(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも、変位を観測する構造物の大きさ、種別、設置状態、及び想定変位の大きさや方向のいずれかに応じて、前記反射板の大きさ、前記反射面の面数、前記反射板の中心から遠心方向の反射面の間隔が設定されることを特徴とする請求項3に記載の反射板。
前記反射板は、設置時において、前記照射手段に対して対向させて、前記少なくとも3面以上の反射面のうち、1の反射面で前記電磁波が反射されるように構造物に設置され、
その後に、前記算出手段により算出された距離が前記設置時における前記照射手段から前記1の反射面までの距離と異なることを条件に、前記構造物が前記設置時から変位していると判定することを特徴とする請求項6又は7に記載の測距装置。
前記変位度が所定の変位度以上になると判定されたことに連動して、前記構造物において異常の発生しやすい部位を撮像する撮像手段をさらに備えることを特徴とする請求項9から11のいずれかに記載の変位観測システム。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を限定するものではなく、本実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲の様々な形態も本発明に含まれ、また、以下の実施形態の一部を適宜組み合わせることもできる。
【0013】
また、本発明は、上述のように、構造物の変位を観測する技術に関するものであるが、以降では、構造物として、鉄塔構造物(以下、鉄塔と称する)を例に説明する。
【0014】
図1は、測距装置100を備える変位観測システム10の概略ブロック図である。測距装置100は、
図1に示されるように、反射板110と、地上に固定されたレーザ装置120を備える。反射板110は、レーザ装置120から照射されたレーザ光を反射させ、レーザ装置120に返す装置である。レーザ装置120は、所定のトリガに従って、レーザ光を反射板110に照射し、そのレーザ光を照射してから、反射板110により反射されたレーザ光を受光(受信)するまでの時間を計測することで、レーザ装置120から反射板110までの距離を算出し、距離情報として取得する。このように、測距装置100は、レーザ装置120から反射板110(即ち、反射板110が設置された鉄塔の位置)までの距離を測定する。
【0015】
なお、ここでは、測距装置100により測距する上で、レーザ光(波長が380nm〜750nmの電磁波)を用いて説明しているが、直進性を有し、反射板110からの反射波を受信でき、それにより反射板110までの距離を計測できる電磁波であれば、必ずしもレーザ光を用いなくてもよい。
【0016】
また、測距装置100は、情報処理装置200と所定の通信回線を介して接続され、さらに、気象観測装置300とLAN(Local Area Network)等の有線及びWi−SUN等の無線を介して接続されることで、変位観測システム10を構成する。この変位観測システム10は、その構成により、常時観測システムや気象連動観測システムとして機能する。以下、これらの機能について、順に説明する。
【0017】
常時観測システムは、上記構成のうち、測距装置100及び情報処理装置200で機能する。ここで、常時観測は、台風や地震等の影響で鉄塔が動いて戻らない場合のズレ量(移動量)を観測するものであり、また、常時観測として、例えば、所定の時間間隔での観測、所定の日時における定時観測、情報処理装置200の作業者からの計測指示に従った観測等がある。
【0018】
この常時観測において、測距装置100は、上述の手順に従ってレーザ装置120から反射板110までの距離を測定し、さらに、その測定した距離に基づいて、内部の記憶装置に記憶された所定の判定テーブルを参照することで、反射板110(鉄塔)の変位方位及び変位度(階級)を判定する。測距装置100は、判定結果を、内部の記憶装置に記憶するとともに、測定された距離(距離情報)、並びに鉄塔の変位方位及び変位度を、所定の通信回線を介して情報処理装置200に送信する。
【0019】
情報処理装置200は、例えば、外部のサーバ装置等であり、測距装置100より送信された、測定された距離、並びに鉄塔の変位方位及び変位度を、計測条件と関連付けて、内部の記憶装置に記憶する。情報処理装置200の作業者は、情報処理装置200の表示装置(表示画面)に、鉄塔の変位方位及び変位度に基づいて、二次元又は三次元で鉄塔の変位状態(即ち、鉄塔が移動して、元の位置に戻らない状態(恒久的な変位))を表示等、可視化することで、鉄塔の状態を分析し、必要に応じて外部の携帯情報端末等と連携させることもできる。なお、ここでは、測距装置100において鉄塔の変位方位及び変位度を判定する仕様としているが、情報処理装置200の記憶装置に所定の判定テーブルを記憶させ、情報処理装置200が、計測条件及び計測した距離情報に基づいて鉄塔の変位方位及び変位度を判定する仕様としてもよい。
【0020】
気象連動観測システムは、言うなれば、外部要因連動観測システムであり、上記構成のうち、測距装置100、情報処理装置200、及び気象観測装置300で機能する。ここで、気象連動観測は、台風や地震等の影響で鉄塔が揺れて戻る場合の揺れ幅(どの程度、揺れるか)等の動態を観測するものであり、また、気象連動観測として、例えば、風速等に連動させた観測等がある。
【0021】
この気象連動観測において、測距装置100は、気象観測装置300から計測指示及び気象観測値を受信すると、その観測対象としている気象に応じて設定された計測条件に従ってレーザ装置120から反射板110までの距離を測定し、さらに、その測定した距離に基づいて、内部の記憶装置に記憶された所定の判定テーブルを参照することで、反射板110(鉄塔)の変位方位及び変位度を判定する。測距装置100は、判定結果を、内部の記憶装置に記憶するとともに、気象観測値、測定された距離、計測条件、並びに鉄塔の変位方位及び変位度を、所定の通信回線を介して情報処理装置200に送信する。
【0022】
情報処理装置200は、測距装置100より送信された、気象観測値、測定された距離、計測条件、並びに鉄塔の変位方位及び変位度を、内部の記憶装置に記憶する。情報処理装置200の作業者は、情報処理装置200の表示装置(表示画面)に、鉄塔の変位方位及び変位度に基づいて、二次元又は三次元で時系列的に鉄塔の変位状況(即ち、鉄塔が揺れて戻る場合の揺れ幅(一時的な変位))を表示等、可視化することで、鉄塔の状況を分析し、必要に応じて外部の携帯情報端末等と連携させることもできる。なお、鉄塔の変位方位及び変位度の判定に関して、常時観測の場合と同様に、情報処理装置200の記憶装置に所定の判定テーブルを記憶させ、情報処理装置200が、計測条件及び計測した距離情報に基づいて鉄塔の変位方位及び変位度を判定する仕様としてもよい。
【0023】
気象観測装置300としては、例えば、風向風速センサ、振動センサ、加速度センサ、雨量センサ、土中水分量センサ、ワイヤ式センサ等の各種センサが想定され、また、気象観測装置300に関して、上述では測距装置100の外部に設置するものとして説明したが、測距装置100の内部に実装できるものは、内部に実装してもよい(即ち、測距装置100は、気象観測装置300を含んでもよい。)
【0024】
気象観測装置300には、各々、コンパレータ等で構成された閾値設定用の基盤が気象観測装置300の内部に実装、又は気象観測装置300の外部に接続(設置)され、その基盤において、気象観測装置300により観測された値(気象観測値)が設定された閾値以上であると判定されると、気象観測装置300又は閾値設定用の基盤は、測距装置100に対して計測指示及び気象観測値を送信する。なお、この閾値に関して、情報処理装置200の作業者は、気象観測値、計測した距離情報、計測条件、鉄塔の変位方位及び変位度等を確認することで、観測対象とする気象に応じて調整することもできる。また、以降の変位観測システム10に関する説明では、閾値設定用の基盤が気象観測装置300の内部に実装されているものとして説明し、気象観測装置300として風向風速センサを例に説明する。
【0025】
その他、
図1には、図示していないが、鉄塔には撮像装置が設置され、撮像装置は、気象観測値、また、変位度(所定の変位度以上になると判定されたこと)に応じて連動させることができる。例えば、基礎周辺ののり面の崩壊が危惧される鉄塔であれば、「のり面の画像」を撮像し、鉄塔の基礎(コンクリート)部分を観測したい場合であれば、「鉄塔の基礎部分の画像」を撮像し、また、風によるギャロッピングが懸念される鉄塔であれば、「鉄塔の腕金部分の部材や電線保持箇所の画像」等、鉄塔において異常の発生しやすい部位を撮像する。これにより、作業者の点検作業、保守作業を省力化することやリアルタイムの画像モニタリング(監視)が可能となる。また、測距装置100の外部には太陽光パネルが設置され、測距装置100は、商用電源での運用以外に、自立電源での運用も可能としている。
【0026】
図2は、測距装置100のハードウェア構成を示すブロック図である。測距装置100は、
図2に示されるように、レーザ装置120と反射板110を備える。レーザ装置120は、その主な構成として、制御装置131、レーザ照射装置132、受光装置133、計測装置134、記憶装置135、インタフェース136、通信装置137等を備える。
【0027】
制御装置131は、所定のプロセッサを搭載したコンピュータであり、レーザ装置120から反射板110までの距離を測定(計測)する測定制御、また、測定された距離情報と、記憶装置135に記憶されている変位方位及び変位度を判定するための判定テーブルを照合することで、鉄塔の変位方位及び変位度を判定する判定制御を行う。また、制御装置131は、変位度に応じて撮像装置(カメラ)400に対して、撮像指示を行ったり、情報処理装置200の作業者からの命令に従って、記憶装置135に記憶されているファームウェアの更新等を行ったりする。
【0028】
これ以外に、制御装置131は、各種データの取得制御として、例えば、インタフェース136を介して、気象観測装置300から計測指示及び気象観測値、撮像装置400から画像データを取得するように制御する。また、制御装置131は、記憶制御として、記憶装置135に、各種取得したデータ、各種処理の結果、各種設定(例えば、定時観測時における計測条件等)を記憶するように制御する。また、制御装置131は、各種データの送信制御として、通信装置137を介して、常時観測において、測定された距離、並びに鉄塔の変位方位及び変位度を送信するように制御し、気象連動観測において、気象観測値、測定された距離、計測条件、並びに鉄塔の変位方位及び変位度を送信するように制御する。
【0029】
レーザ照射装置132は、レーザの照射源であり、レーザ光を発振するレーザ発振器と、レーザ発振器により発振されたレーザ光を焦点に集める集光レンズを備え、上述のように、情報処理装置200の作業者又は気象観測装置300の計測指示等をトリガとして、反射板110にレーザ光を照射する。受光装置133は、反射板110により反射されたレーザ光を受光(受信)する装置である。計測装置134は、レーザ照射装置132から照射されたレーザ光が反射板110により反射され、受光装置133により受光されるまでの時間を計測する。
【0030】
記憶装置135は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SDカード等であり、常時観測において、測定された距離、並びに鉄塔の変位方位及び変位度を記憶し、気象連動観測において、測定された距離、計測条件、並びに鉄塔の変位方位及び変位度を記憶する。その他、変位方位及び変位度を判定するための判定テーブル、気象観測値等の各種取得したデータ、各種処理の実行に用いられるプログラム等を記憶する。
【0031】
また、インタフェース136は、RS(Recommended Standard)232、LAN等の有線及びEnOcean、LoRa、Wi−SUN等の無線を介して、気象観測装置300からのアナログ入力又はデジタル入力、及び気象観測装置300やその他の機器へのデジタル出力を行うインタフェースである。通信装置137は、モバイル通信(例えば、通信規格としてLTE(Long Term Evolution)を用いた通信等)用のアンテナである。
【0032】
反射板110は、レーザ光を正反射(鏡面反射)するように設計された装置であり、詳細は、
図4、
図5を用いて後述するが、簡易には、一方の反射面と、その一方の反射面に対する高さが異なる段差面を有する段差構造により形成される。また、変位する方位を確認する上では(例えば、鉄塔が右側又は左側に変位したのかを確認する上では)、面方向がレーザ光の照射方向に略垂直な反射面を少なくとも3面以上具備させ、レーザ照射装置132から面方向に垂直な距離が各々の反射面で異なるように、段差構造により形成させればよい。その他、反射板110の素材としては、例えば、樹脂又は金属(鉄、アルミ)等、レーザ光を反射する素材であれば、どのような素材でも用いることができる。
【0033】
図3は、測距装置100の機能構成を示すブロック図である。測距装置100は、
図3に示されるように、その機能として、受信部141、記憶部142、計測条件設定部143、距離情報取得部144、判定部149、送信部150を備える。
【0034】
受信部141は、気象観測装置300から送信される計測指示及び気象観測値、また、情報処理装置200の作業者から送信される計測指示等を受信する。記憶部142は、受信部141において受信した気象観測値等の各種取得したデータ、変位方位及び変位度を判定するための判定テーブル、各種処理の実行に用いられるプログラム、各種処理の実行結果(例えば、常時観測において、測定された距離、並びに鉄塔の変位方位及び変位度、気象連動観測において、測定された距離、計測条件、並びに鉄塔の変位方位及び変位度等の実行結果)を記憶する。
【0035】
計測条件設定部143は、気象連動観測において、受信部141により計測指示及び気象観測値が受信されると、その気象観測値に基づいて、鉄塔の距離情報を取得する上での条件(計測条件)を設定する。距離情報取得部144は、計測条件設定部143により設定された計測条件に従って、レーザ装置120から反射板110までの距離を距離情報として取得する。距離情報取得部144は、
図3に示されるように、レーザ照射部145、受光部146、計測部147、距離情報算出部148を備える。レーザ照射部145は、受信部141により計測指示が受信されると、反射板110にレーザ光を照射する。受光部146は、反射板110により反射されたレーザ光を受光(受信)する。計測部147は、レーザ照射部145によりレーザ光が照射されてから、反射板110により反射され、受光部146により受光されるまでの時間を計測する。距離情報算出部148は、三角測距方式や位相差距離方式等の演算処理により、レーザ装置120から反射板110までの距離を算出する。
【0036】
判定部149は、距離情報取得部144より取得された距離情報を、変位方位及び変位度を判定するための判定テーブルと照合することで、変位方位及び変位度を判定する。送信部150は、常時観測において、測定された距離(距離情報)、並びに鉄塔の変位方位及び変位度を送信し、気象連動観測において、測定された距離、気象観測値、計測条件、並びに鉄塔の変位方位及び変位度を送信する。また、送信部150は、情報処理装置200の作業担当者より気象観測値に関する閾値の調整指示(命令)があった場合に、その調整指示を気象観測装置300に送信する。
【0037】
図4は、丸型の反射板112を示す図である。
図4(A)は丸型の反射板112の上面図であり、
図4(B)は丸型の反射板112を構成する各々の反射面(以下、単に「面」と称することもある)の高さを表として示したものである。
図4(A)に示される丸型の反射板112は、レーザ光の照射方向に対する略垂直な断面が円形で形成される。
図4に示される丸型の反射板112では、その中心部に位置する中心円形反射面であるNo.0の面と、No.0の面の周りに渦巻状に形成され、かつ、レーザ装置120(レーザ照射装置132)から面方向に略垂直な距離が、渦巻き方向内周側から外周側に向かって段階的に異なるように(低くなるように)形成された外周渦巻反射面であるNo.1からNo.12までの面とで形成され、また、No.0からNo.12までの面が、レーザ装置120から照射されたレーザ光を入射方向に正反射させるように形成されている(即ち、面方向がレーザ光の照射方向に略垂直な段差面を有する段差構造になるように形成されている)。
【0038】
段差構造に関して、より具体的には、
図4(B)の表に示されるように、No.12の面の高さを基準として(即ち、0mmとして)、No.11の面が20mm、No.10の面が40mm、No.9の面が60mm、No.8の面が80mm、No.7の面が100mm、No.6の面が120mm、No.5の面が140mm、No.4の面が160mm、No.3の面が180mm、No.2の面が200mm、No.1の面が220mm、No.0の面が240mmの高さで形成される。
【0039】
このように、面方向がレーザ光の照射方向に略垂直な反射面の各々に関して、中心円形反射面の周りに渦巻状に形成させ、かつ、渦巻き方向内周側から外周側に向かって段階的に低くなるように形成させることで、レーザ照射装置132から面方向に垂直な距離が各々の面で異なるように、丸型の反射板112を段差構造にする(即ち、レーザ光を照射してから、反射板112により反射されたレーザ光を受光するまでの時間を、各々の面で異なる時間として計測されるようにする)。
【0040】
これにより、例えば、設置時(鉄塔が変位していないとき等の正常時)において、レーザ装置120からのレーザ光がNo.0の面で反射されるように反射板112を設置していた場合であって、その後に、鉄塔が変位すると、レーザ装置120からのレーザ光がNo.0の面以外の面で反射されることになり、結果、レーザ装置120から反射板112までの距離が、設置時よりも、長く計測されることになり(異なって計測されることになり)、鉄塔の変位を確認することができる。また、補足として、上述の略垂直とは、レーザ光の照射方向と反射面の面方向の成す角度が必ずしも90度である必要はなく、反射面により反射されたレーザ光が、受光装置133において受光され得るように設定される、レーザ光の照射方向と反射面の面方向の成す角度として示される。
【0041】
なお、
図4では、各々の段差を20mmに設定した場合を、その一例として示しているが、レーザ装置120の測距精度(略1mm程度)以上であれば、段差の間隔を任意に設定することができる。そのため、反射板112を構成する各々の面に関して、レーザ光を入射方向に正反射できることを前提に、段差の間隔を略1mm程度で設定し、反射板112を円形のスロープ状に形成させることもできる。他方、鉄塔の変位(異常)を確認するだけであれば、鉄塔の許容変位に応じたサイズで形成された面(正常時の測距に用いる面)と、その面と高さが異なる段差面を有する段差構造により形成させればよい。また、
図4の反射板112では、No.0からNo.12までの面が段階的に低くなるように、凸状に形成させているが、その逆の構造としてもよい。即ち、反射板112を、No.12からNo.0までの面が段階的に低くなるように、凹状に形成させてもよい。
【0042】
補足として、
図4では、反射板110の形状として丸型の反射板112について説明したが、反射板110の形状は必ずしも丸型である必要はなく、
図5(
図5(A)及び
図5(B))に示されるような角型(角形)で形成してもよい。即ち、レーザ光の照射方向に対する略垂直な断面を角型(角形)で形成してもよい。
【0043】
図5(A)に示される角型の反射板114では、その中心部に位置する中心正方形反射面であるNo.0の面と、No.0の面の周りに渦巻き状に形成され、かつ、レーザ装置120(レーザ照射装置132)から面方向に垂直な距離が、渦巻き方向内周側から外周側に向かって段階的に異なるように(低くなるように)形成される外周多角形反射面であるNo.1からNo.12までの面とで形成され、また、No.0からNo.12までの面が、レーザ装置120から照射されたレーザ光を入射方向に正反射させるように形成されている(即ち、面方向がレーザ光の照射方向に略垂直な段差面を有する段差構造になるように形成されている)。
【0044】
また、
図5(B)に示される角型の反射板116では、その中心部に位置する中心正方形反射面であるNo.25の面と、No.25の面の周りに渦巻き状に形成され、かつ、レーザ装置120(レーザ照射装置132)から面方向に垂直な距離が、渦巻き方向内周側から外周側に向かって段階的に異なるように(低くなるように)形成される外周正方形反射面であるNo.24からNo.1までの面とで格子状に形成され、また、No.25からNo.1までの面が、レーザ装置120から照射されたレーザ光を入射方向に正反射させるように形成されている(即ち、面方向がレーザ光の照射方向に略垂直な段差面を有する段差構造になるように形成されている)。
【0045】
その他、反射板110の形状に関して、三角形、五角形、六角形等の多角形で形成することもできる。詰まりは、鉄塔が、どの方向に、どれくらい変位したかを確認することができれば、どのような形状で形成してもよい(最低限、異常を検知できる形状であれば(どれくらい変位したかを確認できる形状であれば)、どのような形状で形成してもよい)。なお、どの程度の変位を「異常」とするかは、鉄塔(構造物)の大きさ、種別、設置状態、及び想定変位の大きさや方向等の少なくともいずれかで異なり、それらの条件に合わせて、反射板110の大きさ(例えば、直径30cmから50cm)、区分数(例えば、12区分から16区分等の反射面の面数)、反射板110を構成する反射面と反射面の間隔(例えば、5cmから3cm)等を変更する。
【0046】
図6は、鉄塔の変位方位及び変位度を判定するための判定用テーブル(簡単には、鉄塔の異常を判定するための判定用テーブル)を示す図である。なお、ここでは、反射板110として、上述の
図4の丸型の反射板112を用いた場合であって、かつ、
図4の丸型の反射板112をレーザ装置120に対して対向させて、反射板112のNo.0の面とレーザ装置120との距離が30mの場合の判定用テーブルを示している。
【0047】
判定用テーブルにおいて、第1列の「No」は、丸型の反射板112を構成する面の番号として示され、第2列の「中央値」は、レーザ装置120の測距精度に誤差がないものと仮定した場合であって、かつ、各々の段差を20mmに設定した場合の、レーザ装置120から丸型の反射板112を構成する各々の面までの距離として示される。また、第3列の「レーザ測距値」は、測距装置100で計測される距離であり、レーザ装置120から丸型の反射板112を構成する各々の面までの距離(「中央値」)に、レーザ装置120の測距誤差(ここでは、区分の都合上、−10mm以上、+10mm未満として設定)を含めたものとして示される。例えば、「中央値」が30.020である場合、「レーザ測距値」は、レーザ装置120の測距誤差及び区分の範囲(都合)を考慮して、30.010m以上 〜 30.030m未満で設定される。
【0048】
さらに、第4列の「変位方位」は、丸型の反射板112(鉄塔)の変位する方位(東:E、西:W、北:N、南:S)として示され、また、第5列の「変位度(階級)」は、丸型の反射板112のNo.0の中心からの変位の度合いとして示される。なお、「変位度(階級)」に関して、例えば、「階級0」は異常がないレベルであること、「階級1」は変位があるが、要監視レベルであること、「階級2」以上は変位があり、異常レベルであることを示すものとして定義される。
【0049】
加えて、第6列の「変位」は、丸型の反射板112のNo.0の中心から遠心方向への距離として示される。上述の
図4の丸型の反射板112において、反射板112のNo.0の面の直径を20mm、No.1の面のNo.0側からNo.5側までの間隔(幅)を50mm、No.5の面のNo.1側からNo.9側までの間隔(幅)を50mm、その他も同様に、反射板110を構成する面と面の間隔を50mmに設定している。この場合、丸型の反射板112のNo.0の面の中心から外側に、No.0の面とNo.1の面の境界までの距離は10mm、No.1の面とNo.5の面の境界までの距離は60mm、No.5の面とNo.9の面の境界までの距離は110mm、No.9の面の外側境界までの距離は160mmとなる。この点、丸型の反射板112のNo.0の面の中心から外側に、No.2の面、No.3の面、No.4の面の方向においても同様である。
【0050】
測距装置100は、レーザ装置120から丸型の反射板112までの距離を計測すると、その測定された距離が判定用テーブル内の「レーザ測距値」のどの範囲に含まれるかを判定し、その範囲に紐づけられた「変位方位」及び「変位度(階級)」を導出する。なお、この判定用テーブルに設定される数値は、反射板110の形状、レーザ装置120と反射板110の距離、どの程度の変位を異常として判定するか、どの程度の変位を観測するか等によって異なる。
【0051】
図7は、常時観測における測距装置100の処理の手順を示すフローチャートであり、ここでは、常時観測として、情報処理装置200より送信された計測指示及び計測条件を受信してから、情報処理装置200に変位方位及び変位度を送信するまでの手順を例示する。なお、以下において、フローチャートの説明における記号「S」は、ステップを表すものとする。即ち、ここでは、フローチャートの各処理ステップS71〜ステップS76をS71〜S76と略記する。また、この点、後述の
図8に示すフローチャートにおいても同様とする。
【0052】
図7の常時観測における測距装置100の処理は、上述のように、情報処理装置200から計測指示及び計測条件を受信すると(S71)、開始される。受信部141により計測指示及び計測条件が受信されると、判定部149は、記憶部142から、その構造物(鉄塔)に応じて設定された判定用テーブルを読み込む(S72)。
【0053】
距離情報取得部144は、受信部141により計測指示及び計測条件が受信されると、計測条件に従って、レーザ光を反射板110に照射し、そのレーザ光を照射してから、反射板110により反射されたレーザ光を受光するまでの時間を計測することで、レーザ装置120から反射板110までの距離を算出し、距離情報として取得する(S73)。なお、距離情報取得部144は、記憶部142に取得した距離情報を記憶する。
【0054】
そして、距離情報を取得すると、判定部149は、取得した距離情報を判定用テーブルと照合する(S74)。判定部149は、照合の結果、導出された変位方位及び変位度を記憶部142に記憶する(S75)。そして、送信部150は、記憶部142に変位方位及び変位度が記憶されると、送信処理の設定(即ち、即時に送信する設定、又はバッチ処理により送信する設定のいずれに設定されているか)を判定し(S76)、即時に送信する設定である場合には、情報処理装置200に、距離情報(レーザ装置120から反射板110までの距離)、変位方位及び変位度を送信する(S77)。
【0055】
なお、S72の処理とS73の処理の順序は、必ずしもこの順序に限定されず、S73の処理をS72の処理よりも先に実行してもよく、また、S72の処理とS73の処理を並列に実行してもよい。また、補足として、情報処理装置200の作業者は、変位方位及び変位度を受信すると、所定のアプリケーションを用いて、鉄塔の変位状態を表示させる(具体的には、変位度(階級)に応じて、「階級0」を黒色(異常なし)、「階級1」を青色(要監視)、「階級2」を黄色(異常あり)、「階級3」を赤色(異常あり)、「階級4」を紫色(異常あり)等で表示させる)。
【0056】
図8は、気象連動観測における測距装置100の処理の手順を示すフローチャートである。即ち、測距装置100において、気象観測装置300より送信された計測指示及び気象観測値を受信してから、情報処理装置200に変位方位及び変位度を送信するまでの手順を示すフローチャートである。
【0057】
図8の気象連動観測における測距装置100の処理は、上述のように、気象観測装置300から計測指示及び気象観測値を受信すると(S81)、開始される。受信部141により計測指示及び気象観測値が受信されると、計測条件設定部143は、観測対象としている気象及び気象観測値に基づいて、レーザ装置120から反射板110までの距離を計測する条件(計測条件)を設定する(S82)。また、判定部149は、記憶部142から、その構造物(鉄塔)に応じて設定された判定用テーブルを読み込む(S83)。
【0058】
距離情報取得部144は、計測条件設定部143により計測条件が設定されると、その計測条件に従って、レーザ光を反射板110に照射し、そのレーザ光を照射してから、反射板110により反射されたレーザ光を受光するまでの時間を計測することで、レーザ装置120から反射板110までの距離を算出し、距離情報として取得する(S84)。なお、距離情報取得部144は、記憶部142に取得した距離情報を記憶する。
【0059】
そして、距離情報を取得すると、判定部149は、取得した距離情報を判定用テーブルと照合する(S85)。判定部149は、照合の結果、導出された変位方位及び変位度を記憶部142に記憶する(S86)。送信部150は、送信処理の設定(即ち、即時に送信する設定、又はバッチ処理により送信する設定のいずれに設定されているか)を判定し(S87)、即時に送信する設定である場合には、情報処理装置200に、気象観測値、測定された距離、計測条件、並びに鉄塔の変位方位及び変位度を送信する(S88)。その後、計測終了の条件を充足するか否かを判定し(S89)、計測を継続するようであれば、処理をS84に返し、計測を終了するようであれば、
図8のフローチャートに示される処理を終了する。
【0060】
次に、
図8に示される気象連動観測において、気象観測装置300から測距装置100に対して送信される計測指示と、測距装置100においてレーザ装置120から反射板110までの距離を計測する条件(計測条件)について説明を補足する。
【0061】
上述の説明では、その観測対象を「風(風光及び風速)」として(即ち、気象観測装置300を「風向風速センサ」として)説明したが、上述のように、観測対象としては、「風(風光及び風速)」以外の気象条件も想定されるため、その他の気象条件を観測(計測)する気象観測装置300についても併せて説明する。
【0062】
具体的には、気象観測装置300(センサ)として、(1)風向風速センサ以外に、(2)「振動センサ」及び「加速度センサ」(地震に関するセンサ)、(3)「雨量センサ」、(4)「土中水分量センサ」、(5)「ワイヤ式センサ」があり、ここでは、これらのセンサの各々に関して設定される(a)検出対象、(b)測距装置100に計測指示を送信する上での閾値、(c)計測条件について説明する。
【0063】
(1)「風向風速センサ」
「風向風速センサ」は、(a)検出対象を「風向」及び「風速」とするセンサである。(b)測距装置100に計測指示を送信する上での閾値に関しては、「風向」に応じた「風速」が閾値として設定される。
【0064】
ここで、「風向」は鉄塔が風を受ける方向のことであり、鉄塔においては、風を受ける方向によって風圧(風圧荷重)が異なり、取り分け、角度鉄塔においては、「風速」だけではなく、「風向」も、倒壊に至るような大きな変位に影響を及ぼす要因となる。そこで、ここでは、「風向」別(例えば、8方向別等)に、倒壊に至るような大きな変位に影響を及ぼす「風速(最大瞬間風速)」を閾値として設定する。具体的には、ある「風向」において、倒壊等の異常に寄与しないようであれば、閾値としての「風速」を高く設定し、また、その逆の場合には、閾値としての「風速」を低く設定する。
【0065】
また、(c)計測条件に関しては、異常を有効に検知できるように設定される。例えば、ある「風向」において、「風速」が40m以上であって、かつ42.5m未満であれば、閾値と比較する上での鉄塔の変位を算出する上で、「1秒間に10回計測(観測)する」ように設定される。また、より詳細な動静を把握するためには「1秒間に200回計測(観測)する」ように設定することも可能である。
【0066】
(2)「振動センサ」及び「加速度センサ」
「振動センサ」及び「加速度センサ」は、「地震」を検知するためのセンサである(即ち、(a)検出対象を「地震」とするセンサである)。加えて、「振動センサ」及び「加速度センサ」において、(b)測距装置100に計測指示を送信する上での閾値に関して、「震度5弱以上」、又は「震度4かつ降雨中」として設定され、また、(c)計測条件に関して、「例えば、1分間隔等で計測(観測)する」ように設定される。
【0067】
(3)「雨量センサ」
「雨量センサ」は、(a)検出対象を「降雨」とするセンサである。加えて、「雨量センサ」において、(b)測距装置100に計測指示を送信する上での閾値に関して、例えば、『気象庁が発表している「大雨警報(土砂災害)の危険度分布(土砂災害警戒判定メッシュ情報)」の「非常に危険(警戒レベル4相当)」が1時間以上、継続した場合』等として設定され、また、(c)計測条件に関して、「例えば、1分間隔等で計測(観測)する」ように設定される。
【0068】
(4)「土中水分量センサ」
「土中水分量センサ」は、(a)検出対象を、鉄塔の基礎周辺の崩壊が危惧される斜面等とするセンサである。加えて、「土中水分量センサ」において、(b)測距装置100に計測指示を送信する上での閾値に関して、「降雨量20mm/h以上」として設定され、また、(c)計測条件に関して、「例えば、10分間隔等で計測(観測)する」ように設定される。なお、(4)「ワイヤ式センサ」に関しては、(3)「土中水分量センサ」と同様である。
【0069】
このように、各々のセンサにおいて、(a)検出対象、(b)測距装置100に計測指示を送信する上での閾値、(c)計測条件を適切に設定することで、鉄塔の変位方位及び変位度を適切に検知することができる。
【0070】
以上、説明したように、本発明によれば、構造物の変位を精確に観測することができる。なお、気象連動観測において、計測条件を、その観測対象としている気象に応じて設定するように説明したが、構造物の変位(異常)を検知する上で十分な時間間隔(例えば、1秒間隔)であれば、その時間間隔を予め計測条件として設定して、その時間間隔に基づいて構造物の距離情報を取得するようにしてもよい。
【0071】
また、上述では、構造物が水平方向に変位することを前提に説明したが、構造物が変位する場合、実際には、構造物は傾きをもって変位する(例えば、鉄塔が突風、地震、地盤沈下、土砂崩れ等の要因で変位した場合等に、鉄塔が水平移動することは想定し難く、鉄塔は傾きをもって移動する)。そのため、上述の実施形態では、便宜上、構造物が水平に変位したものと見做して、測定された距離と構造物の変位との関係をテーブルとして設定し、これに基づいて変位度を確認するものとして説明した。
【0072】
なお、これに関連して、反射板を、例えば、鉛直ジャイロ、ジンバル等の鉛直保持構造を有する支持機構に装着させ、その支持機構を構造物に設置することにより、反射板が鉛直下方向(レーザ装置の照射方向)に向くようにしてもよい。また、変位の観測を補完する上で、構造物に、構造物の傾斜角を検出する傾斜センサを設置してもよい。
【0073】
さらに、上述の説明では、構造物を鉄塔として、レーザ装置及び反射板を鉄塔の中心線上に配置する例について説明したが、構造物を高層ビルとする場合等、構造物の中心線上にレーザ装置及び反射板を配置することができない場合には、構造物(高層ビル)の側壁に反射板を所定の角度で傾けて設置し、さらに、レーザ装置(電磁波の照射装置)を反射板に対して対向させて配置すればよい。この場合、測定された距離、及び反射板の設置角度等から、三平方の定理等、所定の演算式を適用することで、構造物の変位を確認することができる。
【0074】
加えて、本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読み出し、実行する処理でも実現可能である。
本発明の測距装置は、反射板と、反射板に所定の電磁波を照射する照射手段と、反射板により反射された電磁波を受信する受信手段と、照射手段により電磁波を照射してから、受信手段により電磁波が受信されるまでの時間を計測する計測手段と、計測された時間に基づいて、前記照射手段から前記反射板までの距離を算出する算出手段とを備え、反射板は、面方向が電磁波の照射方向に略垂直な反射面を少なくとも3面以上含み、反射面は、照射手段から面方向に垂直な距離が各々の面で異なるように、段差構造により形成される。