(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記下地層は、クロムめっき、ニッケルめっき、ニッケル−リンめっき、及びニッケル−タングステンめっきのいずれかから選択されるめっきからなる請求項1または請求項2に記載の成形型。
前記微細凹凸を有する面を被覆するようにして形成されためっき層であり、前記微細凹凸層の層厚より小さい層厚を有するとともに前記微細凹凸層より硬質な被覆層、を更に備える請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の成形型。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<実施形態1>
本発明の実施形態1を
図1から
図10によって説明する。本実施形態では、車両用内装材50(成形品)を製造するための成形装置10(
図1参照)を例示する。車両用内装材50は、例えば、合成樹脂(例えばポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂)製とされ、黒色を呈するものとされる。車両用内装材50としては、例えば、車両用ドアトリムを構成するトリムボード(アッパートリムやロアトリムなど)を挙げることができる。
【0016】
成形装置10は、
図1に示すように、開閉可能に設けられた一対の成形型11,20と、射出装置15と、を備えている。成形型11は、車両用内装材50の裏面を成形するための成形面11Aを有しており、成形型20は、車両用内装材50の意匠面51(表面)を成形するための成形面20Aを有する。一対の成形型11,20を閉じた状態では、成形面20A及びこれと対向配置される成形面11Aとの間に、車両用内装材50の形状に倣う成形空間S1が形成される。また、成形型11の内部にはランナー12が設けられており、ランナー12を介して、射出装置15から射出された溶融樹脂が成形空間S1に供給される構成となっている。
【0017】
成形型20は、
図4に示すように、金型母材21と、金型母材21に積層された下地層45と、下地層45に積層された微細凹凸層30と、を備えている。金型母材21は、例えば、鉄を主成分とし、炭素、ケイ素、マンガン、リン、硫黄などを含む鋼材を切削することで、成形面21Aが車両用内装材50の外形に倣う形状となっている。下地層45と微細凹凸層30は、金型母材21の成形面21Aに積層された2層のめっき層である。
【0018】
金型母材21は、
図3に示すように、車両用内装材50の意匠面51にシボを形成するための凹凸23を有する。詳細には、金型母材21の成形面21Aには、
図2に示すように、形成方法の異なる3種類の凹凸23,24,25が形成されている。凹凸23は、例えば、化学エッチングによって形成される(
図3参照)。凹凸24は、例えば、凹凸23よりも細かいものとされ、サンドブラスト加工によって形成される(
図3及び
図4参照)。凹凸25は、例えば、凹凸24よりも細かいものとされ、電解エッチングによって形成される(
図4参照)。凹凸25としては、凹部の径D1が、例えば、10μm以上とすることができる。なお、上述した凹凸23,24,25の細かさは、一例であり、これに限定されるものではない。
【0019】
下地層45は、クロムめっき、ニッケルめっき、ニッケル−リンめっき、及びニッケル−タングステンめっきのいずれかから選択されるめっきからなる。本実施形態では、下地層45が、クロムめっきからなり、後述する第1めっき工程により形成されているものを例示する。下地層45は、微細凹凸層30と同じ金属めっきからなる。
【0020】
下地層45は、
図5に示すように、金型母材21の成形面21Aを被覆するようにして形成されためっき層である。下地層45はいわゆる光沢めっきと呼ばれるような、ほぼ一定の層厚の平滑性に優れためっき層とされ、金型母材21の凹凸23,24,25に倣う形で積層されている。
【0021】
下地層45は、
図5に示すように、5μm以上20μm以下の層厚T1を有する。本願発明者等は、鋭意研究した結果、このような層厚によれば、下地層45から金型母材21の表面が露出することがなく、また、下地層45表面の平滑性を確保可能であることを見出した。さらに、下地層45の層厚は、金型母材21の成形面21Aが露出しないという点において8μm以上が好ましく、その表面を金型母材21の凹凸23に倣う形状とする観点から15μm以下が好ましく、特に12μm程度が好ましい。
【0022】
微細凹凸層30は、クロムめっきからなり、後述する第2めっき工程により形成されている。なお、
図4においては、微細凹凸31を模式的に描いているが、微細凹凸31は
図10の表面写真にみられるような複雑な凹凸形状をなしている。
【0023】
微細凹凸層30は、平均突起径が0.1μm〜2.0μmの微細凹凸31を有するようにして形成されためっき層である。「平均突起径」は、レーザー顕微鏡を用いて、めっき層の表面を9000倍で観察し、約100個の突起の径の平均値を算出したものである。
図5において、微細凹凸31の一の突起の径D2を模式的に示す。本願発明者等は、鋭意研究した結果、微細凹凸31の平均突起径と車両用内装材50の意匠性と間に相関があり、このような微細凹凸31を有する微細凹凸層30を備える成形型20によれば、車両用内装材50の意匠性を向上する効果が得られるという知見を得た。この微細凹凸31は、金型母材21のシボを形成するための凹凸23より微細なものとされている。本実施形態では、微細凹凸31は、さらに金型母材21の凹凸24,25より微細なものとされている。
【0024】
微細凹凸層30は、微細凹凸31を有する面の算術平均粗さRaが0.2μm以上1.0μm以下の範囲内になるように形成されている。なお、「微細凹凸31を有する面の算術平均粗さRa」の測定は、凹凸23,24,25の影響を避けるために、後述するような試験片を用いて、JIS B 0601−1994に準拠して行う。算術平均粗さRaが0.2μm以上であれば、例えば、下地層45(いわゆる光沢めっき)より、表面が粗いものとすることができ、好ましい。また、算術平均粗さRaが1.0μm以下であれば、例えば、化学エッチングによって形成され得る凹凸23や、サンドブラスト工程により形成され得る凹凸24より微細な凹凸を有するものとすることができ、好ましい。
【0025】
微細凹凸層30は、
図5に示すように、5μm以上20μm以下の層厚T2を有する。本願発明者等は、鋭意研究した結果、このような層厚によれば、めっき層に好適に微細凹凸31が形成され得ることを見出した。さらに、微細凹凸層30の層厚は、微細凹凸31を形成するうえで、10μm以上20μm以下が好ましく、15μm程度が特に好ましい。
【0026】
車両用内装材50の意匠面51は、
図6に示すように、成形面20Aの凹凸形状が転写された凹凸形状をなしている。なお、
図6に示す凹凸52は、微細凹凸層30表面の微細凹凸31が転写されたものであり、凹凸52より粗い凹凸53は、成形面20Aの凹凸25の形状が転写されたものである。そして、これらの凹凸52,53は、意匠面51の成形面20Aの凹凸23が転写されたシボの凸部表面や凹部内面に形成されている。
【0027】
次に、成形型20の製造方法について説明する。成形型20の製造方法は、
図2に示すように、凹凸23を形成するシボ模様形成工程と、凹凸24を形成するサンドブラスト工程と、凹凸25を形成するエッチング工程と、下地層45を形成する第1めっき工程と、微細凹凸層30を形成する第2めっき工程と、を備える。
【0028】
(シボ模様形成工程)
シボ模様形成工程では、エッチング処理によって凹凸23を形成する。エッチング処理は、金型母材21を構成する金属を腐食させる酸性の溶液(例えば硝酸など)と、この溶液を遮断する耐酸性のインクと、を使用して行う。まず、金型母材21を洗浄した後、成形面以外の面をテープ等でマスキングする。続いて、耐酸性のインクによって金型母材21の成形面21Aにシボ模様を転写する。その後、酸性の溶液を使って成形面21Aを腐食させる。そうすると、耐酸性のインクに覆われたところは腐食されずに残り、覆われていない部分が腐食されることで凹部となる。この結果、金型母材21の成形面21Aに凹凸23が形成される(
図3参照)。
【0029】
(サンドブラスト工程)
シボ模様形成工程の後に行われるサンドブラスト工程では、金型母材21の成形面21Aに対してサンドブラスト加工を行うことで凹凸24を形成する。具体的には、コンプレッサー等によって生成された圧縮空気を用いて、ノズルから研磨剤を成形面21Aに吹き付ける。これにより、研磨剤によって成形面21Aが削られることで、凹凸24(
図3参照)が形成される。ここで、研磨剤としては、例えば、その粒度が80〜150番手であるものを用いる。このようにすれば、これよりも大きい番手(例えば、150〜250番手)の研磨剤を用いる場合と比べて、研磨剤の粒径が大きくなるから、成形面21Aに対する衝撃力が大きくなり、凹凸24をより形成し易い。
【0030】
(エッチング工程)
サンドブラスト工程の後に行われるエッチング工程では、後述する第2めっき工程と同様のめっき浴に金型母材21を浸し、電源に接続する。そして、金型母材21を陽極とし、めっき浴に配された電極を負極とすることで、金型母材21に対して電解エッチングを行う。これにより、成形型20に含まれる鉄成分が溶融し、金型母材21の成形面に凹凸25が形成される(
図4参照)。なお、電解エッチングの条件としては、電流密度15〜20A/dm
2、処理時間1分〜20分の範囲で行うことが好ましい。このような条件とすれば、ある程度の大きさ(例えば、10μm以上の孔径、
図4のD1)を有する凹部を確実に形成することができる。
【0031】
(第1めっき工程)
電解エッチング工程の後に行われる第1めっき工程では、後述する第2めっき工程と同様の装置により電気めっきを行う。第1めっき工程では、例えば、第2めっき工程より、低い電流密度、高い浴温で処理をする。これにより、めっき浴61中のクロムイオンが還元され、金型母材21の成形面に微細凹凸層30を構成するめっき層とは性状が異なるめっき層として析出する。なお、第1めっき工程は、これに限定されるものではないが、第2めっき工程と同じ装置を用いて行うことが、成形型20の製造方法を効率化するうえで好ましい。
【0032】
(第2めっき工程)
電解エッチング工程の後に行われる第2めっき工程では、
図7に示すように、クロム酸と硫酸を主成分とするめっき浴(クロムめっき浴、サージェント浴)に金型母材21を浸し、電源63に接続する。そして、金型母材21を負極とし、電極62を正極とすることで、金型母材21に対して電気めっきを行う。これにより、めっき浴61中のクロムイオンが還元され、金型母材21の成形面にめっき層として析出する。ここでは、微細凹凸31が形成されるとともに、このめっき層の厚さが上述した微細凹凸層30の厚さとなるような条件でめっき処理を行う。
【0033】
次に、成形装置10による車両用内装材50の製造方法について説明する。まず、
図1に示すように、一対の成形型11,20を閉じた状態とする。これにより、成形面20Aと成形面11Aの間に、車両用内装材50の形状に倣う成形空間S1が形成される。次に、ランナー12を通じて、成形空間S1に対して射出装置15から黒色の溶融樹脂を射出する。その後、成形空間S1に充填された溶融樹脂が冷却されることで、車両用内装材50が成形される(成形工程)。その後、一対の成形型11,20を開き、車両用内装材50を脱型する。これにより、車両用内装材50の製造が完了する。
【0034】
続いて、本実施形態の効果について説明する。本実施形態によれば、成形型20が微細凹凸層30を備えるから、微細凹凸層を備えない成形型で成形された成形品に比べて、車両用内装材50の意匠面51の意匠性を高めることができる。具体的には、本実施形態の成形型20で成形された車両用内装材50の意匠面51は、微細凹凸層30を備えない成形型で成形された成形品に比べて、光が散乱し易い表面となる。これにより、車両用内装材50の意匠面51の光反射率が低くなり、意匠面51の明度及び光沢値を低くすることができる。したがって、より黒味が強い(低グロス・漆黒調の)車両用内装材50を提供することができる。
【0035】
さらに、本実施形態によれば、金型母材21の成形面21Aが下地層45で被覆されるから、仮に微細凹凸層30にピットやピンホールのような孔が形成された場合であっても、成形型20の成形面20Aに金型母材21が露出することがなく、そのような箇所において金型母材21に錆が生じる事態の発生を抑制することができる。なお、下地層45の防錆作用については、後述する実証実験にて考察する。仮に成形型に錆が生じた場合には、その成形型からめっき層を剥離し、再度、めっき処理を行う必要があり、車両用内装材の生産に支障をきたす事態となる。さらに、成形型の防錆対策としては、成形型の成形面に防錆剤を塗布することも考えられが、そのような対策では、車両用内装材の生産開始前に防錆剤を除去するか、生産開始後約10ショット程度の捨てショットを行う必要があり、タクトタイムの増大や材料の無駄の要因となる。一方、本実施形態では、そのようなタクトタイムの増大や材料の無駄を生じることなく、成形型20の防錆対策を行うことができる。
【0036】
つまり、本実施形態によれば、成形型に微細凹凸を設けて、成形品の意匠性を向上する技術において、付随して生じた成形型20の防錆対策という課題を、2種類の性状の異なるめっき層を設けることで、両立して解決することができる。
【0037】
さらに、本実施形態では、成形型20が下地層45及び微細凹凸層30を備えるから、車両用内装材50に白モヤ等の不良が生じることを抑制することができる。白モヤは、射出成形型内で溶融樹脂が固化する過程における樹脂収縮により発生する。本実施形態では、シボを形成するための凹凸23は、エッチング処理により形成されており、腐食過程で凹凸23の細部でアンダー形状や垂直に近い形状となる部位が生じることがある。このような部位で樹脂収縮が起きるとカジル現象となり樹脂製品の表面に傷が生じることがある。そのような傷が成形品において、白モヤとして視認され得る。一方、本実施形態では、凹凸23の細部でアンダー形状や垂直に近い形状となる部位を2層のめっき層で平滑化することができ、樹脂収縮の際、意匠面51に傷をつけることなく(滑る状態で)車両用内装材50を成形することができる。
【0038】
さらに、本実施形態によれば、金型母材21の成形面21Aが下地層45で被覆するから、微細凹凸31を構成する凸部及び凹部の均一性を高めることができる。金型母材21の成形面21Aは、鋼材の材質や、切削加工及び表面加工(凹凸23,24,25を形成するための加工等)によってめっきの付き易さにムラがある場合がある。一方、下地層45は、平滑性を有するめっき層とされ、金型母材21の成形面21Aよりめっきの付き易さにムラがない。このため、微細凹凸層30を下地層45の表面に形成することで、微細凹凸層30を金型母材21の成形面21Aに直接的に形成する場合に比べて、微細凹凸31を構成する凸部及び凹部が均一となる。
【0039】
また、本実施形態では、下地層45は、微細凹凸層30と同じ金属めっきからなる。このため、下地層45を形成する工程と、微細凹凸層30を形成する工程とを同じ装置を用いて行うことができ、好ましい。
【0040】
また、本実施形態では、下地層45は、クロムめっき、ニッケルめっき、ニッケル−リンめっき、及びニッケル−タングステンめっきのいずれかから選択されるめっきからなる。このため、金型母材21の成形面21Aに耐食性の高い被膜を形成することができ、好ましい。
【0041】
また、本実施形態では、金型母材21は、車両用内装材50の表面にシボを形成するための凹凸23を有し、微細凹凸層30は、微細凹凸31が金型母材21の凹凸23より微細なものとされている。このため、シボの凹凸23と微細凹凸31とにより、車両用内装材50の意匠面51を複雑な形状とすることができ、より一層好適に車両用内装材50の明度及び光沢値を低くすることができる。
【0042】
また、本実施形態では、下地層45及び微細凹凸層30はクロムによって構成されている。クロムは、鉄と比べて熱伝導率が高いため、成形面20Aが局所的に冷える事態を抑制することができ、車両用内装材50の成形不良(ウェルドや艶ムラなど)を低減することができる。また、クロムは、成形型20の主成分である鉄と比べて、硬度が高く、耐摩耗性に優れることから、成形面20Aに形成するめっき層として好適である。
【0043】
<実施例>
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に制約されるものではない。
【0044】
まず、次のようにして実施例1の試験片を準備した。実施例1の試験片は、金型母材21と同様の材質を有する平板の一の面に、第1めっき工程により下地層45に相当するめっき層を形成し、第2めっき工程により微細凹凸層30に相当するめっき層を形成したものである。試験片に用いる平板は一の面が平坦なものを用いた。第1めっき工程は、電流密度20A/dm
2、浴温50℃の条件で行った。第2めっき工程は、電流密度30A/dm
2、浴温30℃の条件で行った。なお、実施例1に示される、微細凹凸層30に相当するめっき層の微細凹凸の平均突起径は、0.6μmであった。
【0045】
比較例1は、第1めっき工程を行わない他は、実施例1と同様にして試験片を準備した。
【0046】
次に、実施例1及び比較例1の試験片について、防錆性に関する実証実験を行った。実証実験は、次のような条件1及び条件2で行った。条件1で実験した試験片の写真を
図8に示し、条件2で実験した試験片の写真を
図9に示す。
図8及び
図9において(A)は実施例1の写真であり、(B)は比較例1の写真である。
条件1:海水と同程度の塩分濃度(3.5%)の食塩水を試験片の表面にスプレーした。スプレー直後にドライヤーにて乾燥し、成形型を使用する工場内で5日間養生した。養生時の環境は、最高温度33℃、最高湿度93%であった。
条件2:金型の冷却に用いる水(PH6.0の地下水)を試験片の表面にスプレーした。スプレー直後にドライヤーにて乾燥し、成形型を使用する工場内で5日間養生した。養生時の環境は、最高温度33℃、最高湿度93%であった。
【0047】
実証実験の結果、条件1において、比較例1では、
図8(B)に示されるように、周囲に広がるようにして大きい錆を生じるとともに、スポット的な小さい錆を多数生じた。一方、実施例1では、
図8(A)に示されるように、錆の発生は確認されなかった。なお、仮に、成形型を沿岸部の工場で使用した場合であっても、成形型は塩分を含んだ空気に触れる程度にとどまり、成形型が直接的に海水に触れる事態は想定され難い。つまり、条件1は、実際の使用環境より過酷な条件であると言える。このような条件下においても、実施例1では錆が生じないことが確認された。
【0048】
また、条件2において、比較例1では、
図9(B)に示されるように、スポット的な小さな錆を多数生じた。一方、実施例1では、
図9(A)に示されるように、錆の発生は確認されなかった。なお、条件2は、金型の冷却に用いる水が、金型冷却配管の脱着作業を行う際等に、成形型に垂れることを想定したものである。
【0049】
上述の実証実験の結果について考察する。ここで、実施例1の試験片の表面をレーザー顕微鏡を用いて9000倍で撮影した写真を
図10に示す。この写真に示されるように、微細凹凸層30に相当するめっき層には、
図10で暗部として示される、ピットやピンホールのような孔が多数あることがわかる。このような孔は、実施例1では下地層45に相当するめっき層まで、比較例1では金型母材に相当する平板まで、連通しているものと推察される。
【0050】
下地層45のようなクロムめっきの表面には、耐食性が高い酸化被膜層が形成されることが知られている。このため、実施例1では、条件1及び条件2ともに、金型母材21に相当する平板の表面が下地層45で被覆されることで、錆の発生が抑制されたものと考えられる。一方、金型母材21に含まれる鉄等の金属には、そのような酸化被膜が形成されない。このため、比較例1では、微細凹凸層30の孔から侵入した腐食性液体により金型母材21に相当する平板が溶解し、錆を生じたものと考えられる。また、比較例1では、電気化学的に見ても貴な電位であるクロム酸化被膜中に、スポット的に卑な電位である鉄等が存在することで、当該部分が局部電池となり試験片の腐食を促進したと考えられる。
【0051】
<実施形態2>
次いで、本発明の実施形態2を、
図11及び
図12を参照しつつ説明する。本実施形態では、上記実施形態1とは被覆層40を備える点において相違する成形型120について例示する。なお、上記した実施形態と同様の構成、作用及び効果について重複する説明は省略する。
【0052】
成形型120は、
図12に示すように、金型母材21と、金型母材21に積層された下地層45と、下地層45に積層された微細凹凸層30と、微細凹凸層30に積層された被覆層40と、を備えている。下地層45、微細凹凸層30、被覆層40は、金型母材21の成形面21Aに積層された3層のめっき層からなる。
【0053】
被覆層40は、クロムめっきからなり、後述する第3めっき工程により形成されている。なお、被覆層40はクロムめっきからなるものに限定されないが、微細凹凸層30と同じ金属めっきとされることが、成形型120を製造するうえで好ましい。
【0054】
被覆層40は、
図12に示すように、微細凹凸層30の微細凹凸31を有する面を被覆するようにして形成されためっき層である。被覆層40は、いわゆる光沢めっきと呼ばれるような、ほぼ一定の層厚の平滑性に優れためっき層とされる。
【0055】
被覆層40は、
図12に示すように、微細凹凸層30の層厚より小さい層厚を有する。具体的には、被覆層40は、0.1μm以上10μm以下の層厚を有する。本願発明者等は、鋭意研究した結果、このような層厚によれば、好適に被覆層40の表面(微細凹凸層30とは反対側の面)に微細凹凸31に倣う凹凸形状が形成され得ることを見出した。さらに、被覆層40の層厚は、成形型120の耐傷つき性の観点から0.6μm以上が好ましく、また、表面を微細凹凸31に倣う形状とする観点から5μm以下が好ましく、特に5μm程度が好ましい。
【0056】
被覆層40は、微細凹凸層30より硬質なものとされている。具体的には、被覆層40は、300より大きいビッカース硬さ(Hv)を有する。本実施形態では、金型母材21がHv170、微細凹凸層30がHv300、被覆層40がHv800の硬さを有している。なお、硬度の測定は、JIS Z 2244−2009に準拠して測定した。また、微細凹凸層30と被覆層40の各層の硬さをそれぞれ算出するために、別の試験片に形成した各層に相当するめっき層の硬さをそれぞれ測定した。
【0057】
次に、成形型120の製造方法について説明する。成形型120の製造方法は、
図11に示すように、凹凸23を形成するシボ模様形成工程と、凹凸24を形成するサンドブラスト工程と、凹凸25を形成するエッチング工程と、下地層45を形成する第1めっき工程と、微細凹凸層30を形成する第2めっき工程と、被覆層40を形成する第3めっき工程と、を備える。なお、シボ模様形成工程、サンドブラスト工程、エッチング工程、第1めっき工程、及び第2めっき工程は、実施形態1と同様とされており、説明を省略する。
【0058】
(第3めっき工程)
第2めっき工程の後に行われる第3めっき工程では、第2めっき工程と同様の装置により電気めっきを行う。第3めっき工程では、例えば第1めっき工程と同様の電流密度、及び浴温で、第1めっき工程より短時間処理をする。これにより、めっき浴61中のクロムイオンが還元され、微細凹凸層30の微細凹凸31を有する面に、下地層45と同じような性状であって、これより小さい層厚を有するめっき層として析出する。なお、第3めっき工程は、これに限定されるものではないが、第2めっき工程と同じ装置を用いて行うことが、成形型120の製造方法を効率化するうえで好ましい。
【0059】
本実施形態では、微細凹凸層30の層厚より小さい層厚の被覆層40によって、微細凹凸31を有する面を被覆するから、成形型120の成形面20Aを微細凹凸層30の微細凹凸31に倣う微細凹凸形状を有する面とすることができる。このため、そのような微細凹凸形状を備えない成形型で成形された車両用内装材に比べて、車両用内装材50の意匠面51の意匠性を高めることができる。さらに、被覆層40は微細凹凸層30より硬質なものとされるから、成形型120の成形面20Aの微細凹凸形状に傷がつく事態の発生を抑制することができる。
【0060】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施形態では、成形型として射出成形型を例示したが、これに限定されない。成形型は、成形面の形状が成形品の表面に転写される成形方法に用いるものであればよく、プレス成形に用いるプレス成形型や真空成形に用いる真空成形型などを例示することができる。
(2)上記実施形態では、めっき層がクロムであるものを例示したが、これに限定されない。例えば、めっき層がクロム以外の金属(ニッケルや銅など)によって構成されていてもよい。
(3)上記実施形態では、成形品として車両用内装材を例示したが、成形品はこれに限られない。また、車両用内装材として、アッパートリムやロアトリムを例示したが、これに限定されない。車両用内装材は、車両に設けられると共に意匠面を有する部材であればよく、例えば、合成樹脂製(例えばオレフィン系熱可塑性エラストマーなど)の表皮材や、インストルメントパネル、アシストグリップなどを例示することができる。また、車両用内装材が複数の層から構成されているものであってもよい。
(4)上記実施形態では、車両用内装材として黒色を呈するものを例示したが、車両用内装材の色は黒色に限定されない。黒色以外の色を呈する車両用内装材に適用した場合であっても、その明度及び光沢度を下げることができる。
(5)上記実施形態においては、成形面20Aに凹凸23,24,25が形成されている構成を例示したが、これに限定されない。例えば、3種類の凹凸23,24,25のうち、凹凸23のみが形成されていてもよく、凹凸23と他の凹凸が形成されていてもよい。また、凹凸23の形成方法も適宜変更可能である。
(6)めっき浴の構成は上述したものに限定されない。例えば、めっき浴としては、クロム酸、硫酸、及びケイフッ酸を主成分とするケイフッ酸浴などを用いてもよい。
(7)上記実施形態では、車両用内装材を例示したが、車両用に限定されない。車両以外の乗物に搭載される内装材に適用することが可能である。
【0061】
(8)上記した実施形態のエッチング工程において、電解エッチングに替えて、化学エッチングを行ってもよい。例えば、化学エッチングとしては、エッチング液として、例えば、アルカリ溶液(水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウムなど)を用いることで、成形型に含まれる鉄成分を溶融させることができる。また、この時のエッチング時間は、例えば0.5〜24時間の範囲で設定することが好ましい。また、エッチング液としては、アルカリ溶液に限定されず、酸性溶液(硝酸など)を用いてもよい。