【文献】
Nat. Commun., 2017, Vol. 8, No. 1, 1737
【文献】
Methods Mol. Biol., 2014, Vol. 1095, pp. 95-102
【文献】
Dev. Cell, 2014, Vol. 28, pp. 547-560
【文献】
Methods Mol. Biol., 2012, Vol. 941, pp. 181-193
【文献】
Chem. Eur. J., 2017, Vol. 23, pp. 5210-5213
【文献】
RNA, 2006, Vol. 12, pp. 2014-2019
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の通り、miRNAのプロセシング異常は様々な疾患の発症や進展等に関与する。miRNAプロセシング活性を簡便に検出・評価できれば、当該活性を指標とした薬剤スクリーニング系を構築し、多種多様な疾患について効率的な治療薬開発が行える。また、遺伝的異常というエビデンスに基づく客観的な検査ないし診断も可能になる。これまでにも、miRNAプロセシング活性の検出に成功したという報告はある。しかしながら、過去に報告されたmiRNAプロセシング活性の検出には放射性標識(RI)が利用されており(非特許文献6)、現在においても検出感度の問題等の理由によりRIを用いた手法に依存せざるを得ない状況にある(例えば非特許文献7を参照)。RIにはそれ自体の危険性が高いこと、操作や手続きが煩雑であること、使用可能な施設や場所が限定されることなどの問題がある。
【0007】
そこで本発明は、miRNAのプロセシング活性を簡便に且つ高い安全性で検出する手段を提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく本発明者らは、蛍光の部位特異的な利用が簡便性はもとより高感度の検出に有利と考え、部位特異的な蛍光標識を用いたmiRNAプロセシング活性検出系の構築を目指した。まず本検出系の構築には、miRNA(miRNAプローブ)の長さが大きな問題となる。通常は、主に合成上の制約から、70-80nt程度の長さが合成機による合成の限界とされており、短いものでも80nt以上の長さのprimary-miRNAを合成により作製することは極めて困難であり不可能に近い。従来、primary-miRNAプローブの調製は、in vitro transcriptionの反応系が用いられている(例えば上掲の非特許文献6、7を参照)。この方法では100nt以上のRNAを調製可能であり、化学標識したヌクレオチドを原料に用いて転写反応を起こすことで化学標識したRNAの作製も可能である。しかしながら、このようなin vitro transcriptionの反応系によるprimary-miRNAの調製方法では部位特異的な修飾導入が困難である。そこで、ライゲーション反応を利用することにより、合成機により合成可能な70-80nt断片を合成し連結させることで、pri-miRNAの特徴的な構造を反映する、十分に長いpri-miRNAプローブを調製し、その有効性を検討することにした。一方で、アッセイに使用するDrosha複合体の構成にも注目した。
【0009】
詳細な検討の結果、合成RNAのライゲーションと蛍光検出を組み合わせたことで、非放射性標識によるpri-miRNAプロセシング活性の検出・評価に成功した。一方、DroshaとDGCR8の複合体を使用した場合、Drosha単独の場合に比べてプロセシング効率が格段に向上し、実用性に優れた検出系が構築された。また、標的特異的なプロセシングを制御する付加的因子の作用の評価も可能であることが示された。更なる検討によって、当該手法の一般性/汎用性(特定のmiRNAのプロセシング活性の検出に限定されるものではないこと)も確認された。
【0010】
一方、当該手法の応用を図るべく、レット症候群との関連が報告されているMeCP2複合体のプロセシング活性の検出を試みた。その結果、MeCP2のプロセシング促進作用の検出・評価が可能であった。この成果は、Drosha及びDGRC8を主要な構成要素とするDrosha複合体に相互作用する分子(MeCP2の他、TDP43、p53、Smads等)の活性評価にも当該手法が有用であることを示す。
【0011】
以上の通り、汎用性・実用性に優れた、画期的なmiRNAプロセシング活性検出系の創出に成功した。以下の発明は主として当該成果に基づく。
[1]以下のステップ(1)及び(2)を含む、マイクロRNAプロセシング活性の検出方法:
(1)pre-miRNAの全長配列に加え、pri-miRNAにおいて該pre-miRNAの5'末端側に連続している10〜80塩基長の配列及び3'末端側に連続している10〜80塩基長の配列を含み、その5’末端領域又は3'末端領域に蛍光物質が結合したmiRNAプローブと、Drosha複合体とを反応させるステップ、
(2)前記Drosha複合体によるプロセシングによって生じる、前記miRNAプローブの5’末端領域又は3'末端領域を含む断片からの蛍光を検出するステップ。
[2]前記miRNAプローブの蛍光標識の位置が5'末端又は3'末端である、[1]に記載の検出方法。
[3]前記miRNAプローブの長さが100〜200塩基長である、[1]又は[2]に記載の検出方法。
[4]前記miRNAプローブがhsa-miR-199aの前駆体又はhsa-miR-214の前駆体の配列を含む、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の検出方法。
[5]前記Drosha複合体がDroshaとDGCR8を含む、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の検出方法。
[6]前記Droshaと前記DGCR8が培養細胞で共発現させたものである、[5]に記載の検出方法。
[7]前記Drosha複合体が変異型である、[1]〜[6]のいずれか一項に記載の検出方法。
[8]前記Drosha複合体と相互作用する分子の存在下でステップ(1)の反応を行う、[1]〜[7]のいずれか一項に記載の検出方法。
[9]前記分子が転写因子又はRNA結合タンパク質である、[8]に記載の検出方法。
[10]前記分子がMeCP2、TDP43、p53又はSmadsである、[8]に記載の検出方法。
[11]前記分子が変異型である、[8]〜[10]のいずれか一項に記載の検出方法。
[12]ステップ(1)を被験物質の共存下で行い、
ステップ(2)の検出結果に基づき、プロセシング活性への被験物質の作用を評価する、[1]〜[11]のいずれか一項に記載の検出方法。
[13]pre-miRNAの全長配列に加え、pri-miRNAにおいて該pre-miRNAの5'末端側に連続している10〜80塩基長の配列及び3'末端側に連続している10〜80塩基長の配列を備え、その5’末端領域又は3'末端領域が蛍光標識されたmiRNAプローブからなる、マイクロRNAプロセシング活性検出用試薬。
[14][13]に記載の試薬を含む、マイクロRNAプロセシング活性検出用キット。
[15]Drosha複合体を更に含む、[14]に記載のキット。
[16]前記Drosha複合体がDroshaとDGCR8を含む、[15]に記載のキット。
[17]前記Drosha複合体が変異型である、[15]又は[16]に記載のキット。
[18]前記Drosha複合体に、それと相互作用する転写因子又はRNA結合タンパク質が会合している、[15]〜[17]のいずれか一項に記載のキット。
[19]前記Drosha複合体に、MeCP2、TDP43、p53又はSmadsが会合している、[15]〜[17]のいずれか一項に記載のキット。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.マイクロRNAプロセシング活性アッセイ
1−1.マイクロRNAプロセシング活性の検出方法
本発明の第1の局面はマイクロRNAプロセシング活性の検出方法に関する。上記の通り、マイクロRNA(「miRNA」と呼称することがある)は、Drosha複合体によるプロセシングによってpre-miRNAとなり、Dicer複合体による更なるプロセシングによって成熟型となる。本明細書における「マイクロRNAプロセシング活性(miRNAプロセシング活性)」とは、前者のプロセシング、即ち、Drosha複合体によるプロセシング(pri-miRNAからpre-miRNAへの変換)の能力ないし程度(レベル)である。特に言及しない限り、以下の説明において「プロセシング」は、Drosha複合体が介在するプロセシング、即ち、pri-miRNAからpre-miRNAへの変換を指す。生体においてDrosha複合体は主要な構成要素としてDroshaとDGCR8を含み、更にDEAD-box RNA helicase DDX5/17、hnRNP等、種々のRNA結合タンパク質が含まれうる。また、MeCP2、TDP43、p53、Smads等がDrosha複合体と会合し、特定のmiRNAプロセシングを制御することが知られている。
【0014】
本発明の検出方法では以下のステップ(1)及び(2)を行う。尚、その構成から明らかな通り、本発明の検出方法は生体外で行われるものである。即ち、in vitroアッセイである。
(1)pre-miRNAの全長配列に加え、pri-miRNAにおいて該pre-miRNAの5'末端側に連続している10〜80塩基長(好ましくは20〜50塩基長)の配列及び3'末端側に連続している10〜80塩基長(好ましくは20〜50塩基長)の配列を含み、その5’末端領域又は3'末端領域が蛍光標識されたmiRNAプローブと、Drosha複合体とを反応させるステップ
(2)前記Drosha複合体によるプロセシングによって生じる、前記miRNAプローブの5’末端領域又は3'末端領域を含む断片からの蛍光を検出するステップ
【0015】
ステップ(1)
ステップ(1)は、本発明に特徴的なmiRNAプローブを利用したプロセシング反応であり、miRNAプローブとDrosha複合体とを反応させる。即ち、プロセシングに必要な成分、例えばマグネシウム(Mg)やATPを含む反応溶液を用意し、miRNAプローブとDrosha複合体の共存下(換言すれば、相互作用が可能な状態とし)、例えば、35℃〜39℃、好ましくは約37℃でインキュベートする。インキュベート時間は例えば10分〜3時間とする。
【0016】
本発明では、特徴的な配列を有するmiRNAプローブが用意される。詳細には、miRNAプローブは、プロセシング後の形態であるpre-miRNA(特定の前駆体miRNA)の配列に加え、プロセシング前の形態であるpri-miRNAの配列の一部、具体的には、当該pre-miRNAの5'末端側に連続する部分(説明の便宜上、「pri-miRNA 5'側連続領域」と呼ぶ)と同3'末端側に連続する部分(説明の便宜上、「pri-miRNA 3'側連続領域」と呼ぶ)、を含む配列からなる。このように、miRNAプローブはpre-miRNAには存在せず、pri-miRNAに存在する配列を備える。pri-miRNA 5'側連続領域とpri-miRNA 3'側連続領域の長さはいずれも、例えば10〜80塩基長、好ましくは20〜50塩基長である。miRNAプローブがpri-miRNA 5'側連続領域とpri-miRNA 3'側連続領域を含むことは、ステップ(1)の反応においてDrosha複合体がプロセシング活性を発揮する上で重要であり、miRNAプローブを構成するこれらの領域の長さが短すぎると蛍光によるプロセシング活性の検出は困難又は不可能となる。一方、pri-miRNA 5'側連続領域とpri-miRNA 3'側連続領域を必要以上に長くすることは、miRNAプローブの調製を困難にし、また、経済的観点(即ち、調製コスト)からも好ましくない。後述のように、miRNAプローブの配列は特定のmiRNAの配列を基に設計される。従って、miRNAプローブの長さは、基になるmiRNAの長さに依存し画一的ではないが、例えば、100〜200塩基長、好ましくは130〜160塩基長である。このように長いmiRNAプローブの調製には、化学合成(固相合成法、液相合成法)とライゲーション反応を組み合わせた方法を採用するとよい。典型的には、当該方法では目的のmiRNAプローブの配列を二分し(必要に応じて3個以上の配列に分割してもよい)、各々(RNA断片)を化学合成によって調製した後、RNAリガーゼを用いたライゲーション反応によって連結する。化学合成とライゲーション反応を組み合わせた方法の手順/操作及び条件の詳細は実施例の欄に示す。尚、ライゲーション反応ではなく、化学反応を利用してRNA断片を連結する場合には、連結部位に非天然構造を入れる必要が生じることと、蛍光色素の選択の幅が狭くなること(例えば、フルオレセインを用いれば化学反応の条件でフルオレセインが反応し蛍光性が消失するため、Cy3系等の蛍光色素を採用することが望まれる)を考慮した上でmiRNAプローブの構成を設計すればよい。
【0017】
例えば、その存在が知られている種々のmiRNAの配列情報を基にmiRNAプローブの配列を設計することができる。典型的には、天然のmiRNAの配列に対応する配列、即ち特定のpre-miRNAの配列と当該pre-miRNAのpri-miRNA 5'側連続領域及びpri-miRNA 3'側連続領域からなる配列で構成したmiRNAプローブが用いられる。但し、配列の一部(例えば1〜10個程度の塩基)が改変ないし変異した変異型miRNAプローブを用いることもできる。このような変異型miRNAプローブの使用は、特定のmiRNAにおける特定の変異がプロセシング活性に与える影響の評価に有用である。
【0018】
miRNAプローブの設計に利用可能な既知のmiRNAの例を示せば、hsa-miR-199a、hsa-miR-214である。hsa-miR-199aはレット症候群との関連が報告されているmiRNAである。従って、hsa-miR-199aに対応するmiRNAプローブを設計し、本発明の検出方法に適用した場合、レット症候群の研究やレット症候群に対する治療法/治療薬の開発等に利用可能なアッセイ系を提供できることになる。同様に、hsa-miR-16-1、hsa-miR-143、hsa-miR-145はガンとの関連が、hsa-miR-21は心血管疾患との関連が、hsa-miR-574は筋萎縮性側索硬化症(ALS)との関連が報告されている。
【0019】
miRNAの研究は日進月歩であり、飛躍的な発展が予想される。miRNA研究の進展に伴い、未知のmiRNAが数多く見出されることは確実であり、そのような新たなmiRNAに対応するmiRNAプローブの設計も当然に想定される。
【0020】
miRNAプローブはその5'末端領域(典型的には5'末端)又は3'末端領域(典型的には3'末端)に蛍光物質が結合することで蛍光標識されている。5'末端領域と3'末端領域の両方に蛍光物質を結合することを妨げるものではないが、通常は、片方に蛍光物質を結合する。
【0021】
標識部位となる5'末端領域及び3'末端領域はそれぞれ、pri-miRNA 5'側連続領域の一部又は全部、及びpri-miRNA 3'側連続領域の一部又は全部からなり、Drosha複合体によるプロセシングによって切断される部分に含まれる。従って、Drosha複合体によってmiRNAプローブが適切にプロセシングされると、蛍光標識断片(5’末端領域又は3'末端領域を含む断片)が生じることになる。
【0022】
蛍光標識に用いる蛍光物質は特に限定されない。蛍光物質の例を挙げれば、7-AAD、Alexa Fluor(登録商標)488、Alexa Fluor(登録商標)350、Alexa Fluor(登録商標)546、Alexa Fluor(登録商標)555、Alexa Fluor(登録商標)568、Alexa Fluor(登録商標)594、Alexa Fluor(登録商標)633、Alexa Fluor(登録商標)647、Cy
TM 2、DsRED、EGFP、EYFP、FITC、PerCP
TM、R-Phycoerythrin、Propidium Iodide、AMCA、DAPI、ECFP、MethylCoumarin、Allophycocyanin、Cy
TM 3、Cy
TM 5、SYBR(登録商標) Green、 Rhodamine-123、Tetramethylrhodamine、Texas Red(登録商標)、PE、PE-Cy
TM5、PE-Cy
TM5.5、PE-Cy
TM7、APC、APC-Cy
TM7、オレゴングリーン、カルボキシフルオレセイン、カルボキシフルオレセインジアセテート、ピレン、HyLite、量子ドットである。蛍光標識は常法で行うことができ、例えば蛍光分子のホスホロアミダイト体(例えばGlen Research社の6-Fluorescein Phosphoramidite)を利用した核酸自動合成等の手法を採用すればよい。尚、市販のRNA蛍光標識用キット(例えばVector Laboratories社のEndTag Nucleic Acid Labeling System)を利用してmiRNAプローブの標識化を行うことにしてもよい。
【0023】
互いに区別可能に蛍光標識された2種類以上のmiRNAプローブを用意し、ステップ(1)の反応に供してもよい。この態様は、2種類以上のmiRNAプローブに関して同時にプロセシング活性を評価可能な検出系となる。尚、この態様の場合、後述のステップ(2)で各miRNAプローブ由来の蛍光が検出される。
【0024】
ステップ(1)に用いるDrosha複合体は必須の構成要素としてDrosha(drosha ribonuclease III)を含む。Droshaは分子量約160kDaのタンパク質であり、2つのRNaseIIIドメインを含む。これらのドメイン上には各々DGCR8結合サイトが存在する。DroshaはDGCR8とともに複合体(Drosha複合体やDrosha-DGCR8複合体と呼ばれる)を形成し、pri−miRNAのプロセシングを行う。生体におけるDrosha複合体の構造に加え、Drosha及びDGCR8を併用するとプロセシング効率が大幅に向上した事実(後述の実施例を参照)を考慮し、好ましくは、DroshaとDGCR8を含むDrosha複合体が本発明の検出方法に用いられる。
【0025】
Droshaは種を超えて広く保存されている。本発明において、典型的にはヒトのDroshaが用いられるが、目的に応じて他の種(例えばマウス、ラット、ショウジョウバエ等)のDroshaを採用してもよい。その場合には、Drosha複合体を構成するその他の成分(例えばDGCR8)についても、原則、当該種のものが用いられる。ヒトDroshaはNCBI(National Center for Biotechnology Information)のデータベースにおいてGene ID: 29102(drosha ribonuclease III [Homo sapiens (human)])で登録されている。ヒトDroshaのアイソフォーム1のアミノ酸配列を配列番号1(DEFINITION: ribonuclease 3 isoform 1 [Homo sapiens]. ACCESSION: NP_037367)に、アイソフォーム2のアミノ酸配列を配列番号2(DEFINITION; ribonuclease 3 isoform 2 [Homo sapiens]. ACCESSION: NP_001093882)にそれぞれ示す。
【0026】
DGCR8はDroshaに結合してDrosha複合体を構成する。DGCR8にはRNA結合ドメインがあり、pri-miRNAに結合することで、Droshaによるpri-miRNAのプロセシングを補助する。ヒトDGCR8はNCBI(National Center for Biotechnology Information)のデータベースにおいてGene ID: 54487(DGCR8, microprocessor complex subunit [Homo sapiens (human)])で登録されている。ヒトDGCR8(アイソフォーム1)のアミノ酸配列を配列番号3(DEFINITION: microprocessor complex subunit DGCR8 isoform 1 [Homo sapiens]. ACCESSION: NP_073557 NP_073612)に示す。
【0027】
ステップ(1)に用いるDrosha複合体は、例えば、外来性タンパク質の発現/調製に利用可能な培養細胞(例えば、HEK293細胞、CHO細胞、COS細胞)内で強制発現させたDroshaを回収することにより(必要に応じて精製される)、用意することができる。Droshaに加えDGCR8を含むDrosha複合体であれば、同様の方法、即ちDroshaとDGCR8を共発現させた培養細胞からの回収により、或いはDroshaとDGCR8を別々に調製した後、両者を混合して複合体化することによって用意することができる。尚、組換えタンパク質としてDrosha複合体を調製するのではなく、生体から分離した細胞若しくはその継代細胞から分離、精製することによってDrosha複合体を調製することもできる。
【0028】
本発明に用いるDrosha複合体がDroshaとDGCR8以外の要素/因子を含んでいてもよい。ここでの要素/因子の例は、生体においてDrosha複合体の構成因子である、DEAD-box RNA helicase DDX5/17、hnRNP等、種々のRNA結合タンパク質である。
【0029】
Drosha複合体は変異型であってもよい。変異型Drosha複合体を用いた場合、プロセシング異常に関連した疾患の研究や治療薬の開発等に有用なアッセイ系となる(詳細は後述の1−2.の欄を参照)。変異型Drosha複合体とは、構成成分の少なくとも一つが変異を含んでいる(正常な構造ではない)Drosha複合体をいう。例えば、Drosha及びDGCR8を含むDrosha複合体の場合、Drosha又はDGCR8、或いはこれらの両者が変異を含むものが、変異型Drosha複合体に該当する。天然に生じた変異、又は人為的操作で生じた変異のいずれであってもよい。前者の変異としては、例えば、プロセシング異常を呈する患者細胞中のDrosha複合体に認められる変異が想定される。一方、組換えタンパク質としてDrosha複合体を調製する際、意図した変異が含まれるように発現コストラクトを設計することにより、人為的操作による変異を含む変異型Drosha複合体を得ることができる。
【0030】
一態様ではDrosha複合体と相互作用する分子(以下、「相互作用分子」と呼ぶ)の存在下でステップ(1)を行う。例えば、Drosha複合体と会合し、特定のmiRNAのプロセシングに関与する分子(具体例はMeCP2、TDP43、p53、Smads等、各種転写因子やRNA結合タンパク質)が相互作用分子に該当する。このような相互作用分子を用いるのであれば、例えば、ステップ(1)の際、反応系に当該分子を追加(具体的には反応液に添加)すればよい。或いは、当該分子が会合したDrosha複合体、即ち、相互作用分子を含むDrosha複合体を調製しておき、反応に供すればよい。相互作用分子を含むDrosha複合体は、DroshaとDGCR8を含むDrosha複合体を調製する場合と同様の方法、即ち、Drosha及びその他の必要な分子(例えばDGCR8)とともに相互作用分子を強制発現させた培養細胞からの回収により、或いは相互作用分子を標的とした免疫沈降等の方法を利用し、培養細胞や生体から分離した細胞若しくはその継代細胞から分離、精製することによって、調製することができる。尚、ヒトMeCP2はNCBI(National Center for Biotechnology Information)のデータベースにおいてGene ID: 4204(methyl-CpG binding protein 2 [Homo sapiens (human)])で登録されている。ヒトMeCP2のアイソフォーム1のアミノ酸配列を配列番号4(DEFINITION: methyl-CpG-binding protein 2 isoform 1 [Homo sapiens]. ACCESSION: NP_004983)に、アイソフォーム2のアミノ酸配列を配列番号5(DEFINITION: methyl-CpG-binding protein 2 isoform 2 [Homo sapiens]. ACCESSION: NP_001104262)にそれぞれ示す。
【0031】
相互作用分子についても、変異型を用いることにしてもよい。上記の変異型Drosha複合体の場合と同様、相互作用分子における変異も、天然に生じたものと人為的操作で生じたものに大別される。変異型相互作用分子を用いれば、相互作用分子に起因するプロセシング異常に関連した疾患の研究や治療薬の開発等に有用なアッセイ系となる(詳細は後述の1−2.の欄を参照)。
【0032】
ステップ(2)
ステップ(1)の反応後、蛍光を検出する(ステップ(2))。具体的には、Drosha複合体によるプロセシングによって生じる、miRNAプローブの5’末端領域又は3'末端領域を含む断片(蛍光標識断片)からの蛍光を検出する。miRNAプローブに対するプロセシングが正常に行われると、蛍光物質の結合部位(miRNAプローブの5’末端領域又は3’末端領域)を含む断片が生じる。このようにして生成した断片に由来する蛍光が検出されることになる。
【0033】
例えば、ステップ(1)の反応後、電気泳動等によって反応生成物を分離し、蛍光の検出を行う。電気泳動を利用した場合、蛍光を発するバンドとして蛍光標識断片が観察される。本発明によれば、プロセシングによる切断部位特異的に蛍光標識されたmiRNAプローブが用いられることから、プロセシングによって切り取られた部分(分子量の小さい断片)が蛍光を示し、高感度(高いS/N比)の検出が可能となる。対照的に、RI標識を利用する従来法では、RI標識の特性上、切断部位特異的に標識されたmiRNAプローブは使用できず、プロセシングによって切り取られた部分以外からのシグナルも検出されることになり、S/N比が低下する。
【0034】
蛍光の検出には各種蛍光検出器/蛍光測定装置を用いることができる。蛍光検出器/蛍光測定装置の例を挙げるとBiorad社のChemiDoc
TM XRS+ システム、Horiba社のモジュール型蛍光分光光度計 Fluorolog-3である。検出結果は専用又は汎用のソフトウェア(例えばBiorad社のImage Lab
TM ソフトウェア、Horiba社のFluoroEssence V3)等を利用して数値化することができる。検出値、それを数値化したデータはプロセシング活性を反映する。当該データの解析によってプロセシング活性を評価できる。
【0035】
1−2.マイクロRNAプロセシング活性を利用した評価系
本発明の検出方法の一態様では、ステップ(1)を被験物質の共存下で行うことにし、ステップ(2)の検出結果に基づき、プロセシング活性への被験物質の作用を評価する。この態様は、mi-RNAプロセシング機構を標的とした薬効や毒性等の評価系となる。例えば、プロセシング異常を引き起こす変異型Drosha複合体を用いれば、変異型Drosha複合体に対する被験物質の影響(効果)を評価でき、当該変異型Drosha複合体に起因するプロセシング異常が発症や進展の原因となる疾患の研究、治療薬の開発、診断法の開発等に有用である。また、変異型相互作用分子を用いれば、相互作用分子に起因するプロセシング異常が発症や進展の原因となる疾患の研究、治療薬の開発、診断法の開発等に有用な評価系となる。相互作用分子に起因するプロセシング異常は疾患特異性が高いことから、当該評価系は特定の疾患又は疾患群を標的とした研究ツールとして極めて有用である。尚、変異型Drosha複合体と変異型相互作用分子を併用することにしてもよい。
【0036】
一方、正常型Drosha複合体を用いた場合、例えば、既存の薬剤又は新規薬剤の毒性評価等に利用・応用可能である。用語「毒性」は広義に解釈されるべきであり、一般毒性(急性毒性、亜急性毒性、慢性毒性)の他、副作用、発がん性、変異原性、催奇形性等も毒性の一つである。
【0037】
変異型Drosha複合体及び/又は変異型相互作用分子を用いた検出方法において、被験物質にプロセシング異常を補正ないし改善する作用が見出された場合、当該物質は新規薬剤(医薬)又はそのリード化合物等として有望である。このように、この態様の検出方法は薬効評価系ないし薬剤スクリーニング系として特に有用である。被験物質の薬効評価に本発明を適用する場合の実施態様の一例を説明する。まず、患者由来の細胞、例えば罹患部位の細胞(例えばがん細胞)やiPS細胞(疾患iPS細胞)、侵襲性の低い皮膚等由来細胞(線維芽細胞等)の抽出液、或いはこれらの細胞から回収したDrosha複合体(特定の相互作用分子が会合したものであってもよい)からなる試料を用意し、当該患者が罹患している疾患に関連性を示す特定のmiRNAプローブと反応させる。当該反応の際、被験物質を反応液中に添加しておく。または、当該反応に先立って、試料を被験物質で処理しておく。反応後、蛍光を検出し、コントロール(典型的には、被験物質の非存在下で反応させた場合の検出結果)と比較する。コントロールに比べて有意に検出値が高ければ、被験物質にプロセシング異常を補正ないし改善する作用があると判断できる。このような有効性を認めた被験物質は、患者が罹患する疾患の治療薬の有効成分またはその候補として有望である。
【0038】
典型的には、この態様ではステップ(1)を被験物質の共存下及び非存在下で行い、前者の場合のステップ(2)の検出結果と、後者の場合のステップ(2)の検出結果を比較する。このようにコントロール(対照)との比較を利用して被験物質のプロセシング活性への作用を評価すれば、客観性及び信頼性の高い評価結果が得られる。
【0039】
被験物質は特に限定されない。その薬効又は毒性の評価が必要とされる様々な物質が被験物質となり得る。被験物質には様々な分子サイズの有機化合物又は無機化合物を用いることができる。有機化合物の例として核酸、ペプチド、タンパク質、脂質(単純脂質、複合脂質(ホスホグリセリド、スフィンゴ脂質、グリコシルグリセリド、セレブロシド等)、プロスタグランジン、イソプレノイド、テルペン、ステロイド、ポリフェノール、カテキン、ビタミン(B1、B2、B3、B5、B6、B7、B9、B12、C、A、D、E等)を例示できる。医薬品、栄養食品、食品添加物、農薬、香粧品(化粧品)等の既存成分或いは候補成分も好ましい被験物質の一つである。植物抽出液、細胞抽出液、培養上清などを被検物質として用いてもよい。2種類以上の被験物質を同時に添加することにより、被験物質間の相互作用、相乗作用などを調べることにしてもよい。被験物質は天然物由来であっても、或いは合成によるものであってもよい。後者の場合には例えばコンビナトリアル合成の手法を利用して効率的なアッセイ系を構築することができる。
【0040】
2.プロセシング活性検出用試薬及びキット
本発明は第2の局面として、本発明の検出方法をより簡便に実施することを可能にする試薬(miRNAプロセシング活性検出用試薬)及びキット(miRNAプロセシング活性検出用キット)を提供する。以下、本発明の試薬及びキットの構成、特徴等を説明するが、言及しない事項については第1の局面で説明した通りであり、対応する説明が援用される。
【0041】
本発明の試薬はmiRNAプローブからなり、特定のpre-miRNAの全長配列に加え、pri-miRNAにおいて当該pre-miRNAの5'末端側に連続している10〜80塩基長(好ましくは20〜50塩基長)の配列(pri-miRNA 5'側連続領域)及び3'末端側に連続している10〜80塩基長(好ましくは20〜50塩基長)の配列(pri-miRNA 3'側連続領域)を備え、その5’末端領域又は3'末端領域が蛍光標識されている。本発明のキットでは、当該試薬が必須の構成要素として含有される。異なるmiRNAの配列を基に設計された2種類以上の試薬をキットの構成要素とすれば、2種類以上のmiRNAのプロセシングに関してプロセシング活性を検出可能なキットとなる。
【0042】
好ましい一態様では、Drosha複合体もキットの構成要素とする。この態様のキットの場合、Drosha複合体を別途用意することなくプロセシング活性を検出可能となる。好ましくは、DroshaとDGCR8を含むDrosha複合体を採用し、高いプロセシング効率のキットとする。DGCR8に加え、その他の構成因子(例えば、DEAD-box RNA helicase DDX5/17、hnRNP等、種々のRNA結合タンパク質)などをDrosha複合体に含ませることにしてもよい。また、変異型のDrosha複合体を採用すれば、例えば、プロセシング異常に関連した疾患の研究や治療薬の開発等に有用なキットとなる。
【0043】
Drosha複合体として、MeCP2、TDP43、p53、Smads等、相互作用分子が会合したものを採用し、相互作用分子に起因するプロセシング異常が発症や進展の原因となる疾患の研究、治療薬の開発、診断法の開発等に好適なキットにしてもよい。変異型相互作用分子を採用し、相互作用分子に起因するプロセシング異常に関連した疾患の研究や治療薬の開発等において特に有用なキットにしてもよい。
【0044】
コントロールとして、一般に恒常的な発現を認めるmiRNAの配列を基に設計されたmiRNAプローブや、特定の細胞や組織で恒常的な発現を認めるmiRNAの配列を基に設計されたmiRNAプローブをキットに含めるとよい。
【0045】
キットに含めることが可能なその他の要素として、プロセシング反応用の溶液(例えばマグネシウムやATP等を含む)、バッファー(反応用、希釈用、洗浄用など)、反応容器が挙げられる。また、本発明のキットには通常、取扱い説明書が添付される。
【実施例】
【0046】
miRNAのプロセシングは様々な生命現象に重要であり、その異常は脳疾患、心循環系疾患、がん等の発症や進展に関与する。研究対象としてだけでなく、臨床的にも重要なmiRNAプロセシング活性を安全かつ簡便に検出できる新たな手段の創出を目指し、以下の検討を行った。
【0047】
1.蛍光標識miRNAプローブによるプロセシング活性の評価(1)
1−1.方法
(1)Primary-miR-199aプローブの調製
(1−1)核酸断片の化学合成
miR-199aに対応する蛍光標識miRNAプローブ「Primary-miR-199aプローブ」の作製に必要な2つのRNAオリゴヌクレオチド(配列番号6と配列番号7)を以下の方法で調製した。尚、Primary-miR-199aプローブは、miR-199aの前駆体(pre-miR-199a)(配列番号8)の両端にpri-miR-199a由来の配列が付加された140merの配列(配列番号9)からなり、その3'末端はフルオレセインで標識されている。
【0048】
RNAオリゴヌクレオチドの調製には、2’-TOM (トリイソプロピルシリルオキシメチル)保護β-シアノエチルホスホロアミダイト (DMT-2’-O-TOM-rA(Ac)、DMT-2’-O-TOM-rG(Ac)、DMT-2’-O-TOM-rC(Ac)、DMT-2’-O-TOM-rU)(Glen Research社もしくはChemGenes社)を用いた。それぞれのホスホロアミダイトモノマーは0.05 mol/Lアセトニトリル溶液となるように調製し、固相担体を0.8 μmol用いてDNA/RNA固相合成装置 (NTS M-2-MX, 日本テクノサービス社)により合成した。固相担体としてUniversal UnyLinker Support 2000Å (ChemGenes社)を用い、1塩基目の縮合時間は15分間、それ以降は各3分間とした。5’末端の水酸基のリン酸化は5'-Phosphate-ON Reagent (0.05 mol/Lアセトニトリル溶液、ChemGenes社)を用いて行った。フルオレセイン標識にはDMT-6-FAM phosphoramidite (ChemGenes社)を用いた。
【0049】
固相合成装置で使用した試薬は以下の通りである。5’末端の水酸基のジメトキシトリチル基の除去には市販のデブロッキング試薬 (Deblocking Solution-1, 3 w/v%トリクロロ酢酸/ジクロロメタン溶液、和光純薬株式会社)を用い、10秒間の反応を行った。ホスホロアミダイトのアクチベーターとして市販のアクチベーター溶液 (アクチベーター溶液3, 和光純薬株式会社)を用いた。未反応の5’末端の水酸基のキャッピングには市販のキャッピング溶液 (キャップA溶液-2及びキャップB溶液-2、和光純薬株式会社)を用い、10秒間の反応を行った。リン酸エステルを製造する際の酸化剤としては、ピリジン、THF、水及びヨウ素を含有する溶液 (Oxidizer, 0.01 Mヨウ素, 29.2%水, 6.3% ピリジン, 64.5% アセトニトリル、Honeywell社)を用い、10秒間反応させた。固相合成後、RNAオリゴヌクレオチドの5’末端の水酸基のジメトキシトリチル基は固相担体上にて脱保護した。合成したRNAオリゴヌクレオチドは基本的に以下の条件、即ち、「濃アンモニア水:40%メチルアミン水溶液=1:1(和光純薬株式会社)を用いた65℃、1時間の処理」で脱樹脂・脱保護を行った。フルオレセイン標識したRNAに関しては、濃アンモニア水で室温30分処理した後、等量の40%メチルアミン水溶液を加え、65℃で1時間処理した。脱樹脂過程で得られた溶液を遠心エバポレーターによる濃縮により完全に乾固した後、テトラブチルアンモニウムフルオリド (1Mテトラヒドロフラン溶液、東京化成工業株式会社、1 mL)を用いて2’水酸基のTOM保護基を除去した (50℃で10分間の処理の後、35℃で6時間の処理)。溶液にトリス塩酸緩衝液 (Tris-HCl, 1M, pH 7.4, 1 mL)を加えて混和した後、遠心エバポレーターによる濃縮によりテトラヒドロフランを除去した。超純水で平衡化したゲルろ過カラム (NAP-25, GE Healthcare社)に得られた溶液をアプライし、製品プロトコールによって処理した。RNAオリゴヌクレオチドを含む画分を遠心エバポレーターによって濃縮後、変性ポリアクリルアミドゲル (以下、dPAGE)を用いて精製した。
【0050】
(1−2)dPAGEを用いたRNA断片の精製
各%濃度のアクリルアミドゲル溶液 (変性剤として7M尿素を含む)に過硫酸アンモニウム (以下、APS)の水溶液とN,N,N’,N’-テトラメチレンジアミン (以下、TEMED)を重合剤として添加し、固形化 (室温、6〜12時間)させることでゲルを作製した。RNAサンプルはゲルローディングバッファー (80%ホルムアミド、TBE)と混合し、ゲルにロードした。電気泳動後、RNAのバンドをUV光照射 (254 nm)によって検出し、カミソリの刃を用いてゲルから切り出した。切り出したゲル片を細かく破砕した後、超純水によるRNAの抽出を行った (室温にて12〜24時間振とう)。RNAの抽出液はAmicon Ultra 10K (Millipore社)を用いて脱塩・濃縮し、エタノール沈殿 (0.3M酢酸ナトリウム(pH5.2)/70%エタノール)を行うことでRNAのペレットを得た。RNAペレットは80%エタノールでリンス後、遠心エバポレーターにて乾燥させた。得られたRNAペレットを超純水に溶解し、適切な濃度に希釈した。紫外可視吸光光度測定 (NanoDrop、Thermo scientific社)によって各希釈液の吸光度(260 nm)を測定し、各RNA配列のモル吸光係数から各RNAオリゴヌクレオチド濃度を決定した (各RNA配列のモル吸光係数はIntegrated DNA Technologies社のWebベースのプログラムを利用して算出した)。
【0051】
(1−3)酵素ライゲーション反応によるプローブの合成
RNAオリゴヌクレオチド(配列番号6)とRNAオリゴヌクレオチド(配列番号7)(各々の終濃度1 μM)をT4 RNA ligaseバッファー溶液 (終濃度50 mM Tris-HCl (pH 7.5), 10 mM MgCl
2, 10 mM DTT, 1 mM ATP、タカラバイオ社)に溶解したサンプルを90℃で5分間加熱後、室温まで徐冷した。この溶液に60% PEG6000を加え(終濃度15%)、続いてT4 RNA ligase (タカラバイオ、終濃度0.2 unit/μL)を加えて混合した後、室温で16時間静置した。反応液に同体積のTE飽和フェノール溶液(ナカライテスク株式会社)を加えて遠心分離後、上層を別のチューブに分取した。この溶液にクロロホルムを加えてボルテックス・ミキサーにより混合、遠心分離後、上層を回収してアルコール沈殿 (0.3M 酢酸ナトリウム水溶液 (pH 5.2)/70%エタノール)によってRNAのペレットを得た。このRNAを6%変性ポリアクリルアミドゲルを用いたゲル電気泳動で分離した。目的バンドを切り出し、ゲル抽出を行うことでPrimary-miR-199aプローブを得た(精製操作は上記RNAオリゴヌクレオチドの精製時と同様)。
【0052】
(2)Primary-miRNAプロセシングアッセイ
HEK293T細胞(Invitrogen社)を15cmディッシュに70〜80%コンフルエントな状態で5枚準備した。OPTI-MEM(Invitrogen)3ml(15cmディッシュ1枚当たりの分量)にPEI(Polyethylenimine; polyscience)1mg/mlを60μl、プラスミドDNAを15μg(CSII-FLAG-Drosha 15μg)順に加え、15〜20分インキュベートした後、細胞を培養しているディッシュへ加えた。翌日、培地を交換し、培養を継続した。1日後、細胞を氷冷PBSで一回洗浄し、氷冷Lysis buffer(0.5% NP40, 150mM NaCl, 10mM Tris-HCl[pH7.4])をディッシュに加えた。細胞抽出液を回収し、10分以上氷上でインキュベートした。その後、細胞抽出液に超音波処理(10秒)を3回氷上で行った。15,000rpm、4℃で15分遠心後、可溶性画分を回収し、抗FLAG抗体結合(conjugated)ビーズを加え、4℃で2〜3時間振盪し反応させた。4,000rpm、4℃で5分遠心し、上清を除去した。Lysis bufferを加え、転倒混和した後、遠心処理した。この操作を繰り返し、4回ビーズを洗浄した。Processing buffer(20mM Tris-HCl[pH7.9], 0.1M KCl, 10% Glycerol, 5mM dithiothreitol[DTT], 0.2mM PMSF)を加え、同様に洗浄を1回行った。上清を除去し、Processing reaction solution (最終的に30μlになるように、Processing buffer 23μlにEnergy solution[64mM MgCl
2, 10mM ATP, 200mM Creatine phosphate]を3 μl、RNase inhibitorを1.5μl、Creatine kinase 30μg/mlを0.5μl、Primary-miR-199aプローブ 10pmolを添加)を30μlビーズに加え、37℃でプロセシングアッセイを行った。45分後と90分後にTE-saturated phenol 100μlとWQ water 100μを加え、激しく混和することで反応を終了させた。14,000rpm、4℃で5分遠心し、上清の水層を回収した。回収した水層からRNAを精製した後、電気泳動(dPAGE)を行い、蛍光を検出した。
【0053】
1−2.結果・考察
Drosha単独発現でも、微弱ながら切断断片の経時的増加が確認できた(
図1)。Drosha複合体によるプロセシング活性が検出できたが、非常に低い活性レベルであり、評価系に使用することは困難である。
【0054】
2.蛍光標識miRNAプローブによるプロセシング活性の評価(2)
2−1.方法
1−1.の方法で調製したPrimary-miR-199aプローブを用い、DroshaとDGCR8を共発現させた場合のプロセシング活性を評価した。プロセシングアッセイ及び蛍光の検出は上記実験(1−1.)に準じた。但し、DroshaとDGCR8を共発現させるため、HEK293T細胞のトランスフェクションにプラスミドDNA 30μg(CSII-FLAG-Drosha 15μg、GFP-DGCR8 15μg)を用いた。また、プロセシングアッセイの反応時間は30分間と90分間とした。
【0055】
2−2.結果・考察
miRNAプロセシング効率が大幅に向上し、光度計を用いた蛍光評価も可能であった(
図2)。DroshaとDGCR8の複合体を用いるとプロセシング効率が格段に向上し、実用性に優れた検出系になることが示された。本実験系を用いることにより、薬剤スクリーニング系や診断法への応用が可能となる。
【0056】
3.蛍光標識miRNAプローブによるプロセシング活性の評価(3)
3−1.方法
DroshaとDGCR8の複合体を用いた検出系の一般性/汎用性を検証するため、別のプローブ「Primary-miR-214プローブ」でプロセシング活性を評価した。Primary-miR-214プローブは、樹上突起の形成を促進し、神経機能に関与するmiR-214(Irie K., Tsujimura K. et al, J Biol Chem. 2016 Jun 24;291(26):13891-904)に対応する。Primary-miR-214プローブはmiR-214の前駆体(pre-miR-214)(配列番号10)の両端にpri- miR-214由来の配列が付加された160merの配列(配列番号11)からなる。その3'末端をフルオレセイン又はSYBR GreenIIで標識した。Primary-miR-214プローブの調整方法は1−1.(1)と同様である。また、プロセシングアッセイ及び蛍光の検出は上記実験(2−1.)に準じた。但し、プロセシングアッセイの反応時間は30分間と60分間とした。
【0057】
3−2.結果・考察
蛍光によってPrimary-miR-214プローブの切断を高感度に検出できた(
図3左、中央)。本手法がprimary-miRNAのプロセシング活性の検出に広く適用できること、即ち、本手法の一般性/汎用性が確認された。この結果より本手法がprimary-miRNA全般に適用可能であることが示唆された。また、キットとして販売することで多くの研究者がprimary-miRNAのプロセシングを評価することが可能となり、miRNAが関連する基礎生物学や医学の進歩に寄与することが期待できる。尚、本条件においてはフルオレセインに代えてSYBR GreenIIでプローブを蛍光標識した場合も、ある程度の感度でプロセシング活性が検出された(
図3右)。
【0058】
4.MeCP2複合体のプロセシング活性の評価
4−1.方法
本手法の有用性を更に検証するとともにその応用を図るべく、MeCP2複合体のプロセシング活性を評価した。プローブにはフルオレセイン標識のPrimary-miR-199aプローブとSYBR GreenII標識のPrimary-miR-199aプローブを用いた。プロセシングアッセイ及び蛍光の検出は上記実験(2−1.)に準じた。但し、MeCP2複合体を発現させるため、HEK293細胞にはDroshaおよびDGCR8に加え、MeCP2とDDX5を共発現する条件とした。また、プロセシングアッセイの反応時間は30分間と60分間とした。
【0059】
4−2.結果・考察
蛍光によってMeCP2免疫沈降物のmiRNAプロセシング活性を高感度に検出でき、MeCP2のprimary-miRNAプロセシング促進作用の再現に成功した(
図4左、中央)。この結果により、相互作用分子のプロセシング活性を本手法により評価できることが明らかとなった。すなわち、MeCP2,p53やSmad等の相互作用分子の機能異常が起因する疾患の診断や治療薬開発に応用することが可能ということを示唆している。尚、フルオレセインに代えてSYBR GreenIIでプローブを蛍光標識した場合も、ある程度の感度でプロセシング活性が検出された(
図4右)。