特許第6869653号(P6869653)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 花王株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6869653-吸収性物品 図000003
  • 特許6869653-吸収性物品 図000004
  • 特許6869653-吸収性物品 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6869653
(24)【登録日】2021年4月16日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】吸収性物品
(51)【国際特許分類】
   A61F 13/53 20060101AFI20210426BHJP
   A61F 13/15 20060101ALI20210426BHJP
   A61F 13/514 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   A61F13/53 300
   A61F13/15 140
   A61F13/53 100
   A61F13/514 210
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-131417(P2016-131417)
(22)【出願日】2016年7月1日
(65)【公開番号】特開2018-546(P2018-546A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2019年6月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河北 典子
【審査官】 ▲高▼辻 将人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−233812(JP,A)
【文献】 特開2004−089322(JP,A)
【文献】 特開2015−104646(JP,A)
【文献】 特開2003−144085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F13/15−13/84
A61L15/16−15/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肌対向面を形成する液透過性の表面層、非肌対向面を形成する液不透過性の防漏層、及び両層間に介在され、着用者の排泄液を吸収する吸収層を具備する吸収性物品であって、
前記吸収層は、吸収性材料を含有する吸収性コアと、該吸収性コアの肌対向面を被覆するコアラップシートとを含んで構成され、且つ蒸気透過抑制剤を含有し、
前記蒸気透過抑制剤は、油分、乳化剤及びゲル化剤を含有し、且つ前記吸収性コアの肌対向面と前記コアラップシートとの間における、着用者の股間部に対向配置される部分に存している吸収性物品。
【請求項2】
前記乳化剤は、HLBが8以上13以下のO/W型エマルションである請求項1に記載の吸収性物品。
【請求項3】
前記ゲル化剤は、雰囲気温度40℃以下において水に溶ける性質を有する請求項1又は2に記載の吸収性物品。
【請求項4】
前記蒸気透過抑制剤は、該蒸気透過抑制剤中の前記油分に対して、前記乳化剤を0.5質量%以上10質量%以下、前記ゲル化剤を5質量%以上20質量%以下含有する請求項1〜3の何れか1項に記載の吸収性物品。
【請求項5】
前記蒸気透過抑制剤の含有量は、前記吸収性物品の質量に対して1質量%以上20質量%以下である請求項1〜4の何れか1項に記載の吸収性物品。
【請求項6】
前記防漏層は透湿性を有する請求項1〜5の何れか1項に記載の吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理用ナプキン、パンティライナ(おりものシート)、使い捨ておむつ等の吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
生理用ナプキン等の吸収性物品においては、吸収層に吸収された経血等の排泄液が、体温によって肌対向面側から蒸発して水蒸気として着用者の肌側に排出され、その排泄液の蒸散の結果、着用中の吸収性物品の内部空間(着用者の肌と吸収性物品の肌対向面との間)がムレた状態となり、それによって、かゆみ、カブレ等の肌トラブルが生じるおそれがある。そこで、肌トラブルの軽減、防止を目的とした吸収性物品が種々提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、吸収性物品の肌対向面を形成する表面層の非肌対向面側に配された部材、例えば、表面層に接する直下のトランスファーシート、あるいは吸収層を包んでいるキャリアシート等に、ローションを塗工することが記載されており、また、ローション成分としてグリセリン等の多糖類を配合することも記載されている。特許文献1によれば、ローション加工を、吸収性物品の表面材やギャザーシート等の、着用者の肌に直接接触する面には施さずに、着用者の肌に直接接触しない面に施したことにより、着用時からローションが肌に付着せずに、液排泄時に滲み出してきたローションがカブレを軽減するとされている。
【0004】
また特許文献2には、吸収性物品の脚部カフスの表面等、着用者の肌と直接接触する部位に、通常の接触、着用者の動き、体温により着用者の皮膚に移行可能なローションコーティングを施すことが記載されており、また、このローションコーティングに用いるローション組成物が、エモリエント及び該エモリエントのための固定化剤(グリセリンモノエステル等)を含むことも記載されている。
【0005】
また特許文献3には、着用中における排泄液の蒸散を抑制し、ムレや肌トラブルを効果的に防止し得る吸収性物品として、表面層と吸収層との間にグリセリンを含む中間層が配された構成を有するものが記載されている。この中間層の具体例は、不織布にグリセリンを塗布した繊維シートであり、該繊維シートは、着用時に着用者の排泄部(膣口等)に対向配置される領域において、表面層と吸収層を構成するコアラップシートとの間に配される。特許文献3によれば、着用者から排泄された排泄液が中間層にてグリセリンと混ざり合うことによって、排泄液の肌側への蒸散が抑制されると共に、排泄液の吸収が促進され、さらに表面層側への液戻りが抑制されるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−89322号公報
【特許文献2】特開2001−314440号公報
【特許文献3】特開2015−104646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び2記載技術は、吸収性物品着用中のムレに起因する肌トラブルを軽減するために、吸収性物品の着用中にローション成分が着用者の肌に移行するように構成するというものであり、特許文献3記載技術のような、肌トラブルの原因となるムレや排泄液の蒸散を抑制する技術ではない。特許文献3記載技術は、吸収性物品着用中のムレや排泄液の蒸散の抑制に一定の効果はあるものの、改善の余地はある。また、この種の吸収性物品においては、吸収層に吸収された排泄物に起因する不快臭、特に経血や膣排泄物に起因する不快臭が、着用中においては着用者の周辺に拡散し、使用済みの吸収性物品を廃棄した後においてはその廃棄場所の周辺に拡散するという課題があるが、特許文献1〜3には斯かる課題を解決し得る手段は記載されていない。
【0008】
従って本発明の課題は、着用中において排泄液の蒸散を抑制し、ムレや肌トラブルを効果的に防止し得る吸収性物品を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、肌対向面を形成する液透過性の表面層、非肌対向面を形成する液不透過性の防漏層、及び両層間に介在され、着用者の排泄液を吸収する吸収層を具備する吸収性物品であって、前記吸収層は蒸気透過抑制剤を含有し、前記蒸気透過抑制剤は、油分、乳化剤及びゲル化剤を含有する吸収性物品である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、着用中において排泄液の蒸散を抑制し、ムレや肌トラブルを効果的に防止し得る吸収性物品が提供される。この排泄液の蒸散を抑制する機能を有する前記蒸気透過抑制剤は、表面層よりも着用者の肌から遠い位置に配される吸収層中に含有されているため、該蒸気透過抑制剤が着用者の肌と接触する不都合が発生し難い。また、本発明の吸収性物品によれば、前記蒸気透過抑制剤の作用により、吸収層に吸収された排泄物由来の不快臭が表面層側から外部に拡散する不都合の防止効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の吸収性物品の一実施形態である生理用ナプキンの肌対向面側(表面層側)を一部破断して示す平面図である。
図2図2は、図1のI−I線断面を模式的に示す断面図である。
図3図3は、図1に示す生理用ナプキンにおける蒸気透過抑制剤の作用効果の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の吸収性物品を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照して説明する。図1及び図2には、本発明の吸収性物品の一実施形態である生理用ナプキンが示されている。本実施形態のナプキン1は、肌対向面を形成する液透過性の表面層としての表面シート2、非肌対向面を形成する液不透過性の防漏層としての裏面シート3、及び両層2,3間に介在され、着用者が排泄した経血等の排泄液を吸収する吸収層としての吸収体4を具備する。
【0013】
本明細書において、肌対向面は、吸収性物品又はその構成部材(例えば吸収体4)における、吸収性物品の着用時に着用者の肌側に向けられる面、即ち相対的に着用者の肌に近い側であり、「非肌対向面」は、吸収性物品又はその構成部材における、吸収性物品の着用時に肌側とは反対側、即ち相対的に着用者の肌から遠い側に向けられる面である。尚、ここでいう「着用時」は、通常の適正な着用位置、即ち当該吸収性物品の正しい着用位置が維持された状態を意味し、吸収性物品が該着用位置からずれた状態にある場合は含まない。
【0014】
ナプキン1は、表面シート2、裏面シート3及び吸収体4を具備する吸収性本体5を備えている。ナプキン1又は吸収性本体5は、図1に示すように、着用者の腹側から股間部を介して背側に延びる縦方向Xとこれに直交する横方向Yとを有する。縦方向Xは、ナプキン1又は吸収性本体5の長手方向に一致し、横方向Yは、ナプキン1又は吸収性本体5の幅方向に一致する。表面シート2及び裏面シート3は、それぞれ、吸収体4よりも大きな寸法を有し、吸収体4の周縁から外方に延出し、それらの延出部において、接着剤、ヒートシール、超音波シール等の公知の接合手段によって互いに接合されて周縁シール部6を形成している。表面シート2及び裏面シート3と吸収体4との間は接着剤によって接合されていても良い。
【0015】
ナプキン1又は吸収性本体5は、着用時に着用者の股間部に配される股下部1Mと、該股下部1Mよりも着用者の腹側即ち前側に配される前方部1Fと、該股下部1Mよりも着用者の背側即ち後側に配される後方部1Rとを縦方向Xに有する。股下部1Mは、ナプキン1の着用時に着用者の股間部における排泄部(膣口等)に対向配置される排泄部対向部を有し、排泄部対向部は通常、股下部1Mにおける横方向Yの中央部に位置する。
【0016】
吸収体4は、吸収性材料を含有する吸収性コア40と、該吸収性コア40の外面即ち肌対向面及び非肌対向面を被覆するコアラップシート41とを含んで構成されている。吸収性コア40は単層構造であり、図1に示す如き平面視において縦方向Xに長い略矩形形状をなし、前方部1Fから後方部1Rに亘って延在している。コアラップシート41は、吸収性コア40の横方向Yの長さの2倍以上3倍以下の幅を有する1枚の連続した液透過性シートであり、図2に示すように、吸収性コア40の肌対向面の全域を被覆し、且つ吸収性コア40の縦方向Xに沿う両側縁から横方向Yの外方に延出し、その延出部が、吸収性コア40の下方に巻き下げられて、吸収性コア40の非肌対向面の全域を被覆している。尚、コアラップシートはこのような1枚のシートでなくても良く、例えば、吸収性コア40の肌対向面を被覆する1枚の肌側コアラップシートと、該肌側コアラップシートとは別体で、吸収性コア40の非肌対向面を被覆する1枚の非肌側コアラップシートとを含んで構成されていても良い。吸収性コア40とコアラップシート41との間は、ホットメルト型接着剤等の公知の接合手段により接合されていても良い。吸収性コア40としては、この種の吸収性物品に通常用いられるものであれば特に制限なく用いることができ、例えば、木材パルプ、親水化処理された合繊繊維等の繊維集合体、又は該繊維集合体に粒子状の吸水性ポリマーを保持させたもの等を用いることができる。コアラップシート41としては、例えば、紙、各種不織布、開孔フィルム等の液透過性シートを用いることができる。
【0017】
表面シート2及び裏面シート3は、吸収体4の縦方向Xに沿う両側縁それぞれから横方向Yの外方に延出してサイドフラップ部を形成し、該サイドフラップ部は、股下部1Mにおいて周辺部(前方部1F及び後方部1R)よりも横方向Yの外方に張り出し、これにより吸収性本体5の股下部1Mにおける縦方向Xに沿う左右両側に、一対のウイング部7,7が延設されている。ウイング部7は、ナプキン1をショーツ等の着衣のクロッチ部に固定する際に、着衣の非肌対向面側に折り返されて使用される。
【0018】
吸収性本体5の非肌対向面即ち裏面シート3の非肌対向面には、図2に示すように、ナプキン1をショーツ等の着衣に固定する本体粘着部8が設けられている。また、ウイング部7の非肌対向面即ち裏面シート3の非肌対向面には、ウイング部7をショーツ等の着衣に固定するウイング部粘着部9が設けられている。両粘着部8,9は、不使用時には剥離シート(図示せず)によって被覆されている。
【0019】
本発明の吸収性物品の主たる特徴の1つとして、吸収層が蒸気透過抑制剤を含有している点が挙げられる。この蒸気透過抑制剤は、経血、尿等の排泄液との接触により該排泄液由来の蒸気の表面層側への透過を抑制する機能(排泄液蒸散抑制機能)を発現する剤であり、油分、乳化剤及びゲル化剤を含有する。本実施形態のナプキン1においては図2に示すように、符号10で示す蒸気透過抑制剤は、吸収性コア40の肌対向面(表面シート2側の面)とコアラップシート41との間に存している。
【0020】
本発明に係る蒸気透過抑制剤は、典型的には、排泄液との接触前は常温常圧下において粉末状であり、この状態では排泄液蒸散抑制機能を有していないが、経血、尿等の排泄液と接触すると該排泄液中に溶解又は分散して排泄液蒸散抑制機能を発現し、該排泄液中の水分が蒸発して表面層側さらには着用者の肌側へ透過する不都合を抑制し得る。例えばナプキン1の着用中において、経血等の排泄液が着用者の排泄部から股下部1Mの前記排泄部対向部即ち股下部1Mの横方向Yの中央部に向けて排泄されると、その排泄液は、ナプキン1の横方向Yの中央部において表面シート2、コアラップシート41を厚み方向に順次透過して吸収性コア40の肌対向面に到達し、該肌対向面上における横方向Yの中央部に存する蒸気透過抑制剤10と接触しつつ、吸収性コア40内に吸収される。図3には、こうして吸収性コア40の横方向Yの中央部に排泄液が吸収された状態が模式的に示されているところ、この吸収性コア40における排泄液吸収部45の肌対向面上には、粉末状の蒸気透過抑制剤10が該排泄液中に溶解又は分散してなる液状物11が生成され、この液状物11が排泄液由来の蒸気の表面シート2側への透過を抑制する結果として、ナプキン1の着用中のムレが抑制され、ムレに起因する肌トラブル(かゆみ、カブレ等)が効果的に防止され、また、表面シート2などの着用者の肌と接触する部材のドライ感が維持され、さらには、吸収体4に吸収された経血等の排泄液に起因する不快臭が表面シート2側に拡散する不都合も効果的に防止される。液状物11による排泄液の蒸散抑制メカニズムは定かではないが、液状物11は排泄液上に油膜が形成された層構成を有し、この油膜が、排泄液の蒸散を物理的に阻止する非透湿性バリアの役割を果たすためと推察される。尚、図3中の矢印は、排泄液由来の蒸気の透過を示し、該矢印に記号×が重ねて付された部分、即ち液状物11の存在部分は、該蒸気の透過が妨げられている、即ち蒸気の透過が完全に遮断されているか、又は液状物11の生成前に比して蒸気透過性が低下していることを示している。
【0021】
本実施形態においては、防漏層としての裏面シート3は透湿性を有している。このため、吸収体4に吸収された排泄液由来の蒸気は、図3中矢印で示したように、裏面シート3を厚み方向に透過してナプキン1の外部へ排出されるので、液状物11によって該蒸気の表面シート2側への透過が抑制されていても、ナプキン1の内部に湿気が溜まった状態になり難く、ナプキン1の着用中のムレやそれに起因する肌トラブルがより一層効果的に防止される。
【0022】
ここで「透湿性」とは、JIS Z0208やASTM E398に開示された概念の如く、気流移動を伴わず、熱力学の第二法則に従って、高湿度側から低湿度側に水蒸気拡散する性質であり、極微小の開孔を有する多孔フィルムや、水と相溶性の高い無孔フィルムで発現する性質である。透湿性を有する裏面シート3(防漏層)としては、例えば、透湿性フィルム単独、又は透湿性フィルムと不織布との積層体、撥水性不織布等を用いることができる。ナプキン1の内部に溜まった湿気(着装内湿度)を速やかに取り除く観点から、裏面シート3は、透湿性に加えてさらに、通気性を有することが好ましい。ここで「通気性」とは、文字通り通気する性質であり、典型的には各種布地のように気流が通る性質である。裏面シート3の坪量は、好ましくは18g/m2以上、さらに好ましくは35g/m2以上、そして、好ましくは100g/m2以下、さらに好ましくは80g/m2以下である。
【0023】
ところで、吸収体4において排泄液と蒸気透過抑制剤10との混合物たる液状物11が生成される部位は、粉末状の蒸気透過抑制剤10の存在部位であって且つ排泄液が付与された部位であり、蒸気透過抑制剤10が存していてもその蒸気透過抑制剤10が排泄液と接触せずに粉末状の形態を維持している部分、図3に示すナプキン1においては股下部1Mの横方向Yの両側部(中央部以外の部分)では、液状物11は生成されず、従って排泄液の蒸散を抑制し得る油膜は形成されない。つまり、排泄液の蒸散を抑制し得る油膜を有する液状物11は、吸収体4における排泄液吸収部45のみに選択的に生成され、排泄液が実質的に存在せず排泄液の蒸散が問題とならない部位には生成されない。このように液状物11が必要な部位にピンポイントで生成されることで、吸収体4の肌対向面側における透湿性ないし通気性を不必要に低下させずに必要十分な範囲で限定的に低下させることが可能となるため、ナプキン1の着用中のムレやそれに起因する肌トラブルがより一層効果的に防止される。
【0024】
本発明の吸収性物品において、蒸気透過抑制剤は吸収層に含有されていれば良く、図2に示す蒸気透過抑制剤10のように、吸収性コア40の肌対向面とコアラップシート41との間に含有されていなくても良く、例えば、吸収性コア40内に含有されていても良く、あるいは吸収性コア40の非肌対向面(裏面シート3側の面)とコアラップシート41との間に含有されていても良い。後者の形態であっても、吸収性コア40の非肌対向面位置にて排泄液が蒸気透過抑制剤10に接触して液状物11が生成されれば、その油膜形成成分は、排泄液の大部分を占める水分よりも比重が軽いため、着用者の肌側へ自然に移行して、排泄液の蒸散を抑制し得る油膜を形成し得る。また、本実施形態を含めて前記の何れの形態においても、表面シート2と蒸気透過抑制剤10との間にコアラップシート41が介在しているため、蒸気透過抑制剤10が表面シート2側に移行しさらには着用者の肌側に飛び出す不都合が生じ難いという利点がある。
【0025】
また蒸気透過抑制剤10は、その期待される効果に鑑みれば、少なくとも吸収体4における、着用者の股間部に対向配置される股下部1M(前記排泄部対向部)に含有されていることが好ましく、吸収体4の平面視における全体に均一に含有されていることがより好ましい。吸収体4における蒸気透過抑制剤10の単位面積当たりの含有量即ち坪量は、好ましくは8g/m2以上、さらに好ましくは40g/m2以上、そして、好ましくは160g/m2以下、さらに好ましくは120g/m2以下である。
【0026】
本発明の吸収性物品において、蒸気透過抑制剤の含有量は、該吸収性物品の質量に対して、好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上、そして、好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下である。蒸気透過抑制剤の含有量が少なすぎるとこれを使用する意義に乏しく、蒸気透過抑制剤の含有量が多すぎると、通液性の悪化のおそれがある。
【0027】
本実施形態においては、図2に示すように、表面層としての表面シート2の肌対向面側が凹凸形状をなしている。本発明には、表面シート2の肌対向面側が凹凸形状をなしていない平坦面である形態も含まれるが、肌対向面側が凹凸形状をなしている表面シート2自体に排泄液の蒸散抑制効果があるため、前述した蒸気透過抑制剤10による排泄液の蒸散抑制効果と相俟って、ナプキン1の着用中のムレがより一層効果的に抑制され、これに起因する肌トラブルがより一層効果的に防止されることが期待できる。また、表面シート2の肌対向面側が凹凸形状をなしていることによって、表面シート2の肌対向面側が平坦面である場合に比して、ナプキン1の着用者の肌と表面シート2との接触面積が低減するので、表面シート2の肌対向面のドライ感が向上する。また、表面シート2の凹凸形状を構成する各凸部の内部が構成繊維で満たされていると、該凸部が中空である場合に比して、前述した表面シート2自体による排泄液の蒸散抑制効果がより確実に奏されるようになるため、好ましい。
【0028】
表面シート2の凹凸形状は、熱エンボス加工、超音波エンボス加工等のエンボス加工によって形成することができ、そうして形成された凹凸形状を構成する各凹部即ちエンボス加工が施された部分においては、表面シート2の構成繊維が熱及び/又は圧力によって結合しており、エンボス加工が施されていない各凸部に比して高密度である。つまり、肌対向面側が凹凸形状をなしている表面シート2は、相対的に繊維密度が高い凹部と相対的に繊維密度が低い凸部とからなる繊維の粗密構造を有しているところ、斯かる繊維の粗密構造自体に排泄液の蒸散抑制効果があるため、前述した蒸気透過抑制剤10による排泄液の蒸散抑制効果と相俟って、ナプキン1の着用中のムレがより一層効果的に抑制され、これに起因する肌トラブルがより一層効果的に防止されることが期待できる。
【0029】
表面シート2(表面層)としては、この種の吸収性物品において従来用いられている液透過性の表面シートを用いることができ、例えば、カード法により製造された不織布、エアスルー不織布、スパンボンド不織布、メルトブローン不織布、スパンレース不織布及びニードルパンチ不織布等の種々の不織布;開口手段によって液透過可能とされたフィルム等が挙げられる。これらの不織布やフィルムには、界面活性剤等の親水化剤を用いた親水化処理が施されていても良い。表面シート2の坪量は、好ましくは20g/m2以上、さらに好ましくは35g/m2以上、そして、好ましくは100g/m2以下、さらに好ましくは80g/m2以下である。
【0030】
以下、本発明に係る蒸気透過抑制剤について説明する。本発明に係る蒸気透過抑制剤は、前述した通り、経血、尿等の排泄液中に溶解又は分散して該排泄液上に油膜を形成する油膜形成剤とも言えるもので、油分、乳化剤及びゲル化剤を含有し、典型的には、常温常圧下において粉末状である。本発明に係る蒸気透過抑制剤としては、常温常圧下において粉末状のものが、肌に付着し難くべたつき難いため好ましい。
【0031】
蒸気透過抑制剤に含まれる油分としては、例えば、なたね油、コーン油、綿実油、オリーブオイル、ごま油等の食用油;グリセリン等の多価アルコールが挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。蒸気透過抑制剤は、このような食用油や多価アルコールを主体とするものであり、人体に対する安全性が高いものである。
【0032】
蒸気透過抑制剤における油分の含有量は、蒸気透過抑制剤に対して、好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、そして、好ましくは95質量%以下、さらに好ましくは90質量%以下である。蒸気透過抑制剤において油分の含有量が少なすぎると、排泄液由来の蒸気の表面シート側への透過抑制効果が低下するおそれがあり、逆に油分の含有量が多すぎると、相対的に乳化剤及びゲル化剤の含有量が少なくなって好ましくない。
【0033】
蒸気透過抑制剤に含まれる乳化剤としては、HLB(親水性−親油性バランス)が8以上13以下のO/W型エマルションが好ましい。この特定のO/W型エマルションを乳化剤として用いることで、常温常圧下において粉末状の蒸気透過抑制剤が得られやすくなる。この特定のO/W型エマルションの乳化剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、大豆リン脂質等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
蒸気透過抑制剤における乳化剤の含有量は、蒸気透過抑制剤に対して、好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上、そして、好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。蒸気透過抑制剤において乳化剤の含有量が多すぎても少なすぎても、常温常圧下において粉末状の蒸気透過抑制剤が得られにくくなるおそれがある。
また同様の観点から、蒸気透過抑制剤における乳化剤の含有量は、蒸気透過抑制剤中の油分に対して、好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上、そして、好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。
【0035】
蒸気透過抑制剤に含まれるゲル化剤としては、雰囲気温度40℃以下において水に溶ける性質を有するものが好ましい。ここでいう、「雰囲気温度40℃以下において水に溶ける性質」とは、40℃の水に対する溶解度が0.5g以上あることを意味し、斯かる溶解度が1g以上であると、ムレ等をより一層防止し得るため好ましい。この雰囲気温度40℃というのは、着用中の吸収性物品の内部空間(着用者の肌と吸収性物品の肌対向面との間)の雰囲気温度あるいは着用者の体温に近い温度であるところ、ゲル化剤がこのような体温程度の雰囲気において水に対する溶解性を示すことで、吸収性物品の着用時に経血、尿等の排泄液と接触したときに速やかに排泄液中に溶解又は分散し得るようになる。斯かる性質を有するゲル化剤としては、例えば、寒天、ゼラチン、カラギーナン、ペクチン等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
蒸気透過抑制剤におけるゲル化剤の含有量は、蒸気透過抑制剤に対して、好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは7質量%以上、そして、好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは15量%以下である。蒸気透過抑制剤においてゲル化剤の含有量が多すぎても少なすぎても、常温常圧下において粉末状の蒸気透過抑制剤が得られにくくなるおそれがある。
また同様の観点から、蒸気透過抑制剤におけるゲル化剤の含有量は、蒸気透過抑制剤中の油分に対して、好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは7質量%以上、そして、好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下である。
【0037】
常温常圧下において粉末状の蒸気透過抑制剤は、油分、乳化剤及びゲル化剤の液状混合物を乾燥して固体粉末状にすることで得られる。より具体的には、例えば、水とゲル化剤とを混合し、その混合物の温度が80℃程度になる条件でこれを加熱しつつ攪拌し、水とゲル化剤との混合物におけるゲル化剤の濃度は、通常1〜5質量%程度である。その攪拌中の混合物に乳化剤と油分とをこの順で添加し、さらに攪拌して、水を連続相とする水中油滴(O/W)型の液状混合物を得る。そしてこの液状混合物を、凍結乾燥、噴霧乾燥等の公知の乾燥方法に付し、必要に応じ乾燥後の固形物を粉砕処理することで、目的とする粉末状の蒸気透過抑制剤(油膜形成剤)が得られる。水とゲル化剤との混合物におけるゲル化剤に対して、該混合物中の油分の濃度は約10質量%程度、該混合物中の乳化剤の濃度は0.2質量%程度である。こうして得られた粉末状の蒸気透過抑制剤における各粉末粒子には、内側から順に、油分、乳化剤、ゲル化剤が存在している。
【0038】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えばナプキン1において、表面シート2と吸収体4(コアラップシート41)との間に、セカンドシートあるいはサブレイヤーシートなどとも呼ばれる液透過性シートが介在されていても良い。また本発明の吸収性物品には、生理用ナプキンの他、パンティライナ(おりものシート)、失禁パッド、使い捨ておむつ等、経血や尿等の排泄液の吸収用途に使用可能な物品が含まれる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は斯かる実施例に限定されるものではない。
【0040】
(蒸気透過抑制剤Aの製造)
イオン交換水89質量部と、ゲル化剤として寒天1質量部とを、ホモミキサーに投入・混合し、その混合物の温度が80℃になる条件でこれを加熱しつつ攪拌し、さらにその攪拌中の混合物に、乳化剤としてHLB9のグリセリン脂肪酸エステル(太陽化学株式会社製、商品名「サンソフトNo.641D」)0.2質量部と、油分としてなたね油10質量部とを、この順で添加した後、該混合物の温度80℃が維持されるように加熱しつつ回転数8000rpmで5分間攪拌した。こうして得られたO/W型の液状混合物を凍結乾燥し粉末状の蒸気透過抑制剤Aを製造した。
【0041】
(蒸気透過抑制剤Bの製造)
油分、乳化剤及びゲル化剤の使用量を変更すると共に、乳化剤としてHLB13のグリセリン脂肪酸エステル(太陽化学株式会社製、商品名「サンソフトA−181E」)を使用した以外は、前記(蒸気透過抑制剤Aの製造)と同様にして、蒸気透過抑制剤Bを製造した。
【0042】
〔試験例1〜2:蒸気透過抑制剤の評価試験〕
室温23℃、50%R.H.の環境下で、馬血の血漿10gが入ったシャーレに評価対象の蒸気透過抑制剤を1g投入し、その剤投入直後から1時間経過ごとにシャーレの総重量を測定し、剤投入前の総重量を基準として血漿の減少量を算出した。血漿は前記環境下で徐々に蒸散するところ、評価対象の蒸気透過抑制剤が蒸散抑制機能を有していれば血漿の蒸散が抑制されるので、血漿の減少量は少なくなる。対照例として、蒸気透過抑制剤が投入されずに馬血の血漿10gのみが入ったシャーレを用意し、その対照についても血漿の減少量を測定した。結果を下記表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
表1に示す通り、試験例1及び2は対照例に比して血漿の減少量が少ないことから、蒸気透過抑制剤A及びBが蒸散抑制機能(油膜形成能)を有していることが明らかである。従って、吸収性物品における吸収層にこのような蒸散抑制機能を有する蒸気透過抑制剤が含有されていることで、その吸収性物品の着用中において排泄液の蒸散が抑制され、ムレや肌トラブルが効果的に防止され得ることが理解できる。
【符号の説明】
【0045】
1 生理用ナプキン(吸収性物品)
2 表面シート(表面層)
3 裏面シート(防漏層)
4 吸収体(吸収層)
40 吸収性コア
41 コアラップシート
45 排泄液吸収部
5 吸収性本体
10 蒸気透過抑制剤
11 蒸気透過抑制剤の液状物
図1
図2
図3