特許第6869465号(P6869465)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6869465
(24)【登録日】2021年4月16日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】ギヤ減速装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20210426BHJP
   F01L 1/356 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   F16H1/32 A
   F01L1/356 Z
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-62865(P2017-62865)
(22)【出願日】2017年3月28日
(65)【公開番号】特開2018-165532(P2018-165532A)
(43)【公開日】2018年10月25日
【審査請求日】2020年2月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】辻本 勝弘
【審査官】 鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−023553(JP,A)
【文献】 特開2016−044627(JP,A)
【文献】 特開2012−092721(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
F01L 1/356
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸芯と同軸芯に配置される内歯型の出力ギヤと、前記出力ギヤより歯数が少なく前記回転軸芯と平行姿勢の偏心軸芯と同軸芯に配置されることで前記出力ギヤに咬合する外歯型の入力ギヤと、前記偏心軸芯を中心に前記入力ギヤを自転自在に支持する偏心軸受面を有し前記回転軸芯を中心に公転自在に支持される偏心部材と、前記入力ギヤの歯部を前記出力ギヤの歯部に咬合させる付勢力を作用させるため前記偏心部材に支持される付勢部材と、を備え、
前記付勢部材が、前記入力ギヤの内周側のうち前記回転軸芯を基準に前記偏心軸芯が偏心する偏心方向となる領域に付勢力を作用させる作用点と、前記偏心部材に形成された支持体に接触する支持点とを有すると共に、前記偏心軸芯を中心にして前記作用点から前記支持点に亘る角度が90度を超える板状バネ材で構成されているギヤ減速装置。
【請求項2】
前記支持体が、前記回転軸芯を挟んで前記偏心方向と反対側に備えられている請求項1に記載のギヤ減速装置。
【請求項3】
前記支持体の外周面によって前記偏心軸受面の一部が形成されている請求項2に記載のギヤ減速装置。
【請求項4】
前記偏心部材は、前記入力ギヤの歯部が前記出力ギヤの歯部から離間する方向への変位を規制するための規制部を前記偏心方向の領域に形成している請求項1〜3のいずれか一項に記載のギヤ減速装置。
【請求項5】
前記規制部が、前記偏心軸芯を基準に外方に膨らむ円弧状の規制面を備えており、前記付勢部材が前記偏心軸芯を基準に外方に膨らむことで前記規制面の曲率半径より小さい曲率半径となる膨出領域に前記作用点を形成しており、
前記作用点が前記規制面の外周側に配置されるように、前記付勢部材を前記規制部と前記入力ギヤとの間に配置している請求項4に記載のギヤ減速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内歯型ギヤと、これより歯数が少ない外歯型ギヤとを咬合させ、歯数差による減速を実現するギヤ減速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記構成のギヤ減速機構は、内接式遊星減速機構、あるいは、ハイポサイクロイド減速機構等と称せられるものである。
【0003】
このギヤ減速装置の具体構成として特許文献1には、内歯型ギヤ(文献ではリングギヤ)を回転軸芯と同軸芯に配置し、外歯型ギヤ(文献ではインナギヤ)を回転軸芯に平行する偏心軸芯と同軸芯に配置し、偏心軸芯を中心に外歯型ギヤを回転自在に支持する偏心部材(文献では偏心リング)を備えた技術が示されている。
【0004】
この特許文献1では、外歯型ギヤを偏心方向に突出付勢するバネ部材を備えることにより、内歯型ギヤの歯部に外歯型ギヤの歯部が咬合する状態を維持し、バックラッシュに起因した打音を抑制している。
【0005】
尚、特許文献1では、回転軸芯を中心に偏心部材を駆動回転することで回転軸芯を中心に偏心軸芯を公転させ、この公転に伴い外歯型ギヤが内歯型ギヤに咬合する状態で、外歯型ギヤを内歯型ギヤの内周に沿って自転する状態で移動させる。これにより外歯型ギヤが1回転したタイミングでは、内歯型ギヤと外歯型ギヤの歯数差に相当する角度だけ内歯型ギヤと外歯型ギヤとが相対回転し、大きい減速比での減速を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016−44627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この構成のギヤ減速装置では、内歯型ギヤと外歯型ギヤを確実に咬合状に維持することが重要である。このような理由から、例えば特許文献1に記載されるバネ部材にバネ定数の大きいものを用いることも考えられる。しかしながら、バネ定数が大きいバネ部材を用いた場合には、内歯型ギヤの歯部と外歯型ギヤの歯部とが強く圧接するため、伝動時に摩擦ロスから伝動効率の低下を招き易いものとなる。
【0008】
これとは逆に、バネ部材にバネ定数の小さいものを用いた場合には、外部から伝わる振動により内歯型ギヤの歯部と外歯型ギヤの歯部とが互いに擦れ動き、歯面の摩耗も招き易いものとなる。しかも、このようにバネ部材が大きく変形するものでは、繰り返して作用する荷重によってバネの折損に繋がるものであった。
【0009】
このような理由から、バネの付勢力により内歯型の出力ギヤの歯部と、外歯型の入力ギヤの歯部とのバックラッシュを小さくすることが可能で、伝動効率の上昇が可能な減速装置が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の特徴は、回転軸芯と同軸芯に配置される内歯型の出力ギヤと、前記出力ギヤより歯数が少なく前記回転軸芯と平行姿勢の偏心軸芯と同軸芯に配置されることで前記出力ギヤに咬合する外歯型の入力ギヤと、前記偏心軸芯を中心に前記入力ギヤを自転自在に支持する偏心軸受面を有し前記回転軸芯を中心に公転自在に支持される偏心部材と、前記入力ギヤの歯部を前記出力ギヤの歯部に咬合させる付勢力を作用させるため前記偏心部材に支持される付勢部材と、を備え、
前記付勢部材が、前記入力ギヤの内周側のうち前記回転軸芯を基準に前記偏心軸芯が偏心する偏心方向となる領域に付勢力を作用させる作用点と、前記偏心部材に形成された支持体に接触する支持点とを有すると共に、前記偏心軸芯を中心にして前記作用点から前記支持点に亘る角度が90度を超える板状バネ材で構成されている点にある。
【0011】
この特徴構成によると、付勢部材の付勢力が、出力ギヤの歯部と入力ギヤの歯部とを咬合させる方向に作用するためバックラッシュの抑制が可能となる。また、この特徴構成では付勢部材として長寸の板状バネ材を使用できるため、例えば、出力ギヤの歯部と入力ギヤの歯部とを咬合させために必要なバネ定数を板状バネ材に設定しても、板状バネ材が全体的に弾性変形することになり、局部的な応力の作用による折損を招くこともない。
従って、バネの付勢力により内歯型の出力ギヤの歯部と、外歯型の入力ギヤの歯部とのバックラッシュを小さくすることが可能で、伝動効率の上昇が可能な減速装置が構成された。
【0012】
他の構成として、前記支持体が、前記回転軸芯を挟んで前記偏心方向と反対側に備えられても良い。
【0013】
これによると、偏心部材に支持体を形成することにより、偏心軸芯を挟んで対向する位置に亘る領域に配置される長寸の板状バネ材の使用が可能となる。
【0014】
他の構成として、前記支持体の外周面によって前記偏心軸受面の一部が形成されても良い。
【0015】
これによると、偏心部材のうち偏心軸受面を形成する部位の一部を支持体に兼用することが可能となる。また、付勢部材としてU字状に湾曲する板状バネ材を用い、この板状バネ材の両端を支持体に当接させ、この板状バネ材の中央の最も突出した位置を作用点とすることも可能となる。
【0016】
他の構成として、前記偏心部材は、前記入力ギヤの歯部が前記出力ギヤの歯部から離間する方向への変位を規制するための規制部を前記偏心方向の領域に形成しても良い。
【0017】
これによると、出力ギヤの歯部と入力ギヤの歯部とが咬合する領域において、これらの歯部が離間する方向に入力ギヤを変位させる外力が作用した場合には規制部材が変位を規制するため歯部同士が離間する不都合を抑制できる。
【0018】
他の構成として、前記規制部が、前記偏心軸芯を基準に外方に膨らむ円弧状の規制面を備えており、前記付勢部材が前記偏心軸芯を基準に外方に膨らむことで前記規制面の曲率半径より小さい曲率半径となる膨出領域に前記作用点を形成しており、
前記作用点が前記規制面の外周側に配置されるように、前記付勢部材を前記規制部と前記入力ギヤとの間に配置しても良い。
【0019】
これによると、付勢部材を構成する板状バネ材を、規制部と入力ギヤの内周側との間に配置した場合には、板状バネ材の膨出領域と規制面との間に隙間を作り出すことになり、膨出領域に形成される作用点を入力ギヤの内周側に当接させ、付勢部材の付勢力を作用させることが可能となる。特に、この構成では外力等の作用により入力ギヤが回転軸芯の方向に変位する場合には、規制部の規制面に付勢部材が当接する状態に達することで入力ギヤの変位を規制し、入力ギヤの歯部が出力ギヤの歯部から離間する不都合を抑制する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】弁開閉時期制御装置の断面図である。
図2図1のII−II線断面図である。
図3図1のIII−III線断面図である。
図4】出力ギヤと入力ギヤと偏心部材とを示す分解斜視図である。
図5】別実施形態(a)のバネ体の形状を示す断面図である。
図6】別実施形態(b)のバネ体の形状を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔基本構成〕
図1に示すように、エンジンEのクランクシャフト1と同期回転する駆動側回転体Aと、回転軸芯Xを中心にして吸気カムシャフト2と一体回転する従動側回転体Bと、位相制御モータMの駆動力により駆動側回転体Aと従動側回転体Bとの相対回転位相を設定するようにギヤ減速装置で成る位相調節部Cとを備えて弁開閉時期制御装置100が構成されている。
【0022】
エンジンEは、シリンダブロックに形成された複数のシリンダ3にピストン4を収容し、そのピストン4をコネクティングロッド5によりクランクシャフト1に連結した4サイクル型に構成されている。このエンジンEのクランクシャフト1の出力スプロケット1Sと、駆動側回転体Aの駆動スプロケット11Sとに亘ってタイミングベルト6(タイミングチェーン等でも良い)が巻回されている。
【0023】
これによりエンジンEの稼働時には弁開閉時期制御装置100の全体が回転軸芯Xを中心に回転する。また、位相制御モータMの駆動により位相調節部Cが駆動側回転体Aに対して従動側回転体Bを回転方向と同方向又は逆方向に変位させる相対回転位相の変位が実現する(この作動形態については後述する)。この相対回転位相の変位により、吸気カムシャフト2のカム部2Aによる吸気バルブ2Bの開閉時期(開閉タイミング)の制御が実現する。
【0024】
尚、従動側回転体Bが駆動側回転体Aの回転方向と同方向に変位する作動を進角作動と称し、この進角作動により吸気圧縮比が増大する。また、従動側回転体Bが駆動側回転体Aと逆方向に変位する作動(前述と逆方向への作動)を遅角作動と称し、この遅角作動により吸気圧縮比が低減する。
【0025】
〔弁開閉時期制御装置〕
図1図3に示すように、駆動側回転体Aは、外周に駆動スプロケット11Sが形成されたアウタケース11と、フロントプレート12とを複数の締結ボルト13で締結して構成されている。アウタケース11は、底部に開口を有する有底筒状型である。
【0026】
アウタケース11の内部空間に従動側回転体Bとしての中間部材20と、位相調節部Cとが収容されている。
【0027】
従動側回転体Bを構成する中間部材20は、回転軸芯Xに直交する姿勢で吸気カムシャフト2に連結する支持壁部21と、回転軸芯Xを中心とする筒状で吸気カムシャフト2から離間する方向に突出する筒状壁部22とが一体形成されている。
【0028】
この中間部材20は、筒状壁部22の外周面がアウタケース11の内周面に接触する状態で相対回転自在に嵌め込まれ、支持壁部21の中央の貫通孔に挿通する連結ボルト23により吸気カムシャフト2の端部に固定される。
【0029】
位相制御モータM(電動モータ)は、その出力軸Maを回転軸芯Xと同軸芯上に配置するように支持フレーム7によりエンジンEに支持されている。出力軸Maには回転軸芯Xに対して直交する姿勢の一対の係合ピン8が設けられている。
【0030】
〔位相調節部〕
図1図4に示すように位相調節部Cは、中間部材20と、中間部材20の筒状壁部22の内周面に形成される出力ギヤ25と、偏心部材26と、第1軸受28と、第2軸受29と、入力ギヤ30と、オルダム継手Cxとを備えて構成されている。
【0031】
出力ギヤ25は、回転軸芯Xを中心とする環状体の内周に複数の内歯部25Aを形成した内歯型に構成されている。入力ギヤ30は回転軸芯Xに平行する姿勢の偏心軸芯Yを中心に複数の外歯部30Aを形成した外歯型に構成されている。
【0032】
この位相調節部Cでは、入力ギヤ30の外歯部30Aの歯数が、出力ギヤ25の内歯部25Aの歯数より1歯だけ少ない。そして、位相調節部Cは後述するように入力ギヤ30が偏心軸芯Yを中心に回転自在に支持されることにより、入力ギヤ30の外歯部30Aの一部が出力ギヤ25の内歯部25Aの一部に咬合する。
【0033】
偏心部材26は、回転軸芯Xに沿う方向での外端側(吸気カムシャフト2から遠い側)に回転軸芯Xを中心とする中心軸受面26Sが形成され、内端側(吸気カムシャフト2に近い側)には回転軸芯Xに平行となる姿勢で偏心する偏心軸芯Yを中心とする外周面の偏心軸受面26Eが形成されている。
【0034】
偏心部材26には、出力ギヤ25の内歯部25Aに入力ギヤ30の外歯部30Aを咬合させる付勢力を得る付勢部材としてのバネ体27が取り付けられている。このバネ体27はバネ鋼等の板状バネ材を湾曲させることで一部が開いた環状に成形され、周方向での中間位置に付勢力を作用させるための作用点PAが形成され、両端に支持点PBが形成されている。特に、バネ体27は、図2に示すように偏心軸芯Yを中心にして、作用点PAから支持点PBに亘る角度が90度を超えるものが用いられている。
【0035】
偏心軸受面26Eは、回転軸芯Xを基準に偏心軸芯Yが偏心する偏心方向と逆側となる領域に形成され、この領域が支持体26Qとなる。特に、この支持体26Qに兼用される偏心軸受面26Eは、入力ギヤ30の偏心方向への変位を許すように、僅かに偏心方向に変位した位置に形成されている。尚、偏心方向と逆側の偏心軸受面26Eと第2軸受29の内周と間隙は僅かであるが、図1図2では間隔を誇張して示している。
【0036】
偏心部材26の偏心方向に規制部26Rが形成されている。この規制部26Rの外周側には偏心軸受面26Eと同軸芯であるが偏心軸受面26Eより小径の円弧状となる規制面26Rsが成形され、周方向の両端に当接面26Rpが形成されている。特に、規制部26Rは、入力ギヤ30の外歯部30Aが、出力ギヤ25の内歯部25Aから離間する方向への変位を規制するものであり、規制面26Rsと第2軸受29の内周との間には、バネ体27の配置に充分な間隔が設定される。
【0037】
図2に示すように、規制部26Rの外周面側(規制面26Rsより外側)に作用点PAを配置し、両端の支持点PBを支持体26Qに当接する位置関係でバネ体27が配置される。特に、このように配置される際にはバネ体27を予め所定量だけ弾性変形させることで作用点PAから偏心方向に向けて付勢力を作用させている。
【0038】
前述したように、規制面26Rsは偏心軸受面26Eと同軸芯の円弧状に形成され、バネ体27のうち、規制面26Rsより径方向外方に配置される部位は、規制面26Rsの曲率半径より小さい曲率半径となる膨出領域として形成される。これにより膨出領域と規制面26Rsとの間に間隙が形成される。
【0039】
偏心部材26の内周には、位相制御モータMの一対の係合ピン8の各々が係合可能な一対の係合溝26Tが回転軸芯Xと平行姿勢で形成されている。
【0040】
第1軸受28と第2軸受29とにはボールベアリングが用いられ、第1軸受28の内周(インナーレース)を中心軸受面26Sに外嵌し、この第1軸受28の外周(アウターレース)をフロントプレート12の中央部分の保持空間に嵌め込むことにより、偏心部材26が回転軸芯Xを中心に回転自在に支持される。
【0041】
また、第2軸受29の内周(インナーレース)を偏心軸受面26Eに外嵌し、この第2軸受29の外周(アウターレース)を入力ギヤ30の内周に嵌め込んでいる。これにより入力ギヤ30は、偏心軸芯Yを中心に回転自在(自転自在)に支持される。このように入力ギヤ30が偏心位置に配置される結果、入力ギヤ30の外歯部30Aの一部が出力ギヤ25の内歯部25Aの一部に咬合する。また、第2軸受29は固定リング31により位置が固定されている。
【0042】
尚、第1軸受28と第2軸受29とにはボールベアリングが使用されるが、ブッシュを用いても良い。更に、偏心軸受面26Eに対し軸受を介さずに入力ギヤ30を回転自在に直接支持する構成を採用しても良い。
【0043】
〔位相調節部:オルダム継手〕
図1図3に示すように、オルダム継手Cxは、中央の環状部41と、この環状部41から第1方向(図3では左右方向)に沿って径方向外方に突出する一対の外部係合アーム42と、環状部41から第1方向に直交する方向(図3では上下方向)に沿って径方向外方に突出する内部係合アーム43とを一体形成した板状の継手部材40で構成されている。一対の内部係合アーム43の各々には環状部41の開口に連なる係合凹部43aが形成されている。
【0044】
アウタケース11のうち、フロントプレート12が当接する開口縁部にはアウタケース11の内部空間から外部空間に亘り、回転軸芯Xを中心に半径方向に伸びる一対の案内溝部11aが貫通溝状に形成されている。この案内溝部11aの溝幅が外部係合アーム42の幅より僅かに広く設定されている。
【0045】
また、入力ギヤ30のうちフロントプレート12に対向する端面には一対の係合突起30Tが一体形成されている。この係合突起30Tの係合幅が内部係合アーム43の係合凹部43aの係合幅より僅かに狭く設定されている。
【0046】
尚、継手部材40がアウタケース11に対して外部係合アーム42が伸びる第1方向(図3で左右方向)に変位可能となり、この継手部材40に対して内部係合アーム43の係合凹部43aの形成方向に沿う第2方向(図3では上下方向)に入力ギヤ30が変位自在となる。
【0047】
〔弁開閉時期制御装置の各部の配置〕
組み立て状態の弁開閉時期制御装置100は、図1に示すように吸気カムシャフト2の端部に中間部材20の支持壁部21が連結ボルト23により連結しており、これらは一体回転する。偏心部材26は第1軸受28によりフロントプレート12に対し回転軸芯Xを中心に相対回転自在に支持される。図1図2図4に示すように、この偏心部材26の偏心軸受面26Eに対し第2軸受29を介して入力ギヤ30が支持されている。これにより入力ギヤ30は偏心軸芯Yを中心に回転自在に支持されると共に、外歯部30Aの一部が出力ギヤ25の内歯部25Aの一部に咬み合う。
【0048】
また、図3に示すようにオルダム継手Cxの外部係合アーム42がアウタケース11の一対の案内溝部11aに係合し、オルダム継手Cxの内部係合アーム43の係合凹部43aに入力ギヤ30の係合突起30Tが係合する。
【0049】
更に、図1図3に示すように、位相制御モータMの出力軸Maに形成された一対の係合ピン8が、偏心部材26の係合溝26Tに係合する。
【0050】
そして、図2に示すように、規制部26Rの外周面側(規制面26Rsより外側)に作用点PAを配置し、両端の支持点PBを支持体26Qに当接する位置関係でバネ体27が配置される。このバネ体27のうち、規制部26Rの外周に配置される部位は、固定リング31により回転軸芯Xに沿う方向での位置が規制される。
【0051】
〔位相調節部の作動形態〕
図面には示していないが位相制御モータMはECUとして構成される制御装置によって制御される。エンジンEにはクランクシャフト1と吸気カムシャフト2との回転速度(単位時間あたりの回転数)と、各々の回転位相とを検知可能なセンサを備えており、これらのセンサの検知信号が制御装置に入力する。
【0052】
制御装置は、エンジンEの稼動時において位相制御モータMを吸気カムシャフト2の回転速度と等しい速度で駆動することで相対回転位相を維持する。これに対して位相制御モータMの回転速度を吸気カムシャフト2の回転速度を基準に増大する又は低減することにより相対回転位相の変位が実現する。
【0053】
位相制御モータMがアウタケース11と等速(吸気カムシャフト2と等速)で回転する場合には、出力ギヤ25の内歯部25Aに対する入力ギヤ30の外歯部30Aの咬み合い位置が変化しないため、駆動側回転体Aに対する従動側回転体Bの相対回転位相は維持される。
【0054】
これに対してアウタケース11の回転速度より高速又は低速で位相制御モータMの出力軸Maを駆動回転することにより、位相調節部Cでは偏心軸芯Yが回転軸芯Xを中心に公転する。この公転により出力ギヤ25の内歯部25Aに対する入力ギヤ30の外歯部30Aに対する咬み合い位置が出力ギヤ25の内周に沿って変位し、この変位に伴い入力ギヤ30と出力ギヤ25との間には回転力が作用する。つまり、出力ギヤ25には回転軸芯Xを中心とする回転力が作用し、入力ギヤ30には偏心軸芯Yを中心に自転させようとする回転力が作用する。
【0055】
前述したように入力ギヤ30の外歯部30Aの歯数が、出力ギヤ25の内歯部25Aの歯数より1歯だけ少なく設定されているため、入力ギヤ30の偏心軸芯Yが回転軸芯Xを中心に1回転だけ公転した場合でも、出力ギヤ25は入力ギヤ30に対して1歯の角度だけ回転するに過ぎず大きい減速比での伝動が実現する。
【0056】
入力ギヤ30は、その係合突起30Tが継手部材40の内部係合アーム43の係合凹部43aに係合するためアウタケース11に対して自転することはなく、回転力が出力ギヤ25に作用する。この回転力の作用により出力ギヤ25と共に中間部材20が、アウタケース11に対し回転軸芯Xを中心に回転する。その結果、駆動側回転体Aと従動側回転体Bとの相対回転位相を変位させ、吸気カムシャフト2による開閉時期を設定する。
【0057】
尚、入力ギヤ30の偏心軸芯Yが回転軸芯Xを中心に公転する際には、入力ギヤ30の変位に伴い、オルダム継手Cxの継手部材40は、アウタケース11に対して外部係合アーム42が伸びる方向(第1方向)に変位し、入力ギヤ30は、内部係合アーム43が伸びる方向(第2方向)へ変位する。
【0058】
バネ体27は、図2に示す姿勢で配置された状態で一対の支持点PBを基準にして、単一の作用点PAが偏心方向に変位する方向に付勢力を与えるため、出力ギヤ25の内歯部25Aに入力ギヤ30の外歯部30Aを咬合させる状態が維持される。
【0059】
また、このバネ体27は板状バネ材を緩やかに湾曲させて成形されているため、例えば、このバネ体27より小型で、同じバネ定数の板バネを想定すると、小型の板バネでは弾性変形する場合に、全体での変形量が大きく折損に繋がることもある。特に、特定の部位を弾性変形させる構成では、特定部位に応力が集中する結果、折損に繋がり易いものであった。これに対して、この実施形態のバネ体27では、弾性変形する場合には全体が緩やかに撓むため折損等の不都合を招かず耐久性が向上する。
【0060】
このバネ体27では、必要とする付勢力を得るようにバネ定数を設定することにより、出力ギヤ25の内歯部25Aに入力ギヤ30の外歯部30Aを適正に咬合させ、バックラッシュを小さくすることで、応答性の向上を図り、良好な効率での伝動を可能にする。
【0061】
また、出力ギヤ25の内歯部25Aから入力ギヤ30の外歯部30Aを離間させる方向に大きい力が作用した場合には、バネ体27が規制部26Rの一対の当接面26Rpに当接することによりバネ体27の撓み量を小さくして、入力ギヤ30の変位を強力に抑制できる。これより大きい力が作用した場合には、入力ギヤ30の変位に伴い、バネ体27の作用点PAの部位を規制部26Rの規制面26Rsに当接させる形態となり、入力ギヤ30の変位を確実に阻止する。
【0062】
〔別実施形態〕
本発明は、上記した実施形態以外に以下のように構成しても良い(実施形態と同じ機能を有するものには、実施形態と共通の番号、符号を付している)。
【0063】
(a)図5に示すように、バネ体27をC字状に成形し、両端近くの一方に作用点PAを備え、他方に支持点PBを設定する。
【0064】
この別実施形態(a)ではバネ体27を除く他の構成は実施形態と共通しており、出力ギヤ25の内歯部25Aから入力ギヤ30の外歯部30Aを離間させる方向に力が作用した場合には、作用点PAが支持点PBの方向に向けて単純に変位する。これによりバックラッシュを小さくして、応答性の向上を図り、良好な効率での伝動を実現する。
【0065】
(b)図6に示すように、バネ体27に楕円状となる環状材を用いると共に、楕円の長軸方向での一方に作用点PAを備え、他方に支持点PBを設定する。
【0066】
この別実施形態(b)ではバネ体27を除く他の構成は実施形態と共通しており、出力ギヤ25の内歯部25Aから入力ギヤ30の外歯部30Aを離間させる方向に力が作用した場合には、楕円の短軸方向が膨れるようにバネ体27の全体が弾性変形し、作用点PAが支持点PBの方向に向けて変位する。これによりバックラッシュを小さくし、応答性の向上を図り、良好な効率での伝動を実現する。
【0067】
(c)バネ体27の形状は、実施形態に示す形状や、別実施形態(a)に示す形状に限るものではなく、例えば、一方の端部を偏心部材26に固定し、他方の端部を自由状態にするものでも良い。更に、バネ体27としてピアノ線等の線材を用いても良い。
【0068】
(d)実施形態において位相調節部Cを構成するギヤ減速装置を、例えば、車両の運転座席等のシートのシートバックの傾斜姿勢を設定するための減速装置として用いる。このように減速装置と用いる部位は、車両のシートバックの傾斜姿勢の設定に限らず、例えば、ロボットアームの減速装置に利用することも考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、内歯型ギヤと、これより歯数が少ない外歯型ギヤとを咬合させた構成のギヤ減速装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0070】
25 出力ギヤ
25A 内歯部(歯部)
26 偏心部材
26E 偏心軸受面
26S 中心軸受面
26Q 支持体
26R 規制部
26Rs 規制面
27 バネ体(付勢部材)
30 入力ギヤ
30A 外歯部(歯部)
X 回転軸芯
Y 偏心軸芯
PA 作用点
PB 支持点
図1
図2
図3
図4
図5
図6