【実施例】
【0063】
実験の部
本発明は、以下の実験においてより詳細に説明される。本出願の実験の部は、種々の部に分けられる。第一部、「製剤試験A」は、INF−ベータ1aの安定性に関し種々の賦形剤を比較することに焦点を当てている。安定性試験は、凍結乾燥状態において、40℃で4週間、INF−ベータ1aの安定性を保証するために、凍結乾燥溶液(lyo solution)の組成を検討する。第二部、「製剤試験B」は製剤試験Aの結果に基づき、選択された製剤が、賦形剤の有効比率を決定するためのさらなる研究に用いられた。第三部、「凍結乾燥試験」は、本発明の製剤に適した凍結乾燥サイクルに焦点を当てている。第四部、「安定性試験」は、本発明の凍結乾燥製剤と再構成および臨床適用に使用されるデバイスおよびプレフィルドWFIシリンジとの適合性を調査する。第五部、「生物学的有効性試験」は、インターフェロンベータ−1aの凍結乾燥品の有効性を決定する。
【0064】
1.製剤試験A
種々の製剤を再構成後のインターフェロンベータ−1aの回復および凍結乾燥中の可溶性凝集体の形成に関して分析した。製剤は、実現可能性の検討をもとに構成した。加えて、試料を40℃で12週間を超えて保管し、保管中に最も安定な製剤を同定するために、インターフェロンベータ−1aの含有量を、一定の時点で分析した。
【0065】
INF−ベータ1aの凍結乾燥溶液(lyophilisation solution)の処方
INF−ベータ1a製剤原料(Rentschler Biotechnologie社より提供)を、配合の開始前に遠心分離(10分、4000rpm)および滅菌ろ過(0.2μm)により精製し、存在する不溶性凝集体を除去した。得られたインターフェロンベータ−1a濃度は、UV分光法(280nm;UV−分光器 Carry50、バリアン)により測定し、3種類の精製手法の後で285μg/mlを得た。INF−ベータ1a濃度の計算値は、吸光係数に基いたものである(1.351mL
*μg
-1*cm
-1)。
【0066】
賦形剤を、対応する標的濃度にしたがって液体製剤として使用したクエン酸緩衝液に添加した。表1は、使用された種々の製剤を示す。バルク剤は二糖類、アミノ酸および糖アルコールの化学的分類から選択し、それらの二つ(スクロースとマンニトール)をさらに組み合わせた。全ての賦形剤は、さらにTween20と組み合わせた。これらのストック溶液を精製したINF−ベータ1a製剤原料と30μg/mlのINF−ベータ1a濃度に到達するための比率で混合した。
【0067】
【表1】
【0068】
滅菌ろ過後、対応する凍結乾燥溶液1mlを10RガラスtypeIバイアルに充填した。
【0069】
凍結乾燥
充填したバイアルは、凍結乾燥機にロードされ、熱輻射から遮蔽された。表2に示す凍結乾燥サイクルを試料の製造のために使用した。
【0070】
【表2】
【0071】
凍結乾燥物の再構成
1mlのWFI(注射用水)を凍結乾燥物に添加し、それらを再構成した。完全に溶解した後、溶液をピペット操作により3回上下させて均質化し、反応管に移した。インターフェロンベータ−1aの含有量を、RP−HPLC法を用いてメーカーの操作手順にしたがい再構成後に分析した。
【0072】
【表3】
【0073】
Tweenを含まない全ての製剤は、再構成後、適用されたINF−ベータ1aのわずかな回復のみ、目標量の三分の一のみを生じた。Tween20を含む製剤は、完全に反対の事実を示した。再構成後の回復は、使用した賦形剤にかかわらず目標量を生じた。したがって、Tween20などの洗剤は、数分子のINF−ベータ1aの空間的隔離を達成し、凍結乾燥および再構成の間のINF−ベータ1aの損失を防ぐために必要であることは明らかである。
【0074】
平行して、非還元SDS−PAGE法をメーカーの操作手順にしたがい、再構成された凍結乾燥物に対して行った。非還元状態に到達するために、還元剤を蒸留水により置換した。ウェル当たりの分量は、6μgで一定に保った。定量化は行わなかった。
図1〜4は、得られたゲルを表示する。図中の白数字は列を示し、黒数字は分子量を示す。
【0075】
図1:列1+9:MW−マーカー;列2+3:5%スクロース、列4+5:5%トレハロース;列6+7:5%アルギニンリン酸;列8:製剤原料;列10:参照材料。
図2:列1+2:5%グリシン;列3+9:MW−マーカー;列4+5:5%マンニトール;列6+7:2.5%スクロース+2.5%マンニトール;列8:製剤原料;列10:参照材料。
図3:列1+2:5%スクロース+0.1%Tween20;列3+4:5%トレハロース+0.1%Tween20;列5+9:MW−マーカー;列6+7:5%アルギニンリン酸+0.1%Tween20;列8:製剤原料;列10:参照材料。
図4:列1+6:MW−マーカー;列2+3:5%グリシン+0.1%Tween20;列4+5:5%マンニトール+0.1%Tween20;列7+8:2.5%スクロース+2.5%マンニトール+0.1%Tween20;列9:製剤原料;列10:参照材料。
【0076】
ゲル1(
図1参照)およびゲル2(
図2参照)は、Tween20を欠く製剤をロードした。個々の試料のバンド強度は、INF−ベータ1aの様々な回復により異なる(表3参照)。ゲル1上の製剤(スクロース、トレハロースおよびアルギニンリン酸)は、INF−ベータ1aの主要バンドとは別に、二量化INF−ベータ1aの分子量を示す弱いバンドを示す。このバンドはまた製剤原料にも現れた(
図1の列8参照)。したがって、可溶性凝集体は、凍結乾燥の間これらの賦形剤の存在下でさらには産生されなかった。同様の事実はゲル2においても見られた。グリシンとスクロースおよびマンニトールの混合物とを有する製剤は、二量体バンドをわずかしか示さない(
図2の列1+2および6+7参照)。しかしながら、それはINF−ベータ1aの回復が乏しいため、これらの列にロードされた低タンパク質が原因とされる。マンニトール製剤は二量化バンドを示した。その強度は、製剤原料のものと同等である(
図2の列4+5参照)。したがって、可溶性凝集体は、凍結乾燥のあいだこれらの賦形剤の存在下ではさらに産生されなかった。
【0077】
ゲル3(
図3参照)およびゲル4(
図4参照)は、Tween20を含む製剤を備えていた。すべての試料のバンド強度は、INF−ベータ1aの完全な回復のため一定である。ゲル3およびゲル4上のすべての製剤は、二量化バンドを示し、その強度は製剤原料の二量化バンドと同等である。凍結乾燥のあいだ、これらの製剤において可溶性凝集体は産生されなかった。
【0078】
凍結乾燥物の安定性
表4に挙げる製剤を、上述の凍結乾燥実現可能性試験の結果に基づき、先と同じ凍結乾燥サイクル(表2に説明されている)を用いて製造した。
【0079】
【表4】
【0080】
スクロースおよびトレハロースは二糖類の分類を代表し、アルギニンリン酸およびグリシンは、よく使用されるアミノ酸であり、そしてマンニトールは糖アルコールの分類からよく適用される賦形剤である。これらの化学的グループ由来の物質は、水素結合により凍結−ケーキ内部のタンパク質を安定化することができる。すべての製剤はTween20またはTween80のいずれかを含む。INF−ベータ1aの液体製剤においても存在するメチオニンの濃度は、酸化に対する保護を維持するため一定を保った。
【0081】
40℃での安定性試験のあいだのINF−ベータ1aのRP−HPLC分析
RP−HPLC法およびSDS−PAGE法は、安定性試験の間、INF−ベータ1aの分析に適用された。RP−HPLC法は、酸化産物などの分解産物、凝集産物、およびタンパク質の折り畳み構造の変化の測定のみならず、INF−ベータ1aの定量化を可能とする。試料は、凍結乾燥および40℃での2週間、4週間、8週間および12週間の保管期間の後分析した。
【0082】
図5は、凍結乾燥物の再構成後のINF−ベータ1aの定量化を示す。定量化は、分解産物を含む総ピーク面積に基づき行った。黒線は、100%限界を表す凍結乾燥前の凍結乾燥溶液の上限および下限を示す。
【0083】
ほとんどの製剤の再溶解INF−ベータ1a含量は、凍結乾燥の直後、約80%回復(6μgの損失)の範囲であった。最良の回復は、スクロース/Tween20およびスクロース/マンニトール/Tween80製剤で得られた(約90%回復)。スクロース/マンニトール/Tween20に加えてトレハロース/Tween20、アルギニンリン酸/Tween20、グリシン/Tween20およびマンニトール/Tween20、製剤を含む製剤クラスターは、約80%の値の二番目に最良の回復を与える。最低の回復(70%未満)は、アルギニンリン酸/Tween80およびスクロース/アルギニンリン酸/Tween20製剤で得られた。
【0084】
40℃で1週間保管後、個々の製剤の回復は顕著に異なり始めた。スクロース/Tween20製剤の回復は、90%で一定のままであった。トレハロース/Tween20およびグリシン/Tween20も、それらの開始時点と同等の回復値を示した。すべての他の製剤の回復は、多かれ少なかれ減少した。大きな損失は、アルギニンリン酸/Tween20(約50%)およびアルギニンリン酸/Tween80(40%未満)製剤で観察された。他のすべての製剤は、約65%の回復の範囲であった。
【0085】
写真は2週間保管後ほぼ一定のままであった。再度、スクロース/Tween20およびトレハロース/Tween20製剤は一定の回復を示したが、ここで、グリシン/Tween20製剤の回復は減少し始めた(先の時点と比較して約5%)。他のすべての製剤の回復は、約10%に下落した。
【0086】
40℃で12週間保管後、スクロース/Tween20およびトレハロース/Tween20製剤は、なお一定値で最良の回復を明らかに示した。それで、活性剤の損失は、40℃で12週間の期間を超える保管の間、これらの製剤において観察されなかった。他のすべての製剤において、INF−ベータ1aの回復は多かれ少なかれ減少を示した。
【0087】
図6は、40℃で保管された間の酸化されたINF−ベータ1a種の増加を表す親水性ピークの相対ピーク面積の経過を示す。黒線は、参照材料のクロマトグラフからの親水性ピークの相対ピーク面積の上限および下限を示す。
【0088】
参照材料のレベルで、酸化されたINF−ベータ1aの相対ピーク面積は、凍結乾燥直後すべての製剤において一定のままであった。したがって、凍結乾燥製造工程は、INF−ベータ1aの酸化を誘導しなかった。
【0089】
保管中、これらの分解産物の相対ピーク面積は、存在する賦形剤によって多かれ少なかれ増加した。40℃で2週間保管した後、アルギニンリン酸/Tween20、スクロース/マンニトール/Tween20、アルギニンリン酸/Tween80およびスクロース/アルギニンリン酸/Tween20製剤は、相対ピーク面積の明らかな増加(約8%)を示した。他の製剤の相対親水性ピーク面積は一定を維持した。2週間の保管期間後、酸化種の相対ピーク面積のさらなる増加は、スクロース/マンニトール/Tween80製剤(40℃での保管8週間まで親水性分解産物の相対ピーク面積の着実な増加を示した)以外、いずれの製剤においても観察されなかった。この事実は、12週間の時点に到達するまで有効であった。したがって、スクロース/Tween20、トレハロース/Tween20、グリシン/Tween20およびマンニトール/Tween20を有する製剤が、40℃で12週間の保管期間まで酸化に対してINF−ベータ1aを保護できることを想定することができる。加えて、酸化に対する主な安定化効果は、メチオニンが存在することに起因する。しかし、すべての製剤が同量のメチオニンを含んでいるため、いくつかの賦形剤がメチオニンの安定化効果に追加されると思われる。
【0090】
図7は、40℃での保管の間のタンパク質の折り畳み構造の変化を意味するINF−ベータ1a種の増加を表す疎水性ピークの相対ピーク面積の経過を示す。黒線は参照材料のクロマトグラム由来の疎水性ピークの相対ピーク面積の上限および下限を示す。
【0091】
疎水性分解産物のみが安定性試験中に観察され、それは、変化した折り畳み構造状態を有するINF−ベータ1a種が原因である。可溶性凝集体の形成は、いずれの試料においても観察されなかった。したがって、問題を表すINF−ベータ1aの凝集はない。凍結乾燥直後に疎水性分解産物の何らかの増加を示す製剤はなかった。したがって、凍結乾燥のみではINF−ベータ1a折り畳み構造に変化を引き起こさなかった。スクロース/Tween20およびトレハロース/Tween20の2つの製剤は、そのような保管中の分解産物に対する最良の安定化効果を示した。他のすべての製剤は、12週間の安定性試験を通して多かれ少なかれこれらの分解産物の増加を示した。疎水性分解産物の考慮すべき増加は、スクロース/マンニトール/Tween20およびスクロース/マンニトール/Tween80製剤において見られた。
【0092】
RP−HPLC分析により、スクロースおよびトレハロースが、凍結乾燥状態におけるINF−ベータ1aの安定化に対する最も好適な賦形剤であることが分かった。
【0093】
40℃での安定性試験中のINF−ベータ1aのSDS−PAGE分析
ゲルは、安定性試験の各時点でSDS−PAGEで得た。非還元状態は、全ての時点で維持され、一方、還元状態は8週間および12週間の時点で適用したのみである。8週間後、アルギニンリン酸/Tween20およびアルギニンリン酸/Tween80を有する製剤は、これらの製剤の回復がRP−HPLC測定により示されたように充足していなかったので分析しなかった。
【0094】
INF−ベータ1a製剤原料または参照材料と比較した場合、いずれの試料においてもバンドパターンに変化は、凍結乾燥直後にも保管期間の最初の4週間以内にも生じなかった。いくつかの試料は、1つのゲルにおいて次のゲルよりも弱い二量化バンドを示したが、二量化バンド強度を増加させる傾向は継続中の保管期間では見られなかった。40℃で8週間保管後、製剤、マンニトール/Tween20、スクロース/マンニトール/Tween20、スクロース/アルギニンリン酸/Tween20およびスクロース/マンニトール/Tween80は、非還元条件下、二量化バンドの増加を示した。すべての他の製剤は、それらのバンドパターンに変化を示さなかった。40℃で12週間保管後、40℃で8週間の保管後のピークパターンと比較した場合、いずれの製剤においてもピークパターンにさらなる変化は観察されなかった。
【0095】
図8は、40℃で12週間保管後の、表4の製剤1、2、4、5、7、8および9の再構成された凍結乾燥物の非還元SDS−PAGEを示す。白色数字は列を示し、黒色数字は分子量を示す。列1+9:MW−マーカー;列2:5%スクロース+0.1%Tween20;列3:5%トレハロース+0.1%Tween20;列4:列5:5%グリシン+0.1%Tween20;列5:5%マンニトール+1%Tween20;列6:2.5%スクロース+2.5%マンニトール+0.1%Tween20;列7:1%スクロース+4%アルギニンリン酸+0.1%Tween20;列8:2.5%スクロース+2.5%マンニトール+0.1%Tween80;列10:製剤原料。
【0096】
図9は、40℃で12週間保管後の、表4の製剤1、2、4、5、7、8および10の再構成された凍結乾燥物の還元SDS−PAGEを示す。白色数字は列を示し、黒色数字は分子量を示す。列1+10:MW−マーカー;列2:5%スクロース+0.1%Tween20;列3:5%トレハロース+0.1%Tween20;列4:列5:5%グリシン+0.1%Tween20;列5:5%マンニトール+1%Tween20;列6:2.5%スクロース+2.5%マンニトール+0.1%Tween20;列7:1%スクロース+4%アルギニンリン酸+0.1%Tween20;列8:2.5%スクロース+2.5%マンニトール+0.1%Tween80;列9:製剤原料。
【0097】
すべてのSDS−PAGE結果のすべては、INF−ベータ1aの最も安定なピークパターンがトレハロース/Tween20およびスクロース/Tween20製剤で得られたことを示した。
【0098】
ガラス表面上への吸着
実験は、液体状態においてINF−ベータ1aの種々の材料の表面への吸着量を調査することを目的とする。凍結乾燥品の一次包装材料として使用されるバイアル材料の選択は、材料が滅菌可能で不活性でなければならないために制限される。これらの必須条件に基づけば、以下の材料:ポリプロピレン(PP)、環状オレフィン共重合体(COC)、標準ガラスtype1およびシリコーン処理ガラスtype1が適切である。場合によっては、ガラスtype1の熱処理が表面上へのタンパク質の吸着挙動への影響を示す。したがって、未処理ガラスバイアルと加熱滅菌ガラスバイアルとを次の実験に使用した。吸着量はTweenのみの存在下で測定した。結果を
図10において説明する。
【0099】
COCバイアル、PPバイアル、ならびにシリコーン処理ガラスtype1バイアルに充填した試料の回復は、4番目の容器変更までは一定のままであった。未処理試料および加熱滅菌ガラスtype1バイアルに充填された試料は、約10%の回復の減少を示した(
図10参照)。この実験は、INF−ベータ1aの吸着が、Tweenの存在下、より疎水性表面で排除することができたということを明らかに証明している。したがって、一次包装材料としてシリコーン処理ガラスtype1を使用することが推奨される。
【0100】
2.製剤試験B
この製剤試験は、製剤試験Aの結果に基づき、選択された製剤は、賦形剤の有効比率を決定するための更なる試験に用いられる。
【0101】
INF−ベータ1a凍結乾燥溶液の配合
INF−ベータ1a製剤原料(Rentschler Biotechnologie社より提供)を、配合の開始前に遠心分離(10分、4000rpm)および滅菌ろ過(0.2μm)により精製し、存在する不溶性凝集体を除去した。得られたインターフェロンベータ−1a濃度は、UV分光法(280nm;UV−分光器 Carry50、バリアン)により測定した。INF−ベータ1a濃度の計算値は、吸光係数に基いたものである(1.351mL
*μg
-1*cm
-1)。
【0102】
賦形剤ならびに緩衝成分を、対応する比率でWFI(注射用水)に溶解した。試験Bの種々の製剤を表5に示す。各製剤の1つのバイアルの正確な含有量を表6に示す。精製したINF−ベータ1a製剤原料を、最終凍結乾燥溶液でおおよそ24μg/mLのINF−ベータ1a濃度を達成するために添加した。最終的には、種々の凍結乾燥溶液を、凍結乾燥溶液の密度に基づき算出した目標重量までWFIで満たした。
【0103】
【表5】
【0104】
【表6】
【0105】
滅菌ろ過後、1mLの対応する凍結乾燥溶液をシリコーン処理10Rガラスtype1バイアルに充填した。
【0106】
5%スクロースおよび5%トレハロースを含む凍結乾燥溶液の密度は、25℃で1.034g/mlであり、7.5%スクロースおよび7.5%トレハロースを含む凍結乾燥溶液の測定密度は、25℃で1.043g/mlであった。
【0107】
凍結乾燥
充填したバイアルを凍結乾燥機にかけ、熱輻射を遮蔽した。表7に示す凍結乾燥サイクルを試料の調製のために使用した。
【0108】
【表7】
【0109】
得られた凍結乾燥物はすべて、何らの欠陥や崩壊もない良好な微視的な外観を示した。
【0110】
凍結乾燥物の再構成
1mlのWFIを凍結乾燥物に添加し、それらを再構成した。完全に溶解した後、溶液をピペット操作により3回上下させて均質化し、HPLCバイアルに移した。INF−ベータ1aの含有量を、RP−HPLCを用いて測定した。RP−HPLC法は、メーカーの操作手順にしたがい行った。
【0111】
凍結乾燥溶液および凍結乾燥物のINF−ベータ1aの含有量
凍結乾燥溶液および再構成された凍結乾燥物のINF−ベータ1aの含有量は、凍結乾燥直後にRP−HPLCを用いて測定した。表8は凍結乾燥溶液のINF−ベータ1aの含有量を示す。
【0112】
【表8】
【0113】
凍結乾燥物の再構成後のINF−ベータ1aの回復は、凍結乾燥直後に測定した。結果を表9に示す。すべての製剤は、凍結乾燥溶液の標準偏差内のINF−ベータ1aの完全な回復を示した。
【0114】
【表9】
【0115】
凍結乾燥物の残留水含量
凍結乾燥物の最適な保存安定性を促進するために、凍結ケーキの残留(ここでは:結合水は含まず遊離のみ)水は、カール・フィッシャー滴定により測定した。凍結乾燥直後の凍結乾燥物において測定される遊離の残留水含量の値を表10に示す。すべての製剤は、約1%の遊離の残留水を含んでいた。
【0116】
カール・フィッシャー滴定の密閉バイアルを、注射針が栓に貫通したカール・フィッシャー電量計のオーブン(80℃)に移した。80℃で生じた水蒸気を、乾燥窒素を用いてカール・フィッシャー電量計の注射針を通じて直接滴定チャンバーに移した。残留水含量の計算は、凍結ケーキの理論重量に基づいた。
【0117】
【表10】
【0118】
シリコーン処理ガラスバイアルへのおよび栓へのINF−ベータ1aの吸着
異なる供給元(ゲレスハイマー(Gerresheimer)社、スコット社)からの2つの種類のシリコーン処理ガラスバイアルをこの試験に用いた。両供給元のバイアルを水溶液からのINF−ベータ1aの吸着について試験した。
【0119】
精製したINF−ベータ1aDSを、Tween20を含むクエン酸緩衝液で30μg/mlの濃度に希釈した。Tween20濃度は0.1%(w/v)に設定した。溶液を異なる製造業者からのシリコーン処理バイアルに充填した。試料を短時間のインキュベーション後に採取し、残りの溶液を対応する種類の新しいバイアルに移した。この手順を4回繰り返した。試料中のINF−ベータ1a含量をRP−HPLCを用いて分析した。
図11はこの試験の結果を示す。INF−ベータ1aの濃度は、使用されたバイアルに関わりなく、4回の移送工程すべてにわたって一定のままである。したがって、INF−ベータ1aのガラス表面への吸着は、両ケースにおいて無視できる。
【0120】
INF−ベータ1aの栓(単一弁凍結乾燥栓20mm;ウェスト ファーマシューティカル サービス)への吸着を、シリコーン処理ガラスバイアルでの調査と同様に調べた。溶液をシリコーン処理バイアルに充填し、バイアルを2つの異なる種類の栓を用いて密閉した。密閉したバイアルをひっくり返し、栓と液体との直接接触を達成した。バイアルを、短時間のインキュベーション後に反転させ、試料を採取した。この手順を4回繰り返した。試料のINF−ベータ1a含量をRP−HPLCを用いて分析した。結果を
図12に示す。INF−ベータ1aの濃度は、両栓への繰り返し接触後、一定のままである。したがって、シリコーン処理栓を用いることにより、INF−ベータ1aの栓への吸着は防ぐことができる。
【0121】
3.凍結乾燥試験
この試験において、凍結乾燥溶液の製剤のための約31時間の凍結乾燥サイクルの実行可能性を検証した。
【0122】
凍結乾燥溶液の処方
INF−ベータ1a製剤原料(Rentschler Biotechnologie社より提供)を、配合の開始前に遠心分離(10分、4000rpm)および滅菌ろ過(0.2μm)により精製し、存在する不溶性凝集体を除去した。得られたINF−ベータ1a濃度は、UV分光法(280nm)により測定した。INF−ベータ1a濃度の計算は、吸光係数に基いたものである(1.351mL
*μg
-1*cm
-1)。賦形剤ならびに緩衝成分を、対応する比率でWFIに溶解した(表11参照)。精製したINF−ベータ1a製剤原料を、最終凍結乾燥溶液でおおよそ17.5μg/mLのINF−ベータ1a濃度を達成するために添加した。最終的には、凍結乾燥溶液を、凍結乾燥溶液の密度(1.034g/mL)に基づき算出した目標重量までWFIで満たした。親水性のPVDF膜を用いた滅菌ろ過後、0.65、それぞれ0.725mLの凍結乾燥溶液を手でシリコーン処理2Rガラスtype1バイアルに充填した。
【0123】
【表11】
【0124】
凍結乾燥サイクル
凍結乾燥溶液を、表12に示される凍結乾燥サイクルを用いて凍結乾燥した。アニーリング有りと無しとの試料を互いに比較した。アニーリング無しの試料はアニーリング工程後にロードした。
【0125】
【表12】
【0126】
図13は、凍結乾燥サイクルの主な凍結乾燥パラメータのデジタルデータ収集を示す。
【0127】
棚温度およびチャンバー圧データは、凍結乾燥中の条件がプリセット仕様に従っていたことを証明する。製品温度は、凍結およびアニーリングのあいだ棚温度に密接に追従し、熱処理のための明確に定義された条件を示した。アニーリング有りおよび無しの試料の製品温度の経過は、全凍結乾燥プロセスにわたって同等であった。一次乾燥の終わりは、容量センサーにより測定される圧力の上昇により示され、一次乾燥のおおよそ4.2時間後に終わった(ランプなし)。
【0128】
イメージング
ガラスバイアルを破壊し、凍結乾燥物をガラスの断片から分離した。凍結乾燥物の内側のイメージングのためにランセットを用いて凍結乾燥物を垂直に切断した。凍結乾燥物の上面、底面および切断面の写真を撮影した。加えて、凍結乾燥物を破壊することなく、凍結乾燥物の崩壊した構造を同定するために透過光画像を作成した。
【0129】
図14のアニーリング有り(右)ならびにアニーリング無し(左)の試料の垂直断面は、崩壊の兆候を示さなかった。両試料の結晶構造は、非常に均質でコンパクトであった。
【0130】
図15のアニーリング有りの試料の透過光画像(左)も、アニーリング無しの試料の透過光画像(右)も、何ら崩壊の兆候を表さなかった。
【0131】
凍結乾燥物の熱分析
図13は、アニーリング有りの試料とアニーリング無しの試料とのガラス転移温度を比較する。
【0132】
【表13】
【0133】
アニーリング有りの凍結乾燥物は、アニーリング無しの凍結乾燥物よりも約10℃高いガラス転移を示した。アニーリング工程は、凍結ケーキの空隙率を増加させる。したがって、吸着水は二次乾燥のあいだにより容易に除去される。可塑剤としての水が通常ガラス転移温度を減少させるので、残留水はガラス転移温度を低下させる。
【0134】
溶解試験
凍結乾燥物は、1mLシリンジを用いて再構成した。凍結乾燥物の完全な溶解に必要とされる時間を測定した。表14はアニーリング有りおよび無しの凍結乾燥物の溶解時間を示す。
【0135】
【表14】
【0136】
再構成挙動は、アニーリング工程により明らかに最適化された。アニーリング有りの試料の平均溶解時間は、アニーリング無しの試料と比較しておおよそ20秒速かった。
【0137】
この31時間の凍結乾燥サイクルの凍結および一次乾燥に関するパラメータは、本発明の凍結乾燥物の凍結乾燥について最適な設定を表示した。
【0138】
4.安定性試験
安定性試験は、先の製剤試験Bにより凍結乾燥された製剤と、再構成および臨床適用に用いられるデバイスおよびプレフィルドWFIシリンジとの適合性を調べた。
【0139】
適合性試験において、MIXJECT(商標)移送デバイスおよびプレフィルドWFIシリンジを、2Rバイアルで提供された凍結乾燥された製剤の再構成に用いた。試験は、再構成された製剤の、バイアルとの、適用したMIXJECT(商標)移送デバイスおよびプレフィルドWFIシリンジとの適合性に関するデータを提供する。再構成された製剤の安定性の調査は、バイアル中で0および24時間保管後と、光防護下の室温(RT)で、バイアル中およびシリンジ中の両方で24時間保管後に行った。加えて、製剤の溶液の容量および密度を、製剤の再構成から、シリンジからの薬物溶液の投与までにIFN−ベータ1aの損失があるかどうかを評価するために測定した。
【0140】
一次包装材料を表15に示し、再構成および臨床使用に使用した材料を表16に説明する。
【0141】
【表15】
【0142】
【表16】
【0143】
適合性データは、次の分析から得られた:異なる時点での、清澄性、色、可視粒子、ペプチドマッピング、RP−HPLC、バイオアッセイ、SE−HPLC、脱アミド化、pH−値、オスモル濃度、肉眼で見えない粒子ならびに再構成された製剤の密度および容量。製剤としての許容基準は表17に示す。
【0144】
【表17】
【0145】
図16〜18に表す表は、バイアル中で0時間および24時間、ならびにシリンジ中での24時間後にさらにシリンジ中で24時間(48時間値)にわたって室温で保存した分析結果の編集を示す。
【0146】
図16〜18の表に示されるように、適合性試験の結果は、すべての許容基準を満たした。保管期間において、清澄性、色および可視粒子について許容基準および目標値は満たされた。製剤の同定は、ペプチドマッピングを適用する対応する参照標準との比較において確認した。溶出プロファイルは、全保管期間にわたって参照標準のものと一致した。RP−HPLCにより分析した製剤のタンパク質含量、およびバイオアッセイにより分析した効力は、目標値および許容基準を満たした。SE−HPLC分析により、凝集体の相対ピーク面積は、<0.8%と測定された(報告レベルより低い)。製剤における酸化されたIFNベータ−1aの程度は、ペプチドマッピングにより測定されたように試験期間を通して目標値を満たしていた。脱アミド化分析により、製剤における脱アミド化IFN−ベータ−1aの程度は、41.2面積−%〜48.7面積−%まで増加したことを示した。pH、オスモル濃度の結果は、目標値を満たした。肉眼で見えない粒子の結果も許容基準を満たした。
【0147】
要約すれば、適合性試験は、本発明の凍結乾燥製剤が、WFIで再構成後、一次包装材料中で室温(RT)で48時間まで安定であり、使用された一次包装材料中室温で24時間にわたって、ならびにシリンジ中さらに24時間にわたって、MIXJECT(商標)移送デバイスおよびプレフィルドWFIシリンジを用いて安定であるということを示す。
【0148】
再構成中の溶液の容量の測定
再構成の3つの異なる工程のあいだの溶液の容量を測定する意図は、臨床適用のあいだのタンパク質の損失[μg]の決定である(製剤の再構成からシリンジからの溶液の送達までの損失)。再構成中の損失は、充填容器と空容器との異なる重量測定により決定した。溶液の密度結果とあわせて、対応する容量を算出した。これらの結果を
図19および20に示す表にまとめる。再構成された製剤の容量および密度決定は、MIXJECT(商標)移送デバイス有りと無しで行った。
【0149】
適用中の溶液の容量の測定は、結果として以下の値となった。1.020mL WFI(密度:0.9981g/mL)がプレフィルドシリンジから送達される。再構成後の試料溶液の総容量は、1.026mL(密度:1.0266g/mL)である。1.011mL(密度:1.0247g/mL)の再構成された製剤をMIXJECT(商標)移送デバイスを使用しないでシリンジから送達し、MIXJECT(商標)移送デバイスを用いる場合、0.989mL(密度:1.0252g/mL)を送達する。測定されたこれらの値と含有量の値と併せて、1μgのIFNベータ−1aの損失が、製剤の再構成の時点からシリンジからの溶液の送達までに測定された。
【0150】
5.生物学的有効性試験
この試験の目的は、カニクイザルに少なくとも28日間、静脈内ボーラス注射を与えた場合のインターフェロンベータ−1aの凍結乾燥製品の生物学的有効性を測定すること、およびヒトにおけるインターフェロンベータ−1aの凍結乾燥品の使用をサポートするためのデータを提供することであった。試験計画を表18に示す。
【0151】
【表18】
【0152】
注射用水を対照品として使用した。
【0153】
次のパラメータおよび評価項目をこの試験において評価した:FP−1201の種々の用量での薬物動態活性、臨床兆候、体重、体重変化、眼科、心電図記録法、体温、臨床病理学パラメータ(血液学、凝固、臨床化学、および尿検査)、免疫原性分析、肉眼的剖検所見、臓器重量、および組織病理学検査)。
【0154】
治療に起因する臨床観察はなかった。
【0155】
治療に関連する眼科的知見はなく、また心電図や体温は変化しなかった。
【0156】
治療に起因する尿組成の変化はなかった。
【0157】
ミクソウイルス耐性タンパク質A(MxA)は、IFNベータ生物活性の最良のマーカーの一つであり、多発性硬化症の患者におけるIFN−ベータ治療の有効性を検出するための臨床環境において広く使用されている。したがって、治療した動物において、MxAを追跡した。MxA濃度は、期待したように、IFNベータ−1aで治療したすべての動物において誘導された。IFNベータ−1の3つの用量レベルのすべては、用量応答的に数倍のMxA誘導を誘導した。MxA濃度は、6日目から16日目まで高いままであり、その後、
図21に示すように徐々に減少した(群1(ひし形)、群2(四角)、群3(三角)および群4(円))。この漸減は、これらの動物におけるIFNベータ−1中和抗体の発達による可能性が最も高い。IFN−ベータに対する中和抗体の発達は、多発性硬化症のIFN−ベータ治療数ヵ月後または数年後にもヒトにおいて観察される。対照動物は、MxAの誘導を示さず、値は治療期間を通して基準濃度のままであった。IFNベータ−1用量が高くなればMxA発現レベルは高くなるが、明確な生物学的応答は、最も低い用量を用いても見られた。
【0158】
臓器重量の変化はなく、また治療に起因する剖検または組織病理所見もなかった。
【0159】
結論として、カニクイザルへの0.25、1.0または3.0 MIU/kg/日の用量レベルでのFP−1201(本発明のインターフェロンベータ−1a製剤)の28日間の毎日の静脈内投与は、MxA誘導の予想される増加を伴い、良好に耐容した。血液学や臨床化学パラメータの小さな変化および中和抗体活性の増加は、特に3.0 MIU/kg/日での治療の終了時に観察された。