(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6869457
(24)【登録日】2021年4月16日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】洪水対策機能を持つ共同溝
(51)【国際特許分類】
E03F 5/10 20060101AFI20210426BHJP
E03F 1/00 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
E03F5/10 A
E03F1/00 A
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2018-174238(P2018-174238)
(22)【出願日】2018年8月25日
(65)【公開番号】特開2020-29761(P2020-29761A)
(43)【公開日】2020年2月27日
【審査請求日】2018年11月15日
【審判番号】不服2020-1182(P2020-1182/J1)
【審判請求日】2020年1月9日
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、権利譲渡・実施許諾の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】517277074
【氏名又は名称】木原 二郎
(72)【発明者】
【氏名】木原 二郎
【合議体】
【審判長】
森次 顕
【審判官】
袴田 知弘
【審判官】
住田 秀弘
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭61−54049(JP,U)
【文献】
特開平11−286983(JP,A)
【文献】
特開2006−118265(JP,A)
【文献】
特開2002−4393(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03F 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路側溝の要にある雨水桝を並べて道路延長方向に沿って接続したかのような形状の共同溝(以下、前記共同溝という。)であり、
前記共同溝上部の表面は、道路の表面に露出しており、道路の一部を形成していて、その表面に雨水を集水する蓋(以下、前記蓋という。)があり、前記蓋はライフラインの点検口としてのマンホール蓋、前記共同溝の換気口でもあり、
前記共同溝の内部にライフラインを仮に置くなどの作業をする机(以下、前記机という。)があり、前記机により、前記共同溝の内部空間が上下に分けてあり、前記共同溝の内部空間の下部は、雨水渠(以下、前記雨水渠という。)を形成し、前記雨水渠の底面部に雨水を最終的に集水する桝(以下、前記集水桝という。)が設けてあり、前記机は雨水の集水口としての孔を持ち、その孔の大きさは前記雨水渠の底部にある前記集水桝の蓋よりも大きく、前記集水桝の点検口となっており、前記集水桝の一部は雨水用の下水道管(雨水管)に接続されるが、他の前記集水桝が浸透桝であり、
前記共同溝の内部空間の上部は、「前記雨水渠を除いたライフラインを収納する空間」と「人がライフラインの維持管理の作業をする空間(以下、前記作業空間という。)」とから形成されており、
前記作業空間を豪雨時の雨水の貯留空間、すなわち、洪水調整池として一時的に用いることができる、
共同溝。」
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ライフラインである下水道管、水道管、ガス管、電力線、通信線を収容する共同溝に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電力線や通信線の収容に特化した電線共同溝の整備が進められて来た。これは、電柱の上に配線されていた電線を共同溝の中に収めるのだから、スペースが見出しやすい広い道路に適した手法であった。
【0003】
広い道路は少ないので、電線共同溝の小型化が進められた。しかし、共同溝が本来持つ維持管理の長所が失われていく、という本末転倒の事態が生じた。小型化のために、共同溝内部に人が入って維持管理の作業をする空間が失われていく傾向が生じたのである。それに伴い、ランニングコストが増加しても、イニシャルコストが小型化に比例して進まない。電線共同溝の要であるハンドホールなどの特殊部の小型化は難しい。人間まで小型化ができないからだ。
【0004】
一方、電柱は広い道路を必要とせず、コストも非常に少なくてすむので、電線共同溝の延長距離は伸び悩み、電柱の数は増え続けている。欧州などの都市のように民地の活用が認識されるようになった。
【0005】
無電柱化法第7条に規定する無電柱化推進計画が平成30年4月6日に国により定められた。そこに民地の活用が記された。電線の配電は、民地活用にシフトしていくだろう。すると、電線共同溝に特化した共同溝よりも他のライフラインの受け入れも容易な本来の共同溝を整備する方向が検討されるべきだ。車の通行を長期にわたり妨げる道路の掘削工事の大半はライフラインの民地への引き込みである。その工事をなくしていくには本来の共同溝の整備によるべきだ。
【0006】
道路側溝が注目される。電柱と同様に道路の端にあり、民地に近い。それに、道路側溝は下水道の雨水管の代用としても用いられている。下水道を合流式から分流式に切り替えるとき、雨水管を新たに地中埋設するのは、狭い道路が多い日本では難しい。コストもかかる。それで、道路側溝を雨水管の代わりに用いることが行われている。雨水管はライフラインである。すると、これからの共同溝は、道路側溝が占めていた空間を含めて整備されていくことになる。
【0007】
また、道路側溝の設計強度が見直されている。今まで道路端部にある道路側溝は車の通行が少ないという前提で設計されてきた。しかし、都市への人口集中とインターネットの普及による通信販売の一般化は、幅の広い貨物車を狭い道路に今まで以上に呼び込むことになった。道路の大半は狭いので、貨物車のタイヤが道路側溝の上を通る回数が増えた。また、機械施工が建築の主流となり、大きなトラックや重機が道路側溝を横断して民地に入っていくようになった。道路側溝の破損は常態化した。道路端部も強化されなくてはいけない。そこで、道路構造全体を見直して、道路側溝の機能を持つ共同溝が考えられるようになった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
共同溝の普及が進まないのはイニシャルコストが大きいからである。そのために、従来の共同溝にはない機能を共同溝に付加することにより、総合的にコスト縮減を図る。
【0009】
その付加的な機能で価値が高いのは、集中豪雨による洪水対策である。床上浸水や床下浸水を防ぐ対策である。次には、ヒートアイランド対策である。
【0010】
共同溝、集中豪雨による浸水、ヒートアイランドに共通する場所は都市である。その三つに共通する存在は道路管理者で、共同溝は道路管理者が主体となって整備する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の共同溝(以下、前記共同溝という。)は、上記の課題を解決するために道路側溝の要にある雨水桝をベースに考えた。雨水桝に下水管が接続されているからである。それで、前記共同溝は、雨水桝の幅や深さを大きくして、
図1に示すように雨水桝を並べて接続したかのような形状である。
【0012】
前記共同溝の表面は道路側溝の形状も持ち、集水蓋(以下、前記蓋という。)がある。また、前記蓋は、ライフラインの点検口としてのマンホール蓋でもあり、前記共同溝の換気口である。前記蓋が雨水の集水蓋かつマンホール蓋であるため、大きな換気口が多くなり、自然換気だけですむので、強制換気が不要である。
【0013】
前記共同溝内部は大きく上下に分かれる。下部は雨水渠であり、その底面部に雨水を最終的に集水する桝(以下、前記集水桝という。)を設ける。前記集水桝の一部は雨水用の下水道管に接続される。
【0014】
前記集水桝の中に下水道管に接続されない浸透桝を設ける。そのことにより、河川などへの放流を緩和させるが、保水性を持たせるヒートアイランド対策でもある。
【0015】
前記共同溝の上部は、雨水渠以外のライフラインの置き場と人が維持管理の作業をする空間を形成する。その空間を豪雨時の雨水の貯留空間、すなわち、洪水調整池として一時的に用いる。そのことに本発明の特徴がある。
【0016】
記録的な豪雨の怖さは、雨水の放流先を一時的になくして、浸水被害を生じさせることである。そのために市街地に河川の拡幅、または、洪水調整池を設けるには、用地確保のための立ち退きもあり、非常に時間もコストもかかる。すると、洪水調整池の代打として前記共同溝の維持管理空間を一時的に用いた方が総合的に時間やコストの縮減になる。
【0017】
前記共同溝の内部が、いつ起こるか不明の豪雨対策の洪水調整池として一時的かつ自動的に用いられるので、前記共同溝の内部のライフラインは保護管で覆われている。
【発明の効果】
【0018】
本発明が特に効果的な地区は、集中豪雨による浸水被害を受けやすい低地にある市街地である。元は水田であったような地区である。市街地では河川の拡幅改良や洪水調整池の整備のための広い用地の確保が難航する。家屋の立ち退きが生じるからである。本発明は市街地の高額な用地取得や補償を必要としないので、時間やコストの縮減ができる。
【0019】
さらに、本発明が特に効果的な市街地は、下水道が合流式の地区である。合流式を分流式に切り替えるのに時間やコストがかかるが、本発明は分流式の機能を持つので、総合的にコストが縮減される。
【0020】
本発明はヒートアイランド対策にも効果がある。一つ目の理由は、コンクリート舗装がアスファルト舗装に比べて路面温度低減効果があることに由来する。前記共同溝は、道路の表面にコンクリート面が露出しており、構造的に任意の点でライフラインの民地内への供給が可能なので、ライフラインの供給のための道路の掘削工事がほとんど不要となり、道路の掘削工事に利点を持つアスファルト舗装から耐久性のあるコンクリート舗装に切り替えられるからだ。道路の掘削工事がほとんどなくなれば、ライフサイクルコストでコンクリート舗装はアスファルト舗装に勝る。車の燃費もコンクリート舗装の方が勝る。
【0021】
本発明がヒートアイランド対策にも効果がある二つ目の理由は、前記共同溝の集水桝の多くが浸透桝であり、外気温よりも低い前記共同溝の底面部にあるので、比較的保水力があることに由来する。ヒートアイランド現象が都市化による保水力の減少に起因していることによる。
【0022】
本発明がヒートアイランド対策にも効果がある三つ目の理由は、前記共同溝の長大な地下空間による温度低減効果である。前記共同溝は内部に人が入って作業をする空間を持つために長大な地下空間を持つ。前記共同溝の地下空間は湿度が高く、夏は外気温よりも低いことから、前記蓋により常に自然換気がなされていることを通して、前記共同溝は温度低減効果を持つ。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1により本発明の実施形態を説明する。
共同溝1の内部は、内部の側壁にライフライン保護管を架ける受け具6があり、作業机5の上部は、人が入って維持管理の作業をする空間である。その空間は、洪水調整池としての代用の空間ともなる。
【0025】
それで、共同溝1の幅は広いので、
図1のようにL型側溝のような形状を共同溝1の表面に持たせても、路上に土砂が溜まらず、通行に適した緩やかな横断勾配が確保できる。
【0026】
雨水を集める集水蓋2は、点検用のマンホール蓋でもあり、換気口でもある。
【0027】
集水蓋2は、雨水を集水する蓋であるので、蓋と蓋の間の距離が比較的近い。それで、ライフラインを民地へ引き込もうとノックアウト孔7を通してライフラインを曲げたために共同溝1内部で人の通行ができない部分ができても、最寄りの集水蓋2が近いので、その集水蓋2を利用して共同溝1の内部に入りなおせるので、共同溝1の内部空間の一部を通過できなくても、目的の位置に行ける。それで、任意の点における引き込みが特殊部を用いずに可能なので、民地における建物の建て替え計画に柔軟に対応できる。
【0028】
作業机5はライフラインを仮に置くなどの維持管理作業のときに用いられる。また、共同溝1の内部空間の下方にある雨水渠を共同溝1の底面部とで形成する。また、作業机5は雨水の集水口3を持つ。雨水渠は、共同溝1の幅が広いので、浅くできる。数年に一度の降雨強度に対応できる浅さでよい。それで、集水口3から共同溝1の底面部にある集水桝の4への距離は近い。集水口3は集水桝4の管理のためにも集水桝4の蓋よりも大きく、常時、解放されている孔である。
【0029】
また、集水桝4の一部だけが、雨水用の下水管に接続される。その他の集水桝4は浸透桝である。交差点などによる共同溝1の不連続点や河川への放流先などで、集水桝4を雨水用の下水管に接続する。浸透桝は、保水性を高めるヒートアイランド対策にもなるが、洪水を緩和するためにもある。
【符号の説明】
【0030】
1 共同溝
2 集水蓋
3 集水口
4 集水桝
5 作業机
6 受け具
7 ノックアウト孔