(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記測定工程では、アゾメチンH吸光光度法、イオンクロマトグラフィー法、およびボルタンメトリー法からなる群より選択される少なくとも1種類の方法によりホウ素量を定量する、請求項1または2に記載の分析方法。
流れ分析法により、試料液体中のホウ素量を定量するための前処理方法であって、試料液体に金属イオンを元素換算で終濃度が14.8mmol以下になるように添加後、酸性条件下で加熱し、
前記金属イオンは、アルミニウムイオン、3価の鉄イオン、および3価のクロムイオンからなる群より選択される少なくとも1種類のイオンである、前処理方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。但し、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本明細書においては特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上、B以下」を意味する。また、「質量」と「重量」は同義語であると見なす。
【0010】
(I)分析方法
本発明者らは、液体中のホウ酸を簡便に定量できるという点で、アゾメチンH吸光光度法に着目した。アゾメチンH吸光光度法は、ホウ酸がアゾメチンHと反応して生成する黄色の錯体の吸光光度を測定することにより、ホウ素を定量する方法である。
【0011】
しかし、アゾメチンH吸光光度法では、液体中のホウ酸を測定することはできるが、液体中のすべてのホウ素を定量することはできない。かかる問題点について検討した結果、本発明者らは、試料液体に金属イオンを添加後、酸性条件下で加熱することにより、試料液体中に存在するテトラフルオロホウ酸イオン(BF
4−)を分解した後にアゾメチンH吸光光度法による測定を行うことにより、様々な試料液体中のホウ素量簡便に定量することが可能となることを見出した。そしてかかる方法は、アゾメチンH吸光光度法以外のホウ素量の定量方法と組み合わせて用いることも可能である。
【0012】
すなわち、本発明の一実施形態に係る分析方法は、試料液体中のホウ素量を定量するための分析方法であって、試料液体に金属イオンを添加後、酸性条件下で加熱する前処理工程と、前記前処理工程にて前処理された試料液体中のホウ素量を定量する測定工程と、を含む。
【0013】
前記試料液体はどのような液体であってもよい。前記試料液体は好ましくは水を含む液体である。例えば、前記試料液体は、地下水、温泉水、沼湖水、海水、工場排水、鉱山排水、河川水、RO膜により海水から精製された淡水及びその工程水、排水処理を行った後の処理水等でありうる。中でも、本発明の一実施形態に係る分析方法によれば、テトラフルオロホウ酸を含む試料液体中のホウ素量を定量することができる。例えば、高濃度のフッ素及びホウ素を含有するガラス製造工場及びメッキ工場等の排水中では、フッ素とホウ素とが酸性領域で結合して難分解性のテトラフルオロホウ酸が生成している。このテトラフルオロホウ酸に含まれるホウ素は、従来の簡便なホウ素量の測定方法では測定することができなかった。本発明の一実施形態に係る分析方法によれば、このような排水中のホウ素量も定量することができる。
【0014】
(I−1 前処理工程)
本発明の一実施形態に係る分析方法では、前処理工程にて、前記試料液体に金属イオンを添加後、酸性条件下で加熱する。前記試料液体に金属イオンを添加後、酸性条件下で加熱することにより、試料液体にテトラフルオロホウ酸が含まれている場合、テトラフルオロホウ酸を、金属フッ化物イオンとホウ酸とに分解することができる。よって、テトラフルオロホウ酸を形成するホウ素を、ホウ酸として測定することが可能となる。それゆえ、アゾメチンH吸光光度法、イオンクロマトグラフィー法、ボルタンメトリー法等のようなホウ酸の測定方法を用いて、全ホウ素量を定量することができる。これにより、酸分解−ICP発光分光分析法および酸分解−ICP質量分析法よりも、より簡便かつ迅速に、テトラフルオロホウ酸を含む試料液体をはじめ、様々な試料液体中の全ホウ素量を定量することができる。
【0015】
前記金属イオンは、試料液体に溶解して金属イオンを生じる金属化合物の形で添加されてもよいし、金属イオンを生じている金属化合物溶液の形で添加されてもよい。前記金属イオンとしては、例えば、アルミニウムイオン、3価の鉄イオン、および3価のクロムイオンが挙げられる。これらの金属は、単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
中でも、前記金属イオンは、より好ましくは、アルミニウムイオンまたは3価の鉄イオンであり、さらに好ましくは、アルミニウムイオンである。
【0017】
試料液体に溶解して金属イオンを生じる金属化合物も特に限定されるものではなく、例えば、前記金属の硫酸塩、塩酸塩、硝酸塩、リン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、酸化物、水酸化物、塩化物、硫化物等を挙げることができる。前記金属が、例えばアルミニウムである場合、前記金属化合物は、アルミニウム化合物であり、例えば、硫酸アルミニウム、酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、クエン酸アルミニウム、シュウ酸アルミニウム、水酸化アルミニウム等を挙げることができる。また、前記金属が、例えば鉄(III)である場合、前記金属化合物は、3価の鉄化合物であり、例えば、硫酸鉄(III)、塩化鉄(III)、硝酸鉄(III)、リン酸鉄(III)、酸化鉄(III)、酢酸鉄(III)、クエン酸鉄(III)シュウ酸鉄(III)、水酸化鉄(III)等を挙げることができる。さらに、前記金属が、例えばクロム(III)である場合、前記金属化合物は、3価のクロム化合物であり、例えば、硫酸クロム(III)、塩化クロム(III)、硝酸クロム(III)、リン酸クロム(III)、酸化クロム(III)、酢酸クロム(III)、シュウ酸クロム(III)、水酸化クロム(III)等を挙げることができる。
【0018】
添加する金属イオンの量は、試料液体中に含まれるテトラフルオロホウ酸の量にもよるため特に限定されない。
【0019】
前記金属イオンは、元素換算で、終濃度が0.01μmol/L〜1000μmol/Lとなるように添加することが好ましい。前記金属イオンが例えばアルミニウムイオンである場合、アルミニウムイオンを終濃度が5μmol/L以上となるように添加することがより好ましい。これにより、試料液体に含まれるテトラフルオロホウ酸をホウ酸に十分に分解することができるため、分析誤差を小さくすることができる。また、多量のアルミニウムイオンは、例えばアゾメチンHの発色阻害となる等、測定に誤差を生じさせる原因となりうるが、アルミニウムイオンを終濃度が5mg/L以下となるように添加することにより、測定結果への影響を最小限に抑えることができるため、分析誤差を小さくすることができる。
【0020】
本発明の一実施の形態に係る分析方法では、前処理工程において、加熱時に、金属イオンを添加した試料液体が酸性であることが好ましく、pHが2以下であることがより好ましく、1以下であることがさらに好ましい。金属イオンを添加した試料液体が酸性でない場合、酸性のpH調整剤を加えることにより前記試料液体を酸性にすることが好ましい。酸性のpH調整剤としては、pHを酸性に調整することができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、酢酸、クエン酸等を挙げることができる。酸性のpH調整剤の添加は、加熱時に試料液体が酸性になるように行えばよく、金属イオンを添加する前に添加してもよいし、金属イオンの添加と同時に添加してもよいし、金属イオンを添加した後に添加してもよい。加熱時の試料液体が酸性であることにより、試料液体に含まれるテトラフルオロホウ酸が、金属イオンと反応してホウ酸に分解される。
【0021】
本発明の一実施の形態に係る分析方法では、前記試料液体に金属イオンを添加後、酸性条件下で加熱するときの加熱温度は、80℃以上であることが好ましく、82℃以上であることがより好ましく、85℃以上であることがさらに好ましく、90℃以上であることが特に好ましく、95℃以上であることが最も好ましい。加熱温度の上限値は、試料液体が沸騰する温度よりも低ければよい。したがって、加熱温度の上限値は通常(常圧)では100℃未満であるが、減圧条件下または高圧条件下では、その圧力条件に応じた沸点より低い温度であればよい。加熱温度が80℃以上であることにより、試料液体中に含まれるテトラフルオロホウ酸のホウ酸への分解率が高くなる。ホウ酸への分解率を高めることができることにより、ホウ素量の分析誤差を小さくすることができる。本発明の一実施形態に係る分析方法では、前記試料液体に金属イオンを添加後、酸性条件下で加熱するときの加熱時間は、1分間以上であることが好ましく、3分間以上であることがより好ましい。上限は特に限定されないが、迅速な定量という観点からは5分間以下であることが好ましい。上記範囲の時間加熱することにより、試料液体に含まれるテトラフルオロホウ酸をホウ酸に十分分解することができる。
【0022】
加熱後は、溶液が20℃〜40℃になるまで冷却してからホウ素量を定量することが好ましい。
【0023】
(I−2 測定工程)
本発明の一実施形態に係る分析方法では、測定工程にて、前記前処理工程にて前処理された試料液体中のホウ素量を定量する。
【0024】
ホウ素量を定量する方法は、特に限定されないが、例えば、アゾメチン吸光光度法、イオンクロマトグラフィー法、ボルタンメトリー法等を好適に用いることができる。アゾメチン吸光光度法は、前記前処理工程にて前処理された試料液体にアゾメチンH(8−N−(2−ヒドロキシベンジリデン)−アミノ−1−ヒドロキシ−3,6−ナフタレンジスルホン酸)を添加してホウ酸と反応させ、生成した黄色を呈する錯体の吸光度を測定する方法であり、例えば、JIS K 0102に規定されている方法を用いることができる。イオンクロマトグラフィー法は、常法により行えばよいが、例えば、JIS K 0127に規定されている方法を好適に用いることができる。より簡便かつ迅速に測定できることから、測定方法は、アゾメチンH吸光光度法であることがより好ましい。アゾメチン吸光光度法によってホウ酸を定量することにより、酸分解−ICP発光分析法および酸分解−ICP質量分析法のように酸ミスト排出の設備を要する酸分解前処理の必要がなく、メチレンブルー吸光光度法のように溶媒抽出等の煩雑な作業を行う必要がないため、試料液体中に含まれるホウ素量を簡便かつ迅速に分析することができる。また、ICP発光分析法およびICP質量分析法に用いられる装置に比べて、装置が安価で大型の設備を要しないため、低コストで簡便に分析することができる。
【0025】
アゾメチンH吸光光度法を用いる場合、アゾメチンHの添加量は、試料液体中のホウ素量によるため特に限定されないが、例えば、試料液体中のホウ素量が9.2μmol/L以下であると予想される場合、試料液体中の終濃度が0.1g/L〜1000g/Lとなるように添加することが好ましく、1g/L〜100g/Lとなるように添加することがより好ましく、5g/L〜20g/Lとなるように添加することがさらに好ましい。これにより、アゾメチンHがホウ酸と十分に錯体を形成することができるため、吸光度から求められるホウ酸の分析の誤差率を低減することができる。吸光光度計により、アゾメチンH添加後の試料液体の吸光度を測定することにより、吸光度から試料に含まれるホウ酸の量を求めることができる。
【0026】
本発明の一実施形態に係る分析方法は、前記前処理工程と前記測定工程とを含んでいればよい。したがって、前記前処理工程にて行う前処理と、前記測定工程にて行う定量とを別々に行ってもよいし、前記前処理工程にて行う前処理と前記測定工程にて行う定量とを連続的に行うことも可能である。前記前処理と前記定量とを連続的に行う方法としては、前記前処理工程にて前処理された試料液体を、前記測定工程にて定量を行う装置に供給して定量を行う方法を挙げることができる。かかる連続的な分析方法も特に限定されるものではないが、一例として、例えば、流れ分析法を好適に用いることができる。本発明者らは、前記前処理工程を流れ分析法に適用できることを初めて見出した。これにより、前記前処理工程と前記測定工程とを含めたホウ素量を定量するための全工程を、簡便な装置を用いて、自動で行うことを初めて達成した。流れ分析法としては、連続流れ分析法(CFA)およびフローインジェクション分析法(FIA)がある。CFAは、試料液体および試薬が気泡によって分節された、細管内の連続的な流れの中に、それぞれ試料および試薬を導入し、反応操作を行った後、気泡を除去し、下流に設けた検出器で、分析成分を検出して定量する方法である。また、FIAは、気泡で分節されていない試薬または試料の細管内の流れの中に、それぞれ試料および試薬を導入し、反応操作を行った後、下流に設けた検出器で、分析成分を検出して定量する方法である。本発明の一実施形態に係る分析方法は、CFAを使用する分析方法であってもよいし、FIAを使用する分析方法であってもよい。中でも、試料液体が気泡で分節されてセグメントに分かれることにより、各試料液体同士が相互に一部混合することを防いで、より精度よく定量することができる点で、CFAを使用する分析方法がより好ましい。流れ分析法により前記前処理とホウ素量の定量とを行うことにより、手分析をする必要がなく、様々な試料液体中のホウ素量自動で簡便に定量することができる。それゆえ、分析対象となる液体について、24時間の連続モニタリングを行うことができる。このような自動定量は、従来、海水、金属イオン等のマトリクスおよびテトラフルオロホウ酸を含む溶液では不可能であった。
【0027】
(II)分析装置
上述したように、本発明者らは、試料液体中に存在するテトラフルオロホウ酸イオンを分解した後にホウ素量の定量を行うことにより、様々な試料液体中のホウ素量を簡便に定量することが可能となることを見出した。したがって、本発明には、試料液体中のテトラフルオロホウ酸イオンを分解することができる前処理部を含んだ、試料液体中のホウ素量を定量するための分析装置も含まれる。
【0028】
すなわち、本発明の一実施形態に係る分析装置は、試料液体中のホウ素量を定量するための分析装置であって、反応容器と、金属イオン含有液導入部と、加熱器とを含む前処理部と、前記前処理部にて前処理された試料液体のホウ素量を定量するための測定部と、を備えている。
【0029】
本発明の一実施形態に係る分析装置では、前記前処理部は、反応容器と、金属イオン含有液導入部と、加熱器とを含んでいる。より具体的には、例えば、反応容器と、前記反応容器に金属イオンを導入するための金属イオン含有液導入部と、前記反応容器の内容物を加熱するための加熱器とを備えている。前記反応容器は、試料液体を装填可能な容器であれば特に限定されるものではなく、金属製、ガラス製、樹脂製等の容器を用いることができる。また、前記反応容器の、形状および容量も特に限定されるものではない。前記金属イオン含有液導入部は、前記反応容器に前述した金属イオンを導入することができる装置であれば特に限定されるものではなく、例えば、金属イオンを導入するための、管、導入口、吸引バルブ等を挙げることができる。前記加熱器は、前記反応容器の内容物を加熱することができれば特に限定されるものではない。前記反応容器に、試料液体が装填された後、当該反応容器内に、前記金属イオン含有液導入部を介して、前記金属イオンが導入される。その後、反応容器内で、試料液体と金属イオンが反応して、試料液体内にテトラフルオロホウ酸が含まれる場合に、テトラフルオロホウ酸が分解される。また、前記前処理部は、加熱器を含んでおり、当該加熱器により、反応容器内の試料液体と金属イオンとを加熱することにより、試料液体にテトラフルオロホウ酸が含まれる場合に、テトラフルオロホウ酸の分解が促進される。前記前処理部は、さらに、金属イオンを添加後の試料液体を、酸性条件下で加熱するために、pH調整剤を導入するためのpH調整剤導入部を備えていてもよい。また、前記前処理部は、さらに、反応容器内の温度を一定に維持するための、温度調節装置を含んでいてもよい。前記温度調節装置は、前記前処理部において、反応容器の内容物の温度を、好ましくは80℃以上、より好ましくは82℃以上、さらに好ましくは85℃以上、特に好ましくは90℃以上、最も好ましくは95℃以上に設定するための温度調節装置でありうる。前記温度調節装置としては、熱線コイル等を好適に用いることができる。
【0030】
本発明の一実施形態に係る分析装置では、前記測定部は、前処理された試料液体のホウ素量を定量するための装置であれば特に限定されるものではない。かかる装置としては、アゾメチン吸光光度法、イオンクロマトグラフィー法、ボルタンメトリー法等により、前処理された試料液体のホウ素量を定量するための装置であることが好ましい。アゾメチン吸光光度法、イオンクロマトグラフィー法、ボルタンメトリー法等により、前処理された試料液体のホウ素量を定量するための装置も、特に限定されるものではなく、これらの測定方法を実施するために通常使用される装置を用いればよい。
【0031】
なお、前記(I)で説明した内容と重複する内容に関しては、ここではその説明を省略する。
【0032】
本発明の一実施形態に係る分析装置は、前記前処理部と前記測定部とが独立していてもよいし、前記前処理部と前記測定部とが接続されていてもよい。前記前処理部と前記測定部とが接続されている分析装置によれば、前記前処理と前記定量とを連続的に行うことができる。かかる分析装置としては、前記前処理部と前記測定部とを、ラインまたはパイプで接続することにより、前記前処理部にて前処理された試料液体を、前記測定部に供給して定量を行うことができる。かかる装置の一例として、例えば、流れ分析法による分析装置を挙げることができる。これにより、前記前処理工程と前記測定工程とを含めたホウ素量を定量するための全工程を、簡便な装置を用いて、自動で行うことができる。流れ分析法による分析装置としては、CFAを使用する分析装置であってもよいし、FIAを使用する分析装置であってもよい。中でも、各試料液体が気泡により分節されることによって、各試料液体同士が相互に一部混合することを防ぐことができる点で、CFAを使用する分析装置がより好ましい。流れ分析法に基づく分析装置により前記前処理とホウ素量の定量とを行うことにより、手分析をする必要がなく、様々な試料液体中のホウ素量自動で簡便に定量することができる。それゆえ、分析対象となる液体について、24時間の連続モニタリングを行うことができる。
【0033】
本発明の一実施形態に係る分析装置の概略構成を
図1に示す。
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る分析装置10は、試薬および試料液体を流すための細管1と、試料を導入するための試料導入部2と気泡分節を行うための気泡(空気)を前記細管1に導入するための気泡導入部3と前記細管1内に金属イオン含有液を導入するための金属イオン含有液導入部4と加熱器5とを含む前処理部と、前記細管1の前記前処理部より下流側に設けられた測定部であって、前記細管1内に発色液を導入する発色液導入部6と、前記発色液導入部6の下流側に設けられた反応部7と、前記反応部7の下流側に設けられた検出部8とを含む測定部と、を備えている。
【0034】
分析装置10は、連続流れ分析法(CFA)による分析装置であり、試料導入部2を介して試料液体を細管1に導入し、試料液体が流れる細管1内の流れの中に気泡(空気)を導入して試料液体を気泡分節し、気泡分節された試料液体に金属イオン含有液導入部4を介して金属イオン含有液を導入した後、加熱器5により加熱して反応させることにより、前処理を行う。その後、前処理された試料液体が流れる細管1内の流れの中に、下流側に設けた発色液導入部6を介して発色液を導入し、反応部7で反応させた後、検出部8でホウ素を検出して定量する。
【0035】
前記気泡として使用される気体は、前記前処理およびホウ素量の定量に影響を与えない気体であればよいが、例えば空気、窒素等である。
【0036】
前記試薬とは、試料液体に添加する試薬をいい、前記発色液、前記金属イオン含有液等を指す。前記発色液は、試料液体中のホウ素と反応して、定量が可能な化学種を生成することができる剤を含む液体であれば特に限定されるものではない。例えば、試料液体中のホウ素と反応して、蛍光物質、特定の色を有する錯体等、光学的な定量が可能な化学種を生成することができる剤を含む液体を挙げることができる。例えば、ホウ素量の測定を、アゾメチン吸光光度法により行う場合には、前記発色液はアゾメチンHであり、この場合、前記検出部8は、例えば吸光光度計である。また、前記反応部7において、前処理された試料液体中のホウ酸が、アゾメチンHと反応することにより、黄色を呈する錯体が形成される。前記検出部8も、反応部7で生成した化学種を定量できる装置であれば特に限定されるものではない。前記検出部8としては、吸光光度計等の光学的測定器、ボルタンメトリー等を用いることができる。金属イオン含有液導入部4および加熱器5については、前述したとおりである。発色液導入部6は、金属イオン含有液導入部4と同様の構成でありうる。また、本発明の他の実施形態に係る分析装置は、さらに、前処理部に、前述したpH調整剤導入部、および前述した温度調節装置の少なくとも1つを備えていてもよい。
【0037】
また、本発明の一実施形態に係る流れ分析法による分析装置は、さらに、気泡分節を行うために導入された気泡を排気するための気泡排出部を備えていてもよい。
【0038】
さらに、本発明の一実施形態に係る流れ分析法による分析装置では、前記試薬として、界面活性剤、緩衝剤等を用いてもよく、これらを細管1に導入するための導入部を備えていてもよい。
【0039】
本発明の他の一実施形態に係る分析装置の概略構成を
図2に示す。
図2に示すように、本発明の一実施形態に係る分析装置11は、試薬を含むキャリヤー液および試料液体を流すための細管1と、試料を導入するための試料導入部2と前記細管1内に金属イオン含有液を導入するための金属イオン含有液導入部4と加熱器5とを含む前処理部と、前記細管1の前記前処理部より下流側に設けられた測定部であって、前記細管1内に発色液を導入する発色液導入部6と、前記発色液導入部6の下流側に設けられた反応部7と、前記反応部7の下流側に設けられた検出部8とを含む測定部と、を備えている。すなわち、分析装置11は、試料導入部の上流にキャリヤー液導入部が設けられ、試料導入部と金属イオン含有液導入部との間の気泡導入部が設けられていない以外は
図1に示す分析装置10と同じ構成である。
【0040】
分析装置11は、フローインジェクション分析法(FIA)による分析装置であり、キャリヤー液導入部9を介してキャリヤー液を細管1に導入し、キャリヤー液が流れる細管1内の流れの中に試料導入部2を介して試料液体を導入し、キャリヤー液および試料液体が流れる細管1内の流れの中に金属イオン含有液導入部4を介して金属イオン含有液を導入した後、加熱器5により加熱して反応させることにより、前処理を行う。その後、キャリヤー液および前処理された試料液体が流れる細管1内の流れの中に、下流側に設けた発色液導入部6を介して発色液を導入し、反応部7で反応させた後、検出部8でホウ素を検出して定量する。
【0041】
前記キャリヤー液とは、前処理および試料液体中のホウ素量の定量に好ましくない影響を及ぼさない液体であれば特に限定されるものではなく、例えば、水、界面活性剤等を挙げることができる。
(III)テトラフルオロホウ酸の分析方法
本発明に係る分析方法は、例えば、テトラフルオロホウ酸を含有する液体中のテトラフルオロホウ酸を定量するために利用することができる。したがって、本発明には、テトラフルオロホウ酸を含入する液体中のテトラフルオロホウ酸を定量するための分析方法も含まれる。
【0042】
本発明の一実施形態に係るテトラフルオロホウ酸の分析方法は、前述した試料液体中のホウ素量を定量するための分析方法を用いて試料液体中のホウ素を定量して全ホウ素量を決定する工程(以下、全ホウ素量定量工程と称することがある)、試料液体中のホウ素イオンを定量してホウ素イオン量を決定する工程(以下、ホウ素イオン量定量工程と称することがある)、および、下記式(1)により、試料液体中のテトラフルオロホウ酸に由来するホウ素量を算出する工程(以下、テトラフルオロホウ酸由来ホウ素素量算出工程と称することがある)、
(試料液体中のテトラフルオロホウ酸に由来するホウ素量)={(全ホウ素量)−(ホウ素イオン量)}×補正係数 … 式(1)
(式(1)中、補正係数=100/(100−{(既知量のテトラフルオロホウ酸のみを含む標準液を添加した後の試料液体中のホウ素イオン量)−(前記標準液を添加する前の試料液体中のホウ素イオン量)}/(添加した前記標準液中のテトラフルオロホウ酸に由来するホウ素量)×100)である。)を含む。
【0043】
(III−1 全ホウ素量定量工程)
本工程において、試料液体中のホウ素を定量するとは、試料液体中に含まれるすべての形態のホウ素の量を元素換算で定量することをいう。
【0044】
本実施形態においては、前記(I)にて説明した試料液体中のホウ素量を定量するための分析方法を用いて試料液体中のホウ素を定量して全ホウ素量を決定する。
【0045】
(III−2 ホウ素イオン量定量工程)
本実施形態において、試料液体中のホウ素イオンを定量してホウ素イオン量を決定する方法は、これに限定されるものではないが、例えば、イオンクロマトグラフィー法、アゾメチンH法、流れ分析法によるアゾメチンH法等を挙げることができる。
【0046】
イオンクロマトグラフィー法は、常法により行えばよいが、例えば、JIS K 0127に規定されている方法を用いることができる。アゾメチンH法は、常法により行えばよいが、例えば、JIS K 0102 47.2に規定されている方法を用いることができる。簡便にホウ素を定量できるという観点から、本工程では、ホウ素イオンをアゾメチンH法により定量することがより好ましい。アゾメチンH法は、流れ分析法により行うこともできる。
【0047】
前記全ホウ素量定量工程にて使用する測定方法と、本ホウ素イオン量定量工程にて使用する測定方法との組合せは特に限定されるものではなく任意の組合せが可能である。中でも、全ホウ素量定量工程にて、加熱分解流れ分析法を使用し、ホウ素イオン量定量工程にて流れ分析法によるアゾメチンH法を使用する場合は、簡便に自動で全ホウ素量とホウ素イオン量とを定量することができる。また、後述するテトラフルオロホウ酸由来ホウ素量算出工程および試料液体中のテトラフルオロホウ酸量を算出する工程を行うための演算装置と接続すれば、試料液体中のテトラフルオロホウ酸量を、自動で測定することができる。それゆえ、試料液体の24時間連続モニタリングも可能となる。
【0048】
(III−3 テトラフルオロホウ酸由来ホウ素量算出工程)
本工程では、前記全ホウ素量定量工程において得られた前記試料液体中の全ホウ素量と、前記ホウ素イオン量定量工程において得られた前記試料液体中のホウ素イオン量とから、下記式(1)により、試料液体中のテトラフルオロホウ酸に由来するホウ素量を算出する。
(試料液体中のテトラフルオロホウ酸に由来するホウ素量)={(全ホウ素量)−(ホウ素イオン量)}×補正係数 … 式(1)
式(2)中、補正係数=100/(100−{(既知量のテトラフルオロホウ酸のみを含む標準液を添加した後の試料液体中のホウ素イオン量)−(前記標準液を添加する前の試料液体中のホウ素イオン量)}/(添加した前記標準液中のテトラフルオロホウ酸に由来するホウ素量)×100)である。
【0049】
前記補正係数を算出する工程(以下、補正係数算出工程と称することがある。)は、分析する対象である試料液体の由来が同一であれば、測定の都度行う必要はなく、前記式により予め決定しておいた補正係数を使用すればよい。分析対象である試料液体の由来が同一であれば、当該試料溶液に含まれる成分の含有量も略同一であるため、補正係数Bも同一であると近似することができる。由来が同一の試料液体について、補正係数B算出工程を、定期的に行ってもよい。これにより、試料液体に含まれる成分に変動が生じた場合であっても、正確な定量を行うことができる。
【0050】
本発明者らが、テトラフルオロホウ酸のみを含む標準液の全ホウ素量およびホウ素イオン量を測定したところ、テトラフルオロホウ酸のホウ素全量に対して一部のホウ素が、ホウ素イオンとして検出されるとの知見を得た。
【0051】
そして、本発明者らは、前記知見に基づき、テトラフルオロホウ酸を含有する液体中のテトラフルオロホウ酸に由来するホウ素の量は、試料液体中の全ホウ素量からホウ素イオン量を引いた量に、ホウ素イオンとして存在するホウ素の割合を補正するための補正係数を乗ずることにより決定できることを見出した。
【0052】
(III−4 試料液体中のテトラフルオロホウ酸量を算出する工程)
前記テトラフルオロホウ酸由来ホウ素量算出工程において得られたホウ素量は、試料液体中のテトラフルオロホウ酸量を示す指標となるものであるが、本発明の一実施形態に係るテトラフルオロホウ酸の分析方法は、さらに、前記試料液体中のテトラフルオロホウ酸量に由来するホウ素量から、試料液体中のテトラフルオロホウ酸量を算出する工程を含んでいてもよい。
【0053】
試料液体中のテトラフルオロホウ酸量は、重量により算出してもよいし、モル量により算出してもよい。例えば、重量により算出する場合、試料液体中のテトラフルオロホウ酸量は、下記式(2)により算出することができる。
(試料液体中のテトラフルオロホウ酸量)=(試料液体中のテトラフルオロホウ酸に由来するホウ素量)×{(テトラフルオロホウ酸の分子量)/(テトラフルオロホウ酸中のホウ素の元素量) …(2)
(III−5 補正係数算出工程)
前記テトラフルオロホウ酸由来ホウ素量算出工程において、補正係数としては、予め前述した方法にて決定した補正係数を使用すればよいが、本発明の一実施形態に係るテトラフルオロホウ酸の分析方法は、さらに、補正係数を算出する工程を含んでいてもよい。
【0054】
本工程では、既知量のテトラフルオロホウ酸のみを含む標準液を添加した後の試料液体中のホウ素イオン量と、前記標準液を添加する前の試料液体中のホウ素イオン量と、添加した前記標準液中のテトラフルオロホウ酸に由来するホウ素量とから、補正係数Bを算出する。このとき、既知量のテトラフルオロホウ酸のみを含む標準液を添加した後の試料液体中のホウ素イオン量を測定する方法は、前記ホウ素イオン量定量工程において、試料液体中のホウ素イオンを定量してホウ素イオン量を決定する方法と同じ方法で行うことがより好ましい。
【0055】
(IV)テトラフルオロホウ酸の分析装置
本発明に係る分析方法は、例えば、テトラフルオロホウ酸を含有する液体中のテトラフルオロホウ酸を定量するために利用することができる。したがって、本発明には、テトラフルオロホウ酸を含入する液体中のテトラフルオロホウ酸を定量するための分析装置も含まれる。
【0056】
すなわち、本発明の一実施形態に係る分析装置は、試料液体中のテトラフルオロホウ酸量を定量するための分析装置であって、全ホウ素量定量装置と、ホウ素イオン量定量装置と、補正係数Bを入力する入力部を備え、全ホウ素量定量装置から出力される全ホウ素量と、ホウ素イオン量定量装置から出力されるホウ素イオン量と、補正係数Bとから、試料液体中のテトラフルオロホウ酸量を算出する演算装置とを含む。ここで、補正係数B=100/(100−{(既知量のテトラフルオロホウ酸のみを含む標準液を添加した後の試料液体中のホウ素イオン量)−(前記標準液を添加する前の試料液体中のホウ素イオン量)}/(添加した前記標準液中のテトラフルオロホウ酸に由来するホウ素量)×100)である。
【0057】
テトラフルオロホウ酸量を定量するための分析装置の一例を、
図3を参照して詳述する。
【0058】
図3に示す分析装置40は、全ホウ素量定量装置10、ホウ素イオン量定量装置20、および、補正係数Bを入力する入力部を備え、全ホウ素量定量装置から出力される全ホウ素量と、ホウ素イオン量定量装置から出力されるホウ素イオン量と、補正係数Bとから、試料液体中のテトラフルオロホウ酸量を算出するための演算装置30を備えている。
【0059】
図3に示すホウ素イオン量定量装置20は、連続流れ分析法(CFA)によりホウ素イオン量を測定することができる装置(以下、CFAホウ素イオン量定量装置20と称する)である。CFAホウ素イオン量定量装置20は試料が通る細管1を備えており、試料導入部2、反応部7、および検出部8を、細管中の試料の流れ方向に対してこの順で備えている。CFAホウ素イオン量定量装置20は、試料導入部2と反応部7との間に空気導入部および発色液導入部6を、細管1中の試料の流れ方向に対してこの順でさらに備えている。当該構成により、試料液体中のホウ素イオン量の定量を、連続流れ分析法(CFA)によるアゾメチンH法によって実施することができる。
【0060】
全ホウ素量定量装置10およびホウ素イオン量定量装置20は、ポンプをさらに備えていてもよい。これにより、流速を調節して試料を送液することができる。
【0061】
図3に示す演算装置30は、補正係数Bを入力する入力部を備えている。当該演算装置30は、CFA全ホウ素量定量装置10の検出部8から出力される全ホウ素量と、CFAホウ素イオン量定量装置20の検出部8から出力されるホウ素イオン量と、補正係数Bとから、試料液体中のテトラフルオロホウ酸量を算出する。
【0062】
また、
図3に示すCFA全ホウ素量定量装置10の替わりに、
図2に示すフローインジェクション分析法(FIA)により全ホウ素量を定量することができる装置(以下、FIA全ホウ素量定量装置11と称する)を用いてもよい。
【0063】
また、
図3に示すCFAホウ素イオン量定量装置20の替わりに、
図4に示すフローインジェクション分析法(FIA)によりホウ素イオン量を定量することができる装置(以下、FIAホウ素イオン量定量装置21と称する)を用いてもよい。
【0064】
図4に示すFIA全ホウ素量定量装置は21、キャリヤー液が連続して流れる細管1を備えており、キャリヤー液導入部9、反応部7、および検出部8を、細管1中のキャリヤー液の流れ方向に対してこの順で備えている。FIA全ホウ素量定量装置21は、キャリヤー液導入部9と反応部7との間に試料導入部2および発色液導入部6を、細管1中のキャリヤー液の流れ方向に対してこの順でさらに備えている。当該構成により、試料液体中のホウ素イオン量の定量を、フローインジェクション分析法(FIA)によるアゾメチンH法によって実施することができる。
【0065】
また、
図3に示す本発明の一実施形態に係る分析装置において、CFA全ホウ素量定量装置10のみが、
図2に示すFIA全ホウ素量定量装置11と置き換えられていてもよいし、CFAホウ素イオン量定量装置20のみが、
図4に示すFIAホウ素イオン量定量装置21と置き換えられていてもよいし、CFA全ホウ素量定量装置10とCFAホウ素イオン量定量装置20との両方がFIA方式の定量装置に置き換えられていてもよい。
【0066】
さらに、
図3には、全ホウ素量定量装置10、ホウ素イオン量定量装置20として、流れ分析法による定量を実施する装置を示したが、全ホウ素量定量装置、およびホウ素イオン量定量装置は、流れ分析法による定量を実施する装置に限定されるものではなく、前述した他の方法による定量を実施する装置であってもよい。
【0067】
より好ましくは、前記全ホウ素量定量装置および前記ホウ素イオン量定量装置の少なくともいずれかの装置が流れ分析装置である。
【0068】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0069】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0070】
〔既知量のテトラフルオロホウ酸を含有する試料液体中のホウ素量の定量〕
純水に、テトラフルオロホウ酸試薬(和光純薬工業株式会社製、製品名:テトラフルオロほう酸)を溶解して、試料1とした。試料1中のホウ素量を、酸分解−ICP発光分析法で測定した結果は17mg/Lであった。
【0071】
図1に示す分析装置にさらに空気導入部および空気排出部を備えた連続流れ分析法(CFA)による分析装置を用いて、連続流れ分析法(CFA)により、試料1中のホウ素量の定量を行った。本実施例では、発色液としてアゾメチンHを用い、検出部として吸光光度計を用いた。
【0072】
〔実施例1〕
試料1が流れる細管内の流れの中に、硝酸アルミニウム九水和物水溶液(和光純薬工業株式会社製、製品名:アルミニウム標準液(Al 1000))をアルミニウムイオンの終濃度が400mg/L、硫酸を硫酸の終濃度が1mol/Lとなるように添加し、細管内の温度が95℃となるように加熱器で加熱することにより前処理を行った。前記細管の前処理部より下流側に設けられた発色液導入部を介して、前記細管内に、アゾメチンH水溶液を終濃度が10g/Lとなるように添加した。反応部で反応させた後、吸光光度計によりホウ素量を定量した。測定は3回行った。結果を表1に示す。
【0073】
〔実施例2〕
硝酸アルミニウム九水和物水溶液をアルミニウムイオンの終濃度が200mg/Lとなるように添加した以外は実施例1と同様にして、前処理を行い、前処理を行った試料液体のホウ素量を定量した。測定は3回行った。結果を表1に示す。
【0074】
〔実施例3〕
硝酸アルミニウム九水和物水溶液をアルミニウムイオンの終濃度が100mg/Lとなるように添加した以外は実施例1と同様にして、前処理を行い、前処理を行った試料液体のホウ素量を定量した。測定は3回行った。結果を表1〜3に示す。
【0075】
〔比較例1〕
硝酸アルミニウム九水和物水溶液を添加しなかった以外は実施例1と同様にして、前処理を行い、前処理を行った試料液体のホウ素量を定量した。測定は3回行った。結果を表1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
表1に示されるように、アルミニウムイオンを添加して前処理した試料液体では、定量の結果として得られたホウ素量が、真値とみなせる酸分解−ICP発光分析結果である17mg/Lに対して、略近い値となった。アルミニウムイオンを添加しなかった試料液体では、ホウ素量を正しく定量することはできなかった。また、アルミニウムイオンの終濃度が、100mg/Lの場合と、200mg/Lの場合と、400mg/Lの場合とで測定結果に大きな差はなかった。この結果から、100mg/Lのアルミニウムイオンにより、17mg/Lのテトラフルオロホウ酸は、アルミニウムイオンと反応して、十分分解することが分かった。
【0078】
〔比較例2〕
細管内の温度が75℃となるように加熱器で試料液体を加熱した以外は実施例3と同様にして、前処理を行い、前処理を行った試料液体のホウ素量を定量した。測定は3回行った。結果を表2に示す。
【0079】
〔比較例3〕
試料液体を加熱しなかった以外は実施例3と同様にして、前処理を行い、前処理後を行った試料液体のホウ素量を定量した。測定は3回行った。結果を表2に示す。
【0080】
【表2】
【0081】
表2に示すように、試料液体を95℃に加熱した場合は、定量の結果として得られたホウ素量が、真値とみなせる酸分解−ICP発光分析結果である17mg/Lに略近い値であった。アルミニウムイオンの終濃度を実施例3と同様に100mg/Lとした場合には、加熱温度を75℃とすると、定量の結果として得られたホウ素量の誤差が、95℃の場合よりも大きくなった。また、試料液体を加熱しない場合は、ホウ素量を正しく定量することはできなかった。
【0082】
〔実施例4〕
ヘキサフルオロケイ酸試薬(和光純薬工業株式会社製、製品名:ヘキサフルオロケイ酸)を、ヘキサフルオロケイ酸のフッ素の終濃度が100mg/Lとなるようにさらに添加した以外は実施例3と同様にして試料を調製し、試料4とした。実施例3と同様にして、前処理を行い、前処理を行った試料液体のホウ素量を定量した。それぞれの方法で3回ずつ測定した。結果を表3に示す。
【0083】
〔実施例5〕
フッ素イオン標準液(和光純薬工業株式会社製、製品名:ふっ化物イオン標準液(F−:1,000))を、終濃度が100mg/Lとなるように、ホウ素イオン標準液(和光純薬工業株式会社製、製品名:ほう素標準液(B1000))を、終濃度が14mg/Lとなるように、ケイ素イオン標準液(和光純薬工業株式会社製、製品名:けい素標準液(1,000ppm))を、終濃度が25mg/Lとなるようにさらに添加した以外は、実施例3と同様にして試料を調製し、試料5とした。実施例3と同様にして、前処理を行い、前処理を行った試料液体のホウ素量を定量した。それぞれの方法で3回ずつ測定した。結果を表3に示す。
【0084】
〔実施例6〕
前記ヘキサフルオロケイ酸試薬を、ヘキサフルオロケイ酸のフッ素の終濃度が100mg/Lとなるようにさらに添加した以外は実施例5と同様にして試料を調製し、試料6とした。実施例3と同様にして、前処理を行い、前処理を行った試料液体のホウ素量を定量した。それぞれの方法で3回ずつ測定した。結果を表3に示す。
【0085】
〔実施例7〕
テトラフルオロホウ酸試薬を添加しなかった以外は実施例4と同様にして試料を調製し、試料7とした。実施例3と同様にして、前処理を行い、前処理を行った試料液体のホウ素量を定量した。それぞれの方法で3回ずつ測定した。結果を表3に示す。
【0086】
〔実施例8〕
テトラフルオロホウ酸標準液を添加しなかった以外は実施例5と同様にして試料を調製し、試料8とした。実施例3と同様にして、前処理を行い、前処理を行った試料液体のホウ素量を定量した。それぞれの方法で3回ずつ測定した。結果を表3に示す。
【0087】
〔実施例9〕
テトラフルオロホウ酸標準液を添加しなかった以外は実施例6と同様にして試料を調製し、試料9とした。実施例3と同様にして、前処理を行い、前処理を行った試料液体のホウ素量を定量した。それぞれの方法で3回ずつ測定した。結果を表3に示す。
【0088】
【表3】
【0089】
実施例3〜6において、テトラフルオロホウ酸が含まれる試料3〜6であっても、アゾメチン吸光光度法による測定値とICP発光分析法による測定値とが同様の値であった。また、実施例7〜9において、テトラフルオロホウ酸が含まれない試料7〜9においても、アゾメチン吸光光度法による測定値とICP発光分析法による測定値とが同様の値であった。
【0090】
〔未知量のテトラフルオロホウ酸を含有する試料液体中のホウ素量の定量〕
テトラフルオロホウ酸を高濃度で含むと考えられる化学工場の実廃液を用いて、試料液体中のホウ素量の定量を行った。
【0091】
〔実施例10〕
テトラフルオロホウ酸を含むホウ素の量が不明な実廃液である試料10を実施例3と同様にして、前処理を行い、前処理を行った試料液体のホウ素量を定量した。それぞれの方法で3回ずつ測定した。結果を表4に示す。
【0092】
【表4】
【0093】
実廃液である試料10であっても、アゾメチン吸光光度法による測定値とICP発光分析法による測定値とが同様の値であった。
【0094】
〔実施例11〕
試料10にホウ素イオン標準液を終濃度が200mg/L増加するように添加して試料11とした。試料11を実施例3と同様にして、前処理を行い、前処理を行った試料液体のホウ素量を定量した。それぞれの方法で3回ずつ測定した。結果を表5に示す。
【0095】
【表5】
【0096】
実廃液にホウ素イオンを添加した試料11であっても、アゾメチン吸光光度法による測定値とICP発光分析法による測定値とが同様の値であった。
【0097】
〔テトラフルオロホウ酸を含有する液体中のテトラフルオロホウ酸の定量〕
<補正係数の算出>
純水に、前記テトラフルオロホウ酸試薬を、テトラフルオロホウ酸のホウ素の終濃度が14.2mg/L(すなわち、テトラフルオロホウ酸の終濃度が115mg/L)になるように溶解してサンプル1とした。サンプル1中の全ホウ素量は、加熱分解−アゾメチンH CFA法により測定し、ホウ素イオン量は、JIS K 0102 47.2 準拠 アゾメチンH CFA法により測定した。結果を表6に示す。
【0098】
なお、ホウ素元素は単体ではイオンとして存在しないが、イオンとして存在してアゾメチンH CFA法により測定されるホウ酸の量を便宜上ホウ素イオン量とした。
【0099】
純水に、前記テトラフルオロホウ酸試薬を添加せず、ホウ素イオン標準液(和光純薬工業株式会社製、製品名:ほう素標準液(B1000))を、ホウ素イオンの終濃度が14.2mg/Lになるように溶解してサンプル3とした。サンプル1と同様にして、サンプル3の全ホウ素量およびホウ素イオン量を測定した。結果を表6に示す。
【0100】
【表6】
【0101】
サンプル1は、テトラフルオロホウ酸のみを溶解したサンプルであるが、アゾメチンH CFA法による測定において、ホウ素イオンが検出された。
【0102】
テトラフルオロホウ酸のみを溶解したサンプルであるサンプル1の全ホウ素量およびホウ素イオン量の実測値に基づいて、テトラフルオロホウ酸のホウ素全量に対する、液体中でホウ素イオンとして存在するホウ素の割合を、下記式(2)に従って算出した。結果を表7に示す。
(テトラフルオロホウ酸のホウ素全量に対する、液体中でホウ素イオンとして存在するホウ素の割合(%))=(標準液中のホウ素イオン量)/(標準液中の全ホウ素量)×100 …式(2)
【0103】
【表7】
【0104】
サンプル1のテトラフルオロホウ酸のホウ素全量に対する、液体中でホウ素イオンとして存在するホウ素の割合は31.0%であった。次に、下記式に従って補正係数を算出した。
補正係数=100/(100−31.0)
〔実施例12〕
純水に、前記テトラフルオロホウ酸試薬を、テトラフルオロホウ酸のホウ素の終濃度が14.2mg/L(すなわち、テトラフルオロホウ酸の終濃度が115mg/L)になるように、および、前記ホウ素イオン標準液をホウ素イオンの終濃度が14.2mg/Lになるように、すなわち、全ホウ素として28.4mg/Lになるように溶解してサンプル2とした。サンプル1と同様にして、サンプル2の全ホウ素量およびホウ素イオン量を測定した。結果を表8に示す。
【0105】
次に、試料液体中のテトラフルオロホウ酸に由来するホウ素量を下記式(1)
(試料液体中のテトラフルオロホウ酸に由来するホウ素量)={(全ホウ素量)−(ホウ素イオン量)}×補正係数 … 式(1)
に従って算出し、試料液体中のテトラフルオロホウ酸量を下記式(3)に従って算出した。結果を表6に示す。
(試料液体中のテトラフルオロホウ酸量)=(試料液体中のテトラフルオロホウ酸に由来するホウ素量)×{(テトラフルオロホウ酸の分子量87.81)/(テトラフルオロホウ酸中のホウ素の元素量10.81) …(3)
表8に示すように、算出された試料液体中のテトラフルオロホウ酸量は、添加したテトラフルオロホウ酸量と近い値であった。
【0106】
また、サンプル1についても同様の計算を行い、得られた結果を表8に合わせて示す。サンプル1についても、算出された試料液体中のテトラフルオロホウ酸量は、添加したテトラフルオロホウ酸量と近い値であった。
【0107】
【表8】
【0108】
〔実施例13〜17〕
テトラフルオロホウ酸の量が不明な、工場の実廃液のサンプル4〜8の、全ホウ素量、およびホウ素イオン量を、実施例12と同様にして測定した。得られた実測値より、実施例12と同様にして、テトラフルオロホウ酸に由来するホウ素量、およびテトラフルオロホウ酸量を算出した。結果を表9に示す。
【0109】
【表9】