特許第6869550号(P6869550)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6869550
(24)【登録日】2021年4月16日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】標的遺伝子の塩基配列を決定する方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6869 20180101AFI20210426BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20210426BHJP
【FI】
   C12Q1/6869 ZZNA
   !C12N15/13
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-503404(P2018-503404)
(86)(22)【出願日】2017年3月2日
(86)【国際出願番号】JP2017008320
(87)【国際公開番号】WO2017150677
(87)【国際公開日】20170908
【審査請求日】2019年12月13日
(31)【優先権主張番号】62/302,196
(32)【優先日】2016年3月2日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】大川 恭行
(72)【発明者】
【氏名】前原 一満
(72)【発明者】
【氏名】木村 宏
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 優子
【審査官】 馬場 亮人
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/210585(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/6869
C12N 15/13
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象細胞が発現する標的遺伝子の塩基配列を決定する方法であって、
前記対象細胞のmRNA−seqを行い、複数のリードを得る工程と、前記複数のリードをアセンブルしてコンティグを得る工程と、
前記コンティグのうち、前記標的遺伝子の一部の塩基配列を有するコンティグを特定する工程と、
を含み、
前記標的遺伝子は、前記対象細胞が発現する全遺伝子をmRNAの分子数が多いものから順に順位付けした場合の順位が1〜10位であり、
前記mRNA−seqにおける塩基配列のリード数が50,000リード以下であり、
特定された前記コンティグの塩基配列が標的遺伝子の塩基配列である、方法。
【請求項2】
前記対象細胞が抗体産生細胞であり、
前記標的遺伝子が抗体重鎖遺伝子であり、前記標的遺伝子の一部の塩基配列が抗体重鎖遺伝子の定常領域の一部の塩基配列であるか、又は
前記標的遺伝子が抗体軽鎖遺伝子であり、前記標的遺伝子の一部の塩基配列が抗体軽鎖遺伝子の定常領域の一部の塩基配列である、
請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的遺伝子の塩基配列を決定する方法に関する。本願は、2016年3月2日に、米国に仮出願された仮出願第62/302,196号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ハイブリドーマ作製技術は、モノクローナル抗体を大量に製造し、研究や医薬に応用する手段として広く受け入れられている。しかしながら、ハイブリドーマの培養を続けると、体細胞変異により産生する抗体の反応性が変わる恐れがある。このため、有用な抗体を保存したり、組換え抗体を製造したりする場合には、ハイブリドーマが産生する抗体の遺伝子の塩基配列を決定することが必要である。
【0003】
従来、抗体遺伝子の塩基配列の決定には、5’Rapid Amplification of cDNA Ends(5’RACE)法、縮重PCR法等が用いられてきた(例えば、非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Zhou, H., et al., Optimization of primer sequences for mouse scFv repertoire display library construction., Nucleic Acids Research, 22 (5), 888-889, 1994.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、5’RACE法は大量の全RNAを必要とし、実施が困難な場合がある。また、縮重PCR法では縮重プライマーのミスハイブリダイゼーション等により、本来の塩基配列が失われてしまう場合がある。
【0006】
本発明は、対象細胞が発現する標的遺伝子の塩基配列を簡便かつ正確に決定することができる新たな技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の態様を含む。
[1]対象細胞が発現する標的遺伝子の塩基配列を決定する方法であって、前記対象細胞中のmRNAの塩基配列を網羅的に決定する工程と、決定された前記mRNAの塩基配列のうち、前記標的遺伝子の一部の塩基配列を有する塩基配列を特定する工程と、を含み、特定された前記塩基配列が標的遺伝子の塩基配列である、方法。
[2]前記標的遺伝子は、前記対象細胞が発現する全遺伝子をmRNAの分子数が多いものから順に順位付けした場合の順位が1〜10位である、[1]に記載の方法。
[3]前記対象細胞が抗体産生細胞であり、前記標的遺伝子が抗体重鎖遺伝子であり、前記標的遺伝子の一部の塩基配列が抗体重鎖遺伝子の定常領域の一部の塩基配列であるか、又は、前記標的遺伝子が抗体軽鎖遺伝子であり、前記標的遺伝子の一部の塩基配列が抗体軽鎖遺伝子の定常領域の一部の塩基配列である、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]mRNAの塩基配列を網羅的に決定する前記工程が、次世代シーケンシングにより行われる、[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
[5]次世代シーケンシングにおける塩基配列のリード数が50,000リード以下である、[4]に記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、対象細胞が発現する標的遺伝子の塩基配列を簡便かつ正確に決定することができる新たな技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実験例1において、トランスクリプトームを発現レベルが高い順に並べたグラフである。
図2】(a)は、実験例2において、ハイブリドーマクローンHD1のIghの塩基配列(配列番号28)及び推定されるアミノ酸配列(配列番号29)を示す図である。(b)は、実験例2において塩基配列を決定したクローンHD1のIgHタンパク質のアミノ酸配列と、既知のラットIgH(IgG2b)の定常領域のアミノ酸配列(アクセッション番号:AAA6078、配列番号30)とをアラインメントした図である。
図3】(a)は、実験例2において、ハイブリドーマクローンHD1のIgkの塩基配列(配列番号31)及び推定されるアミノ酸配列(配列番号32)を示す図である。(b)は、実験例2において塩基配列を決定したクローンHD1のIgKタンパク質のアミノ酸配列と、既知のラットIgKの定常領域のアミノ酸配列(アクセッション番号:CAA24558、配列番号33)とをアラインメントした図である。
図4】(a)は、実験例4において、各リード数のリードからデノボ・アセンブリした場合のIghの再構成率を算出した結果を示すグラフである。(b)は、実験例4において、各リード数のリードからデノボ・アセンブリした場合のIgkの再構成率を算出した結果を示すグラフである。
図5】(a)〜(d)は、実施形態に係る塩基配列決定方法をまとめた図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1実施形態において、本発明は、対象細胞が発現する標的遺伝子の塩基配列を決定する方法であって、前記対象細胞中のmRNAの塩基配列を網羅的に決定する工程と、決定された前記mRNAの塩基配列のうち、前記標的遺伝子の一部の塩基配列を有する塩基配列を特定する工程とを含み、特定された前記塩基配列が標的遺伝子の塩基配列である方法を提供する。
【0011】
本実施形態の方法によれば、簡便かつ正確に標的遺伝子の塩基配列を決定することができる。また、本実施形態の方法は、わずか約0.1μgの全RNAを用いて実施することもできる。このため、例えば1個の対象細胞を試料として、1細胞レベルで標的遺伝子の塩基配列を決定することもできる。
【0012】
本実施形態の方法において、mRNAの塩基配列を網羅的に決定する工程は、次世代シーケンシングにより行われることが好ましい。より具体的には、次世代シーケンシングでmRNAの塩基配列を網羅的に決定するmRNA−seqにより、本実施形態の方法を効果的に実施することができる。
【0013】
次世代シーケンシング(Next Generation Sequencing、NGS)とは、サンガー法によるシークエンシング法を利用した蛍光キャピラリーシークエンサーに代表される第1世代シークエンサーと対比させて使われる用語である。次世代シーケンシングは、実際には多様な機器や技術を含み、今後も様々な形態のものが考案されると考えられる。
【0014】
第1世代シークエンサーでは、1度に処理できる検体数が最大96個程度に限られていた。また、配列決定を行うための試料となるDNA分子は、予め個別にクローニングしたりPCR法で増幅したりして用意しておく必要があり、その段階に多大な労力が必要であった。
【0015】
これに対し、次世代シークエンサーを用いた次世代シーケンシングでは、多様な配列を含むDNA断片を、エマルジョンPCRやブリッジPCR等の増幅技術や1分子観察等の高感度検出技術を応用して並列的に配列解析する。このため、簡便により大規模な塩基配列決定が可能となっている。
【0016】
具体的な次世代シークエンサーとしては、例えば、MiSeq、HiSeq、NovaSeq(イルミナ社);Genetic Analyzer V2.0、Ion Proton(サーモフィッシャーサイエンティフィック社);MinION、PromethION(ナノポア社)等が挙げられる。
【0017】
対象細胞中のmRNAの塩基配列を網羅的に決定する工程では、使用する次世代シークエンサーの方式に応じたライブラリー調製を行い、例えば、平均リード長50〜100bp、リード数30,000〜50,000でシーケンシングを行えばよい。すなわち、次世代シーケンシングによる塩基配列のリード数は50,000リード以下であってもよい。実施例において後述するように、本実施形態の方法によれば、リード数がこの程度に少なくても標的遺伝子の塩基配列を決定することができる。
【0018】
シーケンシングにより得られた塩基配列データは、任意の手法によりアセンブル(貼り合わせ)してコンティグを得る。本明細書において、コンティグとは、短いリードを貼り合わせて得られた、より長い塩基配列を意味し、例えばアセンブルした完全長のmRNAの塩基配列を意味する。この結果、対象細胞中のmRNAの塩基配列が決定される。例えば、参照配列を必要としないデノボ・アセンブリ等の手法によりアセンブルすることができる。
【0019】
続いて、決定された前記mRNAの塩基配列(コンティグ)のうち、標的遺伝子の一部の塩基配列を有する塩基配列を特定する。このようにして特定された塩基配列が、標的遺伝子の塩基配列である。
【0020】
例えば、標的遺伝子が抗体遺伝子である場合、抗体重鎖(Igh)の定常領域の塩基配列、抗体λ軽鎖(Igl)又は抗体κ軽鎖(Igk)の定常領域の塩基配列を、標的遺伝子の一部の塩基配列として利用することができる。より具体的には、例えば、配列番号11〜14に記載の塩基配列をラットIghの定常領域の一部の塩基配列として利用することができる。また、例えば、配列番号15〜16に記載の塩基配列をラットIglの定常領域の一部の塩基配列として利用することができる。また、例えば、配列番号17に記載の塩基配列をラットIgkの定常領域の一部の塩基配列として利用することができる。また、例えば、配列番号18〜22に記載の塩基配列をマウスIghの定常領域の一部の塩基配列として利用することができる。また、例えば、配列番号23〜26に記載の塩基配列をマウスIglの定常領域の一部の塩基配列として利用することができる。また、例えば、配列番号27に記載の塩基配列をマウスIgkの定常領域の一部の塩基配列として利用することができる。
【0021】
また、標的遺伝子の一部の塩基配列を有するとともに、全長が標的遺伝子の全長以上の長さを有するコンティグを特定することにより、更に効率よく標的遺伝子の塩基配列を抽出することができる。
【0022】
例えば、標的遺伝子がIghである場合、Ighのアミノ酸配列は400以上のアミノ酸残基を含む。そこで、このアミノ酸配列をコードするのに必要な1200bp以上の長さの塩基配列を有するコンティグを特定すればよい。これにより、完全長の標的遺伝子のコンティグを効率よく抽出することができる。
【0023】
本実施形態の方法において、塩基配列を決定する標的遺伝子は、対象細胞が発現する全遺伝子をmRNAの分子数が多いものから順に順位付けした場合の順位が1〜10位である遺伝子であることが好ましい。mRNAの分子数が多く、上記の範囲にある標的遺伝子は、容易に塩基配列を決定することができる。
【0024】
あるいは、標的遺伝子の発現量は、5,000FPKM(fragments per kilobase of exon per million mapped fragments)以上であることが好ましい。この程度の発現量である標的遺伝子は、容易に塩基配列を決定することができる。標的遺伝子の発現量の上限に特に制限はないが、一般的に、30,000FPKM程度が上限である場合が多い。
【0025】
標的遺伝子としては、例えば、抗体遺伝子、T細胞受容体遺伝子、B細胞受容体遺伝子等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0026】
(抗体遺伝子)
例えば、対象細胞が抗体産生細胞であり、標的遺伝子が抗体重鎖遺伝子であり、標的遺伝子の一部の塩基配列が抗体重鎖遺伝子の定常領域の一部の塩基配列であってもよい。あるいは、対象細胞が抗体産生細胞であり、標的遺伝子が抗体軽鎖遺伝子であり、標的遺伝子の一部の塩基配列が抗体軽鎖遺伝子の定常領域の一部の塩基配列であってもよい。
【0027】
近年、例えばスカンク等の、ゲノムの塩基配列が明らかにされていない動物を用いて抗体が作製される場合がある。このような場合、ゲノムの塩基配列を塩基配列決定の参照配列に用いることができない場合がある。本実施形態の方法によれば、参照配列が存在しない場合においても塩基配列を決定することができるため、このような場合においても抗体遺伝子の塩基配列を決定することができる。
【0028】
また、従来の抗体遺伝子の塩基配列の決定方法では、可変領域の塩基配列のみしか特定することができなかった。これに対し、本実施形態の方法によれば、定常領域も含めて標的遺伝子の塩基配列の全長を決定することができる。このため、実施例において後述するように、標的遺伝子が抗体遺伝子である場合、抗体のアイソタイプやサブクラスまで特定することができる。また、例えば、抗体遺伝子の体細胞突然変異による少数の変異体を検出すること等も可能である。
【0029】
(T細胞受容体遺伝子)
例えば、癌の養子免疫療法等において、T細胞受容体の塩基配列を決定する需要がある。そこで、例えば、対象細胞がT細胞であり、標的遺伝子がT細胞受容体遺伝子であり、標的遺伝子の一部の塩基配列がT細胞受容体遺伝子の定常領域の一部の塩基配列であってもよい。
【0030】
(B細胞受容体遺伝子)
例えば、対象細胞が未成熟なB細胞であり、標的遺伝子がB細胞受容体重鎖遺伝子であり、標的遺伝子の一部の塩基配列がB細胞受容体重鎖遺伝子の定常領域の一部の塩基配列であってもよい。あるいは、対象細胞が未成熟なB細胞であり、標的遺伝子がB細胞受容体軽鎖遺伝子であり、標的遺伝子の一部の塩基配列がB細胞受容体軽鎖遺伝子の定常領域の一部の塩基配列であってもよい。
【0031】
(その他の標的遺伝子)
標的遺伝子は、上記の遺伝子に限られず、任意の遺伝子であってもよい。本実施形態の方法により、例えば、任意の標的遺伝子について、single nucleotide variants(SNVs)、single nucleotide polymorphysms(SNPs)、insertion/deletion(Indel)、スプライシングバリアント等を容易に解析することができる。
【実施例】
【0032】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0033】
[方法及び材料]
(細胞株)
発明者らが樹立したハイブリドーマ細胞株(クローンHD1、HD2、HD3及びHD4)を実験に用いた。各ハイブリドーマは、10%ウシ胎児血清(FBS)、1.2%ペニシリン−ストレプトマイシン−グルタミン(ギブコ社)、1ng/mL インターロイキン(IL)−6を添加したハイブリドーマ無血清培地(ギブコ社)、又は、1ng/mL IL−6を添加したGIT培地(和光純薬)を使用して培養した。
【0034】
(mRNA−seq)
各ハイブリドーマ細胞株から、市販のキット(型式「AllPrep DNA/RNA Mini Kit」、キアゲン社)を使用して全RNAを調製した。1μgの全RNAを使用し、市販のキット(型式「NEBNext Ultra Directional RNA Library Prep Kit」、ニュー・イングランド・バイオラボ社)を用いてライブラリーを作製した。なお、このキットは、使用する全RNAを約0.1μgにまで減らしてライブラリーを作製することができる。
【0035】
続いて、次世代シーケンサー(型式「HiSeq1500」、イルミナ社)を用いて、平均リード長50bpでペアードエンドシーケンシングによりmRNA−seqを行った。各ハイブリドーマ細胞株につき、それぞれ40×10リード以上のリード数の塩基配列データが得られた。
【0036】
(mRNA−seqデータ解析)
取得されたリードは、発明者らのカスタムトランスクリプトーム参照配列に対してマッピングした。カスタムトランスクリプトーム参照配列は、マウストランスクリプト、ラットトランスクリプト、ラットイムノグロブリン重鎖(Igh)定常領域、イムノグロブリンλ軽鎖(Igl)定常領域及びイムノグロブリンκ軽鎖(Igk)定常領域の塩基配列を含んでいた。
【0037】
マッピングプログラムであるBWA−MEMを使用し、−t 8 −P −L 10000のパラメータでリードをマッピングした。TIGAR2プログラムはデフォルト設定で使用した。各遺伝子の発現レベルはFPKM(fragments per kilobase of exon per million mapped fragments)で定量した。
【0038】
(デノボ・トランスクリプトーム・アセンブリ)
全リード又は「fastq−sample」プログラム(http://homes.cs.washington.edu/~dcjones/fastq-tools)によりサブサンプリングしたリードを、「Trinity」プログラムを用いてデノボ・アセンブリした。CPU及びmax−memoryパラメータはリード数に応じて変更した。例えば、40×10リードの場合、CPUパラメータは8、max−memoryパラメータは52Gに設定した。また、例えば、1×10リードの場合、CPUパラメータは2、max−memoryパラメータは12Gに設定した。
【0039】
Igh及びIgl/Igkをコードした塩基配列(CDS)は、フィルタリング処理により、コンティグ(アセンブルした塩基配列)が、20〜30bpのIgh又はIgl/Igkの定常領域に特徴的な塩基配列を含んでおり、かつ適切な長さ(Ighの場合1200bp超、Igl/Igkの場合600bp超)を有していた場合に抽出した。
【0040】
(RT−PCR)
各ハイブリドーマのRNAをフェノール/クロロホルム抽出により精製した。市販のキット(型式「PrimeScript(商標)II 1st strand cDNA Synthesis Kit」、タカラバイオ社)を用いて逆転写反応を行った。酵素(型式「KOD Plus」、東洋紡社)及びサーマルサイクラーを用いてPCRを行った。PCR産物はゲル抽出により精製し、非特異的な増幅産物を除去した。その後サンガー法により塩基配列を決定した。PCR使用したプライマーの塩基配列の配列番号を下記表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
[実験例1]
(ハイブリドーマのmRNA−seq解析)
ラットBリンパ球とマウスミエローマ細胞株SP2との細胞融合により樹立したハイブリドーマ細胞株である、クローンHD1、HD2、HD3及びHD4のmRNA−seqをそれぞれ行った。平均リード長50bpでペアードエンドシーケンシングを行った。
【0043】
続いて、各トランスクリプトームの発現レベルをBWA−TIGAR2プログラムにより定量し、発現レベルに応じて並べた。図1は、トランスクリプトームを発現レベルが高い順に並べたグラフである。
【0044】
その結果、全てのハイブリドーマクローンにおいて、Igh及びIgl/Igkをコードした塩基配列は、発現量が10,000FPKM超であり、最も発現レベルが高いトランスクリプトに順位づけられることが明らかとなった。
【0045】
この結果は、ハイブリドーマのmRNA−seqデータが、Igh及びIgl/Igkをコードした塩基配列を再構成するのに十分な数のリード数を有していることを示す。
【0046】
[実験例2]
(ラットハイブリドーマのIgh及びIgl/Igkの塩基配列のアセンブリ)
実験例1で得られたmRNA−seqデータのデノボ・トランスクリプトーム・アセンブリにより、Igh及びIgl/Igkの塩基配列の再構成を試みた。
【0047】
まず、Trinityプログラムを用いて、クローンHD1のmRNA−seqデータから完全長トランスクリプトームの再構成を行った。ここで、リードのフィルタリングは行わなかった。リード数は45,406,048リードであり、得られたコンティグ数は58,822個であった。
【0048】
続いて、Ighをコードする塩基配列をフィルタリングにより抽出した。フィルタリングでは、Ighの定常領域に特徴的な20〜30bpの塩基配列を有するコンティグを抽出した。フィルタリングに用いた塩基配列の配列番号を下記表2に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
完全長のIgHは400残基以上のアミノ酸を有している。そこで、1,200bp以上の長さを有し、Ighg2bに特徴的な24bpの塩基配列を含むIghの塩基配列として1,395bpの塩基配列を特定した。同定されたIghの塩基配列は、サンガー法により塩基配列を決定したクローンHD1のIghの塩基配列と同一であった。
【0051】
図2(a)は、デノボ・トランスクリプトーム・アセンブリにより塩基配列を決定したクローンHD1のIghの塩基配列(配列番号28)及び推定されるアミノ酸配列(配列番号29)を示す図である。図2(b)は、デノボ・トランスクリプトーム・アセンブリにより塩基配列を決定したクローンHD1のIgHタンパク質のアミノ酸配列と、既知のラットIgH(IgG2b)の定常領域のアミノ酸配列(アクセッション番号:AAA6078、配列番号30)とをアラインメントした図である。その結果、クローンHD1が産生するIgHのアミノ酸配列のうち第133〜464番目が、既知のラットIgHの定常領域のアミノ酸配列と一致することが明らかとなった。
【0052】
続いて、Igl/Igkをコードする塩基配列をフィルタリングにより抽出した。フィルタリングでは、Igl/Igkの定常領域に特徴的な20〜30bpの塩基配列を有するコンティグを抽出した。フィルタリングに用いた塩基配列の配列番号を下記表3に示す。
【0053】
【表3】
【0054】
完全長のIgKは200残基以上のアミノ酸を有している。そこで、600bp以上の長さを有し、Igkに特徴的な塩基配列を含むIgkの塩基配列として705bpの塩基配列を特定した。同定されたIgkの塩基配列は、サンガー法により塩基配列を決定したクローンHD1のIgkの塩基配列と同一であった。
【0055】
図3(a)は、デノボ・トランスクリプトーム・アセンブリにより塩基配列を決定したクローンHD1のIgkの塩基配列(配列番号31)及び推定されるアミノ酸配列(配列番号32)を示す図である。図3(b)は、デノボ・トランスクリプトーム・アセンブリにより塩基配列を決定したクローンHD1のIgKタンパク質のアミノ酸配列と、既知のラットIgKの定常領域のアミノ酸配列(アクセッション番号:CAA24558、配列番号33)とをアラインメントした図である。その結果、クローンHD1が産生するIgKのアミノ酸配列のうち第129〜234番目が、既知のラットIgKの定常領域のアミノ酸配列と一致することが明らかとなった。
【0056】
発明者らは、同様に、クローンHD2(Ighg2a/Igk)、クローンHD3(Ighg2a/Igk)、クローンHD4(Ighg2a/Igk)が産生する抗体の遺伝子の塩基配列も同定した。
【0057】
また、クローンHD1〜HD4が産生する抗体のアイソタイプは、ELISAによるアイソタイピングアッセイの結果と一致することが確認された。以上の結果は、mRNA−seqデータのデノボ・アセンブリにより、Igh遺伝子及びIgl/Igk遺伝子の塩基配列を簡便かつ正確に決定できることを示す。
【0058】
[実験例3]
(マウスハイブリドーマのIgh及びIgl/Igkの塩基配列のアセンブリ)
実験例2と同様にして、マウスハイブリドーマであるクローン8A2及び13C7のIgh及びIgkの塩基配列を決定した。マウスIgh及びIgl/Igkのフィルタリングに用いた塩基配列の配列番号を下記表4に示す。
【0059】
【表4】
【0060】
その結果、縮重プライマーにコードされる領域を除いて、サンガー法により決定された、これらのモノクローナル抗体の塩基配列と一致することが確認された。この結果は、mRNA−seqデータのデノボ・アセンブリにより、Igh遺伝子及びIgl/Igk遺伝子の塩基配列を簡便かつ正確に決定できることを更に支持するものである。また、縮重プライマーを用いた方法では、縮重プライマーのミスハイブリダイゼーションにより、本来の塩基配列が失われてしまう場合があることが確認された。
【0061】
[実験例4]
(抗体遺伝子の塩基配列決定のためのデノボ・アセンブリ条件の最適化)
ハイブリドーマのmRNA−seqデータを用いてIgh及びIgl/Igk遺伝子の塩基配列を決定する条件の最適化を試みた。まず、抗体遺伝子の塩基配列の決定に必要なリード数を検討した。
【0062】
具体的には、クローンHD1〜4のmRNA−seqの全リードから、それぞれ、5×10リード、10×10リード、30×10リード、50×10リード、100×10リード、500×10リード、1000×10リードのリードをランダムにサブサンプリングした。
【0063】
続いて、これらのリードを用いてデノボ・アセンブリを25回繰り返し実施した。続いて、全リードを用いて同定したIgh及びIgl/Igkの塩基配列を正しい塩基配列であると定義し、完全な塩基配列を得ることができた成功率(再構成率)を算出した。
【0064】
図4(a)は、各リード数のリードからデノボ・アセンブリした場合のIghの再構成率を算出した結果を示すグラフである。その結果、4クローン全てにおいて、Ighの塩基配列は30×10リード超のリード数で完全に同定することができることが明らかとなった。また、図4(b)は、各リード数のリードからデノボ・アセンブリした場合のIgkの再構成率を算出した結果を示すグラフである。その結果、4クローン全てにおいて、Igkの塩基配列は10×10リード超のリード数で完全に同定することができることが明らかとなった。
【0065】
この結果は、今回の手法により限られた数のリード数のmRNA−seqデータから抗体遺伝子の塩基配列を正確に特定することができることを示す。図5は、今回の手法をまとめた図である。まず図5(a)及び(b)に示すように、細胞からmRNAを抽出し、次世代シークエンシング(NGS)により塩基配列を決定する。続いて、図5(c)に示すように、mRNA−seqにより得られたデータをデノボ・アセンブリしてコンティグを作成する。続いて、図5(d)に示すように、特定の塩基配列を有するコンティグをフィルタリングして特定し、標的遺伝子の塩基配列を得る。
【0066】
[実験例5]
(他のハイブリドーマが産生する抗体の遺伝子の塩基配列の決定)
今回の塩基配列決定方法を、更に多数のハイブリドーマに適用し、抗体遺伝子の塩基配列を決定した。その結果、96種類以上のハイブリドーマについて、1サンプルあたり200×10リードでmRNA−seqを行い、抗体遺伝子の塩基配列を正確に決定することができた。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によれば、対象細胞が発現する標的遺伝子の塩基配列を簡便かつ正確に決定することができる新たな技術を提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]