特許第6869954号(P6869954)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6869954導電層形成用塗布液、導電層の製造方法及び導電層
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6869954
(24)【登録日】2021年4月16日
(45)【発行日】2021年5月12日
(54)【発明の名称】導電層形成用塗布液、導電層の製造方法及び導電層
(51)【国際特許分類】
   C09D 1/00 20060101AFI20210426BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20210426BHJP
   C09D 5/24 20060101ALI20210426BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20210426BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20210426BHJP
【FI】
   C09D1/00
   C09D7/65
   C09D5/24
   H01B1/22 A
   H01B13/00 503D
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-505966(P2018-505966)
(86)(22)【出願日】2017年3月14日
(86)【国際出願番号】JP2017010283
(87)【国際公開番号】WO2017159704
(87)【国際公開日】20170921
【審査請求日】2019年9月24日
(31)【優先権主張番号】特願2016-51703(P2016-51703)
(32)【優先日】2016年3月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】500400216
【氏名又は名称】住友電工プリントサーキット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 元彦
(72)【発明者】
【氏名】岡田 一誠
(72)【発明者】
【氏名】岡 良雄
(72)【発明者】
【氏名】木村 淳
(72)【発明者】
【氏名】大木 健嗣
【審査官】 上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−089784(JP,A)
【文献】 特開2013−194290(JP,A)
【文献】 特開2005−330552(JP,A)
【文献】 特開2012−114152(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
H01B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属微粒子、分散剤及び分散媒を含有する導電層形成用塗布液であって、
上記金属微粒子の主成分が銅又は銅合金であり、
上記分散剤がポリエチレンイミン−ポリエチレンオキサイドグラフト共重合体であり、
上記グラフト共重合体中のポリエチレンイミン部分の重量平均分子量が300以上1,000以下、上記ポリエチレンイミン部分の窒素原子に対するポリエチレンオキサイド鎖のモル比が10以上50以下、上記グラフト共重合体の重量平均分子量が3,000以上54,000以下であり、
上記金属微粒子の平均粒子径D50が1nm以上200nm以下である導電層形成用塗布液。
【請求項2】
pHが4以上8以下である請求項1に記載の導電層形成用塗布液。
【請求項3】
上記金属微粒子に対する分散剤由来の窒素原子の含有割合が0.01質量%以上10質量%以下である請求項1又は請求項2に記載の導電層形成用塗布液。
【請求項4】
金属微粒子、分散剤及び分散媒を含有する導電層形成用塗布液を用いた導電層の製造方法であって、
上記導電層形成用塗布液を塗布する塗布工程と、
塗布後の導電層形成用塗布液を加熱する加熱工程と
を備え、
上記金属微粒子の主成分が銅又は銅合金であり、
上記分散剤がポリエチレンイミン−ポリエチレンオキサイドグラフト共重合体であり、
上記グラフト共重合体中のポリエチレンイミン部分の重量平均分子量が300以上1,000以下、上記ポリエチレンイミン部分の窒素原子に対するポリエチレンオキサイド鎖のモル比が10以上50以下、上記グラフト共重合体の重量平均分子量が3,000以上54,000以下であり、
上記金属微粒子の平均粒子径D50が1nm以上200nm以下である導電層の製造方法。
【請求項5】
金属微粒子の焼結体を含む導電層であって、
上記金属微粒子の主成分が銅又は銅合金であり、
上記焼結体がポリエチレンイミン−ポリエチレンオキサイドグラフト共重合体由来の残存物を含み、
上記グラフト共重合体の中のポリエチレンイミン部分の重量平均分子量が300以上1,000以下、上記ポリエチレンイミン部分の窒素原子に対するポリエチレンオキサイド鎖のモル比が10以上50以下、上記グラフト共重合体の重量平均分子量が3,000以上54,000以下であり、
上記金属微粒子の平均粒子径D50が1nm以上200nm以下である導電層。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電層形成用塗布液、導電層の製造方法及び導電層に関する。
本出願は、2016年3月15日出願の日本出願第2016−51703号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化及び高性能化に伴い、プリント配線板の高密度化が要求されている。
【0003】
このような要求に対し、絶縁性を有するベースフィルム上に金属微粒子の焼結層が積層されたプリント配線板が提案されている(特開2008−34358号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−34358号公報
【発明の概要】
【0005】
本発明の一態様に係る導電層形成用塗布液は、金属微粒子、分散剤及び分散媒を含有する導電層形成用塗布液であって、上記金属微粒子の主成分が銅又は銅合金であり、上記分散剤がポリエチレンイミン−ポリエチレンオキサイドグラフト共重合体であり、上記グラフト共重合体中のポリエチレンイミン部分の重量平均分子量が300以上1,000以下、上記ポリエチレンイミン部分の窒素原子に対するポリエチレンオキサイド鎖のモル比が10以上50以下、上記グラフト共重合体の重量平均分子量が3,000以上54,000以下である。
【0006】
本発明の他の一態様に係る導電層の製造方法は、金属微粒子、分散剤及び分散媒を含有する導電層形成用塗布液を用いた導電層の製造方法であって、上記導電層形成用塗布液を塗布する塗布工程と、塗布後の導電層形成用塗布液を加熱する加熱工程とを備え、上記金属微粒子の主成分が銅又は銅合金であり、上記分散剤がポリエチレンイミン−ポリエチレンオキサイドグラフト共重合体であり、上記グラフト共重合体中のポリエチレンイミン部分の重量平均分子量が300以上1,000以下、上記ポリエチレンイミン部分の窒素原子に対するポリエチレンオキサイド鎖のモル比が10以上50以下、上記グラフト共重合体の重量平均分子量が3,000以上54,000以下である。
【0007】
本発明の他の一態様に係る導電層は、金属微粒子の焼結体を含む導電層であって、上記金属微粒子の主成分が銅又は銅合金であり、上記焼結体がポリエチレンイミン−ポリエチレンオキサイドグラフト共重合体由来の残存物を含み、上記グラフト共重合体の中のポリエチレンイミン部分の重量平均分子量が300以上1,000以下、上記ポリエチレンイミン部分の窒素原子に対するポリエチレンオキサイド鎖のモル比が10以上50以下、上記グラフト共重合体の重量平均分子量が3,000以上54,000以下である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る導電層の製造方法の塗布工程を示す模式的断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る導電層の製造方法の加熱工程を示す模式的断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る導電層の製造方法の第1金属めっき層形成工程を示す模式的断面図である。
図4】本発明の一実施形態に係る導電層の製造方法の第2金属めっき層形成工程を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本発明が解決しようとする課題]
上記公報に記載のプリント配線板は、金属微粒子を含む塗布液をベースフィルム上に塗布した上、この塗布液を加熱することで、このベースフィルム上に導電層(金属微粒子焼結層)を直接密着させることができる。そのため、このプリント配線板は、例えばベースフィルム上に接着剤を介して導電層を積層する場合と比べると一定程度の高密度化を図ることができる。しかしながら、一般に金属微粒子は塗布液中で凝集し易いため、この塗布液をベースフィルム上に塗布しても、金属微粒子がこのベースフィルム上に均一分散され難い。そのため、この塗布液を熱処理して得られる導電層は、部分的な粗密が生じ易く、緻密性及び表面の平滑性が不十分となり易い。
【0010】
本発明は、このような事情に基づいてなされたものであり、緻密性及び平滑性に優れる導電層を形成可能な導電層形成用塗布液及び導電層の製造方法の提供を目的とする。また、本発明は、緻密性及び平滑性に優れる導電層の提供を目的とする。
[本発明の効果]
【0011】
本発明の導電層形成用塗布液及び導電層の製造方法は、緻密性及び平滑性に優れる導電層を形成することができる。また、本発明の導電層は、緻密性及び平滑性に優れる。
【0012】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
【0013】
本発明の一態様に係る導電層形成用塗布液は、金属微粒子、分散剤及び分散媒を含有する導電層形成用塗布液であって、上記金属微粒子の主成分が銅又は銅合金であり、上記分散剤がポリエチレンイミン−ポリエチレンオキサイドグラフト共重合体(以下、「PEI−PEOグラフト共重合体」ともいう。)であり、上記グラフト共重合体中のポリエチレンイミン(以下、「PEI」ともいう。)部分の重量平均分子量が300以上1,000以下、上記ポリエチレンイミン部分の窒素原子に対するポリエチレンオキサイド(以下、「PEO」ともいう。)鎖のモル比が10以上50以下、上記グラフト共重合体の重量平均分子量が3,000以上54,000以下である。
【0014】
当該導電層形成用塗布液は、上記分散剤としてPEI−PEOグラフト共重合体を含み、このPEI−PEOグラフト共重合体中のPEI部分の重量平均分子量、PEI部分の窒素原子に対するPEO鎖のモル比、及びPEI−PEOグラフト共重合体の重量平均分子量が上記範囲内であるので、PEI−PEOグラフト共重合体の分散媒中での均一分散性が高められる。また、かかる構成によると、PEI−PEOグラフト共重合体のPEI部分の窒素原子を上記金属微粒子側に配位させ、上記金属微粒子を分散媒中に均一分散させ易い。そのため、当該導電層形成用塗布液は、金属微粒子の分散性及び保存安定性に優れる。従って、当該導電層形成用塗布液は、プリント配線板用基材を構成するベースフィルムの一方側面に塗布された上、加熱されることでこのベースフィルムの一方側面に緻密性及び平滑性に優れる導電層(金属微粒子焼結層)を形成することができる。
【0015】
上記金属微粒子の平均粒子径D50としては、1nm以上200nm以下が好ましい。当該導電層形成用塗布液によると、金属微粒子の平均粒子径D50が上記範囲内と比較的小さくてもこの金属微粒子を分散媒中に均一に分散させることができる。そのため、上記金属微粒子の平均粒子径D50を上記範囲内とすることによって、緻密性及び平滑性に優れる導電層を容易かつ確実に形成することができる。
【0016】
当該導電層形成用塗布液のpHとしては、4以上8以下が好ましい。当該導電層形成用塗布液のpHが上記範囲内であることによって、金属微粒子の分散性をより向上することができる。
【0017】
上記金属微粒子に対する分散剤由来の窒素原子の含有割合としては、0.01質量%以上10質量%以下が好ましい。このように、上記金属微粒子に対する分散剤由来の窒素原子の含有割合を上記範囲内とすることによって、上記金属微粒子の分散性を向上すると共に導電層形成時に分散剤が金属微粒子の焼結を阻害することを抑制して、緻密かつ抵抗の小さい導電層を形成することができる。
【0018】
本発明の他の一態様に係る導電層の製造方法は、金属微粒子、分散剤及び分散媒を含有する導電層形成用塗布液を用いた導電層の製造方法であって、上記導電層形成用塗布液を塗布する塗布工程と、塗布後の導電層形成用塗布液を加熱する加熱工程とを備え、上記金属微粒子の主成分が銅又は銅合金であり、上記分散剤がポリエチレンイミン−ポリエチレンオキサイドグラフト共重合体であり、上記グラフト共重合体中のポリエチレンイミン部分の重量平均分子量が300以上1,000以下、上記ポリエチレンイミン部分の窒素原子に対するポリエチレンオキサイド鎖のモル比が10以上50以下、上記グラフト共重合体の重量平均分子量が3,000以上54,000以下である。
【0019】
当該導電層の製造方法は、分散剤として所定のPEI−PEOグラフト共重合体を含むことで分散媒中での金属微粒子の分散性及び保存安定性に優れる導電層形成用塗布液を用いて導電層を製造する。そのため、当該導電層の製造方法は、緻密性及び平滑性に優れる導電層(金属微粒子焼結層)を形成することができる。
【0020】
本発明の他の一態様に係る導電層は、金属微粒子の焼結体を含む導電層であって、上記金属微粒子の主成分が銅又は銅合金であり、上記焼結体がポリエチレンイミン−ポリエチレンオキサイドグラフト共重合体由来の残存物を含み、上記グラフト共重合体の中のポリエチレンイミン部分の重量平均分子量が300以上1,000以下、上記ポリエチレンイミン部分の窒素原子に対するポリエチレンオキサイド鎖のモル比が10以上50以下、上記グラフト共重合体の重量平均分子量が3,000以上54,000以下である。
【0021】
当該導電層は、金属微粒子の焼結体が所定のPEI−PEOグラフト共重合体を含んでいる。つまり、当該導電層は、このPEI−PEOグラフト共重合体を含むことで塗布液中において均一分散された金属微粒子を焼結して形成されている。そのため、当該導電層は、緻密性及び平滑性に優れる。
【0022】
なお、本明細書において、「主成分」とは、最も含有量の多い成分をいい、例えば含有量が50質量%以上の成分をいい、好ましくは80質量%以上の成分をいう。「重量平均分子量」とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)装置を使用し、展開溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンを用い、単分散ポリスチレンを標準として測定した値である。「金属微粒子の平均粒子径D50」とは、1次粒子の平均粒子径をいう。また、この「平均粒子径D50」とは、レーザー回折法で測定した体積累積分布から算出される平均粒子径D50をいう。
【0023】
[本発明の実施形態の詳細]
<導電層形成用塗布液>
当該導電層形成用塗布液は、プリント配線板基材の形成に用いられる。具体的には、当該導電層形成用塗布液は、プリント配線板を構成するベースフィルムの一方側面に塗布された上、加熱処理されることで、このベースフィルムに積層され、金属微粒子が焼結された導電層(金属微粒子焼結層)を形成する。
【0024】
当該導電層形成用塗布液は、金属微粒子、分散剤及び分散媒を含有している。上記金属微粒子の主成分としては、銅又は銅合金が用いられる。当該導電層形成用塗布液は、上記金属微粒子の主成分が銅又は銅合金であることによって、金属微粒子が銀、白金、パラジウム等の貴金属を主成分とする場合に比べて導電層のマイグレーションを抑制することができる。また、当該導電層形成用塗布液は、上記金属微粒子の主成分が銅又は銅合金であることによって、導電層の導電性及びベースフィルムとの密着力を高めることができる。なお、上記金属微粒子は、銅又は銅合金を主成分とする限り他の金属を含んでいてもよいが、上述の効果を的確に奏するためには不可避的に含有される場合を除き他の金属を含まないことが好ましい。
【0025】
当該導電層形成用塗布液は、上記分散剤がPEI−PEOグラフト共重合体であり、上記PEI−PEOグラフト共重合体中のPEI部分の重量平均分子量が300以上1,000以下、上記PEI部分の窒素原子に対するPEO鎖のモル比が10以上50以下、上記PEI−PEOグラフト共重合体の重量平均分子量が3,000以上54,000以下である。
【0026】
当該導電層形成用塗布液は、上記分散剤としてPEI−PEOグラフト共重合体を含み、このPEI−PEOグラフト共重合体中のPEI部分の重量平均分子量、PEI部分の窒素原子に対するPEO鎖のモル比、及びPEI−PEOグラフト共重合体の重量平均分子量が上記範囲内であるので、PEI−PEOグラフト共重合体の分散媒中での均一分散性が高められる。また、かかる構成によると、PEI−PEOグラフト共重合体のPEI部分の窒素原子を上記金属微粒子側に配位させ、上記金属微粒子を分散媒中に均一分散させ易い。そのため、当該導電層形成用塗布液は、金属微粒子の分散性及び保存安定性に優れる。従って、当該導電層形成用塗布液は、プリント配線板用基材を構成するベースフィルムの一方側面に塗布された上、加熱されることでこのベースフィルムの一方側面に緻密性及び平滑性に優れる導電層(金属微粒子焼結層)を形成することができる。
【0027】
(金属微粒子)
上記金属微粒子は、上述のように銅又は銅合金を主成分とする。上記金属微粒子の平均粒子径D50の下限としては、1nmが好ましく、5nmがより好ましく、10nmがさらに好ましい。一方、上記平均粒子径D50の上限としては、200nmが好ましく、100nmがより好ましい。上記平均粒子径D50が上記下限に満たないと、分散媒中における金属微粒子の分散性及び安定性が低下するおそれがある。逆に、上記平均粒子径D50が上記上限を超えると、当該導電層形成用塗布液を塗布した際の金属微粒子の密度が不均一になり易く、その結果十分に緻密な導電層を形成し難くなるおそれがある。
【0028】
上記金属微粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)による測定に基づいて算出される平均粒子径D50SEMの下限としては、1nmが好ましく、5nmがより好ましく、10nmがさらに好ましい。一方、上記平均粒子径D50SEMの上限としては、250nmが好ましく、150nmがより好ましい。上記平均粒子径D50SEMが上記下限に満たないと、分散媒中における金属微粒子の分散性及び安定性が低下するおそれがある。逆に、上記平均粒子径D50SEMが上記上限を超えると、当該導電層形成用塗布液を塗布した際の金属微粒子の密度が不均一になり易く、その結果十分に緻密な導電層を形成し難くなるおそれがある。なお、「平均粒子径D50SEM」とは、金属微粒子の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、任意に抽出した金属微粒子100個を測長して粒子径の小さい順に体積を積算した際の累積体積が50%となる粒子径をいう。
【0029】
上記金属微粒子の平均粒子径D50に対するこの金属微粒子の走査型電子顕微鏡による測定に基づいて算出される平均粒子径D50SEMの比(D50SEM/D50)の上限としては、2.0が好ましく、1.5がより好ましく、1.3がさらに好ましい。上記比(D50SEM/D50)が上記上限を超えると、個々の金属微粒子の形状が不均一となり易い。その結果、当該導電層形成用塗布液を塗布して形成される導電層表面の平滑性が不十分となるおそれがある。なお、上記比(D50SEM/D50)の下限としては、特に限定されるものではなく、例えば1とすることができる。
【0030】
当該導電層形成用塗布液における上記金属微粒子の含有量の下限としては、20質量%が好ましく、25質量%がより好ましい。一方、上記金属微粒子の含有量の上限としては、80質量%が好ましく、50質量%がより好ましく、35質量%がさらに好ましい。上記金属微粒子の含有量が上記下限に満たないと、十分な厚さ及び密度を有する導電層を形成し難くなるおそれがある。逆に、上記金属微粒子の含有量が上記上限を超えると、上記金属微粒子を分散媒中に均一に分散させ難くなるおそれがある。
【0031】
(分散剤)
上記分散剤としては、上述のようにPEI−PEOグラフト共重合体が用いられる。このPEI−PEOグラフト共重合体は、PEI部分をコアとするデンドリマー構造を有することが好ましい。上記PEI−PEOグラフト共重合体は、分散媒中においてPEI部分の窒素原子を上記金属微粒子側に配位した状態で存在している。上記PEI−PEOグラフト共重合体は、PEI部分の窒素原子を上記金属微粒子側に配位した状態で存在することで、上記金属微粒子の凝集を抑制し、この金属微粒子を分散媒中に均一分散させている。なお、当該導電層形成用塗布液は、上記分散剤としてPEI−PEOグラフト共重合体と共に他の分散剤を含んでいてもよいが、金属微粒子の均一分散性を効果的に向上するためには他の分散剤を含まないことが好ましい。
【0032】
上記PEI−PEOグラフト共重合体のPEI部分の重量平均分子量の下限としては、300であり、400がより好ましい。一方、上記重量平均分子量の上限としては、1,000であり、850がより好ましい。上記重量分子量が上記下限に満たないと、上記金属微粒子の凝集を防止してこの金属微粒子の分散を維持する効果が十分に得られないおそれがあり、その結果十分に緻密な導電層を形成し難くなるおそれがある。逆に、上記重量平均分子量が上記上限を超えると、分散剤の嵩が大きくなり過ぎて、当該導電層形成用塗布液の塗布後に行う加熱処理において、上記金属微粒子同士の焼結を阻害してボイドを生じさせ、その結果緻密かつ抵抗の小さい導電層を形成することが困難になるおそれがある。また、分散剤の嵩が大き過ぎると、分散剤の分解残渣に起因して導電層の導電性が低下するおそれがある。
【0033】
上記PEI−PEOグラフト共重合体のPEI部分の窒素原子に対するPEO鎖のモル比の下限としては、10であり、15がより好ましく、20がさらに好ましい。一方、上記モル比の上限としては、50であり、40がより好ましく、35がさらに好ましい。上記モル比が上記下限に満たないと、上記PEI−PEOグラフト共重合体の分散媒中での分散性が低下するおそれがある。逆に、上記モル比が上記上限を超えると、上記PEI−PEOグラフト共重合体の製造が困難になるおそれがある。
【0034】
上記PEI−PEOグラフト共重合体の重量平均分子量の下限としては、3,000であり、4,000がより好ましく、6,000がさらに好ましい。一方、上記重量平均分子量の上限としては、54,000であり、45,000がより好ましく、35,000がさらに好ましい。上記重量平均分子量が上記下限に満たないと、上記金属微粒子の凝集を防止してこの金属微粒子の分散を維持する効果が十分に得られないおそれがあり、その結果十分に緻密な導電層を形成し難くなるおそれがある。逆に、上記重量平均分子量が上記上限を超えると、分散剤の嵩が大きくなり過ぎて、当該導電層形成用塗布液の塗布後に行う加熱処理において、上記金属微粒子同士の焼結を阻害してボイドを生じさせ、その結果緻密かつ抵抗の小さい導電層を形成することが困難になるおそれがある。また、分散剤の嵩が大き過ぎると、分散剤の分解残渣に起因して導電層の導電性が低下するおそれがある。
【0035】
上記金属微粒子に対する分散剤(PEI−PEOグラフト共重合体)由来の窒素原子の含有割合の下限としては、0.01質量%が好ましく、0.05質量%がより好ましい。一方、上記含有割合の上限としては、10質量%が好ましく、1質量%がより好ましく、0.5質量%がさらに好ましい。上記含有割合が上記下限に満たないと、上記金属微粒子を分散剤によって十分に取り囲むことができず、分散媒中における金属微粒子の凝集を十分に防止することができないおそれがある。逆に、上記含有割合が上記上限を超えると、当該導電層形成用塗布液の塗布後に行う加熱処理において、上記金属微粒子同士の焼結を阻害してボイドを生じさせ、その結果緻密かつ抵抗の小さい導電層を形成することが困難になるおそれがある。
【0036】
(分散媒)
当該導電層形成用塗布液に含有される分散媒としては、特に限定されるものではないが、典型的には水が用いられる。
【0037】
また、上記分散媒は、必要に応じて有機溶媒を含んでもよい。上記有機溶媒としては、水溶性である種々の有機溶媒が使用可能であり、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、エチレングリコール、グリセリン等の多価アルコールやその他のエステル類、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル類等が挙げられる。
【0038】
上記分散媒が有機溶媒を含む場合、当該導電層形成用塗布液における上記有機溶媒の含有量の下限としては、25質量%が好ましく、30質量%がより好ましい。一方、上記有機溶媒の含有量の上限としては、75質量%が好ましく、70質量%がより好ましい。上記有機溶媒の含有量が上記下限に満たないと、上記有機溶媒による粘度調整、蒸気圧調整等の効果が十分に得られないおそれがある。逆に、上記有機溶媒の含有量が上記上限を超えると、水による分散剤の膨潤効果が不十分となり、当該導電層形成用塗布液中で上記金属微粒子の凝集が生じるおそれがある。
【0039】
(その他の成分)
当該導電層形成用塗布液は、塩化物イオンをさらに含むことが好ましい。当該導電層形成用塗布液は、塩化物イオンをさらに含むことで、上記PEI−PEOグラフト共重合体のポリエチレンオキサイド鎖の末端のOH基が電離し難くなる。そのため、当該導電層形成用塗布液が塩化物イオンをさらに含むことで、上記PEI−PEOグラフト共重合体の分散媒中での分散性を向上させて上記金属微粒子の分散性をより高めることができる。
【0040】
当該導電層形成用塗布液に塩化物イオンが含まれる場合、当該導電層形成用塗布液における上記塩化物イオンの含有量の下限としては、0.2g/Lが好ましく、0.5g/Lがより好ましい。一方、上記塩化物イオンの含有量の上限としては、10.0g/Lが好ましく、7.0g/Lがより好ましく、5.0g/Lがさらに好ましい。上記塩化物イオンの含有量が上記下限に満たないと、上記PEI−PEOグラフト共重合体の分散媒中での分散性を十分に向上できないおそれがある。逆に、上記塩化物イオンの含有量が上記上限を超えると、上記金属微粒子同士の焼結を阻害するおそれがある。
【0041】
また、当該導電層形成用塗布液は、上記塩化物イオン以外に、例えばナトリウムイオン等の他の成分を含んでいてもよい。
【0042】
当該導電層形成用塗布液のpHの下限としては、4が好ましく、4.3がより好ましく、4.5がさらに好ましい。一方、上記pHの上限としては、8が好ましく、7がより好ましく、6.5がさらに好ましい。上記pHが上記下限未満であると、上記金属微粒子のゼータ電位の絶対値が十分に高くならず金属微粒子の分散性が低下するおそれがある。逆に、上記pHが上記上限を超えると、上記PEI−PEOグラフト共重合体の分散媒中での分散性が不十分となることで金属微粒子の分散性が低下するおそれがある。
【0043】
当該導電層形成用塗布液の電気伝導率の下限としては、100μS/cmが好ましく、150μS/cmがより好ましく、200μS/cmがさらに好ましい。一方、上記電気伝導率の上限としては、800μS/cmが好ましく、700μS/cmがより好ましく、600μS/cmがさらに好ましい。上記電気伝導率が上記下限に満たないと、金属微粒子が凝集し易くなるおそれがある。逆に、上記電気伝導率が上記上限を超えると、当該導電層形成用塗布液から形成される導電層中に分散剤等の分解残渣が不純物として残存し過ぎる場合があり、その結果この導電層の導電性が低下するおそれがある。なお、「電気伝導率」とは、JIS−K0130:2008に準拠して測定される値をいう。
【0044】
当該導電層形成用塗布液の25℃における粘度の上限としては、100mPa・sが好ましく、30mPa・sがより好ましく、15mPa・sがさらに好ましい。一方、上記粘度の下限としては、1mPa・sが好ましい。上記粘度が上記上限を超えると、塗布性が低下するおそれがある。逆に、上記粘度が上記下限に満たないと、塗膜の成形性が低下するおそれがある。なお、「粘度」とは、JIS−Z8803:2011に準拠して測定した値をいう。
【0045】
<当該導電層形成用塗布液の製造方法>
当該導電層形成用塗布液は、例えば高温処理法、液相還元法、気相法等によって金属微粒子を製造し、この金属微粒子を水洗浄した上、この金属微粒子を上記分散剤(PEI−PEOグラフト共重合体)が分散媒中に所定濃度で含有された溶液中に分散させることで製造することができる。
【0046】
<導電層の製造方法>
次に、図1図4を参照しつつ、上記金属微粒子、分散剤及び分散媒を含有する当該導電層形成用塗布液を用いた導電層の製造方法を説明する。なお、以下では、当該導電層形成用塗布液を用いてプリント配線板用基材の導電層を製造する場合について説明する。
【0047】
当該導電層の製造方法は、当該導電層形成用塗布液を塗布する塗布工程と、塗布後の導電層形成用塗布液を加熱する加熱工程とを備える。また、当該導電層の製造方法は、上記加熱により金属微粒子が焼結して形成される金属微粒子焼結層の外面に金属めっき層を形成する金属めっき層形成工程をさらに備えてもよい。当該導電層の製造方法は、上記金属微粒子の主成分が銅又は銅合金であり、上記分散剤がPEI−PEOグラフト共重合体であり、上記PEI−PEOグラフト共重合体中のPEI部分の重量平均分子量が300以上1,000以下、上記PEI部分の窒素原子に対するPEO鎖のモル比が10以上50以下、上記PEI−PEOグラフト共重合体の重量平均分子量が3,000以上54,000以下である。本実施形態における導電層の製造方法では、上記金属微粒子焼結層及び金属めっき層の積層体が導電層として形成される。
【0048】
当該導電層の製造方法は、分散剤が所定のPEI−PEOグラフト共重合体であることで分散媒中での金属微粒子の分散性及び保存安定性に優れる当該導電層形成用塗布液を用いて導電層を製造する。そのため、当該導電層の製造方法は、緻密性及び平滑性に優れる導電層(金属微粒子焼結層)を形成することができる。また、当該導電層の製造方法は、上記金属微粒子の主成分が銅又は銅合金であることによって、金属微粒子が銀、白金、パラジウム等の貴金属を主成分とする場合に比べて導電層のマイグレーションを抑制することができる。
【0049】
(塗布工程)
上記塗布工程では、図1に示すように、ベースフィルム1の一方側面に当該導電層形成用塗布液を塗布する。
【0050】
ベースフィルム1は絶縁性を有する。ベースフィルム1の主成分としては、例えばポリイミド、液晶ポリマー、フッ素樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等の可撓性を有する合成樹脂、紙フェノール、紙エポキシ、ガラスコンポジット、ガラスエポキシ、テフロン(登録商標)、ガラス基材等のリジッド材、硬質材料と軟質材料とを複合したリジッドフレキシブル材等を挙げられる。中でも、金属酸化物等との結合力が大きいことから、ポリイミドが好ましい。
【0051】
当該導電層形成用塗布液をベースフィルム1の一方側面に塗布する方法としては、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ダイコート法、スリットコート法、ロールコート法、ディップコート法等の従来公知の塗布法を用いることができる。また、スクリーン印刷、ディスペンサ等によりベースフィルム1の一方側面の一部のみに当該導電層形成用塗布液を塗布するようにしてもよい。当該導電層形成用塗布液の塗布後、例えば室温以上の温度で乾燥することによって金属微粒子2を含有する塗膜3が形成される。乾燥温度の上限としては、100℃が好ましく、40℃がより好ましい。乾燥温度が上記上限を超えると、塗膜3の急激な乾燥により、塗膜3に裂け目が発生するおそれがある。
【0052】
塗膜3の平均厚さ(当該導電層形成用塗布液を1回塗布した場合の平均厚さ)の下限としては、0.1μmが好ましく、0.2μmがより好ましい。一方、塗膜3の平均厚さの上限としては、0.5μmが好ましく、0.4μmがより好ましい。塗膜3の平均厚さが上記下限に満たないと、後述する加熱工程によって得られる金属微粒子焼結層4の厚さを十分に厚くできないおそれがある。逆に、塗膜3の平均厚さが上記上限を超えると、塗膜3における金属微粒子の密度が不均一になり易く、その結果十分に緻密な金属微粒子焼結層4を形成し難くなるおそれがある。なお、「平均厚さ」とは、塗膜における金属微粒子の存在部分の厚さを蛍光X線によって測定した平均値をいう。また、上記平均値は、例えば10cm当たり1箇所の割合で10箇所の厚さを測定し、この10箇所の厚さを平均することで求めることができる。
【0053】
塗膜3の表面粗さSaの上限としては、0.12μmが好ましく、0.08μmがより好ましい。塗膜3の表面粗さSaが上記上限を超えると、十分に緻密な金属微粒子焼結層4を形成し難くなるおそれがある。一方、塗膜3の表面粗さSaの下限としては、特に限定されるものではなく、例えば0.01μmとすることができる。なお、「表面粗さSa」とは、ISO25178に準拠した値をいう。
【0054】
(加熱工程)
上記加熱工程では、図2に示すように、塗膜3を焼成することで金属微粒子焼結層4を形成する。上記加熱工程では、塗膜3の焼成によって金属微粒子2同士を焼結すると共に、金属微粒子2の焼結体をベースフィルム1の一方側面に固着させる。なお、塗膜3に含まれる分散剤等やその他の有機物はこの焼成によってほぼ全量が揮発又は分解される。
【0055】
また、金属微粒子焼結層4のベースフィルム1との界面近傍では、加熱によって金属微粒子が酸化して、この金属微粒子の金属に基づく金属水酸化物又はその金属水酸化物に由来する基の生成を抑えつつ、上記金属に基づく金属酸化物又はその金属酸化物に由来する基が生成される。具体的には、金属微粒子として銅を用いた場合、金属微粒子焼結層4のベースフィルム1との界面近傍に酸化銅及び水酸化銅が生成するが、酸化銅の方が多く生成する。この金属微粒子焼結層4の界面近傍に生成した酸化銅は、例えばベースフィルム1の主成分として含まれるポリイミドと強く結合するため、金属微粒子焼結層4とベースフィルム1との間の密着力が大きくなる。
【0056】
上記加熱工程は、一定量の酸素が含まれる雰囲気下で行う。加熱処理時の雰囲気の酸素濃度の下限としては、1ppmが好ましく、10ppmがより好ましい。一方、上記酸素濃度の上限としては、10,000ppmが好ましく、1,000ppmがより好ましい。上記酸素濃度が上記下限に満たないと、金属微粒子焼結層4の界面近傍における酸化銅の生成量が少なくなり、金属微粒子焼結層4とベースフィルム1との密着力が十分に得られないおそれがある。一方、上記酸素濃度が上記上限を超えると、金属微粒子が過剰に酸化してしまい金属微粒子焼結層4の導電性が低下するおそれがある。
【0057】
加熱温度の下限としては、150℃が好ましく、200℃がより好ましい。一方、加熱温度の上限としては、500℃が好ましく、400℃がより好ましい。加熱温度が上記下限に満たないと、金属微粒子焼結層4の界面近傍における酸化銅の生成量が少なくなり、金属微粒子焼結層4とベースフィルム1との密着力が十分に得られないおそれがある。逆に、加熱温度が上記上限を超えると、ベースフィルム1がポリイミド等の有機樹脂の場合にベースフィルム1が変形するおそれがある。
【0058】
(金属めっき層形成工程)
上記金属めっき層形成工程は、第1金属めっき層形成工程と、第2金属めっき層形成工程とを有する。
【0059】
(第1金属めっき層形成工程)
上記第1金属めっき層形成工程では、図3に示すように、金属微粒子焼結層4の外面(一方側面)に第1金属めっき層5を形成する。具体的には、上記第1金属めっき層形成工程では、金属微粒子焼結層4の空隙をめっき金属で充填すると共に、このめっき金属を金属微粒子焼結層4の一方側面に積層する。当該導電層の製造方法は、上記第1金属めっき層形成工程を有することによって、導電層とベースフィルム1との密着力を高めることができる。
【0060】
第1金属めっき層5を形成するためのめっき方法は、特に限定されず、無電解めっきであっても電気めっきであってもよいが、金属微粒子焼結層4を形成する金属微粒子間の空隙をより的確に埋めることで、金属微粒子焼結層4及びベースフィルム1の剥離強度を容易かつ確実に向上できる無電解めっきが好ましい。
【0061】
上記無電解めっきを採用する場合の手順は特に限定されず、例えばクリーナ工程、水洗工程、酸処理工程、水洗工程、プレディップ工程、アクチベータ工程、水洗工程、還元工程、水洗工程等の処理と共に、公知の手段で無電解めっきを行えばよい。
【0062】
上記電気めっきを採用する場合についても、手順は特に限定されず、例えば公知の電解めっき浴及びめっき条件から適宜選択すればよい。
【0063】
また、金属微粒子焼結層4の空隙をめっき金属で充填した後、さらに熱処理を行うことが好ましい。この熱処理により、金属微粒子焼結層4とベースフィルム1との界面近傍における酸化銅がさらに増加するため、金属微粒子焼結層4とベースフィルム1との間の密着力をより向上させることができる。
【0064】
(第2金属めっき層形成工程)
上記第2金属めっき層形成工程では、図4に示すように、第1金属めっき層5の外面(一方側面)に第2金属めっき層6を形成する。当該導電層の製造方法は、上記第2金属めっき層形成工程を有することによって、導電層の厚さを容易かつ確実に調整することができる。
【0065】
第2金属めっき層6を形成するためのめっき方法は、特に限定されるものではなく、無電解めっきであっても電気めっきであってもよいが、厚さの調整を容易かつ正確に行うことができると共に、比較的短時間で第2金属めっき層6を形成することができる電気めっきが好ましい。
【0066】
上記無電解めっきを採用する場合の手順は特に限定されず、上述の第1金属めっき層5を形成する場合と同様の手順で行うことができる。また、上記電気めっきを採用する場合についても、手順は特に限定されず、上述の第1金属めっき層5を形成する場合と同様の手順で行うことができる。
【0067】
なお、当該導電層の製造方法で製造された導電層は、パターニングによりベースフィルム1の一方の面に積層される導電パターンとして形成される。これにより、ベースフィルム1及びベースフィルム1の一方の面に積層される導電パターンを備えるプリント配線板が製造される。
【0068】
<導電層>
当該導電層は、上述の当該導電層の製造方法によって得られる。当該導電層は、金属微粒子の焼結体(金属微粒子焼結層4)を含む。この金属微粒子は銅又は銅合金を主成分とする。また、金属微粒子焼結層4は、PEI−PEOグラフト共重合体由来の残存物を含み、上記PEI−PEOグラフト共重合体の中のPEI部分の重量平均分子量が300以上1,000以下、上記PEI部分の窒素原子に対するPEO鎖のモル比が10以上50以下、上記PEI−PEOグラフト共重合体の重量平均分子量が3,000以上54,000以下である。
【0069】
当該導電層は、金属微粒子の焼結体が所定のPEI−PEOグラフト共重合体を含んでいる。つまり、当該導電層は、このPEI−PEOグラフト共重合体を含むことで塗布液中において均一分散された金属微粒子を焼結して形成されている。そのため、当該導電層は、緻密性及び平滑性に優れる。
【0070】
[その他の実施形態]
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0071】
例えば、当該導電層形成用塗布液は、必ずしもプリント配線板用基材を形成するために用いられる必要はない。また、当該導電層の製造方法は、必ずしもプリント配線板用基材の導電層の製造方法として実施される必要はない。
【0072】
当該導電層の製造方法は、プリント配線板用基材の導電層の製造方法として実施される場合であっても、必ずしも金属めっき層形成工程を備える必要はない。また、当該導電層の製造方法は、例えば上述の塗布工程及び加熱工程を複数回行うことで導電層を製造してもよい。さらに、当該導電層の製造方法は、金属めっき層形成工程を備える場合でも、必ずしも第1金属めっき層形成工程及び第2金属めっき層形成工程を共に備える必要はなく、第1金属めっき層形成工程のみを備えていてもよい。加えて、当該導電層の製造方法は、ベースフィルムの一方側面にのみ導電層を形成する必要はなく、ベースフィルムの両側面に導電層を形成してもよい。
【0073】
当該導電層は、必ずしも金属めっき層を備える必要はなく、金属微粒子の焼結体(金属微粒子焼結層)のみから構成されてもよい。また、当該導電層は、金属めっき層を備える場合でも、第1めっき層及び第2めっき層を共に備える必要はなく、第1めっき層のみを備えていてもよい。
【実施例】
【0074】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0075】
[実施例]
[No.1]
還元剤としての三塩化チタン溶液80g(0.1M)、pH調整剤としての炭酸ナトリウム50g、錯化剤としてのクエン酸ナトリウム90g、及び分散剤としてのPEI−PEOグラフト共重合体1gをビーカー内で純水1Lに溶解させ、この水溶液を35℃に保温した。また、この水溶液に同温度(35℃)で保温した硝酸銅三水和物10g(0.04M)の水溶液を添加し撹拌させることで銅微粒子を析出させた。さらに、遠心分離により分離した銅微粒子に対し、200mLの純水による洗浄工程を2回繰り返した上、この銅微粒子を乾燥させることで粉末状の銅微粒子を得た。この銅微粒子の平均粒子径D50は30nmであった。続いて、この粉末状の銅微粒子に純水を加えて濃度調整を行うことで、銅微粒子の含有割合が30質量%である導電層形成用塗布液を製造した。この導電層形成用塗布液に含まれるPEI−PEOグラフト共重合体のPEI部分の重量平均分子量(Mw)、PEI部分の窒素原子に対するPEO鎖のモル比、上記PEI−PEOグラフト共重合体の重量平均分子量(Mw)を表1に示す。また、この導電層形成用塗布液のpH、金属微粒子に対する分散剤(PEI−PEOグラフト共重合体)由来の窒素原子の含有割合、塩化物イオンの含有量を表1に示す。さらに、この導電層形成用塗布液300μLを親水化処理を行ったポリイミドフィルム(10cm角)上にバーコート法により塗布して塗膜を形成した。そして、この塗膜を250℃で焼成することで金属微粒子の焼結体からなる導電層を形成した。
【0076】
なお、上記「平均粒子径D50」は、マイクロトラック・ベル株式会社製の粒度分布系「Nanotrac Wave−EX150」を用い、体積累積分布から算出される平均粒子径D50によって測定した。
【0077】
また、上記「重量平均分子量(Mw)」は、以下の測定条件によって測定した。
測定装置:東ソー社の「HLC−8220GPC」
カラム:GMH−HR−H
移動相:N−メチル−2−ピロリドン
カラム温度:40℃
流速:0.5mL/分
試料濃度:1.0質量%
試料注入量:10μL
検出器:示差屈折計
標準物質:単分散ポリスチレン
【0078】
また、上記「金属微粒子に対する分散剤由来の窒素原子の含有割合」は、酸素循環法による全窒素分析によって測定した。
【0079】
[No.2〜No.11]
銅微粒子の平均粒子径D50、導電層形成用塗布液に含まれるPEI−PEOグラフト共重合体のPEI部分の重量平均分子量(Mw)、PEI部分の窒素原子に対するPEO鎖のモル比、PEI−PEOグラフト共重合体の重量平均分子量(Mw)、銅微粒子の含有割合、導電層形成用塗布液のpH、金属微粒子に対する分散剤由来の窒素原子の含有割合及び塩化物イオンの含有量が表1の通りである導電層形成用塗布液を製造した。なお、No.2〜No.11では、導電層形成用塗布液における分散剤の濃度を調整するために純水(分散媒)中に適宜PEI−PEOグラフト共重合体を添加した以外はNo.1と同様の方法で導電層形成用塗布液を製造した。これらの導電層形成用塗布液300μLをそれぞれ親水化処理を行ったポリイミドフィルム(10cm角)上にバーコート法により塗布して塗膜を形成した。さらに、これらの塗膜を250℃で焼成することで金属微粒子の焼結体からなる導電層を形成した。
【0080】
[比較例]
[No.12〜No.15]
銅微粒子の平均粒子径D50、導電層形成用塗布液に含まれるPEI−PEOグラフト共重合体のPEI部分の重量平均分子量(Mw)、PEI部分の窒素原子に対するPEO鎖のモル比、PEI−PEOグラフト共重合体の重量平均分子量(Mw)、銅微粒子の含有割合、導電層形成用塗布液のpH、金属微粒子に対する分散剤由来の窒素原子の含有割合及び塩化物イオンの含有量が表1の通りである導電層形成用塗布液を製造した。なお、No.12〜No.15では、導電層形成用塗布液における分散剤の濃度を調整するために純水(分散媒)中に適宜PEI−PEOグラフト共重合体を添加した以外はNo.1と同様の方法で導電層形成用塗布液を製造した。これらの導電層形成用塗布液300μLをそれぞれ親水化処理を行ったポリイミドフィルム(10cm角)上にバーコート法により塗布して塗膜を形成した。さらに、これらの塗膜を250℃で焼成することで金属微粒子の焼結体からなる導電層を形成した。
【0081】
【表1】
【0082】
<平均粒子径D50SEM
金属微粒子の表面を100k〜300k倍の倍率で走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察し、任意に抽出した金属微粒子100個を測長して粒子径の小さい順に体積を積算した際の累積体積が50%となる粒子径[nm]を測定した。この測定結果を表2に示す。
【0083】
<表面粗さ>
株式会社キーエンス製のレーザー電子顕微鏡「VK−X150」を用い、対物レンズ100倍、デジタルズーム1倍で、塗膜の表面を観察し、高さカットレベル90として30×30μmの範囲を分析し、ISO25178に準拠して表面粗さSa[μm]を測定した。この測定結果を表2に示す。
【0084】
<比抵抗値>
株式会社三菱化学アナリテック製の「ロレスタGP MCP−T610型」を用い、JIS−K7194:1994に準拠して導電層の比抵抗値[μΩ・cm]を測定した。この測定結果を表2に示す。なお、この比抵抗値の上限値は10,000[μΩ・cm]である。
【0085】
【表2】
【0086】
[評価結果]
表1及び表2に示すように、No.1〜No.11は、PEI−PEOグラフト共重合体のPEI部分の重量平均分子量(Mw)、PEI部分の窒素原子に対するPEO鎖のモル比及びPEI−PEOグラフト共重合体の重量平均分子量(Mw)が適切に調整されているので、導電層形成用塗布液中での金属微粒子の凝集が抑制されており、その結果金属微粒子の平均粒子径D50に対する平均粒子径D50SEMの比が低く抑えられていることが分かる。また、No.1〜No.11は、金属微粒子の平均粒子径D50SEMが小さく抑えられると共に、導電層形成用塗布液中での金属微粒子の均一分散性に優れているので、表面粗さが十分に小さい緻密な塗膜が得られ、これにより緻密な導電層が得られていることが分かる。特に、PEI−PEOグラフト共重合体のPEI部分の重量平均分子量(Mw)、PEI部分の窒素原子に対するPEO鎖のモル比及びPEI−PEOグラフト共重合体の重量平均分子量(Mw)が十分に調整されると共に、金属微粒子の平均粒子径D50が十分に小さく、平均粒子径D50に対する平均粒子径D50SEMの比が十分に低いNo.1、No.3、No.5、No.6及びNo.11は、均一で微小な金属微粒子が導電層形成用塗布液中に均一分散されているので、得られる塗膜の表面粗さが特に小さく抑えられており、導電層の比抵抗値も低くなっていることが分かる。
【0087】
これに対し、No.12は、PEI−PEOグラフト共重合体のPEI部分の重量平均分子量(Mw)が小さいので、導電層形成用塗布液中での金属微粒子の凝集が促進され、この金属微粒子の平均粒子径D50に対する平均粒子径D50SEMの比が大きくなっている。そのため、No.12は、塗膜の緻密性が不十分となり塗膜の表面粗さが大きくなることで、導電層の緻密さが不十分となり導電層の比抵抗値が高くなっている。また、No.13は、PEI部分の窒素原子に対するPEO鎖のモル比が低いと共に、PEI−PEOグラフト共重合体の重量平均分子量(Mw)が小さいので、導電層形成用塗布液中での金属微粒子の凝集が促進され、この金属微粒子の平均粒子径D50に対する平均粒子径D50SEMの比が大きくなっている。そのため、No.13は、塗膜の緻密性が不十分となり塗膜の表面粗さが大きくなることで、導電層の緻密さが不十分となり導電層の比抵抗値が高くなっている。
【0088】
また、No.14は、PEI部分の窒素原子に対するPEO鎖のモル比が低いので、PEI−PEOグラフト共重合体の導電層形成用塗布液中での分散性が低下し、これにより導電層形成用塗布液中での金属微粒子の凝集を十分に抑制することができず、金属微粒子の平均粒子径D50に対する平均粒子径D50SEMの比が大きくなっている。そのため、No.14は、塗膜の緻密性が不十分となり塗膜の表面粗さが大きくなることで、導電層の緻密さが不十分となり導電層の比抵抗値が高くなっている。さらに、No.15は、PEI−PEOグラフト共重合体のPEI部分の重量平均分子量(Mw)が大きいので、分散剤の嵩が大きくなり過ぎて導電層形成時に金属微粒子同士の焼結が阻害されている。そのため、No.15は、導電層の緻密性が不十分となり比抵抗値も高くなっている。
【符号の説明】
【0089】
1 ベースフィルム
2 金属微粒子
3 塗膜
4 金属微粒子焼結層
5 第1金属めっき層
6 第2金属めっき層
図1
図2
図3
図4