(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のような電子撥弦楽器は、鍵盤楽器等と異なり、演奏者が手で抱きかかえて弾奏されることが多く、特にロックやポップスなどの演奏に際しては、演奏者が楽器を激しく振り回すこともある。その結果、ケーブルを楽器に接続するプラグには外力的な負荷が恒常的にかかりやすい背景がある。特にケーブルに対して引張り力が繰り返し作用すると、セットスクリューの挟持力に抗してケーブルがスリーブ内面に対し軸線方向に滑り変位し、セットスクリューの緩みが生じやすい問題がある。セットスクリューの緩みが大きくなると、ケーブルをスリーブに固定する力が失われ、半田付け部が破断してケーブルがプラグから抜け落ちてしまうことにもつながる。
【0005】
特許文献1においては、スリーブにねじ込むセットスクリューの数を2以上とすることで、ケーブルの固定緩みを抑制する提案がなされている。しかし、ケーブルの絶縁外皮と当接するスリーブ内周面は平坦であり、引張り力が加わったときにケーブルがスリーブ内面に対して滑り変位しやすい構造であることに何ら変わりはなく、瞬時的な引張力が繰り返し加わったり、より強い引張り力が加わったりした場合には、同様の問題を生じうる。
【0006】
本発明の課題は、プラグ側のスリーブにケーブルを差し込んでセットスクリューにより固定する構造を有するとともに、より大きな引張り力が作用した場合においても、ケーブルがスリーブに対し滑り変位を起こしにくい構造の電子撥弦楽器用プラグと、そのプラグが取り付けられたケーブルとを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、電子撥弦楽器の楽音出力端子にケーブルを接続するためにケーブルの末端に取り付けて使用される電子撥弦楽器用プラグ及び電子撥弦楽器用プラグ付きケーブルに関するものであり、上記課題を解決するために、楽音出力端子を形成する楽器側ジャックに係合する形状をなすプラグ本体と、軸線方向両端が開放する円筒状をなし、プラグ本体の後端側に一体化されるとともに、後端側開口から内側にケーブルの先端部が軸線方向に挿入される取付スリーブと、取付スリーブの周壁部に対し該周壁部を半径方向に貫通しつつ先端がケーブルの絶縁外皮に当接する形でねじ込まれ、該ねじ込みの螺進圧縮力によりケーブルを周壁部との間で挟持する形で保持するセットスクリューとを備え、取付スリーブの内周面に、ケーブルを介してセットスクリューの螺進圧縮力を受け止めつつ絶縁外皮に食い込む食込凸部が、前記内周面の周方向に沿って一体不可分に形成されていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の電子撥弦楽器用プラグ付きケーブルは、上記本発明の電子撥弦楽器用プラグと、該電子撥弦楽器用プラグの取付スリーブに挿入及び固定されたケーブルとを備えたことを特徴とする。
【0009】
上記本発明においては、プラグ側の取付スリーブの内周面に、ケーブルを介してセットスクリューの螺進圧縮力を受け止めつつ絶縁外皮に食い込む食込凸部を周方向に沿って一体不可分に形成した。つまり、プラグ側の取付スリーブの内周面は、セットスクリューの螺進圧縮力を受け止める位置にて特許文献1のごとく平坦ではなく、当該内周面に形成された食込凸部が絶縁外皮に食い込むようになっている。これにより、ケーブルに対し、より強い引張り力が加わったり、あるいは引張り力が繰り返し加わったりした場合も、取付スリーブ内面に対するケーブルの滑り変位が食込凸部により阻止されるので、セットスクリューの緩みを効果的に抑制することができる。
【0010】
ケーブルは、絶縁外皮の内側にシールド導体層を有し、該シールド導体層の内側に中間絶縁層を介して芯線が配置された同軸シールドケーブルとすることができる。この場合、セットスクリューは絶縁外皮を貫通してシールド導体層と電気的に導通接触した構造とすることができる。前述のごとく、食込凸部はケーブルを介してセットスクリューの螺進圧縮力を受け止めつつ絶縁外皮に食い込む。プラグ本体は、ケーブルの芯線と導通結合される棒状の主金具と、主金具の外側にプラグ側絶縁層を介して配置される接地金具とを備え、取付スリーブは接地金具の後端側に連結導体を介して一体結合することができる。この場合、ケーブルのシールド導体層は連結導体に半田付け接合することができる。特許文献1においては、同軸シールドケーブルのシールド導体層と接地金具との導通は、絶縁外皮を貫通するセットスクリューとシールド導体層との機械的な接触のみで形成されており、セットスクリューに緩みが生じた場合、接地金具とシールド導体層との導通状態が直ちに悪化する。その結果、楽音信号が流れる芯線へのシールド導体層による静電遮蔽効果が不十分となり、楽音信号へのノイズ混入の原因となる。
【0011】
しかし、上記のように、セットスクリューとシールド導体層とを導通接触させる構造に加え、さらにシールド導体層をプラグ側の連結導体に半田付け接合する構造を採用することで、仮にセットスクリューが緩んでもシールド導体層の接地導通は接地金具側の連結導体への半田付け接合により十分に確保され、上記の問題を生じにくくすることができる。そして、本発明の場合、プラグ側の取付スリーブに形成された食込凸部がケーブルの絶縁外皮に食い込むことで、ケーブルへの引っ張り力が繰り返し加わっても、セットスクリューが本質的に緩みにくく、シールド導体層と接地金具との導通状態を長期にわたって極めて良好に維持することができる。
【0012】
次に、ケーブルに強い捩りモーメントが作用する場合、ケーブルの絶縁外皮がスリーブ周方向に沿って滑り変位して、セットスクリューの緩みが生じやすくなることがあり得る。そこで、食込凸部が絶縁外皮に食い込んだ状態にて周方向に相対的に滑り変位することを阻止するための滑り変位阻止部を、取付スリーブの内周面に形成しておくことで、上記の不具合を効果的に防止ないし抑制することができる。滑り変位阻止部は、取付スリーブの内周面を周方向にて一部切欠いて形成されることができる。この構成では、滑り変位阻止部にケーブルの絶縁外皮が半径方向外向きに圧入されて絶縁外皮圧入部が形成される。その結果、取付スリーブに対するケーブルの周方向の相対滑り変位を効果的に阻止することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の作用及び効果の詳細については、「課題を解決するための手段」の欄にすでに記載したので、ここでは繰り返さない。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明の一実施形態にかかる電子撥弦楽器用プラグ付きケーブル200により、電子撥弦楽器であるエレキギター100をアンプに接続した状態を示すものである。電子撥弦楽器用プラグ付きケーブル200は、ケーブル50と、その一端に取り付けられた電子撥弦楽器用プラグ1(以下、単に「プラグ1」とも記載する)とを有する。
図1において、エレキギター100の胴部おもて面下部(側面下部のこともある)には楽音出力端子を形成する楽器側ジャック101が形成され、プラグ1を楽器側ジャック101に挿入することによりケーブル50が接続される。ケーブル50の他端側にはコネクタ111が形成され、アンプ110側の端子に接続される。なお、適用対象となる電子撥弦楽器はエレキギターに限らず、エレキベースやエレキ三味線など、他種の撥弦楽器であってもよい。
【0016】
図2に示すように、プラグ1は、プラグ本体2の後部を含む接地金具4を有し、その外周面に雄ねじ部13とストッパフランジ12とが形成されている。ケーブル50とプラグ1との接続部分は筒状のプラグカバー30により覆われている。該プラグカバー30は、前端部内周面に形成された雌ねじ部31をプラグ1側の雄ねじ部13に螺合させることにより、前端縁がストッパフランジ12に当て止めされる形でプラグ1に固定される。
【0017】
プラグ本体2は、例えばJIS:C6560(1994)に規定された形状の周知のフォーンプラグとして形成され、楽器側ジャック101に係合する形状を有する。プラグ本体2の後端側には、軸線方向両端が開放する円筒状をなす取付スリーブ16が一体化されている。取付スリーブ16の内側には、後端側開口からケーブル50の先端部が軸線方向に挿入され、セットスクリュー17により固定されている。セットスクリュー17は、取付スリーブ16の周壁部に対し該周壁部を半径方向に貫通しつつ先端面がケーブル50の絶縁外皮51に当接する形でねじ込まれ、該ねじ込みの螺進圧縮力によりケーブル50を周壁部との間で挟持する形で保持する。
【0018】
図9は、ケーブル50の構造の一例を示すものである。ケーブル50は、絶縁外皮51の内側にシールド導体層52,53を有し、該シールド導体層52,53の内側に中間絶縁層54を介して芯線55が配置された同軸シールドケーブルとして構成されている。本実施形態において、シールド導体層52,53は第一層52と第二層53とからなり、いずれも中間絶縁層54の外側に導線を密接形態で巻きまわした巻線部として形成されている。第一層52と第二層53とは、導線の巻きまわし方向が互いに逆とされ、楽音信号電流が流れる芯線55への静電遮蔽効果が高められている。
【0019】
以下、プラグ1の構造の詳細について
図3〜
図8により、さらに詳細に説明する。
図3はプラグ1を軸線方向前方側から俯瞰した場合の斜視図であり、
図4はプラグ1を軸線方向後方側から俯瞰した場合の斜視図である。
図5はプラグ1の詳細構造を示す平面図、底面図及び正面図、
図6は同じく側面図である。さらに、
図7は、
図5のA−A断面によるプラグ1の側面断面図であり、
図8は、
図6のB−B断面図である。
【0020】
図7の断面図に示す如く、プラグ本体2は、棒状の主金具3と、主金具3の外側にプラグ側絶縁層5を介して配置される接地金具4とを備える。主金具3の先端部3tは、その側面に楽器側ジャックとの係合凹部3cを有するとともに、軸線O方向にて該係合凹部3cの後方にはフランジ部3fが一体形成されている。他方、接地金具4は筒状に形成され、その前端側開口から軸線O方向に主金具3が、筒状のプラグ側絶縁層5を挟み込む形で後端から挿入されている。主金具3のフランジ部3fの後端面と、接地金具4の前端面との間には、筒状のプラグ側絶縁層5の先端部に形成された絶縁フランジ5fが挟み込まれている。プラグ側絶縁層5は、例えばポリアセタール樹脂等の自己潤滑性を有する樹脂の射出成型体として形成されている。
【0021】
接地金具4には、プラグ本体2よりも径大のステム部4sが形成され、該ステム部4sの外周面の前端部に前述のストッパフランジ12が形成され、後端部に雄ねじ部13が形成されている。また、ステム部4sの後端面には座ぐり部4cが形成され、内側に挿入された主金具3の後端部がプラグ側絶縁層5とともに該座ぐり部4c内に突出するとともに、該座ぐり部4cにはめ込まれた絶縁リング6(例えばベークライト等の耐熱樹脂製である)により固定されている。また、主金具3の後端部は絶縁リング6から後方側に突出し、その外側にリング状の端子金具10が導通形態にはめ込まれている(
図4も参照)。端子金具10の後端面には半筒状の半田受け部10aが突出形態にて一体化されている。また、主金具3の後端面には芯線挿入孔3bが開口形成されている。
【0022】
また、
図3及び
図4に示すように、ステム部4sの後端面には連結導体14を介して円筒状の取付スリーブ16が一体結合されている。連結導体14はプラグ1の軸線Oに関して片側が開放した半筒状の形状をなし、
図5に示すように、後端側(取付スリーブ16が結合される側)にて外側面両側が平坦に切り欠かれることにより、1対の半田付け面15,15が形成されている(
図3及び
図4も参照)。
【0023】
図10は、プラグ1にケーブル50を取り付けた状態を示す平面図であり、
図11はその要部を示す側面断面図である。
図9右に示すように、ケーブル50の先端側は、シールド導体層52,53が露出するように絶縁外皮51がストリッピングされ、さらに中間絶縁層54の先端部も同様にストリッピングされて芯線55が露出している。
図11に示すように、端子金具10の後端面の芯線挿入孔3bに芯線55が挿入され、中間絶縁層54の先端面と端子金具10の後端面との間の隙間に溶融半田を流し込むことにより、芯線55と端子金具10とを導通結合する半田付け部56が形成されている。該半田付けは、連結導体14の開口側が上となるようにプラグ1を水平に置いた状態で実施され、半田受け部10aは溶融半田の落下を防ぐとともに、半田付け面積を増大させる役割も担う。一方、
図10に示すように、露出したシールド導体層52,53は第一層52と第二層53の各巻き線の先端部が左右に振り分ける形で引き出され、それぞれ対応する側の半田付け面15,15に対し半田付け部57,58により結合されている。
【0024】
主金具3及び接地金具4の材質は金属であり、具体的には真鍮、リン青銅あるいはベリリウム銅などの銅合金にて構成され、表面には腐食防止あるいは導電性向上のためのメッキが施されている。メッキ層は、具体的には、ニッケルメッキ層、クロムメッキ層などであり、電気導電性のさらなる向上のため最表層部に金メッキを施すこともできる。接地金具4は、ステム部4s、連結導体14及び取付スリーブ16が、金属棒材の切削加工により一体的に形成される。セットスクリュー17の緩みを防止するためには取付スリーブ16の剛性は高い方がよく、この観点にて接地金具4は、引張強度の高いリン青銅あるいはベリリウム銅にて構成することが望ましい。ベリリウム銅は特に高強度であり、セットスクリュー17の緩み防止の観点においてより有利であるが、析出硬化型合金であるため、溶体化処理材の状態で切削加工を行なったのち析出強化熱処理を行なうことにより、必要な剛性を確保することができる。
【0025】
次に、
図7及び
図10(
図3及び
図4も参照)に示すように、接地金具4において、連結導体14の後端側に結合された円筒状の取付スリーブ16には、その周壁部を半径方向に貫通する雌ネジ孔20が形成され、該雌ねじ孔20にはセットスクリュー17がねじ込まれている。
【0026】
図11に示すように、セットスクリュー17は、脚部先端側が取付スリーブ16の内側に突出するとともに、そのねじ込みの螺進圧縮力によりケーブル50を取付スリーブ16の周壁部との間で挟持しつつ保持する。本実施形態において、セットスクリュー17はイモねじとして構成され、ケーブル50と当接している側の端面には凹部17aが、同じく反対側の端面には六角レンチ等の工具を係合させるための工具係合孔17bが形成されている。
【0027】
本実施形態にて、セットスクリュー17は1本のみであり、
図11のE−E断面に示す如く、ケーブル50は、セットスクリュー17との当接位置に凹部51cを生じる形で、略ハート形をなす断面形態に圧縮変形しつつ取付スリーブ16内に保持されている。具体的には、セットスクリュー17の先端は絶縁外皮51を貫通し、シールド導体層52と電気的に導通接触している。この接触は半田付けを介するものではなく、機械的に形成されるものである。他方、セットスクリュー17の先端の食い込みは中間絶縁層54には及んでおらず、芯線55とシールド導体層52,53との絶縁は確保されている。
【0028】
また、ケーブル50の絶縁外皮51は、セットスクリュー17の凹部17a内にも一部が食い込んでいる。なお、セットスクリュー17の先端形状はこれに限らず、例えば円錐状(あるいは、その先端側をアール状ないし平坦にオフセットした形態)であってもよい。また、セットスクリュー17の材質は例えばステンレス鋼である。
【0029】
また、セットスクリュー17が当接しているのと反対側にて、取付スリーブ16の内周面のケーブル50が接触している領域には、該内周面の周方向に沿う食込凸部18が一体不可分に形成されている。該食込凸部18は、ケーブル50を介してセットスクリュー17の螺進圧縮力を受け止めるとともに、その一部を絶縁外皮51に食い込ませている。
【0030】
このように、プラグ側の取付スリーブ16の内周面は、セットスクリュー17の螺進圧縮力を受け止める位置にて特許文献1のごとく平坦ではなく、当該内周面に形成された食込凸部18が絶縁外皮51に食い込むようになっている。これにより、ケーブル50に対し、より強い引張り力が加わった場合も、ケーブル50の取付スリーブ16の内面に対する滑り変位が食込凸部18により阻止され、セットスクリュー17の緩みを効果的に抑制することができる。
【0031】
なお、
図10に示すように、ケーブル50のシールド導体層52,53は、連結導体14に半田付け部57,58により導通結合されている。セットスクリュー17とシールド導体層52とを導通接触させる構造に加え、さらにシールド導体層52,53をプラグ側の連結導体14に半田付け接合する構造を付け加えることで、仮にセットスクリュー17が緩んでもシールド導体層52の接地導通は接地金具4への半田付け接合により十分に確保され、楽音信号が流れる芯線55へのシールド導体層52,53による静電遮蔽効果が損なわれる問題を生じにくくすることができる。なお、この効果は、本発明の構成を採用しない態様、例えば
図28に示す参考例のごとく、取付スリーブ16の内面に食込凸部を形成しない態様においても同様に発揮される。しかし、本発明の構成を採用することで、セットスクリュー17の緩みが本質的に生じにくくなることから、シールド導体層52と接地金具4との導通状態は、さらに長期にわたって良好に維持できる。
【0032】
食込凸部18は、絶縁外皮51に食い込みつつ該絶縁外皮51を介してシールド導体層52,53とは電気的に絶縁されている。絶縁外皮51の材質は例えば塩化ビニルなどの絶縁性樹脂であり、食込凸部18と絶縁外皮51との間に作用する摩擦力は、ケーブル50の取付スリーブ16の内面に対する軸線方向の滑り変位だけでなく、周方向の滑り変位も抑制する働きがある。例えば、食込凸部18が後述の凸条部形態に形成される場合、凸条部が絶縁外皮51を貫いてシールド導体層52,53と接触する構造になっていると、凸条部とシールド導体層52,53とは金属同士の接触となり摩擦抵抗が小さくなる。その結果、ケーブル50に捩りモーメントが作用したとき、凸条部に対する周方向の滑り変位が生じやすくなることがある。しかし、上記のように、凸条部の食い込みが絶縁外皮51の内部に留まっている場合、両者は金属−樹脂接触となり摩擦抵抗が大きくなるので、ケーブル50の凸条部に対する周方向の滑り変位がより生じにくくなる利点がある。
【0033】
プラグ1の各部の寸法は特に限定されるものではないが、例えば全長が60mmであり、プラグ本体2は、外径が6.3mm、軸線方向長さが30.5mmである。取付スリーブ16の内径は使用するケーブル50の外径に応じて変動しうるが、例えば10mm以上15mm以下の範囲で設定され(本実施形態では、例えば10.5mm),その側壁部の厚さは1mm〜2mm(本実施形態では1.4mm)に設定される。
【0034】
ここで、取付スリーブ16の内径に対し外径のやや小さいケーブル50を用いたい場合は、
図11に示すように、取付スリーブ16の内周面からのセットスクリュー17の突出長jは、該取付スリーブ16の周壁部の厚みkよりも大きくなることが多い。このような構造の場合、取付スリーブ16に対するケーブル50の滑り変位が生じると、セットスクリュー17のスリーブ内周面からの突出基端位置に作用する力のモーメントが大きくなり、緩みの原因となるセットスクリュー17の倒れが特に生じやすくなる。よって、ケーブル50の滑り変位防止に寄与する上記本発明の効果が特に顕著に発揮される。
【0035】
また、セットスクリュー17は、公称ねじ径qがスリーブの周壁部の厚みkよりも大きく設定されている。これにより、ケーブル50に大きな引張り力や捩り力が作用した場合も、スリーブ内におけるセットスクリュー17の倒れが生じにくくなり、セットスクリュー17の緩みをさらに効果的に抑制することができる。なお、セットスクリュー17の公称ねじ径qの上限値については、取付スリーブ16に対する雌ねじ孔20の形成が妨げられない範囲であれば特に制限はなく、例えばケーブル50の外径よりも小さく設定することができる。
【0036】
取付スリーブ16にねじ込まれるセットスクリュー17の数は、例えば
図23に示すように2つ(ないしそれ以上)としてもよいが、
図11のように1つとすることで、部品点数を削減でき、プラグ構造の単純化を図ることができる。食込凸部18は、その少なくとも一部が、取付スリーブ16の内周面に対するセットスクリュー17の先端面の該セットスクリュー17の軸線方向における投影領域と重なる位置に形成されている。これにより、上記セットスクリュー17からの螺進圧縮力をセットスクリュー17の先端面にてより確実に受け止めることができ、セットスクリュー17と食込凸部18との間でケーブル50をより安定的に挟持できる。
【0037】
本実施形態において、取付スリーブ16の内周面に形成される食込凸部18は、
図12〜
図14に示す如く、周方向に沿って形成される凸条部18aとされている。これにより、ケーブル50の絶縁外皮51に対する食込凸部18の周方向の食込み長がより大きくなり、取付スリーブ16に対するケーブル50の滑り変位を抑制する効果をさらに高めることができる。また、食込凸部18の絶縁外皮51に対する食込み力が分散するので、食込凸部18が絶縁外皮51を貫通してしまう不具合も生じにくい。凸条部は、取付スリーブ16の軸線方向に沿って内周面に複数列形成されており、上記の効果はより高められている。
【0038】
具体的には、
図11に示すごとく、凸条部(食込凸部18)は、取付スリーブ16の内周面の全周に渡って形成されている(ただし、後述の切欠凹部19の形成区間は除く)。このような凸条部は旋削加工により容易に形成できる利点がある。全周に渡る凸条部を取付スリーブ16に複数列形成する場合、複数巻の凸条部を軸線方向に連ならせて螺旋状に形成すると、複数列の凸条部を連続的な旋削加工により形成でき、さらに効率的である。本実施形態では、螺旋状の凸条部が、半径方向内側に向かうほど狭幅となる雌ねじ部として形成されている。
図13は、
図11のC−C断面の一部を拡大して示すもので、雌ねじ部として形成された凸条部18aは、絶縁外皮51に対するねじ山部分の食込み深さがより大きくなり、取付スリーブ16に対するケーブル50の滑り変位抑制効果がさらに高められる。なお、凸条部18aについて、絶縁外皮51に食い込みつつ該絶縁外皮51を介してシールド導体層52,53とは電気的に絶縁された構造としたい場合、
図13に示すように、凸条部18aの先端18pは、面取りないしアールが施された形状とすることもできる。
【0039】
図11に戻り、ケーブル50に強い捩りモーメントが作用する場合、ケーブル50の絶縁外皮51が取付スリーブ16の周方向に沿って滑り変位して、セットスクリュー17の緩みが生じやすくなることがある。特に、上記のごとく、取付スリーブ16の内周面の全周にわたって凸条部(食込凸部18)を形成した場合、ケーブル50に強い捩りモーメントが作用すると、ケーブル50の絶縁外皮51がスリーブ周方向、すなわち凸条部の長手方向に沿って滑り変位しやすくなる場合があり得る。そこで、本実施形態では、凸条部(食込凸部18)が絶縁外皮51に食い込んだ状態にて周方向に相対的に滑り変位することを阻止するための滑り変位阻止部が設けられている。
【0040】
具体的には、滑り変位阻止部は、
図8に示すように、凸条部(食込凸部18)を周方向の中間位置にて一部切欠いて形成される切欠凹部19とされている。
図12及び
図13に示すように、切欠凹部19には、ケーブル50の絶縁外皮51が半径方向外向きに圧入されて絶縁外皮圧入部51aが形成される。特に、
図12に示すように、絶縁外皮圧入部51aに対し凸条部18aの切欠き端18sが当接することにより、取付スリーブ16に対するケーブル50の周方向の相対滑り変位が効果的に阻止される。なお、
図14に示すように、取付スリーブ16の内周面にて切欠凹部19が形成されていない区間では、複数列の凸条部18aの全てが絶縁外皮51に対し食込みを生じている。
【0041】
切欠凹部19は、取付スリーブ16の周壁部を半径方向に貫通する切欠き貫通孔として形成されている。これにより、深い切欠凹部19を切欠き貫通孔の形で、取付スリーブ16の外周面側からの切削加工により容易に形成でき、これに食い込み形成される絶縁外皮圧入部51aの形成高さも大きくできるので、上記相対滑り変位の抑制効果をより高めることができる。
【0042】
図8に示すように、切欠凹部19は、軸線方向に複数列形成された凸条部の2以上のものにまたがって形成されている。これにより、
図13に示すように、絶縁外皮圧入部51aもまた凸条部の2以上のものにまたがって形成され、取付スリーブ16に対するケーブル50の周方向の相対滑り変位をさらに効果的に抑制できる。特に、凸条部が上記雌ねじ部のごとく螺旋状に形成される場合、螺旋状の凸条部からケーブル50に対し軸線方向の螺進力が生じ、セットスクリュー17もまた該軸線方向に強い倒れ変位力を受けて、緩みがより生じやすくなる場合がある。よって、上記の切欠凹部19の形成により、取付スリーブ16に対するケーブル50の周方向の相対滑り変位を抑制することは、特に有効であるといえる。
【0043】
図11においては、取付スリーブ16にねじ込まれるセットスクリュー17の数が1つのみであり、切欠凹部19は、取付スリーブ16の内周面に対するセットスクリュー17の先端面の、該セットスクリュー17の軸線方向における投影領域と重なる位置に形成されている。これにより、切欠凹部19への絶縁外皮51の食込み力を高めることができ、絶縁外皮圧入部51aをより顕著に形成することが可能となっている。
【0044】
ケーブル50のプラグ1に対する組付工程は以下の通りである。すなわち、
図9のごとくストリッピングを施したケーブル50の先端部を、
図15の工程1のごとく、セットスクリュー17を取り外した(あるいは、退避させた)状態で、プラグ1の取付スリーブ16の内側に挿通し、工程2のごとく、
図10により説明した半田付け部56〜58を形成してプラグ1とケーブル50の電気的接続を行なう。続いて、
図16の工程3のごとく、セットスクリュー17を取付スリーブ16の雌ねじ孔20に装着し、工程4のごとく、工具係合孔17bに六角レンチ等の工具(図示せず)を係合させて締め込むことにとり、組付けが完了する。
【0045】
以上、本発明の電子撥弦楽器用プラグの実施の形態について説明したが、本発明はこれらに限定されない。以下、本発明の種々の変形例について、
図17〜
図27により説明する(上記の実施形態と概念的に共通する部分には、同一の符号を付与して詳細な説明は略する)。
図17は、取付スリーブ16に形成する複数列の凸条部(食込凸部)を螺旋状に一体化せず、周方向に円環形態に閉じた凸条部78aを軸線方向に密接形成した例を示す。複数の凸条部78aが一体化されていないので、取付スリーブ16の内周面切削によりこれを形成しようとした場合、凸条部78aを1周形成するごとに、旋削用バイトを取付スリーブ16の内周面から内向きに退避させて取付スリーブ16をピッチ送りし、次の凸条部78aを旋削するという工程となり、螺旋状の凸条部を形成する場合よりは加工工数を要する。しかし、ケーブルに捩り力が加わった場合に凸条部からの螺進反力が生じない構成となるので、セットスクリューの倒れはより生じにくくなる利点がある。
【0046】
また、
図7に示す構成では、取付スリーブ16の内周面に対し、スリーブ軸線方向における全区間に渡って凸条部18(食込凸部)を形成したが、凸条部はスリーブ軸線方向における一部区間にのみ形成するようにしてもよい。例えば、
図26は、取付スリーブ16の内周面に対し、スリーブ軸線方向における第一端側(図面下側)から中間位置までの区間に凸条部18を形成した例である。
図18は、円環状の凸条部78aをスリーブ軸線方向において所定の間隔をおいて形成した例を示す。
図19は、円環状の凸条部78aを取付スリーブ16の内周面に1列のみ、具体的にはスリーブ軸線方向における第一端側(図面下側)にのみ形成した例を示す。
図27は、円環状の凸条部78aを取付スリーブ16の内周面に2列、具体的にはスリーブ軸線方向における第一端側(図面下側)と第二端側(図面上側)に形成した例を示す。
【0047】
セットスクリュー17による螺進圧縮力を複数の凸条部により均等に受け止める観点においては、
図7のごとく、取付スリーブ16の内周面に対し凸条部18をスリーブ軸線方向において、セットスクリューの軸線Sに関し、両側に振り分けて形成することが望ましい。このようにすることで、特定の凸条部に過度の食込力が作用し、絶縁外皮51が切断されてしまう不具合を生じにくくすることができる。同様の効果は、
図17、
図18、
図22及び
図27の構成においても達成することができる。
【0048】
また、
図20においては食込凸部88が、取付スリーブ16の周方向に沿って断続的に配置される複数の食込突起88aの集合として形成されている。このような食込凸部88は、取付スリーブ16の軸線方向にて1列のみ設けてもよいし、複数列設けてもよい。
図20の右側に拡大して示すように、食込突起88aは角錐(台)状や円錐(台)状に形成できる。また、
図21は、そのような食込突起88aを、周方向において間隔を置いて形成した例である。なお、
図20及び
図21の構成においては、周方向に隣接する食込突起88a,88a間の空隙も滑り変位阻止部として機能する。
【0049】
図20及び
図21のような食込凸部88は、旋削による形成は困難であるが、ロストワックス法などの鋳造や、MIM(Metal Injection Mold)法を用いた焼結法等により製造が可能である。
【0050】
図22は、滑り変位阻止部を貫通孔ではなく、凸条部(食込凸部)のみを切欠く形で有底の溝部79として形成した例を示す。
図23は、前述のごとく、セットスクリュー17を複数本設ける場合の実施形態を示すものである。
【0051】
また、
図24は、
図11の態様から切欠凹部19を省略した構成を示すものである。ケーブル50に対する負荷が、引張力が中心であり、捩り力が比較的かかりにくい環境下で使用される場合は、本構成によっても、セットスクリュー17の緩みを十分に抑制することができる。また、
図25は、
図21の態様から切欠凹部19を省略した構成を示すものである。本構成では、周方向に隣接する食込突起88a,88a間の空隙が滑り変位阻止部として機能するので、ケーブル50に対し捩り力がかかりやすい環境下でもセットスクリュー17の緩みが生じにくくなる利点が生ずる。
【課題】プラグ側のスリーブにケーブルを差し込んでセットスクリューにより固定する構造を有するとともに、より大きな引張り力が作用した場合においても、ケーブルがスリーブに対し滑り変位を起こしにくい構造の電子撥弦楽器用プラグを提供する。
【解決手段】プラグ側の取付スリーブの内周面に、ケーブルを介してセットスクリューの螺進圧縮力を受け止めつつ絶縁外皮に食い込む食込凸部を、スリーブ内周面の周方向に沿って一体不可分に形成する。プラグ側の取付スリーブの内周面に形成された食込凸部が、ケーブルの絶縁外皮に食い込むので、ケーブルに対し、より強い引張り力が加わった場合も、ケーブルのスリーブ内面に対する滑り変位が食込凸部により阻止され、セットスクリューの緩みを効果的に抑制することができる。