(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を説明するが、これらに本発明が限定されるものではない。
【0013】
<外用剤>
本発明の外用剤は、抱水性油剤、水、及び両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体又は水酸基を有する重縮合ポリマー粒子を含み、抱水性油剤濃度が0.015質量%超であって少なくとも一部がリオトロピック球状液晶状態で連続相としてのオイルゲル中に分散していることを特徴とする。これにより、外用剤は良好な水分蒸散抑制効果を奏する。また、本発明の外用剤は、肌への付着性が良好であり、べたつきにくく、密着性が良好である。また、本発明の外用剤は、硬度、密着性が良好であることから、被膜感が良好であり、さらに、ツヤ持続性、しわ改善効果、しっとり感、なじませやすさ、ふっくら感に優れ、高い保湿効果を奏する。本発明において、水分蒸散抑制効果を奏する理由は、以下のとおりと推測される。
【0014】
上述の従来のオイルゲルは、皮膚や毛髪を覆うことで、皮膚や毛髪からの水の蒸散を抑制効果が認められたものの、皮膚や毛髪における複雑な細かい凹凸からの蒸散を十分に抑制することができなかった。これに対し、本発明のオイルゲルは、リオトロピック球状液晶をオイルゲル中に連続相として分散することで、製剤の皮膚や毛髪への密着性を高め、かつ液晶構造の水の往来を平衡状態に保持する性質により、皮膚や毛髪における複雑な細かい凹凸からの水分の蒸散を十分に抑制する効果を得られる。
【0015】
本発明の「外用剤」とは、皮膚又は毛髪の外用剤のことを指す。
【0016】
本発明において、リオトロピック球状液晶とは、ラメラ液晶の球状の層が重なったものである。リオトロピック球状液晶は、乳化物の全光顕微鏡写真で観察される内相(抱水性油剤を含む相)の形状が実質的に円形(正円、楕円、それに近似した形状)であり、偏光顕微鏡写真で対応する内相(抱水性油剤を含む油相)に黒十字ニコルが確認されることで特定される。リオトロピック球状液晶は、従来知られるサーモトロピック液晶の球晶(偏光顕微鏡写真での黒十字ニコルは、液晶の方向と偏光の照射方向とが偶然に所定関係になった内相(抱水性油剤を含む油相)のみに観察され、その確率はリオトロピック球状液晶に比べ有意に低い)とは明確に異なる。なお、以下、本発明において、抱水性油剤を含む油相を、「抱水性油剤相」と呼称する場合があり、オイルゲルを含む油相(以下、「オイルゲル相」と呼称する場合がある。)と区別する。
【0017】
本発明の外用剤においては、抱水性油剤の少なくとも一部がリオトロピック球状液晶状態で連続相としてのオイルゲル中に分散している状態であればよく、すべての抱水性油剤がリオトロピック球状液晶状態でなくてもよい。また、リオトロピック球状液晶の少なくとも一部が連続相のオイルゲル中に分散していればよく、すべてのリオトロピック球状液晶が連続相のオイルゲル中に分散していなくてもよい。ただし、上記効果を十分に得られやすい点で、1.0μm以上の断面長径を有する抱水性油剤相であってもよい。なお、ここでいう「1.0μm以上の断面長径」は、全光顕微鏡の視野における抱水性油剤相の断面長径を指す。後述のとおり、粒子径が過小の油相は可視光下での干渉光による白色発光ができないため、このような油相を含まない母集団におけるリオトロピック球状液晶の状態の油相の割合の方が、外用剤の性能を高精度に反映したものになる。
【0018】
本発明における外用剤は、まず、リオトロピック球状液晶である抱水性油剤と水とによりO/W型エマルションを形成し、該O/W型エマルションをオイルゲル中に分散することで形成することができる。
【0019】
リオトロピック球状液晶の粒子径が大きくなることで、リオトロピック球状液晶が塗布時に壊れやすくなり、抱水性油剤が均一に塗布対象に広がりやすくなり、皮膚や毛髪における細かい凹凸を十分に塞ぎやすくなり、その結果、高い水分蒸散抑制効果を得やすくなる。そこで、リオトロピック球状液晶の平均粒子径が1.0μm以上であることが好ましく、より好ましくは3.0μm以上、最も好ましくは5.0μm以上である。これにより、高い水分蒸散効果を得られるため、上記の特性(特に、硬度、密着性、被膜感、ツヤ持続性、しわ改善効果、しっとり感、なじませやすさ、ふっくら感、保湿効果等)がより向上する。また、製造の容易さと上記効果とのバランスの観点から、リオトロピック球状液晶の平均粒子径は、特に限定されないが、20μm以下、15μm以下、10μm以下であってよい。抱水性油剤相の平均粒子径は、外用剤の粘度が十分に低い(必要に応じ、希釈する)状態で、レーザー回折散乱式粒度分布計(島津製作所 SALD2100)により測定される。
【0020】
抱水性油剤は、特に限定されないが、分子内に1以上の極性基を有し、常温で液体もしくはペースト状や固体の油溶性物質のいずれも用いる事ができ、このように、抱水性油剤相の状態にかかわらず、水分蒸散抑制効果を得られる点で有用である。抱水性油剤としては、例えば、イソステアリン酸、イソパルミチン酸、オレイン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、リシノレイン酸等の脂肪酸、ラノリン、ラノリンアルコール、水素添加ラノリンアルコール等のラノリン誘導体、セタノール、ヘキシルデカノール、イソステアリルアルコール、ステアリルアルコール、オクチルドデカノール、オレイルアルコール、セトステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、水添ナタネ油アルコール等の高級アルコール、コレステロール誘導体及びフィトステロール誘導体等の動植物油由来の脂肪酸エステル及び脂肪酸オリゴマーエステル、ミリスチン酸オクチルドデシル等が挙げられ、これらの1種又は2種以上であってよい。前記コレステロール誘導体及びフィトステロール誘導体としては、マカデミアナッツ油脂肪酸コレステリル、マカデミアナッツ油脂肪酸フィトステリル、ラノリン脂肪酸コレステリル、12−ヒドロキシステアリン酸コレステリル等が挙げられる。中でも、リオトロピック球状液晶を形成しやすい観点から、高級アルコールを用いることが特に好ましい。
【0021】
本発明の外用剤は、抱水性油剤の配合量が外用剤に対して0.015質量%超である。抱水性油剤によるリオトロピック球状液晶が所望の上記特性を与えることから、抱水性油剤の配合量は十分に多いことが好ましい。本発明の外用剤では、抱水性油剤の固化が高度に抑制されることから、抱水性油剤の配合量を十分に多くすることができ、外用剤に対し0.02質量%以上、0.03質量%以上、0.04質量%以上、0.05質量%以上、0.06質量%以上、0.07質量%以上、0.08質量%以上、0.09質量%以上、0.1質量%以上、0.2質量%以上、0.3質量%以上、0.4質量%以上、0.5質量%以上であることが好ましい。他方、抱水性油剤の配合量の上限は、外用剤に対し、40質量%以下、30質量%以下、20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下、5.0質量%以下、3.0質量%以下、1.0質量%以下等であってもよい。なお、本発明における各配合量は、実際に配合した量、又はガスクロマトグラフィにより測定される含有量である。
【0022】
抱水性油剤相は、乳化物に求められる性能に応じ、抱水性油剤以外の油を含んでもよい。ただし、本発明では、前述のように抱水性油剤の固化が抑制されるため、液状油成分(例えば、ミネラルオイル)を抱水性油剤の固化を抑制するために抱水性油剤相としては用いる必要はない。
【0023】
本発明に含まれる水は、リオトロピック球状液晶である抱水性油剤とO/W型エマルションを形成する際に用いられるものである。水の含有量は、特に限定されないが、相対的に抱水性油剤相又はオイルゲル相の含有量が多くなり、高い水分蒸散抑制効果を得られ、また、硬度を抑えて高い被膜感を得られることから、外用剤に対して、15質量%以下、10質量%以下、5質量%以下、3質量%以下、1質量%以下であることが好ましい。他方、保湿効果を得られる観点で、例えば、0.001質量%以上、0.01質量%以上、0.05質量%以上、0.1質量%以上、0.5質量%以上であることが好ましい。
【0024】
本発明におけるオイルゲルとは、親油性のオイルゲル化剤で増粘されたゲル状のオイル(油成分)のことを指し、例えば、オイルにオイルゲル化剤を添加することで、調製することができる。オイルゲルに用いられるオイルとしては、例えば、鉱物油類(ミネラルオイル等)、動植物油、炭化水素油、脂肪酸エステル類等の液状油、ワックス類(ミツロウ、キャンデリラロウ、カルナバロウ、ラノリン等の天然ワックスエステル、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス等の合成ワックス)等の半固形もしくは固形の油が挙げられる。
【0025】
オイルゲルのオイルの含有量は、特に限定されないが、油の量が多くなり、水の蒸散抑制効果が高くなる点で、外用剤に対して、40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上であることが好ましい。他方、オイルゲルのオイルの含有量の上限は、外用剤に対して、98質量%以下、97質量%以下、96質量%以下、95質量%以下等であってもよい。
【0026】
オイルゲル化剤とは、オイルを増粘させる物質のことを指す。オイルゲル化剤としては、公知のものを使用することができ、例えば、デキストリン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、プルラン脂肪酸エステル、有機変性粘土鉱(モンモリロナイト等の粘土鉱物を第4級アンモニウム処理した有機変性粘土鉱物)、微粒子シリカ等が挙げられる。デキストリン脂肪酸エステルとしては、デキストリンと炭素数8〜22の高級脂肪酸とのエステルが例示され、具体的には、パルミチン酸デキストリン、エチルヘキサン酸デキストリン、ラウリン酸デキストリン、ミリスチン酸デキストリン、ステアリン酸デキストリン、ベヘニン酸デキストリン等が挙げられる。
【0027】
抱水性油剤は液晶構造をとる性質を有するが、水に接触すると、やがて固化して液晶構造をとれない場合がある。しかし、本発明では、オイルゲル中に、閉鎖小胞体又は重縮合ポリマーの粒子を含むことで、水と混合された抱水性油剤の室温(具体的には25℃)での固化を抑制して流動状態を実現し、これにより液晶状態を実現させ、また、その過程でファンデルワールス力により抱水性油剤を球状に乳化させるため、リオトロピック球状液晶を形成することができる。この作用効果は、閉鎖小胞体又は重縮合ポリマーの粒子による三相乳化に特有のものであり、従来の界面活性剤では得られないものである。この観点で、本発明の外用剤において、両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体及び/又は水酸基を有する重縮合ポリマー粒子を含有する。両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体又は水酸基を有する重縮合ポリマー粒子は、表面が親水性の粒子であり、例えば、ファンデルワールス力によって水相中の油相との界面に介在することで、乳化状態を維持してもよい。この状態は、乳化物を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察することで確認される(例えば、特許第3855203号公報)。なお、閉鎖小胞体又は水酸基を有する重縮合ポリマー粒子による乳化機構は、三相乳化機構として公知であり、界面活性剤による乳化機構、すなわち親水性部分及び疎水性部分をそれぞれ水相及び油相に向け、油水界面張力を下げることで乳化状態を維持する乳化機構とは全く異なる(例えば特許3855203号公報参照)。
【0028】
閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質としては、特に限定されないが、下記の一般式1で表されるポリオキシエチレン硬化ひまし油の誘導体、もしくは一般式2で表されるジアルキルアンモニウム誘導体、トリアルキルアンモニウム誘導体、テトラアルキルアンモニウム誘導体、ジアルケニルアンモニウム誘導体、トリアルケニルアンモニウム誘導体、又はテトラアルケニルアンモニウム誘導体のハロゲン塩の誘導体が挙げられる。
【0030】
式中、エチレンオキシドの平均付加モル数であるEは、3〜100である。Eが過大になると、両親媒性物質を溶解する良溶媒の種類が制限されるため、親水性ナノ粒子の製造の自由度が狭まる。Eの上限は好ましくは50であり、より好ましくは40であり、Eの下限は好ましくは5である。
【0032】
式中、R1及びR2は、各々独立して炭素数8〜22のアルキル基又はアルケニル基であり、R3及びR4は、各々独立して水素又は炭素数1〜4のアルキル基であり、XはF、Cl、Br、I又はCH
3COOである。
【0033】
両親媒性物質としては、リン脂質やリン脂質誘導体等、特に疎水基と親水基とがエステル結合したものを採用してもよい。また、刺激緩和性に優れる点で、ジラウロイルグルタミン酸リシンNaも好ましい。
【0034】
リン脂質としては、下記の一般式3で示される構成のうち、炭素鎖長12のDLPC(1,2−Dilauroyl−sn−glycero−3−phospho−rac−1−choline)、炭素鎖長14のDMPC(1,2−Dimyristoyl−sn−glycero−3−phospho−rac−1−choline)、炭素鎖長16のDPPC(1,2−Dipalmitoyl−sn−glycero−3−phospho−rac−1−choline)が採用可能である。
【0036】
また、下記の一般式4で示される構成のうち、炭素鎖長12のDLPG(1,2−Dilauroyl−sn−glycero−3−phospho−rac−1−glycerol)のNa塩又はNH
4塩、炭素鎖長14のDMPG(1,2−Dimyristoyl−sn−glycero−3−phospho−rac−1−glycerol)のNa塩又はNH4塩、炭素鎖長16のDPPG(1,2−Dipalmitoyl−sn−glycero−3−phospho−rac−1−glycerol)のNa塩又はNH
4塩を採用してもよい。
【0038】
さらに、両親媒性物質におけるリン脂質として卵黄レシチン又は大豆レシチン、分別レシチン、リゾレシチン等のレシチン又はそれを水素化したものを採用してもよい。これらのうち、リゾレシチン、分別レシチンが好ましい。
【0039】
水酸基を有する重縮合ポリマーは、天然高分子又は合成高分子のいずれであってもよく、乳化剤の用途に応じて適宜選択されてよい。ただし、安全性に優れ、一般的に安価である点で、天然高分子が好ましく、乳化機能に優れる点で以下に述べる糖ポリマーがより好ましい。なお、粒子とは、重縮合ポリマーが単粒子したもの、又はその単粒子同士が連なったもののいずれも包含する一方、単粒子化される前の凝集体(網目構造を有する)は包含しない。
【0040】
糖ポリマーは、セルロース、デンプン等のグルコシド構造を有するポリマーである。例えば、リボース、キシロース、ラムノース、フコース、グルコース、マンノース、グルクロン酸、グルコン酸等の単糖類の中からいくつかの糖を構成要素として微生物が産生するもの、キサンタンガム、アラビアゴム、グアーガム、カラヤガム、カラギーナン、ペクチン、フコイダン、クインシードガム、トラントガム、ローカストビーンガム、ガラクトマンナン、カードラン、ジェランガム、フコゲル、カゼイン、ゼラチン、デンプン、コラーゲン等の天然高分子、メチルセルロース、エチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、セルロース結晶体、デンプン・アクリル酸ナトリウムグラフト重合体、疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ステアロキシPGヒドロキシエチルセルローススルホン酸Na等のスルホン化セルロース誘導体等の半合成高分子等が挙げられる。また、糖ポリマー以外の水酸基を有する重縮合ポリマーとしては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸塩、ポリエチレンオキシド等の合成高分子が挙げられる。
【0041】
閉鎖小胞体及び水酸基を有する重縮合ポリマー粒子は、エマルション形成前では平均粒子径8nm〜800nm程度であるが、O/Wエマルション構造(すなわち、リオトロピック球状液状形成時)においては平均粒子径8nm〜500nm程度である。なお、両親媒性物質の閉鎖小胞体及び水酸基を有する重縮合ポリマーの粒子は、一方のみが含まれても、双方が含まれてもよい。双方が含まれる場合には、例えば、別々に乳化したエマルションを混合してよい。
【0042】
本発明における外用剤(水相、抱水性油剤相、又はオイルゲル相)は、その他、外用剤において使用し得る任意の成分を含んでもよい。例えば、本発明の外用剤は、防腐剤、着色剤、pH調整剤等の成分を含んでもよい。また、例えば、本発明の外用剤は界面活性剤を含んでもよいが、含まない方が好ましい。界面活性剤を含む場合、外用剤に対して、界面活性剤の含有量が1.0質量%以下、0.1質量%以下、0.01質量%以下であることが好ましい。
【0043】
また、本発明の外用剤は、ヒアルロン酸又はその塩を含まなくても高い水分蒸散抑制効果を得られる。この観点で、本発明の外用剤はヒアルロン酸又はその塩の含有量が少なくてもよく、例えば、ヒアルロン酸又はその塩の含有量が外用剤に対して1.0質量%以下、0.5質量%以下、0.1質量%以下、0.01質量%以下等であってもよい。また、本発明の外用剤は、ヒアルロン酸又はその塩を含まなくてもよい。
【0044】
本発明の外用剤は、両親媒性物質が水相で形成する閉鎖小胞体、又は水酸基を有する重縮合ポリマー粒子、で構成された乳化剤によって抱水性油剤を水相に乳化分散したO/W型乳化液を、連続相としてのオイルゲル中に分散する工程を含み、抱水性油剤の少なくとも一部がリオトロピック球状液晶を形成し、抱水性油剤の配合量は、外用剤に対し0.015質量%以上である方法により、上述の外用剤を製造することができる。より具体的には、例えば、両親媒性物質の二分子膜の層状体を水に分散させ、又は水酸基を有する重縮合ポリマーを水中に単粒子化させ、両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体又は重縮合ポリマーの粒子を含む乳化剤分散液を形成する工程と、乳化剤分散液と、抱水性油剤を含む油剤とを、抱水性油剤の融点以上の温度にて混合することで、O/Wエマルションを形成する工程と、O/Wエマルションをオイルゲル中に分散させる工程と、を有する方法により製造される。
【0045】
閉鎖小胞体又は重縮合ポリマーの粒子を十分に形成することで、十分な粒子径を有する、リオトロピック球状液晶の状態である抱水性油剤相が得られる。このような方法としては、上記の両親媒性物質及び/又は水酸基を有する重縮合ポリマーを分散媒(つまり水)中に添加して長時間に亘って撹拌する、両親媒性物質又は重縮合ポリマーの粒子を良溶媒に溶解した後、その溶液を水と混合する等が挙げられる(例えば、特開2006−241424号公報参照)。これにより、前述の水分蒸散抑制効果がより向上する。具体的に、上記工程は、乳化剤分散液中の閉鎖小胞体又は重縮合ポリマーの粒子が8nm以上800nm以下の平均粒子径を示すまで行うことが好ましい。
【0046】
重縮合ポリマーの単粒子化は、重縮合ポリマー粒子の結合体を含む顆粒を、水に分散して分散液を調製した後、顆粒を膨潤し、更に顆粒に由来する水素結合を可逆的条件下で切断することで、結合体の高次構造が緩和された緩和物を生成し、時間を置いた後、結合体内の水素結合を切断し、重縮合ポリマー粒子を水中に分離することで行われることが好ましい。この過程を経ない場合、重縮合ポリマー粒子(単粒子〜数個の単粒子の集合)が十分には得られにくい。
【0047】
O/Wエマルションを形成する工程において、抱水性油剤相に含まれる液状油成分の配合量は、O/Wエマルションに対して10質量%未満であることが好ましい。これにより、液状油成分によるリオトロピック球状液晶化の阻害が抑制される。液状油成分が多量に必要である場合には、液状油成分の乳化物を別途調製し、本発明の乳化物と混合することが好ましい。
【0048】
O/Wエマルションを形成する工程において、抱水性油剤の配合量が、O/Wエマルションに対して1質量%超であることが好ましい。これにより、リオトロピック球状液晶物の高い水分蒸散抑制効果をより向上することができる。
【0049】
また、O/Wエマルションを形成した後は、内相(抱水性油剤を含む油相)の液晶形成を阻害しないよう、エマルションを徐々に冷却することが好ましい。特に限定されないが、1時間あたり30〜120℃程度の速度で冷却すればよい。
【0050】
本発明の外用剤は、皮膚又は毛髪に適用されるものであるが、例えば、皮膚又は毛髪に適用される化粧料として使用することができる。本発明における化粧料とは、いわゆる化粧料に加えて医薬部外品(薬用化粧料)までを包含する概念を意味する。化粧料の具体的な形態は、特に限定されないが、クリーム、オイル美容液、洗顔料、クレンジング、リップ製剤(口紅、口紅の下地)等の皮膚用化粧料、ヘアトリートメント、スタイリング剤、パーマ・カラーの前後処理剤等の髪用化粧料、化粧品と類似した剤型で薬事法の対象外の製品(いわゆる、雑品)であってよい。これらのうち、本発明の外用剤は、密着性、付着性、べたつきのなさ、しっとり感及びその持続効果、被膜感、ツヤ持続性、シワ改善効果、保湿効果に優れることから、リップ製剤として用いることが好ましい。また、本発明の外用剤は、保湿効果に優れることから、保湿性が求められる製剤(例えば、目元用製剤、爪用製剤)として用いられることが好ましい。本発明の外用剤は、使用される用途に応じて、適宜他の成分を含んでよい。
【実施例】
【0051】
<リオトロピック球状液晶の安定性の確認>
(参考例1)
スルホン化セルロース誘導体粒子の分散液を調製した。1,2−ペンダンジオール、1,3−ブチレングリコールを加え、この分散液を80℃に加熱し、温水を加え、更に80℃の水添ナタネ油アルコールを加え、ホモミキサーにより6000rpm、80℃、10分間に亘って撹拌し、乳化を行った。その後、15分間かけて放冷し、更に35℃まで水冷することで、リオトロピック球状液晶を有する乳化物を調製した。なお、各成分の配合割合は、表1に示すとおりである。
【0052】
【表1】
【0053】
(安定性確認)
参考例1の乳化物をガラスプレートに球状ラメラ製剤を1滴垂らし、40℃の恒温槽へ保管した。保管前と、保管から7日経過後のリオトロピック球状液晶を顕微鏡により確認した。その結果を
図1に示す。
図1に示すように、40℃で7日経過しても、リオトロピック球状液晶は安定に維持されていたことがわかった。
【0054】
<実施例1〜6、比較例1>
実施例1〜6、比較例1の外用剤を、以下の表2の配合で調製した。具体的には、まず、スルホン化セルロース誘導体粒子の分散液を調製した。1,2−ペンダンジオール、1,3−ブチレングリコールを加え、この分散液を80℃に加熱し、温水を加え、更に80℃の水添ナタネ油アルコールを加え、ホモミキサーにより6000rpm、80℃、10分間に亘って撹拌し、乳化を行った。その後、15分間かけて放冷し、更に35℃まで水冷することで、リオトロピック球状液晶を有する乳化物を調製した。他方、パルミチン酸デキストリンをミネラルオイルに添加し、100℃以上に加温してパルミチン酸デキストリンの溶解を確認後、放冷することでオイルゲルを調製した後、乳化物とオイルゲルとを混合し、実施例1〜6、比較例1の外用剤を調製した。
【0055】
<比較例2>
比較例2の外用剤を、以下の表2の配合で調製した。具体的には、パルミチン酸デキストリンをミネラルオイルに添加し、100℃以上に加温してパルミチン酸デキストリンの溶解を確認後、放冷することでオイルゲルを調製した後、1,2−ペンダンジオール、1,3−ブチレングリコールとオイルゲル中とを混合し、比較例2の外用剤を調製した。
【0056】
<比較例3>
比較例3の外用剤を、以下の表2の配合で調製した。具体的には、パルミチン酸デキストリンをミネラルオイルに添加し、100℃以上に加温してパルミチン酸デキストリンの溶解を確認後、放冷することでオイルゲルを調製し、これを比較例3の外用剤とした。
【0057】
【表2】
【0058】
<リオトロピック球状液晶の確認>
実施例1〜6の外用剤について、リオトロピック球状液晶が形成されているかを顕微鏡により観察した。その結果を
図2に示す。
図2中、(a)が実施例1、(b)が実施例2、(c)が実施例3、(d)が実施例4、(e)が実施例5、(f)が実施例6、(g)が比較例1のぞれぞれの画像を示す。
図2に示すように、抱水性油剤の配合量が少ない比較例1ではリオトロピック球状液晶の形成されていなかったが、抱水性油剤の配合量が0.015質量%超である実施例1〜6の全ての外用剤において、リオトロピック球状液晶が形成されていることが確認できた。
【0059】
<テープストリッピング後のTEWL回復試験>
20代〜40代男性5名の被験者に、実施例2、比較例2の外用剤を用い、テープストリッピング後のTEWL回復試験を行った。具体的には、まず、被験者の左前腕内側をシャボン玉石けんで洗浄し、幅1.8cm、長さ3cmのセロハンテープで7回貼付→剥離を繰り返した。その後、剥離部位の塗布前に角層水分蒸散量(テヴァメーター)を測定した。その後、実施例2、比較例2の外用剤をそれぞれ米粒1粒程度塗布し、塗布15分後に角層水分蒸散量(テヴァメーター)を測定した。その結果を、
図3に示す。
【0060】
図3に示すように、使用前のTEWL平均値を1としたとき、実施例2の外用剤の方がリオトロピック球状液晶を有さない比較例2の外用剤より、TEWL値の低下がみられ、変化率が大きかったことから、実施例2のTEWLの改善効果が大きいことがわかった。
【0061】
<カップ法による水分蒸散抑制試験1>
実施例1〜6、比較例2、3の外用剤を用いて、カップ法による水分蒸散抑制試験を行った。まず、ガラス瓶に50gの水を入れ、その上に不織布を置き、不織布の上に各外用剤を0.5g塗布した。60℃で96時間インキュベートした後、サンプル(ガラス瓶中に残る水)の重さを測定し、インキュベート前のサンプル重量を100%としたときの水分残存率を評価した(n=3)。また、コントロールとして何も塗布していない不織布を準備し、これの水分残存率も評価した(対照例1)。その結果を
図4に示す。なお、水分残存率が高いほど、ガラス瓶内の水分の蒸散が抑制されたことを意味する。
【0062】
図4に示すように、リオトロピック球状液晶を有する実施例1〜6の外用剤は、全て、リオトロピック球状液晶を有さない比較例2、3の外用剤より水分残存率が高いこと、すなわち、水分の蒸散が抑制されることがわかった。
【0063】
<比較例4>
比較例4の外用剤を、以下の表3の配合で調製した。具体的には、まず、スルホン化セルロース誘導体粒子の分散液を調製した。この分散液に、ミリスチン酸オクチルドデシル、1,2−ペンダンジオール、1,3ブチレングリコールを加え、ホモミキサーにより6000rpm、80℃、10分間に亘って撹拌し、三相乳化法によりリオトロピック球状液晶を有さない乳化物を調製した。他方、パルミチン酸デキストリンをミネラルオイルに添加し、100℃以上に加温してパルミチン酸デキストリンの溶解を確認後、放冷することでオイルゲルを調製し、乳化物とオイルゲルとを混合し、比較例4の外用剤を調製した。
【0064】
<実施例7>
実施例7の外用剤を、以下の表3の配合で調製した。具体的には、水添ナタネ油アルコールをステアリルアルコールに変更し、各成分の配合割合を変更した点以外は、実施例1と同様の方法により、実施例7の外用剤を調製した。実施例7の各成分の配合割合は、表3に示すとおりである。
【0065】
<実施例8>
実施例8の外用剤を、以下の表3の配合で調製した。具体的には、1,2−ペンダンジオール、1,3ブチレングリコールを加えず、各成分の配合割合を変更した点以外は、実施例1と同様の方法により、実施例8の外用剤を調製した。
【0066】
<実施例9>
実施例9の外用剤を、以下の表3の配合で調製した。具体的には、マイクロクリスタリンワックスを加え、各成分の配合割合を変更した点以外は、実施例1と同様の方法により、実施例9の外用剤を調製した。
【0067】
<実施例10、11>
実施例10、11の外用剤を、以下の表3の配合で調製した。具体的には、各成分の配合割合を変更した点以外は、実施例1と同様の方法により、実施例10、11の外用剤を調製した。
【0068】
<実施例12>
実施例12の外用剤を、以下の表3の配合で調製した。具体的には、各成分の配合割合を変更した点以外は、実施例7と同様の方法により、実施例12の外用剤を調製した。なお、実施例12の外用剤は、後述の目元用製剤における試験において使用されるものである。
【0069】
<比較例5>
比較例5の外用剤を、以下の表3の配合で調製した。具体的には、マイクロクリスタリンワックスを加え、各成分の配合割合を変更した点以外は、比較例3と同様の方法により、比較例5の外用剤を調製した。
【0070】
<参考例2>
参考例2のヒアルロン酸水溶液を、以下の表3の配合で調製した。具体的には、水とミネラルオイルとパルミチン酸デキストリンとヒアルロン酸とを表3の割合になるように配合し、参考例2のヒアルロン酸水溶液を調製した。
【0071】
【表3】
【0072】
<カップ法による水分蒸散抑制試験2>
実施例2、比較例2、4の外用剤を用いて、カップ法による水分蒸散抑制試験を行った。まず、ガラス瓶に150gの水を入れ、その上に不織布を置き、不織布の上に各外用剤を1g塗布した。60℃で96時間インキュベートした後、サンプル(ガラス瓶中に残る水)の重さを測定し、水分残存率を評価した。その結果を
図5に示す。
図5に示すように、三相乳化物であってもリオトロピック球状液晶を有さない比較例4より、実施例2の方が水分蒸散抑制効果が認められたことから、リオトロピック球状液晶が水分蒸散抑制に寄与していることが示唆された。
【0073】
<カップ法による水分蒸散抑制試験3>
実施例6〜8、比較例3の外用剤を用いて、カップ法による水分蒸散抑制試験を行った。まず、ガラス瓶に50gの水を入れ、その上に不織布を置き、不織布の上に各外用剤を0.5g塗布した。60℃で96時間インキュベートした後、サンプル(ガラス瓶中に残る水)の重さを測定し、水分残存率を評価した。その結果を
図6、
図7に示す。
【0074】
図6に示すように、リオトロピック球状液晶において水添ナタネ油アルコールとは炭素数が異なる長鎖アルコール(高級アルコール)であるステアリルアルコールを用いた実施例7においても、水分蒸散抑制効果がみられた。このことから、炭素数が一定以上のリオトロピック液晶を形成する抱水性油剤であればよく、リオトロピック球状液晶であることが重要であることがわかった。
【0075】
図7に示すように、1,2−ペンダンジオール、1,3−ブチレングリコールを含まない実施例8においても、水分蒸散抑制効果がみられた。このことから、1,2−ペンダンジオール、1,3−ブチレングリコールがなくても、リオトロピック球状液晶を含むことで水分蒸散抑制効果を得られることが確認された。
【0076】
<カップ法による水分蒸散抑制試験4>
実施例2、9〜11、比較例3、5の外用剤を用いて、カップ法による水分蒸散抑制試験を行った。まず、ガラス瓶に50gの水を入れ、その上に不織布を置き、不織布の上に各外用剤を0.5g塗布した。60℃で96時間インキュベートした後、サンプル(ガラス瓶中に残る水)の重さを測定し、水分残存率を評価した。その結果を
図8、
図9に示す。
【0077】
図8に示すように、外相にマイクロクリスタリンワックスを用い、硬いバーム状の実施例9においても、水分蒸散抑制効果がみられた。このことから、外相のオイルゲルがバーム状であっても、リオトロピック球状液晶を含むことで水分蒸散抑制効果を得られることがわかった。
【0078】
図9に示すように、実施例10、11のいずれにおいても、水分蒸散抑制効果がみられた。このことから、1,2−ペンタンジオールや1,3−ブチレングリコール等の量に依存せずに、リオトロピック球状液晶を含むことで水分蒸散抑制効果を得られることがわかった。
【0079】
<カップ法による水分蒸散抑制試験5>
実施例2の外用剤、参考例2のヒアルロン酸水溶液、比較例2の外用剤を用いて、カップ法による水分蒸散抑制試験を行った。まず、ガラス瓶に150gの水を入れ、その上に不織布を置き、不織布の上に各外用剤を1g塗布した。60℃で96時間インキュベートした後、サンプル(ガラス瓶中に残る水)の重さを測定し、水分残存率を評価した。その結果を
図10に示す。
図10に示すように、三相乳化物によるリオトロピック球状液晶は、ヒアルロン酸と同程度の水分蒸散抑制効果を有することがわかった。
【0080】
<リップ製剤としての官能評価1>
実施例2、比較例2の外用剤のリップ製剤としての官能評価を行った。具体的には、まず、それぞれの外用剤を唇に塗布し、表4中の(1)〜(10)の項目を評価した。評価は、1〜7点で評価し、点数が高いほど評価が高いものとした。評価は、20〜30代女性3名により行った。その平均点を以下の表4に示す。
【0081】
【表4】
【0082】
表4に示すとおり、「べたつきのなさ」「直後のしっとり感」や「しっとり感の持続性」、「口紅との相性」等、全体的な評価において、リオトロピック球状液晶を有する実施例2の方が比較例2より評価が優れていた。
【0083】
<目元用製剤としての官能評価>
実施例12の外用剤の目元用製剤としての官能評価を行った。具体的には、まず、外用剤を目元に塗布し、表5中の各項目を評価した。評価は、1〜5点で評価し、点数が高いほど評価が高いものとした。評価は、20〜30代女性3名により行った。その平均点を以下の表5に示す。
【0084】
【表5】
【0085】
表5に示すように、全体的に評価が高く、高い保湿性を有することがわかった。このことから、目元、爪等の保湿製剤としての利用に適していることがわかった。
【0086】
<口紅の下地としての評価>
実施例2、比較例2の外用剤の口紅の下地としての官能評価を行った。また、これらのほかに、ミネラルオイル94.55%、マイクロクリスタリンワックス0.15%、パルミチン酸デキストリン5%の割合で調製した外相に固形油を有する外用剤(比較例6)を準備し、これについても口紅の下地としての官能評価を行った。
【0087】
具体的な評価の方法としては、まず、上腕内側にそれぞれ製剤を塗布し、5分置いた。その後スティック口紅を塗布し、観察外用剤を目元に塗布し、観察して肌との均一密着性を評価した。評価は、1〜5点で評価し、点数が高いほど評価が高いものとした。その評価結果を表6に示す。
【0088】
【表6】
【0089】
表6に示すように、リオトロピック球状液晶を有する実施例2が、最も均一密着性が高かったことから、口紅の下地に適していることがわかった。
【0090】
<実施例12>
スルホン化セルロース誘導体粒子をレシチンに置き換えた点以外は、実施例1と同様の手順で、下記表7に示すとおりの配合で、実施例12の外用剤を調製した。なお、下記表7には、上述の比較例2の配合も併記している。
【0091】
【表7】
【0092】
<カップ法による水分蒸散抑制試験6>
実施例12の外用剤、比較例2の外用剤を用いて、カップ法による水分蒸散抑制試験を行った。まず、ガラス瓶に50gの水を入れ、その上に不織布を置き、不織布の上に各外用剤を0.5g塗布した。60℃で96時間インキュベートした後、サンプル(ガラス瓶中に残る水)の重さを測定し、水分残存率を評価した。その結果、リオトロピック球状液晶を有する実施例12の水分残存率は89.39%であったのに対し、比較例2の水分残存率は85.97%であった。このようにレシチンを閉鎖小胞体として用いた場合も、同様に水分蒸散を抑制できることがわかった。
【0093】
<リップ製剤としての官能評価1>
実施例12、比較例2の外用剤のリップ製剤としての官能評価を行った。具体的には、まず、それぞれの外用剤を唇に塗布し、表8中の各項目を評価した。評価は、1〜7点で評価し、点数が高いほど評価が高いものとした。評価は、20〜30代女性3名により行った。その平均点を以下の表8に示す。
【0094】
【表8】
【0095】
表8に示すとおり、全体的な評価において、リオトロピック球状液晶を有する実施例12の方が比較例2より評価が優れていた。このようにレシチンを閉鎖小胞体として用いた場合も、同様にリップ製剤に適してることがわかった。