特許第6869766号(P6869766)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社栗本鐵工所の特許一覧

<>
  • 特許6869766-ブラスト処理方法 図000005
  • 特許6869766-ブラスト処理方法 図000006
  • 特許6869766-ブラスト処理方法 図000007
  • 特許6869766-ブラスト処理方法 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6869766
(24)【登録日】2021年4月16日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】ブラスト処理方法
(51)【国際特許分類】
   B24C 3/32 20060101AFI20210426BHJP
   B24C 3/12 20060101ALI20210426BHJP
   B24C 5/04 20060101ALI20210426BHJP
   B24C 1/00 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   B24C3/32 C
   B24C3/12
   B24C5/04 B
   B24C1/00 C
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-57252(P2017-57252)
(22)【出願日】2017年3月23日
(65)【公開番号】特開2018-158414(P2018-158414A)
(43)【公開日】2018年10月11日
【審査請求日】2019年11月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(72)【発明者】
【氏名】明渡 健吾
(72)【発明者】
【氏名】浦上 忠
【審査官】 小川 真
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−133908(JP,A)
【文献】 特表平07−508686(JP,A)
【文献】 特開2006−346833(JP,A)
【文献】 米国特許第05364474(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24C 3/32
B24C 1/00
B24C 3/12
B24C 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸周りに回転する鋳鉄管(11)のフランジ面(12)に対向して配置されたノズル(10)から投射材を投射し、凹状または凸状の刻印(14)が形成された前記フランジ面(12)のブラスト処理を行うブラスト処理方法において、
前記投射材の前記フランジ面(12)への投射部(P)における前記鋳鉄管(11)の回転方向(r)と、前記投射材の投射方向(S)の前記フランジ面(12)への正射影の前記回転方向への分解成分の方向(S)とが対向しており、
前記フランジ面(12)の面法線(n)と前記投射方向(S)とのなす投射角度(θ)が、10度以上40度以下の範囲内であることを特徴とするブラスト処理方法。
【請求項2】
前記フランジ面(12)に対する前記投射部(P)の移動速度が、15.0m/分以下であることを特徴とする請求項に記載のブラスト処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水道管などに用いられる鋳鉄管のフランジ鋳出し部のブラスト処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水道管などに用いられる鋳鉄管(ダクタイル鋳鉄管)は、日本ダクタイル鉄管協会規格のJPDA Z2010(ダクタイル鋳鉄管合成樹脂塗装)、JDPA T56(GX形ダクタイル鉄管)に規定されているように、耐食性を向上させるためにその表面に溶射を行うことが要求されている。この溶射は、耐食性を考慮した上で材料を選択し、その材料を溶融させて鋳鉄管に吹き付けることによって行なわれる。
【0003】
この溶射に先立って、鋳鉄管の表面に微小な投射材(スチールショット、スチールグリッドなど)を高速で衝突させるブラスト処理が一般的に行われる。ブラスト処理を行うことにより、表面に付着している塗料、赤錆などの被膜が除去されるとともに、鋳鉄管の表面粗度が高まり、その表面に形成された溶射による被膜の密着性を向上させることができる。
【0004】
ブラスト処理方法としては、鋳鉄管を軸周りに回転させながら、その表面に対向して配置されたノズルから投射材を投射する種類があり、例えば、特許文献1に示す装置が用いられる。この装置は、管端に向かって管軸方向から投射材を噴射して、管端端面、管端内面、管端外面を同時に研磨することが可能な管端磨き装置である(特許文献1の段落0045、図1など参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−11667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に係る管端磨き装置は、鋳鉄管の端面および内外面を同時にブラスト処理できる一方で、端面の処理が不十分となることがある。その理由として、端面の鋳出し部に管種やロット番号などを示す凹状または凸状の刻印が形成されていることがあり、この刻印の奥まったところまで、投射材が十分に入り込まないことが挙げられる。ブラスト処理が不十分であると、溶射による被膜の密着性が低下して、剥離問題を生じる虞がある。
【0007】
ブラスト処理を十分に行うべく、投射時間を長くしたり、投射材の粒度を小さくしたりすることが考えられる。しかしながら、投射時間を長くすると生産性が大幅に低下する問題が生じ、投射材の粒度を小さくすると表面粗度が低下して、溶射品質が損なわれる問題が生じる。
【0008】
そこで、この発明は、鋳鉄管の端面に対し十分なブラスト処理を行うことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、この発明は、軸周りに回転する鋳鉄管のフランジ面に対向して配置されたノズルから投射材を投射し、前記フランジ面のブラスト処理を行うブラスト処理方法において、前記投射材の前記フランジ面への投射部における前記鋳鉄管の回転方向と、前記投射材の投射方向の前記フランジ面への正射影の前記回転方向への分解成分の方向とが対向していることを特徴とするブラスト処理方法を構成した。
【0010】
このように、前記投射材の前記フランジ面への投射部における前記鋳鉄管の回転方向と、前記投射材の投射方向の前記フランジ面への正射影の前記回転方向への分解成分の方向とを対向させることにより、ノズルから投射された投射材の勢いが衰えることなく鋳鉄管のフランジ面に当たる。このため、研掃性が向上して、フランジ面の表面に付着している塗料、赤錆などの被膜が効率良く除去されるとともに、鋳鉄管の表面の表面粗度が高まり、その表面に形成された溶射による被膜の密着性を向上させることができる。
【0011】
前記構成においては、前記フランジ面の面法線と前記投射方向とのなす投射角度が、5度以上40度以下の範囲内である構成とするのが好ましい。
【0012】
このように、前記フランジ面の面法線と前記投射方向とのなす投射角度を上記の範囲内とすることにより、ブラスト処理による優れた研掃性が発揮される。この投射角度を、5度よりも小さくすると端面の鋳出し部に形成された凹凸部の奥まで投射材が入り込まず、40度よりも大きくすると投射材によるフランジ面の研掃性が低下し、いずれの場合も十分なブラスト処理を行うことが難しいため、いずれの場合も好ましくない。
【0013】
前記各構成においては、前記フランジ面に対する前記投射部の移動速度が、15.0m/分以下である構成とするのが好ましい。
【0014】
このように、前記フランジ面に対する前記投射部の移動速度を上記とすると、フランジ面のブラスト処理を効率良くかつ十分に行うことができる。この移動速度を15.0m/分よりも大きくすると端面の鋳出し部に形成された凹凸部の奥まで投射材が入り込まず、十分なブラスト処理を行うことができないため好ましくない。
【発明の効果】
【0015】
この発明に係るブラスト処理方法は、投射材のフランジ面への投射部における鋳鉄管の回転方向と、前記投射材の投射方向の前記フランジ面への正射影の前記回転方向への分解成分の方向とが対向する構成としたので、ノズルから投射された投射材の勢いが衰えることなく鋳鉄管のフランジ面に当たる。このため、研掃性が向上して、フランジ面の表面に付着している塗料、赤錆などの被膜が除去されるとともに、鋳鉄管の表面が表面粗度が高まり、その表面に形成された溶射による被膜の密着性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】この発明に係るブラスト処理方法を行うブラスト装置の一例(概略)を示す断面図
図2】鋳鉄管の製造工程の一例(概略)を示すフロー
図3】鋳鉄管のフランジ面への投射材の投射方向を示す斜視図
図4図3に示すフランジ面を管軸側から見た図
【発明を実施するための形態】
【0017】
この発明に係るブラスト処理方法は、図1に例示するブラスト装置を用いて行われる。このブラスト装置は、ブラスト処理を行う投射材(スチールグリッドなど)を噴射するノズル10を備え、軸方向横向きにセットされた鋳鉄管11の端部の鋳出し部(フランジ面12)に投射材を投射して、このフランジ面12のブラスト処理を行う機能を備えている。フランジ面12に対し、ノズル10は対向するように配置されている。このブラスト処理の間、鋳鉄管11はローラ(図示せず)によって軸周りに回転される。また、鋳鉄管11の受口には、管内に投射材が入り込むのを防止するマスキング部材13が嵌め込まれる。
【0018】
鋳鉄管11は、図2に概略で示すフローに従って製造される。まず、鋳造によって鋳鉄管11が成形される(ステップS10)。このとき、鋳鉄管11の端部のフランジ面12に、この鋳鉄管11の種別やロット番号などを示す凹状または凸状の刻印14が形成される。鋳造後に所定の焼鈍を行うことによって、その機械特性(強度、延性など)が所望値に調整される(ステップS11)。
【0019】
焼鈍後に受口および挿し口加工(周溝や突条などの形成)が行なわれ、鋳鉄管11が最終形状とされる(ステップS12)。最終形状とした鋳鉄管11のフランジ面12に、この発明に係るブラスト処理方法によるブラスト処理を行う(ステップS13)。ブラスト処理に続いて、鋳鉄管11の表面に耐食性を備えた被膜を形成する溶射が行なわれる(ステップS14)。さらに、その溶射による被膜の上に塗装が行なわれる(ステップS15)。最後に、製品の最終チェックが行なわれて出荷される(ステップS16)。
【0020】
溶射の前にブラスト処理を行うことにより、フランジ面12の表面に付着している塗料、赤錆などの被膜が除去されるとともに、鋳鉄管11の表面粗度が高まり、その表面に形成された溶射による被膜の密着性を向上させることができる。なお、このフロー中には記載されていないが、一連のフロー中に、鋳鉄管11の他の部位(直部など)のブラスト加工や、塗装工程が別途行なわれることもある。
【0021】
図3および図4に、鋳鉄管11のフランジ面12への投射材の投射方向Sを示す。投射材は、投射部Pにおいてフランジ面12に投射されている。鋳鉄管11は、図3中および図4中に矢印rで示した方向に回転している。この投射方向Sは、フランジ面12の面法線nと投射角度θをなしている。投射方向Sのフランジ面12への正射影は、鋳鉄管11(フランジ面12)の回転方向の成分(回転方向成分S)とこの回転方向成分と直交する方向の成分(直交方向成分S)に分解することができる。
【0022】
ノズル10は、投射材のフランジ面12への投射部Pにおける鋳鉄管11の回転方向rと、投射方向Sの回転方向成分Sの方向とが対向する方向となるように角度調整される。この投射角度θは、5度以上40度以下の範囲内とされる。投射角度θをこの範囲内とすることにより、ブラスト処理による優れた研掃性が発揮される。この投射角度θの範囲は、10度以上40度以下、さらに、20度以上35度以下とするのが、研掃性のさらなる向上の点で好ましい。
【0023】
また、鋳鉄管11を軸方向横向きにセットした構成においては、投射方向Sの直交方向成分Sが小さくなるほど(すなわち、ノズル10からの投射材の投射方向が水平に近付くほど)、相対的に回転方向成分Sが大きくなり、研掃性をさらに高めることができる。
【0024】
以下において、鋳鉄管11のブラスト処理試験の結果について説明する。
(1)鋳鉄管の回転方向と、投射方向の回転方向成分の方向との関係について
鋳鉄管11の回転方向と、投射方向Sの回転方向成分Sの方向との関係(逆方向または同方向)が研掃性に与える影響について評価した。この評価試験においては、表1に示す条件でブラスト処理を行った。
【0025】
【表1】
【0026】
この試験結果から、鋳鉄管11の回転方向rと、投射方向Sの回転方向成分Sの方向を逆方向とした場合、ブラスト処理を少なくとも20秒間実施すれば、赤錆などが残存しない良好な仕上がり状態を得られることが確認できた(実施例1〜3)。その一方で、鋳鉄管11の回転方向rと、投射方向Sの回転方向成分Sの方向を同方向とした場合、投射時間を十分長くすれば(37秒)良好な仕上がり状態を得られる一方で(比較例3)、投射時間が短いと(20、25秒)、鋳出し部(特に、フランジ面12に形成した刻印14の周辺)に赤錆などが残存することが確認された(比較例1、2)。この試験結果より、鋳鉄管11の回転方向と、投射方向Sの回転方向成分Sの方向を逆方向とすることにより、良好な仕上がり状態を得るための投射時間を大幅に短縮できることが分かる。
【0027】
(2)フランジ面の面法線と投射方向のなす角度の影響について
鋳鉄管11の回転方向rと、投射方向Sの回転方向成分Sの方向を逆方向とした条件において、フランジ面12の面法線nと投射方向Sのなす角度が研掃性に与える影響について評価した。この評価試験においては、表2に示す条件でブラスト処理を行った。
【0028】
【表2】
【0029】
この試験結果から、投射角度θを小さくした場合(θ=30度)、赤錆などが残存しない良好な仕上がり状態を得られることが確認できた(実施例4)。その一方で、投射角度θを大きくした場合(θ=45度)、鋳出し部(特に、フランジ面12に形成した刻印14の周辺)に赤錆などが残存することが確認された(比較例4)。この実施例4においては、投射角度θを30度としたが、5度以上40度以下の範囲内で、優れた研掃性が発揮される。
(3)投射部の移動速度の影響について
鋳鉄管11の回転方向rと、投射方向Sの回転方向成分Sの方向を逆方向とした条件において、投射部Pの移動速度が研掃性に与える影響について評価した。この評価試験においては、表3に示す条件でブラスト処理を行った。
【0030】
【表3】
【0031】
この試験結果から、投射部Pの移動速度を小さくした場合(呼び径が75mmのとき9.0m/分、呼び径が100mmのとき10.5m/分)、赤錆などが残存しない良好な仕上がり状態を得られることが確認できた(実施例5、6)。その一方で、投射部Pの移動速度を大きくした場合(呼び径が75mmのとき18.0m/分、呼び径が100mmのとき21.0m/分)、鋳出し部(特に、フランジ面12に形成した刻印14の周辺)に赤錆などが残存することが確認された(比較例5、6)。この実施例5、6においては、移動速度を9.0m/分、または、10.5m/分としたが、15.0m/分以下の範囲内で、優れた研掃性が発揮される。なお、生産性の観点からは、移動速度を2.0m/分以上とするのが好ましい。
【0032】
上記の各試験条件(表1〜表3)でブラスト処理を行った鋳鉄管11に溶射による被膜を形成し、クロスカット試験(テープ剥離試験)でその被膜の密着性を評価したところ、仕上がり状態(研掃性)が「○(残存なし)」と判断されたものにおいては高い密着性を有することが確認できた。その一方で、仕上がり状態(研掃性)が「×(鋳出し部に一部残存)」と判断されたものにおいては、部分的に剥離が生じることが確認できた。
【0033】
上記の実施例は、各パラメータの組み合わせの中の一部を例示したのに過ぎず、鋳鉄管11の端面に対し十分なブラスト処理を行う、というこの発明の課題を解決し得る限りにおいて、投射角度θ、移動速度などの諸条件を適宜決定することができる。また、上記で説明した以外の処理条件を新たに追加することも許容される。
【符号の説明】
【0034】
10 ノズル
11 鋳鉄管
12 フランジ面
P 投射部
S 投射方向
回転方向成分
θ 投射角度
r 回転方向
n 面法線
図1
図2
図3
図4