【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人日本医療研究開発機構、平成28年度 感染症実用化研究事業 新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業 課題:培養細胞感染系の確立されていない病原体の新たな感染複製系の開発とそれを用いた診断・治療・予防法の開発に向けた研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
Annu. Rev. Cell Dev. Biol., 2015, Vol.31, pp.269-289
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記Wntタンパク質が、Wnt1、Wnt2、Wnt2b、Wnt3、Wnt3a、Wnt4、Wnt5a、Wnt5b、Wnt6、Wnt7a、Wnt7b、Wnt8a、Wnt8b、Wnt9a、Wnt9b、Wnt10a、Wnt10b、Wnt11、Wnt16からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1又は2に記載のヒト下痢症ウイルスの感染・増殖培養用2Dオルガノイド。
前記R−スポンジンが、R−スポンジン1、R−スポンジン2、R−スポンジン3、及びR−スポンジン4からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1〜3のいずれか一項に記載のヒト下痢症ウイルスの感染・増殖培養用2Dオルガノイド。
前記工程1及び工程2における細胞外マトリクスがマトリゲル(登録商標)である請求項1〜5のいずれか一項に記載のヒト下痢症ウイルスの感染・増殖培養用2Dオルガノイド。
請求項1〜8のいずれか一項に記載のヒト下痢症ウイルスの感染・増殖培養用2Dオルガノイドに、ヒト下痢症ウイルスを感染させて、感染した2Dオルガノイドを培養してヒト下痢症ウイルスを感染・増殖培養する工程3を有するヒト下痢症ウイルスの製造方法。
細胞外マトリクス上にヒト腸管上皮幹細胞、ヒト腸管上皮細胞、又は、これらの細胞のうち、少なくともいずれかを含む組織を立体培養し、3Dオルガノイドを得る工程1と、
前記工程1で得られた前記3Dオルガノイドを分散させて単一細胞を調製し、前記単一細胞を細胞外マトリクス上で単層培養し、分化した絨毛細胞及び杯細胞を含むヒト腸管内腔を構成する上皮細胞の腸管の内側の部分が表面に露呈して単層構造となっている2Dオルガイドを取得する工程2と、を有し、
前記工程1の培養において、
(i)Wntタンパク質、ノギン、R−スポンジン、A83−01、IGF1、FGF2を含む細胞培養培地、
(ii)Wntタンパク質、EGF、ノギン、R−スポンジン、A83−01、SB202190を含む細胞培養培地、又は
(iii)EGF、ノギン、R−スポンジン、A83−01を含む細胞培養培地を用い、
前記工程2の培養において、
(ii)Wntタンパク質、EGF、ノギン、R−スポンジン、A83−01、SB202190を含む細胞培養培地、
(iii)EGF、ノギン、R−スポンジン、A83−01を含む細胞培養培地、又は
(iv)EGF、ノギン、R−スポンジン、A83−01、LY411575を含む細胞培養培地を用いるヒト下痢症ウイルスの感染・増殖培養用2Dオルガノイドの製造方法。
前記工程1及び工程2における細胞外マトリクスがマトリゲル(登録商標)である請求項15〜17のいずれか一項に記載のヒト下痢症ウイルスの感染・増殖培養用2Dオルガノイドの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の細胞培養培地はp38阻害剤を含むため、係る培地を用いた培養方法では、分化抑制又は細胞死を引き起こすことがあり、改良の余地があった。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために、ヒト下痢症ウイルスをin vitroで大量に製造する方法、並びに、そのためのオルガノイド及びそのオルガノイド作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ヒト小腸由来のオルガノイドの製造方法を改良して得られた培養オルガノイドを使用することにより、ヒト下痢症ウイルスを感染させ増殖培養できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の態様を含む。
[1]細胞外マトリクス上にヒト腸管上皮幹細胞、ヒト腸管上皮細胞、又は、これらの細胞のうち、少なくともいずれかを含む組織を立体培養し、3Dオルガノイドを得る工程1と、
前記工程1で得られた前記3Dオルガノイドを分散させて単一細胞を調製し、前記単一細胞を細胞外マトリクス上で単層培養し、分化した絨毛細胞及び杯細胞を含むヒト腸管内腔を構成する上皮細胞が単層構造となっている2Dオルガイドを取得する工程2によって得られる、ヒト下痢症ウイルスの感染・増殖培養用2Dオルガノイド。
[2]前記工程1及び工程2の培養において、i)Wntアゴニスト、ii)インスリン様成長因子1(Insulin−like growth factor1;IGF1)、線維芽細胞増殖因子2(Fibroblast growth factor 2;FGF2)、EGF(Epidermal Growth Factor)及びエピレグリン(Epiregulin;EREG)からなる群から選ばれる少なくとも一種、iii)骨形成因子(bone morphogenetic protein;BMP)阻害剤、iv)形質転換増殖因子−β(transforming growth factor−β;TGF−β)阻害剤、及びv)γセクレターゼ阻害剤からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む細胞培養培地を用いる[1]に記載のヒト下痢症ウイルスの感染・増殖培養用2Dオルガノイド。
[3]前記Wntアゴニストが、Wntタンパク質、R−スポンジン、及びGSK−3β阻害剤からなる群から選択される少なくとも一種である[2]に記載のヒト下痢症ウイルスの感染・増殖培養用2Dオルガノイド。
[4]前記細胞培養培地がIGF1及びFGF2を含む[2]又は[3]に記載のヒト下痢症ウイルスの感染・増殖培養用2Dオルガノイド。
[5]前記Wntタンパク質がその安定化物質アファミンとの複合体を形成している[3]又は[4]に記載のヒト下痢症ウイルスの感染・増殖培養用2Dオルガノイド。
[6]前記Wntタンパク質が、Wnt1、Wnt2、Wnt2b、Wnt3、Wnt3a、Wnt4、Wnt5a、Wnt5b、Wnt6、Wnt7a、Wnt7b、Wnt8a、Wnt8b、Wnt9a、Wnt9b、Wnt10a、Wnt10b、Wnt11、Wnt16からなる群から選ばれる少なくとも一種である[3]〜[5]のいずれか一つに記載のヒト下痢症ウイルスの感染・増殖培養用2Dオルガノイド。
[7]前記R−スポンジンがR−スポンジン1、R−スポンジン2、R−スポンジン3、及びR−スポンジン4からなる群から選ばれる少なくとも一種である[3]〜[6]のいずれか一つに記載のヒト下痢症ウイルスの感染・増殖培養用2Dオルガノイド。
[8]前記BMP阻害剤がノギン(Noggin)、グレムリン、コーディン、コーディンドメインを含むコーディン様タンパク質、フォリスタチン、フォリスタチンドメインを含むフォリスタチン関連タンパク質、DAN、DANシステインノットドメインを含むDAN様タンパク質、スクレロスチン/SOST、及びα−2マクログロブリンからなる群から選ばれる少なくとも一種である[2]〜[7]のいずれか一つに記載のヒト下痢症ウイルスの感染・増殖培養用2Dオルガノイド。
[9]前記BMP阻害剤がノギン(Noggin)である[2]〜[8]のいずれか一つに記載のヒト下痢症ウイルスの感染・増殖培養用2Dオルガノイド。
[10]前記Wntアゴニストが、Wntタンパク質及びR−スポンジンである[2]〜[9]のいずれか一つに記載のヒト下痢症ウイルスの感染・増殖培養用2Dオルガノイド。
[11]前記TGF−β阻害剤が、A83−01、SB−431542、SB−505124、SB−525334、SD−208、LY−36494、及びSJN−2511からなる群から選ばれる少なくとも一種である[2]〜[10]のいずれか一つに記載のヒト下痢症ウイルスの感染・増殖培養用2Dオルガノイド。
[12]前記TGF−β阻害剤が、A83−01である[2]〜[11]のいずれか一つに記載のヒト下痢症ウイルスの感染・増殖培養用2Dオルガノイド。
[13]前記細胞培養培地が動物由来胆汁を更に含む[2]〜[12]のいずれか一つに記載のヒト下痢症ウイルスの感染・増殖培養用2Dオルガノイド。
[14]前記工程1及び工程2における細胞外マトリクスがマトリゲル(登録商標)である[1]〜[13]のいずれか一つに記載のヒト下痢症ウイルスの感染・増殖培養用2Dオルガノイド。
[15][1]〜[14]のいずれか一つに記載のヒト下痢症ウイルスの感染・増殖培養用2Dオルガノイド培養物。
[16]無血清である[15]に記載のヒト下痢症ウイルスの感染・増殖培養用2Dオルガノイド培養物。
[17][1]〜[14]のいずれか一つに記載のヒト下痢症ウイルスの感染・増殖培養用2Dオルガノイドに、ヒト下痢症ウイルスを感染させて、感染した2Dオルガノイドを培養してヒト下痢症ウイルスを感染・増殖培養する工程3を有するヒト下痢症ウイルスの製造方法。
[18]i)Wntアゴニスト、ii)インスリン様成長因子1(Insulin−like growth factor1;IGF1)、線維芽細胞増殖因子2(Fibroblast growth factor 2;FGF2)、EGF(Epidermal Growth Factor)及びエピレグリン(Epiregulin;EREG)からなる群から選ばれる少なくとも一種、iii)骨形成因子(bone morphogenetic protein;BMP)阻害剤、iv)形質転換増殖因子−β(transforming growth factor−β;TGF−β)阻害剤、及びv)γセクレターゼ阻害剤からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む細胞培養培地を備えるヒト下痢症ウイルスの感染・増殖培養用2Dオルガノイド培養キット。
[19]前記細胞培養培地が動物由来胆汁を更に含む[18]に記載のヒト下痢症ウイルスの感染・増殖培養用2Dオルガノイド培養キット。
[20]i)Wntアゴニスト、ii)インスリン様成長因子1(Insulin−like growth factor1;IGF1)、線維芽細胞増殖因子2(Fibroblast growth factor 2;FGF2)、EGF(Epidermal Growth Factor)及びエピレグリン(Epiregulin;EREG)からなる群から選ばれる少なくとも一種、iii)骨形成因子(bone morphogenetic protein;BMP)阻害剤、iv)形質転換増殖因子−β(transforming growth factor−β;TGF−β)阻害剤、及びv)γセクレターゼ阻害剤からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む細胞培養培地を備えるヒト下痢症ウイルス製造キット。
[21]前記Wntアゴニストが、Wntタンパク質及びR−スポンジンである[20]に記載のヒト下痢症ウイルス製造キット。
[22]前記Wntタンパク質がその安定化物質アファミンとの複合体を形成している[21]に記載のヒト下痢症ウイルス製造キット。
[23]前記細胞培養培地が動物由来胆汁を更に含む[20]〜[22]のいずれか一つに記載のヒト下痢症ウイルス製造キット。
[24]細胞外マトリクス上にヒト腸管上皮幹細胞、ヒト腸管上皮細胞、又は、これらの細胞のうち、少なくともいずれかを含む組織を立体培養し、3Dオルガノイドを得る工程1と、
前記工程1で得られた前記3Dオルガノイドを分散させて単一細胞を調製し、前記単一細胞を細胞外マトリクス上で単層培養し、分化した絨毛細胞及び杯細胞を含むヒト腸管内腔を構成する上皮細胞が単層構造となっている2Dオルガイドを取得する工程2と、を有し、
前記工程1及び工程2の培養において、i)Wntアゴニスト、ii)インスリン様成長因子1(Insulin−like growth factor1;IGF1)、線維芽細胞増殖因子2(Fibroblast growth factor 2;FGF2)、EGF(Epidermal Growth Factor)及びエピレグリン(Epiregulin;EREG)からなる群から選ばれる少なくとも一種、iii)骨形成因子(bone morphogenetic protein;BMP)阻害剤、iv)形質転換増殖因子−β(transforming growth factor−β;TGF−β)阻害剤、及びv)γセクレターゼ阻害剤からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む細胞培養培地を用いるヒト下痢症ウイルスの感染・増殖培養用2Dオルガノイドの製造方法。
[25]前記Wntアゴニストが、Wntタンパク質及びR−スポンジンである[24]に記載のヒト下痢症ウイルスの感染・増殖培養用2Dオルガノイドの製造方法。
[26]前記Wntタンパク質がその安定化物質アファミンとの複合体を形成している[25]に記載のヒト下痢症ウイルスの感染・増殖培養用2Dオルガノイドの製造方法。
[27]前記細胞培養培地が動物由来胆汁を更に含む[24]〜[26]のいずれか一つに記載のヒト下痢症ウイルスの感染・増殖培養用2Dオルガノイドの製造方法。
[28]前記工程1及び工程2における細胞外マトリクスがマトリゲル(登録商標)である[24]〜[27]のいずれか一つに記載のヒト下痢症ウイルスの感染・増殖培養用2Dオルガノイドの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ヒト下痢症ウイルスをin vitroで増殖培養することにより大量に製造する方法、及びそのためのオルガノイドの製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[ヒト下痢症ウイルスの製造方法]
一実施形態として、本発明は、細胞外マトリクス上にヒト腸管上皮幹細胞、ヒト腸管上皮細胞、又は、これらの細胞のうち、少なくともいずれかを含む組織を立体培養し、3Dオルガノイドを得る工程1と、前記工程1で得られた前記3Dオルガノイドを分散させて単一細胞を調製し、前記単一細胞を細胞外マトリクス上で単層培養し、分化した絨毛細胞及び杯細胞を含むヒト腸管内腔を構成する上皮細胞が単層構造となっている2Dオルガイドを取得する工程2と、前記工程2で得られた2Dオルガノイドに、ヒト下痢症ウイルスを感染させて、感染した2Dオルガノイドを培養してヒト下痢症ウイルスを感染・増殖培養する工程3と、を有し、前記工程1、工程2、及び工程3の培養において、所定の細胞培養培地を用いるヒト下痢症ウイルスの製造方法を提供する。先ず、工程1、工程2、及び工程3の培養に用いられる培地について説明する。なお、本実施形態において、工程1、工程2、及び工程3の培養に用いられる培地は、全て同一の培地であってもよいし、それぞれ異なる培地であってもよい。
【0014】
(細胞培養培地)
本実施形態に用いられる培地は、i)Wntアゴニスト、ii)インスリン様成長因子1(Insulin−like growth factor1;IGF1)、線維芽細胞増殖因子2(Fibroblast growth factor 2;FGF2)、EGF(Epidermal Growth Factor)及びエピレグリン(Epiregulin;EREG)からなる群から選ばれる少なくとも一種、iii)骨形成因子(bone morphogenetic protein;BMP)阻害剤、iv)形質転換増殖因子−β(transforming growth factor−β;TGF−β)阻害剤、及びv)γセクレターゼ阻害剤からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む細胞培養培地である。
【0015】
本実施形態に係る細胞培養培地によれば、実質的にp38阻害剤を含まず、ヒト腸管上皮幹細胞、ヒト腸管上皮細胞、又は、これらの細胞のうち、少なくともいずれかを含む組織を長期間培養することができる。
【0016】
本明細書において、ヒト腸管上皮細胞とはヒト腸管上皮組織から取得した分化したヒト腸管上皮細胞及びヒト腸管上皮幹細胞を含む。「ヒト腸管上皮幹細胞」とは、長期間の自己複製機能とヒト腸管上皮分化細胞への分化能をもつ細胞を意味し、ヒト腸管上皮組織に由来する幹細胞を意味する。
【0017】
本明細書において、「オルガノイド」とは、細胞を制御した空間内に高密度に集積させることにより自己組織化した立体的な細胞組織体を意味する。
【0018】
本明細書において、「実質的に含まない」とは、特定成分を全く含まない、若しくは特定成分が有する機能を発揮しない程度の濃度しか含まないことを意味する。
【0019】
よって、「実質的にp38阻害剤を含まない」とは、p38阻害剤を全く含まない、又はp38阻害剤による分化抑制及び細胞死が起きない程度の濃度しか含まないことを意味する。
【0020】
本実施形態に係る細胞培養培地は、IGF1、FGF2、EGF及びエピレグリンからなる群から選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましく、前記4種類の因子のいずれを含有するかは適宜選択することができる。中でも、本実施形態に係る細胞培養培地は、IGF1及びエピレグリン、FGF2及びエピレグリン、又は、IGF1及びFGF2を含むことが好ましく、IGF1及びFGF2を含むことがより好ましい。
【0021】
上記因子を含むことにより、実質的にEGF及びp38阻害剤を含まずとも、ヒト腸管上皮幹細胞、ヒト腸管上皮細胞、又は、これらの細胞のうち、少なくともいずれかを含む組織から高効率でオルガノイドを形成させることができる。
【0022】
(細胞培養基本培地)
本実施形態に係る細胞培養培地には、あらゆる無血清の細胞培養基本培地が含まれる。本実施形態に係る細胞培養培地は、ヒト細胞用であることが好ましい。
【0023】
係る無血清の細胞培養基本培地としては、例えば、炭酸系の緩衝液でpH7.2以上pH7.6以下に緩衝化されている規定の合成培地等が挙げられる。より具体的には、グルタミン、インスリン、B27 supplement(Thermo Fisher)、N−Acetyl−L−cystein(和光純薬)、ペニシリン又はストレプトマイシン、及びトランスフェリンが補充されたアドバンスト−ダルベッコ改変イーグル培地/ハムF−12混合培地(Dulbecco’s Modified Eagle Medium:Nutrient Mixture F−12;DMEM/F12)が挙げられる。
【0024】
また、アドバンスト−ダルベッコ改変イーグル培地/ハムF−12混合培地に替えてRPMI1640培地(Roswell Park Memorial Institute 1640 medium)、DMEM/F12、並びに、アドバンストRPMI培地等も挙げられる。
【0025】
上記本実施形態に係る細胞培養培地は、ウシ胎仔血清(fetal bovine serum(FBS)又はfetal calf serum)等の不確定な成分を実質的に含まない。また、上記細胞培養培地に5%血清を含んでもよい。
【0026】
(Wntアゴニスト)
本明細書において、「Wntアゴニスト」とは、細胞内でT−cell factor(以下、TCFともいう。)/lymphoid enhancer factor(以下、LEFともいう。)介在性の転写を活性化する薬剤を意味する。よって、Wntアゴニストは、Wntファミリータンパク質に限定されず、Frizzled受容体ファミリーメンバーに結合して活性化するWntアゴニスト、細胞内β−カテニン分解の阻害剤、及びTCF/LEFの活性化物質を包含する。Wntアゴニストは、Wntタンパク質、R−スポンジン、及びGSK−3β阻害剤からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましく、Wntタンパク質及びR−スポンジンであることがより好ましい。
【0027】
Wntアゴニストは、該Wntアゴニストの非存在下でのWnt活性のレベルと比較して、少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%、さらに好ましくは少なくとも50%、特に好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは100%、細胞においてWnt活性を刺激する。Wnt活性は、当業者にとって公知の方法を用いて、例えばpTOPFLASH及びpFOPFLASH Tcfルシフェラーゼレポーターコンストラクトによって、Wntの転写活性を測定することにより調べることができる(参考文献:Korinek et al.,1997.Science 275:1784−1787)。
【0028】
ヒト腸管上皮幹細胞、ヒト腸管上皮細胞、又は、これらの細胞のうち、少なくともいずれかを含む組織の培養においては、Wntアゴニストが含まれることが好ましい。本実施形態に係る細胞培養培地に含まれるWntアゴニストとしては、Wntタンパク質とアファミンとの複合体が含まれることがより好ましく、Wntタンパク質とアファミンとの複合体及びR−スポンジン(R−spondin)の両方が含まれることが更に好ましい。本実施形態に係る細胞培養培地において、Wntタンパク質とアファミンとの複合体及びR−スポンジンを含むことで、ヒト腸管上皮幹細胞又はヒト腸管上皮細胞は、オルガノイドをより高効率で形成することができる。
【0029】
(Wntタンパク質)
Wntアゴニストの一種であるWntタンパク質としては、由来は特に限定されず、各種生物由来のWntタンパク質を用いることができる。中でも、哺乳動物由来のWntタンパク質であることが好ましい。哺乳動物としては、例えば、ヒト、マウス、ラット、ウシ、ブタ、ウサギ等が挙げられる。哺乳動物のWntタンパク質としては、Wnt1、Wnt2、Wnt2b、Wnt3、Wnt3a、Wnt4、Wnt5a、Wnt5b、Wnt6、Wnt7a、Wnt7b、Wnt8a、Wnt8b、Wnt9a、Wnt9b、Wnt10a、Wnt10b、Wnt11、Wnt16等が挙げられる。本実施形態に係る細胞培養培地において、Wntタンパク質は複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
Wntタンパク質を製造する方法としては、例えば、Wntタンパク質発現細胞を用いて製造する方法等が挙げられる。Wntタンパク質発現細胞において、細胞の由来(生物種、培養形態等)は特に限定されず、Wntタンパク質を安定発現する細胞であればよく、Wntタンパク質を一過性に発現する細胞でもよい。Wntタンパク質発現細胞としては、例えば、マウスWnt3aを安定発現するL細胞(ATCC CRL−2647)、マウスWnt5aを安定発現するL細胞(ATCC CRL−2814)等が挙げられる。また、Wntタンパク質発現細胞は、公知の遺伝子組換え技術を用いて作製することができる。すなわち、所望のWntタンパク質をコードするDNAを公知の発現ベクターに挿入し、得られた発現ベクターを適切な宿主細胞に導入することにより、Wntタンパク質発現細胞を作製することができる。所望のWntタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列は、例えば、GenBank等の公知のデータベースから取得することができる。
【0031】
Wntタンパク質発現細胞により発現されるWntタンパク質は、Wnt活性を有する限り、Wntタンパク質のフラグメントでもよく、Wntタンパク質のアミノ酸配列以外のアミノ酸配列を含むものでもよい。Wntタンパク質のアミノ酸配列以外のアミノ酸配列について、特に限定はなく、例えばアフィニティータグのアミノ酸配列等が挙げられる。また、Wntタンパク質のアミノ酸配列は、GenBank等の公知のデータベースから取得できるアミノ酸配列と完全に一致している必要はなく、Wnt活性を有する限り、公知のデータベースから取得できるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列であってもよい。
【0032】
GenBank等の公知のデータベースから取得できるWntタンパク質のアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列としては、例えば、公知のデータベースから取得できるアミノ酸配列において、1〜数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列等が挙げられる。
【0033】
「1〜数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」とは、例えば、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異ペプチド作製法等により、欠失、置換若しくは付加できる程度の数(10個以下が好ましく、7個以下がより好ましく、6個以下がさらに好ましい。)のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されていることを意味する。
【0034】
また、実質的に同一のアミノ酸配列としては、例えば、公知のデータベースから取得できるアミノ酸配列との同一性が、少なくとも80%以上であり、好ましくは少なくとも85%以上、より好ましくは少なくとも90%以上、さらに好ましくは少なくとも92%以上、特に好ましくは少なくとも95%以上、最も好ましくは少なくとも99%以上であるアミノ酸配列等が挙げられる。
【0035】
Wntタンパク質の活性は、例えば、TCFレポーターアッセイにより確認することができる。一般的に、TCFレポーターアッセイとは、Wntシグナルが細胞に入ると特異的に活性化される転写因子であるT−cell factor(TCF)の結合配列を持つルシフェラーゼ遺伝子を導入し、Wntタンパク質の活性の強さをルシフェラーゼの発光によって、簡便に評価する方法である(参考文献:Molenaar et al.,Cell,86,391,1996.)。TCFレポーターアッセイ以外の方法としては、Wntシグナルが入ると細胞内のβカテニンが安定化することを利用して、βカテニンの量をウエスタンブロッティグによって定量評価する方法(参考文献:Shibamoto et al.,Gene to cells,3,659,1998.)等が挙げられる。また、Wnt5a等のように、non−canonical pathwayを介して細胞にシグナルを与えるWntタンパク質については、細胞内アダプタータンパク質であるDvl2のリン酸化を評価することでWntタンパク質の活性を評価する方法(参考文献:Kikuchi et al.,EMBO J.,29,3470,2010.)等を用いることができる。
【0036】
(R−スポンジン(R−spondin))
Wntアゴニストの一種であるR−スポンジンとしては、R−スポンジン1、R−スポンジン2、R−スポンジン3、及びR−スポンジン4からなるR−スポンジンファミリーが挙げられる。R−スポンジンファミリーは、分泌タンパク質であり、Wntシグナル伝達経路の活性化及び制御に関わることが知られている。本実施形態に係る細胞培養培地において、R−スポンジンを複数種組み合わせて用いてもよい。
【0037】
R−スポンジン活性を有する限り、R−スポンジンのフラグメントでもよく、R−スポンジンのアミノ酸配列以外のアミノ酸配列を含むものでもよい。
【0038】
(含有量)
本実施形態に係る細胞培養培地に含まれるWntタンパク質の濃度は、50ng/mL以上であることが好ましく、100ng/mL以上10μg/mL以下であることがより好ましく、200ng/mL以上1μg/mL以下であることがさらに好ましく、300ng/mL以上1μg/mL以下であることが特に好ましい。ヒト腸管上皮幹細胞の培養中、好ましくは2日ごとにWntアゴニストを培養培地に添加し、好ましくは4日ごとに細胞培養培地を新鮮なものに交換する。
【0039】
(GSK−3β阻害剤)
公知のGSK−3β阻害剤は、CHIR−99021、CHIR−98014(Sigma−Aldrich)、リチウム(Sigma)、ケンパウロン(Biomol International,Leost,M. et al.(2000)Eur J Biochem 267,5983−5994)、6−ブロモインジルビン−30−アセトキシム(Meyer,L et al.(2003)Chem.Biol.10,1255−1266)、SB 216763およびSB 415286(Sigma−Aldrich)、並びにGSK−3とaxinとの相互作用を阻止するFRATファミリーメンバー及びFRAT由来ペプチドを含む。概説は、参照により本明細書に組み入れられる、Meijer et al.(2004)Trends in Pharmacological Sciences 25,471−480に示されている。GSK−3β阻害のレベルを決定するための方法およびアッセイは当業者に公知であり、例えば、Liao et al.(2004),Endocrinology,145(6)2941−2949に記載の方法およびアッセイを含む。
【0040】
(アファミン)
本明細書において、「アファミン」とは、アルブミンファミリーに属する糖タンパク質を意味し、血液又は体液中に存在することが知られている。細胞培養に用いる培地に通常添加される血清には、当該血清を採取した動物由来のアファミンが含まれている。血清中にはアファミン以外の不純物等を含むため、本実施形態に係る細胞培養培地においては、血清を用いずに、アファミンを単独で使用することが好ましい。
【0041】
本実施形態に係る細胞培養培地に含まれるアファミンは、由来は特に限定されず、各種生物由来のアファミンを用いることができる。中でも、哺乳動物由来のアファミンであることが好ましい。哺乳動物としては、例えば、上述の[Wntタンパク質]と同様のものが挙げられる。主な哺乳動物のアファミンのアミノ酸配列及びこれをコードする遺伝子の塩基配列は、例えば、GenBank等の公知のデータベースから取得することができる。例えば、GenBankにおいて、ヒトアファミンのアミノ酸配列はAAA21612、これをコードする遺伝子の塩基配列はL32140のアクセッション番号で登録されており、ウシアファミンのアミノ酸配列はDAA28569、これをコードする遺伝子の塩基配列はGJ060968のアクセッション番号で登録されている。
【0042】
本実施形態に係る細胞培養培地に含まれるアファミンは、血清等に含まれる天然のアファミンを公知の方法で精製したものでもよく、組換えアファミンであってもよい。組換えアファミンは、公知の遺伝子組換え技術を適宜用いることにより製造することができる。
【0043】
組換えアファミンの製造方法としては、例えば、アファミンをコードするDNAを公知の発現ベクターに挿入し、得られた発現ベクターを適切な宿主細胞に導入して組換えアファミンを発現させ、公知の精製方法を用いて精製することにより製造することができる。組換えアファミンは、アフィニティータグを付加したアファミンであってもよい。付加するアフィニティータグは特に限定されず、公知のアフィニティータグから適宜選択して用いることができる。アフィニティータグとしては、特異的抗体により認識されるアフィニティータグであることが好ましく、例えば、FLAGタブ、MYCタグ、HAタグ、V5タグ等が挙げられる。
【0044】
上述のWntタンパク質は、特定のセリン残基が脂肪酸(パルミトレイン酸)で修飾されているため、強い疎水性を有する。そのため、Wntタンパク質は、水溶液中では凝集又は変性しやすいため、精製及び保存が非常に難しいことが広く知られている。
【0045】
一方、この特定のセリン残基の脂肪酸による修飾は、Wntタンパク質の生理活性に必須であり、Frizzled受容体ファミリーメンバーとの結合に関与することが報告されている。
【0046】
また、水溶液中において、Wntタンパク質がアファミンと1対1で結合し複合体を形成し、高い生理活性を保ちながら、可溶化する知見もある(Active and water−soluble form of lipidated Wnt protein is maintained by A serum glycoprotein afamin/α−albumin.Mihara E,Hirai H,Yamamoto H,Tamura−Kawakami K,Matano M,Kikuchi A,Sato T,Takagi J.Elife.2016 Feb 23;5.)。
【0047】
係る知見に基づき、Wntタンパク質及びアファミンの両方を発現する細胞を培養する方法により、Wntタンパク質−アファミン複合体を製造してもよく、Wntタンパク質発現細胞とアファミン発現細胞を共培養する方法により、Wntタンパク質−アファミン複合体を製造してもよい。Wntタンパク質−アファミン複合体中のWntタンパク質の活性は、上述の[Wntタンパク質]と同様の方法を用いて、評価することができる。
【0048】
本実施形態に係る細胞培養培地に含まれるアファミンの濃度は、特に限定されないが、50ng/mL以上10μg/mL以下であることが好ましく、100ng/mL以上1μg/mL以下であることがより好ましく、300μg/mL以上1μg/mL以下であることがさらに好ましい。
【0049】
(インスリン様成長因子1(Insulin−like growth factor1;IGF1))
一般的に、「インスリン様成長因子1(Insulin−like growth factor1;IGF1)」は、別名ソマトメジンCとも呼ばれ、主に、肝臓で成長ホルモン(GH)による刺激により分泌される因子である。人体の殆どの細胞(特に、筋肉、骨、肝臓、腎臓、神経、皮膚及び肺等の細胞)は、IGF1の影響を受けることが知られている。IGF1は、インスリン様効果に加え、細胞成長(特に、神経細胞)及び発達、並びに、細胞DNA合成を調節する機能を有する。
【0050】
本実施形態に係る細胞培養培地に含まれるIGF1の濃度は、特に限定されないが、5ng/mL以上1μg/mL以下であることが好ましく、10ng/mL以上1μg/mL以下であることがより好ましく、50ng/mL以上500ng/mL以下であることがさらに好ましい。
【0051】
本実施形態に係る細胞培養培地に含まれるIGF1の濃度が上記範囲であることにより、実質的にp38阻害剤を含まずとも、ヒト腸管上皮幹細胞、ヒト腸管上皮細胞又は、これらの細胞のうち、少なくともいずれかを含む組織を長期間培養することができる。
【0052】
また、ヒト腸管上皮幹細胞、ヒト腸管上皮細胞、又は、これらの細胞のうち、少なくともいずれかを含む組織から高効率でオルガノイドを形成させることができる。
【0053】
また、ヒト腸管上皮幹細胞の培養中、2日ごとにIGF1を培養培地に添加することが好ましく、4日ごとに培養培地を新鮮なものに交換することが好ましい。
【0054】
(線維芽細胞増殖因子2(Fibroblast growth factor 2;FGF2))
一般的に、「線維芽細胞増殖因子2(Fibroblast growth factor 2;FGF2)とは、塩基性の線維芽細胞増殖因子であって、線維芽細胞増殖因子受容体(fibroblast growth factor receptor;FGFR)と結合し、血管内皮細胞の増殖促進と筒状構造への組織化、すなわち血管新生を促進する機能を有する。また、ヒトFGF2は低分子量型(LWL)と高分子量型(HWL)の2つのアイソフォームを持つことが知られている。LWLは主に細胞質に存在し、自己分泌(オートクリン)で作用し、一方、HWLは核内にあり、細胞内で作用するイントラクリン機構で活性を示す。
【0055】
本実施形態に係る細胞培養培地に含まれるFGF2の濃度は、特に限定されないが、5ng/mL以上1μg/mL以下であることが好ましく、10ng/mL以上1μg/mL以下であることがより好ましく、50ng/mL以上500ng/mL以下であることがさらに好ましい。
【0056】
本実施形態に係る細胞培養培地に含まれるFGF2の濃度が上記範囲であることにより、実質的にp38阻害剤を含まずとも、ヒト腸管上皮幹細胞、ヒト腸管上皮細胞、又は、これらの細胞のうち、少なくともいずれかを含む組織を長期間培養することができる。
【0057】
また、ヒト腸管上皮幹細胞、ヒト腸管上皮細胞、又は、これらの細胞のうち、少なくともいずれかを含む組織から高効率でオルガノイドを形成させることができる。
【0058】
また、ヒト腸管上皮幹細胞の培養中、2日ごとにFGF2を培養培地に添加することが好ましく、4日ごとに培養培地を新鮮なものに交換することが好ましい。
【0059】
(エピレグリン(Epiregulin;EREG))
一般的に、「エピレグリン(Epiregulin;EREG)とは、チロシンキナーゼ(ErbB)ファミリー受容体(ErbB1〜4)のうち、ErbB1及びErbB4に特異的に結合するEGF様成長因子である。ケラチン生成細胞、肝細胞、繊維芽細胞、及び血管内皮細胞の増殖を刺激することが知られている。また、EREGは、主に膀胱、肺、腎臓、大腸等のガン腫瘍、胎盤、及び末梢血白血球において発現している。
【0060】
本実施形態に係る細胞培養培地に含まれるEREGの濃度は、特に限定されないが、5ng/mL以上1μg/mL以下であることが好ましく、10ng/mL以上1μg/mL以下であることがより好ましく、50ng/mL以上500ng/mL以下であることがさらに好ましい。
【0061】
本実施形態に係る細胞培養培地に含まれるEREGの濃度が上記範囲であることにより、実質的にp38阻害剤を含まずとも、ヒト腸管上皮幹細胞、ヒト腸管上皮細胞、又は、これらの細胞のうち、少なくともいずれかを含む組織を長期間培養することができる。
【0062】
また、ヒト腸管上皮幹細胞、ヒト腸管上皮細胞、又は、これらの細胞のうち、少なくともいずれかを含む組織から高効率でオルガノイドを形成させることができる。
【0063】
また、ヒト腸管上皮幹細胞の培養中、2日ごとにEREGを培養培地に添加することが好ましく、4日ごとに培養培地を新鮮なものに交換することが好ましい。
【0064】
(BMP阻害剤)
骨形成因子(bone morphogenetic protein;BMP)は、二量体リガンドとして二種類の異なる受容体セリン/スレオニンキナーゼ、I型及びII型受容体からなる受容体複合体に結合する。II型受容体はI型受容体をリン酸化し、その結果、この受容体キナーゼが活性化される。このI型受容体は、続いて特異的な受容体基質(SMAD)をリン酸化し、その結果、シグナル伝達経路によって転写活性が導かれる。一般的に、BMP阻害剤は、例えば、BMP受容体へのBMP分子の結合を阻止又は阻害するものであって、BMP活性を中和する複合体を形成するためにBMP分子に結合する薬剤である。また、BMP阻害剤は、例えば、BMP受容体と結合し、BMP分子の受容体への結合を阻止又は阻害するものであって、アンタゴニスト又は逆アゴニストとして作用する薬剤である。
【0065】
BMP阻害剤は、この阻害剤の非存在下でのBMP活性レベルと比較して、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは、90%以上の阻害活性を有する。BMP阻害活性は、当業者にとって公知の方法(参考文献:Zilberberg et al.,BMC Cell Biol,8:41,2007.)を用いて、BMPの転写活性を測定することによって、評価することができる。
【0066】
本実施形態に係る細胞培養培地に含まれるBMP阻害剤としては、天然のBMP結合タンパク質であることが好ましく、例えば、ノギン(Noggin)、グレムリン、コーディン(Chordin)、コーディンドメイン等のコーディン様タンパク質;フォリスタチン(Follistatin)、フォリスタチンドメイン等のフォリスタチン関連タンパク質;DAN、DANシステイン−ノットドメイン等のDAN様タンパク質;スクレロスチン/SOST、デコリン、α−2マクログロブリン等が挙げられる。
【0067】
本実施形態に係る細胞培養培地に含まれるBMP阻害剤としては、中でも、コーディン様タンパク質又はDAN様タンパク質が好ましく、コーディン様タンパク質がより好ましい。コーディン様タンパク質としては、ノギンが好ましい。コーディン様タンパク質やDAN様タンパク質は拡散性タンパク質であり、様々な親和度でBMP分子に結合し、シグナル伝達受容体へのBMP分子の接近を阻害することができる。上皮幹細胞を培養する場合において、これらのBMP阻害剤を細胞培養培地に添加することにより、幹細胞の喪失を妨げることができる。
【0068】
本実施形態に係る細胞培養培地に含まれるBMP阻害剤の濃度は、10ng/mL以上100ng/mL以下であることが好ましく、20ng/mL以上100ng/mL以下であることがより好ましく、50ng/mL以上100ng/mL以下であることがさらに好ましい。幹細胞の培養中、2日ごとにBMP阻害剤を培養培地に添加することが好ましく、4日ごとに培養培地を新鮮なものに交換することが好ましい。
【0069】
(TGF−β阻害剤)
形質転換増殖因子−β(transforming growth factor−β;TGF−β)は、増殖因子の一種であり、腎臓、骨髄、血小板等ほぼすべての細胞で産生される。TGF−βには、5種類のサブタイプ(β1〜β5)が存在する。また、TGF−βは、骨芽細胞の増殖、並びに、コラーゲンのような結合組織の合成及び増殖を促進し、上皮細胞の増殖や破骨細胞に対しては抑制的に作用することが知られている。一般的に、TGF−β阻害剤は、例えば、TGF−β受容体へのTGF−βの結合を阻止又は阻害するものであって、TGF−β活性を中和する複合体を形成するためにTGF−βに結合する薬剤である。また、TGF−β阻害剤は、例えば、TGF−β受容体と結合し、TGF−βの受容体への結合を阻止又は阻害するものであって、アンタゴニスト又は逆アゴニストとして作用する薬剤である。
【0070】
TGF−β阻害剤は、この阻害剤の非存在下でのTGF−β活性レベルと比較して、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは、90%以上の阻害活性を有する。TGF−β阻害活性は、当業者にとって公知の方法で評価することができる。係る評価系としては、ルシフェラーゼレポーター遺伝子を動かすヒトPAI−1プロモーター又はSmad結合部位を含むレポーター構築物を用いて細胞が安定にトランスフェクトされている細胞アッセイが挙げられる(参考文献:De Gouville et al.,Br J Pharmacol,145(2):166−177,2005.)。
【0071】
本実施形態に係る細胞培養培地に含まれるTGF−β阻害剤としては、例えば、A83−01(3−(6−メチルピリジン−2−イル)−1−フェニルチオカルバモイル−4−キノリン−4−イルピラゾール)、ALK5 Inhibitor I(3−(ピリジン−2−イル)−4−(4−キノニル)−1H−ピラゾール)、LDN193189(4−(6−(4−(ピペラジン−1−イル)フェニル)ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン−3−イル)キノリン)、SB431542(4−[4−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)−5−ピリジン‐2‐イル−1H−イミダゾール−2−イル]ベンズアミド)、SB−505124(2−(5−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イル−2−tert−ブチル−3H−イミダゾール−4−イル)−6−メチルピリジン塩酸塩水和物)、SD−208(2−(5−クロロ−2−フルオロフェニル)プテリジン−4−イル)ピリジン−4−イル−アミン)、SB−525334(6−[2−(1,1−ジメチルエチル)−5−(6−メチル−2−ピリジニル)−1H−イミダゾール−4−イル]キノキサリン)、LY−364947(4−[3−(2−ピリジニル)−1H−ピラゾール−4−イル]−キノリン)、LY2157299(4−[2−(6−メチル−ピリジン−2−イル)−5,6−ジヒドロ−4H−ピロロ[1,2−b]ピラゾール−3−イル]−キノリン−6−カルボン酸アミド)、TGF−β RI Kinase Inhibitor II 616452(2−(3−(6−メチルピリジン−2−イル)−1H−ピラゾール−4−イル)−1,5−ナフチリジン)、TGF−β RI Kinase Inhibitor III 616453(2−(5−ベンゾ[1,3]ジオキソール−4−イル−2−tert−ブチル−1H−イミダゾール−4−イル)−6−メチルピリジン, HCl)、TGF−β RI Kinase Inhibitor IX 616463(4−((4−((2,6−ジメチルピリジン−3−イル)オキシ)ピリジン−2−イル)アミノ)ベンゼンスルホンアミド)、TGF−β RI Kinase Inhibitor VII 616458(1−(2−((6,7−ジメトキシ−4−キノリル)オキシ)−(4,5−ジメチルフェニル)−1−エタノン)、TGF−β RI Kinase Inhibitor VIII 616459(6−(2−tert−ブチル−5−(6−メチル−ピリジン−2−イル)−1H−イミダゾール−4−イル)−キノキサリン)、AP12009(TGF−β2アンチセンス化合物“Trabedersen”)、Belagenpumatucel−L(TGF−β2アンチセンス遺伝子修飾同種異系腫瘍細胞ワクチン)、CAT−152(Glaucoma−lerdelimumab(抗−TGF−β−2モノクローナル抗体))、CAT−192(Metelimumab(TGFβ1を中和するヒトIgG4モノクローナル抗体)、GC−1008(抗−TGF−βモノクローナル抗体)等が挙げられる。本実施形態に係る細胞培養培地に含まれるTGF−β阻害剤としては、中でも、A83−01が好ましい。
【0072】
本実施形態に係る細胞培養培地に含まれるTGF−β阻害剤の濃度は、100nM以上10μM以下であることが好ましく、500nM以上5μM以下であることがより好ましく、500nM以上2μM以下であることがさらに好ましい。幹細胞の培養中、2日ごとにTGF−β阻害剤を培養培地に添加することが好ましく、4日ごとに培養培地を新鮮なものに交換することが好ましい。
【0073】
(γセクレターゼ阻害剤)
γセクレターゼ阻害剤は、この阻害剤の非存在下でのγセクレターゼ活性レベルと比較して、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは、90%以上の阻害活性を有する。γセクレターゼ阻害活性は、当業者にとって公知の方法で評価することができる。
【0074】
本実施形態に係る細胞培養培地に含まれるγセクレターゼとしては、例えば、BMS299897、DAPT、DBZ,JLK6、L−685,458、LY411575等が挙げられる。本実施形態に係る細胞培養培地に含まれるγセクレターゼとしては、中でも、LY411575が好ましい。
【0075】
本実施形態に係る細胞培養培地に含まれるγセクレターゼ阻害剤の濃度は、1nM以上10μM以下であることが好ましく、100nM以上1μM以下であることがさらに好ましい。
【0076】
細胞1個あたりのヒト下痢症ウイルスの生産量増加の観点から、γセクレターゼ阻害剤は、工程2の単層培養で用いることが好ましい。幹細胞の培養中、2日ごとにγセクレターゼ阻害剤を培養培地に添加することが好ましく、4日間培養培地に添加することが好ましい。
【0077】
(分裂促進増殖因子)
本実施形態に係る細胞培養培地に含まれていてもよい分裂促進増殖因子としては、例えば、上皮増殖因子(Epidermal Growth Factor;EGF)、脳由来神経栄養因子(brain derived neurotrophic factor;BDNF)、ケラチン生成細胞増殖因子(keratinocyte growth factor;KGF)等の増殖因子のファミリーが挙げられる。これらの分裂促進増殖因子は複数種類を組み合わせて用いてもよい。
【0078】
EGFは、様々な培養外胚葉性細胞及び中胚葉性細胞に対する強力な分裂促進因子であり、一部の繊維芽細胞の、特異的細胞の分化に顕著な影響を有する。EGF前駆体は、タンパク質分解により切断されて、細胞を刺激する53−アミノ酸ペプチドホルモンを生成させる、膜結合分子として存在する。
【0079】
前記細胞培養培地に含まれていてもよい分裂促進増殖因子としては、中でも、EGFが好ましい。本実施形態に係る細胞培養培地に含まれるEGFの濃度は、5ng/mL以上500ng/mL以下であることが好ましく、10ng/mL以上400ng/mL以下であることがより好ましく、50ng/mL以200ng/mL以下であることがさらに好ましい。
【0080】
また、前記細胞培養培地にKGFを含む場合においても、KGFと同様の含有量であることが好ましい。複数のKGF、例えばKGF1及びKGF2(FGF7及びFGF10としても知られている。)を使用する場合は、KGFの総含有量が上記範囲であることが好ましい。幹細胞の培養中、2日ごとに分裂促進増殖因子を培養培地に添加することが好ましく、4日ごとに培養培地を新鮮なものに交換することが好ましい。
【0081】
(その他成分)
本実施形態に係る細胞培養培地は、さらに、Rock(Rho−キナーゼ)阻害剤を含んでいてもよい。Rock阻害剤としては、例えば、Y−27632((R)−(+)−トランス−4−(1−アミノエチル)−N−(4−ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミド二塩酸塩一水和物)、ファスジル(HA1077)(5−(1,4−ジアゼパン−1−イルスルホニル)イソキノリン)、H−1152((S)−(+)−2−メチル−1−[(4−メチル−5−イソキノリニル)スルホニル]−ヘキサヒドロ−1H−1,4−ジアゼピン二塩酸塩)等が挙げられる。Rock阻害剤として、Y−27632を用いる場合は、単細胞に分散された幹細胞の培養の最初の2日間に添加することが好ましい。本実施形態に係る細胞培養培地に含まれるY−27632は、約10μMであることが好ましい。
【0082】
本実施形態に係る細胞培養培地は、さらに、ガストリン(又はLeu15−ガストリン等の適切な代替物)が添加されてもよい。本実施形態に係る細胞培養培地に含まれるガストリン(又は適切な代替物)濃度は、例えば1ng/mL以上10μg/mLであってよく、例えば1ng/mL以上1μg/mL以下であってよく、例えば5ng/mL以上100ng/mL以下であってよい。
【0083】
本実施形態に係る細胞培養培地は、さらに、少なくとも1種のアミノ酸を含んでもよい。本実施形態に係る細胞培養培地に含まれるアミノ酸としては、例えば、L−アラニン、L−アルギニン、L−アスパラギン、L−アスパラギン酸、L−システイン、L−シスチン、L−グルタミン酸、L−グルタミン、L−グリシン、L−ヒスチジン、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−リジン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−プロリン、L−セリン、L−スレオニン、L−トリプトファン、L−チロシン、L−バリン、及びその組み合わせ等が挙げられる。一般的に、細胞培養培地に含まれるL−グルタミンの濃度は0.05g/L以上1g/L以下(通常、0.1g/L以上0.75g/L以下)である。細胞培養培地に含まれるその他のアミノ酸は、0.001g/L以上1g/L(通常、0.01g/L以上0.15g/L以下)である。アミノ酸は合成由来でもよい。
【0084】
本実施形態に係る細胞培養培地は、さらに、少なくとも1種のビタミンを含んでいてもよい。本実施形態に係る細胞培養培地に含まれるビタミンとしては、例えば、チアミン(ビタミンB1)、リボフラビン(ビタミンB2)、ナイアシン(ビタミンB3)、D−パントテン酸カルシウム(ビタミンB5)、ピリドキサール/ピリドキサミン/ピリドキシン(ビタミンB6)、葉酸(ビタミンB9)、シアノコバラミン(ビタミンB12)、アスコルビン酸(ビタミンC)、カルシフェロール(ビタミンD2)、DL−αトコフェロール(ビタミンE)、ビオチン(ビタミンH)、メナジオン(ビタミンK)等が挙げられる。
【0085】
本実施形態に係る細胞培養培地は、さらに、少なくとも1種の無機塩を含んでいてもよい。本実施形態に係る細胞培養培地に含まれる無機塩は、細胞の浸透圧平衡の維持を助けるために、および膜電位の調節を助けるためのものである。無機塩の具体例としては、カルシウム、銅、鉄、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、亜鉛の塩が挙げられる。塩は、通常、塩化物、リン酸塩、硫酸塩、硝酸塩、及び重炭酸塩の形で用いられる。さらに具体的な塩には、CaCl
2、CuSO
4−5H
2O、Fe(NO
3)−9H
2O、FeSO
4−7H
2O、MgCl、MgSO
4、KCl、NaHCO
3、NaCl、Na
2HPO
4、Na
2HPO
4−H
2O、ZnSO
4−7H
2O等が挙げられる。
【0086】
本実施形態に係る細胞培養培地は、さらに、少なくとも1種の炭素エネルギー源となり得る糖を含んでいてもよい。本実施形態に係る細胞培養培地に含まれる糖としては、例えば、グルコース、ガラクトース、マルトース、フルクトース等が挙げられる。中でも、糖としては、グルコースが好ましく、D−グルコース(デキストロース)が特に好ましい。本実施形態に係る細胞培養培地に含まれる糖の濃度は、1g/L以上10g/Lであることが好ましい。
【0087】
本実施形態に係る細胞培養培地は、さらに、少なくとも1種の微量元素を含んでいてもよい。本実施形態に係る細胞培養培地に含まれる微量元素としては、例えば、バリウム、ブロミウム、コバルト、ヨウ素、マンガン、クロム、銅、ニッケル、セレン、バナジウム、チタン、ゲルマニウム、モリブデン、ケイ素、鉄、フッ素、銀、ルビジウム、スズ、ジルコニウム、カドミウム、亜鉛、アルミニウム又はこれらのイオン等が挙げられる。
【0088】
本実施形態に係る細胞培養培地は、さらに、少なくとも1種の付加的な薬剤を含んでいてもよい。係る薬剤としては、幹細胞培養を改善することが報告されている栄養素又は増殖因子、例えば、コレステロール/トランスフェリン/アルブミン/インシュリン/プロゲステロン、プトレシン、亜セレン酸塩/他の因子等が挙げられる。
【0089】
本実施形態に係る細胞培養培地は、動物由来胆汁を更に含んでいてもよい。実施例において後述するように、細胞培養培地に動物由来胆汁を添加することにより、ヒト下痢症ウイルスの増殖を顕著に促進することができる。動物由来胆汁としては、ウシ胆汁抽出物、ブタ胆汁抽出物等が挙げられる。これらの胆汁抽出物は市販されているものであってもよい。
【0090】
(工程1)
工程1は、細胞外マトリクス上にヒト腸管上皮幹細胞、ヒト腸管上皮細胞、又は、これらの細胞のうち、少なくともいずれかを含む組織を立体培養し、3Dオルガノイドを得る工程である。
【0091】
工程1において、細胞外マトリクスを調製する細胞外マトリクス調製工程と、細胞外マトリクス中のヒト腸管上皮幹細胞、ヒト腸管上皮細胞又は、これらの細胞のうち、少なくともいずれかを含む組織を、細胞外マトリクス上に接着させる接着工程と、前記接着工程後に、上述の細胞培養培地を添加し、前記ヒト腸管上皮幹細胞、前記ヒト腸管上皮細胞、又は前記これらの細胞のうち、少なくともいずれかを含む組織を培養し、オルガノイドを形成させるオルガノイド形成工程と、を備えることが好ましい。工程1が備える好ましい工程について、以下に詳細に説明する。
【0092】
《細胞外マトリクス調製工程》
一般的に、「細胞外マトリクス(Extracellular Matrix;ECM)」とは、生物において細胞の外に存在する超分子構造を意味する。このECMは、上皮幹細胞、上皮腫瘍細胞、又はそれらを含む組織が増殖するための足場となる。
【0093】
ECMは、様々な多糖、水、エラスチン、及び糖タンパク質を含む。糖タンパク質としては、例えば、コラーゲン、エンタクチン(ナイドジェン)、フィブロネクチン、ラミニン等が挙げられる。
【0094】
ECMの調製方法としては、例えば、結合組織細胞を用いる方法等が挙げられる。より具体的には、ECM産生細胞、例えば、線維芽細胞を培養した後に、これらの細胞を取り出し、上皮幹細胞、上皮細胞、上皮腫瘍細胞、又はそれらを含む組織を添加することによって、ECMを足場として用いることができる。
【0095】
ECM産生細胞としては、例えば、主にコラーゲン及びプロテオグリカンを産生する軟骨細胞、主にIV型コラーゲン、ラミニン、間質プロコラーゲン、及びフィブロネクチンを産生する線維芽細胞、主にコラーゲン(I型、III型、及びV型)、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン、ヒアルロン酸、フィブロネクチン、及びテネイシン−Cを産生する結腸筋線維芽細胞等が挙げられる。または、市販のECMを用いてもよい。市販のECMとしては、例えば、細胞外マトリクスタンパク質(Invitrogen社製)、Engelbreth−Holm−Swarm(EHS)マウス肉腫細胞に由来する基底膜調製物(例えば、マトリゲル(登録商標)(BD Biosciences社製))等が挙げられる。ProNectin(SigmaZ378666)等の合成ECMを用いてもよい。また、天然ECM及び合成ECMの混合物を用いてもよい。
【0096】
幹細胞を培養するためにECMを使用する場合、幹細胞の長期生存及び未分化幹細胞の継続的存在を強化することができる。ECMの非存在下では、幹細胞培養物を長期間にわたって培養することができず、未分化幹細胞の継続的存在は観察されない。さらに、ECMが存在すると、ECMの非存在下では培養することができないオルガノイドを培養することができる。
【0097】
ECMは、通常、細胞が懸濁されたディッシュの底に沈んでいる。例えば、ECMが37℃で凝固するときに、上述の細胞培養培地を加えて、ECMの中に拡散させて用いてもよい。培地中の細胞は、ECMの表面構造と相互作用することによって、例えば、インテグリンと相互作用することによってECMに固着することができる。
【0098】
ECMは培養容器等にコーティングして用いてもよい。ECMとして、フィブロネクチンを用いる場合、培養容器中にコーティングされる割合は、1μg/cm
2以上250μg/cm
2以下であることが好ましく、1μg/cm
2以上150μg/cm
2以下であることがより好ましく、8μg/cm
2以上125μg/cm
2以下であることがさらに好ましい。
【0099】
細胞外マトリクスとしては、マトリゲル(登録商標)を用いることが好ましい。実施例において後述するように細胞外マトリクスとしてマトリゲル(登録商標)を使用すると、2Dオルガノイドの培養基材への接着が良好になる傾向がある。
【0100】
《接着工程》
続いて、ヒト腸管上皮幹細胞、ヒト腸管上皮細胞、又はそれら細胞のうち少なくともいずれか一方を含む組織を準備する。
【0101】
ヒト腸管上皮組織からヒト腸管上皮細胞を単離する方法としては、当技術分野において公知の方法が挙げられる。例えば、キレート剤と単離組織とを恒温放置することによって、陰窩を単離することができる。この組織を洗浄した後、硝子スライドでヒト腸管上皮細胞層を粘膜下層から剥離し、細切する。この後、トリプシン又は、好ましくはEDTA及びEGTAのうち少なくともいずれか一方を含む液中で恒温放置し、例えば、ろ過及び遠心機の少なくともいずれか一方を用いて、未消化の組織断片と陰窩由来の単一細胞とを分離する。トリプシンの代わりに、その他のタンパク質分解酵素、例えばコラゲナーゼ及びディスパーゼIのうち少なくともいずれか一方を使用してもよい。
【0102】
ヒト腸管上皮組織から幹細胞を単離する方法として、当技術分野において公知の方法が挙げられる。幹細胞は、その表面上でLgr5及びLgr6のうち少なくともいずれか一方(Lgr5及びLgr6は大型のGタンパク質共役受容体(GPCR)スーパーファミリーに属する)を発現する。単離方法としては、ヒト腸管上皮組織から細胞縣濁液を調製し、この細胞縣濁液を、Lgr5及びLgr6のうち少なくともいずれか一方と結合する化学物質に接触させ、このLgr5及びLgr6のうち少なくともいずれか一方と結合する化学物質を分離し、この結合化合物から幹細胞を単離する方法挙げられる。
【0103】
Lgr5及びLgr6のうち少なくともいずれか一方と結合する化学物質としては、例えば、抗体、より具体的には、例えばLgr5及びLgr6のうち少なくともいずれか一方を特異的に認識し、それに結合するモノクローナル抗体(例えば、マウス及びラットモノクローナル抗体を含むモノクローナル抗体等)が挙げられる。このような抗体を用いて、例えば磁性ビーズを活用して、又は蛍光活性化細胞ソーターを通じて、Lgr5及びLgr6のうち少なくともいずれか一方を発現している幹細胞を単離することができる。
【0104】
上述の方法により単離されたヒト腸管上皮幹細胞、ヒト腸管上皮細胞、ヒト腸管上皮腫瘍細胞、又はそれら細胞のうち少なくともいずれか一方を含む組織を、前記調製工程で得られた細胞マトリクスに包埋して、プレートに播種し、静置する。播種された細胞は、ECMの表面構造と相互作用することによって、例えば、インテグリンと相互作用することによってECMに接着することができる。
【0105】
《オルガノイド形成工程》
続いて、細胞播種後、細胞が乾かないうちに、上述の細胞培養培地を添加し、培養する。培養温度は30℃以上40℃以下が好ましく、37℃程度がより好ましい。培養時間は用いる細胞によって適宜調製することができる。培養開始からから1〜2週間程度後で、オルガノイドを形成させることができる。また、従来では2〜3ヶ月しか細胞維持培養することができなかった細胞に対し、工程1では、3ヶ月以上の長期間(好ましくは、10ヶ月程度)においても、細胞を維持培養することができる。工程1により、3Dオルガノイドが得られる(
図1参照。)。
【0106】
また、オルガノイド形成工程において、低酸素下で培養を行ってもよい。低酸素下で培養を行うことにより、ヒト腸管上皮幹細胞、ヒト腸管上皮細胞、又はヒト腸管上皮腫瘍細胞、又はそれら細胞のうち少なくともいずれか一方を含む組織から高効率でオルガノイドを形成させることができる。
【0107】
本実施形態における低酸素下とは、酸素濃度が、0.1%以上15%以下であることが好ましく、0.3%以上10%以下であることがより好ましく、0.5%以上5%以下であることがさらに好ましい。
【0108】
(工程2)
工程2は、前記工程1で得られた3Dオルガノイドを分散させて単一細胞を調製し、前記単一細胞を細胞外マトリクス上で単層培養して2Dオルガノイドを得る工程である。
【0109】
図1に示すように、3Dオルガノイドにおいて、ヒト下痢症ウイルスに感染する部位は、腸管の内側の部分である。したがって、3Dオルガノイドを崩して、内側の部分を露呈させる必要がある。
【0110】
3Dオルガノイドを分散させて単一細胞を調製する方法としては、特に限定されず、物理的方法、酵素処理法等が挙げられるが、細胞を傷つけない観点から酵素処理法が好ましい。酵素処理法に用いられる酵素としては、トリプシン等、上記[接着工程]において挙げたものと同様のものが挙げられる。
【0111】
続いで、上記[細胞外マトリクス調製工程]と同様にして調製された細胞外マトリクス上に播種し、静置する。播種された細胞は、ECMの表面構造と相互作用することによって、例えば、インテグリンと相互作用することによってECMに接着することができる。
【0112】
続いて、細胞播種後、細胞が乾かないうちに、上述の分化培地を添加し、単層培養する。工程2により、2Dオルガノイドが得られる(
図1参照。)。
【0113】
(工程3)
工程3は、前記工程2で得られた2Dオルガノイドに、ヒト下痢症ウイルスを感染させて、感染した2Dオルガノイドを培養する工程である(
図1参照。)。2Dオルガノイドが液体培地と接する細胞表面は、3Dオルガノイドの内側の面も含むため、ヒト下痢症ウイルスが効率よく感染する。
【0114】
ヒト下痢症ウイルスとしては、ロタウイルス、ノロウイルス、サポウイルス、アストロウイルス、腸管アデノウイルス、パレコウイルス、アイチウイルス等が挙げられ、ノロウイルスが好ましい。実施例にて後述するように、工程3により、ヒト下痢症ウイルスが増殖する。
【0115】
本実施形態のヒト下痢症ウイルスの製造方法によれば、in vitroで人工的に大量にヒト下痢症ウイルス増殖培養することにより作り出すことができ、ヒト下痢症ウイルスに対する病態の解明、抗ウイルス薬や消毒薬の開発、ワクチンの開発等に役立てることができる。
【0116】
[キット]
1実施形態において、本発明は、i)Wntアゴニスト、ii)インスリン様成長因子1(Insulin−like growth factor1;IGF1)、線維芽細胞増殖因子2(Fibroblast growth factor 2;FGF2)、EGF(Epidermal Growth Factor)及びエピレグリン(Epiregulin;EREG)からなる群から選ばれる少なくとも一種、iii)骨形成因子(bone morphogenetic protein;BMP)阻害剤、iv)形質転換増殖因子−β(transforming growth factor−β;TGF−β)阻害剤、及びv)γセクレターゼ阻害剤からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む細胞培養培地を備えるヒト下痢症ウイルス製造キットを提供する。
【0117】
本実施形態のキットは、ヒト下痢症ウイルスの感染・増殖培養用2Dオルガノイド培養キットであるということもできる。
【0118】
本実施形態のキットにおいて、上記の細胞培養培地は動物由来胆汁を更に含んでいてもよい。実施例において後述するように、細胞培養培地に動物由来胆汁を添加することにより、ヒト下痢症ウイルスの増殖を顕著に促進することができる。
【0119】
動物由来胆汁としては、ウシ胆汁抽出物、ブタ胆汁抽出物等が挙げられる。これらの胆汁抽出物は市販されているものであってもよい。
【0120】
本実施形態のキットにおいて、上記の細胞培養培地は無血清であってもよい。
【0121】
本実施形態のキットは、上記細胞培養培地のほか、細胞培養器具、使用説明書等をさらに備えるものであってもよい。細胞培養器具等としては、細胞培養プレート等を挙げることができるが、これに限定されない。
【0122】
本実施形態のキットは、ヒト下痢症ウイルスの製造方法に好適に用いることができる。ヒト下痢症ウイルスの製造方法に使用する試薬類をキット化することにより、より簡便かつ短時間にヒト下痢症ウイルスを製造することができる。
【0123】
[オルガノイドの製造方法]
1実施形態において、本発明は、細胞外マトリクス上にヒト腸管上皮幹細胞、ヒト腸管上皮細胞、又は、これらの細胞のうち、少なくともいずれかを含む組織を立体培養し、3Dオルガノイドを得る工程1と、前記工程1で得られた前記3Dオルガノイドからタンパク質分解酵素により分散して単一細胞を調製し、前記単一細胞を細胞外マトリクス上で単層培養し、分化した絨毛細胞及び杯細胞を含むヒト腸管内腔を構成する上皮細胞が単層構造となっている2Dオルガイドを取得する工程2と、を有し、前記工程1及び工程2の培養において、i)Wntアゴニスト、ii)インスリン様成長因子1(Insulin−like growth factor1;IGF1)、線維芽細胞増殖因子2(Fibroblast growth factor 2;FGF2)、EGF(Epidermal Growth Factor)及びエピレグリン(Epiregulin;EREG)からなる群から選ばれる少なくとも一種、iii)骨形成因子(bone morphogenetic protein;BMP)阻害剤、iv)形質転換増殖因子−β(transforming growth factor−β;TGF−β)阻害剤、及びv)γセクレターゼ阻害剤からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む細胞培養培地を用いるオルガノイドの製造方法を提供する。
【0124】
工程1及び工程2の詳細は、[ヒト下痢症ウイルスの製造方法]で述べた工程と同様である。実施例で後述するように、2Dオルガノイドは、Mucin2陽性細胞である杯細胞を含む。
【0125】
2Dオルガノイドは、再生医療、上皮細胞の基礎医学研究、薬物応答のスクリーニング、疾患由来上皮オルガノイドを用いた創薬研究等に応用することができる。
【0126】
[培養物]
1実施形態において、本発明は、ヒト下痢症ウイルスの感染・増殖培養用2Dオルガノイド培養物を提供する。ヒト下痢症ウイルスの感染・増殖培養用2Dオルガノイドは、上述したものと同様である。ここで、「培養物」は、2Dオルガノイドに加えて、細胞培養培地及び細胞外マトリクスを含むものである。本実施形態の培養物において、細胞培養培地は無血清であってもよい。また、細胞培養培地は動物由来胆汁を含んでいてもよい。また、細胞外マトリクスはマトリゲル(登録商標)であってもよい。
【0127】
[用途]
一実施形態として、本発明は、ヒト下痢症ウイルス、特にノロウイルスの消毒薬のスクリーニング方法、消毒薬創薬、該ウイルスの感染細胞、感染メカニズムの特定、該ウイルスによって生じる下痢症状の予防・治療薬のスクリーニング、予防・治療薬創薬の開発手段を提供する。
【0128】
ヒト下痢症ウイルスへの薬物応答のスクリーニングにおいて、上述の2Dオルガノイドを用いる場合、オルガノイドを例えば96ウェルプレート又は384ウェルプレート等のマルチウェルプレート中で培養する。分子のライブラリを使用して、このオルガノイド及び/又は感染ヒトウイルスに影響を与える分子を同定する。ライブラリとしては、例えば、抗体断片ライブラリ、ペプチドファージディスプレイライブラリ、ペプチドライブラリ(例えばLOPAP(商標)、Sigma Aldrich社製)、脂質ライブラリ(BioMol社製)、合成化合物ライブラリ(例えばLOPAP(商標)、Sigma Aldrich社製)又は天然化合物ライブラリ(Specs、TimTec社製)等が挙げられる。さらに、遺伝子ライブラリを用いてもよい。遺伝子ライブラリとしては、例えば、cDNAライブラリ、アンチセンスライブラリ、siRNA、又はその他の非コードRNAライブラリ等が挙げられる。具体的な方法としては、ある一定の時間にわたりヒト下痢症ウイルス感染細胞及びヒト下痢症ウイルス試験薬剤の複数の濃度に曝露し、曝露時間終了時に、培養物を評価する方法が挙げられる。
【0129】
さらに、本実施形態の2Dオルガノイドは、新規候補薬物又は既知若しくは新規栄養補助食品の毒性アッセイにおいてCaco−2細胞等の細胞株の使用に代わるものとなり得る。
【0130】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0131】
[実験例1]
(細胞培養培地の調製)
まず、市販のAdvanced DMEM/F−12培地(Thermo Ficher SCIENTIFIC社製)に、終濃度1μg/mLとなるようにヒト組換えR−スポンジン1(R&D systems社製)を添加し、終濃度100ng/mLとなるようにノギン(Peprotech社製)を添加し、終濃度500nMとなるようにA83−01(Tocris社製)を添加した(以下、「NRA培地」と呼ぶ。)。
【0132】
さらに、終濃度300ng/mLのWnt3a、終濃度500ng/mLのIGF1(Biolegend社製)、終濃度50ng/mLのFGF2(peprotech社製)、終濃度50ng/mLのEGF(Thermo Ficher SCIENTIFIC社製)、終濃度10μMのSB202190(Sigma Aldrich社製)、及び終濃度1μMのLY411575(Sigma Aldrich社製)のそれぞれを以下の組み合わせで添加した培地を用意した。
・WNRA+IGF1+FGF2培地
・WENRAS培地
・ENRA培地
・ENRAL培地
【0133】
略語の意味を以下に示す。
W;Wnt3A
E;EGF
N;Noggin
R;Rspondin1
A;A−83−01
S;SB202190
L;LY411575
【0134】
[実験例2]
(オルガノイドを用いたノロウイルスの増殖)
《腸管幹細胞の培養》
慶應義塾大学医学部倫理委員会で承認された倫理研究計画に基づき、説明と同意を得られた健常者および消化管腫瘍患者より、消化管腫瘍から少なくとも5cm以上離れた部分を正常粘膜として採取した。採取した組織はEDTA又はリベラーゼTHにより上皮細胞を抽出し、マトリゲル(登録商標)に包埋した。
【0135】
上皮細胞(以下、「腸管幹細胞」と呼ぶ。)を含むマトリゲル(登録商標)を48ウェルプレートに播種し、培養した。具体的には、下記の通りである。
【0136】
培養した腸管幹細胞を、25μLのマトリゲル(登録商標)(BD Bioscience社製)と共に、48ウェルプレートに播種した。(1)で調製したWNRA+IGF1+FGF2培地をウェルに100μLずつ添加し、37℃で培養した。培養から、2日毎に培地交換を行い、7日間培養し、3Dオルガノイドを得た。
【0137】
《プレートの作製》
PBS(−)で希釈した2.5%マトリゲル(登録商標)を、96ウェルプレートに50μL/ウェルで添加し、37℃で1時間以上インキュベートした。その後、各ウェルをPBS(−)で3回洗い、以下の細胞培養に使用した。
【0138】
《オルガノイドの平面培養及びノロウイルス感染》
2Dオルガノイドを形成し、ノロウイルスを感染させた。具体的には、上記のオルガノイドをTrypLE(商標)Express(Thermo Ficher SCIENTIFIC社製)を用いて崩し、単一細胞にした。この単一細胞を3つに分け、各培地(WENRAS培地(増殖培地)、ENRA培地(分化培地1)、ENRAL培地(分化培地2))で洗浄した後、終濃度10μMのY−27632(Rock阻害剤;和光純薬社製)入りの各培地に懸濁した。この細胞懸濁液を、1×10
5cells/ウェルで各ウェルに撒き、3時間以上静置しプレートに接着させた。
【0139】
次いで、10%乳剤を各分化培地で10倍希釈した糞便ノロウイルスを5μL/ウェル加えて3時間インキュベートした。その後、PBS(−)で3回洗浄し、各培地を250μL/ウェルいれると同時に20μLサンプリングした(day0)。その後、感染後1日、2日、3日、6日の培地を20μLサンプリングした(day1、day2、day3、day6)。
【0140】
《ノロウイルスRNAの精製》
サンプリングした培地からHigh Pure Viral RNA Kit(Roche Life Science社製)を用いてウイルスRNAを精製し、30μLのウイルスRNA懸濁液を得た。
【0141】
《リアルタイムqRT−PCRによるノロウイルスゲノムの測定》
10
9コピー/μLのテンプレートDNAから10倍の希釈系列を作製し、これをスタンダードとした。表1に示す組成で、リアルタイムqRT−PCRミックスを作製した。また、表2に示すサイクルでqRT−PCRを行った。qRT−PCRの結果を
図2に示す。
【0142】
【表1】
【0143】
【表2】
【0144】
図2に示すように、分化培地1を用いた場合の、オルガノイド培養上清中のノロウイルスゲノムの増加倍率は、増殖培地を用いた場合と比べて圧倒的に高かった。このことから、分化培地1を用いた培養オルガノイドにより、ヒトノロウイルスを感染・増殖させることが確認された。
【0145】
また、感染後6日後の各培地で培養したオルガノイドを、DAPI染色、並びに、抗ヒトノロウイルスRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)抗体及び抗Mucin2抗体で免疫染色した。このオルガノイドの蛍光染色像を
図3に示す。
【0146】
図3の真中図及び右図に示すように、RdRpの発現が確認された。これにより、ノロウイルスがオルガノイドに感染して増殖していることが確認された。また、
図3の真中図及び右図に示すように、Mucin2の発現が確認された。これにより、オルガノイドが杯(ゴブレット)細胞に分化していることが確認された。
【0147】
[実験例3]
(細胞外マトリクスの検討)
発明者らは、2Dオルガノイドの細胞接着が安定しない場合があることを見出した。
そこで、細胞外マトリクスを検討した。細胞外マトリクスとしてはコラーゲンI及びマトリゲル(登録商標)を使用した。
【0148】
《プレートの作製》
PBS(−)で希釈した2.5%マトリゲル(登録商標)又は10%コラーゲンIを、96ウェルプレートに50μL/ウェルで添加し、37℃で1時間以上インキュベートした。その後、各ウェルをPBS(−)で3回洗い、以下の細胞培養に使用した。また、比較のためにコーティングなしの96ウェルプレートを使用した。
【0149】
《3Dオルガノイドの形成》
実験例2と同様にして腸管幹細胞を培養し、3Dオルガノイドを得た。
【0150】
《2Dオルガノイドの形成》
得られたオルガノイドをTrypLE(商標)Express(Thermo Ficher SCIENTIFIC社製)を用いて崩し、単一細胞にした。この単一細胞をENRA培地(分化培地1)で洗浄した後、終濃度10μMのY−27632(Rock阻害剤;和光純薬社製)入りのENRA培地に懸濁した。この細胞懸濁液を、1×10
5cells/ウェルで各ウェルに撒き、翌日細胞の接着を観察した。
【0151】
図4(a)〜(c)は各条件における2Dオルガノイドの光学顕微鏡写真である。
図4(a)はコーティングなしの96ウェルプレートを使用した結果であり、
図4(b)は細胞外マトリクスとしてコラーゲンIを使用した結果であり、
図4(c)は細胞外マトリクスとしてマトリゲル(登録商標)を使用した結果である。
【0152】
その結果、細胞外マトリクスとしてマトリゲルを使用すると、2Dオルガノイドの基材への培養基材への接着が良好であることが明らかとなった。
【0153】
[実験例4]
(細胞培養培地の検討)
オルガノイドを用いたノロウイルスの増殖において、細胞培養培地に動物由来胆汁を添加し、その影響を検討した。また、3Dオルガノイドの培地及び2Dオルガノイドの培地として、実験例2で用いたWENRAS培地(増殖培地)及びENRA培地(分化培地1)を様々な組み合わせで用い、その影響を検討した。
【0154】
《プレートの作製》
PBS(−)で希釈した2.5%マトリゲル(登録商標)を、96ウェルプレートに50μL/ウェルで添加し、37℃で1時間以上インキュベートした。その後、各ウェルをPBS(−)で3回洗い、以下の細胞培養に使用した。
【0155】
《3Dオルガノイドの形成》
実験例2と同様にして腸管幹細胞を培養し、3Dオルガノイドを得た。この時、培地として実験例2で用いたWENRAS培地(増殖培地)又はENRA培地(分化培地1)を使用した。
【0156】
《2Dオルガノイドの形成》
得られた3DオルガノイドをTrypLE(商標)Express(Thermo Ficher SCIENTIFIC社製)を用いて崩し、単一細胞にした。この単一細胞をWENRAS培地(増殖培地)又はENRA培地(分化培地1)で洗浄した後、終濃度10μMのY−27632(Rock阻害剤;和光純薬社製)入りの各培地に懸濁した。また、各培地に0.1%ブタ胆汁抽出物(Bile extract porcine、BEP)を添加したものと添加しなかったものを用意した。この細胞懸濁液を、1×10
5cells/ウェルで各ウェルに撒き、3時間以上静置しプレートに接着させた。
【0157】
3Dオルガノイドの培養及び2Dオルガノイドの培養に用いた培地の組み合わせを下記表3に示す。表3中、「+」は添加したことを表し、「−」は添加していないことを表す。
【0158】
【表3】
【0159】
次いで、10%乳剤を各分化培地で10倍希釈した糞便ノロウイルスを5μL/ウェル加えて3時間インキュベートした。その後、PBS(−)で3回洗浄し、各培地を250μL/ウェルいれると同時に20μLサンプリングした(day0)。その後、感染後1日、2日、3日、6日の培地を20μLサンプリングした(day1、day2、day3、day6)。
【0160】
《ノロウイルスRNAの精製》
サンプリングした培地からHigh Pure Viral RNA Kit(Roche Life Science社製)を用いてウイルスRNAを精製し、30μLのウイルスRNA懸濁液を得た。
【0161】
《リアルタイムqRT−PCRによるノロウイルスゲノムの測定》
実験例2と同様にしてリアルタイムqRT−PCRを行い、ノロウイルスの増殖を測定した。
図5(a)及び(b)はqRT−PCRの結果を示すグラフである。
図5(a)はグループ1〜4の結果を示し、
図5(b)はグループ5〜8の結果を示す。
【0162】
その結果、3Dオルガノイドの培養及び2Dオルガノイドの培養の双方に分化培地を使用したグループ7及び8でノロウイルスの増殖が顕著に高いことが明らかとなった。また、培地に動物由来胆汁を含むグループ8でノロウイルスの増殖が更に顕著に高いことが明らかとなった。