【文献】
王杜 ほか,ポリトープシステムに関する動的機能と制御の研究(第1報,線形行列不等式によるポリトープ・オブザーバの,日本機械学会論文集(C編),社団法人日本機械学会,2008年 2月26日,67巻663号,p.3484−3490,URL,https://www.jstage.jst.go.jp/article/kikaic1979/67/663/67_663_3484/_article/-char/ja/
【文献】
八田羽謙一 ほか,ロバストオブザーバによる二次電池の充電率推定,自動制御連合講演会講演論文集,一般社団法人日本機械学会,2017年 2月 1日,p.554−559,URL,https://www.jstage.jst.go.jp/article/jacc/59/0/59_554/_article/-char/ja
【文献】
FENG Xuyun and SUN Zechang,A battery model including hysteresis for State-of-Charge estimation in Ni-MH battery,Vehicle Power and Propulsion Conference,IEEE,2008年11月18日,URL,http://ieeexplore.ieee.org/document/4677449
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の一実施形態に係る充電率推定装置は、電気自動車やハイブリッド電気自動車などの車両に搭載されてよい。充電率推定装置は、車両のバッテリの充電率を推定してよい。車両には、車両を駆動する電気モータ、バッテリ、これらのコントローラなどが搭載される。バッテリは、放電して電気モータへ電力を供給したり、制動時に電気モータから回生充電したり、地上充電設備から充電したりする。充電率推定装置は、バッテリに流れる充放電電流とバッテリの端子電圧とに基づいて、バッテリの充電率を推定してよい。
【0012】
[機能ブロック]
図1に示されるように、充電率推定装置1は、電流センサ2及び電圧センサ3を介してバッテリ4に接続される。充電率推定装置1は、電流センサ2又は電圧センサ3を含んでよい。充電率推定装置1は、電源装置5に接続されてよい。充電率推定装置1は、電源装置5からバッテリ4に対して充放電電流を入力してよい。電源装置5は、例えば電流源であってよい。充電率推定装置1は、電源装置5を含んでよい。
【0013】
電流センサ2は、バッテリ4に対する充放電電流を検出する。本実施形態において、充放電電流は、時刻(t)の関数であるu(t)で表されると仮定する。電流センサ2は、検出した充放電電流を充電率推定装置1に対して出力する。
【0014】
電圧センサ3は、バッテリ4の端子電圧を検出する。本実施形態において、端子電圧は、時刻(t)の関数であるy(t)で表されると仮定する。電圧センサ3は、検出した端子電圧を充電率推定装置1に対して出力する。
【0015】
バッテリ4は、例えば二次電池であってよい。二次電池は、リチャージャブル・バッテリともいう。バッテリ4は、本実施形態においてリチウム・イオン・バッテリであると仮定する。バッテリ4は、他の種類のバッテリであってよい。
【0016】
充電率推定装置1は、制御部10と、記憶部20とを備える。制御部10は、充電率推定装置1の各構成部を制御する。制御部10は、例えばプロセッサ又はマイクロコンピュータ等で構成されてよい。記憶部20は、例えば半導体メモリ又は磁気記憶装置等で構成されてよい。制御部10は、充電率推定装置1で取り扱われるデータ又は情報等を記憶部20に格納してよい。
【0017】
制御部10は、電流センサ2及び電圧センサ3から、バッテリ4の充放電電流及び端子電圧をそれぞれ取得する。制御部10は、バッテリ4の充放電電流及び端子電圧に基づいて、バッテリ4の内部状態を推定してよい。
【0018】
バッテリ4の内部状態は、バッテリ4の開回路電圧と、バッテリ4の内部で発生する過電圧とをパラメータとして含むモデルによって表されうる。開回路電圧は、OCV(Open Circuit Voltage)ともいう。OCVは、バッテリ4の電気化学的平衡状態における電極間の電位差である。OCVは、バッテリ4に充放電電流が流れない場合のバッテリ4の端子電圧に対応する。過電圧は、内部インピーダンスで生じる電圧降下の大きさに対応する。内部インピーダンスは、バッテリ4の内部の電気化学反応の反応速度に応じて決定される。
【0019】
バッテリ4の内部状態を表すモデルは、
図2で示されるようなバッテリ等価回路で近似されうる。バッテリ等価回路で近似されたモデルは、バッテリモデルともいう。バッテリ等価回路の入力は、バッテリ4に流れる充放電電流に対応し、u(t)として示される。
図2においてu(t)が付された矢印は、バッテリ4を充電する電流の向きを表す。バッテリ4を充電する電流が流れる場合、u(t)は正の値となると仮定する。バッテリ4から放電電流が流れる場合、u(t)は負の値となると仮定する。バッテリ等価回路の出力は、バッテリ4の端子電圧に対応し、y(t)として示される。
図2においてy(t)が付された矢印の先端側の端子は、バッテリ4の正極端子に対応すると仮定する。
【0020】
バッテリ4のOCVは、バッテリ等価回路において電圧源201で表される。電圧源201が出力する電圧は、時刻の関数であるOCV(t)で表される。OCV(t)は、バッテリ4に充放電電流が流れない場合のバッテリ4の端子電圧に対応する。バッテリ4に充放電電流が流れない場合は、u(t)=0である場合ともいえる。u(t)=0である場合、OCV(t)=y(t)が成立する。
【0021】
図2のバッテリ等価回路において、バッテリ4の内部インピーダンスは、R
0で示される抵抗と、Z
w(p)で示されるワールブルグインピーダンスとを直列に接続した回路として表される。R
0で示される抵抗は、バッテリ4の電解液内での泳動過程等に起因する抵抗を表す。ワールブルグインピーダンスは、バッテリ4内のイオンの拡散過程等に起因するインピーダンスを表す。バッテリ4の過電圧は、バッテリ等価回路に流れる電流によってバッテリ4の内部インピーダンスで発生する電圧降下として表される。
【0022】
ワールブルグインピーダンスは、例えば
図3(A)に示される、R
1〜R
nとして示される抵抗とC
1〜C
nとして示されるコンデンサとの並列回路が直列にn個接続されたn次フォスタ型回路として表されてよい。ワールブルグインピーダンスは、例えば
図3(B)に示される、直列に接続されたn個のコンデンサ(C
1〜C
n)の間に、R
1〜R
nとして示されるn個の抵抗のそれぞれが並列に接続されたn次カウエル型回路として表されてよい。ワールブルグインピーダンスは、他の線形伝達関数モデルを用いて表されてもよい。
【0023】
バッテリ4を近似するバッテリ等価回路のパラメータは、ワールブルグインピーダンスを構成する抵抗の抵抗値と、コンデンサの容量とを含む。バッテリ等価回路のパラメータは、予め設定されてよい。バッテリモデルのパラメータは、制御部10で保持されてよいし、記憶部20に格納されてよい。
【0024】
制御部10は、バッテリ等価回路のパラメータと、バッテリ4に流れる充放電電流と、バッテリ4の端子電圧とに基づいて、バッテリ4の内部状態を推定する。本実施形態において、制御部10は、バッテリ4の内部状態として、バッテリ4の充電率及び過電圧を推定する。バッテリ4の充電率は、バッテリ4の充電容量に対する充電量の比である。充電率は、SOC(State Of Charge)ともいう。制御部10は、バッテリ4の内部インピーダンスを構成する抵抗の抵抗値及びコンデンサの容量を推定しないと仮定する。制御部10は、内部インピーダンスに含まれる抵抗値及び容量を推定しない構成に限られない。制御部10は、内部インピーダンスに含まれる抵抗値及び容量を推定するように構成されてよい。
【0025】
制御部10は、バッテリ4のOCV及び過電圧を推定してよい。この場合、制御部10は、バッテリ4のOCVに基づいて、バッテリ4のSOCを推定しうる。
【0026】
バッテリ4のOCVは、SOCの関数として表されうる。SOCとOCVとの間の関係は、SOC−OCV特性といわれる。SOC−OCV特性は、例えば
図4に示されるグラフで表されうる。
図4の横軸及び縦軸はそれぞれ、SOC及びOCVを示す。SOC−OCV特性は、予め実験等によって求められうる。制御部10は、バッテリ4のSOC−OCV特性と、バッテリ4のSOCの推定値とに基づいて、バッテリ4のOCVを推定しうる。
【0027】
[ヒステリシス特性]
SOC−OCV特性は、ヒステリシス特性を有することがある。ヒステリシス特性を有するSOC−OCV特性は、充電時の特性と放電時の特性とが異なる。ヒステリシス特性を有するSOC−OCV特性は、例えば
図5のように示される。
図5の横軸及び縦軸はそれぞれ、SOC及びOCVを示す。
図5では、バッテリ4の充電時のSOC−OCV特性を示す充電SOC−OCV特性501は、破線で示される。バッテリ4の放電時のSOC−OCV特性を示す放電SOC−OCV特性502は、一点鎖線で示される。
【0028】
充電SOC−OCV特性501及び放電SOC−OCV特性502は、SOC−OCV特性のループを形成する。充電SOC−OCV特性501及び放電SOC−OCV特性502によって形成されるSOC−OCV特性のループは、メジャーループともいう。メジャーループは、バッテリ4に対する充放電の実験によって取得されうる。
【0029】
バッテリ4は、SOCが0%となるまで放電した後に充電されるとは限らない。例えば、バッテリ4は、
図5のA点まで放電した後に充電されることによって、A点からB点に至る経路で示されるSOC−OCV特性を示しうる。バッテリ4は、SOCが100%となるまで充電された後に放電するとは限らない。例えば、バッテリ4は、
図5のC点まで充電された後に放電することによって、C点からD点に至る経路で示されるSOC−OCV特性を示しうる。例えば、A点、B点、C点、D点及びA点の順に結ばれる経路で示される、メジャーループよりも小さいSOC−OCV特性のループは、マイナーループともいう。マイナーループは、メジャーループとは異なり、事実上無限に存在しうる。マイナーループは、メジャーループと比較して、事前の実験によって取得されにくい。
【0030】
図5において実線で示されるSOC−OCV特性500は、充電SOC−OCV特性501と放電SOC−OCV特性502との平均値に対応する。SOC−OCV特性500は、充電SOC−OCV特性501と放電SOC−OCV特性502との平均値に限られない。SOC−OCV特性500は、充電SOC−OCV特性501と放電SOC−OCV特性502との間に含まれるグラフであってよい。
【0031】
SOC−OCV特性500と、メジャーループとの間のOCVの差は、ヒステリシス電圧ともいう。ヒステリシス電圧は、h(t)と表されると仮定する。ヒステリシスを有するSOC−OCV特性は、事実上無限に存在しうるマイナーループで表される代わりに、ヒステリシス電圧を含む、次の式(1)で表されうる。
【数1】
f
OCV(・)は、SOC−OCV特性500を表す関数である。
【0032】
SOC−OCV特性が式(1)のように表されることで、制御部10がバッテリ4の内部状態を推定する際にh(t)をあわせて推定することによって、SOCとOCVとの間の変換の精度が高められうる。SOC−OCV特性が式(1)のように表される場合、バッテリ等価回路は、
図6のように表される。
図6のバッテリ等価回路は、ヒステリシス電圧を表すh(t)が追加された点、及び、電圧源201の出力電圧がf
OCV(SOC(t))と表される点で、
図2のバッテリ等価回路と異なる。
【0033】
本実施形態では、ワールブルグインピーダンスは、
図3(A)に示されるフォスタ型回路で表されると仮定する。この場合、バッテリ等価回路は、
図7のように表される。
図7のバッテリ等価回路は、Z
w(p)がフォスタ型回路に置き換えられた点で、
図6のバッテリ等価回路と異なる。v
k(t)は、C
kとして示される容量で生じる電圧降下を表す。kは、1〜nの整数である。
【0034】
ヒステリシス現象を表すモデルの一つであるPlettによるヒステリシスモデルによれば、h(t)の挙動は、次の式(2)によって表される。
【数2】
γは、ヒステリシスモデルの電圧降下の速さを表す。mは、ヒステリシス電圧の最大値を表す。Plettによるヒステリシスモデルについては、例えば、以下の文献が参照されうる。
G. L. Plett: “Extended Kalman filtering for battery management systems of LiPB-based HEV battery packs Part 2. Modeling and identification”, Journal of Power Sources 134 (2004) 262-276
【0035】
時刻(t)におけるバッテリ4のSOC(t)は、以下の式(3)によって算出されうる。t
0は、測定開始時刻を表す。式(3)の右辺第2項の積分は、充放電電流を積算して算出される、バッテリ4に出入りする電荷量を表す。
【数3】
【0036】
過電圧は、バッテリ4の内部インピーダンスと、バッテリ4の充放電電流とに基づいて、以下の式(4)のように表される。
【数4】
η(t)は、過電圧を表す。G
η(p)は、内部インピーダンスを表し、R
0とZ
w(p)との和である。
【0037】
ワールブルグインピーダンスがフォスタ型回路である場合、Z
w(p)は、以下の式(5)のように表される。
【数5】
ただし、
【数6】
である。R
dは、拡散抵抗を表す。C
dは、拡散容量を表す。
【0038】
図7のバッテリ等価回路の出力に対応するy(t)は、次の式(7)で表される。
【数7】
【0039】
図7のバッテリ等価回路で表されるバッテリモデルは、充放電電流を入力とし、端子電圧を出力とする、入出力システムによって表される。入出力システムは、単にシステムともいう。入出力システムは、次の式(8)及び(9)によって示される状態空間として表されうる。
【数8】
【0040】
状態空間は、システムの状態変数を座標軸として表される空間である。式(8)は、入力と状態変数との関係を表す状態方程式である。式(9)は、状態変数と出力との関係を表す出力方程式である。
【0041】
式(8)のA(u(t))は、実数空間の(n+2)×(n+2)次の行列であり、以下の式(10)で表される。diagは、対角行列を出力する関数である。
【数9】
A(u(t))は、システム行列ともいう。システム行列は、システムの特性の少なくとも一部を表す。式(8)のシステム行列は、システムへの入力を示すu(t)に依存する。よって、式(8)及び(9)で表されるシステムは、パラメータ可変システムであるともいえる。パラメータ可変システムは、PV(Parameter Varying)システムともいう。言い換えれば、
図7のバッテリモデルで表されるバッテリ4のモデルは、PVシステムによって表されうる。
【0042】
式(8)のb及び式(9)のcはそれぞれ、実数空間の(n+2)次の列ベクトルを表し、以下の式(11)及び(12)で表される。Tは、転置行列を表す。
【数10】
【0043】
式(8)及び(9)のx(t)は、状態変数であり、以下の式(13)で表される。
【数11】
【0044】
[システムの内部状態推定]
本実施形態に係る充電率推定装置1は、バッテリ4のモデルを表すPVシステムにおいて、状態変数を推定することによって、バッテリ4の内部状態を推定しうる。制御部10は、電流センサ2から取得した充放電電流をバッテリ4のモデルに入力し、端子電圧の推定値を算出する。制御部10は、端子電圧の推定値と実際の端子電圧との差を、バッテリ4のモデルにフィードバックし、バッテリ4のSOCを逐次推定する。
【0045】
本実施形態において、バッテリ4のモデルを表すPVシステムは、線形パラメータ可変システムであると仮定する。線形パラメータ可変システムは、LPV(Linear Parameter Varying)システムともいう。LPVシステムに関する以下の説明は、バッテリ4のモデルを表すシステムに限定されるものではない。
【0046】
LPVシステムは、以下の式(14)〜(18)に示される状態空間として表されうる。式(16)〜(18)に示されるように、システム行列としてのAは、ポリトープ形式で表されうる。ポリトープ形式は、関数を一次結合で表す形式である。一次結合は、線形結合ともいう。
【数12】
【0047】
式(14)は、システムへの入力とシステムの内部状態を表す状態変数との関係を表す状態方程式である。式(15)は、状態変数とシステムからの出力との関係を表す出力方程式である。x(t)は、実数空間のn次の列ベクトルであり、状態変数を表す。u(t)は、実数空間のn
u次の列ベクトルであり、システムへの入力を表す。y(t)は、実数空間のn
y次の列ベクトルであり、システムからの出力を表す。n、n
u及びn
yはそれぞれ、状態、入力及び出力の信号のサイズに応じて設定される。A(θ(t))、B及びCとして表される行列のサイズは、各信号のサイズに応じて設定される。
【0048】
式(14)及び(15)で表されるシステムへの入力であるu(t)は、ベクトルであり、太字で表記される。式(8)及び(9)で表されるシステムへの入力であるu(t)は、スカラーであり、細字で表記される。以下、発明の詳細な説明の文中で区別するために、ベクトルを表すu(t)は、以下u→(t)と表す。x(t)及びy(t)についても同様に、ベクトルを表すx(t)及びy(t)はそれぞれ、以下x→(t)及びy→(t)と表す。
【0049】
式(14)〜(18)で表されるLPVシステムにおいて、正数であるa及びρに対して正定値行列Xが存在し、以下の式(19)で示される線形行列不等式が成り立つと仮定する。線形行列不等式は、LMI(Linear Matrix Inequality)ともいう。正定値行列は、正定行列ともいう。
【数13】
式(19)で、Iは単位行列を表す。
【0050】
式(19)で示されるLMIが成り立つ場合、式(14)〜(18)で表されるLPVシステムにおける自由応答及び入出力応答は、以下の式(20)及び(21)を満たす。
【数14】
||・||で示される記号は、ノルムを表す。信号のノルムは、信号の大きさを表す。例えば||x(t)||は、x(t)の大きさを表す。||・||
2で示される記号は、L
2ノルムを表す。L
2ノルムは、信号に含まれる成分を二乗平均した値の平方根として算出される。L
2ノルムは、ノルムの一種である。式(21)でL
2と表される記号は、L
2空間を示す。式(21)で、u→は、L
2空間の元である。
【0051】
式(19)が成り立つ場合に式(20)及び(21)が満たされることは、定理として与えられる。式(19)〜(21)で示される定理は、第1定理ともいう。
【0052】
本実施形態に係る充電率推定装置1は、システムの状態変数及びシステムからの出力を推定する。推定値と真値との間には、誤差が発生しうる。推定値と真値との間に生じる誤差は、推定誤差ともいう。システムの入力には、外乱が加わりうる。入力に加わった外乱によって、状態変数及び出力の推定誤差が大きくなりうる。
【0053】
システムの入力に外乱が加わる場合、システムが以下の式(22)〜(24)で表されると仮定する。
【数15】
【0054】
x→(t)、u→(t)及びy→(t)はそれぞれ、式(14)及び(15)と同様に、システムの状態変数、システムへの入力及びシステムからの出力を表す。z(t)は、実数空間のn
z次の列ベクトルであり、システムの評価出力を表す。システムの評価出力は、システムからの出力のうち、特に注目して評価する対象となる出力を含む。評価は、外乱抑制性能又は即応性等について実行されてよい。ベクトルを表すz(t)は、以下z→(t)と表す。w(t)は、実数空間のn
w次の列ベクトルであり、システムへの入力に加わる外乱を表す。ベクトルを表すw(t)は、以下w→(t)と表す。n
z及びn
wはそれぞれ、評価出力及び外乱の信号のサイズに応じて設定される。A(θ(t))は、式(16)〜(18)で与えられる。B
1、B
2、C
1、C
2及びDとして表される係数行列のサイズは、状態変数、入力、出力、評価出力及び外乱の信号のサイズに応じて設定される。
【0055】
式(22)は、外乱が加わったシステムへの入力とシステムの内部状態を表す状態変数との関係を表す状態方程式である。式(23)は、状態変数及びシステムへの入力とシステムからの出力との関係を表す出力方程式である。式(24)は、状態変数とシステムの評価出力との関係を表す評価出力方程式である。
【0056】
式(22)〜(24)において、状態変数、出力及び評価出力をそれぞれ推定値に置き換えることで、式(25)〜(27)が導かれる。状態変数、出力及び評価出力の推定値はそれぞれ、x、y及びzの上に記号^を付して表される。
【数16】
以下、x→(t)、y→(t)及びz→(t)の上に記号^を付した項は、x→^(t)、y→^(t)及びz→^(t)とも表す。
【0057】
状態変数の推定誤差は、以下の式(28)で表される。状態変数の推定誤差は、x→(t)の上に記号~を付して表される。
【数17】
以下、x→(t)の上に記号~を付した項は、x→~(t)とも表す。
【0058】
式(28)の両辺を時刻(t)で微分した式に、式(22)及び(25)を適用することによって、以下の式(29)が導かれる。
【数18】
【0059】
式(29)において、A(θ(t))が安定である場合、状態変数の推定誤差は、時刻の経過に応じて収束しうる。言い換えれば、システム行列が安定であるか否かに応じて、推定誤差が収束するか否かが決定されうる。
【0060】
状態変数、出力及び評価出力の推定値を含む式として、式(25)の代わりに、以下の式(30)が仮定されうる。
【数19】
【0061】
式(30)の右辺第3項は、出力の推定誤差が状態方程式にフィードバックされることを表す。式(30)の右辺第3項に式(23)及び(26)を適用することで、以下の式(31)が導かれる。
【数20】
【0062】
式(28)の両辺を時刻(t)で微分した式に、式(22)、(30)及び(31)を適用することによって、以下の式(32)が導かれる。
【数21】
【0063】
式(32)において、A(θ(t))−LCが安定となるように、Lが設定されうる。言い換えれば、システム行列が安定であるか否かにかかわらず、推定誤差が収束するようなLが設定されうる。
【0064】
式(30)、(26)及び(27)で構成される式は、システムに対するオブザーバともいう。オブザーバは、状態推定器ともいう。オブザーバは、状態変数の少なくとも一部を直接観測できない場合に、入力と出力とに基づいて、直接観測できない状態変数を推定する機構のことをいう。モデルを表すシステムに対するオブザーバは、モデルに基づくオブザーバともいう。式(30)のLは、オブザーバゲインともいう。Lを設定又は決定することは、オブザーバゲインの設計ともいう。
【0065】
式(22)〜(24)、並びに、式(30)、(26)及び(27)に基づいて、状態変数、出力及び評価出力の推定誤差はそれぞれ、以下の式(33)〜(35)で表される。出力及び評価出力の推定誤差はそれぞれ、y及びzの上に記号~を付して表される。以下、y及びzの上に記号~を付した項は、y~及びz~とも表す。
【数22】
【0066】
式(33)〜(35)に示される、状態変数、出力及び評価出力の推定誤差の関係は、偏差系ともいう。オブザーバゲインは、システムの初期状態で存在する状態変数の推定誤差の減衰の速度を示す減衰度性能、又は、評価出力の推定誤差に対する外乱の影響を低減させる性能を有するように設計されうる。
【0067】
オブザーバゲインは、種々の方法で設計されうる。例えば、正数であるa及びρに対して、正定値行列Xと行列Yとが存在し、以下の式(36)で示されるLMIが成立すると仮定する。
【数23】
【0068】
オブザーバゲインが以下の式(37)に基づいて設計されると仮定する。
【数24】
【0069】
式(36)で示されるLMIが成立し、且つ、オブザーバゲインが式(37)に基づいて設計される場合、式(33)〜(35)で示される偏差系に対する自由応答は、以下の式(38)を満たす。
【数25】
システムの初期状態は、時刻(t)が0である場合のシステムの状態である。x→~(0)は、システムの初期状態で存在する状態変数の推定誤差を表す。システムの初期状態で存在する状態変数の推定誤差は、状態推定値の初期値誤差ともいう。aは、状態推定値の初期値誤差が減衰する速度を表し、減衰度ともいう。bは、適宜定められうる係数である。式(38)は、状態変数の推定誤差の大きさが所定の速度以下で減衰しうることを示す。
【0070】
式(36)で示されるLMIが成立し、且つ、オブザーバゲインが式(37)に基づいて設計される場合、式(33)〜(35)で示される偏差系に対する入出力応答は、以下の式(39)を満たす。
【数26】
ρは、適宜定められうる係数であり、評価出力が外乱から受ける影響の度合いを示す。式(39)は、評価出力が外乱に対して所定の比率未満に低減されうることを示す。
【0071】
式(36)が成立し、且つ、オブザーバゲインが式(37)に基づいて設計される場合に式(38)及び(39)が満たされることは、第1定理に基づいて導かれる定理として与えられる。式(36)〜(39)で示される定理は、第2定理ともいう。
【0072】
[バッテリモデルに対するオブザーバの設計]
本実施形態に係る充電率推定装置1は、システムに対するオブザーバを適宜設計することによって、システムの状態変数の推定誤差を所定の速度以上で減衰させうる。本実施形態に係る充電率推定装置1は、システムに対するオブザーバを適宜設計することによって、評価出力の推定誤差に対する外乱の影響を低減しうる。
【0073】
バッテリ4のモデルに対応するシステムは、式(8)〜(13)で示されうる。バッテリ4のモデルにヒステリシスモデルが含まれる場合、ヒステリシスモデルのパラメータの不確かさに起因する外乱が、システムへの入力に加わりうる。例えば、式(2)にヒステリシスモデルのパラメータとして含まれるm及びγは、真値に対するモデル化誤差を有しうる。m及びγのノミナル値がヒステリシスモデルのパラメータであると仮定されてよい。m及びγのノミナル値はそれぞれ、m及びγとして想定される値である。ノミナル値がヒステリシスモデルのパラメータとして仮定される場合、システムを表す式(8)及び(9)を変形して、以下の式(40)及び(41)が導かれる。式(41)は、式(9)と同じ式である。
【数27】
【0074】
式(40)のw(t)は、ヒステリシスモデルのパラメータの不確かさに起因する外乱を表す。w(t)は、以下の式(42)で表される。
【数28】
sgn(・)は、符号関数を表す。符号関数は、入力値が正の値である場合に1を出力し、入力値が負の値である場合に−1を出力し、入力値が0である場合に0を出力する関数である。Δmは、mの真値とノミナル値との差を表す。Δγは、γの真値とノミナル値との差を表す。
【0075】
式(40)及び(41)に含まれるu(t)、y(t)及びw(t)はそれぞれ、スカラーを表し、u→(t)、y→(t)及びw→(t)と区別される。
【0076】
式(40)のfは、以下の式(43)で表される。
【数29】
fが式(43)で表される場合、式(13)及び(40)によれば、外乱を表すw(t)の成分は、x(t)に含まれる成分のうちh(t)にのみ加わる。
【0077】
式(40)及び(41)は、ヒステリシスモデルのパラメータの誤差を考慮した、バッテリ4のシステムを表す。式(40)及び(41)で示されるシステムに対して、以下の式(44)及び(45)に示されるオブザーバが構成されうる。
【数30】
x→^(t)及びy^(t)はそれぞれ、x→(t)及びy(t)の推定値を表す。SOCの推定値は、SOCの上に記号^を付して表される。SOCの上に記号^を付した項は、SOC^とも表す。Lは、実数空間の(n+2)次の列ベクトルであり、オブザーバゲインを表す。
【0078】
SOCの推定誤差が十分に小さいと仮定した場合、f
OCV(・)を線形化して、以下の式(46)が導かれる。
【数31】
αは、適宜定められうる定数である。
【0079】
状態変数の推定誤差は、以下の式(47)で表されると仮定する。
【数32】
【0080】
式(40)〜(47)に基づいて、以下の式(48)が導かれる。
【数33】
c
lは、以下の式(49)で表される。
【数34】
【0081】
システムの評価出力を決定する評価出力方程式として、以下の式(50)が導入される。
【数35】
c
zは、以下の式(51)で表される。
【数36】
c
zは、状態変数の推定誤差を評価出力に反映させる際に、状態変数の推定誤差に含まれる成分に重み付けを与える。
【0082】
式(50)及び(51)によれば、状態変数のうちSOCの成分だけが評価出力に反映される。言い換えれば、評価出力は、SOCの推定誤差として算出される。よって、z(t)は、以下の式(52)で表される。
【数37】
【0083】
式(48)及び(50)は、入力をw(t)とし、出力をz(t)とするシステムを表す。以下、式(48)及び(50)で表されるシステムは、G(L)と表される。G(L)は、システム行列がu(t)に依存するLPVシステムである。
【0084】
G(L)がBIBO(Bounded Input Bounded Output)安定であり、且つ、G(L)の入出力ゲインが十分に小さい場合、w(t)の入力にかかわらず、SOCの推定誤差が小さくされうる。BIBO安定は、システムへの入力が有限値である場合、システムからの出力が有限値であることを意味する。
【0085】
BIBO安定であること、及び、G(L)の入出力ゲインが十分に小さいことは、以下の式(53)及び(54)で表される制約とみなされうる。
【数38】
【0086】
式(53)は、システムの初期状態における状態変数の推定誤差に対する、G(L)の自由応答が満たすべき減衰度制約を示す式である。aは、G(L)の自由応答の減衰度を示す正数である。bは、適宜定められうる係数である。式(53)は、式(38)に対応する式である。
【0087】
式(54)は、G(L)のL
2ゲインが満たすべきL
2ゲイン制約を示す式である。G(L)のL
2ゲインは、G(L)の評価出力信号のL
2ノルムとG(L)の入力信号のL
2ノルムとの比の上界として定義される。ρは、G(L)のL
2ゲインの上界の範囲を指定する正数である。G(L)のL
2ゲインは、システムが表すモデルに含まれるパラメータの誤差に対する、評価出力の大きさの比を意味する。
【0088】
本実施形態においては、式(53)及び(54)で示される2つの制約が同時に満たされるように、オブザーバゲインが設計されうる。言い換えれば、オブザーバゲインは、所定の制約条件を満たすように設定されうる。所定の制約条件は、減衰度制約及びL
2ゲイン制約を含む。
【0089】
例えば、式(53)のaは、バッテリ4のSOCの推定誤差が所定の時間内に収束するように設定されてよい。SOCの推定誤差が所定の時間内に収束するようにaが設定される場合、さらに式(54)が満たされるように、ρが最小化されてよい。
【0090】
バッテリ4の充放電電流の大きさは、|u(t)|と表される。|u(t)|の最大値及び最小値が既知である場合、バッテリ4のモデルを表すシステムのシステム行列は、以下の式(55)〜(58)で示されるポリトープ形式で表されうる。
【数39】
u
minは、|u(t)|の最小値である。u
maxは、|u(t)|の最大値である。θ
1(u(t))及びθ
2(u(t))は、ポリトープ形式のパラメータである。
【0091】
システム行列は、式(44)及び式(45)で表されるオブザーバのパラメータの少なくとも一部を構成する。システム行列がポリトープ形式で表されることによって、オブザーバのパラメータの少なくとも一部がポリトープ形式で表される。
【0092】
A(u(t))がポリトープ形式で表され、且つ、正数であるa及びρに対して正定値行列X及び行列Yが存在し、以下の式(59)及び(60)で示されるLMIが成立すると仮定する。
【数40】
式(59)及び式(60)において、以下の式(61)が成り立つ。
【数41】
【0093】
第2定理によれば、G(L)が式(53)及び(54)を同時に満たすようなオブザーバゲインは、以下の式(62)によって設計される。
【数42】
【0094】
式(59)及び(60)で示されるLMIが成立し、且つ、ρが最小化されるように、正定値行列X及び行列Yが算出されうる。このように算出された正定値行列X及び行列Yに基づいて、より小さいL
2ゲインを有するオブザーバゲインが設計されうる。バッテリ4のバッテリモデルにおいて、G(L)のL
2ゲインは、バッテリモデルに含まれるパラメータの誤差に対する、バッテリ4の充電率の推定誤差の大きさの比である。より小さいL
2ゲインを有するオブザーバゲインが設計されることによって、バッテリモデルに含まれるパラメータの誤差に応じたバッテリ4の充電率の推定誤差は、減少されうる。オブザーバゲインがより小さいL
2ゲインを有するように設計されたオブザーバは、ロバストオブザーバともいう。
【0095】
本実施形態に係る充電率推定装置1は、ヒステリシス特性を含むバッテリ4のモデルに基づくオブザーバを用いて、バッテリ4のSOCを推定する。オブザーバを用いることで、ヒステリシス特性の影響等によってバッテリ4のモデルのパラメータの誤差がある場合でも、バッテリ4のSOCの推定精度が向上しうる。また、バッテリモデルのパラメータの逐次推定によってパラメータの誤差を低減させる場合と比較して、充電率推定装置1の計算負荷が軽減されうる。
【0096】
オブザーバゲインがバッテリ4のモデルに含まれるパラメータの誤差に応じたSOCの推定誤差を減少するように設定されることで、バッテリ4のSOCの推定精度が向上しうる。
【0097】
オブザーバゲインが所定の制約条件を満たすように設定されることで、バッテリ4のSOCの推定精度が向上しうる。
【0098】
オブザーバに含まれるパラメータの一部であるシステム行列が式(55)−(58)のようにポリトープ形式で表されることで、オブザーバゲインの算出が容易になりうる。また、オブザーバゲインが所定のLMIを満たすことでも、オブザーバゲインの算出が容易になりうる。
【0099】
オブザーバゲインが満たす所定のLMIが、パラメータとして、減衰度aを含むことで、パラメータの誤差がSOCの推定値に対して及ぼす影響がより低減されうる。
【0100】
[充電率推定方法]
本実施形態に係る充電率推定装置1は、
図8に示される充電率推定方法によって、バッテリ4のSOCを推定してよい。
【0101】
制御部10は、バッテリ4のバッテリモデルのパラメータを取得する(ステップS1)。制御部10は、バッテリモデルのパラメータを記憶部20又は外部装置から取得してよい。
【0102】
制御部10は、バッテリ4のバッテリモデルで表されるシステムに対するオブザーバを取得する(ステップS2)。制御部10は、バッテリモデルのパラメータ、及び、式(62)等に基づいて、オブザーバを設計してよい。制御部10は、予め設計されたオブザーバを記憶部20又は外部装置から取得してよい。
【0103】
制御部10は、バッテリ4のSOCを推定する(ステップS3)。制御部10は、取得したオブザーバに基づいて、バッテリ4のSOCを推定しうる。このようにすることで、バッテリ4のSOCの推定精度が高められうる。
【0104】
[充電率推定結果の例]
式(62)等に基づいて設計されたオブザーバゲインを含むオブザーバによって、バッテリ4のSOCが推定されうる。以下、SOCの推定結果の一例の説明において、
図9、
図10及び
図11が参照される。
【0105】
SOCを推定するために、バッテリ4のバッテリモデルで表されるシステムに対して、
図9に示されるように時間変動する電流が入力された。
図9には、電流の時間変動の例として、バッテリ4が電気自動車に搭載されて走行実験が行われた際の電流の時間変動が示される。
【0106】
本実施例のSOC推定に用いられたオブザーバは、G(L)が式(53)及び(54)を同時に満たすように設計された。言い換えれば、本実施例のSOC推定に用いられたオブザーバは、減衰度制約とL
2ゲイン制約とをともに考慮して設計された。一方で、比較例に係るSOC推定として、G(L)が式(53)を満たすように設計されたオブザーバを用いたSOC推定が行われた。比較例に係るSOC推定に用いられたオブザーバは、L
2ゲイン制約を考慮せずに、減衰度制約のみを考慮して設計された。
【0107】
図10に示されるように、実施例及び比較例それぞれで設計されたオブザーバを用いて、バッテリ4のSOCが推定された。
図10において、横軸及び縦軸はそれぞれ、時刻及びSOCを示す。SOCの真値は、破線で示される。SOCの真値は、バッテリ4への入力電流を積算する等の方法によって算出された値である。実施例に係るSOCの推定値は、実線で示される。比較例に係るSOCの推定値は、一点鎖線で示される。実施例に係るSOCの推定値は、比較例に係るSOCの推定値と比較して、SOCの真値に近い。
【0108】
図11に示されるように、実施例のオブザーバを用いたSOCの推定誤差は、比較例のオブザーバを用いたSOCの推定誤差よりも小さい。SOCの推定誤差は、SOCの推定値とSOCの真値との差である。
図11において、横軸及び縦軸はそれぞれ、時刻及びSOCの推定誤差を示す。
【0109】
図11に例示されるSOCの推定誤差のRMSE(Root Mean Square Error)を計算した結果、比較例に係るオブザーバを用いたSOCの推定誤差のRMSEは、4.5%であった。一方で、実施例に係るオブザーバを用いたSOCの推定誤差のRMSEは、1.9%であった。減衰度制約のみを考慮してオブザーバが設計される場合と比較して、減衰度制約及びL
2ゲイン制約を含む所定の制約条件を考慮してオブザーバが設計されることによって、SOCの推定精度が向上されうる。
【0110】
本開示に係る実施形態について諸図面および実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形または修正をおこなうことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形または修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部、各ステップなどに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部およびステップなどを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。