特許第6869919号(P6869919)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6869919ボールボンディング用貴金属被覆銀ワイヤおよびその製造方法、ならびにボールボンディング用貴金属被覆銀ワイヤを使用した半導体装置およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6869919
(24)【登録日】2021年4月16日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】ボールボンディング用貴金属被覆銀ワイヤおよびその製造方法、ならびにボールボンディング用貴金属被覆銀ワイヤを使用した半導体装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/60 20060101AFI20210426BHJP
【FI】
   H01L21/60 301F
【請求項の数】12
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-70807(P2018-70807)
(22)【出願日】2018年4月2日
(65)【公開番号】特開2019-186246(P2019-186246A)
(43)【公開日】2019年10月24日
【審査請求日】2020年4月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000217332
【氏名又は名称】田中電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162961
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100146927
【弁理士】
【氏名又は名称】船越 巧子
(74)【代理人】
【識別番号】100188640
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 圭次
(72)【発明者】
【氏名】千葉 淳
(72)【発明者】
【氏名】安徳 優希
(72)【発明者】
【氏名】川野 将太
【審査官】 堀江 義隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−14884(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/152197(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/115241(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
純銀または銀合金からなる芯材上に貴金属被覆層を備えた貴金属被覆銀ワイヤにおいて、ワイヤが少なくとも1種の硫黄族元素を含み、貴金属被覆層がパラジウム中間層および金表皮層を備え、ワイヤ全体に対するパラジウムの含有量が0.01質量%以上5.0質量%以下であり、ワイヤ全体に対する金の含有量が1.0質量%以上6.0質量%以下であり、かつ、ワイヤ全体に対する硫黄族元素の含有量が0.1質量ppm以上100質量ppm以下であることを特徴とするボールボンディング用貴金属被覆銀ワイヤ。
【請求項2】
上記貴金属被覆層において、パラジウム中間層の芯材面に金中間層を備えることを特徴とする請求項1に記載のボールボンディング用貴金属被覆銀ワイヤ。
【請求項3】
上記芯材が銅を含み、ワイヤ全体に対する銅の含有量が0.005質量%以上2.0質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のボールボンディング用貴金属被覆銀ワイヤ。
【請求項4】
純銀または銀合金からなる芯材上に貴金属被覆層を備えた貴金属被覆銀ワイヤを製造する方法において、ワイヤが少なくとも1種の硫黄族元素を含み、貴金属被覆層がパラジウム中間層および金表皮層を備え、ワイヤ全体に対するパラジウムの含有量が0.01質量%以上5.0質量%以下であり、ワイヤ全体に対する金の含有量が1.0質量%以上6.0質量%以下であり、かつ、ワイヤ全体に対する硫黄族元素の含有量が0.1質量ppm以上100質量ppm以下であることを特徴とするボールボンディング用貴金属被覆銀ワイヤの製造方法。
【請求項5】
上記貴金属被覆層において、パラジウム中間層の芯材面に金中間層を備えることを特徴とする請求項4に記載のボールボンディング用貴金属被覆銀ワイヤの製造方法。
【請求項6】
上記芯材が銅を含み、ワイヤ全体に対する銅の含有量が0.005質量%以上2.0質量%以下であることを特徴とする請求項4に記載のボールボンディング用貴金属被覆銀ワイヤの製造方法。
【請求項7】
少なくとも1つの半導体チップと、リードフレームまたは基板を備え、半導体チップの電極とリードフレームの電極、または半導体チップの電極と基板の電極、もしくは複数の半導体チップの電極間をボールボンディング用貴金属被覆銀ワイヤで接続した半導体装置であって、ボールボンディング用貴金属被覆銀ワイヤは純銀または銀合金からなる芯材上に貴金属被覆層を備え、ワイヤが少なくとも1種の硫黄族元素を含み、貴金属被覆層がパラジウム中間層および金表皮層を備え、ワイヤ全体に対するパラジウムの含有量が0.01質量%以上5.0質量%以下であり、ワイヤ全体に対する金の含有量が1.0質量%以上6.0質量%以下であり、かつ、ワイヤ全体に対する硫黄族元素の含有量が0.1質量ppm以上100質量ppm以下であることを特徴とする半導体装置。
【請求項8】
上記貴金属被覆層において、パラジウム中間層の芯材面に金中間層を備えるボールボンディング用貴金属被覆銀ワイヤを有することを特徴とする請求項7に記載の半導体装置。
【請求項9】
上記芯材が銅を含み、ワイヤ全体に対する銅の含有量が0.005質量%以上2.0質量%以下であるボールボンディング用貴金属被覆銀ワイヤを有することを特徴とする請求項7に記載の半導体装置。
【請求項10】
少なくとも1つの半導体チップと、リードフレームまたは基板を備え、半導体チップの電極とリードフレームの電極、または半導体チップの電極と基板の電極、もしくは複数の半導体チップの電極間をボールボンディング用貴金属被覆銀ワイヤで接続した半導体装置の製造方法であって、ボールボンディング用貴金属被覆銀ワイヤは純銀または銀合金からなる芯材上に貴金属被覆層を備え、ワイヤが少なくとも1種の硫黄族元素を含み、貴金属被覆層がパラジウム中間層および金表皮層を備え、ワイヤ全体に対するパラジウムの含有量が0.01質量%以上5.0質量%以下であり、ワイヤ全体に対する金の含有量が1.0質量%以上6.0質量%以下であり、かつ、ワイヤ全体に対する硫黄族元素の含有量が0.1質量ppm以上100質量ppm以下であることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項11】
上記貴金属被覆層において、パラジウム中間層の芯材面に金中間層を備えるボールボンディング用貴金属被覆銀ワイヤを有することを特徴とする請求項10に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項12】
上記芯材が銅を含み、ワイヤ全体に対する銅の含有量が0.005質量%以上2.0質量%以下であるボールボンディング用貴金属被覆銀ワイヤを有することを特徴とする請求項10に記載の半導体装置の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置内の半導体チップの電極とリードフレーム等の電極をボンディングワイヤで接続した半導体装置において、好適なボールボンディング用貴金属被覆銀ワイヤおよびその製造方法、ならびにそのワイヤを用いた半導体装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体装置内の半導体チップの電極と外部リード等とを接続するボールボンディングワイヤとしては、金線や銅線、被覆銅線、銀線が用いられてきた。ボールボンディングワイヤは、ワイヤの一端が放電によって溶融し、表面張力により球形状となって凝固する。凝固したボールはFAB(Free Air Ball)と呼ばれ、超音波併用熱圧着ボンディング法によって半導体チップの電極に接続され、他端はプリント基板やリードフレーム等の電極に接続される。そして、接続されたボンディングワイヤは樹脂封止され半導体装置となる。
【0003】
従来のボンディングワイヤである金線は材料コストが高く、銅線や被覆銅線は材料が硬く半導体チップにダメージを与えてしまうという課題があった。また、銀線はコストが安く柔らかいためボンディングワイヤとして好適だが、純銀線は大気中で長期間放置されると表面が硫化し、銀合金線は純銀にパラジウムや金を合金化させることで電気抵抗率が高くなるという問題が生じた。
【0004】
そこで、上記の課題を解決するために銀線の表面にパラジウム等の白金族金属を被覆する被覆銀ボンディングワイヤが考えられた。しかし、被覆銀ボンディングワイヤは、ボンディングワイヤ表面の硫化の問題は解決したものの、自動車等の高温高湿の厳しい環境で使用するには、金線に比べて接合信頼性で満足できるものではなかった。
【0005】
たとえば、パラジウム被覆銀ボンディングワイヤが特開2013−033811号公報(後述する特許文献1)において提案されている。同公報の図4(a)および(b)の顕微鏡写真に、FAB表面にパラジウム層の溶け残り部分の無い真球状のボールが示されている。同公報の請求項1には「半導体素子の電極(a)と回路配線基板の導体配線(c)をボールボンディング法によって接続するためのボンディングワイヤ(W)であって、Agからなる芯材(1)外周面にPt又はPdの被覆層(2)を形成し、その被覆層(2)の断面積(At)とこのワイヤ(W)の断面積(A)の比(At/A×100)を0.1〜0.6%としたことを特徴とするボールボンディングワイヤ」と記載されている。
【0006】
さらに、同公報の段落0021には「FABを作製する時にワイヤ先端部と放電棒gとの間で放電させてワイヤ先端を溶融させる際、Agに比べて高融点なAu、Pt又はPdがFAB表面に集積するため、FAB(ボールb)表面がAu、Pt又はPdの高濃度層になり、同図(b)の、次に続く1st接合時に電極aとの接合界面の高信頼性化に寄与する。」と記載されている。しかしながら、Pt又はPdの被覆層はFAB内部に溶け込んでしまうため、芯材に添加されたAu、Pt又はPdがFAB表面に集積して高濃度層になっても、その高濃度層では高温高湿における接合界面での長期信頼性を確保するまでには至らなかった。
【0007】
そこで、特開2016−115875号公報(後述する特許文献2)の請求項4には、「前記被覆層の最表面にAuを15〜50at.%含むAu含有領域を有し、前記Au含有領域の厚さが0.001〜0.050μmであることを特徴とする」…(中略)…「Ga,In及びSnの1種以上を総計で0.1〜3.0at.%含み、残部がAgおよび不可避不純物からなる芯材と、前記芯材の表面に形成された、Pd及びPtの1種以上、又は、Pd及びPtの1種以上とAg、を含み、残部が不可避不純物からなる被覆層とを備え、前記被覆層の厚さが0.005〜0.070μmであることを特徴とする半導体装置用ボンディングワイヤ」が開示されている。しかしながら、芯材にGa,In及びSnを添加すると、ボンディングワイヤ自体の電気抵抗率が上昇するという課題が生じ、パラジウム被覆銀ボンディングワイヤとして満足できるものではなかった。
【0008】
また、上記諸問題のほか、銀ボンディングワイヤが大気中で溶融ボールを形成すると、溶融銀ボールが大気中の酸素を吸収し、凝固する際に吸収した酸素を放出し、その結果、FAB表面が肌荒れを起こす現象(スピッティング現象)が生じた。そのため、半導体チップの電極であるアルミパッドへ熱圧着される際、アルミパッドとFABとの接合界面が接合されにくくなり、銀ボンディングワイヤは不活性雰囲気もしくは還元性雰囲気下でボールボンディングせざるを得ず、大気中でボールボンディングすることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2013−033811号公報
【特許文献2】特開2016−115875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
半導体チップの電極とリードフレーム等の電極をボンディングワイヤで接続した半導体装置において、ボールボンディング用貴金属被覆銀ワイヤと半導体チップの電極であるアルミパッドをボールボンディングすると、接合界面で銀とアルミニウムの腐食されやすい金属間化合物が形成される。この金属間化合物は腐食されやすいため時間とともに接合界面の内部まで腐食していき、最終的にアルミパッドとボンディングワイヤの間に腐食層が生成され通電不良に至る。そこで、自動車等の厳しい高温高湿の条件下でも接合界面の腐食を抑制し、通電不良が生じない貴金属被覆銀ボンディングワイヤを提供することを目的とする。さらに、本発明は、大気中でボールボンディングをすることができる貴金属被覆銀ボンディングワイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のボールボンディング用貴金属被覆銀ワイヤは、純銀または銀合金からなる芯材上に貴金属被覆層を備えた貴金属被覆銀ワイヤにおいて、ワイヤが少なくとも1種の硫黄族元素を含み、貴金属被覆層がパラジウム中間層および金表皮層を備え、ワイヤ全体に対するパラジウムの含有量が0.01質量%以上5.0質量%以下であり、ワイヤ全体に対する金の含有量が1.0質量%以上6.0質量%以下であり、かつ、ワイヤ全体に対する硫黄族元素の含有量が0.1質量ppm以上100質量ppm以下であることを特徴とする。
【0012】
本発明のボールボンディング用貴金属被覆銀ワイヤの製造方法は、純銀または銀合金からなる芯材上に貴金属被覆層を備えた貴金属被覆銀ワイヤを製造する方法において、ワイヤが少なくとも1種の硫黄族元素を含み、貴金属被覆層がパラジウム中間層および金表皮層を備え、ワイヤ全体に対するパラジウムの含有量が0.01質量%以上5.0質量%以下であり、ワイヤ全体に対する金の含有量が1.0質量%以上6.0質量%以下であり、かつ、ワイヤ全体に対する硫黄族元素の含有量が0.1質量ppm以上100質量ppm以下であることを特徴とする。
【0013】
本発明のボールボンディング用貴金属被覆銀ワイヤを使用した半導体装置は、少なくとも1つの半導体チップと、リードフレームまたは基板を備え、半導体チップの電極とリードフレームの電極、または半導体チップの電極と基板の電極、もしくは複数の半導体チップの電極間をボールボンディング用貴金属被覆銀ワイヤで接続した半導体装置であって、ボールボンディング用貴金属被覆銀ワイヤは純銀または銀合金からなる芯材上に貴金属被覆層を備え、ワイヤが少なくとも1種の硫黄族元素を含み、貴金属被覆層がパラジウム中間層および金表皮層を備え、ワイヤ全体に対するパラジウムの含有量が0.01質量%以上5.0質量%以下であり、ワイヤ全体に対する金の含有量が1.0質量%以上6.0質量%以下であり、かつ、ワイヤ全体に対する硫黄族元素の含有量が0.1質量ppm以上100質量ppm以下であることを特徴とする。
【0014】
本発明のボールボンディング用貴金属被覆銀ワイヤを使用した半導体装置の製造方法は、少なくとも1つの半導体チップと、リードフレームまたは基板を備え、半導体チップの電極とリードフレームの電極、または半導体チップの電極と基板の電極、もしくは複数の半導体チップの電極間をボールボンディング用貴金属被覆銀ワイヤで接続した半導体装置の製造方法であって、ボールボンディング用貴金属被覆銀ワイヤは純銀または銀合金からなる芯材上に貴金属被覆層を備え、ワイヤが少なくとも1種の硫黄族元素を含み、貴金属被覆層がパラジウム中間層および金表皮層を備え、ワイヤ全体に対するパラジウムの含有量が0.01質量%以上5.0質量%以下であり、ワイヤ全体に対する金の含有量が1.0質量%以上6.0質量%以下であり、かつ、ワイヤ全体に対する硫黄族元素の含有量が0.1質量ppm以上100質量ppm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、半導体チップの電極とリードフレーム等の電極をボンディングワイヤで接続した半導体装置において、自動車等の厳しい高温高湿の条件下でも接合界面の腐食を抑制し、通電不良が生じない貴金属被覆銀ボンディングワイヤを提供することができる。さらに、本発明は、大気中から溶融銀ボールへの酸素の吸収がなくなり、芯材が純度99.9質量%以上の純銀でも銀合金でも大気下でボンディング作業ができる。そのため、これまでの金線ボンディング装置をそのまま使用することができ、金ボンディングワイヤの代替品として貴金属被覆銀ワイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】金パラジウム分布層が形成されたFABの断面図である。
図2】金パラジウム分布層が形成されないFABの断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る半導体装置の構造図である。
図4】本発明の別の実施形態に係る半導体装置の内部の構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するために示すものであり、本発明は以下の例示に限定されない。
【0018】
本発明は、貴金属被覆層である金およびパラジウムの融点よりも低融点で、かつ、銀との反応性が高い硫黄族元素を貴金属被覆層に含有させることにより、ボールボンディングした際にFAB表面に金パラジウム分布層を安定して残すことができる。すなわち、FABとアルミパッドとの接合界面において、金パラジウム分布層が存在することにより、長期間にわたる水分やハロゲンイオン影響下で生じる腐食による電気抵抗の上昇、すなわち通電不良を抑制することができる。なお、硫黄族元素とは硫黄(S)、セレン(Se)およびテルル(Te)のことである。
【0019】
硫黄族元素の融点は、それぞれ、硫黄(S)113℃、セレン(Se)220℃およびテルル(Te)450℃であり、銀の融点962℃よりも低い。また、硫黄族元素の融点は、貴金属被覆層であるパラジウムの融点1,552℃および金の融点1,064℃よりも低い。
【0020】
本発明の特徴のメカニズムは完全には解明されていないが、溶融ボールの形成プロセスに特徴があると推測されるため、FABが形成されるプロセスを時間的経過に沿って説明する。最初に、ボンディングワイヤを加熱していくと最も融点の低い貴金属被覆層内の硫黄族元素が溶融状態となる。硫黄族元素は芯材の銀と反応しやすいため、溶融状態の硫黄族元素が銀に引き寄せられる。次に融点の低い芯材である銀が溶融し、小さなボールから大きなボールへ成長していく。その際、芯材である銀と貴金属被覆層であるパラジウムの界面において、芯材の最表層面の銀が硫黄族元素と反応して硫黄族化銀(たとえば硫化銀等)を形成し、これらが芯材の銀の最表層面の周囲を覆う。それら硫黄族化銀が芯材である銀と貴金属被覆層であるパラジウムの間においてバリア効果を発揮し、金およびパラジウムの融点まで加熱温度が上昇しても、貴金属被覆層の金およびパラジウムが芯材の銀に溶け込むことを抑制する。貴金属被覆層であるパラジウムの一部は芯材表面の銀と合金化するため、完全分離とまではいかないが、FAB表面にパラジウムまたはパラジウム−銀合金もしくはパラジウムとパラジウム−銀合金の両方が形成され、それらがFAB表面に覆いかぶさる。一方、金はパラジウム中に拡散しにくいという性質があるため、貴金属被覆層の金表皮層はパラジウム中間層上にとどまる。そして、金表皮層とパラジウム中間層の界面で、一部合金化し、金表皮層はパラジウム中間層の動きに追従する。この層を金パラジウム分布層といい、この金パラジウム分布層がFABの表面をさらに覆う。金パラジウム分布層が形成されたFABの断面を面分析した結果を図1に示す。
【0021】
FAB表面の金パラジウム分布層は、例えば電子線マイクロアナライザ(EPMA:Electron Probe Micro Analyzer)でFAB中心部をワイヤネック部からボール先端部に向かって切断した面を面分析することによって確認できる。面分析とは、試料のある一定範囲内における元素分布を計測する方法であり、各元素の分布が視覚的に分かる分析方法である。図1は、EPMAによりFAB断面のパラジウムの分布を面分析した結果である。白くみえる部分が金およびパラジウムの分布を示しており、FAB表面に金パラジウム分布層を形成している事が分かる。また、EPMAでは計測が難しい薄い金パラジウム分布層は、視覚的な面分析はできないが、オージェ電子分光法(AES:Auger Electron Spectroscopy)でFAB表面から芯材に向って、深さ分析を行うことで金パラジウム分布層が形成されていることを確認できる。他にも透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)付属のエネルギー分散型X線分析(EDX:Energy Dispersive X-ray Spectrometry)等によってもパラジウム分布層を確認することができる。これらのようにFAB表面に金およびパラジウムが分布していることを金パラジウム分布層と定義づける。
【0022】
金パラジウム分布層はFAB表面を覆っていることが本課題を解決するための条件である。金パラジウム分布層は大気中の酸素の透過を抑制するので、溶融銀ボールが酸素を吸収することを防ぐことができる。そのため、FABが凝固するときに、酸素を放出することがないため、スピッティング現象が生じない。さらに、FAB表面を覆うことで、アルミパッドとの接合界面に必ず金パラジウム分布層が存在することになり、接合界面の腐食が原因で生じる電気抵抗の上昇、すなわち通電不良を抑制することができる。図2は金およびパラジウムが芯材である銀に溶け込み、この状態では本発明の課題を解決することはできない。
【0023】
また、本発明に係るボールボンディング用貴金属被覆銀ワイヤにおいて、貴金属被覆層(特に硬いパラジウム中間層が被覆されている場合等)の最外層に金表皮層を被覆することで金の高い展延性により、伸線加工におけるワイヤ表面の割れや断線を防止することができる。また、ダイヤモンドダイスの摩耗が低減されるためダイスの長寿命化が実現し、加工費用の削減にも貢献することができる。
【0024】
さらに、貴金属被覆層において、パラジウム中間層の芯材面に金中間層が形成されることが好ましい。金中間層がクッションとなって連続伸線工程中の芯材とパラジウム中間層の伸び率の違いを緩和するためである。さらに、貴金属被覆層において、金、パラジウム、金の順に被覆すると、連続伸線工程における貴金属被覆層の伸線加工不良が低減する。
【0025】
さらに、本発明に係るボールボンディング用貴金属被覆銀ボンディングワイヤにおいて、芯材に純度99.9質量%以上の銀を用いればワイヤの電気抵抗率を小さくできるため好ましいが、銀と貴金属被覆層との材料強度や展延性および伸び率に大きな隔たりがあるため、伸線加工において芯材の銀から貴金属被覆層が剥がれてしまったり、断線等が生じたりする原因となる。そのため、伸線加工を円滑に行うために、芯材の銀に銅を微量に含ませ、芯材の強度を上げると、貴金属被覆層と芯材の材料強度や伸び率の隔たりが小さくなり、伸線時の加工性が良好になることが分かった。なお、金、白金またはパラジウム等を芯材に添加することでも同じ効果を得ることができる。
【0026】
本発明に係る貴金属被覆銀ボンディングワイヤにおいて、ワイヤ全体に対するパラジウムの含有量を0.01質量%以上5.0質量%以下としたのは次の理由である。すなわち、パラジウムの下限値を0.01質量%以上としたのは、0.01質量%未満ではFAB表面を金パラジウム分布層で覆うことができず、FABとアルミパッドとの接合界面において腐食を抑制できないからである。また、パラジウムの上限値を5.0質量%以下としたのは5.0質量%を超えるとFABの真円性を安定させることができないためである。
【0027】
本発明に係る貴金属被覆銀ボンディングワイヤにおいて、ワイヤ全体に対する金の含有量を1.0質量%以上6.0質量%以下としたのは次の理由である。すなわち、金の下限値を1.0質量%以上としたのは、1.0質量%未満では大気中から溶融ボールへの酸素の侵入を防ぎ、スピッティング現象を抑制することができないためである。また、金の上限値を6.0質量%以下としたのは6.0質量%を超えると圧着ボールの真円性を安定させることができないためである。ただし、金の含有量が増えるとコスト高になるのでなるべく少ないほうが好ましい。
【0028】
本発明に係る貴金属被覆銀ボンディングワイヤにおいて、貴金属被覆層に硫黄族元素を含有させるのは、硫黄(S)、セレン(Se)およびテルル(Te)からなる硫黄族元素を少なくとも1種、貴金属被覆層の成分組成に応じて適度に存在すると、FAB表面を金パラジウム分布層で覆うことができることが分かったためである。なお、貴金属被覆層に硫黄族元素を含有することで本発明の課題を解決できるが、貴金属被覆層中に硫黄族元素が含有しているか、含有していないかを分析することが困難であり、さらに貴金属被覆層内における硫黄族元素の含有量を分析することも非常に困難であるため、請求項において硫黄族元素はワイヤ全体での含有量とした。
【0029】
硫黄族元素の下限値を0.1質量ppm以上としたのは0.1質量ppm未満では、FABの表面に金パラジウム分布層を残すことができないからである。また、硫黄族元素の上限値を100質量ppm以下としたのは100質量ppmを超えるとボールボンディング時のボール接合部の真円性を安定させることができないためである。
【0030】
上記芯材の銀合金が銅を0.005質量%以上2.0質量%以下含有することが好ましい。ワイヤ全体に対する銅の含有量の下限値を0.005質量%以上としたのは0.005質量%未満では、伸線加工不良を抑制することができないからである。また、ワイヤ全体に対する銅の含有量の上限値を2.0質量%未満としたのは、2.0質量%を超えると電気抵抗率が上昇し、さらに、ワイヤ強度が上がり、伸線加工が困難になるためである。なお、芯材の銀合金が金、白金またはパラジウムの少なくとも1種を合計で0.005質量%以上2.0質量%以下含有することでも同等の効果を得られる。
【0031】
なお、本発明に係るボールボンディング用貴金属被覆銀ボンディングワイヤ中の各元素の含有量はICP発光分光分析法(ICP−AES:Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy)やICP質量分析法(ICP−MS:Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry)やグロー放電質量分析法(GDMS:Glow Discharge Mass Spectrometry)、二次イオン質量分析法(TOF−SIMS:Time−of−Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)等を用いて測定する。
【0032】
また、本発明に係るボールボンディング用貴金属被覆銀ボンディングワイヤにおける芯材に積層された貴金属被覆層の構造については、AESにてボンディングワイヤの表層から芯材へ深さ方向に分析することで積層の順番が確認できる。また、機械研磨や集束イオンビーム装置(FIB:Focused Ion Beam System)でボンディングワイヤの断面を出し、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)付属のEDX、EPMAもしくはTEM付属のEDXで表面部分の元素の線分析や複数個所の点分析でも各元素の積層や配置が確認できる。
【0033】
ここで、本発明における貴金属被覆層の貴金属元素、パラジウム中間層のパラジウム元素、金表皮層および金中間層の金元素は、各層に100質量%の部分が無く合金化されている場合でも良く、それを含めて貴金属被覆層、パラジウム中間層、金表皮層および金中間層と定義する。
【0034】
(製造方法)
次に、本発明に係るボールボンディング用貴金属被覆銀ボンディングワイヤの製造方法を説明する。なお、実施形態におけるボールボンディング用貴金属被覆銀ボンディングワイヤの製造方法は特に以下に限定されるものではない。
【0035】
(芯材)
ボンディングワイヤの芯材に用いる純銀または銀合金は、原料を同時に溶解することによって製造できる。溶解には、アーク加熱炉、高周波加熱炉、抵抗加熱炉等を利用することができ、連続鋳造炉を用いるのが好ましい。その手順は次のとおりである。カーボンるつぼにあらかじめ秤量した原料を装填し、真空または窒素ガスやアルゴンガス等の不活性雰囲気で加熱溶解させた後、冷却する。得られた純銀または銀合金のインゴットは、圧延加工やダイスを用いた引抜加工、連続伸線加工を繰り返し行うことで最終線径まで細線化する。
【0036】
(貴金属被覆層)
貴金属被覆層を形成する方法は、最終線径の銀線に貴金属被覆層を形成する手法、あるいは、連続鋳造上がりの銀線や中間線径の銀線に貴金属被覆層を形成した後に、連続伸線して最終線径に加工する方法がある。
【0037】
芯材である銀線の表面に貴金属被覆層を形成する方法は、湿式めっき、乾式めっき法、溶融法等を用いることができる。湿式めっき法は、電解めっき法、無電解めっき法などで製造することができる。ストライクめっき、フラッシュめっきと呼ばれる電解めっき法を組み合わせることもできる。無電解めっきに使用する溶液は、置換型、還元型、自己分解型のいずれの方法も用いることができる。厚い貴金属被覆層を形成する場合には置換型めっきの後に自己分解型めっきを併用することもできる。乾式めっき法では、スパッタ法、イオンプレーティング法、真空蒸着等の物理吸着法や、プラズマCVD(化学蒸着:Chemical Vapor Deposition)等の化学吸着を利用することができる。いずれも乾式であるため、湿式めっき法のように貴金属被覆層を形成した後の洗浄が不要で、洗浄時の表面汚染等の心配がない。
【0038】
上記の銀線を形成する方法について具体的に説明する。溶解鋳造によって得られた直径3mm以上10mm以下の円柱状の銀合金に対して、引抜加工を行って直径1.2mm以上2.0mm以下まで伸線する。その後、ダイスを用いて連続的に伸線加工することによって、直径300μm以上600μm以下のワイヤを作製する。これらの工程は連続鋳造によっても行うことができる。
【0039】
上記の銀線に貴金属被覆層を形成する方法について具体的に説明する。貴金属被覆層は湿式めっきによって形成することができる。パラジウム中間層のパラジウム電気めっき浴に、結晶調整剤としての硫黄(S)化合物、セレン(Se)化合物またはテルル(Te)化合物を添加して調整した。また、金表皮層を設ける場合、金電気めっき浴を用いた。その後、伸線加工を繰返して最終線径の直径12μm以上60μm以下、好ましくは直径15μm以上35μm以下まで伸線し、最終熱処理を行う。
【0040】
最終熱処理は最終線径の貴金属被覆銀線を連続的に伸線しながら行うと、高い生産性が得られるため有効である。具体的には最終線径の貴金属被覆銀線を適当な温度に設定した電気炉中に連続的に通す方法や最終線径の貴金属被覆銀線をスプール等に巻いた状態で適当な温度に設定したオーブンの中に一定時間放置する方法がある。
【0041】
本発明の実施形態による製造方法にて製造されたボールボンディング用貴金属被覆銀ボンディングワイヤを用いてボールボンディングをすると、FAB表面に金パラジウム分布層が形成され、アルミパッドとボンディングワイヤ間で生じる金属間化合物の腐食により発生する通電不良を抑制することができるという優れた特性を発揮することができる。さらに本発明のボールボンディング用貴金属被覆銀ボンディングワイヤを使用することで従来の半導体装置より高寿命な半導体装置を実現することができる。
【0042】
本発明の一実施形態の半導体装置およびその製造方法について代表的な例を図3を参照して説明する。
半導体チップ2とリードフレーム3を貴金属被覆銀ボンディングワイヤ4にて接合した後、貴金属被覆銀ボンディングワイヤ4や接合部を保護するためにセラミックやモールド樹脂等で封止する。その後、外部リードを所定の形状に成型する。最後に電気的特性検査や外観検査等の製品検査、および、環境試験や寿命試験等の信頼性検査を経て半導体装置1となる。
【0043】
次に本発明の別の実施形態の半導体装置の内部の構造について図4を参照して説明する。
基板5に複数の半導体チップ2が配置され、基板5の電極6と半導体チップ2の電極(図示しない)、半導体チップ2の電極(図示しない)と半導体チップ2の電極(図示しない)が貴金属被覆銀ワイヤ4で電気的に接合されている。なお、貴金属被覆銀ワイヤ4で電気的に接合される半導体チップ2の電極とは、半導体チップ2上にある電極にあらかじめ接合したバンプ(図示しない)も含むものとする。半導体装置とは具体的にいうと、ロジックIC、アナログIC、ディスクリート半導体、メモリ、光半導体等がある。
【0044】
以下、実施例および比較例を示して、本発明をさらに説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0045】
まず、実施例について説明する。芯材は純度が99.9質量%以上の銀、貴金属被覆層は金およびパラジウムを用いた。中間線径の銀線に貴金属被覆層を積層した後に、連続伸線して最終線径まで加工する方法を用いた。芯材の表面に貴金属被覆層を形成する方法は、ワイヤを連続的に送線しながらめっき浴に浸漬させる電気めっき法を用いた。その後、最終線径まで加工したボンディングワイヤに最終熱処理を行い、実施例1から実施例20のボンディングワイヤを作製した。
【0046】
次に、作製したボンディングワイヤを市販の接合装置(K&S ICONN)を用いて、ガスを使用せずにFABを形成し、200℃に加熱した評価用Siチップ上のアルミニウム合金パッドに超音波併用熱圧着方式によるボールボンディング法により第一次ボンディングをし、42アロイからなるリードフレーム(200pin)上の銀めっきが施されたリードとの間で超音波併用熱圧着方式によるステッチ方式ボンディング法により第二次ボンディングをして、計200本のワイヤを結線した。その後、各種評価を行った。
【0047】
(接合評価)
スピッティングの影響は、半導体チップの電極であるアルミパッドへ熱圧着される第一次ボンディングにおいて接合不良として現れるため、第一次ボンディングの接合評価を行う。まず、接合評価として、第一次ボンディングの際、NSOP(Non stick on pad)検出により、連続してボールボンディングができなかったものを「×」(不合格)とした。つぎに、連続してボールボンディングができたものをdage社製の万能ボンドテスター(型式BT−4000)を用いて、全ループ長の第一次ボンディング側5分の1付近にプルフックを掛け、200本結線したうちの20本のワイヤでプル評価を行った。第一次ボンディング評価は、1本でも圧着ボール剥がれ(アルミパットからの剥がれ)が発生した場合を「×」(不合格)、20本すべてが圧着ボール剥がれ以外で破断した場合を「○」(合格)とした。その結果を表1に示す。表1は貴金属被覆銀ワイヤを実施したものである。実施例に係る接合評価は、いずれもすべて表1のとおり「○」(合格)であった。
【0048】
(真円性の評価)
圧着ボールの真円性は、ボンディングワイヤ接合装置の圧着ボール径の縦(超音波印加方向)をYとし、横(超音波印加と直交する方向)をXとし、その比、すなわちY/Xにて評価を行う。「○」(合格)は0.8〜1.2、「×」(不合格)は0.79以下および1.21以上を評価基準と定めた。ただし、真円性が「○」(合格)であっても、芯ずれ現象があるワイヤに関して、真円性の評価は「×」(不合格)とした。芯ずれ現象とは、圧着ボール形状がワイヤ軸に対し非対称に形成される現象であり、芯ずれが大きければ、隣接するボールと接触するためショート不良を起こす。また、芯ずれは接合強度不足も懸念される。なお、ボンディングされた実施例に係るワイヤの圧着ボール形状は、いずれもすべて真円性の評価は表1のとおり「○」(合格)であった。
【0049】
その後、アルミニウム合金パッドに接合したボールボンディングワイヤを市販のエポキシ系樹脂で封止し、電気抵抗を測定した。電気抵抗はKEITHLEY社製の「ソースメーター(型式2004)」を用い、専用のICソケットおよび専用に構築した自動測定システムで行い、プローブから隣接する外部リード間(半導体チップ上のパッドが短絡した対を選択)に一定の電流を流し、プローブ間の電圧を測定する直流四端子法を用いて測定した。
【0050】
(HAST信頼性評価)
次に、高加速寿命試験(HAST:Highly Accelerated Temperature and Humidity Stress Test)を行った。HAST信頼性評価は、上記にて作製したワイヤをHAST装置内に入れ、温度130℃、相対湿度85%、2気圧の雰囲気で192時間放置する方法で行った。その後電気抵抗測定を行い、試験前との電気抵抗の上昇率にて評価を行った。この評価方法を選定した理由は、ワイヤのアルミニウム接合界面で生成される銀とアルミニウムとの金属間化合物の腐食によって生じる接合界面での腐食層の進行状況により、接合面積が小さくなり、通電性が悪くなり、電気抵抗が上昇するためである。そのため、HAST前後でのワイヤの電気抵抗の上昇率を測定することが課題解決のための評価方法として適している。
【0051】
結果を表1に示すが、HAST前後において隣接する100対の外部リード間の電気抵抗上昇率の平均値が20%以下のワイヤを「○」(合格)、20%超えのワイヤを「×」(不合格)とした。なお、実施例に係るワイヤはいずれも、HAST後の電気抵抗がHAST前の電気抵抗に比べて上昇率の平均値が20%以下だった。
【0052】
その後、評価用チップ上のアルミニウム合金パッドとワイヤとの接合界面の断面をSEM付属のEDXにて分析したところ、接合界面にパラジウムが検出された。この検出されたパラジウムは、図1に示すFAB表面に形成された金パラジウム分布層に由来するものである。すなわち、FAB表面にて覆われた金パラジウム分布層がアルミニウム合金パッドと接合することによって、銀−アルミニウム金属間化合物の生成の抑制や、金パラジウム分布層が金属間化合物への水分や塩素からの腐食を抑制し、電気抵抗上昇の抑制に寄与しているためである。
【比較例】
【0053】
実施例と同様の方法で比較例の貴金属被覆銀ワイヤを作製した。比較例のボンディングワイヤに実施例同様、ガスを使用せずにFABを形成したところ、比較例21から比較例28において、接合評価はいずれも「○」(合格)であったが、比較例29から比較例40のいずれにおいても不着もしくは接合不良が見られ、接合評価は「×」(不合格)であった。この結果から、ガスを使用しない場合において、接合性が金の含有量(質量%)に起因することが分かる。さらに、比較例23、24、26および27においていびつな偏芯ボールが形成され、真円性の評価は「×」(不合格)であった。この結果から、真円性がパラジウムの含有量(質量%)および硫黄族元素の含有量(質量%)に起因することが分かる。なお、接合評価で「×」(不合格)であったボンディングワイヤは真円性評価およびHAST信頼性評価を実施しないため、表1において「−」(未実施)とした。また、真円性評価で「×」(不合格)であったボンディングワイヤはHAST信頼性評価を実施しないため、表1において「−」(未実施)とした。
【0054】
比較例21、22、25および28は真円性の評価をクリアしたが、HAST後に電気抵抗の上昇率がHAST前に比べ20%を超えたため「×」(不合格)となった。評価用チップ上のアルミニウム合金パッドとボンディングワイヤとの接合界面の断面をSEM付属のEDXにて分析したところ、接合界面にパラジウムは検出されなかった。この結果から、接合界面にパラジウムが検出される、すなわちFAB表面を金パラジウム分布層で覆うためにはパラジウムの含有量(質量%)および硫黄族元素の添加量に左右されることが分かる。また、接合界面でのパラジウムの有無が本発明の課題解決の鍵となっていることが分かる。
【0055】
【表1】
【0056】
上記の実施例および比較例の結果から、評価用チップ上のアルミニウム合金パッドとボンディングワイヤとの接合界面にパラジウムが存在するか否かがボンディングワイヤの通電性、すなわち接合寿命に大きく影響することがわかる。この接合界面のパラジウムは、図1に示すFAB表面に形成された金パラジウム分布層に由来するものである。
【0057】
以上のとおり、FAB表面に金パラジウム分布層を安定して残すことで、自動車等の厳しい高温高湿の条件下でも接合界面に生じる腐食による電気抵抗の上昇、すなわち通電不良を抑制することができる貴金属被覆銀ボンディングワイヤを提供することができる。
【0058】
また、本発明のボールボンディング用貴金属被覆銀ワイヤは、アルミパッドとボンディングワイヤ間で生じる金属間化合物の腐食により発生する通電不良を抑制することができるという優れた特性を発揮することができるため、本発明のボールボンディング用貴金属被覆銀ボンディングワイヤを半導体装置に使用することで従来の半導体装置より高寿命な半導体装置を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のボールボンディング用貴金属被覆銀合金ワイヤは、従来の金ワイヤおよびパラジウム被覆銀ワイヤにとって代わり、高湿高温の条件下でも電気抵抗の上昇を抑え、ロジックIC、アナログIC、ディスクリート半導体、メモリの他、光半導体等の多岐にわたり用途がある。
【符号の説明】
【0060】
1 半導体装置
2 半導体チップ
3 リードフレーム
4 貴金属被覆銀ワイヤ
5 基板
6 電極

図1
図2
図3
図4