%以下、好ましくは1〜5重量%の範囲である請求項1〜のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項9】
製剤が、6.0〜7.5のpHを有し、かつ
(i)活性成分として、組換えヒトインターフェロンベータ−1a、
(ii)バルク剤として、トレハロース・二水和物、
(iii)界面活性剤として、ポリソルベート、
(iv)緩衝剤として、リン酸二ナトリウム・二水和物、リン酸二水素ナトリウム・二水和物およびクエン酸三ナトリウム・二水和物の組み合わせ、ならびに
(v)抗酸化剤としてメチオニン
を含む水溶液から製造される請求項1〜9のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項10】
水溶液が、0.05〜0.15%(w/v)のポリソルベートまたは、好ましくはポリソルベート、および2〜6%(w/v)のトレハロース・二水和物またはスクロースを含む請求項記載の製剤。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の凍結乾燥製剤を再構成することにより得られる水性医薬組成物。
【請求項12】
静脈内投与のための請求項11記載の水性医薬組成物。
【請求項13】
請求項11記載の水性医薬組成物を含む送達デバイス。
【請求項14】
請求項11記載の水性医薬組成物を含むプレフィルドシリンジ。
【請求項15】
送達デバイスまたはプレフィルドシリンジの内表面がシリコーン処理されている請求項13記載の送達デバイスまたは請求項14記載のプレフィルドシリンジ。
【請求項16】
−脈管内皮疾患、
−急性呼吸促迫症候群(ARDS)または全身性炎症反応症候群(SIRS)における脈管漏出、
−脈管または心臓の手術および臓器移植における虚血−再灌流傷害、
−主要な脈管または心臓の手術および臓器移植前の虚血プレコンディショニング、
−急性膵炎または急性腎傷害、ならびに
−多臓器不全(MOF)
から選択される疾患または障害の予防および/または治療における使用のための請求項1〜10のいずれか1項に記載の凍結乾燥製剤または請求項11記載の水性医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インターフェロンベータ−1aの凍結乾燥医薬製剤およびその製剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
インターフェロンベータ−1aは、内皮のバリア機能を増強し、ARDSの主な病理学的事象である脈管(vascular)漏出の予防をもたらす抗炎症性アデノシンを産生する分子であるCD73をアップレギュレートする能力を有するインターフェロンベータ1アゴニストである。ARDSにおける脈管漏出は、生命に関わる恐れのある低酸素血症の原因となる肺胞腔への血漿滲出をゆるす。インターフェロンベータ−1aは、脈管漏出を減少させることによりARDSの影響を低減させる可能性を有するが、この例に限定されるものではない。
【0003】
すべてのタンパク質医薬と同様に、治療剤としてインターフェロンベータ(IFN−ベータ)の使用における克服しなければならない1つの主な障害は、医薬製剤中でのその不安定性に起因し得る薬剤有用性の損失である。医薬製剤におけるポリペプチド活性と有効性とを脅かす物理的不安定性は、変性および不溶性の凝集体の形成などであり、一方、化学的不安定性は、例えば、加水分解、酸化および脱アミド化などである。これらの変化のいくつかは、目的のタンパク質の薬剤生物活性の損失または減少を導くことが知られている。少量のホルモンペプチドが投与される場合には、患者が正しい投薬を受けることが保障されるということも重要である。IFN−ベータは親油性アミノ酸残基含量が高いため、容器表面に吸着し、凝集体を形成し、結果として活性な医薬成分が失われる。
【0004】
特にARDSの治療に使用するための製剤に対するもう1つの要件は、製剤が緊急時に利用可能でなければならないことである。結論としては、長期の保存可能期間を有し、かつそれらの薬剤有用性を保護し、そして特に凍結乾燥される場合、投薬の注意深い制御と投与中の使用安定性を必要とする、IFN−ベータ1aを含む安定な凍結乾燥医薬製剤が求められている。この要件は、患者が薬物に曝されるとすぐに、静脈内に投与される化合物に必要である。
【発明の概要】
【0005】
本発明の目的は、インターフェロンベータ−1aを含む凍結乾燥形態の安定な医薬製剤を提供することである。
【0006】
特に、インターフェロンベータ−1aを含む凍結乾燥形態の医薬製剤であって、再構成後にインターフェロンベータ−1aの良好な回復が可能な医薬製剤を提供することが本発明の目的である。
【0007】
本発明のさらなる目的は、静脈内投与によりヒトにおける脈管−内皮疾患を予防および治療するための医薬製剤を提供することである。特に、本発明の目的は、この症状に限定されるものではないが、急性呼吸促迫症候群(ARDS)の患者における脈管漏出を予防するための処置として使用するための医薬製剤を提供することである。
【0008】
とりわけ、上述の目的を達成するために、本発明は、同封の独立請求項に示すものにより特徴付けられる。
【0009】
本発明の典型的な医薬製剤は、凍結乾燥形態で、インターフェロンベータ−1aを活性成分として単一投与形態に2.0〜15μgと、バルク剤としての二糖類と、非イオン性界面活性剤とを含む。
【0010】
本発明によれば、インターフェロンベータ−1aは、患者への送達のために薬理学的に有効で正確な量のインターフェロンベータ−1aを有する水溶液を与えるように再構成できる凍結乾燥物として製剤化される。したがって、本発明は、凍結乾燥製剤を再構成することにより得られる水性医薬組成物も提供する。
【0011】
薬理学的に有効な量のインターフェロンベータ−1aを有する本発明の水性組成物は、特に静脈内投与に適している。
【0012】
本発明はさらに、本発明の水性医薬組成物を含む送達デバイスに関する。
【0013】
本発明はさらに、本発明の水性医薬組成物を含むプレフィルドシリンジに関する。
【0014】
本発明はさらに、ヒトの脈管内皮疾患の予防および/または治療における使用のための本発明の凍結乾燥製剤または水性医薬組成物に関する。
【0015】
より具体的には、本発明は、ヒトの脈管内皮疾患の予防および/または治療における静脈内投与での使用のための本発明の凍結乾燥製剤または水性医薬組成物であって、インターフェロンベータ−1aが患者に2.0〜15μg/用量で投与される凍結乾燥製剤または水性医薬組成物に関する。
【0016】
本発明はさらに、急性呼吸促迫症候群(ARDS)、全身性炎症反応症候群(SIRS)および他の外傷性症状における脈管漏出の予防における使用のための本発明の凍結乾燥製剤または水性医薬組成物に関する。
【0017】
本発明はさらに、脈管または心臓の手術および臓器移植における虚血−再灌流傷害の予防および/または治療における使用のため、または主要な脈管または心臓の手術および臓器移植に先立つ虚血プレコンディショニングにおける使用のための本発明の凍結乾燥製剤または水性医薬組成物に関する。
【0018】
本発明はさらに、急性膵炎および急性腎傷害の予防および/または治療における使用のための本発明の凍結乾燥製剤または水性医薬組成物に関する。
【0019】
本発明の凍結乾燥製剤または水性医薬組成物は、EBOLA、MERS、鳥インフルエンザなどのインフルエンザなどの深刻な生命を脅かすウイルス感染、および全身性炎症反応症候群(SIRS)や中心器官の機能不全などの原因となる他の同様の症状における使用にも好適である。
【0020】
本発明はさらに、MOFの予防および/または治療における使用のための本発明の凍結乾燥製剤または水性医薬組成物に関する。さらに、本発明の凍結乾燥製剤または水性医薬組成物は、全身性炎症反応症候群(SIRS)および多臓器不全(MOF)の原因となる重篤な細菌性肺炎および敗血症における使用にも適している。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】再構成されたINF−ベータ1a凍結乾燥物の非還元SDS−PAGEを示す。実験の部の製剤試験A参照。
図2】再構成されたINF−ベータ1a凍結乾燥物の非還元SDS−PAGEを示す。実験の部の製剤試験A参照。
図3】再構成されたINF−ベータ1a凍結乾燥物の非還元SDS−PAGEを示す。実験の部の製剤試験A参照。
図4】再構成されたINF−ベータ1a凍結乾燥物の非還元SDS−PAGEを示す。実験の部の製剤試験A参照。
図5】凍結乾燥物の再構成後のINF−ベータ1aの定量化を示す。実験の部の製剤試験A参照。
図6】製剤試験Aの安定性試験中の40℃での保管期間中の酸化されたINF−ベータ1a種の増加を表す親水性ピークの相対ピーク面積の経過を示す。
図7】40℃での保管期間中のタンパク質折り畳み構造の変化を意味するINF−ベータ1a種の増加を表す疎水性ピークの相対ピーク面積の経過を示す。実験の部の製剤試験A参照。
図8】40℃で12週間保管した後の製剤の再構成した凍結乾燥物の非還元SDS−PAGEを示す。製剤試験Aを参照。
図9】40℃で12週間保管した後の製剤の再構成した凍結乾燥物の還元SDS−PAGEを示す。製剤試験Aを参照。
図10】種々の材料の表面への吸着によるINF−ベータ1aの損失を示す。製剤試験Aの最終部を参照。
図11】1つのバイアルから他のバイアルへの試料移動のあいだのINF−ベータ1aの回復を示す。製剤試験B参照。
図12】栓を繰り返し接触させた後のINF−ベータの回復を示す。製剤試験B参照。
図13】凍結乾燥試験の凍結−トライアルのデジタルデータ取得を示す。
図14】凍結乾燥物の縦断面図を示す。凍結乾燥試験参照。
図15】凍結乾燥物の端側からの透過光画像を示す。凍結乾燥試験参照。
図16】安定性試験の結果の編集を示す。
図17】安定性試験の結果の編集を示す。
図18】安定性試験の結果の編集を示す。
図19】安定性試験の結果の編集を示す。
図20】安定性試験の結果の編集を示す。
図21】生物学的効率試験のMxA濃度グラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
用語および定義
この出願において、用語「インターフェロンベータ−1a」、「INF−ベータ1a」および「INF−β1a」は、言い換え可能であり、それらは互いに同義語として使用される。
【0023】
表現「薬学的に有効な量」は、所望の治療結果をもたらすのに十分であるインターフェロンベータ−1aの任意の量を含めることを意味する。
【0024】
用語「治療」または「治療すること」は、疾患の完全な治癒ならびにその疾患の緩和または軽減を含むということが理解されるべきである。
【0025】
用語「予防」は、完全な予防、予防(prophylaxis)ならびにその疾患または障害に罹患する個体のリスクの低下を含むということが理解されるべきである。
【0026】
用語「患者」または「個体」は、ヒトを意味する。
【0027】
本発明の医薬製剤に関して用語「凍結乾燥する」は、製剤の水溶液の凍結乾燥を意味するものとする。用語「凍結乾燥物」は、凍結乾燥製品を意味する。用語「再構成」は、水溶液を実現するための凍結乾燥物の溶解を意味する。
【0028】
用語「静脈内」または「IV」投与は、血管またはリンパ管内での投与を意味する。
【0029】
本発明の実施形態
本発明は、安定性を増加させ、再構成後にインターフェロンベータ−1aが実質的に完全に回復するインターフェロンベータ−1a医薬製剤に関する。本発明の凍結乾燥形態の医薬製剤は、活性成分として少なくとも薬学的に有効な量のインターフェロンベータ−1aと、バルク剤としての二糖類または複数の二糖類と、非イオン性界面活性剤とを含む。
【0030】
バルク剤としての複数の二糖類と、ポリソルベートまたはポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤との組み合わせが、凍結乾燥および再構成後にインターフェロンベータ−1aの実質的に完全な回復のために、および保管中に凍結乾燥状態で分解に対するインターフェロンベータ−1aの安定性のために必要であるということが観察されている。本発明の凍結乾燥製剤は、2〜8℃で少なくとも24ヵ月、好ましくは30ヵ月、より好ましくは36ヵ月の期間でさえ、安定である。また、凍結乾燥製剤のインターフェロンベータ−1aは、室温(25〜30℃±2℃)で保管した場合でさえ、その活性を維持しているということも観察されている。結論として、本発明の凍結乾燥製剤は、室温で少なくとも6ヵ月、好ましくは少なくとも12ヵ月、そしてより好ましくは24ヵ月の保管安定性を有する。
【0031】
ポリソルベートまたはポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤は、表面吸着を防ぐため、またタンパク質凝集に対する安定剤として使用される。界面活性剤は、特に、凍結乾燥および再構成のあいだのINF−ベータ1aの損失を防ぐために必要とされる。凍結乾燥および再構成後のINF−ベータ1aの実質的に完全な回復は、界面活性剤としてポリソルベートまたはPEGを用いることにより得ることができる。凍結乾燥物の再構成後、インターフェロンベータ−1a含量の回復は、85%超、好ましくは90%超、そしてより好ましくはまさに95%であり得る。再構成後の実質的に完全な回復は、患者に投与されるインターフェロンベータ−1aの単回静脈内用量が小さいため重要であり、したがって、患者が正しい投薬を受けることを保証されるということが重要である。
【0032】
本発明の一つの実施形態によれば、非イオン性界面活性剤は、ポリソルベートまたはPEGである。本発明の一つの好ましい実施形態によれば、界面活性剤はポリソルベートである。ポリソルベートは、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート80または任意の他のポリソルベートであってもよい。本発明の好ましい実施形態によれば、ポリソルベートは、Tween20とも呼ばれるポリソルベート20であってもよい。本発明の一つの実施形態によれば、凍結乾燥製剤は、バイアル当たり、凍結乾燥製剤の総重量に対して0.9〜2重量%、好ましくは1〜1.5重量%、より好ましくは1.1〜1.3重量%の、ポリソルベートまたはPEG等の界面活性剤を含む。
【0033】
製剤の成分の量は、本出願において1バイアル(単一バイアルは、凍結乾燥形態の本発明の医薬製剤の単回用量を含む)当たりで示される。
【0034】
本発明の好ましい実施形態においては、二糖類は、トレハロース、スクロースおよびそれらの組み合わせから選択される。トレハロース・二水和物またはスクロースは、製剤に嵩を与えるため、また凍結乾燥状態での保管中の分解に対するINF−ベータ1aの安定化のために最も適切なバルク剤であるということが観察されている。一つの好ましい実施形態によれば、トレハロース・二水和物がバルク剤として使用される。本発明の一つの実施形態によれば、凍結乾燥製剤は、バイアル当たり、凍結乾燥製剤の総重量に対して50〜80重量%、好ましくは60〜75重量%、およびより好ましくは63〜67重量%の二糖類を含む。
【0035】
本発明の一つの好ましい実施形態によれば、凍結乾燥製剤は、活性成分として薬学的に有効な量のインターフェロンベータ−1aと、バルク剤として二糖類と、非イオン性界面活性剤と、凍結乾燥物の再構成後のpHを約5.5〜7.5に維持するための緩衝剤と、好ましくは抗酸化剤とを含む。
【0036】
本発明の一つの実施形態によれば、凍結乾燥製剤は、さらに、凍結乾燥物の再構成後のpHを約5.5〜7.5、好ましくは約6.0〜7.0、そしてより好ましくは約6.3〜6.7に維持するための好適な緩衝剤を含む。本発明の製剤の緩衝剤は、リン酸二ナトリウム・二水和物、リン酸二水素ナトリウム・二水和物、クエン酸三ナトリウム・二水和物またはそれらの組み合わせからなる群より選択されてもよい。製剤における緩衝剤は、目標pHに基いて選択され得、個々の薬剤の組み合わせと比率は変えることができる。
【0037】
本発明の一つの実施形態によれば、凍結乾燥製剤は、さらに抗酸化剤を含む。本発明の一つの好ましい実施形態によれば、凍結乾燥製剤は、製剤を酸化から保護するための抗酸化剤としてメチオニンを含む。メチオニンは、DL−メチオニンまたはL−メチオニンであり得る。本発明の一つの実施形態によれば、メチオニンは、すでにインターフェロンベータ−1a製剤原料に含まれていてもよい。
【0038】
本発明の一つの実施形態によれば、凍結乾燥形態の医薬製剤は、
−活性成分として、少なくとも薬学的に有効な量のインターフェロンベータ−1aと
−0.5〜1.0mg/バイアル、好ましくは0.6〜0.8mg/バイアルの、ポリソルベートまたはPEG等の非イオン性界面活性剤と、
−30〜50mg/バイアル、好ましくは35〜40mg/バイアルのトレハロース・二水和物またはスクロースと、
−15〜28mg/バイアル、好ましくは18〜22mg/バイアルの緩衝剤の組み合わせと、
−0.1〜0.3mg/バイアル、好ましくは0.17〜0.23mg/バイアルの抗酸化剤と
を含む。
【0039】
本発明の製剤は、薬学的に有効な量のインターフェロンベータ−1aを含む。インターフェロンベータ−1aは、好ましくは組換えヒトインターフェロンベータ−1aである。組換えで産生されたIFN−ベータ1aは、成熟した天然のIFN−ベータ1aと同等な生物活性を有し、かつ組換えDNA技術により製造されるIFN−ベータ1aを意図する。本発明の一つの実施形態によれば、インターフェロンベータ−1a製剤原料は不溶性凝集物を含んでいてもよく、その製剤原料は、製剤を配合する前にこれらの既存の不溶性凝集物を除去するために精製される。本発明の一つの好ましい実施形態によれば、95〜100%のIFN−ベータ1aは、インターフェロンベータ−1aの生物活性と再構成中の良好な溶解性を提供するため単量体の形態であろう。インターフェロンベータ−1aの生物活性(効力)は、150MIU/mg(MIU=100万国際単位)より高いべきである。本発明の一つの実施形態によれば、本発明の製剤は、活性成分として、少なくとも150MIU/mgの生物活性を有するインターフェロンベータ−1aを、単一静脈内投与形態に2.0〜15μgの量で含む。
【0040】
本発明に包含される製剤において、単一静脈内投与形態におけるインターフェロンベータ−1aの量は、好ましくは約2.0μgと15μgとの間で変化する。15〜20μgまたは25μgまでなど、単一の静脈内投与形態において15μgより多くのインターフェロンベータ−1aの量を患者に投与することもできるが、副作用の目立った増加が観察される。単一の静脈内投与形態における2.0より少ないインターフェロンベータ−1aの量は、何らかの観察可能な効果を与えるのに充分ではない。本発明の一つの実施形態によれば、単一の静脈内投与形態におけるインターフェロンベータ−1aの量は、約10μgである。インターフェロンベータ−1aの生物活性は、したがって、通常1.5〜3.4MIU/10μg投与形態の範囲にある。
【0041】
本発明の凍結乾燥製剤の残留水分含量は、凍結乾燥製剤の保管安定性を促進するために5重量%以下とすることができる。一つの実施形態によれば、残留水分含量は、約1〜5重量%、好ましくは約1〜4重量%の範囲である。タンパク質を変性することなく遊離残留水の含有量を要求される限度内にするために、凍結乾燥サイクルを最適化すべきである。本発明の一つの実施形態によれば、実験の部に示されているように、約30〜35時間、好ましくは約31時間の凍結乾燥サイクルが本発明の製剤のために最適であることが観測されている。
【0042】
本発明の一つの実施形態によれば、凍結乾燥製剤は、
−活性成分としてのインターフェロンベータ−1aと、
−バルク剤としてのトレハロース・二水和物またはスクロースと、
−緩衝剤としてのリン酸二ナトリウム・二水和物、リン酸二水素ナトリウム・二水和物、クエン酸三ナトリウム・二水和物またはそれらの組み合わせと、
−界面活性剤としてのポリソルベートまたはポリエチレングリコールと、
−抗酸化剤としてのメチオニンと
を含む。
【0043】
より具体的には、一つの好ましい実施形態の凍結乾燥製剤は、
−活性成分としてのインターフェロンベータ−1a、好ましくは組換えヒトインターフェロンベータ−1aと、
−バルク剤としてのトレハロース・二水和物と、
−緩衝剤としてのリン酸二ナトリウム・二水和物、リン酸二水素ナトリウム・二水和物およびクエン酸三ナトリウム・二水和物の組み合わせと、
−界面活性剤としてのポリソルベート20と、
−抗酸化剤としてのメチオニンと
を含む。
【0044】
典型的には、本発明の凍結乾燥製剤は、5.5〜7.5のpHを有し、活性成分として薬学的に有効な量のインターフェロンベータ−1aと、バルク剤として二糖類と、非イオン性界面活性剤とを含む水溶液から製造される。本発明の好ましい実施形態において、本発明の凍結乾燥製剤は、5.5〜7.5、好ましくは6.0〜7.0のpHを有し、かつ
−活性成分として、薬学的に有効な量のインターフェロンベータ−1a、好ましくは組換えヒトインターフェロンベータ−1aと、
−バルク剤として、トレハロース・二水和物またはスクロースと、
−界面活性剤として、ポリソルベートまたはPEGと、
−緩衝剤として、リン酸二ナトリウム・二水和物、リン酸二水素ナトリウム・二水和物、クエン酸三ナトリウム・二水和物、およびそれらの組み合わせと、
−抗酸化剤としてメチオニンと
を含む水溶液から製造される。
【0045】
本発明の一つの実施形態によれば、本発明の凍結乾燥製剤は、0.05〜0.15%(w/v)のポリソルベートまたはポリエチレングリコール、好ましくはポリソルベート、および2〜6%(w/v)のトレハロース・二水和物またはスクロースを含む水溶液から製造される。本発明の一つの好ましい実施形態によれば、凍結乾燥製剤は、約0.1%(w/v)のポリソルベートまたはPEG、好ましくはポリソルベートおよび約5%(w/v)のトレハロース・二水和物を含む水溶液から製造される。
【0046】
本発明の凍結乾燥物を製造する方法は、少なくとも活性成分としてのインターフェロンベータ−1aと、バルク剤としての二糖類と、ポリソルベートまたはPEGなどの非イオン性界面活性剤と含む水溶液を製造する工程、ならびにその水溶液を凍結乾燥する工程を含む。上記凍結乾燥を行う凍結乾燥装置は、商業的に入手可能であり、当業者により容易に操作可能である。凍結乾燥プロセスは、通常、実験の部においてより詳細に説明されているように、凍結、一次乾燥および二次乾燥の三工程を含む。典型的には、水溶液は、バイアル中で凍結乾燥され、各バイアルは、本発明のインターフェロンベータ−1a製剤の単位用量を含む。結果として、バイアル内の凍結乾燥物は、本発明の単一投与形態である。本発明の製剤は、凍結乾燥中に可溶性凝集体の形成をもたらす。
【0047】
凍結乾燥製剤を含むバイアルなどの容器は、好ましくは殺菌可能かつ不活性な材料で作られる。適切な材料は、例えば、ポリプロピレン、環状オレフィン共重合体、標準ガラスtypeIおよびシリコーン処理されたガラスtypeIである。好ましくは、シリコーン処理されたガラスtypeIバイアルが、インターフェロンベータ−1aの初期の損失を回避するための包装材として使用される。INF−ベータ1aの吸着は、ガラス表面の内表面のシリコーン処理により防ぐことができる。本発明の好ましい実施形態によれば、バイアルなどの容器の内表面は、凍結−乾燥後のINF−ベータ1aの初期の損失を回避するためにシリコーン処理される。界面活性剤としてのポリソルベートの使用は、シリコーン処理されたガラス表面上への吸着からタンパク質を保護するためにも使用することができる。
【0048】
凍結乾燥物は、患者に投与される前、水性再構成剤で再構成されるべきである。この工程により、凍結乾燥物中のインターフェロンベータ−1aおよびその他の成分は再溶解され、患者への静脈内注射に好適な水性医薬組成物を与える。典型的には、注射用水が凍結乾燥物を再構成するために使用される。典型的には、再構成された水性組成物の容量は、0.9〜1.1mLのあいだ、好ましくは1mLである。
【0049】
インターフェロンベータ−1aは、再構成された水性組成物において、2μg/mL〜15μg/mLの濃度で存在する。本発明の一つの実施形態の再構成された水性組成物は、さらに
−界面活性剤として、0.5〜1.0mg/mL、好ましくは0.6〜0.8mg/mLのポリソルベートまたはPEG、
−バルク剤として、30〜50mg/mL、好ましくは35〜40mg/mLのトレハロースまたはスクロースと、
−15〜28mg/mL、好ましくは18〜22mg/mLの緩衝剤の組み合わせであり、リン酸二ナトリウム・二水和物、リン酸二水素ナトリウム・二水和物およびクエン酸三ナトリウム・二水和物を含む組み合わせと、
−抗酸化剤として、0.1〜0.3mg/mL、好ましくは0.17〜0.23mg/mLのメチオニンと
を含み、該水性組成物のpHは、5.5と7.5の間、好ましくは6.0と7.0の間である。
【0050】
インターフェロンベータ−1a製剤がヒトに送達されるために使用される場合、水性溶液の等張性も検討される。したがって、本発明の一つの実施形態において、静脈内投与用の水性溶液は、患者の血清または体液の等張性と同じまたは同様の等張性を与えるであろう。再構成された水性組成物のオスモル濃度は、250〜350mOsmol/kgの範囲であってもよい。
【0051】
本発明の水性医薬組成物は患者に投与することができる。本発明の好ましい実施形態によれば、水性医薬組成物は静脈内投与に好適である。通常、投与はシリンジによるであろう。したがって、本発明はまた、本発明の水性医薬組成物を含む送達デバイスまたはプレフィルドシリンジを提供する。本発明の好ましい実施形態によれば、送達デバイスまたはプレフィルドシリンジの内表面は、送達デバイスまたはプレフィルドシリンジの表面へのIFN−ベータ1aの吸着を防ぐためにシリコーン処理がなされ、それにより、本発明は、患者に静脈内で投与される際にインターフェロンベータ−1aの正確な用量を提供する。好適な材料は、バイアルの材料として先に記載したものと同じである。典型的には、凍結乾燥物は1mLシリンジを用いて再構成された。患者へのインターフェロンベータ−1aの正確な投薬量は、本発明の製剤とシリコーン処理された送達デバイスまたはシリンジとの組み合わせを用いることにより達成することができる。再構成および患者への送達のあいだのインターフェロンベータ−1aの観察される損失は、たった約1μg/用量、好ましくは1μg/用量未満である。それゆえ、本発明は、インターフェロンベータ−1aの損失が多くとも1μg/用量であるようなインターフェロンベータ−1aの患者への投与方法を提供する。
【0052】
患者は、主な活性成分としてインターフェロンベータ−1aの有効量、すなわち問題とする疾患または障害を治療、改善、または予防するのに十分な量を受けるであろう。任意の特定の対象のためのインターフェロンベータ−1aの最適有効量および濃度は、患者の年齢、サイズ、健康および/または性別、症状の性質および程度等の種々の因子に依存し、またインターフェロンベータ−1aと併用で投与される任意の可能なさらなる治療にも依存するであろう。与えられた状況に対して送達される有効量は、臨床医の判断において決定され得る。本発明の目的のため、インターフェロンベータ−1aは、脈管内皮疾患の予防および/または治療における使用のため、静脈内投与により2〜15μg/用量で患者に投与され得る。本発明の実施形態によれば、インターフェロンベータ−1aは、静脈内投与により、成人患者における脈管内皮疾患の予防および/または治療における使用のために、例えば、7.5〜12.5μg/用量で患者に投与され得る。本発明の別の実施形態によれば、インターフェロンベータ−1aは、例えば、患者が子供の場合、静脈内投与により患者における脈管内皮疾患の予防および/または治療における使用のために2.0〜12.5μg/用量で投与され得る。それゆえ、本発明はまた、患者に本発明の水性医薬組成物を投与する工程を含む、薬学的に有効な量のインターフェロンベータ−1aを患者に送達する方法に関する。本発明はまた、正確な用量での患者へのインターフェロンベータの投与における送達デバイスまたはプレフィルドシリンジの使用に関する。
【0053】
本発明の製剤は、ヒトにおける種々の脈管内皮疾患を治療するために使用することができる。CD73、すなわち、局部的なアデノシンを産生することができる内皮外酵素は、内皮バリアおよび肺機能を維持するための重要な分子である。インターフェロン−ベータはCD73発現を増加させ、結果、局部的なアデノシンを増加させる。多くの炎症性症状が、炎症/傷害内皮細胞の表面からのD73の損失をもたらし、それにより利用可能なアデノシン含量を減少させることが知られている。アデノシンの抗炎症特性は、文献において周知であり、局部的なアデノシン作用の損失に起因することが知られている症状はいずれも、CD73発現のアップレギュレーションから恩恵を受けるであろう。恒久的な支援が必要とされる場合、CD73のアップレギュレーションはデノボ合成に基づくべきである。
【0054】
結論として、本発明の凍結乾燥製剤または水性医薬組成物は、ヒトにおける脈管内皮疾患の予防および/または治療における使用のために好適である。より具体的には、本発明の凍結乾燥製剤または水性医薬組成物は、インターフェロンベータ−1aを2.0〜15μg/用量で患者に投与する、静脈内投与による患者における脈管内皮疾患の予防および/または治療における使用のために好適である。本発明の実施形態によれば、インターフェロンベータ−1aは、7.5〜12.5μg/用量または2.0〜12.5μg/用量で患者に投与される。
【0055】
本発明の実施形態によれば、本発明の凍結乾燥製剤または水性医薬組成物は、急性呼吸促迫症候群(ARDS)または全身性炎症反応症候群(SIRS)および他の外傷性症状における脈管漏出の予防および/または治療における使用に好適である。
【0056】
本発明の別の実施形態によれば、本発明の凍結乾燥製剤または水性医薬組成物は、脈管または心臓の手術および臓器移植における虚血−再灌流傷害の予防および/または治療における使用、または主要な脈管または心臓の手術および臓器移植前の虚血プレコンディショニングにおける使用に好適である。加えて、本発明の凍結乾燥製剤または水性医薬組成物は、心筋梗塞および脳卒中における虚血−再灌流傷害の予防および/または治療における使用に好適である。
【0057】
本発明の別の実施形態によれば、本発明の凍結乾燥製剤または水性医薬組成物は、急性膵炎または急性腎傷害の予防および/または治療における使用に好適であるが、これらの例に限定されるものではない。
【0058】
本発明の凍結乾燥製剤または水性医薬組成物は、EBOLA、MERS、鳥インフルエンザなどのインフルエンザなどの深刻な生命を脅かすウイルス感染、および全身性炎症反応症候群(SIRS)や中心器官の機能不全などの原因となる他の同様の症状における使用にも好適である。
【0059】
さらに、本発明の凍結乾燥製剤または水性医薬組成物は、全身性炎症反応症候群(SIRS)および多臓器不全(MOF)の原因となる重篤な細菌性肺炎および敗血症における使用にも適している。本発明の実施形態によれば、凍結乾燥製剤または水性医薬組成物は、MOFの予防および/または治療において使用される。
【0060】
患者を治療する方法は、少なくとも以下の工程
−本発明の凍結乾燥製剤を提供する工程、
−その凍結乾燥製剤を再構成する工程、および
−再構成された水性組成物を患者に投与する工程
を含む。
【0061】
本明細書において説明される患者を治療する方法の実施形態の一つにおいて、患者は、脈管内皮疾患または本出願において説明される他の症状を患う。INF−ベータ1aの投与は、疾患の診断後、可能な限り早く開始されるべきであり、所望の用量の投与を毎日、最少6日間継続すべきである。本発明の実施形態によれば、インターフェロンベータ−1aを2.0〜15μgの量含む少なくとも一用量が患者に毎日投与され、そして投与は少なくとも6日間続けられるべきである。
【0062】
以下の実施例は、説明のために供されるものであり、制限のためのものではない。
【実施例】
【0063】
実験の部
本発明は、以下の実験においてより詳細に説明される。本出願の実験の部は、種々の部に分けられる。第一部、「製剤試験A」は、INF−ベータ1aの安定性に関し種々の賦形剤を比較することに焦点を当てている。安定性試験は、凍結乾燥状態において、40℃で4週間、INF−ベータ1aの安定性を保証するために、凍結乾燥溶液(lyo solution)の組成を検討する。第二部、「製剤試験B」は製剤試験Aの結果に基づき、選択された製剤が、賦形剤の有効比率を決定するためのさらなる研究に用いられた。第三部、「凍結乾燥試験」は、本発明の製剤に適した凍結乾燥サイクルに焦点を当てている。第四部、「安定性試験」は、本発明の凍結乾燥製剤と再構成および臨床適用に使用されるデバイスおよびプレフィルドWFIシリンジとの適合性を調査する。第五部、「生物学的有効性試験」は、インターフェロンベータ−1aの凍結乾燥品の有効性を決定する。
【0064】
1.製剤試験A
種々の製剤を再構成後のインターフェロンベータ−1aの回復および凍結乾燥中の可溶性凝集体の形成に関して分析した。製剤は、実現可能性の検討をもとに構成した。加えて、試料を40℃で12週間を超えて保管し、保管中に最も安定な製剤を同定するために、インターフェロンベータ−1aの含有量を、一定の時点で分析した。
【0065】
INF−ベータ1aの凍結乾燥溶液(lyophilisation solution)の処方
INF−ベータ1a製剤原料(Rentschler Biotechnologie社より提供)を、配合の開始前に遠心分離(10分、4000rpm)および滅菌ろ過(0.2μm)により精製し、存在する不溶性凝集体を除去した。得られたインターフェロンベータ−1a濃度は、UV分光法(280nm;UV−分光器 Carry50、バリアン)により測定し、3種類の精製手法の後で285μg/mlを得た。INF−ベータ1a濃度の計算値は、吸光係数に基いたものである(1.351mL*μg-1*cm-1)。
【0066】
賦形剤を、対応する標的濃度にしたがって液体製剤として使用したクエン酸緩衝液に添加した。表1は、使用された種々の製剤を示す。バルク剤は二糖類、アミノ酸および糖アルコールの化学的分類から選択し、それらの二つ(スクロースとマンニトール)をさらに組み合わせた。全ての賦形剤は、さらにTween20と組み合わせた。これらのストック溶液を精製したINF−ベータ1a製剤原料と30μg/mlのINF−ベータ1a濃度に到達するための比率で混合した。
【0067】
【表1】
【0068】
滅菌ろ過後、対応する凍結乾燥溶液1mlを10RガラスtypeIバイアルに充填した。
【0069】
凍結乾燥
充填したバイアルは、凍結乾燥機にロードされ、熱輻射から遮蔽された。表2に示す凍結乾燥サイクルを試料の製造のために使用した。
【0070】
【表2】
【0071】
凍結乾燥物の再構成
1mlのWFI(注射用水)を凍結乾燥物に添加し、それらを再構成した。完全に溶解した後、溶液をピペット操作により3回上下させて均質化し、反応管に移した。インターフェロンベータ−1aの含有量を、RP−HPLC法を用いてメーカーの操作手順にしたがい再構成後に分析した。
【0072】
【表3】
【0073】
Tweenを含まない全ての製剤は、再構成後、適用されたINF−ベータ1aのわずかな回復のみ、目標量の三分の一のみを生じた。Tween20を含む製剤は、完全に反対の事実を示した。再構成後の回復は、使用した賦形剤にかかわらず目標量を生じた。したがって、Tween20などの洗剤は、数分子のINF−ベータ1aの空間的隔離を達成し、凍結乾燥および再構成の間のINF−ベータ1aの損失を防ぐために必要であることは明らかである。
【0074】
平行して、非還元SDS−PAGE法をメーカーの操作手順にしたがい、再構成された凍結乾燥物に対して行った。非還元状態に到達するために、還元剤を蒸留水により置換した。ウェル当たりの分量は、6μgで一定に保った。定量化は行わなかった。図1〜4は、得られたゲルを表示する。図中の白数字は列を示し、黒数字は分子量を示す。
【0075】
図1:列1+9:MW−マーカー;列2+3:5%スクロース、列4+5:5%トレハロース;列6+7:5%アルギニンリン酸;列8:製剤原料;列10:参照材料。
図2:列1+2:5%グリシン;列3+9:MW−マーカー;列4+5:5%マンニトール;列6+7:2.5%スクロース+2.5%マンニトール;列8:製剤原料;列10:参照材料。
図3:列1+2:5%スクロース+0.1%Tween20;列3+4:5%トレハロース+0.1%Tween20;列5+9:MW−マーカー;列6+7:5%アルギニンリン酸+0.1%Tween20;列8:製剤原料;列10:参照材料。
図4:列1+6:MW−マーカー;列2+3:5%グリシン+0.1%Tween20;列4+5:5%マンニトール+0.1%Tween20;列7+8:2.5%スクロース+2.5%マンニトール+0.1%Tween20;列9:製剤原料;列10:参照材料。
【0076】
ゲル1(図1参照)およびゲル2(図2参照)は、Tween20を欠く製剤をロードした。個々の試料のバンド強度は、INF−ベータ1aの様々な回復により異なる(表3参照)。ゲル1上の製剤(スクロース、トレハロースおよびアルギニンリン酸)は、INF−ベータ1aの主要バンドとは別に、二量化INF−ベータ1aの分子量を示す弱いバンドを示す。このバンドはまた製剤原料にも現れた(図1の列8参照)。したがって、可溶性凝集体は、凍結乾燥の間これらの賦形剤の存在下でさらには産生されなかった。同様の事実はゲル2においても見られた。グリシンとスクロースおよびマンニトールの混合物とを有する製剤は、二量体バンドをわずかしか示さない(図2の列1+2および6+7参照)。しかしながら、それはINF−ベータ1aの回復が乏しいため、これらの列にロードされた低タンパク質が原因とされる。マンニトール製剤は二量化バンドを示した。その強度は、製剤原料のものと同等である(図2の列4+5参照)。したがって、可溶性凝集体は、凍結乾燥のあいだこれらの賦形剤の存在下ではさらに産生されなかった。
【0077】
ゲル3(図3参照)およびゲル4(図4参照)は、Tween20を含む製剤を備えていた。すべての試料のバンド強度は、INF−ベータ1aの完全な回復のため一定である。ゲル3およびゲル4上のすべての製剤は、二量化バンドを示し、その強度は製剤原料の二量化バンドと同等である。凍結乾燥のあいだ、これらの製剤において可溶性凝集体は産生されなかった。
【0078】
凍結乾燥物の安定性
表4に挙げる製剤を、上述の凍結乾燥実現可能性試験の結果に基づき、先と同じ凍結乾燥サイクル(表2に説明されている)を用いて製造した。
【0079】
【表4】
【0080】
スクロースおよびトレハロースは二糖類の分類を代表し、アルギニンリン酸およびグリシンは、よく使用されるアミノ酸であり、そしてマンニトールは糖アルコールの分類からよく適用される賦形剤である。これらの化学的グループ由来の物質は、水素結合により凍結−ケーキ内部のタンパク質を安定化することができる。すべての製剤はTween20またはTween80のいずれかを含む。INF−ベータ1aの液体製剤においても存在するメチオニンの濃度は、酸化に対する保護を維持するため一定を保った。
【0081】
40℃での安定性試験のあいだのINF−ベータ1aのRP−HPLC分析
RP−HPLC法およびSDS−PAGE法は、安定性試験の間、INF−ベータ1aの分析に適用された。RP−HPLC法は、酸化産物などの分解産物、凝集産物、およびタンパク質の折り畳み構造の変化の測定のみならず、INF−ベータ1aの定量化を可能とする。試料は、凍結乾燥および40℃での2週間、4週間、8週間および12週間の保管期間の後分析した。
【0082】
図5は、凍結乾燥物の再構成後のINF−ベータ1aの定量化を示す。定量化は、分解産物を含む総ピーク面積に基づき行った。黒線は、100%限界を表す凍結乾燥前の凍結乾燥溶液の上限および下限を示す。
【0083】
ほとんどの製剤の再溶解INF−ベータ1a含量は、凍結乾燥の直後、約80%回復(6μgの損失)の範囲であった。最良の回復は、スクロース/Tween20およびスクロース/マンニトール/Tween80製剤で得られた(約90%回復)。スクロース/マンニトール/Tween20に加えてトレハロース/Tween20、アルギニンリン酸/Tween20、グリシン/Tween20およびマンニトール/Tween20、製剤を含む製剤クラスターは、約80%の値の二番目に最良の回復を与える。最低の回復(70%未満)は、アルギニンリン酸/Tween80およびスクロース/アルギニンリン酸/Tween20製剤で得られた。
【0084】
40℃で1週間保管後、個々の製剤の回復は顕著に異なり始めた。スクロース/Tween20製剤の回復は、90%で一定のままであった。トレハロース/Tween20およびグリシン/Tween20も、それらの開始時点と同等の回復値を示した。すべての他の製剤の回復は、多かれ少なかれ減少した。大きな損失は、アルギニンリン酸/Tween20(約50%)およびアルギニンリン酸/Tween80(40%未満)製剤で観察された。他のすべての製剤は、約65%の回復の範囲であった。
【0085】
写真は2週間保管後ほぼ一定のままであった。再度、スクロース/Tween20およびトレハロース/Tween20製剤は一定の回復を示したが、ここで、グリシン/Tween20製剤の回復は減少し始めた(先の時点と比較して約5%)。他のすべての製剤の回復は、約10%に下落した。
【0086】
40℃で12週間保管後、スクロース/Tween20およびトレハロース/Tween20製剤は、なお一定値で最良の回復を明らかに示した。それで、活性剤の損失は、40℃で12週間の期間を超える保管の間、これらの製剤において観察されなかった。他のすべての製剤において、INF−ベータ1aの回復は多かれ少なかれ減少を示した。
【0087】
図6は、40℃で保管された間の酸化されたINF−ベータ1a種の増加を表す親水性ピークの相対ピーク面積の経過を示す。黒線は、参照材料のクロマトグラフからの親水性ピークの相対ピーク面積の上限および下限を示す。
【0088】
参照材料のレベルで、酸化されたINF−ベータ1aの相対ピーク面積は、凍結乾燥直後すべての製剤において一定のままであった。したがって、凍結乾燥製造工程は、INF−ベータ1aの酸化を誘導しなかった。
【0089】
保管中、これらの分解産物の相対ピーク面積は、存在する賦形剤によって多かれ少なかれ増加した。40℃で2週間保管した後、アルギニンリン酸/Tween20、スクロース/マンニトール/Tween20、アルギニンリン酸/Tween80およびスクロース/アルギニンリン酸/Tween20製剤は、相対ピーク面積の明らかな増加(約8%)を示した。他の製剤の相対親水性ピーク面積は一定を維持した。2週間の保管期間後、酸化種の相対ピーク面積のさらなる増加は、スクロース/マンニトール/Tween80製剤(40℃での保管8週間まで親水性分解産物の相対ピーク面積の着実な増加を示した)以外、いずれの製剤においても観察されなかった。この事実は、12週間の時点に到達するまで有効であった。したがって、スクロース/Tween20、トレハロース/Tween20、グリシン/Tween20およびマンニトール/Tween20を有する製剤が、40℃で12週間の保管期間まで酸化に対してINF−ベータ1aを保護できることを想定することができる。加えて、酸化に対する主な安定化効果は、メチオニンが存在することに起因する。しかし、すべての製剤が同量のメチオニンを含んでいるため、いくつかの賦形剤がメチオニンの安定化効果に追加されると思われる。
【0090】
図7は、40℃での保管の間のタンパク質の折り畳み構造の変化を意味するINF−ベータ1a種の増加を表す疎水性ピークの相対ピーク面積の経過を示す。黒線は参照材料のクロマトグラム由来の疎水性ピークの相対ピーク面積の上限および下限を示す。
【0091】
疎水性分解産物のみが安定性試験中に観察され、それは、変化した折り畳み構造状態を有するINF−ベータ1a種が原因である。可溶性凝集体の形成は、いずれの試料においても観察されなかった。したがって、問題を表すINF−ベータ1aの凝集はない。凍結乾燥直後に疎水性分解産物の何らかの増加を示す製剤はなかった。したがって、凍結乾燥のみではINF−ベータ1a折り畳み構造に変化を引き起こさなかった。スクロース/Tween20およびトレハロース/Tween20の2つの製剤は、そのような保管中の分解産物に対する最良の安定化効果を示した。他のすべての製剤は、12週間の安定性試験を通して多かれ少なかれこれらの分解産物の増加を示した。疎水性分解産物の考慮すべき増加は、スクロース/マンニトール/Tween20およびスクロース/マンニトール/Tween80製剤において見られた。
【0092】
RP−HPLC分析により、スクロースおよびトレハロースが、凍結乾燥状態におけるINF−ベータ1aの安定化に対する最も好適な賦形剤であることが分かった。
【0093】
40℃での安定性試験中のINF−ベータ1aのSDS−PAGE分析
ゲルは、安定性試験の各時点でSDS−PAGEで得た。非還元状態は、全ての時点で維持され、一方、還元状態は8週間および12週間の時点で適用したのみである。8週間後、アルギニンリン酸/Tween20およびアルギニンリン酸/Tween80を有する製剤は、これらの製剤の回復がRP−HPLC測定により示されたように充足していなかったので分析しなかった。
【0094】
INF−ベータ1a製剤原料または参照材料と比較した場合、いずれの試料においてもバンドパターンに変化は、凍結乾燥直後にも保管期間の最初の4週間以内にも生じなかった。いくつかの試料は、1つのゲルにおいて次のゲルよりも弱い二量化バンドを示したが、二量化バンド強度を増加させる傾向は継続中の保管期間では見られなかった。40℃で8週間保管後、製剤、マンニトール/Tween20、スクロース/マンニトール/Tween20、スクロース/アルギニンリン酸/Tween20およびスクロース/マンニトール/Tween80は、非還元条件下、二量化バンドの増加を示した。すべての他の製剤は、それらのバンドパターンに変化を示さなかった。40℃で12週間保管後、40℃で8週間の保管後のピークパターンと比較した場合、いずれの製剤においてもピークパターンにさらなる変化は観察されなかった。
【0095】
図8は、40℃で12週間保管後の、表4の製剤1、2、4、5、7、8および9の再構成された凍結乾燥物の非還元SDS−PAGEを示す。白色数字は列を示し、黒色数字は分子量を示す。列1+9:MW−マーカー;列2:5%スクロース+0.1%Tween20;列3:5%トレハロース+0.1%Tween20;列4:列5:5%グリシン+0.1%Tween20;列5:5%マンニトール+1%Tween20;列6:2.5%スクロース+2.5%マンニトール+0.1%Tween20;列7:1%スクロース+4%アルギニンリン酸+0.1%Tween20;列8:2.5%スクロース+2.5%マンニトール+0.1%Tween80;列10:製剤原料。
【0096】
図9は、40℃で12週間保管後の、表4の製剤1、2、4、5、7、8および10の再構成された凍結乾燥物の還元SDS−PAGEを示す。白色数字は列を示し、黒色数字は分子量を示す。列1+10:MW−マーカー;列2:5%スクロース+0.1%Tween20;列3:5%トレハロース+0.1%Tween20;列4:列5:5%グリシン+0.1%Tween20;列5:5%マンニトール+1%Tween20;列6:2.5%スクロース+2.5%マンニトール+0.1%Tween20;列7:1%スクロース+4%アルギニンリン酸+0.1%Tween20;列8:2.5%スクロース+2.5%マンニトール+0.1%Tween80;列9:製剤原料。
【0097】
すべてのSDS−PAGE結果のすべては、INF−ベータ1aの最も安定なピークパターンがトレハロース/Tween20およびスクロース/Tween20製剤で得られたことを示した。
【0098】
ガラス表面上への吸着
実験は、液体状態においてINF−ベータ1aの種々の材料の表面への吸着量を調査することを目的とする。凍結乾燥品の一次包装材料として使用されるバイアル材料の選択は、材料が滅菌可能で不活性でなければならないために制限される。これらの必須条件に基づけば、以下の材料:ポリプロピレン(PP)、環状オレフィン共重合体(COC)、標準ガラスtype1およびシリコーン処理ガラスtype1が適切である。場合によっては、ガラスtype1の熱処理が表面上へのタンパク質の吸着挙動への影響を示す。したがって、未処理ガラスバイアルと加熱滅菌ガラスバイアルとを次の実験に使用した。吸着量はTweenのみの存在下で測定した。結果を図10において説明する。
【0099】
COCバイアル、PPバイアル、ならびにシリコーン処理ガラスtype1バイアルに充填した試料の回復は、4番目の容器変更までは一定のままであった。未処理試料および加熱滅菌ガラスtype1バイアルに充填された試料は、約10%の回復の減少を示した(図10参照)。この実験は、INF−ベータ1aの吸着が、Tweenの存在下、より疎水性表面で排除することができたということを明らかに証明している。したがって、一次包装材料としてシリコーン処理ガラスtype1を使用することが推奨される。
【0100】
2.製剤試験B
この製剤試験は、製剤試験Aの結果に基づき、選択された製剤は、賦形剤の有効比率を決定するための更なる試験に用いられる。
【0101】
INF−ベータ1a凍結乾燥溶液の配合
INF−ベータ1a製剤原料(Rentschler Biotechnologie社より提供)を、配合の開始前に遠心分離(10分、4000rpm)および滅菌ろ過(0.2μm)により精製し、存在する不溶性凝集体を除去した。得られたインターフェロンベータ−1a濃度は、UV分光法(280nm;UV−分光器 Carry50、バリアン)により測定した。INF−ベータ1a濃度の計算値は、吸光係数に基いたものである(1.351mL*μg-1*cm-1)。
【0102】
賦形剤ならびに緩衝成分を、対応する比率でWFI(注射用水)に溶解した。試験Bの種々の製剤を表5に示す。各製剤の1つのバイアルの正確な含有量を表6に示す。精製したINF−ベータ1a製剤原料を、最終凍結乾燥溶液でおおよそ24μg/mLのINF−ベータ1a濃度を達成するために添加した。最終的には、種々の凍結乾燥溶液を、凍結乾燥溶液の密度に基づき算出した目標重量までWFIで満たした。
【0103】
【表5】
【0104】
【表6】
【0105】
滅菌ろ過後、1mLの対応する凍結乾燥溶液をシリコーン処理10Rガラスtype1バイアルに充填した。
【0106】
5%スクロースおよび5%トレハロースを含む凍結乾燥溶液の密度は、25℃で1.034g/mlであり、7.5%スクロースおよび7.5%トレハロースを含む凍結乾燥溶液の測定密度は、25℃で1.043g/mlであった。
【0107】
凍結乾燥
充填したバイアルを凍結乾燥機にかけ、熱輻射を遮蔽した。表7に示す凍結乾燥サイクルを試料の調製のために使用した。
【0108】
【表7】
【0109】
得られた凍結乾燥物はすべて、何らの欠陥や崩壊もない良好な微視的な外観を示した。
【0110】
凍結乾燥物の再構成
1mlのWFIを凍結乾燥物に添加し、それらを再構成した。完全に溶解した後、溶液をピペット操作により3回上下させて均質化し、HPLCバイアルに移した。INF−ベータ1aの含有量を、RP−HPLCを用いて測定した。RP−HPLC法は、メーカーの操作手順にしたがい行った。
【0111】
凍結乾燥溶液および凍結乾燥物のINF−ベータ1aの含有量
凍結乾燥溶液および再構成された凍結乾燥物のINF−ベータ1aの含有量は、凍結乾燥直後にRP−HPLCを用いて測定した。表8は凍結乾燥溶液のINF−ベータ1aの含有量を示す。
【0112】
【表8】
【0113】
凍結乾燥物の再構成後のINF−ベータ1aの回復は、凍結乾燥直後に測定した。結果を表9に示す。すべての製剤は、凍結乾燥溶液の標準偏差内のINF−ベータ1aの完全な回復を示した。
【0114】
【表9】
【0115】
凍結乾燥物の残留水含量
凍結乾燥物の最適な保存安定性を促進するために、凍結ケーキの残留(ここでは:結合水は含まず遊離のみ)水は、カール・フィッシャー滴定により測定した。凍結乾燥直後の凍結乾燥物において測定される遊離の残留水含量の値を表10に示す。すべての製剤は、約1%の遊離の残留水を含んでいた。
【0116】
カール・フィッシャー滴定の密閉バイアルを、注射針が栓に貫通したカール・フィッシャー電量計のオーブン(80℃)に移した。80℃で生じた水蒸気を、乾燥窒素を用いてカール・フィッシャー電量計の注射針を通じて直接滴定チャンバーに移した。残留水含量の計算は、凍結ケーキの理論重量に基づいた。
【0117】
【表10】
【0118】
シリコーン処理ガラスバイアルへのおよび栓へのINF−ベータ1aの吸着
異なる供給元(ゲレスハイマー(Gerresheimer)社、スコット社)からの2つの種類のシリコーン処理ガラスバイアルをこの試験に用いた。両供給元のバイアルを水溶液からのINF−ベータ1aの吸着について試験した。
【0119】
精製したINF−ベータ1aDSを、Tween20を含むクエン酸緩衝液で30μg/mlの濃度に希釈した。Tween20濃度は0.1%(w/v)に設定した。溶液を異なる製造業者からのシリコーン処理バイアルに充填した。試料を短時間のインキュベーション後に採取し、残りの溶液を対応する種類の新しいバイアルに移した。この手順を4回繰り返した。試料中のINF−ベータ1a含量をRP−HPLCを用いて分析した。図11はこの試験の結果を示す。INF−ベータ1aの濃度は、使用されたバイアルに関わりなく、4回の移送工程すべてにわたって一定のままである。したがって、INF−ベータ1aのガラス表面への吸着は、両ケースにおいて無視できる。
【0120】
INF−ベータ1aの栓(単一弁凍結乾燥栓20mm;ウェスト ファーマシューティカル サービス)への吸着を、シリコーン処理ガラスバイアルでの調査と同様に調べた。溶液をシリコーン処理バイアルに充填し、バイアルを2つの異なる種類の栓を用いて密閉した。密閉したバイアルをひっくり返し、栓と液体との直接接触を達成した。バイアルを、短時間のインキュベーション後に反転させ、試料を採取した。この手順を4回繰り返した。試料のINF−ベータ1a含量をRP−HPLCを用いて分析した。結果を図12に示す。INF−ベータ1aの濃度は、両栓への繰り返し接触後、一定のままである。したがって、シリコーン処理栓を用いることにより、INF−ベータ1aの栓への吸着は防ぐことができる。
【0121】
3.凍結乾燥試験
この試験において、凍結乾燥溶液の製剤のための約31時間の凍結乾燥サイクルの実行可能性を検証した。
【0122】
凍結乾燥溶液の処方
INF−ベータ1a製剤原料(Rentschler Biotechnologie社より提供)を、配合の開始前に遠心分離(10分、4000rpm)および滅菌ろ過(0.2μm)により精製し、存在する不溶性凝集体を除去した。得られたINF−ベータ1a濃度は、UV分光法(280nm)により測定した。INF−ベータ1a濃度の計算は、吸光係数に基いたものである(1.351mL*μg-1*cm-1)。賦形剤ならびに緩衝成分を、対応する比率でWFIに溶解した(表11参照)。精製したINF−ベータ1a製剤原料を、最終凍結乾燥溶液でおおよそ17.5μg/mLのINF−ベータ1a濃度を達成するために添加した。最終的には、凍結乾燥溶液を、凍結乾燥溶液の密度(1.034g/mL)に基づき算出した目標重量までWFIで満たした。親水性のPVDF膜を用いた滅菌ろ過後、0.65、それぞれ0.725mLの凍結乾燥溶液を手でシリコーン処理2Rガラスtype1バイアルに充填した。
【0123】
【表11】
【0124】
凍結乾燥サイクル
凍結乾燥溶液を、表12に示される凍結乾燥サイクルを用いて凍結乾燥した。アニーリング有りと無しとの試料を互いに比較した。アニーリング無しの試料はアニーリング工程後にロードした。
【0125】
【表12】
【0126】
図13は、凍結乾燥サイクルの主な凍結乾燥パラメータのデジタルデータ収集を示す。
【0127】
棚温度およびチャンバー圧データは、凍結乾燥中の条件がプリセット仕様に従っていたことを証明する。製品温度は、凍結およびアニーリングのあいだ棚温度に密接に追従し、熱処理のための明確に定義された条件を示した。アニーリング有りおよび無しの試料の製品温度の経過は、全凍結乾燥プロセスにわたって同等であった。一次乾燥の終わりは、容量センサーにより測定される圧力の上昇により示され、一次乾燥のおおよそ4.2時間後に終わった(ランプなし)。
【0128】
イメージング
ガラスバイアルを破壊し、凍結乾燥物をガラスの断片から分離した。凍結乾燥物の内側のイメージングのためにランセットを用いて凍結乾燥物を垂直に切断した。凍結乾燥物の上面、底面および切断面の写真を撮影した。加えて、凍結乾燥物を破壊することなく、凍結乾燥物の崩壊した構造を同定するために透過光画像を作成した。
【0129】
図14のアニーリング有り(右)ならびにアニーリング無し(左)の試料の垂直断面は、崩壊の兆候を示さなかった。両試料の結晶構造は、非常に均質でコンパクトであった。
【0130】
図15のアニーリング有りの試料の透過光画像(左)も、アニーリング無しの試料の透過光画像(右)も、何ら崩壊の兆候を表さなかった。
【0131】
凍結乾燥物の熱分析
図13は、アニーリング有りの試料とアニーリング無しの試料とのガラス転移温度を比較する。
【0132】
【表13】
【0133】
アニーリング有りの凍結乾燥物は、アニーリング無しの凍結乾燥物よりも約10℃高いガラス転移を示した。アニーリング工程は、凍結ケーキの空隙率を増加させる。したがって、吸着水は二次乾燥のあいだにより容易に除去される。可塑剤としての水が通常ガラス転移温度を減少させるので、残留水はガラス転移温度を低下させる。
【0134】
溶解試験
凍結乾燥物は、1mLシリンジを用いて再構成した。凍結乾燥物の完全な溶解に必要とされる時間を測定した。表14はアニーリング有りおよび無しの凍結乾燥物の溶解時間を示す。
【0135】
【表14】
【0136】
再構成挙動は、アニーリング工程により明らかに最適化された。アニーリング有りの試料の平均溶解時間は、アニーリング無しの試料と比較しておおよそ20秒速かった。
【0137】
この31時間の凍結乾燥サイクルの凍結および一次乾燥に関するパラメータは、本発明の凍結乾燥物の凍結乾燥について最適な設定を表示した。
【0138】
4.安定性試験
安定性試験は、先の製剤試験Bにより凍結乾燥された製剤と、再構成および臨床適用に用いられるデバイスおよびプレフィルドWFIシリンジとの適合性を調べた。
【0139】
適合性試験において、MIXJECT(商標)移送デバイスおよびプレフィルドWFIシリンジを、2Rバイアルで提供された凍結乾燥された製剤の再構成に用いた。試験は、再構成された製剤の、バイアルとの、適用したMIXJECT(商標)移送デバイスおよびプレフィルドWFIシリンジとの適合性に関するデータを提供する。再構成された製剤の安定性の調査は、バイアル中で0および24時間保管後と、光防護下の室温(RT)で、バイアル中およびシリンジ中の両方で24時間保管後に行った。加えて、製剤の溶液の容量および密度を、製剤の再構成から、シリンジからの薬物溶液の投与までにIFN−ベータ1aの損失があるかどうかを評価するために測定した。
【0140】
一次包装材料を表15に示し、再構成および臨床使用に使用した材料を表16に説明する。
【0141】
【表15】
【0142】
【表16】
【0143】
適合性データは、次の分析から得られた:異なる時点での、清澄性、色、可視粒子、ペプチドマッピング、RP−HPLC、バイオアッセイ、SE−HPLC、脱アミド化、pH−値、オスモル濃度、肉眼で見えない粒子ならびに再構成された製剤の密度および容量。製剤としての許容基準は表17に示す。
【0144】
【表17】
【0145】
図16〜18に表す表は、バイアル中で0時間および24時間、ならびにシリンジ中での24時間後にさらにシリンジ中で24時間(48時間値)にわたって室温で保存した分析結果の編集を示す。
【0146】
図16〜18の表に示されるように、適合性試験の結果は、すべての許容基準を満たした。保管期間において、清澄性、色および可視粒子について許容基準および目標値は満たされた。製剤の同定は、ペプチドマッピングを適用する対応する参照標準との比較において確認した。溶出プロファイルは、全保管期間にわたって参照標準のものと一致した。RP−HPLCにより分析した製剤のタンパク質含量、およびバイオアッセイにより分析した効力は、目標値および許容基準を満たした。SE−HPLC分析により、凝集体の相対ピーク面積は、<0.8%と測定された(報告レベルより低い)。製剤における酸化されたIFNベータ−1aの程度は、ペプチドマッピングにより測定されたように試験期間を通して目標値を満たしていた。脱アミド化分析により、製剤における脱アミド化IFN−ベータ−1aの程度は、41.2面積−%〜48.7面積−%まで増加したことを示した。pH、オスモル濃度の結果は、目標値を満たした。肉眼で見えない粒子の結果も許容基準を満たした。
【0147】
要約すれば、適合性試験は、本発明の凍結乾燥製剤が、WFIで再構成後、一次包装材料中で室温(RT)で48時間まで安定であり、使用された一次包装材料中室温で24時間にわたって、ならびにシリンジ中さらに24時間にわたって、MIXJECT(商標)移送デバイスおよびプレフィルドWFIシリンジを用いて安定であるということを示す。
【0148】
再構成中の溶液の容量の測定
再構成の3つの異なる工程のあいだの溶液の容量を測定する意図は、臨床適用のあいだのタンパク質の損失[μg]の決定である(製剤の再構成からシリンジからの溶液の送達までの損失)。再構成中の損失は、充填容器と空容器との異なる重量測定により決定した。溶液の密度結果とあわせて、対応する容量を算出した。これらの結果を図19および20に示す表にまとめる。再構成された製剤の容量および密度決定は、MIXJECT(商標)移送デバイス有りと無しで行った。
【0149】
適用中の溶液の容量の測定は、結果として以下の値となった。1.020mL WFI(密度:0.9981g/mL)がプレフィルドシリンジから送達される。再構成後の試料溶液の総容量は、1.026mL(密度:1.0266g/mL)である。1.011mL(密度:1.0247g/mL)の再構成された製剤をMIXJECT(商標)移送デバイスを使用しないでシリンジから送達し、MIXJECT(商標)移送デバイスを用いる場合、0.989mL(密度:1.0252g/mL)を送達する。測定されたこれらの値と含有量の値と併せて、1μgのIFNベータ−1aの損失が、製剤の再構成の時点からシリンジからの溶液の送達までに測定された。
【0150】
5.生物学的有効性試験
この試験の目的は、カニクイザルに少なくとも28日間、静脈内ボーラス注射を与えた場合のインターフェロンベータ−1aの凍結乾燥製品の生物学的有効性を測定すること、およびヒトにおけるインターフェロンベータ−1aの凍結乾燥品の使用をサポートするためのデータを提供することであった。試験計画を表18に示す。
【0151】
【表18】
【0152】
注射用水を対照品として使用した。
【0153】
次のパラメータおよび評価項目をこの試験において評価した:FP−1201の種々の用量での薬物動態活性、臨床兆候、体重、体重変化、眼科、心電図記録法、体温、臨床病理学パラメータ(血液学、凝固、臨床化学、および尿検査)、免疫原性分析、肉眼的剖検所見、臓器重量、および組織病理学検査)。
【0154】
治療に起因する臨床観察はなかった。
【0155】
治療に関連する眼科的知見はなく、また心電図や体温は変化しなかった。
【0156】
治療に起因する尿組成の変化はなかった。
【0157】
ミクソウイルス耐性タンパク質A(MxA)は、IFNベータ生物活性の最良のマーカーの一つであり、多発性硬化症の患者におけるIFN−ベータ治療の有効性を検出するための臨床環境において広く使用されている。したがって、治療した動物において、MxAを追跡した。MxA濃度は、期待したように、IFNベータ−1aで治療したすべての動物において誘導された。IFNベータ−1の3つの用量レベルのすべては、用量応答的に数倍のMxA誘導を誘導した。MxA濃度は、6日目から16日目まで高いままであり、その後、図21に示すように徐々に減少した(群1(ひし形)、群2(四角)、群3(三角)および群4(円))。この漸減は、これらの動物におけるIFNベータ−1中和抗体の発達による可能性が最も高い。IFN−ベータに対する中和抗体の発達は、多発性硬化症のIFN−ベータ治療数ヵ月後または数年後にもヒトにおいて観察される。対照動物は、MxAの誘導を示さず、値は治療期間を通して基準濃度のままであった。IFNベータ−1用量が高くなればMxA発現レベルは高くなるが、明確な生物学的応答は、最も低い用量を用いても見られた。
【0158】
臓器重量の変化はなく、また治療に起因する剖検または組織病理所見もなかった。
【0159】
結論として、カニクイザルへの0.25、1.0または3.0 MIU/kg/日の用量レベルでのFP−1201(本発明のインターフェロンベータ−1a製剤)の28日間の毎日の静脈内投与は、MxA誘導の予想される増加を伴い、良好に耐容した。血液学や臨床化学パラメータの小さな変化および中和抗体活性の増加は、特に3.0 MIU/kg/日での治療の終了時に観察された。
図1
図2
図3
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