特許第6869712号(P6869712)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6869712
(24)【登録日】2021年4月16日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】血管内皮機能改善用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/899 20060101AFI20210426BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20210426BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20210426BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20210426BHJP
   A61K 131/00 20060101ALN20210426BHJP
【FI】
   A61K36/899
   A61P9/10 101
   A61P9/10
   A61P43/00 111
   A23L33/10
   A61K131:00
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-244310(P2016-244310)
(22)【出願日】2016年12月16日
(65)【公開番号】特開2018-95624(P2018-95624A)
(43)【公開日】2018年6月21日
【審査請求日】2019年9月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000106324
【氏名又は名称】サンスター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】小林 恵津子
(72)【発明者】
【氏名】小川 雄太郎
(72)【発明者】
【氏名】正箱 尚久
(72)【発明者】
【氏名】草刈 剛
【審査官】 柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−043442(JP,A)
【文献】 特開2011−036241(JP,A)
【文献】 日本内科学会雑誌, (2003), 92, [11], p.2272-2277
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/899
A61P 9/10
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
米糠のサーモリシン処理物を含む、血管内皮機能改善用組成物。
【請求項2】
経口組成物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
食品組成物又は医薬組成物である、請求項1又は2に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管内皮機能改善用組成物に関する。より詳細には、本発明は米糠酵素処理物を含む血管内皮機能改善用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
血管内皮は血管の最内層に存在しており、血液成分などの血管透過性、血管の収縮や弛緩反応、凝固線溶系に関与することによる血液凝固性の調節、血小板機能の制御等、様々な機能を有している。これらの機能は、血管内皮細胞が様々な生理活性因子を産生することと深く関与している。
【0003】
核因子赤血球2関連因子2(Nuclear factor erythroid 2−related factor 2;Nrf2)は、血管内皮を酸化ストレスから防御する上で重要な役割を担っている。Nrf2は、通常、抑制性因子であるKeap1と結合した状態で存在しており、細胞が酸化ストレスや親電子物質などにさらされるとKeap1による抑制が解除され、抗酸化酵素等を誘導することが知られている。また、Nrf2は、酸化ストレスだけでなく、一酸化窒素により、Nrf2−Keap1が刺激され、Nrf2が活性化することも知られている。さらに、Nrf2は、血管内皮でヘムオキシゲナーゼ(HO−1)を誘導することによって血管内皮機能が改善されることが知られている。
【0004】
また、サーチュインは、カロリー制限による細胞老化の抑制、寿命の延長などに関与することが知られているが、血管内皮細胞において、サーチュインファミリーであるSirt1を過剰発現することにより、酸化ストレスによる細胞老化誘導を回避できることが知られている。
【0005】
本出願人はこれまでに、圧搾米糠油を水蒸気蒸留処理して得られる圧搾精油米糠油(特許文献1)、セイヨウヤナギ抽出物(特許文献2)などが血管内皮機能の改善に有用であることを見出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−206958号公報
【特許文献2】特開2013−173693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、Nrf2の発現促進作用を通じて血管内皮機能を改善することができる、新規な血管内皮機能改善用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記した目的を達成すべき鋭意研究を重ねた結果、驚くべきことに、米糠酵素処理物が優れたNrf2発現促進作用を有することを見出した。さらに、本発明者らは、米糠酵素処理物が、Sirt1の発現促進作用を有することも見出した。本発明者らはかかる知見に基づきさらなる研究を重ねることにより、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明は以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
米糠酵素処理物を含む、血管内皮機能改善用組成物。
項2.
前記米糠酵素処理物が、米糠のプロテアーゼ処理物である、上記項1に記載の組成物。
項3.
前記米糠酵素処理物が、米糠のサーモリシン処理物である、上記項1又は2に記載の組成物。
項4.
経口組成物である、上記項1〜3のいずれかに記載の組成物。
項5.
食品組成物又は医薬組成物である、上記項1〜4のいずれかに記載の組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、血管内皮機能を改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明は、血管内皮機能改善用組成物を包含する。本発明の血管内皮機能改善用組成物は、米糠酵素処理物を含む。なお、本明細書において、本発明の血管内皮機能改善用組成物を単に「本発明の組成物」と記載する場合がある。
【0013】
本発明の組成物に含まれる米糠酵素処理物は、米糠を酵素により処理して得られるものである。
【0014】
米糠としては、特に限定されないが、脱脂米糠であることが好ましい。また、圧搾により脱脂された脱脂米糠(圧搾脱脂米糠)であることが好ましく、搗精後に得られた米糠(生米糠)を加熱することでリパーゼを失活させ、さらに圧搾処理することで得られる圧搾脱脂米糠がより好ましい。また、脂質含量が5〜20質量%の脱脂米糠が好ましい。この範囲の脂質含量の脱脂米糠が、圧搾脱脂(特に、リパーゼ失活処理後の圧搾脱脂)により好ましく得られる。
【0015】
リパーゼ失活処理は、18〜20質量%程度の脂質を含有する米糠(生米糠)の酸化劣化を防ぐ目的で行われる。通常、生米糠を70〜130℃程度で加熱焙煎することにより行われる。圧搾処理は、公知の圧搾法、例えば加熱焙煎処理され100〜115℃程度になった米糠を低温連続圧搾機(例えば、テクノシグマ社より販売されているミラクルチャンバー)により圧搾することで行う。圧搾は、圧搾後の脱脂米糠中の脂質が5〜20重量%程度となるまで行うことが好ましい。また、リパーゼ失活処理前の米糠や搾油後の脱脂米糠の水分含量を低減させる等の目的で乾燥処理を行っても良い。更に、特に圧搾処理にて得られた脱脂米糠は、さらに公知の方法により粉砕、分級し、粉末状とすることが好ましい。この際、粉末の平均粒子径は、5〜200μmが好ましく、10〜150μmがより好ましく、40〜100μmが最も好ましい。なお、脱脂米糠中の脂質含量は、上述の通り5〜20重量%が好ましく、7〜15重量%がより好ましい。なお、市販されている、上記のような脱脂米糠を購入して用いることもできる。このような市販脱脂米糠としては、例えばヌカップ(株式会社東京ブレフ製)、ハイブレフ(サンブラン株式会社製)などを挙げることができる。
【0016】
また、本願における米糠としては、米糠の水抽出物も含まれる。米糠の水抽出物は、米糠を水で抽出して得られる。米糠の水抽出物は、好ましくは米糠を水で抽出処理して得られた液体組成物(水及び抽出された米糠成分からなる)である。当該米糠の水抽出物に対して、後述する酵素を加えて処理することで、米糠酵素処理物を得ることもできる。水抽出条件は特に制限されず、例えば、10〜50℃程度の水に米糠を1〜24時間程度浸漬(又は撹拌)する方法が挙げられる。
【0017】
米糠酵素処理物の調製に用いる酵素としては、米糠に含まれるタンパク質やポリペプチドを分解することができるタンパク質分解酵素(プロテアーゼ:ペプチダーゼも含む)であれば特に限定的ではなく、公知の酵素を用いることができる。このような酵素としては、例えば、トリプシン(EC3.4.21.4)、パパイン(EC3.4.22.2)、サーモリシン(EC3.4.24.27)、キモトリプシン(EC3.4.21.1、EC3.4.21.2)などが挙げられる。なお、カッコ内の記載は、酵素番号(Enzyme Commission numbers)である。中でも、サーモリシンが好ましい。なお、本明細書において、米糠酵素処理物を、酵素処理に用いる酵素に応じて、例えば、米糠プロテアーゼ処理物、米糠サーモリシン処理物、米糠キモトリプシン処理物などと表記する場合がある。
【0018】
米糠の酵素処理に用いる酵素は、例えば、市販品を購入して用いることができる。例えば、サーモリシンは、株式会社ペプチド研究所、大和化成株式会社、ナカライテスク株式会社、天野エンザイム、和光純薬工業株式会社等から購入することができる。
【0019】
米糠酵素処理物を得るための酵素処理条件は、用いる酵素の活性が得られる条件であれば特に限定的ではなく、適宜決定することができる。例えば、酵素としてサーモリシンを用いる場合、米糠及びサーモリシンを水に混合したうえ、30℃〜70℃で穏やかに撹拌しながら1〜30時間程度反応させることで処理を行うことができる。反応温度や反応時間については、使用する製造機器の構造・機能や用いる酵素の純度などにより至適条件は相違する。例えば、サーモリシンの至適温度は約65℃付近であるが、工業的には35〜60℃(さらに好ましくは50〜60℃)付近で反応温度を決定することが好ましい。なお、当該処理後、品質を安定化させるなどの目的で酵素を失活させてもよい。酵素の失活処理は、例えば、加熱(使用する酵素により条件は異なるが、例えば、サーモリシンを3%程度含有する酵素製剤を使用する場合には、70〜100℃、1〜20分程度の処理を採用することが出来る)等により行うことが出来る。さらに、処理後にろ過や遠心分離などを行って濾液等を回収したり、得られた濾液等に対して濃縮、乾燥、カラム処理などの精製を行ってもよい。
【0020】
上記の通り、米糠酵素処理物は米糠を酵素処理することにより得られるものであり、米糠酵素処理物には、米糠に含まれるタンパク質やポリペプチドの酵素分解物が含まれる。
【0021】
本発明の組成物は、上記した米糠処理物そのものであってもよいし、当該米糠酵素処理物に加え、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、薬学的又は食品衛生学的に許容され得る担体などが挙げられる。
【0022】
本発明の組成物は、経口組成物として利用することができる。経口組成物としては、例えば、食品組成物、医薬組成物(医薬部外品を含む)などとして利用することができる。また、本発明の組成物に含まれる米糠酵素処理物は、優れたNrf2発現促進作用を有するだけでなく、Sirt1の発現促進作用を有することから、血管内皮機能改善用組成物として好ましく利用することができる。さらに、本発明の組成物は、血管内皮機能を改善することができるため、血管内皮機能の低下に伴う疾患(例えば、高血圧症、動脈硬化症、脂質異常症、糖尿病、糖尿病合併症など)の予防及び/又は治療に好ましく用いることができる。また、これらの疾患の発症や症状を緩和させることを目的として、これらの疾患を発症している人や発症するリスクの高い人に対する用途においても好ましく用いることができる。
【0023】
本発明の組成物は、1回又は複数回(好ましくは2〜3回)に分けて摂取することができる。また、摂取対象としてはヒトが好ましいが、ヒト以外の非ヒト哺乳動物であってもよい。
【0024】
また、本発明の組成物に含まれる米糠酵素処理物は優れたNrf2の発現促進作用を有することから、抗酸化作用、より具体的には血管内皮における抗酸化作用などの作用を発揮することができ、本発明の組成物はこのような作用を目的とした用途に好ましく用いることができる。例えば、本発明の組成物は、抗酸化用、より具体的には血管内皮の抗酸化用などの用途に用いることができる。
【0025】
さらに、本発明の組成物に含まれる米糠酵素処理物はSirt1の発現促進作用を有することから、抗細胞老化作用、抗動脈硬化作用などの作用を発揮することができ、本発明の組成物はこのような作用を目的とした用途に好ましく用いることができる。例えば、本発明の組成物は、抗老化用、抗動脈硬化用などの用途に用いることができる。
【0026】
本発明の組成物の形態としては特に限定されないが、経口組成物として利用する場合には、例えば、ハードカプセル、ソフトカプセル、サプリメント、チュアブル錠、飲料、粉末飲料、顆粒、フィルムなどの形態とすることができる。また、飲食品として使用する場合には、例えば、茶系飲料、スポーツ飲料、美容飲料、果汁飲料、炭酸飲料、アルコール飲料、清涼飲料、ゼリー飲料、水や湯、炭酸水等で希釈する濃縮タイプの飲料等の飲料、水や湯等に溶解又は懸濁させて飲用する粉末や顆粒、タブレット等の乾燥固形物、タブレット菓子、ゼリー類、スナック類、焼き菓子、揚げ菓子、ケーキ類、チョコレート、ガム、飴、グミなどの菓子類、スープ類、めん類、米飯類、シリアル等などの食品形態にすることもできる。このうち通常の生活において利用する場合には、サプリメントタイプ、チュアブル錠、ワンショットドリンクタイプなどの形態が好ましく、運動効果を高める目的で摂取する場合には、スポーツ飲料などの飲料の形態が最も好ましい。さらに、これらの経口組成物は容器に充填された容器詰食品として消費者に提供することができる。容器は密封できるものであれば特に限定されない。
【0027】
錠剤、顆粒剤、カプセル剤等の経口用固形製剤、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤などの場合は、乾燥物換算で経口組成物全量に対して、本発明の組成物を0.01 〜95質量%程度、好ましくは5〜90質量%程度、最も好ましくは10〜80質量%程度配合すればよい。上記以外の経口組成物の場合は、本発明の組成物を0.001〜50質量%程度、好ましくは0.005〜30質量%程度、最も好ましくは0.01〜10質量%程度配合すればよい。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0029】
製造例:米糠酵素処理物の調製
本製造例では、米糠としてハイブレフ(サンブラン社製)を、酵素としてサーモリシンを3%含有している酵素製剤を用いた。なお、ハイブレフは、米糠を圧搾することにより脱脂を行った圧搾脱脂米糠である。水に米糠を30g/Lとなるように混合し、これにサーモリシンを0.0045g/Lとなるように加えた。そして、当該混合物を55℃で15時間撹拌した。その後、80℃で5分間撹拌し、酵素失活させた。次いで、得た処理液に珪藻土を用いてろ過した後に濃縮し、さらに濃縮液を121℃15分間殺菌した。このようにして得た殺菌済みの濾液を凍結乾燥し、米糠酵素処理物を得た。
【0030】
試験例:Nrf2、及びSirt1の遺伝子発現への影響の検討
サンプルとして、上記製造例で調製した米糠酵素処理物を用いた。また、H及びレスベラトロール、並びにDMSOを対照として使用した。12ウェルプレートを用い、2%FBS培地800μL中で、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVECs、三光純薬社製)を培養し、各種サンプルを下記表1に記載の最終濃度の5倍となるように溶解した2%FBS培地を200μL添加し、6時間及び24時間培養した。次いで、Total RNAをTotal RNA Mini Kitを用いて抽出した。1本鎖のcDNA(sscDNA)は0.35μgのTotal RNAよりPrimeScript RT reagent Kitを使用して合成した。なお、Total RNAの回収量が不足している場合には、回収量に応じてsscDNAの希釈率を変更した上でmRNAの定量分析に供した。Nrf2及びSirt1のmRNAの定量分析は、リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems社製)を使用して実施した。また、Premix Ex Taq(タカラバイオ社製)、Assay−on−Demand、及びGene Expression Products(Hs00232352_m1 for NFE2L2(Nrf2)、Hs01009005_m1 for Sirt1、及びHs02387368_g1 for RPS18)を定量的リアルタイムPCR分析に使用した。定量データはそれぞれ、Ribosomal protein S18(RPS18)の発現レベルでΔΔCt methodで補正した。結果を下記表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
表1から、米糠酵素処理物は、優れたNrf2発現促進作用及びSirt1発現促進作用を有することが分かった。これらの結果から、米糠酵素処理物は、Nrf2及びSirt1の発現を促進することによって、優れた血管内皮機能改善作用、抗酸化作用、抗動脈硬化作用などを奏することが考察される。