【実施例】
【0099】
実施例1:MSC及びDNTT−MSC中の細胞内FGF2及び分泌されたFGF2のレベル
MSC及びDNTT−MSC由来の細胞抽出物及び馴化培地は、凍結保存された細胞から調製した。細胞アリコートを解凍し、洗浄し、胚性神経細胞の基本培地(NeuroBasal,(NB),Life Technologies,Carlsbad,CA)
中に再懸濁して、2回洗浄した。MSCの供給源及びDNTT−MSCの調製を記載した。例えば、米国特許第7,682,825号(ここでは、MSCは、「骨髄間質細胞」と呼ばれ、DNTT−MSCは、「神経前駆細胞」と呼ばれる)、及び米国特許出願公開第2010/0266554(ここではMSCは「骨髄付着幹細胞」と呼ばれ、及びDNTT−MSCは「神経再生細胞」と呼ばれる)を参照のこと。また、Aizman et al.(2009)J.Neurosci.Res.87:3198〜3206も参照のこと。前述の引用文献の全ての開示は、MSC及びDNTT−MSCについての産生の供給源及び方法を記述する目的のため、その全体が本明細書において参照によって援用される。
【0100】
E0と呼ばれる無細胞抽出物の調製のために、2×106個の細胞を、−80℃で1〜2時間の間、4mlのNB中で凍結させ、次いで解凍して、全部で10mlのNB培地中に再懸濁し、その懸濁物を3000rpmで15分間遠心分離によって清浄化した。この過程は本質的に細胞膜を破壊し、その結果細胞内容物の放出が生じる。その上清をアリコートに分配して、−80℃で保管した。
【0101】
馴化培地(CM)の調製のために、2×106個の細胞を、10%のウシ胎仔血清(HyClone,Logan,UT)及びペニシリン/ストレプトマイシン(αMEM/FBS/PS)(Life Technologies)を補充したα−最小必須培地(Mediatech,Inc,Manassas,VA)中で、T75フラスコに入れて、一晩培養した。翌日、培地を1時間NBに変換し、次いで廃棄して10mlの新鮮NBで置き換えた、培養を24時間続けた;その後、馴化培地を取り出して、3000rpmで15分間遠心分離して、アリコートに分配して、−80℃で保管した。
【0102】
馴化培地の除去後、培地が取り出されたフラスコ(細胞の層を含む)を凍結して解凍し、細胞の残遺物を10mlのNBで抽出し、その抽出物を遠心分離して、その上清をアリコートに分配して、−80℃で保管した。これらの無細胞抽出物を、E1抽出物と命名した。予備的な実験によって、凍結/解凍の手順を生残した細胞はなかったことが示された。他に示さない限り、E0及びCMは、培地に対して同じ割合の細胞(5mlのNBあたり百万個の細胞)を用いて産生した。
【0103】
FGF2(bFGF)及び他のサイトカインのレベルを、ELISAによって測定した。塩基性FGF(FGF2)、高感度(HS)塩基性FGF、VEGF及び酸性FGF(FGF1)についてのQuantikine(登録商標)Immunoassaysを、R&D Systems(Minneapolis,MN)から得た。MCP−1 ELISAキットを、Boster Biological Technology(Pleasanton,CA)から得た。ELISAは、FGF2のELISAについてサンプルを一晩インキュベートした以外は、製造業者の指示に従って行った。これによって、製造業者によって推奨されるように、2時間のインキュベーションで得たものと匹敵した結果が提供された。FGF2検出の最適の希釈は、予備的実験で決定されたとおり、E0抽出物については1/10であり、CMについては1/2かまたは希釈なしであった。
【0104】
MSC及びDNTT−MSCにおける細胞内FGF2のレベルは、単一の凍結/解凍サイクルに供された無細胞抽出物(E0抽出物)中のFGF2についてアッセイすることによって決定した。細胞を、7ドナーから得て、結果を平均した。
図1Aによって、百万個のMSCが平均で3.9ngのFGF2を放出することが示される;一方で、百万個のDNTT−MSCは、平均で7.2ngのFGF2を放出することが示される。1つの凍結/解凍サイクルは、全ての細胞を殺傷するのに十分であった(トリパンブルー染色及び細胞プレーティングで試験した場合)が、各々の追加の凍結/解凍サイクルによって、FGF2濃度は約20%まで低下された。
【0105】
対照的に、同じ数のMSCまたはDNTT−MSCのいずれかから得られるCMは、約0.02ngのFGF2を含んだ(
図1B)。従って、MSC及びSB623細胞は、FGF2の大きい細胞内リザーバを含むが、そのごくわずかしか分泌しない。
【0106】
細胞の代謝活性における潜在的な相違について制御するために、LDH活性(細胞数についての代用マーカー)を、洗浄された凍結保存されたMSC及びDNTT−MSCの無細胞抽出物(E0抽出物)中で、ならびに細胞増殖及びCMの産生後で得られた無細胞抽出物(E1抽出物)中で測定した。活性を、LDH細胞毒性検出キット(Clontech Laboratories,Mountain View,CA)を用いて1:2及び1:4希釈で、細胞抽出物中で検出して、平均した。ウシLDH(Sigma Aldrich,St.Louis,MO)を標準として用いた。
【0107】
LDHアッセイの結果により、MSC及びDNTT−MSCの両方について、LDH活性は、E1抽出物(0.13U/106細胞)中よりもE0抽出物(0.3U/106細胞)中で高かったことが示され;これによって、凍結保存後に破壊された細胞と比較して飢餓細胞中で代謝活性が低下したことが示される(
図1C)。しかし、LDHのレベルは、MSC及びDNTT−MSC由来のE0抽出物中で(約0.3U/106細胞)、ならびにMSC及びDNTT−MSC由来のE1抽出物中で(0.13U/106細胞)同様であって、これによって、同様の代謝レベル(すなわち、同様の細胞数)が、両方の細胞種において、CMを生成するための培養の前後の両方で示される(
図1C)。
【0108】
これらの結果によって、MSC及びDNTT−MSCでは、FGF2は、主に細胞内であるが、分泌されるのはごくわずかであることが示される。FGF1の細胞分布、血管内皮増殖因子(VEGF)及び単球走化性因子タンパク質−1(MCP1)もまた検討した。細胞内区画化はまた、MSC中において、FGF1についてはあてはまるようであったが、VEGF及びMCP1についてはあてはまらなかった(表1)。
【0109】
【表1】
【0110】
FGF2レベルはまた、他のヒト間葉細胞(ヒト包皮線維芽細胞、HFF)及びヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC))由来の凍結/解凍(すなわち、E0)抽出物中で、及びヒ
ト非間葉細胞(すなわち、神経前駆細胞(NPC)株ENStem及びReNcell)中でも測定した。表2に示されるとおり、HFFは、より多くのFGF2を放出したが、HUVEC及びヒト神経幹細胞株は、MSCよりも放出するFGF2が少なかった。
【0111】
【表2】
【0112】
実施例2:MSCの抽出物は、神経前駆細胞の増殖を促進する
ラット胚性皮質細胞集団は、FGF2に応答して増殖する、大きい割合の神経前駆細胞(NPC)を含む。MSC中の細胞内FGF2の生物学的効果は、ラット皮質細胞と、0〜75%にわたって変化するMSC由来E0及びCMの希釈物とを接触させること、ならびにBRDU取り込みを用いて増殖アッセイを行うことによって特徴付けられた。
【0113】
皮質細胞アッセイが記載されている。例えば、Aizman et al.(2013) Stem Cells Transl.Med.2:223−232及び米国特許出願公開第2013/0210000(Aug.15,2013)を参照のこと。要するに、96ウェルプレート(Corning Inc,Corning,NY)を、オルニチン/フィブロネクチン(Orn/Fn,両方ともSigma Aldrich,St.Louis,MO)でコーティングした。ラット胚性E18皮質対を、BrainBits(Springfield,IL)から購入し;神経細胞は、Aizman et al.,(前出)に記載のとおり単離した。アッセイ培地は、B27及び0.5mMのL−アラニル−L−グルタミン(GlutaMAX)(NB/B27/GLX,全てInvitrogen)を補充したNBから構成された。神経細胞を、6.7×103細胞/ウェルでプレートし;次いで種々の濃度(0%〜75%の範囲)のE0またはCMを、三連でウェルに添加した。抗体中和実験では、中和抗FGF2抗体クローンbFM1(Millipore,Billerica,MA)または対照のマウスIgG1(R&D Systems,Minneapolis,MN,USA)もまた、各々2ug/mlで添加した。培地を含むが細胞を含まないウェルをブランクとして用いた。抽出物の添加後、神経細胞を5日間培養した。
【0114】
増殖を定量するために、5−ブロモ−2’−デオキシウリジン(BRDU)標識を2時間行い、次いでそのプレートを、製造業者の指示に従って、Cell Proliferation ELISA,BrdU(Colorimetric)(Roche Diagnostics GmbH,Mannheim,Germany)を用いて処理した。標準は、1:1000で開始する抗BRDU試薬の連続希釈によって作成した。最高の標準値は、恣意的に100と設定し、比色定量解析の結果をこれらの単位で表した。色の発色は、SpectraMax Plusプレートリーダー(Molecular Devices,Sunnyvale,CA)を用いて定量した。
【0115】
これらの実験の結果、MSCからのE0無細胞抽出物による神経細胞の処置は、用量依存性の方式で神経細胞増殖を増大したが;一方で、MSC馴化培地(すなわち、分泌された分子)による神経細胞の処置は、増殖に影響がなかった(
図2A)ことが示された。さらなる実験では、DNTT−MSC由来のE0抽出物に対する増殖応答は、中和抗FGF2(bFM1)抗体の存在下で低下したが、対照の抗体は影響がなかったことが示された(
図2B)。従って、MSC及びDNTT−MSCから放出された細胞内FGF2は、神経細胞の増殖を促進する。
【0116】
神経前駆細胞増殖を刺激するのにおける細胞内FGF2の役割に対する補足的な支持は、
図12に示される。この実験では、異なるロットのDNTT−MSC由来のE0抽出物を、ELISAによってFGF2含量についてアッセイし(実施例1に記載のとおり)、これらのE0抽出物の希釈を、上記の増殖アッセイで試験した。各々のロットの細胞について、次いで、バックグラウンド(抽出物なし)を3倍超えて細胞増殖を刺激した抽出物の有効濃度(希釈後)を、その抽出物中のFGF2濃度に対してプロットした。その結果、FGF2含量と増殖の3倍刺激に必要な抽出物の有効濃度との間の逆相関;すなわち、抽出物中のFGF2レベルと、増殖を刺激する能力との間の直接相関が示される。
【0117】
神経前駆細胞に加えて、胚性ラット皮質細胞集団は、未熟なニューロンを含む。細胞のどの小集団が、MSC及びDNTT−MSC抽出物に応答して増殖したかを特定するために、神経細胞を、DNTT−MSCからのE1抽出物(すなわち、馴化培地を提供するために培養された細胞から得た無細胞抽出物)の有無で5日間培養し、次いで、dcx(未熟なニューロンのマーカー)及びネスチン(神経前駆細胞マーカー)について免疫染色し、またBRDUで標識した。免疫染色の解析によって、抽出物で処置した培養物中で、DCX+またはBRDU+/DCX+細胞中で増大がなかったこと;対照的に、ネスチン陽性細胞中で劇的な増大があったこと;そして実質的に全てのネスチン陽性細胞もまたBRDU陽性であったことが明らかになった。これらの結果、培養の5日後、神経前駆細胞は、抽出物に応答して増殖した主要な細胞小集団であったことが示される。
【0118】
実施例3:MSC及びDNTT−MSCの抽出物が、内皮細胞の増殖を促進する
FGF2の報告された血管形成性活性に照らして、MSC及びDNTT−MSCの抽出物を、それらが、ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)の増殖を誘導する能力について試験した。これらの実験について、HUVECは、内皮増殖培地中で培養し、EGM(商標)に、ウシ脳抽出物(両方がLonza由来)及び2%のFBSを2〜4継代の間、補充し、アリコートに分配して、凍結保存して保管した。アッセイに関して、96ウェルのプレートを40μg/mlのラット尾コラーゲンI(Life Technologies)を用いて2時間コーティングし、次いで吸引し、乾燥して、使用するまで−20℃で洗浄または保管した。アッセイ培地は、0.5%FBSを補充したMedium 199(Life Technologies)であった。HUVEC(新鮮に解凍するか、または一晩培養後のいずれか)を、三連で陰性対照としてNBのみを用いて、種々の希釈の抽出物及びCMの存在下で2.5×103細胞/ウェルでプレートした。いくつかの実験では、抗FGF2抗体bFM1または対照のマウスIgG1を(各々2μg/mlの濃度で)、DNTT−MSC由来の15%のE0抽出物(約0.2ng/mlのFGF2を含む)の存在下で含んだ。追加の実験では、組み換えヒトVEGF165(rVEGF)(R&D Systems)または組み換えFGF2(rFGF2)(Peprotech,Rocky Hill,NJ,USA)を、抽出物またはCMの代わりに、それぞれ10ng/ml及び1ng/mlの濃度で含んだ。培養の2日後、細胞を、BRDUを用いて2時間標識し;そしてBRDU取り込みを、実施例2に記載のとおり定量した。
【0119】
その結果を
図3に示す。MSC E0抽出物はHUVECの増殖を強力に誘導したが、MSC−CM及びNB培地は、影響を有さなかった(
図3A)。別の実験では、HUVECを、FGF2中和抗体及び対照抗体の有無において、rVEGF、rFGF2、またはDNTT−MSC−E0抽出物(15%)とともにインキュベートした(
図3B)。E0抽出物に対する応答は、抗FGF2中和抗体bFM1によって阻害されたが、対照のマウスIgG1では阻害されず、このことは、このアッセイにおけるHUVEC増殖がFGF2で駆動されたことを示している。とりわけ、天然及び組み換えの両方のFGF2の活性は、このアッセイで同様であった;実際、バックグラウンド(E0抽出物なし、組み換え増殖因子なし、
図3B、最も左側のバー)を差引きすれば、15%のE0抽出物(これは、このE0調製物中の0.2ng/mlの最終FGF2濃度に相当する)によって誘導される応答は、1ng/mlのrFGF2によって誘導された応答よりも約4倍小さかった。
【0120】
実施例4:生細胞、死滅細胞及び細胞抽出物の神経原性活性
神経原性因子及びグリア分化性(gliogenic)因子に関する定量的アッセイ(共有に係る米国特許出願公開第2013/0210000号に記載)を用いて、MSC及びDNTT−MSCにおいて神経新生性活性を特徴付けた。このアッセイを用いて、(a)抽出物の活性を評価し、かつ(b)抽出物の活性と、生細胞及び死滅細胞の活性とを比較した。これらの実験のために、NB中のMSCまたはDNTT−MSCのいずれかの作業懸濁物を3つのアリコートに分けた。1つのアリコートは、さらなる処置を受けず、生細胞と命名された(「A」と表示)。残りの2つのアリコートを凍結し、次いで解凍して、これから細胞溶解液を生じた(すなわち、死滅細胞、「D」と表示)。次いで、これらの2つの細胞溶解液のうちの1つを、遠心分離によって浄化して、無細胞抽出物を得た(「E」と表示)。
【0121】
神経新生アッセイは、細胞増殖のための基質として、MSC由来ECNでコーティングされたCellBIND Surface 96ウェルプレート(Corning)を利用した。3つのアリコート(生細胞、死滅細胞及び無細胞抽出物)のいずれかを、同一の希釈でプレートし、これは、1ウェルあたり500、250、または125個の生きたMSCまたはDNTT−MSCに相当した。皮質細胞(5000細胞/ウェル)を、全てのウェルに添加した。培養後、ラットネスチン、ラットグリア細胞繊維性酸性タンパク質(GFAP)、及びヒトグリセルアルデヒドリン酸デヒドロゲナーゼ(GAP)の発現を、Taqmanアッセイ(Life Technologies)を用いてqRT−PCRによって定量した。
【0122】
その結果を
図4に示す。以前の結果(実施例2,上記)を確認すれば、ネスチン発現は、無細胞抽出物によって;ただし、生細胞または細胞溶解液よりも少ない程度まで誘導された(
図4A)。その細胞溶解液は、生細胞の懸濁物が発現するよりもわずかに強力なネスチン発現を誘導した。対照的に、GFAP発現は、生細胞によって誘導されるが、無細胞抽出物によっては誘導されず、細胞溶解液ではごくわずかにのみ誘導された(
図4B)。細胞溶解液で処置された培養物中のヒトGAP発現がないことによって、生残しているヒト細胞がないことが確認された(
図4C)。
【0123】
ネスチン発現を誘導する無細胞抽出物、生細胞及び細胞溶解液の能力の相違は、Nes+GFAP+前駆体の増殖を支持することにより、神経細胞とMSCとの同時培養が漸増的なネスチン発現を誘導するという以前の観察によって説明され得る。Aizman et al.(2013) Stem Cells Transl Med.2:223−232。可溶性無細胞抽出物は、細胞質FGF2の豊富な供給源であるが、細胞溶解液はまた、細胞残遺物(例えば、核)も含み、これは、追加のFGF2を放出し得、かつ細胞増殖及びネスチン発現のさらなる刺激を提供し得る。
【0124】
最終的に、この実験で用いられる無細胞抽出物は、上記の実験で用いられるE0抽出物
よりも40倍大きい希釈であったことに注目すべきである:実際、これらの実験で用いられるほとんどの濃縮抽出物(すなわち、100μlの培養物培地中の500個の細胞からの抽出物)は、上記で調製された2.5%希釈のE0に相当する(106細胞/5ml培地)。
【0125】
実施例5:グリア細胞前駆体の誘導
脳内移植後、大多数の移植された細胞がその後まもなく死ぬことは、まれなことではない。従って、上記の実施例4に記載のように調製した、生きたDNTT−MSC及び死滅DNTT−MSC(すなわち、DNTT−MSC細胞溶解液)の組み合わせを、実施例4に記載の神経新生アッセイで試験した。この目的を達成するために、細胞溶解液(すなわち、死滅細胞、D)及び生細胞(A)を、生細胞に対して死滅細胞を3:1という比で混合し、この混合されたサンプルの活性を、死滅細胞または生細胞のいずれかの同じ総細胞数を含むサンプルの活性と比較した。
【0126】
実施例2及び4に記載の結果から予想されるとおり、ネスチン発現は、3つの全てのサンプルによって同様に誘導された。
図4Dによって、死滅細胞及び生細胞の混合物が、星状細胞マーカーであるグリア細胞繊維性酸性タンパク質(GFAP)の発現に相乗作用的効果を有したことが示される。この相乗作用は、MSC由来のサンプル及びDNTT−MSC由来のサンプルの両方で観察された。死滅細胞サンプルと生細胞サンプルとの間の相乗作用は、混合されたD/A調製物中の過剰な生きたヒト細胞の存在には起因しなかった。なぜなら、同様のヒトGAPレベルが、生細胞サンプル及び死滅細胞/生細胞混合物の両方で検出されたからである(
図4E)。従って、生きたMSCもしくはDNTT−MSC、それらの抽出物、または単回の凍結/解凍サイクルによって殺傷された細胞の懸濁物は全てが、神経前駆体成長を促進し;ただし、堅調な星状細胞産生には、生きたMSCまたはDNTT−MSCの存在を必要とした。
【0127】
実施例6:PBMCの細胞毒性活性から生じるMSC及びDNTT−MSC由来の細胞内FGF2の放出
細胞が脳に注射されたとき、脳の小血管に対する損傷が生じ得る;そして脈管構造のこの破壊によって、局所の末梢血単核球(PBMC)に対する移植細胞の暴露、及びそれらに関連する細胞毒性の影響が生じ得る。生物学的に活性なFGF2の細胞内貯蔵庫が、PBMC細胞毒性の天然に存在する過程によってMSC及びDNTT−MSCから放出され得るかを試験するために;PBMC媒介性細胞溶解、及びFGF2の放出は、PBMC(IL2の非存在下で7日間予備培養された)及び標的細胞(MSCまたはDNTT−MSCのいずれか)の18時間の同時培養中で評価した。
【0128】
これらのアッセイに関しては、PBMCは、全血のバフィーコート調製物から、製造業者の指示に従って、Ficoll−Paque Plus(GE Healthcare,Uppsala,Sweden)を用いて得た。リンパ球/単球/血小板画分を収集して、遠心分離(600rpmで20分間)によって洗浄して、ほとんどの血小板を除去した。エフェクター細胞(PBMC)を、標的細胞(MSCまたはDNTT−MSC)に対して10または30倍過剰のPBMCで18時間、その標的細胞との同時培養前に7日間培養した。対照の培養物は、PBMCのみ、MSCのみ、DNTT−MSCのみ、及び培地のみを含んだ。MSC及びDNTT−MSCをまた、別々にプレートして、標的細胞中の総LDH活性の決定のために培養の最終の30分の間、培養物に対して最終濃度1%(w/v)までのTritonの添加によって溶解した。各々の条件の5つの複製を行った。
【0129】
培養後、そのプレートを1000rpmで5分間遠心分離した。5つの複製のうち3つから、25μlの上清を、LDH Cytotoxicity Detection Kit(Clontech Laboratories,Mountain View,CA)を用いて、LDH活性の測定のために各々のウェルから取り出した。細胞毒性は、以下の式(数1)に従って、エフェクター標識同時培養において「LDH活性の放出比」として表した。
【0130】
【数1】
【0131】
上清(FGF2の予想濃度次第で10〜50μl)を、FGF2 Quantikineアッセイ(R&D Systems,Minneapolis,MN)を用いて、FGF2の測定のために残りの2つのサンプルから取り出した。同時培養中の標的細胞由来のFGF2放出比を、LDHの放出比と同じ方式で算出した;すなわち、標的細胞中の総FGF2のパーセンテージとして;そして標的細胞及びエフェクター細胞からの自然なバックグラウンドFGF2放出を計上する。
【0132】
代表的な結果を
図5Aに示す。MSC及びDNTT−MSCの溶解は、LDH放出比によって測定されるように、エフェクター細胞:標的細胞比に比例し、MSC、DNTT−MSC、及びPBMCの異なるドナーについて30:1のPBMC:標的細胞比で30〜90%で変化した。標的細胞からのFGF2の放出パーセンテージは、溶解の程度と相関したが、FGF2放出比のパーセンテージは、LDHのものよりも約2〜2.5倍低かった。
【0133】
この実験でのMSC/PBMCの同時培養中の溶解比は、DNTT−MSC/PBMC同時培養におけるよりも高かったが(
図5A)、より多くのFGF2が、DNTT−MSC中のFGF2のより高い細胞内レベルに起因して、DNTT−MSC同時培養において放出された(
図5Bは、「S溶解(S lysed)」サンプルと「M溶解(M lysed)」サンプルとを比較)。さらに、DNTT−MSCは、MSCが放出するよりもPBMCの非存在下でより多くのFGF2を放出する(
図5Bは、「S」サンプルと「M」サンプルとを比較)。
【0134】
結論として、これらの結果、かなりの量のFGF2が、PBMCの細胞毒性効果の結果としてMSC及びDNTT−MSCの両方によって放出され得ることが示される。
【0135】
実施例7:FGF2は、高密度、低酸素、栄養素に乏しい培養物中のMSC及びDNTT−MSCから放出される。
細胞が組織損傷のゾーンに移植されるとき(例えば、梗塞に対して二次的)、それらは、酸素及び栄養素の限られた拡散によって特徴付けられる、低酸素である場合が多い環境に高密度で沈着される。移植後の脳内微小環境をモデリングするため、MSCまたはDNTT−MSCを、0.35×106/350μl/ウェルの濃度でNB/B27/GLX中で96ウェルプレートの丸底ウェルにプレートした。そのウェルをPCRテープで緊密にシールして、ガス交換を妨げた。培地は、急速に酸性になり、これによって、低酸素環境が示される。ほとんどの細胞は、非接着のままであった;しかし、この環境における培
養の5日後でさえ、培養物は、正常な増殖条件下で再プレートされたとき、結合、成長及び増殖できた、含んでいる生細胞がやはり少なかった。
【0136】
ウェルの内容物をいくつかの時点で回収し、遠心分離して細胞及び細片からCMを分離し、その細胞ペレットを、凍結/解凍サイクルに供して、生残細胞から細胞内容物を放出した。従って、各々の時点で、上清を収集し(300μl/ウェル、ここではCMと呼ばれる)、ペレットを、300μlのNB中に再懸濁し;両方の上清及び再懸濁されたペレットを凍結した。全ての時点が収集された後、全てのサンプルを解凍して、遠心分離によって清澄化した(10分間200g)。次いで、LDH活性及びFGF2濃度を、CM中で、及び細胞ペレットの凍結−解凍抽出物中で、決定した(実施例6に記載のとおり)。これらの実験では、CM及び細胞抽出物は、1mlのNBあたり百万個の細胞を用いて生成した。
【0137】
この結果は
図6に示す。細胞内FGF2含量は、MSC及びDNTT−MSCの両方において、最初のプレートの20時間内に急速に低下したが、放出されたFGF2のレベル(CM中)は、4時間から2日まで一定に保持された(
図6A)。実質的に高いFGF2レベルがDNTT−MSCからは、MSCからよりも多く放出された(それぞれ、百万個の細胞あたり、約2対0.5ng)。CM中のFGF2のレベルの低下は、5日で検出された。放出されたFGF2は、低酸素培養条件下である程度の時間、安定であったようであった。
【0138】
MSC及びDNTT−MSCからのLDHの放出は、瀕死の細胞の集団について期待されるとおり、低酸素培養の経過にまたがって増大した(
図6B)。しかし、細胞内LDHレベルは、細胞内FGF2レベルが低下するにつれて、高いまま残った。これによって、低酸素条件下では、生残細胞は、細胞内FGF2のそれらの産生を低下することが示唆される。さらに、DNTT−MSCは典型的には、後の時点でDNTT−MSC中のより高いレベルの細胞内LDHによって示されるとおり、これらの条件下でMSCよりもよく生存した。
【0139】
したがって、細胞内FGF2は、低酸素培養の経過にわたって瀕死の細胞から放出されるが、生残細胞は、細胞内FGF2のそれらの産生を低下するようである。従って、培養された細胞(MSCまたはDNTT−MSC)の抽出物の移植は、移植後のそれらの細胞内FGF2貯蔵を低下する可能性が高い、移植された細胞よりも高い量の生物学的に活性なFGF2を提供する可能性が高い。
【0140】
実施例8:DNTT−MSCから放出されたFGF2と追加の分子との間の相乗作用
組み換えFGF2(rFGF2,Peproptech,Rocky Hill,NJ)の効果を、単独で、及びDNTT−MSC由来の順化培地を組み合わせて、ラット胚性皮質細胞の増殖に対して、DNTT−MSC凍結/解凍無細胞(E0)抽出物の効果と評価して比較した。細胞増殖は、上記の実施例2に記載のように測定した。
【0141】
図7Aによって、rFGFは、皮質細胞増殖に対してわずかに刺激性の効果を有する(
図7A、三角)が;rFGF2及びDNTT−MSC CMの組み合わせでは、かなり高い割合の増殖が生じた(
図7A、丸印)ことが示される。この結果、1つ以上の成分の存在が、DNTT−MSC馴化培地中で、FGF2と呼応して、皮質細胞増殖を刺激することが示される。相加的効果を仮定する算出された用量応答に対して比較して(
図7A,四角)、rFGF2及びCMの効果が相乗作用的であることが示される。
【0142】
rFGF2及びDNTT−MSC CMの相乗作用的組み合わせを、皮質細胞増殖アッセイにおいてDNTT−MSC無細胞E0抽出物と比較した。この実験のために、皮質細
胞を、種々の濃度のrFGF2に対して、単独で、または75%に希釈されたDNTT−MSC CMと組み合わせて、及びDNTT−MSC E0抽出物の一連の希釈に対して暴露した。ELISAによるE0抽出物中のFGF2レベルのアッセイによって、未希釈のE0抽出物中の3.5ng/mlというFGF2濃度が示された。
【0143】
その結果を
図7Bに示す。前に注記されるとおり、rFGF2及びCMは、相乗作用的に作用して、増殖を刺激した。DNTT−MSC無細胞E0抽出物もまた、増殖を刺激した。特に、半分強度のE0抽出物(約1.75ng/mlのFGF2を含む)は、馴化培地(これは一般には20pg/ml以下のFGF2を含む)の存在下で、2.5ng/mlのrFGF2とほぼ同じ増殖誘導活性を有した。
【0144】
これらの結果、DNTT−MSCは、神経細胞の増殖を刺激するために、FGF2と相乗作用的に作用する1つ以上の分子を含むこと、及びこのような分子は分泌され得ることが示される。
【0145】
実施例9:DNTT−MSC中の細胞内FGF2の特徴付け
天然に存在するFGF2は、18kD、22kD、22.5kD、24kD、及び34kDという少なくとも5つのアイソフォームで存在する。組み換えFGF2は、低分子量(18kD)のアイソフォームのみを含む(
図8,レーン2)。対照的に、RIPA緩衝液(Thermo Fisher Scientific,Rockford,IL)を用いて調製され、変性Tris−グリシンSDSポリアクリルアミドゲルで解析されたDNTT−MSCの細胞丸ごとの溶解液は、モノクローナル抗FGF2抗体(bFM2,(Millipore,Billerica,MA)を用いて検出されたとおり、少なくとも3つのFGF2アイソフォームを含む(
図8,レーン1)。
【0146】
DNTT−MSC中の種々のFGF2アイソフォームの細胞内分布を、種々の細胞溶解液及び抽出調製物を解析することによって検討した。DNTT−MSCからの総細胞溶解液を、RIPA緩衝液(Thermo Fisher Scientific,Rockford,IL)中で細胞を溶解することによって得た。この緩衝液は、イオン性及び非イオン性の両方の界面活性剤を含み、核及び細胞膜を溶解し、それによって、細胞質、核及び細胞成分に結合した膜を放出する。細胞質溶解液は、等張性緩衝液中に細胞を溶解すること、核酸及び細胞細片をペレット化すること、ならびに上清を回収することによって調製した。細胞質溶解液の調製の間に得られたペレットを、RIPA緩衝液で抽出して、核溶解液を得た。これらの溶解液を、培養された細胞を凍結/解凍サイクルに供すること、次いで遠心分離によって浄化することによって、以前に記載されたとおり調製された、DNTT−MSCの無細胞E0抽出物と比較した。従って、E0抽出物は、膜の破裂のような機械的な損傷によって放出される可溶性細胞成分を含む。
【0147】
サンプルは、変性Tris−グリシン−SDSポリアクリルアミドゲルでの電気泳動によって解析し、タンパク質は、免疫ブロットによって検出した。
図9に示される結果によって、ほとんどのFGF2が、DNTT−MSCの細胞質に存在すること;ならびに無細胞E0抽出物が主に細胞質物質を含むことが示される。
【0148】
DNTT−MSCのような間葉細胞がFGF2のいくつかのアイソフォームを含むという事実によって、組み換えFGF2と比較して、DNTT−MSC抽出物の優れた増殖誘導活性が説明できた。例えば、
図7B、実施例8を参照のこと。
【0149】
実施例10:線維芽細胞の抽出は、神経前駆細胞の増殖及び分化を促進する。
ヒト包皮線維芽細胞(HFF,ATCC 1041)を用いて、実施例1に記載のような、凍結−解凍無細胞抽出物及び不溶性細胞残渣画分を調製した。これらの画分における
、及びHFF細胞溶解液における、FGF2のレベルを、実施例1に記載のとおり測定し、これらの画分が、神経細胞の増殖を刺激する能力を、実施例2に記載のとおりアッセイした。
【0150】
図10Aによって、HFFが、MSCよりもいくぶん高いレベルの細胞内FGF2を含むことが示される。
図10Bによって、全ての画分(細胞溶解液、無細胞(E0)抽出物、及び細胞残渣)が、神経前駆細胞の増殖を刺激することが示される。HFF及びMSCの両方の刺激効果は、BMPインヒビターであるノギンに対して非感受性である(
図10C)。星状細胞前駆体の分化は、BMPによって刺激されるので、この結果は、神経の前駆体の増殖と一致する。
【0151】
HFFの画分をまた、それが神経前駆細胞の分化を促進する能力について、実施例4に記載の方法を用いて試験した。
図11に示される結果によって、HFF由来の無細胞(E0)抽出物が、皮質細胞のネスチン陽性神経前駆細胞、GFAP陽性の星状細胞及びCNP陽性乏突起膠細胞への分化を促進することが示された。