【文献】
北川寛、外4名,「高経年変圧器のタンク振動の実測」,平成28年電気学会電力・エネルギー部門大会論文集(CD−ROM),2016年 9月,p.385
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
実稼働状態の測定対象の前記変圧器のタンクの周壁の一部に領域を区画して該区画内の複数の位置に加速度センサを設置し、前記天板をハンマーで叩いて前記タンクの周壁から得られる振動を複数の位置毎に加速度センサの出力波形として計測し、これらの出力波形を高速フーリエ変換して横軸を周波数、縦軸に振幅をプロットして得た波形に現れる固有振動数のピークを解析し、前記健全な変圧器について同等手法により求めた固有振動数のピークと比較して稼働中の変圧器の状態を解析することを特徴とする請求項2に記載の変圧器内部異常および劣化の診断方法。
コイル体を構成する巻線と鉄心とこれらを収容するタンクを備え、前記タンクが底壁と周壁と天板とからなる箱体であって、上下方向に延在する鉄心の周回りに巻線を巻回して前記コイル体が構成され、前記コイル体が上下に配置されたコイル押さえプレートにより上下方向から締め付けられ、締め付けられた前記コイル体が吊り金具により前記天板に吊り下げられて前記タンクの内部に収容された構成の変圧器の内部異常および劣化の診断装置であって、
稼働中の変圧器に対し前記タンクの複数箇所に装着されて該変圧器が発生する低周波数領域から可聴音領域(1Hz〜20kHz)に至る振動に対し検出感度を有する複数の振動検出器と、
前記巻線に通電して前記変圧器を稼働している間に、前記変圧器の稼働に支障のない打撃力で前記タンクの天板をハンマーで叩いて得られる前記タンクの前記振動検出器設置位置毎に生じている機械的振動に基づき、前記変圧器稼働中の特徴ピークである電源周波数の整数倍の振動ピークと異なる振動ピークであって、前記振動検出器設置位置毎における固有振動数と前記変圧器内部の固有振動数が異なることに起因し生じている複数の振動ピークを観察する解析器と、
これら複数の振動ピークの中から、前記鉄心由来の振動ピークと、前記巻線由来の振動ピークと、前記天板と前記鉄心と前記巻線が一体となった構造物由来の振動ピークを区別して認識し、前記天板と前記鉄心と前記巻線が一体となった構造物由来の振動ピークの変化を観察することにより、前記変圧器の状態を解析する演算手段とを備えたことを特徴とする変圧器の内部異常および劣化の診断装置。
前記演算手段に記録された健全な変圧器の固有振動数の情報は、前記健全な変圧器の稼働状態のタンクの周壁の一部に領域を区画して該区画内の複数の位置に加速度センサを設置し、前記天板をハンマーで叩いて前記タンクの周壁から得られる振動を複数の位置毎に加速度センサの出力波形として計測し、これらの出力波形を高速フーリエ変換して横軸を周波数、縦軸に振幅をプロットして得た波形に現れる固有振動数のピークの解析結果であり、この情報と比較される測定対象の変圧器の固有振動数の情報が同等手法により測定対象の稼働状態の変圧器から得られた固有振動数のピークの解析結果であることを特徴とする請求項5に記載の変圧器の内部異常および劣化の診断装置。
実稼働状態の測定対象の前記変圧器のタンクの周壁の一部に領域を区画して該区画内の複数の位置に加速度センサを設置し、前記建屋の振動に基づいて前記タンクの周壁から得られる振動を複数の位置毎に加速度センサの出力波形として計測し、これらの出力波形を高速フーリエ変換して横軸を周波数、縦軸に振幅をプロットして得た波形に現れる固有振動数のピークを解析し、前記健全な変圧器について同等手法により求めた固有振動数のピークと比較して稼働中の変圧器の状態を解析することを特徴とする請求項8に記載の変圧器内部異常および劣化の診断方法。
コイル体を構成する巻線と鉄心とこれらを収容するタンクを備え、前記タンクが底壁と周壁と天板とからなる箱体であって、上下方向に延在する鉄心の周回りに巻線を巻回して前記コイル体が構成され、前記コイル体が上下に配置されたコイル押さえプレートにより上下方向から締め付けられ、締め付けられた前記コイル体が吊り金具により前記天板に吊り下げられて前記タンクの内部に収容された構成の変圧器の内部異常および劣化の診断装置であって、
建屋内に設置されて稼働されている変圧器に対し前記タンクの複数箇所に装着されて該変圧器が発生する低周波数領域から可聴音領域(1Hz〜20kHz)に至る振動に対し検出感度を有する振動検出器と、
該振動検出器からの検出信号を受けて稼働中の変圧器に対する前記建屋から伝達された振動を含む変圧器振動の位相を基準とする機械的振動を求めて解析し、
前記タンクの前記振動検出器設置位置毎に生じている機械的振動に基づき、前記変圧器稼働中の特徴ピークである電源周波数の整数倍の振動ピークと異なる振動ピークであって、前記振動検出器設置位置毎における固有振動数と前記変圧器内部の固有振動数が異なることに起因し生じている複数の振動ピークを観察する解析器と、
これら複数の振動ピークの中から、前記鉄心由来の振動ピークと、前記巻線由来の振動ピークと、前記天板と前記鉄心と前記巻線が一体となった構造物由来の振動ピークを区別して認識し、前記天板と前記鉄心と前記巻線が一体となった構造物由来の振動ピークの変化を観察することにより、前記変圧器の状態を解析する演算手段とを備えたことを特徴とする変圧器の内部異常および劣化の診断装置。
前記演算手段に記録された健全な変圧器の固有振動数の情報は、前記健全な変圧器の稼働状態のタンクの周壁の一部に領域を区画して該区画内の複数の位置に加速度センサを設置し、前記建屋の振動に基づいて前記タンクの周壁から得られる振動を複数の位置毎に加速度センサの出力波形として計測し、この出力波形を高速フーリエ変換して横軸を周波数、縦軸に振幅をプロットして得た波形に現れる固有振動数のピークの解析結果であり、この情報と比較される測定対象の変圧器の固有振動数の情報が同等手法により測定対象の稼働状態の変圧器から得られた固有振動数のピークの解析結果であることを特徴とする請求項11に記載の変圧器の内部異常および劣化の診断装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
先の特許文献1、2に記載の技術では変圧器に負荷電流ではない電流を流すか、励磁周波数を変更する必要があり、稼働中の変圧器の状態のままでは診断できない問題がある。
次に、先に説明した本発明者らが研究中の技術によれば、稼働中の変圧器に流れる通電電流や印加電圧により生じる電磁力に起因して発生する変圧器振動を測定するが、変圧器に流れる通電電流が小さくて、生じる電磁力が小さい場合、変圧器中身から発生する振動が小さくてタンク壁面で変圧器中身の振動を捉えることが難しい問題があった。
また、変圧器の用途によっては、通電電流を大きくしたり、印加電圧を大きくしたりすることで、変圧器中身に生じる電磁力を大きくし、変圧器中身の振動を大きくすることでタンク壁面の振動を大きくできる場合もあるが、稼働中の変圧器の場合、振動測定のために安易に通電電流や電圧を変更することは難しい問題があった。
【0009】
よって、本発明の課題は、稼働状態の変圧器の異常や劣化を診断するための変圧器診断技術において、通電電流や印加電圧が小さくても変圧器中身を確実に振動させ、タンクの周壁に設置した振動センサで変圧器中身の振動を確実に捉えることができ、これに基づいて変圧器を診断することができる方法と装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の変圧器内部異常および劣化の診断方法は、コイル体を構成する巻線と鉄心とこれらを収容するタンクを備えた変圧器の内部異常および劣化の診断方法であって、前記タンクが底壁と周壁と天板とからなる箱体
であって、上下方向に延在する鉄心の周回りに巻線を巻回して前記コイル体が構成され、前記コイル体が上下に配置されたコイル押さえプレートにより上下方向から締め付けられ、締め付けられた前記コイル体が吊り金具により前記天板に吊り下げられて前記タンクの内部に収容された構成の前記変圧器に対し、前記巻線に通電して前記変圧器を稼働している間に、前記変圧器の稼働に支障のない打撃力で前記タンクの天板をハンマーで叩いて得られる機械的振動
であり、前記タンクの複数箇所に設置した振動検出器を用いて前記タンクの前記振動検出器設置位置毎に生じている機械的振動に基づき、前記変圧器稼働中の特徴ピークである電源周波数の整数倍の振動ピークと異なる振動ピークであって、前記振動検出器設置位置毎における固有振動数と前記変圧器内部の固有振動数が異なることに起因し生じている複数の振動ピークを観察し、これら複数の振動ピークの中から、前記鉄心由来の振動ピークと、前記巻線由来の振動ピークと、前記天板と前記鉄心と前記巻線が一体となった構造物由来の振動ピークを区別して認識し、前記天板と前記鉄心と前記巻線が一体となった構造物由来の振動ピークの変化を観察することにより、前記変圧器の状態を解析することを特徴とする。
本発明の診断方法は、先において求めた
前記天板と前記鉄心と前記巻線が一体となった構造物由来の振動ピークに関し、健全な初期状態の変圧器における前記天板と前記鉄心と前記巻線が一体となった構造物由来の振動ピークと比較して稼働中の変圧器の状態を解析することを特徴とする。
【0011】
本発明の診断方法において、実稼働状態の測定対象の前記変圧器のタンクの周壁の一部に領域を区画して該区画内の複数の位置に加速度センサを設置し、前記天板をハンマーで叩いて前記タンクの周壁から得られる振動を複数の位置毎に加速度センサの出力波形として計測し、これらの出力波形を高速フーリエ変換して横軸を周波数、縦軸に振幅をプロットして得た波形に現れる固有振動数のピークを解析し、前記健全な変圧器について同等手法により求めた固有振動数のピークと比較して稼働中の変圧器の状態を解析することが好ましい。
【0012】
本発明の診断装置は、コイル体を構成する巻線と鉄心とこれらを収容するタンクを備え、前記タンクが底壁と周壁と天板とからなる箱体であって、上下方向に延在する鉄心の周回りに巻線を巻回して前記コイル体が構成され、前記コイル体が上下に配置されたコイル押さえプレートにより上下方向から締め付けられ、締め付けられた前記コイル体が吊り金具により前記天板に吊り下げられて前記タンクの内部に収容された構成
の変圧器の内部異常および劣化の診断装置であって、稼働中の変圧器に対し前記タンクの複数箇所に装着されて該変圧器が発生する低周波数領域から可聴音領域(1Hz〜20kHz)に至る振動に対し検出感度を有する複数の振動検出器と、前記巻線に通電して前記変圧器を稼働している間に、前記変圧器の稼働に支障のない打撃力で前記タンクの天板をハンマーで叩いて得られる前記タンクの前記振動検出器設置位置毎に生じている機械的振動に基づき、前記変圧器稼働中の特徴ピークである電源周波数の整数倍の振動ピークと異なる振動ピークであって、前記振動検出器設置位置毎における固有振動数と前記変圧器内部の固有振動数が異なることに起因し生じている複数の振動ピークを観察する解析器と、これら複数の振動ピークの中から、前記鉄心由来の振動ピークと、前記巻線由来の振動ピークと、前記天板と前記鉄心と前記巻線が一体となった構造物由来の振動ピークを区別して認識し、前記天板と前記鉄心と前記巻線が一体となった構造物由来の振動ピークの変化を観察することにより、前記変圧器の状態を解析する演算手段とを備えたことを特徴とする。
本発明の診断装置において、前記演算手段に健全な変圧器の固有振動数の情報が記録され、前記振動検出器が検出した前記天板と前記鉄心と前記巻線が一体となった構造物由来の振動ピークと前記健全な変圧器における前記天板と前記鉄心と前記巻線が一体となった構造物由来の振動ピークを比較する能力を前記演算手段が備えたことが好ましい。
【0013】
本発明の診断装置において、前記演算手段に記録された健全な変圧器の固有振動数の情報は、前記健全な変圧器の稼働状態のタンクの周壁の一部に領域を区画して該区画内の複数の位置に加速度センサを設置し、前記天板をハンマーで叩いて前記タンクの周壁から得られる振動を複数の位置毎に加速度センサの出力波形として計測し、これらの出力波形を高速フーリエ変換して横軸を周波数、縦軸に振幅をプロットして得た波形に現れる固有振動数のピークの解析結果であり、この情報と比較される測定対象の変圧器の固有振動数の情報が同等手法により測定対象の稼働状態の変圧器から得られた固有振動数のピークの解析結果であることが好ましい。
【0014】
本発明の診断方法は、コイル体を構成する巻線と鉄心とこれらを収容するタンクを備えた変圧器の内部異常および劣化の診断方法であって、前記タンクが底壁と周壁と天板とからなる箱体
であり、上下方向に延在する鉄心の周回りに巻線を巻回して前記コイル体が構成され、前記コイル体が上下に配置されたコイル押さえプレートにより上下方向から締め付けられ、締め付けられた前記コイル体が吊り金具により前記天板に吊り下げられて前記タンクの内部に収容された構成の前記変圧器に対し、前記変圧器を設置した建屋が建屋に設置された他の機器からの振動あるいは建屋近傍の環境雑音に起因する振動を受けて振動する建屋であって、この建屋からの振動が変圧器に伝達された場合の振動を前記タンクの周壁面に設置した振動検出器で検出し、
前記変圧器稼働中の特徴ピークである電源周波数の整数倍の振動ピークと異なる振動ピークであって、前記振動検出器設置位置毎における固有振動数と前記変圧器内部の固有振動数が異なることに起因し生じている複数の振動ピークを観察し、これら複数の振動ピークの中から、前記鉄心由来の振動ピークと、前記巻線由来の振動ピークと、前記天板と前記鉄心と前記巻線が一体となった構造物由来の振動ピークを区別して認識し、前記天板と前記鉄心と前記巻線が一体となった構造物由来の振動ピークの変化を観察することにより、前記変圧器の状態を解析することを特徴とする。
本発明の診断方法において、先において求めた
前記天板と前記鉄心と前記巻線が一体となった構造物由来の振動ピークに関し、健全な初期状態の変圧器における
前記天板と前記鉄心と前記巻線が一体となった構造物由来の振動ピークと比較して稼働中の変圧器の状態を解析することができる。
【0015】
本発明の診断方法において、実稼働状態の測定対象の前記変圧器のタンクの周壁の一部に領域を区画して該区画内の複数の位置に加速度センサを設置し、前記建屋の振動に基づいて前記タンクの周壁から得られる振動を複数の位置毎に加速度センサの出力波形として計測し、これらの出力波形を高速フーリエ変換して横軸を周波数、縦軸に振幅をプロットして得た波形に現れる固有振動数のピークを解析し、前記健全な変圧器について同等手法により求めた固有振動数のピークと比較して稼働中の変圧器の状態を解析することが好ましい。
【0016】
本発明の変圧器内部異常および劣化の診断装置は、コイル体を構成する巻線と鉄心とこれらを収容するタンクを備え、前記タンクが底壁と周壁と天板とからなる箱体であって、上下方向に延在する鉄心の周回りに巻線を巻回して前記コイル体が構成され、前記コイル体が上下に配置されたコイル押さえプレートにより上下方向から締め付けられ、締め付けられた前記コイル体が吊り金具により前記天板に吊り下げられて前記タンクの内部に収容された構成
の変圧器の内部異常および劣化の診断装置であって、建屋内に設置されて稼働されている変圧器に対し前記タンクの複数箇所に装着されて該変圧器が発生する低周波数領域から可聴音領域(1Hz〜20kHz)に至る振動に対し検出感度を有する振動検出器と、該振動検出器からの検出信号を受けて稼働中の変圧器に対する前記建屋から伝達された振動を含む変圧器振動の位相を基準とする機械的振動を求めて解析し、前記タンクの前記振動検出器設置位置毎に生じている機械的振動に基づき、前記変圧器稼働中の特徴ピークである電源周波数の整数倍の振動ピークと異なる振動ピークであって、前記振動検出器設置位置毎における固有振動数と前記変圧器内部の固有振動数が異なることに起因し生じている複数の振動ピークを観察する解析器と、これら複数の振動ピークの中から、前記鉄心由来の振動ピークと、前記巻線由来の振動ピークと、前記天板と前記鉄心と前記巻線が一体となった構造物由来の振動ピークを区別して認識し、前記天板と前記鉄心と前記巻線が一体となった構造物由来の振動ピークの変化を観察することにより、前記変圧器の状態を解析する演算手段とを備えたことを特徴とする。
本発明の診断装置において、前記演算手段に健全な変圧器の固有振動数の情報が記録され、前記振動検出器が検出した前記天板と前記鉄心と前記巻線が一体となった構造物由来の振動ピークと前記健全な変圧器における前記天板と前記鉄心と前記巻線が一体となった構造物由来の振動ピークを比較する能力を前記演算手段が備えたことを特徴とする。
【0017】
本発明の診断装置において、前記演算手段に記録された健全な変圧器の固有振動数の情報は、前記健全な変圧器の稼働状態のタンクの周壁の一部に領域を区画して該区画内の複数の位置に加速度センサを設置し、前記建屋の振動に基づいて前記タンクの周壁から得られる振動を複数の位置毎に加速度センサの出力波形として計測し、これらの出力波形を高速フーリエ変換して横軸を周波数、縦軸に振幅をプロットして得た波形に現れる固有振動数のピークの解析結果であり、この情報と比較される測定対象の変圧器の固有振動数の情報が同等手法により測定対象の稼働状態の変圧器から得られた固有振動数のピークの解析結果であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の診断方法と診断装置によれば、稼働中の変圧器を停止せずともインパクト試験を利用するか環境振動を利用することにより、
天板と鉄心と巻線が一体となった構造物の振動ピークを他の振動ピークと区別し、把握して観察し、稼働状態のまま内部異常および劣化を外部診断できるようになる。
また、従来の電気的振動における周波数応答解析では、鉄心やコイルが実際にずれを生じたあとで異常が診断されるが、本発明に係る診断方法と診断装置によれば、コイル巻線の締付け力低下などを原因とする固有振動も診断することができるので、実際にずれが生じる前に異常を把握できる
診断方法であり、変圧器の予防保全の方法としても優れた診断方法と診断装置である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<第1実施形態>
以下、本発明に係る変圧器の異常および劣化の診断方法と診断装置の第1実施形態について油入変圧器の場合を例にとり、図面に基づき説明する。
図1は変圧器の異常および劣化を診断する装置の第1実施形態を示す構成図であり、本実施形態の診断装置Aは、一例として
図2、
図3に示す構造の油入変圧器1の異常および劣化を診断する装置である。
この例の変圧器1は、
図2に示す金属製のタンク31の内部に
図3に示す巻線型のコイル体3が3基それらの中心軸を上下に向けて収容され、タンク31の内部に絶縁油が満たされてなる。各コイル体3の中心部にケイ素鋼板などの磁性体からなる鉄心5が挿通され、各鉄心5は各々の上下両端部においてケイ素鋼板などを積層した磁性体からなるロッド状のヨーク6にそれぞれ一体化されている。3本の鉄心5(3脚鉄心)の周囲にそれぞれ巻線4を設けることで3つのコイル体3が形成されている。
なお、この実施形態の変圧器1は3相交流用であるので、3つのコイル体3はそれぞれU相、V相、W相の3相を構成するが、変圧器に収容されるコイル体3の数は3つに限らず、いずれの数のコイル体を備えた変圧器であっても本実施形態を適用できるのは勿論である。
【0021】
図3に示すように、変圧器1において、3つのコイル体3を個々に上下から挟むようにコイル押さえプレート7が設けられ、上下のコイル押さえプレート7、7を貫通してこれらを締め付けるための軸方向締付ボルト8が複数設けられている。この実施形態では軸方向締付ボルト8が3つ並列されたコイル体3の厚さ方向両側にそれぞれ4本ずつ設けられ、軸方向締付ボルト8の下端は下方のコイル押さえプレート7を貫通してその下方側にまで延出され、軸方向締め付けボルト8の上端は上方のコイル押さえプレート7を貫通してその上方側にまで延出されている。軸方向締め付けボルト8がコイル押さえプレート7を貫通した部分には図示略のねじ部が形成され、このねじ部に対し軸方向締め付けボルト8のねじ込み具合を調整することで上下に対向するコイル押さえプレート7、7の間隔を調整することができる。これにより、上下に対向するコイル押さえプレート7、7によってコイル体3に上下方向から所定の締め付け力が付加されている。コイル押さえプレート7はプレスボードなどの木材から構成されている。
【0022】
図3(A)に示すように上部側のヨーク6はその厚さ方向両側(
図3(A)の上下方向両側)に配置された上部ヨーク押さえ金具10、10に挟まれ、これらを緊結するための上部ヨーク押さえボルト11によって拘束され、締め付け力が付加されている。また、上部ヨーク押さえ金具10、10の両端側(
図3の左右両端側)には帯板状の吊り金具12が取り付けられ、コイル体3、鉄心5、ヨーク6などが一体化された状態で吊り金具12によってタンク31の天板31Aに吊り下げられている。
また、下部側のヨーク6も上部側のヨーク6と同様に下部押さえ金具10や下部ヨーク押さえボルト(図示略)により拘束されている。
【0023】
本実施形態においてコイル体3は、図示略の外側コイルと内側コイルからなり、外側コイル(1次コイル)は外巻線(1次巻線)と絶縁スペーサー(固体絶縁物)を上下に積層した積層体を上部絶縁体と下部絶縁体により挟み付けて構成されている。コイル体3の内側コイル(2次コイル)は内巻線(2次巻線)と絶縁スペーサー(固体絶縁物)を上下に積層した積層体を上部絶縁物と下部絶縁物で挟み付けて構成されている。
前述の構造により各コイル体3にはコイル押さえプレート7により上下から締め付け力が作用され、この締め付け状態でコイル体3はタンク31内で吊り下げられて図示略の絶縁油に浸漬されている。
【0024】
前記構成の変圧器1は、送電線などから送られる高電圧を電力使用者の近くで降圧する用途などに使用されるので、コイル体3の巻線には常時電流が流されている。巻線に電流を流すことで電磁力が作用するので、コイル体3や鉄心5には電磁力が作用し、これらが振動する。この振動は変圧器1の全体に伝わり、
図2に示すタンク31の天板31A、周壁31B、更には、底壁31Dにも伝達される。
また、送電線で短絡事故や地絡事故などが起きると変圧器1の巻線には定格負荷電流の10倍から数10倍に達する大きな電流が流れることがあり、規格以上の電磁力と振動が変圧器1に作用することもある。
これら種々の要因や加熱その他の影響から、変圧器1の絶縁油は経時的に徐々に劣化が進行する。また、締め付け力と振動が常時作用するコイル体3の絶縁スペーサーはセルロース繊維からなるため、絶縁スペーサーも劣化するおそれがあり、短絡事故や地絡事故に起因してコイル体3の巻線にも予想外の劣化を生じるおそれがある。更には、プレスボードからなるコイル押さえプレート7にも部分的に劣化が進行するおそれがある。
以上説明のように変圧器1は長期間使用することにより各部において劣化が進行するおそれがある。
【0025】
図1に示す変圧器1の異常および劣化の診断装置Aは、変圧器1に沿わせて配置される振動検出器(振動センサ)22と、この振動検出器22からの出力信号を受けて増幅する増幅器(振動センサアンプ)25とこの増幅器25からの出力を受ける信号解析器(スペクトルならびに位相差検出器)26とこの信号解析器26に接続された演算装置27を主体として構成されている。診断装置Aにおいて、変圧器31に通電するための電圧を計測する電圧計(通電電圧計)23とこの電圧計23に増幅器(通電電圧アンプ)24を介し信号解析器26が接続されている。
【0026】
図1に示す診断装置Aを用いて以下に説明する手順で変圧器1の振動を解析するが、本実施形態の診断装置Aが異常および劣化の診断を行う場合に想定する振動原理解釈について以下に順次説明する。
稼働状態の変圧器1が発生する振動の伝搬経路は以下のように推定される。
振動の一次的原因は鉄心5の振動とコイル体3の巻線4の振動であり、両者の振動がコイル押さえプレート(プレスボード)7、軸方向締付ボルト8、上部ヨーク押さえ金具10、吊り金具12などを介しタンク31に伝搬される。よって、タンク31の振動は鉄心5の振動と巻線4の振動とタンク31自身の振動と以下の振動の合成となる。
以下の振動とは、一例として、変圧器1を設置している建屋に機械装置その他の震動源がある場合、あるいは、建屋の周囲に建屋に対し振動を付加する震動源がある場合、タンク31に対しこれらの震動源からの振動が建屋を介し伝達される振動成分である。
また、他の例として変圧器1の天板31Aを変圧器1の稼働に支障がない程度の打撃力でハンマーにより打撃力を与えた後述のインパクト試験により発生される振動成分である。なお、変圧器1には通常、衝撃を検知するセンサが取り付けられていて、規定値以上の振動が付与されると変圧器1の異常を警告するなどの安全装置が設けられている。前記ハンマーでこの安全装置が作動するような衝撃を与えると問題があるので、前記ハンマーで変圧器1に付加する衝撃は50N〜500N程度の衝撃力、望ましくは100N〜300N程度の衝撃力とすることが好ましい。
【0027】
本発明者らは、後述する如く実稼働状態で41年経過後の変圧器について解体の機会を利用し、変圧器を設置した建屋において周囲の震動源から付加される振動と変圧器中身が発生させている振動を測定し、振動解析を行った。また、この振動解析に並行し、タンク31の天板31Aにハンマーによって打撃を加えた場合に生じる振動成分について測定し、解析を行った。
振動解析に用いたタンク31の概要を
図2に示す。ただし、
図2には変圧器1に電力を入出力するためのブッシングや配線は省略し、タンク31の概要のみを示している。
このタンク31は横幅2200mm、高さ2000mm、奥行き800mmの鋼板製の直方体状の中空容器であって、その高さを約3等分する上下2箇所の位置にそれぞれ金属製の腰巻き状の補強ステー32、33が設けられている。
タンク31の周壁において補強ステー32より上の部分が上部周壁31aから構成され、タンク31の周壁において補強ステー32より下の部分が中部周壁31bから構成され、変圧器タンク31の周壁において補強ステー33より下の部分が下部周壁31cから構成されている。
このタンク31において補強ステー32、33の部分は振動が制限される位置となるため、これらを除外し、振動センサ22を取り付けて振動を計測する位置として以下の18箇所を候補にすることができる。
【0028】
タンク31において
図2に数字の1〜16を○印で囲む位置のそれぞれに振動センサ22を取り付けて振動を計測することができる。○印で囲む数字の1の位置は上部周壁31aの左側壁面を示し、○印で囲む数字の2の位置は上部周壁31aの正面壁の左端側に相当する位置(正面壁の左端から約40cm離れた位置付近)を示し、○印で囲む数字の3の位置は上部周壁31aの正面壁の右端側に相当する位置(正面壁の右端から約40cm離れた位置付近)を示す。○印で囲む数字の4の位置は上部周壁31aの右側壁面を示し、○印で囲む数字の5の位置は上部周壁31aの背面壁の右端側に相当する位置(背面壁の右端から約40cm離れた位置付近)を示し、○印で囲む数字の6の位置は上部周壁31aの背面壁の左端側に相当する位置(背面壁の左端から約40cm離れた位置付近)を示す。
【0029】
ここで例示したように、振動センサ22を取り付ける位置は、補強ステー32より下方の中部周壁31bにおいて○印で囲む数字の7、8、9、10の位置と補強ステー33より下方の下部周壁31cにおいて○印で囲む数字の13、14、15、16のいずれの位置であっても良い。なお、中部周壁31bの背面壁側の取り付け位置と下部周壁31cの背面壁側の取り付け位置は
図2では図示できないため略しているが、数字の5、6を○印で囲む取り付け位置に対応する中部周壁31bの背面壁側と下部周壁31cの背面壁側にそれぞれ設定される。このため、18箇所を候補として選定することができる。
これらの振動センサ取付候補位置において、後述する試験ではタンク31において数字の4を○印で囲む位置に相当する上部周壁31aの右側壁面に振動センサを設置して振動を計測した。
【0030】
なお、この例で試験した変圧器31の内部には、
図3に示すように3本の鉄心5に1次巻線と2次巻線を施してコイル体3が構成され、これらを上下のコイル押さえプレート7、7で挟み付け、軸方向締付ボルト8で締め付けるとともに、上下のヨーク6をヨーク押さえ金具11、11で拘束した構造とされている。
【0031】
この鉄心5においては、
図5(A)に示すねじりモードと
図5(B)に示す曲げモード1と
図5(C)に示す曲げモード2の3種の振動モードをとることを想定できる。
図5に示すモード解析は、水野末良他による「変圧器鉄心の固有振動特性」(平成25年、電気学会全国大会5−195)による。
【0032】
なお、
図5では説明の簡易化のために、3本のコイル体3とそれらの鉄心5、並びに、上下のヨーク6からなる構造について、3本の脚部35を上下のヨーク部36、37で連結した井桁構造の鉄心38として描いている。また、
図5において脚部35に巻回されている一次側巻線と二次側巻線からなる巻線については記載を略している。
【0033】
図5(A)に示すねじりモードの変圧器の場合、
図2に示す数字の2、3、5、6を○印で囲む位置に振動センサを設置することにより鉄心振動をタンク壁面で捉えることができると考えられる。その場合、数字の2と3の位置は逆方向に、数字の5と6の位置は逆方向に、数字の2と6の位置は同方向に、数字の3と5の位置は同方向に変位していることを確認できれば、鉄心はねじりモードで振動していることが分かる。
同様に、
図5(B)に示すように数字の8、9、11、12の位置に振動センサを設置して変位を確認すれば、モード1で振動していることがわかる。
同様に、
図5(C)に示すように数字の7、10の位置に振動センサを設置して変位を確認すれば、モード2で振動していることがわかる。
【0034】
鉄心の固有振動数に振動モードを同定することができると、その固有振動数から鉄心の締付け力が算出できる。ただし、鉄心の締付け力にばらつきがある場合、固有振動のピークは広がる。逆に、固有振動数の広がり、例えば半値幅から締付け力のばらつきを評価することも可能である。巻線の固有振動ピークが広がりを持っている場合も同様な評価が可能である。ピーク幅が広がることは鉄心または巻線の劣化と関係するが、どれほどのピーク幅が劣化診断の閾値になるかは、変圧器ごとの設計によるので、変圧器ごとに決める必要がある。
【0035】
本実施形態ではタンク1の上部周壁31aの右側壁面において、
図4に示すように右側壁面の左右方向を1A、2A、…15Aのように15に分割区分し、右側面の上下方向を1A、1B、…1Gのように7つに分割区分し、1つの振動センサを例えば3Cの位置に設置してその右側の4Cの位置をハンマーで打ち付けて振動を付与するインパクト試験を行った。タンク1において上部周壁31aの右側壁面のサイズは幅約80cm、縦40cmであり、分割区分した幅を縦横とも5cmに設定した。
また、振動センサ22を13Fの位置に設置して13Eの位置をハンマーで打ち付けるインパクト試験としても良い。なお、振動センサを取り付ける位置とハンマーを打ち付ける位置はタンク31の振動を良好に拾うことができる位置であれば、任意の位置で良く、
図4に示す位置には限らない。
【0036】
以下の試験において、測定にはPCB社製の加速度センサ(感度50mV/(m/s
2)、周波数レンジ0.4〜4kHz)、OROS社製データロガー(サンプリング周波数100kS/s)、PCB社製のインパクトハンマー(加振力100〜200N、周波数範囲0〜3kHz)を使用して以下の測定とインパクト試験を行った。加速度センサは設置面外方向の加速度を測定した。この測定に供した変圧器1は、3相、定格容量10MVA、一次側電圧11kV/二次側電圧3.45kV、周波数60Hz、オイル容量5300L、稼働41年の変圧器である。また、この変圧器1は建屋の一室の床に設けられているコンクリート台の上に設置されている。
【0037】
<測定、試験項目>
(1)タンク側面インパクト試験
負荷率約10%で稼働中の変圧器31に対し上部周壁31aの右側壁面をインパクト試験した。センサ22は2個用い、
図4に示す位置3Cと位置13Fに設置した。打点は位置4Cと位置13Eの2点を実施した。
(2)タンク側面実稼働振動測定
負荷率約10%で稼働中の変圧器31に対し上部周壁31aの右側壁面の実稼働振動を測定した。奇数列(1,3,5,7,9,11,13,15)につきA行、C行、E行、G行の合計8×4=32箇所をセンサ2つずつ用い、順次センサを移動して各点を10秒間測定した。
(3)タンク側面停止時測定
無負荷状態で稼働中の変圧器31の励磁電流を切り、変圧器31を停止させた。変圧器停止のタイミングを含む120秒間において上部周壁31aの右側壁面の実稼働振動を測定した。
【0038】
(4)周囲ノイズ測定(環境振動測定)
変圧器1を設置している変圧器設置室内のコンクリート台と、建屋の隣の別室の床と、上部周壁31aの右側壁面と向き合っている変圧器設置部屋の壁面の3か所にそれぞれ加速度センサ22を設置してそれぞれの振動を測定した。
(5)解体時インパクト試験
変圧器31を解体し、天板31Aと変圧器中身を吊り出し、変圧器中身にインパクト試験した。加速度センサを天板31Aに3か所(U相、V相、W相の各コイル体3の上部付近)に設置し、天板31Aを2か所(UV間、VW間)と、鉄心8箇所と巻線9箇所をインパクトハンマーにてハンマリングして振動測定した。
その後、天板31Aと鉄心5および巻線を結合する軸方向締付けボルト8を全て外し、天板31Aを外して、センサ22を巻線上部のプレスボードに3か所(U相、V相、W相)設置し、巻線を9か所ハンマリングして振動測定した。巻線の打点位置はU相、V相、W相の各コイル体3の上部表面(コイル押さえプレート7の側面)とコイル体3の中央部側面とコイル体3の下部側面である。
【0039】
<測定・試験結果>
タンク側面インパクト試験と実稼働振動測定結果を高速フーリエ変換(FFT)して500Hz以下の結果について
図6に示す。
図6において上側4本のラインはインパクト試験結果を示す。
図6において下側の1本のラインは実稼働振動測定結果であり、センサ位置3Cの結果のみ一例として示す。
図6に示すインパクト試験結果の4つのデータは、ほぼ同じ周波数位置にピークを有し、それらのピーク周波数は上部周壁31aの固有振動数を表している。
図6のグラフにおいて上側に示している(2,1)などの振動モードの表示において、括弧内の左の数字は側板長手方向の腹の数を示し、右の数値は短手方向の腹の数を表す。この表示は、片柳厚志著、「変圧器タンクの振動解析」高岳レビュー、Vol.56 No.1(2011)に記載されている表1、表2に示す固有モードに対応する。
【0040】
図6に示す結果から、上部周壁31aはあたかも電源系周波数で共鳴しているかのような自励振動をしていることを確認できた。
図6中下側に示す数字は電源系の振動モードであり、振動モードとしては不完全であるので(1,1)などの括弧の外にダッシュを付けて(1,1)’のように表示した。また、整数で表される振動モードの他に、長手方向に腹の数が異なる振動も見られ、(1.5,2)や(2.5,2)と指数を付けて表した。
これらの結果から、上部周壁31aの実稼働ピークには電源系振動成分以外に(2,1)モードや(1.5,2)モードなどの側面固有振動数が含まれることは当然として、その他に電源系振動成分以外の振動成分も含まれていることが分かった。
【0041】
<運転停止時のタンク側面測定>
タンク側面停止時測定結果のウォーターフォール図を
図7に示す。ウォーターフォール図は、横軸周波数で0〜1000Hz、縦軸時間(右側の横軸)で0〜120秒、左側カラーのスケールバーは信号強度(m/s
2)を示す。信号強度は、カラースケールバーにおいて対数表示とされており、下側4.5/10の範囲が(×10
−6)のレベル、中央側4.5/10の範囲が(×10
−3)のレベル、上側1/10の範囲が1〜のレベルを示している。
図7において、横軸の周波数の目盛は200Hz刻みを意味し、0、200、400、600、800、1000Hzを表し、右縦軸の1つの目盛は20秒を表し、20、40、60、80、100、120秒を表している。
測定開始からおよそ25秒時点で変圧器1を停止した。ウォーターフォール図の下側のグラフは20秒時点での信号スペクトラムを示す。
図7において縦軸の加速度500m/s
2の位置に▲マークを付したが、縦軸の加速度300m/s
2の位置〜50m/s
2の位置近傍までの加速度が
図7において灰色で示したスペクトルを示す。
図7においてそれ以外のスペクトルは、縦軸の加速度において20u〜200u近傍までの加速度を示す黒色の領域の中に、灰色で示したスペクトルがわずかに混在する領域であった。なお、
図7のウォーターフォール図は実際はカラースケールであり、縦軸の50m/s
2の位置〜200m/s
2の位置の加速度は縦軸の加速度300m/s
2の位置〜50m/s
2の位置近傍までの加速度とは異なる色であるが、この
図7には縦軸の50m/s
2の位置〜200m/s
2の位置の加速度に相当するスペクトルは表示されていない。
【0042】
図7に示すように、60Hzの整数倍および半整数倍の電源系の振動は変圧器停止のタイミングでほぼ消えることがわかる。即ち、
図7の右縦軸に表記されている時間(t)の経過とともに、種々の周波数で黒色に示された種々の振動が途中で消失し、色の明るい灰色のグラフとなっているので、低周波数帯域以外は信号が消失したことを示す。60Hzの非整数倍の振動で、変圧器停止のタイミングで消えるものは、機械系の振動ピークであると考えられる。
一方、約150Hz以下の低周波数帯域では変圧器1を停止しても振動は残っている。このように変圧器1を止めても消えずに残るピークは、建屋や他の運転機器に由来する振動成分と推定される。
【0043】
<周囲ノイズ測定>
変圧器1を負荷率約10%で稼働中に変圧器1を設置している建屋の変圧器台(コンクリート台)に設置したセンサ22の測定結果(ベースXYZ)と建屋の別室床に設置したセンサの測定結果(別室XYZ)を
図8に示す。
図8に示すように、広い周波数領域で60Hzの整数倍の大きなピーク状のノイズがみられる。250Hz以上では10
−5m/s
2程度の連続的な振動があり、変圧器台よりも別室床の方がやや振動は小さい。250Hz以下では変圧器台と別室床ともに比較的大きい10
−4m/s
2程度の振動がみられた。
【0044】
次に、変圧器の側壁と向き合っている建屋の壁面に設置したセンサ22について、変圧器稼働中(無負荷)の測定結果と変圧器停止後の測定結果を
図9に示す。
図9に示すように、高周波数側(250Hz以上)では10
−4m/s
2程度の振動がみられ、変圧器1を停止すると加速度がおよそ半減し、60Hzの整数倍のピーク状ノイズは消えた。しかし、およそ250Hz以下の振動は変圧器を停止しても変化していない。
壁振動のウォーターフォール図を
図10に示す。
図10において、横軸周波数で0〜1000Hz、縦軸時間で0〜120秒を示し、左側カラーのスケールバーは信号強度を示すが、
図7のスケール設定とは変えてある。信号強度は、カラースケールバーにおいて対数表示とされており、下側1/3の範囲が100〜900u(×10
−6)のレベル、中央側1/3の範囲が1〜10m(×10
−3)のレベル、上側1/3の範囲が10〜90m(×10
−3)のレベルを示している。
図10において下側のグラフは20秒時点での信号スペクトラムを示す。
なお、
図10は実際はカラースケールで表示されるグラフであり、縦軸の加速度は、100u〜200uが紫色、300u〜900uは順次濃い青色から若干薄くなる青色、2m〜9mは緑色、20m前後は黄色、30m以上は順次濃い赤色となるカラースケールで示されている。
図10では色を表示できないが、横軸の周波数800Hzより高い周波数(右側)は概ね紫色が多い領域、600〜800Hzの範囲は紫色と濃い青色の混在領域、400〜600Hzは濃い青色から薄い青色が混在する領域、400Hz以下になって薄い青色に緑色が混在する領域であり、この緑色の領域は2m〜9mの加速度が計測された領域である。
図10では白黒表示のために、この緑色の領域が灰色で表示されている。従って、0〜200Hzの領域は概ね2m〜9mの加速度が表示され、その間に明るく表示された領域は20m以上の加速度を計測した領域、濃く表示された領域は30m以上の領域を示す。
【0045】
図10に示すように、60Hzの整数倍のピーク状ノイズ(
図7に表示されている200〜1000Hzにおいて灰色のスペクトルとして表示された加速度)は変圧器停止のタイミングで消えるのに対し、およそ250Hz以下のノイズは変圧器停止後も変わらず存在することがわかる。
前者は実際の振動とは異なりセンサ22に誘導される電磁ノイズ信号であり、その原因は変圧器1が励磁されていることによると考えられる。電源系振動数成分の振動強度を測定して変圧器診断する場合、稼働中の変圧器1から発生される電磁ノイズに影響されている可能性があり、電磁ノイズ対策されたセンサを用いる必要があると考えられる。
後者は実際に建屋全体が揺れる事による振動ノイズ信号であると考えられる。その影響については後述する。
【0046】
「解体時インパクト試験」
<センサ天板、打点天板測定>
センサ22を天板に設置し、インパクトハンマーによる打点を天板31Aに設定し、変圧器1を停止後に解体し、変圧器中身を天板から吊り出して、天板と変圧器中身をインパクト試験した場合の振動解析結果(FFT結果)を
図11に示す。
天板31Aをインパクトハンマーによりハンマリングすると、
図11のように複雑なスペクトラムが得られた。比較のため変圧器1を停止した後に側壁をインパクト試験したときのFFT結果を(
図11に揃えて)縦軸線形、横軸2000Hzに設定して
図12に示す。
図12に示すように、側壁をインパクト試験したときのFFT結果はピークの数が少なく、ピーク同士に重なりのない鋭いピーク形状で、全体として単純なスペクトラムであった。
それに対し、
図11に示すFFT結果において、天板31Aは吊り金具12を通して上部ヨーク押え金具10やコイル押さえプレート7、軸方向締付ボルト8と結合しており、上部ヨーク押え金具10は軸方向締付ボルト8を通して下部ヨーク押え金具10と結合しており、それらにより鉄心5と巻線4は固定されている。よって、天板31Aは鉄心5と巻線4と結合されており、天板31A、鉄心5、巻線4それぞれの固有振動と、それらが一体となった構造物としての固有振動も有していると考えられる。
【0047】
<センサ天板、打点鉄心測定>
センサ22を天板31Aに設置し、インパクトハンマーによる打点を鉄心5に設定し、変圧器1を停止後に解体し、変圧器中身を吊り上げて、鉄心5をインパクト試験した場合の振動解析結果(FFT結果)を
図13に示す。
図13の1060Hz付近の大きなピークは鉄心5をインパクトハンマーによりハンマリングすると大きくみられることから、鉄心5の固有振動に由来するピークではないかと考えられる。
【0048】
<センサ天板、打点巻線>
センサ22を天板31Aに設置し、インパクトハンマーによる打点を巻線4に設定し、変圧器1を停止後に解体し、変圧器中身を吊り上げて、巻線4をインパクト試験した場合の振動解析結果(FFT結果)を
図14に示す。
巻線4をインパクトハンマーによりハンマリングした場合、
図14に示すように440Hzと1630Hzに鋭いピークがみられた。
【0049】
<センサ巻線、打点巻線>
天板31Aと締付け具(軸方向締め付けボルト8)を外して3つのコイル体3とコイル押さえプレート7が一体とされた状態でこれらを起立させ、センサ22を巻線4に設置し、巻線4をハンマリングしたときのインパクト試験結果例を
図15に示す。
巻線4の固有振動数に由来するピークは
図15に現れるような幅の広いピークを形成すると考えられる。天板31Aと軸方向締め付けボルト8(締付け具)を外されたコイル体3の巻線4はUVWの各相のコイル体3がほぼ独立して振動できる。コイル押さえプレート7は個々のコイル体3用に分割されているためである。巻線4の固有振動は
図15から読み取れるように0〜2000Hzの間におよそ6つのピークを持つことがわかった。
【0050】
これらの試験結果から、タンク31の天板31Aをインパクトハンマーによりハンマリングすると、吊り金具12を通してコイル体3の鉄心5や巻線4にも振動が伝わり、それらの振動が反射して再度天板31Aに伝わると考えられる。そのような観点から
図11のグラフを眺めると、
図11の中に鉄心5由来の1060Hzピークと、巻線4由来の鋭い440Hz、1630Hzのピークと、幅広い6つのピーク群に分けてみることができ、これは、天板31Aをインパクトハンマーによりハンマリングしたとき変圧器中身の固有振動が天板31Aに現れていることを示唆していると考えられる。
【0051】
よって、天板31Aにインパクトハンマーにより打撃を加えるインパクト試験を行うと、その振動解析により、変圧器中身の状態を診断できる可能性があると考えることができる。
一方、天板31A、鉄心5、巻線4が一体となった構造物としての固有振動は、それらを合わせた構造材としてのサイズや質量が大きいことから、周波数が低い領域に現れると考えられる。そこで、
図6に示す実稼働振動測定結果と、解体時インパクト試験結果における0〜120Hzまでの範囲を拡大して
図16〜
図19に示す。
【0052】
図16はタンク31の側面32箇所の実稼働測定をFFT変換したデータを0〜120Hzまでの範囲において周波数毎に単純平均した図である。
なお、振動測定の場合、振動の節に当たる位置にセンサ22を設置すると、その振動モードに対して振幅が0となり、あたかも振動していないかのように測定される。よって、どの振動モードに対しても節以外の位置にセンサ22が設置されるように、可能な限り多くの設置位置を選択することが好ましい。あるいは、多数のセンサ22を用いて多点測定することが好ましい。
図17、
図18、
図19はそれぞれ
図11、13、14の横軸周波数を拡大して解析結果を詳細表示した図である。変圧器中身をインパクトハンマーによりハンマリングしたときにみられる22〜28Hz、52〜58Hz、88Hz付近のピークが天板31Aをハンマリングしたときに天板31Aに発生する振動ピークにもみられ、同じ周波数帯において実稼働振動にもピークが現れている。
これらの図に示すように、天板31A、鉄心5、巻線のどこをハンマリングしても現れる比較的低い振動数のピークは天板31A、鉄心5、巻線4が一体となった構造体の振動モードと考えられ、天板31Aの振動を経由して、あるいは変圧器1内の絶縁油を通して振動が変圧器1のタンク側面を振動させたと考えられる。
【0053】
変圧器1において、鉄心5や巻線4に作用する電磁機械力が変圧器中身の固有振動の励起源と想定していたが、250Hz以下では建屋全体が比較的大きく揺れていることから、建屋振動が変圧器中身を揺らすことにより生じる変圧器中身の固有振動をタンクの上部周壁面で捉えている可能性があると考えられる。
天板31A、鉄心5、巻線4が一体となった構造体を構成する部材の質量や配置、それらを連結する締付け力も固有振動数を決める要因である。巻線4に使用しているスペーサプレスボードが劣化して永久ひずみで体積収縮が生じたり、長年繰り返される内部振動や突発的なサージ電流による電磁力や地震などの影響でそれらの結合に緩みが生じたりした場合に固有振動数が変化すると考えられる。
よって、変圧器1を設置している建屋自身の揺れが誘導する変圧器中身の振動について、タンク1の壁面に設置した振動センサ22で固有振動数をモニタすることにより中身の異常や劣化を診断できることがわかった。
【0054】
即ち、変圧器1を設置している建屋が振動している場合、建屋振動が変圧器1を揺らすことにより、変圧器中身の振動が誘起され、その振動がタンク壁面に伝わっていると考えられる。このため、建屋振動を利用してセンサ22による振動解析により変圧器1の診断ができることがわかった。
今回測定した変圧器1の建屋は250Hz以下の振動が大きく、その振動数領域では天板31Aと鉄心5と巻線4が一体物として結合した構造体の固有振動をタンク側面で捉えることができたと考えられる。
従って、建屋振動を利用して稼働中の変圧器1の異常診断を行うためには、健全と思われる初期状態の変圧器が稼働し、その変圧器に建屋から250Hz以下の振動成分が大きい振動が伝達されている場合、健全な状態の変圧器1に生じる振動を計測して把握し、この振動情報を高速フーリエ解析したFFT結果を診断装置Aの信号解析器26のメモリなどに記憶させておく。
【0055】
一例として、
図1に示す解析器26と演算装置27はパーソナルコンピューターから構成され、演算装置27がCPUであり、メモリやハードディスクなどの記憶装置が解析器26に搭載されているので、解析器26の記憶装置に健全な初期状態の変圧器の振動情報を高速フーリエ解析したFFT結果を記憶させておく。また、その振動情報に現れている固有振動数の周波数やそのピークの大きさを記録しておく。
これに対し、建屋からの環境振動(環境ノイズ)が付加されていて、測定対象とする稼働状態の変圧器の診断を行うには、先に説明した実稼働振動測定と同じ条件で測定対象の変圧器の周壁において振動計測する。
【0056】
先の条件とは、負荷率約10%で稼働中の変圧器31に対し上部周壁31aの右側壁面の実稼働振動を測定し、奇数列(1,3,5,7,9,11,13,15)につきA行、C行、E行、G行の合計8×4=32箇所をセンサ2つ用い順次センサを移動して各点を10秒間測定した条件であり、この測定で得られた結果を高速フーリエ変換した結果の解析情報である。
演算装置27は解析器26に記憶されていた先の解析情報と測定対象の変圧器から得られた解析情報を比較検討し、先の初期状態の変圧器に見られる機械系固有振動数やその振幅に変化が生じた場合や、初期状態には見られない新たな固有周波数ピークの存在を検知すると、測定対象の変圧器が何らかの異常を有していると判断し、異常検出の判断を行う。必要に応じて演算装置27に接続された表示装置にこの異常検知を表示する。
検査員が表示装置に表示された固有周波数のピークを検証し、初期状態の健全な変圧器に生じていなかった固有周波数のピークを検出したならば、例えば、その新規検出ピークの大小、新規検出数の大小、周波数に応じて測定対象の変圧器の寿命を診断することができる。
なお、初期状態に比べて新たな振動数成分が1つでも出現すれば、測定対象の変圧器には異常が発生している可能性が高いと判断できる。
【0057】
他の例として、
図1に示す解析器26の記憶装置に健全な初期状態の変圧器のインパクト試験の振動情報を高速フーリエ解析したFFT結果を記憶させておく。
これに対し、測定対象とする稼働状態の変圧器の診断を行うには、先に説明したインパクト試験と同じ条件で測定対象の変圧器に対するインパクト試験を行い、変圧器の周壁の一部において、先に説明した実稼働振動測定と同じ条件で測定対象の変圧器の周壁において振動計測する。
【0058】
先の条件とは、負荷率約10%で稼働中の変圧器31に対し上部周壁31aの右側壁面をインパクト試験することであり、センサは2個用い、
図4に示す位置3Cと位置13Fに設置し、ハンマーの打点は位置4Cと位置13Eの2点を実施するなどの条件である。勿論、
図4に示す更に別の位置に対し同様の試験を必要回数行った結果を用いても良い。
上述の条件で得られた測定結果を高速フーリエ変換した結果の解析情報を解析器26のメモリなどに記憶させておく。
演算装置27は解析器26に記憶されていた先の解析情報と測定対象の変圧器から得られた解析情報を比較検討し、先の初期状態の変圧器に見られない固有周波数ピークの存在を検知すると、測定対象の変圧器が何らかの異常を有していると判断し、異常検出の判断を行う。必要に応じて演算装置27に接続された表示装置にこの異常検知を表示する。
検査員が表示装置に表示された固有周波数のピークを検証し、初期状態の健全な変圧器に生じていなかった固有周波数のピークを検出したならば、例えば、その新規検出ピークの大小、新規検出数の大小、周波数に応じて測定対象の変圧器の寿命を診断することができる。
なお、変圧器の診断を行う場合の判断基準については、複数の変圧器を用いて測定した結果を蓄積し、複数の変圧器の測定結果を基に、ある程度の判断基準を定めることで、より正確な診断ができる。変圧器の規模や耐久性などに鑑み、変圧器毎の判断基準を定めておけば、より正確な診断ができる。