【文献】
Xiaohua Ma et al.,Electrochemical Properties of Monoclinic NaMnO2,Journal of The Electrochemical Society,米国,Electrochemical Society,2011年10月31日,158(2011),A1307-A1312
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記一般式(2)で表されるナトリウム含有複合酸化物が、酸化物イオンの固相レドックス反応により容量を発現する、請求項2に記載のナトリウムイオン二次電池用電極活物質。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[発明の実施形態の説明]
最初に、本発明の実施形態の内容を列記して説明する。
[1]本発明に係るナトリウムイオン二次電池用電極活物質は、O3型層状岩塩構造を有し、一般式(1):x[NaM1O
2-α]−(1−x)[M2O
2-β](ただし、0.5≦x≦0.9、−0.1≦α≦0.1および−0.1≦β≦0.1)で表されるナトリウム含有複合酸化物(以下、ナトリウム含有複合酸化物(1)とも称する。)を含む。M1はMnを含み、M2はTiを含む。ナトリウム含有複合酸化物(1)によれば、例えばO3型層状岩塩構造のNaMnO
2よりもサイクル特性に優れ、かつNaMnTiO
4よりも高容量のナトリウムイオン二次電池用電極活物質を得ることが可能である。ナトリウム含有複合酸化物(1)は、典型的には、一般式(1a):xNaMnO
2−(1−x)TiO
2で表される。
【0014】
[2]本発明に係る別のナトリウムイオン二次電池用電極活物質は、カチオン不規則配列型岩塩構造を有し、一般式(2):y[Na
2M2O
3-γ]−(1−y)[NaM1O
2-δ](ただし、0.1≦y≦0.5、−0.1≦δ≦0.1、−0.1≦γ≦0.1)で表されるナトリウム含有複合酸化物(以下、ナトリウム含有複合酸化物(2)とも称する。)を含む。M1はMnを含み、M2はTiを含む。ナトリウム含有複合酸化物(2)によれば、例えばNa
2TiO
3やO3型層状岩塩構造のNaMnO
2よりもサイクル特性に優れたナトリウムイオン二次電池用電極活物質を得ることが可能である。ナトリウム含有複合酸化物(2)は、典型的には、一般式(2a):yNa
2TiO
3−(1−y)NaMnO
2で表される。
【0015】
[3]本発明に係る更に別のナトリウムイオン二次電池用電極活物質は、カチオン不規則配列型岩塩構造を有し、一般式(3):NaM1O
2-ε(−0.1≦ε≦0.1)で表されるナトリウム含有複合酸化物(以下、ナトリウム含有複合酸化物(3)とも称する。)を含む。M1はMnを含む。ナトリウム含有複合酸化物(3)によれば、例えばO3型層状岩塩構造のNaMnO
2よりもサイクル特性に優れたナトリウムイオン二次電池用電極活物質を得ることが可能である。ナトリウム含有複合酸化物(3)は、典型的には、一般式(3a):NaMnO
2で表される。
【0016】
[4]ナトリウム含有複合酸化物(2)は、酸化物イオンの固相レドックス反応により容量を発現し得ることが好ましい。これにより、特に高容量なナトリウムイオン二次電池用電極活物質を得ることが可能である。ナトリウム含有複合酸化物(2)は、酸化物イオンの固相レドックス反応を呈する類似の結晶構造を有する酸化物(例えばxNa
3NbO
4-δ−(1−x)NaMnO
2-γ)よりもサイクル特性に優れている。
【0017】
[5]より優れたサイクル特性を得る観点から、M1に占めるMnの割合は50モル%以上であることが好ましい。また、[6]同様の観点から、M2に占めるTiの割合は50モル%以上であることが好ましい。
【0018】
[7]次に、本発明の実施形態に係るナトリウムイオン二次電池用電極活物質の第1の製造方法は、Na、M1およびM2を含み、M1はMnを含み、M2はTiを含む第1原料を焼成する固相反応により、一般式(1):x[NaM1O
2-α]−(1−x)[M2O
2-β](ただし、0.5≦x≦0.9、−0.1≦α≦0.1および−0.1≦β≦0.1)で表され、O3型層状岩塩構造を有するナトリウム含有複合酸化物を調製する工程を有する。[8]第1原料は、Na
2CO
3、TiO
2およびMn
2O
3を含むことが好適である。
【0019】
[9]次に、本発明の実施形態に係るナトリウムイオン二次電池用電極活物質の第2の製造方法は、Na
2M2O
3およびNaM1O
2を含み、M1はMnを含み、M2はTiを含む第2原料をメカニカルミリングすることにより、一般式(2):y[Na
2M2O
3-γ]−(1−y)[NaM1O
2-δ](ただし、0.1≦y≦0.5、−0.1≦δ≦0.1、−0.1≦γ≦0.1)で表され、カチオン不規則配列型の岩塩型結晶構造を有するナトリウム含有複合酸化物を調製する工程を有する。[10]第2原料は、Na
2TiO
3およびNaMnO
2を含むことが好適である。
【0020】
[11]次に、本発明の実施形態に係るナトリウムイオン二次電池用電極活物質の第3の製造方法は、O3型層状構造のNaM1O
2を含み、M1はMnを含む第3原料をメカニカルミリングすることにより、一般式(3):NaM1O
2-ε(−0.1≦ε≦0.1)で表され、カチオン不規則配列型の岩塩型結晶構造を有するナトリウム含有複合酸化物を調製する工程を有する。[12]第3原料は、NaMnO
2を含むことが好適である。
[発明の実施形態の詳細]
【0021】
次に、本発明の実施形態について更に具体的に説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0022】
<電極活物質>
<ナトリウム含有複合酸化物(1)>
一般式(1):x[NaM1O
2-α]−(1−x)[M2O
2-β]で表され、M1はMnを含み、M2はTiを含むナトリウム含有複合酸化物(1)は、O3型層状岩塩構造を有しており、サイクル特性に優れている。Mnを含むナトリウム含有複合酸化物は、優れた電気化学的活性を有する一方でサイクル特性が不十分になる傾向がある。これに対し、MnとTiとを複合化することで良好なサイクル特性を発現するようになる。
【0023】
M1は、必須元素としてMnを含むが、Mn以外の第三元素を含んでもよい。Mn以外の第三元素としては、例えば、Nb、Moなどが挙げられる。資源価格、容量等の観点から、M1に占めるMn量は、例えば50モル%以上であればよいが、80モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましい。
【0024】
M2は、必須元素としてTiを含むが、Ti以外の第三元素を含んでもよい。Ti以外の第三元素としては、例えば、Alなどが挙げられる。資源価格、容量等の観点から、M2に占めるTi量は、例えば50モル%以上であればよいが、80モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましい。
【0025】
一般式(1)は、NaM1O
2-αとM2O
2-βとの混合物を意味するものではなく、NaとM1とM2とを含む化合物を表している。すなわち、一般式(1)は、xモルのNaM1O
2-αと(1−x)モルのM2O
2-βとの複合物であり、当該複合物に特有の結晶構造を有する化合物であることを表現している。
【0026】
なお、一般式(2)についても、同様に、混合物ではなく、特有の結晶構造を有する化合物を表現している。一般式(1)または(2)に係る特有の結晶構造とは、O3型層状岩塩構造またはカチオン不規則配列型岩塩構造を意味する。
【0027】
xは、ナトリウム含有複合酸化物(1)を、NaM1O
2-αとM2O
2-βとの複合物と捉えた場合のNaM1O
2-αとM2O
2-βとの含有割合をモル比で示している。xの範囲は、0.5≦x≦0.9であり、0.5未満では高容量を得ることができず、0.9を超えると、M1とM2との複合化の効果が薄れ、良好なサイクル特性を得ることが困難になる。容量とサイクル特性とのバランスの観点から、xの範囲は、0.6≦x≦0.9が好ましく、0.75≦x≦0.9がより好ましい。
【0028】
αおよびβは、NaM1O
2およびM2O
2を基準にした場合の酸素の欠損または過剰量を示す実数であり、特に限定されないが、通常は−0.1≦α≦0.1および−0.1≦β≦0.1の範囲内であると考えられる。
【0029】
<ナトリウム含有複合酸化物(2)>
一般式(2):y[Na
2M2O
3-γ]−(1−y)[NaM1O
2-δ]で表され、M1はMnを含み、M2はTiを含むナトリウム含有複合酸化物(2)は、カチオン不規則配列型岩塩構造を有しており、高容量を発現する。カチオン不規則配列型岩塩構造では、NaMnO
2やNa
2TiO
3の結晶構造とは異なり、カチオン種であるNa、M1およびM2が不規則に配列している。
【0030】
Ti酸化物は電気化学的な高活性を得られないことがあるが、マンガン化合物と複合化すると、酸化物イオンの固相レドックス反応による容量を発現するようになる。更に、MnとTiとが複合化されることで良好なサイクル特性も発揮される。
【0031】
一般式(2)において、M1は、必須元素としてMnを含み、ナトリウム含有複合酸化物(1)と同様に、Mn以外の第三元素を含んでもよい。また、M2は、必須元素としてTiを含み、ナトリウム含有複合酸化物(1)と同様に、Ti以外の第三元素を含んでもよい。資源価格、容量等の観点から、M1に占めるMn量は、例えば50モル%以上であればよいが、80モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましい。同様の観点から、M2に占めるTi量は、例えば50モル%以上であればよいが、80モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましい。また、一般式(2)は、Na
2M2O
3-γとNaM1O
2-δとの混合物を意味するものではなく、一般式(1)と同様に、NaとM1とM2とを含む化合物もしくは複合物を表している。
【0032】
ナトリウム含有複合酸化物(2)の代表的なXRDのピークは、例えば2θ=32°〜36°の範囲に観測される(111)面、2θ=38°〜41°の範囲に観測される(200)面、2θ=54°〜59°の範囲に観測される(202)面のピークである。ナトリウム含有複合酸化物(2)の結晶構造は、空間群Fm―3mに帰属される。
【0033】
ナトリウム含有複合酸化物(2)に含まれるナトリウムは、金属ナトリウムに対して、例えば2.0V〜4.0Vの範囲でファラデー反応を伴ってナトリウム含有複合酸化物(2)から放出され、同様の電位窓域で、ファラデー反応を伴ってナトリウム含有複合酸化物(2)に吸蔵される。このとき、概ね3V〜3.5Vの電位領域で、Mnが関与するレドックス反応と、酸化物イオンが関与するレドックス反応とが入れ替わる。高電位領域では、酸化物イオンのレドックス反応が進行していると考えられる。
【0034】
yは、ナトリウム含有複合酸化物(2)を、Na
2M2O
3-γとNaM1O
2-δとの複合物と捉えた場合のNa
2M2O
3-γとNaM1O
2-δとの含有割合をモル比で示している。yの範囲は、0.1≦y≦0.5であり、0.1未満では、M1とM2との複合化の効果が薄れ、良好なサイクル特性を得ることが困難になり、0.5を超えると、高容量を得ることができない。容量とサイクル特性とのバランスの観点から、yの範囲は、0.2≦y≦0.4が好ましく、0.2≦y≦0.35がより好ましい。
【0035】
γおよびδは、Na
2M2O
3およびNaM1O
2を基準にした場合の酸素の欠損または過剰量を示す実数であり、特に限定されないが、通常は−0.1≦γ≦0.1および−0.1≦δ≦0.1の範囲内であると考えられる。
【0036】
<ナトリウム含有複合酸化物(3)>
カチオン不規則配列型岩塩構造を有し、一般式(3):NaM1O
2-εで表され、M1はMnを含むナトリウム含有複合酸化物(3)は、O3型層状岩塩構造のNaMnO
2よりもサイクル特性に優れている。これは、カチオンの不規則配列により結晶粒のサイズが低減したことで粒界が増加し、ナトリウムイオンの拡散が起きやすくなったためと考えられる。
【0037】
M1は、必須元素としてMnを含むが、Mn以外の第三元素を含んでもよい。Mn以外の第三元素としては、例えば、Nb、Mo、Alなどが挙げられる。資源価格、容量等の観点から、M1に占めるMn量は、例えば50モル%以上であればよいが、80モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましい。
【0038】
εは、NaM1O
2を基準にした場合の酸素の欠損または過剰量を示す実数であり、特に限定されないが、通常は−0.1≦ε≦0.1の範囲内であると考えられる。
【0039】
(平均一次粒子径)
ナトリウム含有複合酸化物(1)〜(3)の平均一次粒子径は、特に限定されないが、十分に岩塩型結晶構造を発達させる観点から、例えば0.1μm以上であり、0.2μm以上が好ましく、0.3μm以上がより好ましい。また、平均一次粒子径は、例えば5μm以下であり、3μm以下が好ましく、2μm以下がより好ましい。平均一次粒子径は、ナトリウム含有複合酸化物(1)〜(3)の走査型電子顕微鏡(SEM)像において10〜30個の一次粒子を任意に選択し、選択した一次粒子の最大径の平均値として求めればよい。
【0040】
<ナトリウム含有複合酸化物(1)の製造方法(第1の製造方法)>
第1の製造方法は、Na、M1およびM2を含み、M1はMnを含み、M2はTiを含む第1原料を焼成する固相反応により、一般式(1):x[NaM1O
2-α]−(1−x)[M2O
2-β](ただし、0.5≦x≦0.9、−0.1≦α≦0.1および−0.1≦β≦0.1)で表され、O3型層状岩塩構造を有するナトリウム含有複合酸化物を調製する工程を有する。
【0041】
第1原料としては、Na、M1およびM2よりなる群から選択される少なくとも1種を含む化合物の混合物を用いることができる。化合物としては、酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、炭酸水素塩、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、有機酸塩(例えばシュウ酸塩)などが適している。原料は、これらを適宜組み合わせて混合することで調製される。
【0042】
第1原料は、例えばナトリウム化合物と、M1化合物と、M2化合物とを含む混合物であればよい。ナトリウム化合物としては、Na
2CO
3、NaHCO
3、Na
2Oなどを用いることができる。中でも、Na
2CO
3の取り扱いが容易である。M1化合物としては、Mn
2O
3、MnO
2などを用いることができる。M2化合物としては、Na
2TiO
3、TiO
2などを用いることができる。中でも第1原料は、Na
2CO
3、Mn
2O
3およびTiO
2を含むことが好適である。
【0043】
第1原料は、メカニカルミリング法により混合することが好ましい。メカニカルミリングとは、不活性ガス雰囲気中で、ボール、ビーズ、攪拌翼等の衝突エネルギーを利用して、材料に繰り返しせん断力を印加し、材料を混合する方法である。メカニカルミリングによれば、原子オーダでの混合も可能である。メカニカルミリングを行う装置としては、ボールミル、ビーズミル、スタンプミル、ジェットミルなどの攪拌装置を用いることができる。混合は、乾式でもよく、湿式でもよい。混合された第1原料を、空気、酸素または不活性ガスの雰囲気中で、例えば700℃〜1100℃、好ましくは800℃〜1000℃の焼成温度で焼成することで層状岩塩構造を有するナトリウム含有複合酸化物を合成することができる。
【0044】
焼成温度とは、昇温過程および降温過程を除く期間(以下、本焼成期間)の平均的な温度である。よって、本焼成期間中に瞬間的に、もしくは短時間だけ700℃未満になったり、1100℃を超えたりしてもよい。ただし、本焼成期間の80%以上は、焼成雰囲気の温度が上記温度範囲に維持されることが好ましい。本焼成期間は、例えば6時間〜48時間である。
【0045】
不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウムなどから選択される少なくとも1種を用いることができる。空気、酸素または不活性ガス雰囲気の圧力は、特に限定されないが、例えば0.9×10
5Pa〜1.1×10
5Paであればよい。
【0046】
上記焼成を行う前に、上記と同様の雰囲気中で、400℃以上、600℃未満の温度範囲で原料の仮焼成を行ってもよい。仮焼成により、原料に含まれる揮発成分(例えば水分)を緩やかに除去することができる。これにより、その後の本焼成期間での結晶成長が進行しやすくなる。
【0047】
<ナトリウム含有複合酸化物(2)の製造方法(第2の製造方法)>
第2の製造方法は、Na
2M2O
3およびNaM1O
2を含み、M1はMnを含み、M2はTiを含む第2原料をメカニカルミリングすることにより、一般式(2):y[Na
2M2O
3-γ]−(1−y)[NaM1O
2-δ](ただし、0.1≦y≦0.5、−0.1≦δ≦0.1、−0.1≦γ≦0.1)で表され、カチオン不規則配列型の岩塩型結晶構造を有するナトリウム含有複合酸化物を調製する工程を有する。
【0048】
第2原料は、特に限定されないが、例えばNa
2M2O
3およびNaM1O
2の混合物を用いることができる。中でも、第2原料は、Na
2TiO
3およびNaMnO
2を含むことが好適である。第2原料は、メカニカルミリング法により混合される。メカニカルミリングによる混合時間は、10〜60時間が好ましく、30〜50時間がより好ましい。
【0049】
<ナトリウム含有複合酸化物(3)の製造方法(第3の製造方法)>
第3の製造方法は、O3型層状構造のNaM1O
2を含み、M1はMnを含む第3原料をメカニカルミリングすることにより、一般式(3):NaM1O
2-ε(−0.1≦ε≦0.1)で表され、カチオン不規則配列型の岩塩型結晶構造を有するナトリウム含有複合酸化物を調製する工程を有する。第3原料は、NaMnO
2を含むことが好適である。第3原料は、メカニカルミリング法により混合される。メカニカルミリングによる混合時間は、10〜60時間が好ましく、30〜50時間がより好ましい。
【0050】
<ナトリウムイオン二次電池>
次に、ナトリウムイオン二次電池について説明する。ナトリウムイオン二次電池は、上記電極活物質を含む正極と、負極と、ナトリウムイオン伝導性を有する非水電解質と、を具備する。
図1は、本発明の一実施形態に係るナトリウムイオン二次電池100を概略的に示す縦断面図である。ナトリウムイオン二次電池100は、積層型の電極群、非水電解質(図示せず)およびこれらを収容する角型の電池ケース10を具備する。電池ケース10は、例えばアルミニウム製であり、上部が開口した有底の容器本体12と、上部開口を塞ぐ蓋体13とで構成されている。
【0051】
蓋体13の中央には、電池ケース10の内圧が上昇したときに内部で発生したガスを放出するための安全弁16が設けられている。安全弁16を中央にして、蓋体13の一方側寄りには、蓋体13を貫通する外部負極端子14が設けられ、蓋体13の他方側寄りの位置には、蓋体13を貫通する外部正極端子が設けられる。
【0052】
積層型の電極群は、いずれもシート状の複数の正極2と複数の負極3およびこれらの間に介在する複数のセパレータ1により構成されている。各正極2の一端部には、正極リード片2aが形成されている。複数の正極2の正極リード片2aは束ねられ、電池ケース10の蓋体13に設けられた外部正極端子に接続されている。同様に、各負極3の一端部には、負極リード片3aが形成されている。複数の負極3の負極リード片3aは束ねられ、電池ケース10の蓋体13に設けられた外部負極端子14に接続される。
【0053】
外部正極端子および外部負極端子14は、いずれも柱状であり、少なくとも外部に露出する部分が螺子溝を有する。各端子の螺子溝にはナット7が嵌められ、ナット7を回転することにより蓋体13に対してナット7が固定される。各端子の電池ケース10内部に収容される部分には、鍔部8が設けられており、ナット7の回転により、鍔部8が、蓋体13の内面に、O−リング状のガスケット9を介して固定される。
【0054】
(正極)
正極は、正極集電体と、正極集電体に担持された正極活物質(または正極合剤)とを含む。正極集電体は、金属箔でもよく、金属多孔体でもよい。正極集電体の材質としては、正極電位での安定性の観点から、アルミニウム、アルミニウム合金などが好ましい。
【0055】
正極活物質は、ナトリウム含有複合酸化物(1)〜(3)のいずれかを単独で用いてもよく、これらを組み合わせて用いてもよく、他のナトリウムイオンを吸蔵および放出(または挿入および脱離)する材料(以下、第2正極活物質)と併用してもよい。第2正極活物質は、特に限定されないが、亜クロム酸ナトリウム(NaCrO
2)、ニッケルマンガン酸ナトリウム(NaNi
0.5Mn
0.5O
2、Na
2/3Ti
1/6Ni
1/3Mn
1/2O
2など)、鉄コバルト酸ナトリウム(NaFe
0.5Co
0.5O
2など)、鉄マンガン酸ナトリウム(Na
2/3Fe
1/3Mn
2/3O
2など)などが挙げられる。
【0056】
正極合剤は、正極活物質に加え、さらに導電助剤および/またはバインダを含むことができる。正極は、正極集電体に正極合剤を塗布または充填し、乾燥し、必要に応じて、乾燥物を厚み方向に圧延することにより得られる。正極合剤は、通常、分散媒を含むスラリーの形態で使用される。
【0057】
導電助剤としては、カーボンブラック、黒鉛、炭素繊維などが挙げられる。バインダとしては、フッ素樹脂、ポリオレフィン樹脂、ゴム状重合体、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂(ポリアミドイミドなど)、セルロースエーテルなどが挙げられる。分散媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP:N-methyl-2-pyrrolidone)などの有機溶媒の他、水などが用いられる。
【0058】
(負極)
負極は、負極集電体と、負極集電体に担持された負極活物質(または負極合剤)とを含む。負極集電体は、正極集電体と同様に、金属箔または金属多孔体であってもよい。負極集電体の材質としては、ナトリウムと合金化せず、負極電位で安定であることから、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、ステンレス鋼などが好ましい。
【0059】
負極活物質としては、ナトリウムイオンを可逆的に吸蔵および放出(もしくは挿入および脱離)する材料、ナトリウムと合金化する材料などの少なくとも1種を用いることができる。具体的には、ナトリウム、チタン、亜鉛、インジウム、スズ、ケイ素などの金属またはその合金もしくは化合物;炭素材料などが例示できる。金属化合物としては、チタン酸リチウム(Li
2Ti
3O
7、Li
4Ti
5O
12など)、チタン酸ナトリウム(Na
2Ti
3O
7、Na
4Ti
5O
12など)が例示できる。炭素材料としては、易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)、難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)などが例示できる。
【0060】
負極は、例えば、正極の場合に準じて、負極集電体に、負極活物質を含む負極合剤を塗布または充填し、乾燥し、乾燥物を厚み方向に圧延することにより形成できる。負極活物質には、必要に応じて、ナトリウムイオンをプレドープしてもよい。
【0061】
(セパレータ)
セパレータとしては、樹脂製の微多孔膜、不織布などが使用できる。セパレータの材質は、ポリオレフィン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂などが例示できる。
【0062】
(非水電解質)
非水電解質は、ナトリウムイオン伝導性を有する限り特に限定されない。例えば、有機溶媒にナトリウム塩を溶解させた有機電解質を用いることができる。このとき、非水電解質におけるナトリウム塩の濃度は、例えば0.3〜3mol/リットルであればよい。また、ナトリウムイオンおよびアニオンを含むイオン液体を用いてもよい。なお、「イオン液体」とは、溶融状態の塩(溶融塩)である。
【0063】
ナトリウム塩を構成するアニオンの種類は特に限定されないが、ヘキサフルオロリン酸イオン(PF
6−)、テトラフルオロホウ酸イオン(BF
4−)、過塩素酸イオン(ClO
4−)、ビス(オキサラト)ボレートイオン(B(C
2O
4)
2−)、トリフルオロメタンスルホン酸イオン(CF
3SO
3−)、ビススルホニルアミドアニオンなどの少なくとも1種が用いられる。
【0064】
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどの環状カーボネート;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートなどの鎖状カーボネート;γ−ブチロラクトンなどの環状炭酸エステルなどを好ましく用いることができる。これらは適宜組み合わせて用いられる。
【0065】
イオン液体は、ナトリウムイオン(第1カチオン)に加え、さらに第2カチオンを含んでいてもよい。第2カチオンとしては、有機カチオンが好ましく、中でも、窒素含有オニウムカチオンが好ましい。
【0066】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。ただし、以下の実施例は本発明を限定するものではない。
《実施例1》
本実施例では、以下の要領で、ナトリウム含有複合酸化物(1)を調製した。
Na
2CO
3、TiO
2(アナターゼ型)およびMn
2O
3を、所定のモル比で混合し、300rpmのボールミルで5時間混合して第1原料を得た。得られた第1原料をペレットに成形した後、不活性雰囲気中で、800℃で12時間焼成し、xNaMnO
2−(1−x)TiO
2で表され、x=0.67、0.75、0.8、0.9の4種類のナトリウム含有複合酸化物(1)を得た。このとき、ナトリウム含有複合酸化物の組成式は、概ね以下で表すことができる。
【0067】
Na
0.67Mn
0.67Ti
0.33O
2(x=0.67)
Na
0.75Mn
0.75Ti
0.25O
2(x=0.75)
Na
0.8Mn
0.8Ti
0.2O
2(x=0.8)
Na
0.9Mn
0.9Ti
0.1O
2(x=0.9)
【0068】
次に、合成されたナトリウム含有複合酸化物(1)と、導電助材としてのアセチレンブラックとを質量比9:1で混合し、300rpmのボールミルで6時間混合して、ナトリウム含有複合酸化物(1)と炭素材料とを複合化した。
【0069】
次に、炭素材料と複合化されたナトリウム含有複合酸化物(1)とバインダとしてのポリフッ化ビニリデンとを質量比93:7で混合し、適量のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を分散媒として含むスラリーを調製した。得られたスラリーを集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面に塗布した。塗膜の厚さは40μmとした。塗膜を十分に乾燥させた後、アルミニウム箔とともに打ち抜いて、直径1.0cmのコイン形の電極を得た。
【0070】
次に、対極となる金属ナトリウム箔と、ナトリウムイオン伝導性の非水電解質とを用いて、コイン形セルを作製した。ナトリウムイオン伝導性の非水電解質には、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)との体積比1:1の混合溶媒にNaPF
6を1mol/L濃度で溶解させたものを用いた。コイン形セルを、下限電圧1.2V、上限電圧4.5V、10mA/gの定電流で充放電し、サイクル特性を評価した。
【0071】
図2に、ナトリウム含有複合酸化物(1)と参照酸化物(NaMnO
2、NaMnTiO
4)のXRDパターンを示す。ナトリウム含有複合酸化物(1)は、NaMnO
2と同様のO3型層状岩塩構造を有することが理解できる。また、x値が小さくなるほど、NaMnTiO
4のトンネル型結晶構造に近づくことが理解できる。
【0072】
以下にXRDの測定条件を示す。
X線:CuKα
電圧−電流:40kV−20mA
測定角度範囲:2θ=10〜70°
ステップ:0.02°
スキャンスピード:6°/分
【0073】
図3に、ナトリウム含有複合酸化物(1)を電極活物質とするコイン型セルの充放電特性を示す。また、
図4に、NaMnO
2を電極活物質とするコイン型セルの充放電特性を示す。また、
図5に、NaMnTiO
4を電極活物質とするコイン型セルの充放電特性を示す。
図6には、ナトリウム含有複合酸化物(1)を電極活物質とするコイン型セルのサイクル特性をまとめて示す。
【0074】
図4より、NaMnO
2は、高容量を発現し得るものの、サイクル特性に改善の余地があることが理解できる。また、
図5より、NaMnTiO
4は、サイクル特性に優れるものの、容量に改善の余地があることが理解できる。一方、ナトリウム含有複合酸化物(1)は、高容量かつサイクル特性に優れており、NaMnO
2とNaMnTiO
4のそれぞれのメリットを有することが理解できる。また、x値が大きいほど高容量であり、x=0.75〜0.9の範囲では、高容量と良好なサイクル特性とを特にバランス良く両立できることがわかる。
【0075】
《実施例2》
次に、第1原料のペレットの焼成温度を1000℃に変更したこと以外、実施例1と同様に、ナトリウム含有複合酸化物(x=0.8)を合成し、同様に評価した。
図7に、焼成温度が1000℃の場合と800℃の場合のナトリウム含有複合酸化物(1)のサイクル特性を対比して示す。
図7より、焼成温度を高めることで、容量を更に高め得ることが理解できる。
【0076】
《実施例3》
本実施例では、以下の要領で、メカニカルミリングにより、ナトリウム含有複合酸化物(2)を調製した。
Na
2CO
3およびTiO
2(アナターゼ型)を、所定のモル比で混合し、300rpmのボールミルで5時間混合し、空気中で、800℃で12時間焼成し、徐冷して、第2原料の一部としてNa
2TiO
3を得た。また、Na
2CO
3およびMn
2O
3を、所定のモル比で混合し、300rpmのボールミルで5時間混合し、Ar中で、850℃で2時間焼成し、徐冷して、第2原料の一部としてNaMnO
2を得た。
【0077】
次に、Na
2TiO
3とNaMnO
2とを所定のモル比で混合し、600rpmのボールミルで48時間メカニカルミリングし、yNa
2TiO
3−(1−y)NaMnO
2で表され、y=0.22(2/9)、0.33(1/3)、0.5(1/2)の3種類のナトリウム含有複合酸化物(2)を得た。このとき、ナトリウム含有複合酸化物の組成式は、概ね以下で表すことができる。
【0078】
Na
1.1Mn
0.7Ti
0.2O
2(y=2/9)
Na
1.14Mn
0.57Ti
0.29O
2(y=1/3)
Na
1.2Mn
0.4Ti
0.4O
2(y=1/2)
【0079】
次に、実施例1と同様に、合成されたナトリウム含有複合酸化物(2)を炭素材料と複合化した。次に、炭素材料と複合化されたナトリウム含有複合酸化物(2)を用いて、実施例1と同様に、直径1.0cmのコイン形の電極を得た。そして、実施例1と同様にコイン形セルを作製し、下限電圧1.2V、上限電圧4.3Vまたは4.5V、10mA/gの定電流で充放電し、サイクル特性を評価した。
【0080】
図8に、実施例1と同様の条件で測定したナトリウム含有複合酸化物(2)と参照酸化物(NaMnO
2、Na
2TiO
3)のXRDパターンを示す。
図8より、ナトリウム含有複合酸化物(2)が、NaMnO
2ともNa
2TiO
3とも異なるカチオン不規則配列型岩塩構造を有することが理解できる。
【0081】
図9にナトリウム含有複合酸化物(2)を電極活物質とするコイン型電池の充放電特性を示す。
図9より、y=2/9まではy値が小さいほど高容量が得られることや、y=1/3付近でより良好なサイクル特性が得られることが理解できる。
【0082】
図10に、ナトリウム含有複合酸化物(2)を電極活物質とするコイン型電池のサイクル特性を示す。また、
図10には、同様の結晶構造を有し、概ねNa
1.3Nb
0.3Mn
0.4O
2の組成式を有するナトリウム含有複合酸化物を電極活物質とするコイン型電池のサイクル特性も示す。Na
1.3Nb
0.3Mn
0.4O
2は、酸化物イオンの固相レドックス反応により高容量を発現することが判明している。
図10より、ナトリウム含有複合酸化物(2)によれば、Na
1.3Nb
0.3Mn
0.4O
2と同程度の高容量が得られることに加え、よりサイクル特性に優れたナトリウムイオン二次電池を得ることができることがわかる。
【0083】
《実施例4》
本実施例では、以下の要領で、メカニカルミリングにより、ナトリウム含有複合酸化物(3)を調製した。
実施例3と同様に調製したO3型層状岩塩構造のNaMnO
2を、600rpmのボールミルで48時間メカニカルミリングし、カチオン不規則配列型岩塩構造のNaMnO
2(ナトリウム含有複合酸化物(3))を得た。
【0084】
次に、実施例1と同様に、ナトリウム含有複合酸化物(3)を炭素材料と複合化した。次に、炭素材料と複合化されたナトリウム含有複合酸化物(3)を用いて、実施例1と同様に、直径1.0cmのコイン形の電極を得た。そして、実施例1と同様にコイン形セルを作製し、下限電圧1.2V、上限電圧4.5V、10mA/gの定電流で充放電し、サイクル特性を評価した。
【0085】
図11に、実施例1と同様の条件で測定したナトリウム含有複合酸化物(3)と参照酸化物(O3型層状岩塩構造のNaMnO
2)のXRDパターンを示す。
図11より、ナトリウム含有複合酸化物(3)が、カチオン不規則配列型岩塩構造を有することが理解できる。
【0086】
図12に、ナトリウム含有複合酸化物(3)(NaMnO
2−MM)を電極活物質とするコイン型電池の充放電特性を示す。また、
図12には、O3型層状岩塩構造NaMnO
2(As−Prepared)を電極活物質とするコイン型電池のサイクル特性も示す。
図12より、ナトリウム含有複合酸化物(3)によれば、O3型層状岩塩構造NaMnO
2よりも高容量かつサイクル特性に優れたナトリウムイオン二次電池を得ることができることがわかる。
【0087】
図13に、ナトリウム含有複合酸化物(3)を電極活物質とするコイン型電池のサイクル特性を示す。
図13より、ナトリウム含有複合酸化物(3)によれば、O3型層状岩塩構造NaMnO
2よりもサイクル特性に優れたナトリウムイオン二次電池を得ることができることがわかる。