特許第6869455号(P6869455)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6869455細胞充填容器の製造方法、細胞充填用容器、及びシーリング装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6869455
(24)【登録日】2021年4月16日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】細胞充填容器の製造方法、細胞充填用容器、及びシーリング装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20210426BHJP
   C12N 1/04 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   C12M1/00 A
   C12M1/00 Z
   C12N1/04
【請求項の数】16
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-510438(P2016-510438)
(86)(22)【出願日】2015年3月25日
(86)【国際出願番号】JP2015059189
(87)【国際公開番号】WO2015147077
(87)【国際公開日】20151001
【審査請求日】2018年2月1日
【審判番号】不服2019-17320(P2019-17320/J1)
【審判請求日】2019年12月23日
(31)【優先権主張番号】特願2014-68795(P2014-68795)
(32)【優先日】2014年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-68792(P2014-68792)
(32)【優先日】2014年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】307014555
【氏名又は名称】北海道公立大学法人 札幌医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117101
【弁理士】
【氏名又は名称】西木 信夫
(74)【代理人】
【識別番号】100120318
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 朋浩
(72)【発明者】
【氏名】本望 修
(72)【発明者】
【氏名】吉川 義洋
(72)【発明者】
【氏名】松尾 桂
(72)【発明者】
【氏名】内村 智彦
(72)【発明者】
【氏名】富井 亮
【合議体】
【審判長】 中島 庸子
【審判官】 一宮 里枝
【審判官】 小暮 道明
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−342179号公報
【文献】 特開2001−245957号公報
【文献】 特表平10−508314号公報
【文献】 特表2001−517103号公報
【文献】 特開2013−5825号公報
【文献】 特開2001−252353号公報
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M1/00-1/42
C12N1/00-1/38
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのポートを有する第1収容室を区画する第1収容部と、
上記第1収容部と第1連結部を介して連結されており、少なくとも1つのポートを有する第2収容室を区画する第2収容部と、
上記第1連結部に設けられており、上記第1収容室と上記第2収容室とを連通する少なくとも2つの連通路と、を具備する容器に、細胞を含む液体を充填して細胞充填容器を得る細胞充填容器の製造方法であって、
上記第1収容室が上記液体で満たされるまでは上記連通路を通じて上記第2収容室へ上記液体が流入しない状態で、上記第1収容室に上記液体を充填する第1工程と、
上記連通路を通じて、上記第1収容室に充填された上記液体を上記第2収容室へ流入させる第2工程と、を含む細胞充填容器の製造方法。
【請求項2】
上記第1工程において、上記第2収容室を上記第1収容室より重力方向の上方に位置させて、上記第1収容室へ上記液体を充填し、
上記第2工程において、上記第2収容室を上記第1収容室より重力方向の下方に位置させて、上記第1収容室に充填された上記液体を、上記連通路を通じて上記第2収容室へ流入させる請求項1に記載の細胞充填容器の製造方法。
【請求項3】
上記第1工程において、少なくとも上記第1収容室を減圧した後、上記第1収容室へ上記液体を充填する請求項1又は2に記載の細胞充填容器の製造方法。
【請求項4】
上記第2工程において、上記第2収容室を上記液体で満たした後、上記第1収容室に残存する気体を抜く請求項1から3のいずれかに記載の細胞充填容器の製造方法。
【請求項5】
上記第2工程において、上記第2収容室を上記液体で満たした後、上記第1連結部の連通路を封止する請求項1から4のいずれかに記載の細胞充填容器の製造方法。
【請求項6】
上記第2工程において、上記第1連結部の連通路を押圧して閉塞し、当該押圧されている箇所を熱溶着して封止する請求項5に記載の細胞充填容器の製造方法。
【請求項7】
第1断熱材及び第2断熱材の間に発熱部材が配置されたシーリング部材を用いて、
上記第1連結部の連通路の上記第1収容部側及び上記第2収容部側に上記第1断熱材及び上記第2断熱材を配置して押圧し、
上記第1断熱材及び上記第2断熱材の間を上記発熱部材により熱溶着する請求項6に記載の細胞充填容器の製造方法。
【請求項8】
上記第2収容室の容積は、上記第1収容室の容積より小さい請求項1から7のいずれかに記載の細胞充填容器の製造方法。
【請求項9】
上記容器は、上記第2収容部と第2連結部を介して上記第1収容部と反対側に連結されており、少なくとも1つのポートを有する第3収容室を区画する第3収容部と、上記第2連結部に設けられており、上記第2収容室と上記第3収容室とを連通する少なくとも2つの連通路と、を更に具備するものであり、
上記第2工程において、上記第1収容室に充填された上記液体を上記第3収容室へ流入させる請求項1から8のいずれかに記載の細胞充填容器の製造方法。
【請求項10】
上記第2収容室の容積と上記第3収容室の容積との和は、上記第1収容室の容積より小さい請求項9に記載の細胞充填容器の製造方法。
【請求項11】
少なくとも細胞注入ポートを有する第1収容室を区画する第1収容部と、
上記第1収容部と第1連結部を介して連結されており、少なくとも1つのポートを有する第2収容室を区画する第2収容部と、
上記第2収容部と第2連結部を介して上記第1収容部と反対側に連結されており、少なくとも1つのポートを有する第3収容室を区画する第3収容部と、
上記第1連結部に設けられており、上記第1収容室と上記第2収容室とを連通する少なくとも2つの連通路と、
上記第2連結部に設けられており、上記第2収容室と上記第3収容室とを連通する少なくとも2つの連通路と、を具備するものであって、
上記第1連結部に設けられた各連通路、及び上記第2連結部に設けられた各連通路は、上記第1収容部と上記第2収容部とが並ぶ第1方向に沿ってそれぞれが延出されており、かつ上記第1方向と直交する第2方向に並列しており、
上記第1収容部、上記第2収容部及び上記第3収容部は、上記第1方向及び上記第2方向と直交する第3方向の外形の長さが、上記第2方向の外形の長さより短いものであり、 上記第1連結部に設けられた各連通路、及び上記第2連結部に設けられた各連通路は、上記第1収容部、上記第2収容部及び上記第3収容部の上記第2方向の外形の中心位置よりも上記第2方向の一方に偏って配置されており、
上記第1収容部は、上記第2方向の一方における上記第1方向の長さが最大であり、且つ、上記第2方向の他方の部分が、上記第1方向の長さが徐々に短くなっている細胞充填用容器。
【請求項12】
上記細胞注入ポートは、上記第1収容部において上記第2方向の一方に位置しており、
上記第1収容部は、上記第2方向の他方に細胞回収ポートを有する請求項11に記載の細胞充填用容器。
【請求項13】
上記第1収容部は、上記第2方向の一方に吊下孔を有する請求項12に記載の細胞充填用容器。
【請求項14】
上記第2収容部は、上記第2方向の一方における上記第1方向の長さが最大であり、且つ、上記第2方向の他方の部分が、上記第1方向の長さが徐々に短くなっている請求項11から13のいずれかに記載の細胞充填用容器。
【請求項15】
上記第1連結部に設けられた各連通路、及び上記第2連結部に設けられた各連通路が上記第2収容室又は上記第3収容室に連通する各開口は、当該細胞充填容器が上記第1収容部を重力方向の上側かつ上記第3収容部を重力方向の下側にされた状態において、上記第2収容室又は上記第3収容室において重力方向の最も上側に位置する請求項11から14のいずれかに記載の細胞充填用容器。
【請求項16】
上記第2収容室の容積と上記第3収容室の容積との和は、上記第1収容室の容積より小さい請求項11から15のいずれかに記載の細胞充填用容器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞を含む液体を容器に充填して細胞充填容器を得る製造方法、細胞充填用容器、及び細胞充填容器をシーリングする装置に関する。
【背景技術】
【0002】
再生医療の分野において、臍帯血や幹細胞などの生体から採取された細胞が用いられることがある。これら細胞は、生体から採取された後、細胞懸濁液として凍結されて保存される。細胞懸濁液を凍結保存する容器として種々のものが考案されている(特許文献1〜3)。
【0003】
例えば、特許文献1には、複数の収容室が間隔を空けて設けられており、隣り合う収容室が連通部によって連通された細胞凍結保存容器が開示されている。この細胞凍結保存容器によれば、複数の収容室に分かれて幹細胞の細胞懸濁液が凍結保存されるので、各収容室毎に分離してから解凍することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−5825号公報
【特許文献2】特開2009−82732号公報
【特許文献3】特表2001−517103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
細胞懸濁液を凍結して保存するときに、再生医療に使用する細胞懸濁液と同じものが、品質管理などの試験サンプルとして保管されることが要望されている。例えば、保存容器を原因として細胞懸濁液の汚染が生じているのであれば、汚染が発生した収容室に接触した細胞懸濁液が、試験サンプルとして保管されている必要がある。
【0006】
前述されたような複数の収容室は、細胞懸濁液が注入されるときには連通路によって連通されており、細胞懸濁液が注入された後に、連通路が閉塞されて各収容室が密閉空間にされる。連通路の閉塞は、例えば容器が熱可塑性の合成樹脂で成形されたものであれば、熱溶着により行われる。この熱溶着の際に細胞懸濁液が加熱されると、細胞に損傷を与えるおそれがある。
【0007】
本発明は前述された事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、細胞を含む液体の試験サンプルを保管するに適した細胞充填容器の製造方法及び細胞充填用容器を提供することにある。
【0008】
また、本発明の他の目的は、細胞を含む液体を保管する細胞充填容器において、細胞に損傷を与えることが抑制されたシーリング手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1) 本発明は、少なくとも1つのポートを有する第1収容室を区画する第1収容部と、上記第1収容部と第1連結部を介して連結されており、少なくとも1つのポートを有する第2収容室を区画する第2収容部と、上記第1連結部に設けられており、上記第1収容室と上記第2収容室とを連通する少なくとも2つの連通路と、を具備する容器に、細胞を含む液体を充填して細胞充填容器を得る細胞充填容器の製造方法に関する。本細胞充填容器の製造方法は、上記第1収容室が上記液体で満たされるまでは上記連通路を通じて上記第2収容室へ上記液体が流入しない状態で、上記第1収容室に上記液体を充填する第1工程と、上記連通路を通じて、上記第1収容室に充填された上記液体を上記第2収容室へ流入させる第2工程と、を含む。
【0010】
第1工程において第1収容室に充填された液体が、第2工程において第2収容室へ流入されるので、第2収容室に試験サンプルに適した液体が保管される。
【0011】
(2) 上記第1工程において、上記第2収容室を上記第1収容室より重力方向の上方に位置させて、上記第1収容室へ上記液体を充填し、上記第2工程において、上記第2収容室を上記第1収容室より重力方向の下方に位置させて、上記第1収容室に充填された上記液体を、上記連通路を通じて上記第2収容室へ流入させてもよい。
【0012】
重力を利用して、第1収容室へ液体を充填し、また、第1収容室から第2収容室へ液体を流入させることができるので、各工程が簡易に実現される。
【0013】
(3) 上記第1工程において、少なくとも上記第1収容室を減圧した後、上記第1収容室へ上記液体を充填してもよい。
【0014】
これにより、第1収容室を大気に連通させることなく液体を充填できる。
【0015】
(4) 上記第2工程において、上記第2収容室を上記液体で満たした後、上記第1収容室に残存する気体を抜いてもよい。
【0016】
これにより、第1収容室における大気の影響を抑制できる。
【0017】
(5) 上記第2工程において、上記第2収容室を上記液体で満たした後、上記第1連結部の連通路を封止してもよい。
【0018】
これにより、第1収容室と第2収容室とを分離することができる。
【0019】
(6) 上記第2収容室の容積は、上記第1収容室の容積より小さくてもよい。
【0020】
これにより、第2収容室が、第1収容室に充填された液体で満たされやすくなる。
【0021】
(7) 上記第2工程において、上記第1連結部の連通路を押圧して閉塞し、当該押圧されている箇所を熱溶着して封止してもよい。
【0022】
連通路が押圧されて閉塞されている箇所が熱溶着されるので、熱溶着される箇所には細胞を含む液体が存在しない。したがって、熱溶着の際の熱が細胞を含む液体に伝達し難い。
【0023】
(8) 第1断熱材及び第2断熱材の間に発熱部材が配置されたシーリング部材を用いて、上記第1連結部の連通路の上記第1収容部側及び上記第2収容部側に上記第1断熱材及び上記第2断熱材を配置して押圧し、上記第1断熱材及び上記第2断熱材の間を上記発熱部材により熱溶着してもよい。
【0024】
第1断熱材及び第2断熱材によって連通路が押圧されて閉塞されている間を発熱部材が加熱して熱溶着するので、熱溶着される箇所には細胞を含む液体が存在せず、熱溶着の際の熱が細胞を含む液体に伝達し難い。
【0025】
(9) 上記容器は、上記第2収容部と第2連結部を介して上記第1収容部と反対側に連結されており、少なくとも1つのポートを有する第3収容室を区画する第3収容部と、上記第2連結部に設けられており、上記第2収容室と上記第3収容室とを連通する少なくとも2つの連通路と、を更に具備するものであり、上記第2工程において、上記第1収容室に充填された上記液体を上記第3収容室へ流入させてもよい。
【0026】
これにより、複数の試験サンプルが得られる。
【0027】
(10) 上記第2収容室の容積と上記第3収容室の容積との和は、上記第1収容室の容積より小さくてもよい。
【0028】
これにより、第2収容室及び第3収容室が、第1収容室に充填された液体で満たされやすくなる。
【0029】
(11) 本発明に係る細胞充填用容器は、少なくとも1つのポートを有する第1収容室を区画する第1収容部と、上記第1収容部と第1連結部を介して連結されており、少なくとも1つのポートを有する第2収容室を区画する第2収容部と、上記第2収容部と第2連結部を介して上記第1収容部と反対側に連結されており、少なくとも1つのポートを有する第3収容室を区画する第3収容部と、上記第1連結部に設けられており、上記第1収容室と上記第2収容室とを連通する少なくとも2つの連通路と、上記第2連結部に設けられており、上記第2収容室と上記第3収容室とを連通する少なくとも2つの連通路と、を具備する。上記第2収容室の容積と上記第3収容室の容積との和は、上記第1収容室の容積より小さい。
【0030】
これにより、第1収容室に充填された液体を、第2収容室及び第3収容室に必ず流入させて充填することができる。
【0031】
(12) 上記第1連結部に設けられた各連通路、及び上記第2連結部に設けられた各連通路は、上記第1収容部と上記第2収容部とが並ぶ第1方向に沿ってそれぞれが延出されており、かつ上記第1方向と直交する第2方向に並列しており、上記第1収容部、上記第2収容部及び上記第3収容部は、上記第1方向及び上記第2方向と直交する第3方向の外形の長さが、上記第2方向の外形の長さより短いものであり、 上記第1連結部に設けられた各連通路、及び上記第2連結部に設けられた各連通路は、上記第1収容部、上記第2収容部及び上記第3収容部の上記第2方向の外形の中心位置よりも上記第2方向の一方に偏って配置されていてもよい。
【0032】
これにより、第1連結部及び第2連結部に設けられた各連通路を熱溶着などによってシールし易い。
【0033】
(13) 上記第1連結部に設けられた各連通路、及び上記第2連結部に設けられた各連通路が上記第2収容室又は上記第3収容室に連通する各開口は、当該細胞充填容器が上記第1収容部を重力方向の上側かつ上記第3収容部を重力方向の下側にされた状態において、上記第2収容室又は上記第3収容室において重力方向の最も上側に位置するものであってもよい。
【0034】
これにより、第1収容部を上側にし、且つ第3収容部を下側にしたときに、第2収容室及び第3収容室から空気が抜けやすい。
【0035】
(14) 本発明は、第1収容室を区画する第1収容部と、上記第1収容部と第1連結部を介して連結されており、第2収容室を区画する第2収容部と、上記第1連結部に設けられており、上記第1収容室と上記第2収容室とを連通する連通路と、を具備する容器に、細胞を含む液体を充填し、上記連通路をシーリングして細胞充填容器を得る細胞充填容器の製造方法に関する。細胞充填容器の製造方法は、上記連通路を押圧して閉塞する第1工程と、上記連通路の押圧されている箇所を熱溶着する第2工程と、を含む。
【0036】
連通路が押圧されて閉塞されている箇所が熱溶着されるので、熱溶着される箇所には細胞を含む液体が存在しない。したがって、熱溶着の際の熱が細胞を含む液体に伝達し難い。
【0037】
(15) 上記第2工程において、熱溶着された箇所を切断して上記第1収容部と上記第2収容部とを分離してもよい。
【0038】
これにより、第1収容部と第2収容部とを別の場所に保管することができる。
【0039】
(16) 上記第1工程において、断熱材により上記連通路を押圧してもよい。
【0040】
これにより、熱溶着の際の熱が細胞を含む液体に更に伝達され難くなる。
【0041】
(17) 本発明は、細胞を含む液体が充填された第1収容室を区画する第1収容部と、上記第1収容部と第1連結部を介して連結されており、細胞を含む液体が充填された第2収容室を区画する第2収容部と、上記第1連結部に設けられており、上記第1収容室と上記第2収容室とを細胞を含む液体が流通可能に連通する連通路と、を具備する細胞充填容器をシーリングするシーリング装置に関する。本シーリング装置は、上記連通路の上記第1収容部側及び上記第2収容部側をそれぞれ押圧して閉塞する第1断熱材及び第2断熱材と、上記第1断熱材及び上記第2断熱材の間に配置されており、上記連通路を押圧して熱溶着する発熱部材と、を具備する。
【0042】
第1断熱材及び第2断熱材によって連通路が押圧されて閉塞されている間を発熱部材が加熱して熱溶着するので、熱溶着される箇所には細胞を含む液体が存在せず、熱溶着の際の熱が細胞を含む液体に伝達し難い。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、第1収容室に充填された細胞を含む液体の試験サンプルを、第2収容室に保管することができる。
【0044】
本発明によれば、細胞を含む液体が充填された細胞充填容器をシーリングするときに、細胞に損傷を与えることが抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1図1は、本発明の実施形態に係る容器10を示す斜視図である。
図2図2は、容器10の内部構造を示す断面図である。
図3図3は、第1工程における容器10の状態を示す断面図である。
図4図4は、第1工程において第1収容室14へ細胞懸濁液40が充填された状態を示す断面図である。
図5図5は、第2工程における容器10の状態を示す断面図である。
図6図6は、第2工程において第1収容室14から第2収容室22及び第3収容室27へ細胞懸濁液40が流入された状態を示す断面図である。
図7図7は、第2工程において連通路23,24,29,30が封止された状態を示す断面図である。
図8図8は、第2工程において第1収容部11、第2収容部12、及び第3収容部13が分離された状態を示す断面図である。
図9図9は、シーリング装置60の主要な構成を示す概略図である。
図10図10は、第1ヒーター部63の構成を示す図である。
図11図11は、容器10の第1連結部21の一部43が断熱材71,72で押圧された状態を示す図である。
図12図12は、容器10の第1連結部21に封止部分42が形成された状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、図面が参照されつつ本発明の実施形態が説明される。なお、本実施形態は、本発明の一例にすぎず、本発明の要旨が変更されない範囲において、本実施形態が適宜変更されてもよいことは言うまでもない。
【0047】
[容器10]
図1及び図2に示されるように、容器10(細胞充填用容器に相当する。)は、細胞懸濁液40(図4参照)を凍結保存するためのものである。容器10は、例えば後述される形状に成形された2枚の樹脂シートが貼り合わされることにより構成されている。
【0048】
容器10は、第1収容部11、第2収容部12、及び第3収容部13を有する。第1収容部11は、内部空間である第1収容室14を有するものであり、左右方向52(第1方向に相当する。)及び上下方向53(第2方向に相当する。)の長さに比べて前後方向51(第3方向に相当する。)の長さが最も短い薄平な形状である。第1収容室14は、概ね直方体形状の空間であって、上下方向53の上側部分が左右方向52の長さが最大であり、且つ、上下方向53の下側部分が、左右方向52の長さが下向きへ徐々に短くなる漏斗形状に湾曲している。第1収容室14の容積は、保存すべき細胞懸濁液40の量を考慮して適宜設定されるが、例えば約20mLである。
【0049】
第1収容部11には、第1収容室14へ通ずる細胞注入ポート15、予備ポート16、及び細胞回収ポート17が設けられている。細胞注入ポート15は、第1収容室14の上下方向53の上端であって、左右方向52の左端付近(図1において第1収容部11の左端)に設けられており、外部へ開口して第1収容室14と外部とを連通している。細胞注入ポート15には円筒部材33を介してチューブ18が接続されている。円筒部材33は、ゴムやエラストマーなどからなる円筒形状の部材であり、細胞注入ポート15に液密に挿入されている。円筒部材33により、細胞注入ポート15が、外力などを受けたり、第1収容室14が減圧されたりしても容易に閉塞することがない。チューブ18は、樹脂製のチューブである。チューブ18の一端は、円筒部材33に液密に接続されている。チューブ18に細胞懸濁液40が流通されて、細胞注入ポート15を通じて第1収容室14に細胞懸濁液40が注入される。
【0050】
予備ポート16は、第1収容室14の上下方向53の上端であって、左右方向52の右端付近(図1において第1収容部11の右端)に設けられている。予備ポート16の上端は封止されており、外部へ開口していない。予備ポート16が使用されるときには、予備ポート16の上端側が切断されて開口される。予備ポート16には、円筒形状の栓34が液密に挿入されている。栓34は、円筒形状の筒体と、その筒体の内部空間を一端側(図2における上側)と他端側(図2における下側)とに分断する膜がゴムやエラストマーなどによって一体に形成されたものである。栓34により、予備ポート16が、外力などを受けたり、第1収容室14が減圧されたりしても容易に閉塞することがない。また、栓34により、予備ポート16の上端側が開口されても、直ちに第1収容室14から液が流出することがない。外部から第1収容室14にアクセスするときには、栓34の膜を貫通可能な注射針などが穿刺される。栓34の膜により、穿刺された注射針などの姿勢が安定する。予備ポート16は、例えば、第1収容室14に貯留された細胞懸濁液40に薬剤等を注入するときに使用される。
【0051】
細胞回収ポート17は、第1収容室14の上下方向53の下端に設けられている。細胞回収ポート17の下端は封止されており、外部へ開口していない。細胞回収ポート17が使用されるときには、細胞回収ポート17の下端側が切断されて開口される。細胞回収ポート17には、円筒形状の栓35が液密に挿入されている。栓35は、円筒形状の筒体と、その筒体の内部空間を一端側(図2における上側)と他端側(図2における下側)とに分断する膜とがゴムやエラストマーなどによって一体に形成されたものである。栓35により、細胞回収ポート17が、外力などを受けたり、第1収容室14が減圧されたりしても容易に閉塞することがない。また、栓35により、細胞回収ポート17の下端側が開口されても、直ちに第1収容室14から液が流出することがない。外部から第1収容室14にアクセスするときには、栓35の膜を貫通可能な注射針などが穿刺される。栓35の膜により、穿刺された注射針などの姿勢が安定する。細胞回収ポート17は、第1収容室14に貯留された細胞懸濁液40を流出させるときに使用される。
【0052】
第1収容部11の上端であって、細胞注入ポート15と予備ポート16との間には、吊下孔19が設けられている。吊下孔19は、第1収容部11の左右方向52の中央付近に配置されている。吊下孔19は、第2収容部12及び第3収容部13が切断されて分離された状態の第1収容部11が吊り下げられて保管されるときなどに用いられる。
【0053】
第2収容部12は、第1連結部21を介して第1収容部11と連結されている。第2収容部12は、第1収容部11の左右方向52の右方(図1における右方)に配置されている。第2収容部12は、内部空間である第2収容室22を有するものであり、左右方向52及び上下方向53の長さに比べて前後方向51の長さが最も短い薄平な形状である。第2収容室22は、概ね直方体形状の空間であって、上下方向53の上側部分が左右方向52の長さが最大であり、且つ、上下方向53の下側部分が、左右方向52の長さが下向きへ徐々に短くなる漏斗形状に湾曲している。第2収容室22の容積は、第1収容室14の容積より小さく、例えば約5mLである。
【0054】
第1連結部21は、第1収容部11と第2収容部12とを、上下方向53の上側部分において連結している。第1連結部21は、例えば、容器10を構成する2枚の樹脂シートが密着されることにより構成されている。第1連結部21の外形の前後方向51の長さは、上下方向53の長さより短い。つまり、第1連結部21は、前後方向51に薄平な形状である。
【0055】
第1連結部21には、左右方向52に渡って延びる連通路23,24が設けられている。連通路23,24は、上下方向53に離間されて配置されており、それぞれが第1収容室14と第2収容室22とを連通している。連通路23,24は、第1収容部11及び第2収容部12の外形の上下方向53の中心より上側に偏った位置に配置されている。また、連通路23,24は、第1収容室14及び第2収容室22において左右方向52の長さが最大となる位置(上側部分)の左右方向52の端にそれぞれが開口している。
【0056】
第2収容室22には、サンプル回収ポート25が設けられている。サンプル回収ポート25は、第2収容室22の上下方向53の下端に設けられている。サンプル回収ポート25の下端は封止されており、外部へ開口していない。サンプル回収ポート25が使用されるときには、サンプル回収ポート25の下端側が切断されて開口される。サンプル回収ポート25には、円筒形状の栓36が液密に挿入されている。栓36の構造は、栓35と同様なので、ここでは詳細な説明が省略される。サンプル回収ポート25は、第2収容室22に貯留された細胞懸濁液40を流出させるときに使用される。
【0057】
第3収容部13は、第2連結部26を介して第2収容部12と連結されている。第3収容部13は、第2収容部12の左右方向52の右方(図1における右方)に配置されている。つまり、第3収容部13は、第2収容部12に対して第1収容部11と反対側に配置されている。第3収容部13は、内部空間である第3収容室27を有するものであり、左右方向52及び上下方向53の長さに比べて前後方向51の長さが最も短い薄平な形状である。第3収容室27は、概ね直方体形状の空間である。第3収容室27の容積は、第1収容室14及び第2収容室22の容積より小さく、例えば約2mLである。したがって、第2収容室22の容積と第3収容室27の容積の和(例えば約7mL)は、第1収容室14の容積(例えば約20mL)より小さい。
【0058】
第2連結部26は、第2収容部12と第3収容部13とを、上下方向53の上側部分において連結している。第2連結部26は、例えば、容器10を構成する2枚の樹脂シートが密着されることにより構成されている。第2連結部26の外形の前後方向51の長さは、上下方向53の長さより短い。つまり、第2連結部26は、前後方向51に薄平な形状である。
【0059】
第2連結部26には、左右方向52に渡って延びる連通路29,30が設けられている。連通路29,30は、上下方向53に離間されて配置されており、それぞれが第2収容室22と第3収容室27とを連通している。連通路29,30は、第2収容部12及び第3収容部13の外形の上下方向53の中心より上側に偏った位置に配置されている。また、連通路29,30は、第2収容室22及び第3収容室27において左右方向52の長さが最大となる位置(上側部分)の左右方向52の端にそれぞれが開口している。
【0060】
第3収容室27には、サンプル回収ポート31が設けられている。サンプル回収ポート31は、第3収容室27の上下方向53の下端に設けられている。サンプル回収ポート31の下端は封止されており、外部へ開口していない。サンプル回収ポート31が使用されるときには、サンプル回収ポート31の下端側が切断されて開口される。サンプル回収ポート31には、円筒形状の栓37が液密に挿入されている。栓37の構造は、栓35と同様なので、ここでは詳細な説明が省略される。サンプル回収ポート31は、第3収容室27に貯留された細胞懸濁液40を流出させるときに使用される。
【0061】
[シーリング装置60]
シーリング装置60は、インパルス式のヒートシーラーである。図9に示されるように、シーリング装置60は、不図示の下枠に設けられた第1押圧部61と、不図示の上枠に設けられた第2押圧部62と、を有する。各図には詳細に示されていないが、上枠は下枠に対して接離可能に設けられており、下枠に沿って支持された容器10の第1連結部21又は第2連結部26に対して上枠が降下され、上下方向55に対向して配置されている第1押圧部61と第2押圧部62との間に第1連結部21又は第2連結部26が挟み込まれて加熱されることによって、連通路23,24又は連通路29,30が熱溶着によりシールされる。
【0062】
図9に示されるように、第1押圧部61は、第1ヒーター部63、第1保護カバー64、第1トランス65を有する。第1ヒーター部63は、第1トランス65と電気的に接続されており、第1トランス65から供給される電力によって加熱する。第1保護カバー64は、第1ヒーター部63の上方を覆っている。第2押圧部62は、第2ヒーター部66、第2保護カバー67、第2トランス68を有する。第2ヒーター部66は、第2トランス68と電気的に接続されており、第2トランス68から供給される電力によって加熱する。第2保護カバー67は、第2ヒーター部66の下方を覆っている。
【0063】
第1押圧部61と第2押圧部62とは、上下方向55の配置が異なる他は同様の構造なので、以下、第1押圧部61を例として詳細な構成が説明される。なお、シーリング装置60は、第1押圧部61及び第2押圧部62を有するが、第1押圧部61又は第2押圧部62の一方のみが設けられたシーリング装置として、本発明に係るシーリング装置が実現されてもよい。
【0064】
図10に示されるように、第1ヒーター部63は、上下方向55と直交する前後方向56及び左右方向57のうち、左右方向57に長く延びている。なお、第1ヒーター部63の左右方向57に沿った長さは、容器10の連通路23,24,29,30をシールするに十分なものであればよい。
【0065】
第1ヒーター部63は、前後方向56の中央に配置されたヒーター本体70と、ヒーター本体70の前後方向56の両側にそれぞれ配置された断熱材71,72とを有する。ヒーター本体70は、例えば、複数の糸状のニクロム線が組み上げられてなる組紐によって構成されており、その組紐が、前後方向56に沿った長さを一定として左右方向57へ延びている。ヒーター本体70の前後方向56に沿った長さは、容器10の第1連結部21及び第2連結部26の左右方向52に沿った長さより十分に短く、かつ連通路23,24,29,30のシールを維持するに十分な長さである。ヒーター本体70が、発熱部材に相当する。
【0066】
断熱材71,72は、ヒーター本体70に隣接して配置されている。断熱材71,72の素材としては、例えば、フッ素樹脂(耐熱性、離型性)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリオキシメチレン(POM)、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)などが挙げられる。断熱材71,72の左右方向57に沿った長さは、ヒーター本体70の左右方向57に沿った長さと同じである。断熱材71,72の前後方向56に沿った長さは、ヒーター本体70の前後方向56に沿った長さより若干長い。ヒーター本体70及び断熱材71,72の全体としての前後方向56に沿った長さは、容器10の第1連結部21及び第2連結部26の左右方向52に沿った長さより短い。断熱材71,72の各上面は、ヒーター本体70の上面と概ね同一面をなしている。したがって、容器10がヒーター本体70の上面と接触するときには、容器10は断熱材71,72の上面とも接触する。断熱材71,72が、第1断熱材及び第2断熱材に相当する。
【0067】
なお、図を用いた詳細な説明は省略されるが、第2ヒーター部66も、第1ヒーター部63と同様に、ヒーター本体の両側に断熱材が隣接して配置された構成である。
【0068】
[細胞充填容器の製造方法]
容器10に細胞懸濁液40が充填され、第1連結部21及び第2連結部26がシールされることによって細胞充填容器が製造される。細胞充填容器の製造方法は、主として、以下の工程に分類される。
(1)第1収容室14が細胞懸濁液40で満たされるまでは、連通路23,24を通じて第2収容室22へ細胞懸濁液40が流入しない状態で、第1収容室14に細胞懸濁液40を充填する第1工程。
(2)連通路23,24を通じて第1収容室14に充填された細胞懸濁液40を第2収容室22へ流入させ、連通路29,30を通じて第1収容室14に充填された細胞懸濁液40を第3収容室27へ流入させる第2工程。
(3)第2工程において、細胞懸濁液40が充填された容器10の連通路23,24及び連通路29,30をシールする工程。
【0069】
容器10に充填される細胞として、臍帯血や幹細胞などの生体から採取された細胞が挙げられるが、容器10を用いて凍結保存できる細胞はこれらに限定されない。
【0070】
[第1工程]
図3に示されるように、第1工程において、容器10は、第2収容室22及び第3収容室27を第1収容室14より重力方向54の上方に位置する状態に維持される。続いて、細胞注入ポート15が、エアポンプやシリンジポンプなどの減圧装置と接続され、第1収容室14から空気が排出されることにより、第1収容室14が減圧される。
【0071】
なお、第2収容室22及び第3収容室27が第1収容室14と連通路23,24,29,30を通じて連通されているので、第2収容室22及び第3収容室27も減圧されることになるが、第2収容室22及び第3収容室27の減圧は必ずしも必要ではない。したがって、例えば、連通路23,24がクリップなどによって閉塞された状態で、第1収容室14のみが減圧されてもよい。
【0072】
第1収容室14が減圧された後、細胞注入ポート15が減圧装置から切り離され、図4に示されるように、細胞注入ポート15を通じて細胞懸濁液40が第1収容室14へ注入される。第1収容室14が減圧されているので、第1収容室14が大気と連通されていなくとも、第1収容室14に細胞懸濁液40が充填される。
【0073】
第2収容室22及び第3収容室27は、第1収容室14より重力方向54の上方にあり、連通路23,24は、第1収容室14の重力方向54の最も上側において開口しているので、第1収容室14が細胞懸濁液40で満たされるまで、第2収容室22及び第3収容室27には細胞懸濁液40が流入しない。したがって、第2収容室22及び第3収容室27には空気41が残存している。なお、第1収容室14が細胞懸濁液40で満たされた後は、第1収容室14から第2収容室22及び第3収容室27へ細胞懸濁液40が流入してもよい。
【0074】
[第2工程]
図5に示されるように、第2工程において、第2収容室22及び第3収容室27が第1収容室14より重力方向54の下方に位置する状態に維持される。これにより、第1収容室14に充填された細胞懸濁液40が、連通路23,24の一方を通じて第2収容室22へ流入する。さらに、第2収容室22へ流入した細胞懸濁液40が連通路29,30の一方を通じて第3収容室27に流入する。連通路23,24は、第2収容室22の重力方向54の最も上側において開口しているので、第2収容室22の空気は連通路23,24の一方を通じて第1収容室14へ円滑に排出される。連通路29,30は、第3収容室27の重力方向54の最も上側において開口しているので、第3収容室27の空気は連通路29,30の一方を通じて第2収容室22へ円滑に排出される。
【0075】
連通路23,24の他方、及び連通路29,30の他方は、第2収容室22及び第3収容室27に存在している空気41が通過する。これにより、第2収容室22及び第3収容室27に存在している空気41は、細胞懸濁液40と入れ替わって第1収容室14へ移動する。なお、連通路23,24及び連通路29,30は、必ずしも一方において細胞懸濁液40が流通し、他方において空気41が流通しなくてもよい。例えば、各連通路23,24及び連通路29,30において細胞懸濁液40及び空気41が同時又は交互に流通してもよい。
【0076】
図6に示されるように、第2収容室22及び第3収容室27が細胞懸濁液40で満たされるまで容器10が静置された後、細胞注入ポート15に減圧装置が接続されて、第1収容室14に残存する空気41が抜かれる。空気41が抜かれることによって、容器10は、第1収容室14、第2収容室22、及び第3収容室27の容積が残存する空気41に相当する分だけ撓むように変形する。その後、細胞注入ポート15又はチューブ18が熱溶着などによって封止される。これにより、第1収容室14、第2収容室22、及び第3収容室27が密閉空間となる。
【0077】
続いて、図7に示されるように、第1連結部21において連通路23,24が熱溶着によって封止され、また、第2連結部26において連通路29,30が熱溶着によって封止される。これらの封止は、シーリング装置60が用いられて行われる。
【0078】
シーリング装置60による連通路23,24又は連通路29,30の熱溶着、すなわちシールは、連通路23,24又は連通路29,30を押圧して閉塞する工程と、連通路23,24又は連通路29,30の押圧されている箇所を熱溶着する工程と、を含む。なお、連通路23,24をシールする工程と、連通路29,30をシールする工程は同様なので、以下、連通路23,24をシールする工程を例として詳細な説明がなされる。
【0079】
図11に示されるように、連通路23,24が、第1ヒーター部63の長手方向、すなわち左右方向57に並ぶように、シーリング装置60に対して容器10が位置決めされる。容器10の位置決めは、例えば作業者が容器10を手に持つことによって実現されてもよいし、容器10を位置決めするための治具がシーリング装置60に設けられていてもよい。シーリング装置60に対する容器10の位置決めは、第1収容部11、第2収容部12、及び第3収容部13のそれぞれにおいて前後方向51を向く各面が水平方向に沿うように、換言すれば連通路23,24が水平方向に沿うように治具等によって容器10を支持することが好ましい。これにより、第1収容部11、第2収容部12、及び第3収容部13にそれぞれ貯留された細胞懸濁液40が連通路23,24を通じて移動することが抑制される。仮に、第1収容部11が、第2収容部12及び第3収容部13に対して下方に位置するとすれば、重力によって第2収容部12及び第3収容部13に貯留されている細胞懸濁液40が第1収容部11へ流入し、第1収容部11の内部空間を画定する壁が外方へ撓むようにして第1収容部11の内部空間が膨らむことにより、本来予定されている量より多くの量の細胞懸濁液40が第1収容部11に貯留され、また、本来予定されている量より少ない量の細胞懸濁液40が第2収容部12及び第3収容部13に貯留されることになるが、前述されたように容器10が位置決めされることによって、このような不具合が生じることが抑制される。
【0080】
また、シーリング装置60の位置決めにおいて、第1収容部11、第2収容部12、及び第3収容部13のそれぞれにおける前後方向51を向く各面が、第1連結部21及び第2連結部26が第1ヒーター部63及び第2ヒーター部66によって挟まれることを邪魔することなく、すなわち第1ヒーター部63及び第2ヒーター部66と干渉することなく、平板形状の一対の支持部材などによって挟み持たれることが好ましい。後述されるように、容器10のシールにおいて、連通路23,24が第1ヒータ部63の断熱材71,72と第2ヒーター部66の断熱材(不図示)とによって挟み込まれることによって、連通路23,24の一部43から細胞懸濁液40が押し出されるが、第1収容部11、第2収容部12、及び第3収容部13が平板形状の一対の支持部材などによって挟み持たれていることにより、第1収容部11、第2収容部12、及び第3収容部13のいずれかの収容部が大きく撓むことが抑制される。仮に、一対の支持部材によって第1収容部11、第2収容部12、及び第3収容部13が挟み持たれていないとすれば、連通路23,24の一部43から細胞懸濁液40が押し出されることによって、第1収容部11、第2収容部12、及び第3収容部13のうち撓みやすいいずれかの収容部がその他の収容部より大きく撓み、その結果、押し出された細胞懸濁液40が大きく撓んだいずれかの収容部に偏って流入することがあり得るが、第1収容部11、第2収容部12、及び第3収容部13が平板形状の一対の支持部材などによって挟み持たれていることにより、このような不具合が生じることが抑制される。
【0081】
前述されたように位置決めされた容器10の第1収容部11と第2収容部12とは、第1ヒーター部63の前後方向56の相反する位置にそれぞれ位置している。なお、図11では第2ヒーター部66が示されていないが、第2ヒーター部66は、第1ヒーター部63と上下方向55(図11の紙面に垂直な方向)に対向して位置している。
【0082】
続いて、第2ヒーター部66が下降されて第1ヒーター部63と接触する。これにより、容器10の連通路23,24が、第1ヒーター部63の断熱材71,72と第2ヒーター部66の断熱材(不図示)との間に挟み込まれて押圧され、連通路23,24が潰れるようにして閉塞される。図12に示されるように、連通路23,24が、第1ヒーター部63の断熱材71,72と第2ヒーター部66の断熱材(不図示)との間に挟み込まれることによって、挟み込まれている連通路23,24の一部43から細胞懸濁液40が第1収容部11側又は第2収容部12側へ移動する。なお、断熱材71,72の間においても、連通路23,24の一部43は第1ヒーター部63のヒーター本体70及び第2ヒーター部66のヒーター本体(不図示)に挟み込まれるので、断熱材71,72の間に存在する細胞懸濁液40も、第1収容部11側又は第2収容部12側へ移動する。
【0083】
連通路23,24の一部43から細胞懸濁液40が移動された状態で、第1ヒーター部63のヒーター本体70及び第2ヒーター部66のヒーター本体(不図示)に第1トランス65及び第2トランス68からそれぞれ電力が供給される。これにより、第1ヒーター部63のヒーター本体70及び第2ヒーター部66のヒーター本体(不図示)が発熱して、一部43の前後方向56のほぼ中央、すなわち第1ヒーター部63のヒーター本体70及び第2ヒーター部66のヒーター本体(不図示)に接触している箇所が熱溶着されて封止部分42が形成される。
【0084】
なお、連通路23,24の一部43から細胞懸濁液40が移動するまでの時間を十分に確保して、細胞への加熱の影響を極力防止するために、連通路23,24が第1ヒーター部63の断熱材71,72と第2ヒーター部66の断熱材(不図示)との間に挟み込まれてから、第1ヒーター部63のヒーター本体70及び第2ヒーター部66のヒーター本体(不図示)に電力が供給されるまで、少なくとも0.1〜1.0秒程度のタイムラグが設定されていることが好ましい。
【0085】
前述されたタイムラグは、例えば、連通路23,24を第1ヒーター部63の断熱材71,72と第2ヒーター部66の断熱材(不図示)との間に挟み込むための動作と、第1ヒーター部63のヒーター本体70及び第2ヒーター部66のヒーター本体(不図示)に電力を供給するための動作(例えば、スイッチオン)とが独立した、所謂ツーアクションの構成であれば、挟み込み完了を検知してから前述されたタイムラグが経過するまで、電力供給のためのスイッチオンを無効にする制御により実現される。また、例えば、連通路23,24を第1ヒーター部63の断熱材71,72と第2ヒーター部66の断熱材(不図示)との間に挟み込むための動作と、第1ヒーター部63のヒーター本体70及び第2ヒーター部66のヒーター本体(不図示)に電力を供給するための動作(例えば、スイッチオン)とが、例えば第1ヒーター部63を第2ヒーター部へ当接させる向きへ移動させる一連の操作で完了する、所謂ワンアクションの構成であれば、電力供給のためのスイッチオンが入力されてから実際に電力が供給されるまでに前述されたタイムラグが設定されることにより実現される。
【0086】
なお、図を用いた詳細な説明は省略されるが、同様にして、第2連結部26において連通路29,30もシーリング装置60によって熱溶着されて封止される。
【0087】
封止部分42によって、第1収容室14、第2収容室22及び第3収容室27のそれぞれが密閉空間となる。その後、図8に示されるように、第1連結部21及び第2連結部26において、連通路23,24、又は連通路29,30が熱溶着された封止部分42に沿ってそれぞれが切断されて、第1収容部11、第2収容部12、及び第3収容部13が分離される。なお、第2収容部12及び第3収容部13を同じ場所に保管するのであれば、第2連結部26の封止部分42が切断されず、第2収容部12及び第3収容部13が一体のままであってもよい。
【0088】
前述されたようにして細胞懸濁液40が充填された第1収容部11、第2収容部12、及び第3収容部13は、解凍されて使用されるときに、細胞回収ポート17又はサンプル回収ポート25,31が開口されて、第1収容室14、第2収容室22、又は第3収容室27から細胞懸濁液40が流出される。
【0089】
[本実施形態の作用効果]
本実施形態によれば、容器10の第1収容室14が細胞懸濁液40で満たされた後、第1収容室14の細胞懸濁液40が第2収容室22及び第3収容室27に流入されるので、第1収容室14に貯留された細胞懸濁液40と同じ状態の細胞懸濁液40が、第2収容室22及び第3収容室27に試験サンプルとして保管される。
【0090】
また、重力を利用して、第1工程において第1収容室14に優先的に細胞懸濁液40を充填し、第2工程において、第1収容室14から第2収容室22及び第3収容室27へ細胞懸濁液40を流入させることができるので、各工程が簡易に実現される。
【0091】
また、第1工程において、第1収容室14を減圧した後、細胞懸濁液40を充填するので、第1収容室14を大気に連通させる必要がない。
【0092】
また、第2工程において、第2収容室22及び第3収容室27を細胞懸濁液40で満たした後、第1収容室14に残存する空気41を抜くので、第1収容室14において細胞懸濁液40に大気の影響が生じることを抑制できる。
【0093】
また、第2工程において、第2収容室22及び第3収容室27を細胞懸濁液40で満たした後、連通路23,24,29,30を封止することにより、第1収容室14、第2収容室22、及び第3収容室27それぞれを密閉空間とすることができる。
【0094】
また、第2収容室22の容積が、第1収容室14の容積より小さいので、第2収容室22が、第1収容室14に充填された細胞懸濁液40で満たされやすくなる。
【0095】
また、第2工程において、連通路23,24,29,30を押圧して閉塞し、当該押圧されている箇所が熱溶着により封止されるので、熱溶着される箇所には細胞懸濁液40が存在しない。したがって、熱溶着の際の熱が細胞懸濁液40に伝達し難い。また、シーリング装置60断熱材71,72によって連通路23,24,29,30が押圧されて閉塞されている間をヒーター本体70が加熱して熱溶着するので、熱溶着される箇所には細胞懸濁液40が存在せず、熱溶着の際の熱が細胞懸濁液40に伝達し難い。
【0096】
また、容器10が、第2収容部12及び第3収容部13を有するので、複数の試験サンプルが得られる。
【0097】
また、第2収容室22の容積と第3収容室27の容積との和は、第1収容室14の容積より小さいので、第2収容室22及び第3収容室27が、第1収容室14に充填された液体で満たされやすくなる。
【0098】
また、第1連結部21及び第2連結部26の外形の前後方向51の長さは、上下方向53の長さより短く、連通路23,24は、第1収容部11及び第2収容部12の外形の上下方向53の中心より上側に偏った位置に配置されており、また、連通路29,30は、第2収容部12及び第3収容部13の外形の上下方向53の中心より上側に偏った位置に配置されているので、各連通路23,24,29,30を熱溶着などによってシールし易い。
【0099】
また、連通路23,24は、第1収容室14及び第2収容室22において左右方向52の長さが最大となる位置(上側部分)の左右方向52の端にそれぞれが開口しており、連通路29,30は、第2収容室22及び第3収容室27において左右方向52の長さが最大となる位置(上側部分)の左右方向52の端にそれぞれが開口しているので、第1収容部11を上側にし、且つ第3収容部13を下側にしたときに、第2収容室22及び第3収容室27から空気が抜けやすい。
【0100】
[変形例]
なお、前述された実施形態では、第1工程において、第2収容室22及び第3収容室27を第1収容室14より重力方向54の上方に位置させることにより、第1収容室14が細胞懸濁液40で満たされるまで第2収容室22及び第3収容室27に細胞懸濁液40が流入しないようにしているが、重力を利用せずに、例えば、連通路23,24がクリップなどによって一時的に封止されることによって、第1収容室14が細胞懸濁液40で満たされるまで第2収容室22及び第3収容室27に細胞懸濁液40が流入しないようにしてもよい。
【0101】
同様に、第2工程において、第2収容室22及び第3収容室27が第1収容室14より重力方向54の下方に位置されることにより、第1収容室14に充填された細胞懸濁液40が第2収容室22及び第3収容室27へ流入されるが、重力を利用せずに、例えば第1収容部11を外側から圧迫することによって、第1収容室14から第2収容室22及び第3収容室27へ細胞懸濁液40を流入させてもよい。
【0102】
また、容器10では、第2収容室22及び第3収容室27に試験サンプルとしての細胞懸濁液40が貯留されるが、複数の試験サンプルが不要であれば、第3収容部13が設けられることなく、第2収容部12のみが試験サンプルの保存用として容器10に設けられていてもよい。他方、3個以上の試験サンプルが必要であれば、第2収容部12及び第3収容部13に加えて、同様の収容部が試験サンプルの保存用として容器10に設けられてもよい。
【0103】
また、容器10では、第1収容室14、第2収容室22及び第3収容室27において左右方向52の長さが最大となる位置が上下方向53の上側部分であったが、左右方向52の長さが最大となる位置が上下方向53の下側部分であったり、中央部分であったりしてもよい。例えば、第1収容室14、第2収容室22及び第3収容室27において左右方向52の長さが最大となる位置が上下方向53の下側部分であれば、各連通路23,24,29,30は、第1収容部11、第2収容部12及び第3収容部13の下側部分に偏って配置される。
【0104】
また、容器10では、第1収容部11、第2収容部12、及び第3収容部13の下側に細胞(サンプル)回収ポートが設けられているが、これらポートの位置は適宜変更されてもよい。
【0105】
また、シーリング装置60は、第1連結部21の連通路23,24と、第2連結部26の連通路29,30とを別々にシーリングするが、第1押圧部61及び第2押圧部62の組が2組設けられて、第1連結部21の連通路23,24と、第2連結部26の連通路29,30とを同時にシーリングできるようにシーリング装置60が構成されてもよい。なお、容器10の第1連結部21の連通路23,24、及び第2連結部26の連通路29,30は、シーリング装置60以外の装置により封止されてもよい。
【符号の説明】
【0106】
10 容器
11 第1収容部
12 第2収容部
13 第3収容部
14 第1収容室
15 細胞注入ポート
16 予備ポート
17 細胞回収ポート
21 第1連結部
22 第2収容室
23,24,29,30 連通路
25,31 サンプル回収ポート
26 第2連結部
27 第3収容室
42 封止部分
43 一部
60 シーリング装置
70 ヒーター本体(発熱部材)
71,72 断熱材(第1断熱材,第2断熱材)
図1
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