(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記テンパリング工程において、前記温度センサにより検出された温度が加熱の終了温度及び冷却の起点となる温度に到達した場合に、ユーザに対して報知する報知手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の家庭用チョコレート製造装置。
前記制御手段は、前記テンパリング工程において、前記温度センサにより検出された温度が、加熱工程から冷却工程に切り替えるべき温度に到達した場合には、冷却素子を作動させる請求項2〜4いずれかに記載の家庭用チョコレート製造装置。
前記制御手段は、前記破砕工程における破砕爪の回転速度よりもテンパリング工程における破砕爪の回転速度が遅くなるように制御する請求項1〜7いずれかに記載の家庭用チョコレート製造装置。
前記制御手段は、前記メランジング・コンチング工程から前記テンパリング工程に移行する場合に、既に高温度になっていることを利用してメランジング・コンチング工程とテンパリング工程の加熱工程とを兼ねることにより、そのまま当該テンパリング工程の加熱工程に移行する請求項1〜8いずれかに記載の家庭用チョコレート製造装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されたチョコレート製造装置は、いわゆるテンパリング工程のみを実行するものであり、第2の方法によるチョコレート製造の一工程のみを実行できるにとどまる。よって、カカオ豆からのチョコレートを作ることができない。
また、このチョコレート製造装置は、熱処理を行うためにヒータエレメントを設ける必要があるため、装置の大型化をもたらし、かつ製造コストを上昇させる。したがって、特許文献1に開示されたチョコレート製造装置は、小型で安価であることが望まれる、家庭用のチョコレート製造装置としては、競争力が著しく低いと言わざるを得ない。
【0008】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、カカオ豆から製造する小型で低製造コストを実現可能な家庭用チョコレート製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる家庭用チョコレート製造装置は、破砕工程と、メランジング・コンチング工程と、テンパリング工程とを実行可能な家庭用チョコレート製造装置であって、破砕爪と、前記破砕爪を回転駆動する駆動手段と、前記駆動手段を制御する制御手段とを備え、前記破砕工程においては、前記破砕爪を回転駆動することによってカカオニブを破砕し、前記メランジング・コンチング工程においては、前記破砕爪を回転駆動することによって前記破砕されたカカオニブを含むチョコレート素材を混合し、前記テンパリング工程における加熱段階では、前記チョコレート素材を前記破砕爪を回転駆動することによって加熱するものである。
これにより、ヒータエレメントが不要となり製造コストを削減でき、販売価格も抑えることができる。
【0010】
さらに、前記チョコレート素材を収容するチョコレート加工槽と、前記チョコレート加工槽に収容されたチョコレート素材を冷却する冷却素子を備え、前記テンパリング工程における冷却段階では、前記冷却素子を用いてチョコレート素材を冷却するようにしてもよい。このような構成により、テンパリング工程の時間を短くすることができる。
【0011】
また、前記チョコレート加工槽に取り付けられ、前記チョコレート素材の温度を測定する温度センサと、前記制御手段による制御によって前記温度センサにより検出された温度を表示する表示手段とを備えるようにしてもよい。このような構成により、特にテンパリング工程の各種の操作を容易に行うことができる。
【0012】
また、前記テンパリング工程において、前記温度センサにより検出された温度が加熱の終了温度及び冷却の起点となる温度に到達した場合に、ユーザに対して報知する報知手段をさらに備えるようにしてもよい。このような構成により、さらに、ユーザは操作をする上で必要な状態に至ったことを容易に認識できる。
【0013】
前記制御手段は、前記テンパリング工程において、前記温度センサにより検出された温度が、加熱工程から冷却工程に切り替えるべき温度に到達した場合には、冷却素子を作動させるようにしてもよい。このような構成により、ユーザの操作を不要とすることができる。
【0014】
また、前記チョコレート素材を収容するチョコレート加工槽と、前記チョコレート加工槽の上方を封止する蓋体と、前記テンパリング工程の冷却工程において使用され、冷却物を収容しつつ前記チョコレート加工槽の上方を封止する冷却用蓋体を備えるようにしてもよい。このような構成により、冷却手段を不要とすることができ、さらに製造コストを低下させることができる。
【0015】
前記冷却用蓋体は、前記冷却物を収容する冷却物収容体と、前記冷却物収容体に取り付けられ当該冷却用蓋体を回転させるための攪拌用ハンドルと、前記冷却物収容体の下面に取り付けられ前記チョコレート素材を攪拌する攪拌片とを有することが好ましい。このような構成により、簡単な構成でチョコレート素材を均一に冷却できる。
【0016】
前記制御手段は、前記破砕工程における破砕爪の回転速度よりもテンパリング工程における破砕爪の回転速度が遅くなるように制御することが望ましい。このような構成により、同じ破砕爪を利用しつつも、質の高いチョコレートを製造できる。
また、前記制御手段は、前記メランジング・コンチング工程から前記テンパリング工程に移行する場合に、既に高温度になっていることを利用してメランジング・コンチング工程とテンパリング工程の加熱工程とを兼ねることにより、そのまま当該テンパリング工程の加熱工程に移行するようにしてもよい。この点においても短時間でチョコレートを製造することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、小型で短時間で製造でき、また低製造コストを実現可能な家庭用チョコレート製造装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
発明の実施の形態1.
図1は、本実施形態にかかる家庭用チョコレート製造装置の斜視図である。図に示されるように、家庭用チョコレート製造装置1は、蓋体100、チョコレート加工槽200、駆動装置300を備えている。
【0020】
蓋体100は、チョコレートの製造時にチョコレート加工槽200の開口部に取り付けられ、収容されるチョコレート素材をチョコレート加工槽200内に封止する。蓋体100は、ユーザによって容易に取り付け、取り外し可能である。蓋体100が攪拌等の工程において外れてチョコレート素材が飛び散る等の状態に至らないように、蓋体100をチョコレート加工槽200に対して固定するロック機構があることが望ましい。さらに、このロック機構が作動し、蓋体100が閉まっている状態のときだけ、後述する駆動モータ31が動作するようにしてもよい。
【0021】
チョコレート加工槽200は、円筒形状を有し、上方が開口している。チョコレート加工槽200は、その開口から原材料が投入される。そして、チョコレート加工槽200内で、破砕(グラインディング)工程、メランジング・コンチング工程、テンパリング工程のすべてが実行される。チョコレート加工槽200は、例えば、ステンレス等の金属製の内側槽と、合成樹脂製の外側部の二重構造を有し、内側槽と外側部の間には、中空構造が形成されている。
【0022】
チョコレート加工槽200の底部には、その中央近傍に貫通孔が形成されている。かかる貫通孔は、破砕爪(回転爪)21を軸支する回転軸311が回転可能に挿通されている。破砕爪21は、チョコレート加工槽200の底部の中央付近に、当該底部と若干のクリアランスを設けて配置される。
【0023】
破砕爪21は、
図2に示されるように、中心から水平方向に互いに反対方向に延伸する二つの爪部211を有している。爪部211の先端部212は、一方が上方に屈曲し、他方が下方に屈曲して、それぞれ延在している。爪部211は、両端がともに上方に屈曲するようにしてもよい。破砕爪21は、例えば、ステンレス鋼等の金属により構成されている。当該破砕爪21は、グラインディング工程においてカカオニブを破砕してペースト状にする機能と、メランジング・コンチング工程においてチョコレート素材を砂糖等と混合する機能と、テンパリング工程における加熱段階でチョコレート素材を攪拌することによりチョコレート素材の温度を上昇させ、加熱する機能を有する。
【0024】
チョコレート加工槽200の側部には、温度センサ22が設けられている。温度センサ22は、各製造工程におけるチョコレートの素材の温度を検出する。
図2に示す例において温度センサ22は、側部の一か所に設けられているが、これに限らず、複数個所に設けられていてもよい。典型的には、
図2に示されるように、温度センサ22は、内側槽と外側部の間の中空構造中に設けられるが、これに限らず、内側槽より内側まで露出する構造にしてもよい。チョコレート素材の温度を正確に測定するためには、温度センサ22は、当該チョコレート素材と直接若しくは間接的に接触することが望まれるが、チョコレート素材から放出される赤外線を観測することにより温度検出を行うようにしてもよい。
【0025】
駆動装置300は、チョコレート加工槽200と同様に外側形状は円筒状であり、当該チョコレート加工槽200を下側から保持する。典型的な例では、駆動装置300の外側面は、チョコレート加工槽200の外側面と面一で連続している。駆動装置300の円筒形状の筐体は、例えば合成樹脂製である。
【0026】
駆動装置300の内部には、駆動モータ31が設けられている。駆動モータ31は、回転軸311を介してその上端部に取り付けられた破砕爪21を回転駆動することができる。駆動モータ31は、後述する制御装置33によって回転速度を制御できる機能を備えることが望ましい。本例では、駆動モータ31の回転軸311と破砕爪21が直結されているが、これに限らず、制御装置33によって回転速度を変更可能な変速機構を備えてもよい。
【0027】
さらに駆動装置300の内部には、冷却素子32が設けられている。典型的な冷却素子32は、ペルチェ素子である。冷却素子32としてペルチェ素子を用いる場合には、ペルチェ素子の下面に放熱用の冷却板をテープや接着剤等により取り付けることが望ましい。さらに、ペルチェ素子から冷却板が外れて落下することを防止するために、冷却板を下方から支持する金網状の仕切り板を駆動装置の筐体から内側に突出させて設けるようにしてもよい。冷却素子32は、図示しない電源から電力供給を受けてチョコレート加工槽200の下側から当該チョコレート加工槽200内のチョコレート素材を冷却する。冷却素子32は、複数の冷却素子より構成されていてもよく、一つの冷却素子より構成されていてもよい。チョコレート加工槽200内のチョコレート素材を均一に冷却するために、チョコレート加工槽200の底面全体にわたって配置されることが望ましい。典型的な冷却素子32は、中央に駆動モータ31の回転軸311が貫通可能な貫通孔を有する円盤状の形状を有する。冷却素子32の冷却温度は、電源電圧を変更することで変化させることもでき、またその他の制御手段によって変更することもできる。
【0028】
制御装置33は、温度センサ22により検出された温度情報や、攪拌スイッチ351及び冷却スイッチ352の操作に基づく入力情報が入力される。ここで、攪拌スイッチ351は、オンすると駆動モータ31が駆動し、オフすると駆動モータ31が停止する。冷却スイッチ352は、オンすると冷却素子32が作動し、オフすると冷却素子32が停止する。制御装置33は、ROM、RAM等の記憶手段、CPU等により構成されたコンピュータである。制御装置33は、入力情報等に基づいて記憶手段に予め記憶されたコンピュータプログラムに基づいて制御処理を実行し、駆動モータ31、冷却素子32、表示部34を制御する。当該制御処理の具体例については後述する。
【0029】
駆動装置300の前面に設けられた表示部34は、例えば、液晶素子や有機EL素子により構成され、制御装置33より入力された表示情報に基づいて表示を行う。この例にかかる表示部34は、温度表示部341と、特定温度表示部342〜344を有する。温度表示部341は、温度センサ22によって検出されたチョコレート素材の温度を表示する。なお、温度センサ22によって検出された温度は、実際のチョコレート素材の温度よりも若干低い可能性があるため、その差異は補正した上で補正後の温度(つまり、チョコレート素材の推定温度)を温度表示部341に表示するように、制御装置33が表示制御することが望ましい。
【0030】
特定温度表示部342は、チョコレート素材の温度が、温度上昇の停止温度である45度(あるいは45度〜50度の間の任意の温度)のときに点灯するLED素子である。特定温度表示部343は、チョコレート素材の温度が冷却の停止温度である28度のときに点灯するLED素子である。特定温度表示部344は、チョコレート素材の温度がチョコレート素材の温度が温度再上昇の停止温度である31度のときに点灯するLED素子である。特定温度表示部342〜344のそれぞれを点灯させてユーザに対して特定温度に到達したことを報知する報知手段としての機能を有し、これによって、チョコレートを作る際に重要な作業を行うべき状態にあることを知らせ、ユーザに必要な操作を行わせることができる。
【0031】
本例にかかる特定温度表示部342〜344は、それぞれ別のLED素子により構成したが、一つの発光素子によって色を変化させるようにして、複数の特定温度のそれぞれに到達したことを報知するようにしてもよい。また、温度表示部341において、色を変化させたり、表示形態を変化させるようにして特定温度を知らせるようにしてもよい。さらには、音によって、ユーザに対して特定温度への到達を知らせるようにしてもよい。
【0032】
操作部35は、攪拌スイッチ351及び冷却スイッチ352を備えている。操作部35にはさらに電源スイッチ等の他のスイッチや各種のユーザ設定、チョコレート素材の特定情報等を入力するための入力手段を設けるようにしてもよい。
【0033】
駆動装置300の側面には、通風口36が設けられている。通風口36は、駆動装置300の側壁を貫通する貫通孔により構成され、空気以外の異物が駆動装置300内部に混入しないようにスリットが設けられている。駆動モータ31や冷却素子32を駆動することによって発生する熱を通風口36から外部に排出することができる。
【0034】
電源コード37は、外部電源と接続して、駆動装置300に対して電源を供給するためのコードである。電源コード37の一端は、図示していない電源プラグによって電源コンセントに接続される。また、電源コード37の他端は、駆動装置300内に設けられた電源回路(図示せず)に接続されている。なお、外部電源を用いず、内部電源を用いて駆動する場合には、電源コード37は不要である。
【0035】
続いて、
図4のブロック図を用いて、本実施の形態にかかる家庭用チョコレート製造装置の制御処理について説明する。
図に示されるように、制御装置33には、温度センサ22、攪拌スイッチ351、冷却スイッチ352が有線接続されている。そして、温度センサ22からは温度情報、攪拌スイッチ351からはオンオフ情報、冷却スイッチ352からオンオフ情報が、それぞれ制御装置33に対して入力される。
【0036】
また、制御装置33は、駆動モータ31、冷却素子32及び表示部34と有線接続されている。そして、制御装置33から駆動モータ31に対して駆動信号、冷却素子32に対して冷却制御信号若しくは冷却駆動信号が、表示部34に対して表示情報がそれぞれ出力される。
【0037】
続いて、本実施の形態にかかる家庭用チョコレート製造装置を用いた、チョコレート製造方法について説明する。
本実施形態にかかるチョコレート製造装置は、第2の方法である、カカオ豆から作るBean to Bar製法を用いてチョコレート製造を実行する。ここでBean to Bar製法について説明しておく。最初に、カカオ豆を焙煎するロースティング工程を実行する。次に、カカオ豆の外皮をむくクラッキング工程を実行する。その後、カカオニブをすり潰してペースト状のチョコレートにする破砕(グラインディング)工程を実行する。さらに、滑らかさを加えるメランジング・コンチング工程を行い、その後に、滑らかさや艶やかさのためのテンパリング工程を経て、完成品となる。
【0038】
結晶体を安定化するテンパリング工程では、チョコレート素材に対する温度制御が重要となる。チョコレート素材に対して、まず、45〜50度付近の温度まで加熱する。チョコレート素材は、種類によって異なるがその多くの結晶体の融点は30度付近であり、理論上の30度以上になるよう加熱すれば溶解する。しかしながら、テンパリング工程では、チョコレート素材を完全に溶解するために、45〜50度付近の温度まで加熱している。その後、融点である30度よりも低い26〜28度付近まで冷却し、溶解したチョコレート素材内に結晶核が発生するのを待つ。この結晶核がある程度発生した時点で、31度付近までチョコレート素材の温度を上昇させて、その状態で保温する。
【0039】
本実施形態にかかる家庭用チョコレート製造装置は、
図5に示されるように、これらの工程のうち、破砕工程(ステップS1)と、メランジング・コンチング工程(ステップS2)と、テンパリング工程(ステップS3)を実行する。
【0040】
図6のフローチャートを用いて、その各工程について具体的に説明する。
ユーザは、チョコレート加工槽200内に、カカオニブを入れ、蓋体100を取り付け、密閉状態にする。そして、ユーザが攪拌スイッチ351を押下すると、チョコレート製造装置1の制御装置33は、駆動モータ31を駆動開始させる。駆動モータ31が駆動されると、回転軸311に連結された破砕爪21が回転し、カカオニブの攪拌処理が開始する。
【0041】
攪拌処理によって回転する破砕爪21がカカオニブと接触し、カカオニブのそれぞれは破砕され、少しずつ微細化されペースト状(カカオマス)となる。このようにして破砕工程(
図6のステップS30)が実行される。ユーザは、破砕工程の完了を認識すると、攪拌スイッチ351を押下して、駆動モータ31の駆動を停止させる。
【0042】
次に、メランジング・コンチング工程(
図5のステップS2)を実行する。ユーザは、蓋体100を取り外し、破砕されたカカオニブ(カカオマス)に所定量の砂糖を追加する。但し、砂糖はユーザの好みにより追加しなくてもよい。そして、ユーザが攪拌スイッチ351を押下すると、チョコレート製造装置1の制御装置33は、駆動モータ31を駆動開始させる(
図6のステップS31)。駆動モータ31が駆動されると、回転軸311に連結された破砕爪21が回転し、破砕されたカカオニブと砂糖の混合物の混合が行われる。この工程では、カカオニブに含まれている脂肪分であるカカオバターの働きにより、混合物の滑らかさが増して、チョコレート温度も上昇してくる。
【0043】
そのまま、破砕爪21の回転を継続させることによって、テンパリング工程(ステップS3)に移行する。ここで、チョコレートの一般的な作り方と比較しながら、本実施の形態にかかる家庭用チョコレート製造装置の特徴について説明する。一般的には、グラインディング、メランジング、コンチングを経てペースト状のチョコレートにする。この終了段階で素材温度は45から50℃となっており、その後、チョコレート素材(生地)を寝かせた後に新たにテンパリング工程に移行する。このため、チョコレート素材の温度は常温まで低下した後にテンパリング工程の加熱工程に移行する。これに対して、本実施の形態にかかる家庭用チョコレート製造装置では、家庭用のため製造対象のチョコレート素材は工場で製造する場合に比べて少量であるから、途中で生地を寝かせることなく、グラインディング、コンチング終了時の45〜50度の温度を利用してそのままテンパリング工程の加熱工程に移行する。このため、一般的な作り方に比べて、大幅に製造時間を短くすることが可能となる。
つまり、本実施工程において破砕爪21による攪拌を継続すると、混合物の温度は徐々に上昇する。本件の発明者は、カカオバターの油脂本来の性質に起因して攪拌により素材が温度上昇する点に着眼し、そのまま必要温度を保ち、ヒータ等の加熱手段を用いないで、メランジング・コンチング工程とテンパリング工程の加熱工程を兼ねることによりテンパリング工程における加熱段階に繋げていくことを思いついた。一般的なテンパリング工程では、ヒータ等の加熱手段によってチョコレート加工槽200を加熱するが、本実施の形態にかかるチョコレート製造装置1では、ヒータ等の加熱手段は備えていない。これにより、チョコレート製造装置1自体の構成をシンプルにすることができ、大幅なコストダウンを実現できる。
【0044】
特に、本実施の形態にかかる家庭用チョコレート製造装置1では、破砕工程で用いる破砕爪をそのまま攪拌用として用い、さらに攪拌によって温度上昇させることでテンパリング工程をも行っているため、攪拌用の特別の部品も必要とせず、かつ部品の取り換えという作業も発生しないため、コストダウンを実現しつつ、ユーザの手間も省くことができる。
【0045】
家庭用チョコレート製造装置1では、テンパリング工程中、温度センサ22によってチョコレート素材の温度を計測し、温度表示部341に表示する。ユーザは、温度表示部341に表示された温度を確認しながら、テンパリング工程の作業を進める。攪拌により温度上昇が進み、チョコレート素材の温度が攪拌停止温度である45度付近に至ると(ステップS32)、特定温度表示部342の表示が点灯する。ユーザは、かかる点灯を認識して、攪拌スイッチ351を押下し、破砕爪21の回転を停止させる。つまり、攪拌を停止させる。但し、攪拌を完全に停止させずに、破砕爪21の回転速度を大幅に低下させて、攪拌を継続してもよい。このようにすることで、チョコレート素材は均一に冷却素子32によって冷却させることができる。
さらに、ユーザは、テンパリング工程における冷却段階として、冷却スイッチ352を押下することにより冷却素子32を作動させ、冷却工程を開始する(ステップS33)。なお、45度付近に至ると攪拌停止温度に到達したとして、特定温度表示部342の表示を点灯するようにしているが、ユーザは、必ずしもその直後、つまり、チョコレート素材の温度が45度のときに冷却工程に移行させる必要はない。原材料のカカオ豆の種類やロースト具合、さらにはユーザの好みに応じて、冷却工程に移行させる温度は、ユーザ自身が選択できることが望ましい。本実施の形態にかかるチョコレート製造装置は、あくまでも家庭用であるため、大量生産を目的とせず、製造する度に、ユーザ自身の好み等に応じて様々な味、テキスチャ、外観のチョコレートが製造できることが優先される。
【0046】
このとき、チョコレート素材の温度が攪拌停止温度に到達したことを制御装置33が認識した場合に、制御装置33が予めインストールされたプログラムに従って自動的に破砕爪21の回転を停止させ、さらに冷却素子32を作動させるようにしてもよい。
【0047】
家庭用チョコレート製造装置1では、冷却工程中、温度センサ22によってチョコレート素材の温度を計測し、温度表示部341に表示する。ユーザは、温度表示部341に表示された温度を確認しながら、冷却工程の作業を進める。冷却素子32の作動により温度下降が進み、チョコレート素材の温度が冷却停止温度である28度付近に至ると(ステップS34)、特定温度表示部343の表示が点灯する。冷却されるまでの時間は、例えば、5分〜15分であることが望ましく、さらには、8分〜12分程度であることが望ましい。ユーザは、かかる点灯を認識して、冷却スイッチ352を押下し、冷却素子32の作動を停止させる。つまり、冷却処理を停止させる。ユーザは、再度、攪拌スイッチ351を押下することにより破砕爪21の回転を開始させ、最終攪拌を開始する(ステップS35)。これにより、チョコレート素材の温度を再上昇させる。
【0048】
ユーザは、温度表示部341に表示された温度を確認しながら、最終攪拌による温度上昇工程の作業を進める。攪拌により温度上昇が進み、チョコレート素材の温度が最終攪拌停止温度である31度付近に至ると(ステップS36)、特定温度表示部344の表示が点灯する。例えば、1〜2分の攪拌により28度から31度付近に上昇する。ユーザは、かかる点灯を認識して、攪拌スイッチ351を押下し、破砕爪21の回転を停止させる。つまり、攪拌を停止させる。これにより、すべてのテンパリング工程が終了する。
【0049】
以上、説明したように、本実施形態にかかる家庭用チョコレート製造装置においては、個人で使う家庭用の食材の簡易的な破砕及び撹拌機構、特に、ロースト(焙煎)したカカオ豆からの本格的な製造方法(Bean to Bar)のチョコレート製造において、短時間での簡易的、小型かつ安価な製造機にするために、開発及び小売価格を抑えることも別の目的とする。そのためには、この破砕・撹拌機構(上述の破砕爪21)で撹拌することにより、カカオの油分成分であるカカオバター油分の持つ自然本来の特性を利用してペースト状にして温度を上げていき、更にテンパリング工程の加熱工程と兼ねることにより、特段の温度を上げるためのヒータやモータ等の装置や開発費用は省くことができる。また、全ての工程において同じ破砕爪21を兼用することにより、この点においてもコストダウンを図ることができる。
【0050】
発明の実施の形態2.
発明の実施の形態1にかかる家庭用チョコレート製造装置では、破砕工程、メランジング・コンチング工程及びテンパリング工程の各工程における、破砕爪21の回転速度について限定していない。
本実施の形態2では、それぞれの工程に適した破砕爪21の回転速度に自動的に設定することを特徴としている。
【0051】
破砕工程(グラインディング)における破砕爪21の回転速度は、基本的に、破砕処理を早めるために相対的に高速度R1であることが設定される。制御装置33は、例えば、撹拌開始時においては速度R1に設定する。
【0052】
次に、メランジング・コンチング工程における破砕爪21の回転速度は、速度R1であってもよく、同程度の速度で設定されることが望ましい。制御装置33は、温度センサ22によって検出された温度がそれなりに高温度帯になっている場合には、破砕工程に続くメランジング・コンチング工程にあると認識して、速度R1またはそれより低速度の速度R2に設定する。
【0053】
テンパリング工程における最初の温度上昇をさせる工程における破砕爪21の回転速度は、メランジング・コンチング工程と兼ねているので同様に、速度R1に設定することも可能であるが、速度R1よりも低速度の速度R2に設定することが望ましい。制御装置33は、例えば、温度センサ22によって検出された温度が45℃〜50℃付近以上に達した場合に、破砕爪21による撹拌を停止させる。その後、テンパリングの冷却工程を開始する。
【0054】
テンパリング工程において、チョコレート素材が45度付近まで上昇した後に冷却工程に移行した場合の破砕爪21の回転速度は、実施の形態1において説明したように、ゼロ、つまり回転を停止させてもよいが、冷却効果を高めるよう、またチョコレート素材が固まらないようゆっくりと混ぜるために、回転速度R3に設定してもよい。速度R3は、速度R1よりも低く、さらに速度R2よりも低い。制御装置33は、例えば、チョコレート素材の温度変化履歴や冷却素子32の作動状況から冷却工程に移行していると認識して、速度R3に設定する。
【0055】
テンパリング最終工程において、再度温度を28度から31度まで上昇させる場合の、破砕爪21の回転速度は、速度R1や速度R2と同程度で良いが、3度の上昇を的確に行うために、速度R2よりも低く、速度R3よりも高い、速度R4に設定してもよい。制御装置33は、例えば、チョコレート素材の温度変化履歴や冷却素子32の作動状況から再加熱工程に移行していると認識して、速度R4に設定する。
【0056】
本実施の形態1にかかる家庭用チョコレート製造装置では、破砕爪21の回転速度を各工程に応じて適切に制御したため、より良質のチョコレートを、コスト増を招くことなく実現することができる。
【0057】
なお、どの工程にあるかを温度センサの検出した温度等によって判断するようにしているが、ユーザが操作部に対して工程情報を入力するようにすれば、より正確に、破砕爪21の回転速度を設定することができる。
【0058】
発明の実施の形態3.
図7は、本実施の形態にかかる家庭用チョコレート製造装置の断面図である。図に示されるように、チョコレート加工槽200と駆動装置300の基本的な構造は、発明の実施の形態1と同様であるが、駆動装置300には、冷却素子32は設けられていない。本実施の形態にかかる家庭用チョコレート製造装置では、テンパリング工程において45度付近から28度にチョコレート素材を冷却する際に、冷却用蓋体10を用いる点に特徴を有する。他の工程においては、発明の実施の形態1にて説明した蓋体100を用いる。
【0059】
冷却用蓋体10は、冷却物収容体11と、攪拌用ハンドル12と、攪拌片13より構成されている。冷却用蓋体10は、いずれも合成樹脂等の軽量部材により構成することができる。攪拌片13は、柔軟性を有するシリコン素材により構成されていてもよい。
【0060】
冷却物収容体11は、内部に保冷剤4等の冷却物を収納可能な空間を有し、凹状に下方に凹んだ円筒形状を有する。冷却物収容体11の外側面は、チョコレート加工槽200の内側面と所定のクリアランス分だけ離間する形状を有することが望ましい。これにより、より多くの冷却物を収容することができる。ここで、冷却物は、保冷剤4に限らず、氷やドライアイスであってもよい。
【0061】
攪拌用ハンドル12は、冷却物収容体11の底部中央付近に下端が接合されている。攪拌用ハンドル12の上端は、ユーザが手により把持可能なリング形状を有している。この形状は、
図7に示すような形状に限らず、側面視でT字状としたり、上端に円盤状や球状の部材が接続された構成としたりしてもよい。
【0062】
攪拌片13は、冷却物収容体11の下面から下方に突出する複数の羽根体であり、破砕爪21と接触しないような形状を有する。本例では、特に、下方にいくにしたがって細くなる形状を有し、チョコレート加工槽200の底面と接触する程度まで延在している。羽根体の数は、2つでも3〜4つでもよい。
【0063】
チョコレート素材を冷却する場合に、ユーザは、攪拌用ハンドル12を把持して回転させる。そうすると、攪拌片13も回転し、チョコレート素材と接触して攪拌することができ、冷却物による冷却効果を高め、チョコレート素材を均一に冷却することができる。
【0064】
以上、説明したように、本実施の形態にかかるチョコレート製造装置1では、テンパリング工程において冷却素子を用いることなく、チョコレート素材を冷却することができるので、装置自身を軽量・小型化し、大幅なコストダウンを果たすことができる。
【0065】
なお、本実施の形態3において、さらに、発明の実施の形態1に設けられた冷却素子を設けるようにしてもよい。これにより、さらに冷却時間を短くすることができる。
【0066】
さらに、各実施の形態では説明されていないが、制御装置は、温度センサにより検出された温度が例えば55度となった場合には、安全のために、駆動モータや冷却素子等、すべての電源駆動を停止する機能を有していても良い。