(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
重合性単量体(a)、重合性単量体(b)及び重合開始材(c)を含むレジンマトリックスの硬化後における屈折率:nRと無機フィラー(d)の屈折率:nDの関係が、下記式(2)で表されることを特徴とする請求項1〜3に記載の有機無機複合フィラー。
0≦|nR-nD|<0.03・・・・・(2)
【背景技術】
【0002】
歯科臨床において、齲蝕や破折等により生じた歯牙の欠損に対して審美的及び機能的回復を行うために、歯科充填用コンポジットレジンが用いられている。一般に歯科充填用コンポジットレジンは、数種類の重合性単量体からなるレジンマトリックス、無機フィラーや有機無機複合フィラー等の各種充填材及び重合触媒を混合し、均一なペーストとすることで調製される。
歯科充填用コンポジットレジンに求められる要件として、咬合圧に耐えうる高い機械的強度、天然歯類似の色調及び光透過性、重合硬化時にコントラクションギャップの発生を抑制する低重合収縮性、研磨時の表面滑沢性及び艶の維持性、予後診断を容易にする高いX線造影性、歯質を強化及び二次う蝕を抑制するフッ素などの各種イオン徐放性、歯科医師が充填操作を行う際の操作性に優れること等が挙げられる。特に最近では、患者の歯に対する審美的要求が高まり、研磨時の高い表面滑沢性や艶の維持性を有する歯科充填用コンポジットレジンのニーズは増加する傾向にある。
【0003】
歯科充填用コンポジットレジンに配合する充填材の平均粒子径を小さくすることで優れた表面滑沢性や艶の維持性を付与することが可能となるが、充填材の平均粒子径が小さくなるほどその比表面積が大きくなるため、フィラー充填量が低下するという問題があった。その結果、歯科充填用コンポジットレジンにおける表面硬度の低下や重合収縮率の増加を引き起こすだけでなく、ペーストの粘性が増加して操作性が低下し、チェアタイムが長くなることで術者及び患者への負担や苦痛の増加を招く等の問題があった。この欠点を克服するために、一般的に有機無機複合フィラーと呼ばれる充填材が提案されている。この有機無機複合フィラーは、平均粒子径の小さな無機フィラーを重合性単量体と予め混合して、一度重合硬化させた後、その重合物を粉砕して複合充填材としたものである。
この有機無機複合フィラーを歯科充填用コンポジットレジンに配合することで、優れた仕上げ研磨後の表面滑沢性及び光沢性等の審美的特性を発現する。しかし、有機無機複合フィラーはシランカップリング材による表面処理効果が効きにくく、レジンに対するヌレ性が悪いという欠点があった。そのため、有機無機複合フィラーを配合した歯科充填用コンポジットレジンは機械的強度または操作性に大きな問題を抱えていた。有機無機複合フィラーに対するシランカップリング材の表面処理効果が効きにくい理由は以下のように考えられる。
【0004】
一般的に各種フィラーのレジンに対するヌレ性を向上させ、組成物の機械的強度や耐摩耗性などを向上させる目的で様々な表面処理が行われており、歯科分野においてはその表面処理材として主にシランカップリング材が用いられている。このシランカップリング材は親水性である無機フィラーの表面に存在するシラノール基に対して作用し共有結合を形成することでフィラー表面を疎水化し、レジンに対するヌレ性を向上させる効果を発現する。しかし、有機無機複合フィラー表面はほとんどが硬化したレジンマトリックスで覆われているため、表面に露出した無機フィラーが少ない。また、有機無機複合フィラーを製造する際に、無機フィラーを予めシランカップリング材等を用いて表面処理することが多く、たとえ無機フィラーが有機無機複合フィラー表面に露出していても未反応のシラノール基はほとんど残存していないため有機無機複合フィラーへの表面処理効果が十分に発揮できなくなる。さらには、有機無機複合フィラーのレジンマトリックス表面に対しては、シランカップリング材が単に物理吸着しているだけであるため、フィラー表面からこのシランカップリング材が脱離し易い状況にある。そのため有機無機複合フィラーのレジンに対するヌレ性が経時的に低下し、ペースト性状の変化を引き起こす等、操作性の低下を招いていた。
そこで有機無機複合フィラーにおける機械的特性や操作性の向上を目的として、いくつかの発明が開示されている。
【0005】
特開2001−288232号公報には有機無機複合フィラーに3官能性重合性単量体を用いることにより充填材表面に二重結合を残存させた有機無機複合フィラーが開示されている。しかし、これらは機械的強度の向上を目的としているものの、その効果は未だ不十分である。
【0006】
特開2003−95836号公報には分子中に環状エーテル構造を含むモノ(メタ)アクリレートにより有機無機複合フィラーの表面を処理することが開示されている。この特定の分子構造を有するモノ(メタ)アクリレートを用いて有機無機複合フィラー表面の表面処理を行うことで、有機無機複合フィラー表面のレジンマトリックスに特定の分子構造が作用する。また、この特定の分子構造を有するモノ(メタ)アクリレートは不飽和二重結合を有するため歯科用修復材組成物のレジンと共重合することが可能であり、その結果有機無機複合フィラーとレジンとの界面の結合が強化され、機械的強度の高い歯科用修復材が得られる。しかし、この特定の分子構造を有する表面処理材は有機無機複合フィラー表面のレジンマトリックスにのみ作用させるものであり、表面に露出した無機フィラーに対しての表面処理効果は有していないため、有機無機複合フィラーを均一に表面処理できるものではなかった。
【0007】
特開2010−229420号公報にはシラン化合物及び/またはシラン化合物の低縮合物で表面被覆された有機無機複合フィラーが開示されている。この充填材は研磨性が良好であり、且つ研磨後の表面滑沢性及び光沢性等の特性を損なうことなく、優れた機械的強度、耐久性及びペーストの安定した操作性をともに付与することが可能である。しかし、この充填材の製造には、まず無機フィラーとレジンを均一に混合した後、加熱硬化させたものを粉砕及び分級することにより有機無機複合フィラーを得、さらにその有機無機複合フィラーをエタノールなどの溶媒中に撹拌混合した状態で、シラン化合物の低縮合物を滴下し反応させ、溶媒留去した後、熱処理及び解砕を経るなど、製造工程が煩雑であるという課題があった。
以上述べたように、有機無機複合フィラーを配合した歯科用硬化性組成物に優れた研磨後の表面滑沢性や光沢性、高い透明性、優れた機械的強度や操作性を発現させることができ、且つ煩雑なフィラー製造工程を含まず簡便に製造することができる有機無機複合フィラーはなかった。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の有機無機複合フィラー及びそれらを配合した歯科用硬化性組成物における各成分について詳細に説明する。
本発明の有機無機複合フィラーの製造に用いることができる−OH基、−NH−基、−NH
2基の中から少なくとも一つの官能基を含有する重合性単量体(a)はこれらの官能基を含有しない重合性単量体(b)と共重合することにより、有機無機複合フィラー中のレジンマトリックスを形成する。
この重合性単量体(a)はこれらの官能基の中から少なくとも一つを含有するものであれば何等制限なく用いることができ、歯科分野で一般に用いられる公知の単官能性及び/または多官能性の重合性単量体を好適に用いることができる。それらの代表的な重合性単量体を例示すれば、アクリロイル基及び/またはメタクリロイル基を有する重合性単量体が挙げられる。なお、本発明においては、(メタ)アクリレートまたは(メタ)アクリロイルをもってアクリロイル基含有重合性単量体とメタクリロイル基含有重合性単量体の両者を包括的に表記する。
【0017】
−OH基を有する重合性単量体(a)を具体的に例示すれば、2,2−ビス(4−(3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパン、2−ヒドロキシ−3−アクリロイロキシプロピルジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
−NH−基を有する重合性単量体(a)を具体的に例示すれば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ハイドロキシプロピル(メタ)アクリレートのような水酸基を有する重合性単量体とメチルシクロヘキサンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジイソシアネートメチルメチルベンゼン、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネートのようなジイソシアネート化合物との付加物から誘導される二官能性または三官能性以上のウレタン結合を有するジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0018】
−NH
2基を有する重合性単量体(a)を具体的に例示すれば、p−ビニルアニリン、アミノメチル(メタ)アクリレート、アミノエチル(メタ)アクリレート、アミノプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。またこの重合性単量体(a)は一分子中に同一のこれらの官能基又は異なるこれらの官能基を複数含有していても何等制限はない。
さらに上記の重合性単量体(a)は単独だけでなく、複数を組み合わせて用いることもできる。本発明においては重合性単量体(a)、重合性単量体(b)及び重合開始材(c)からなるレジンマトリックスの硬化後における屈折率を無機フィラー(d)の屈折率に近似させる必要があるため、重合性単量体(a)は重合性単量体(b)と共に、複数の種類の重合性単量体を組み合わせてレジンマトリックスの屈折率を制御することが好ましい態様である。また、上記の重合性単量体(a)以外に、リン酸基、ホスホン酸基、カルボン酸基、スルホン酸基等の酸性基を有する重合性単量体、硫黄原子を分子内に有する重合性単量体、フルオロ基を有する重合性単量体、ハロゲンや他の有機基を有する重合性単量体、(メタ)アクリルアミド誘導体等、前述の特定の官能基(−OH基、−NH−基、−NH
2基)を含んでおり、且つ少なくとも1個以上の重合性基を有しているいずれの単量体(モノマー)、オリゴマーまたはポリマー等を何等制限なく用いることができる。
【0019】
本発明の有機無機複合フィラーの製造に用いる−OH基、−NH−基、−NH
2基をいずれも含有しない重合性単量体(b)はこれらの官能基の中から少なくとも一つは含有する重合性単量体(a)との共重合により、有機無機複合フィラー中のレジンマトリックスを形成することができる。この重合性単量体(b)はこれらの官能基を含有しないものであれば何等制限なく用いることができ、歯科分野で一般に用いられる公知の単官能性及び/または多官能性の重合性単量体を好適に用いることができる。それらの代表的な重合性単量体を例示すれば、アクリロイル基及び/またはメタクリロイル基を有する重合性単量体が挙げられる。なお、本発明においては、(メタ)アクリレートまたは(メタ)アクリロイルをもってアクリロイル基含有重合性単量体とメタクリロイル基含有重合性単量体の両者を包括的に表記する。一般に歯科用硬化性組成物に用いられている単官能性及び/または多官能性の重合性単量体からなり、特に制限はなく公知のものが使用できる。
【0020】
具体的に例示すれば次の通りである。
(1)単官能性重合性単量体:
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、グリセリン(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
(2)芳香族系二官能性重合性単量体:
2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)−2(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2(4−(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2(4−(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)−2(4−(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン等が挙げられる。
【0021】
(3)脂肪族系二官能性重合性単量体:
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
(4)三官能性重合性単量体:
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
(5)四官能性重合性単量体:
ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0022】
上記の重合性単量体(b)は単独だけでなく、複数を組み合わせて用いることもできる。本発明においては重合性単量体(a)、重合性単量体(b)及び重合開始材(c)からなるレジンマトリックスの硬化後における屈折率を無機フィラー(d)の屈折率に近似させる必要があるため、重合性単量体(b)は重合性単量体(a)と共に、複数の種類の重合性単量体を組み合わせてレジンマトリックスの屈折率を制御することが好ましい態様である。また、上記の重合性単量体(b)以外に、リン酸基、ホスホン酸基、カルボン酸基、スルホン酸基等の酸性基を有する重合性単量体、硫黄原子を分子内に有する重合性単量体、フルオロ基を有する重合性単量体、ハロゲンや他の有機基を有する重合性単量体、(メタ)アクリルアミド誘導体等、前述の特定の官能基(−OH基、−NH−基、−NH
2基)を含んでおらず、且つ少なくとも1個以上の重合性基を有しているいずれの単量体(モノマー)、オリゴマーまたはポリマー等を何等制限なく用いることができる。
【0023】
本発明の有機無機複合フィラーの製造に用いる重合開始材(c)は、特に制限されず、光重合開始材、化学重合開始材、熱重合開始材等、歯科分野で一般に用いられる公知の重合開始材が何等制限なく使用することができる。
【0024】
熱重合開始材としては有機過酸化物、アゾ化合物、有機金属化合物等が好適に用いることができる。
有機過酸化物を具体的に例示すると、ベンゾイルパーオキサイド、パラクロロベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ターシャリーブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、2,5−ジハイドロパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ターシャリーブチルパーオキシベンゾエード等が挙げられる。
アゾ化合物を具体的に例示すると、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル、アゾビスシアノ吉草酸等が挙げられる。
有機金属化合物を具体的に例示すると、トリフェニルボラン、トリブチルボラン、トリブチルボラン部分酸化物等の有機ホウ素化合物類等が挙げられる。
これらの熱重合開始材は単独または2種類以上を組み合わせて用いることができる。また、これらの重合開始材は必要に応じてマイクロカプセルに内包するなどの二次的な処理を施しても何等問題はない。
【0025】
化学重合開始材としては、上述の有機過酸化物を用いたレドックス型の重合開始系、例えば有機過酸化物/アミン化合物または有機過酸化物/アミン化合物/スルフィン酸塩、有機過酸化物/アミン化合物/ボレート化合物等が好適に用いることができる。また、酸素や水と反応して重合を開始する有機金属化合物、さらには酸性基を有する重合性単量体との反応により重合を開始するスルフィン酸塩類やボレート化合物類等も用いることができる。
化学重合開始材としての有機過酸化物や有機金属化合物は前述の熱重合開始材として用いるものと同じものが挙げられる。
【0026】
アミン化合物を具体的に例示すると、アミン基がアリール基に結合した第二級または第三級アミンが好ましく、具体的に例示するとp−N,N−ジメチル−トルイジン、N,N−ジメチルアニリン、N−β−ヒドロキシエチル−アニリン、N,N−ジ(β−ヒドロキシエチル)−アニリン、p−N,N−ジ(β−ヒドロキシエチル)−トルイジン、N−メチル−アニリン、p−N−メチル−トルイジン等が挙げられる。
スルフィン酸塩類を具体的に例示すると、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、ベンゼンスルフィン酸リチウム、p−トルエンスルフィン酸ナトリウム等が挙げられる。
ボレート化合物を具体的に例示すると、トリアルキルフェニルホウ素、トリアルキル(p−フロロフェニル)ホウ素(アルキル基はn−ブチル基、n−オクチル基、n−ドデシル基等)のナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩などが挙げられる。
これらの化学重合開始材は単独または2種類以上を組み合わせて用いることができる。また、これらの重合開始材は必要に応じてマイクロカプセルに内包するなどの二次的な処理を施しても何等問題はない。
【0027】
一方、光重合開始材としては、光増感材、光増感材/光重合促進材等が好適に用いることができる。光増感材を具体的に例示すると、ベンジル、カンファーキノン、α−ナフチル、アセトナフセン、p,p'−ジメトキシベンジル、p,p'−ジクロロベンジルアセチル、ペンタンジオン、1,2−フェナントレンキノン、1,4−フェナントレンキノン、3,4−フェナントレンキノン、9,10−フェナントレンキノン、ナフトキノン等のα−ジケトン類、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル類、チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−メトキシチオキサントン、2−ヒドロキシチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン類、ベンゾフェノン、p−クロロベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン類、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド等のアシルフォスフィンオキサイド類、2−ベンジル−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−ベンジル−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−プロパノン−1等のα−アミノアセトフェノン類、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール、ベンジル(2−メトキシエチルケタール)等のケタール類、ビス(シクロペンタジエニル)−ビス〔2,6−ジフルオロ−3−(1−ピロリル)フェニル〕−チタン、ビス(シクペンタジエニル)−ビス(ペンタンフルオロフェニル)−チタン、ビス(シクロペンタジエニル)−ビス(2,3,5,6−テトラフルオロ−4−ジシロキシフェニル)−チタン等のチタノセン類等が挙げられる。
【0028】
光重合促進材を具体的に例示すると、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジ−n−ブチルアニリン、N,N−ジベンジルアニリン、p−N,N−ジメチル−トルイジン、m−N,N−ジメチル−トルイジン、p−N,N−ジエチル−トルイジン、p−ブロモ−N,N−ジメチルアニリン、m−クロロ−N,N−ジメチルアニリン、p−ジメチルアミノベンズアルデヒド、p−ジメチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノベンゾイックアシッド、p−ジメチルアミノベンゾイックアシッドエチルエステル、p−ジメチルアミノベンゾイックアシッドアミノエステル、N,N−ジメチルアンスラニリックアシッドメチルエステル、N,N−ジヒドロキシエチルアニリン、p−N,N−ジヒドロキシエチル−トルイジン、p−ジメチルアミノフェニルアルコール、p−ジメチルアミノスチレン、N,N−ジメチル−3,5−キシリジン、4−ジメチルアミノピリジン、N,N−ジメチル−α−ナフチルアミン、N,N−ジメチル−β−ナフチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリエチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N,N−ジメチルヘキシルアミン、N,N−ジメチルドデシルアミン、N,N−ジメチルステアリルアミン、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、2,2'−(n−ブチルイミノ)ジエタノール等の第三級アミン類、N−フェニルグリシン等の第二級アミン類、5−ブチルバルビツール酸、1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸等のバルビツール酸類、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ジオクチルスズジバーサテート、ジオクチルスズビス(メルカプト酢酸イソオクチルエステル)塩、テトラメチル−1,3−ジアセトキシジスタノキサン等のスズ化合物類、ラウリルアルデヒド、テレフタルアルデヒド等のアルデヒド化合物類、ドデシルメルカプタン、2−メルカプトベンゾオキサゾール、1−デカンチオール、チオサルチル酸等の含イオウ化合物等が挙げられる。
【0029】
さらに、光重合促進能の向上のために、上記光重合促進材に加えて、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、グリコール酸、グルコン酸、α−オキシイソ酪酸、2−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシブタン酸、4−ヒドロキシブタン酸、ジメチロールプロピオン酸等のオキシカルボン酸類の添加が効果的である。
これらの光重合開始材は単独または2種類以上を組み合わせて用いることができる。また、これらの重合開始材は必要に応じてマイクロカプセルに内包するなどの二次的な処理を施しても何等問題はない。
さらにこれらの様々な種類の重合開始材は重合様式や重合方法に関係なく、単独または2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
これらの重合開始材の中でも、有機無機複合フィラーの製造に用いることを考慮に入れると、光や熱などの外部エネルギーを与えることで重合のタイミングを任意に選択でき、また製造時における操作が簡便であること等から、光重合開始材及び/または熱重合開始材を用いることが好ましい。さらには遮光下や赤色光下などの作業環境の制約無しに使用できる点で、熱重合開始材が特に好ましい。
重合開始材(c)の含有量は、好ましくは重合性単量体(a)及び重合性単量体(b)を含む重合性単量体の総量に対して0.01〜10重量%の範囲から適宜選択すればよい。より好ましくは0.05〜7重量%、さらに好ましくは0.1〜5重量%である。重合開始材(c)の含有量が0.01重量%未満では、有機無機複合フィラーの製造において重合性単量体を十分に重合硬化させることができず、機械的特性を含めた様々な効果を得ることができない場合が生じうる。また10重量%を超えて含有する場合は、重合性単量体に対する重合硬化性は変わらないものの、重合開始材が多く残存し変色などを引き起こす恐れがある。
【0031】
本発明の有機無機複合フィラーの製造に用いる無機フィラー(d)としては、何等制限なく用いることができ、歯科分野で一般に用いられる公知のものが使用できる。
無機フィラー(d)を具体的に例示すると、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化イットリウム、酸化ランタン、酸化イッテルビウム等の無機酸化物、シリカ−ジルコニア、シリカ−チタニア、シリカ−チタニア−酸化バリウム、シリカ−チタニア−ジルコニア等の無機複合酸化物、溶融シリカ、石英、ホウ珪酸ガラス、アルミノシリケートガラス、ボロシリケートガラス、アルミノボレートガラス、ボロアルミノシリケートガラス等のガラス類、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、フッ化ストロンチウム、フッ化イットリウム、フッ化ランタン、フッ化イッテルビウム等の金属フッ化物等が挙げられる。
【0032】
これらの無機フィラーは単独もしくは複数組み合わせて用いることができる。これらの中でも、有機無機複合フィラーを配合する歯科用硬化性組成物に高いX線造影性を付与する観点から、有機無機複合フィラーの製造に用いる無機フィラーとしてはストロンチウム、バリウム、ランタン、ジルコニア等の重金属元素を含む無機酸化物やそれらの重金属元素とともにフッ素も含むアルミノシリケートガラス、ボロシリケートガラス、アルミノボレートガラス、ボロアルミノシリケートガラス等を用いることが好ましい。これらの無機フィラーの形状は特に制限はなく、球状、針状、板状、破砕状、鱗片状、多孔質状等の任意の粒子形状から選択することができる。また、それらの凝集体であっても何等問題はない。
【0033】
これらの無機フィラーの平均粒子径は特に制限はないが、本発明の有機無機複合フィラーを配合した歯科用硬化性組成物が優れた研磨性、研磨後の表面滑沢性、光沢性を発現するためには、0.01〜3μmの範囲が好ましく、より好ましくは0.1〜2.0μmの範囲、さらに好ましくは0.1〜1.0μm、最も好ましくは0.1〜0.4μmである。無機フィラーの平均粒子径が0.01μm未満では、比表面積が大きくなるため有機無機複合フィラー中における無機フィラー含有量が低下し、その結果有機無機複合フィラー自体の機械的強度が低下しうる。また3μmを超える場合は有機無機複合フィラーを配合した歯科用硬化性組成物の研磨後における表面滑沢性が低下しうる。
【0034】
また、これらの無機フィラーは有機無機複合フィラーの製造時における重合性単量体とのヌレ性を向上させるために、予め無機フィラーを表面処理して疎水化しておくことが好ましい。無機フィラーの表面処理に用いる表面処理材としては、有機ケイ素化合物、有機ジルコニウム化合物、及び有機チタン化合物等、特に制限はなく公知のものが使用できるが、歯科分野において最も一般的に使用されるのは有機ケイ素化合物に分類されるシランカップリング材である。そのシランカップリング材を具体的に例示すると、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、メトキシトリプロピルシラン、プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、トリメチルシリルイソシアネート、ビニルシリルトリイソシアネート、フェニルシリルトリイソシアネート等が挙げられる。これらのシランカップリング材の中でも有機無機複合フィラー中に含まれる重合性単量体と同じ重合性の有機基を有しているために重合性単量体とのヌレ性に優れ、且つ重合性能も有したγ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランを用いることが好ましい。これらのシランカップリング材は単独または複数を組合せて使用することができる。このシランカップリング材を用いた表面処理方法は、特に制限はなく、公知の方法を適用することができる。また、その表面処理量も無機フィラーの平均粒子径によって適宜選択することができる。
有機無機複合フィラーの製造に用いる無機フィラー(d)の含有量は、好ましくは30〜90重量%の範囲から適宜選択することができるが、より好ましくは50〜90重量%の範囲、さらに好ましくは60〜90重量%の範囲である。無機フィラーの含有量が30重量%未満では、有機無機複合フィラーが有するX線造影性、硬度、機械的強度が低くなるため、その有機無機複合フィラーを歯科用硬化性組成物に配合しても本発明の効果をもたらすことができなくなる場合がある。また90重量%を超えると無機フィラーが均一に分散せず安定した有機無機複合フィラーの製造を実施することができなくなる場合がある。
【0035】
本発明の有機無機複合フィラーの製造に用いるシラン化合物(e)は、下記式(1)で表されるものであれば特に制限はなく公知のものが使用できる。
【化1】
式中、
Xはハロゲンまたは−NCO、
Yは−OR(R:Hまたは炭素数1〜4のアルキル基)、
l+m+n=4、l=0〜3、m=1〜4、n=0〜3
Zはヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の飽和炭化水素基及び/または不飽和炭化水素基である。
【0036】
シラン化合物(e)を具体的に例示すると、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロピルシラン、テトラブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、メトキシトリプロピルシラン、プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、クロロトリメトキシシラン、ビニルトリ(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、トリメトキシシリルイソシアネート、トリエトキシシリルイソシアネート等が挙げられる。またこれらのシラン化合物は単独だけでなく、複数を組合せて使用することができる。さらに、これらのシラン化合物を予め加水分解して縮合させたシラン縮合化合物も用いることができる。
【0037】
これらのシラン化合物の中でも有機無機複合フィラー製造時において重合性単量体と無機フィラーとの馴染みを向上させる分散材としても働くことができる有機基を有したシラン化合物(化学式1におけるnが1以上)を用いることが好ましい。シラン化合物に有機基(重合性基を含まない)が存在する場合は無機フィラーを疎水化できるためにレジンマトリックスとのヌレ性が向上し、より分散性と凝集性が向上することとなる。これらの有機基(重合性基を含まない)を有するシラン化合物を具体的に例示すると、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、メトキシトリプロピルシラン、プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
さらにシラン化合物の有機基に重合性基が含まれることがより好ましい。シラン化合物の有機基に重合性基が含まれる場合は重合性単量体(a)と重合性単量体(b)が共重合してレジンマトリックスを形成する際に一緒に無機フィラーに反応したシラン化合物も共重合するために、レジンマトリックスの側鎖に無機フィラーが結合した状態となる。これらの重合性基が含まれる有機基を有するシラン化合物を具体的に例示すると、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。その中でもγ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランを用いることがさらに好ましい。
【0038】
本発明の有機無機複合フィラーの製造に用いるシラン化合物(e)の含有量は任意で選択することができるが、好ましくは1〜50重量%、より好ましくは1〜30重量%である。有機無機複合フィラー製造時におけるシラン化合物の含有量が1重量%未満では、シラン化合物を配合する効果が現れ難く、本発明の効果を有機無機複合フィラーにもたらすことができない場合がある。一方50重量%を超えると製造した有機無機複合フィラーの硬度や機械的強度に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0039】
本発明の有機無機複合フィラーは透明性に優れることも特徴であり、これは重合性単量体(a)、重合性単量体(b)及び重合開始材(c)を含むレジンマトリックスの硬化後における屈折率と無機フィラーの屈折率を近似させることによって実現することができる。具体的には重合性単量体(a)、重合性単量体(b)及び重合開始材(c)を含むレジンマトリックスの硬化後における屈折率:nRと無機フィラー(d)の屈折率:nDの関係が、下記式(2)で表される関係を満足する必要がある。
0≦|nR-nD|<0.03・・・・・(2)
レジンマトリックスの硬化後における屈折率:nRと無機フィラー(d)の屈折率:nDの差が0.03以上では、硬化後のレジンマトリックスと無機フィラーとの屈折率差が大きくなり、有機無機複合フィラーに濁りが生じる。そのため、有機無機複合フィラーを配合した歯科用硬化性組成物においても透明性の調整が難しく、その結果他の特性を犠牲にしなければ有機無機複合フィラーを配合した歯科用硬化性組成物に高い透明性をもたらすことができない場合がある。
本発明の有機無機複合フィラーを製造する段階において、重合性単量体(a)及び/または重合性単量体(b)として用いる重合性単量体の種類や混合割合を調整することによって、それらの重合性単量体の混合物が重合硬化したレジンマトリックスの屈折率を無機フィラーの屈折率に近似させて高い透明性を本発明の有機無機複合フィラーに付与することができる。また重合開始材もレジンマトリックスの構成成分であり、その屈折率に少なからず影響を与えるものの、その含有量が少ないために屈折率への影響は少ないものと考えられる。しかし、含有量が多い場合は屈折率に影響を与えるために重合性単量体だけでなく重合開始材も含めて混合割合等を調整する必要がある。
【0040】
本発明の有機無機複合フィラーの製造方法は、特に制限はなく、いずれの方法も採用することができるが、従来から歯科分野において行われている重合開始材として熱重合開始材を用いた有機無機複合フィラーの製造方法を用いることが好ましい。ここでは従来から行われている有機無機複合フィラーの製造方法について記述するものの、その中で本発明の効果についても記述する。
【0041】
従来の製造方法においては先ず重合性単量体、重合開始材及び無機フィラーを乳鉢、ニーダー、ロール及び雷カイ機等を用いて機械的に混練して均一なペーストを調製する。別の態様として、重合性単量体及び重合開始材を予め混合してレジン混合物とした後、このレジン混合物と無機フィラーを機械的に混練してペーストを調製しても良い。この時、ペースト中の無機フィラー含有量を高めるためには無機フィラーの表面を予めシランカップリング材により表面処理して重合性単量体であるレジン成分とヌレ性を高める必要があった。そのため、前工程として無機フィラーを予めシランカップリング材により表面処理しなければならなかった。
本発明の有機無機複合フィラーの製造時においては、重合性単量体、重合開始材及びシラン化合物を含むレジン混合物と予めシランカップリング材による表面処理を行っていない無機フィラーを混合(インテグラルブレンド)することで、無機フィラーをレジン混合物中で均一に分散させることができ、無機フィラーが高充填化されたペーストを調製することが可能となる。これは予めシランカップリング材を用いて無機フィラーを表面処理した場合と比較してもペースト中の無機フィラー充填量をさらに高めることができる。また、この製造方法は予め無機フィラーをシランカップリング材により表面処理するという製造工程を省略できるために製造工程を簡略化することができ、また製造コストも抑えることができることも本発明の効果の一つである。
【0042】
次に、このペーストを加熱プレス等の適切な重合設備を用いて重合させる。重合温度は、重合開始材の分解温度に応じて適宜選択すればよいが、20〜250℃の範囲が好ましく、より好ましくは60〜200℃の範囲である。重合時間は重合物の重合状態及び残存未反応モノマー量等を考慮に入れ適宜決めればよい。また、一般に重合は重合物が変色しないように窒素やアルゴンのような不活性ガス雰囲気下で行うこともできる。重合は大気圧下の重合で十分であるが、必要に応じて、加圧下でも行うことができる。また、ペーストの調製及び重合を加圧ニーダー等の混練機を用いて同時に行うことができる。
次に、この重合物を粉砕して有機無機複合フィラーを得る。粉砕方法は特に限定されないが、当該分野で一般に採用されている方法で行うことができる。例えば、ボールミルや振動ミル等の容器駆動媒体ミル、ハンマーミルやターボミル等の高速回転ミル、サンドグライダーやアトライター等の媒体攪拌ミルが挙げられ、必要な平均粒子径に応じて適宜選定できる。また、粉砕時に粉砕物が着色しないように不活性ガス雰囲気下またはアルコール等の溶媒中で行うこともできる。また、酸化防止材、例えば、ハイドロキノンモノメチルエーテル等の公知のフェノール類を添加して粉砕することもできる。粉砕した有機無機複合フィラーの平均粒子径は1〜100μmの範囲が好ましい。より好ましくは3〜50μm、さらに好ましくは5〜30μmである。
【0043】
本発明の有機無機複合フィラーは、粉砕後に前述のシランカップリング材によって表面処理を行い、歯科用硬化性組成物に配合することが好ましい。本発明の有機無機複合フィラーは表面にシランカップリング材との反応点を多く有しているため、シランカップリング材を用いて表面処理を行うことで有機無機複合フィラーの表面が高度に疎水化される。その結果、有機無機複合フィラーを歯科用硬化性組成物中に高充填化することが可能となり、機械的強度が向上し重合収縮が低減する効果を発現することができる。有機無機複合フィラーの表面処理に用いるシランカップリング材は、有機無機複合フィラーの製造時に無機フィラーと重合性単量体との馴染みを向上させるために無機フィラーを表面処理した同じ種類のシランカップリング材を用いることができる。そのシランカップリング材を具体的に例示すると、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、メトキシトリプロピルシラン、プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、トリメチルシリルイソシアネート、ビニルシリルトリイソシアネート、フェニルシリルトリイソシアネート等が挙げられる。これらのシランカップリング材の中でも歯科用硬化性組成物中に含まれる重合性単量体と同じ重合性の有機基を有しているために重合性単量体とのヌレ性に優れ、且つ重合性能も有したγ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランを用いることが好ましい。これらのシランカップリング材は単独または複数を組合せて使用することができる。このシランカップリング材を用いた表面処理方法は、特に制限はなく、公知の方法を適用することができる。また、その表面処理量も無機フィラーの平均粒子径によって適宜選択することができる。
【0044】
本発明の有機無機複合フィラーはシランカップリング材を用いた表面処理によって高度に疎水化することができ、その疎水化の程度は接触角によって測定することができる。本発明の有機無機複合フィラーは好ましくは接触角が100°以上、より好ましくは105°以上、さらに好ましくは110°以上を示すことである。接触角が100°以下では有機無機複合フィラーを歯科用硬化性組成物に配合した場合に、重合性単量体であるレジン成分とのヌレ性が乏しく、有機無機複合フィラーを歯科用硬化性組成物中に高充填化することが出来ない場合がある。
また、有機無機複合フィラーの疎水化の程度を測定する別の方法としては、実施例中の<稠度>の項目に示した方法で判断することもできる。ペーストの稠度が高いということは有機無機複合フィラーと重合性単量体であるレジン成分とのヌレ性が向上し、ペースト中における有機無機複合フィラーの高充填化が可能となることである。
歯科用硬化性組成物中の有機無機複合フィラーの配合量は、好ましくは5〜80重量%、より好ましくは10〜75重量%、さらに好ましくは15〜70重量%である。歯科用硬化性組成物中の有機無機複合フィラーの配合量が5重量%未満では、ペーストの粘着性が高くなり、重合収縮も大きくなりうるため好ましくない。また80重量%を超えるとペーストのざらつきが増して滑らかさが低下するとともに、スパチュラ等でペーストを伸ばしにくくなりうるため好ましくない。
【0045】
本発明の歯科用硬化性組成物に含まれる重合性単量体(g)は、特に制限はなく歯科分野で一般に用いられる公知の重合性単量体を使用することができる。その中でも前述した本発明の有機無機複合フィラーの製造に用いた特定の官能基を有した重合性単量体(a)または特定の官能基を有していない重合性単量体(b)の中から少なくとも1種類は同じ重合性単量体を使用することが好ましい。より好ましくは本発明の有機無機複合フィラーの製造に用いた同じ種類の重合性単量体(a)及び重合性単量体(b)を用いることである。これにより、本発明の有機無機複合フィラーと重合性単量体であるレジン成分との親和性が向上するため、歯科用硬化性組成物において高いフィラー充填量を達成することが可能となる。
【0046】
本発明の歯科用硬化性組成物に含まれる無機フィラー(h)は、特に制限はなく歯科分野で一般に用いられる公知のものが使用することができる。その中でも、前述した有機無機複合フィラーの製造に用いた無機フィラー(d)と同じ平均粒子径及び形状のものを用いることがより好ましい。無機フィラー(h)の歯科用硬化性組成物に対する配合量は、好ましくは5〜80重量%、より好ましくは10〜75重量%、さらに好ましくは15〜70重量%である。歯科用硬化性組成物における無機フィラーの配合量が5重量%未満では、歯科用硬化性組成物の機械的強度が低下しうる。また80重量%を超えると無機フィラーが均一に分散せず安定した歯科用硬化性組成物の製造を実施することが困難になる場合がある。
本発明の歯科用硬化性組成物は、有機無機複合フィラー(f)及び無機フィラー(h)を組み合わせて歯科用硬化性組成物中に高充填することで、機械的強度が高く、重合収縮率が低く、研磨後の表面滑沢性及び光沢性に優れ、且つ充填器に付着しにくく付形性に優れたペースト性状を付与することが可能となる。歯科用硬化性組成物における有機無機複合フィラー(f)と無機フィラー(h)の配合量合計は、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上である。歯科用硬化性組成物における有機無機複合フィラー(f)と無機フィラー(h)の配合量合計が60重量%未満では、ペーストの粘着性が高く、付形性の悪いペースト性状になり、さらに重合収縮も大きくなる恐れがある。
【0047】
本発明の歯科用硬化性組成物に含まれる重合開始材(i)は、特に制限はなく歯科分野で一般に用いられる公知のものが使用でき、本発明の有機無機複合フィラーの製造に用いた前述の重合開始材(c)の中から適宜選択して用いることができる。
これらの重合開始材の中でも、光照射によりラジカルを発生する光重合開始材を用いることが好ましい態様であり、空気の混入が少ない状態で歯科用硬化性組成物を重合させることができる点で最も好適に使用される。また、光重合開始材の中でも、α−ジケトンと第三級アミンの組み合わせがより好ましく、カンファーキノンとp−N、N−ジメチルアミノ安息香酸エチル等のアミノ基がベンゼン環に直結した芳香族アミンまたはN、N−ジメチルアミノエチルメタクリレート等の分子内に二重結合を有した脂肪族アミン等の組み合わせが最も好ましい。また、使用用途に応じて他に、クマリン系、シアニン系、チアジン系等の増感色素類、ハロメチル基置換−s−トリアジン誘導体、ジフェニルヨードニウム塩化合物等の光照射によりブレンステッド酸またはルイス酸を生成する光酸発生材、第四級アンモニウムハライド類、遷移金属化合物類等も適宜使用することができる。
【0048】
本発明の硬化性歯科用組成物に含まれる重合開始材(i)の配合量は、使用用途に応じて適宜選択することができるが、重合性単量体(g)の総量に対して好ましくは0.01〜10重量%、より好ましくは0.05〜7重量%、さらに好ましくは0.1〜5重量%の範囲である。重合開始材の配合量が0.01重量%未満では、重合開始材としての効果を得難くなる場合がある。また10重量%を超えて配合しても硬化性は変わらないだけでなく、硬化物からの溶出を招く恐れがある。
【0049】
本発明の歯科用硬化性組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、上記(a)〜(i)成分に加えて、公知の添加材等が配合されていても良い。例えば、有機無機複合フィラー(f)または無機フィラー(d)以外のフィラー、重合禁止材、酸化防止材、紫外線吸収材、抗菌材、染料、顔料等が挙げられる。
本発明の歯科用硬化性組成物は、以上に示した各成分を混合することで調製される。
本発明の歯科用硬化性組成物の包装形態は、特に限定されず、重合開始材の種類、または使用目的により、1パック包装形態または2パック包装形態、またはそれ以外の形態のいずれも可能であり、用途に応じて適宜選択することができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明をより詳細に、且つ具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例及び比較例で使用した材料とその略称を以下に示す。
【0051】
〔−OH基、−NH−基、−NH
2基の中から少なくとも一つの官能基を含有する重合性単量体;重合性単量体(a)〕
・Bis-GMA: 2,2−ビス[4−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]プロパン(硬化前の屈折率:1.55)
・UDMA: N,N−(2,2,4−トリメチルヘキサメチレン)ビス[2−(アミノカルボキシ)エタノール]メタクリレート(硬化前の屈折率:1.48)
〔−OH基、−NH−基、−NH
2基をいずれも含有しない重合性単量体;重合性単量体(b)〕
・Bis―MPEPP: 2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン(硬化前の屈折率:1.54)
・3G: トリエチレングリコールジメタクリレート(硬化前の屈折率:1.46)
〔無機フィラー〕
・無機フィラーA: フルオロアルミノシリケートガラスフィラー(平均粒子径0.4μm、屈折率nD:1.53)
・無機フィラーB: フルオロアルミノシリケートガラスフィラー(平均粒子径0.4μm、屈折率nD:1.53) 100重量部を通法に従い、9重量部のMPSで表面処理を行ったもの
・無機フィラーC: フルオロアルミノシリケートガラスフィラー(平均粒子径1μm、屈折率nD:1.53) 100重量部を通法に従い、6重量部のMPSで表面処理を行ったもの
・アエロジルR711(超微粒子フィラー)
【0052】
〔シラン化合物〕
・TEOS:テトラエトキシシラン
・MEOS:メチルトリエトキシシラン
・MPS:γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン
〔重合開始材〕
・DMABE: N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチル
・BPO: 過酸化ベンゾイル
・CQ: α−カンファーキノン
〔シランカップリング材〕
・MPS: γ‐メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン
【0053】
実施例及び比較例において採用した試験方法は以下の通りである。
(1)接触角
接触角の測定方法は、表面処理された有機無機複合フィラーを荷重20tfにて1分間プレスすることで成型した粉体のブロック表面に対して5.0ccの水を滴下し、滴下直後から10秒後の接触角を測定した。
【0054】
(2)透明性
表面処理された有機無機複合フィラー 72.5重量部、アエロジルR711 2.5重量部、透明性確認用の液体状混合レジン 25重量部を混合して混練し均一なペーストを調製した。なお、透明性確認用の液体状混合レジンは当該有機無機複合フィラーの製造に用いたレジンマトリックスを形成する重合性単量体(a)及び(b)を同じ比率で混合した混合重合性単量体 100重量部、DMABE 1重量部、CQ 0.3重量部の混合物からなる。その後、ステンレス製金型(内径15mm、厚さ1mm)に充填し、両面にカバーガラスを置いて圧接した後、可視光線照射器(ソリディライトV:松風社製)を用いて両面からそれぞれ3分間光照射することにより硬化体を得た。この硬化体を文字が印字された紙の上に置き、透明性を目視により判定した。背景の文字が容易に判別でき透明性に優れるものについては○、背景の文字が明瞭に判別でき特に透明性に優れるものについては◎、背景の文字が明瞭に判別できず、透明性の劣るものについては×と判定した。
【0055】
(3)曲げ強度
歯科用硬化性組成物をステンレス製金型に充填した後、両面にカバーガラスを置き、ガラス練板で圧接した後、光重合照射器(ブルーショット:松風製)を用いて5ヶ所10秒間ずつ光照射を行い、硬化させた。硬化後、金型から硬化物を取り出した後、再び同様に裏面も光照射を行い、それを試験体(25×2×2mm:直方体型)とした。その試験体を37℃、24時間水中に浸漬した後、曲げ試験を行った。
曲げ試験は、インストロン万能試験機(インストロン5567、インストロン社製)を用い支点間距離20mm、クロスヘッドスピード1mm/minにて行った。
なお、試験は試験体数10個で行い、その平均値をもって評価した。
【0056】
(4)稠度
歯科用硬化性組成物を25℃の恒温室(湿度50%)に1日間静置後、ガラス板上に歯科用硬化性組成物を300mm
3計量した。その上にガラス板を載せ、更に385gの重りを載せた後、3分間放置した。3分間経過後、重りを外し、円状に広がった歯科用硬化性組成物の平行切線間の寸法を2点測定し、その2点の平均値を初期稠度(mm)とした。
【0057】
(5)重合収縮率
歯科用硬化性組成物をステンレス製金型(内径10mm、厚さ2mm)に充填し、両面にカバーガラスを置いて圧接した後、可視光線照射器(ソリディライトV:松風社製)を用いて両面からそれぞれ3分間光照射することにより歯科用硬化性組成物の硬化体を得た。
硬化前と硬化後における歯科用硬化性組成物の密度をガスピクノメーター(アキュピック1303:Micromeritics社製)を用いて測定し、得られた測定値から式(3)に従い、重合収縮率を算出した。なお、密度の測定は25℃にて行った。
重合収縮率(vol%)=(1−D
before/D
after)×100 ・・・(3)
(D
before:歯科用硬化性組成物の硬化前の密度、D
after:歯科用硬化性組成物の硬化後の密度)
【0058】
(6)操作性
歯科用硬化性組成物を37℃湿度100%の環境下にて1級窩洞の模型に充填することでペーストの操作性を評価した。組成物を充填する際の操作性を、ベタつきやパサつきが少なく、充填操作がしやすいものについては○、特に充填操作性に優れるものは◎、ベタつきやパサつきが強く充填操作が困難なものについては×と評価した。
【0059】
(7)滑沢性
歯科用硬化性組成物の硬化体について、表面を耐水研磨紙320番で研磨後、コンポマスター(松風社製)にて30秒間仕上げ研磨し、表面の光沢度を目視により判定した。滑沢性に優れるものについては○、特に滑沢性に優れるものについては◎、滑沢性の劣るものについては×と判定した。
【0060】
以下の手順に従って、表1に示す有機無機複合フィラーA〜Pを作製した。また、有機無機複合フィラーA〜Pの接触角、レジンマトリックス硬化後の屈折率:nRと無機フィラー(d)の屈折率:nDの関係及び透明性の判定結果を表2に示す。
(有機無機複合フィラーの製造A)
Bis-GMA 47重量部、3G 47重量部、TEOS 6重量部、BPO 0.5重量部の混合物からなる液体状レジン 25重量部に、アエロジルR711 2.5重量部、無機フィラーB 72.5重量部を混合して混練し均一なペーストを調製した。その後、窒素雰囲気下、100℃にて4時間加熱して硬化させたものを粉砕及び分級することにより、平均粒子径が25μmの粉末を得た。さらにこの粉末 100重量部を通法に従い、6重量部のMPSで表面処理を行い、有機無機複合フィラーAを得た。この有機無機複合フィラーAは透明性に優れ、接触角を測定したところ、112°であった。
【0061】
(有機無機複合フィラーの製造B)
有機無機複合フィラーAと同様に製造を行い、有機無機複合フィラーBを得た。ただし、無機フィラーBに代えて無機フィラーAを用いた。この有機無機複合フィラーBは透明性に優れ、接触角を測定したところ、118°であった。
(有機無機複合フィラーの製造C)
有機無機複合フィラーAと同様に製造を行い、有機無機複合フィラーCを得た。ただし、TEOSに代えてMEOSを用いた。この有機無機複合フィラーCは透明性に優れ、接触角を測定したところ、115°であった。
【0062】
(有機無機複合フィラーの製造D)
有機無機複合フィラーCと同様に製造を行い、 有機無機複合フィラーDを得た。ただし、無機フィラーBに代えて無機フィラーAを用いた。この有機無機複合フィラーDは透明性に優れ、接触角を測定したところ、114°であった。
(有機無機複合フィラーの製造E)
有機無機複合フィラーAと同様に製造を行い、有機無機複合フィラーEを得た。ただし、TEOSに代えてMPSを用いた。この有機無機複合フィラーEは透明性に優れ、接触角を測定したところ、118°であった。
【0063】
(有機無機複合フィラーの製造F)
有機無機複合フィラーEと同様に製造を行い、有機無機複合フィラーFを得た。ただし、無機フィラーBに代えて無機フィラーAを用いた。この有機無機複合フィラーFは透明性に優れ、接触角を測定したところ、117°であった。
(有機無機複合フィラーの製造G)
有機無機複合フィラーAと同様に製造を行い、有機無機複合フィラーGを得た。ただし、無機フィラーBに代えて無機フィラーCを用いた。この有機無機複合フィラーGは透明性に優れ、接触角を測定したところ、114°であった。
【0064】
(有機無機複合フィラーの製造H)
UDMA 56.4重量部、Bis−MPEPP 28.2重量部、3G 9.4重量部、TEOS 6重量部、BPO 0.5重量部の混合物からなる液体状レジン 25重量部に、アエロジルR711 2.5重量部、無機フィラーB 72.5重量部を混合して混練し均一なペーストを調製した。その後、窒素雰囲気下、100℃にて4時間加熱して硬化させたものを粉砕及び分級することにより、平均粒子径が25μmの粉末を得た。さらにこの粉末 100重量部を通法に従い、6重量部のMPSで表面処理を行い、有機無機複合フィラーHを得た。この有機無機複合フィラーHは透明性に優れ、接触角を測定したところ、115°であった。
(有機無機複合フィラーの製造I)
UDMA 47重量部、3G 47重量部、TEOS 6重量部、BPO 0.5重量部の混合物からなる液体状レジン 25重量部に、アエロジルR711 2.5重量部、無機フィラーB 72.5重量部を混合して均一に混練し均一なペーストを調製した。その後、窒素雰囲気下、100℃にて4時間加熱して硬化させたものを粉砕及び分級することにより、平均粒子径が25μmの粉末を得た。さらにこの粉末 100重量部を通法に従い、6重量部のMPSで表面処理を行い、有機無機複合フィラーIを得た。この有機無機複合フィラーは透明性に劣り、接触角を測定したところ、115°であった。
【0065】
(有機無機複合フィラーの製造J)
Bis-GMA 50重量部、3G 50重量部、BPO 0.5重量部の混合物からなる液体状レジン 25重量部に、アエロジルR711 2.5重量部、無機フィラーB 72.5重量部を混合して混練し均一なペーストを調製した。その後、窒素雰囲気下、100℃にて4時間加熱して硬化させたものを粉砕及び分級することにより、平均粒子径が25μmの粉末を得た。さらにこの粉末 100重量部を通法に従い、6重量部のMPSで表面処理を行い、有機無機複合フィラーJを得た。この有機無機複合フィラーは良好な透明性を有し、接触角を測定したところ、95°であった。
(有機無機複合フィラーの製造K)
有機無機複合フィラーJと同様に製造を行い、有機無機複合フィラーKを得た。ただし、無機フィラーBに代えて無機フィラーAを用いた。この有機無機複合フィラーKは良好な透明性を有し、接触角を測定したところ、90°であった。
【0066】
(有機無機複合フィラーの製造L)
Bis−MPEPP 47重量部、3G 47重量部、BPO 0.5重量部、6重量部のTEOSの混合物からなる液体状レジン 25重量部に、アエロジルR711 2.5重量部、無機フィラーB 72.5重量部を混合して均一に混練し均一なペーストを調製した。その後、窒素雰囲気下、100℃にて4時間加熱して硬化させたものを粉砕及び分級することにより、平均粒子径が25μmの粉末を得た。さらにこの粉末 100重量部を通法に従い、6重量部のMPSで表面処理を行い、有機無機複合フィラーLを得た。この有機無機複合フィラーは透明性に優れ、接触角を測定したところ、102°であった。
(有機無機複合フィラーの製造M)
有機無機複合フィラーAと同様に製造を行い、有機無機複合フィラーMを得た。ただし、液体状レジンと無機フィラーBとの混合割合が有機無機複合フィラーAとは異なる。この有機無機複合フィラーMは透明性に優れ、接触角を測定したところ、121°であった。
(有機無機複合フィラーの製造N)
有機無機複合フィラーAと同様に製造を行い、有機無機複合フィラーNを得た。ただし、液体状レジンと無機フィラーBとの混合割合が有機無機複合フィラーAとは異なる。この有機無機複合フィラーNは透明性に優れ、接触角を測定したところ、119°であった。
(有機無機複合フィラーの製造O)
有機無機複合フィラーAと同様に製造を行い、有機無機複合フィラーOを得た。ただし、液体状レジンと無機フィラーBとの混合割合が有機無機複合フィラーAとは異なる。この有機無機複合フィラーOは透明性に優れ、接触角を測定したところ、110°であった。
(有機無機複合フィラーの製造P)
有機無機複合フィラーAと同様に製造を行い、有機無機複合フィラーPを得た。ただし、液体状レジンと無機フィラーBとの混合割合が有機無機複合フィラーAとは異なる。この有機無機複合フィラーPは透明性に優れ、接触角を測定したところ、106°であった。
【0067】
(歯科用硬化性組成物の調製)
実施例1〜16及び比較例1〜3
表2に示す割合にて各成分を混練した後、真空下で脱泡することによりペースト状の歯科用硬化性組成物(実施例1〜16、比較例1〜3)を調製した。
調製した歯科用硬化性組成物について、上述の方法に従い曲げ強度、稠度、重合収縮率、操作性、滑沢性の評価を行った。それらの試験結果を表2に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
【表3】
【0071】
【表4】
【0072】
表4に示されるように、シラン化合物を含まない従来の有機無機複合フィラーを用いた比較例1、2の歯科用硬化性組成物は、硬化体の表面滑沢性は良好であるものの曲げ強度は非常に低いことが分かる。また有機無機複合フィラーのレジンに対するヌレ性が乏しいため稠度が低く、パサついたペースト性状であるため操作性に劣ることが分かる。
比較例3については、有機無機複合フィラーの重合性単量体に−OH基、−NH−基、−NH
2基の中から少なくとも一つの官能基を含有する重合性単量体を用いていない。そのため、有機無機複合フィラーに含まれるシラン化合物とレジンとの相互作用が減少し、曲げ強度が低くなることが分かる。
【0073】
これに対し、実施例1〜16で示される本発明の有機無機複合フィラー(A〜I及びM〜P)を用いた歯科用硬化性組成物は、ペーストの操作性、硬化体の表面滑沢性に優れるだけでなく、曲げ強度が顕著に高いことが分かる。さらに、本発明の有機無機複合フィラー(A〜I及びM〜P)はレジンに対するヌレ性の指標である稠度が高く、実施例8及び9から明らかなようにフィラーの高充填化が可能である。そのため、歯科用硬化性組成物の重合収縮が大幅に抑制されることが分かる。
実施例7では歯科用硬化性組成物の重合性単量体に有機無機複合フィラーの製造に用いた重合性単量体とは異なる成分を用いている。そのため、歯科用硬化性組成物の重合性単量体に有機無機複合フィラーの製造に用いた重合性単量体と同一のものを用いた他の実施例と比較して、有機無機複合フィラーのレジンに対する親和性がやや低下し曲げ強度及び稠度がやや低くなることが分かる。
【0074】
実施例10では有機無機複合フィラーに1μmの無機フィラーを用いている。そのため、0.4μmの無機フィラーを用いている他の実施例と比較して研磨後の表面滑沢性がやや劣ることが分かる。
【0075】
実施例14では有機無機複合フィラーにおいて90重量部を超える無機フィラーを用いている。そのため、無機フィラーの含有量が過剰であり、結合剤としてのレジンの量が不足し、有機無機複合フィラーが脆くなり、実施例1と比較して曲げ強度がやや劣ることが分かる。
実施例15では有機無機複合フィラーにおいて30重量部の無機フィラーを用いている。そのため、無機フィラーの含有量が少なく、表面の疎水性が低下し、実施例1と比較して、有機無機複合フィラーの接触角及び稠度が低下するため、曲げ強度がやや劣ることが分かる。
実施例16では有機無機複合フィラーにおいて無機フィラーの使用量が30重量部未満である。そのため、表面の疎水性がさらに低下し、有機無機複合フィラーの接触角及び稠度がさらに低下するため、曲げ強度が他の実施例と比較してやや劣ることが分かる。
以上の結果から、本発明の歯科用硬化性組成物は、優れた研磨後の表面滑沢性、透明性、低重合収縮性、高い機械的強度を有し、かつ優れた操作性を有することが確認された。