【実施例1】
【0020】
図1乃至
図4を参照して、本発明に係る密封部材について説明する。なお、本実施例においては、本発明に係る密封部材としてローターリーエンジン用ロータの側面とサイドハンジングとの間をシールするサイドシールを例にして説明する。
【0021】
図1において、ロータリーエンジン1は、2節ぺリトロコイド曲線形状の内周壁2aを有するロータハウジング2及び該ロータハウジング2を軸方向両側から挟む一対のサイドハウジング3(本発明の側方壁)とから構成されるハウジングと、ロータハウジング2とサイドハウジング3によって区画される収容室4内に収容され、三角形状を有するロータ5(本発明の回転体)と、を備え、ロータ5の外周壁とトロコイド形状の内周壁2aとによって区画された3つの作動室6を備える。
【0022】
また、一対のサイドハウジング3のほぼ中央を貫通して偏心軸7が設けられており、ロータ5は、この偏心軸7の偏心輪7aに嵌合され、偏心軸7の軸心に対して偏心した状態で回転自在に支持される。また、ロータ5の内側に設けられた内歯車8がサイドハウジング3側に設けられた固定歯車9と噛み合いによってロータ5は自転しながら、偏心軸7の周りを公転する。これにより作動室6の容積はロータ5の回転に伴って増減する。
【0023】
三角形状のロータ5は、その各頂点に取付けられ内周壁2aと摺動しながら3つの作動室6の気密性を保つためのアペックスシール10、三角形状のロータ5の側面の各辺に取り付けられロータ5とサイドハウジング3との間の気密性を保つためのサイドシール11(本発明に係る密封部材)、アペックスシール10とサイドシール11のつなぎ目に取り付けられ作動室6やサイドハウジング3の気密性を保つためのコーナーシール12が設けられている。また、ロータ5の内径側には、ロータ5の内部空間を冷却する冷却用オイルが作動室6に漏洩することを防止するオイルシール15が設けられる。これら各種のシールは、ロータとロータハウジング及びサイドハウジングとの間を密封しながら、ロータハウジング及びサイドハウジングと摺動している。なお、ロータ5の内部空間には、ロータ5を内部から冷却するための冷却用オイルが供給されるようになっており、該冷却オイルの一部によってアペックスシール10、サイドシール11及びコーナーシール12は潤滑されるようになっている。
【0024】
アペックスシール10、サイドシール11、コーナーシール12及びオイルシール15のうち、サイドシール11は、三角形状のロータの各辺側面のほぼ全長に亘って取付けられるため、サイドハウジング3との接触面積が大きく、さらにロータの外周側に取付けられるので摺動速度も大きいため、摺動損失が大きい。またサイドシール11の摺動損失を低減するために、サイドシール11の摺動面に潤滑溝を設けても、振れ回り運動しながら回転するロータ5は、1回転する間においてサイドシール11とサイドハウジング3との摺動方向が変化するため潤滑溝に流体を十分に取込むことができず、摺動損失を低減することができなかった。
【0025】
図2にサイドシール11の摺動面Sの長手方向に沿った摺動速度を示す。
図2において、ロータ5が1回転するときの1つのサイドシール11の摺動速度の変化を示すために、ロータ5を回転させる代わりに、ロータ5を固定してロータハウジング2とサイドハウジング3を反時計方向に1回転させたときの、摺動面の摺動速度の分布を示す。また、摺動面の中央部から上側s1はロータの回転方向遅れ側(以下、「回転方向遅れ側s1」と記す。)を示し、摺動面の中央部から下側s2はロータの回転方向進み側(以下、「回転方向進み側s2」と記す。)を示す。なお、
図2はロータ5を固定してロータハウジング2とサイドハウジング3を反時計方向に回転させた場合を示すものであり、逆にロータハウジング2とサイドハウジング3を固定した場合には、ロータ5の回転方向は時計方向となる。
【0026】
図2(a)はロータハウジング2の短軸H−Hと、ロータ5のアペックスシール10とロータ5の中心を通る軸R−Rとが一致した位置でのサイドシール11の摺動面Sの摺動速度の分布を示したものである。
図2(a)における摺動面の摺動速度Vs1は、回転方向遅れ側s1よりの回転方向進み側s2における摺動速度が大きく、回転方向進み側s2における摺動速度の方向は摺動面を内径側から外径側に向かう方向の速度が支配的となる。一方、回転方向遅れ側s1における摺動速度は小さく、摺動速度の方向は摺動面の長手方向に沿った方向となる。
【0027】
図2(b)は、ロータハウジング2が
図2(a)の位置から反時計方向に120°回転した位置でのサイドシール11の摺動面Sの摺動速度の分布を示したものである。
図2(b)における摺動面の摺動速度Vs2は、摺動面の全長に亘ってほぼ等しい速度を示し、摺動速度の方向は、ほぼ摺動面の長手方向に沿った方向を有する。
【0028】
図2(c)は、ロータハウジング2が
図2(a)の位置から反時計方向に240°回転した位置でのサイドシール11の摺動面Sの摺動速度の分布を示したものである。
図2(c)における摺動面の摺動速度Vs3は、回転方向進み側s2よりの回転方向遅れ側s1における摺動速度が大きく、回転方向遅れ側s1における摺動速度の方向は摺動面を外径側から内径側に向かう方向の速度が支配的となる。一方、回転方向進み側s2における摺動速度は小さく、摺動速度の方向はほぼ摺動面Sの長手方向に沿った方向となる。
【0029】
以上より、ロータ5が1回転する間のサイドシール11の摺動面Sの摺動速度は、回転方向進み側s2においては、回転位置に関わらず摺動面Sを内径側から外径側に向かう方向の速度が支配的となり、一方、回転方向遅れ側s1においては、回転位置に関わらず摺動面Sを外径側から内径側に向かう方向の速度が支配的となる。そこで、本発明のサイドシール11の摺動面Sには、摺動面Sの摺動速度の方向に合わせて潤滑機構を設け、摺動性を改善している。
【0030】
以下、摺動面Sに第1潤滑機構21、第2潤滑機構22を備えたサイドシール11について説明する。
図3、
図4に示すようにサイドシール11は、断面形状が壁部11a、11b、11c、11dからなる矩形形状であり、平面視弓形の棒状部材である。サイドシール11は、該サイドシール11の厚さより浅いロータ5の溝部に嵌合されることによって、サイドシール11とロータ5との間はシールされる。また、サイドシール11の壁部11bは摺動面Sとして機能し、摺動面Sは、長手方向の中央部から回転方向遅れ側s1には径方向に開放する開放部21eを有する第1潤滑機構21を複数備え、長手方向の中央部から回転方向進み側s2には、第1潤滑機構21と逆方向に開放する開放部22eを有する第2潤滑機構22を複数備える。
【0031】
図3及び
図4に示すように、第1潤滑機構21は平面視ひし形の底部21aを有する凹部からなり、該凹部を閉塞する閉塞壁部21b、21c、21d及び凹部の径方向外側を開放する開放部21eを有する。同じく第2潤滑機構22は平面視ひし形の底部22aを有する凹部からなり、該凹部を閉塞する閉塞壁部22b、22c、22d及び開放部21eと逆方向に、凹部の径方向内側を開放する開放部22eを有する。なお、凹部の深さは、1μmから100μm程度に形成される。
【0032】
図2に示すように、サイドシール11の摺動面Sの中央部から回転方向遅れ側s1側における摺動速度は、径方向外側から内側へ向かう方向の速度が支配的である。そこで、
図3に示すように、摺動速度の方向に合わせて外径側に開放部21eを有する第1潤滑機構21を配設することによって、開放部21eから第1潤滑機構21内に流体は効率よく流れ込み、流れ込んだ流体は閉塞壁部21b、21c、21dに堰き止められて昇圧し、昇圧した流体が摺動面Sに供給され、摺動面Sが潤滑されるようにした。一方、サイドシール11の摺動面Sの中央部から進み側s2における摺動速度は、径方向内側から外側へ向かう方向の速度が支配的となる。そこで、摺動速度の方向に合わせて内径側に開放部22eを有する第2潤滑機構22を配設することによって、開放部22eから第2潤滑機構22内に流体は効率よく流れ込み、流れ込んだ流体は閉塞壁部22b、22c、22dに堰き止められ昇圧し、昇圧した流体が摺動面Sに供給され、摺動面Sが潤滑されるようにした。
【0033】
また、第1潤滑機構21の閉塞壁部21b、21dは、開放部21eに対して回転方向遅れ側に配置されるように角度θ1傾斜している。同じく、第2潤滑機構22の閉塞壁部22b、22dも、開放部22eに対して回転方向遅れ側に配置されるように角度θ2傾斜している。なお、角度θ1及び角度θ2は、摺動面の摺動速度の径方向成分と周方向成分の大きさに基づいて決定される。これにより、傾斜していな場合に比較して、流体は第1潤滑機構21、第2潤滑機構22内に低損失で流れ込み、第1潤滑機構21、第2潤滑機構22内で昇圧した流体が摺動面Sに供給され、摺動面Sは効率よく潤滑されるので、サイドハウジング3とサイドシール11との摺動摩擦が低減されるとともに、サイドハウジング3及びサイドシール11の摩耗が低減してサイドシール11の密封性能を向上することができる。
【0034】
上記説明したように、振れ回り運動しながら回転するロータ5に設けられたサイドシール11の摺動面Sにおける摺動速度の大きさ及び向きが変化する場合であっても、サイドシール11の摺動面Sの長手方向中央部から回転方向進み側と遅れ側とに、それぞれ径方向の外側と内側とに開放する開放部21e、22eを有する一群の第1潤滑機構21、第2潤滑機構22を備えることにより、開放部21e、22eから第1潤滑機構21、第2潤滑機構22内に流体は効率よく流れ込み、第1潤滑機構21、第2潤滑機構22内で昇圧した流体が摺動面Sに供給され、摺動面Sを効率よく潤滑するので、サイドハウジング3とサイドシール11との摺動摩擦が低減されるとともに、サイドハウジング3及びサイドシール11の摩耗が低減してサイドシール11の密封性能を向上することができる。
【0035】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0036】
例えば、前記実施例では、平面視にて傾斜した矩形形状の凹部として形成したが、これに限らず、平面視にてだ円形状の凹部又は傾斜した楕円形状の凹部として形成してもよい。
【0037】
また、第1潤滑機構21、第2潤滑機構22の底部21a、22aは、平坦な面として形成したが、これに限らない。たとえば、底部21a、22aを開放部21e、22eから閉塞壁部21c、22cに向かって上り傾斜となる傾斜面としてもよい。これにより第1潤滑機構21、第2潤滑機構22内で流体をさらに昇圧することができるので、高温状態で流体潤滑膜が形成しにくい場合であっても、摺動面の潤滑状態を維持して摺動損失を低減できるとともに、摩耗を低減して密封性能を向上することができる。
【0038】
また、上記実施形態では、摺動面Sの中央部の長手方向の長さは零の場合について例示した。しかし、中央部の長手方向の長さは零に限らない。例えば、上記実施形態では、摺動面Sの中央部から回転方向遅れ側s1、回転方向進み側s2において、支配的な摺動速度の方向をロータの回転位置に関わらずほぼ一つの方向に設定できた。しかし、摺動面Sの中央部における摺動速度の方向は、ロータの回転位置によって変動し、支配的な摺動速度の方向を一方向に設定することができない場合もある。この場合には、中央部に外径側に開口する第1潤滑機構と内径側に開口する第2潤滑機構とを並列あるいは交互に設けた第3潤滑機構を設けてもよい。そして、第3潤滑機構を備える中央部から一方の側に第1開放部を有する第1潤滑機構を設け、中央部から他方の側に第2開放部を有する第2潤滑機構を設け、摺動方向が変動する場合にも対応できるようにすることもできる。
【0039】
また、上記実施例においては、回転方向進み側s2の長手方向の長さと回転方向遅れ側s1の長手方向の長さがほぼ等しい場合について例示したが、これに限らない。たとえば、摺動面の速度分布に応じて、回転方向進み側s2の長手方向の長さを回転方向遅れ側s1の長手方向の長さより長くしてもよいし、短くしてもよい。
【0040】
また、上記実施例においては、回転方向進み側s2においては摺動面Sを内径側から外径側に向かう方向の速度が支配的となり、回転方向遅れ側s1においては摺動面Sを外径側から内径側に向かう方向の速度が支配的となる例を説明した。しかし、実施例と異なる回転体の振れ回り運動の方向と、回転体の回転方向との組合せによっては、回転方向進み側s2においては摺動面Sを外径側から内径側に向かう方向の速度が支配的となり、回転方向遅れ側s1においては摺動面Sを内径側から外径側に向かう方向の速度が支配的となる場合もある。したがって、サイドシール11の摺動面Sの摺動速度の方向、摺動速度の大きさ及び摺動速度の分布状況に合わせて、外径側に開口する第1潤滑機構と内径側に開口する第2潤滑機構を設けることは云うまでもない。
【実施例2】
【0041】
次に、実施例2に係る密封部材について、
図5及び
図6を参照して説明する。実施例2に係るサイドシール11は、第1潤滑機構の開口方向と第2潤滑機構の開口方向が、それぞれ実施例1と逆になっている点で相違する。なお、前記実施例と同一構成で重複する構成については、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0042】
実施例2に係るサイドシール11は、サイドシール11の長手方向の中央部から回転方向遅れ側s1に配設された第1潤滑機構31と、サイドシール11の長手方向の中央部から回転方向進み側s2に配設された第2潤滑機構32を備え、第1潤滑機構31は径方向内側に開放された開放部31eを有し、第2潤滑機構32は径方向外側に開放された開放部32eを有する。すなわち、第1潤滑機構31の開放部31eの開口方向と第2潤滑機構32の開放部32eの開口方向は互いに逆になっている。
【0043】
図3及び
図4に示すように、第1潤滑機構31は平面視ひし形の底部31aを有する凹部からなり、該凹部の周囲を閉塞する閉塞壁部31b、31c、31d及び凹部の径方向内側を開放する開放部31eを有する。同じく第2潤滑機構32は平面視ひし形の底部32aを有する凹部からなり、該凹部の周囲を閉塞する閉塞壁部32b、32c、32d及び凹部を径方向外側に開放する開放部32eを有する。また、第1潤滑機構31の閉塞壁部31b、31dは、開放部31eに対して回転方向遅れ側に配置されるように角度θ3傾斜している。同じく、第2潤滑機構32の閉塞壁部32b、32dも、開放部32eに対して回転方向遅れ側に配置されるように角度θ4傾斜している。なお、凹部の深さは、1μmから100μm程度に形成される。
【0044】
図2にて説明したように、サイドシール11の摺動面Sの中央部から回転方向遅れ側s1側における摺動速度は、径方向外側から内側へ向かう方向の速度が支配的であり、一方、サイドシール11の摺動面Sの中央部から進み側s2における摺動速度は、径方向内側から外側へ向かう方向の速度が支配的となる。実施例2の第1潤滑機構31の開放部31eは径方向内側に開放され、第2潤滑機構32の開放部32eは径方向外側に開放されているので、摺動速度を直接利用して第1潤滑機構31、第2潤滑機構32内に流体を効率良く取り込むことができない。しかし、実施例2のサイドシール11は、サイドシール11の外側壁部11a、内側壁部11cによってかき取られた流体(オイル)がロータ5の回転により第1潤滑機構31、第2潤滑機構32内に運ばれ、第1潤滑機構31、第2潤滑機構32はサイドシール11の摺動面Sを潤滑状態に保つことができる。以下、実施例2のサイドシール11の作用効果について、
図2、
図5及び
図6を参照して説明する。
【0045】
図2(a)において、サイドシール11の摺動面Sの摺動速度Vs1は、径方向外側へ向く速度が支配的となる。これにより、サイドハウジング3の壁面の流体(オイル)は主にサイドシール11の内側壁部11cによってかき取られる。そして、
図2(a)から
図2(b)の状態へロータ5が回転する過程で、かき取られた流体はサイドシール11の壁部11cに沿って流れ、第1潤滑機構31の開放部31eから第1潤滑機構31内に流れ込み、第1潤滑機構31内からサイドシール11の摺動面Sに流体が供給され、サイドシール11の摺動面Sは流体潤滑状態を保つことができる。
【0046】
また、
図2(b)に示す工程において、圧縮された燃料が爆発する。この爆発時には、サイドシール11の摺動面Sはサイドハウジング3から浮き上がり、かき取られた流体がサイドシール11の摺動面Sのほぼ全面に供給され、サイドシール11の摺動面Sは流体潤滑状態を保つことができる。
【0047】
つぎに、
図2(c)において、サイドシール11の摺動面Sの摺動速度Vs1は、径方向外側から径方向内側に向かう方向の速度が支配的となる。これにより、サイドハウジング3の壁面の流体は主にサイドシール11の外側壁部11aによってかき取られる。そして、
図2(c)から
図2(a)の状態へロータ5が回転する過程で、かき取られた流体はサイドシール11の壁部11aに沿ってサイドシール11の第2潤滑機構32の開放部32eから第2潤滑機構32内に流れ込み、第2潤滑機構32内からサイドシール11の摺動面Sに流体が供給され、サイドシール11の摺動面Sは流体潤滑状態を保つことができる。
【0048】
サイドシール11によってかき取られる流体量は多いので、サイドシール11の摺動面Sを潤滑するために必要な流体量を十分に供給することができる。そして、サイドシール11によってかき取られた流体はロータ5の回転により第1潤滑機構31、第2潤滑機構32内に十分に供給され、第1潤滑機構31、第2潤滑機構32はサイドシール11の摺動面Sを潤滑状態に保つことができ、延いては、サイドハウジング3とサイドシール11との摺動摩擦が低減されるとともに、サイドハウジング3及びサイドシール11の摩耗が低減してサイドシール11の密封性能を向上することができる。
【0049】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0050】
上記実施例において、ローターリーエンジンのロータに使用されるサイドシールについて説明したが、ロータリーエンジンに限らず、ロータリーコンプレッサーに使用されるサイドシールであってもよい。