(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6869790
(24)【登録日】2021年4月16日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】電力入力に基づき真空アーク再溶解炉を制御するためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
C22B 9/21 20060101AFI20210426BHJP
B22D 27/02 20060101ALI20210426BHJP
F27D 19/00 20060101ALI20210426BHJP
H05B 7/148 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
C22B9/21
B22D27/02 B
F27D19/00 Z
H05B7/148 B
H05B7/148 Z
【請求項の数】14
【外国語出願】
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-82565(P2017-82565)
(22)【出願日】2017年4月19日
(65)【公開番号】特開2018-70993(P2018-70993A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2020年4月14日
(31)【優先権主張番号】15/340,671
(32)【優先日】2016年11月1日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517121582
【氏名又は名称】エイ・フィンクル・アンド・サンズ・カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アルギルダス・アンデリース
【審査官】
河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第05930284(US,A)
【文献】
特開平08−069877(JP,A)
【文献】
米国特許第04578795(US,A)
【文献】
特表昭63−502785(JP,A)
【文献】
特表2014−502004(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00−61/00
B22D 27/02
F27D 7/00−15/02
H05B 7/00−7/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属用真空アーク再溶解(VAR)プロセスのための制御システムであって、
VARプロセスはVAR炉を使用し、VAR炉は、金属で形成されるインゴットがその中で形成されるるつぼと、金属で形成された電極に動作可能に関連づけられたラムと、真空チャンバと、真空チャンバに関連づけられた真空源とを含み、システムは、
電極と動作可能に関連づけられるとともに、電極の電極先端とインゴットの溶融物プールの間に電気アークを発生させるように構成された直流(DC)電源と、
ラムと動作可能に関連づけられるとともに、ラムを駆動するように構成されたラムドライブと、
時間にわたり電気アークのドリップショート頻度を測定するように構成されたドリップショートセンサと、
プロセッサを含み、DC電源、ラムドライブ、およびドリップショートセンサに動作可能に関連づけられたコントローラと
を備え、コントローラは、
ドリップショート頻度とアークギャップ長の間の相関に基づいてリアルタイムアークギャップ長を決定するギャップ決定モジュールを使用してドリップショートセンサによって測定される時間にわたるドリップショート頻度を使用して、電極先端と溶融物プールの間のリアルタイムアークギャップ長を決定すること、
電極に対する所望の溶融速度を達成するように構成された、VARプロセスのためのラム速度を決定し、ラム速度に基づいてラムを駆動するために命令をラムドライブに与えるラム制御モジュールを使用して、ラムのラム速度を制御すること、および
リアルタイムアークギャップ長に基づいて電極への入力電力レベルを決定するように構成された電力制御モジュールを使用して、DC電源による電極への電力入力を制御することであって、入力電力レベルは、入力電力レベルにおいて、DC電源によって、電力が伝達されると電極先端と溶融物プールの間に所望のアークギャップ長を発生させるように構成されている、制御すること
を行うように構成された、制御システム。
【請求項2】
リアルタイムアークギャップ長が所望のアークギャップ長よりも大きい場合には、電力制御モジュールが、DC電源の電力を低下させるように構成されている、請求項1に記載の制御システム。
【請求項3】
リアルタイムアークギャップ長が所望のアークギャップ長よりも小さい場合には、電力制御モジュールが、DC電源の電力を増大させるように構成されている、請求項1に記載の制御システム。
【請求項4】
るつぼの内径がインゴットのインゴット直径に対応し、内径が750ミリメートル以上である、請求項1に記載の制御システム。
【請求項5】
るつぼの内径がインゴットのインゴット直径に対応し、内径が1000から1100ミリメートルの範囲内である、請求項1に記載の制御システム。
【請求項6】
真空アーク再溶解(VAR)プロセスを制御する方法であって、VARプロセスはVAR炉を使用し、VAR炉は、金属で形成されるインゴットがその中で形成されるるつぼと、金属で形成された電極に動作可能に関連づけられたラムと、真空チャンバと、真空チャンバに関連づけられた真空源とを備え、方法は、
電極と動作可能に関連づけられた直流(DC)電源を使用して、電極の電極先端とインゴットの溶融物プールの間に電気アークを発生させるステップと、
ラムと動作可能に関連づけられたラムドライブを使用して、電極に対する所望の溶融速度を達成するように構成されたラム速度で、ラムを駆動するステップと、
ドリップショートセンサを使用して、時間にわたり電気アークのドリップショート頻度を決定するステップと、
ドリップショート頻度とアークギャップ長の間の相関に基づいて、時間にわたるドリップショート頻度を使用して、電極先端と溶融物プールの間のリアルタイムアークギャップ長を決定するステップと、
リアルタイムアークギャップ長に基づいて電極への入力電力レベルを決定するステップであって、入力電力レベルは、入力電力レベルにおいて、DC電源によって、電力が伝達されると電極先端と溶融物プールの間に所望のアークギャップ長を発生させるように構成されている、決定するステップと、
入力電力レベルに基づいて、DC電源により電極に入力される電力を制御するステップと
を含む、方法。
【請求項7】
現在のアークギャップ長に基づいて電極への入力電力レベルを決定するステップが、リアルタイムアークギャップ長が所望のアークギャップ長よりも大きい場合には、DC電源の電力の減少を決定することを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
現在のアークギャップ長に基づいて電極への入力電力レベルを決定するステップが、リアルタイムアークギャップ長が所望のアークギャップ長よりも小さい場合には、DC電源の電力の増加を決定することを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
金属用VARプロセスを実施するための真空アーク再溶解(VAR)炉であって、
金属で形成されるインゴットがその中で形成されるるつぼと、
金属で形成された電極に動作可能に関連づけられたラムと、
真空チャンバと、
真空チャンバに関連づけられた真空源と、
電極と動作可能に関連づけられるとともに、電極の電極先端とインゴットの溶融物プールの間に電気アークを発生させるように構成された直流(DC)電源と、
ラムと動作可能に関連づけられるとともに、ラムを駆動するように構成されたラムドライブと、
時間にわたり電気アークのドリップショート頻度を測定するように構成されたドリップショートセンサと、
プロセッサを含み、DC電源、ラムドライブ、およびドリップショートセンサと動作可能に関連づけられたコントローラと
を備え、コントローラは、
ドリップショート頻度とアークギャップ長の間の相関に基づいて、リアルタイムアークギャップ長を決定することによって、ドリップショートセンサによって測定される時間にわたる電気アークのドリップショート頻度を使用して、電極先端と溶融物プールの間のリアルタイムアークギャップ長を決定すること、
電極に対する所望の溶融速度を達成するように構成された、VARプロセスのためのラム速度を決定すること、およびラム速度に基づいてラムを駆動するために命令をラムドライブに与えることによって、ラムのラム速度を制御すること、および
リアルタイムアークギャップ長に基づいて電極への入力電力レベルを決定することによって、DC電源による電極への電力入力を制御することであって、入力電力レベルは、入力電力レベルにおいて、DC電源によって、電力が伝達されると電極先端と溶融物プールの間に所望のアークギャップ長を発生させるように構成されている、制御すること
を行うように構成された、VAR炉。
【請求項10】
VARプロセス中にるつぼ内のインゴットを冷却するように構成された冷却システムをさらに備える、請求項9に記載のVAR炉。
【請求項11】
るつぼの内径がインゴットのインゴット直径に対応し、内径が750ミリメートル以上である、請求項9に記載のVAR炉。
【請求項12】
るつぼの内径がインゴットのインゴット直径に対応し、内径が1000から1100ミリメートルの範囲内である、請求項9に記載のVAR炉。
【請求項13】
コントローラによって電力入力を制御することが、現在のアークギャップ長が所望のアークギャップ長よりも大きい場合には、DC電源の電力を減少させることを含む、請求項9に記載のVAR炉。
【請求項14】
コントローラによって電力入力を制御することが、現在のアークギャップ長が所望のアークギャップ長よりも小さい場合には、DC電源の電力を増加させることを含む、請求項9に記載のVAR炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般的には真空アーク再溶解に関し、より詳細には真空アーク再溶解プロセスに使用される制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
真空アーク再溶解(VAR:Vacuum arc remelting)プロセスは、2次溶解プロセスとしての金属インゴットの製造において一般的に使用されている。金属インゴットにVARプロセスを適用することによって、VARプロセスにおいて製造される、結果として得られるインゴットの化学的および/または機械的均質性を向上させることができ、このことは、要求の厳しい工業用途において使用される金属に対して望ましい。さらに、VARプロセス中の金属の凝固時間を、はるかに迅速にすることができるので、VARプロセスを使用することにより、インゴット金属の微細組織特性をより高度に制御することが可能となる。一般的にVARプロセスを介して再溶解される例示的金属としては、それに限定はされないが、ニッケル、チタン、鋼、およびそのような金属または他の金属から誘導される任意の合金が挙げられる。
【0003】
VARプロセスは、真空チャンバ内で金属を再溶解するのに直流(DC)電力を使用する、VAR炉を使用することがある。VAR炉は、溶解チャンバと、DC電源に接続された可動ラム(ram)とを備えることがある。再溶解しようとする金属は、可動ラムに接続された電極として、VARプロセスを開始することができる。再溶解された金属は、溶解チャンバ内部で、水冷銅るつぼ内でインゴットとして再溶解されてもよい。溶解しようとする金属と反応することのある、酸素の含有量が無視できる雰囲気を提供するために、かつ溶解チャンバからの不純物を排除するために、VAR炉には、真空源を備えてもよい。さらに、一部のVAR炉においては、溶解チャンバから熱を引き出すために、冷却システムが備えられる。
【0004】
VARシステムの制御は、インゴットおよび/またはるつぼの上にある、電極の端部と、再溶解中に形成された溶融物プールの間のアークギャップを制御することに基づいてもよい。VAR実行において、比較的に一定のアークギャップを維持することによって、VARプロセス中の一貫性のある再溶解結果をもたらすのを助けることができることが認識されている。したがって、VARプロセスの制御は、少なくとも部分的には、アークギャップを制御することに基づいてもよい。しかしながら、プロセス自体の間にアークギャップを物理的に視認することは非実用的であるか、または不可能であることが多く、アークギャップは、よりアクセスの容易なその他のデータに基づいて決定または導出される。例えば、いくつかの制御方法は、アークの長さと、アークの抵抗(例えば、アークによって生じる電圧降下)とは相関があると決定している。
【0005】
さらに、再溶解プロセス中に、再溶解中に短期間短絡(例えば、数ミリ秒)が発生することが観察されている。さらに、短絡の頻度は、アークギャップと相関があることが観察されている。そのような情報は、アークギャップを制御および/または維持するのに使用してもよい。従来の制御方法においては、アークギャップを動的に制御および/または維持するために、ラムの速度が変更されている間に、所望の溶融速度を得るように、電力入力が選択されていた。
【0006】
しかしながら、電極の直径が増大するにつれて、アークギャップにおける同じ変化に対して、溶解される必要のある金属の量がますます多くなることから、結果として得られるインゴットが大径(例えば、750ミリメートル超)であることが望ましいVARプロセスの間に、ラム速度制御が困難になり、かつ/または前記速度を制御することによるアークギャップの制御が不正確になることがある。したがって、ラム速度の調節と独立してアークギャップを制御することのできる、VARプロセス用の改良型制御システムが望まれる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様によれば、金属用真空アーク再溶解(VAR)プロセス用の制御システムが開示される。このVARプロセスはVAR炉を使用してもよく、VAR炉は、金属で形成されるインゴットがその中で形成されるるつぼと、その金属で形成された電極に動作可能に関連づけられたラムと、真空チャンバと、真空チャンバに関連づけられた真空源とを備える。このシステムは、直流(DC)電源と、ラムドライブ(ram drive)と、ドリップショートセンサ(drip short sensor)と、プロセッサを含むコントローラとを備えてもよい。DC電源は、電極と動作可能に関連づけられるとともに、電極の電極先端とインゴットの溶融物プールの間に電気アークを発生させるように構成してもよい。ラムドライブは、ラムと動作可能に関連づけられるとともに、ラムを駆動するように構成してもよい。ドリップショートセンサは、時間にわたり電気アークのドリップショート頻度を測定するように構成してもよい。コントローラは、DC電源と、ラムドライブと、ドリップショートセンサとに動作可能に関連づけられるとともに、ラム制御モジュールを使用してラムのラム速度を制御するように構成してもよく、ラム制御モジュールは、電極に対する所望の溶融速度を達成するように構成された、VARプロセスのためのラム速度を決定して、ラム速度に基づきラムを駆動するための命令をラムドライブに与える。コントローラは、ドリップショート頻度とアークギャップ長の間の相関に基づいてリアルタイムアークギャップ長を決定するギャップ決定モジュールを使用してドリップショートセンサによって測定される上記時間にわたるドリップショート頻度を使用して、電極先端と溶融物プールの間のリアルタイムアークギャップ長を決定するようにさらに構成してもよい。コントローラは、電力制御モジュールを使用して、DC電源による電極への電力入力を制御するようにさらに構成してもよく、電力制御モジュールは、リアルタイムアークギャップ長に基づいて電極への入力電力レベルを決定するように構成され、入力電力レベルは、入力電力レベルにおいて、DC電源によって、電力が伝達されると、電極先端と溶融物プールの間に所望のアークギャップ長を発生させるように構成される。
【0008】
本開示の別の態様によれば、VARプロセスを制御する方法が開示される。VARプロセスはVAR炉を使用してもよく、VAR炉は、金属で形成されるインゴットがその中で形成されるるつぼと、金属で形成された電極に動作可能に関連づけられたラムと、真空チャンバと、真空チャンバに関連づけられた真空源とを備えてもよい。方法は、電極と動作可能に関連づけられた直流(DC)電源を使用して、電極の電極先端とインゴットの溶融物プールの間に電気アークを発生させるステップと、ラムと動作可能に関連づけられたラムドライブを使用して、電極に対する所望の溶融速度を達成するように構成されたラム速度で、ラムを駆動するステップと、ドリップショートセンサを使用して、時間にわたり電気アークのドリップショート頻度を決定するステップとを含んでもよい。方法は、ドリップショート頻度とアークギャップ長の間の相関に基づいて、時間にわたるドリップショート頻度を使用して、電極先端と溶融物プールの間のリアルタイムアークギャップ長を決定するステップをさらに含んでもよい。方法は、リアルタイムアークギャップ長に基づいて電極への入力電力レベルを決定するステップであって、入力電力レベルは、入力電力レベルにおいて、DC電源によって、電力が伝達されると電極先端と溶融物プールの間に所望のアークギャップ長を発生させるように構成されている、決定するステップと、入力電力レベルに基づいて、DC電源により電極に入力される電力を制御するステップとをさらに含んでもよい。
【0009】
本開示のさらに別の態様によれば、VARプロセスを実行するためのVAR炉が開示される。VAR炉は、金属で形成されるインゴットがその中で形成されるるつぼと、金属で形成された電極に動作可能に関連づけられたラムと、真空チャンバと、真空チャンバに関連づけられた真空源とを備えてもよい。VAR炉は、直流(DC)電源と、ラムドライブと、ドリップショートセンサと、プロセッサを含むコントローラとを備えてもよい。DC電源は、電極と動作可能に関連づけられるとともに、電極の電極先端とインゴットの溶融物プールの間に電気アークを発生させるように構成してもよい。ラムドライブは、ラムと動作可能に関連づけられるとともに、ラムを駆動するように構成してもよい。ドリップショートセンサは、時間にわたり電気アークのドリップショート頻度を測定するように構成してもよい。コントローラは、DC電源と、ラムドライブと、ドリップショートセンサとに動作可能に関連づけられるとともに、電極に対する所望の溶融速度を達成するように構成された、VARプロセスのためのラム速度を決定して、ラム速度に基づいてラムを駆動するための命令をラムドライブに与えることによって、ラムの速度を制御するように構成してもよい。コントローラは、ドリップショート頻度とアークギャップ長の間の相関に基づいてリアルタイムアークギャップ長を決定することによってドリップショートセンサによって測定される上記の時間にわたるドリップショート頻度を使用して、電極先端と溶融物プールの間のリアルタイムアークギャップ長を決定するようにさらに構成してもよい。コントローラは、リアルタイムアークギャップ長に基づいて電極への入力電力レベルを決定することによって、DC電源による電極への電力入力を制御するようにさらに構成してもよく、ここで入力電力レベルは、入力電力レベルにおいて、DC電源によって、電力が伝達されると電極先端と溶融物プールの間に所望のアークギャップ長を発生させるように構成される。
【0010】
本開示の、これらおよびその他の態様と特徴は、添付の図面を合わせて読めば、より良く理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の実施形態による、真空アーク再溶解(VAR)炉および関連する制御システムの要素の概略図である。
【
図2】
図1と本開示とによる、アークギャップ内に配置された電気アークを示す、
図1のVAR炉の電極とインゴットの間の、アークギャップの拡大図である。
【
図3】
図1および2と本開示の実施形態とによる、
図1のVAR炉を使用するVARプロセスを制御するためのシステムの概略ブロック図である。
【
図4】本開示の実施形態による、VAR炉を使用するVARプロセスを制御するための方法を示す、例示的フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下の詳細な説明は、特定の説明のための実施形態について述べられるが、図面は必ずしも実際の縮尺ではなく、開示の実施形態は、概略的に、部分図で示されていることがあることを理解されたい。さらに、場合によっては、開示の主題の理解には必要ではない、または理解するのが難しすぎるその他の細目を伴う、詳細は省略されていることがある。したがって、本開示は、本明細書において開示され図解された特定の実施形態に限定はされず、全開示および特許請求の範囲、ならびにその均等物についての公平な解釈に限定されることを理解すべきである。
【0013】
次に図面に移り、具体的には
図1を参照すると、例示的真空アーク再溶解(VAR)炉10が概略的に図示されている。VAR炉10は、VAR炉10の溶解チャンバ14内で、金属で構成された電極12を溶解させることによって、その金属を再溶解するように構成してもよい。溶解チャンバ14内部で、電極12は、るつぼ16内部に配置してもよい。例によっては、銅は所望の熱的特性および/または電気伝導特性をもたらすことができるので、るつぼ16は銅で形成してもよいが、るつぼ16は、銅で形成されることに限定されるものではなく、VARプロセスに対して、所望の熱的特性および/または電気伝導性をもたらす任意の材料で形成してもよい。
【0014】
例によっては、るつぼ16は、例えば、冷却システム20によって冷却してもよい。冷却システム20は、例えば、1つまたは複数の冷却剤チャネル24を介して、るつぼ16中に冷却剤流体を投入する、冷却剤源22を備えてもよい。冷却剤は冷却剤出口26を介して、るつぼ16から出ることができ、そこで、冷却剤を廃棄するか、または冷却剤源22を介して、冷却剤として、るつぼ16に再び入れることができるように、冷やしてもよい。冷却剤は、例えば、水または水ベース冷却剤とすることができるが、冷却剤は、水または水ベース冷却剤であることにもちろん限定はされず、VARプロセスにおける使用の前、その間、および/またはその後に、るつぼ16を冷却するように構成された適切な任意の冷却剤とすることができる。
【0015】
VAR炉10内に、るつぼ16に対して電極12を配置するために、VAR炉10には、電極12と動作可能に関連づけられた、ラム28をさらに備えてもよい。ラム28および電極12は、VAR炉10の真空チャンバ30内部を移動することができる。真空チャンバ30は、真空チャンバ30および溶解チャンバ14内部で真空の密封をもたらすために、不純物および/または環境制約を排除してもよい。真空チャンバ30を真空にするために、真空源32を備えてもよい。ラム28および、それと連動して、電極12を移動させる目的で、るつぼ16に対して電極12を配置するために、ラムドライブ34を備えてもよい。ラムドライブ34は、ラム28を介して電極12を配置するために用いることのできる、当該技術において知られている任意好適な駆動機構としてもよい。例えば、ラムドライブ34としては、もちろんそれに限定はされないが、サーボモータ、ギア減速ドライブ、任意既知のモータ、ソレノイドバルブピストンドライブ、水圧ドライブ、またはそれらの任意の組合せを挙げることができる。
【0016】
ラムドライブ34を使用して、インゴット38の溶融物プール36に対して、電極12を配置してもよく、ここで、インゴット38は、るつぼ16内部の電極12の金属の再溶解物である。VAR炉10の動作中に、電源40は、ラム28および電極12を介して、比較的、低電圧で高アンペアの電流を通すことができる。例によっては、そのような電流は、約20−30ボルトの比較的低い電圧を有するのに対して、例えば、1キロアンペア以上の比較的に高アンペアの電流を有する。電流が電極12へと流れるときに、電極12の先端44とインゴット38の溶融物プール36の間に、電気アーク42が生成される。電気アーク42は、
図2の拡大図に示されている。電流を電極12に流して電気アーク42を発生させることによって、溶融物プール36中への、ゆっくりとした電極12の溶解を起こさせることができる。
【0017】
そのようなゆっくりとした溶解は、真空チャンバ30および/または溶解チャンバ14の真空密封された環境内に封じ込めることができる。電極12に流された電流は、負電圧としてもよく、これに対してインゴット38および、したがって、その溶融物プール36は、接地電位に保持してもよい。例によっては、インゴット38の温度は、冷却システム20によって、したがって、インゴット38を冷却することによって、制御してもよく、インゴット38の冷却部分が固体のままである間、限定された溶融物プール36を維持してもよい。
【0018】
流された電流によって、電極12から金属が溶け落とされるので、溶け落ちた金属は、次いで、インゴット38上に堆積される。したがって、溶解によって、電極12から溶け落ちた材料は、インゴット38に追加された材料に比例する。しかしながら、電極12の直径は、通常、るつぼ16、したがってインゴット38の直径よりも小さいので、ラム28は、インゴット38の成長速度を超える速度で、電極12をインゴット38に向かって駆動することができる。
【0019】
ラムドライブ34は、再溶解が発生するときに、インゴット38に向かってラム28を駆動するように構成される。再溶解中に、アークギャップ46が形成され、これは、電極12の先端44とインゴット38の溶融物プール36の間のギャップとして定義することができる。アークギャップ46は、最適性能のためには、VARプロセスを通して、比較的一貫して維持されなくてはならない。
【0020】
しかしながら、VAR炉10を使用するVARプロセス中にアークギャップ46を物理的に視認することは非実用的または不可能であることがあり、したがって、アークギャップ46は、よりアクセスが可能である、その他のデータに基づいて決定または導出してもよい。例えば、アークギャップ46の説明におけるように、アークギャップ46の決定は、電気アーク42によって引き起こされる、ドリップショートおよび/またはドリップショート頻度と、アーク長との相関に基づいてもよい。電気アーク42によって引き起こされるドリップショート頻度は、ドリップショートセンサ48を使用することによって決定してもよく、このドリップショートセンサ48は、当該技術において知られている、電気アーク42によって引き起こされるドリップショート頻度を決定することのできる任意のセンサとすることができる。ドリップショートセンサ48としては、電極アーク42の両端間の電圧、電気アーク42の両端間の電流、電気アーク42の両端間の抵抗、および/または電気アーク42によって引き起こされる、ある時間にわたる、ドリップショート頻度を決定するのに有用である、電気アーク42および/またはアークギャップ46に関連するその他任意のデータ、を決定することのできる1つまたは複数のセンサを挙げることができる。例によっては、ドリップショートセンサ48は、電気アーク42の電圧測定値に基づいてドリップショートを決定してもよい。追加的または代替的に、そのような電圧測定値は、ドリップショートセンサ48によってコントローラ52に提供されてもよく、この場合には、コントローラ52は、次いで、電気アーク42のドリップショート頻度を決定する。ドリップショートセンサ48は、
図3に概略的に図示され、以下により詳細に説明される、VAR炉10のVARプロセスを制御するように構成された、コントローラ52を含む、制御システム50の一部として、またはそれと合わせて使用してもよい。
【0021】
システム50は、少なくともプロセッサ54を含む、コントローラ52を備えてもよい。コントローラ52は、オペレーションを実施し、制御アルゴリズムを実行し、データを記憶し、データを引き出し、データを収集し、かつ/または所望のその他任意のコンピューティングタスクまたは制御タスクを実行するように動作するプロセッサを含む、任意の電子コントローラまたはコンピューティングシステムとしてもよい。コントローラ52は、単独のコントローラとするか、またはラムドライブ34、電源40、ドリップショートセンサ48、および任意選択で、出力デバイス56および/または入力デバイス58の1つまたは複数と相互作用するように配置された、2つ以上のコントローラを備えてもよい。入力デバイス58は、例えば、キーボード、マウス、タッチスクリーン、トラックパッド、トラックボール、および/または音声認識システムによって実現することができる。例えば、入力デバイス58としては、コントローラ52へ入力データを接続する、任意の有線デバイスまたは無線デバイスを挙げることができる。出力デバイス28は、音声出力デバイス、視覚出力デバイス、タクタイル出力デバイス、またはそれらの任意の組合せの1つまたは複数を備えてもよい。
【0022】
コントローラ52の機能性は、ハードウェアおよび/またはソフトウェアに実装してもよく、また1つまたは複数のデータマップに依存してもよい。この目的で、コントローラ52には、メモリ60を含めるか、またはそれと関連づけてもよく、それは、データベースまたはサーバのような、内部メモリおよび外部メモリの一方または両方としてもよい。メモリ60は、それに限定はされないが、読取り専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、ポータブルメモリ、その他の内の1つまたは複数を含めてもよい。そのようなメモリ媒体は、非一時的メモリ媒体の例である。
【0023】
VAR炉10のVARプロセス中のラム28のラム速度を制御するために、コントローラ52は、ラム制御モジュール62を実行してもよい。ラム制御モジュール62は、プロセッサ54によって実行されるとともに、例えば、メモリ60に記憶される、マシン可読命令としてもよい。ラム制御モジュール62は、現在のVARプロセスに対して必要なラム速度を決定することができる。例によっては、ラム速度は、VARプロセス中の、電極12に対する、所望の溶融速度に基づいてもよい。例えば、ラム速度は、ラム制御モジュール62によって、動的に変更して、電極12の溶融速度を変化させて、所望の溶融速度を達成してもよい。
【0024】
決定されたラム速度に基づいて、ラム制御モジュール62は、ラム速度命令をラムドライブ34に与えることによって、ラム28のラム速度を制御してもよい。例によっては、ラムドライブ34は、ラム速度命令に基づいて、ラム28を配置および/または移動させる、アクチュエータ64を駆動することができる。
【0025】
VAR炉10のVARプロセス中の現在のアークギャップ46を決定および/または推定するために、コントローラ52は、ギャップ決定モジュール66を実行してもよい。ギャップ決定モジュール66は、ドリップショートセンサ48からの入力を受け入れてもよい。ドリップショート頻度とアークギャップ長の間の既知の相関を使用して、ギャップ決定モジュール66は、アークギャップ46のリアルタイムの長さを決定してもよい。例によっては、ギャップ決定モジュール66は、アークギャップ長と、例によっては、アーク42の電圧測定から決定することのできる、ドリップショート頻度との相関に基づいて、リアルタイムアークギャップ長を決定してもよい。
【0026】
電極12の金属が電極12からインゴット38へと移動されると、
図2に示されるカラム(column)68のような、溶融金属カラムの形成および破断が、アークギャップ46内部に形成される。そのようなカラムは、ドリップショートを引き起こす、電極12とインゴット38の間の低抵抗ブリッジを形成する。ドリップショートによって、電気アーク42が、一時的に消されることがあり、このことは、アーク電圧における降下を生じ、これが、ドリップショートセンサ48によって監視される。そのような電圧の降下を、ある時間にわたって監視して、VARプロセスに対するドリップショート頻度を決定してもよい。当該技術において知られているように、ドリップショート頻度とアークギャップ長は、密接に相関しており、したがって、そのような相関に基づいて、ギャップ決定モジュール66は、アークギャップ46に対するリアルタイムの長さを決定してもよい。
【0027】
リアルタイムアークギャップ長は、電極12への電力レベル入力を制御および/または変更するために、電力制御モジュール70によって使用されてもよい。電力制御モジュール70はベース電力レベルで動作してもよく、このベース電力レベルは、所与のVARプロセスに対する所定の電力レベルに基づき、メモリ60に記憶されるか、または入力デバイス58から入力してもよい。ギャップ決定モジュール66から受け取ったリアルタイムアークギャップ長が、リアルタイムアークギャップ長が、現在のVARプロセスに対する所望のアークギャップ長と異なることを示す場合には、電極制御モジュール70は、ベース電力レベルに対して、電極12への電力入力を変更してもよい。リアルタイムアークギャップ長が、所望のアークギャップ長と異なる場合には、電力制御モジュールは、電力源40に命令を与えて、電力レベルを増大または低下させて、それによって、アークギャップ46のアークギャップ長を低下、または増大させてもよい。例えば、リアルタイムアークギャップ長が、所望のアークギャップ長に関して、小さすぎると決定される場合には、電力制御モジュール70は、電力源40による電極12への電力入力を増大させて、これによって、時間について、より大量の金属が電極12から溶け落とされ、より多くの金属をより迅速に溶解させることから、所望のアークギャップ長に合致させるために、アークギャップ長が増大させることができる。代替的に、現行アークギャップが、所望のアークギャップ長に関して、大きすぎると決定される場合には、電力制御モジュール70は、電源40による電極12への電力レベル入力を低下させて、これによって、時間について、より少ない金属が電極12から溶け落とされ、ある時間にわたってより少ない金属を溶解させることから、所望のアークギャップ長に合致するように、アークギャップ長が減少させることができる。
【0028】
最適な冶金学的特性を有するインゴット38を適正に形成するために、制御システム50を、VAR炉10と合わせて使用してもよい。システム50は、VAR炉10を使用するVARプロセスを制御するための方法100に加えて、またはそれと合わせて、使用してもよい。方法100は、
図4のフローチャートによって例示されている。以下に提示する方法100の説明は、システム50およびVAR炉10の要素を参照するが、方法100は、代替的要素を使用して実行してもよく、システム50および/またはその構成要素を介しての実行に限定されるとは理解すべきではない。
【0029】
方法100は、ブロック110に示すように、電源40を使用して、電極先端44と溶融物プール36の間に電気アーク42を発生させることによって開始することができる。例えば、ラムドライブ34を使用することによって、ブロック120に示すように、ラムをラム速度で駆動してもよい。ラム速度は、上記で考察したように、電極12に対して、所望の溶融速度を達成するように構成されている。方法100は、ブロック130に示すように、ドリップショートセンサ48を使用して、ある時間にわたって、電気アーク42のドリップショート頻度を決定するステップをさらに含んでもよい。
【0030】
少なくとも、ドリップショート頻度に基づいて、方法100は、ブロック150に示すように、ドリップショート頻度とアークギャップ長の間の相関に基づいて、電極先端44と溶融物プール36の間のリアルタイムアークギャップ長を決定してもよい。
【0031】
方法100は、ブロック160に示すように、リアルタイムアークギャップ長に基づいて、電極12への入力電圧レベルを決定するステップを含んでもよく、ここで入力電力レベルは、入力電力レベルにおいて、電源40によって、電力が伝達されると電極先端44と溶融物プール36の間の所望のアークギャップ長を発生するように構成されている。例によっては、リアルタイムアークギャップ長に基づいて電極12への入力電力レベルを決定するステップには、リアルタイムアークギャップ長が所望のアークギャップ長よりも大きい場合には、電源40の電力の減少を決定することを含めてもよい。追加的または代替的に、リアルタイムアークギャップ長に基づいて電極12への入力電力レベルを決定するステップには、リアルタイムアークギャップ長が所望のアークギャップ長よりも小さい場合には、電源40の電力の増加を決定することを含めてもよい。入力電力レベルに基づいて、方法100は、ブロック170に示すように、電源40を使用して、電極12への電力入力を制御してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0032】
一般に、前述の開示は、それに限定はされないが、冶金学的精製、および特に再溶解プロセスを使用するインゴット製造を含む、様々な産業における有用性がある。本明細書において開示されたシステムおよび方法を使用することによって、金属のより高い純度および/または構造的完全性を、VARプロセス中に達成することができる。さらに、本明細書において開示された電力ベースアークギャップ制御システムおよび方法を使用することによって、大径のインゴットを製造するための、大内径のるつぼを有するVAR炉を使用するときに、アークギャップの適正な制御を達成することができる。
【0033】
例えば、
図1に示されるように、るつぼ16は、るつぼ内で製造されるインゴット38の直径に相関する、内径72を有してもよい。例によっては、内径72は、750ミリメートルより大きいことがある。そのような例においては、内径72は、1000から1100ミリメートルの範囲としてもよい。そのような大きい直径を有するインゴットを作成するためにVARプロセスが実行されるときには、アークギャップ46を補正および/または維持するためにラム速度を制御することは、非実用的または困難な場合がある。したがって、ラム速度を変更することによってアークギャップを補正する従来式制御システムは、製造されるインゴットがそのように大きいサイズである、VARプロセス中のアークギャップを制御するのには適当でないことがある。したがって、本明細書に開示されたシステムおよび方法は、ラム速度を変更するのではなく、またはそれに加えて、電源40による電力入力に基づきアークギャップを制御することによって、アークギャップ、したがってVARプロセス自体のより高度な制御を提供する。
【0034】
本開示は、真空アーク再溶解制御システム、VAR制御方法、VAR炉、および、より具体的には、電力入力に基づいてアークギャップを制御するように構成された、VAR制御システムおよび方法を提供することが理解されるであろう。特定の実施形態だけが記載されたが、当業者には、上記の説明からの変更形態および修正形態が明白であろう。これらおよびその他の代替案は均等物であるとともに、この開示および添付の特許請求の範囲の趣旨と範囲に含まれるものとみなされる。
【符号の説明】
【0035】
10 VAR炉
12 電極
14 溶解チャンバ
16 るつぼ
20 冷却システム
22 冷却剤源
24 冷却剤チャネル
26 冷却剤出口
30 真空チャンバ
32 真空源
34 ラムドライブ
36 溶融物プール
38 インゴット
40 電源
42 電気アーク
44 先端
46 アークギャップ
48 ドリップショートセンサ
50 制御システム
52 コントローラ
54 プロセッサ
58 入力デバイス
60 メモリ
62 ラム制御モジュール
64 アクチュエータ
66 ギャップ決定モジュール
68 カラム
70 電力制御モジュール
72 内径