(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
(リチウムの分離方法)
本発明のリチウムの分離方法は、リチウムを200mg/L以上、フッ素を20mg/L以上含むリチウム溶液から、リチウムを分離するリチウムの分離方法であって、第一除去工程、第二除去工程を含み、リチウム溶液作製工程、リチウム濃縮工程、リチウム回収工程を含むことが好ましく、さらに必要に応じてその他の工程を含む。
【0012】
また、本発明のリチウムの分離方法は、従来技術では、リチウム溶液から、リチウムとフッ素とを分離できない場合や、リチウムとフッ素との分離の精度が十分でない場合があるという、本発明者らの知見に基づくものである。さらに、本発明のリチウムの分離方法は、従来技術では、リチウムとフッ素とを分離する分離処理が煩雑である場合や、当該分離処理の実施コストが高くなってしまう場合があるという、本発明者らの知見に基づくものである。
例えば、リチウム溶液からリチウムとフッ素とを分離する際の精度が十分でない場合には、当該リチウム溶液から炭酸リチウムとしてリチウムを回収するときに、炭酸リチウムに含まれるフッ素の量が多くなってしまい、炭酸リチウムを電池材料として用いるときの電気特性が低下してしまうという問題がある。さらには、従来技術を用いて、リチウム溶液からリチウムとフッ素とを分離する場合には、当該リチウム溶液からリチウムを回収する際のリチウムの回収率が低くなってしまうときがあるという問題もある。
【0013】
より具体的には、例えば、特許文献1で開示されている技術においては、リチウムを溶液に浸出させる際に、当該溶液のpH(水素イオン指数)を適宜調整する必要があるため、リチウムを浸出させる工程や不純物を除去するための工程が煩雑なものである。さらに、特許文献1で開示されている技術においては、リチウムを溶液に浸出させることを繰り返して、当該溶液におけるリチウムの濃度を濃くする際に、不純物であるフッ素の濃度も高くなってしまい、回収する炭酸リチウムの純度(品位)が低くなってしまう場合があることを本発明者らは知見した。
また、例えば、特許文献2で開示されている技術においては、フッ素などの不純物を除去する方法として電気泳動が用いられているが、電気泳動は実施するための工程が煩雑であることだけではなく、実施のコストも高くなってしまうという問題がある。さらには、特許文献2で開示されている技術について、本発明者らが追試を行ったところ、電気泳動後のリチウム溶液からのリチウムの回収率は50%程度であり、残りの50%はフッ素を高濃度で含む不純物濃縮液側に分配されたが、この液から再度電気泳動でリチウムを回収にはさらにコストがかかるためリチウムの回収が困難であり、リチウムの回収率を50%以上に向上することが困難であることが分かった。
加えて、例えば、特許文献3で開示されている技術においては、一度、リチウムイオンを抽出した後に、リチウムイオンを逆抽出する逆抽出工程を行う必要があり、逆抽出工程などが煩雑であることだけではなく、実施のコストも高くなってしまうという問題がある。
【0014】
このように、従来技術においては、リチウム溶液から、リチウムとフッ素とを分離する際の精度が十分でない場合や、リチウムとフッ素とを分離する処理が煩雑で実施コストが高くなってしまう場合があるという問題があることを、本発明者らは知見した。
そこで、本発明者らは、リチウム溶液から、リチウムと不純物であるフッ素とを簡便に高い精度で分離することができるリチウムの分離方法ついて鋭意検討を重ね、本発明を想到した。
すなわち、本発明者らは、リチウムを200mg/L以上、フッ素を20mg/L以上含むリチウム溶液から、リチウムを分離するリチウムの分離方法であって、リチウム溶液に含まれるフッ素を固化させる第一の成分を、リチウム溶液に添加して固化したフッ素を除去し、F除去后液を得る第一除去工程と、F除去后液に残存する第一の成分を固化させる第二の成分を、F除去后液に添加して固化した第一の成分を除去し、第一成分除去后液を得る第二除去工程と、を含むリチウムの分離方法により、リチウム溶液から、リチウムと不純物であるフッ素とを簡便に高い精度で分離することができることを見出した。
さらに、本発明者らは、リチウムを200mg/L以上、フッ素を20mg/L以上含むリチウム溶液から、リチウムを分離するリチウムの分離方法であって、リチウム溶液中に二酸化炭素を加えて炭酸イオンを溶存させた溶液を得る工程と、炭酸イオンを溶存させた溶液を加温して、炭酸リチウムを析出させた後に固液分離することにより、リチウムを分離する工程と、を含むリチウムの分離方法により、リチウムと不純物であるフッ素とを簡便に高い精度で分離することができることを見出した。
【0015】
本発明のリチウムの分離方法では、第一除去工程において、リチウム溶液に含まれるフッ素を固化させる第一の成分を、リチウム溶液に添加して固化したフッ素を除去して、F除去后液を得る。言い換えると、第一除去工程においては、リチウム溶液中に含まれるフッ素と第一の成分とが結合して、フッ素と第一の成分とのフッ素化合物(フッ化物)が形成され、フッ素が固化するため、リチウム溶液中のフッ素を除去することが可能となる。また、本発明のリチウムの分離方法における好ましい形態の一例では、例えば、リチウム溶液を固液分離することにより、固化したフッ素(フッ素化合物)をリチウム溶液から除去することができる。
【0016】
ここで、第一除去工程で添加した第一の成分(リチウム溶液に第一の成分が元々含有される場合には、その第一の成分を含む)は、リチウムを分離又は回収する際の不純物となる場合がある。そのため、本発明では、第二除去工程を行うことにより、リチウム溶液(F除去后液)から第一の成分を除去する。
第二除去工程においては、リチウム溶液(F除去后液)に残存する第一の成分を固化させる第二の成分を、リチウム溶液(F除去后液)に添加して固化した第一の成分を除去し、第一成分除去后液を得る。言い換えると、第二除去工程においては、リチウム溶液(F除去后液)に残存する第一の成分と第二の成分とが結合して、第一の成分と第二の成分との結合物が形成され、第一の成分が固化するため、リチウム溶液に残存する第一の成分を除去することが可能となる。例えば、第二の成分として二酸化炭素を用いる場合には、第一の成分の炭酸塩として、第一の成分を固化することができる。また、本発明のリチウムの分離方法における好ましい形態の一例では、例えば、リチウム溶液を固液分離することにより、固化した第一の成分をリチウム溶液から除去することができる。
【0017】
このように、本発明においては、第一除去工程と、第二除去工程とを行うことにより、リチウム溶液から、リチウムと不純物であるフッ素とを簡便に高い精度で分離することができる。
【0018】
また、本発明では、上述したように、リチウム溶液中に二酸化炭素を加えて炭酸イオンを溶存させた溶液を得る工程と、炭酸イオンを溶存させた溶液を加温して、炭酸リチウムを析出させた後に固液分離することにより、リチウムを分離する工程とを行うことによっても、リチウムと不純物であるフッ素とを簡便に高い精度で分離することができる。
より具体的には、例えば、リチウムイオン二次電池を処理することにより得たリチウム溶液に二酸化炭素とアルカリを添加した後に加温すると、リチウム溶液からフッ素を除去しなくても、炭酸リチウムがより析出しやすくなり、フッ化リチウムよりも炭酸リチウムが優先して析出するため、フッ素の含有量が少なく純度(品位)の高い炭酸リチウムを得ることができる。
ここで、上記のアルカリは、例えば、二酸化炭素添加によるpH低下を防ぐ目的で添加する。また、pHが低下すると二酸化炭素の溶存量が低下し、後述の炭酸リチウムの析出量が低下する場合がある。上記のアルカリとしては、二酸化炭素と固体を形成する成分(例えば、カルシウム)を含まないものが好ましく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。
なお、この形態についての詳細は、第二の実施形態として後述する。
【0019】
また、本発明のリチウムの分離方法は、例えば、使用済みの廃棄されるリチウムイオン二次電池からリチウムを回収する際に、特に好適に用いることができる。本発明のリチウムの分離方法を用いて、リチウムとフッ素とを分離したリチウム溶液からリチウムを回収することにより、フッ素の含有量が少なく純度(品位)の高いリチウムを簡便に得ることができる。より具体的には、本発明の好ましい一例においては、リチウムを含有する正極材及び電解質が二次電池の外装部材に覆われた状態であるため、熱処理の際に二次電池内部が負極活物質由来のカーボンにより還元状態となりやすい。この熱処理条件では、正極活物質中のLi(Ni/Co/Mn)O
2や電解質中のLiPF
6におけるリチウムを、フッ化リチウム(LiF)や炭酸リチウム(Li
2CO
3)や酸化リチウム(Li
2O)などリチウムが水溶液に可溶な形態の物質にすることができ、リチウムを浸出時にフッ素以外の不純物と分離することができる。
以上の理由から、リチウムイオン二次電池を処理することにより得たリチウム溶液から、リチウムとフッ素とを分離し、分離後のリチウム溶液からリチウムを炭酸リチウムとして回収することで、フッ素の含有量が少なく純度(品位)の高い炭酸リチウムを簡便に得ることができる。
【0020】
本発明のリチウムの分離方法は、リチウムを200mg/L以上、フッ素を20mg/L以上含むリチウム溶液から、リチウムを分離する方法である。リチウム溶液としては、適宜用意したものを用いることができる。
ここで、リチウム溶液におけるリチウムの濃度としては、200mg/L以上であり、400mg/L以上であることが好ましい。
また、リチウム溶液におけるフッ素の濃度としては、20mg/L以上であり、100mg/L以上であってもよいし、300mg/L以上であってもよい。
【0021】
リチウム溶液におけるリチウム濃度の測定は、例えば、ICAP 6300DuO(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)を用いて、ICP−AES分析することにより行うことができる。
リチウム溶液におけるフッ素濃度の測定は、例えば、IM−32Pガラス電極式水素イオン指示計(東亜ディーケーケー株式会社製)にF―2021フッ化物イオン電極(東亜ディーケーケー株式会社製)を接続した装置で行うことができる。
【0022】
また、リチウム溶液におけるpH(水素イオン指数)としては、10.5以上12.5以下が好ましく、10.5以上12.0以下がより好ましい。
リチウム溶液におけるpHが10.5以上であることにより、第一除去工程及び第二除去工程の効率を高めるために第一の成分添加後のリチウム溶液のpHを上昇させる際のアルカリの添加量を低減できると同時に、供給した第一の成分(例えば、カルシウム)の第一除去工程後の溶存量を低減でき、第一の成分を、より少ない第二の成分の添加量で炭酸塩として分離することができる。また、供給した第二の成分をより高効率で溶液中に吸収・溶存させることができ、第二の成分の添加量を低減できる。
さらに、pHを12.5以下とすることにより、第一の成分が溶解しやすくなり、フッ素の除去効率を向上させることができる。
【0023】
<リチウム溶液作製工程>
本発明は、上述したように、適宜用意したリチウム溶液を対象とすることができるが、例えば、リチウム溶液作製工程において作製したリチウム溶液を用いることができる。
リチウム溶液作製工程は、第一除去工程の前に、リチウムイオン二次電池を処理することにより、リチウム溶液を得る(作製する)工程である。
リチウム溶液作製工程において、リチウムイオン二次電池を処理する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、リチウムイオン二次電池を加熱する熱処理を行った後に、リチウムイオン二次電池におけるリチウムを水に浸出させる方法が好ましい。
リチウムイオン二次電池を処理する方法としては、例えば、熱処理工程、破砕工程、分級工程、及び浸出工程を含むことが好ましい。
【0024】
<<熱処理工程>>
熱処理工程は、リチウムイオン二次電池を熱処理(焙焼)する工程である。
【0025】
−リチウムイオン二次電池−
リチウムイオン二次電池としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、リチウムイオン二次電池の製造過程で発生した不良品のリチウムイオン二次電池、使用機器の不良、使用機器の寿命などにより廃棄されるリチウムイオン二次電池、寿命により廃棄される使用済みのリチウムイオン二次電池などが挙げられる。
【0026】
リチウムイオン二次電池の形状、構造、大きさ、材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
リチウムイオン二次電池の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ラミネート型、円筒型、ボタン型、コイン型、角型、平型などが挙げられる。
リチウムイオン二次電池としては、例えば、正極と、負極と、セパレーターと、電解質及び有機溶剤を含有する電解液と、正極、負極、セパレーター、及び電解液を収容する電池ケースである外装容器と、を備えたものなどが挙げられる。なお、リチウムイオン二次電池は、正極や負極などが脱落した状態であってもよい。
また、リチウムイオン二次電池の形態としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、バッテリーセル、バッテリーモジュール、バッテリーパックなどが挙げられる。ここで、バッテリーモジュールは、単位電池であるバッテリーセルを複数個接続して一つの筐体にまとめたものを意味し、バッテリーパックとは、複数のバッテリーモジュールを一つの筐体にまとめたものを意味する。また、バッテリーパックは、制御コントローラーや冷却装置を備えたものであってもよい。
【0027】
−−正極−−
正極としては、正極活物質を有していれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
正極の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平板状、シート状などが挙げられる。
【0028】
−−−正極集電体−−−
正極集電体としては、その形状、構造、大きさ、材質などに、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
正極集電体の形状としては、例えば、箔状などが挙げられる。
正極集電体の材質としては、例えば、ステンレススチール、ニッケル、アルミニウム、銅、チタン、タンタルなどが挙げられる。これらの中でも、アルミニウムが好ましい。
【0029】
正極材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、リチウムを含有する正極活物質を少なくとも含み、必要により導電剤と、結着樹脂とを含む正極材などが挙げられる。
正極活物質としては、例えば、マンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)、コバルト酸リチウム(LiCoO
2)、コバルトニッケル酸リチウム(LiCo
1/2Ni
1/2O
2)、3元系やNCM系などと呼ばれるLiNi
xCo
yMn
zO
2(x+y+z=1)、NCA系などと呼ばれるLiNi
xCo
yAl
z(x+y+z=1)、リン酸鉄リチウム(LiFePO
4)、チタン酸リチウム(Li
2TiO
3)などが挙げられる。これらの中でも、マンガン酸リチウム、コバルト酸リチウム、コバルトニッケル酸リチウム(LiCo
1/2Ni
1/2O
2)、3元系やNCM系などと呼ばれるLiNi
xCo
yMn
zO
2(x+y+z=1)、NCA系などと呼ばれるLiNi
xCo
yAl
z(x+y+z=1)が、熱処理でリチウムを水に可溶な形態に変化させやすいことから好適である。
導電剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、カーボンブラック、グラファイト、カーボンファイバー、金属炭化物などが挙げられる。
結着樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フッ化ビニリデン、四フッ化エチレン、アクリロニトリル、エチレンオキシド等の単独重合体または共重合体、スチレン−ブタジエンゴムなどが挙げられる。
【0030】
−−負極−−
負極としては、負極活物質を有していれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
負極の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平板状、シート状などが挙げられる。
【0031】
−−−負極集電体−−−
負極集電体としては、その形状、構造、大きさ、材質などに、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
負極集電体の形状としては、例えば、箔状などが挙げられる。
負極集電体の材質としては、例えば、ステンレススチール、ニッケル、アルミニウム、銅、チタン、タンタルなどが挙げられる。これらの中でも、銅が好ましい。
【0032】
負極材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、グラファイト、ハードカーボン等の炭素材料、チタネイトなどが挙げられる。
【0033】
熱処理における温度(熱処理温度)としては、750℃以上が好ましく、750℃以上1,080℃以下がより好ましく、750℃以上900℃以下が特に好ましい。熱処理温度を750℃以上とすることにより、正極活物質中のLi(Ni/Co/Mn)O
2や電解質中のLiPF
6におけるリチウムを、フッ化リチウム(LiF)や炭酸リチウム(Li
2CO
3)や酸化リチウム(Li
2O)などリチウムが水溶液に可溶な形態の物質にすることができ、リチウムを浸出時にフッ素以外の不純物と分離することができる。
なお、熱処理温度とは、熱処理時のリチウムイオン二次電池の温度のことを意味する。熱処理温度は、熱処理温度中のリチウムイオン二次電池に、カップル、サーミスタなどの温度計を差し込むことにより、測定することができる。
【0034】
また、リチウムイオン二次電池の外装容器には、熱処理温度より高い融点を有する材料が用いられていることが好ましい。外装容器が熱処理温度より高い融点を有する材料であるリチウムイオン二次電池を熱処理する場合、熱処理時に外装容器が電池内部を密閉した状態が維持され、カーボン(負極活物質)の存在により電池内部が酸素濃度11%以下の低酸素雰囲気に保つことができる。酸素濃度が低い雰囲気で熱処理することにより、正極活物質の分解が促進され、可溶な形態のリチウムを増やすことができ、リチウム溶液へのリチウムの浸出率(回収率)を向上できる。
リチウムイオン二次電池の外装容器に熱処理温度より低い融点を有する材料が用いられている場合は、酸素濃度11%以下の低酸素雰囲気下、又は、少なくとも焙焼中のリチウムイオン二次電池内部(特に、リチウムイオン二次電池の外装容器内に配置された正極集電体と負極集電体)において酸素濃度が11vol%以下となるように、熱処理することが好ましい。
【0035】
また、低酸素雰囲気の実現方法としては、例えば、リチウムイオン二次電池、正極、又は負極を、酸素遮蔽容器に収容し熱処理してもよい。酸素遮蔽容器の材質としては、熱処理温度以上の融点である材質であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、熱処理温度が800℃である場合は、この熱処理温度よりも高い融点を有する鉄、ステンレス鋼などが挙げられる。
リチウムイオン電池又は積層体中の電解液燃焼によるガス圧を放出するために、酸素遮蔽容器には開口部を設けることが好ましい。開口部の開口面積は、開口部が設けられている外装容器の表面積に対して12.5%以下となるように設けることが好ましい。開口部の開口面積は、開口部が設けられている外装容器の表面積に対して6.3%以下であることがより好ましい。開口部は、その形状、大きさ、形成箇所などについては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0036】
リチウムイオン二次電池を熱処理する時間(熱処理時間)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1分間以上5時間以下が好ましく、1分間以上2時間以下がより好ましい。熱処理時間はリチウムを含む化合物が所望の温度まで到達する熱処理時間であればよいが、昇温速度を緩やかにすることでリチウムの不溶性酸化物の生成を抑制し、リチウムの浸出率を向上できる。また、昇温した後に、温度を保持する時間は短くてもよい。
熱処理時間が、好ましい時間であると、熱処理にかかるコストやリチウム溶液を作製する際の生産性の点で有利である。
【0037】
熱処理の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、焙焼炉を用いる方法などが挙げられる。
焙焼炉としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ロータリーキルン、流動床炉、トンネル炉、マッフル等のバッチ式炉、キュポラ、ストーカー炉などが挙げられる。
【0038】
熱処理に用いる雰囲気としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、大気雰囲気、不活性雰囲気、還元性雰囲気、低酸素雰囲気などが挙げられる。また、熱処理に用いる雰囲気としては、熱処理時にリチウムイオン二次電池の内部を低酸素濃度に保つことができるものが好ましく、このような雰囲気としては、例えば、上記の大気雰囲気、不活性雰囲気、還元性雰囲気、低酸素雰囲気などが挙げられる。
大気雰囲気とは、空気を用いた雰囲気を意味する。
不活性雰囲気とは、窒素又はアルゴンからなる雰囲気を例示できる。
還元性雰囲気とは、例えば、窒素又はアルゴン等の不活性雰囲気中にCO、H
2、H
2S、SO
2などを含む雰囲気を意味する。
低酸素雰囲気とは、酸素分圧が11%以下である雰囲気を意味する。
【0039】
<<破砕工程>>
破砕工程としては、熱処理工程において熱処理を行ったリチウムイオン二次電池(焙焼物)を破砕して、破砕物を得る工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。破砕工程としては、例えば、焙焼物を衝撃により破砕して破砕物を得る工程であることが好ましい。リチウムイオン二次電池の外装容器が熱処理中に溶融しない場合、焙焼物に衝撃を与える前に、切断機により焙焼物を切断する予備破砕しておくことがより好ましい。
【0040】
衝撃により破砕を行う方法としては、例えば、回転する打撃板により投げつけ、衝突板に叩きつけて衝撃を与える方法や、回転する打撃子(ビーター)により焙焼物を叩く方法が挙げられ、例えば、ハンマークラッシャーなどにより行うことができる。また、衝撃により破砕を行う方法としては、例えば、セラミックなどのボールにより焙焼物を叩く方法でもよく、この方法は、ボールミルなどにより行うことができる。また、衝撃による破砕は、例えば、圧縮による破砕を行う刃幅、刃渡りの短い二軸破砕機等を用いて行うこともできる。
【0041】
破砕工程における破砕時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、リチウムイオン二次電池1kgあたりの破砕時間は1秒間以上30分間以下が好ましく、2秒間以上10分間以下がより好ましく、3秒間以上5分間以下が特に好ましい。
【0042】
<<分級工程>>
分級工程としては、破砕物を分級して粗粒産物と細粒産物に選別して、それぞれにおいて回収物を得る工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0043】
分級方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、振動篩、多段式振動篩、サイクロン、JIS Z8801の標準篩などを用いて行うことができる。分級により、銅、鉄、アルミニウム等を粗粒産物中に分離でき、リチウムを細粒産物中に濃縮できる。
分級の粒度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.6mm以上2.4mm以下が好ましく、0.85mm以上1.7mm以下がより好ましい。分級の粒度が2.4mm以下の場合、細粒産物中への銅・鉄・アルミニウム等不純物の混入を抑制でき、細粒産物を浸出する際の単位重量あたりのリチウム回収量を向上できる。分級の粒度が0.6mm以上の場合、粗粒産物中へのリチウムの回収を抑制でき、細粒産物を浸出する際のリチウムの回収量を向上できる。
なお、粗粒産物と細粒産物との分級を複数回繰り返してもよい。この再度の分級により、各産物の不純物品位をさらに低減することができる。
【0044】
<<浸出工程>>
浸出工程としては、熱処理を行ったリチウムイオン二次電池から、液にリチウムを浸出させる工程であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
浸出工程としては、例えば、分級工程において回収したリチウムイオン二次電池の細粒産物から浸出を行うことが好ましい。
【0045】
浸出工程におけるリチウムを浸出させる液としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、水であることが好ましい。浸出工程においてリチウムを水に浸出させることにより、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)などの不純物を、残渣としてほぼ全て(100%)回収可能とすることができる。このため、リチウムを水に浸出させる場合には、ニッケル、コバルト、マンガンなどの残渣を回収するために、リチウムを浸出させたスラリー状の水を、ろ紙や固液分離機などを用いて固液分離することが好ましい。言い換えると、リチウム溶液作製工程における浸出工程では、ニッケル、コバルト、マンガンなどの残渣を固液分離により除去することが好ましい。
また、水としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、工業用水、水道水、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、超純水などが挙げられる。
【0046】
浸出工程におけるリチウムの浸出手法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、分級工程において回収したリチウムイオン二次電池の細粒産物を液に投入し、撹拌することにより、リチウムを液に浸出させることができる。 浸出工程における液の撹拌速度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、200rpmとすることができる。
浸出工程における浸出時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、1時間とすることができる。
【0047】
このように、例えば、熱処理工程、破砕工程、分級工程、及び浸出工程を行うことにより、リチウムイオン二次電池を処理して、リチウム溶液を作製することができる。
さらに、上述したように、リチウムイオン二次電池を加熱する熱処理を行った後に、リチウムイオン二次電池におけるリチウムを水に浸出させることにより、リチウム溶液を作製することで、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)などの不純物が、実質的に含まれないリチウム溶液を作製することができ、より純度(品位)の高いリチウムを簡便に得ることができる。
【0048】
<第一除去工程>
第一除去工程は、リチウム溶液に含まれるフッ素を固化させる第一の成分を、リチウム溶液に添加して固化したフッ素を除去し、F除去后液を得る工程である。
ここで、第一除去工程において、フッ素を固化させるとは、リチウム溶液からフッ素を除去可能となるように固化させること意味する。このため、例えば、フッ素をリチウム溶液から固液分離により除去する際には、フッ素を固液分離可能となるように固化させればよい。この場合、例えば、固化したフッ素が細かな粒子形状になっていてもよいし、ある程度の大きさを有する析出物(沈殿)となっていてもよい。
ここで、F除去后液(フッ素除去后液)は、リチウム溶液に第一の成分を添加して、固化したフッ素を除去することにより得た液を意味する。
【0049】
−第一の成分−
第一の成分としては、フッ素を固化させることができる成分であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。第一の成分としては、例えば、カルシウム(カルシウムイオン;Ca
2+)、アルミニウム(アルミニウムイオン;Al
3+)、マグネシウム(マグネシウムイオン;Mg
2+)、セリウム(セリウムイオン;Ce
2+)、リン(リン酸イオン;PO
43−、亜リン酸イオン(HPO
42−)、次亜リン酸イオン(H
2PO
4−)などが挙げられる。これら中でも、カルシウム(カルシウムイオン)が、フッ素を固化させる効率や、第二除去工程における除去の容易性が高いことなどから好適である。
【0050】
ここで、第一の成分をリチウム溶液に添加する際には、第一の成分を直接的に添加してもよいし、第一の成分を含む化合物等を添加してもよい。
第一の成分を直接的に添加する場合には、例えば、第一の成分で形成された固体をリチウム溶液に添加してもよいし、第一の成分が溶解した溶液を添加してもよい。
第一の成分を含む化合物を添加する場合には、例えば、第一の成分を含む化合物を含有する固体をリチウム溶液に添加してもよいし、第一の成分を含む化合物が溶解した溶液を添加してもよい。
これらの中でも、第一の成分又は第一の成分を含む化合物を溶解した溶液を添加する方法が、フッ素の除去効率の面で好適である。第一の成分又は第一の成分を含む化合物を溶解した溶液を添加することで、第一の成分を予めイオン化した状態でリチウム溶液に添加でき、フッ素との反応効率を高められる。
言い換えると、固体で添加した場合に生じ得る、次のような不具合を防ぐことができる。すなわち、炭酸イオン(CO
32−)等リチウム溶液中に存在する溶存成分と第一の成分を含む固体表面との反応・その結果としての固体表面での非フッ素反応相の形成を防ぐことができる。例えば、消石灰を固体で添加する場合、消石灰表面とリチウム溶液中に溶存する炭酸イオン(CO
32−)が反応し炭酸カルシウム相を形成し、フッ素の除去効率が低下する。
【0051】
第一の成分を含む化合物としては、例えば、水酸化カルシウム(Ca(OH)
2;消石灰)、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、アルミン酸カルシウム、リン酸カルシウムなどが挙げられる。これら中でも、水酸化カルシウムが、フッ素を固化させる効率や、第二除去工程における除去の容易性が高いことなどから好適である。言い換えると、第一除去工程において、第一の成分としてのカルシウムを含む水酸化カルシウムを、リチウム溶液に添加することが好ましい。これらのカルシウム化合物に加えて、硫酸アルミニウム、アルミン酸カルシウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム等のアルミニウム化合物を第一の成分として使用することで、カルシウム化合物を単独で使用した場合よりもさらにフッ素の量を低減でき、例えば、F除去后液におけるフッ素の濃度を10mg/L未満とすることができる。また、リチウムの浸出時に浸出されるアルミニウムを、フッ素の固化時に共沈させ、アルミニウムの除去とともにこのアルミニウムをフッ素除去剤として活用できる。
【0052】
リチウム溶液の全量に対する第一の成分の添加量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。リチウム溶液が炭酸イオンを含む場合には、第一の成分が前記炭酸イオンと反応し消費されるため、第一の成分の添加量を増加することが好ましい。この第一の成分の増加量は、フッ素を安定的に固化・分離する観点から、リチウム溶液に含まれるフッ素及び炭酸イオンの全量が、フッ素がXモル(mol)、炭酸イオンがYモル(mol)である場合、リチウム溶液に含まれるフッ素及び炭酸イオンの双方と第一の成分が反応できるような量が好ましい。
リチウム溶液中のフッ素Xモル(mol)及び炭酸イオンYモル(mol)に対する第一の成分の添加量としては、第一の成分のイオンの価数が2価の場合、例えば、0.5×(X+2Y)mol以上10×(X+2Y)mol以下を添加することができる。より好ましくは、リチウム溶液中のフッ素Xモル(mol)及び炭酸イオンYモル(mol)に対する第一の成分の添加量としては、例えば、0.75(X+2Y)mol以上5(X+2Y)mol以下を添加することができる。
例えば、第一の成分を含む化合物として水酸化カルシウム(カルシウムイオンの価数は2価である)を用いる場合、リチウム溶液中のフッ素Xモル(mol)及び炭酸イオンYモル(mol)に対する水酸化カルシウムの添加量としては、0.5×(X+2Y)mol以上10×(X+2Y)mol以下が好ましく、0.75×(X+2Y)mol以上5×(X+2Y)mol以下がより好ましい。
【0053】
また、第一除去工程においては、第一の成分を添加した後に、リチウム溶液を撹拌することが好ましい。
第一除去工程におけるリチウム溶液の撹拌速度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、20rpm以上2000rpm以下とすることが好ましく、50rpm以上1000rpm以下とすることがより好ましい。
第一除去工程におけるリチウム溶液の撹拌時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、5分以上240分以下とすることが好ましく、15分以上120分以下とすることがより好ましい。また、撹拌時間(反応時間)を240分以下とすることで、固化したフッ素の再溶解を防ぐことができる。
【0054】
ここで、第一除去工程において、固化したフッ素を除去する手法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、固液分離を用いる手法、固化したフッ素で形成された析出物(沈殿)を取り除く手法などが挙げられる。これらの中でも、第一除去工程において、固化したフッ素を除去する手法としては、固液分離を用いる手法が好ましい。言い換えると、第一除去工程において、固化したフッ素を固液分離により除去することが好ましい。固化したフッ素を固液分離により除去することにより、リチウム溶液からフッ素をより高い精度で除去することができる。
【0055】
固液分離による固化したフッ素の除去は、例えば、リチウム溶液(スラリー状であってもよい)を、ろ紙や固液分離機を用いてろ過することなどにより行うことができる。
固液分離による固化したフッ素の除去に用いるろ紙としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、定量ろ紙を用いることが好ましく、JIS P3801における5種Cに分類されるろ紙を用いることがより好ましい。
固液分離による固化したフッ素の除去に用いる固液分離機としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、スクリュープレス、ローラープレス、ベルトスクリーン、振動ふるい、多重板波動フィルター、真空脱水機、加圧脱水機(フィルタープレス)、ベルトプレス、スクリュープレス、遠心濃縮脱水機(スクリューデカンタ)、多重円盤脱水機などを用いることができる。
【0056】
ここで、第一の成分として、カルシウム化合物を添加する際の好ましい形態の一例について説明する。
本発明の一実施形態においては、水にリチウムを浸出させる際のリチウム濃度を調整することにより、リチウム溶液のpHを10.5以上にすることができる。これは、リチウム溶液が水酸化リチウム溶液となるためであると考えられる。浸出時にpHを高くすることで、カルシウム添加後のpHを12以上に上げためのアルカリの添加量を減らすことができる。また、カルシウム添加後のリチウム溶液のpHが12未満の場合は、アルカリを追加で添加してpHを12以上に調整することが好ましい。
この条件下では、カルシウムの溶解度積に鑑みると、第一除去工程後のF除去后液のカルシウムイオン(Ca
2+)の溶存量を、2,000mg/L未満まで抑制できる。このため、第二除去工程における、カルシウムイオン(Ca
2+)を除去するための第二の成分(例えば、二酸化炭素)の添加量を低減することができる。
【0057】
加えて、カルシウムと第二の成分の反応物の生成量が少ないため、カルシウムと第二成分の反応時に共沈する又は反応生成物の付着水分に巻き込まれるリチウム量を低減できる。加えて、この条件下では第二成分の液中への溶解の効率が高く、第二成分の使用量を抑制できる。前記アルカリの添加は、第一除去工程若しくは第二除去工程、又はその両方の工程で行ってもよい。
カルシウムを含む化合物として消石灰を用いた場合は、前記カルシウムの添加とpHの調整を消石灰の添加のみで同時に行うことができる。
一方、このようなカルシウムイオン(Ca
2+)の溶存量が少ない条件であっても、フッ素の除去は十分に行うことができ、例えば、フッ素を除去する前のリチウム溶液におけるフッ素の濃度が500mg/Lである場合には、第一除去工程を行うことによりリチウム溶液におけるフッ素の濃度を20mg/L程度まで低減することができる。
【0058】
F除去后液のフッ素濃度を確認する方法としては、例えば、イオン電極法やイオンクロマトグラフ法でフッ素濃度を測定する方法を用いることができる。また、F除去后液のカルシウムイオン濃度又はアルミニウムイオン濃度をICP−AESで測定することで、簡易的にフッ素濃度を低減できたかを判断してもよい。
例えば、リチウム溶液にカルシウムが含まれている場合は、F除去后液のカルシウム濃度の測定値が50mg/L以上であった場合に、フッ素濃度が20mg/L程度まで低減できたと判断してもよい。F除去后液のフッ素濃度の低減が不十分な場合は、カルシウムイオンがフッ素や炭酸イオンに消費され、カルシウムイオンの濃度は50mg/L未満となる。
また、リチウム溶液にアルミニウムが含まれている場合は、フッ素が20mg/L程度まで低減できている場合、アルミニウムイオンもカルシウムイオンと共沈しほとんどが除去されることから、F除去后液のアルミニウム濃度が1mg/L未満である場合、フッ素濃度が20mg/L程度まで低減できたと判断してもよい。
リチウム溶液に炭酸イオンが500mg/L以上含まれている場合は、フッ素が20mg/L程度まで低減できている場合には、炭酸イオンもカルシウムイオンと反応し大半が固化することから、例えば、TOC(Total Organic Carbon;全有機体炭素)計を用いた無機炭素濃度分析等によりF除去后液の炭酸イオン濃度を分析し炭酸イオンが50mg/L未満である場合、フッ素濃度を20mg/L程度に低減できたと判断してもよい。
なお、TOC計を用いた無機炭素濃度分析においては、通常、「TC(全炭素)−IC(無機炭素)=TOC(有機炭素)」という計算式によりTOCを求めるため、IC(無機炭素)の量が測定可能である。より具体的には、IC(無機炭素)測定の方法としては、例えば、IC反応液(りん酸)中に試料を注入して酸性とし、通気処理を行う(試料を酸性化して、二酸化炭素を含まないガスで通気することで、試料中の無機体炭素を二酸化炭素として除去する)ことで、試料中のICのみを二酸化炭素に変換し、NDIR(非分散型赤外線吸収法)で二酸化炭素発生量(無機炭素の量)を測定できる。
【0059】
<第二除去工程>
第二除去工程は、F除去后液に残存する第一の成分を固化させる第二の成分を、F除去后液に添加して固化した第一の成分を除去し、第一成分除去后液を得る工程である。
ここで、第二除去工程において、第二の成分を固化させるとは、リチウム溶液(F除去后液)から第二の成分を除去可能となるように固化させることを意味する。このため、例えば、第二の成分をリチウム溶液(F除去后液)から固液分離により除去する際には、第二の成分を固液分離可能となるように固化させればよい。この場合、例えば、固化した第二の成分が細かな粒子形状になっていてもよいし、ある程度の大きさを有する析出物(沈殿)となっていてもよい。
ここで、第一成分除去后液は、F除去后液に第二の成分を添加して、固化した第一の成分を除去することにより得た液を意味する。
【0060】
また、第二処理工程において、F除去后液に残存する第一の成分とは、第一除去工程で添加した第一の成分のみに限られるものではなく、例えば、リチウム溶液に第一の成分が元々含有される場合には、リチウム溶液に元々含有される第一の成分を含むものである。つまり、F除去后液に残存する第一の成分とは、第一除去工程を行った後、かつ第二除去工程を行う前の時点において、F除去后液に含まれる第一の成分を意味する。
【0061】
−第二の成分−
第二の成分としては、第一の成分を固化させることができる成分であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、二酸化炭素(CO
2)が好ましい。第二の成分が二酸化炭素であることにより、第一の成分を炭酸塩として容易に除去することができる。リチウム溶液中のリチウムは、炭酸リチウムとして析出することなく、第一の成分(例えば、カルシウム)を炭酸塩(例えば、炭酸カルシウム;CaCO
3)として析出させて、選択的に除去することができる。さらに、リチウム溶液のpHが高い場合(例えば、10.5以上の場合)、リチウム溶液に二酸化炭素をCO
32−イオンとして効率的に吸収・液中に保持させることができ、第二除去工程での第二成分の除去に寄与しなかった分のCO
32−イオンを後段の炭酸リチウムの晶析のための成分(CO
3)として有効利用できる。
【0062】
第二の成分をリチウム溶液(F除去后液)に添加する手法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、第二の成分を含む気体をリチウム溶液(F除去后液)に供給(散気)する手法、第二の成分で形成された固体をリチウム溶液(F除去后液)に添加する手法などが挙げられる。これらの中でも、不純物を溶液中に追加せずに済むという面で、第二の成分を含む気体をF除去后液に供給(散気)する手法が好ましい。
第二の成分を含む気体としては、第二の成分が二酸化炭素である場合、例えば、二酸化炭素ガス、CO
2を含むガスとして空気(Air)などが挙げられる。これらの中でも、二酸化炭素ガスが好ましい。言い換えると、第二除去工程において、第二の成分としての二酸化炭素を含む二酸化炭素ガスを、リチウム溶液に添加することが好ましい。こうすることにより、リチウム溶液に添加する二酸化炭素の量を容易に制御できるとともに、効率的に二酸化炭素を添加することができる。
【0063】
第二の成分を含む気体のF除去后液に対する供給(散気)方法は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、散気管(製品名:ケラミフィルターB型、フィルターサイズφ(直径)25×20mm、アズワン株式会社製)を用いることができる。また、第二の成分を含む気体のF除去后液に対する供給(散気)は、例えば、上・下水処理場、廃水処理場、大型浄化槽などで利用される公知のディフューザーを利用することや、φ(直径)1mm以上のノズルから第二の成分を含む気体を供給し、このノズル上部に取り付けた攪拌羽根で気体を分散させることにより行ってもよい。
また、第二の成分を含む気体をF除去后液に供給(散気)する際の供給条件としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。第二の成分を含む気体として二酸化炭素ガスを用いる場合においては、例えば、100ml/minで70分間の条件で二酸化炭素ガスを供給するようにしてもよい。
第二除去工程においては、例えば、F除去后液に残存する第一の成分の全量を除去可能となるように、第二の成分を供給することが好ましい。
【0064】
ここで、第二除去工程において、固化した第一の成分を除去する手法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、固液分離を用いる手法、固化した第一の成分で形成された析出物(沈殿)を取り除く手法などが挙げられる。これらの中でも、第二除去工程において、固化した第一の成分を除去する手法としては、固液分離を用いる手法が好ましい。言い換えると、第二除去工程において、固化した第一の成分を固液分離により除去することが好ましい。固化した第一の成分を固液分離により除去することにより、F除去后液から第一の成分をより高い精度で除去することができる。
【0065】
固液分離による固化した第一の成分の除去は、例えば、F除去后液(スラリー状であってもよい)を、ろ紙や固液分離機を用いてろ過することなどにより行うことができる。
固液分離による固化した第一の成分の除去に用いるろ紙としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、定量ろ紙を用いることが好ましく、JIS P3801における5種Cに分類されるろ紙を用いることがより好ましい。
【0066】
このように、本発明においては、第一除去工程及び第二除去工程において、固化したフッ素及び固化した第一の成分を固液分離により除去することが好ましい。こうすることにより、リチウム溶液から、固化したフッ素及び固化した第一の成分をより高い精度で除去することができる。
また、リチウム溶液からの、固化したフッ素及び固化した第一の成分の固液分離による除去は、一括して(一度で)行ってもよい。さらに、リチウム溶液の作製工程において、リチウムを水に浸出させる際にニッケル、コバルト、マンガンなどの残渣を固液分離により除去する場合、当該残渣、固化したフッ素、及び固化した第一の成分の固液分離による除去は、一括して(一度で)行ってもよい。
なお、固化したフッ素及び第一の成分を含む化合物の未反応分の固液分離と固化した第一の成分の固液分離は、それぞれの除去工程で実施したほうがより好適である。これは、固化したフッ素と第二の成分が反応しフッ素が再溶解することや、溶液中に残存する第一の成分を含む化合物と第二の成分が反応し第二の成分の消費が生じることを防ぐことができるためである。
【0067】
<リチウム濃縮工程>
リチウム濃縮工程は、第二除去工程の後に、リチウム溶液(第一成分除去后液)を濃縮し炭酸リチウムを晶析可能とするための工程である。濃縮方法としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、蒸発濃縮や膜分離による濃縮、真空濃縮などが挙げられるが、蒸発濃縮が好ましい。これは、工場排熱の利用などでコストを小さく実施できるとともに、蒸発濃縮時に後述の加熱による炭酸リチウムの晶析も同時に実施でき、プロセスを簡易にできるためである。リチウムの濃縮は、液中のリチウム濃度が1500mg/L以上となるまで行うことが望ましい。
【0068】
<リチウム回収工程>
リチウム回収工程は、第二除去工程の後、リチウム濃縮工程の後、又は、リチウム濃縮工程と一括して、リチウム溶液(第一成分除去后液)を加温(加熱)することによりリチウムを回収する工程である。
リチウム回収工程においては、第一成分除去后液を加熱して温度を上昇させると、第一成分除去后液におけるリチウムの溶解度が下がるため、溶存できなくなったリチウムをリチウム化合物として析出させて、容易に回収することができる。例えば、第二除去工程で第二の成分として二酸化炭素を添加した場合、第一成分除去后液を加熱することにより、第二除去工程で添加した二酸化炭素のうち、第一の成分の固化に寄与しなかった分を有効に活用し、リチウムを炭酸リチウムとして析出させて容易に回収することができる。
リチウム回収工程においては、二酸化炭素を添加し、炭酸リチウムの析出を促進してもよく、リチウム回収工程の温度を第一成分除去后液の沸点まで高めて蒸発濃縮して炭酸リチウムを析出させてもよい。つまり、リチウム濃縮工程で、炭酸リチウムの溶解度以上までリチウム濃度を高め、炭酸リチウムを析出させ、この工程をリチウム回収工程としてもよい。
また、析出させたリチウム(炭酸リチウム)は、例えば、炭酸リチウム析出後のリチウム溶液を固液分離することや、匙、レーキ、スクレーパーなどの公知の器具を用いることで回収することができる。また、匙、レーキ、スクレーパーなどの公知の器具で回収した炭酸リチウムを、さらに固液分離して付着水分を低減することにより、炭酸リチウムの不純物品位を低減できる。
【0069】
ここで、リチウム溶液(第一成分除去后液)を加温(加熱)する手法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、第二除去工程を行った後のリチウム溶液を、公知のヒータにより加熱する手法などが挙げられる。
リチウム溶液を加熱する際のリチウム溶液の温度としては、リチウムを析出させることが可能な温度であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、60℃以上105℃以下が好ましい。
【0070】
リチウム溶液(第一成分除去后液)を蒸発濃縮する際の濃縮倍率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1.5倍以上70倍以下であることが好ましく、2倍以上35倍以下であることがより好ましい。
リチウム溶液を蒸発濃縮する際のリチウム溶液の温度としては、リチウム溶液を蒸発させることが可能な温度であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、60℃以上105℃以下が好ましい。
【0071】
<その他の工程>
その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0072】
<第一の実施形態>
ここで、図面を参照して、本発明のリチウムの分離方法における実施形態の一例について説明する。
図1は、本発明のリチウムの分離方法の一実施形態における処理の流れの一例を示す図である。
この実施形態においては、まず、リチウムイオン二次電池(LIB;Lithium Ion Battery)に対して熱処理(熱処理工程)を行い、LIB熱処理物を得る。これにより、例えば、LIBにおける正極活物質中のLi(Ni/Co/Mn)O
2や電解質中のLiPF
6におけるリチウムを、フッ化リチウム(LiF)や炭酸リチウム(Li
2CO
3)や酸化リチウム(Li
2O)などのリチウムが水溶液に可溶な形態の物質にすることができ、ニッケル、コバルト、マンガン等を分離可能とすることができるとともに、LIBにおけるアルミニウム(Al)を熔融し分離することができる。
次に、この実施形態においては、LIB熱処理物に対して、破砕及び分級(破砕工程及び分級工程)を行い、粗粒産物と細粒産物とを得る。ここで、粗粒産物として、銅(Cu)や鉄(Fe)やアルミニウム(Al)などの不純物を分離して除去することができる。
【0073】
続いて、この実施形態では、細粒産物から水にリチウムを浸出させる。このとき、不純物であるニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)を含む残渣が、リチウムが浸出した液中に形成される。
そして、リチウムが浸出した液中から、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)を含む残渣を固液分離により除去して、リチウム溶液を作製する。
【0074】
次に、作製したリチウム溶液に対して、第一の成分としてのカルシウムを含む水酸化カルシウム(消石灰)を添加する。これにより、リチウム溶液中にフッ素とカルシウムとのフッ素化合物であるフッ化カルシウム(CaF
2)が形成され、フッ素が固化する。
続いて、リチウム溶液から、固化したフッ素であるフッ化カルシウム(CaF
2)を固液分離により除去する(第一除去工程)。
【0075】
次に、固化したフッ素を除去したリチウム溶液(F除去后液)に、第二の成分としての二酸化炭素(CO
2)を含む二酸化炭素ガスを添加する。これにより、リチウム溶液中に第一の成分としてのカルシウム(Ca)と第二の成分としての二酸化炭素との炭酸塩である炭酸カルシウム(CaCO
3)が形成され、第一の成分としてのカルシウムが固化する。
続いて、リチウム溶液から、固化した第一の成分である炭酸カルシウム(CaCO
3)を固液分離により除去する(第二除去工程)。
【0076】
そして、固化した第一の成分である炭酸カルシウムを除去したリチウム溶液を加温して、リチウム溶液を蒸発濃縮することによりリチウムを炭酸リチウム(Li
2CO
3)として回収する。このとき、第一の実施形態においては、蒸発濃縮したリチウム溶液を、固液分離することにより、炭酸リチウムと、晶析后液に分離することが好ましい。
このように、この実施形態においては、リチウムイオン二次電池を処理することにより得たリチウム溶液から、リチウムとフッ素とを分離し、分離後のリチウム溶液からリチウムを炭酸リチウムとして回収することで、フッ素の含有量が少なく純度(品位)の高い炭酸リチウムを簡便に得ることができる。
【0077】
炭酸リチウムを回収した後の晶析後液(晶析后液)にはリチウムとフッ素が含まれるが、これを再度第一除去工程以降の浄液処理に繰り返して処理することで、リチウムの回収率をさらに向上できる。つまり、本発明のリチウムの分離方法においては、第一成分除去后液を蒸発濃縮することにより炭酸リチウムを回収して得た晶析后液を、再度、第一除去工程のリチウム溶液に添加することが好ましい。
【0078】
<第二の実施形態>
図2は、本発明のリチウムの分離方法の他の実施形態における処理の流れの一例を示す図である。
第二の実施形態においては、リチウムイオン二次電池を熱処理して得たLIB熱処理物に対して、破砕及び分級を行うことにより得た粗粒産物と細粒産物における細粒産物から水にリチウムを浸出させ、リチウムを浸出させた液中から残渣を固液分離により除去して、リチウム溶液を作製するまでは、上記の第一の実施形態と同様である。
【0079】
次に、作製したリチウム溶液に対して、二酸化炭素を含む二酸化炭素ガスと、二酸化炭素供給によるpH低下を防ぐためのアルカリとしての水酸化ナトリウム溶液を添加する。こうすることにより、リチウム溶液中には、炭酸リチウムとフッ素とが含まれる状態になる。
このとき、二酸化炭素の供給を二酸化炭素ガスの吹込みにより行うことが好ましい。つまり、第二の実施形態においては、二酸化炭素ガスの吹込みにより二酸化炭素を加えることが好ましい。また、二酸化炭素を供給した後のリチウム溶液の炭酸イオン濃度としては、3000mg/L以上が好ましく、6000mg/L以上がより好ましい。
また、第二の実施形態においては、リチウム溶液のpHが10.5以上であることが好ましく、12.0以上であることがより好ましい。なお、第二の実施形態においては、例えば、リチウム溶液pHが元から12.0以上である場合には、水酸化ナトリウム溶液を添加しなくてもよい。
【0080】
続いて、第二の実施形態では、二酸化炭素ガスと水酸化ナトリウム溶液を添加したリチウム溶液を、加温して炭酸リチウムを析出させる。ここで、第二の実施形態においては、二酸化炭素を加えたリチウム溶液を加温することにより、炭酸リチウムの溶解度を低下させて、炭酸リチウムを析出させる。このとき、加温時のリチウム溶液の温度としては、60℃以上が好ましい。
【0081】
そして、第二の実施形態では、リチウム溶液を更に加熱して、蒸発濃縮することによりリチウムを炭酸リチウム(Li
2CO
3)として回収する。つまり、第二の実施形態では、例えば、炭酸リチウムの析出を、炭酸イオンを溶存させた溶液を蒸発濃縮することにより行う。このとき、第二の実施形態においては、蒸発濃縮したリチウム溶液を、固液分離することにより、炭酸リチウムと、晶析后液に分離することが好ましい。
また、第二の実施形態においては、例えば、二酸化炭素ガスを添加しながら、リチウム溶液を加温することにより、蒸発濃縮を行うことなく、60℃程度の加熱温度でも、炭酸リチウムを析出させることもできる。
このように、第二の実施形態においては、リチウムイオン二次電池を処理することにより得たリチウム溶液に二酸化炭素と水酸化ナトリウムを添加した後に加温して、リチウム溶液からリチウムを炭酸リチウムとして回収することで、フッ素の含有量が少なく純度(品位)の高い炭酸リチウムを簡便に得ることができる。
すなわち、本発明のリチウムの分離方法は、他の側面では、リチウムを200mg/L以上、フッ素を20mg/L以上含むリチウム溶液から、リチウムを分離するリチウムの分離方法であって、リチウム溶液中に二酸化炭素を加えて炭酸イオンを溶存させた溶液を得る工程と、炭酸イオンを溶存させた溶液を加温して、炭酸リチウムを析出させた後に固液分離することにより、リチウムを分離する工程と、を含む。こうすることにより、リチウム溶液からフッ素を除去しなくても、二酸化炭素を蒸発濃縮前に供給したことで、炭酸リチウムがより析出しやすくなり、フッ化リチウムよりも炭酸リチウムが優先して析出するため、フッ素の含有量が少なく純度(品位)の高い炭酸リチウムを得ることができると考えられる。
【0082】
さらに、第二の実施形態においては、コバルト、ニッケル及びマンガンのうち少なくともいずれかを含むリチウムイオン二次電池を処理することにより、リチウム溶液を得るリチウム溶液作製工程を更に含み、リチウム溶液作製工程が、リチウムイオン二次電池を750℃以上で加熱する熱処理工程と、リチウムイオン二次電池の熱処理後物を破砕した後に0.6〜2.4mmで分級する分級工程と、分級工程で回収した細粒産物に対し水による浸出を行うリチウム浸出工程とを含むことが好ましい。リチウム溶液作製工程については、第一の実施形態と同様にして行うことができる。
【実施例】
【0083】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0084】
(実施例1)
<リチウム溶液の作製>
正極活物質にコバルト、ニッケル、及びマンガンが含まれたリチウムイオン二次電池(約10kg)を、熱処理装置としてマッフル炉(KBF66812−S、光洋サーモシステム株式会社製)を用いて、熱処理温度が800℃(1時間かけて昇温した後、2時間保持)、空気(Air)送気量が5L/minの条件で、熱処理を行った。
次いで、破砕装置として、ハンマークラッシャー(マキノ式スイングハンマークラッシャーHC−20−3.7、槇野産業株式会社製)を用い、50Hz(ハンマー周速38m/s)、出口部分のパンチングメタルの穴径10mmの条件で、加熱処理を行ったリチウムイオン二次電池(リチウムイオン二次電池の熱処理物)を破砕し、リチウムイオン二次電池の破砕物を得た。
【0085】
続いて、篩目の目開きが1.2mmの篩(直径200mm、東京スクリーン株式会社製)を用いて、リチウムイオン二次電池の破砕物を篩分けした。篩分け後の1.2mmの篩上(粗粒産物)と篩下(細粒産物)をそれぞれ採取した。
得られた細粒産物については、浸出液量7.5L、固液比15%、撹拌速度200rpm、浸出時間1時間の条件で、水にリチウムを浸出させた。そして、リチウムを浸出させた水(スラリー)を、5種Cのろ紙(東洋濾紙株式会社製)を用いて固液分離し、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)を含む残渣を除去して、リチウム溶液1を作製した。
【0086】
作製したリチウム溶液1について、ICAP 6300DuO(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)を用いて、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP−AES分析)を行うことにより、リチウムの濃度を測定したところ、リチウムの濃度は1540mg/Lであった。
IM−32Pガラス式水素イオン濃度指示計(東亜ディーケーケー株式会社製)にF−2021フッ素イオン電極(東亜ディーケーケー株式会社製)を接続した装置を用いてフッ素イオン濃度を測定したところ、フッ素の濃度は390mg/Lであった。
また、作製したリチウム溶液1について、pHメーターHM−25R(東亜ディーケーケー株式会社製)を用いて、pHを測定したところ、11.8であった。
【0087】
<フッ素の除去>
リチウム溶液1に含まれるフッ素を除去する目的で、固体の水酸化カルシウム(消石灰)25g(富士フイルム和光純薬株式会社製)をイオン交換水0.5Lに添加し、スラリーを作製した。これをリチウム溶液1が7.5L入った容量20LのHDPE製タンク(HD−20白、アズワン株式会社製)に添加しMINISTAR40撹拌機(IKA社製)を用いて、200rpmで1時間攪拌した。この消石灰を加えて撹拌したリチウム溶液1を、5種Cのろ紙(東洋濾紙株式会社製)を用いて固液分離し、リチウム溶液1における固化したフッ素を除去した(F除去后液を得た)。
【0088】
<カルシウムの除去>
続いて、固化したフッ素を除去したリチウム溶液(F除去后液)1に、二酸化炭素(CO
2)ガスを、ケラミフィルター B型(φ10×180mmフィルターサイズφ25×25mm)(アズワン株式会社製)を用いて、100ml/minで70分間かけて散気し、リチウム溶液1に残存するカルシウム(Ca
2+イオン)を、炭酸カルシウムとして析出させた。そして、この炭酸カルシウムを析出させたリチウム溶液1を、5種Cのろ紙(東洋濾紙株式会社製)を用いて固液分離し、リチウム溶液1における固化したカルシウム(炭酸カルシウム)を除去した(第一成分除去后液を得た)。
【0089】
<炭酸リチウムの回収>
炭酸カルシウムを除去したリチウム溶液(第一成分除去后液)1をガラスビーカーに入れ、ビーカー外のホットマグネットスタラー(商品名:C−MAG HS4 digital、IKA社製)により95℃に加温し、5倍に蒸発濃縮した。そして、蒸発濃縮後の析出物(炭酸リチウム塩1)をステンレス匙で回収し、5種Cのろ紙(東洋濾紙株式会社製)を用いて吸引濾過して余分の水分を除去して固液分離することにより、炭酸リチウム塩1を得た。
【0090】
<評価>
回収した炭酸リチウム塩の質量を、電磁式はかり(商品名:GX−8K、株式会社エー・アンド・デイ製)を用いて測定した後、当該炭酸リチウム塩を王水(富士フイルム和光純薬株式会社製)に加熱溶解させ、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置(iCaP6300、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)により分析を行い、リチウム及び各種不純物の含有割合(品位)を求めた。結果を表1に示す。表1において(%)はいずれも質量%である。また、元液(リチウム溶液1)に含まれていたリチウムに対する回収した炭酸リチウム中に回収されたリチウムの割合は58%であった。
【0091】
【表1】
【0092】
(実施例2)
実施例1において、リチウム溶液の作製時における、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)を含む残渣、フッ素の除去時における固化したフッ素の除去、及びカルシウムの除去時における固化したカルシウム(炭酸カルシウム)の除去を、CO
2ガスを添加する前のろ過を一括して(一度に)行い、また5倍に蒸発濃縮する際に液中にCO
2ガスを100ml/minの流量で70分間吹き込んだ以外は、実施例1と同様にして炭酸リチウム塩2を回収した。
そして、実施例1と同様に評価を行ったところ、上記の細粒産物に含まれるリチウムの全量に対する、回収した炭酸リチウム塩2におけるリチウムの量は、質量比で50%であった。また、実施例1と同様にして、炭酸リチウム塩2における、リチウム及び各種不純物の含有割合(品位)を求めた結果を表2に示す。
【0093】
【表2】
【0094】
(実施例3)
実施例1において、リチウム溶液の作製において、浸出液量56.5L、固液比2%として、リチウムとフッ素の濃度を、リチウムの濃度が200mg/Lであり、フッ素の濃度が340mg/Lとなるようにして、リチウム溶液2を作製し、蒸発濃縮倍率を38倍とした以外は、実施例1と同様にして炭酸リチウム塩3を回収した。
そして、実施例1と同様に評価を行ったところ、上記の細粒産物に含まれるリチウムの全量に対する、回収した炭酸リチウム塩3におけるリチウムの量は、質量比で55%であった。また、実施例1と同様にして、炭酸リチウム塩3における、リチウム及び各種不純物の含有割合(品位)を求めた結果を表3に示す。
【0095】
【表3】
【0096】
(実施例4)
リチウム溶液の作製において、実施例2で作製した炭酸リチウムを除去したリチウム溶液(第一成分除去后液)と、実施例3で作製したリチウム溶液2と、実施例3で作製した炭酸リチウムを除去したリチウム溶液(第一成分除去后液)を、重量比で2:1:12で混合し、リチウム濃度を370mg/L及びフッ素濃度を33mg/Lに調整したリチウム溶液3を作製し、蒸発濃縮倍率を21倍とした以外は、実施例1と同様にして炭酸リチウム塩4を回収した。
そして、実施例1と同様に評価を行ったところ、上記の細粒産物に含まれるリチウムの全量に対する、回収した炭酸リチウム塩4におけるリチウムの量は、質量比で54%であった。また、実施例1と同様にして、炭酸リチウム塩4における、リチウム及び各種不純物の含有割合(品位)を求めた結果を表4に示す。
【0097】
【表4】
【0098】
(実施例5)
実施例1において、フッ素の除去(水酸化カルシウムの添加、リチウム溶液1の撹拌、及び固化したフッ素を除去するための固液分離)を行わず、またpHの低下を防ぐため10%濃度の水酸化ナトリウム溶液を計100ml添加しpHを12以上に調整しながら二酸化炭素(CO
2)ガスを吹き込み、二酸化炭素ガスを吹き込んだ後の固液分離を行わなかった(実施例1における水酸化カルシウムの添加を行わないため、炭酸カルシウムが回収されないため)以外は、実施例1と同様にして炭酸リチウム塩5を回収した。より具体的には、実施例5においては、リチウムイオン二次電池を処理することにより得たリチウム溶液に二酸化炭素を加えた後に、リチウム溶液を加温することにより、炭酸リチウムの溶解度を低下させて蒸発濃縮することで炭酸リチウムを析出させた後、固液分離して炭酸リチウムを分離することによって、リチウムを炭酸リチウム5として回収した。
そして、実施例1と同様に評価を行ったところ、上記の細粒産物に含まれるリチウムの全量に対する、回収した炭酸リチウム塩5におけるリチウムの量は、質量比で61%であった。また、実施例1と同様にして、炭酸リチウム塩5における、リチウム及び各種不純物の含有割合(品位)を求めた結果を表5に示す。
【0099】
【表5】
【0100】
実施例5では、リチウム溶液からフッ素を除去していないにも関わらず、フッ素品位が1000ppm未満の高純度の炭酸リチウムが得られた。これは、二酸化炭素を蒸発濃縮前に供給したことで、二酸化炭素を供給しなかった後述する比較例1と比べ炭酸リチウムがより析出しやすくなり、フッ化リチウムよりも炭酸リチウムが優先して析出したためと考えられる。
比較例1及び実施例5の蒸発濃縮前のリチウム溶液の炭酸イオン濃度をTOC計(TOC−V CSH/CSN、株式会社島津製作所製)を用いた無機炭素濃度分析により求めた。比較例1の炭酸イオン濃度は1300mg/Lであり、実施例5の炭酸イオン濃度は8600mg/Lであった。
【0101】
(比較例1)
実施例1において、フッ素の除去、水酸化カルシウムの添加、リチウム溶液1の撹拌、固化したフッ素を除去するための固液分離、及びカルシウムの除去(二酸化炭素ガスの添加、及び炭酸カルシウムを除去するための固液分離)を行わなかった以外は、実施例1と同様にして炭酸リチウム塩6を回収した。
そして、実施例1と同様に評価を行ったところ、上記の細粒産物に含まれるリチウムの全量に対する、回収した炭酸リチウム塩6におけるリチウムの量は、質量比で64%であった。また、実施例1と同様にして、炭酸リチウム塩6における、リチウム及び各種不純物の含有割合(品位)を求めた結果を表6に示す。
【0102】
【表6】
【0103】
このように、本発明の実施例となる実施例1から5では、リチウムイオン二次電池を処理することにより得たリチウム溶液から、リチウムとフッ素とを分離し、分離後のリチウム溶液からリチウムを炭酸リチウムとして回収することで、フッ素の含有量が2000ppm未満と少なく純度(品位)の高い炭酸リチウムを簡便に得ることができることがわかった。
【0104】
また、実施例1〜5及び比較例1で得た、固化したフッ素(フッ化カルシウム)及び固化したカルシウム(炭酸カルシウム)を除去したリチウム溶液における、リチウムとフッ素の量(濃度)を測定した結果を表7に示す。
表7から、第一除去工程及び第二除去工程を行うこと、即ち、固化したフッ素(フッ化カルシウム)及び固化したカルシウム(炭酸カルシウム)を除去することにより、リチウムとフッ素とが分離されていることがわかる。
【0105】
【表7】
【0106】
また、表7において、「元液」とは、フッ素(フッ化カルシウム)及びカルシウム(炭酸カルシウム)を除去する前のリチウム溶液(リチウムイオン二次電池を処理して得たリチウム溶液)を意味する。
さらに、表7において、「N.D.」は、不検出(Not Detected)を意味する。なお、表7において「\(バックスラッシュ)」は、分析(測定)を実施していないことを意味する。
【0107】
以上、説明したように、本発明のリチウムの分離方法は、例えば、リチウムを200mg/L以上、フッ素を20mg/L以上含むリチウム溶液から、リチウムを分離するリチウムの分離方法であって、リチウム溶液に含まれるフッ素を固化させる第一の成分を、リチウム溶液に添加して固化したフッ素を除去する第一除去工程と、リチウム溶液に残存する第一の成分を固化させる第二の成分を、リチウム溶液に添加して固化した前記第一の成分を除去する第二除去工程と、を含む。
さらに、本発明のリチウムの分離方法は、例えば、リチウムを200mg/L以上、フッ素を20mg/L以上含むリチウム溶液から、リチウムを分離するリチウムの分離方法であって、リチウム溶液中に二酸化炭素を加えて炭酸イオンを溶存させた溶液を得る工程と、炭酸イオンを溶存させた溶液を加温して、炭酸リチウムを析出させた後に固液分離することにより、リチウムを分離する工程と、を含む。
これにより、本発明のリチウムの分離方法は、リチウム溶液から、リチウムと不純物であるフッ素とを簡便に高い精度で分離することができる。
リチウムを200mg/L以上、フッ素を20mg/L以上含むリチウム溶液から、リチウムを分離するリチウムの分離方法であって、前記リチウム溶液に含まれるフッ素を固化させる第一の成分を、前記リチウム溶液に添加して固化した前記フッ素を除去し、F除去后液を得る第一除去工程と、前記F除去后液に残存する前記第一の成分を固化させる第二の成分を、前記F除去后液に添加して固化した前記第一の成分を除去し、第一成分除去后液を得る第二除去工程と、を含むリチウムの分離方法等を提供する。