【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.平成28年8月22日付で一般社団法人 日本原子力学会ホームページ (https://confit.atlas.jp/guide/event/aesj2016f/proceedings/list)に掲載 2.平成28年9月9日付で日本原子力学会 2016年秋の大会(場所:久留米シティプラザ)にて公開
【文献】
東京電力ホールディングス,MAAPコードの概要,「福島原子力事故における未確認・未解明事項の調査・検討結果〜第2回進捗報告」,日本,2014年 8月 6日,p.1−11,URL,https://www.tepco.co.jp/decommission/information/accident_unconfirmed/pdf/2014/140806j0104.pdf
【文献】
重大事故等対策の有効性評価に係るシビアアクシデント解析コードについて,中国電力株式会社資料,日本,2015年 7月,p.1−22,URL,https://www.energia.co.jp/judging/gaiyou/pdf/gaiyou_h270710_2.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部は、原子炉圧力容器破損のタイミング、及び原子炉格納容器圧力の少なくとも1つの実測値に基づいて、予測データを補正する、請求項1に記載の原子炉リスク管理装置。
前記制御部は、前記選択された状態予測元データに基づいて、原子炉格納容器圧力が所定の値に到達するまでの時間を予測する、請求項1又は2に記載の原子炉リスク管理装置。
前記入力パラメータは、更に、原子炉圧力容器破損後の原子炉注水の有無、原子炉格納容器へのスプレイの有無、放射性物質の環境放出経路、フィルタベントの有無、及びpH制御の有無のうちの少なくとも1つを含み、
前記pH制御は、原子炉格納容器内にアルカリ性物質を供給することである、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の原子炉リスク管理装置。
前記制御部は、原子炉への冷却水の注水が停止した後は、注水が継続して停止しているものとして原子炉水位、原子炉圧力容器破損のタイミング、原子炉格納容器圧力、放射性物質の環境放出時刻、及び放射性物質の環境放出量のうちの少なくとも1つを予測する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の原子炉リスク管理装置。
前記制御部は、原子炉への冷却水の注水が停止した後のペデスタル注水、原子炉注水、及びドライウェルスプレイを考慮して放射性物質の環境放出量を予測する、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の原子炉リスク管理装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明をより具体的に説明する。
【0018】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る原子炉リスク管理装置200による予測対象である、原子炉システム100の構成の一例を示すブロック図である。なお、本実施形態では、原子炉システム100は、沸騰水型軽水炉(BWR: Boiling Water Reactor)を例として説明するが、改良型沸騰水型軽水炉(ABWR: Advanced Boiling Water Reactor)又は加圧水型軽水炉(PWR: Pressurized Water Reactor)等、他の型の原子炉であってもよい。放射性物質である燃料と炉心3を備えた原子炉圧力容器1と、原子炉圧力容器1を取り囲み、冷却材喪失時等に外部への放射性物質の放出を抑制する原子炉格納容器20と、原子炉格納容器20を取り囲む原子炉建屋40とを備えている。また、
図1には、原子炉圧力容器1内に冷却材である軽水を供給する給水ポンプ5、及び原子炉格納容器20内の放射性物質をフィルタ除去してベントを実行させるためのフィルタベント部30を併せて示している。
【0019】
原子炉圧力容器1(RPV: Reactor Pressure Vessel)は、燃料である濃縮ウラン、及び炉心3を内部に備えている。原子炉圧力容器1は、鋼鉄製の構造物であり、放射性物質からの放射線が外部に漏洩しないような厚みを有している。また、原子炉圧力容器1には、
図1に示すように、給水ポンプ5から供給される冷却材である軽水を内部に流通させるために、給水路5a及び蒸気供給路7aが連結されている。給水路5aを経由して供給された冷却材は、炉心3の熱を受け取って高温の蒸気となった後、蒸気供給路7a及び調圧弁7を経由して図示しない蒸気タービンに送られ、蒸気タービンを回転させることにより発電を行う。
【0020】
原子炉格納容器20(PCV: Primary Containment Vessel)は、冷却材喪失時等に原子炉圧力容器1から漏出した放射性物質が外部に漏洩しないようにバリアとしての役割を有する。原子炉格納容器20は、
図1に示すように、上述の原子炉圧力容器1と、原子炉格納容器20の底部左右に1箇所ずつ配置されるサプレッションプール22とを備える。また、上述の蒸気供給路7aから分岐し、主蒸気逃がし弁9経由で冷却材をサプレッションプール22へと導く逃がし流路9aが配設されている。
【0021】
サプレッションプール22は、内部に水を有し、原子炉圧力容器1から逃がし流路9a経由で放出された蒸気を水で凝縮して圧力上昇を抑制する機能を有する。また、サプレッションプール22は、原子炉圧力容器1から漏出して原子炉格納容器20内に拡がった放射性物質を含む蒸気を同様に水で凝縮することによって原子炉格納容器20内の圧力上昇を抑制している。なお、サプレッションプール22は、導入された蒸気の圧力を抑制するのみならず、蒸気に含まれる放射性物質を除去する役割を果たす。すなわち、本実施形態では、原子炉格納容器20内の蒸気をサプレッションプール22内の水に通すことにより、蒸気に含まれる放射性物質を除去することができる。
【0022】
サプレッションプール22内で水に通すことにより圧力を下げられた蒸気は、
図1に示すように、排出路22aを経由してフィルタベント部30に導入される。フィルタベント部30内の水に通された蒸気は、更に放射性物質が除去された後、大気開放路30aから外部に放出される。また排出路22aから分岐する大気開放路22bから直接外部に放出することもできる。
【0023】
次に、原子炉リスク管理装置200について説明する。
図2は、本発明の第1実施形態に係る原子炉リスク管理装置200の構成を示すブロック図である。原子炉リスク管理装置200は、使用者が入力パラメータを入力する入力部210と、後述する事前計算用パラメータに基づいてMAAP(Modular Accident Analysis Program)コードを用いて計算された状態予測元データを記憶する記憶部250と、入力パラメータ等に基づいて記憶部250内の状態予測元データから事故フェーズに合致する状態予測元データを選択して原子炉格納容器圧力等の予測を行う制御部230と、予測結果を出力する出力部290とを備えている。
【0024】
制御部230による動作は、例えばマイクロコンピュータ又はPC(Personal Computer)に搭載されたCPU(Central Processing Unit)によりプログラムを実行させることにより構成することができる。また、制御部230による動作は、ハードウエアにより実現してもよい。
【0025】
記憶部250は、例えば制御部230を構成するマイクロコンピュータ内に設けられたIC(Integrated Circuit)メモリ等をCPU(Central Processing Unit)によって制御することにより実現することができる。
【0026】
また、記憶部250は、例えばPCに接続される記録再生装置と、当該記録再生装置が記録再生可能な記憶媒体とから構成されていてもよい。記憶媒体としては、例えばICメモリ、HDD(登録商標)(Hard Disc Drive)、CD(Compact Disc)、DVD(登録商標)(Digital Versatile Disc)、またはBD(Blu-ray(登録商標) Disc)などを用いることができる。この場合、記憶部250は、PCに搭載されたCPU等によって制御するように構成することができる。
【0027】
使用者は、本実施形態の原子炉リスク管理装置200による原子炉内の状態予測を行うため、入力部210から入力パラメータの入力を行う。この入力パラメータの入力は、例えば使用者が、ディスプレイに表示された入力GUI(
図3参照)上からキーボード等により入力することができる。また、制御部230が記憶部250から入力パラメータを読み出すように構成してもよい。更に、原子炉リスク管理装置200の制御部230が通信部270を介して原子炉システム100の図示しない原子炉制御部と通信を行い、入力パラメータを原子炉システム100から取得するように構成されていてもよい。なお、原子炉リスク管理装置200は、原子炉システム100内に組み込まれていてもよい。
【0028】
本実施形態においては、表1に示すように12個の入力パラメータを用いている。各入力パラメータの概要は表1に記載した通りである。
【0030】
以下、各入力パラメータについて説明する。
【0031】
スクラム時刻は、スクラム、すなわち燃料棒の隙間に中性子を吸収する吸収棒を挿入することによって核分裂反応が緊急停止状態となった時刻をいう。この時点から炉心3では、熱源として核分裂生成物の崩壊によって発生する崩壊熱、及び化学反応熱を考慮すればよく、このスクラム時刻は崩壊熱評価開始の起点とするための入力パラメータである。
【0032】
事故シナリオは、冷却材喪失事故(LOCA: Loss of Coolant Accident)の発生の有無を選択する入力パラメータである。冷却材喪失事故とは、原子炉の配管等が破損して冷却材が流出する事故をいう。冷却材喪失事故の有無により原子炉格納容器の圧力上昇挙動が大きく異なるため、入力パラメータとしている。
【0033】
原子炉注水停止時刻及び水源は、原子炉圧力容器1への冷却材の供給が停止した時刻、及び冷却材の水源である。冷却材の供給停止によって、原子炉圧力容器内の冷却材の水位が低下し、炉心露出の要因となる。そこで、冷却材の供給が停止した時刻を入力パラメータとすることによって原子炉圧力容器内の冷却材の水位の低下が予測できるようにしている。また、原子炉注水の水源については、原子炉格納容器20内のサプレッションプール22と原子炉格納容器20外の外部水源とが想定されるが、以下の理由によりどちらの水源を用いるかでPCV圧力等に影響を与えるため入力パラメータとしている。すなわち、原子炉格納容器20内の水源を利用する場合、崩壊熱によりサプレッションプール22の昇温速度が外部水源の場合に比べて速くなる。サプレッションプール22の温度が上昇すると、蒸気圧が上昇することによりPCV圧力も増大することになる。また、原子炉圧力容器1に注水される水の温度も高くなっていく。一方、外部水源を利用する場合は、注水温度が時間の経過と共に上昇することは無く、サプレッションプール22の温度上昇速度が遅くなるが、一方でサプレッションプール水位は上昇することとなる。また、、原子炉注水停止時水位については、原子炉注水停止時刻から炉心露出までの時間余裕に影響するため入力パラメータとしている。
【0034】
RPV急速減圧時刻は、原子炉への冷却材の供給が停止した場合等に原子炉圧力容器1内の蒸気を原子炉格納容器20内に放出した時刻である。原子炉圧力容器1を緊急減圧すると原子炉圧力容器1内の水位低下評価に大きく影響を与えるため、入力パラメータとしている。なお、RPV急速減圧は、
図1において、原子炉圧力容器1内の蒸気を、蒸気供給路7a、主蒸気逃がし弁9、及び逃がし流路9a経由でサプレッションプール22内に逃がすことをいう。
【0035】
RPV急速減圧弁数は、原子炉圧力容器1内の蒸気を原子炉格納容器20内に放出する際に開放する、
図1に図示しない弁の数である。この減圧の際に開放する弁の数によって原子炉圧力容器1内圧力の低下速度が変化するため、入力パラメータとしている。なお、表1に記載の入力選択肢:1弁〜8弁は、原子炉システム100が改良型沸騰水型軽水炉(ABWR: Advanced Boiling Water Reactor)である場合の一例である。
【0036】
ペデスタル注水は、原子炉格納容器20の下部に落下した炉心3を冷却するためにペデスタルにおいて付加的な冷却材の供給を行うことである。なお、ペデスタルとは、原子炉格納容器内における原子炉圧力容器下部の空間をいう。ペデスタルは、
図1において原子炉圧力容器1直下の領域であり、このペデスタル注水の有無が原子炉圧力容器1破損時の原子炉格納容器20内の圧力上昇に大きな影響を与えることから、入力パラメータとしている。
【0037】
RPV破損後の原子炉注水は、原子炉圧力容器1が破損した後における原子炉圧力容器1内への冷却材供給の有無である。原子炉圧力容器1が破損した後は、燃料、冷却材共に原子炉格納容器20内に漏出している状態であるが、付加的な冷却材を原子炉圧力容器1内に供給するか否かでソースターム(原子炉システム100の外部に放出される可能性のある放射性物質の種類、量、物理的・化学的形態等)に大きな影響があるため、入力パラメータとしている。
【0038】
原子炉格納容器20へのスプレイは、事故発生時に、原子炉格納容器20内に放出された放射性物質を減少させ、原子炉格納容器20内の温度、圧力上昇を抑えるためにD/Wにおいて冷却材を霧状に散布する形で実行される。このスプレイについてもソースタームに大きな影響があるため、入力パラメータとしている。
【0039】
環境放出経路は、原子炉格納容器20のドライウェル(D/W)又はウェットウェル(W/W)の何れから外部に放射性物質が放出されるかを選択する。ここで、ドライウェル(D/W)とは、原子炉格納容器20において蒸気が支配的となる上方部分を指し、ウェットウェル(W/W)とは、原子炉格納容器20において水が支配的となる下方部分を指す。そして、表1に記載のW/Wベントラインは、ウェットウェルを経由したベントの経路であり、本実施形態では、
図1に示すようにサプレッションプール22を経由して排出路22aから放射性物質を放出する経路を指す。一方、表1に記載のD/Wベントラインは、ドライウェルを経由したベントの経路(図示せず)であり、例えばW/Wベントラインに何らかの障害が生じた場合等にベントの経路として使用される。ドライウェル(D/W)を経由した放出よりもウェットウェル(W/W)を経由した放出の方が、水により放射性物質が除去され放出量が少ないことからソースタームに大きな影響があるため、入力パラメータとしている。
【0040】
フィルタベントの利用可能性については、
図1に示すように、原子炉格納容器20のウェットウェル(W/W)から排出路22aを経由して排出された蒸気内の放射性物質が、フィルタベント部30において更に除去され放出量が少ないことからソースタームに大きな影響があるため、入力パラメータとしている。
【0041】
pH制御については、原子炉格納容器20内にアルカリ性物質を供給することによってヨウ素の揮発性が抑制されソースタームに大きな影響があるため、入力パラメータとしている。
【0042】
上述の12個の入力パラメータは、RPV内の水位、水素発生量、PCV圧力、PCV気相温度、ソースターム評価等の主要な予測データに大きな影響を与えるため、本実施形態では緊急事態発生時にこれらの入力パラメータのみを入力して予測データを得るようにしている。この12個の入力パラメータの入力画面の例を
図3に示す。
【0043】
図3の例では、1号機から7号機までのプラントに対してそれぞれ個別の入力パラメータを設定可能である。入力パラメータ「原子炉注水停止時刻」における「S/P水源」とは、サプレッションプール22(Suppression Pool)からの水を冷却材として原子炉圧力容器1内に供給する形態をいい、「外部水源」は、外部から冷却材を原子炉圧力容器1内に供給する形態をいう。
【0044】
また、
図3において、使用者は原子炉注水停止時の水位を入力する。
【0045】
また、
図3において、「RPV急速減圧弁数」は、ABWRを例にとると最大8であり、弁数に応じた1〜8までの数字を入力する。
【0046】
なお、使用者は、必ずしも上述の12個の入力パラメータを全て入力する必要はない。例えば、使用者が原子炉格納容器20内の圧力が限界圧力に達するまでの時間を予測したい場合、入力パラメータのうち、「スクラム時刻」、「事故シナリオ」、「原子炉注水停止時刻及び水源」、「原子炉注水停止時水位」、「RPV急速減圧時刻」、「原子炉圧力容器急速減圧弁数」、及び「ペデスタル注水の有無」は予測データに大きな影響を与える。一方、他の入力パラメータについては放射性物質の放出量に影響を与えるものの、原子炉格納容器20内の圧力の予測データに対しては影響が小さい。従って、使用者は、上記の7個の入力パラメータのみを入力するようにしてもよい。なお、その場合、残りの5個の入力パラメータについては、所定値が用いられる。
【0047】
また、原子炉注水停止後に注水が復旧する状況が考えられるが、本実施形態では避難情報を迅速に発信することを目的とするため、このような復旧を考慮せず、注水が継続して停止しているものとして予測を行う。これによって、計算モデルが単純化されるため、迅速に予測結果を得ることができる。但し、ベントと同時に環境に放出される放射性物質量の評価においては、原子炉圧力容器破損後のペデスタル注水、原子炉注水、及びD/Wスプレイの有無が桁違いの影響を与えることから、これらのパラメータを考慮できるように構成してもよい。
【0048】
使用者が入力パラメータの入力を完了すると、制御部230は、記憶部250に格納されている、事前計算用パラメータに基づいて計算された状態予測元データを読み出す。事前計算用パラメータとは、上述の入力パラメータよりも数が多いMAAPコード計算に必要なパラメータである。入力パラメータとして選択されていないものの、MAAPコード計算に必要とされるパラメータには、例えば、原子炉注水時水位、原子炉注水開始時刻、注水ポンプ特性、原子炉内注水先、冷却材水源温度、PCV内の初期気相成分及び温度、D/Wスプレイ流量等がある。なお、本実施形態においてMAAPコードを用いて状態予測元データを得るために使用者の入力が必要な事前計算用パラメータの総数は約300である一方、入力パラメータの数は、事前計算用パラメータの数に対して15分の1未満へと十分に少なく抑えられている。例えば、「注水継続期間は原子炉が冠水されている」という仮定の下では、原子炉注水時水位については、事象進展への影響が十分に小さく、代表値としても予測データに与える影響は小さい。また、原子炉注水開始時刻、及び注水ポンプ特性についても、上記仮定の下では注水期間中は炉心損傷に至ることは無いため、ポンプ特性の入力は必要ない。但し、現実には注水の状況次第では炉心が露出するような事態も想定され得ることには留意する必要がある。更に、原子炉内注水先(シュラウド内/シュラウド外等)についても、上記仮定の下ではLOCA以外では炉心冠水の可否に大きく影響しないため指定しない。これについても炉心損傷が防げるかどうかの狭間では、注水箇所による影響が無視できないことに留意する必要がある。また、冷却材水源温度については、注水停止後の原子炉水位の挙動に与える影響が小さく、またPCV圧力に与える影響も大きくないため、やや厳しめの代表値を用いることで、個別評価における水源温度入力を省略することが可能である。また、PCV内の初期気相成分及び温度については、代表値としても原子炉水位挙動、及びPCV圧力挙動に与える影響が小さい。更に、D/Wスプレイ流量についても、「ソースターム低減効果を十分に発揮する流量が見込める」という想定の下では、事故時対応手順書等に記載の値を代表値として用いても予測データに与える影響は小さい。このような理由により、本実施形態の例では、上記パラメータは入力パラメータとせず、事前計算用パラメータとしている。
【0049】
図4(a)、(b)は、事前計算用パラメータに基づいてMAAPコードを用いて計算された状態予測元データの具体例を示している。なお、
図4(a)、(b)にはMAAPコードを用いて計算された状態予測元データをグラフとして示しているが、記憶部250には数値データとして記憶されている。
図4(a)は、横軸を時間[h]、縦軸を炉心(RPV)内の水位[m]として、3つの注水期間(12時間、24時間、36時間)について状態予測元データをプロットしたものである。注水期間に応じてRPV内の水位低下の挙動は変化するものの、その変化の傾向は崩壊熱の低下挙動で説明され連続的な変化傾向を示している。従って、注水期間12時間、注水期間24時間、注水期間36時間のデータを内挿することによって炉心内の水位を推定することが可能である。なお、本実施形態では、上述のように原子炉注水開始時刻を入力パラメータとしていないが、代わりに入力パラメータである、スクラム発生時刻から原子炉注水停止時刻までの時間を注水期間とすれば、崩壊熱による原子炉注水停止後の水位低下挙動について計算可能である。
図4(a)中におけるTAF(Top of Active Fuel)は有効燃料頂部を表しており、炉心内水位が原子炉内の燃料棒に装荷されている燃料の上端位置にあることを示している。また、BAF(Bottom of Active Fuel)は有効燃料底部を表しており、炉心内水位が原子炉内の燃料棒に装荷されている燃料の下端位置にあることを示している。
【0050】
図4(b)は、横軸を時間[h]、縦軸を水素発生量[kg]として、RPV圧力及びその履歴、RPV急速減圧弁数、並びに原子炉注水停止時水位ごとの水素発生量の状態予測元データをプロットしたものである。
図4(b)によれば、水素発生量が急増する時刻が、RPV圧力及びその履歴、RPV急速減圧弁数、並びに原子炉注水停止時水位によって大きくばらついていることが分かる。従って、本実施形態ではRPV急速減圧弁数、及び原子炉注水停止時水位を入力パラメータとして取得し、入力されたRPV急速減圧弁数、及び原子炉注水停止時水位に基づいて、予めMAAPコードにより計算された複数の状態予測元データから、事故フェーズに合致する状態予測元データを選択するように構成している。これによって、新たにMAAPコードによる計算を行う代わりに、入力パラメータに基づいて、記憶部250に格納されている事前計算用パラメータに基づく状態予測元データから事故フェーズに合致する状態予測元データを選択するだけでよいため、迅速に必要な予測を行うことができる。なお、本実施形態では、上述のように入力パラメータの他、入力パラメータによって予測された原子炉水位、水素発生量、リロケーションのタイミング、及び原子炉圧力容器破損のタイミング等の予測データも考慮して最適な状態予測元データを選択している。なお、リロケーションとは、炉心が熱により溶融し、原子炉圧力容器1の底部に落下する現象を指す。
【0051】
なお、事前計算用パラメータに基づいてMAAPコードを用いて計算された状態予測元データには、
図4(a)、(b)に示すものの他、ソースターム、RPV圧力、PCV圧力等多数のデータが準備されている。
【0052】
次に、PCV圧力を例として、状態予測元データから予測データを生成する手法についてより具体的に説明する。表2乃至5はそれぞれ、「注水期間」、「注水停止後」、「リロケーション後」、及び「RPV破損後」、の各事故フェーズにおける、PCV圧力に関する状態予測元データのデータベース構成を示している。例えば、表2に示す「注水期間」におけるデータベースでは、RPV圧力、及び注水水源ごとに「HPOS」から「LOSF」まで7つのデータベース(DB)を有している。ここで、RPV圧力:高圧とは、RPV急速減圧が実施されていない高圧状態を指し、RPV圧力:低圧とは、RPV急速減圧が実施された後の低圧状態を指している。RPV圧力の取得は、例えば制御部230が原子炉システム100からRPV圧力の実測値を通信部270経由で取得することにより行うことができる。また、RPV圧力状態の取得は、事前計算用パラメータに基づいてMAAPコードを用いて計算されたRPV圧力の状態予測元データから、入力パラメータ等に基づいて各事故フェーズごとに最も合致するRPV圧力の状態予測元データを選択することによって行ってもよい。また、表2の下段の3つのデータベース:LISX,LOSX,LOSFは、いずれもLOCAにおけるデータであり、水源及び液相流出の有無に応じて3つの場合を想定している。表2に示す「注水期間」において、RPV圧力と注水水源のみから、事故フェーズに合致する状態予測元データを選択できるのは、以下の理由による。
【0054】
原子炉圧力容器1内の放射性物質は、放射線を放出して崩壊するが、その際の放出エネルギーが熱に変化したものを崩壊熱という。崩壊熱Qは、原子炉が運転停止状態にある時間内に放出される熱量であるため、注水停止時間に依存する。原子炉圧力容器1内の軽水が崩壊熱Qによって蒸気発生量Wの蒸気に変化するというモデルを想定すると、蒸気発生量Wは、崩壊熱Qに比例し、水の蒸発潜熱hfに反比例する傾向がある。
【0055】
ここで、蒸発潜熱hfは冷却材である単位質量あたりの軽水が液体から蒸気になる時に吸収する熱量である。軽水の蒸発潜熱hfは、原子炉圧力容器1内の内圧に依存する。すなわち、原子炉圧力容器1内の圧力が高いと蒸発潜熱hfが小さくなり、同じ崩壊熱Qを吸収しても蒸気発生量Wが増大する一方、原子炉圧力容器1内の圧力が低いと蒸発潜熱hfが大きくなり、同じ崩壊熱Qを吸収しても蒸気発生量Wが減少する。よって、RPV圧力の高低により蒸気発生量Wが異なるため、PCV圧力が影響を受けることになる。制御部230は、入力パラメータである原子炉急速減圧時刻、及び原子炉急速減圧弁数等の情報から、RPV圧力が高圧であるか低圧であるかを判定する。
【0056】
また、制御部230は、入力パラメータから、注水水源が内部であるか外部であるかを認識する。注水水源が外部である場合、PCV内の水量が増加する一方、水温が下がるため、蒸気発生量に影響を与える。制御部230は、RPV圧力の判定結果、及び注水水源の認識結果に基づいて、事前計算用パラメータに基づいて計算されたPCV圧力に関する状態予測元データから事故フェーズに合致する状態予測元データを選択する。より具体的には、表2のデータベースHPOS〜LPISの中からRPV圧力及び注水水源に合致したデータベースを選択する。
【0057】
図5(a)は、横軸を時間[h]、縦軸をD/W圧力(PCV圧力)[Pa(a)]((a)は絶対圧力の意味)として、RPV圧力、及び原子炉注水の水源ごとのD/W圧力の状態予測元データをプロットしたものである。
図5(a)によれば、RPV圧力、及び原子炉注水の水源ごとにD/W圧力の増加の割合が大きくばらついていることが分かる。従って、本実施形態では原子炉注水の水源を入力パラメータとして取得し、入力された原子炉注水の水源、及びRPV圧力の判定結果に基づいて、予めMAAPコードにより計算された複数の状態予測元データから、事故フェーズに合致する状態予測元データを選択するように構成している。これによって、迅速に必要な予測を行うことができる。
【0058】
なお、
図3に示すKK6号機の例では、スクラム時刻が2016年5月1日13:00であり、原子炉注水停止時刻が2016年5月1日20:00であった。従って、スクラム時刻、すなわち核分裂反応が停止し崩壊熱のみが発生し始めた時刻から原子炉注水停止時刻までの「注水期間」は7時間である。また、KK6号機では、スクラム時刻と同時に急速減圧を行っているため、RPV圧力は当初から「低圧」である。また、入力パラメータから、注水水源は「内部」、すなわちサプレッションプール22である。
【0059】
制御部230は、
図5(a)に示すグラフの中から、
図3のKK6号機の例に合致する、RPV圧力:低圧、及び注水水源:内部に該当するグラフを選択する。また、上述のように、注水期間は7時間であるため、
図5(a)の横軸0〜7[h]の部分を「注水期間」における「事故フェーズに合致する状態予測元データ」として選択する。この選択された状態予測元データは、記憶部250に格納され、後述するPCV圧力の予測データ生成に用いられる。
【0060】
次に、「注水停止後」におけるデータベースについて説明する。下記の表3に示す「注水停止後」におけるデータベースでは、原子炉注水停止時水位、水位低下時のRPV圧力推移、減圧弁数、及び注水期間ごとに「L2HH012」から「LLOCA00」まで11のデータベース(DB)を有している。本実施形態の例では、原子炉注水停止時の水位は、L1,L1.5,L2,L3,L4,NML,L8の7段階で表され、L8が最も水位が高いことを意味している。また、NWLは通常運転水位(Normal Water Level)を表している。
【0062】
水位低下時のRPV圧力推移とは、「注水停止後」の期間において、RPV圧力がどのように推移したかを示している。例えば、「注水停止後」の期間の前半において、未だ急速減圧が行われておらずRPV圧力が高圧状態におかれる一方、「注水停止後」の期間中に急速減圧が行われた結果、「注水停止後」の期間の後半においてRPV圧力が低圧状態となった場合、水位低下時のRPV圧力推移は、「高圧→低圧」となる。また、「注水停止後」の期間の終了時においても未だ急速減圧が行われていない場合、「注水停止後」におけるRPV圧力は高圧のまま推移する。従って、その場合の水位低下時のRPV圧力推移は、「高圧→高圧」となる。また、「注水期間」、又は「注水停止後」の期間の初期に急速減圧が行われた場合、「注水停止後」のほぼ全期間に亘ってRPV圧力が低圧のまま推移する。従って、その場合の水位低下時のRPV圧力推移は、「低圧→低圧」となる。
【0063】
この「注水停止後」の事故フェーズにおいて、原子炉注水停止時水位、水位低下時のRPV圧力推移、減圧弁数、及び注水期間ごとのデータベースが設けられているのは以下の理由による。すなわち、原子炉注水停止時水位が高ければ燃料露出までに時間がかかるため、燃料露出後の水素発生によるPCV圧力上昇タイミングが遅くなる。また、RPV圧力推移の高低によってPCVへの蒸気移行量が変わりPCV圧力に影響する。減圧弁数が変わればRPV圧力の変化のスピードが変わるため、PCV圧力に影響する。注水期間は、崩壊熱に影響するため、水位の減り方、蒸気発生量に影響する。従ってPCV圧力にも影響する。
【0064】
なお、データベース:LLOCA00,TQUX000,及びTQUV000は、通常運転直後に注水期間を経ずに事故が進展することを想定しているため、注水停止時水位は通常運転中と同じNWLとしており、注水期間は0時間としている。
【0065】
図3のKK6号機の例では、注水停止時水位はNWLであり、上述のように注水期間は7時間である。また、先に述べたように注水期間において既に急速減圧が実施されてRPV圧力が低圧となっている。従って、この「注水停止後」においてもRPV圧力は低圧のままであるため、水位低下時のRPV圧力推移は「低圧→低圧」である。
【0066】
しかし、表3及び
図5(b)に示すように、予めMAAPコードを用いて計算された、「注水停止後」における事前計算用パラメータに基づいて計算された複数の状態予測元データ(PCV圧力)は、注水停止時水位としてL2とL8の場合のみが計算されており(但し、運転直後に注水期間を経ずに事故が進展することを想定しているLLOCA00,TQUX000,及びTQUV000を除く)、また注水期間は、12時間、24時間又は36時間のみが計算されている(LLOCA00,TQUX000,及びTQUV000を除く)。従って、これらの状態予測元データから、注水停止時水位:NWL、注水期間:7時間のデータを内挿(外挿)により算出する必要がある。
【0067】
まず、
図5(b)に示すRPV圧力(低圧→低圧)_水位(L2)_注水(12時間)の状態予測元データと、RPV圧力(低圧→低圧)_水位(L8)_注水(12時間)の状態予測元データを用いて、水位L2に対する水位NWLにおける状態予測元データの差分データを内挿により算出する。より具体的には、制御部230は、以下の式(1)によって、水位L2に対する水位NWLにおける状態予測元データの差分データを算出する。
【0068】
水位L2に対する水位NWLにおける状態予測元データの差分データ={(RPV圧力(低圧→低圧)_水位(L8)_注水(12時間)の状態予測元データ)−(RPV圧力(低圧→低圧)_水位(L2)_注水(12時間)の状態予測元データ)}/(水位L8−水位L2)×(水位NWL−水位L2) (1)
【0069】
次に、制御部230は、
図5(b)に示すRPV圧力(高圧→高圧)_水位(L2)_注水(12時間)の状態予測元データと、RPV圧力(高圧→高圧)_水位(L2)_注水(24時間)の状態予測元データを用いて、注水期間12時間に対する注水期間7時間における状態予測元データの差分データを外挿により算出する。より具体的には、制御部230は、以下の式(2)によって、注水期間12時間に対する注水期間7時間における状態予測元データの差分データを算出する。
【0070】
注水期間12時間に対する注水期間7時間における状態予測元データの差分データ={(RPV圧力((高圧→高圧)_水位(L2)_注水(24時間)の状態予測元データ)−(RPV圧力(高圧→高圧)_水位(L2)_注水(12時間)の状態予測元データ)}/(注水期間24時間−注水期間12時間)×(注水期間7時間−注水期間12時間) (2)
【0071】
制御部230は、上記2つの内挿計算の基準となる条件である、水位L2、RPV圧力(低圧→低圧)、注水期間12時間における予測元データを式(1)、及び(2)の差分データを使って調整することにより、原子炉注水停止時水位:NWL、水位低下時のRPV圧力推移(低圧→低圧)、注水期間:7時間における予測元データを算出する。「式(1)、及び(2)の差分データを使って調整する」とは、例えばRPV圧力(低圧→低圧)_水位(L2)_注水(12時間)の状態予測元データに式(1)、及び(2)の差分データを単純加算することにより行うことができる。また、式(2)の差分データを加算する際に、RPV圧力(低圧→低圧)とRPV圧力(高圧→高圧)との差異に応じた係数を乗じてから加算する等により調整を行ってもよい。
【0072】
なお、注水期間を式(2)により外挿計算する際に、「注水停止後」における原子炉の状態であるRPV圧力推移(低圧→低圧)とは異なるRPV圧力推移(高圧→高圧)における状態予測元データを用いている。これは、注水期間によるPCV圧力の差分が、RPV圧力推移(低圧→低圧)とRPV圧力推移(高圧→高圧)とで大きく異ならないため、表3及び
図5(b)に示すように注水期間:24時間、36時間の状態予測元データは、RPV圧力推移(高圧→高圧)におけるデータのみを用意するようにしてなるべく記憶する状態予測元データの数を減らすようにしている。
【0073】
また、表3に示す複数のデータベースは、
図5(b)に示すD/W圧力(PCV圧力)の時間変化のデータの他に、MAAPコードにより計算された注水停止からリロケーションまでにかかる時間のデータを有している。制御部230は、この注水停止からリロケーションまでにかかる時間のデータについてもPCVデータと同様に内挿計算等を行うことによって、現在の原子炉の状態に応じた注水停止からリロケーションまでの時間を算出する。本実施形態では、この注水停止からリロケーションまでの時間が8.3時間であるため、制御部230は、上述の内挿及び外挿データで調整されたPCV圧力の状態予測元データを注水停止から8.3時間分だけ選択し、記憶部250に格納する。この状態予測元データは、「注水停止後」における「事故フェーズに合致する状態予測元データ」として、後述するPCV圧力の予測データ生成に用いられる。
【0074】
上記の計算例(
図3のKK6号機の入力パラメータを用いた例)では、RPV圧力推移(低圧→低圧)とRPV圧力推移(高圧→高圧)の状態予測元データのみを取り扱っているため、急速減圧時の弁数が問題とならない(表3ではRPV圧力推移(低圧→低圧)及びRPV圧力推移(高圧→高圧)のデータベースはいずれも減圧弁数:0弁と表示されている)。しかし、この「注水停止後」の期間に急速減圧が行われる場合には、RPV圧力推移(高圧→低圧)となり、減圧弁数の数により減圧の速度が変化する。制御部230は、入力パラメータとして入力されたRPV急速減圧弁数に基づいて表3における減圧弁数と合致するデータベースを選択する。表3の中に入力されたRPV急速減圧弁数と合致する減圧弁数が存在しない場合には、上記の注水停止時水位及び注水期間と同様に、減圧弁数1弁のデータベースと減圧弁数8弁のデータベースの内挿計算を行う。そして、「注水停止後」における「事故フェーズに合致する状態予測元データ」として、後述するPCV圧力の予測データ生成に用いられる。
【0075】
次に、「リロケーション後」におけるデータベースについて説明する。下記の表4に示す「リロケーション後」におけるデータベースでは、原子炉注水停止時水位、RPV圧力、及び注水期間ごとに「L2H012」から「TQUV00」まで7つのデータベース(DB)を有している。
【0077】
この「リロケーション後」の事故フェーズにおいて、原子炉注水停止時水位ごとにデータベースが設けられているのは、原子炉注水停止時水位はリロケーション発生時の圧力容器下部水位に影響し、これはリロケーション発生後のPCVへの蒸気移行量を通じてPCV圧力挙動に影響するためである。
【0078】
なお、データベース:LLOCA0,TQUX00,及びTQUV00は、通常運転直後に注水期間を経ずに事故が進展することを想定しているため、注水停止時水位は通常運転中と同じNWLとしており、注水期間は0時間としている。
【0079】
図3のKK6号機の例では、注水停止時水位はNWLであり、上述のように注水期間は7時間である。また、先に述べたように注水期間において既に急速減圧が実施されてRPV圧力が低圧となっている。従って、この「リロケーション後」においてもRPV圧力は低圧である。
【0080】
しかし、表4及び
図5(c)に示すように、予めMAAPコードを用いて計算された、「リロケーション後」における事前計算用パラメータに基づいて計算された複数の状態予測元データ(PCV圧力)は、注水停止時水位としてL2とL8の場合のみが計算されており(但し、運転直後に注水期間を経ずに事故が進展することを想定しているLLOCA0,TQUX00,及びTQUV00を除く)、また注水期間は、12時間、24時間又は36時間のみが計算されている(LLOCA0,TQUX00,及びTQUV00を除く)。従って、
図5(c)において注水停止時水位L2,RPV圧力:低圧、注水期間12時間である状態予測元データ(RPV圧力(低圧)_水位(L2)_注水(12時間))を基準とし、それに対する差分データを内挿又は外挿により取得して、注水停止時水位:NWL、注水期間:7時間のデータを算出する。
【0081】
まず、
図5(c)に示すRPV圧力(高圧)_水位(L2)_注水(12時間)と、RPV圧力(高圧)_水位(L8)_注水(24時間)の状態予測元データを用いて、注水期間12時間に対する注水期間7時間における状態予測元データの差分データを外挿により算出する。より具体的には、制御部230は、以下の式(3)によって、注水期間12時間に対する注水期間7時間における状態予測元データの差分データを算出する。
【0082】
注水期間12時間に対する注水期間7時間における状態予測元データの差分データ={(RPV圧力(高圧)_水位(L8)_注水(24時間)の状態予測元データ)−(RPV圧力(高圧)_水位(L2)_注水(12時間)の状態予測元データ)}/(注水期間24時間−注水期間12時間)×(注水期間7時間−注水期間12時間) (3)
【0083】
ここで、式(3)によって差分データを生成するための2つの状態予測元データは、注水期間(12時間と24時間)の他に注水停止時水位(L2とL8)が異なる状態予測元データである。また、RPV圧力も高圧条件での状態予測元データである。しかし、この「リロケーション後」という事故フェーズにおいては、水位が燃料よりも下がっていれば燃料の温度が異常上昇するという意味では変わらず、注水期間によるPCV圧力の差分が注水停止時水位により大きく変わることはない。また注水期間によるPCV圧力の差分が、RPV圧力により大きく影響を受けることもない。このため、上記2つの状態予測元データの差分データは、実質的に注水期間の差分を算出していると考えることができる。このように、事故フェーズ「リロケーション後」においても、表4及び
図5(c)に示すように注水期間:24時間、36時間の状態予測元データは、RPV圧力 (高圧)におけるデータのみを用意するようにしてなるべく記憶する状態予測元データの数を減らすようにしている。
【0084】
制御部230は、基準となる状態予測元データである、RPV圧力(低圧)_水位(L2)_注水(12時間)に対して、上記の内挿計算の結果得られた差分データを使って調整することにより、注水期間:7時間における予測元データを算出する。「内挿計算の結果得られた差分データを使って調整する」とは、例えば式(3)の差分データを単純加算することにより行うことができる。また、式(3)の差分データを加算する際に、RPV圧力(低圧)とRPV圧力(高圧)との差異、及び注水停止時水位の差(NWLとL2)に応じた係数を乗じてから加算する等により調整を行ってもよい。
【0085】
また、表4に示す複数のデータベースは、
図5(c)に示すD/W圧力(PCV圧力)の時間変化のデータの他に、MAAPコードにより計算されたリロケーションからRPV破損までにかかる時間のデータを有している。制御部230は、このリロケーションからRPV破損までにかかる時間のデータについてもPCVデータと同様に内挿計算等を行うことによって、現在の原子炉の状態に応じたリロケーションからRPV破損までの時間を算出する。本実施形態では、このリロケーションからRPV破損までの時間が7.1時間であるため、制御部230は、上述の内挿(外挿)データで調整されたPCV圧力の状態予測元データをリロケーションから7.1時間分だけ選択し、記憶部250に格納する。この状態予測元データは、「リロケーション後」における「事故フェーズに合致する状態予測元データ」として、後述するPCV圧力の予測データ生成に用いられる。
【0086】
次に、「RPV破損後」におけるデータベースについて説明する。下記の表5に示す「RPV破損後」におけるデータベースでは、ペデスタル注水の有無、RPV破損前までのRPV圧力ごとに「PXH」から「P00」まで5つのデータベース(DB)を有している。
【0088】
この「RPV破損後」の事故フェーズにおいて、ペデスタル注水の有無、RPV破損前までのRPV圧力ごとにデータベースが設けられているのは以下の理由による。すなわち、ペデスタル注水の有無によってPCV内温度を下げる効果がある一方で、蒸気発生量を増加させる要因となり得るため、PCV圧力に影響する。また、RPV破損前までのRPV圧力が高圧推移(比較的早い段階から長時間高圧)であった場合、蒸気がPCV内に流れ込んでPCV圧力が上昇する傾向にある。他方、RPV圧力が低圧推移(早い段階から低圧に下げられている)すると、早い段階からPCV側に熱が流れ込んでくるので、原子炉格納容器20の壁に熱が吸収され易くなるため、PCV圧力上昇が起こり難い。
【0089】
図3のKK6号機の例では、上述のように注水期間において既に急速減圧が実施されてRPV圧力が低圧となっている。また、
図3のKK6号機の列の記載から明らかなようにペデスタル注水は行っていない。従って、制御部230は、
図5(d)に示す複数の予測元データから、「RPV圧力推移(長期間低圧)_ペデスタル注水なし」を選択する。この選択された状態予測元データは記憶部250に格納される。そして、「RPV破損後」における「事故フェーズに合致する状態予測元データ」として、後述するPCV圧力の予測データ生成に用いられる。
【0090】
図6は、PCV圧力を例として、状態予測元データから予測データを生成したものである。すなわち、
図5(a)〜(d)に例示した、事前計算用パラメータに基づいてMAAPコードを用いて計算されたPCV圧力の状態予測元データから、入力パラメータ、及び各事故フェーズ毎の他の予測データに基づいて最も合致するPCV圧力の状態予測元データを選択し、選択された各状態予測元データを事故フェーズごとに積み重ねて得られたPCV圧力の予測データである。より具体的には、
図6の予測データは、以下の各ステップによって生成される。
【0091】
まず、制御部230は、「注水期間」、「注水停止後」、「リロケーション後」、及び「RPV破損後」、の各事故フェーズごとに記憶部250に格納された「事故フェーズに合致する状態予測元データ」を読みだす。
図3のKK6号機の例では、注水期間は7時間であるため、制御部230はまず、記憶部250に格納された「注水期間」における7時間分の状態予測元データを読みだす。
図6の横軸0時間〜7時間は、この「注水期間」における選択された状態予測元データをプロットしたものである。なお、
図6では、縦軸のPCV圧力を
図5における絶対圧力からゲージ圧力へと変換している。
【0092】
続いて、制御部230は、記憶部250に格納された「注水停止後」における「事故フェーズに合致する状態予測元データ」を読みだす。この「注水停止後」における状態予測元データとは、上述のようにRPV圧力(低圧→低圧)_水位(L2)_注水(12時間)の状態予測元データに対して式(1)及び(2)を用いて調整された状態予測元データである。そして、制御部230は、この8.3時間分の状態予測元データを読み出すと、それ以前の「事故フェーズ」である「注水期間」における状態予測元データの後にこの「注水停止後」の状態予測元データを積み重ねていく。すなわち、
図6に示すように、注水開始時を時間0[h]としたときに、注水終了時である時間7[h]におけるPCV圧力値が「注水停止後」のPCV圧力の初期値となるように、「注水期間」のPCV圧力値に「注水停止後」の事故フェーズのPCV圧力の増加分又は減少分を積み重ねていく。
【0093】
それ以降の事故フェーズである「リロケーション後」、及び「RPV破損後」についても同様の処理を行う。すなわち、それ以前の事故フェーズにおけるPCV圧力値に対して、現在の事故フェーズにおけるPCV圧力値の増加分又は減少分を積み重ねていくことによって、
図6に示すような、注水開始からRPV破損以降までの各事故フェーズ(時刻)とD/W圧力(PCV圧力)予測データとの関係を示すデータを生成することができる。
【0094】
なお、記憶部250に記憶されている、事前計算用パラメータに基づいてMAAPコードを用いて計算された状態予測元データは、事故フェーズ毎の時間軸に対する変化の複雑さに応じたデータ数で近似されて格納されている。従って、
図6に示すような予測データを生成する際には、記憶部250に記憶されている状態予測元データに対して適宜データの補間を行ってから予測データの生成に用いられる。
【0095】
また、
図6において、2Pdは、原子炉格納容器20内の限界圧力である。また、1Pdは、原子炉においてリロケーションの発生を警告するための、限界圧力よりも小さいPCV設計圧力である。本実施形態では、PCV圧力が2Pdに到達する前にベントを行うことを想定している。
【0096】
図7は、制御部230によって生成された予測結果の出力画面の例を示す図である。予測結果は、
図7に示すように、原子炉水位の有効燃料頂部(TAF:Top of Active Fuel)到達時刻、原子炉水位の有効燃料底部(BAF:Bottom of Active Fuel)到達時刻、RPV下部破損時刻、PCV圧力1Pd到達時刻、PCV圧力2Pd到達時刻、環境放出時刻、及び環境放出量である。この出力画面は、制御部230が予測データを出力部290に表示、印刷等させることにより出力される。なお、
図7において、DIANA(Dose Information Analysis for Nuclear Accident)は、放射性希ガス・ヨウ素および粒子状物質が大気中に放出された場合を想定して、10分毎に原子力発電所周辺の3次元移流拡散現象を模擬し、任意の地点における空間線量率を評価することが可能なシステムである。
【0097】
図8(a)〜(c)は、本実施形態に係る原子炉リスク管理装置200による予測データと、MAAPコードのみを用いた予測データとの比較結果を示している。
図8(a)〜(c)は、いずれも横軸に時刻[時間]を示しており、縦軸は、それぞれ(a)RPV圧力、(b)PCV圧力、及び(c)RPV水位を示している。いずれの予測結果においても、本実施形態の原子炉リスク管理装置200による予測結果(
図8(a)〜(c)に実線で示す)は、MAAPコードを用いた予測結果(
図8(a)〜(c)に破線で示す)と時間変化の傾向が近似しており、また絶対値についてもMAAP計算結果を概ね再現する結果となっている。
【0098】
図9(a)、(b)は、本発明の第1実施形態に係る原子炉リスク管理装置200による予測結果の出力画面の例を予測結果別に示す図である。
図9(a)、(b)は、いずれも横軸に時刻を示しており、縦軸は、それぞれ(a)PCV圧力、及び(b)環境放出量を示している。また、各横軸には、注水停止、リロケーション、及びRPV破損という3つの事故がどの日時に発生したかを示している。
図9(a)の例においても、
図6で説明したように、注水期間、注水停止後、リロケーション後、及びRPV破損後、の各事故フェーズ毎に事前計算用パラメータに基づく状態予測元データ(PCV圧力)から、各事故フェーズに合致した状態予測元データを選択し、各事故フェーズにおけるPCV圧力の増分等を積み重ねていくことによってPCV圧力予測データを生成している。
図9(a)の予測結果によれば、注水停止時においてはPCV圧力の推移に大きな変化は無いものの、リロケーション時に瞬時にPCV圧力が大きく上昇し、RPV破損後はPCV圧力が上昇速度を速めて単調増加している。そして、PCV圧力が限界圧力(2Pd)に達する時刻において、
図9(b)に示すように各種放射性物質が環境へ放出される予測結果となっている。
【0099】
なお、
図9(a)、(b)の例では、MAAPコードを用いた事前計算用パラメータに基づく状態予測元データのみを用いて予測結果を得ているがこの態様には限定されない。例えば、制御部230が原子炉システム100からRPV破損時刻、PCV圧力等の実測データを通信部270経由で取得し、それらの取得データに基づいて予測結果を適宜補正するように構成してもよい。
【0100】
図10は、本実施形態に係る原子炉リスク管理装置200の動作フローを示すフローチャートである。まず、制御部230は、事前計算用パラメータに基づいて計算された状態予測元データを記憶部250に記憶する(ステップS101)。この事前計算用パラメータに基づいて計算された状態予測元データは、例えば
図5(a)に示すような、各RPV圧力及び原子炉注水の水源毎のD/W圧力(PCV圧力)の状態予測元データである。次に、入力部210は、例えば
図3に示す入力画面から使用者がキーボード等により入力した入力パラメータを受け取り(ステップS102)、記憶部250に記憶する。制御部230は、記憶部250に記憶された入力パラメータ、及び事前計算用パラメータに基づく状態予測元データを読み出し、入力パラメータ等に基づいて、読み出された複数の事前計算用パラメータに基づく状態予測元データから事故フェーズに合致する状態予測元データを選択する(ステップS103)。この事故フェーズに合致する状態予測元データの選択は、例えば、
図5(a)に示すような各RPV圧力及び原子炉注水の水源毎のD/W圧力(PCV圧力)の状態予測元データから、各事故フェーズに最も合致するRPV圧力及び原子炉注水の水源に対応するD/W圧力(PCV圧力)の状態予測元データを選択し、必要に応じて調整することにより実行される。そして、制御部230は、選択された状態予測元データに基づいて、原子炉水位、原子炉圧力容器破損のタイミング、原子炉格納容器圧力、放射性物質の環境放出時刻、及び放射性物質の環境放出量のうちの少なくとも1つを予測する(ステップS104)。この予測は、例えば
図5(a)〜(d)から選択された各事故フェーズに最も合致するD/W圧力(PCV圧力)の状態予測元データを事故フェーズごとに積み重ねて、
図6に示すようなPCV圧力の予測データを生成することにより実行される。ステップS104の実行により、原子炉リスク管理装置200の動作フローは終了する。
【0101】
なお、原子炉リスク管理装置200は、同じ事前計算用パラメータに基づくPCV圧力の状態予測元データであっても、事故フェーズ毎に異なるポイント数のデータで近似するように構成することができる。例えば
図11に示すように、事故フェーズ1ではPCV圧力が単調増加するのに対して事故フェーズ2ではPCV圧力が3次曲線を描くように増加する場合、事故フェーズ1を2ポイントのデータで近似し、事故フェーズ2を4ポイントのデータで近似するように構成してもよい。これによって、記憶部250に記憶すべきデータ量を削減できると共に、少ない計算量で精度の高い予測が可能となる。
【0102】
なお、本実施形態では、状態予測元データから事故フェーズに合致する状態予測元データを選択し、選択された状態予測元データに基づいて、PCV圧力の予測データを生成する例を示して説明したが、この例には限定されない。原子炉水位、原子炉圧力容器破損のタイミング、放射性物質の環境放出時刻、及び放射性物質の環境放出量についても同様の手順により予測データを生成することができる。
【0103】
以上のように、本実施形態では、少なくとも7つの入力パラメータを入力し、記憶部250に記憶された入力パラメータよりも多い事前計算用パラメータに基づいて計算された状態予測元データから事故フェーズに合致する状態予測元データを選択し、選択された状態予測元データに基づいて、原子炉水位、原子炉圧力容器破損のタイミング、原子炉格納容器圧力、放射性物質の環境放出時刻、及び放射性物質の環境放出量のうちの少なくとも1つを予測するように構成した。これによって、緊急事態発生時に多くのパラメータを入力してMAAPコードによる計算を実行する必要がなく、既に計算された状態予測元データから、少ない数の入力パラメータ等に基づいて事故フェーズに合致する状態予測元データを選択して所望の予測データを得ることができる。従って、緊急事態発生時に迅速に必要な予測データを得て情報発信等を行うことができる。
【0104】
また、本実施形態では、入力パラメータの数を、入力が必要な事前計算用パラメータの数の15分の1未満としたので、緊急事態発生時に必要な予測データをより迅速に取得することができる。特に本実施形態の一例では、冷却水の注水停止後、入力パラメータを入力してから瞬時に予測データを得ることができるため、ベントタイミングに対して余裕を持って情報発信することができる。
【0105】
本実施形態では、入力パラメータが、事前計算用パラメータの中から、7つの必須となる入力パラメータ以外のパラメータ、すなわちスクラム発生時刻、事故シナリオ、原子炉注水停止時刻、原子炉注水停止時水位、原子炉圧力容器急速減圧時刻、原子炉圧力容器急速減圧弁数、及びペデスタル注水の有無以外のパラメータのうち、少なくとも1つのパラメータを含まないように構成してもよい。そして、入力パラメータに含まれないパラメータの例としては、例えば、原子炉圧力容器破損後の原子炉注水の有無、原子炉格納容器へのスプレイの有無、放射性物質の環境放出経路、フィルタベントの有無、pH制御の有無、原子炉注水時水位、原子炉注水開始時刻、注水ポンプ特性、原子炉内注水先、冷却材水源温度、PCV内の初期気相成分及び温度、ドライウェルスプレイ流量等がある。これらのパラメータの少なくとも1つを入力パラメータに含めないことによって、事象進展への影響が小さいパラメータの入力を省略して必要な予測データをより迅速に取得することができる。
【0106】
また、本実施形態では、原子炉圧力容器破損のタイミング、及び原子炉格納容器圧力の少なくとも1つの実測値に基づいて、予測データを補正するように構成した。これによって、予測データの精度をより高めることができる。
【0107】
また、本実施形態では、選択された状態予測元データに基づいて、原子炉格納容器圧力が所定の値に到達するまでの時間を予測するように構成した。これによって、ベントタイミングを迅速に予測することができる。
【0108】
また、本実施形態では、入力パラメータが更に原子炉圧力容器破損後の原子炉注水の有無、原子炉格納容器へのスプレイの有無、放射性物質の環境放出経路、フィルタベントの有無、及びpH制御の有無のうちの少なくとも1つを含むように構成した。これによって、放射性物質の環境放出量をより正確に予測することができる。
【0109】
また、本実施形態では、状態予測元データが、事故フェーズに応じたデータ数で近似されるように構成した。これによって少ないデータ量で状態予測元データを構成することができるので、記憶部250内の記憶データを削減できると共に予測に必要な計算量を減らして迅速に予測データを得ることができる。
【0110】
また、本実施形態では、原子炉への冷却水の注水が停止した後は、注水が継続して停止しているものとして原子炉水位、原子炉圧力容器破損のタイミング、原子炉格納容器圧力、放射性物質の環境放出時刻、及び放射性物質の環境放出量のうちの少なくとも1つを予測するように構成した。これによって注水停止後に復旧する複雑な事象を扱う必要がなくなるので、迅速に必要な予測データを取得することができる。
【0111】
また、本実施形態では、原子炉への冷却水の注水が停止した後のペデスタル注水、原子炉注水、及びドライウェルスプレイを考慮して放射性物質の環境放出量を予測するように構成した。これによって、放射性物質の環境放出量を正確に予測することができる。
【0112】
次に、本発明の第2実施形態に係る原子炉システム300について、図面を参照して具体的に説明する。
【0113】
(第2実施形態)
図12は、本発明の第2実施形態に係る原子炉リスク管理装置400による予測対象である、原子炉システム300の構成の一例を示すブロック図である。なお、本実施形態では、原子炉システム300について、加圧水型軽水炉(PWR: Pressurized Water Reactor)を例に説明し、第1実施形態である沸騰水型軽水炉との差異点を主に説明する。
【0114】
原子炉システム300は、放射性物質である燃料と炉心303を備えた原子炉圧力容器301と、原子炉圧力容器301を取り囲み、冷却材喪失時等に外部への放射性物質の放出を抑制する原子炉格納容器320と、原子炉圧力容器301内で加熱された一次冷却材である加圧水を加圧する加圧器310と、加熱及び加圧された加圧水を熱交換器341に導入して二次冷却材である軽水を加熱して蒸気を発生させる蒸気発生器340と、原子炉格納容器320を取り囲む図示しない原子炉建屋とを備えている。また、
図12には、原子炉圧力容器301内に一次冷却材である加圧水を供給する一次冷却材ポンプ305、及びタービン等を経由して冷却された二次冷却材である軽水を蒸気発生器340に供給する二次冷却材ポンプ345を併せて示している。
【0115】
原子炉圧力容器301は、
図12に示すように、蒸気発生器340において熱交換器341により冷却された一次冷却材である加圧水が一次冷却材ポンプ305により一次給水路305a経由で内部に供給されている。また、原子炉圧力容器301内で加熱された加圧水は、加圧水路307a経由で加圧器310に供給されて加圧された後、蒸気発生器340に供給される。加熱及び加圧された加圧水は、蒸気発生器340内の熱交換器341において放熱することで二次冷却材である軽水を加熱・気化させると共に自らは冷却されて再び原子炉圧力容器301へと戻る。
【0116】
熱交換器341内で加圧水によって加熱された軽水は、高温の蒸気となった後、蒸気供給路347a及び図示しない調圧弁を経由して蒸気タービンに送られ、蒸気タービンを回転させることにより発電を行う。
【0117】
原子炉格納容器320は、冷却材喪失時等に原子炉圧力容器301から漏出した放射性物質が外部に漏洩しないようにバリアとしての役割を有する。原子炉格納容器320内には、図示しない加圧器逃がしタンクが設けられており、加圧器310内の圧力が所定の閾値を超えたときは、加圧器310の急速減圧弁が開放されて、加圧器310内の加圧水が加圧器逃がしタンク内へと排出される。また、蒸気発生器340内の圧力が所定の閾値を超えたときは、蒸気発生器340の急速減圧弁が開放されて、蒸気が例えば蒸気供給路347aから環境中に放出される。
【0118】
ここで、第2実施形態に係る原子炉システム300と、第1実施形態に係る原子炉システム100との関係を表6にまとめておく。
【0120】
加圧水型軽水炉では、原子炉圧力容器301の直下の空間を沸騰水型軽水炉におけるペデスタルに代えて、原子炉キャビティと呼ぶ。そして、加圧水型軽水炉における原子炉注水水源:内部とは、事故発生後に原子炉キャビティに蓄積された水を原子炉注水の水源として用いることをいう。
【0121】
注水停止時刻、及び注水停止時水位については、加圧水型軽水炉では、1次系と2次系とに分けて考慮する。すなわち、1次系の注水停止時刻は、一次冷却材である加圧水の加圧器310内への注水が停止した時刻であり、2次系の注水停止時刻は、二次冷却材である軽水の蒸気発生器340内への注水が停止した時刻である。同様に、1次系の注水停止時水位は、一次冷却材である加圧水の加圧器310内への注水が停止した時の加圧器310内の水位であり、2次系の注水停止時水位は、二次冷却材である軽水の蒸気発生器340内への注水が停止した時の蒸気発生器340内の水位である。
【0122】
また、急速減圧時刻、及び急速減圧弁数についても、加圧水型軽水炉では、1次系と2次系とに分けて考慮する。すなわち、1次系の急速減圧時刻は、加圧器310内の圧力が所定の閾値を上回ったため加圧器310の急速減圧を行った時刻であり、2次系の急速減圧時刻は、蒸気発生器340内の圧力が所定の閾値を上回ったため蒸気発生器340の急速減圧を行った時刻である。同様に、1次系の急速減圧弁数は、加圧器310内の圧力が所定の閾値を上回り加圧器310の急速減圧を行った時に開放された弁数であり、2次系の急速減圧弁数は、蒸気発生器340内の圧力が所定の閾値を上回り蒸気発生器340の急速減圧を行った時に開放された弁数である。
【0123】
なお、加圧水型軽水炉の急速減圧において、1次系の急速減圧は、BWRにおけるRPVの急速減圧に相当する。2次系は、BWRには存在しないが、この二次冷却材が喪失すると1次系の除熱機能が喪失し、結果として1次系の水位低下に至る。従って、2次系についても考慮が必要である。
【0124】
加圧水型軽水炉においては、原子炉キャビティに直接注水する設備は無い。しかし、LOCAによるブローアウト水やPCVスプレイの水が原子炉キャビティに蓄積された場合、沸騰水型軽水炉におけるペデスタル注水と類似の条件となる。このため、加圧水型軽水炉においては、「原子炉キャビティへの水供給の有無」を「ペデスタル注水の有無」と読み替えて入力パラメータとしている。
【0125】
なお、加圧水型軽水炉においては、RPV破損後の原子炉注水による対策は取られないため、これに対応する入力パラメータは無い。
【0126】
また、加圧水型軽水炉においては、ウェットウェルが存在せず、放射性物質の放出経路はドライウェル経由に限定されるため、これに対応する入力パラメータは設けられていない。
【0127】
また、pH制御は、沸騰水型軽水炉、及び加圧水型軽水炉の双方で行われているが、沸騰水型軽水炉ではサプレッションプール22にアルカリ物質を投入する一方、加圧水型軽水炉では、PCVスプレイ水源にアルカリ物質を投入している。
【0128】
第2実施形態に係る原子炉リスク管理装置400については、第1実施形態と同様に
図2に示す構成を有するので、ここでの詳細な説明は省略する。使用者は、本実施形態の原子炉リスク管理装置400による原子炉内の状態予測を行うにあたり、入力部210から入力パラメータの入力を行う。この入力パラメータの入力は、第1実施形態と比較して、注水停止時刻、注水停止時水位、急速減圧時刻、及び急速減圧弁数について、1次系の他に2次系の入力パラメータを別個に入力できるようにしてもよい。また、RPV破損後の原子炉注水の有無、及び放射性物質の放出経路については入力しなくてもよい。また、上述のように、「原子炉キャビティへの水供給の有無」を「ペデスタル注水の有無」と読み替えて入力パラメータを入力すればよい。
【0129】
なお、第1実施形態に示した「注水期間」及び「注水停止後」の各事故フェーズ間の遷移条件は任意に定めることができる。例えば、1次系の注水が停止された時点で事故フェーズを「注水期間」から「注水停止後」へと遷移させるように構成してもよいし、1次系の注水及び2次系の注水の双方が停止された時点で事故フェーズを「注水期間」から「注水停止後」へと遷移させるように構成してもよい。また、1次系の注水又は2次系の注水のいずれか一方が停止された時点で事故フェーズを遷移させてもよく、更には2次系の注水停止のタイミングで事故フェーズを遷移させてもよい。
【0130】
また、各事故フェーズにおけるデータベースは、注水停止時刻(注水期間)、注水停止時水位、急速減圧時刻、急速減圧弁数等について、1次系の他に2次系の値を扱えるように構成してもよい。例えば、第1実施形態において表3に示した事故フェーズ「注水停止後」のデータベースは、1次系及び2次系の各注水停止時水位ごとにデータベースを有するように構成してもよい。また、1次系及び2次系の各急速減圧弁数、又は注水期間ごとにデータベースを有するように構成してもよい。
【0131】
本発明を諸図面および実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形または修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形または修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部に含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部を1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。