【文献】
World Journal of Microbiology and Biotechnology,2011年,vol. 27,p. 2969-2979
【文献】
Eukaryot Cell,2003年,vol. 2, no. 2,p. 284-294
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記誘導体が、メチル−α−シクロデキストリン、メチル−β−シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル−α−シクロデキストリン、およびヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンからなる群より選択される、請求項2に記載の方法。
前記目的物質が、フィトスフィンゴシン(PHS)、スフィンゴシン、6−ヒドロキシスフィンゴシン、スフィンガニン(DHS)、テトラアセチルフィトスフィンゴシン(TAPS)、トリアセチルフィトスフィンゴシン、ジアセチルフィトスフィンゴシン、フィトセラミド、ジヒドロセラミド、6−ヒドロキシセラミド、およびグルコシルセラミドからなる群より選択される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
前記目的物質が、フィトスフィンゴシン(PHS)、スフィンガニン(DHS)、テトラアセチルフィトスフィンゴシン(TAPS)、フィトセラミド、およびグルコシルセラミドからなる群より選択される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
前記フィトスフィンゴシンが、C16 PHS、C18 PHS、C20 PHS、C18:1 PHS、C20:1 PHS、4−(ヒドロキシメチル)−2−メチル−6−テトラデカニル−1,3−オキサジナン−5−オール、および4−(ヒドロキシメチル)−2−メチル−6−ヘキサデカニル−1,3−オキサジナン−5−オールからなる群より選択される、請求項5に記載の方法。
前記酵母が、LCB1、LCB2、TSC10、SUR2、SLI1、ATF2、LAG1、LAC1、LIP1、およびUGCG遺伝子にコードされるタンパク質から選択される1種またはそれ以上のタンパク質の発現および/または活性が増大するように改変されている、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
前記酵母が、LCB4、LCB5、ELO3、CKA2、ORM2、CHA1、およびYPC1遺伝子にコードされるタンパク質から選択される1種またはそれ以上のタンパク質の発現および/または活性が低下するように改変されている、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
前記1種またはそれ以上のタンパク質の活性が、該タンパク質をコードする遺伝子の発現を弱化させることにより、または該タンパク質をコードする遺伝子を破壊することにより、低下した、請求項9に記載の方法。
前記酵母が、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)またはピチア・シフェリイ(Pichia ciferrii)(ウィッカーハモマイセス・シフェリイ(Wickerhamomyces ciferrii))である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の方法は、目的物質の製造方法であって、目的物質との会合、目的物質との結合、目的物質の可溶化、および/または目的物質の捕捉が可能な添加剤を含有する培地で目的物質を生産する能力を有する酵母を培養すること、および前記酵母の菌体および/または前記培地から目的物質を回収することを含む方法である。本発明の方法に用いられる酵母を、「本発明の酵母」ともいう。
【0010】
<1>本発明の酵母
本発明の酵母は、目的物質を生産する能力を有する酵母である。「目的物質を生産する能力」を、「目的物質生産能」ともいう。
【0011】
<1−1>目的物質生産能を有する酵母
本発明において、「目的物質生産能を有する酵母」とは、培地で培養したときに、目的物質を生成し、回収できる程度に培地中および/または菌体内に蓄積することができる酵母をいう。培地は、本発明の方法で用いることができる培地であってよく、特に、目的物質との会合、目的物質との結合、目的物質の可溶化、および/または目的物質の捕捉が可能な添加剤を含有する培地であってよい。目的物質生産能を有する酵母は、非改変株よりも多い量の目的物質を培地中および/または菌体内に蓄積することができる酵母であってよい。「非改変株」とは、目的物質生産能が付与または増強されるように改変されていない対照株であってよい。すなわち、非改変株としては、野生株や親株、例えば、Saccharomyces cerevisiae BY4742株(ATCC 201389; EUROSCARF Y10000)、S288C株(ATCC 26108)、NCYC 3608株が挙げられる。また、目的物質生産能を有する酵母は、好ましくは5 mg/L以上、より好ましくは10 mg/L以上の量の目的物質を培地に蓄積することができる酵母であってもよい。
【0012】
本発明において、目的物質は、スフィンゴイド塩基およびスフィンゴ脂質からなる群より選択される。
【0013】
「スフィンゴイド塩基」とは、長鎖アルキル鎖を有する化合物であって、該長鎖アルキル鎖が、アミノ基をC2位に、1つまたはそれ以上のヒドロキシル基を一般的にはC1位および/またはC3位に、それぞれ有しており、それらアミノ基およびヒドロキシル基の1つまたはそれ以上がアセチル化されていてもよい化合物をいう。スフィンゴイド塩基としては、フィトスフィンゴシン(phytosphingosine;PHS)、スフィンゴシン(sphingosine)、スフィンガジエニン(sphingadienine)、6−ヒドロキシスフィンゴシン(6-hydroxysphingosine)、スフィンガニン(sphinganine)(別名:ジヒドロスフィンゴシン(dihydrosphingosine);DHS)、およびそれらのアセチル化誘導体が挙げられる。アセチル化誘導体としては、テトラアセチルフィトスフィンゴシン(tetraacetylphytosphingosine;TAPS)、トリアセチルフィトスフィンゴシン(triacetylphytosphingosine)、ジアセチルフィトスフィンゴシン(diacetylphytosphingosine)、O−アセチルフィトスフィンゴシン(O-acetylphytosphingosine)、N−アセチルフィトスフィンゴシン(N-acetylphytosphingosine)、トリアセチルスフィンガニン(triacetylsphinganine)、ジアセチルスフィンガニン(diacetylsphinganine)、O−アセチルスフィンガニン(O-acetylsphinganine)、N−アセチルスフィンガニン(N-acetylsphinganine)、トリアセチルスフィンゴシン(triacetylsphingosine)、ジアセチルスフィンゴシン(diacetylsphingosine)、O−アセチルスフィンゴシン(O-acetylsphingosine)、N−アセチルスフィンゴシン(N-acetylsphingosine)、テトラアセチル−6−ヒドロキシスフィンゴシン(tetraacetyl-6-hydroxysphingosine)、トリアセチル−6−ヒドロキシスフィンゴシン(triacetyl-6-hydroxysphingosine)、ジアセチル−6−ヒドロキシスフィンゴシン(diacetyl-6-hydroxysphingosine)、O−アセチル−6−ヒドロキシスフィンゴシン(O-acetyl-6-hydroxysphingosine)、N−アセチル−6−ヒドロキシスフィンゴシン(N-acetyl-6-hydroxysphingosine)、トリアセチルスフィンガジエニン(triacetylsphingadienine)、ジアセチルスフィンガジエニン(diacetylsphingadienine)、O−アセチルスフィンガジエニン(O-acetylsphingadienine)が挙げられる。スフィンゴイド塩基を構成するアルキル鎖の長さや不飽和度は、可変である。アルキル鎖の長さは、例えば、C16、C18、またはC20であってよい。アルキル鎖は、1つまたはそれ以上の不飽和二重結合を有していてよい。すなわち、スフィンゴイド塩基としては、上記例示したスフィンゴイド塩基の、長さおよび/または不飽和度が異なる上記のようなバリアント種も挙げられる。「フィトスフィンゴシン(PHS)」とは、PHSの典型種であるC18 PHSを意味してもよく、PHSの上記のようなバリアント種、例えば、飽和C16アルキル鎖を有するC16 PHS、飽和C18アルキル鎖を有するC18 PHS、飽和C20アルキル鎖を有するC20 PHS、不飽和二重結合を1つ含むC18アルキル鎖を有するC18:1 PHS、不飽和二重結合を1つ含むC20アルキル鎖を有するC20:1 PHS、を総称してもよい。「フィトスフィンゴシン(PHS)」には、PHSの付加体、例えば、4−(ヒドロキシメチル)−2−メチル−6−テトラデカニル−1,3−オキサジナン−5−オール(4-(hydroxymethyl)-2-methyl-6-tetradecanyl-1,3-oxazinan-5-ol)や4−(ヒドロキシメチル)−2−メチル−6−ヘキサデカニル−1,3−オキサジナン−5−オール(4-(hydroxymethyl)-2-methyl-6-hexadecanyl-1,3-oxazinan-5-ol)(これらはそれぞれC18 PHSおよびC20 PHSとアセトアルデヒドとの反応により生じ得る)、も包含されてよい。同様に、「スフィンガニン(DHS)」とは、DHSの典型種であり飽和C18アルキル鎖を有するC18
DHSを意味してもよく、DHSの上記のようなバリアント種を総称してもよい。このようなバリアント種についての記載は、他のスフィンゴイド塩基にも準用できる。
【0014】
「スフィンゴ脂質」とは、N−アシルスフィンゴイド塩基部位を含む化合物、すなわち、アミド結合を介して脂肪酸に共有結合したスフィンゴイド塩基部位を含む化合物をいう。スフィンゴ脂質としては、セラミド(ceramide)、グルコシルセラミド(glucosylceramide)(別名:セレブロシド(cerebroside))、イノシトールホスホリルセラミド(ino
sitol phosphorylceramide)、マンノシルイノシトールホスホリルセラミド(mannosylinositol phosphorylceramide)、マンノシルジイノシトールホスホリルセラミド(mannosyldiinositol phosphorylceramide)が挙げられる。セラミドとしては、PHSのセラミドに相当するフィトセラミド(phytoceramide)、DHSのセラミドに相当するジヒドロセラミド(dihydroceramide)、6−ヒドロキシスフィンゴシンのセラミドに相当する6−ヒドロキシセラミド(6-hydroxyceramide)が挙げられる。スフィンゴ脂質を構成するアシル鎖の長さや不飽和度は、可変である。アシル鎖の長さは、例えば、C14、C16、C18、C20、C22、C24、C26等のC14〜C26であってよい。アシル鎖は、1つまたはそれ以上の不飽和二重結合を有していてよい。アシル鎖は、1つまたはそれ以上の官能基、例えば水酸基、を有していてもよい。
【0015】
目的物質が塩の形態を取り得る場合、製造される目的物質は、フリー体、その塩、またはそれらの混合物であってよい。すなわち、本発明において、「目的物質」という用語は、フリー体の目的物質、その塩、またはそれらの混合物を意味してよい。塩としては、例えば、硫酸塩、塩酸塩、炭酸塩等の無機酸の塩や、乳酸塩、グリコール酸塩等の有機酸の塩が挙げられる(Acta Derm Venereol. 2002;82(3):170-3.)。目的物質の塩としては、1種の塩を用いてもよく、2種またはそれ以上の塩を用いてもよい。
【0016】
酵母は、本発明の方法に用いることができるものであれば特に制限されない。酵母は出芽酵母であってもよく、分裂酵母であってもよい。酵母は、一倍体の酵母であってもよく、二倍体またはそれ以上の倍数性の酵母であってもよい。
【0017】
酵母としては、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等のサッカロマイセス属、ピチア・シフェリイ(Pichia ciferrii)、ピチア・シドウィオラム(Pichia sydowiorum)、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)等のピヒア属(ウィッカーハモマイセス(Wickerhamomyces)属ともいう)、キャンディダ・ユティリス(Candida
utilis)等のキャンディダ属、ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)等のハンゼヌラ属、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等のシゾサッカロマイセス属に属する酵母が挙げられる。Pichia属のいくつかの種は、Wickerhamomyces属(Int J Syst Evol Microbiol. 2014 Mar;64(Pt 3):1057-61)に再分類されている。よって、例えば、Pichia ciferriiおよびPichia sydowiorumは、それぞれ、Wickerhamomyces ciferriiおよびWickerhamomyces sydowiorumとも呼ばれる。本発明において、「Pichia」には、かつてPichia属に分類されていた種であって、Wickerhamomyces等の他の属に再分類されたものも包含されるものとする。
【0018】
Saccharomyces cerevisiaeとして、具体的には、BY4742株(ATCC 201389; EUROSCARF Y10000)、S288C株(ATCC 26108)、Y006株(FERM BP-11299)、NCYC 3608株、およびそれらの派生株が挙げられる。Pichia ciferrii(Wickerhamomyces ciferrii)として、具体的には、NRRL Y-1031株(ATCC 14091)、CS.PCΔPro2株(Schorsch et al., 2009, Curr Genet. 55, 381-9.)、WO95/12683に開示された株、およびそれらの派生株が挙げられる。Pichia sydowiorum(Wickerhamomyces sydowiorum)として、具体的には、NRRL Y-7130株(ATCC 58369)やその派生株が挙げられる。
【0019】
これらの菌株は、例えば、American Type Culture Collection(ATCC, Address: 12301
Parklawn Drive, Rockville, Maryland 20852, P.O. Box 1549, Manassas, VA 20108, United States of America)、EUROpean Saccharomyces Cerevisiae ARchive for Functional Analysis(EUROSCARF, Address: Institute for Molecular Biosciences, Johann Wolfgang Goethe-University Frankfurt, Max-von-Laue Str. 9; Building N250, D-60438 Frankfurt, Germany)、National Collection of Yeast Cultures(NCYC, Address: Institute of Food Research, Norwich Research Park, Norwich, NR4 7UA, UK)、または各
寄託株に対応する寄託機関から入手することができる。すなわち、例えば、ATCC株の場合、各菌株に対応する登録番号が付与されており、この登録番号を利用して注文することができる(http://www.atcc.org/参照)。各菌株に対応する登録番号は、American Type Culture Collectionのカタログに記載されている。
【0020】
本発明の酵母は、本来的に目的物質生産能を有するものであってもよく、目的物質生産能を有するように改変されたものであってもよい。目的物質生産能を有する酵母は、上記のような酵母に目的物質生産能を付与することにより、または、上記のような酵母の目的物質生産能を増強することにより、取得できる。
【0021】
以下、目的物質生産能を付与または増強する方法について具体的に例示する。目的物質生産能を付与または増強するための改変は、いずれも、単独で用いてもよく、適宜組み合わせて用いてもよい。本発明の酵母を構築するための改変は、任意の順番で実施されてよい。
【0022】
目的物質生産能は、目的物質の生産に関与する1種またはそれ以上のタンパク質の発現および/または活性が増大または低下するように酵母を改変することにより、付与または増強することができる。すなわち、本発明の酵母は、目的物質の生産に関与する1種またはそれ以上のタンパク質の発現および/または活性が増大または低下するように改変されていてよい。「タンパク質」には、ポリペプチド等の、いわゆるペプチドも包含される。目的物質の生産に関与するタンパク質としては、目的物質の合成を触媒する酵素(以下、「目的物質の生合成酵素」ともいう)、目的物質の生合成経路から分岐して目的物質以外の化合物を生成する反応を触媒する酵素(以下、「副生物の生合成酵素」ともいう)、目的物質の分解を触媒する酵素(以下、「目的物質の分解酵素」ともいう)、およびそのような酵素の活性に影響する(例えば増大または低下させる)タンパク質が挙げられる。
【0023】
発現および/または活性を増大または低下させるタンパク質は、目的物質の種類や、目的物質の生産に関与するタンパク質および本発明の酵母が本来的に有するタンパク質の種類や活性に応じて適宜選択することができる。例えば、好ましくは、目的物質の生合成酵素から選択される1種またはそれ以上のタンパク質の発現および/または活性を増大させてよい。また、好ましくは、副生物の生合成酵素および目的物質の分解酵素から選択される1種またはそれ以上のタンパク質の発現および/または活性を低下させてよい。
【0024】
タンパク質の発現および/または活性を増大または低下させる詳しい方法については後述する。タンパク質の活性は、例えば、同タンパク質をコードする遺伝子の発現を増大させることにより、増大させることができる。タンパク質の活性は、例えば、同タンパク質をコードする遺伝子の発現を弱化させることにより、または同タンパク質をコードする遺伝子を破壊することにより、低下させることができる。遺伝子の発現を、「タンパク質の発現(すなわち、同遺伝子にコードされるタンパク質の発現)」ともいう。このようなタンパク質の発現および/または活性を増大または低下させる方法は、本技術分野においてよく知られている。
【0025】
目的物質の生産に関与するタンパク質として、具体的には、LCB1、LCB2、TSC10、SUR2、SLI1、ATF2、LAG1、LAC1、LIP1、UGCG、LCB4、LCB5、ELO3、CKA2、ORM2、CHA1、およびYPC1遺伝子にコードされるタンパク質が挙げられる。これらの遺伝子を総称して「標的遺伝子」ともいい、これらの遺伝子によってコードされるタンパク質を総称して「標的タンパク質」ともいう。
【0026】
本発明の酵母は、例えば、LCB1、LCB2、TSC10、SUR2、SLI1、ATF2、LAG1、LAC1、LIP1、およびUGCG遺伝子にコードされるタンパク質から選択される1種またはそれ以上のタン
パク質の発現および/または活性が増大するように改変されていてもよく、且つ/又は、LCB4、LCB5、ELO3、CKA2、ORM2、CHA1、およびYPC1遺伝子にコードされるタンパク質から選択される1種またはそれ以上のタンパク質の発現および/または活性が低下するように改変されていてもよい。「LCB1、LCB2、TSC10、SUR2、SLI1、ATF2、LAG1、LAC1、LIP1、およびUGCG遺伝子にコードされるタンパク質から選択される1種またはそれ以上のタンパク質の活性が増大する」とは、具体的には、LCB1、LCB2、TSC10、SUR2、SLI1、ATF2、LAG1、LAC1、LIP1、およびUGCG遺伝子から選択される1種またはそれ以上の遺伝子の発現が増大することを意味してよい。「LCB4、LCB5、ELO3、CKA2、ORM2、CHA1、およびYPC1遺伝子にコードされるタンパク質から選択される1種またはそれ以上のタンパク質の活性が低下する」とは、具体的には、LCB4、LCB5、ELO3、CKA2、ORM2、CHA1、およびYPC1遺伝子から選択される1種またはそれ以上の遺伝子の発現が弱化することを意味してもよく、LCB4、LCB5、ELO3、CKA2、ORM2、CHA1、およびYPC1遺伝子から選択される1種またはそれ以上の遺伝子が破壊されることを意味してもよい。
【0027】
LCB1およびLCB2遺伝子は、セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(serine palmitoyltransferase)をコードする。「セリンパルミトイルトランスフェラーゼ」とは、セリンおよびパルミトイル-CoAからの3−ケトスフィンガニンの合成を触媒する活性を有するタンパク質をいう(EC 2.3.1.50)。同活性を、「セリンパルミトイルトランスフェラーゼ活性」ともいう。LCB1およびLCB2遺伝子にコードされるタンパク質を、それぞれ、「Lcb1p」および「Lcb2p」ともいう。LCB1およびLCB2遺伝子としては、S. cerevisiaeやPichia ciferrii等の酵母のものが挙げられる。S. cerevisiae S288CのLCB1およびLCB2遺伝子の塩基配列を配列番号1および3に、同遺伝子にコードされるLcb1pおよびLcb2pのアミノ酸配列を配列番号2および4に示す。Lcb1pおよびLcb2pは、ヘテロダイマーを形成してセリンパルミトイルトランスフェラーゼとして機能してもよい(Plant Cell. 2006 Dec;18(12):3576-93.)。Lcb1pおよびLcb2pの一方または両方の活性は、例えば、任意の目的物質を製造する場合に増大させてよく、具体的には、PHSやTAPS等のスフィンゴイド塩基を製造する場合に増大させてもよい。Lcb1pおよびLcb2pの一方または両方の活性の増大は、具体的には、セリンパルミトイルトランスフェラーゼ活性の増大を意味してよい。セリンパルミトイルトランスフェラーゼ活性は、例えば、公知の方法(J Biol Chem. 2000 Mar 17;275(11):7597-603.)により測定することができる。
【0028】
TSC10遺伝子は、3−デヒドロスフィンガニンレダクターゼ(3-dehydrosphinganine reductase)をコードする。「3−デヒドロスフィンガニンレダクターゼ」とは、NADPH等の電子供与体の存在下で3−ケトスフィンガニンのジヒドロスフィンゴシン(スフィンガニン)への変換を触媒する活性を有するタンパク質をいう(EC 1.1.1.102)。同活性を、「3−デヒドロスフィンガニンレダクターゼ活性」ともいう。TSC10遺伝子にコードされるタンパク質を、「Tsc10p」ともいう。TSC10遺伝子としては、S. cerevisiaeやPichia ciferrii等の酵母のものが挙げられる。S. cerevisiae S288CのTSC10遺伝子の塩基配列を配列番号5に、同遺伝子にコードされるTsc10pのアミノ酸配列を配列番号6に示す。Tsc10pの活性は、例えば、任意の目的物質を製造する場合に増大させてよく、具体的には、PHSやTAPS等のスフィンゴイド塩基を製造する場合に増大させてもよい。Tsc10pの活性の増大は、具体的には、3−デヒドロスフィンガニンレダクターゼ活性の増大を意味してよい。3−デヒドロスフィンガニンレダクターゼ活性は、例えば、公知の方法(Biochim Biophys Acta. 2006 Jan;1761(1):52-63.)により測定することができる。
【0029】
SUR2(SYR2)遺伝子は、スフィンゴシンヒドロキシラーゼ(sphingosine hydroxylase)をコードする。「スフィンゴシンヒドロキシラーゼ」とは、スフィンゴイド塩基のヒドロキシル化またはセラミドのスフィンゴイド塩基部位のヒドロキシル化を触媒する活性を有するタンパク質をいう(EC 1.-.-.-)。同活性を、「スフィンゴシンヒドロキシラーゼ活性」ともいう。スフィンゴシンヒドロキシラーゼは、例えば、ジヒドロスフィンゴシン
(DHS;スフィンガニン)のヒドロキシル化によるフィトスフィンゴシン(PHS)の形成、DHSを含むセラミド(ジヒドロセラミド)のヒドロキシル化によるPHSを含むセラミド(フィトセラミド)の形成を触媒してよい。SUR2遺伝子にコードされるタンパク質を、「Sur2p」ともいう。SUR2遺伝子としては、S. cerevisiaeやPichia ciferrii等の酵母のものが挙げられる。S. cerevisiae S288CのSUR2遺伝子の塩基配列を配列番号7に、同遺伝子にコードされるSur2pのアミノ酸配列を配列番号8に示す。Pichia ciferriiのSUR2遺伝子の塩基配列を配列番号37に、同遺伝子にコードされるSur2pのアミノ酸配列を配列番号38に示す。Sur2pの活性は、例えば、PHSやフィトセラミドを製造する場合に増大させてよい。Sur2pの活性の増大は、具体的には、スフィンゴシンヒドロキシラーゼ活性の増大を意味してよい。スフィンゴシンヒドロキシラーゼ活性は、例えば、酵素をDHSまたはジヒドロセラミドとインキュベートし、酵素依存的なPHSまたはフィトセラミドの生成を測定することにより、測定することができる。
【0030】
SLI1およびATF2遺伝子はアセチルトランスフェラーゼ(acetyltransferase)をコードする。「アセチルトランスフェラーゼ」とは、アセチル-CoA等のアセチル基供与体の存在下でスフィンゴイド塩基のアセチル化を触媒する活性を有するタンパク質をいう(EC 2.3.1.-)。同活性を、「アセチルトランスフェラーゼ活性」ともいう。SLI1およびATF2遺伝子にコードされるタンパク質を、それぞれ、「Sli1p」および「Atf2p」ともいう。SLI1およびATF2遺伝子としては、S. cerevisiaeやPichia ciferrii等の酵母のものが挙げられる。S. cerevisiae S288CのSLI1およびATF2遺伝子の塩基配列を配列番号9および11に、同遺伝子にコードされるSli1pおよびAtf2pのアミノ酸配列を配列番号10および12に示す。Pichia ciferriiのSLI1(一部)およびATF2遺伝子の塩基配列を配列番号39および42に、実施例で用いたPichia ciferriiのSLI1およびATF2遺伝子の塩基配列(S. cerevisiaeのコドン使用に最適化したもの)を配列番号40および43に、同遺伝子にコードされるSli1pおよびAtf2pのアミノ酸配列を配列番号41および44に示す。Sli1pおよびAtf2pの一方または両方の活性は、例えば、アセチル化の種類に応じて、アセチル化誘導体を製造する場合に増大させてよい。例えば、テトラアセチルフィトスフィンゴシン(TAPS)は、Sli1pとAtf2pの組み合わせによってPHSから合成することができる(Appl Microbiol Biotechnol. 2013 Oct;97(19):8537-46.)。具体的には、Sli1pは最初のPHSのO-およびN-アセチル化を触媒してトリアセチルフィトスフィンゴシンを生成してよく、Atf2pは最後のO-アセチル化を触媒してTAPSを生成してよい(Appl Microbiol Biotechnol. 2013 Oct;97(19):8537-46.)。よって、例えば、目的物質がTAPSである場合、好ましくは、Sli1pとAtf2pの両方の活性を増大させてよい。一方、例えば、目的物質がトリアセチルフィトスフィンゴシンである場合、好ましくは、Sli1pの活性を増大させてよい。Sli1pおよびAtf2pの一方または両方の活性の増大は、具体的には、アセチルトランスフェラーゼ活性の増大を意味してよい。アセチルトランスフェラーゼ活性は、例えば、酵素をスフィンゴイド塩基とインキュベートし、酵素依存的なアセチル化スフィンゴイド塩基の生成を測定することにより、測定することができる。
【0031】
LAG1、LAC1、およびLIP1遺伝子は、セラミドシンターゼ(ceramide synthase)をコードする。「セラミドシンターゼ」とは、スフィンゴイド塩基およびアシル-CoAからのセラミドの合成を触媒する活性を有するタンパク質をいう(EC 2.3.1.24)。同活性を、「セラミドシンターゼ活性」ともいう。LAG1、LAC1、およびLIP1遺伝子にコードされるタンパク質を、それぞれ、「Lag1p」、「Lac1p」、および「Lip1p」ともいう。LAG1、LAC1、およびLIP1遺伝子としては、S. cerevisiaeやPichia ciferrii等の酵母のものが挙げられる。S. cerevisiae S288CのLAG1、LAC1、およびLIP1遺伝子の塩基配列を配列番号13、15、および17に、同遺伝子にコードされるLag1p、Lac1p、およびLip1pのアミノ酸配列を配列番号14、16、および18に示す。LAG1およびLAC1遺伝子は、具体的には、機能的に等価な、セラミドシンターゼの触媒サブユニットをコードする。LIP1遺伝子は、具体的には、セラミドシンターゼの非触媒サブユニットをコードする。非触媒サブユニットLip1pは、触媒
サブユニットLag1pおよびLac1pのそれぞれと結合し、セラミドシンターゼ活性に必須である。Lag1p、Lac1p、およびLip1pのいずれかの活性を単独で増大させてもよく、Lag1pおよびLac1pのいずれか一方の活性をLip1pと組み合わせて増大させてもよく、Lag1pおよびLac1pの両方の活性を増大させてもよく、Lag1p、Lac1p、およびLip1pの全ての活性を増大させてもよい。Lag1p、Lac1p、およびLip1pの1つまたはそれ以上の活性は、例えば、フィトセラミドやグルコシルセラミド等のスフィンゴ脂質を製造する場合に増大させてよい。Lag1p、Lac1p、およびLip1pの1つまたはそれ以上の活性の増大は、具体的には、セラミドシンターゼ活性の増大を意味してよい。セラミドシンターゼ活性は、例えば、公知の方法(Guillas, Kirchman, Chuard, Pfefferli, Jiang, Jazwinski and Conzelman (2001) EMBO J. 20, 2655-2665; Schorling, Vallee, Barz, Reizman and Oesterhelt (2001) Mol. Biol. Cell 12, 3417-3427; Vallee and Riezman (2005) EMBO J. 24, 730-741)により測定することができる。
【0032】
UGCG遺伝子は、UDP-グルコースセラミドグルコシルトランスフェラーゼ(UDP-glucose ceramide glucosyltransferase)をコードする。「UDP-グルコースセラミドグルコシルトランスフェラーゼ」とは、セラミドをグリコシル化してグルコシルセラミドを形成する反応を触媒する活性を有するタンパク質をいう(EC 2.4.1.80)。同活性を、「UDP-グルコースセラミドグルコシルトランスフェラーゼ活性」ともいう。UGCG遺伝子にコードされるタンパク質を、「Ugcgタンパク質」ともいう。UGCG遺伝子としては、ugcg-aおよびugcg-b遺伝子が挙げられる。ugcg-aおよびugcg-b遺伝子にコードされるタンパク質を、それぞれ、「Ugcg-aタンパク質」および「Ugcg-bタンパク質」ともいう。ugcg-aおよびugcg-b遺伝子としては、Xenopus laevis(アフリカツメガエル)のものが挙げられる(Dev Dyn. 2008 Jan;237(1):112-23.)。Xenopus laevisのugcg-aおよびugcg-bのmRNAの塩基配列を配列番号19および21に、同mRNAにコードされるUgcg-aおよびUgcg-bタンパク質のアミノ酸配列を配列番号20および22に示す。Ugcg-aおよびUgcg-bタンパク質の一方または両方の活性は、例えば、グルコシルセラミドを製造する場合に増大させてよい。Ugcg-aおよびUgcg-bタンパク質の一方または両方の活性の増大は、具体的には、UDP-グルコースセラミドグルコシルトランスフェラーゼ活性の増大を意味してよい。UDP-グルコースセラミドグルコシルトランスフェラーゼ活性は、例えば、公知の方法(Dev Dyn. 2008 Jan;237(1):112-23.)により測定することができる。
【0033】
LCB4およびLCB5遺伝子は、スフィンゴイド塩基キナーゼ(sphingoid base kinase)をコードする。「スフィンゴイド塩基キナーゼ」とは、スフィンゴイド塩基のリン酸化によるスフィンゴイド塩基リン酸(sphingoid base phosphate)の形成を触媒する活性を有するタンパク質をいう(EC 2.7.1.91)。同活性を、「スフィンゴイド塩基キナーゼ活性」ともいう。LCB4およびLCB5遺伝子にコードされるタンパク質を、それぞれ、「Lcb4p」および「Lcb5p」ともいう。S. cerevisiae S288CのLCB4およびLCB5遺伝子の塩基配列を配列番号23および25に、同遺伝子にコードされるLcb4pおよびLcb5pのアミノ酸配列を配列番号24および26に示す。これらのうち、Lcb4pが、S. cerevisiaeにおける主要なスフィンゴイド塩基キナーゼである(J Biol Chem. 2003 Feb 28;278(9):7325-34.)。好ましくは、少なくともLcb4pの活性を低下させてよい。Lcb4pおよびLcb5pの一方または両方の活性は、例えば、任意の目的物質を製造する場合に低下させてよく、具体的には、PHSやTAPS等のスフィンゴイド塩基や、フィトセラミドやグルコシルセラミド等のスフィンゴ脂質を製造する場合に低下させてもよい。Lcb4pおよびLcb5pの一方または両方の活性の低下は、具体的には、スフィンゴイド塩基キナーゼ活性の低下を意味してよい。スフィンゴイド塩基キナーゼ活性は、例えば、公知の方法(Plant Physiol. 2005 Feb;137(2):724-37.)により測定することができる。
【0034】
ELO3遺伝子は、脂肪酸エロンガーゼIIIをコードする。「脂肪酸エロンガーゼIII」とは、C18-CoAの伸長によるC20-CoA〜C26-CoAの形成を触媒する活性を有するタンパク質をい
う(EC 2.3.1.199)。同活性を、「脂肪酸エロンガーゼIII活性」ともいう。C26-CoAは、好ましくは、セラミドシンターゼによって触媒されるセラミドの合成に用いられてよい。ELO3遺伝子にコードされるタンパク質を、「Elo3p」ともいう。S. cerevisiae S288CのELO3遺伝子の塩基配列を配列番号27に、同遺伝子にコードされるElo3pのアミノ酸配列を配列番号28に示す。Elo3pの活性は、例えば、PHS等のスフィンゴイド塩基を製造する場合に低下させてよい。Elo3pの活性の低下は、具体的には、脂肪酸エロンガーゼIII活性の低下を意味してよい。脂肪酸エロンガーゼIII活性は、例えば、公知の方法(J Biol Chem. 1997 Jul 11;272(28):17376-84.)により測定することができる。
【0035】
CKA2遺伝子は、カゼインキナーゼ2のアルファダッシュサブユニットをコードする。「カゼインキナーゼ2」とは、セリン/スレオニン選択的なタンパク質のリン酸化を触媒する活性を有するタンパク質をいう(EC 2.7.11.1)。同活性を、「カゼインキナーゼ2活性」ともいう。CKA2遺伝子にコードされるタンパク質を、「Cka2p」ともいう。S. cerevisiae S288CのCKA2遺伝子の塩基配列を配列番号29に、同遺伝子にコードされるCka2pのアミノ酸配列を配列番号30に示す。Cka2pは、CKA1、CKB1、およびCKB2遺伝子産物(すなわち、Cka1p、Ckb1p、およびCkb2p)とヘテロ四量体を形成してカゼインキナーゼ2として機能してもよい。Cka2pは、セラミドシンターゼの完全な活性化のために要求され得る(Eukaryot Cell. 2003 Apr;2(2):284-94.)。Cka2pの活性は、例えば、PHS等のスフィンゴイド塩基を製造する場合に低下させてよい。Cka2pの活性の低下は、具体的には、カゼインキナーゼ2活性の低下を意味してよい。カゼインキナーゼ2活性は、例えば、公知の方法(Gene. 1997 Jun 19;192(2):245-50.)により測定することができる。
【0036】
ORM2遺伝子は、セリンパルミトイルトランスフェラーゼ活性を調節する膜タンパク質をコードする。ORM2遺伝子にコードされるタンパク質を、「Orm2p」ともいう。S. cerevisiae S288CのORM2遺伝子の塩基配列を配列番号31に、同遺伝子にコードされるOrm2pのアミノ酸配列を配列番号32に示す。Orm2pの活性は、例えば、任意の目的物質を製造する場合に低下させてよく、具体的には、PHS等のスフィンゴイド塩基を製造する場合に低下させてもよい。Orm2pの活性の低下は、具体的には、セリンパルミトイルトランスフェラーゼ活性の増大を意味してよい。
【0037】
CHA1遺伝子は、L−セリン/L−スレオニンアンモニアリアーゼ(L-serine/L-threonine ammonia-lyase)をコードする。「L−セリン/L−スレオニンアンモニアリアーゼ」とは、L−セリンおよびL−スレオニンを分解する反応を触媒する活性を有するタンパク質をいう(EC 4.3.1.17およびEC 4.3.1.19)。同活性を、「L−セリン/L−スレオニンアンモニアリアーゼ活性」ともいう。CHA1遺伝子にコードされるタンパク質を、「Cha1p」ともいう。S. cerevisiae S288CのCHA1遺伝子の塩基配列を配列番号33に、同遺伝子にコードされるCha1pのアミノ酸配列を配列番号34に示す。Cha1pの活性は、例えば、任意の目的物質を製造する場合に低下させてよく、具体的には、PHS等のスフィンゴイド塩基や、フィトセラミドやグルコシルセラミド等のスフィンゴ脂質を製造する場合に低下させてもよい。Cha1pの活性の低下は、具体的には、L−セリン/L−スレオニンアンモニアリアーゼ活性の低下を意味してよい。L−セリン/L−スレオニンアンモニアリアーゼ活性は、例えば、公知の方法(Eur J Biochem. 1982 Apr;123(3):571-6.)により測定することができる。
【0038】
YPC1遺伝子は、フィトセラミダーゼをコードする。「フィトセラミダーゼ」とは、フィトセラミドの分解を触媒する活性を有するタンパク質をいう(EC 3.5.1.-)。同活性を、「フィトセラミダーゼ活性」ともいう。YPC1遺伝子にコードされるタンパク質を、「Ypc1p」ともいう。S. cerevisiae S288CのYPC1遺伝子の塩基配列を配列番号35に、同遺伝子にコードされるYpc1pのアミノ酸配列を配列番号36に示す。Ypc1pの活性は、例えば、フィトセラミドやグルコシルセラミド等のスフィンゴ脂質を製造する場合に低下させてよい。Yp
c1pの活性の低下は、具体的には、フィトセラミダーゼ活性の低下を意味してよい。フィトセラミダーゼ活性は、例えば、公知の方法(J Biol Chem. 2000 Mar 10;275(10):6876-84.)により測定することができる。
【0039】
標的遺伝子および標的タンパク質、すなわち、LCB1、LCB2、TSC10、SUR2、SLI1、ATF2、LAG1、LAC1、LIP1、UGCG、LCB4、LCB5、ELO3、CKA2、ORM2、CHA1、およびYPC1遺伝子、並びにそれらにコードされるタンパク質は、上記塩基配列およびアミノ酸配列を有していてよい。「遺伝子またはタンパク質が塩基またはアミノ酸配列を有する」という表現は、遺伝子またはタンパク質が当該塩基またはアミノ酸配列を含む場合、および遺伝子またはタンパク質が当該塩基またはアミノ酸配列からなる場合を包含する。
【0040】
標的遺伝子は、元の機能が維持されている限り、上記例示した各遺伝子のバリアントであってもよい。同様に、標的タンパク質は、元の機能が維持されている限り、上記例示した各タンパク質のバリアントであってもよい。そのような元の機能が維持されたバリアントを「保存的バリアント」という場合がある。「LCB1」、「LCB2」、「TSC10」、「SUR2」、「SLI1」、「ATF2」、「LAG1」、「LAC1」、「LIP1」、「UGCG」、「LCB4」、「LCB5」、「ELO3」、「CKA2」、「ORM2」、「CHA1」、および「YPC1」遺伝子という用語は、それぞれ、上記例示した各遺伝子に加えて、それらの保存的バリアントを包含する。同様に、「Lcb1p」、「Lcb2p」、「Tsc10p」、「Sur2p」、「Sli1p」、「Atf2p」、「Lag1p」、「Lac1p」、「Lip1p」、「Ugcgタンパク質」、「Lcb4p」、「Lcb5p」、「Elo3p」、「Cka2p」、「Orm2p」、「Cha1p」、および「Ypc1p」という用語は、それぞれ、上記例示した各タンパク質に加えて、それらの保存的バリアントを包含するものとする。すなわち、例えば、「LCB1遺伝子」という用語は、上記例示したLCB1遺伝子(例えばS. cerevisiaeのLCB1遺伝子)を包含し、さらに、それらのバリアントも包含する。同様に、例えば、「Lcb1タンパク質」という用語は、上記例示したLcb1タンパク質(例えばS. cerevisiaeのLCB1遺伝子にコードされるタンパク質)を包含し、さらに、それらのバリアントも包含する。保存的バリアントとしては、例えば、上記例示した標的遺伝子および標的タンパク質のホモログや人為的な改変体が挙げられる。遺伝子やタンパク質のバリアントを生成する方法は本技術分野においてよく知られている。
【0041】
「元の機能が維持されている」とは、遺伝子またはタンパク質のバリアントが、元の遺伝子またはタンパク質の機能(例えば活性や性質)に対応する機能(例えば活性や性質)を有することをいう。遺伝子についての「元の機能が維持されている」とは、遺伝子のバリアントが、元の機能が維持されたタンパク質をコードすることをいう。タンパク質についての「元の機能が維持されている」とは、タンパク質のバリアントが、対応する機能(例えば上記例示した活性や性質)を有することをいう。すなわち、標的タンパク質についての「元の機能が維持されている」とは、タンパク質のバリアントが、Lcb1pおよびLcb2pについてセリンパルミトイルトランスフェラーゼ活性;Tsc10pについて3−デヒドロスフィンガニンレダクターゼ活性;Sur2pについてスフィンゴシンヒドロキシラーゼ活性;Atf2pおよびSli1pについてアセチルトランスフェラーゼ活性;Lag1p、Lac1p、およびLip1pについてセラミドシンターゼ活性;Ugcgタンパク質についてUDP-グルコースセラミドグルコシルトランスフェラーゼ活性;Lcb4pおよびLcb5pについてスフィンゴイド塩基キナーゼ活性;Elo3pについて脂肪酸エロンガーゼIII活性;Cka2pについてカゼインキナーゼ2活性;Orm2pについてセリンパルミトイルトランスフェラーゼ活性を調節する性質;Cha1pについてL−セリン/L−スレオニンアンモニアリアーゼ活性;Ypc1pについてフィトセラミダーゼ活性を有することであってよい。また、Cka2pについての「元の機能が維持されている」とは、タンパク質のバリアントが、その活性の低下によりセラミドシンターゼ活性が低下するという性質を有することであってもよい。また、Orm2pについての「元の機能が維持されている」とは、タンパク質のバリアントが、その活性の低下によりセリンパルミトイルトランスフェラーゼ活性が増大するという性質を有することであってもよい。標
的タンパク質が複数のサブユニットからなる複合体として機能する場合、標的タンパク質についての「元の機能が維持されている」とは、タンパク質のバリアントが、他の適切なサブユニットとの組み合わせで対応する機能(例えば上記例示した活性や性質)を発揮することであってもよい。すなわち、例えば、Lcb1pについての「元の機能が維持されている」とは、タンパク質のバリアントが、適切なLcb2pとの組み合わせでセリンパルミトイルトランスフェラーゼ活性を有することであってもよく、Lcb2pについての「元の機能が維持されている」とは、タンパク質のバリアントが、適切なLcb1pとの組み合わせでセリンパルミトイルトランスフェラーゼ活性を有することであってもよい。また、Lag1pまたはLac1pについての「元の機能が維持されている」とは、タンパク質のバリアントが、適切なLip1pとの組み合わせでセラミドシンターゼ活性を有することであってもよく、Lip1pについての「元の機能が維持されている」とは、タンパク質のバリアントが、適切なLag1pまたはLac1pとの組み合わせでセラミドシンターゼ活性を有することであってもよい。
【0042】
以下、保存的バリアントについて例示する。
【0043】
上記例示した遺伝子のホモログまたは上記例示したタンパク質のホモログは、例えば、上記例示した遺伝子の塩基配列または上記例示したタンパク質のアミノ酸配列を問い合わせ配列として用いたBLAST検索やFASTA検索によって公開データベースから容易に取得することができる。また、上記例示した遺伝子のホモログは、例えば、酵母等の生物の染色体を鋳型にして、上記例示した遺伝子の塩基配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRにより取得することができる。
【0044】
標的遺伝子は、元の機能が維持されている限り、上記アミノ酸配列において、1若しくは数個の位置での1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。例えば、コードされるタンパク質は、そのN末端および/またはC末端が、延長または削減されていてもよい。なお上記「1又は数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によっても異なるが、具体的には、例えば、1〜50個、1〜40個、1〜30個、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個、特に好ましくは1〜3個を意味する。
【0045】
上記の1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、および/または付加は、タンパク質の機能が正常に維持される保存的変異である。保存的変異の代表的なものは、保存的置換である。保存的置換とは、置換部位が芳香族アミノ酸である場合には、Phe、Trp、Tyr間で、置換部位が疎水性アミノ酸である場合には、Leu、Ile、Val間で、極性アミノ酸である場合には、Gln、Asn間で、塩基性アミノ酸である場合には、Lys、Arg、His間で、酸性アミノ酸である場合には、Asp、Glu間で、ヒドロキシル基を持つアミノ酸である場合には、Ser、Thr間でお互いに置換する変異である。保存的置換とみなされる置換としては、具体的には、AlaからSer又はThrへの置換、ArgからGln、His又はLysへの置換、AsnからGlu、Gln、Lys、His又はAspへの置換、AspからAsn、Glu又はGlnへの置換、CysからSer又はAlaへの置換、GlnからAsn、Glu、Lys、His、Asp又はArgへの置換、GluからGly、Asn、Gln、Lys又はAspへの置換、GlyからProへの置換、HisからAsn、Lys、Gln、Arg又はTyrへの置換、IleからLeu、Met、Val又はPheへの置換、LeuからIle、Met、Val又はPheへの置換、LysからAsn、Glu、Gln、His又はArgへの置換、MetからIle、Leu、Val又はPheへの置換、PheからTrp、Tyr、Met、Ile又はLeuへの置換、SerからThr又はAlaへの置換、ThrからSer又はAlaへの置換、TrpからPhe又はTyrへの置換、TyrからHis、Phe又はTrpへの置換、及び、ValからMet、Ile又はLeuへの置換が挙げられる。また、上記のようなアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、または逆位等には、遺伝子が由来する生物の個体差、種の違いに基づく場合などの天然に生じる変異(mutant又はvariant)によって生じるものも含まれる。
【0046】
また、標的遺伝子は、元の機能が維持されている限り、上記アミノ酸配列全体に対して、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。尚、本明細書において、「相同性」(homology)は、「同一性」(identity)を意味する。
【0047】
また、標的遺伝子は、元の機能が維持されている限り、上記塩基配列から調製され得るプローブ、例えば上記塩基配列の全体または一部に対する相補配列、とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであってもよい。「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。一例を示せば、相同性が高いDNA同士、例えば、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である60℃、1×SSC、0.1% SDS、好ましくは60℃、0.1×SSC、0.1% SDS、より好ましくは68℃、0.1×SSC、0.1% SDSに相当する塩濃度および温度で、1回、好ましくは2〜3回洗浄する条件を挙げることができる。
【0048】
上述の通り、上記ハイブリダイゼーションに用いるプローブは、遺伝子の相補配列の一部であってもよい。そのようなプローブは、公知の遺伝子配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとし、上記塩基配列を含むDNA断片を鋳型とするPCRによって作製することができる。プローブとしては、例えば、300 bp程度の長さのDNA断片を用いることができる。プローブとして300 bp程度の長さのDNA断片を用いる場合には、ハイブリダイゼーションの洗いの条件としては、50℃、2×SSC、0.1% SDSが挙げられる。
【0049】
また、標的遺伝子は、上記塩基配列において任意のコドンをそれと等価のコドンに置換した塩基配列を有するものであってもよい。例えば、標的遺伝子は、使用する宿主のコドン使用頻度に応じて最適なコドンを有するように改変されてよい。
【0050】
2つの配列間の配列同一性のパーセンテージは、例えば、数学的アルゴリズムを用いて決定できる。このような数学的アルゴリズムの限定されない例としては、Myers and Miller (1988) CABIOS 4:11-17のアルゴリズム、Smith et al (1981) Adv. Appl. Math. 2:482の局所ホモロジーアルゴリズム、Needleman and Wunsch (1970) J. Mol. Biol. 48:443-453のホモロジーアライメントアルゴリズム、Pearson and Lipman (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. 85:2444-2448の類似性を検索する方法、Karlin and Altschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-5877に記載されているような、改良された、Karlin and Altschul (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264のアルゴリズムが挙げられる。
【0051】
これらの数学的アルゴリズムに基づくプログラムを利用して、配列同一性を決定するための配列比較(アラインメント)を行うことができる。プログラムは、適宜、コンピュータにより実行することができる。このようなプログラムとしては、特に限定されないが、PC/GeneプログラムのCLUSTAL(Intelligenetics, Mountain View, Calif.から入手可能)、ALIGNプログラム(Version 2.0)、並びにWisconsin Genetics Software Package, Version 8(Genetics Computer Group (GCG), 575 Science Drive, Madison, Wis., USAから入手可能)のGAP、BESTFIT、BLAST、FASTA、及びTFASTAが挙げられる。これらのプログラムを用いたアライメントは、例えば、初期パラメーターを用いて行うことができる。CLUSTALプログラムについては、Higgins et al. (1988) Gene 73:237-244、Higgins et al. (1989) CABIOS 5:151-153、Corpet et al. (1988) Nucleic Acids Res. 16:10881-90、Huang et al. (1992) CABIOS 8:155-65、及びPearson et al. (1994) Meth. Mol. Biol. 24:307-331によく記載されている。
【0052】
対象のタンパク質をコードするヌクレオチド配列と相同性があるヌクレオチド配列を得るために、具体的には、例えば、BLASTヌクレオチド検索を、BLASTNプログラム、スコア=100、ワード長=12にて行うことができる。対象のタンパク質と相同性があるアミノ酸配列を得るために、具体的には、例えば、BLASTタンパク質検索を、BLASTXプログラム、スコア=50、ワード長=3にて行うことができる。BLASTヌクレオチド検索やBLASTタンパク質検索については、http://www.ncbi.nlm.nih.govを参照されたい。また、比較を目的としてギャップを加えたアライメントを得るために、Gapped BLAST(BLAST 2.0)を利用できる。また、PSI-BLAST(BLAST 2.0)を、配列間の離間した関係を検出する反復検索を行うのに利用できる。Gapped BLASTおよびPSI-BLASTについては、Altschul et al. (1997) Nucleic Acids Res. 25:3389を参照されたい。BLAST、Gapped BLAST、またはPSI-BLASTを利用する場合、例えば、各プログラム(例えば、ヌクレオチド配列に対してBLASTN、アミノ酸配列に対してBLASTX)の初期パラメーターが用いられ得る。アライメントは、手動にて行われてもよい。
【0053】
2つの配列間の配列同一性は、2つの配列を最大一致となるように整列したときに2つの配列間で一致する残基の比率として算出される。
【0054】
<1−2>タンパク質の活性を増大させる手法
以下に、タンパク質の活性を増大させる手法について説明する。
【0055】
「タンパク質の活性が増大する」とは、同タンパク質の細胞当たりの活性が非改変株と比較して増大することを意味する。「非改変株」とは、標的のタンパク質の活性が増大するように改変されていない対照株を意味してよい。非改変株としては、野生株や親株が挙げられる。なお、「タンパク質の活性が増大する」ことを、「タンパク質の活性が増強される」ともいう。「タンパク質の活性が増大する」とは、具体的には、非改変株と比較して、同タンパク質の細胞当たりの分子数が増加していること、および/または、同タンパク質の分子当たりの機能が増大していることをいう。すなわち、「タンパク質の活性が増大する」という場合の「活性」とは、タンパク質の触媒活性に限られず、タンパク質をコードする遺伝子の転写量(mRNA量)または翻訳量(タンパク質の量)を意味してもよい。タンパク質の活性の増大の程度は、タンパク質の活性が非改変株と比較して増大していれば特に制限されない。タンパク質の活性は、例えば、非改変株の、1.5倍以上、2倍以上、または3倍以上に上昇してよい。また、「タンパク質の活性が増大する」とは、もともと標的のタンパク質の活性を有する菌株において同タンパク質の活性を増大させることだけでなく、もともと標的のタンパク質の活性が存在しない菌株に同タンパク質の活性を付与することを含む。また、結果としてタンパク質の活性が増大する限り、宿主が本来有する標的のタンパク質の活性を低下または消失させた上で、適切な種類の標的タンパク質を導入してもよい。
【0056】
タンパク質の活性が増大するような改変は、例えば、同タンパク質をコードする遺伝子の発現を上昇させることによって達成される。「遺伝子の発現が上昇する」とは、同遺伝子の細胞当たりの発現量が野生株や親株等の非改変株と比較して増大することを意味する。「遺伝子の発現が上昇する」とは、具体的には、遺伝子の転写量(mRNA量)が増大すること、および/または、遺伝子の翻訳量(タンパク質の量)が増大することを意味してよい。なお、「遺伝子の発現が上昇する」ことを、「遺伝子の発現が増強される」ともいう。遺伝子の発現は、例えば、非改変株の、1.5倍以上、2倍以上、または3倍以上に上昇してよい。また、「遺伝子の発現が上昇する」とは、もともと標的の遺伝子が発現している菌株において同遺伝子の発現量を上昇させることだけでなく、もともと標的の遺伝子が発現していない菌株において、同遺伝子を発現させることを含む。すなわち、「遺伝子の発現が上昇する」とは、例えば、標的の遺伝子を保持しない菌株に同遺伝子を導入
し、同遺伝子を発現させることを含む。
【0057】
遺伝子の発現の上昇は、例えば、遺伝子のコピー数を増加させることにより達成できる。
【0058】
遺伝子のコピー数の増加は、宿主の染色体へ同遺伝子を導入することにより達成できる。染色体への遺伝子の導入は、例えば、相同組み換えを利用して行うことができる(Miller, J. H. Experiments in Molecular Genetics, 1972, Cold Spring Harbor Laboratory)。遺伝子は、1コピーのみ導入されてもよく、2コピーまたはそれ以上導入されてもよい。例えば、染色体上に多数のコピーが存在する配列を標的として相同組み換えを行うことで、染色体へ遺伝子の多数のコピーを導入することができる。染色体上に多数のコピーが存在する配列としては、特有の短い繰り返し配列からなる自律複製配列(ARS)や、染色体上に約150コピー存在するrDNA配列が挙げられる。WO95/32289には、相同組み換えを利用して酵母の形質転換を行った例が開示されている。また、染色体への遺伝子の導入は、例えば、トランスポゾンに遺伝子を組み込み、それを染色体へ転移させることによっても実施することができる。
【0059】
染色体上に標的遺伝子が導入されたことの確認は、同遺伝子の全部又は一部と相補的な配列を持つプローブを用いたサザンハイブリダイゼーション、又は同遺伝子の配列に基づいて作成したプライマーを用いたPCR等によって確認できる。
【0060】
また、標的遺伝子のコピー数の増加は、同遺伝子を含むベクターを宿主に導入することによっても達成できる。例えば、標的遺伝子を含むDNA断片を、宿主で機能するベクターと連結して同遺伝子の発現ベクターを構築し、当該発現ベクターで宿主を形質転換することにより、同遺伝子のコピー数を増加させることができる。標的遺伝子を含むDNA断片は、例えば、標的遺伝子を有する微生物のゲノムDNAを鋳型とするPCRにより取得できる。ベクターとしては、宿主の細胞内において自律複製可能なベクターを用いることができる。ベクターは、シングルコピーベクターであってもよく、マルチコピーベクターであってもよい。また、ベクターは、形質転換体を選択するためのマーカーを含むことが好ましい。マーカーとしては、KanMX、NatMX(nat1)、HygMX(hph)遺伝子等の抗生物質耐性遺伝子や、LEU2、HIS3、URA3遺伝子等の栄養要求性を相補する遺伝子が挙げられる。酵母において自律複製可能なベクターとしては、CEN4の複製開始点を有するプラスミドや2μm DNAの複製開始点を有するプラスミドが挙げられる。酵母において自律複製可能なベクターとして、具体的には、pAUR123(タカラバイオ)やpYES2(インビトロジェン)が挙げられる。
【0061】
遺伝子を導入する場合、遺伝子は、発現可能に本発明の酵母に保持されていればよい。具体的には、遺伝子は、本発明の酵母において機能するプロモーター配列による制御を受けて発現するように導入されればよい。プロモーターは、宿主由来のプロモーターであってもよく、異種由来のプロモーターであってもよい。プロモーターは、導入する遺伝子の固有のプロモーターであってもよく、他の遺伝子のプロモーターであってもよい。プロモーターとしては、例えば、後述するような、より強力なプロモーターを利用してもよい。
【0062】
遺伝子の下流には、ターミネーターを配置することができる。ターミネーターは、本発明の酵母において機能するものであれば特に制限されない。ターミネーターは、宿主由来のターミネーターであってもよく、異種由来のターミネーターであってもよい。ターミネーターは、導入する遺伝子の固有のターミネーターであってもよく、他の遺伝子のターミネーターであってもよい。本発明の酵母において機能するターミネーターとしては、CYC1、ADH1、ADH2、ENO2、PGI1、TDH1ターミネーターが挙げられる。
【0063】
各種微生物において利用可能なベクター、プロモーター、ターミネーターに関しては、例えば「微生物学基礎講座8 遺伝子工学、共立出版、1987年」に詳細に記載されており、それらを利用することが可能である。
【0064】
また、2種またはそれ以上の遺伝子を導入する場合、各遺伝子が、発現可能に本発明の酵母に保持されていればよい。例えば、各遺伝子は、全てが単一の発現ベクター上に保持されていてもよく、全てが染色体上に保持されていてもよい。あるいは、各遺伝子は、複数の発現ベクター上に別々に保持されていてもよく、単一または複数の発現ベクター上と染色体上とに別々に保持されていてもよい。なお、2またはそれ以上の遺伝子でオペロンを構成して導入してもよい。
【0065】
導入される遺伝子は、宿主で機能するタンパク質をコードするものであれば特に制限されない。導入される遺伝子は、宿主由来の遺伝子であってもよく、異種由来の遺伝子であってもよい。導入される遺伝子は、例えば、同遺伝子の塩基配列に基づいて設計したプライマーを用い、同遺伝子を有する生物のゲノムDNAや同遺伝子を搭載するプラスミドを鋳型として、PCRにより取得することができる。また、導入される遺伝子は、例えば、同遺伝子の塩基配列に基づいて全合成してもよい(Gene, 60(1), 115-127 (1987))。取得した遺伝子は、そのまま、あるいは適宜改変して、利用することができる。
【0066】
また、遺伝子の発現の上昇は、遺伝子の転写効率を向上させることにより達成できる。また、遺伝子の発現の上昇は、遺伝子の翻訳効率を向上させることにより達成できる。遺伝子の転写効率や翻訳効率の向上は、例えば、発現調節配列の改変により達成できる。「発現調節配列」とは、プロモーター等の、遺伝子の発現に影響する部位の総称である。発現調節配列は、プロモーター検索ベクターやGENETYX等の遺伝子解析ソフトを用いて決定することができる。
【0067】
遺伝子の転写効率の向上は、例えば、染色体上の遺伝子のプロモーターをより強力なプロモーターに置換することにより達成できる。「より強力なプロモーター」とは、遺伝子の転写が、もともと存在している野生型のプロモーターよりも向上するプロモーターを意味する。酵母で利用できるより強力なプロモーターとしては、PGK1、PGK2、PDC1、TDH3、TEF1、TEF2、TPI1、HXT7、ADH1、GPD1、KEX2プロモーターが挙げられる。また、より強力なプロモーターとしては、各種レポーター遺伝子を用いることにより、在来のプロモーターの高活性型のものを取得してもよい。
【0068】
遺伝子の翻訳効率の向上は、例えば、コドンの改変によっても達成できる。例えば、遺伝子を異種発現する場合等には、遺伝子中に存在するレアコドンを、より高頻度で利用される同義コドンに置き換えることにより、遺伝子の翻訳効率を向上させることができる。すなわち、導入される遺伝子は、例えば、使用する宿主のコドン使用頻度に応じて最適なコドンを有するように改変されていてよい。コドンの置換は、例えば、DNAの目的の部位に目的の変異を導入する部位特異的変異法により行うことができる。また、コドンが置換された遺伝子断片を全合成してもよい。種々の生物におけるコドンの使用頻度は、「コドン使用データベース」(http://www.kazusa.or.jp/codon; Nakamura, Y. et al, Nucl.
Acids Res., 28, 292 (2000))に開示されている。
【0069】
また、遺伝子の発現の上昇は、遺伝子の発現を上昇させるようなレギュレーターを増幅すること、または、遺伝子の発現を低下させるようなレギュレーターを欠失または弱化させることによっても達成できる。
【0070】
上記のような遺伝子の発現を上昇させる手法は、単独で用いてもよく、任意の組み合わせで用いてもよい。
【0071】
また、酵素の活性が増大するような改変は、例えば、酵素の比活性を増強することによっても達成できる。比活性が増強された酵素は、例えば、種々の生物を探索し取得することができる。また、在来の酵素に変異を導入することで高活性型のものを取得してもよい。比活性の増強は、単独で用いてもよく、上記のような遺伝子の発現を増強する手法と任意に組み合わせて用いてもよい。
【0072】
形質転換の方法は特に限定されず、酵母の形質転換に従来用いられている方法を用いることができる。そのような方法としては、プロトプラスト法、KU法(H. Ito et al., J. Bacteriol., 153-163 (1983))、KUR法(発酵と工業 vol.43, p.630-637 (1985))、エレクトロポレーション法(Luis et al., FEMS Micro biology Letters 165 (1998) 335-340)、キャリアDNAを用いる方法(Gietz R.D. and Schiestl R.H., Methods Mol.Cell. Biol. 5:255-269 (1995))が挙げられる。また、酵母の胞子形成や1倍体酵母の分離等の操作の方法については、「化学と生物 実験ライン31 酵母の実験技術」、初版、廣川書店;「バイオマニュアルシリーズ10 酵母による遺伝子実験法」初版、羊土社;等に記載されている。
【0073】
タンパク質の活性が増大したことは、同タンパク質の活性を測定することで確認できる。
【0074】
タンパク質の活性が増大したことは、同タンパク質をコードする遺伝子の発現が上昇したことを確認することによっても、確認できる。遺伝子の発現が上昇したことは、同遺伝子の転写量が上昇したことを確認することや、同遺伝子から発現するタンパク質の量が上昇したことを確認することにより確認できる。
【0075】
遺伝子の転写量が上昇したことの確認は、同遺伝子から転写されるmRNAの量を野生株または親株等の非改変株と比較することによって行うことができる。mRNAの量を評価する方法としてはノーザンハイブリダイゼーション、RT-PCR等が挙げられる(Sambrook, J., et
al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual/Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor (USA), 2001)。mRNAの量は、例えば、非改変株の、1.5倍以上、2倍以上、または3倍以上に上昇してよい。
【0076】
タンパク質の量が上昇したことの確認は、抗体を用いてウェスタンブロットによって行うことができる(Molecular Cloning(Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor (USA), 2001))。タンパク質の量は、例えば、非改変株の、1.5倍以上、2倍以上、または3倍以上に上昇してよい。
【0077】
<1−3>タンパク質の活性を低下させる手法
以下に、タンパク質の活性を低下させる手法について説明する。
【0078】
「タンパク質の活性が低下する」とは、同タンパク質の細胞当たりの活性が非改変株と比較して低下することを意味する。「非改変株」とは、標的のタンパク質の活性が低下するように改変されていない対照株を意味してよい。非改変株としては、野生株や親株が挙げられる。なお、「タンパク質の活性が低下する」ことには、同タンパク質の活性が完全に消失している場合も包含される。「タンパク質の活性が低下する」とは、具体的には、非改変株と比較して、同タンパク質の細胞当たりの分子数が低下していること、および/または、同タンパク質の分子当たりの機能が低下していることを意味する。すなわち、「タンパク質の活性が低下する」という場合の「活性」とは、タンパク質の触媒活性に限られず、タンパク質をコードする遺伝子の転写量(mRNA量)または翻訳量(タンパク質の量)を意味してもよい。なお、「タンパク質の細胞当たりの分子数が低下している」こ
とには、同タンパク質が全く存在していない場合が含まれる。また、「タンパク質の分子当たりの機能が低下している」ことには、同タンパク質の分子当たりの機能が完全に消失している場合が含まれる。タンパク質の活性の低下の程度は、タンパク質の活性が非改変株と比較して低下していれば特に制限されない。タンパク質の活性は、例えば、非改変株の、50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に低下してよい。
【0079】
タンパク質の活性が低下するような改変は、例えば、同タンパク質をコードする遺伝子の発現を低下させることにより達成できる。「遺伝子の発現が低下する」とは、同遺伝子の細胞当たりの発現が野生株や親株等の非改変株と比較して低下することを意味する。「遺伝子の発現が低下する」とは、具体的には、遺伝子の転写量(mRNA量)が低下すること、および/または、遺伝子の翻訳量(タンパク質の量)が低下することを意味してよい。「遺伝子の発現が低下する」ことには、同遺伝子が全く発現していない場合が含まれる。なお、「遺伝子の発現が低下する」ことを、「遺伝子の発現が弱化される」ともいう。遺伝子の発現は、非改変株の、50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に低下してよい。
【0080】
遺伝子の発現の低下は、例えば、転写効率の低下によるものであってもよく、翻訳効率の低下によるものであってもよく、それらの組み合わせによるものであってもよい。遺伝子の発現の低下は、例えば、プロモーター等の、遺伝子の発現調節配列を改変することにより達成できる。発現調節配列を改変する場合には、発現調節配列は、好ましくは1塩基以上、より好ましくは2塩基以上、特に好ましくは3塩基以上が改変される。また、発現調節配列の一部または全部を欠失させてもよい。また、遺伝子の発現の低下は、例えば、発現制御に関わる因子を操作することによっても達成できる。発現制御に関わる因子としては、転写や翻訳制御に関わる低分子(誘導物質、阻害物質など)、タンパク質(転写因子など)、核酸(siRNAなど)等が挙げられる。また、遺伝子の発現の低下は、例えば、遺伝子のコード領域に遺伝子の発現が低下するような変異を導入することによっても達成できる。例えば、遺伝子のコード領域のコドンを、宿主においてより低頻度で利用される同義コドンに置き換えることによって、遺伝子の発現を低下させることができる。また、例えば、後述するような遺伝子の破壊により、遺伝子の発現自体が低下し得る。
【0081】
また、タンパク質の活性が低下するような改変は、例えば、同タンパク質をコードする遺伝子を破壊することにより達成できる。「遺伝子が破壊される」とは、正常に機能するタンパク質を産生しないように同遺伝子が改変されることを意味する。「正常に機能するタンパク質を産生しない」ことには、同遺伝子からタンパク質が全く産生されない場合や、同遺伝子から分子当たりの機能(例えば活性や性質)が低下又は完全に消失したタンパク質が産生される場合が含まれる。
【0082】
遺伝子の破壊は、例えば、染色体上の遺伝子のコード領域の一部又は全部を欠失させることにより達成できる。さらには、染色体上の遺伝子の前後の配列を含めて、遺伝子全体を欠失させてもよい。タンパク質の活性の低下が達成できる限り、欠失させる領域は、N末端領域、内部領域、C末端領域等のいずれの領域であってもよい。通常、欠失させる領域は長い方が確実に遺伝子を不活化することができる。また、欠失させる領域の前後の配列は、リーディングフレームが一致しないことが好ましい。
【0083】
また、遺伝子の破壊は、例えば、染色体上の遺伝子のコード領域にアミノ酸置換(ミスセンス変異)を導入すること、終止コドンを導入すること(ナンセンス変異)、あるいは1〜2塩基を付加または欠失するフレームシフト変異を導入すること等によっても達成できる(Journal of Biological Chemistry 272:8611-8617(1997), Proceedings of the National Academy of Sciences, USA 95 5511-5515(1998), Journal of Biological Chemistry 26 116, 20833-20839(1991))。
【0084】
また、遺伝子の破壊は、例えば、染色体上の遺伝子のコード領域に他の配列を挿入することによっても達成できる。挿入部位は遺伝子のいずれの領域であってもよいが、挿入する配列は長い方が確実に遺伝子を不活化することができる。また、挿入部位の前後の配列は、リーディングフレームが一致しないことが好ましい。他の配列としては、コードされるタンパク質の活性を低下又は消失させるものであれば特に制限されないが、例えば、抗生物質耐性遺伝子等のマーカー遺伝子や目的物質の生産に有用な遺伝子が挙げられる。
【0085】
染色体上の遺伝子を上記のように改変することは、例えば、組換えDNAを用いて実施できる。相同組換えに用いる組換えDNAの構造は、所望の態様で相同組換えが起こるものであれば特に制限されない。例えば、任意の配列(例えば、欠失型遺伝子や任意の挿入配列)を含む線状DNAであって、当該任意の配列の両端に染色体上の相同組換え対象部位の上流および下流の配列をそれぞれ備える線状DNAで宿主を形質転換して、対象部位の上流および下流でそれぞれ相同組換えを起こさせることにより、対象部位を当該任意の配列に置換することができる。染色体上の遺伝子を上記のように改変することは、具体的には、例えば、正常に機能するタンパク質を産生しないように改変した欠失型遺伝子を作製し、該欠失型遺伝子を含む組換えDNAで宿主を形質転換して、欠失型遺伝子と染色体上の野生型遺伝子とで相同組換えを起こさせることにより、染色体上の野生型遺伝子を欠失型遺伝子に置換することによって達成できる。その際、組換えDNAには、宿主の栄養要求性等の形質にしたがって、マーカー遺伝子を含ませておくと操作がしやすい。欠失型遺伝子としては、遺伝子の全領域あるいは一部の領域を欠失した遺伝子、ミスセンス変異を導入した遺伝子、トランスポゾンやマーカー遺伝子等の挿入配列を導入した遺伝子、ナンセンス変異を導入した遺伝子、フレームシフト変異を導入した遺伝子が挙げられる。欠失型遺伝子によってコードされるタンパク質は、生成したとしても、野生型タンパク質とは異なる立体構造を有し、機能が低下又は消失する。
【0086】
また、タンパク質の活性が低下するような改変は、例えば、突然変異処理により行ってもよい。突然変異処理としては、X線の照射、紫外線の照射、ならびにN−メチル−N'−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(MNNG)、エチルメタンスルフォネート(EMS)、およびメチルメタンスルフォネート(MMS)等の変異剤による処理等の通常の変異処理が挙げられる。
【0087】
タンパク質の活性が低下したことは、同タンパク質の活性を測定することで確認できる。
【0088】
遺伝子の発現が低下したことは、同遺伝子の転写量が低下したことを確認することや、同遺伝子から発現するタンパク質の量が低下したことを確認することにより確認できる。
【0089】
遺伝子の転写量が低下したことの確認は、同遺伝子から転写されるmRNAの量を非改変株と比較することによって行うことが出来る。mRNAの量を評価する方法としては、ノーザンハイブリダイゼーション、RT−PCR等が挙げられる(Molecular Cloning(Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor (USA), 2001))。mRNAの量は、例えば、非改変株の、50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に低下してよい。
【0090】
タンパク質の量が低下したことの確認は、抗体を用いてウェスタンブロットによって行うことが出来る(Molecular Cloning(Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor (USA), 2001))。タンパク質の量は、例えば、非改変株の、50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に低下してよい。
【0091】
遺伝子が破壊されたことは、破壊に用いた手段に応じて、同遺伝子の一部または全部の塩基配列、制限酵素地図、または全長等を決定することで確認できる。
【0092】
<2>本発明の目的物質の製造方法
本発明の方法は、目的物質の製造方法であって、目的物質との会合、目的物質との結合、目的物質の可溶化、および/または目的物質の捕捉が可能な添加剤を含有する培地で本発明の酵母を培養すること、および前記酵母の菌体および/または前記培地から目的物質を回収することを含む方法である。本発明においては、1種の目的物質が製造されてもよく、2種またはそれ以上の目的物質が製造されてもよい。
【0093】
使用する培地は、目的物質との会合、目的物質との結合、目的物質の可溶化、および/または目的物質の捕捉が可能な添加剤を含有し、本発明の酵母が増殖でき、目的物質が生産される限り、特に制限されない。培地としては、例えば、添加剤を含有すること以外は、酵母の培養に用いられる通常の培地を用いることができる。そのような培地としては、SD培地、SG培地、SDTE培地、YPD培地に、添加剤を添加したものが挙げられる。培地は、例えば、添加剤に加えて、炭素源、窒素源、リン源、硫黄源、およびその他の各種有機成分や無機成分から選択される成分を必要に応じて含有していてよい。培地成分の種類や濃度は、使用する酵母の種類や製造する目的物質の種類等の諸条件に応じて適宜設定してよい。
【0094】
培地は、目的物質との会合、目的物質との結合、目的物質の可溶化、および/または目的物質の捕捉が可能な添加剤を含有する。添加剤の使用により、目的物質の生産が増大する。すなわち、本発明の酵母による目的物質の生産量は、添加物の非存在下と比較して、添加物の存在下で増大する。添加剤の使用により、具体的には、培地中での目的物質の生産が増大してよい。培地中での目的物質の生産を、「目的物質の排出」ともいう。「目的物質との会合、目的物質との結合、目的物質の可溶化、および/または目的物質の捕捉」とは、具体的には、目的物質の培地への溶解度を増大させることを意味してよい。添加剤としては、シクロデキストリンやゼオライトが挙げられる。シクロデキストリンを構成するグルコース残基の数は、特に制限されない。シクロデキストリンを構成するグルコース残基の数は、例えば、5、6、7、または8であってよい。すなわち、シクロデキストリンとしては、5個のグルコース残基からなるシクロデキストリン、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、およびそれらの誘導体が挙げられる。シクロデキストリン誘導体としては、1つまたはそれ以上の官能基が導入されたシクロデキストリンが挙げられる。官能基の種類、数、および量、並びに官能基を導入する位置は、誘導体が目的物質と会合、目的物質と結合、目的物質を可溶化、および/または目的物質を捕捉できる限り、特に制限されない。官能基は、例えば、C2位の水酸基、C3位の水酸基、C6位の水酸基、またはそれらの組み合わせに導入されてよく、これによりシクロデキストリン自体の溶解度が増大し得る。官能基としては、アルキル基やヒドロキシアルキル基が挙げられる。アルキル基およびヒドロキシアルキル基は、いずれも、直鎖アルキル鎖を有していてもよく、分岐アルキル鎖を有していてもよい。アルキル基およびヒドロキシアルキル基は、いずれも、炭素数が、例えば、1、2、3、4、または5であってよい。アルキル基として、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、イソプロピル基、イソブチル基が挙げられる。ヒドロキシアルキル基として、具体的には、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基、ヒドロキシペンチル基、ヒドロキシイソプロピル基、ヒドロキシイソブチル基が挙げられる。シクロデキストリン誘導体として、具体的には、メチル−α−シクロデキストリン;メチル−β−シクロデキストリン;2−ヒドロキシプロピル−α−シクロデキストリン等のヒドロキシプロピル−α−シクロデキストリン;2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン等のヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンが挙げられる。ゼオライトの種類は特に制限されない。添加剤としては、1種の添加剤を用いても
よく、2種またはそれ以上の添加剤を組み合わせて用いてもよい。
【0095】
添加剤は、培養の全期間において培地に含有されていてもよく、培養の一部の期間にのみ培地に含有されていてもよい。例えば、添加剤は、培養開始時から培地に含有されていてもよく、いなくてもよい。添加剤が培養開始時に培地に含有されていない場合は、培養開始後に培地に添加剤を供給する。供給のタイミングは、培養時間等の諸条件に応じて適宜設定できる。例えば、本発明の酵母が十分に生育してから培地に添加剤を供給してもよい。また、いずれの場合にも、適宜、培地に添加剤を追加的に供給してよい。添加剤を培地に供給する手段は特に制限されない。例えば、添加剤を含有する流加培地を培地に流加することにより、添加剤を培地に供給することができる。培地中の添加剤濃度は、目的物質の生産が向上する限り、特に制限されない。培地中の添加剤濃度は、例えば、0.1g/L以上、1g/L以上、2g/L以上、5g/L以上、または10g/L以上であってもよく、200g/L以下、100g/L以下、50g/L以下、または20g/L以下であってもよく、それらの組み合わせであってもよい。培地中の添加剤濃度は、例えば、0.1g/L〜200g/L、1g/L〜100g/L、または5g/L〜50g/Lであってもよい。添加剤は、培養の全期間において上記例示した濃度で培地に含有されていてもよく、そうでなくてもよい。添加剤は、例えば、培養開始時に上記例示した濃度で培地に含有されていてもよく、培養開始後に上記例示した濃度となるように培地に供給されてもよい。
【0096】
炭素源として、具体的には、例えば、グルコース、フルクトース、スクロース、ラクトース、ガラクトース、キシロース、アラビノース、廃糖蜜、澱粉加水分解物、バイオマスの加水分解物等の糖類、酢酸、フマル酸、クエン酸、コハク酸等の有機酸類、グリセロール、粗グリセロール、エタノール等のアルコール類、脂肪酸類が挙げられる。炭素源としては、1種の炭素源を用いてもよく、2種またはそれ以上の炭素源を組み合わせて用いてもよい。
【0097】
窒素源として、具体的には、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等のアンモニウム塩、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、大豆タンパク質分解物等の有機窒素源、アンモニア、ウレアが挙げられる。pH調整に用いられるアンモニアガスやアンモニア水を窒素源として利用してもよい。窒素源としては、1種の窒素源を用いてもよく、2種またはそれ以上の窒素源を組み合わせて用いてもよい。
【0098】
リン酸源として、具体的には、例えば、リン酸2水素カリウム、リン酸水素2カリウム等のリン酸塩、ピロリン酸等のリン酸ポリマーが挙げられる。リン酸源としては、1種のリン酸源を用いてもよく、2種またはそれ以上のリン酸源を組み合わせて用いてもよい。
【0099】
硫黄源として、具体的には、例えば、硫酸塩、チオ硫酸塩、亜硫酸塩等の無機硫黄化合物、システイン、シスチン、グルタチオン等の含硫アミノ酸が挙げられる。硫黄源としては、1種の硫黄源を用いてもよく、2種またはそれ以上の硫黄源を組み合わせて用いてもよい。
【0100】
その他の各種有機成分や無機成分として、具体的には、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩類;鉄、マンガン、マグネシウム、カルシウム等の微量金属類;ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、ビタミンB12等のビタミン類;アミノ酸類;核酸類;これらを含有するペプトン、カザミノ酸、酵母エキス、大豆タンパク質分解物等の有機成分が挙げられる。その他の各種有機成分や無機成分としては、1種の成分を用いてもよく、2種またはそれ以上の成分を組み合わせて用いてもよい。
【0101】
また、生育にアミノ酸や核酸などを要求する栄養要求性変異株を使用する場合には、培地に要求される栄養素を補添することが好ましい。
【0102】
培養条件は、本発明の酵母が増殖でき、目的物質が生産される限り、特に制限されない。培養は、例えば、酵母の培養に用いられる通常の条件で行うことができる。培養条件は、使用する酵母の種類や製造する目的物質の種類等の諸条件に応じて適宜設定してよい。
【0103】
培養は、液体培地を用いて、好気条件、微好気条件、または嫌気条件で行うことができる。培養は、好ましくは、好気条件で行うことができる。「好気条件」とは、液体培地中の溶存酸素濃度が、0.33 ppm以上、好ましくは1.5 ppm以上である条件であってよい。好気条件の場合、酸素濃度は、例えば、飽和酸素濃度に対して、5〜50%、好ましくは10〜20%程度に制御されてもよい。好気培養は、具体的には、通気または振盪により行うことができる。「微好気条件」とは、培養系に酸素が供給されているが、液体培地中の溶存酸素濃度が0.33ppm未満である条件であってよい。「嫌気条件」とは、培養系に酸素が供給されない条件であってよい。培養温度は、例えば、25〜35℃、好ましくは27℃〜33℃、より好ましくは28℃〜32℃であってよい。培地のpHは、例えば、pH3〜10、好ましくはpH4〜8であってよい。培養中、必要に応じて培地のpHを調整することができる。pHの調整には、無機または有機の酸性またはアルカリ性の物質、例えばアンモニアガス等、を用いることができる。培養期間は、例えば、10時間〜200時間、または15時間〜120時間であってよい。培養条件は、培養の全期間において一定であってもよく、培養中に変化させてもよい。培養は、回分培養(batch culture)、流加培養(Fed-batch culture)、連続培養(continuous culture)、またはそれらの組み合わせにより実施することができる。培養は、種培養と本培養の2段階で行ってもよい。そのような場合、種培養と本培養の培養条件は、同一であってもよく、なくてもよい。例えば、種培養と本培養を、共に回分培養で行ってもよい。あるいは、例えば、種培養を回分培養で行い、本培養を流加培養または連続培養で行ってもよい。
【0104】
このような条件下で本発明の酵母を培養することにより、培地中および/または菌体内に目的物質が蓄積する。
【0105】
目的物質が生成したことは、化合物の検出または同定に用いられる公知の手法により確認することができる。そのような手法としては、例えば、HPLC、UPLC、LC/MS、GC/MS、NMRが挙げられる。これらの手法は、単独で、あるいは適宜組み合わせて用いることができる。
【0106】
生成した目的物質の回収は、化合物の分離精製に用いられる公知の手法により行うことができる。そのような手法としては、例えば、イオン交換樹脂法、膜処理法、沈殿法、晶析法が挙げられる。これらの手法は、単独で、あるいは適宜組み合わせて用いることができる。なお、菌体内に目的物質が蓄積する場合には、例えば、菌体を超音波などにより破砕することができ、次いで、遠心分離によって菌体を除去して得られる上清から目的物質を回収することができる。回収される目的物質は、フリー体、その塩、またはそれらの混合物であってよい。
【0107】
また、目的物質が培地中に析出する場合は、遠心分離又は濾過等により目的物質を回収することができる。また、培地中に析出した目的物質は、培地中に溶解している目的物質を晶析した後に、併せて単離してもよい。
【0108】
尚、回収される目的物質は、目的物質以外に、酵母菌体、培地成分、水分、及び酵母の代謝副産物を含んでいてもよい。回収される目的物質の純度は、例えば、50%(w/w)以上、好ましくは85%(w/w)以上、特に好ましくは95%(w/w)以上であってよい。
【0109】
フィトスフィンゴシン(PHS)やスフィンガニン(DHS)等のスフィンゴイド塩基が目的物質として得られる場合、得られたスフィンゴイド塩基は、同スフィンゴイド塩基と脂肪酸との混合物の化学反応により、フィトセラミド(PHC)やジヒドロセラミド(DHC)等の対応するスフィンゴ脂質に変換してもよい(J. Biol. Chem. July 2002 277 (29): 25847-5)。
【実施例】
【0110】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は、いかなる意味においても、これにより制限されるものではない。
【0111】
実施例1:菌株の構築
S. cerevisiae EYS3762株を、BY4742株(MATalpha his3Δ1 leu2Δ0 lys2Δ0 ura3Δ0,
EUROSCARF Y10000)より、LCB4およびLCB5遺伝子を順に欠失させることにより構築した。これは、まず、同株を、プライマーEV4024およびEV4025を用いてプラスミド鋳型pEVE698からPCR増幅された欠失構築物(LCB4遺伝子の在来(native)のプロモーターおよびターミネーターに相同な欠失構築物の配列に導入された、loxP部位で挟まれたhygromycin耐性遺伝子HygMX(hph)を含む)で形質転換することによって実施した。形質転換により、在来のLCB4オープンリーディングフレーム全体が組換え断片に置換された。形質転換体は、300 mg/L hygromycinを含有するYPD寒天プレート(10 g/l yeast extract, 20 g/L bacto-peptone, 20 g/L glucose, 20 g/L agar)で選抜した。クローンについて、欠失構築物が適切に挿入されているかをPCR試験により確認した。
【0112】
次に、LCB4遺伝子欠損株を、プライマーEV4030およびEV4031を用いてプラスミド鋳型pEVE73からPCR増幅された欠失構築物(LCB5遺伝子の在来のプロモーターおよびターミネーターに相同な欠失構築物の配列に導入された、loxP部位で挟まれたアミノグリコシド抗生物質G418に対する耐性を付与するKanMX遺伝子を含む)で形質転換した。形質転換により、在来のLCB5オープンリーディングフレーム全体が組換え断片に置換された。形質転換体は、100 mg/L G418を含有するYPD寒天プレートで選抜した。クローンについて、欠失構築物が適切に挿入されているかをPCR試験により確認した。
【0113】
S. cerevisiae EYS4061株を、前述のEYS3762株より、YNRCΔ9遺伝子座への三重発現構築物(GPD1プロモーターおよびそれに続くLCB1遺伝子のオープンリーディングフレームとCYC1ターミネーター;PGK1プロモーターおよびそれに続くLCB2遺伝子のオープンリーディングフレームとADH2ターミネーター;並びにPGK1プロモーターおよびそれに続くTSC10遺伝子のオープンリーディングフレームとADH2ターミネーターを含む)の挿入により構築した。すべてのプロモーター、オープンリーディングフレーム、およびターミネーターは、S. cerevisiae由来である。この組込み構築物は、loxP配列に挟まれた抗生物質nourseothricinに対する耐性を付与するNatMX(nat1)遺伝子の発現カセットも含む。
【0114】
S. cerevisiae EYS4299株を、前述のEYS4061株より、2つのプラスミド(pEVE2785およびpEVE2120)の形質転換により構築した。これにより、同株は、ヒスチジンおよびウラシルについて原栄養性となる。プラスミドpEVE2785は、HIS3選択マーカーを発現し、TEF1プロモーターとADH1ターミネーター、およびPGK1プロモーターおよびCYC1ターミネーターを備えた二重発現カセットを含む。両発現カセットは、オープンリーディングフレームを欠く。プラスミドpEVE2120は、URA3選択マーカーを発現し、オープンリーディングフレームを欠くPGK1プロモーターとADH2ターミネーターを備えた発現カセットを含む。
【0115】
S. cerevisiae EYS4300株を、前述のEYS4061株より、2つのプラスミド(pEVE3910およびpEVE3908)の形質転換により構築した。プラスミドpEVE3910は、S. cerevisiaeのGPD1
プロモーターおよびCYC1ターミネーターの下でPichia ciferriiのアセチルトランスフェラーゼ遺伝子ATF2を発現する発現カセットを有する。このプラスミドは、HIS3選択マーカーも含む。プラスミドpEVE3908は、S. cerevisiaeのGPD1プロモーターおよびCYC1ターミネーターの下でPichia ciferriiのアセチルトランスフェラーゼ遺伝子SLI1を発現する発現カセットを有する。使用したSLI1およびATF2遺伝子の塩基配列は、S. cerevisiaeのコドン使用に最適化されたものである。このプラスミドは、LEU2選択マーカーも含む。これら2つのプラスミドの存在は、アミノ酸であるヒスチジンおよびロイシンを欠く選択SCプレート(1.546 g/L SC-mix without histidine and leucine, 6.7 g/L yeast nitrogen base, 20 g/L glucose, pH 5.8)(SC mixについては表11を参照)でのEYS4300の生育により確認した。
【0116】
Saccharomyces cerevisiae EYS3805株を、前述のBY4742株より、YPC1遺伝子の欠失、並びにLAG1、LAC1、およびLIP1遺伝子の挿入により構築した。Lag1pおよびLac1pは、機能的に等価な、セラミドシンターゼの触媒コンポーネントであり、C26(アシル)-CoAとジヒドロスフィンゴシンまたはフィトスフィンゴシンからのセラミドの合成に関与する。Lip1pは、Lag1pおよびLac1pと結合する、セラミドシンターゼの非触媒サブユニットであり、セラミドシンターゼ活性に必須である。YPC1遺伝子の欠失は、オープンリーディングフレームの開始コドンから終始コドンまでの欠失(start-to-stop-codon deletion)を生じる欠失ストラテジーにより実施した。欠失構築物(YPC1遺伝子の在来のプロモーターおよびターミネーターに相同な欠失構築物の配列に導入された、loxP部位で挟まれたhygromycin耐性遺伝子HygMX(hph)を含む)を、プライマーEV4018およびEV4019を用いてプラスミド鋳型pEVE698からPCR増幅した。形質転換により、在来のYPC1オープンリーディングフレーム全体が組換え断片に置換された。形質転換体は、300 mg/L hygromycinを含有するYPD寒天プレートで選抜した。クローンについて、欠失構築物が正しく挿入されているかをPCR試験により確認した。LAG1、LAC1、およびLIP1遺伝子の挿入は、組込み遺伝子座YORW22Δ(chrXV:969221-969906)への三重発現構築物の挿入により実施した。同構築物は、(1)loxP部位で挟まれたNourseothricin耐性遺伝子NatMX(nat1);(2)S. cerevisiaeのGPD1プロモーターおよびそれに続くS. cerevisiaeのLAG1オープンリーディングフレームとS. cerevisiaeのCYC1ターミネーター;(3)S. cerevisiaeのPGK1プロモーターおよびそれに続くS. cerevisiaeのLAC1オープンリーディングフレームとS. cerevisiaeのADH2ターミネーター;(4)S. cerevisiaeのTEF1プロモーターおよびそれに続くS. cerevisiaeのLIP1オープンリーディングフレームとS. cerevisiaeのENO2ターミネーター;(5)選択マーカーの上流およびLIP1発現カセットの下流の組込み遺伝子座YORW22Δに相同な配列からなる。形質転換体は、100 mg/L nourseothricinを含有するSC寒天プレート(6.7 g/L
yeast nitrogen base w/o amino acids, 2.0 g/L complete SC mixture, 20 g/L glucose, 20 g/L agar)で選抜した。クローンについて、発現構築物が正しく挿入されているかをPCR試験により確認した。EYS3805株を、先に挿入したnourseothricinおよびhygromycin用の選択マーカーであるnat1およびhphを除去することにより構築した。これは、Creリコンビナーゼの発現カセットを含むURA3選択プラスミドpEVE0078で形質転換することにより実施した。Creリコンビナーゼは、2つのloxP部位間での部位特異的組み換えを触媒し、以て、loxP部位で挟まれた選択マーカーが除去された。Creリコンビナーゼを発現するクローンを選抜し、各選択プレートに播種することによりloxP部位で挟まれた選択マーカーの喪失を試験した。URA3選択下にあるCreリコンビナーゼ保有プラスミドpEVE0078は、5’−フルオロオロチン酸(これはURA3遺伝子にコードされる酵素の活性により毒性化合物に変化する)の存在下で各株を生育させることにより除去した。このプラスミドを失ったクローンのみが、選択培地上で増殖することができた。
【0117】
S. cerevisiae EYS4423株を、前述のBY4742株より、CHA1、LCB4、ORM2、およびCKA2遺伝子の欠失、並びにLCB1、LCB2、TSC10、およびSUR2遺伝子の過剰発現により構築した。CHA1遺伝子の欠失は、オープンリーディングフレームの開始コドンから終始コドンまでの
欠失(start-to-stop-codon deletion)を生じるPCRベースの欠失ストラテジーにより実施した。CHA1遺伝子は、配列番号76の欠失構築物に置換された。同構築物は、loxP部位で挟まれたKanMX遺伝子と、プライマーEV3782およびEV3783を用いたPCRによって付加されたCHA1遺伝子の在来のプロモーターおよびターミネーターに相同な配列を含む。形質転換体は、100 mg/L G418を含有するYPD寒天プレートで選抜した。クローンについて、欠失構築物が適切に挿入されているかをPCR試験により確認した。LCB4遺伝子の欠失は、オープンリーディングフレームの開始コドンから終始コドンまでの欠失(start-to-stop-codon deletion)を生じるPCRベースの欠失ストラテジーにより実施した。LCB4遺伝子は、配列番号77の欠失構築物に置換された。同構築物は、loxP部位で挟まれたNatMX遺伝子と、プライマーEV4024およびEV4025を用いたPCRによって付加されたLCB4遺伝子の在来のプロモーターおよびターミネーターに相同な配列を含む。形質転換体は、100 mg/L nourseothricinを含有するSC寒天プレートで選抜した。クローンについて、欠失構築物が適切に挿入されているかをPCR試験により確認した。ORM2遺伝子の欠失は、オープンリーディングフレームの開始コドンから終始コドンまでの欠失(start-to-stop-codon deletion)を生じるPCRベースの欠失ストラテジーにより実施した。ORM2遺伝子は、配列番号78の欠失構築物に置換された。同構築物は、loxP部位で挟まれたNatMX遺伝子と、プライマーEV4215およびEV4216を用いたPCRによって付加されたORM2遺伝子の在来のプロモーターおよびターミネーターに相同な配列を含む。形質転換体は、100 mg/L nourseothricinを含有するSC寒天プレートで選抜した。クローンについて、欠失構築物が適切に挿入されているかをPCR試験により確認した。CKA2遺伝子の欠失は、オープンリーディングフレームの開始コドンから終始コドンまでの欠失(start-to-stop-codon deletion)を生じるPCRベースの欠失ストラテジーにより実施した。CKA2遺伝子は、配列番号79の欠失構築物に置換された。同構築物は、loxP部位で挟まれたKanMX遺伝子と、プライマーEV4740およびEV4741を用いたPCRによって付加されたCKA2遺伝子の在来のプロモーターおよびターミネーターに相同な配列を含む。形質転換体は、100 mg/L G418を含有するSC寒天プレートで選抜した。クローンについて、欠失構築物が適切に挿入されているかをPCR試験により確認した。LCB1、LCB2、TSC10、およびSUR2遺伝子の過剰発現は、プラスミドpEVE3105、pEVE2932、およびpEVE4321によるものとした。プラスミドpEVE3105は、HIS3選択マーカーと、GPD1プロモーターおよびCYC1ターミネーターの下でLCB1遺伝子を発現するための発現カセット、並びにPGK1プロモーターおよびADH2ターミネーターの下でLCB2遺伝子を発現するための発現カセットを含む。プラスミドpEVE2932は、KEX2プロモーターおよびADH1ターミネーターの下でS. cerevisiaeのTSC10遺伝子を発現するための発現カセットを含む。このプラスミドは、URA3選択マーカーも含む。プラスミドpEVE4321は、GPD1プロモーターおよびCYC1ターミネーターの下でPichia ciferriiのSUR2遺伝子を発現するための発現カセットを含む。このプラスミドは、LEU2選択マーカーも含む。これら3つのプラスミドの存在は、アミノ酸であるヒスチジンおよびロイシン、並びにヌクレオ塩基であるウラシルを欠く選択プレート(1.47 g/L SC-mix without histidine and leucine, 6.7 g/L yeast nitrogen base, 20 g/L
glucose, pH 5.8)でのEYS4423の生育により確認した。
【0118】
S. cerevisiae EYS4022株を、前述のBY4742株より、LCB4、CHA1、およびYPC1遺伝子の欠失、並びにLAG1、LAC1、およびLIP1遺伝子の挿入により構築した。LCB4遺伝子の欠失は、オープンリーディングフレームの開始コドンから終始コドンまでの欠失(start-to-stop-codon deletion)を生じるPCRベースの欠失ストラテジーにより実施した。LCB4遺伝子は、配列番号77の欠失構築物に置換された。同構築物は、loxP部位で挟まれたNourseothricin耐性遺伝子NatMX(nat1)と、プライマーEV4024およびEV4025を用いたPCRによって付加されたLCB4遺伝子の在来のプロモーターおよびターミネーターに相同な配列を含む。形質転換体は、nourseothricinを含有するSC寒天プレートで選抜した。クローンについて、欠失構築物が適切に挿入されているかをPCR試験により確認した。CHA1遺伝子の欠失は、オープンリーディングフレームの開始コドンから終始コドンまでの欠失(start-to-stop-codon deletion)を生じるPCRベースの欠失ストラテジーにより実施した。CHA1遺伝子は
、配列番号76の欠失構築物に置換された。同構築物は、loxP部位で挟まれたKanMX遺伝子と、プライマーEV3782およびEV3783を用いたPCRによって付加されたCHA1遺伝子の在来のプロモーターおよびターミネーターに相同な配列を含む。形質転換体は、100 mg/L G418を含有するYPD寒天プレートで選抜した。YPC1遺伝子の欠失は、オープンリーディングフレームの開始コドンから終始コドンまでの欠失(start-to-stop-codon deletion)を生じるPCRベースの欠失ストラテジーにより実施した。YPC1遺伝子は、プラスミド鋳型pEVE698からPCR増幅された欠失構築物に置換された。同構築物は、loxP部位で挟まれたhygromycin耐性遺伝子HygMX(hph)と、プライマーEV4018およびEV4019を用いたPCRによって付加されたYPC1遺伝子の在来のプロモーターおよびターミネーターに相同な配列を含む。形質転換体は、hygromycinを含有するSC寒天プレートで選抜した。クローンについて、欠失構築物が適切に挿入されているかをPCR試験により確認した。LAG1、LAC1、およびLIP1遺伝子の挿入は、組込み遺伝子座YORW22Δへの三重発現構築物の挿入により実施した。同構築物は、(1)loxP部位で挟まれたNourseothricin耐性遺伝子NatMX(nat1);(2)S. cerevisiaeのGPD1プロモーターおよびそれに続くS. cerevisiaeのLAG1オープンリーディングフレームとS. cerevisiaeのCYC1ターミネーター;(3)S. cerevisiaeのPGK1プロモーターおよびそれに続くS. cerevisiaeのLAC1オープンリーディングフレームとS. cerevisiaeのADH2ターミネーター;(4)S. cerevisiaeのTEF1プロモーターおよびそれに続くS. cerevisiaeのLIP1オープンリーディングフレームとS. cerevisiaeのENO2ターミネーター;(5)選択マーカーの上流およびLIP1発現カセットの下流の組込み遺伝子座YORW22Δに相同な配列からなる。形質転換体は、nourseothricinを含有するSC寒天プレートで選抜した。次に、先に挿入した選択マーカーを、Creリコンビナーゼ酵素の発現カセットを含むURA3選択プラスミドpEVE0078で形質転換することにより除去した。Creリコンビナーゼは、hph選択マーカーを挟む2つのloxP部位間での部位特異的組み換えを触媒し、同時にそれを除去した。Creリコンビナーゼを発現するクローンを、ウラシルを含まないSC寒天プレートで選択した。いくつかのクローンを選抜し、各選択プレートに播種することによりloxP部位で挟まれた選択マーカーの喪失を試験した。Creリコンビナーゼ保有プラスミドpEVE0078は、5’−フルオロオロチン酸(これはURA3遺伝子にコードされる酵素の活性により毒性化合物に変化する)の存在下で各株を生育させることにより除去した。このプラスミドを失ったクローンのみが、選択培地上で増殖することができた。
【0119】
S. cerevisiae EYS4798株を、前述のEYS4022株より、プラスミドpEVE4782の形質転換により構築した。このプラスミドは、UGTファミリー21に属するタンパク質をコードするアフリカツメガエル(Xenopus laevis)のUDP-グルコースセラミドグルコシルトランスフェラーゼ遺伝子Ugcg-a(GenBank Accession No. AY112732)をS. cerevisiaeのGPD1プロモーターおよびCYC1ターミネーターの下で発現するための発現カセットを含む。Xenopus laevisのUgcg-a遺伝子を、「Xenopus laevis UGT21-M」ともいう。このプラスミドは、LEU2選択マーカーも含む。このプラスミドの存在は、アミノ酸であるロイシンを欠く選択プレートでのEYS4798の生育により確認した。
【0120】
実施例2:シクロデキストリンによるスフィンゴイド塩基の水溶液中への可溶化
以下の実験は、シクロデキストリンがスフィンゴイド塩基を可溶化するか否か、およびどの程度まで可溶化するかを決定するために行った。そのために、過剰量のフィトスフィンゴシンを、3種の異なるタイプのシクロデキストリン種(α−シクロデキストリン、2−ヒドロキシプロピル−α−シクロデキストリン、2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン)の溶液と、それらシクロデキストリン種の濃度を増加させながらインキュベートした。上清中の可溶化したフィトスフィンゴシンは、同じシクロデキストリン溶液で調製した標準物質を用いた液体クロマトグラフィー−質量分析(LC-MS)によって定量した。その結果、試験したシクロデキストリンは、それらシクロデキストリンの濃度に応じてフィトスフィンゴシンを種々の濃度まで用量依存的に可溶化することが示された(
図1)。印象深いことには、9 g/L超のフィトスフィンゴシンが、2−ヒドロキシプロピル
−α−シクロデキストリンにより可溶化されることが示された。
【0121】
実施例3:フラスコ浸透培養におけるシクロデキストリンによるスフィンゴイド塩基の排出の増強
S. cerevisiae EYS3399株を、スフィンゴイド塩基生産を向上させるための基本株として使用した。EYS3399株は、出願人による命名であり、National Collection of Yeast CulturesのNCYC 3608株(S288CのMatα誘導体;genotype MATalpha gal2 ho::HygMX ura3::KanMX)と同一株である。上述の通り、EYS3399株において長鎖塩基キナーゼをコードするLCB4遺伝子およびカゼインキナーゼ2のαサブユニットをコードするCKA2遺伝子を欠失することにより、別の株であるEYS5009を構築した。EYS5009株は、EYS3399株と比較して、スフィンゴイド塩基の生合成の増大を示した(
図2)。両株(EYS3399およびEYS5009)を、20 g/Lのα−シクロデキストリンを含む、または含まない合成完全(synthetic complete;SC)培地(2.0 g/L SC-mix, 6.7 g/L YNB, 20 g/L glucose, pH 5.8)で、30℃で24時間、振盪フラスコ培養により生育させた。上清をLC-MSで分析し、3-ケトスフィンガニン、スフィンガニン、およびフィトスフィンゴシンを定量した(
図2)。シクロデキストリン(CD)を含まない試料は希釈せず、CDを含む試料はメタノールで50倍に希釈した。その結果、両株(EYS3399およびEYS5009)について、シクロデキストリンの曝露によりスフィンゴイド塩基の生産が増強されることが示された。このシクロデキストリンの効果は、3-ケトスフィンガニンまたはスフィンガニンと比較して、フィトスフィンゴシンについてより顕著であった。また、このシクロデキストリンの効果は、EYS3399株と比較して、EYS5009株においてより顕著であった。これら酵母株および他の酵母株で他のシクロデキストリン種について試験したところ、同様の効果が認められた。
【0122】
実施例4:バイオリアクタにおけるシクロデキストリンによるスフィンゴイド塩基の排出の増強
EYS4928株を、EYS3399からいくつかの工程により構築した。EYS3399は、S288CのMatα誘導体であるNCYC 3608株(genotype MATalpha gal2 ho::HygMX ura3::KanMX)と同一株である。選択マーカーHygMXは、まず、loxPで挟まれたURA3遺伝子をEYS3399のho遺伝子座(Chromosome IV 46271..48031)に挿入し、次いで、pEVE0078を用いたCreリコンビナーゼの発現によってURA3遺伝子を除去することにより、除去した。次いで、選択マーカーKanMXを、同様の手順でURA3遺伝子座から除去した。こうして得られた株は、さらなる遺伝子操作を可能にするために、LEU2およびHIS3のオープンリーディングフレーム全体を除去することによりこれらの遺伝子について栄養要求性にした。バイオリアクタでの生育のために、こうして得られた栄養要求性株を2つの発現プラスミド(HIS3およびLEU2遺伝子を有する第1のプラスミドおよびURA3遺伝子を有する第2のプラスミド)の形質転換により原栄養性にし、EYS4928株を得た。
【0123】
流加(fed-batch)発酵は、以下のパラメーターで実施した:温度を30℃に保ち、pHを5.85に制御(0.5 M HClおよび5 M NH
4OHで調整)し、撹拌および通気の段階的な増大によりpO
2を最大酸素飽和度に対し20%超に維持した。発酵培地については、回分段階では選択SC培地を用い、流加段階では30倍濃縮した選択SC培地を流加した(両培地とも15 g/L α−シクロデキストリン(Sigma-Aldrich)を添加したもの)。回分段階は、遅くとも11時間で終了し、その後、時間当たりの速度で算出された対数プロファイルに従って流加を開始した。約100時間にわたり、サンプルを採取し、バイオマス生産およびフィトスフィンゴシン生産のいずれかについて分析した。フィトスフィンゴシンは、LC-MSにより定量した。LC-MS分析は、Waters Ultra Performance Liquid Chromatography(UPLC)をBruker Micro Q-TOF II質量分析計と併用して実施した。典型的には、5 μlのサンプルをAcquity BEH UPLC C8 2.1 x 100 mm 1.7 μm column(Waters)に注入した。移動相には、2 mM
ammonium formateおよび0.2% formic acidの水溶液(移動相A)と、1 mM ammonium formateおよび0.2% formic acidを含有するacetonitrileおよびmethanolの1:1混合物(移動相
B)を用いた。グラジエントは、1分間で移動相Bを50%から85%にし、次いで、3分間で移動相Bを100%にした。移動相Bを1分間100%に維持し、次いで、移動相B 50%での再調整工程を1分間実施した。カラム温度は50℃に保ち、流速は0.4 ml/minとした。質量スペクトル分析は、キャピラリー電圧4.5 kV、ソース温度180℃、ネブライザー圧1.6 barで、エレクトロスプレーポジティブモードで実施した。質量スペクトルは、100〜1400の質量電荷比(m/z)から得た。フィトスフィンゴシンの濃度は、サンプルに対応するマトリックス(例えば、メタノールで10倍に希釈したシクロデキストリンを含有する培地)中のフィトスフィンゴシン(Santa Cruz Biotechnology)の検量線(4 mg/L, 2 mg/L, 1 mg/L, 500 μg/L, 250 μg/L, 125 μg/L, 62.5 μg/L, 31.25 μg/L)に従って決定した。
【0124】
結果を表1および2に示す。α−シクロデキストリンの存在下ではフィトスフィンゴシンは最大で2.03 mg/Lの濃度で細胞培養上清中に検出されたのに対し、α−シクロデキストリンの非存在下ではフィトスフィンゴシンの濃度は定量限界以下であった。バイオマス中および上清中の総フィトスフィンゴシン濃度は、α−シクロデキストリンの存在下では1.54 mg/Lに、α−シクロデキストリンの非存在下では0.35 mg/Lに達し、これはシクロデキストリン存在下でフィトスフィンゴシンが4倍以上に増加したことを示している。これらの研究は、シクロデキストリンがスフィンゴイド塩基の生産および排出を促進することについてさらなるサポートを提供する。
【0125】
【表1】
【0126】
【表2】
【0127】
実施例5:シクロデキストリンによるテトラアセチルフィトスフィンゴシン(TAPS)の排出向上
S. cerevisiae EYS4061株(同株は、Wickerhamomyces ciferrii(Pichia ciferrii)由来のアセチルトランスフェラーゼ遺伝子ATF2およびSLI1を過剰発現する)をさらなる遺伝子改変、すなわち、長鎖塩基キナーゼ遺伝子LCB4およびLCB5の欠失、並びにLCB1、LCB2、およびTSC10遺伝子の過剰発現に供することにより、EYS4300株を構築した。同様の対照株EYS4299(同株は、選択マーカーHIS3およびLEU2をそれぞれ有するプラスミドpEVE2152およびpEVE2159を含むが、アセチルトランスフェラーゼ遺伝子を有さない)も構築した。両株を、30℃で48時間、選択SC培地を用いた振盪フラスコ培養で生育させ、バイオマスおよび培養上清を、長鎖塩基であるフィトスフィンゴシン、スフィンガニン、およびテトラアセチルフィトスフィンゴシンレベルの分析および定量に供した。LC-MS分析は、サンプルを希釈しなかったこと以外は、実施例4に記載した通りに実施した。テトラアセチルフィトスフィンゴシン(TAPS)の濃度は、サンプルに対応するマトリックス(例えば、メタノールで希釈したシクロデキストリンを含有する培地)中の精製TAPSの検量線に従って決定した。
【0128】
結果を
図3に示す。Wickerhamomyces ciferriiのATF2およびSLI1遺伝子の発現により、フィトスフィンゴシンは定量的にテトラアセチルフィトスフィンゴシン(TAPS)に変換された。α-シクロデキストリンの添加により、培地中のアセチル化長鎖塩基の濃度が増加した。これにより、シクロデキストリンがTAPSの排出を増強することが証明された。
【0129】
実施例6:シクロデキストリンによる、振盪フラスコ培養において種々の酵母株により生産されたスフィンゴイド塩基の排出向上
フィトスフィンゴシンおよびアセチル化フィトスフィンゴシン(アセチルフィトスフィンゴシン)の生産の活性化を、以下に示す2株のS. cerevisiaeと2株のWickerhamomyces
ciferriiの培養上清中で評価した:
EYS2958 (野生株)
EYS4423 (フィトスフィンゴシン生産株)
EYS3062 (Wickerhamomyces ciferrii)
EYS3063 (Wickerhamomyces sydowiorum)
【0130】
EYS2958株は、前述のBY4742株(ATCC 201389; EUROSCARF Y10000)の出願人による命名であり、野生株である。EYS4423株(Δcha1 Δlcb4 Δorm2 Δcka2 [ScLCB1 ScLCB2][ScT
SC10][PcSUR2])は、フィトスフィンゴシン生産株であり、これも前述のものである。EYS3062株は、Wickerhamomyces ciferrii(Pichia ciferrii)の株(EXT. PRODUCER: ATCC, NOTES: Wickerhamomyces ciferrii Y-1031 (ATCC 14091))である。EYS3063株は、Wickerhamomyces sydowiorum(Pichia sydowiorum)の株(XT. PRODUCER: ATCC, NOTES: Wickerhamomyces sydowiorum Y-7130 (ATCC 58369))である。これら異なる4つの株を、10 g/Lのα−シクロデキストリンの存在下または非存在下で、30℃で48時間、SC培地で振盪フラスコ培養により2連で生育させた。EYS4423については、ヒスチジン、ロイシン、およびウラシルをSC培地に添加しなかった。バイオマスの量を
図4に示す。培養液(培地+菌体)は、メタノールで希釈し、遠心分離してから、フィトスフィンゴシン、またはモノ−、ジ−、トリ−、およびテトラアセチルフィトスフィンゴシンの存在について分析した。LC-MS分析は、サンプルをメタノールで20倍希釈したこと以外は、実施例4に記載した通りに実施した。テトラアセチルフィトスフィンゴシン(TAPS)の濃度は、サンプルに対応するマトリックス(例えば、メタノールで希釈したシクロデキストリンを含有する培地)中の精製TAPSの検量線に従って決定した。モノアセチル−、ジアセチル−、およびトリアセチルフィトスフィンゴシンのピーク面積は、抽出したそれぞれのマスクロマトグラムに基づいて測定した。モノ−、ジ−、およびトリアセチルフィトスフィンゴシンについては、標準物質がないために絶対量の定量ができなかった。一方、テトラアセチルフィトスフィンゴシンについては、適切な標準物質があったため定量ができた。
【0131】
結果を
図5および表3に示す。α−シクロデキストリンの存在により、改変株EYS4423(Δcha1 Δlcb4 Δorm2 Δcka2 [ScLCB1 ScLCB2][ScTSC10][PcSUR2])においてフィトスフィンゴシンの生産が2倍以上に増加した(
図5)。一方、Wickerhamomycesの各株におけるテトラアセチルフィトスフィンゴシン(TAPS)の生産はα−シクロデキストリンの存在下で減少した(
図5、表3)。しかし、Wickerhamomycesの各株におけるアセチル化の程度が低い形態のもの(モノ−、ジ−、およびトリアセチルフィトスフィンゴシン)の生産はα−シクロデキストリンの存在下で増大した(
図5、表3)。本実施例により、シクロデキストリンが振盪フラスコ培養において種々の酵母株によるスフィンゴイド塩基の排出を向上させることが証明された。
【0132】
【表3】
【0133】
実施例7:シクロデキストリンによる、バイオリアクタにおいてWickerhamomyces ciferriiにより生産されたスフィンゴイド塩基の排出向上
Wickerhamomyces ciferrii EYS3062株の流加発酵を、15 g/Lのα−シクロデキストリンを添加した、または添加していないSC培地を回分および流加培地に用いて、30℃で実施した。発酵中の種々の時点でサンプルを採取し、モノアセチル−、ジアセチル−、トリアセ
チル−、およびテトラアセチルフィトスフィンゴシンの存在についてLC-MSによって分析した。LC-MS分析は、サンプルをメタノールで2000倍希釈したこと以外は、実施例4に記載した通りに実施した。テトラアセチルフィトスフィンゴシン(TAPS)の濃度は、サンプルに対応するマトリックス(例えば、メタノールで希釈したシクロデキストリンを含有する培地)中の精製TAPSの検量線に従って決定した。モノアセチル−、ジアセチル−、およびトリアセチルフィトスフィンゴシンのピーク面積は、抽出したそれぞれのマスクロマトグラムに基づいて測定した。
【0134】
結果を表4に示す。シクロデキストリンの曝露により、中間体であるジアセチル−およびトリアセチルフィトスフィンゴシンの生産が増大した(表4)。トリアセチルフィトスフィンゴシンおよびジアセチルフィトスフィンゴシンについて、クロマトグラムのピーク面積は、それぞれ64%および126%増加した(表4)。培地へのシクロデキストリンの添加により、TAPS生産が43%減少した(表4)。この減少は、中間体がTAPSへとさらに代謝される前に中間体が捕捉されることによるものかもしれない。フィトスフィンゴシンおよびスフィンガニンは、これらのサンプル中には認められなかった(データ示さず)。本実施例により、シクロデキストリンがバイオリアクタにおいてWickerhamomyces ciferriiによるスフィンゴイド塩基の排出を増強することが証明された。
【0135】
【表4】
【0136】
実施例8:シクロデキストリンによるフィトセラミドおよびグリコシルフィトセラミドの排出向上
BY4742株(wt)、EYS4022株(cha1Δ ypc1Δ lcb4Δ LAG1 LAC1 LIP1)、およびEYS4798株(cha1Δ ypc1Δ lcb4Δ LAG1 LAC1 LIP1、およびプラスミドpEVE4782から発現するXenopus laevis UGT21-M)を、200 g/lのメチル−β−シクロデキストリンを含む選択SC培地で、30℃で48時間、振盪フラスコ培養により生育させた。上清をLC-MSに供し、フィトセラミドおよびグルコシルフィトセラミドの存在について分析した。LC-MS分析は、Waters Ultra Performance Liquid Chromatography(UPLC)をBruker Micro Q-TOF II質量分析計と併用して実施した。典型的には、5 μlのサンプルをAcquity BEH UPLC C8 2.1 x 100
mm 1.7 μm column(Waters)に注入した。移動相には、2 mM ammonium formateおよび0.2% formic acidの水溶液(移動相A)と、1 mM ammonium formateおよび0.2% formic aci
dを含有するacetonitrileおよびmethanolの1:1混合物(移動相B)を用いた。グラジエントは、1分間で移動相Bを50%から85%にし、次いで、3分間で移動相Bを100%にした。移動相Bを3分間100%に維持し、次いで、移動相B 50%での再調整工程を2分間実施した。カラム温度は50℃に保ち、流速は0.4 ml/minとした。質量スペクトル分析は、キャピラリー電圧4.5 kV、ソース温度180℃、ネブライザー圧1.6 barで、エレクトロスプレーポジティブモードで実施した。質量スペクトルは、100〜1400の質量電荷比(m/z)から得た。フィトスフィンゴシン、C24-フィトセラミド、およびグリコシル-C26-フィトセラミドの濃度は、サンプルに対応するマトリックス(例えば、メタノールで10倍に希釈したシクロデキストリンを含有する培地)中のフィトスフィンゴシン標準品(Santa Cruz Biotechnology)、C24-フィトセラミド標準品(Avanti Polar Lipids Inc.)、およびα-ガラクトシル-C26-フィトセラミド標準品(Larodan Fine Chemicals AB)の検量線に従って決定した。C26-フィトセラミドの濃度は、C24-フィトスフィンゴシン検量線を用いて推定した。
【0137】
結果を
図6に示す。最大で2.5 mg/lのフィトセラミドがEYS4022の培養上清中に検出された(
図6)。グリコシルフィトセラミドは、EYS4798株の上清中に検出された(
図6)。これらの試験により、シクロデキストリンがフィトセラミドおよびグリコシルフィトセラミドの両方の排出を向上させることが証明された。
【0138】
<材料>
実施例に用いた材料を表5〜11に示す。
【0139】
【表5】
【0140】
【表6】
【0141】
【表7】
【0142】
【表8】
【0143】
【表9】
【0144】
【表10】
【0145】
【表11】
【産業上の利用可能性】
【0146】
本発明によれば、酵母によるスフィンゴイド塩基やスフィンゴ脂質等の目的物質の生産を向上させることができ、目的物質を効率よく製造することができる。
【0147】
<配列表の説明>
配列番号1:Saccharomyces cerevisiaeのLCB1遺伝子の塩基配列
配列番号2:Saccharomyces cerevisiaeのLcb1タンパク質のアミノ酸配列
配列番号3:Saccharomyces cerevisiaeのLCB2遺伝子の塩基配列
配列番号4:Saccharomyces cerevisiaeのLcb2タンパク質のアミノ酸配列
配列番号5:Saccharomyces cerevisiaeのTSC10遺伝子の塩基配列
配列番号6:Saccharomyces cerevisiaeのTsc10タンパク質のアミノ酸配列
配列番号7:Saccharomyces cerevisiaeのSUR2遺伝子の塩基配列
配列番号8:Saccharomyces cerevisiaeのSur2タンパク質のアミノ酸配列
配列番号9:Saccharomyces cerevisiaeのSLI1遺伝子の塩基配列
配列番号10:Saccharomyces cerevisiaeのSli1タンパク質のアミノ酸配列
配列番号11:Saccharomyces cerevisiaeのATF2遺伝子の塩基配列
配列番号12:Saccharomyces cerevisiaeのAtf2タンパク質のアミノ酸配列
配列番号13:Saccharomyces cerevisiaeのLAG1遺伝子の塩基配列
配列番号14:Saccharomyces cerevisiaeのLag1タンパク質のアミノ酸配列
配列番号15:Saccharomyces cerevisiaeのLAC1遺伝子の塩基配列
配列番号16:Saccharomyces cerevisiaeのLac1タンパク質のアミノ酸配列
配列番号17:Saccharomyces cerevisiaeのLIP1遺伝子の塩基配列
配列番号18:Saccharomyces cerevisiaeのLip1タンパク質のアミノ酸配列
配列番号19:Xenopus laevisのugcg-a遺伝子(mRNA)の塩基配列
配列番号20:Xenopus laevisのUgcg-aタンパク質のアミノ酸配列
配列番号21:Xenopus laevisのugcg-b遺伝子(mRNA)の塩基配列
配列番号22:Xenopus laevisのUgcg-bタンパク質のアミノ酸配列
配列番号23:Saccharomyces cerevisiaeのLCB4遺伝子の塩基配列
配列番号24:Saccharomyces cerevisiaeのLcb4タンパク質のアミノ酸配列
配列番号25:Saccharomyces cerevisiaeのLCB5遺伝子の塩基配列
配列番号26:Saccharomyces cerevisiaeのLcb5タンパク質のアミノ酸配列
配列番号27:Saccharomyces cerevisiaeのELO3遺伝子の塩基配列
配列番号28:Saccharomyces cerevisiaeのElo3タンパク質のアミノ酸配列
配列番号29:Saccharomyces cerevisiaeのCKA2遺伝子の塩基配列
配列番号30:Saccharomyces cerevisiaeのCka2タンパク質のアミノ酸配列
配列番号31:Saccharomyces cerevisiaeのORM2遺伝子の塩基配列
配列番号32:Saccharomyces cerevisiaeのOrm2タンパク質のアミノ酸配列
配列番号33:Saccharomyces cerevisiaeのCHA1遺伝子の塩基配列
配列番号34:Saccharomyces cerevisiaeのCha1タンパク質のアミノ酸配列
配列番号35:Saccharomyces cerevisiaeのYPC1遺伝子の塩基配列
配列番号36:Saccharomyces cerevisiaeのYpc1タンパク質のアミノ酸配列
配列番号37:Pichia ciferriiのSUR2遺伝子の塩基配列
配列番号38:Pichia ciferriiのSur2タンパク質のアミノ酸配列
配列番号39:Pichia ciferriiのSLI1遺伝子(一部)の塩基配列
配列番号40:S. cerevisiaeのコドン使用に最適化されたPichia ciferriiのSLI1遺伝子の塩基配列
配列番号41:Pichia ciferriiのSli1タンパク質のアミノ酸配列
配列番号42:Pichia ciferriiのATF2遺伝子の塩基配列
配列番号43:S. cerevisiaeのコドン使用に最適化されたPichia ciferriiのATF2遺伝子の塩基配列
配列番号44:Pichia ciferriiのAtf2タンパク質のアミノ酸配列
配列番号45〜56:プライマー
配列番号57〜69:プラスミド
配列番号70,71:プロモーター
配列番号72,73:ターミネーター
配列番号74,75:LoxP配列
配列番号76〜79:遺伝子欠失構築物
配列番号80,81:プロモーター
配列番号82,83:ターミネーター