(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
心臓内の低侵襲的なアブレーションは、各種不整脈の治療選択肢である。このような治療を実施するために、医師は、典型的には、血管系を介して心臓にカテーテルを挿入し、異常な電気的活動の区域にてカテーテルの遠位端を心筋組織と接触させ、続いて、組織壊死を生じさせるために、遠位端で又は遠位端の近傍で1つ以上の電極に通電する。
【0003】
参照により本明細書に開示が組み込まれる米国特許出願公開番号第2010/0030209号は、穿孔の開いた先端部を有するカテーテルを記載する。このカテーテルは、対象者の身体に挿入するための遠位端を有する挿入管を含む。遠位先端部は、挿入管の遠位端に固定され、身体内の組織に電力を印加するために連結される。遠位先端部は、外側表面を通過する複数の穿孔を備える外側表面を有し、これは、遠位先端部にわたって周方向及び長手方向に分布している。ルーメンが挿入チューブを貫通しており、孔を介して組織に流体を送達するように結合されている。
【0004】
その開示が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,957,961号は、遠位セグメントに沿って延びる少なくとも1つの電極を担持する遠位セグメントを有し、かつ電極に隣接する遠位セグメントに沿って配置された複数の温度センサーを有する、カテーテルを記載しており、各温度センサーは温度の出力表示を提供する。カテーテルは、無線周波数エネルギーを電極にもたらす、電源に連結される。温度プロセス回路は、温度センサー及び電源に連結され、温度センサーの出力に応じ電源からの電力出力を制御する。
【0005】
その開示が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,312,425号は、複数の熱センサーを備えるRFアブレーションカテーテル先端部電極を記載する。先端熱センサーは、遠位端区域の頂部、又はその付近に位置し、1つ以上の側方熱センサーは近位端区域の表面付近に位置する。電極は好ましくは、中空のドーム形状の外殻から形成されたアセンブリであり、コアが外殻内部に配置されている。側方熱センサーワイヤーは、外殻の内部に電気的に接続され、コアは外殻に溶接された側方熱センサーワイヤーのための長手方向チャネルを有する。外殻はまた、外殻の頂部にポケットを有し、端部熱センサーワイヤーは、コアを通じて外殻の頂部に達する。
【0006】
その開示が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第6,217,574号は、灌注分割型先端部電極カテーテルを記載する。信号プロセッサは、RF発生器を起動し、分割型先端部電極の各電極部材に低RF電流を送る。信号プロセッサは、各電極部材と1つ又は2つ以上の表面不関電極との間のインピーダンスを示す信号を受信し、どの電極部材が最も高いインピーダンスと関連するかを判定する。このような電極部材は、心筋との接触が最大であると言える。
【0007】
その開示が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第6,391,024号は、アブレーション電極と生物組織との間の接触の適切性を評価する方法を記載する。この方法は、アブレーション電極と参照電極の間のインピーダンスを第1及び第2周波数で測定する。第1周波数のインピーダンス及び第2周波数のインピーダンス間の%差異は、電極/組織の接触状態を示していると言える。
【0008】
その開示が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第6,730,077号は、組織治療用の冷凍カテーテルを記載する。信号導体は、カテーテルを通ってカテーテル先端部まで延び、先端部が接触する組織区域にRF電流を適用する、熱伝導性及び導電性外殻又はキャップに接続する。遠位先端部における組織接触の定量的測定を進展させるために、信号導線と、患者の皮膚に取り付けられた表面電極との間の組織インピーダンス経路はモニタされる。
【0009】
参照によりその内容が本明細書に組み込まれる、Govariの米国特許出願公開第2014/0171936号は、患者の体内の組織の近位に挿入するように構成された遠位端を有し、かつ組織に電気エネルギーを運ぶための導電体を有するルーメンを収容する、装置を記載している。この装置は、挿入管の遠位端に取り付けられ、かつ導電体に電気的に結合された導電性キャップであって、外側表面を有する、導電性キャップを更に含む。更に、挿入管内に収容される複数の光ファイバであって、各ファイバは、キャップの外側表面の近位で終端し、かつ電気エネルギーが組織に運ばれている間に組織へ及び組織からの光放射を運ぶ構成された、複数の光ファイバが存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のいくつかの実施形態による、体内プローブと共に使用するための方法を提供し、体内プローブの遠位端はアブレーション電極及び温度センサーを含む。(i)アブレーション電極がアブレーション電流を被験者の組織内に流し込んでいて、かつ(ii)流体が体内プローブの遠位端からある流体流量で送り出されている間、プロセッサは、温度センサーによって検知された温度を受信する。プロセッサは、少なくとも(i)検知された温度並びに(ii)流体流量及び/又はアブレーション電流のパラメータに基づいて、組織の温度を推定する。プロセッサは、推定された温度に応じて出力を生成する。
【0011】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つのパラメータは、アブレーション電流の電力を含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、組織の温度を推定することは、組織と電極の接点における組織の温度を推定することを含む。
【0013】
いくつかの実施形態では、温度は、温度センサーが組織と接触していない間に検知される。
【0014】
いくつかの実施形態では、方法は、出力に応じてアブレーション電流の電力を調整することを更に含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、アブレーション電流の電力を調整することは、アブレーション電流を停止することを含む。
【0016】
いくつかの実施形態では、方法は、出力に応じて、流体流量を変更することを更に含む。
【0017】
いくつかの実施形態では、方法は、出力に応じて、電極を組織に押し付ける力を変更することを更に含む。
【0018】
いくつかの実施形態では、組織の温度を推定することは、
少なくとも1つのパラメータに応じて係数を選択することと、少なくとも検知された温度に基づく値にこの係数を乗じることによって、組織の温度を推定することと、を含む。
【0019】
いくつかの実施形態では、係数を選択することは、内挿によって係数を計算することを含む。
【0020】
本発明のいくつかの実施形態による、体内プローブと共に使用するための装置を更に提供し、体内プローブの遠位端はアブレーション電極及び温度センサーを含む。装置は、体内プローブに接続するように構成されているインターフェイス部と、プロセッサとを含む。(i)アブレーション電極がアブレーション電流を被験者の組織内に流し込んでいて、かつ(ii)流体が体内プローブの遠位端からある流体流量で送り出されている間、プロセッサは、温度センサーによって検知された温度を、インターフェイス部を介して温度センサーから受信する。プロセッサは、(i)検知された温度、並びに(ii)流体流量及び/又はアブレーション電流のパラメータに少なくとも基づいて、組織の温度を推定する。プロセッサは、推定された温度に応じて出力を生成する。
【0021】
本発明のいくつかの実施形態による、アブレーション電極及び温度センサーを含むプローブと共に使用するための方法を更に提供する。方法は、アブレーション電極を使用して、組織の複数回のアブレーションを実施することを含む。これらのアブレーションのそれぞれの実施中、(i)流体がプローブからある流体流量で送り出され、(ii)温度センサーを使用して温度が検知され、(iii)組織の温度が測定される。これらのアブレーションから、検知された温度と測定された温度との間の関係が学習される。
【0022】
いくつかの実施形態では、関係を学習することは、測定された温度に基づく変数を検知された温度に基づく変数に回帰することによって関係を学習することを含む。
【0023】
いくつかの実施形態では、回帰することは、線形回帰を実施することを含む。
【0024】
いくつかの実施形態では、複数回のアブレーションを実施することは、互いに異なるアブレーション電力を有する少なくとも2回のアブレーションを実施することを含む。
【0025】
いくつかの実施形態では、複数回のアブレーションを実施することは、電極を組織に押し付ける力が互いに異なる、少なくとも2回のアブレーションを実施することを含む。
【0026】
本発明は、その実施形態の以下の詳細な説明を図面と併せ読むことによって、更に十分に理解されるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0028】
概観
アブレーション部位の領域を冷却する(又は「灌注する」)ことにより、血栓(血餅)の形成が低下することが判明している。この目的のため、例えば、Biosense Webster Inc.(Diamond Bar,Calif.)は、CARTO(登録商標)に組み込まれたマッピング及びアブレーションシステムと併用するための、ThermoCool(登録商標)灌流先端カテーテルを提供する。組織をアブレーションするために無線周波数(RF)電流によりエネルギーを加えられる金属カテーテル先端には、治療部位への灌注のために先端の周囲に分布させた多数の周辺穴が存在する。処置中、カテーテルに連結されているポンプが灌注食塩水をカテーテル先端部に送達し、その溶液が穴を通って流れ出る。(いくつかの実施形態では、アブレーション電流が組織に流れ込んでいない間でも、灌注液の流れは、例えば、削減された流量で、維持される。)
【0029】
アブレーション処置を実施するとき、アブレーションする組織の近くに1つ又は2つ以上の温度センサーを配置すると、施術医にフィードバックを提供するのに役立つため、有利であることが多い。例えば、組織が過熱状態になっていることを温度センサーが検知した場合、施術医は、アブレーション処置を停止する、又はアブレーションパラメータを修正することができる。
【0030】
少なくともいくつかの症例では、組織−電極間の接点における温度を可能な限り正確に測定するために、温度センサーは、理想的に、それらが組織と接触するように配置されるであろう。しかし、規制上の懸念により、及び/又は他の理由から、組織を温度センサーと接触させることは、実行不可能であることがある。したがって、組織の温度を検知する場合、具体的な課題は、組織と接触していないセンサーが、組織−電極間の接点における組織の実際の温度より低い温度を検知し得ることである。更に、センサーが組織と接触しているかどうかに関係なく、アブレーション電極からの灌注液(例えば、食塩水)の流れによって、センサーは、センサーが本来検知したであろう温度より低い温度を検知することがある。例えば、灌注液は、温度センサーから熱を奪う、吸熱源の役割を果たすことができる。
【0031】
本発明の実施形態は、少なくとも組織−電極間の接点において、検知された温度及び灌注液の流量に少なくとも基づいて組織の温度を推定するための方法及び装置を提供することにより、これらの課題に対処する。
【0032】
システムの説明
最初に、本発明の実施形態による、心臓アブレーション療法のためのシステム20の概略的な図である、
図1を参照する。操作者28(例えば、治療的介入専門の心臓医)は、患者26の血管系を通じて患者の心臓24の心室に、カテーテル22などの体内プローブを挿入する。例えば、心房細動を治療するために、操作者はカテーテルを左心房に前進させて、カテーテルの遠位端30をモニタされ及び/又はアブレーションされる心筋組織と接触させてもよい。
【0033】
カテーテル22は、その近位端においてコンソール32に接続される。コンソール32は、標的組織をアブレーションするために、カテーテル22を介して遠位端30に電力を供給する、RF電力発生器34を含む。プロセッサ52は、後述するように、遠位端の温度センサーの出力を処理することによって、遠位端30の組織の温度を追跡する。灌注ポンプ38は、カテーテル22を介して遠位端30に、食塩水など灌注液を供給する。更に、いくつかの実施形態では、光モジュール40は、遠位端30から標的組織への送信のための、これらに限定されないが、典型的にはレーザ、白熱ランプ、アークランプ、又は発光ダイオード(LED)からの光放射を提供する。このモジュールは、標的組織から戻り遠位端で捕捉された光放射を受信し、分析する。
【0034】
温度センサー及び/又は光モジュール40によって提供される情報に基づいて、プロセッサ52は、RFエネルギー発生器34によって適用される電力及び/又はポンプ38によってもたらされる流体の流れを、本明細書に後で詳述するように、自動的に、又は操作者28からの入力に応じて制御してもよい。
【0035】
システム20は、例えば、カテーテル22のナビゲーション及び制御を支持するために広範な設備を提供する、上記のCARTOに基づく場合がある。
【0036】
カテーテル22の遠位端30はアブレーション電極46を含み、この電極は遠位面58を含む。典型的には、アブレーションを実施するとき、アブレーション電極46の一部分(例えば、遠位面58)が、アブレーションする組織に接触させられ(例えば、押し付けられ)、引き続いて、RFエネルギー発生器34によって供給される、無線周波数エネルギーが、アブレーション電極によって適用される。
図1に示すように、アブレーション電極46は、複数の穿孔60を画定するように成形されてもよい。処置中、灌注液が、灌注ポンプ38によって供給され、穿孔60から送り出される。灌注液の送出は、アブレーション部位の近くにある血液が冷却かつ希釈されることによって、血餅の形成を防ぐのに役立ち得る。
【0037】
図に示すように、複数の温度センサー48(例えば、熱電対)が、アブレーション電極46の上及び/又は内部の様々な個別の位置に配設される。具体的には、遠位面58の「正面」図は、電極の遠位面58の近くにある、円周方向に整列された3つの温度センサー48を示しており、各温度センサーは電極の壁内のルーメン内部に収容されている。それらのルーメンのうちの1つの外壁を「切除」してある、遠位端30の等角図は、そのルーメンの内部にある2つの温度センサー、(i)遠位温度センサー48a(遠位端の図に示されている3つのセンサーのうちの1つ)、及び(ii)近位温度センサー48b(遠位端の図に示されていない3つの近位センサーのうちの1つ)、を示している。したがって、遠位端30は、
図1に示すように、合計6つの温度センサーを備える。(ただし、上記にもかかわらず、本開示の範囲は、任意の好適な数及び配置の温度センサーの使用を含む。)
【0038】
アブレーション電極を使用してアブレーション電流が組織内に流し込まれている間、かつ灌注液がカテーテルの遠位端から(例えば、穿孔60を通って)送り出されている間、1つ又は2つ以上の温度センサーを使用してそれぞれの温度が検知される。
【0039】
一般に、複数の温度センサーが組織に対して様々な場所に配設されるようにすると、例えば、それらのセンサーによって提供される様々な温度読み取り値からアブレーション電極の向きに関する情報が推定され得るという点において、有利である。例えば、3つの遠位センサーのそれぞれがほぼ同じ温度を検知する場合(3つの遠位センサーが組織からほぼ等距離の位置にあることを示す)、かつ/又は3つの近位センサーのそれぞれがほぼ同じ温度を検知する場合(3つの近位センサーが組織からほぼ等距離の位置にあることを示す)、通常所望されるように、電極が組織に対して垂直な方向を向いていることが推定され得る。一方、例えば、近位センサーのうちの1つが、他の2つの近位センサーによって検知される温度より高い温度を検知する場合、アブレーション電極が組織に対して垂直な方向を向いていないことが推定され得、近位センサーのうちの1つが他の近位センサーよりも組織に近い位置にあり得る。
【0040】
カテーテルの向きに関する情報を提供することの他に、温度センサーは、組織−電極間の接点にある組織がアブレーション用の所望の温度になっているかどうかを示すことによって、アブレーションの実施を容易にし得る。ただし、上述のように、組織と接触していない温度センサーは、組織−電極間の接点における組織の実際の温度より低い温度を検知し得る。例えば、遠位センサー48aは遠位面58に対していくらか近位側に配設され得、一般に、遠位センサー48aはアブレーション処置中に組織と接触しない。したがって、遠位センサー48aによって検知される温度は、典型的には接点における組織の実際の温度よりも低い。近位センサー48bの場合、遠位センサー48aよりも組織から遠い位置にあり、実際の温度と検知された温度との間の差は典型的には更に大きい。
【0041】
更に、上述のように、穿孔60からの灌注液の流れによって、温度センサーのうちの少なくともいくつかは、灌注液が穿孔60から流れ出ていない場合と比べて、それぞれの検知温度が低下する。上述の課題に対処するために、本発明の実施形態は、以下に記載するように、少なくとも組織−電極間の接点において、組織の実際の温度を推定するための装置及び方法を提供する。
【0042】
次に、本発明者らによって取得された実験データを示している、
図2を参照する。後で詳述するように、
図2の実験データは、温度センサーによって検知された温度と組織の「実際の」測定温度との間の関係を示している。
【0043】
データを取得するために、遠位端30を使用して、組織を生体外で複数回「アブレーション」した。実験アブレーションのそれぞれの実行中、灌注液を遠位端からポンプで送り出し、検知用にカテーテルの遠位端内の複数の温度センサーを使用し、更には温度計を使用して組織−電極間の接点における組織の実際の温度を測定した。灌注液流量が8mL/分である第1のセット、及び灌注液流量が15mL/分である第2のセットからなる、2セットの実験アブレーションを実施した。各セットに属する実験アブレーションは、様々な個別のアブレーション電力、及び/又は電極と組織との間の様々な個別の接触力を用いて実施された。(これらの要素のそれぞれは、組織−電極間の接点における温度に影響を与える。例えば、電力を増加させ、かつ/又は接触力を増加させると、温度が上昇する。)
【0044】
検知温度値STは、正規化用温度T_0(後述する)を引いて、
図2の横軸に沿ってプロットされる。この具体的な実施例では、検知温度値STは、
図1に示されている3つの遠位温度センサーによって検知された温度の平均値である。温度計読み取り値TRは、T_0を引いて、縦軸に沿ってプロットされる。したがって、
図2の各点は、特定の流量、アブレーション電力、及び接触力に対する一対の値(ST−T_0,TR−T_0)を表す。典型的には、流量15mL/分は、相対的に大きいアブレーション電力及び/又は接触力に対してのみ使用される。したがって、15mL/分に対するデータは、相対的に高い温度のみを含む。
【0045】
図2に示すように、それぞれの流量では、線形回帰関数が、高い「R自乗」値からも明らかなように、高い適合度で取得データに当てはめられた。この回帰関数は、TR−T_0=a(FR)
*(ST−T_0)の形式で表すことができ、T_0、ST、及びTRは上述のとおりであり、a(FR)は灌注液の流量の関数として表される係数である。具体的には、流量8mL/分の場合、
図2は約1.6の係数a(FR)を示し、一方、流量15mL/分の場合、
図2は約2の係数a(FR)を示している。
【0046】
T_0は、アブレーションを開始する前のSTの値であり、例えば、アブレーションの開始前に1秒間にわたって検知された温度の平均値である。アブレーションを開始する前は、TRは、典型的にはSTと同じ値であり、ST=TR=T_0となる。したがって、回帰を実施する前に、ST及びTRのそれぞれからT_0を減ずることは、典型的には、回帰直線のそれぞれが原点を通るようになることにより、回帰を単純化する。つまり、回帰関数が2つの変数ではなく1つの変数(即ち、a(FR))のみを含むという点において、回帰は単純化される。ただし、上記にもかかわらず、
図2に示されている回帰は、T_0を測定も使用もせずに実施され得る。T_0の測定及び使用は、一般に、利便性の向上のみを目的とする。
【0047】
いかなる場合でも、回帰の「X」変数は、典型的にはSTに基づく変数である。例えば、この変数は、STそのものであってもよく、上述のように、ST−T_0であってもよい。同様に、回帰の「Y」変数は、典型的にはTRに基づく変数である。例えば、この変数は、TRそのものであってもよく、上述のように、TR−T_0であってもよい。
【0048】
本明細書に後で詳述するように、
図2に例示した回帰関数は、実際のアブレーション処置中に、少なくとも組織−電極間の接点において、組織の温度を推定するために使用され得る。
【0049】
上述のように、
図2に示した実験は、電極−組織間の接点において測定されるTRを用いて実施された。いくつかの症例では、実際の処置中、組織内部のより深い位置、例えば、組織の5mm下方において、組織の温度を推定することが有利であり得る。したがって、本発明の範囲は、(i)そのようなより深い位置において測定されるTRを用いてアブレーション(例えば、実験アブレーション)を実施し、その結果、これらの位置に対してそれぞれの回帰関数が決定されるようにすること、及び(ii)実際の処置中、回帰関数を使用して、これらの位置における組織の温度を推定することを含む。
【0050】
いくつかの実施形態では、灌注液の流れは、大まかには、一部、又は全ての温度センサーに同じように影響し、その結果、a(FR)は、検知温度を一部、又は全てのセンサーにわたって平均することにより、学習され得る。例えば、上述のとおり、
図2に示した検知温度は3つの遠位センサーの平均値であり、単一のa(FR)が3つの遠位センサーに対して学習される。他の実施形態では、a(FR)は、1つ又は2つ以上のセンサーのそれぞれに対して別々に学習され得る。以下に説明される
図3Aは、そのような実施形態を示している。
【0051】
次に、本発明のいくつかの実施形態による、a(FR)を学習するための方法62のフローチャートである、
図3Aを参照する。方法62では、a(FR)が、1つ又は2つ以上の流量に対して、1つ又は2つ以上の温度センサーのそれぞれに対して学習される。各センサー及び流量に対して、a(FR)は、学習工程64において、
図2を参照した上述の技術を使用して学習される。つまり、学習工程64において、様々なアブレーション電力及び/又は接触力を使用して生体外で組織を「アブレーション」するために遠位端30が使用され、それと同時に灌注液がポンプで遠位端から送り出される。検知された温度及び実際の温度が取得され、回帰(例えば、線形回帰)を使用してa(FR)が学習される。
【0052】
一般に、灌注液の流量は、様々なアブレーション処置にわたって変化してもよく、及び/又は単一のアブレーション処置の中で変化してもよいので、2つ以上の流量に対してa(FR)を学習することは有利であり得る。例えば、実際の処置中、流量は典型的には8mL/分〜15mL/分なので、8〜15mL/分の範囲内の様々な流量が興味の対象となり得る。
【0053】
例えば、最初に、学習工程64において、a(FR)がセンサー48a(
図1)及び流量8mL/分に対して学習され得る。続いて、第1の判定工程66において、現在の流量を変更するかどうかの判定が行われる。現在の流量を(例えば、15mL/分に)変更するように判定されると、流量変更工程67において、現在の流量が変更される。続いて、学習工程64において、a(FR)が第2の流量に対して学習される。
【0054】
所望の全ての流量に対してa(FR)が学習されると、方法62は第2の判定工程68に進み、その工程では、現在のセンサーを変更するかどうかの判定が行われる。現在のセンサーを(例えば、センサー48b(
図1)に)変更するように判定されると、センサー変更工程69においてセンサーが変更される。続いて、学習工程64において、a(FR)が、第2のセンサーに対し、所望の全ての流量に対して学習される。
【0055】
所望の全てのセンサー及び流量に対してa(FR)が学習されると、方法62は終了する。
【0056】
本発明者らは、検知された温度と測定された温度との間の関係が、多くの場合、代替的に又は追加的にアブレーション電流のパラメータ、例えば、アブレーション電流の電力(「アブレーション電力」)など、に依存していることに気づいた。そのため、いくつかの実施形態では、学習された係数「a」は、流量の代わりに又はそれに加えて、アブレーション電力など、1つ又は2つ以上の変数に依存している。ただし、簡単にするために、学習された係数「a」が実際には、流量「FR」の代わりに又はそれに加えて、1つ又は2つ以上の変数に依存する関数であっても、説明全体を通して「a(FR)」の表記法が使用される。
【0057】
再び
図1を参照し、更に、本発明のいくつかの実施形態による、組織の温度を推定するための方法49のフローチャートである、
図3Bを参照する。方法62が典型的には(ただし、必ずしもそうとは限らないが)生体外かつ「オフライン」で実施されるのに対し、方法49は、実際のアブレーション処置中に、生体内で実施される。
【0058】
方法49は初期検知工程70から開始し、この工程においてT_0が検知される。(典型的には、T_0には、センサーのうちのいくつかに対する平均値が使用される。)続いて、アブレーション開始工程74において、施術医がアブレーションの施術を開始する。
図1に示すように、システム20は、インターフェイス部50(例えば、コネクタ及び/又はポート)と、プロセッサ52と、を備える。インターフェイス部50は、(例えば、カテーテルの中を通っている導線を介して)カテーテル22の遠位端30に接続するように、かつカテーテルの遠位端とプロセッサ52との間の通信を容易にするように、構成されている。受信工程51において、プロセッサ52は、アブレーション処置中にセンサー48によって検知されたそれぞれの温度(「ST」)を、インターフェイス部50を介して受信する。プロセッサは、これらの温度を一部のセンサー、又は全てのセンサーにわたって平均化することができる。
【0059】
いくつかの実施形態では、プロセッサは、受信工程51において、例えば、ポンプ38から流体流量を直接受信することにより、灌注液の流体流量を更に受信する。代替的に又は追加的には、プロセッサは、受信工程51において、RFエネルギー発生器34から出力されるアブレーション電流の電力などのパラメータを受信することができる。例えば、プロセッサは、RF発生器から、又は測定器から、アブレーション電流の電力を示す信号を受信し得る。他の実施形態では、後述するように、プロセッサがポンプ及び/又はRF発生器を制御し、その結果、プロセッサは一般に、受信工程51を実施しなくても、流体流量及び/又はアブレーション電流パラメータを「知っている」。
【0060】
続いて、推定工程53において、プロセッサは、(i)検知された温度のうちの1つ又は2つ以上(例えば、検知された温度の1つ又は2つ以上の平均値)、並びに(ii)灌注液の流体流量及び/又はアブレーション電流のパラメータに少なくとも基づいて、電極46の近くにある(例えば、組織−電極間の接点における)組織の温度を推定する。例えば、(i)センサーのうちの1つによって検知された温度STのうちの特定の1つ、及び(ii)それに対応するa(FR)値に基づいて、プロセッサは、方程式ET=a(FR)
*(ST−T_0)+T_0を適用することにより、組織の推定温度(「ET」)を計算し得る。(この方程式は上述の回帰関数と同等であり、「TR」の代わりに「ET」の表記法が使用されている。)つまり、プロセッサは、流量及び/又はアブレーション電流パラメータに応じてセンサーの適切なa(FR)を選択し(即ち、計算し、又はルックアップテーブルから選択し)、選択したa(FR)をST−T_0に乗じ、T_0を加算して、推定温度に到達する。
【0061】
いくつかの実施形態では、モデルが、実験で得られたa(FR)の値に当てはめられる。このような実施形態では、実験で得られた係数から内挿される係数a(FR)が、温度推定用に選択され得る。例えば、
図2に示されている値に対し、線形内挿を使用すると、流量10mL/分に対して選択されるa(FR)は、約1.7になるであろう。あるいは、a(FR)を選択するために、外挿も使用され得る。
【0062】
典型的には、プロセッサは、検知された温度又は検知された温度の平均値のそれぞれに対して個別に推定を実行し、それらの個別の推定を平均して、「総合」推定値に到達する。例えば、
図1を参照すると、プロセッサは、3つの遠位センサーに対して第1の推定を実行し、3つの近位センサーに対して第2の推定を実行し、それら2つの別個の推定を平均化することによって、総合推定値を計算することができる。
【0063】
続いて、出力生成工程55において、プロセッサは、推定された温度(例えば、総合推定値)に応じて、推定された温度を示す視覚出力57などの出力を生成する。(視覚出力57は、例えば、タッチスクリーンを含む、ユーザインターフェイス56の上に表示され得る。)出力に応じて、操作者28は、RFエネルギー発生器34によって供給されるアブレーション電流の電力を、例えば、アブレーション電流を停止することによって、又は他の手段で電流の電力を減少させることによって、調整することができる。代替的に又は追加的には、出力に応じて、操作者は、ポンプ38によって供給される灌注液の流量を変更することも、電極が組織に押し付けられる接触力を変更することもできる。
【0064】
いくつかの実施形態では、操作者は、プロセッサ52を介してRFエネルギー発生器34及び/又はポンプ38を制御する。このような実施形態では、操作者は、典型的には、例えば、ユーザインターフェイス56を用いることによって、プロセッサに入力を提供する。入力に応じて、プロセッサは、RFエネルギー発生器及び/又はポンプを制御する制御信号59を生成する。他の実施形態では、プロセッサ52は、RFエネルギー発生器及び/又はポンプを自動的に制御する、即ち、出力生成工程55で生成される出力に制御信号59が含まれる。
【0065】
典型的には、方法49は、アブレーション処置中に繰り返し実行される、即ち、患者26が処置中に継続的にモニタされるように、工程51、53、及び55が順に繰り返し実行される。
【0066】
一般に、プロセッサ52は、単一のプロセッサとして、又は共働的にネットワーク化又はクラスタ化されたプロセッサのセットとして、具現化され得る。プロセッサ52は、典型的には、中央処理装置(CPU)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、ハードドライブ又はCD ROMドライブなどの不揮発性二次記憶装置、ネットワークインターフェイス、及び/又は周辺機器を備える、プログラム式デジタル計算器である。当該技術分野において周知のように、CPUによって実行及び処理するためにプログラムコード(ソフトウェアプログラムを含む)及び/又はデータがRAMに読み込まれ、結果が表示、出力、伝送、又は保存用に生成される。このようなプログラムコード及び/又はデータがプロセッサに提供されると、本明細書に記載のタスクを実行するように構成されている、機械又は専用計算機が作製される。
【0067】
当業者であれば、本発明が上記で具体的に図示及び記載されたものに限定されない点を理解するであろう。それよりもむしろ、本発明の範囲は、上述した様々な特徴の組み合わせ及び部分的組み合わせ、並びに上述の説明を読むことで当業者が想到するであろう、従来技術にはない特徴の変形及び修正を含む。参照により本特許出願に組み込まれた文書は、これらの組み込まれた文書で定義されているあらゆる用語が、本明細書において明示的又は暗示的になされた定義と相反するような場合を除いて、本出願の一体部分と見なされるべきであり、本明細書における定義のみが検討されるべきである。
【0068】
〔実施の態様〕
(1) アブレーション電極及び温度センサーを遠位端に含む体内プローブと共に使用するための方法であって、プロセッサを使用することを含み、前記プロセッサは、
(i)前記アブレーション電極がアブレーション電流を被験者の組織内に流し込んでいて、かつ(ii)流体が前記体内プローブの前記遠位端からある流体流量で送り出されている間、前記温度センサーによって検知された温度を受信することと、
前記検知された温度と、前記流体流量、及び前記アブレーション電流のパラメータからなる群から選択される少なくとも1つのパラメータと、に少なくとも基づいて、前記組織の温度を推定することと、
前記推定された温度に応じて出力を生成することと、を行う、方法。
(2) 前記少なくとも1つのパラメータが、前記アブレーション電流の電力を含む、実施態様1に記載の方法。
(3) 前記組織の前記温度を推定することが、前記組織と前記電極の接点における前記組織の前記温度を推定することを含む、実施態様1に記載の方法。
(4) 前記温度センサーが前記組織と接触していない間、前記温度が検知される、実施態様1に記載の方法。
(5) 前記出力に応じて前記アブレーション電流の電力を調整することを更に含む、実施態様1に記載の方法。
【0069】
(6) 前記アブレーション電流の前記電力を調整することが、前記アブレーション電流を停止することを含む、実施態様5に記載の方法。
(7) 前記出力に応じて、前記流体流量を変更することを更に含む、実施態様1に記載の方法。
(8) 前記出力に応じて、前記電極を前記組織に押し付ける力を変更することを更に含む、実施態様1に記載の方法。
(9) 前記組織の前記温度を推定することが、
前記少なくとも1つのパラメータに応じて係数を選択することと、
少なくとも、前記検知された温度に基づく値に前記係数を乗じることによって、前記組織の前記温度を推定することと、を含む、実施態様1に記載の方法。
(10) 前記係数を選択することが、内挿によって前記係数を計算することを含む、実施態様9に記載の方法。
【0070】
(11) アブレーション電極及び温度センサーを遠位端に含む体内プローブと共に使用するための装置であって、
前記体内プローブに接続するように構成されているインターフェイス部と、
プロセッサであって、
(i)前記アブレーション電極がアブレーション電流を被験者の組織内に流し込んでいて、かつ(ii)流体が前記体内プローブの前記遠位端からある流体流量で送り出されている間、前記温度センサーによって検知された温度を、前記インターフェイス部を介して前記温度センサーから受信し、
前記検知された温度と、前記流体流量、及び前記アブレーション電流のパラメータからなる群から選択される少なくとも1つのパラメータと、に少なくとも基づいて、前記組織の温度を推定し、
前記推定された温度に応じて出力を生成する、
ように構成されている、プロセッサと、を備える、装置。
(12) 前記プロセッサが、前記組織と前記アブレーション電極の接点における前記組織の前記温度を推定するように構成されている、実施態様11に記載の装置。
(13) 前記プロセッサが、
前記少なくとも1つのパラメータに応じて係数を選択することと、
少なくとも、前記検知された温度に基づく値に前記係数を乗じることにより、前記組織の前記温度を推定することと、
によって、前記組織の前記温度を推定するように構成されている、実施態様11に記載の装置。
(14) 前記プロセッサが、前記出力を生成することによって、前記アブレーション電流の電力を調整するように構成されている、実施態様11に記載の装置。
(15) 前記プロセッサが、前記出力を生成することによって、前記アブレーション電流を停止するように構成されている、実施態様14に記載の装置。
【0071】
(16) 前記プロセッサが、前記出力を生成することによって、前記流体流量を変更するように構成されている、実施態様11に記載の装置。
(17) アブレーション電極及び温度センサーを含むプローブと共に使用するための方法であって、
前記アブレーション電極を使用して、組織の複数回のアブレーションを実施することと、
前記アブレーションのそれぞれの実施中、(i)流体を前記プローブからある流体流量で送り出し、(ii)前記温度センサーを使用して温度を検知し、(iii)前記組織の温度を測定することと、
前記アブレーションから、前記検知された温度と前記測定された温度との間の関係を学習することと、を含む、方法。
(18) 前記関係を学習することが、前記測定された温度に基づく変数を前記検知された温度に基づく変数に回帰することによって前記関係を学習することを含む、実施態様17に記載の方法。
(19) 前記回帰することが、線形回帰を実施することを含む、実施態様18に記載の方法。
(20) 前記複数回のアブレーションを実施することが、互いに異なるアブレーション電力を有する少なくとも2回のアブレーションを実施することを含む、実施態様17に記載の方法。
【0072】
(21) 前記複数回のアブレーションを実施することは、前記電極を前記組織に押し付ける力が互いに異なる、少なくとも2回のアブレーションを実施することを含む、実施態様17に記載の方法。