(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の映像表示装置は,第1支持板と第2支持板の間に開口が形成されているため,観察者の視界を極力遮らないようにすることができる。しかしながら,このような構成では,第1支持板と第2支持板の端面が常に観察者の視界に入ることとなる。このため,接眼光学系の構造をどれ程小さくしても,その構造上,眼前に異物が存在するという違和感を観察者に与えてしまうという問題があった。このような違和感を極力小さくするために,第1支持板と第2支持板の厚みを薄くすることも考えられる。しかし,第1支持板と第2支持板の厚みを薄くすると,これらの支持板の強度の低下を招き,外部から衝撃が加わったときに映像表示装置が破損しやすくなるという問題がある。このため,支持板の厚みを薄くすることにも構造上の限界があった。
【0006】
このように,特許文献1の映像表示装置は,観察者に与える異物感を小さくしようとすると接眼光学系を支持する支持具の強度が低下してしまい,反対に支持具の強度を高めようとすると観察者に与える異物感が大きくなるという問題がある。このため,この映像表示装置には,観察者の視界を極力遮らずに自然な視界を実現するという観点において,未だ改善の余地があるといえる。
【0007】
そこで,本発明は,接眼光学系を支持する支持具の強度を維持しつつ,観察者の視界を極力遮らずに,より自然な映像を表示することのできる映像表示装置を提供することを解決課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者は,上記課題の解決手段について鋭意検討した結果,観察者の眼前に透明基板を配置し,表示部から射出された映像光を観察者の瞳に導く接眼部をこの基板上に設けることで,この基板によって接眼部を強固に支持することができ,しかも観察者の視線が基板を透過することとなるため,観察者の視界を極力遮らずに自然な視界を実現することが可能となるという知見を得た。そして,本発明者は,上記知見に基づけば,従来技術の課題を解決できることに想到し,本発明を完成させた。具体的に説明すると,本発明は以下の構成を有する。
【0009】
本発明は,ヘッドマウントディスプレイ(HMD)などに搭載される映像表示装置に関する。
本発明の映像表示装置は,映像を表示する表示部10と,この表示部10から射出された映像光を観察者の瞳に導く接眼部20と,観察者の瞳と対向する面を有する基板30とを備える。
基板30は,少なくともその一部が光を透過する透過部31を成している。つまり,透過部31は,観察者の視線及び映像光を透過する。基板30の透過部31は,例えば透明部材やメッシュ部材などの光を透過する部材で形成されたものであり,基板30の一部を構成している。この点において,ここにいう透過部31は,単なる開口部とは区別される。基板30は,少なくとも観察者の瞳径と同程度の範囲(半径1〜5mm程度の範囲)が透明部31となっていることが好ましく,その全体が透明部31となっていてもよい。特に基板は,その全体透明部材からなる透明基板であることが好ましい。
そして,本発明において,接眼部20は,基板30の透過部31に設けられている。つまり,接眼部20から射出された映像光は,基板30の透過部31を透過して,観察者の瞳に導かれることとなる。なお,接眼部20が設けられた基板30は,表示部10に固定されていることが好ましい。このように,基板30は,表示部10から射出された映像光の光軸上に接眼部20を支持する支持具として機能する。
【0010】
上記構成のように,観察者の瞳と対面する基板30によって接眼部20を強固に支持することができる。また,基板30のうち少なくとも一部を透過部31とし,そこに接眼部20を設けることで,接眼部20を覗く観察者の視線がこの透過部31を透過する。特に,基板30全体を透明部材で形成することで,観察者にこの基板がほとんど視認されないようになる。従って,接眼部20の支持具の強度を維持しつつ,より自然な視界を実現できる。また,観察者の表情を極力隠さないようにすることができため,HMDを装着することへの抵抗感を少なくすることができる。さらに,基板30がシールドとしても機能するため,塵芥が観察者の眼に入ることを防止できる。また,接眼部20が眼に直接接触することも防ぐことができる。
【0011】
本発明の映像表示装置において,基板30は,少なくとも,接眼部20から観察者の瞳に向かって射出される映像光の光軸Cを中心とした半径10mm以上の範囲が透過部31を成していることが好ましい。詳しくは後述するが,この光軸Cを中心とした半径10mm(直径20mm)の範囲は,一般的に,HMDを装着した観察者の安定注視野範囲となる。このため,少なくとも安定注視野範囲を透過部31とすることで,観察者の視界に接眼部20以外の物が入ること回避できる。特に,基板30の端面(周縁部分)が観察者の安定注視野から外れるため,観察者に異物感を与えることなく,より自然に映像を表示することが可能となる。
【0012】
本発明の映像表示装置において,接眼部20はプリズム21を有することが好ましい。このプリズム21は,映像光が入射する入射面21aと,入射面21aから入射した映像光が反射する反射面21bと,反射面21bで反射した映像光を射出する射出面21cとを持つものである。また,基板30が,観察者の瞳と対面する内面30aと,当該内面30aと反対側の外面30bとを有している。この場合に,プリズム21の反射面21bは,基板30の外面30b側に突出していることが好ましい。このような構成を採用することで,プリズム21の反射面21bが基板30の内面30a側に向かって突出することがなくなる。これにより,プリズム21bが観察者の瞳を傷付けてしまうような事故が発生するのを未然に回避できる。なお,本発明において,接眼部20を収容するハウジングは設けられておらず,接眼部20全体が露出していることが好ましい。接眼部20を収容するハウジングを排除することで,視界を遮る物を少なくすることができる。
【0013】
本発明の映像表示装置において,プリズム21の厚さは,3mm以上であることが好ましい。特に,プリズム21の厚さは,4mm又は6mm以上とすることが好ましい。一般的に,明所における観察者の瞳径は2〜3mm程度であるとされている。プリズム21の厚さを瞳径よりも大きくすることで,プリズム21の上面や下面を反射した外光が観察者の瞳孔に入射することを回避できる。従って,プリズム21をハウジング等に収容せずに露出した構成とし,しかも映像表示装置を屋外で使用するであっても,プリズム21を反射した太陽光が瞳孔に入射して生じる“チラつき”を効果的に防止することが可能となる。これにより,屋外であっても観察者に鮮明な映像を提供することができる。
【0014】
本発明の映像表示装置において,プリズム21の反射面21bの反対側の面は,光を吸収又は全反射する面であることが好ましい。例えば,反射面21bの反対面に黒色の塗料を塗布したり,あるいは鏡面加工を施すこととすればよい。これにより,反射面21bの反対面からプリズム21内に外光が入射してプリズム21内に迷光が発生することを回避できる。これにより,屋外で映像表示装置を使用する場合であっても,映像の鮮明さを維持することができる。
【0015】
本発明の映像表示装置において,プリズム21と基板30は一体成型されたものであってもよい。プリズム21と基板30とを一体成型することで,構成部品の点数を減らすことができる。なお,プリズム21は,基板30とは別部材で構成されていてもよい。この場合に,プリズム21は,基板30の外面30bに取り付けることとしてもよいし,基板30に開口部を設けてそこにプリズム21を嵌め込むようにしてもよい。
【0016】
本発明の映像表示装置において,基板30は,透過部31内に開口部36を有していてもよい。この場合に,接眼部20は,基板30の開口部36に嵌め込まれていてもよい。このように構成することで,例えば基板30の外面30bに接眼部20を貼り付けた構成と比較して,接眼部20の突出長さを抑制することができる。これにより,よりコンパクトな映像表示装置を実現できる。また,後述するように,プリズム21の射出面21cに接眼レンズを取り付けることも可能となる。プリズム21の射出面21cに接眼レンズを取り付けておくことで,このプリズム21の射出面21cから観察者の瞳までの距離を離した場合であっても,観察者に映像を適切に視認させることができる。
【0017】
本発明の映像表示装置において,基板30は,表示部10のハウジング14に固定されており,かつ,表示部10から接眼部20に至る範囲にスリット37を有していてもよい。このような構成によっても,例えば基板30の外面30bに接眼部20を貼り付けた構成と比較して,接眼部20の突出長さを抑制することができる。これにより,よりコンパクトな映像表示装置を実現できる。
【0018】
本発明の映像表示装置において,プリズム21から射出された映像光の光軸上であって,基板30の内面30aに接眼レンズ22が設けられていることが好ましい。このように,基板30の内面30aに接眼レンズ22を設けることで,プリズム21の射出面21cから観察者の瞳までの距離を比較的離すことが可能となる。なお,接眼レンズ22と基板30は別体で構成されたものであってもよいし,一体成型されたものであってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の映像表示装置によれば,接眼光学系を支持する支持具の強度を維持しつつ,観察者の視界を極力遮らずに,より自然な映像を観察者に対して提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下,図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。本発明は,以下に説明する形態に限定されるものではなく,以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜変更したものも含む。
なお,本願の図においては,装置の立体方向をわかりやすく示すために,X軸,Y軸,及びZ軸の直交座標系を設定した。本願明細書では,便宜的に,X軸方向を横方向とし,Y軸を上下方向とし,Z軸方向を奥行き方向としている。
また,本願明細書において,「A〜B」とは,基本的に「A以上B以下」であることを意味する。
【0022】
図1は,映像表示装置100を搭載したヘッドマウントディスプレイ(HMD)200の全体構成を示している。ここに示した映像表示装置100及びHMD200の形状や構造は一例であり,本発明はこれに限定されない。
図1に示されるように,映像表示装置100は,映像の観察者(HMDの装着者)の片眼の眼前に配置されて,観察者に映像を視認させるための装置である。
図1に示されるように,映像表示装置100は,基本的に,表示部10と,接眼部20と,基板30とを備える。表示部10は,観察者に提示する映像を表示するためのものであり,その映像光を接眼部20に向けて射出する。接眼部20は,表示部10から射出された映像光を反射又は屈折させて観察者の瞳に導く。
図1に示した例では,表示部10から横方向(X軸方向)に射出された映像光が,接眼部20によって略直角に反射されて奥行き方向(Z軸方向)に進行し,観察者の瞳孔に入射する。また,表示部10と接眼部20の間は空間となっており,映像光は空気中を進行する。基板30は,観察者の瞳と対向する内面30aとその反対側の外面30bとを有する板状の部材であり,少なくとも一部が光を透過する透明部材又はメッシュ部材で構成されている。
図1に示した例では,基板30は,その全体がプラスチックやガラスなどの透明部材で形成された透明基板となっている。基板30の外面30bには接眼部20が設けられており,またこの基板30は表示部10に固定されている。このため,基板30は,接眼部20を表示部10から射出された映像光の光軸上に位置させるための支持具としての機能を果たしている。基板30が透明であるため,映像を視認する観察者の視野を広く確保することができる。また,観察者は,基板30の奥側の背景を映像とともに視認することができる。
【0023】
なお,
図1に示した例において,HMD200は,映像表示装置100の他に,カメラ210,光学センサ220,及びタッチパネル230などを備える。また,HMD200の筐体の中には,CPU,メモリ,各種通信機器,加速度センサ,ジャイロセンサ,及びバッテリーなどが搭載されている。HMD200の構成は,適宜公知の構成を採用することができ,本発明においては特に限定されない。
【0024】
続いて,
図2を参照して,映像表示装置100が備える光学系の一例について説明する。
図2は,映像表示装置100の構造を平面(XZ面)から描画したものである。
図2に示されるように,映像表示装置100は,映像光(一点鎖線)を射出する表示部10と,映像光を観察者の瞳に導く接眼部20とを備える。
図1に示されるように,表示部10は,光学系を収容するハウジング14を備えている。他方で,接眼部20は,ハウジングを備えておらず,プリズム21が露出した状態となっている。表示部10から射出された映像光が,空気中を伝搬して接眼部20に入射し,接眼部20において反射されて瞳に導入される。
【0025】
図2に示されるように,本実施形態において,表示部10は,光源11と,集光レンズ12と,表示素子13とを有する。表示部10の例は,液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)である。光源11は,R(赤),G(緑),B(青)の各色の光を出射可能なものであることが好ましい。例えば,光源11は,例えば,RGB一体型のLEDパネルによって構成することができる。なお,光源11は,単色光や白色光を出射するものであってもよい。光源11が発光するためには電力が必要になるため,この光源11は,電源線を介してバッテリー(図示省略)に接続されている。また,集光レンズ12は,光源11からの光を集光して表示素子13に供給する。また,表示素子13は,入射光を画像データに応じて変調することにより,映像を表示するものである。表示素子13は,例えば,光が透過する領域となる各画素がマトリクス状に配置された透過型の液晶表示素子で構成されていることが好ましい。表示素子13は制御装置(図示省略)によって光の変調状態が制御されるため,この表示素子13は,信号線を介してこの制御装置に接続されている。また,表示素子13は電源線を介してバッテリーにも接続されている。なお,表示部10は,上記した液晶ディスプレイ以外にも,例えば反射型の液晶ディスプレイや有機ELディスプレイを採用することもできる。
【0026】
また,表示部10は,表示部10を構成する光学系11〜13を収容するハウジング14を有する。ハウジング14は,太陽光や照明光などの外光を遮蔽する。ハウジング14には,接眼部20と対向する面に射出窓14aを有する。光学系11〜13によって生成された映像光は,このハウジング14の射出窓14aを通って接眼部20に入射する。なお,射出窓14aは,開口であってもよいし,ガラスやプラスチックなどの透明部材が開口に嵌め込まれていてもよい。このハウジング14には,透明材料から構成される基板30が取り付けられる。
図2に示されるように,ハウジング14の射出窓14aは,基板30の外面30b側に設けられる。このため,表示部10から射出された映像光は,基板30の外面30b側を通ることとなる。また,図示は省略しているが,ハウジング14の射出窓14aと接眼部20の間に,画質の改善を目的として別のレンズを配置することも可能である。
【0027】
接眼部20は,上記表示素子13からの映像光を反射又は屈折させて観察者の瞳に導く光学素子である。本実施形態において,接眼部20は,プリズム21を有している。また,接眼部20は,接眼レンズ22を有していてもよい。プリズム21は,表示部10からの映像光を内部で導光する部材である。プリズム21は,例えば,映像光の入射面21aと,反射面21bと,射出面21cを有する形状となっている。プリズム21の入射面21aは,横方向(X軸方向)に進行する映像光の光軸と垂直に交差する奥行き方向(Z方向)に設けられている。また,射出面21cは,観察者の瞳と対向するように設けられている。反射面21bは,例えば矩形形状(長方形形状)であり,映像光の光路を直角に折り曲げる手段として機能している。具体的には,反射面21bは,入射面21aを介してプリズム内部に入射してX方向に進行する映像光を,Z方向に反射させる。なお,プリズム21は,単一のプリズムで構成されてもよいし,複数のプリズムを組み合わせて構成されてもよい。また,接眼レンズ22は,例えばプリズム21の入射面21aに取り付けられる。接眼レンズ22は,正のパワーを持ち,プリズム21に入射する映像光を瞳に集光する。接眼レンズ22は,プリズム21の入射面21aに接合されていてもよいし,プリズム21と一体化されていてもよい。
【0028】
また,
図2に示した実施形態において,プリズム21は,透明な基板30とは別体で構成されている。プリズム21は,基板30の外面30bに接合されている。具体的には,プリズム21の射出面21cが基板30の外面30bに接合されていることとなる。なお,図示は省略するが,プリズム21と基板30とを一体成型することも可能である。プリズム21と基板30を一体成型することで,構成部品の点数が減るため,大量生産する場合には有利である。
【0029】
また,プリズム21の反射面21bの反対面は,光を吸収又は全反射するための加工が施されていることが好ましい。例えば,反射面21bの反対面に黒色の塗料を塗布したり,あるいは鏡面加工を施すこととすればよい。この場合,反射面21bの反対面からプリズム21内に外光が入射してプリズム21内に迷光が発生することを回避できる。これにより,屋外で映像表示装置を使用する場合であっても,映像の鮮明さを維持することができる。
【0030】
上記の構成においては,まず,表示部10によって映像光が生成される。すなわち,光源11から射出された光は,集光レンズ12で集光されて表示素子13に入射する。光は表示素子13によって変調されて映像光となる。次に,表示部10から射出された映像光は,接眼部20に入射する。接眼部20では,映像光が,接眼レンズ22及び入射面21aを介してプリズム21の内部に入射する。その後,映像光は,プリズム21の内部を横方向(X軸方向)に沿って進行し,反射面21bで光路が折り曲げられ奥行き方向(Z軸方向)に向きを変えて進行する。これにより,映像光は,プリズム21の射出面21cを介して射出され,透明な基板30を透過して,観察者の瞳に導かれる。このようにして,観察者は,瞳の位置で,表示素子13にて表示された映像の拡大虚像を観察することができる。なお,
図2に示した光学系は,本発明の一実施形態に過ぎない。本発明は,
図2に示した光学系以外にも,その他公知のものを適宜採用することができる。
【0031】
続いて,
図3及び
図4を参照して,接眼部20を支持する基板30の構造について説明する。基板30は,観察者の瞳と対向する面を持つ板状の部材ある。すなわち,基板30は,上下方向(Y方向)の高さと,左右方向(X方向)の幅と,奥行き方向(Z方向)の厚みを持ち,基板30の高さと幅の値は厚みの値よりも大きくなっている。このように,基板30は,上下方向及び左右方向の平面(XY平面)を持つものである。基板30の厚みは,基板30の強度を考慮して2mm〜10mmとすることが好ましい。基板30の高さと幅は特に限定されず,観察者の眼前に配置するのに適したサイズとすればよい。一般的に,基板30の幅の値は,高さの値よりも大きくなる。つまり,基板30の平面は横長になる。
【0032】
また,基板30は,着用者の瞳と対向する内面30aと,その反対側の外面30bとを持ち,外面30b側に接眼部20が設けられる。少なくとも接眼部20を構成するプリズム21の入射面21aと反射面21bは,基板30の外面30b側に向かって突出する。基板30の内面30a側に向かってプリズム21の入射面21aと反射面21bが突出していると,観察者の眼球を傷つけるおそれがあるため,これらの入射面21aと反射面21bは外面30b側に向かって突出させる必要がある。
【0033】
また,基板30は,一端部が表示部10のハウジング14に固定される。つまり,基板30は,上端縁32と,下端縁33と,表示部10に固定される近位端縁34と,表示部10から最も遠い遠位端縁35の4つの縁を有する略四角形状を成している。ただし,基板30に角があると危険であるため,基板30の四隅の角にはR(丸み)が形成されている。
図3(a)に示したように,基板30には,各端縁32〜35のいずれからも間隔をおいた位置に接眼部20が取り付けられている。すなわち,基板30は,少なくとも,接眼部20から上端縁32までの間の上部32aと,接眼部20から下端縁33までの間の下部33aと,接眼部20から近位端縁34までの間の近位部34aと,接眼部20から遠位端縁35までの間の遠位部35aとを有している。ここでは,基板30の近位部34aが表示部10のハウジング14に固定される。
【0034】
図3(a)及び
図4において,符号Cは,接眼部20から観察者の瞳に向かって射出される映像光の光軸を示している。そして,基板30は,少なくとも,この光軸Cを中心とした半径10mm以上(直径20mm以上)の範囲が,光を透過する透過部31を成していることが好ましい。なお,基板30の透過部31以外の領域については,例えば塗装されたりすることで光を透過しない領域となっていてもよい。ただし,基板30はその全体が透過部31となっていていることが好ましい。また,
図3(a)に示したように,基板30は,光軸Cから半径10mmの範囲が全て透明部材で形成されている。このため,この透過部31を成す範囲には,上端縁32,下端縁33,近位端縁34,及び遠位端縁35は位置していないこととなる。この光軸Cから半径10mmに各端縁32〜35が位置すると,基板30を観察者の眼前に配置したときに,観察者の安定注視野範囲に各端縁32〜35が入り込むこととなるため,各端縁32〜35が視界の妨げになる可能性がある。
【0035】
ここでは,
図4を参照して,一般的な観察者の安定注視野範囲について説明する。
図4に示されるように,観察者の瞳の前には,接眼部20が設けられた基板30が配置される。観察者が映像を適切に視認するための焦点距離や観察者が眼鏡を掛けている場合を考慮すると,瞳と基板の間の間隔Dは少なくとも20mm必要となる(D=20mm)。また,観察者の上下左右の安定注視野角は片側で20〜30度とされているため,ここでは便宜的に安定注視野角θを片側で25度とする(θ=25度)。このようにD=20mm,θ=25度として計算すると,観察者が物を識別可能な安定注視野範囲の半径Rは,9.32mmとなる(R=9.32mm)。このため,基板30に設ける透過部31を光軸Cから半径10mmの範囲としておくことで,接眼部20を覗き込む観察者の安定注視野範囲をすべて透過部31とすることができ,観察者の視野に余計な異物が入り込むことを回避できる。特に,光軸Cから半径10mmの範囲に各端縁32〜35が入り込むことがないようにすることで,観察者が各端縁32〜35を視認しにくくなるため,より自然な視界を実現できる。例えば,
図4に示したように,光軸Cから各端縁32〜35までの距離Lは,少なくとも観察者の安定注視野範囲の半径Rの1.1倍以上であることが好ましく,1.2〜2.0倍とすることが特に好ましい。
【0036】
基板30を構成する透明材料の例は,ポリカーボネート樹脂,ポリメタクリル酸メチル樹脂,ポリスチレン樹脂,塩化ビニル樹脂,若しくはエポキシ樹脂などのプラスチック材料,又はガラス若しくは強化ガラスである。ただし,基板の材料はここに挙げたものに限定されない。また,基板30は光を透過可能なものであればよく,透明部材に代えてメッシュ部材を採用することもできる。
【0037】
次に,
図5を参照して,基板30に取り付ける接眼部20(特にプリズム21)の好ましい厚さについて説明する。
図5(a)は,プリズム21の厚さTを3mm未満とした場合の例を示している。一般的に,明所での観察者の瞳径(直径)は2〜3mm程度であるとされている。また,観察者の視界を極力遮らないようにするため,プリズム21の厚さは小さいことが好ましいといえる。しかし,
図5(a)に示したように,露出しているプリズム21厚さTを3mm未満とすると,プリズム21の上面21d又は下面21eを反射した外光が観察者の瞳孔に入射し,観察者にとってプリズム21がチラついて見えることとなる。特に屋外で映像表示装置を使用する場合には,チラつきが大きくなり,観察者が映像を鮮明に視認することが困難となる。このため,プリズム21が露出している構造において,屋外での使用を想定した場合に,プリズム21の厚さTを3mm未満とすることは好ましいとはいえない。他方で,
図5(b)に示した例では,露出しているプリズム21の厚さTを3mm以上(好ましくは4mm以上)とする。この場合,プリズム21の厚さTは,明所における観察者の瞳径以上となる。そうすると,外光がプリズム21の上面21d又は下面21eを反射したとしても,その反射光は観察者の瞳孔に入射しにくくなる。このため,プリズム21の厚さTを3mm以上とすることで,屋外で映像表示装置を使用した場合であっても,観察者にとってチラつきが見えなくなり,映像を正しく鮮明に視認できるようになる。このように,プリズム21の厚さTは3mm以上であることが好ましいが,例えば4〜25mm,5〜20mm,又は10〜15mmとすることもできる。
【0038】
図6は,プリズム21の変形例を示している。前述したとおり,プリズム21の上面21d及び下面21eが平坦面であると,そこで反射した外光が観察者の瞳孔に入射してチラつきを発生させる原因となる。このため,プリズム21の上面21dと下面21eの両方又は少なくともいずれか一方を非平坦面とするか,若しくは外光を反射しない加工を施すことが好ましい。
図6(a)に示した例では,プリズム21の上面21dと下面21eを,断面円弧状に突出させている。また,
図6(b)に示した例では,プリズム21の上面21dと下面21eを,断面円弧状に窪ませている。もしくは,図示は省略するが,プリズム21の上面21dと下面21eのいずれか一方を断面円弧状に突出させ,他方を断面円弧状に窪ませることも可能である。このように,上面21dと下面21eを非平坦面とすることで,チラつきを防止できる。また,
図6(c)に示した例では,プリズム21の上面21dと下面21eに反射防止加工を施している。例えば,プリズム21の上面21dと下面21eに黒色の塗料を塗布したり,微細な凹凸を形成するアンチグレア加工を施したりすればよい。このような加工によっても,チラつきを防止できる。なお,
図6に示した変形例においても,プリズム21の厚さは3mm以上,特に4mm以上であることが好ましい。
【0039】
図7は,映像表示装置100の第2の実施形態を示している。
図7に示した第2の実施形態では,前述した実施形態とは異なり,基板30における接眼部20の取り付け位置に,開口部36が形成されている。そして,この開口部36に接眼部20が嵌め込まれている。また,接眼部20は,プリズム21の射出面21cに接眼レンズ22が接合されている。基板30の開口部36に接眼部20を嵌合する形態においては,このようにプリズム21の射出面21cに接眼レンズ22を取り付けることが可能となる。プリズム21の射出面21cに接眼レンズを取り付けておくことで,このプリズム21の射出面21cから観察者の瞳までの距離を離した場合であっても,観察者に映像を適切に視認させることができる。このような構造は,例えば観察者が眼鏡を掛けている場合など,プリズム21と瞳の距離を一定以上離す必要があるときに有益である。
【0040】
図8は,映像表示装置100の第3の実施形態を示している。
図8に示した第3の実施形態では,前述した実施形態とは異なり,基板30に,表示部10から接眼部20に至る範囲に亘ってスリット37が形成されている。具体的には,このスリット37は,基板30の近位端縁34から接眼部20の取り付け位置まで延びる切り込みである。そして,このスリット37に接眼部20が嵌め込まれている。このように,基板30にスリット37を形成して,そこに接眼部20を嵌合することで,接眼部20の突出長さを抑えることができる。つまり,プリズム21の射出面21cが基板30の内面30aとほぼフラットに位置するため,プリズム21の射出面21cを基板30の外面30bに接合した実施形態(
図3参照)と比較して,基板30の厚みの分だけプリズム21の突出長さが小さくなる。その結果,コンパクトで取り扱いやすい映像表示装置100を実現できる。
【0041】
図9は,映像表示装置100の第4の実施形態を示している。
図9に示されるように,第4の実施形態においては,接眼レンズ22が,プリズム21を反射した映像光の光軸上であって,透明な基板30の内面30aに設けられている。
図9では,接眼レンズ22と基板30は別体として構成されているが,これらの接眼レンズ22と基板30とを一体成型することも可能である。このように,基板30の内面30aに接眼レンズ22を設けることで,プリズム21の射出面21cから観察者の瞳までの距離を離すことが可能となる。
【0042】
以上,本願明細書では,本発明の内容を表現するために,図面を参照しながら本発明の実施形態の説明を行った。ただし,本発明は,上記実施形態に限定されるものではなく,本願明細書に記載された事項に基づいて当業者が自明な変更形態や改良形態を包含するものである。