特許第6869807号(P6869807)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6869807
(24)【登録日】2021年4月16日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】グリース吐出装置
(51)【国際特許分類】
   F16N 11/00 20060101AFI20210426BHJP
【FI】
   F16N11/00
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-103861(P2017-103861)
(22)【出願日】2017年5月25日
(65)【公開番号】特開2018-200060(P2018-200060A)
(43)【公開日】2018年12月20日
【審査請求日】2020年2月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000137292
【氏名又は名称】株式会社マキタ
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】川井 智史
(72)【発明者】
【氏名】原 章人
(72)【発明者】
【氏名】田中 孝治
(72)【発明者】
【氏名】三輪 祐己
【審査官】 中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2006/0108180(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0219482(US,A1)
【文献】 特開昭58−109796(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16N 1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
前記モータの回転を減速する減速機構と、
前記減速機構を収容するギヤハウジングと、
前記ギヤハウジングに接続されるホルダと、
前記減速機構の出力側に設けられ、前記ホルダに対して往復動可能なプランジャと、
前記ホルダによって保持されるタンクと、
前記ホルダ内のグリースの吐出路で前記プランジャの往動側死点よりも下流側に設けられた逆止弁と、を含むグリース吐出装置であって、
前記タンク内のグリースが前記ホルダ内に移動することで、前記吐出路における前記プランジャの復動側死点よりも往動側にグリースが供給され、
前記プランジャの往復動によりグリースの吐出動作がなされ、
前記ホルダ内におけるグリースの供給箇所と前記逆止弁との間に、前記吐出路内の圧力上昇に応じて前記吐出路内のグリースを直接前記ホルダ内へ逃がす逃がし弁が設けられていることを特徴とするグリース吐出装置。
【請求項2】
前記逃がし弁は、前記ホルダ内へ連通する逃がし流路と、前記吐出路内の圧力の上下に応じて前記逃がし流路を自動的に開閉動作する弁体と、を含んでなることを特徴とする請求項1に記載のグリース吐出装置。
【請求項3】
前記逃がし弁は、前記ホルダに設けられて前記吐出路と前記ホルダ内とを連通させる連通流路の開度を任意に調整可能な手動操作弁であることを特徴とする請求項1に記載のグリース吐出装置。
【請求項4】
モータと、
前記モータの回転を減速する減速機構と、
前記減速機構を収容するギヤハウジングと、
前記ギヤハウジングに接続されるホルダと、
前記減速機構の出力側に設けられ、前記ホルダに対して上下方向に往復動可能なプランジャと、
前記ホルダに保持され、前記ホルダの後方側に配置されるタンクと、
前記ホルダ内のグリースの吐出路で前記プランジャの往動側死点よりも下方側に設けられた逆止弁と、を含むグリース吐出装置であって、
前記タンク内のグリースが前記ホルダ内に移動することで、前記吐出路における前記プランジャの復動側死点よりも往動側にグリースが供給され、
前記プランジャの往復動によりグリースの吐出動作がなされ、
前記ホルダ内におけるグリースの供給箇所と前記逆止弁との上下方向の間に、前記吐出路内の圧力上昇に応じて前記吐出路内のグリースを直接前記ホルダ内へ逃がす逃がし弁が、左右方向へ延びるように設けられていることを特徴とするグリース吐出装置。
【請求項5】
前記逃がし弁は、前記ホルダ内へ連通する逃がし流路を有する本体と、前記本体内に収容されて前記吐出路内の圧力の上下に応じて前記逃がし流路を自動的に開閉動作する弁体と、を含み、
前記ホルダ内には、前記吐出路を形成する筒部が形成され、前記筒部に、前記吐出路を前記ホルダ内と連通させる連通流路が設けられて、
前記本体は、前記ホルダに螺合されて、前記筒部に対してネジ送り移動させることで、前記筒部に当接して前記連通流路を前記逃がし流路のみと連通させる自動切替位置と、前記筒部から離間して前記連通流路を前記ホルダ内と連通させて前記連通流路の開度を任意に調整可能な手動開放位置と、を選択可能であることを特徴とする請求項1又は4に記載のグリース吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑剤(グリース)を吐出可能なグリース吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
グリース吐出装置は、特許文献1に開示されるように、グリースを貯留するタンクと、モータと、モータ駆動で往復動するプランジャと、プランジャの往復動で作動するポンプとを有し、モータの駆動によってプランジャを往復動させることで、ポンプの吐出口からタンク内のグリースを吐出可能となっている。また、ここでは、モータとポンプとの間に、遊星歯車減速機構を設けると共に、レバー操作によってインターナルギヤの位置を変えることで出力速度が変更可能となっており、作業に合わせて吐出量を二段階(高圧・低吐出量と低圧・高吐出量)に切替操作可能としている。これにより、負荷圧力が高い場合でもモータ等の電材品に大電流が流れることを防止して電材品の保護を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開2006/0108180号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のグリース吐出装置においては、吐出量の切替にレバーの操作が必要となるため、作業中の操作が面倒で、負荷圧力が高いままで切替操作を忘れると、電材品を破損させてしまうおそれがあった。
【0005】
そこで、本発明は、吐出量の変更が簡単に行えて電材品を好適に保護できるグリース吐出装置を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、モータと、モータの回転を減速する減速機構と、減速機構を収容するギヤハウジングと、ギヤハウジングに接続されるホルダと、減速機構の出力側に設けられ、ホルダに対して往復動可能なプランジャと、ホルダによって保持されるタンクと、ホルダ内のグリースの吐出路でプランジャの往動側死点よりも下流側に設けられた逆止弁と、を含むグリース吐出装置であって、
タンク内のグリースがホルダ内に移動することで、吐出路におけるプランジャの復動側死点よりも往動側にグリースが供給され、
プランジャの往復動によりグリースの吐出動作がなされ、
ホルダ内におけるグリースの供給箇所と逆止弁との間に、吐出路内の圧力上昇に応じて吐出路内のグリースを直接ホルダ内へ逃がす逃がし弁が設けられていることを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1の構成において、逃がし弁は、ホルダ内へ連通する逃がし流路と、吐出路内の圧力の上下に応じて逃がし流路を自動的に開閉動作する弁体と、を含んでなることを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1の構成において、逃がし弁は、ホルダに設けられて吐出路とホルダ内とを連通させる連通流路の開度を任意に調整可能な手動操作弁であることを特徴とする。
上記目的を達成するために、請求項4に記載の発明は、モータと、モータの回転を減速する減速機構と、減速機構を収容するギヤハウジングと、ギヤハウジングに接続されるホルダと、減速機構の出力側に設けられ、ホルダに対して上下方向に往復動可能なプランジャと、ホルダに保持され、ホルダの後方側に配置されるタンクと、ホルダ内のグリースの吐出路でプランジャの往動側死点よりも下方側に設けられた逆止弁と、を含むグリース吐出装置であって、
タンク内のグリースがホルダ内に移動することで、吐出路におけるプランジャの復動側死点よりも往動側にグリースが供給され、
プランジャの往復動によりグリースの吐出動作がなされ、
ホルダ内におけるグリースの供給箇所と逆止弁との上下方向の間に、吐出路内の圧力上昇に応じて吐出路内のグリースを直接ホルダ内へ逃がす逃がし弁が、左右方向へ延びるように設けられていることを特徴とする。
請求項5に記載の発明は、請求項1又は4の構成において、逃がし弁は、ホルダ内へ連通する逃がし流路を有する本体と、本体内に収容されて吐出路内の圧力の上下に応じて逃がし流路を自動的に開閉動作する弁体と、を含み、
ホルダ内には、吐出路を形成する筒部が形成され、筒部に、吐出路をホルダ内と連通させる連通流路が設けられて、
本体は、ホルダに螺合されて、筒部に対してネジ送り移動させることで、筒部に当接して連通流路を逃がし流路のみと連通させる自動切替位置と、筒部から離間して連通流路をホルダ内と連通させて連通流路の開度を任意に調整可能な手動開放位置と、を選択可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1及び4に記載の発明によれば、逃がし弁採用により、吐出量の変更が簡単に行える。よって、吐出量の切替操作が不要となり、電材品を好適に保護可能となる。
請求項2に記載の発明によれば、請求項1の効果に加えて、逃がし弁が自動的に開閉動作することで、吐出量の高低二段階の変更が自動的に行える。
請求項3に記載の発明によれば、請求項1の効果に加えて、逃がし弁を手動操作弁としたことで、吐出量の変更が簡単に行えると共に、逃がし量の調整の自由度が高まる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】グリースガンの斜視図である。
図2】グリースガンの平面図である。
図3】グリースガンの縦断面図である。
図4図3のA−A線断面図である。
図5】(A)は図4のB−B線断面、(B)はC−C線断面をそれぞれ示す。
図6】自動切替位置での逃がし弁の動作を示す説明図で、(A)は負荷圧力高・吐出量低状態、(B)は当該状態でグリースを逃がす経路をそれぞれ示す。
図7】手動開放位置での逃がし弁の動作を示す説明図で、(A)は吐出量低状態、(B)は当該状態でグリースを逃がす経路をそれぞれ示す。
図8】空気弁の説明図で、(A)は作動状態、(B)は空気の抜き経路をそれぞれ示す。
図9】安全弁の説明図で、(A)は作動状態、(B)は当該状態でグリースを逃がす経路をそれぞれ示す。
図10】手動の逃がし弁を設けた図4に相当する断面図である。
図11図10のD−D線断面図である。
図12】手動の逃がし弁の説明図で、(A)は吐出量低状態、(B)は当該状態でグリースを逃がす経路をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、グリース吐出装置の一例であるグリースガンを示す斜視図、図2は平面図、図3は縦断面図、図4図3のA−A線断面図である。
グリースガン1は、左右の半割ハウジング2a,2bを組み付けてなる本体ハウジング2を有し、本体ハウジング2の下部には、筒状のモータハウジング部3が、上部には、グリップ部4がそれぞれ前後方向に形成されて、グリップ部4の前後端がモータハウジング部3と接続されてループ状となっている。モータハウジング部3内には、DCモータ5が、出力軸6を前向きにした姿勢で収容され、DCモータ5の前方には、減速機構8を収容したギヤハウジング7が組み付けられている。ギヤハウジング7の前部には、下方へ突出して後方へ開口する円筒状の前ホルダ9が形成され、モータハウジング部3の後部には、下方へ突出して透孔11を有する後ホルダ10が形成されて、前ホルダ9と後ホルダ10とにより、グリース供給手段としてのタンク12が前後方向に支持されている。
【0010】
一方、グリップ部4内には、トリガ14を下向きに突出させたスイッチ13が収容されて、グリップ部4の前方で本体ハウジング2の前面には、LEDを用いたライト15が設けられ、本体ハウジング2の前部上面には、ライト15をON/OFF操作するライトスイッチ16が設けられている。トリガ14の前方でグリップ部4には、トリガ14の押し込み状態を維持できるロックオンボタン17が設けられている。
また、グリップ部4の後方で本体ハウジング2には、バッテリー装着部18が形成されて、コントローラ19と端子台20とを前後に並べて上下方向の向きで収容している。端子台20には、電源となるバッテリーパック21が上方からスライド装着可能となっている。
さらに、バッテリー装着部18の左右の側面と、モータハウジング部3の後部及び中間部の左右の側面とには、DCモータ5に設けた図示しないファンの回転により外部の空気を吸い込む吸気口22,22・・が形成され、モータハウジング部3における前後の吸気口22,22の間で左右の側面には、DCモータ5の冷却後の空気を排出する排気口23,23・・が形成されている。
【0011】
減速機構8は、ギヤハウジング7の後部に保持されるインターナルギヤ24内に、遊星ギヤ26,26をそれぞれ支持するキャリア25,25・・を軸方向へ3段並設してなる。最後段の遊星ギヤ26,26は、出力軸6に設けたピニオン27に噛合し、最前段のキャリア25は、ギヤハウジング7内に前後の軸受29,29によって支持されるスピンドル28と連結されている。スピンドル28の前端には、偏心ピン31を前方へ突出させたクランク盤30が固着されて、クランク盤30の前方には、左右方向の長孔33を備えたスライダ32が、ギヤハウジング7の前部で左右に設けた支持板34,34間で上下動可能に支持されている。このスライダ32の長孔33に、偏心ピン31が、ローラ35を介して遊挿されて、スライダ32の下端中央に、上下方向に延びる棒状のプランジャ36の上端が連結されている。37は、支持板34,34の前端間にネジ止めされてクランク盤30及びスライダ32を含むクランク機構を前方から覆うカバーである。
よって、スピンドル28と共にクランク盤30が回転すると、偏心ピン31の偏心運動により、スライダ32が、偏心ピン31の上下方向の移動分だけ上下に往復動し、プランジャ36を上下動させることになる。
【0012】
ギヤハウジング7の前ホルダ9内には、プランジャ36の上下動によってタンク12から供給されるグリースを吐出するポンプ40が設けられている。このポンプ40は、前ホルダ9の上側内面から下向きに突出する上筒部41と、前ホルダ9の下側内面から上筒部41と同軸で上向きに突出し、上筒部41との間に前ホルダ9内と連通する隙間43を有する下筒部42とを含んでなる。プランジャ36は、上筒部41と下筒部42を挿通して上下動するが、上死点では、下端が隙間43よりも上方で上筒部41内に略没入し、下死点では、下端が下筒部42内の略中間部まで達するようになっている。下筒部42内には、隙間43と連通してプランジャ36が挿通する縦吐出路44が形成されている。
【0013】
縦吐出路44内には、下死点のプランジャ36の下端よりも下方に設けた弁座46と、その弁座46を開閉可能なスチールボール47と、その下方でスチールボール47を弁座46の閉弁位置に付勢するコイルバネ48と、コイルバネ48を保持して縦吐出路44の下部を閉塞する保持ボルト49とからなる逆止弁45が設けられている。
また、下筒部42には、逆止弁45の弁座46より下方位置で縦吐出路44と連通する横吐出路50が、前向きに形成されて、縦吐出路44と横吐出路50とでグリースの吐出路を形成している。横吐出路50の出口となる前ホルダ9の前面には、ホース51が前向きに連結されている。
よって、プランジャ36が上死点へ復動すると、前ホルダ9内のグリースが、隙間43を介して下筒部42の縦吐出路44内に流入し、プランジャ36が下死点へ往動すると、縦吐出路44内のグリースが押圧されてスチールボール47をコイルバネ48の付勢に抗して押し下げて弁座46を開弁させ、グリースを横吐出路50に押し出してホース51から吐出させることになる。
【0014】
そして、前ホルダ9には、逃がし弁55と、空気弁56と、安全弁57とが設けられている。
まず、逃がし弁55は、図5(A)にも示すように、下筒部42の位置で前ホルダ9の右側面から螺合されて前ホルダ9内に突出し、先端が下筒部42の側面に設けた逃がし凹部52よりやや小径の筒状体である本体60と、本体60内で軸方向へ前後移動可能に収容される弁体61と、本体60内で弁体61を先端側へ付勢するコイルバネ62とを備えている。
本体60は、弁体61を収容する内部流路63と、内部流路63を先端軸心に開放させる前流路64と、側面に開放させる横流路65とを有し、これらの流路により、グリースをタンク12側へ逃がす逃がし流路を形成している。
【0015】
下筒部42には、逆止弁45のスチールボール47よりも上流側で縦吐出路44を逃がし凹部52に連通させる連通路53が形成されて、本体60の前流路64と対向するようになっている。この連通路53と逃がし凹部52とが、縦吐出路44をタンク12側と連通させる連通流路を形成している。本体60の右端は前ホルダ9の外側に露出して、大径の操作部66が設けられている。67は内部流路63の後端を閉塞する閉栓である。
弁体61は、前流路64側に大径部68を有し、大径部68の先端にスチールボール69を突出状態で保持している。常態ではコイルバネ62により、弁体61は、スチールボール69を前流路64の開口に着座させて前流路64を閉塞する閉弁位置に付勢されている。内部流路63と大径部68との間には、グリースが通過可能な隙間が形成されている。
【0016】
この逃がし弁55は、操作部66による本体60の回転操作で、前ホルダ9に対してネジ送り移動させて、本体60の先端が逃がし凹部52の底面に当接して連通路53が前流路64のみと連通する自動切替位置と、本体60の先端が逃がし凹部52の底面から離間して、連通路53が逃がし凹部52内に開放して本体60との隙間から前ホルダ9内に連通する手動開放位置とを選択することができる。
自動切替位置を選択した場合、縦吐出路44と連通路53を介して連通する前流路64内の圧力が、コイルバネ62による付勢力を下回っていると、前流路64は弁体61のスチールボール69によって閉塞される。そして、前流路64内の圧力がコイルバネ62による付勢力を上回ると、弁体61がコイルバネ62の付勢に抗してスチールボール69と共に後退し、前流路64を開放する。よって、連通路53から前流路64を介して流入するグリースは、本体60の内部流路63を通って横流路65から前ホルダ9内に戻り、縦吐出路44内の圧力を逃がすことになる。
【0017】
一方、手動開放位置を選択した場合、本体60が逃がし凹部52の底面から離間していることで、連通路53が逃がし凹部52の内面と本体60との隙間を介して前ホルダ9内の空間と連通している。よって、当該隙間により、常に縦吐出路44内のグリースは、連通路53から逃がし凹部52を介して前ホルダ9内へ逃げられることになる。この逃がし量は、本体60と逃がし凹部52の底面との隙間の設定により調整可能である。
この自動切替位置と手動開放位置との何れにおいても、逃がし弁55によれば、プランジャ36の単位時間当たりの往復動の回数は一定のまま、グリースの吐出量が変更できる(自動切替位置では自動的に、手動開放位置では手動調整により)ことになる。すなわち、逃がし弁55が本発明の吐出量変更手段となっている。
【0018】
次に、空気弁56は、下筒部42を挟んで逃がし弁55と反対側で前ホルダ9の前面に前方から接続されて前ホルダ9内と連通する保持筒70と、保持筒70内にねじ込まれて弁体71aを前ホルダ9の内部側へ突出させたネジ軸部71とを有する。保持筒70内には、前ホルダ9内と連通する抜き流路72が形成されると共に、側面に、抜き流路72を前ホルダ9の外部で開放させる開口73が設けられている。74は弁体71aと開口73との間をシールするOリングである。
弁体71aは、常態では開口73より前ホルダ9側にあって抜き流路72と開口73との間を閉塞している。そして、前ホルダ9から空気を抜く場合には、ネジ軸部71の回転操作で保持筒70に対してネジ送り移動させて、弁体71aを、開口73が抜き流路72と連通するまで移動させる。これにより、内部の空気を開口73から外部へ逃がすことができ、いわゆるエア噛みによる吐出不良が解消されて良好なグリース吐出が可能となる。
【0019】
次に、安全弁57は、図5(B)にも示すように、縦吐出路44における逆止弁45の弁座46よりも下流側で、横吐出路50と90°位相をずらせて下筒部42へ左向きに形成され、前ホルダ9の内部空間と連通する逃がし路75を開閉する。安全弁57は、下筒部42の左側面で逃がし路75と同軸上で突設されて前ホルダ9の外部へ突出する支持筒76と、支持筒76に外端からねじ込まれるボルト77と、ボルト77の先端側に設けられるコイルバネ78と、コイルバネ78によって逃がし路75の開口を閉塞するスチールボール79とを含んでなる。前ホルダ9内で支持筒76には、スチールボール79よりもボルト77側で支持筒76内を前ホルダ9の内部と連通させる開放部80が形成されている。
この安全弁57は、常態では、コイルバネ78の付勢によってスチールボール79が逃がし路75を閉塞する閉弁状態にある。そして、横吐出路50の圧力が高まってコイルバネ78の付勢力を越えると、スチールボール79がコイルバネ78の付勢に抗して逃がし路75から離間して逃がし路75を支持筒76内に開放させ、開放部80を介して前ホルダ9の内部と連通させることで、横吐出路50の圧力を逃がすことになる。
【0020】
タンク12は、前面を開口させた有底筒状で、本体ハウジング2の後ホルダ10の透孔11を後方から貫通させて、前端を前ホルダ9に螺合させることで、モータハウジング部3の下方で前向きとなる姿勢で本体ハウジング2に連結される。タンク12内には、前端にピストン82を備えたロッド81が、前後方向へ移動可能に収容されて、タンク12の後端に設けた貫通孔83から突出させたロッド81の後端にハンドル84が設けられている。タンク12内でピストン82の後方には、コイルバネ85が設けられて、ピストン82を前方へ付勢している。86は、ロッド81の外周に所定間隔をおいて設けられたくびれ部で、ロッド81を後退させてくびれ部86をタンク12の貫通孔83に係止させることで、コイルバネ85の付勢に抗してピストン82をタンク12内の中間位置に位置決めできる。
【0021】
以上の如く構成されたグリースガン1において、タンク12内で後退させたピストン82の前側にグリースを充填した状態で、タンク12を本体ハウジング2に連結すると、コイルバネ85によりピストン82がグリースを押圧して前ホルダ9内に充填させる。
この状態でトリガ14を押し込み操作してDCモータ5を駆動させると、出力軸6の回転が減速機構8で減速されてスピンドル28に伝わり、スピンドル28と共にクランク盤30を減速回転させる。すると、偏心ピン31の偏心運動によってスライダ32が上下動し、これと共にプランジャ36を上下に往復動させる。よって、ポンプ40では、プランジャ36が上死点に達した際に、上筒部41と下筒部42との隙間43からグリースが下筒部42の縦吐出路44に流れ込む。その後プランジャ36が下死点に移動することで、縦吐出路44内を下方に押し込まれたグリースが逆止弁45のスチールボール47を押し下げて弁座46を開弁させ、横吐出路50に流入し、そのままホース51を介して吐出される。この吐出動作はプランジャ36の往復動に伴って繰り返される。
【0022】
このとき、逃がし弁55が自動切替位置にあれば、図5(A)に示すように、吐出動作時の負荷圧力が比較的小さく、本体60の前流路64内の圧力がコイルバネ62による付勢力を下回っている間は、前流路64が弁体61のスチールボール69によって閉塞される。よって、ポンプ40から吐出されるグリースは、高吐出量(低圧)となる。
そして、負荷圧力が高まって前流路64内の圧力がコイルバネ62による付勢力を上回ると、図6(A)に示すように、弁体61がコイルバネ62の付勢に抗してスチールボール69と共に後退し、前流路64を開放させる。よって、前流路64から流入するグリースは、同図(B)に矢印で示すように、本体60の内部流路63を通って横流路65から前ホルダ9内に戻り、縦吐出路44内の圧力を逃がすことになる。この逃がし弁55の動作により、プランジャ36のストロークは実質的に半減することになるため、ポンプ40から吐出されるグリースは低吐出量(高圧)となる。
【0023】
一方、図7(A)に示すように、逃がし弁55が手動開放位置にあれば、連通路53が常に逃がし凹部52を介して前ホルダ9内と連通している。よって、同図(B)に矢印で示すように、連通路53から逃がし凹部52を通って前ホルダ9内に戻るグリースがあるため、ポンプ40から吐出されるグリースは低吐出量となる。この逃がし量は、本体60と逃がし凹部52の底面との隙間の設定によって変更できるため、設定の自由度は高くなる。
【0024】
なお、前ホルダ9内に空気が溜まった場合は、図8(A)に示すように、空気弁56において、ネジ軸部71の回転操作によって弁体71aをネジ送り移動させて抜き流路72を開口73と連通させれば、同図(B)に矢印で示すように、溜まった空気が抜き流路72から開口73を介して外部に排出される。
一方、横吐出路50の圧力が過度に高まった場合には、図9(A)に示すように、安全弁57において、スチールボール79がコイルバネ78の付勢に抗して後退して逃がし路75が開放部80を介して前ホルダ9内と連通するため、同図(B)に矢印で示すように、横吐出路50内のグリースが逃がし路75を介して前ホルダ9内に戻り、横吐出路50内の圧力を逃がすことになる。
【0025】
このように、上記形態のグリースガン1によれば、グリース供給手段であるタンク12からのグリース供給箇所(隙間43)と逆止弁45との間に、吐出路(縦吐出路44及び横吐出路50)内の圧力上昇に応じて吐出路内のグリースをタンク12側へ逃がす逃がし弁55を設けたことで、吐出量の変更が簡単に行える。よって、吐出量の切替操作が不要となり、電材品を好適に保護可能となる。
特にここでは、逃がし弁55は、タンク12側へ連通する逃がし流路(内部流路63、前流路64、横流路65)と、吐出路内の圧力の上下に応じて逃がし流路を自動的に開閉動作する弁体61と、を含んでなることで、吐出量の高低二段階の変更が自動的に行える。
また、逃がし弁55を自動切替位置と手動開放位置とに切り替えられるようにして、必要に応じて自動切替と手動開放との選択を可能としているので、使い勝手が向上する。
【0026】
なお、逃がし弁や空気弁、安全弁の位置は上記形態に限らず、逃がし弁を左側や前側へ設けたり、空気弁を横側に設けたり、安全弁を前側に設けたり、適宜変更可能である。空気弁と安全弁とは省略してもよい。前流路や連通路も、開口径を変えたり、連通路の位置を上下方向で変更したりすることで、逃がし弁の作動特性を変更することができる。
また、各弁の構造も上記形態に限らず、例えば逃がし弁では、弁体をスチールボールのみとしたり、スチールボール以外の弁体を採用したり、手動開放をなくして本体を自動切替位置で固定して、常に自動で圧力の逃がし動作が行われるようにしたりしてもよい。
【0027】
逆に、自動切替をなくして、手動開放のみの逃がし弁を設けることもできる。
図10,11はその一例を示すもので、ここでの逃がし弁90は、前ホルダ9の右側面からねじ込まれるボルト91の先端に、逃がし凹部52内で連通路53を開閉可能なスチールボール92を先端に有してなる。このスチールボール92の径は、逃がし凹部52の直径よりも小さくなっている。
よって、図12(A)に示すように、スチールボール92が逃がし凹部52の底面から離間して連通路53が前ホルダ9内に連通する開度を調整することができ、この開度(逃がし量)により、同図(B)に矢印で示すように、常に縦吐出路44内の圧力は連通路53から逃がし凹部52を介して前ホルダ9内へ逃がされることになる。この逃がし量も、スチールボール92と逃がし凹部52の底面との隙間の設定により調整可能である。
【0028】
このように、逃がし弁90を、ポンプ40に設けられて吐出路(縦吐出路44及び横吐出路50)とタンク12とを連通させる連通流路(連通路53と逃がし凹部52)の開度を任意に調整可能な手動操作弁とすれば、吐出量の変更が簡単に行えると共に、逃がし量の調整の自由度が高まる。
【0029】
一方、吐出量変更手段としては、上記形態の逃がし弁に限らず、例えばクランク盤に対する偏心ピンの偏心量を可変として、偏心量の調整により吐出量を変更することも可能である。すなわち、偏心量を小さくすれば、プランジャのストロークが小さくなって吐出量は少なくなり、偏心量を大きくすれば、プランジャのストロークが大きくなって吐出量は多くなる。偏心量の変更は、偏心量が異なるクランク盤と偏心ピンとのセットを複数用意して交換したり、クランク盤に対する偏心ピンの取付位置を複数設けて、偏心ピンの取付位置の選択によるものとしたりすることが考えられる。
また、ポンプを形成する下筒部の位置を上下に変更可能として、下筒部の位置の調整により吐出量を変更することも可能である。すなわち、下筒部を上側に設ければ、プランジャの挿入部分が多くなって吐出量は多くなり、下筒部を下側に設ければ、プランジャの挿入部分が少なくなって吐出量は少なくなる。下筒部の位置の変更は、前ホルダ内で上下にスライド可能且つ任意の位置で固定可能としたり、別体の下筒部を前ホルダ内の複数の取付位置を選択して固定したりすることが考えられる。
さらに、プランジャの長さを変更可能として吐出量を変更することも可能である。すなわち、プランジャを長くすれば吐出量は多くなり、プランジャを短くすれば吐出量は少なくなる。プランジャの長さの変更は、長さが異なるプランジャを複数用意して交換可能としたり、プランジャ自体を伸縮可能な構造としたりすることが考えられる。
【0030】
その他、タンクが前後方向でなく上下方向に支持されてモータハウジング部やグリップ部が上下方向に形成されるものとしたり、バッテリーパックでなく商用電源を利用したり等、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0031】
1・・グリースガン、2・・本体ハウジング、3・・モータハウジング部、4・・グリップ部、5・・DCモータ、6・・出力軸、7・・ギヤハウジング、8・・減速機構、9・・前ホルダ、10・・後ホルダ、12・・タンク、19・・コントローラ、28・・スピンドル、30・・クランク盤、31・・偏心ピン、32・・スライダ、36・・プランジャ、40・・ポンプ、41・・上筒部、42・・下筒部、43・・隙間、44・・縦吐出路、45・・逆止弁、46・・弁座、47,69,92・・スチールボール、48,62,78,85・・コイルバネ、50・・横吐出路、51・・ホース、52・・逃がし凹部、53・・連通路、55,90・・逃がし弁、60・・本体、61・・弁体、63・・内部流路、64・・前流路、65・・横流路、67・・閉栓、81・・ロッド、82・・ピストン、91・・ボルト。
図1
図2
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図7
図8
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図10
図11
図12