特許第6869845号(P6869845)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6869845
(24)【登録日】2021年4月16日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】恒温庫
(51)【国際特許分類】
   F25D 11/00 20060101AFI20210426BHJP
   G05D 23/00 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   F25D11/00 101B
   G05D23/00 H
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-145373(P2017-145373)
(22)【出願日】2017年7月27日
(65)【公開番号】特開2019-27636(P2019-27636A)
(43)【公開日】2019年2月21日
【審査請求日】2020年5月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000239585
【氏名又は名称】フクシマガリレイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148138
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡
(72)【発明者】
【氏名】桑田 隆聡
(72)【発明者】
【氏名】柚山 峻哉
【審査官】 西山 真二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−271059(JP,A)
【文献】 特開2008−070041(JP,A)
【文献】 特開昭61−285361(JP,A)
【文献】 特開2001−174119(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25D 11/00
F25D 16/00
F25D 27/00−31/00
F24F 11/00−11/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
庫内(R)の空気を冷却する冷却装置(3)と、庫内(R)の空気を加熱する加熱ヒーター(4)と、庫内温度(T)を検出する庫内温度センサ(24)と、冷却装置(3)および加熱ヒーター(4)を制御する制御装置(23)とを備える恒温庫であって、
庫内(R)の目標温度(T0)を含む目標温度帯が設定されており、
目標温度帯は、目標温度(T0)を境として、低温側の下目標温度帯と高温側の上目標温度帯とに区分されており、
制御装置(23)は、
庫内温度センサ(24)で検出される庫内温度(T)が下目標温度帯の範囲内にあるときは、冷却装置(3)を駆動しながら、目標温度(T0)と庫内温度(T)の偏差に基づくPID演算を行って加熱ヒーター(4)の出力を算出し、当該出力で加熱ヒーター(4)を駆動し、
庫内温度センサ(24)で検出される庫内温度(T)が上目標温度帯の範囲内にあるときは、冷却装置(3)を駆動しながら、予め設定した一定出力で加熱ヒーター(4)を駆動するようになっており、
上目標温度帯における加熱ヒーター(4)の加熱能力が、冷却装置(3)の冷却能力を下回るように設定されていることを特徴とする恒温庫。
【請求項2】
恒温庫の庫外温度を検出する庫外温度センサ(25)を備えており、
制御装置(23)は、庫外温度センサ(25)が検出する庫外温度に基づいて、上目標温度帯における加熱ヒーター(4)の一定出力を補正する請求項1に記載の恒温庫。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、庫内空気を冷却する冷却装置と、庫内空気を加熱する加熱ヒーターとを併用して、庫内を一定の温度に維持する恒温庫に関する。
【背景技術】
【0002】
庫内温度の精密性が要求される恒温庫においては、冷却装置と加熱ヒーターを同時に駆動することがしばしば行われる。冷却装置を構成する圧縮機は、その機構上頻繁にオンオフの切り換えができないため、冷却装置を常時駆動しながら加熱ヒーターの出力を制御するのが一般的である。この出力の制御方法としては、P制御、PI制御、PID制御などが知られており、特にPID制御を採用すると、庫内温度を目標温度の近傍で比較的精密に制御することができる。このことは例えば特許文献1などに記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−232856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように冷却装置と加熱ヒーターを併用する恒温庫において、従来の制御方法によれば、目標温度を中心とした目標温度帯を設定し、庫内温度が目標温度帯の範囲内にあるときは、目標温度と庫内温度の偏差に基づくPID演算を行って、加熱ヒーターの出力を算出する。一方、庫内温度が目標温度帯から外れたときは、これを速やかに目標温度帯の範囲内に戻すための制御を行う。例えば、扉の開放により庫内に常温の外気が侵入し、庫内温度が上昇して目標温度帯の上限温度を上回ったときは、加熱ヒーターへの通電を停止して、冷却装置の冷却能力を最大限に発揮させて、庫内を速やかに冷却する。
【0005】
庫内の速やかな冷却により庫内温度が目標温度帯の上限温度まで低下すると、加熱ヒーターの出力を算出するためのPID演算が行われる。算出された出力で加熱ヒーターを起動することにより、庫内温度の冷却速度が緩和される。しかしPID演算値は、演算時点までの目標温度と庫内温度の偏差の推移に左右されるため、場合によっては同演算値すなわち加熱ヒーターの出力が、庫内の冷却速度を緩和するのに不十分な低い値となることがある。PID演算式の比例ゲインなどの各係数が不適切である場合にも、同様の問題が生じることがある。加熱ヒーターの出力が低く、庫内の冷却速度を十分に緩和できなければ、庫内温度が目標温度帯を一気に下回るアンダーシュートを招くおそれがある。アンダーシュートが発生すると、今度は庫内を速やかに加熱すべく、加熱ヒーターの出力が高く設定されて、庫内の加熱速度が高くなるため、庫内温度が目標温度帯を上回るオーバーシュートが発生しやすくなる。このように、従来の制御方法によれば、庫内温度を目標温度帯まで低下させてから、アンダーシュートとオーバーシュートが交互に発生し、庫内温度が目標温度帯の範囲内で安定するまでに長い時間を要してしまうことがあった。
【0006】
本発明の目的は、庫内温度を目標温度帯まで低下させた後のアンダーシュートを抑制して、庫内温度を目標温度帯の範囲内で速やかに安定させることができる恒温庫を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、庫内Rの空気を冷却する冷却装置3と、庫内Rの空気を加熱する加熱ヒーター4と、庫内温度Tを検出する庫内温度センサ24と、冷却装置3および加熱ヒーター4を制御する制御装置23とを備える恒温庫に関する。庫内Rの目標温度T0を含む目標温度帯が設定されており、この目標温度帯は、目標温度T0を境として、低温側の下目標温度帯と高温側の上目標温度帯とに区分されている。制御装置23は、庫内温度センサ24で検出される庫内温度Tが下目標温度帯の範囲内にあるときは、冷却装置3を駆動しながら、目標温度T0と庫内温度Tの偏差に基づくPID演算を行って加熱ヒーター4の出力を算出し、当該出力で加熱ヒーター4を駆動し、庫内温度センサ24で検出される庫内温度Tが上目標温度帯の範囲内にあるときは、冷却装置3を駆動しながら、予め設定した一定出力で加熱ヒーター4を駆動する。上目標温度帯における加熱ヒーター4の加熱能力は、冷却装置3の冷却能力を下回るように設定されている。
【0008】
恒温庫の庫外温度を検出する庫外温度センサ25を備えており、制御装置23は、庫外温度センサ25が検出する庫外温度に基づいて、上目標温度帯における加熱ヒーター4の一定出力を補正する形態を採ることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る恒温庫では、庫内Rの目標温度T0を含む目標温度帯を、目標温度T0を境に低温側の下目標温度帯と高温側の上目標温度帯とに区分した。そして、庫内温度センサ24で検出される庫内温度Tが下目標温度帯の範囲内にあるときは、従来と同様に目標温度T0と庫内温度Tの偏差に基づくPID演算を行って、加熱ヒーター4の出力を算出する一方、庫内温度Tが上目標温度帯の範囲内にあるときは、従来のPID演算を行わず、予め設定した一定出力で加熱ヒーター4を駆動するようにした。上目標温度帯における加熱ヒーター4の加熱能力は、冷却装置3の冷却能力を下回るように設定した。以上のような構成からなる恒温庫によれば、上目標温度帯における加熱ヒーター4の一定出力を予め適切な値に設定しておくことにより、庫内Rを高い冷却速度で目標温度帯まで冷却した後、当該冷却速度を加熱ヒーター4で緩和するときに、加熱ヒーター4の発熱量が不足することがなく、冷却速度を的確に緩和することができる。これにより、庫内温度Tを目標温度帯まで低下させた後のアンダーシュートを抑制して、庫内温度Tを目標温度帯の範囲内で速やかに安定させることができる。
【0010】
冷却装置3の冷却能力は、恒温庫の庫外温度に左右されることがある。この場合、庫外温度が低いほど冷却能力は高くなり、庫内温度Tが目標温度帯まで低下するときの冷却速度も高くなる。そこで本発明では、庫外温度センサ25が検出する庫外温度に基づいて、上目標温度帯における加熱ヒーター4の一定出力を補正するようにした。具体的には、庫外温度が比較的低いときは、冷却速度が高くなる傾向にあるため、一定出力を比較的大きい値に補正し、逆に庫外温度が比較的高いときは、冷却速度が低くなる傾向にあるため、一定出力を比較的小さい値に補正する。これにより、恒温庫の庫外温度にかかわらず、庫内Rの冷却速度を同程度まで緩和して、庫内温度Tのアンダーシュートを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る恒温庫の扉開閉時の状態の推移を示すタイミングチャートである。
図2】恒温庫の概略構成を示す縦断側面図である。
図3】恒温庫の平常時の状態の推移を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施例) 本発明に係る恒温庫の実施例を図1ないし図3に示す。図2において恒温庫は、正面に開口を有する縦長直方体状の断熱箱体1と、断熱箱体1の開口を開閉する断熱扉2とを備える。断熱箱体1と断熱扉2で囲まれる庫内Rは冷却装置3により冷却され、また加熱ヒーター4により加熱される。冷却装置3は、断熱箱体1の下側の機械室5に配置される圧縮機6、凝縮器7および凝縮器ファン8と、庫内Rに配置される蒸発器9などで構成される。
【0013】
庫内Rの奥部寄りには、庫内Rを収容空間13と通気ダクト14に区画する区画板15が配置されている。断熱扉2に臨む収容空間13には、収容物を載置するための棚板16が多段状に設置されており、庫内Rの内奥に位置する通気ダクト14には、蒸発器9と加熱ヒーター4が並んで配置されている。区画板15の上端部には吸込口17が形成され、区画板15の下端部には吹出口18が形成されている。吸込口17には循環ファン19が設けられており、この循環ファン19が駆動することにより、庫内空気が通気ダクト14を下降して収容空間13を上昇する空気の流れが形成される。より詳しくは、収容空間13内の空気は、吸込口17から通気ダクト14に吸い込まれると、同ダクト14を下降して蒸発器9と加熱ヒーター4を通過する間に温調され、温調後の空気が吹出口18から収容空間13に吹き出されて、同空間13を上昇する。
【0014】
断熱箱体1の天面には、冷却装置3(圧縮機6・凝縮器ファン8)と加熱ヒーター4などを制御する制御装置23が設置されている。制御装置23の正面には、ユーザーが庫内Rの目標温度T0などを入力するための操作パネルが設けられている。制御装置23は、庫内温度Tを検出する庫内温度センサ24の検出値と、庫外温度を検出する庫外温度センサ25の検出値とに基づいて、冷却装置3と加熱ヒーター4を制御することにより、庫内温度Tを目標温度T0の近傍に維持する(詳細は後述する)。庫内温度センサ24は、通気ダクト14における蒸発器9と加熱ヒーター4の上方に配置されており、収容空間13から吸込口17を介して通気ダクト14に吸い込まれた直後の空気(蒸発器9と加熱ヒーター4を通過する前の空気)の温度を検出する。庫外温度センサ25は、断熱箱体1の外側の任意の位置に配置することができるが、本実施例では機械室5の正面を覆う機械室パネルの裏側に同センサ25を配置した。凝縮器ファン8が駆動すると、凝縮器7から圧縮機6へ向かう方向の空気の流れが機械室5内に形成される。庫外温度センサ25は、機械室パネルの通気口を介して機械室5に吸い込まれた直後の空気(凝縮器7で熱交換する前の空気)の温度を検出する。
【0015】
本実施例では、庫内温度Tの目標温度T0に対して許容幅f(f>0;例えばf=1℃)を設定し、T0±fの範囲を目標温度帯に設定する。また目標温度帯を、目標温度T0以上の上目標温度帯と、目標温度T0未満の下目標温度帯とに区分する。さらに、目標温度帯の上限温度(T0+f)を上回る温度帯を高温度帯に設定し、目標温度帯の下限温度(T0−f)を下回る温度帯を低温度帯に設定する。各温度帯の温度条件は、次の表1に示す不等式で表現することができる。制御装置23は、庫内温度センサ24の検出値に基づいて、庫内温度Tが現在どの温度帯に属するかを判定する。
【0016】
【表1】
【0017】
表1に示すように冷却装置3は、庫内温度Tが属する温度帯にかかわらずオン状態に維持される。ただし、庫内温度Tが目標温度帯の下限温度(T0−f)をさらに数℃下回った場合には、制御装置23は冷却装置3を停止して庫内Rを急速に加熱し、庫内温度Tが十分に上昇したところで冷却装置3を再起動する。一方、加熱ヒーター4の通電率(出力)は、庫内温度Tが属する温度帯により異なる。高温度帯においては、加熱ヒーター4への通電を停止して、冷却装置3の冷却能力を最大限に発揮させて、庫内Rを速やかに冷却する。低温度帯においては、加熱ヒーター4の通電率を100%に設定する。通電率を100%にしたときの加熱ヒーター4の加熱能力は、冷却装置3の冷却能力を大きく上回っており、従って庫内Rは速やかに加熱される。
【0018】
上目標温度帯においては、庫内温度Tを目標温度T0まで緩やかに低下させるため、予め設定した一定通電率(一定出力)で加熱ヒーター4を駆動する。一定通電率で駆動するときの加熱ヒーター4の加熱能力は、冷却装置3の冷却能力を僅かに下回るように設定されている。本発明において加熱能力が冷却能力を僅かに下回るとは、冷却装置3の冷却能力を100としたときの加熱ヒーター4の加熱能力が90以上99以下であるという意味である。
【0019】
本実施例で使用する冷却装置3は空冷式であり、その冷却能力は恒温庫の庫外温度に左右される。そのため制御装置23は、庫外温度センサ25の検出値に基づき一定通電率を補正する。本実施例では、一定通電率の初期値を30%に設定し、庫外温度に応じた補正値を初期値に加算するようにした。庫外温度が常温のときの補正値は0%である。庫外温度が比較的低いときは、冷却装置3の冷却能力が高くなるため、補正値はプラスの値となり、逆に庫外温度が比較的高いときは、冷却装置3の冷却能力が低くなるため、補正値はマイナスの値となる。
【0020】
下目標温度帯においては、目標温度T0と庫内温度Tの偏差e(e=目標温度T0−庫内温度T)に基づくPID演算を行って、加熱ヒーター4の通電率を算出する。ここで通電率Uは、比例制御値Pと積分制御値Iと微分制御値Dと補正値Cを加算して求められる(U=P+I+D+C)。各制御値P・I・Dの算出方法は従来と同様である。すなわち比例制御値Pは、比例ゲインKpと庫内温度Tの検出時点の偏差eとの積であり(P=Kp×e)、積分制御値Iは、積分ゲインKiと過去の偏差eの累積値との積であり(I=Ki×∫edt)、微分制御値Dは、微分ゲインKdと偏差eの将来予測値との積である(D=Kd×(de/dt))。補正値Cは、先に説明した上目標温度帯の場合と同様に、庫外温度センサ25が検出する庫外温度に基づいて決定されており、庫外温度が比較的低いときの補正値Cはプラスの値となり、庫外温度が比較的高いときの補正値Cはマイナスの値となる。なお通電率Uには、上限値UHと下限値ULが設定されており、上記式の演算値が上限値UHを上回ったときはU=UHとなり、同演算値が下限値ULを下回ったときはU=ULとなる。本実施例では、上限値UHを100%とし、下限値ULを先の一定通電率すなわち(30+C)%とした。
【0021】
本実施例に係る恒温庫を運転した場合の、庫内温度Tと加熱ヒーター4の通電率の時間的な変化の一例を、図3のタイミングチャートに示す。ここで、恒温庫の庫外温度は常温であり、庫外温度に基づく通電率の補正値Cは0%である。時点t1以前は庫内温度Tが上目標温度帯(T0≦T≦T0+f)に属しており、加熱ヒーター4の通電率は30%で一定である。庫内温度Tが低下して目標温度T0を下回り(時点t1)、庫内温度Tが下目標温度帯(T0−f≦T<T0)に属するようになると、制御装置23は上記のPID演算を行って、加熱ヒーター4の通電率を算出する。ここで算出される通電率は、時点t1以前の一定の通電率すなわち30%よりも高くなっている。加熱ヒーター4の通電率が上昇した直後は、庫内温度Tは低下傾向を示すが、やがて上昇に転じる。時点t1から時点t2までの下目標温度帯において、庫内温度Tが低下する間は、加熱ヒーター4の通電率は概して上昇し、庫内温度Tが上昇する間は、加熱ヒーター4の通電率は概して低下している。
【0022】
庫内温度Tが目標温度T0まで上昇して(時点t2)、庫内温度Tが下目標温度帯から上目標温度帯へ移ると、制御装置23は加熱ヒーター4の通電率を時点t1以前と同じ30%に低下させる。上述したように、一定通電率(30%)で駆動するときの加熱ヒーター4の加熱能力は、冷却装置3の冷却能力を僅かに下回る。従って、時点t2の直後は、それまでの勢いで庫内温度Tは上昇するが、やがて庫内温度Tは緩やかな低下に転じ、再び目標温度T0まで低下する(時点t3)。時点t2から時点t3までの上目標温度帯において、加熱ヒーター4の通電率は常に30%に維持される。
【0023】
一般的には、庫内温度Tが低下し始めると、下目標温度帯(時点t1〜時点t2)において、目標温度帯の下限温度(T0−f)に達する前に上昇に転じる。また、庫内温度Tが上昇し始めると、多くの場合は上目標温度帯(時点t2〜時点t3)において、目標温度帯の上限温度(T0+f)に達する前に低下に転じる。しかし、庫内温度Tが上昇あるいは低下に転じるタイミングは一定ではなく、時には反転のタイミングが遅れて、庫内温度Tが下限温度(T0−f)を下回ったり、上限温度(T0+f)を上回ることがある。時点t4から時点t5の間では、庫内温度Tが下限温度(T0−f)を僅かに下回って低温度帯(T<T0−f)に入っており、この場合に制御装置23は、加熱ヒーター4の通電率を100%に設定して、庫内Rを速やかに加熱する。このように、庫内温度Tが目標温度帯を外れることは、許容幅fを狭く設定するほど起きやすくなる。
【0024】
また、恒温庫の庫外温度と目標温度T0が大きく異なる場合は、庫内Rに外気が侵入することにより、庫内温度Tが目標温度帯から大きく外れることがある。図1のタイミングチャートは、庫内Rの目標温度T0を冷凍温度(例えば−20℃)に設定して運転し、その運転中に断熱扉2を開閉した場合の庫内温度Tと加熱ヒーター4の通電率の変化を示したものである。恒温庫は常温の屋内に設置されている。
【0025】
ここでは、断熱扉2が開放された時点t11の直後に、常温(庫内空気に比べて高温)の外気が庫内Rに侵入して、庫内温度Tは急上昇に転じている。制御装置23は、庫内温度Tが目標温度T0まで上昇すると(時点t12)、加熱ヒーター4の通電率を一定通電率すなわち30%に低下させ、さらに庫内温度Tが目標温度帯の上限温度(T0+f)を上回ると(時点t13)、加熱ヒーター4への通電を停止している。次の時点t14では断熱扉2が閉鎖されて、その後に庫内温度Tが低下に転じている。このとき加熱ヒーター4はオフであるため、冷却装置3の冷却能力が最大限に発揮されて、庫内Rは速やかに冷却される。
【0026】
庫内温度Tが上限温度(T0+f)まで低下すると(時点t15)、制御装置23は一定通電率(30%)で加熱ヒーター4を駆動する。繰り返すが、一定通電率(30%)で駆動するときの加熱ヒーター4の加熱能力は、冷却装置3の冷却能力を僅かに下回る程度である。従って、一定通電率で加熱ヒーター4を駆動することにより、時点t15以降の庫内Rの冷却速度を十分に緩和することができる。庫内温度Tが目標温度T0に達する時点t16までに、冷却速度を十分に緩和することにより、時点t16以降の温度低下がさらに緩やかなものとなり、庫内温度Tが下限温度(T0−f)を下回るアンダーシュートの発生を抑制することができる。このことは、アンダーシュート後のオーバーシュートを抑制することや、庫内温度Tを目標温度帯の範囲内で速やかに安定させることに資するものである。
【0027】
図1で説明した断熱扉2の開閉後の他に、庫内温度Tが目標温度帯の上限温度(T0+f)まで速やかに冷却されるケースとしては、停止状態の恒温庫を起動した直後を挙げることができる。起動直後の庫内温度Tは庫外温度と同じ常温であり、上限温度(T0+f)を大きく上回っているから、制御装置23は加熱ヒーター4を駆動せずに冷却装置3だけを駆動する。そのため、庫内温度Tは上限温度(T0+f)まで速やかに冷却されるが、その分アンダーシュートが発生しやすくなる。しかし本実施例では、庫内温度Tが上限温度(T0+f)まで低下すると、冷却速度を緩和するのに十分な一定通電率で加熱ヒーター4を駆動するので、その後のアンダーシュートの発生を抑制することができる。
【0028】
以上のように、本実施例に係る恒温庫では、庫内Rの目標温度T0を中心とした目標温度帯を、目標温度T0未満の下目標温度帯と、目標温度T0以上の上目標温度帯とに区分した。そして、庫内温度センサ24により検出される庫内温度Tが下目標温度帯の範囲内にあるときは、従来と同様に目標温度T0と庫内温度Tの偏差eに基づくPID演算を行って、加熱ヒーター4の通電率を算出する一方、庫内温度Tが上目標温度帯の範囲内にあるときは、従来のPID演算を行わず、予め設定した一定通電率で加熱ヒーター4を駆動するようにした。上目標温度帯における加熱ヒーター4の加熱能力は、冷却装置3の冷却能力を僅かに下回るように設定した。以上のように構成した本実施例の恒温庫によれば、庫内Rを高い冷却速度で目標温度帯まで冷却した後、当該冷却速度を加熱ヒーター4で緩和するときに、加熱ヒーター4の発熱量が不足することがなく、冷却速度を的確に緩和することができる。これにより、庫内温度Tを目標温度帯まで低下させた後のアンダーシュートを抑制して、庫内温度Tを目標温度帯の範囲内で速やかに安定させることができる。
【0029】
上記実施例では、上目標温度帯と下目標温度帯の温度幅を共に許容幅fとしたが、両温度幅は同一である必要は無く、上目標温度帯と下目標温度帯のうち一方の温度幅を他方の温度幅より広く設定してもよい。許容幅fと目標温度T0は任意に選択することができる。加熱ヒーター4の制御方法としては、上記実施例のように通電率を変える以外に、例えば加熱ヒーター4を複数個の小ヒーターからなるヒーター群で構成し、通電する小ヒーターの数を増減させることにより、加熱ヒーター4の全体の発熱量を制御してもよい。恒温庫の構造は上記実施例で示したものに限られない。
【符号の説明】
【0030】
3 冷却装置
4 加熱ヒーター
23 制御装置
24 庫内温度センサ
25 庫外温度センサ
R 庫内
T 庫内温度
T0 目標温度
図1
図2
図3